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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-12
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】非接触式パンタグラフ接触力測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01L 5/00 20060101AFI20220118BHJP
【FI】
G01L5/00 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018163089
(22)【出願日】2018-08-31
(65)【公開番号】P2020034499
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2020-11-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】山本 大樹
(72)【発明者】
【氏名】渡部 勇介
(72)【発明者】
【氏名】小山 達弥
【審査官】公文代 康祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-235310(JP,A)
【文献】特開2011-232273(JP,A)
【文献】特開2008-104312(JP,A)
【文献】特開2013-181755(JP,A)
【文献】特開2018-112476(JP,A)
【文献】特開2009-300137(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0180518(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 5/00
G01B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架線と接触する舟体、及び、バネにより前記舟体を支持する支持部を備えるパンタグラフと、前記架線との接触力を測定する非接触式パンタグラフ接触力測定装置であって、
前記支持部の側面、及び、前記舟体の側面のうち前記支持部の側面の鉛直方向上方位置に配される、一対の第1マーカーと、
一対の前記第1マーカーを一括して撮影する第1撮影手段と、
前記第1撮影手段によって撮影された映像に基づき、一対の前記第1マーカーの各位置を検出し、検出した一対の前記第1マーカーの各位置、及び、車両の速度に基づき、前記接触力を求める接触力算出部とを備え
前記接触力算出部は、
検出した一対の前記第1マーカーの各位置に基づき、前記バネの反力、前記バネの減衰力、及び慣性力を求め、
前記速度に基づき揚力を求め、
求めた前記反力、前記減衰力、前記慣性力、及び前記揚力の合力を、前記接触力として求める
ことを特徴とする非接触式パンタグラフ接触力測定装置。
【請求項2】
前記支持部は、前記舟体の枕木方向両端部に配され、
前記第1マーカーは、全ての前記支持部、及び、前記舟体の前記側面のうち全ての前記支持部の側面の鉛直方向上方位置に対して配される
ことを特徴とする請求項1に記載の非接触式パンタグラフ接触力測定装置。
【請求項3】
前記第1マーカーは、白線及び黒線が鉛直方向に交互に並ぶ縞模様であり、
前記接触力算出部は、前記第1マーカーの位置を鉛直方向の1ライン上において検出する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の非接触式パンタグラフ接触力測定装置。
【請求項4】
前記接触力算出部は、
鉛直方向の1ライン上における前記第1マーカーに対応するテンプレート画像を用いたテンプレートマッチングを行い、
前記白線の鉛直方向端部を輝度値の微分値を計算することによって求め、
求められた前記白線の鉛直方向端部かつ枕木方向両端部における微分値を用いて、パラボラフィッティングを行い、前記第1マーカーの位置を検出する
ことを特徴とする請求項に記載の非接触式パンタグラフ接触力測定装置。
【請求項5】
前記白線は、互いに鉛直方向の幅が異なる2本以上の線であり、
前記接触力算出部による前記輝度値の微分値の計算は、複数の前記白線のうち鉛直方向上端に配される白線の鉛直方向上端、または鉛直方向下端に配される白線の鉛直方向下端に対して行う
ことを特徴とする請求項に記載の非接触式パンタグラフ接触力測定装置。
【請求項6】
前記舟体の前記側面のうち、枕木方向中央位置に配される第2マーカーと、
前記第2マーカーを撮影する第2撮影手段とをさらに備え、
前記接触力算出部は、
前記第2撮影手段によって撮影された映像に基づき、前記第2マーカーの位置を検出し、
検出した一対の前記第1マーカーの各位置に基づき求めた前記慣性力に代えて、検出した前記第2マーカーの位置に基づき、慣性力を求め
ことを特徴とする請求項1または2に記載の非接触式パンタグラフ接触力測定装置。
【請求項7】
前記第1マーカー及び前記第2マーカーは、それぞれ白線及び黒線が鉛直方向に交互に並ぶ縞模様であり、
