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特許7007990アゾ化合物、インク組成物、記録方法及び着色体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-12
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】アゾ化合物、インク組成物、記録方法及び着色体
(51)【国際特許分類】
   C09B 31/30 20060101AFI20220118BHJP
   C09D 11/328 20140101ALI20220118BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20220118BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20220118BHJP
   B41M 5/52 20060101ALI20220118BHJP
   B41M 5/50 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
C09B31/30 CSP
C09D11/328
B41J2/01 501
B41M5/00 120
B41M5/52 110
B41M5/50 120
B41M5/52 100
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018106776
(22)【出願日】2018-06-04
(65)【公開番号】P2019210360
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】武藤 瞳
(72)【発明者】
【氏名】飯野 拓
【審査官】宮地 慧
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/081640(WO,A1)
【文献】特開2015-067814(JP,A)
【文献】特開平7-268256(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B 1/00-69/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるアゾ化合物若しくはその互変異性体、又はそれらの塩。
【化1】
[式(1)中、
は、メチル基を表し、
はシアノ基を表し、
は、メトキシ基、もしくは水素原子を表し、
、スルホ基を表し、
、スホ(C1~C4)アルキルチオ基を表し、
、スホ(C1~C4)アルキルチオ基を表し、
、スホ(C1~C4)アルコキシ基を表し、
アセチルアミノ基を表し、
アセチルアミノ基であり、
10C3アルキルカルボニルアミノ基を表し、
11~R13は、それぞれ独立して水素原子、スルホ基、カルボキシ基、ヒドロキシル基又はニトロ基である。又、破線で表される環が存在しない場合はベンゼン環、破線で表される環が存在する場合はナフタレン環であり、ナフタレン環である場合、置換基R11~R13はそれぞれ、ナフタレン環の任意の位置に置換できる。]
【請求項2】
上記式(1)におけるR10がイソプロピルカルボニルアミノ基である、請求項1に記載のアゾ化合物若しくはその互変異性体、又はそれらの塩。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアゾ化合物若しくはその互変異性体、又はそれらの塩を、色素として少なくとも1種類含む水性インク組成物。
【請求項4】
水溶性有機溶剤をさらに含む請求項に記載の水性インク組成物。
【請求項5】
請求項又はに記載の水性インク組成物をインクとして用い、該インクのインク滴を記録信号に応じて吐出させて記録メディアに記録を行うインクジェット記録方法。
【請求項6】
記録メディアがシート状記録メディアである請求項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】
シート状記録メディアが多孔性白色無機物を含むインク受容層を有するシ-トである請求項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項8】
請求項又はに記載の水性インク組成物を含む容器を装填したインクジェットプリンタ。
【請求項9】
a)請求項1又は2に記載のアゾ化合物若しくはその互変異性体、又はそれらの塩、
b)請求項又はに記載の水性インク組成物、又は、
c)請求項に記載のインクジェット記録方法、のいずれかにより着色された着色体。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なアゾ化合物若しくはその互変異性体、又はそれらの塩、これらを含有するインク組成物、及びそれらにより着色された着色体に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタによる記録方法、すなわちインクジェット記録方法は、各種のカラー記録方法の中でも代表的方法の1つである。インクジェット記録方法は、インクの小滴を発生させこれを種々の被記録材(紙、フィルム、布帛等)に付着させ記録を行うものである。この方法は、記録ヘッドと被記録材とが直接接触しないため音の発生が少なく静かである。又、小型化、高速化が容易であるという特長を有するため、近年急速に普及しつつあり、今後とも大きな伸長が期待されている。従来、万年筆、フェルトペン等及びインクジェット記録用のインクとしては、水溶性色素を水性媒体中に溶解した水性インクが使用されている。これらの水性インクには、ペン先やインク吐出ノズルでのインクの目詰まりを防止すべく、一般に水溶性有機溶剤が添加されている。そして、これらのインクにおいては、十分な濃度の記録画像を与えること、ペン先やノズルの目詰まりを生じないこと、被記録材上での乾燥性がよいこと、滲みが少ないこと、保存安定性に優れること等が要求される。又、使用される水溶性色素には、特に水への溶解度が高いこと、インクに添加される水溶性有機溶剤への溶解度が高いことが要求される。さらに、形成される画像には、耐水性、耐光性、耐ガス性、耐湿性等の画像堅牢性が求められている。
【0003】
これらのうちで、耐ガス性とは、空気中に存在する酸化作用を持つオゾンガス等が被記録材上、又は記録材中で色素に作用し、記録画像を変退色させるという現象に対する耐性のことである。オゾンガスの他にも、この種の作用を持つ酸化性ガスとしては、NOx、SOx等が挙げられる。しかし、これらの酸化性ガスの中でも、オゾンガスがインクジェット記録画像の変退色現象を促進させる主原因物質とされており、特に耐オゾンガス性が重要視されている。写真画質が得られるインクジェット専用紙の表面には、インクの乾燥を早め、又、高画質でのにじみを少なくするためにインク受容層が設けられる。このインク受容層の材質として、多孔性白色無機物等の材料を用いているものが多い。このような記録紙上で、オゾンガス等による変退色が顕著に見られる。この酸化性ガスによる変退色現象は、インクジェット記録画像に特徴的なものであるため、耐ガス性、特に耐オゾンガス性の向上は、インクジェット記録における最も重要な課題の1つである。
【0004】
又、ブロンジング現象が問題となる場合もある。ブロンジング現象とは、色素の会合やインクの吸収不良等を原因とし、非記録材の表面上で色素が金属片上になり、ぎらつく現象のことである。この現象が起こると光沢性、印字品位、印字濃度の全ての点で劣るものとなる。特に色素として金属フタロシアニン系染料を使用した場合、高濃度で印字を行った部分に「赤浮き現象」として現れることが多く、画像全体としてのバランスが不均一となり、その品質を低下させるため、ブロンジング現象を生じない色素が望まれている。又、近年では写真調に近い風合いを持つ記録媒体として光沢紙が多く使用されているが、ブロンジング現象が発生すると記録物表面での光沢感にバラツキが生じ、画像の風合いを著しく損ねてしまう。この観点からも、ブロンジング現象を生じない色素が強く望まれている。なお、本明細書中では、このブロンジング現象を生じない色素を、ブロンジング性に優れる色素として記載する。
【0005】
今後、インクジェット記録の使用分野を拡大すべく、インクジェット記録画像には、耐光性、耐ガス性、耐湿性、耐水性、耐ブロンジング性等のさらなる向上が強く求められている。又、これに加えて黒色画像としては、演色性に優れることが必要とされている。光源の種類により色相が変化して見える現象を演色性というが、一般に黒色の染色物や記録物においてこの現象が起こりやすい。染色加工の分野では、演色性を改良する方法として長波長に吸収のある化合物を使用することが一般的であり、例えば特許文献6にそれら方法が開示されている。
