(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-12
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】改質SiCウエハの製造方法及びエピタキシャル層付きSiCウエハの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/205 20060101AFI20220118BHJP
H01L 21/324 20060101ALI20220118BHJP
C30B 29/36 20060101ALI20220118BHJP
C30B 25/20 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
H01L21/205
H01L21/324 X
C30B29/36 A
C30B25/20
(21)【出願番号】P 2019507719
(86)(22)【出願日】2018-03-20
(86)【国際出願番号】 JP2018011221
(87)【国際公開番号】W WO2018174105
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2021-01-15
(31)【優先権主張番号】P 2017055240
(32)【優先日】2017-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017210585
(32)【優先日】2017-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222842
【氏名又は名称】東洋炭素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】鳥見 聡
(72)【発明者】
【氏名】須藤 悠介
(72)【発明者】
【氏名】篠原 正人
(72)【発明者】
【氏名】寺元 陽次
(72)【発明者】
【氏名】坂口 卓也
(72)【発明者】
【氏名】野上 暁
(72)【発明者】
【氏名】北畠 真
【審査官】長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/018533(WO,A1)
【文献】特開2013-107788(JP,A)
【文献】特開2008-311541(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0129897(US,A1)
【文献】特開2015-002218(JP,A)
【文献】特開2015-196616(JP,A)
【文献】特開2008-016691(JP,A)
【文献】特開2010-265126(JP,A)
【文献】特開2009-218575(JP,A)
【文献】特開2006-028016(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205
H01L 21/324
C30B 29/36
C30B 25/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エピタキシャル層を形成する前の処理前SiCウエハを処理して表面が改質された改質SiCウエハを製造する方法において、
表面改質工程を行い、
前記処理前SiCウエハの少なくとも表面には(0001)面内に平行な転位である基底面転位が含まれており、
前記表面改質工程では、前記処理前SiCウエハの表面の前記基底面転位が、エピタキシャル層の形成時に貫通刃状転位として伝播する割合が、
前記表面改質工程の前と比較して前記表面改質工程の後において高くなるように前記処理前SiCウエハの表面の性質を変化させ
、
前記表面改質工程では、前記処理前SiCウエハの表面に、分子層ステップの垂直に立ち上がる面が{1-100}面である{1-100}系分子層ステップを形成することを特徴とする改質SiCウエハの製造方法。
【請求項2】
エピタキシャル層を形成する前の処理前SiCウエハを処理して表面が改質された改質SiCウエハを製造する方法において、
表面改質工程を行い、
前記処理前SiCウエハの少なくとも表面には(0001)面内に平行な転位である基底面転位が含まれており、
前記表面改質工程では、前記処理前SiCウエハの表面に
、分子層ステップの垂直に立ち上がる面が{1-100}面である{1-100}系分子層ステップを形成することで表面を改質し、
前記表面改質工程では、前記処理前SiCウエハの表面に生じている前記基底面転位を貫通刃状転位に変換することを特徴とする改質SiCウエハの製造方法。
【請求項3】
請求項
2に記載の改質SiCウエハの製造方法であって、
前記表面改質工程において、前記処理前SiCウエハに対して、平坦化も同時に行われることを特徴とする改質SiCウエハの製造方法。
【請求項4】
請求項
2に記載の改質SiCウエハの製造方法であって、
前記表面改質工程が行われることで、前記エピタキシャル層の形成後の表面の算術平均粗さ(Ra)が1nm以下となることを特徴とする改質SiCウエハの製造方法。
【請求項5】
請求項
4に記載の改質SiCウエハの製造方法であって、