前記接触力算出部は、前記第1マーカー及び前記第2マーカーの各位置を、鉛直方向の1ライン上において検出する
ことを特徴とする請求項に記載の非接触式パンタグラフ接触力測定装置。
【請求項8】
前記接触力算出部は、
鉛直方向の1ライン上における前記第1マーカー及び前記第2マーカーにそれぞれ対応するテンプレート画像を用いたテンプレートマッチングを行い、
前記白線の鉛直方向端部を輝度値の微分値を計算することによって求め、
求められた前記白線の鉛直方向端部かつ枕木方向両端部における微分値を用いて、パラボラフィッティングを行い、前記第1マーカー及び前記第2マーカーの各位置を検出する
ことを特徴とする請求項に記載の非接触式パンタグラフ接触力測定装置。
【請求項9】
前記白線は、互いに鉛直方向の幅が異なる2本以上の線であり、
前記接触力算出部による前記輝度値の微分値の計算は、複数の前記白線のうち鉛直方向上端に配される白線の鉛直方向上端、または鉛直方向下端に配される白線の鉛直方向下端に対して行う
ことを特徴とする請求項に記載の非接触式パンタグラフ接触力測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理を用いてパンタグラフの接触力を測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電気鉄道において、架線からパンタグラフを介して車両に電力を供給する方式が一般的である。架線とパンタグラフとの接触力は、架線の高さ変動や、車両及びパンタグラフの振動等によって変化する。この接触力の変動が大きくなると、パンタグラフが架線から離線してしまい、アークが発生してしまう虞がある。また、接触力が大きすぎると架線の摩耗が激しくなってしまう。
【0003】
したがって、架線とパンタグラフとの接触力の測定を行う技術が求められている。下記特許文献1~3は、このような技術を開示するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011‐232273号公報
【文献】特開2009‐244023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1,2は、パンタグラフの片側にしかカメラがないため、1列舟体のパンタグラフにしか適用することができない。
【0006】
本発明は、上記技術的課題に鑑み、舟体が2列であっても、さらに集電を行うパンタグラフが対象であっても、架線とパンタグラフとの接触力の測定を可能とする、非接触式パンタグラフ接触力測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための第1の発明に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置は、
架線と接触する舟体、及び、バネにより前記舟体を支持する支持部を備えるパンタグラフと、前記架線との接触力を測定する非接触式パンタグラフ接触力測定装置であって、
前記支持部の側面、及び、前記舟体の側面のうち前記支持部の側面の鉛直方向上方位置に配される、一対の第1マーカーと、
一対の前記第1マーカーを一括して撮影する第1撮影手段と、
前記第1撮影手段によって撮影された映像に基づき、一対の前記第1マーカーの各位置を検出し、検出した一対の前記第1マーカーの各位置、及び、前記車両の速度に基づき、前記接触力を求める接触力算出部とを備える
ことを特徴とする。
【0008】
上記課題を解決するための第2の発明に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置は、
上記第1の発明に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置において、
前記支持部は、前記舟体の枕木方向両端部に配され、
前記第1マーカーは、全ての前記支持部、及び、前記舟体の前記側面のうち全ての前記支持部の側面の鉛直方向上方位置に対して配される
ことを特徴とする。
【0009】
上記課題を解決するための第3の発明に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置は、
上記第1または2の発明に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置において、
前記接触力算出部は、
検出した一対の前記第1マーカーの各位置に基づき、前記バネの反力、前記バネの減衰力、及び慣性力を求め、
前記速度に基づき揚力を求め、
求めた前記反力、前記減衰力、前記慣性力、及び前記揚力の合力を、前記接触力として求める
ことを特徴とする。
【0010】
上記課題を解決するための第4の発明に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置は、
上記第1から3のいずれか1つの発明に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置において、
前記第1マーカーは、白線及び黒線が鉛直方向に交互に並ぶ縞模様であり、
前記接触力算出部は、前記第1マーカーの位置を鉛直方向の1ライン上において検出する