【0006】
種々の色相のインクが、種々の色素から調製されているが、それらのうち黒色インクはモノカラー及びフルカラー画像の両方に使用される重要なインクである。これら黒色インク用の色素として、今日まで多くのものが提案されているが、市場の要求を充分に満足するものを提供するには至っていない。提案されている色素の多くはアゾ色素であり、そのうちC.I.Food Black2等のジスアゾ色素には、耐水性や耐湿性が不良である、耐光性及び耐ガス性が十分でない、演色性が大きい等の問題がある。共役系を延ばしたポリアゾ色素については、一般に水溶性が低く、記録画像が部分的に金属光沢を有するブロンジング現象が発生しやすい、耐光性及び耐ガス性が十分でない等の問題がある。又、同様に数多く提案されているアゾ含金色素の場合、耐光性が良好なものもあるが、金属イオンを含むため生物への安全性や環境問題に対し好ましくない、耐ガス性が極めて弱い等の問題がある。
【0007】
近年最も重要な課題となっている耐ガス性について改良された、インクジェット記録用の黒色化合物(黒色色素)としては、例えば特許文献1に記載の化合物が挙げられる。これらの化合物の耐ガス性は向上してきてはいるものの、市場要求を十分に満たすものではない。又、本発明の黒色色素の特徴の1つであるベンズイミダゾロピリドン骨格を有するアゾ化合物は、特許文献3~5等に開示されている。特許文献3及び4にはトリスアゾ化合物かつ水溶性の黒色化合物を、インクジェット記録用として使用することが開示されている。又、特許文献5及び8にはテトラキスアゾ化合物かつ水溶性の黒色化合物を、インクジェット記録用として使用することが開示されているが、さらに色相に優れ、かつ光による分解及び色変化が少ない黒色色素が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開2005/054374号公報
【文献】国際公開2004/050768号公報
【文献】国際公開2007/077931号公報
【文献】国際公開2009/069279号公報
【文献】特開2008-169374号公報
【文献】特開平01-284562号公報
【文献】特開2004-75719号公報
【文献】国際公開2012/081640号公報
【文献】国際公開2014/132926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、インクジェット専用紙に記録した場合、特に耐オゾンガス性に優れ、又、耐光性、耐湿性に優れ、印字濃度が非常に高く、耐ブロンジング性、演色性に優れ、且つ彩度が低く、高品位な黒色の色相を有する色素、及び該色素を含有するインク組成物、特にインクジェット記録用の黒色インク組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上述したような課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定のアゾ化合物が前記課題を解決するものであることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、下記1)~11)に関する。
1)
下記式(1)で表されるアゾ化合物若しくはその互変異性体、又はそれらの塩。
【0012】
【化1】
【0013】
[式(1)中、
1は、(C1~C4)アルキル基、又はカルボキシ基で置換された(C1~C4)アルキル基を表し、
2はシアノ基を表し、
3及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、(C1~C4)アルコキシ基、又は、スルホ基を表し、
5は、ヒドロキシル基、スルホ基およびカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基で置換された(C1~C4)アルキルチオ基を表し、
6は、ヒドロキシル基、スルホ基およびカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基で置換された(C1~C4)アルキルチオ基を表し、
7は、ヒドロキシル基、スルホ基およびカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基で置換された(C1~C4)アルコキシ基を表し、
8は(C1~C4)アルキルカルボニルアミノ基を表し、
9は(C1~C4)アルキルカルボニルアミノ基であり、
10は(C1~C4)アルキルカルボニルアミノ基を表し、
11~R13は、それぞれ独立して水素原子、スルホ基、カルボキシ基、ヒドロキシル基又はニトロ基である。又、破線で表される環が存在しない場合はベンゼン環、破線で表される環が存在する場合はナフタレン環であり、ナフタレン環である場合、置換基R11~R13はそれぞれ、ナフタレン環の任意の位置に置換できる。]
2)
上記式(1)において、
1は、(C1~C4)アルキル基、又はカルボキシ基で置換された(C1~C4)アルキル基を表し、
2はシアノ基を表し、
3及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、(C1~C4)アルコキシ基、又は、スルホ基を表し、
5はスルホ(C1~C4)アルキルチオ基を表し、
6はスルホ(C1~C4)アルキルチオ基を表し
7はスルホ(C1~C4)アルコキシ基を表し、
8は(C1~C4)アルキルカルボニルアミノ基を表し、
9は(C1~C4)アルキルカルボニルアミノ基であり、
10は(C1~C4)アルキルカルボニルアミノ基を表し、
11~R13は、それぞれ独立して水素原子、スルホ基、カルボキシ基、ヒドロキシル基又はニトロ基、である、1)に記載のアゾ化合物若しくはその互変異性体、又はそれらの塩。
3)
上記式(1)において、
1がメチル基、
2がシアノ基、
3がメトキシ基、もしくは水素原子、
4がスルホ基、
5がスルホ(C1~C4)アルキルチオ基、
6がスルホ(C1~C4)アルキルチオ基、
7がスルホ(C1~C4)アルコキシ基、
8がアセチルアミノ基、
9がアセチルアミノ基、
10がC3アルキルカルボニルアミノ基、
11~R13は、それぞれ独立して水素原子、スルホ基、カルボキシ基、ヒドロキシル基又はニトロ基、である、1)又は2)に記載のアゾ化合物若しくはその互変異性体、又はそれらの塩。
4)
上記式(1)におけるR10がイソプロピルカルボニルアミノ基である、1)~3)のいずれか一項に記載のアゾ化合物若しくはその互変異性体、又はそれらの塩。
5)
1)~4)のいずれか一項に記載のアゾ化合物若しくはその互変異性体、又はそれらの塩を、色素として少なくとも1種類含む水性インク組成物。
6)
水溶性有機溶剤をさらに含む5)に記載の水性インク組成物。
7)
5)又は6)に記載の水性インク組成物をインクとして用い、該インクのインク滴を記録信号に応じて吐出させて記録メディアに記録を行うインクジェット記録方法。
8)
記録メディアがシート状記録メディアである7)に記載のインクジェット記録方法。
9)
シート状記録メディアが多孔性白色無機物を含むインク受容層を有するシ-トである8)に記載のインクジェット記録方法。
10)
5)又は6)に記載の水性インク組成物を含む容器を装填したインクジェットプリンタ。
11)
a)1)~4)のいずれか一項に記載のアゾ化合物若しくはその互変異性体、又はそれらの塩、
b)5)又は6)に記載の水性インク組成物、又は、
c)7)に記載のインクジェット記録方法、のいずれかにより着色された着色体。
【発明の効果】
【0014】
上記アゾ化合物若しくはその互変異性体、又はそれらの塩、及びこれを含むインク組成物は、貯蔵安定性が高く、インクジェット記録用のインクとして好適に用いられ、さらにインクジェット専用紙に記録した場合、印字濃度が非常に高く、演色性に優れ、且つ彩度が低く、高品位な黒色の色相を有し、特に耐(オゾン)ガス性に優れる。したがって、本発明のアゾ化合物若しくはその互変異性体、又はそれらの塩を含有するインク組成物は、インクジェット記録用黒色インクとして極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
便宜上、本明細書においては、「アゾ化合物若しくはその互変異性体、又はそれらの塩」の全てを含めて「アゾ化合物」と以下、簡略して記載する。ここで、互変異性体としては、例えば下記式(3)、(4)で表される構造等が挙げられる。なお、式(3)及び(4)中、R1~R13、は、上記式(1)におけるものと同じ意味を有する。
【0016】
【化2】
【0017】
上記式(1)中、R1は(C1~C4)アルキル基、又はカルボキシ基で置換された(C1~C4)アルキル基を表す。
【0018】