前記表面改質工程では、前記処理前SiCウエハをSi蒸気圧下で加熱することを特徴とする改質SiCウエハの製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の改質SiCウエハの製造方法を用いて製造された改質SiCウエハに対して、前記エピタキシャル層を形成するエピタキシャル層形成工程を行うことを特徴とするエピタキシャル層付きSiCウエハの製造方法。
【請求項7】
請求項
6に記載のエピタキシャル層付きSiCウエハの製造方法であって、
前記処理前SiCウエハに前記表面改質工程を行って
前記{1-100}系分子層ステップを形成すること、及び、前記改質SiCウエハに前記エピタキシャル層形成工程を行って、当該形成の初期段階において前記基底面転位のサイズを小さくすることで実現される、前記基底面転位から貫通刃状転位への変換率(%)が、
前記処理前SiCウエハに化学機械研磨を行った後に前記エピタキシャル層を形成した場合の変換率(%)よりも5%以上高いことを特徴とするエピタキシャル層付きSiCウエハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、BPD密度が低いSiCウエハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、SiCウエハを用いて作製される半導体デバイスの性能に影響する値としてBPD密度が知られている。BPDとは、basal plane dislocationの略称であり、SiCの(0001)面内に平行な転位である基底面転位である。BPD密度が高い場合、半導体デバイスの通電が劣化し易くなる。特許文献1は、このBPD密度を低減するための方法を開示する。
【0003】
特許文献1では、エピタキシャル層を成長させる前のSiC基板を不活性ガス雰囲気において加熱することで、SiC基板の内部のBPDの先端部をTED(threading edge dislocation、貫通刃状転位)に変化させる方法が開示されている。同様に、SiC基板に形成したエピタキシャル層についても同様に不活性ガス雰囲気で加熱することで、BPDの先端部をTEDに変化させる方法が開示されている。このSiC基板にエピタキシャル成長を行った場合において、先端部がTEDであるため、BPDではなくTEDがエピタキシャル層に伝播することとなる。また、TEDは半導体デバイスの性能の劣化に影響しない。従って、この方法を用いることにより、SiC基板のBPD密度を低下させることができる。
【0004】
非特許文献1は、特許文献1と同様にSiC基板をアルゴン(不活性ガス)雰囲気において加熱することで、SiC基板の内部のBPDをTEDに変換することにより、BPD密度、及びエピタキシャル成長後のBPD密度を低下させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】「Mitigation of BPD by Pre-Epigrowth High Temperature Substrate Annealing」、N.A.Mahadik, et. al.、 Materials Science Forum、 2016、 Vol. 858、 pp 233-236
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、特許文献1及び非特許文献1では、SiCウエハ(SiC基板)又はエピタキシャル層の内部でBPDをTEDに変換することによりBPDを低減させることが記載されている。しかし、この方法では、SiCウエハ又はエピタキシャル層の内部に熱を伝える必要があるため、処理時間が長くなる傾向にある。
【0008】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、エピタキシャル層を形成した際に、BPD密度が低いエピタキシャル層が形成される構成のSiCウエハを短時間で作製するための製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0010】
本発明の第1の観点によれば、エピタキシャル層を形成する前の処理前SiCウエハを処理して表面が改質された改質SiCウエハを製造する改質SiCウエハの製造方法において、以下の表面改質工程を含む方法が提供される。前記処理前SiCウエハの少なくとも表面には(0001)面内に平行な転位である基底面転位が含まれている。前記表面改質工程では、前記処理前SiCウエハの表面の前記基底面転位が、エピタキシャル層の形成時に貫通刃状転位として伝播する割合が、前記表面改質工程の前と比較して前記表面改質工程の後において高くなるように前記処理前SiCウエハの表面の性質を変化させる。前記表面改質工程では、前記処理前SiCウエハの表面に、分子層ステップの垂直に立ち上がる面が{1-100}面である{1-100}系分子層ステップを形成する。
【0011】
これにより、処理前SiCウエハの内部ではなく表面の性質を変化させて改質SiCウエハとし、この改質SiCウエハにエピタキシャル層を成長させることで、半導体デバイスの性質を劣化させるBPDが、半導体デバイスの性能に影響しないTEDに変化し易くなる。従って、高性能な半導体デバイスの製造に適した改質SiCウエハを作製することができる。特に、処理前SiCウエハの内部ではなく表面の性質を変化させることで、短い処理時間でBPDを低減できる。また、前記表面改質工程にて前記処理前SiCウエハの表面に{1-100}系分子層ステップを形成することにより、BPDの低減が促進される可能性がある。
【0014】