ことを特徴とする。
【0011】
上記課題を解決するための第5の発明に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置は、
上記第4の発明に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置において、
前記接触力算出部は、
鉛直方向の1ライン上における前記第1マーカーに対応するテンプレート画像を用いたテンプレートマッチングを行い、
前記白線の鉛直方向端部を輝度値の微分値を計算することによって求め、
求められた前記白線の鉛直方向端部かつ枕木方向両端部における微分値を用いて、パラボラフィッティングを行い、前記第1マーカーの位置を検出する
ことを特徴とする。
【0012】
上記課題を解決するための第6の発明に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置は、
上記第5の発明に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置において、
前記白線は、互いに鉛直方向の幅が異なる2本以上の線であり、
前記接触力算出部による前記輝度値の微分値の計算は、複数の前記白線のうち鉛直方向上端に配される白線の鉛直方向上端、または鉛直方向下端に配される白線の鉛直方向下端に対して行う
ことを特徴とする。
【0013】
上記課題を解決するための第7の発明に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置は、
上記第1または2の発明に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置において、
前記舟体の前記側面のうち、枕木方向中央位置に配される第2マーカーと、
前記第2マーカーを撮影する第2撮影手段とをさらに備え、
前記接触力算出部は、
前記第2撮影手段によって撮影された映像に基づき、前記第2マーカーの位置を検出し、
検出した前記第2マーカーの位置に基づき、慣性力を求め、
検出した一対の前記第1マーカーの各位置に基づき、前記バネの反力、及び前記バネの減衰力を求め、
前記速度に基づき揚力を求め、
求めた前記反力、前記減衰力、前記慣性力、及び前記揚力の合力を、前記接触力として求める
ことを特徴とする。
【0014】
上記課題を解決するための第8の発明に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置は、
上記第7の発明に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置において、
前記第1マーカー及び前記第2マーカーは、それぞれ白線及び黒線が鉛直方向に交互に並ぶ縞模様であり、
前記接触力算出部は、前記第1マーカー及び前記第2マーカーの各位置を、鉛直方向の1ライン上において検出する
ことを特徴とする。
【0015】
上記課題を解決するための第9の発明に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置は、
上記第8の発明に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置において、
鉛直方向の1ライン上における前記第1マーカー及び前記第2マーカーにそれぞれ対応するテンプレート画像を用いたテンプレートマッチングを行い、
前記白線の鉛直方向端部を輝度値の微分値を計算することによって求め、
求められた前記白線の鉛直方向端部かつ枕木方向両端部における微分値を用いて、パラボラフィッティングを行い、前記第1マーカー及び前記第2マーカーの各位置を検出する
ことを特徴とする。
【0016】
上記課題を解決するための第10の発明に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置は、
上記第9の発明に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置において、
前記白線は、互いに鉛直方向の幅が異なる2本以上の線であり、
前記接触力算出部による前記輝度値の微分値の計算は、複数の前記白線のうち鉛直方向上端に配される白線の鉛直方向上端、または鉛直方向下端に配される白線の鉛直方向下端に対して行う
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置によれば、舟体が2列であっても、さらに集電を行うパンタグラフが対象であっても、架線とパンタグラフとの接触力の測定を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施例1に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置の構成を説明する概略図である。
図2】本発明の実施例1における接触力算出部の構成を説明する概略図である。
図3】本発明の実施例1における接触力算出部の動作を説明するフローチャートである。
図4】本発明の実施例1におけるラインセンサカメラで撮影されるマーカーの画像例を示す模式図である。
