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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-12
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】曲げ加工装置
(51)【国際特許分類】
   B21D 24/00 20060101AFI20220118BHJP
【FI】
B21D24/00 H
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021163857
(22)【出願日】2021-10-05
【審査請求日】2021-10-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591214527
【氏名又は名称】株式会社ジーテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】小林 大哲
(72)【発明者】
【氏名】飯田 勝宏
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/187679(WO,A1)
【文献】特開2010-23078(JP,A)
【文献】国際公開第2015/199231(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/094705(WO,A1)
【文献】特開2009-262168(JP,A)
【文献】特開2020-199539(JP,A)
【文献】国際公開第2018/225832(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0291163(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/20 - 24/00
B21D 5/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板からなるワークを最終形状に対して曲げ代が残るように折り曲げる第1の金型と、
前記第1の金型によって成形された前記ワークに最終形状となるように曲げ加工を施す第2の金型とを備え、
前記第1の金型は、前記ワークを挟んで成形するパンチとダイとを有し、
前記パンチおよび前記ダイは、前記ワークの曲げ部を成形する肩部と、曲げ加工により変位する前記ワークの端部を挟む縦壁部とをそれぞれ有し、
前記パンチの肩部および前記ダイの肩部は、
前記ワークの最終形状の曲げ部より外側に離れた位置で前記曲げ部と同方向に曲がるように湾曲する第1の湾曲面と、
前記第1の湾曲面と前記縦壁部との間に設けられて前記第1の湾曲面に連なるとともに前記第1の湾曲面と同方向に曲がるように湾曲する第2の湾曲面とを有し、該第1の湾曲面と該第2の湾曲面との境界が第3の湾曲面により形成されており、
前記パンチおよび前記ダイの前記縦壁部は、前記ワークの端部を前記最終形状となる位置より外側に成形するように構成されており、
前記第2の金型は、前記第1の金型によって成形された前記ワークを挟んで前記最終形状に成形する第2の金型用パンチと第2の金型用ダイとを有しているとともに、このワークを前記第2の金型用パンチと協働して挟んで保持する第2の金型用パッドを有し、
前記第2の金型用パンチの肩部は、前記第1の金型によって成形された前記ワークにおける、前記第1の湾曲面と前記第2の湾曲面との境界部分である前記第3の湾曲面によって成形された凹部より内側に対峙して曲げ代を形成することを特徴とする曲げ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷間で鋼板を曲げる曲げ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車のボディに用いられる鋼材として、高張力鋼より強度が高く、引張強さが1000MPaを超える超高張力鋼が用いられるようになってきた。この種の超高張力鋼は、冷間で曲げ加工されて所定の形状に成形されている。超高張力鋼は、一般的な高張力鋼に較べると曲げ加工後のスプリングバック量が多くなる。このため、超高張力鋼を使用するにあたっては、スプリングバックを少なく抑えることが必要である。
【0003】