本発明の第2の観点によれば、エピタキシャル層を形成する前の処理前SiCウエハを処理して表面が改質された改質SiCウエハを製造する改質SiCウエハの製造方法において、以下の表面改質工程を含む方法が提供される。前記処理前SiCウエハの少なくとも表面には(0001)面内に平行な転位である基底面転位が含まれている。前記表面改質工程では、前記処理前SiCウエハの表面に、分子層ステップの垂直に立ち上がる面が{1-100}面である{1-100}系分子層ステップを形成することで表面を改質する。前記表面改質工程では、前記処理前SiCウエハの表面に生じている前記基底面転位を貫通刃状転位に変換する。
【0015】
前記の改質SiCウエハの製造方法においては、前記表面改質工程において、前記処理前SiCウエハに対して、平坦化も同時に行われることが好ましい。
【0016】
これにより、平坦化処理と表面改質処理とが同時に行われることとなるので、製造工程を短縮することができる。
【0017】
前記の改質SiCウエハの製造方法においては、前記表面改質工程が行われることで、前記エピタキシャル層の形成後の表面の算術平均粗さ(Ra)が1nm以下となることが好ましい。
【0018】
これにより、表面粗さを良好にしつつBPD密度が低いSiCウエハを作製できるので、より高性能な半導体デバイスを製造できる。
【0019】
前記の改質SiCウエハの製造方法においては、前記表面改質工程では、前記処理前SiCウエハをSi蒸気圧下で加熱することが好ましい。
【0020】
これにより、改質SiCウエハの表面を結晶欠陥が少なく分子的に安定な状態にできるので、エピタキシャル層を形成する方法に殆ど関係なく、表面が平坦なエピタキシャル層を形成できる。
【0021】
本発明の第2の観点によれば、前記改質SiCウエハの製造方法を用いて製造された改質SiCウエハに対して、前記エピタキシャル層を形成するエピタキシャル層形成工程を行うエピタキシャル層付きSiCウエハの製造方法が提供される。
【0022】
また、前記のエピタキシャル層付きSiCウエハの製造方法においては、前記処理前SiCウエハに前記表面改質工程を行って{1-100}系分子層ステップを形成すること、及び、前記改質SiCウエハに前記エピタキシャル層形成工程を行って、当該形成の初期段階において前記基底面転位のサイズを小さくすることで実現される、前記基底面転位から貫通刃状転位への変換率(%)が、前記処理前SiCウエハに化学機械研磨を行った後に前記エピタキシャル層を形成した場合の変換率(%)よりも5%以上高いことが好ましい。また、同様の特徴を有するエピタキシャル層付きSiCウエハが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の表面改質工程等で用いる高温真空炉の概要を説明する図。
【
図2】従来例のエピタキシャル層付きSiCウエハの製造工程を模式的に示す図。
【
図3】本実施形態のエピタキシャル層付きSiCウエハの製造工程を模式的に示す図。
【
図5】SiCウエハにエピタキシャル層を形成したときに転位が維持又は変化する様子を示す図。
【
図6】Si蒸気圧下での加熱後の改質SiCウエハに形成されるステップ構造を模式的に示す図。
【
図7】CMP後のSiCウエハの表面に生じているBPDが、Si蒸気圧下での加熱後の改質SiCウエハで分解されていることを示すSEM像。
【
図8】PL法を用いてBPDを評価した実験の結果を示す図。
【
図9】エッチピット法を用いてBPDを評価した実験の結果を示す図。
【
図10】Si蒸気圧下での加熱後の改質SiCウエハに形成したエピタキシャル層について、白色干渉顕微鏡で表面粗さを計測した結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。初めに、
図1を参照して、本実施形態の加熱処理で用いる高温真空炉10について説明する。
【0033】
図1に示すように、高温真空炉10は、本加熱室21と、予備加熱室22と、を備えている。本加熱室21は、少なくとも表面が単結晶4H-SiC等で構成される単結晶SiC基板(処理前SiCウエハ40)を1000℃以上2300℃以下の温度に加熱することができる。予備加熱室22は、処理前SiCウエハ40を本加熱室21で加熱する前に予備加熱を行うための空間である。
【0034】
本加熱室21には、真空形成用バルブ23と、不活性ガス注入用バルブ24と、真空計25と、が接続されている。真空形成用バルブ23は、本加熱室21の真空度を調整することができる。不活性ガス注入用バルブ24は、本加熱室21内の不活性ガス(例えばArガス等の希ガス蒸気、即ち、固体のSiCに対して反応性が乏しいガスであって窒素ガスを除く)の圧力を調整することができる。真空計25は、本加熱室21内の真空度を測定することができる。
【0035】
本加熱室21の内部には、ヒータ26が備えられている。また、本加熱室21の側壁及び天井には図略の熱反射金属板が固定されており、この熱反射金属板は、ヒータ26の熱を本加熱室21の中央部に向けて反射させるように構成されている。これにより、処理前SiCウエハ40を強力かつ均等に加熱し、1000℃以上2300℃以下の温度まで昇温させることができる。なお、ヒータ26としては、例えば、抵抗加熱式のヒータ又は高周波誘導加熱式のヒータを用いることができる。
【0036】