上記R1における(C1~C4)アルキル基としては、直鎖又は分岐鎖のアルキル基が挙げられ、直鎖アルキル基が好ましい。(C1~C4)アルキル基の具体例としては例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基等の直鎖アルキル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等の分岐鎖アルキル基、等が挙げられる。好ましい具体例としては、メチル基、n-プロピル基が挙げられ、メチル基がより好ましい。
【0019】
上記R1における、カルボキシ基で置換された(C1~C4)アルキル基としては、上記(C1~C4)アルキル基のいずれかの炭素原子にカルボキシ基が置換したものが挙げられる。カルボキシ基の置換位置は特に制限されないが、アルキル基の末端に置換しているものが好ましく、カルボキシ基の置換数は1又は2、好ましくは1である。具体例としては、カルボキシメチル基、2-カルボキシエチル基等が挙げられる。好ましい具体例としては、カルボキシメチル基が挙げられる。
【0020】
上記R1としては、(C1~C4)アルキル基、カルボキシ基で置換された(C1~C4)アルキル基、いずれも好ましいが、より好ましくは、(C1~C4)アルキル基である。さらに好ましくは、メチル基、又はn-プロピル基であり、特に好ましくは、メチル基である。
【0021】
上記式(1)中、R2はシアノ基を表す。
【0022】
上記式(1)中、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、(C1~C4)アルコキシ基、又はスルホ基を表す。
【0023】
上記R3及びR4における、(C1~C4)アルコキシ基としては、直鎖又は分岐鎖のアルコキシ基が挙げられ、直鎖アルコキシ基が好ましい。具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、n-ブトキシ基等の直鎖アルコキシ基、イソプロポキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基等の分岐鎖アルコキシ基、等が挙げられる。これらの中では、メトキシ基がより好ましい。
【0024】
上記R3及びR4としては、いずれか一方がメトキシ基であり他方がスルホ基の組合せ、又は、いずれか一方が水素原子であり他方がスルホ基の組合せが好ましく、より好ましくは、いずれか一方がメトキシ基であり他方がスルホ基の組合せである。
【0025】
上記R3及びR4の置換位置は特に制限されないが、いずれか一方が水素原子であり他方がスルホ基の場合、該スルホ基は、ベンズイミダゾロピリドン環のイミダゾール環を構成しない4つの炭素原子のいずれか2つに置換するのが好ましい。
【0026】
上記式(1)で表される化合物は、合成の容易さ及び安価さの観点から、R3及びR4の置換位置における、少なくとも2種類の位置異性体を含む混合物として用いても良い。
【0027】
上記式(1)におけるR1~R4の好ましい組合せとしては、R1が(C1~C4)アルキル基(好ましくはメチル基、又はn-プロピル基、より好ましくはメチル基)、R2がシアノ基、R3が水素原子、又はメトキシ基(好ましくはメトキシ基)、R4がスルホ基の組合せが挙げられる。
【0028】
上記式(1)中、R5及びR6はそれぞれ独立にヒドロキシル基、スルホ基およびカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基で置換された(C1~C4)アルキルチオ基を表す。
【0029】
上記R5及びRにおける置換基として、ヒドロキシル基、スルホ基、及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基で置換された(C1~C4)アルキルチオ基としては、(C1~C4)アルキルチオ基における任意の炭素原子に、これらの置換基を有するものが挙げられる。該置換基の数は、通常1又は2、好ましくは1である。置換基の位置は特に制限されないが、アルキルチオ基における硫黄原子が結合する炭素原子以外の炭素原子に置換することが好ましい。その具体例としては例えば、2-ヒドロキシエチルチオ基、2-ヒドロキシプロピルチオ基、3-ヒドロキシプロピルチオ基、2-スルホエチルチオ基、3-スルホプロピルチオ基、2-カルボキシエチルチオ基、3-カルボキシプロピルチオ基、4-カルボキシブチルチオ基等が挙げられる。
【0030】
上記のうち、好ましいR5及びRとしては、スルホ(C1~C4)アルキルチオ基又はカルボキシ(C1~C4)アルキルチオ基が挙げられ、スルホ(C1~C4)アルキルチオ基がより好ましく、3-スルホプロピルチオ基が特に好ましい。
【0031】
上記式(1)中、R7は、ヒドロキシル基、スルホ基およびカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基で置換された(C1~C4)アルコキシ基を表す。
【0032】
上記Rにおける置換基として、ヒドロキシル基、スルホ基、及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基で置換された(C1~C4)アルコキシ基としては、(C1~C4)アルコキシ基における任意の炭素原子に、これらの置換基を有するものが挙げられる。該置換基の数は、通常1又は2、好ましくは1である。置換基の位置は特に制限されないが、アルコキシ基における酸素原子が結合する炭素原子以外の炭素原子に置換することが好ましい。その具体例としては例えば、2-ヒドロキシエトキシ基、2-ヒドロキシプロポキシ基、3-ヒドロキシプロポキシ基、2-スルホエトキシ基、3-スルホプロポキシ基、2-カルボキシエトキシ基、3-カルボキシプロポキシ基、4-カルボキシブトキシ基等が挙げられる。
【0033】
上記のうち、好ましいRとしては、スルホ(C1~C4)アルコキシ基又はカルボキシ(C1~C4)アルコキシ基が挙げられ、スルホ(C1~C4)アルコキシ基がより好ましく、3-スルホプロポキシ基が特に好ましい。
【0034】
上記式(1)中、R8~R10は、それぞれ独立に、(C1~C4)アルキルカルボニルアミノ基を表す。
【0035】
上記R8~R10における(C1~C4)アルキルカルボニルアミノ基としては、アルキル部分が直鎖又は分岐鎖のものが挙げられ、R及びRは直鎖のものが好ましく、R10は分岐鎖のものが好ましい。それらの具体例としては例えば、アセチルアミノ基(メチルカルボニルアミノ基)、プロピオニルアミノ基(エチルカルボニルアミノ基)、n-プロピルカルボニルアミノ基、n-ブチルカルボニルアミノ基等の直鎖のもの、イソプロピルカルボニルアミノ基、イソブチルカルボニルアミノ基、sec-ブチルカルボニルアミノ基、ピバロイルアミノ基(tert-ブチルカルボニルアミノ基)等の分岐鎖のもの等が挙げられる。R及びRはアセチルアミノ基が更に好ましく、R10はイソプロピルカルボニルアミノ基が更に好ましい。
【0036】
上記R11~R13は、それぞれ独立に、水素原子、カルボキシ基、スルホ基、ヒドロキシル基又はニトロ基である。又、破線で表される環が存在しない場合はベンゼン環、破線で表される環が存在する場合はナフタレン環であり、ナフタレン環である場合、置換基R11~R13はそれぞれ、ナフタレン環の任意の位置に置換できる。
【0037】
上記のうち、好ましいR11としては、水素原子、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基、が挙げられ、水素原子及びスルホ基が特に好ましい。
【0038】
上記のうち、好ましいR12としては、水素原子、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基スルホ基が特に好ましい。
【0039】
上記のうち、好ましいR13としては、水素原子、カルボキシ基、スルホ基、メトキシ基、ニトロ基が挙げられ、水素原子又はカルボキシ基、スルホ基、ニトロ基が更に好ましく、スルホ基が特に好ましい。
【0040】
上記R11~R13の組合せとしては、いずれもスルホ基、いずれか2つがスルホ基で残りの1つが水素原子、スルホ基とニトロ基と水素原子、スルホ基とカルボキシ基と水素原子、が挙げられる。いずれか2つがスルホ基で残りの1つが水素原子である組合せが好ましい。
【0041】
上記式(1)における、R1~R13の好ましい組合せの具体例としては、以下の(i)~(v)の組合せが挙げられる。(ii)、又は(iii)がより好ましく、(iv)、又は(v)が更に好ましい。
【0042】
(i)
1がメチル基、
2がシアノ基、
3が水素原子、又はメトキシ基、
4がスルホ基、
5がスルホ基又はカルボキシ基で置換された(C1~C4)アルキルチオ基、
6がスルホ基又はカルボキシ基で置換された(C1~C4)アルキルチオ基、