スプリングバックを少なく抑える従来の技術は、例えば特許文献1や特許文献2に記載されている。特許文献1には、山折り状の凸部となる曲げ部分の一部を、ここが逆方向に曲げられるように、言い換えれば凹部が形成されるように弾性変形させ、曲げ部分の残留応力を減らす技術が開示されている。特許文献2には、曲げ成形を2回に分けて行うプレス成形方法が開示されている。1回目の成形時には、山折り状の凸部となる曲げ部の中央部に、曲げ部の内側に向けて凸になるように凹部を成形する。2回目の成形時には、1回目の成形時に成形した凹部を曲げ部の外に向けて凸となるように成形する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-130745号公報
【文献】特開平7-148527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示す成形方法では、曲げ部の1箇所で残留応力を解消するために、残留応力を完全に取り除くことはできず、スプリングバックが生じるという問題があった。
特許文献2に示す成形方法では、1回目の成形で曲げ部の内側に向けて凸になるように成形された部分が2回目の成形時に金型の肩部に載るようになる。このため、2回目の成形を行うときにワークの姿勢が安定し難いという問題がある。また、曲げ部の内側に向けて凸になる部分が2回目の成形で逆方向に凸になるように成形されるために、ワークの材料に制約を受けるという問題があった。すなわち、高張力鋼や超高張力鋼などからなるワークを使用すると、曲げ部で割れてしまうおそれがある。
【0006】
曲げ加工を精度よく行うためには、曲げ部分のスプリングバックを見越して最終形状より大きく曲げることが考えられる。しかし、このようにするためにはカム機構を採用して金型を横方向に移動させなければならないから、金型の構造が複雑になってしまう。
【0007】
本発明の目的は、高張力鋼や超高張力鋼からなるワークを割れることなくかつ単純な構造の金型を使用してスプリングバック量が大幅に減少するように曲げることが可能な曲げ加工装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために本発明に係る曲げ加工装置は、鋼板からなるワークを最終形状に対して曲げ代が残るように折り曲げる第1の金型と、前記第1の金型によって成形された前記ワークに最終形状となるように曲げ加工を施す第2の金型とを備え、前記第1の金型は、前記ワークを挟んで成形するパンチとダイとを有し、前記パンチおよび前記ダイは、前記ワークの曲げ部を成形する肩部と、曲げ加工により変位する前記ワークの端部を挟む縦壁部とをそれぞれ有し、前記パンチの肩部および前記ダイの肩部は、前記ワークの最終形状の曲げ部より外側に離れた位置で前記曲げ部と同方向に曲がるように湾曲する第1の湾曲面と、前記第1の湾曲面と前記縦壁部との間に設けられて前記第1の湾曲面に連なるとともに前記第1の湾曲面と同方向に曲がるように湾曲する第2の湾曲面とを有し、前記パンチおよび前記ダイの前記縦壁部は、前記ワークの端部を前記最終形状となる位置より外側に成形するように構成されており、前記曲げ加工装置において、前記第2の金型は、前記第1の金型によって成形された前記ワークを挟んで前記最終形状に成形する第2の金型用パンチと第2の金型用ダイとを有しているとともに、このワークを前記第2の金型用パンチと協働して挟んで保持する第2の金型用パッドを有し、前記第2の金型用パンチの肩部は、前記第1の金型によって成形された前記ワークにおける、前記第1の湾曲面と前記第2の湾曲面との境界部分の第3の湾曲面によって成形された凹部より内側に対峙して曲げ代を形成している。
【発明の効果】
【0009】
本発明においては、前記曲げ加工装置において、前記第2の金型は、前記第1の金型によって成形された前記ワークを挟んで前記最終形状に成形する第2の金型用パンチと第2の金型用ダイとを有しているとともに、このワークを前記第2の金型用パンチと協働して挟んで保持する第2の金型用パッドを有し、前記第2の金型用パンチの肩部は、前記第1の金型によって成形された前記ワークにおける、前記第1の湾曲面と前記第2の湾曲面との境界部分の第3の湾曲面によって成形された凹部より内側に対峙して曲げ代を形成しているので、ワークの曲げ部に第1の金型の第1および第2の湾曲面によって2つの凸部が成形され外側部分に引張応力、内側部分に圧縮応力が残留するスプリングバック成分となるが、その間に成形された凹部がスプリングゴー成分となる。これらの2つの凸部と、その間の凹部が第2の金型によって潰されることで、前記ワークの曲げ部の外側部分の引張応力、内側部分の圧縮応力を打ち消すようになる。このため、スプリングバックが低減され、高張力鋼や超高張力鋼からなるワークを使用しても割れが生じることはない。また、スプリングバックが低減されるように成形するにあたって第1および第2の金型にカム機構は不要である。
