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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-12
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】固相粒子回収システム
(51)【国際特許分類】
   C23C 24/04 20060101AFI20220203BHJP
   B05B 14/10 20180101ALI20220203BHJP
   B05C 11/10 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
C23C24/04
B05B14/10
B05C11/10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021539084
(86)(22)【出願日】2021-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2021007230
(87)【国際公開番号】W WO2021172483
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2021-07-02
(31)【優先権主張番号】P 2020030863
(32)【優先日】2020-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000108742
【氏名又は名称】タツタ電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】平野 正樹
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-095148(JP,A)
【文献】特開2010-172817(JP,A)
【文献】特開2011-042856(JP,A)
【文献】特開平01-294551(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/00-30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固相粒子積層装置のスプレーノズルに設けられ、開口を有するアタッチメントと、
上記開口に連結し、当該開口を介して、上記スプレーノズルから基材に噴射されて、当該基材上での成膜に関わらない固相粒子を回収する回収部と、
上記基材に設けられ、上記スプレーノズルから噴射されたキャリアガスの流れを整流することにより上記固相粒子を上記開口の方向に誘導する誘導部材と、を備え
上記誘導部材は、上記スプレーノズルが移動する方向に沿って延在する、固相粒子回収システム。
【請求項2】
上記誘導部材は、上記開口の直下に位置する、請求項に記載の固相粒子回収システム。
【請求項3】
上記開口の開口中心は、上記スプレーノズルの側面から横方向に5mm以上30mm以下の位置であって、かつ、上記基材から5mm以上20mm以内の高さに位置決めされる、請求項に記載の固相粒子回収システム。
【請求項4】
上記誘導部材の、上記スプレーノズルが稼働する方向に対して垂直な断面の形状は、矩形、正方形、三角形、円形、または弧状である、請求項1からの何れか1項に記載の固相粒子回収システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固相粒子積層装置に用いられる、アタッチメント、固相粒子回収装置、及び固相粒子回収システムに関する。
【背景技術】
【0002】
固相粒子(粉末)を基材に噴射して、当該基材上に成膜する技術として固相粒子積層法が知られている。固相粒子積層法は、例えばコールドスプレー法を含む。
【0003】
コールドスプレー法は、高圧ガスにより粉末を加速させて、基材上に成膜する技術である。成膜されなかった粉末は、基材との衝突後、(1)基材周辺へ付着、(2)チャンバー内壁へ付着、(3)周囲部品等へ付着、及び/又は、(4)チャンバー開閉による外部への飛散、といった悪影響を及ぼしうる。成膜時に飛散する粉末を回収する方法は、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特開2003-119673号公報(2003年4月23日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、エアロゾルが基材に衝突した後に構造物の形成に関らないエアロゾルを吸引する吸引部材を開示する。
【0006】
しかしながら、特許文献1では、スプレーノズルは稼働せず、かつ、スプレーノズルには吸引筒が取り付けられていない(図3参照)。従って、特許文献1の技術は、スプレーノズルが稼働する場合に、飛散した粉末は吸引筒から回収されないという課題を有する。
【0007】