高温真空炉10は、坩堝(収容容器)30に収容された処理前SiCウエハ40に対して加熱を行う。坩堝30は、適宜の支持台等に載せられており、この支持台が動くことで、少なくとも予備加熱室から本加熱室まで移動可能に構成されている。坩堝30は、互いに嵌合可能な上容器31と下容器32とを備えている。坩堝30の下容器32は、処理前SiCウエハ40の主面及び裏面の両方を露出させるように、当該処理前SiCウエハ40を支持可能である。処理前SiCウエハ40の主面はSi面であり、結晶面で表現すると(0001)面である。処理前SiCウエハ40の裏面はC面であり、結晶面で表現すると(000-1)面である。また、処理前SiCウエハ40は上記のSi面、C面に対してオフ角を有していても良い。ここで、主面とは、処理前SiCウエハ40の面のうち面積が最も大きい2面(
図1の上面及び下面)のうちの一方であり、後工程でエピタキシャル層が形成される面のことである。裏面とは、主面の裏側の面である。
【0037】
坩堝30は、処理前SiCウエハ40が収容される内部空間の壁面(上面、側面、底面)を構成する部分において、外部側から内部空間側の順に、タンタル層(Ta)、タンタルカーバイド層(TaC及びTa2C)、及びタンタルシリサイド層(TaSi2又はTa5Si3等)から構成されている。
【0038】
このタンタルシリサイド層は、加熱を行うことで、坩堝30の内部空間にSiを供給する。また、坩堝30にはタンタル層及びタンタルカーバイド層が含まれるため、周囲のC蒸気を取り込むことができる。これにより、加熱時に内部空間内を高純度のSi雰囲気とすることができる。なお、タンタルシリサイド層を設けることに代えて、固体のSi等のSi源を内部空間に配置しても良い。この場合、加熱時に固体のSiが昇華することで、内部空間内を高純度のSi蒸気圧下とすることができる。
【0039】
処理前SiCウエハ40を加熱する際には、初めに、
図1の鎖線で示すように坩堝30を高温真空炉10の予備加熱室22に配置して、適宜の温度(例えば約800℃)で予備加熱する。次に、予め設定温度(例えば、約1800℃)まで昇温させておいた本加熱室21へ坩堝30を移動させる。その後、圧力等を調整しつつ処理前SiCウエハ40を加熱する。なお、予備加熱を省略しても良い。
【0040】
次に、インゴット4から、エピタキシャル層付きSiCウエハ43を製造する工程について説明する。初めに、本実施形態の製造工程について、従来の製造工程と比較しながら説明する。
図2は、従来のエピタキシャル層付きSiCウエハ43の製造工程を模式的に示す図である。
図3は、本実施形態のエピタキシャル層付きSiCウエハ43の製造工程を模式的に示す図である。
【0041】
インゴット4は、公知の昇華法又は溶液成長法等によって作製される単結晶SiCの塊である。
図2及び
図3に示すように、初めにダイヤモンドワイヤ等の切断手段によってSiCのインゴット4を所定の間隔で切断することで、インゴット4から複数の処理前SiCウエハ40を作製する(ウエハ作製工程)。なお、処理前SiCウエハ40を別の方法で作製しても良い。例えば、インゴット4にレーザー照射等でダメージ層を設けた後に、ウエハ形状にして取り出すことができる。また、インゴット等から得られた単結晶SiC基板と多結晶SiC基板とを貼り合わせた後に、必要に応じて剥離等の処理を行うことで、少なくとも表面が単結晶SiCのSiCウエハを作製できる。
【0042】
本実施形態では、後述の表面改質工程が行われる前のSiCウエハを処理前SiCウエハ40と称する。処理前SiCウエハ40の主面及び裏面には、ウエハ作製工程時に形成された大きな表面荒れが存在している。なお、表面改質工程が行われた後のSiCウエハを改質SiCウエハ41と称する。また、処理前SiCウエハ40と改質SiCウエハ41を総称してSiCウエハと称する。
【0043】
次に、処理前SiCウエハ40に対して、機械加工工程を行う。機械加工工程では、例えば、研削、機械研磨等が行われる。研削とは、処理前SiCウエハ40の主面又は裏面を、ダイヤモンドホイール等により機械的に削ることであり、処理前SiCウエハ40を目標の厚みにするために行う処理である。この研削を行った場合であっても、依然として処理前SiCウエハ40の表面は大きく荒れたままである。従って、研削よりも細かい砥粒を用いる機械加工である機械研磨(化学機械研磨を除く、以下同じ)を行って、処理前SiCウエハ40の表面を平坦化する。
【0044】
ここまでの工程は、従来例と本実施形態とで同じである(詳細は後述するが、本実施形態では、機械加工工程の一部を省略可能である)。機械研磨が行われた後であっても処理前SiCウエハ40の表面はある程度荒れている。従って、従来例では、化学機械研磨(CMP)を行って、処理前SiCウエハ40の表面を更に平坦にする。化学機械研磨とは、砥粒による機械的な研磨と、研磨液に含まれる成分による化学的な作用と、により表面を平坦化する処理である。
【0045】
一般的には、化学機械研磨工程後に表面改質工程を行わずにエピタキシャル層形成工程を行うこともあるが、特許文献1等に示すように、BPD低減工程を行う方法も知られている。BPD低減工程とは、処理前SiCウエハ40に処理を行って、BPDを低減する工程である。また、本実施形態では、特に処理前SiCウエハ40の表面に処理を行うため、本実施形態のBPD低減工程を特に表面改質工程と称する。これらの工程を行うことで、その後に形成するエピタキシャル層42のBPD密度(単位面積あたりのBPDの数)が低くなる。
【0046】