7がスルホ基又はカルボキシ基で置換された(C1~C4)アルコキシ基、
8が(C1~C4)アルキルカルボニルアミノ基、
9が(C1~C4)アルキルカルボニルアミノ基、
10が(C1~C4)アルキルカルボニルアミノ基、
11が水素原子又はスルホ基又はニトロ基、
12が水素原子又はスルホ基又はニトロ基、
13が水素原子又はスルホ基又はニトロ基、
の組合せ。
【0043】
(ii)
1がメチル基、
2がシアノ基、
3が水素原子、又はメトキシ基、
4がスルホ基、
5がスルホ(C1~C4)アルキルチオ基、
6がスルホ(C1~C4)アルキルチオ基、
7がスルホ(C1~C4)アルコキシ基、
8が(C1~C4)アルキルカルボニルアミノ基、
9が(C1~C4)アルキルカルボニルアミノ基、
10が(C1~C4)アルキルカルボニルアミノ基、
11がスルホ基、
12がスルホ基、
13が水素原子又はスルホ基又はニトロ基、
の組合せ。
【0044】
(iii)
1がメチル基、
2がシアノ基、
3が水素原子、又はメトキシ基、
4がスルホ基、
5がスルホ(C1~C4)アルキルチオ基、
6がスルホ(C1~C4)アルキルチオ基、
7がスルホ(C1~C4)アルコキシ基、
8が(C1~C3)アルキルカルボニルアミノ基、
9が(C1~C3)アルキルカルボニルアミノ基、
10がC4アルキルカルボニルアミノ基、
11がスルホ基、
12がスルホ基、
13が水素原子、又はスルホ基、
の組合せ。
【0045】
(iv)
1がメチル基、
2がシアノ基、
3が水素原子、又はメトキシ基、
4がスルホ基、
5がスルホ(C1~C4)アルキルチオ基、
6がスルホ(C1~C4)アルキルチオ基、
7がスルホ(C1~C4)アルコキシ基、
8がアセチルアミノ基、
9がアセチルアミノ基、
10がイソプロピルカルボニルアミノ基、
11がスルホ基、
12がスルホ基、
13が水素原子、又はスルホ基、
の組合せ。
【0046】
(v)
1がメチル基、
2がシアノ基、
3が水素原子、又はメトキシ基、
4がスルホ基、
5がスルホプロピルチオ基、
6がスルホプロピルチオ基、
7がスルホプロポキシ基、
8がアセチルアミノ基、
9がアセチルアミノ基、
10がイソプロピルカルボニルアミノ基、
11がスルホ基、
12がスルホ基、
13が水素原子、
の組合せ。
【0047】
上記式(1)における各種の置換基、及びそれらの組合せ、さらにはそれらの置換位置等について記載した好ましいもの同士を組合せた化合物はより好ましく、より好ましいもの同士を組合せたものは更に好ましい。更に好ましいもの同士や、好ましいものと、より好ましいものとの組合せ等についても同様である。
【0048】
上記式(1)で示されるアゾ化合物は、例えば次のような方法で合成することができる。なお、各工程における化合物の構造式は遊離酸の形で表すものとする。又、下記式(5)~(12)において、R1~R13は上記式(1)と同じである。下記式(5)で表される化合物を常法によりジアゾ化し、得られたジアゾ化合物と下記式(6)で表される化合物とを常法によりカップリング反応させ、下記式(7)で表される化合物を得る。
【0049】
【化3】
【0050】
得られた上記式(7)で表される化合物を常法によりジアゾ化した後、得られたジアゾ化合物と下記式(8)で表される化合物とを常法によりカップリング反応させ、下記式(9)で表される化合物を得る。
【0051】
【化4】
【0052】
得られた上記式(9)で表される化合物を常法によりジアゾ化した後、得られたジアゾ化合物と下記式(10)で表される化合物とを常法によりカップリング反応させ、下記式(11)で表される化合物を得る。
【0053】
【化5】
【0054】
得られた上記式(11)で表される化合物を常法によりジアゾ化した後、得られたジアゾ化合物と下記式(12)で表される化合物とを常法によりカップリング反応させる事により、上記式(1)で表される本発明のアゾ化合物を得ることができる。
【0055】
【化6】
【0056】
なお、上記式(12)で表される化合物は、特許文献3に記載の方法に準じて合成することができる。
【0057】
上記式(1)で表されるアゾ化合物の好適な具体例としては、特に限定されるものではないが、下記表1~3に挙げた構造式で示される化合物等が挙げられる。各表においてスルホ基、カルボキシ基等の官能基は、便宜上、遊離酸の形で記載する。尚、下記式中のAcはアセチル基を表す。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
上記式(5)で表される化合物のジアゾ化はそれ自体公知の方法で実施され、例えば、無機酸媒質中、例えば-5~30℃、好ましくは0~15℃の温度で亜硝酸塩、例えば亜硝酸ナトリウム等の亜硝酸アルカリ金属塩を使用して実施される。上記式(5)で表される化合物のジアゾ化物と上記式(6)で表される化合物とのカップリングもそれ自体公知の条件で実施される。水又は水性有機媒体中、例えば-5~30℃、好ましくは0~25℃の温度、且つ、酸性から中性のpH値、例えばpH1~6で行うことが有利である。ジアゾ化反応液が酸性であり、又、カップリング反応の進行により反応系内はさらに酸性化してしまうため、反応液の好ましいpH条件へのpH値の調整を塩基の添加によって行う。塩基としては、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、酢酸ナトリウム等の酢酸塩、アンモニア又は有機アミン等が使用できる。上記式(5)で表される化合物と上記式(6)で表される化合物とは、ほぼ化学量論量で用いる。
【0062】
上記式(7)で表される化合物のジアゾ化はそれ自体公知の方法で実施され、例えば、無機酸媒質中、例えば-5~40℃、好ましくは5~30℃の温度で亜硝酸塩、例えば亜硝酸ナトリウム等の亜硝酸アルカリ金属塩を使用して実施される。上記式(7)で表される化合物のジアゾ化物と上記式(8)で表される化合物とのカップリングもそれ自体公知の条件で実施される。水又は水性有機媒体中、例えば-5~40℃、好ましくは10~30℃の温度、且つ、酸性から中性のpH値、例えばpH2~7で行うことが有利である。ジアゾ化反応液が酸性であり、又、カップリング反応の進行により反応系内はさらに酸性化してしまうため、反応液の好ましいpH条件へのpH値の調整を塩基の添加によって行う。塩基としては上記と同じものが使用できる。式(7)で表される化合物と上記式(8)で表される化合物とは、ほぼ化学量論量で用いる。
【0063】
上記式(9)で表される化合物のジアゾ化はそれ自体公知の方法で実施され、例えば無機酸媒質中、例えば-5~50℃、好ましくは5~40℃の温度で亜硝酸塩、例えば亜硝酸ナトリウム等の亜硝酸アルカリ金属塩を使用して実施される。上記式(9)で表される化合物のジアゾ化物と上記式(10)で表される化合物とのカップリングもそれ自体公知の条件で実施される。水又は水性有機媒体中、例えば-5~50℃、好ましくは10~40℃の温度且つ、酸性から中性のpH値、例えばpH2~7で行うことが有利である。ジアゾ化反応液が酸性であり、又、カップリング反応の進行により反応系内はさらに酸性化してしまうため、反応液の好ましいpH条件へのpH値の調整を塩基の添加によって行う。塩基としては上記と同じものが使用できる。上記式(9)で表される化合物と上記式(10)で表される化合物とは、ほぼ化学量論量で用いる。
【0064】
上記式(11)で表される化合物のジアゾ化もそれ自体公知の方法で実施され、例えば無機酸媒質中例えば-5~50℃、好ましくは10~40℃の温度で亜硝酸塩、例えば亜硝酸ナトリウム等の亜硝酸アルカリ金属塩を使用して実施される。上記式(11)で表される化合物のジアゾ化物と上記式(12)で表される化合物とのカップリングもそれ自体公知の条件で実施される。水又は水性有機媒体中、例えば-5~50℃、好ましくは10~40℃の温度、且つ、弱酸性からアルカリ性のpH値で行うことが有利である。好ましくは弱酸性から弱アルカリ性のpH値、例えばpH5~10で実施され、pH値の調整は塩基の添加によって実施される。塩基としては上記と同じものが使用できる。上記式(11)で表される化合物と上記式(12)で表される化合物とは、ほぼ化学量論量で用いる。
【0065】
上記式(1)で表されるアゾ化合物の塩は、無機又は有機陽イオンとの塩である。そのうち、無機の陽イオンとの塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩が挙げられ、好ましい無機塩は、リチウム、ナトリウム、カリウムの塩、及びアンモニウム塩である。又、有機の陽イオンとの塩としては、例えば下記式(13)で表される4級アンモニウムイオンとの塩が挙げられるが、これらに限定されるものではない。又、上記式(1)で表されるアゾ化合物の遊離酸、その互変異性体、及びそれらの各種の塩が混合した状態であってもよい。例えばナトリウム塩とアンモニウム塩との混合物、遊離酸とナトリウム塩との混合物、リチウム塩、ナトリウム塩、及びアンモニウム塩の混合物等、いずれの組合せを用いても良い。塩の種類によって溶解性等の物性値が異なる場合も有り、必要に応じて適宜塩の種類を選択すること、又は複数の塩等を含む場合にはその比率を変化させることにより、目的に適う物性を有する混合物を得ることもできる。