本発明の一態様は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、固相粒子積層装置のスプレーノズルが稼働する場合においても、飛散する固相粒子を効率的に回収することが可能な、アタッチメント、固相粒子回収装置、及び固相粒子回収システムを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本開示の一態様に係るアタッチメントは、相粒子積層装置のスプレーノズルに係合する係合部と、上記係合部に結合し、かつ、上記スプレーノズルから基材に噴射されて、当該基材上での成膜に関わらない固相粒子を回収する回収部に連結する少なくとも1つの開口を有する開口部と、で構成されている。
【0009】
上記の課題を解決するために、本開示の一態様に係る固相粒子回収装置は、固相粒子積層装置に用いられる固相粒子回収装置であって、上記固相粒子積層装置のスプレーノズルに設けられ、開口を有するアタッチメントと、上記開口に連結し、当該開口を介して、上記スプレーノズルから基材に噴射されて、当該基材上での成膜に関わらない固相粒子を回収する回収部と、を備えた構成である。
【0010】
上記の課題を解決するために、本開示の一態様に係る固相粒子回収システムは、固相粒子積層装置のスプレーノズルに設けられ、開口を有するアタッチメントと、上記開口に連結し、当該開口を介して、上記スプレーノズルから基材に噴射されて、当該基材上での成膜に関わらない固相粒子を回収する回収部と、上記基材に設けられ、上記固相粒子を上記開口の方向に誘導する誘導部材と、を備えた構成である。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一態様によれば、固相粒子積層装置のスプレーノズルが稼働する場合においても、飛散する固相粒子を効率的に回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態に係る固相粒子回収システムの概略側面図である。
図2】本実施形態に係るコールドスプレー装置の概略図である。
図3】本実施形態に係る治具の一例を示す写真である。
図4】本実施形態に係る治具の他の例を示す写真である。
図5】スプレーノズルと基材との位置関係を示す概略図である。
図6】スプレーノズルから固相粒子が飛散する様子を示す図である。
図7】固相粒子が回収される様子を示す図である。
図8】本実施形態に係る、治具が基材上に設けられた様子を示す図である。
図9】本実施形態に係る治具の形状例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。以下の説明では、同一の部品および構成要素には同一の符号を付している。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0014】
本実施形態は、固相粒子積層装置に適用することができる。固相粒子積層装置は、例えば、コールドスプレーまたはエアロゾルデポジションを含む。本実施形態では、コールドスプレーを例に説明する。
〔コールドスプレー〕
近年、コールドスプレーと呼ばれる皮膜形成法が利用されている。コールドスプレーは、皮膜材料(固相粒子)の融点または軟化温度よりも低い温度のキャリアガスを高速流にし、そのキャリアガス流中に固相粒子を投入し加速させ、固相状態のまま基材等に高速で衝突させて皮膜を形成する方法である。
【0015】
コールドスプレーの皮膜原理は、次のように理解されている。
【0016】
固相粒子が基材に付着・堆積して皮膜するには、ある臨界値以上の衝突速度が必要であり、これを臨界速度と称する。固相粒子が臨界速度よりも低い速度で基材と衝突すると、基材が摩耗し、基材には小さなクレーター状の窪みしかできない。臨界速度は、固相粒子の材質、大きさ、形状、温度、酸素含有量、又は基材の材質などによって変化する。
【0017】
固相粒子が基材に対して臨界速度以上の速度で衝突すると、固相粒子と基材(あるいはすでに成形された皮膜)との界面付近で大きなせん断による塑性変形が生じる。この塑性変形、及び衝突による固体内の強い衝撃波の発生に伴い、界面付近の温度も上昇し、その過程で、固相粒子と基材、および、固相粒子と皮膜(すでに付着した固相粒子)との間で固相接合が生じる。
【0018】
(コールドスプレー装置100)
図2は、コールドスプレー装置100の概略図である。図2に示すように、コールドスプレー装置100は、タンク110と、ヒーター120と、スプレーノズル130と、フィーダ140と、基材ホルダー150と、制御装置(不図示)とを備える。
【0019】
タンク110は、キャリアガスを貯蔵する。キャリアガスは、タンク110からヒーター120へ供給される。キャリアガスの一例として、窒素、ヘリウム、空気、またはそれらの混合ガスが挙げられる。キャリアガスの圧力は、タンク110の出口において、例えば70PSI以上150PSI以下(約0.48Mpa以上約1.03Mpa以下)となるよう調整される。ただし、タンク110の出口におけるキャリアガスの圧力は、上記の範囲に限られるものではなく、固相粒子の材質、大きさ、又は基材の材質等により適宜調整される。
【0020】