ここで、BPD及びTEDについて
図4及び
図5を参照して説明する。
図4は、TED及びBPDの転位の方向を示す図である。
図5は、SiCウエハにエピタキシャル層を形成したときに転位が維持又は変化する様子を示す図である。
【0047】
BPDは、
図4に示すように、SiCの(0001)面内に平行な転位である。この(0001)面が基底面に相当する。BPD密度が高い場合、半導体デバイスの通電性能が劣化し易くなる。TEDは、
図4に示すように、SiCの<0001>方向に平行な転位の1種である。従って、TEDは基底面を垂直に貫通するように形成されている。TEDは、半導体デバイスの性能に影響がないとされている。
【0048】
処理前SiCウエハ40は、インゴット4を基底面に対して所定角度(オフ角度)だけ傾斜させて切断することで、作製される。所定角度は、例えば<11-20>方向又は<1-100>方向に対して0.1°以上であって、4°以下又は8°以下であることが好ましい。従って、
図5に示すように、SiCウエハの表面(主面)は基底面に対して傾斜している。
【0049】
また、SiCウエハにエピタキシャル層を形成することで、転位がそのまま伝播したり、別の転位に変化して伝播する。具体的には、
図5に示すように、TEDがTEDのまま伝播したり、BPDがTEDに変化して伝播したり、BPDがBPDのまま伝播するケースが存在する。BPDがTEDに変化することで、半導体デバイスの性能を低下させるBPDを減らすことができる。本実施形態の表面改質工程を行うことにより、その後のエピタキシャル層の形成時において、表面改質工程前にBPDであった部分がエピタキシャル層形成時にTEDとして伝播する確率を上げることができる。具体的には、表面改質工程の終了時の改質SiCウエハ41の表面において、BPDがTEDに変換されているか、BPDがTEDに変換され易いように性質が変化しているか、又はその両方が生じていると考えられる。また、本実施形態の表面改質工程を行うことで、BPDが伝播しにくくなるケースが生じることがある。具体的には、表面改質工程の終了時の改質SiCウエハ41の表面において、BPDがエピタキシャル層42に伝播しにくくなるように、改質SiCウエハ41の表面の性質が変化していると考えられる。
【0050】
従来例では、この表面改質工程として、不活性ガス下での加熱を行う。これにより、SiCウエハの表面のBPD(先端側のBPD)がTEDに変化する。その結果、エピタキシャル層42にはTEDが伝播することとなるため、エピタキシャル層42のBPD密度が低下する。しかし、特許文献1では、不活性ガス(又は真空中)で加熱を行うと記載されており、SiCウエハの周囲をSi蒸気圧下にすることは記載されていない。そのため、加熱を行うことで、SiCウエハからSi蒸気が昇華したりその他の反応が生じたりすることで、従来の改質SiCウエハ41には、表面荒れが発生し平坦度が低下することとなる。
【0051】
この改質SiCウエハ41の表面荒れは、その上に形成されるエピタキシャル層42にも伝播する。このように、従来例で得られるエピタキシャル層42は表面荒れが発生しており平坦度が低いため、この従来例のエピタキシャル層42を用いて製造した半導体デバイスは、電界の局所集中等によって半導体素子としての性能が低下する可能性がある。
【0052】
これに対し、本実施形態の表面改質工程はSi蒸気圧下での加熱処理である。具体的には、オフ角を有する処理前SiCウエハ40を坩堝30に収容し、Si蒸気圧下で1500℃以上2200℃以下、望ましくは1600℃以上2000℃以下の温度範囲で高温真空炉10を用いて加熱を行う。なお、この加熱時において、Si蒸気以外にも不活性ガスを供給しても良い。不活性ガスを供給することで処理前SiCウエハ40のエッチング速度を低下させることができる。なお、Si蒸気及び不活性ガス以外には、他の蒸気の発生源は使用されない。この条件で処理前SiCウエハ40が加熱されることで、表面が平坦化されつつエッチングされる。具体的には、以下に示す反応が行われる。簡単に説明すると、処理前SiCウエハ40がSi蒸気圧下で加熱されることで、処理前SiCウエハ40のSiCが熱分解ならびにSiとの化学反応によってSi2C又はSiC2等になって昇華するとともに、Si雰囲気下のSiが処理前SiCウエハ40の表面でCと結合して自己組織化が起こり平坦化される。
(1) SiC(s) → Si(v)I + C(s)I
(2) 2SiC(s) → Si(v)II + SiC2(v)
(3) SiC(s) + Si(v)I+II → Si2C(v)
【0053】
このようにして処理前SiCウエハ40が平坦化されることで、
図7に示すような{1-100}系分子層ステップが形成される。本実施形態で製造される改質SiCウエハ41は、{1-100}系分子層ステップが形成されたSiCウエハである。また、この{1-100}系分子層ステップは、同じ高さのステップで終端した表面を有している。ここで、SiC単結晶は、
図6に示すように、積層方向(Si-Cからなる分子層が積み重なる方向)が半周期毎に<1-100>方向又はその反対方向へと折り返す構成である。4H-SiCの場合、Si原子及びC原子の積層方向における距離をLとすると、Si原子及びC原子の積層配向は2L毎に(ハーフユニット毎に)反転する。本実施形態の表面改質工程を行うことで、4H-SiCの場合、各ステップの高さは、ハーフユニット(2分子層)又はフルユニット(4分子層)で終端する。
