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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-12
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】磁気識別センサ
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/39 20060101AFI20220118BHJP
   H01L 43/00 20060101ALI20220118BHJP
   G01R 33/02 20060101ALI20220118BHJP
   G07D 7/04 20160101ALI20220118BHJP
【FI】
G11B5/39
H01L43/00
G01R33/02
G07D7/04
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020566482
(86)(22)【出願日】2020-01-16
(86)【国際出願番号】 JP2020001353
(87)【国際公開番号】W WO2020149375
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2021-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2019006101
(32)【優先日】2019-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000104652
【氏名又は名称】キヤノン電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 正博
(72)【発明者】
【氏名】関河 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 匠
【審査官】中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/094466(WO,A1)
【文献】国際公開第98/038792(WO,A1)
【文献】特開2017-215297(JP,A)
【文献】特開2010-108337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B5/39
H01L43/00
G01R33/02
G07D7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送される媒体と接する摺動面の下部に磁石及び磁気検出素子が配置され、前記媒体に含まれる磁性体部の磁気パターンを判別する磁気識別センサであって、
前記摺動面に対して垂直のNS方向を持つ一対の磁石が、互いに逆極性になるように媒体搬送方向へ所定の間隔で、それぞれの前記磁石の一方側の磁極が前記摺動面の下部に近接して並設され、
前記磁石の他方側の磁極同士がヨークで接続された着磁部が形成され、
前記着磁部において、一対の前記磁石と前記ヨークとで三方が囲まれた空間内に、前記摺動面に対して垂直の磁界検知方向を有する前記磁気検出素子が配置されることを特徴とする磁気識別センサ。
【請求項2】
一対の前記磁石は形状が同一であり、前記ヨークにおける一対の前記磁石の他方側の磁極と接する面は同一平面上に位置することを特徴とする請求項1に記載の磁気識別センサ。
【請求項3】
前記ヨークは平板状であり、前記磁気検出素子が前記ヨークに対して固定されるとともに、前記磁気検出素子の磁性薄膜は、一対の前記磁石によって生じる磁界のゼロ点付近に配置されることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気識別センサ。
【請求項4】
前記磁気検出素子は、一対の前記磁石の中点に配置されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の磁気識別センサ。
【請求項5】