ヒーター120は、タンク110から供給されたキャリアガスを加熱する。より具体的に、キャリアガスは、フィーダ140からスプレーノズル130に供給される固相粒子の融点より低い温度に加熱される。例えば、キャリアガスは、ヒーター120の出口において測定したときに、50℃以上500℃以下の範囲で加熱される。ただし、キャリアガスの加熱温度は、上記の範囲に限られるものではなく、固相粒子の材質、大きさ、又は基材の材質等により適宜調整される。
【0021】
キャリアガスは、ヒーター120により加熱された後、スプレーノズル130へ供給される。
【0022】
スプレーノズル130は、ヒーター120により加熱されたキャリアガスを300m/s以上1200m/s以下の範囲で加速し、基材170へ向けて噴射する。なお、キャリアガスの速度は、上記の範囲に限られるものではなく、固相粒子の材質、大きさ、又は基材の材質等により適宜調整される。
【0023】
フィーダ140は、スプレーノズル130により加速されるキャリアガスの流れの中に固相粒子を供給する。フィーダ140から供給される固相粒子の粒径は、1μm以上50μm以下といった大きさである。フィーダ140から供給された固相粒子は、スプレーノズル130からキャリアガスとともに基材170へ噴射される。
【0024】
基材ホルダー150は、基材170を固定する。基材ホルダー150に固定された基材170に対して、キャリアガス、及び固相粒子がスプレーノズル130から噴射される。基材170の表面とスプレーノズル130の先端との距離は、例えば、1mm以上30mm以下の範囲で調整される。基材170の表面とスプレーノズル130の先端との距離が1mmよりも近いと固相粒子の噴射速度が低下する。これは、スプレーノズル130から噴出したキャリアガスがスプレーノズル130内に逆流するためである。このとき、キャリアガスが逆流した際に生じる圧力により、スプレーノズル130に接続された部材(ホース等)が外れる場合もある。一方、基材170の表面とスプレーノズル130の先端との距離が30mmよりも離れると皮膜効率が低下する。これは、スプレーノズル130から噴出したキャリアガス及び固相粒子が基材170に到達し難くなるである。
【0025】
ただし、基材170の表面とスプレーノズル130との距離は、上記の範囲に限られるものではなく、固相粒子の材質、大きさ、又は基材の材質等により適宜調整される。
【0026】
制御装置は、予め記憶した情報、及び/又は、オペレーターの入力に基づいて、コールドスプレー装置100を制御する。より具体的に、制御装置は、タンク110からヒーター120へ供給されるキャリアガスの圧力、ヒーター120により加熱されるキャリアガスの温度、フィーダ140から供給される固相粒子の種類および量、及び基材170の表面とスプレーノズル130との距離などを制御する。
【0027】
コールドスプレー装置100では、周知の固相粒子を用いてコールドスプレーしてよい。例えば、固相粒子として、ニッケル粉末、錫粉末、又は錫粉末と亜鉛粉末との混合材料などを用いることができる。
【0028】
コールドスプレー装置100を用いることにより、コールドスプレーの利点を享受することができる。コールドスプレーの利点は、例えば次のとおりである。(1)皮膜の酸化抑制、(2)皮膜の熱変質の抑制、(3)緻密な皮膜形成、(4)ヒュームの発生抑制、(5)必要最小限のマスキング、(6)シンプルな装置による皮膜形成、(7)短時間での厚い金属皮膜の形成。
【0029】
(固相粒子回収システム)
以下、本実施形態に係る固相粒子回収システム40を図1により説明する。図1は、本実施形態に係る固相粒子回収システム40の概略側面図である。
【0030】
固相粒子回収システム40は、コールドスプレー装置100(固相粒子積層装置)において、基材170上での成膜に関わらない、飛散する固相粒子を回収するシステムである。固相粒子回収システム40は、治具10(誘導部材)及び固相粒子回収装置25を備える。固相粒子回収装置25は、アタッチメント1及び回収部20を備える。
【0031】
アタッチメント1は、係合部2と開口部3とで構成されている。係合部2および開口部3は一体に設けられてよい。係合部2および開口部3が一体に設けられている場合、係合部2と開口部3との間には明確な境界は存在しない。しかしながら、アタッチメント1において、果たす機能の相違する2つの部分が結合している点を、係合部2と開口部3との結合とみなすことができる。
【0032】
係合部2と開口部3は別体で設けられ、互いに結合してよい。係合部2および開口部3が別体で設けられる場合、係合部2および開口部3は任意の方法で脱着されてよい。例えば、開口部3が係合部2の外形に対応する開口を有し、その開口に係合部2が嵌め込まれる。
【0033】
係合部2は、スプレーノズル130に係合する。係合部2は、任意の方法でスプレーノズル130に係合してよい。例えば、係合部2は、螺合、嵌め込み、またはボルト止めなどの方法によりスプレーノズル130に係合する。
【0034】