図6には、4H-SiCの場合であって、各ステップの高さがハーフユニットで終端している改質SiCウエハ41の模式図が示されている。なお、6H-SiCの場合、Si原子及びC原子の積層配向は3L毎に(ハーフユニット毎に)反転する。
【0054】
従って、本実施形態の表面改質工程を行うことで、改質SiCウエハ41の表面は分子レベルで平坦となる。そのため、本実施形態では、化学機械研磨工程が不要となる。
図7は、機械研磨(ダイヤモンド研磨)後にCMPを行ったSiCウエハと、機械研磨後にSi蒸気圧下での加熱を行った改質SiCウエハ41と、について、エピタキシャル成長の初期段階を確認するために主面に微量(500nm)のエピタキシャル層を形成した後にBPDに起因する形状を走査型電子顕微鏡で確認した結果を示している。CMP後の微量のエピタキシャル層付きSiCウエハの表面(主面)に生じていたBPDに起因する形状と比較して、Si蒸気圧下での加熱後の微量のエピタキシャル層付きSiCウエハの表面に生じているBPDに起因する形状は、サイズが大幅に(例えば、1/2以下、1/3以下)小さくなっている事が分かる。また、CMP後のSiCウエハでは、細長い形状のBPDに起因する形状が確認されたが、本実施形態の改質SiCウエハ41では主として略円形のBPDに起因する形状が確認された。BPDに起因する形状とは、SiCウエハのうちBPDが現れていた部分にエピタキシャル層を形成することで形成されるモホロジーである。そのため、BPDからTEDへの変換が発生している場合は、この種のモホロジーが小さくなる。以上により、本実施形態の改質SiCウエハ41ではBPDからTEDへの変換が発生していると推測できる。
【0055】
このように、本実施形態の改質SiCウエハ表面ではBPDの先端部に{1-100}系分子層ステップが形成されることにより、「BPD→TED」が生じる。また、エピタキシャル層成長の初期段階(エピタキシャル層の厚みが1μm以下)においても、改質SiCウエハ表面から伝播するBPDの先端が小さくなるので、「BPD→TED」が生じ易くなり、「BPD→BPD」は生じない。つまり、表面改質工程を行わなかった場合は「BPD→BPD」となっていた部分について「BPD→TED」を生じさせることができる。言い換えれば、「BPD→TED」と変化する割合が高くなるように処理前SiCウエハ40の表面の性質を変化させて、改質SiCウエハ41を生成することができる。
【0056】
また、本実施形態の表面改質工程では、微量のエピタキシャル層を形成した時点でBPDのサイズが小さくなっていることから、主としてエピタキシャル層42の形成開始直後においてBPDがTEDに変化していると考えられるため、改質SiCウエハ41とエピタキシャル層42の界面近傍でBPDからTEDへの変換が生じていることが分かる。
【0057】
次に、改質SiCウエハ41に対して、エピタキシャル層形成工程を行う。エピタキシャル層42の形成方法は任意であり、例えば、MSE法等の溶液成長法又はCVD法等の気相成長方法を用いることができる。上述のように、改質SiCウエハ41は、処理前SiCウエハ40と比較して、「BPD→TED」が発生し易いため、本実施形態で形成されるエピタキシャル層42もBPD密度が低くなる。また、特許文献1では、エピタキシャル層上に更にエピタキシャル層を形成する処理を行う方法が開示されているが、本実施形態では、1層のみのエピタキシャル層42を形成する。ここで、1層のエピタキシャル層とは、分子層が1層という意味ではなく、1回のエピタキシャル層形成処理(中断することなく連続したエピタキシャル層形成処理)により形成されるエピタキシャル層を意味する。
【0058】
次に、本実施形態の表面改質工程(Si蒸気圧下での加熱)を行うことで、どの程度BPDが低減するかを確かめた実験について説明する。BPD密度はSiCウエハ毎に異なるため、この実験では、同じSiCウエハに対して異なる処理を行ってBPDを評価した。具体的には、以下の実験1から実験3を行った。実験1では、SiCウエハに対してSi蒸気圧下での加熱を行った後に、エピタキシャル層を形成し、PL法(フォトルミネッセンス法)及びエッチピット法のそれぞれによりBPDの評価を行った。実験2では、実験1で用いたSiCウエハを研磨することでエピタキシャル層を除去し、その後にCMPを行った後に、エピタキシャル層を形成し、PL法及びエッチピット法のそれぞれによりBPDの評価を行った。実験3では、実験2で用いたSiCウエハを再び研磨することでエピタキシャル層を除去し、その後にCMPを行った後に、エピタキシャル層を形成することなくエッチピット法によりBPDの評価を行った。
【0059】
これらの実験で用いたSiCウエハはオフ角を持つ2インチのウエハである。また、エピタキシャル層は、モノシラン(SiH4)ガスとプロパン(C3H8)ガスを用いた化学蒸着法(CVD法)を1500~1600℃の範囲で行うことで形成した。また、エピタキシャル層の厚みは約9μmである。また、PL法で用いたレーザーは、レーザーテック株式会社製のSICA88であり、励起波長は313nm、検出波長は750nm以上である。また、エッチピット法では、まず、溶融アルカリを用いた欠陥検出エッチングを行って欠陥(BPD、TED、TSD等)を可視化した後に、光学顕微鏡を用いてSiCウエハを観察して各種欠陥の数量を数えた。なお、TSD(螺旋転位)は、threading screw dislocationのことである。また、溶融アルカリとしては、水酸化カリウム(KOH)と過酸化ナトリウム(Na2O2)を50対3の比率で混合した液体を用いた。また、欠陥検出エッチングの処理温度は510℃である。