図5】本発明の実施例1におけるテンプレート画像の一例を示す図である。
図6】本発明の実施例1におけるエッジ検出を説明するイメージ図である。
図7】本発明の実施例1におけるパンタグラフに作用する力のモデル図である。
図8】本発明の実施例2に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置の構成を説明する概略図である。
図9】本発明の実施例2における接触力算出部の構成を説明する概略図である。
図10】本発明の実施例3に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置の構成を説明する概略図である。
図11】本発明の実施例3における接触力算出部の構成を説明する概略図である。
図12】本発明の実施例3におけるエリアセンサカメラによる撮影の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置について、実施例にて図面を用いて説明する。
【0020】
[実施例1]
まず、本実施例に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置の構成について、図1を用いて説明する。図1は、本実施例に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置を説明する概略図である。なお、図1中の破線枠P内は、なびき側から見たパンタグラフ近傍の図である。
【0021】
図1に示すように、架線1に接触するパンタグラフ2は、車両の屋根上3aに固定された枠組4、及び、枠組4に支持され、枕木方向に延伸し架線1に接触する2本の舟体5,6を備えている。なお、舟体5,6は、互いに車両進行方向に並ぶようにして平行に配されている。
【0022】
枠組4の鉛直方向上端には、各舟体5,6の枕木方向両端部をそれぞれ支持する、計4つの支持部7~10が形成されている。また、各支持部7~10の内部には、それぞれ鉛直方向に延伸する内部バネ7a~10aが設けられている。
【0023】
すなわち、舟体5の枕木方向両端部は、支持部7,8の内部バネ7a,8aによって支持され、船体6の枕木方向両端部は、支持部9,10の内部バネ9a,10aによって支持されている。
【0024】
本実施例に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置は、上述の架線1とパンタグラフ2との接触力を求めるものであり、図1に示すように、主たる構成として、マーカー11A~14A,11B~14B(第1マーカー)、ラインセンサカメラ15~18、及び接触力算出部23を備えている。
【0025】
図1の破線円Q内の図は、一例としてマーカー13Aの拡大図を表している。マーカー11A~14Aは、この拡大図に示すとおり、黒の背景に白線が2本配されている模様、換言すれば、白線及び黒線が交互に並ぶ縞模様であり、各支持部7~10の側面Aに対し、それぞれ、白黒の縞模様が鉛直方向に並ぶようにして設けられている。
【0026】
マーカー11B~14Bは、舟体5,6における各側面のうち、各側面Aの鉛直方向上方位置Bに対し、それぞれ、マーカー11A~14Aと同じく白線及び黒線からなる縞模様が鉛直方向に交互に並ぶようにして設けられている。なお、マーカー11Aとマーカー11B、マーカー12Aとマーカー12B、マーカー13Aとマーカー13B、マーカー14Aとマーカー14Bが、それぞれ対応した位置に配され、上下一対のマーカーとなっている。
【0027】
なお、2本の上記白線は、鉛直方向の幅が互いに異なり、鉛直下側の直線の方が鉛直方向上側の直線よりも幅広となっている。
【0028】
また、なびき側の舟体5の枕木方向両端部に配された支持部7,8においては、側面Aは、なびき側の側面とし、位置Bは、舟体5のなびき側の側面における側面Aの鉛直方向上方位置とする。
【0029】
さらに、反なびき側の舟体6の枕木方向両端部に配された支持部9,10においては、側面Aは、反なびき側の側面とし、位置Bは、舟体6の反なびき側の側面における側面Aの鉛直方向上方位置とする。
【0030】
これにより、各マーカーの向く角度が、後述するラインセンサカメラ15~18による撮影を考慮した際に最適な角度となり、撮影が簡便となる。
【0031】
ラインセンサカメラ15は、支持部7の側面A及びその鉛直方向上方位置Bにそれぞれ設けられたマーカー11A,11Bを、一括して撮影可能に、車両の屋根上3aに(上向きに傾けて)固定されている。なお、ここでの撮影とは、鉛直方向の1ラインを撮影することを指す(以降のラインセンサカメラも全て同様)。
【0032】
そして、ラインセンサカメラ16~18においても同様に、各支持部8~10の側面A及びその鉛直方向上方位置Bにそれぞれ設けられたマーカー12A~14A,12B~14Bを、それぞれ一括して撮影可能に、車両の屋根上3aに固定されている。
【0033】
すなわち、本実施例では、上述のようにして設けられたラインセンサカメラ15~18によって、パンタグラフ2の全可動域に配されたマーカー11A~14A,11B~14Bを撮影する。
【0034】