したがって、高張力鋼や超高張力鋼からなるワークを割れることなくかつ単純な構造の金型を使用してスプリングバック量が大幅に減少するように曲げることが可能な曲げ加工装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、第1の金型の断面図である。
図2図2は、第2の金型の断面図である。
図3図3は、第1の金型の要部を拡大して示す断面図である。
図4図4は、ワークの形状を示す模式図である。
図5図5は、第2の金型のパンチにワークを保持させた状態を示す断面図である。
図6図6は、曲げ加工方法を説明するためのフローチャートである。
図7図7は、ワークに作用するモーメントを説明するための模式図である。
図8図8は、ワークの曲げ部の内部応力の分布を示す模式図である。
図9図9は、自動車の車体フレームの概略の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る曲げ加工装置の一実施の形態を図1図9を参照して詳細に説明する。
図1中に符号1で示すものは、本発明に係る曲げ加工装置2の一部を構成する第1の金型である。曲げ加工装置2は、第1の金型1と、図2に示す第2の金型3とを用いて鋼板からなるワーク4をいわゆる断面ハット形に成形するものである。ワーク4の材料となる鋼板は、高張力鋼や超高張力鋼からなる平板である。このワーク4の厚みは、5mm以下で、好ましくは0.6mm~2.0mmである。図1および図2は、構成を理解し易いように、ワーク4を実際より厚く描いてある。
【0012】
図1に示す第1の金型1は、ハット形の上端角部を最終形状Wに対して後述する曲げ代が残るように折り曲げるものである。以下においては、ハット形の上端角部を単に曲げ部5という。なお、本発明に係る曲げ加工装置2は、ワーク4をハット形に成形するものに限定されることはない。
図2に示す第2の金型3は、第1の金型1によって成形されたワーク4に最終形状Wとなるように曲げ加工を施す。
【0013】
第1の金型1は、図1に示すように、ワーク4を挟んで成形する第1の金型用パンチ6およびダイ7を有しているとともに、第1の金型用パンチ6と協働してワーク4の保持部4aを挟んで保持する第1の金型用パッド8を有している。第1の金型用パンチ6は、図示していない基台に固定されている。第1の金型用ダイ7は、図示していない加圧装置に接続されており、パンチ6に対して図1において上下方向に移動する。第1の金型用パッド8は、図示していない駆動装置に接続されており、パンチ6に対して図1において上下方向に移動する。
【0014】
第1の金型用パンチ6およびダイ7は、ワーク4の曲げ部5を成形する肩部6a,7aと、曲げ加工により変位するワーク4の端部4bを挟む縦壁部6b,7bとをそれぞれ有している。
パンチ6の肩部6aおよびダイ7の肩部7aは、図3に示すように、第1の湾曲面11,12と第2の湾曲面13,14とを有している。これらの第1および第2の湾曲面11~14は、ワーク4に曲げ代を残しながら曲げるための成形面である。第1の湾曲面11,12は、前記保持部の外側でワーク4の最終形状Wの曲げ部Waより外側に離れた位置で曲げ部Waと同方向に曲がるように湾曲している。
【0015】
第2の湾曲面13,14は、第1の湾曲面11,12と縦壁部6b,7bとの間に設けられて第1の湾曲面11,12に連なるとともに第1の湾曲面11,12と同方向に曲がるように湾曲している。パンチ6の第1の湾曲面11と第2の湾曲面13は凸曲面で、ダイ7の第1の湾曲面12と第2の湾曲面14は凹曲面である。この実施の形態においては、第1の湾曲面11,12と第2の湾曲面13,14との境界が第3の湾曲面15,16によって形成されている。パンチ6の第3の湾曲面15は凹曲面で、ダイ7の第3の湾曲面16は凸曲面である。
【0016】
ここで、第1および第2の湾曲面11~14の曲率半径について説明する。ここでは、ワーク4の厚み方向の中央を通る仮想線L(図4参照)を用いて第1、第2の湾曲面11~14の曲率半径を説明する。ワーク4には、図4に示すように、保持部4aの外側に第1の凸部21と、第2の凸部22と、凹部23と、直線状に延びる端部4bとが形成されている。図4中には、ワーク4の最終形状Wが二点鎖線によって描いてある。第1の凸部21は、パンチ6の第1の湾曲面11とダイ7の第1の湾曲面12とによって成形された部分である。この第1の凸部21は、ワーク4の最終形状Wの曲げ部Waより外側に離れた位置で曲げ部5と同方向に曲がっている。
【0017】