前記磁気検出素子は、前記媒体搬送方向で一対の前記磁石の間に配置されており、直方体の非磁性基板を有し、その一面には前記磁石のNS方向と平行に延在する複数の磁性薄膜が形成され、直列に接続された前記磁性薄膜に駆動電流が通電されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の磁気識別センサ。
【請求項6】
前記磁気検出素子の前記磁性薄膜には前記駆動電流として高周波の電流が印加され、直接そのインピーダンスの変化を検知する、もしくは前記磁性薄膜にコイルを積層もしくは巻回してフラックスゲート動作させることを特徴とする請求項5に記載の磁気識別センサ。
【請求項7】
前記磁気検出素子における検知面とは反対側の面と、前記反対側の面と対向する前記磁石との間に、間隔を規制する非磁性の間隔保持部材が配置されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の磁気識別センサ。
【請求項8】
前記磁気検出素子における検知面とは反対側の面と、前記反対側の面と対向する前記磁石とが直接接合されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の磁気識別センサ。
【請求項9】
前記磁気検出素子の磁性薄膜が、前記摺動面に近い側と遠い側の2列に配列され、差動動作することを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の磁気識別センサ。
【請求項10】
前記磁石の側面に板状の磁界調整用磁性体を有することを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の磁気識別センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙幣等のように磁性体を含んだ磁気インクの印刷もしくは磁性の箔帯を組み込んだ紙状の媒体に対して磁気の検知を行い、種類判別や真贋判定を行う磁気識別センサ及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、紙幣の識別では印刷された磁気インクを磁気センサ内の磁石の磁場により磁化し、磁気インクの印刷パターンに関わる磁場の変化を磁気検出素子により磁気検知することで、紙幣の種類判別や真贋判定を行っている。
【0003】
媒体に使用される磁性体には、保磁力の大きい所謂硬磁性と呼ばれるものと保磁力をほとんど持たない所謂軟磁性と呼ばれるものが存在する。特に、磁気センサで軟磁性体の検知に対応するために、センサ側に配置された磁石で軟磁性体に磁場を印加しながら、磁気検出素子でその磁化を検知する必要がある。
【0004】
半導体の磁気抵抗素子(SMR)では磁気飽和がないため、その素子の真下に磁石を設置でき、磁石に対する制約がない。しかし、それ以外のほとんどのセンサは、磁性体に関わる磁気飽和が存在し、磁石の設置に関しては、動作点への制約の中で工夫をしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-286012号公報
【文献】特許第6209674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、動作点の狭い磁気インピーダンス素子やフラックスゲートセンサにおいては、特許文献1に示すように磁気検出素子の前後に互いに逆極性の磁石を置き、磁気検出素子の感磁方向と直交する方向の磁界を強めることで、素子に掛かる磁界を緩和する事例が示されている。
【0007】
また、磁気飽和が存在する異方性磁気抵抗素子(AMR),トンネル磁気抵抗素子(TMR)等の磁気抵抗(MR)素子でも、特許文献2にあるように素子の前後に互いに逆極性の磁石を置くことで、動作点に影響を与えないようにしている。
【0008】
しかし、これらは磁石の配置に工夫がなされているが、磁石の配置によって摺動面側の磁界分布に差異があり、媒体の搬送に対する摺動面での浮きによる感度低下、所謂スペーシングロスが生じる。性能向上の観点では、そのロスを減らす要求が強まっている。
【0009】