【0066】
【化7】
【0067】
上記式(13)において、Z1、Z2、Z3、及びZ4は、それぞれ独立して、水素原子、非置換アルキル基、ヒドロキシアルキル基、及びヒドロキシアルコキシアルキル基よりなる群から選択される基を表し、少なくとも1つは水素原子以外の基である。上記式(13)におけるZ1~Z4のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられ、ヒドロキシアルキル基の具体例としては、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、3-ヒドロキシプロピル基、2-ヒドロキシプロピル基、4-ヒドロキシブチル基、3-ヒドロキシブチル基、2-ヒドロキシブチル基等のヒドロキシ(C1~C4)アルキル基が挙げられ、ヒドロキシアルコキシアルキル基の具体例としては、ヒドロキシエトキシメチル基、2-ヒドロキシエトキシエチル基、3-ヒドロキシエトキシプロピル基、2-ヒドロキシエトキシプロピル基、4-ヒドロキシエトキシブチル基、3-ヒドロキシエトキシブチル基、2-ヒドロキシエトキシブチル基等ヒドロキシ(C1~C4)アルコキシ(C1~C4)アルキル基が挙げられる。これらのうち、ヒドロキシエトキシ(C1~C4)アルキル基が好ましい。特に好ましいものとしては、水素原子、メチル基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、3-ヒドロキシプロピル基、2-ヒドロキシプロピル基、4-ヒドロキシブチル基、3-ヒドロキシブチル基、2-ヒドロキシブチル基等のヒドロキシ(C1~C4)アルキル基、ヒドロキシエトキシメチル基、2-ヒドロキシエトキシエチル基、3-ヒドロキシエトキシプロピル基、2-ヒドロキシエトキシプロピル基、4-ヒドロキシエトキシブチル基、3-ヒドロキシエトキシブチル基、2-ヒドロキシエトキシブチル基等のヒドロキシエトキシ(C1~C4)アルキル基、等が挙げられる。
【0068】
上記式(13)で表される好ましい化合物におけるZ1、Z2、Z3、及びZ4の組合せの具体例を下記表4に示す。
【0069】
【表4】
【0070】
上記式(1)で表されるアゾ化合物の所望の塩を合成する方法としては、上記式(1)で表される化合物の合成反応における、最終工程の終了後、所望の無機塩又は有機の4級アンモニウム塩を反応液に加えて塩析する方法、該反応液に塩酸等の鉱酸を加えて反応液から該アゾ化合物を遊離酸の形で単離した後、得られた遊離酸を、必要に応じて水、酸性の水、水性有機媒体等で洗浄して、付着した無機塩等の不純物を除去し、再度、水性の媒体中(好ましくは水中)で、該遊離酸に所望の無機塩基又は上記の4級アンモニウム塩に対応する有機塩基を加えて塩形成する方法、等が挙げられる。これらの方法により、目的とするアゾ化合物の塩を、溶液又は析出固体の状態として得ることができる。上記酸性の水とは、例えば硫酸、塩酸等の鉱酸や酢酸等の有機酸を水に溶解し、酸性にした水を示す。又、上記水性有機媒体とは、水と混和可能な、有機物質及び/又は有機溶剤等と、水との混和物を示す。水と混和可能な有機物質や有機溶剤としては、後述する水溶性有機溶剤等が挙げられる。上記式(1)で表されるアゾ化合物を所望の塩とする際に用いる無機塩の例としては、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム等のアルカリ金属のハロゲン塩、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム等のアンモニウムイオンのハロゲン塩、水酸化アンモニウム(アンモニア水)等のアンモニウムイオンの水酸化物、等が挙げられる。又、有機陽イオンの塩の例としては、例えばジエタノールアミン塩酸塩、トリエタノールアミン塩酸塩等の、上記式(13)で表される4級アンモニウムイオンのハロゲン塩等が挙げられる。
【0071】
上記インク組成物について説明する。上記式(1)で表されるアゾ化合物は、該化合物を含む水性組成物とすることにより、セルロースからなる材料を染色することが可能である。又、カルボンアミド結合を有する材料の染色も可能であり、皮革、織物、紙の染色等に幅広く用いることができる。一方、上記式(1)で表されるアゾ化合物の代表的な使用法としては、液体の媒体に溶解してなるインク組成物が挙げられ、インクジェット記録用のインク組成物として用いることが好ましい。
【0072】
上記式(1)で表される化合物を含む反応液、例えば上記式(1)で表される化合物の合成反応における、最終工程終了後の反応液等は、インク組成物の製造に直接使用することができる。しかし、該反応液を乾燥、例えばスプレー乾燥させる方法、該反応液に塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム等の無機塩類を添加することによって塩析する方法、該反応液に塩酸、硫酸、硝酸等の鉱酸を添加することによって酸析する方法、或いは上記の塩析と酸析とを組み合わせた酸塩析する方法、等の方法によって該化合物を単離し、この化合物を用いてインク組成物を調製することもできる。本発明のアゾ化合物は、単離してから用いることが好ましい。
【0073】
上記インク組成物は、上記式(1)で表されるアゾ化合物を色素として、通常0.1~20質量%、好ましくは1~10質量%、より好ましくは2~8質量%含有する水性のインク組成物である。上記インク組成物は水を媒体として調製され、必要に応じて、水溶性有機溶剤やインク調製剤を、本発明の効果を害しない範囲内において含有しても良い。水溶性有機溶剤は、色素溶解剤、乾燥防止剤(湿潤剤)、粘度調整剤、浸透促進剤、表面張力調整剤、消泡剤等としての機能を有する場合があり、上記インク組成物中には含有する方が好ましい。インク調製剤としては、例えば、防腐防黴剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、水溶性紫外線吸収剤、水溶性高分子化合物、色素溶解剤、酸化防止剤、界面活性剤等の公知の添加剤が挙げられる。上記インク組成物は、その総質量に対して、水溶性有機溶剤を0~30質量%、好ましくは5~30質量%、インク調製剤を0~15質量%、好ましくは0~7質量%それぞれ含有しても良い。上記以外の残部は水である。なお、インク組成物のpHは、保存安定性を向上させる点で、pH5~11が好ましく、pH7~10がより好ましい。又、インク組成物の表面張力としては、25~70mN/mが好ましく、25~60mN/mがより好ましい。さらに、インク組成物の粘度としては、30mPa・s以下が好ましく、20mPa・s以下がより好ましい。
【0074】
上記インク組成物は、黒色の微妙な色合いを調整する目的等により、上記式(1)で表されるアゾ化合物以外に、他の調色用の色素等を適宜含有してもよい。このような場合であっても、上記インク組成物に含有する色素の総質量は、インク組成物の総質量に対して上記の範囲でよい。調色用色素としては、イエロー(例えばC.I.ダイレクトイエロー34、C.I.ダイレクトイエロー58、C.I.ダイレクトイエロー86、C.I.ダイレクトイエロー132、C.I.ダイレクトイエロー161等)、オレンジ(例えばC.I.ダイレクトオレンジ17、C.I.ダイレクトオレンジ26、C.I.ダイレクトオレンジ29、C.I.ダイレクトオレンジ39、C.I.ダイレクトオレンジ49等)、ブラウン、スカーレット(例えばC.I.ダイレクトレッド89等)、レッド(例えばC.I.ダイレクトレッド62、C.I.ダイレクトレッド75、C.I.ダイレクトレッド79、C.I.ダイレクトレッド80、C.I.ダイレクトレッド84、C.I.ダイレクトレッド225、C.I.ダイレクトレッド226等)、マゼンタ(例えばC.I.ダイレクトレッド227等)、バイオレット、ブルー、ネイビー、シアン(例えばC.I.ダイレクトブルー199、C.I.アシッドブルー249等)、グリーン(例えばアシッドグリーン1)、ブラック(例えばC.I.アシッドブラック2)等の種々の色相を有する他の色素が挙げられる。上記インク組成物は、上記式(1)で表されるアゾ化合物により得られる効果を阻害しない範囲で、これらの調色用色素を1種類以上配合して用いることができる。この場合であっても、インク組成物中に含有する色素の総量は上記の範囲でよい。又、上記式(1)で表されるアゾ化合物と上記の調色用色素との配合比率は、調色用色素の色相等にもよるが、おおよそ20:1から1:2、好ましくは10:1から1:1である。上記インク組成物をインクジェット記録用のインクとして使用する場合、上記式(1)で表されるアゾ化合物中の金属陽イオンの塩化物、硫酸塩等の無機不純物の含有量が少ないものを用いるのが好ましい。該無機不純物の含有量の目安は、おおよそ色素の総質量に対して1質量%以下程度である。下限は分析機器の検出限界以下、すなわち0%で良い。無機不純物の少ない上記式(1)で表されるアゾ化合物を製造するには、例えば逆浸透膜を用いる方法、上記式(1)で表されるアゾ化合物の乾燥品あるいはウェットケーキをメタノール等のアルコール、好ましくは(C1~C4)アルコール及び水の混合溶媒中で撹拌して懸濁精製し、析出物を濾過分離して乾燥する方法、等の公知の方法で脱塩処理すればよい。