また、照明19は、マーカー11A,11Bを一括して照らし、照明20~22においても同様に、それぞれマーカー12A~14A,12B~14Bを一括して照らすものである。これら照明19~22は、後述する輝度値の測定精度を向上させるためのものである。
【0035】
ただし、例えば1つの照明によって舟体5の枕木方向両端部に配されるマーカー11A,12A,11B,12Bを同時に照らす等の工夫により、照明の個数を変更することが可能である。
【0036】
図2は、接触力算出部23の構成を説明するブロック図である。接触力算出部23は、ラインセンサカメラ15~18によって撮影された映像に基づき、上下一対のマーカーの各位置を(鉛直方向の1ライン上において)検出し、検出した各マーカーの位置、及び、車両3の速度に基づき、架線1とパンタグラフ2との接触力を求めるものである。図2に示すように、接触力算出部23は、処理部24、検出部25、及び計算部26を備えている。
【0037】
処理部24には、ラインセンサカメラ15~18によって撮影したマーカー11A~14A,11B~14Bの映像、車両3の速度信号、及び、後述するマーカー変位が入力される。そして、処理部24は、上記映像に基づき画像データを作成するとともに、上記速度信号に基づき車両3の速度(車両速度)[m/s]を求める。
【0038】
検出部25には、処理部24から上記画像データが入力される。そして検出部25は、入力された上記画像データに基づき、マーカー変位(マーカー位置)[mm]を求める。
【0039】
計算部26には、処理部24から上記マーカー変位及び上記車両速度が入力される。また、計算部26は、入力された上記マーカー変位及び上記車両速度に基づき、架線1とパンタグラフ2(すなわち舟体5,6)との接触力[N]を求める。
【0040】
以上が本実施例に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置の構成の説明である。以下では、接触力算出部23の動作について、図3のフローチャートを用いて詳述する。
【0041】
ステップS1では、処理部24によって、ラインセンサカメラ15~18から映像を受け取る。
【0042】
ここで、ラインセンサカメラ15によって撮影される上下一対のマーカー11A,11Bの画像例を図4に示す(他のラインセンサカメラ16~18によって撮影される上下一対のマーカー12A~14A,12B~14Bの画像も同じような形状となる)。
【0043】
図4は、ラインセンサカメラによる鉛直方向の1ライン分のスキャン画像を、縦方向に時系列で一定数並べた画像となっている。つまり、図4の横軸は、ラインセンサカメラ15で撮影したマーカー11A,11Bの鉛直方向の幅を、横向きにしたものであり、縦軸は時間となっている。
【0044】
ステップS2では、検出部25によって、処理部24から入力された画像に基づき、各上下一対のマーカー位置の検出を行う。すなわち、ラインセンサカメラ15で撮影したマーカー11A,11Bの位置、ラインセンサカメラ16で撮影したマーカー12A,12Bの位置、ラインセンサカメラ17で撮影したマーカー13A,13Bの位置、ラインセンサカメラ18で撮影したマーカー14A,14Bの位置を、それぞれ検出する。
【0045】
また、この検出には、テンプレートマッチングによる大まかな位置の検出、及び、エッジ検出とサブピクセル推定による高精度な位置の検出の2段階で行う。
【0046】
まず、テンプレートマッチングによる大まかな位置の検出は、図5に一例を示すように、予め用意しておいた鉛直方向の1ライン上におけるマーカーに対応するテンプレート画像11AAとのマッチングを、実際のラインセンサカメラの撮影による各ライン(単位時間当たりの画像)に対して行う。
【0047】
なお、図5に示すテンプレート画像11AAは、上下一対のマーカー11A,11Bのうち、一方のマーカー(例えば11A)に対応するものであって、マーカーごとに対応するテンプレート画像とのマッチングを行う必要がある(勿論、全マーカーを同一の模様とすることで、一つのテンプレート画像のみを用いて各マーカーとのマッチングを行ってもよい)。
【0048】
上記テンプレート画像と実際のラインセンサカメラの撮影による画像との類似度計算には、正規化相互相関の1種であるZNCCを使用する。
【0049】
上記テンプレートマッチングにより、大まかにマーカーを検出した後、図6にグレースケールで示すように、検出された各マーカーにおける2本の白線のうち、鉛直方向下側の白線の鉛直方向下端をエッジ検出により求める。このエッジ検出は、輝度値の微分値を計算するものである。
【0050】
その後に行われるサブピクセル推定は、このエッジ検出により求められたエッジ(鉛直方向下端)位置の左右2ピクセルの微分値の情報を用いて、パラボラフィッティング(2次曲線の頂点の探索)を行うことで、詳細なマーカー位置を検出する。
【0051】
ステップS3では、計算部26によって、図7に示すパンタグラフに作用する力のモデルに基づき、下記計算式(1)~(5)を用いて、パンタグラフ2と架線1との接触力F