第2の凸部22は、パンチ6の第2の湾曲面13とダイ7の第2の湾曲面14とによって成形された部分である。この第2の凸部22は、第1の凸部21とワーク4の端部4bとの間に設けられて第1の凸部21に連なるとともに第1の凸部21と同方向に曲がっている。
凹部23は、パンチ6の第3の湾曲面15とダイ7の第3の湾曲面16とによって成形された部分である。この実施の形態による凹部23は、最終形状Wの曲げ部Waとは反対方向に向けて断面円弧状に形成されている。
端部4bは、パンチ6の縦壁部6bとダイ7の縦壁部7bとによって成形された部分である。
【0018】
第1の凸部21(第1の湾曲面11,12)の曲率半径R1は、最終形状Wの曲げ部Wa(単一の凸部)の曲率半径R2より小さい。すなわち第1の凸部21の曲率半径R1<最終形状Wの曲げ部Waの曲率半径R2である。
また、第2の凸部22(第2の湾曲面13,14)の曲率半径R3は、最終形状Wの曲げ部5の曲率半径R2以下である。すなわち第2の凸部22の曲率半径R3≦最終形状Wの曲げ部Waの曲率半径R2である。
【0019】
この実施の形態による第1の凸部21の曲率半径R1は、第2の凸部22の曲率半径R3より小さい。また、第2の凸部22の曲率半径R3は、最終形状Wの曲げ部Waの曲率半径R2と等しくなるように形成されている。最終形状Wの曲げ部Waの曲率半径R2は、ワーク4の材料が超高張力鋼である場合は約3mm~50mm程度とすることができる。
第1の金型用パンチ6およびダイ7の縦壁部6b,7bは、ワーク4の端部4bを図1中に二点鎖線で示す最終形状Wとなる位置より外側に成形するように形成されている。
【0020】
第2の金型3は、図2に示すように、第1の金型1によって成形されたワーク4の保持部4aを挟んで最終形状Wに成形する第2の金型用パンチ24と第2の金型用ダイ25とを有しているとともに、このワーク4の保持部4aを第2の金型用パンチ24と協働して挟んで保持する第2の金型用パッド26を有している。第2の金型用パンチ24は図示していない基台に固定されている。第2の金型用ダイ25は、図示していない加圧装置に接続されており、パンチ24に対して図2において上下方向に移動する。第2の金型用パッド26は、図示していない駆動装置に接続されており、パンチ24に対して図2において上下方向に移動する。
【0021】
第2の金型用パンチ24の肩部24aは、図5に示すように、第1の金型1によって成形されたワーク4の凹部23より内側に位置している。言い換えれば、肩部24aは、ワーク4における、第1の金型1の第1の湾曲面11,12と第2の湾曲面13,14との境界部分の第3の湾曲面15,16によって成形された凹部23より内側に位置している。このため、凹部23がパンチ24に向けて突出するにもかかわらず、この突出部分がパンチ24の肩部24aに乗り上げるようなことはない。図5に示すように、第2の金型用パンチ24の保持部4aより外側にあるワークの凸部21、22、凹部23、端部4bが最終形状の曲げ部5に対応する曲げ代となる。
【0022】
次に、上述した曲げ加工装置2を使用してワーク4に曲げ加工を施す曲げ加工方法を図6のフローチャートを参照して説明する。
先ず、第1の金型1に平板状の鋼板からなるワーク4を装填する(ステップS1)。このときは、第1の金型用パンチ6の上にワーク4を載置し、このワーク4に上方からパッド8を押し付ける。このようにワーク4がパンチ6上に保持部4aが保持されている状態で、ダイ7を下降させてパンチ6とダイ7とによってワーク4を挟み、第1の成形ステップ(ステップS2)を実施する。
【0023】
第1の成形ステップにおいては、ワーク4の曲げ部5を第1の凸部21と第2の凸部22とを含むように成形し、かつワーク4の端部4bを最終形状Wとなる位置より外側に成形する。
ここで、ワーク4に曲げ加工を施したときにワーク4内に生じる応力について説明する。平板からなるワーク4を単純に曲げると、金型が下死点に達したときに図7(A)に示すようにワーク4の厚み方向の中央を境界として外側に引張応力が生じ、内側に圧縮応力が生じる。図7(A)においては、引張応力が生じる部分に左右方向に延びる線からなるハッチングを施し、圧縮応力が生じる部分に左下がりの線と右下がりの線とからなるハッチングを施してある。そして、このワーク4が金型から取り出されて金型による拘束が解かれたときに、これらの応力でワーク4が弾性回復することによって、図7(A)中に矢印で示す方向にモーメントが生じ、角度変化(スプリングバック)が生じる。
【0024】