また、媒体事情では近年保磁力が1kOe(エルステッド)を大幅に超える高保磁力の媒体が登場し、組み込まれる磁石の磁力を上げる必要が生じている。磁石の磁力を上げる上ではサイズに制約を与えたり、振動や応力に対する磁石と磁気検出素子の相対変位による疑似出力(ノイズ)の発生等の悪影響が出てしまう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記を鑑み、本発明に係る磁気識別センサは、
搬送される媒体と接する摺動面の下部に磁石及び磁気検出素子が配置され、前記媒体に含まれる磁性体部の磁気パターンを判別する磁気識別センサであって、
前記摺動面に対して垂直のNS方向を持つ一対の磁石が、互いに逆極性になるように媒体搬送方向へ所定の間隔で、それぞれの前記磁石の一方側の磁極が前記摺動面の下部に近接して並設され、
前記磁石の他方側の磁極同士がヨークで接続された着磁部が形成され、
前記着磁部において、一対の前記磁石と前記ヨークとで三方が囲まれた空間内に、前記摺動面に対して垂直の磁界検知方向を有する前記磁気検出素子が配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、一対の磁石を用いて摺動面上に発生する磁場の方向を規定するものにおいて、ヨークを設けることによって、摺動面上における媒体を磁化するための磁場を増大させ、さらに磁気検出素子と磁石を含むセンサ部の構成を強固にして、振動や応力等による疑似出力(ノイズ)の影響を抑えた磁気識別センサを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る磁気識別センサの構成図。
図2】本発明の実施形態に係る磁気識別センサの断面図。
図3】本発明の実施形態に係る磁気検出素子の構成図。
図4】本発明の実施形態に係る磁気識別センサの外観斜視図。
図5】磁石のNS方向とヨークと取り付けの説明図。
図6】センサの摺動面からの距離と磁化の関係を示すグラフ。
図7】磁気インピーダンス素子の外部磁界特性の一例。
図8】ヨークを取り付けた場合の磁気検出素子の出力の例。
図9】摺動面からの磁気媒体の浮き量による出力のグラフ。
図10】本発明の他の実施形態に係る磁気識別センサの構成図。
図11】本発明の他の実施形態に係る磁気識別センサの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を図示の実施形態に基づいて詳細に説明する。図1は本件の識別処理を適用する磁気識別センサの構成例であり、検知対象となる紙状の磁気媒体とセンサを構成する磁石と磁気検出素子の位置関係を表す外観斜視図である。紙状の磁気媒体の一例としては紙幣が挙げられる。本発明の磁気識別センサは、この磁気媒体を磁気検出素子に対して相対移動させ、その際に現れる磁気媒体における磁性体部により磁石が発生する磁気パターンもしくは磁気パターンの変化を磁気検出素子によって検出することで、磁気媒体を判別するセンサである。なお、説明のために摺動部材5を透過させて示している。
【0014】
磁気検出素子1と磁石2a,2bはセンサ本体4に組み込まれ、摺動部材5の摺動面6の下部に、矢印で示す媒体搬送方向に沿って並んでいる。なお、以下の説明において、磁石2aと2bとをまとめて磁石2と表現することがある。
【0015】
先ず、磁石の構成について説明する。磁石2a、2bは直方体の構造であり、ブロック材から切り出される。基本的には磁場分布を対称の構成とするために、同一形状の部品を用いることが好ましい。
【0016】
磁石2a、2bの材料としては、摺動面6上で少なくとも数百ガウス以上の磁場を必要とするため、Nd-Fe-BやSm-Co系の希土類磁石が適している。
【0017】
磁石2a、2bのNS方向を摺動面6に垂直な方向へ取るため、直方体磁石における摺動面6の下部に近接する面に対して垂直方向が磁化方向となるように材料取りを行う。
【0018】
磁石2a、2bの2本を図1に示すように、一対の磁石として所定の間隔dで平行に媒体搬送方向へ並べる。一対の磁石極性は互いに逆極性になるように配置される。従って、摺動面6の下部に対して磁石2a、2bの一方側の磁極が近接して並設される。
【0019】