cを求める。なお、Fbは内部バネ(7a~10a)のバネ反力、Fdは内部バネ(7a~10a)の減衰力、Fineは慣性力、Faeroは揚力、Nはラインセンサカメラの数(本実施例では15~18の計4つ)、Kは内部バネ(7a~10a)のバネ係数、Cdは減衰係数、Mは等価質量、CLは揚力係数、xuは上側のマーカー(11B~14B)位置、xlは下側のマーカー(11A~14A)位置、Vは車両3の車両速度を表している。
【0052】
ここで、バネ反力Fb、バネの減衰力Fd、及び慣性力Fineは、各内部バネ7a~10aに対応するマーカー11A~14A,11B~14Bの位置に基づき計算した値の合力になる。揚力Faeroは車両速度Vにより決定する力である。
【0053】
そして、バネ反力Fb、バネの減衰力Fd、慣性力Fine、及び揚力Faeroの合力を、接触力Fcとして求める。
【0054】
【数1】
以上が接触力算出部23の動作説明である。
【0055】
ただし、本実施例では、各マーカーの白線の数を2本とし、上記ステップS2のエッジ検出により、各マーカーにおける鉛直方向下側の白線の鉛直方向下端を求めるものとしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、各マーカーにおける白線の数は2本以上あればよく、さらに、この複数の白線のうち、鉛直方向上端の白線の鉛直方向上端または下端に配される白線の鉛直方向下端に対して、エッジ検出を行うことで、本実施例での説明と同等の結果となる。
【0056】
本実施例に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置は、カメラを用いて画像解析により、パンタグラフの接触力の測定を行うため、保守車両を用いた夜間等の停電時間帯の運用だけでなく、通常の営業車両にも適用することが可能である。
【0057】
また、パンタグラフのなびき側と反なびき側の両方にカメラを設置することで、新幹線などの高速鉄道で使用されている1列の舟体のパンタグラフだけでなく、一般的な車両で多く採用されている2列舟体のパンタグラフにも適用可能である。
【0058】
さらに、2列舟体のパンタグラフでは内部バネの数が1列舟体に比べて多く測定箇所が多いため、各測定位置における誤差が全体の接触力に大きな影響を与える。そのような場合でも、バネの減衰力を画像処理により求め、接触力の算出式に加えることでより高精度な接触力の測定が可能である。
【0059】
[実施例2]
本実施例は、実施例1に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置の構成に加え、さらにマーカーを増設することで、パンタグラフに1次の振動モードが発生する場合にも対応可能としたものである。以下、実施例1と重複する部分は極力省略し、実施例1との相違点を中心に説明する。
【0060】
本実施例に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置の構成について、図8を用いて説明する。図8は、本実施例に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置を説明する概略図である(図中の破線枠P内は、なびき側から見たパンタグラフ近傍の図である)。
【0061】
図8に示すように、本実施例に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置は、実施例1に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置の構成に加え、マーカー31,32、ラインセンサカメラ33,34、照明35,36を備えている。
【0062】
マーカー31,32は、実施例1のマーカー11A~14A,11B~14Bと同様の模様であり、舟体5,6の外側の側面における枕木方向中央位置C、すなわち、なびき側の舟体5であればなびき側を向く側面における枕木方向中央位置C、反なびき側の舟体6であれば反なびき側を向く側面における枕木方向中央位置Cに、それぞれ設けられている。
【0063】
ラインセンサカメラ33,34は、それぞれ、マーカー31,32を撮影可能に車両の屋根上3aに(上向きに傾けて)固定されている。また、照明35,36は、それぞれマーカー31,32を照らすものである。ただし、実施例1で説明したごとく、マーカー31,32(及びその他のマーカー)を照らし、輝度値の測定精度を向上させることができれば、照明の個数はいくつであってもよい。
【0064】
また、図9は接触力算出部37の構成を説明するブロック図である。接触力算出部37は、図9に示すように、処理部38、検出部39、及び計算部40を備えている。
【0065】
処理部38は、実施例1のステップS1において、ラインセンサカメラ15~18、及びラインセンサカメラ33,34から映像を受け取る。
【0066】
検出部39は、実施例1のステップS2において、処理部38から入力された画像に基づき、(舟体5,6の枕木方向両端部の位置にある)上下一対のマーカー位置の検出を行うとともに、枕木方向中央位置Cのマーカー31,32の位置の検出も行う。なお、マーカー31,32の位置の検出も、実施例1で説明したステップS2と同様に行う。
【0067】