【0075】
上記インク組成物の調製に使用できる水溶性有機溶剤の具体例としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール、第三ブタノール等の(C1~C4)アルコール、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のカルボン酸アミド、2-ピロリドン、ヒドロキシエチル-2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-メチルピロリジン-2-オン等のラクタム、1,3-ジメチルイミダゾリジン-2-オン、1,3-ジメチルヘキサヒドロピリミド-2-オン等の環式尿素類、アセトン、メチルエチルケトン、2-メチル-2-ヒドロキシペンタン-4-オン等のケトン又はケトアルコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,6-ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、チオジグリコール、ジチオジグリコール等のC2-C6アルキレン単位を有するモノ、オリゴ、若しくはポリアルキレングリコール又はチオグリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ヘキサン-1,2,6-トリオール等のポリオール(好ましくはトリオール)、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールの(C1~C4)アルキルエーテル、γ-ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、等があげられる。これらの有機溶剤は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。なお、上記の水溶性有機溶剤にはトリメチロールプロパン等のように、常温で固体の物質も含まれているが、これらは固体であっても水溶性を示し、水に溶解させた場合には水溶性有機溶剤と同じ目的で使用することができるため、便宜上、本明細書においては水溶性有機溶剤の範疇に記載する。
【0076】
以下、インク調製剤として使用できる、防腐防黴剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、水溶性紫外線吸収剤、水溶性高分子化合物、色素溶解剤、酸化防止剤、及び界面活性剤について記載する。
【0077】
防黴剤としては、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン-1-オキシド、p-ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン及びその塩等が挙げられる。これらはインク組成物中に0.02~1.00質量%使用するのが好ましい。
【0078】
防腐剤としては、例えば、有機硫黄系、有機窒素硫黄系、有機ハロゲン系、ハロアリルスルホン系、ヨードプロパギル系、N-ハロアルキルチオ系、ニトリル系、ピリジン系、8-オキシキノリン系、ベンゾチアゾール系、イソチアゾリン系、ジチオール系、ピリジンオキシド系、ニトロプロパン系、有機スズ系、フェノール系、第4アンモニウム塩系、トリアジン系、チアジン系、アニリド系、アダマンタン系、ジチオカーバメイト系、ブロム化インダノン系、ベンジルブロムアセテート系、無機塩系等の化合物が挙げられる。
有機ハロゲン系化合物の具体例としては、例えばペンタクロロフェノールナトリウムが挙げられ、ピリジンオキシド系化合物の具体例としては、例えば2-ピリジンチオール-1-オキサイドナトリウムが挙げられ、イソチアゾリン系化合物の具体例としては、例えば、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンマグネシウムクロライド、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンカルシウムクロライド、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンカルシウムクロライド等が挙げられる。その他の防腐防黴剤の具体例として、無水酢酸ソーダ、ソルビン酸ソーダ又は安息香酸ナトリウム等があげられる。
【0079】
pH調整剤としては、調製されるインクに悪影響を及ぼさずに、インクのpHをおおよそ5~11の範囲に制御できるものであれば任意の物質を使用することができる。その具体例としては、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン等のアルカノールアミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化アンモニウム(アンモニア水)、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、酢酸カリウム等の有機酸のアルカリ金属塩、ケイ酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム等の無機塩基等が挙げられる。
【0080】
キレート試薬の具体例としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラシル二酢酸ナトリウム等があげられる。
【0081】
防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグルコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール又はジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト等があげられる。
【0082】
水溶性紫外線吸収剤としては、例えばスルホン化したベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾ-ル系化合物、サリチル酸系化合物、桂皮酸系化合物、トリアジン系化合物が挙げられる。
【0083】
水溶性高分子化合物としては、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアミン又はポリイミン等があげられる。
【0084】
色素溶解剤としては、例えば、ε-カプロラクタム、エチレンカーボネート、尿素等が挙げられる。
【0085】
酸化防止剤としては、例えば、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。前記有機系の褪色防止剤の例としては、ハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、複素環類等が挙げられる。
【0086】
界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系等の公知の界面活性剤が挙げられる。アニオン界面活性剤としては、アルキルスルホン酸塩、アルキルカルボン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、N-アシルアミノ酸及びその塩、N-アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリールスルホン酸塩、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキルシルスルホ琥珀酸塩、ジオクチルスルホ琥珀酸塩等が挙げられる。
【0087】
カチオン界面活性剤としては、2-ビニルピリジン誘導体、ポリ4-ビニルピリジン誘導体等が挙げられる。
【0088】
両性界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン、イミダゾリン誘導体等が挙げられる。