さらに摺動面6とは反対の磁極間(他方側の磁極間)同士を橋渡しして接続するように鉄系のヨーク3を配置する。一対の磁石の片方の磁極同士の磁束をヨーク3内に閉じることで、コの字状(言い方を変えれば馬蹄形)の磁石体Mを構成し、センサとしての着磁部を形成する。ヨーク3の要件は、飽和磁束密度の高いことが優先され、透磁率自体はそれほど重要ではない。鉄系の鋼板では飽和磁束密度が2T(テスラ)を超えるものは安価で容易に入手できるため好ましい。
【0020】
ヨーク3の磁気的効果は、後述するように、摺動面6側の磁場を2倍近くに大きくでき、媒体を磁化するための磁力を大きくすることができている。ヨーク3の形状は平面性を有する板状(平板状)のものでよく、少なくとも磁石が着座する面同士が同一平面上であればよい。このように、磁石2とヨーク3との間に隙間が生じないようにすることによって、磁石とヨークとの間に磁極が発生することを防ぎ、一体の着磁部としての磁石体Mを簡易に形成することができる。また、ヨーク3を基準として磁石2a、2bおよび磁気検出素子1を取り付けることができる。すなわち、ヨーク3の平面性を確保することで、所望の磁界を安定して形成することができ、検出精度を向上することができる。
【0021】
また、このヨーク3は、センサ部の背骨的な役割で、センサ部の剛性を決定することになり、組み込み時の応力変形や媒体搬送時のたわみ強度を考えると、0.5mm以上の板厚を確保しておくことが好ましい。また、磁石とは吸着の力関係であるため、磁石体の構成としては極めて安定しており、磁石の相対変位に起因する疑似出力が生じてしまうことも少ない。
【0022】
磁気検出素子1はその磁石体Mにおけるコの字状の内側の空間で摺動面6の下部、すなわち、一対の磁石2とヨーク3によって三方が囲まれた空間内に設置され、磁気媒体8の磁気印刷部9が真上を通過する際の磁化を検知する。このとき、磁気検出素子1の磁界検知方向は摺動面6に垂直になるように配置される。高感度の磁気検出素子は、大きなバイアス磁界が印加されると、磁気飽和して動作しなくなるため、基本的には磁石2a、2bのほぼ中点であるゼロ磁場の位置に設置する。バイアス磁界が必要な磁気検出素子でも、その位置から少しずらすことで、必要なバイアス磁界(数から数十Oe程度)を確保することが可能である。なお、磁気検出素子1は三方が囲まれた空間に設置するとしたが、空間を形成するヨーク3や磁石2から離隔している必要はなく、ヨーク3や磁石2と当接して配置されていても良い。
【0023】
図2は本実施形態の断面図を示し、一対の磁石の対称軸はZ軸で示されるが、その軸方向に磁界検出感度を持つように素子を配置する。素子の検知面(感磁面)はYZ平面となる。
【0024】
摺動面6側では2つの磁石2a、2b間で発生する磁束Φpに関わってX方向にはかなり強い磁場が掛かるが、Z方向ではその磁場とは直交することになり、ゼロ磁場の環境が得られる。
【0025】
また、このことは磁石や素子の倒れが僅かでもあると、磁気検出素子へ不要な磁場が掛かることを意味するので、磁石の加工精度やヨークの平面度が重要となる。本件の構成では、磁石の直角度やヨークの平面性の部品精度の確保は容易であり、組立精度への不安は少ない。
【0026】
磁気検出素子1は図3(a)で示すように直方体の非磁性基板11からなり、その一面には平行に細長い複数本からなる磁性薄膜12のパターンが形成されている。磁性薄膜は、パーマロイ,Fe-Co-Si-B系アモルファス,Fe-Ta-C系微結晶薄膜等が使われる。本実施形態においては、磁性薄膜12は、非磁性基板11上においてZ方向に延在するパターンが形成されている。
【0027】
磁性薄膜12は長手方向に磁気検出方向を持ち、Z方向を向いている。この方向は、隣接する磁石2のNS方向と同方向である。
【0028】
図3(a)で示した磁気検出素子1は磁気インピーダンス素子のタイプであり、磁性薄膜12の各パターンを導電膜13で直列になるように結び、電極部14間へMHz帯の高周波の駆動電流を印加(通電)して、外部磁場に対するインピーダンスの変化をセンサ信号電圧として取り出す。
【0029】