計算部40は、実施例1のステップS3において、慣性力Fineを、ラインセンサカメラ33,34によって撮影した枕木方向中央位置Cのマーカー31,32の位置に基づき計算した値の合力として求め(計算式(4)のxuがマーカー31,32の位置となる)たうえで、計算式(1)~(5)に基づきFcを求める。
【0068】
すなわち、通常は舟体5,6が全体的に(鉛直方向上下に)振動するところ、1次の振動モードが発生すると、主に枕木方向中央部分が(鉛直方向上下に)振動することになる。本実施例の接触力算出部37によれば、慣性力を枕木方向中央位置のマーカーに基づき求めることで、1次の振動モードが発生した場合でも、接触力の測定を可能とするものである。
【0069】
このようにして、本実施例に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置は、実施例1に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置に加え、さらに、パンタグラフに1次の振動モードが発生する場合にも測定可能となる。
【0070】
[実施例3]
本実施例は、実施例1に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置のうち、ラインセンサカメラをエリアセンサカメラに変更したものである。以下、実施例1と重複する部分は極力省略し、実施例1との相違点を中心に説明する。
【0071】
本実施例に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置の構成について、図10を用いて説明する。図10は、本実施例に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置を説明する概略図である(図中の破線枠P内は、なびき側から見たパンタグラフ近傍の図である)。
【0072】
図10に示すように、本実施例に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置は、実施例1に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置の構成のうち、4台のラインセンサカメラ19~22に代えて、2台のエリアセンサカメラ41,42を設けている。
【0073】
エリアセンサカメラ41は、マーカー11A,11B,12A,12Bを撮影範囲に収めるように、車両の屋根上3aの舟体5のなびき側に(上向きに傾けて)固定されている。エリアセンサカメラ42は、マーカー13A,13B,14A,14Bを撮影範囲に収めるように、車両の屋根上3aの舟体6の反なびき側に(上向きに傾けて)固定されている。これにより、エリアセンサカメラ41,42は、パンタグラフ2の全可動域に配された全マーカーを撮影できるようになる。
【0074】
図11は、接触力算出部43の構成を説明するブロック図である。接触力算出部43は、図11に示すように、処理部44、検出部25、及び計算部26を備えている。
【0075】
図12は、エリアセンサカメラによる撮影の一例を示す概略図である。図12ではエリアセンサカメラ42のみを示しているが、エリアセンサカメラ41も舟体5に対して同様である。
【0076】
処理部44は、エリアセンサカメラ41,42で撮影した画像から各マーカーの位置に対応したラインのみを抽出する(すなわち、各マーカーの位置を鉛直方向の1ライン上において検出する)。
【0077】
そして、それを時系列に並べることで、内部バネの位置毎にマーカー画像を作成する。これにより、実施例1におけるラインセンサカメラ15~18で撮影した画像(図4参照)と同等の画像を得ることができる。
【0078】
したがって、検出部25及び計算部26においては、実施例1と同様の動作を行うことで、架線1とパンタグラフ2との接触力を求めることができる。
【0079】
本実施例に係る非接触式パンタグラフ接触力測定装置は、上述の構成とすることで、エリアセンサカメラを用いた場合であっても、実施例1と同様の作用効果を奏することができる。なお、当然のことながら、本実施例は実施例2にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、画像処理を用いてパンタグラフの接触力を測定する非接触式パンタグラフ接触力測定装置として好適である。
【符号の説明】
【0081】
1 架線
2 パンタグラフ
3 車両
3a (車両の)屋根上
4 枠組
5,6 舟体
7~10 支持部
7a~10a 内部バネ
11A~14A,11B~14B マーカー(第1マーカー)
11AA テンプレート画像
15~18,33,34 ラインセンサカメラ
19~22 照明
23,37,43 接触力算出部
24,38,44 処理部
25,39 検出部
26,40 計算部
31,32 マーカー(第2マーカー)
35,36 照明
41,42 エリアセンサカメラ
A (支持部における)側面
B (舟体の側面における)位置
C (舟体の側面における)枕木方向中央位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図12