平板状のワーク4に対して第1の成形ステップが実施されると、ワーク4は図7(B)に示すように成形される。第1の成形ステップにおいては、後述する第2の成形ステップで曲げ戻すための形状が付与され、第1の凸部21、第2の凸部22および凹部23が成形される。ワーク4が第1の金型1によって拘束されている状態においては、第1の凸部21に相当する部分と第2の凸部22に相当する部分にそれぞれスプリングバック成分のモーメントが作用し、凹部23に相当する部分に逆方向のスプリングゴー成分のモーメントが作用する。
【0025】
このように第1の金型1で成形が行われた後、ワーク4を第1の金型1から取り出し(ステップS3)、第2の金型3に装填する(ステップS4)。このときには、図5に示すように、ワーク4の保持部4aを第2の金型用パンチ24とパッド26とによって挟んで保持する。この工程において、第2の金型用パンチ24はワーク4の第1の凸部21より内側に入るようになり、ワーク4が安定した状態で保持される。
【0026】
しかる後、第2の金型用ダイ25を下降させ、図2に示すように第2の成形ステップ(ステップS5)を実施する。第2の成形ステップが実施されることにより、第2の金型3によってワーク4が最終形状Wに成形される。この第2の成形ステップにおいては、ダイ7の下降により最初にワーク4の端部4bがパンチ24とダイ25とによって挟まれて成形される。そして、第1の凸部21と第2の凸部22とが、パンチ24とダイ25とによって挟まれながら潰されて最終形状W(単一の曲げ部5)に成形される。
【0027】
このようにワーク4の単一の曲げ部5が成形されることにより、ワーク4の曲げ部5には図7(C)中に矢印で示すようにモーメントが作用するようになる。詳述すると、ワーク4の保持部4aと第1の凸部21との境界であった部分にスプリングバック成分のモーメントが作用し、第1の凸部21であった部分にスプリングゴー成分のモーメントが作用する。また、凹部23であった部分にスプリングバック成分のモーメントが作用し、第2の凸部22であった部分にスプリングゴー成分のモーメントが作用する。
第2の成形時にワーク4の曲げ部5の外側に生じる内部応力について解析を行ったところ、図8に示すような結果が得られた。図8においては内部応力を明暗で表している。図8において相対的に明るい領域A,Bは引張応力が発生している領域を示し、相対的に暗い領域C,Dは、圧縮応力が発生している領域を示している。
【0028】
領域Aは、第1の凸部21とワーク4の保持部4aとの境界部分が曲げられることによって引張応力が生じる(スプリングバック成分のモーメントが作用する)領域である。
領域Bは、凹部23が伸ばされることによって引張応力が生じる(スプリングバック成分のモーメントが作用する)領域である。
領域Cは、第1の凸部21が潰されることによって圧縮応力が生じる(スプリングゴー成分のモーメントが作用する)領域である。
領域Dは、第2の凸部22が潰されることによって圧縮応力が生じる(スプリングゴー成分のモーメントが作用する)領域である。すなわち、ワーク4の曲げ部5の外側部分には、2箇所に圧縮応力が残留するようになる。
【0029】
このようにワーク4が第2の金型3で成形されることによりワーク4は保持部4aを固定されながら、曲げ代の第1、第2凸部、凹部が逆方向に変形し単一の曲げ部になるように外側から曲げられるため、内部応力が緩和される。そして、応力が緩和された最終形状のワーク4が第2の金型3から取り出される(ステップS6)。このとき、図8中に領域Bで示した引張応力は、領域Cと領域Dとに生じている圧縮応力によって相殺される。領域Bの引張応力は、通常はワーク4が第2の金型3から取り出されることによりワーク4の端部4bを開く方向に変位させるが、この実施の形態においては両側の圧縮応力で打ち消されるために、端部4bを外側に変位させることはないか、変位させたとしても極めて僅かになる。
領域Aで示した引張応力は、その一部が領域Cの圧縮応力で打ち消される。
このため、第1および第2の凸部21,22が成形されることにより生じる圧縮応力は、ワーク4が曲げられることにより生じる引張応力を打ち消すようになる。すなわち、第1の成形ステップで成形された曲げ部分を第2の成形ステップで曲げ戻すことにより、スプリングゴー成分が生じ、スプリングバック成分を相殺させる。
このようにスプリングバック成分が相殺されることにより、スプリングバックが低減される。
【0030】
第1の金型1の第1および第2の湾曲面11~14によって成形されたワーク4の2つの凸部(第1の凸部21と第2の凸部22)は、第2の金型3で凸Rが小さくなるように成形されるから、高張力鋼や超高張力鋼からなるワーク4を使用したとしても、ワーク4に割れが生じることはない。また、スプリングバックが低減されるように成形するにあたって第1および第2の金型1,3にカム機構は不要である。