【0060】
図8には、上記のPL法によりBPDを評価した結果が示されている。
図8(a)には、実験1と実験2のPL法で得られたBPDの分布と、BPD密度と、が示されている。
図8(b)には、PL法で観測されたBPD(BPDが存在する部分からの発光)が示されている。なお、SiCウエハの端部(
図8(a)に示すリング状の部分)には切断及び研削等に伴うダメージが存在する。従って、SiCウエハの端部から3mmを除いてBPDを評価している。Si蒸気圧下での加熱後にエピタキシャル層を形成したSiCウエハ(実験1)ではBPD密度が5.63(cm
-2)であり、CMP後にエピタキシャル層を形成したSiCウエハ(実験2)ではBPD密度が17.86(cm
-2)であった。
【0061】
図9には、上記のエッチピット法によりBPDを評価した結果が示されている。
図9(a)には実験結果を示す表が記載されている。
図9(b)には、光学顕微鏡で観察された欠陥が示されている。TED及びTSDは基底面に垂直な転位であるため、SiCウエハの厚み方向に略平行な略円形のピットが形成されている。なお、TEDはTSDと比較して径が小さい。一方、BPDは基底面に平行な転位であるため、オフ角を持つSiCウエハの場合には厚み方向に対して傾斜したピットが形成されるため、このピットは形状が若干潰れている。このように、エッチピット法によりTED、TSD、及びBPDを区別することができる。
【0062】
また、
図9(a)には、実験1から実験3で観測されたBPDの数及びBPD密度が記載されている。ここで、実験3では、実験1及び実験2等で形成されたエピタキシャル層が研磨により除去されているため、実験1又は2で用いたSiCウエハのエピタキシャル層の形成前のBPDの数及びBPD密度が示されている。また、BPDは、BPDのままエピタキシャル層を伝播するか、TEDに変換されて伝播するかの何れかである。以上により、「実験1で観測されたBPD密度(又は数)」を「実験3で観測されたBPD密度(又は数)」で除してパーセント表示に変換することにより、残存したBPDの割合(%)を計算できる。また、この残存したBPDの割合を100から減ずることでTEDに変換されたBPDの割合(即ち変換率)を計算できる。以上の処理で求められた実験1の変換率と実験2の変換率が
図9(a)に記載されている。また、エッチピット法においても、PL法と同様の理由でSiCウエハの端部から2mmを除いてBPDを評価している。
【0063】
エッチピット法によって評価された、実験1でのBPD密度は5.92(cm-2)であり、実験2でのBPD密度が20.41(cm-2)であった。この値はPL法で評価された値と近似するため、検出結果が妥当であることが確かめられた。また、両者の値を比較すると、実験1(本実施形態)では、実験2(従来例)と比較して、BPD密度が1/2以下(詳細には1/3以下)である。
【0064】
また、実験1での変換率は97.7%であり、実験2での変換率は91.9%であった。即ち、実験1でのBPDの残存率は2.3%であり、実験2でのBPDの残存率は7.1%であった。従って、実験1(本実施形態)では、実験2(従来例)とは異なり、BPDの残存率が5%以下となっている。以上により、本実施形態の表面改質工程を行うことで、SiCウエハの表面のBPDがエピタキシャル層の形成時にTEDに変化し易くなることが確かめられた。
【0065】
また、実験1での変換率(97.7%)から実験2での変換率(91.9%)を減算すると、5.8%となる。これは、Si蒸気圧エッチングでの加熱を行うことで、CMPを行う場合と比較して、全体の5.8%のBPDが更にTEDに変換されている(変換率が5.8%向上している)ことを示している。つまり、上述した、(1)BPDの先端部に{1-100}系分子層ステップが形成されることによる「BPD→TED」の変換、及び、(2)エピタキシャル層成長の初期段階においてBPDの先端が小さくなることに起因する「BPD→TED」の変換の促進が起こること、の2つにより、変換率が5%以上(詳細には5.8%)向上している。なお、CMPを行う場合の変換率は条件によって異なるが90%前後であることを考慮すると、変換率を向上させる余地(変換率の向上の上限)は最大で10%である。
【0066】
また、上述のように改質SiCウエハ41の表面は非常に平坦度が高いため、本実施形態で形成されるエピタキシャル層42も非常に平坦度が高くなる。具体的に説明すると、上記の条件2で得られたエピタキシャル層42の表面について、白色干渉顕微鏡を用いて943μm×708μmの矩形の測定領域の表面粗さを計測した結果、
図10に示すように表面粗さ(算術平均粗さ)がRa=0.32nmであった。このように、本実施形態の改質SiCウエハ41にエピタキシャル層42を形成することで、表面粗さが1nm以下、条件によっては更に低い0.5nm以下のエピタキシャル層42が形成できる。なお、非特許文献1で示す方法では、単位は異なるが表面粗さがRms=1.5nmであることが記載されている。これは、エピタキシャル層を形成する前の加熱処理によりSiCウエハの表面粗さが悪化し、その影響でエピタキシャル層の表面粗さが悪化するためである。