【0089】
ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のエーテル系、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール等のアセチレングリコール(アルコール)系、日信化学社製、商品名サーフィノール104、105、82、465、オルフィンSTG等、ポリグリコールエーテル系(例えばSIGMA-ALDRICH社製のTergitol 15-S-7等)、等が挙げられる。
上記のインク調製剤は、それぞれ単独又は混合して用いられる。
【0090】
上記インク組成物は、上記各成分を任意の順序で混合、撹拌することによって得られる。得られたインク組成物は、所望により、狭雑物を除く為にメンブランフィルター等で精密濾過を行ってもよく、インクジェット記録に用いる場合には、該濾過を行うのが好ましい。精密濾過を行うフィルターの孔径は通常1μm~0.1μm、好ましくは、0.8μm~0.1μmである。
【0091】
上記インク組成物は、各種分野において使用することができるが、筆記用水性インク、水性印刷インク、情報記録インク等に好適であり、インクジェット記録用のインクとして用いることが特に好ましく、後述する本発明のインクジェット記録方法において好適に使用される。
【0092】
上記インクジェット記録方法は、前記本発明のインク組成物をインクとして用い、該インクのインク滴を記録信号に応じて吐出させて被記録材に付着させることにより記録を行う方法である。本発明のインクジェット記録方法は、記録の際に使用するインクヘッド、インクノズル等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。この記録方法は、公知の方法、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えてインクに照射し、その放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、インクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット、いわゆるバブルジェット(登録商標)方式、等を使用することができる。
【0093】
上記インクジェット記録方法に用いる被記録材としては、特に制限はないが、例えば紙、フィルム等の記録メディア、繊維や布(セルロース、ナイロン、羊毛等)、皮革、カラーフィルター用基材等が挙げられ、中でもシート状の記録メディアが好ましい。記録メディアとしては、表面処理されたもの、具体的には紙、合成紙、フィルム等の基材にインク受容層を設けたものが好ましい。インク受容層は、例えば上記基材にカチオン系ポリマーを含浸あるいは塗工すること、多孔質シリカ、アルミナゾル、特殊セラミックス等の、インク中の色素を吸収し得る多孔性白色無機物を、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマーと共に、上記基材表面に塗工すること、等の方法により設けられる。このようなインク受容層を設けた情報伝達用シートは、通常インクジェット専用紙(フィルム)、光沢紙(フィルム)等と呼ばれる。その具体例としては、キヤノン株式会社製、商品名 プロフェッショナルフォトペーパー、スーパーフォトペーパー又はマットフォトペーパー、セイコーエプソン株式会社製、商品名 写真用紙(光沢)、PMマット紙、クリスピア、日本ヒューレット・パッカード株式会社製、商品名 アドバンスフォトペーパー、プレミアムプラスフォト用紙、プレミアム光沢フィルム又はフォト用紙、等が挙げられ、市販品として入手が可能である。なお、普通紙も当然に使用できる。
【0094】
上記記録メディア、とりわけシート状の記録メディアのうち、多孔性白色無機物を表面に塗工したシートに記録した画像は、オゾンガスによって、特に変退色が大きくなることが知られている。しかし本発明のインク組成物は耐オゾンガス性が優れているため、このような被記録材へインクジェット記録した際にも大きな効果を発揮する。
【0095】
上記インクジェット記録方法で被記録材に記録するには、例えば上記のインク組成物を含有する容器をインクジェットプリンタの所定の位置に装填し、上記の方法で被記録材に記録すればよい。上記インクジェット記録方法は、上記黒色インク組成物と、例えば上記したような公知のマゼンタ、シアン、イエロー、及び必要に応じて、グリーン、ブルー(又はバイオレット)、レッド(又はオレンジ)等の各色のインク組成物とを併用することもできる。各色のインク組成物は、それぞれの容器に注入され、その各容器を本発明の黒色インク組成物を含有する容器と同様に、インクジェットプリンタの所定の位置に装填してインクジェット記録に使用される。
【0096】
本発明の着色体とは、
a)上記1)~4)のいずれか一項に記載のアゾ化合物若しくはその互変異性体、又はそれらの塩、
b)上記5)又は6)に記載の水性インク組成物、又は、
c)上記7)に記載のインクジェット記録方法、のいずれかにより着色された着色体を示す。
着色される着色体については、特に制限は無いが、上記のインクジェット記録方法に用いる被記録材等が好ましく挙げられる。
【0097】
本発明のアゾ化合物は黒色色素である。この化合物は、彩度が低いという特徴を有するため、黒色としてより好ましい色相を呈し、色相の評価値としての*a、*bの絶対値が12未満であることにより、良好な黒色となる。又、水溶解性に優れるので、インク組成物を製造する過程でのメンブランフィルターによるろ過性が良好である。又、該アゾ化合物を含有する本発明のインク組成物は水性の黒色インク組成物であり、長期間保存後の固体析出、物性変化、色変化等もなく、貯蔵安定性が良好である。本発明のインク組成物で記録した画像は、特に耐オゾンガス性に非常に優れ、又、印字濃度が高く、ブロンジング性に優れ、演色性が小さく、且つ彩度が低く、高品位な黒色の色相を有する。耐光性、耐湿性、耐水性等の各種堅牢性にも優れる。さらにマゼンタ、シアン、及びイエロー色素をそれぞれ含有するインク組成物と併用することにより、各種堅牢性に優れ、保存性の優れたフルカラーのインクジェット記録が可能である。このように、本発明のアゾ化合物を含有するインク組成物は、インクジェット記録用、筆記具用等のインクとして用いることが可能であり、吐出安定性にも優れることから、特にインクジェット記録用のインクとして好適である。
【実施例
【0098】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。本文中「部」及び「%」とあるのは、特別の記載のない限り質量基準である。各合成反応、晶析等の操作は、特に断りのない限り、いずれも攪拌下に行った。下記の各式において、スルホ、カルボキシ等の酸性官能基は、遊離酸の形で表記した。合成反応におけるpH値及び反応温度は、いずれも反応系内における測定値を示した。又、合成した化合物の最大吸収波長(λmax)は、pH7~8の水溶液中で測定し、測定した化合物については実施例中に、その測定値を記載した。なお、以下の実施例で合成した本発明のアゾ化合物は、水に対していずれも100g/リットル以上の溶解性を示した。
【0099】
[(A)染料の合成]
[実施例1]
(工程1-1)
4-アミノ-2-ニトロフェノール50.0部をトルエン650部に溶解し、炭酸ナトリウム53.8部を加え、ここにイソ酪酸無水物61.6部を約15分間かけて滴下した。滴下後50~60℃で3時間反応後、室温まで冷却し析出した固体を濾過することにより、下記式(14)で表される化合物をウェットケーキとして116部得た。
【0100】
【化8】
【0101】
(工程1-2)
2-プロパノール1000部と水50部に上記(工程1-1)にて得られた式(14)で表される化合物のウェットケーキ全量を添加後、ここに1,3-プロパンスルトン79.2部を添加した。添加後、75~80℃に加熱し、同温度で3時間反応させた。室温まで冷却後、得られた固体を濾過することにより、下記式(15)で表される化合物をウェットケーキとして179部得た。
【0102】
【化9】
【0103】
(工程1-3)
水500部に上記(工程1-2)にて得られた式(15)で表される化合物のウェットケーキ全量を添加後、25%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを7.0~8.0とした。ここに活性炭3.4部、無水塩化鉄(III)1.3部を添加し、60℃まで加熱後、ヒドラジン一水和物16.2部を約30分かけて滴下した。80℃に加熱後、同温度で3時間反応させた。40℃まで冷却後、不要物を濾過により除去し、濾液を室温まで冷却した。50%硫酸の添加によりpH1.0~1.5とし、析出した固体を濾過分取して、下記式(16)で表される化合物をウェットケーキとして50.0部得た。