別の方法では、図3(b)のように磁性膜から直接センサ信号を取り出さずに、コイル15を積層もしくは外付けで巻回してフラックスゲート動作させ、誘導出力の変化として検出電極16からの出力を取り出し、所謂直交フラックスゲートセンサとしても動作させることができる。
【0030】
磁気インピーダンス素子では、図3(C)のようにV字状の外部磁界特性を示して、ゼロ磁場では感度を持たないため、傾斜部へのバイアス磁界が必要であり、図1または図2のX軸方向に僅かに位置をずらすことで、オフセットの磁界を与える。
【0031】
直交フラックスゲートセンサの場合は図3(d)のように磁界ゼロで傾きを持つためバイアスが不要で、オフセット処理も不要となる。その他の磁気抵抗素子でも一面にパターンを形成して、磁石のNS方向に磁界検出感度を持たせることが可能なセンサであれば、本件の技術が活用できる。この場合、センサの感磁面が、磁石2によって生じる磁界のゼロ点に位置するようにセンサを配置することで、磁気媒体によって生じる磁界を有効に検出できる。
【0032】
具体的には、異方性磁気抵抗素子(AMR)、トンネル型磁気抵抗素子(TMR)、巨大磁気抵抗素子(GMR)も候補として挙げられる。
【0033】
直方体状の磁石2a、2bと平面状のヨーク3の組み合わせでは、媒体搬送による振動や応力等に対して強固な磁石体Mを構成できるが、磁気検出素子1の配置においても磁石2a、2bに対し、間隔保持や倒れの防止を行うことが好ましい。
【0034】
図2に示すように、素子の検知面と反対側の面と、その面と対向する片方の磁石(磁石2b)との間に間隔保持部材10を入れると、相対位置変動に起因する疑似出力の発生が低減し、組み込み時の精度保証もしやすくなる。なお、磁気検出素子1の非磁性基板11を厚くすることができて、磁石2bとの隙間を無くすことができれば、間隔保持部材10を省略し、非磁性基板11と磁石2bとを直接接着などで接合して固定してもよい。
【0035】
また、磁気検出素子1をヨーク3に当接させて、磁気検出素子1の高さhsを磁石の高さhm以下にしておき、摺動面6から下方(Z軸負の方向)に外力が及ぼされた場合でも、磁気検出素子1に荷重が掛からないようにしておくことが好ましい。
【0036】
本発明は以上のように、2つの磁石をヨークで結び、磁石の磁力を増大させ、ヨークを背骨とした小型で強度の高い磁気識別センサの検知部を確立した。
【0037】
次に、試作した結果を元に、本実施形態の有効性について説明をする。図4に試作したセンサの外観斜視図を示す。但し、説明のために摺動部材5を透過させて表示している。図1と同じ機能のものについては同じ符号を用いて表記する。
【0038】
磁石2は1.5×1.2×21mmの直方体で、Nd-Fe-B(Br1.12T)の磁石ブロックから切り出し、1.5×21mmの面が摺動面に当接し、その垂直方向がNS方向となるようにする。一対の磁石間の間隔dを2.6mmとすることを基本とし、バイアスの調整ではこの間隔で微調整を行う。ヨーク3は、一般鋼板であるSPCC材で0.8mmの板厚のものを選択した。飽和磁束密度は2.04Tである。
【0039】
ここで、磁石のNS方向選択とヨーク付与の検証結果を説明する。図5のとおり、図4の構成をモデル化し、摺動面側で発生する磁場を計算により比較した。(a)は図4の構成でヨークを無しとし、(b)では(a)のレイアウトのままで、磁石2のNS方向を水平とした場合、(c)は図4の構成そのものである。それぞれの結果を図6に示す。
【0040】
先ず、ヨーク無しで磁石のNS方向に関わる(a)と(b)の比較では、摺動面からの距離に対して、NS水平方向の(b)が明らかに悪い。NS方向を摺動面6と垂直にした(a)では、摺動面6からの距離が離れても僅かに増加しており、磁極が外向きであることがよい。
【0041】
さらに、(a)の構成にヨークを追加すると、磁力はおよそ1.8倍に上がり、減衰は僅かにあるが良好である。磁石のサイズや材質を変更しなくても、摺動面と反対側をヨークで閉じる事の効果は絶大である。軟磁性媒体では、印加する磁場が大きいほど磁化が強くなり、センサ出力の増大が期待できる。
【0042】