したがって、この実施の形態によれば、高張力鋼や超高張力鋼からなるワーク4を割れることなくかつ単純な構造の金型を使用してスプリングバック量が大幅に減少するように曲げることが可能な曲げ加工装置を提供することができる。
【0031】
この実施の形態による第1の湾曲面11,12の曲率半径は、最終形状Wの曲げ部Waの曲率半径より小さい。第2の湾曲面13,14の曲率半径は、最終形状Wの曲げ部Waの曲率半径以下である。このため、ワーク4の第1の凸部21が最終形状Wに成形されることによりワーク4の外側に圧縮応力が生じるようになり、第2の凸部22が最終形状Wに形成されることにより圧縮応力が不足するようなことがない。
したがって、スプリングバック量を更に少なく抑えることができるようになる。
【0032】
この実施の形態による第1の湾曲面11,12の曲率半径は、第2の湾曲面13,14の曲率半径より小さい。このため、ワーク4の第1の凸部21の外側に確実に圧縮応力が生じるようになるから、スプリングバックを低減するうえで信頼性が高くなる。
【0033】
この実施の形態による第2の金型3は、第1の金型1によって成形されたワーク4を挟んで最終形状Wに成形する第2の金型用パンチ24と第2の金型用ダイ25とを有しているとともに、このワーク4を第2の金型用パンチ24と協働して挟んで保持する第2の金型用パッド26を有している。第2の金型用パンチ24の肩部24aは、第1の金型1によって成形されたワーク4における、第1の湾曲面11,12と第2の湾曲面13,14との境界部分の第3の湾曲面によって成形された凹部23より内側に位置している。このため、第2の金型3がワーク4を担ぐようなことがないから、ワーク4を第2の金型用パンチ24と第2の金型用パッド26とで安定性よく保持することができ、第2の成形ステップを精度よく行うことができる。
【0034】
この実施の形態による曲げ加工装置2は、例えば図9に示す自動車の車体フレーム31のピラーロアー32に用いることができる。図9に示す車体フレーム31は、ピラーロアー32の上端部から斜め上方に延びるフロントピラー33と、フロントピラー33から後方に延びるルーフ部34と、ピラーロアー32の下端部から後方に延びるサイドシル35と、サイドシル35の後端とルーフ部34の後端とを接続するリヤピラー36と、ルーフ部34とサイドシル35とを接続するセンターピラー37などを有している。
なお、前記第1の凸部21、第2の凸部22、凹部23に限ることなく、第3、第4の凸部…、それらの間の凹部を増加させてもよい。また、前記ワークの端部とは、頂部(保持部)、曲げ部、側壁部とつば部とからなるハット断面のワークであれば、側壁部とつば部を指す。また、一方の辺、曲げ部、他方の辺からなるL字断面のワークであれば、ワークの端部はパンチとパッドで挟まれる一方の辺に対して他方の辺を指す。
【符号の説明】
【0035】
1…第1の金型、2…曲げ加工装置、3…第2の金型、4…ワーク、5,Wa…曲げ部、6…第1の金型用パンチ、6a,7a,24a…肩部、6b,7b…縦壁部、7…第1の金型用ダイ、8…第1の金型用パッド、11,12…第1の湾曲面、13,14…第2の湾曲面、21…第1の凸部、22…第2の凸部、23…凹部、24…第2の金型用パンチ、25…第2の金型用ダイ、26…第2の金型用パッド、W…最終形状。
【要約】
【課題】高張力鋼や超高張力鋼からなるワークを割れることなくかつスプリングバック量が大幅に減少するように曲げることが可能な曲げ加工装置を提供する。
【解決手段】鋼板からなるワーク4を最終形状Wに対して曲げ代が残るように折り曲げる第1の金型1と、第1の金型1によって成形されたワーク4に最終形状Wとなるように曲げ加工を施す第2の金型とを備える。第1の金型1はパンチ6とダイ7とを有する。パンチ6およびダイ7は、ワーク4の曲げ部5を成形する肩部6a,7aと、ワーク4の端部を挟む縦壁部とをそれぞれ有する。パンチ6の肩部6aおよびダイ7の肩部7aは、ワーク4の最終形状Wの曲げ部Waより外側に離れた位置に形成された第1の湾曲面11,12と、第1の湾曲面11,12と縦壁部との間に設けられた第2の湾曲面13,14とを有している。パンチ6およびダイ7の縦壁部は、ワーク4の端部を最終形状Wとなる位置より外側に成形するように構成されている。
【選択図】 図3
図1
図2
図3
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図8
図9