【0104】
【化10】
【0105】
(工程1-4)
水50部に下記式(17)で表されるアニリン-2,5-ジスルホン酸5.1部を添加後、25%水酸化ナトリウム水溶液の添加によりpH4.0~5.0として水溶液を得た。35%塩酸6.3部を添加後、40%亜硝酸ナトリウム水溶液4.2部を添加し約30分反応した。ここにスルファミン酸0.8部を添加し5分間撹拌しジアゾ反応液を得た。一方、水100部に国際公開2012/081640号公報に記載の方法で得られる式(18)の化合物5.7部を添加後、25%水酸化ナトリウム水溶液の添加によりpH4.0~5.0として水溶液を得た。この水溶液を上記にて得られたジアゾ反応液に約5分間で滴下した。滴下後、15%炭酸ナトリウム水溶液の添加によりpHを2.0~4.0に保持しながら3時間反応後、塩化ナトリウムを添加して35%塩酸によりpH0.8~1.0として酸塩析した。析出した固体を濾過分取し下記式(19)で表される化合物を含むウェットケーキを24.8部得た。
【0106】
【化11】
【0107】
【化12】
【0108】
【化13】
【0109】
(工程1-4-1)
水80部に上記(工程1-4)にて得られた式(18)で表される化合物のウェットケーキ全量を添加後、25%水酸化ナトリウム水溶液の添加によりpH6.0~7.0として水溶液を得た。35%塩酸5.63部を添加後、40%亜硝酸ナトリウム水溶液3.8部を添加し約30分反応した。ここにスルファミン酸0.8部を添加し5分間撹拌しジアゾ反応液を得た。一方、水100部に国際公開2012/081640号公報に記載の方法で得られる上記式(16)の化合物5.7部を添加後、25%水酸化ナトリウム水溶液の添加によりpH4.0~5.0として水溶液を得た。この水溶液を上記にて得られたジアゾ反応液に約5分間で滴下した。滴下後、15%炭酸ナトリウム水溶液の添加によりpHを2.0~2.5に保持しながら3時間反応後、塩化ナトリウムを添加し、35%塩酸の添加によりpH0.8~1.0として酸塩析した。析出した固体を濾過分取し下記式(20)で表される化合物を含むウェットケーキを33.2部得た。
【0110】
【化14】
【0111】
(工程1-5)
水100部に上記(工程1-4-1)にて得られた式(20)で表される化合物のウェットケーキ33.2部を添加し撹拌して溶解した。35%塩酸4.7部を添加後、40%亜硝酸ナトリウム水溶液3.2部を添加し、約30分撹拌した。ここにスルファミン酸0.4部を添加し5分間撹拌しジアゾ反応液を得た。一方、水100部に実施例1に記載の方法で得られる式(16)の化合物5.7部を添加後、25%水酸化ナトリウム水溶液の添加によりpH4.0~5.0として水溶液を得た。この水溶液を上記にて得られたジアゾ反応液に約5分間で滴下した。滴下後、15%炭酸ナトリウム水溶液の添加によりpHを2.0~2.5に保持しながら3時間反応後、塩化ナトリウムを添加し、35%塩酸の添加によりpH0.8~1.0として酸塩析した。析出した固体を濾過分取し下記式(21)で表される化合物を含むウェットケーキを35.2部得た。
【0112】
【化15】
【0113】
(工程1-6)
水80部に上記(工程1-5)にて得られた式(21)で表される化合物のウェットケーキ35.2部を添加し撹拌して溶解した。35%塩酸6.3部を添加後、40%亜硝酸ナトリウム水溶液2.3部を添加し、約30分撹拌した。ここにスルファミン酸0.5部を添加し5分間撹拌しジアゾ反応液を得た。一方、水80部に、国際公開2012/081640号公報に記載の方法で得られる下記式(22)の化合物4.0部を添加し、5%水酸化ナトリウム水溶液の添加によりpH6.0~7.0として水溶液を得た。この水溶液に、上記で得たジアゾ反応液を15~30℃、約30分間かけて滴下した。この際、15%炭酸ナトリウム水溶液を加えて反応液のpHを6.5~7.5に保持し、同温度及びpHの調整を維持しながら、さらに2時間反応した。反応液に塩化ナトリウムを加えて塩析し、析出した固体を濾過分離し、ウェットケーキ20.3部を得た。得られたウェットケーキを水40部に溶解し、35%塩酸でpHを7.0~7.5とした後、メタノール400部を添加し、析出した固体を濾過分取した。得られたウェットケーキを再度水40部に溶解後、メタノール300部を添加した。析出した固体を濾過分離し、乾燥することにより本発明の下記式(23)で表される化合物を黒色粉末として10.3部ナトリウム塩として得た。
λmax:612nm。
【0114】
【化16】
【0115】
【化17】
【0116】
[実施例2]
(工程2-1)
実施例1(工程1-6)において、式(22)の化合物4.0部を使用する代わりに国際公開2012/081640号公報に記載の方法で得られる下記式(24)の化合物4.4部を使用する以外は実施例1と同様にして、下記式(25)で表される本発明の化合物のナトリウム塩(λmax:618nm)11.3部を得た。
【0117】
【化18】
【0118】
【化19】
【0119】
[実施例3]
(工程3-1)
実施例1(工程1-4)において、式(17)の化合物5.1部を使用する代わりに
下記式(26)のアニリン-2,5-ジスルホン酸5.1部を使用する以外は実施例3と同様にして、下記式(27)で表される本発明の化合物のナトリウム塩(λmax:618nm)10.3部を得た。
【0120】
【化20】
【0121】
【化21】
【0122】
[(B)インクの調製]
上記で得られた本発明のアゾ化合物[式(23)、(25)、(27)]を色素として用い、下記表5に示した組成を混合して溶液とすることにより、本発明のインク組成物を得た。得られたインク組成物を0.45μmのメンブランフィルターで濾過して夾雑物を除き、試験用のインクを調製した。なお、この試験用インクのpHは8.0~9.5の範囲であった。又、下記表7中、「界面活性剤」は、日信化学株式会社製の商品名サーフィノールRTM104PG50を使用した。式(23)、(25)、(27)を用いたインクをそれぞれ実施例4~6とした。
【0123】
【表5】
【0124】
[比較例1]
本発明のアゾ化合物のかわりに、国際公開2012/081640号の実施例3に記載の色素を用いる以外は、上記実施例1と同様にして比較用のインクを調製した。このインクの調製を比較例1とする。比較例1に用いた化合物の構造式を下記式(32)に示す。
【0125】
【化22】
【0126】
[(C)インクジェット記録]
上記実施例4~6、及び比較例1で調製した各インクを、インクジェットプリンタ(キヤノン株式会社製、商品名:PIXUSRTM ip7230)を用いて、下記光沢紙にインクジェット記録を行った。記録の際は、100%、85%、70%、55%、40%、25%濃度の6段階の階調が得られるように画像パターンを作り、ハーフトーンの記録物を得た。得られた記録物を試験片として用い、下記する試験を行った。
【0127】
光沢紙1:キヤノン写真用紙・プラチナグレード(PT-201)
光沢紙2:セイコーエプソン株式会社製、商品名:写真用紙クリスピア
光沢紙3:セイコーエプソン株式会社製、商品名:PM写真用紙
光沢紙4:ブラザー工業株式会社製、商品名:BP71G
【0128】
[(D)記録画像の測色]
各種の試験及びその評価は、X-rite社製の測色機、商品名SpectroEyeを用いて試験片を測色することにより行った。測色は、濃度基準にDIN NB、視野角2度、光源D65の条件で行った。
【0129】
[(D)耐光性試験]
各試験片をホルダ-を用い、キセノンウェザオメータXL75[スガ試験機株式会社製]中に設置し、温度24℃、湿度60%RH、100klux照度で168時間照射した。各試験片の55%濃度の階調部分について、試験前後の反射濃度を測色し、以下の基準で評価を行った。色素残存率は、より大きい数値のものが、より優れる。評価結果を下記表6に示す。
【0130】
色素残存率(試験後の反射濃度Dc/試験前の反射濃度Dc)×100(%)で求め以下の基準で評価を行った。
〇:残存率90%以上
×:残存率89%未満
【0131】
[色素残存率の算出式]
色素残存率=(試験後の反射濃度/試験前の反射濃度)×100(%)。
【0132】
【表6】
【0133】
表6から明らかなように、耐光性試験において、実施例4~6のインクを用いて印刷した光沢紙は比較例1のインクを用いて印刷した光沢紙より、いずれの光沢紙においても良好な耐光性結果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明のアゾ化合物及びこれを含むインク組成物は、筆記用具等の各種記録用、特にインクジェット記録用の黒色インクに好適に用いられる。