生産性の点でも(a)では左右の磁石の4つの磁極の位置関係が検出結果に関わることになるため、磁石の間隔だけでなく、左右の磁石のNS方向の平行度(傾き)も、ばらつきに大きく影響してしまう。ヨーク付きの(c)では、磁極が基本的に磁石2a、2bにおける摺動面6側の面の2つの扱いとなり、磁気検出素子1のバイアスの確保はしやすくなる。
【0043】
磁気検出素子1は、磁性薄膜12の形成面が1.15×21mmになるように、厚み0.75mmのセラミックの非磁性基板11上に構成されている。
【0044】
磁性薄膜12は、厚さ2.6μm,パターン幅18μmで長さ0.5mmを等間隔で並べ、マルチチャンネルで4chとして機能できるように4分割し、それぞれ電極部14を設けた。
【0045】
素子の背面には、磁気検出素子1と磁石2bの間隔を規制する非磁性の間隔保持部材10を挟み、ヨーク3と磁石2bとを接着剤により固定した。間隔保持部材10の厚みは0.5mmとした。
【0046】
この例における磁気検出素子1は、磁気インピーダンス素子として動作させ、MHz帯のパルス電流を印加して、その外部磁界に対する振幅変化をAM検波回路により取り出す。
【0047】
磁気インピーダンス素子は、図7に示すように、磁性薄膜部に対してバイアス磁界が必要な外部磁界特性であり、磁気媒体8を検知していない状態で、出力が領域AまたはBとなる位置へセットする。その調整は、間隔保持部材10を接着していない側の磁石2aとの間隔を微調整すれば容易である。今回は、領域Bを選択し20[Oe]程度のずらし調整をするために、一対の磁石の中心から極僅かに数十μm程度(40[Oe]以下となる領域)ずらすことによって対応した。一方、磁気検出素子1としてフラックスゲート素子を用いた場合には、一対の磁石の中心で動作させることが可能なため、出力がゼロ点となる位置へセットすれば良い。このように、磁気検出素子1の磁性薄膜を一対の磁石が生じる磁界のゼロ点付近に配置することで、磁気インピーダンス素子、フラックスゲート素子のいずれを用いた場合にも、磁気検出素子1を好適に動作させることができる。
【0048】
磁気検出素子1の電極部14からは、ヨーク3に設けた不図示の貫通孔から、フレキシブルケーブルにより下部の回路基板へ引き出した。大きな穴を開けない限りは、ヨーク3内で磁束の回り込みが発生して、その影響はほとんど現れない。
【0049】
次に、磁気媒体8のテスト媒体として図4の磁気印刷部9を有する媒体を搬送させて、摺動面6上の浮き量に対する出力の低下を評価した。浮き量の評価では、0.1mmの紙を1枚ずつ挟んで調整をした。磁気印刷部9は3mm幅で軟磁性を有するインクで細長いラインを印刷したものである。
【0050】
図8に、出力電圧の測定結果の一例を示す。この波形は、摺動面6と磁気媒体8とが密着した浮き量ゼロの状態で測定したものである。磁気印刷部9は搬送方向に磁化され、Z方向の磁場を検知する場合には微分的な波形となり、peak-to-peak値で出力値を表現する。
【0051】
図8の実線cは本件のヨーク3を設けた場合の出力波形で、図8の破線aは鉄系のヨーク材の代わりにリン青銅の非磁性金属材に置き換えて測定した場合の出力波形データである。
【0052】
軟磁性体の場合は、印加される磁場に応じて磁化も大きくなるため、実線cの場合は破線aの場合よりも摺動面上の磁場は1.8倍近く大きくなっているので、出力電圧は1.7倍程度増加した。
【0053】
図9は、媒体の浮き量に対する出力変化をグラフ化している。磁石のNS方向を水平方向とした場合の試作データも載せ、図6の(a)、(b)、(c)に対応したデータを比較できるようにした。
【0054】
磁石のNS方向を摺動面6と水平に向けて配置する(b)では、磁場の減衰が大きいために、媒体の浮き量に対する出力の低下も明らかに大きい。NS方向を摺動面6と垂直に向けた配置の(a)では媒体の浮き量に対する出力の低下は少なくなっている。さらに、ヨーク3を設けた(c)の本実施形態は、全体の出力が上がり、媒体の浮き量に対する出力の低下もより少なくなっている。
【0055】
ヨーク3を設けた(c)における減衰が(a)よりも少し良くなっているのは、軟磁性媒体の特性として十分な磁場が与えられた状態では少し出力が飽和気味になっているためである。
【0056】