【0067】
このように、本実施形態の方法を行うことにより、BPD密度が低く、更に、平坦度が高いエピタキシャル層42を有するエピタキシャル層付きSiCウエハ43を生成することができる。このエピタキシャル層付きSiCウエハ43を用いることで、PINダイオードやIGBTなどのバイポーラ形半導体素子において通電劣化が生じにくく、電界集中等も起きにくい高性能の半導体デバイスが製造できる。このような半導体デバイスは、例えば高耐電圧(数kV~数十kV)が要求されるスイッチング素子等の用途に特に適している。
【0068】
なお、本実施形態の表面改質工程では、処理前SiCウエハ40が平坦されるとともに、表面がエッチングされる。この工程では、加熱速度が高くなるほど、不活性ガスの圧力が低くなるほど、Siの圧力が高くなるほどエッチング速度が高くなる。従って、上記を考慮して高速のエッチングを行うことで、機械加工工程の少なくとも一部を省略することができる。
【0069】
以上に説明したように、本実施形態の改質SiCウエハ41の製造方法(SiCウエハの表面処理方法)では、エピタキシャル層42を形成する前の処理前SiCウエハ40を処理して表面が改質された改質SiCウエハ41を製造する方法において、以下の表面改質工程を行う。即ち、処理前SiCウエハ40には(0001)面内に平行な転位であるBPDと、TEDと、が含まれており、処理前SiCウエハ40の表面のBPDであった部分が、エピタキシャル層42の形成時にTEDとして伝播する割合が高くなるように表面の性質を変化させる。
【0070】
これにより、処理前SiCウエハ40の内部ではなく表面の性質を変化させて改質SiCウエハ41とし、上記のようにして製造された改質SiCウエハ41にエピタキシャル層を成長させることで、半導体デバイスの性質を劣化させるBPDを、半導体デバイスの性能に影響しないTEDに変化させることができる。従って、高性能な半導体デバイスの製造に適した改質SiCウエハ41を作製することができる。特に、処理前SiCウエハの内部ではなく表面の性質を変化させることで、短い処理時間でBPDを低減できる。
【0071】
また、本実施形態の改質SiCウエハ41の製造方法において、インゴット4からウエハ形状に加工された後に機械加工が行われるとともに化学機械研磨が行われていない処理前SiCウエハ40に対して、表面改質工程が行われる。
【0072】
これにより、上記の表面改質工程では、エピタキシャル層42の形成時のBPD密度を低下させるだけでなく、表面が平坦化されるため、化学機械研磨が不要となる。従って、改質SiCウエハ41の製造時の工程数を減らすことができる。
【0073】
また、本実施形態の改質SiCウエハ41の製造方法において、表面改質工程が行われることで、エピタキシャル層の形成後の表面の算術平均粗さが1nm以下となる。
【0074】
これにより、表面を平坦化しつつBPD密度が低いSiCウエハを作製できるので、高性能な半導体デバイスを製造できる。
【0075】
また、本実施形態では、改質SiCウエハ41に対して、エピタキシャル層42を形成するエピタキシャル層形成工程を行ってエピタキシャル層付きSiCウエハ43を製造する。
【0076】
また、本実施形態では、処理前SiCウエハ40に表面改質工程を行って{1-100}系分子層ステップを形成すること、及び、改質SiCウエハ41にエピタキシャル層形成工程を行って、当該形成の初期段階においてBPDのサイズを小さくすることで実現される、BPDからTEDへの変換率が、処理前SiCウエハ40にCMPを行った後にエピタキシャル層42を形成した場合の変換率よりも5%以上高い。
【0077】
以上により、BPD密度が低いエピタキシャル層付きSiCウエハ43を製造できる。
【0078】
また、本実施形態の表面改質工程では、処理前SiCウエハ40の表面に生じているBPDをTEDに変換している。
【0079】
また、本実施形態のエピタキシャル層付きSiCウエハ43は、改質SiCウエハ41と1層のエピタキシャル層42とを備える。改質SiCウエハ41の表面にはBPDが含まれている。エピタキシャル層42の表面のBPD密度は、改質SiCウエハ41の表面(詳細には表面改質工程の影響が生じていない表面よりも僅かに内部側、即ち表面直下)のBPD密度の5%以下である。
【0080】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0081】
図3等で説明した製造工程は一例であり、工程の順序を入れ替えたり、一部の工程を省略したり、他の工程を追加したりすることができる。例えば、水素エッチングによる表面のクリーニング工程を例えば表面改質工程後かつエピタキシャル層の形成前に行っても良いし、エピタキシャル層形成工程後にBPD密度を検査する処理を行っても良い。
【0082】
上記で説明した温度条件及び圧力条件等は一例であり、適宜変更することができる。また、上述した高温真空炉10以外の加熱装置(例えば内部空間が複数存在する高温真空炉)を用いたり、多結晶のSiCウエハを用いたり、坩堝30と異なる形状又は素材の容器を用いたりしても良い。例えば、収容容器の外形は円柱状に限られず、立方体状又は直方体状であっても良い。
【符号の説明】
【0083】
4 インゴット
10 高温真空炉
30 坩堝
40 処理前SiCウエハ
41 改質SiCウエハ
42 エピタキシャル層
43 エピタキシャル層付きSiCウエハ