また、図4で示した形態では、銀行のATMで使われるマルチチャンネルのセンサとして適用できることを示しており、連結して複数個を並べることは容易であって、磁気媒体8の検知幅に対する自由度も高い。
【0057】
さらに、磁気検出素子1と磁石2a、2bを直接ヨーク3に組み付けて、ヨーク3が磁気識別センサの構造体の背骨として扱えるために、強度を確保しつつ、センサ部全体を薄くできる。
【0058】
ヨーク3によるセンサの強度アップによって、磁石の磁力を上げても、振動や応力に対する疑似出力の影響を無視できるレベルに抑えることが可能となった。これにより、換言すると、小型で薄型のセンサも実現可能となった。
【0059】
本発明の他の実施形態について、図10を用いて説明を行う。
磁石と磁気検出素子は扱いやすい長さがあり、紙幣のような幅広い検知用途では、複数のセンサユニット31から34を接続して使用することが好ましい。つまり、図4で示した実施形態のセンサユニット部を複数連結した図10のようなものとなる。
【0060】
また、この実施形態では、磁気検出素子21を、摺動部に近い磁性薄膜列F22と摺動部から離れた磁性薄膜列R23の一対ずつ設け、それらの検知部を同一非磁性基板上に配置し、差動で動作させる構成とした。この素子構成では、媒体搬送による摺動面側からの磁気勾配が大きい成分だけを検出し、周囲の緩やかな外乱磁界を大幅に除去することが可能で、例えば、搬送メカ内にある近くのベアリングやシャフト等の磁気影響を低減できる。
【0061】
しかし、この構成では、図10におけるy方向に対するセンサユニット端の接続側で、磁気検出素子21、磁石2、ヨーク3の端部が重なり、隣接ユニットとの不連続から磁場が乱れやすく、磁気検出素子の動作点へ悪影響を及ぼす。
【0062】
そのため、バイアスが不要な磁気検出素子ではゼロ磁場へ、バイアスが必要な磁気検出素子では所定のバイアス範囲となるように、乱れた磁場を適切に修正する必要が生ずる場合がある。
【0063】
磁場を修正する場合は、図10の磁性薄板24a、24bで示すように、ケイ素鋼板やパーマロイ等の着磁が可能な金属磁性体の薄板を円板もしくは短冊状の小片にして、磁石の側面へ付与することで容易に修正が可能である。
【0064】
図11に示すセンサユニットの断面図を用いて説明する。磁石2側面に磁性体の磁性薄板24を付与することで磁化し、その磁化された磁性薄板24から磁気検出素子21へ局所的なバイアス磁界を付与できる。あえて修正用の磁石を用意しなくとも、センサの磁石の磁場を利用して磁性体を磁化させることで、バイアス調整が可能であり、磁石2と磁性薄板24とが互いに吸着する関係からも、取り扱いは容易である。修正するバイアス磁場の大きさは、磁性薄板24の形状や厚みもしくは個数により調整が可能である。
【0065】
このバイアス磁界の修正は、図10の磁性薄板24aのようにユニット端部だけでなく、磁性薄板24bのようにユニット中央部でも可能であり、磁石自体の局所的な着磁ムラ(磁石製造時の配向ばらつき等)やエッジのカケ等の修正にも有効である。
【0066】
本発明は、センサ部をユニット化することができ、各種媒体の検知幅にも自由に対応できる特徴を持つ。
【0067】
本発明は、以上説明した実施形態に限らず、本発明の範囲を逸脱しない程度の種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態においては、磁石2a、2bとは同一形状の部品が好ましいとして説明したが、これに限られず、例えば磁石2aの方が大きいものを用い、それによって磁気検出素子1へのバイアス磁界を形成しても良い。
【符号の説明】
【0068】
1、21 磁気検出素子
2a、2b 磁石
3 ヨーク
4 センサ本体
5 摺動部材
6 摺動面
7 端子
8 磁気媒体
9 磁気印刷部
10 間隔保持部材
11 非磁性基板
12 磁性薄膜
13 導電膜
14 電極部
15 薄膜コイル
16 検出電極
17 回路基板
22、23 磁性薄膜列
24、24a、24b 磁性薄板
31~34 センサユニット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11