開口部3は、1又は複数の開口を有する。図1では、開口部3は、2つの開口3a、3bを有する。開口3a、3bは、ホース22(後述)と連結可能な任意の形状を有する。好ましくは、開口3aは治具10a(後述)の上方に位置し、開口3bは治具10b(後述)の上方に位置する。
【0035】
開口3a、3bは、好ましくは、スプレーノズル130の先端近傍に位置決めされる。先端近傍に位置決めされる、とは、スプレーノズル130の側面から横方向に5mm以上30mm以下の位置、及び、基材170から5mm以上20mm以内の高さに開口3a、3bの開口中心が位置決めされることをいう。これにより、固相粒子30bの回収効率を高めることができる。横方向とは、成膜される基材170の主面に対して平行な方向をいう。開口中心とは、開口3a、3bが円形の場合には円の中心をいい、開口3a、3bが正方形・矩形の場合は対角線の交点をいう。
【0036】
回収部20は、集塵機21とホース22とを備える。集塵機21は、スプレーノズル130から基材170に噴射されて、基材170上での皮膜の形成に関わらない固相粒子30bを開口3a、3bを介して回収する。
【0037】
集塵機21は、好ましくは、所定の風量以上の集塵能力を有する。集塵機21の集塵能力が所定の風量以上の場合、集塵機21は、固相粒子30bの回収効率を高めることができる。集塵機21の集塵能力が所定の風量よりも小さい場合、固相粒子30bの回収効率が低下する。所定の風量は、開口3a、3bの形状、開口3a、3bと基材170との距離、またはキャリアガスの圧力などに応じて決められる。集塵機21は、固相粒子30bを回収することが可能な任意の他の構成(サイクロンまたは静電気など)により実現されてよい。
【0038】
ホース22は、第1の端部が開口3a、3bと連結し、第1の端部とは異なる第2の端部が集塵機21と連結する。ホース22は、開口3a、3b、及び/又は、集塵機21と、螺合または嵌め込みなどの方法により連結する。ホース22は、任意の材質および/または形状でよい。
【0039】
治具10は、基材170に固定される。あるいは、治具10は、基材170に脱着可能に設けられる。治具10は、1または複数の治具を含む。治具10は、スプレーノズル130から噴射されたキャリアガスの流れを整流し、固相粒子30bを開口3a、3bの方向に誘導する。治具10は、好ましくは、スプレーノズル130が稼働する方向に沿って延在する。治具10は、上記の機能を発揮するのであれば材質は限定されない。
【0040】
図1の例では、治具10は、治具10aおよび治具10bを含む。治具10aおよび治具10bは、基材170に設けられ、開口3a、3bの方向に固相粒子30bを誘導する。以下の説明において、治具10a、10b(後述)を区別しない場合は、単に治具10と称する。
【0041】
固相粒子30aは、基材170上で成膜に関わった固相粒子である。固相粒子30bは、基材170上で成膜に関わらなかった固相粒子である。
【0042】
(治具)
図3は、本実施形態に係る治具10の一例を示す写真である。図示するように、治具10aおよび治具10bが基材170上に設けられている。治具10aおよび治具10bは、スプレーノズル130(不図示)が稼働する方向に沿って延在する。
【0043】
治具10aは、基材170に対して垂直な面11aと弧状に形成された面12aとを有する。治具10bは、基材170に対して垂直な面11bと弧状に形成された面12bとを有する。図3では、面11aおよび面11bがスプレーノズル130側に設けられている。
【0044】
図4は、本実施形態に係る治具10の他の例を示す写真である。図4では、面12aおよび面12bがスプレーノズル130側に設けられている。
【0045】
図3図4は一例であって、治具10は他の形状により構成されてよい。他の形状の一例として、正方形、長方形、三角形、又は円形などの断面形状が挙げられる。
【0046】
(固相粒子の回収)
次に、固相粒子30bが回収される様子を図5~9により説明する。図5~9では、見易さのため、アタッチメント1及び回収部20は図示していない。図7~9に記載された矢印は、固相粒子30bが回収される方向を示す。
【0047】
図5は、スプレーノズル130と基材170との位置関係を示す概略図である。Dは、スプレーノズル130と基材170との距離を示す。Dは、例えば、5mm以上15mm以下に設定される。θは、基材170に対するスプレーノズル130の角度を示す。図中、θは90度に設定されている。成膜効率を考慮すると、θは、好ましくは75度以上90度以下である。
【0048】
図6は、スプレーノズル130から固相粒子30bが飛散する様子を示す図である。通常、コールドスプレー法では、固相粒子30bは全体の約97%を占め、残りの固相粒子(固相粒子30a)が、基材170上で成膜に関わる。
【0049】
スプレーノズル130内のキャリアガス通路は、キャリアガスの通過する方向に対して垂直な断面において端部ほど流体エネルギーが低くなる。そのため、その端部を通過する固相粒子は、皮膜の形成に関わることなく、空中に飛散しやすい。図6はその様子を示す。
【0050】
固相粒子30bは、キャリアガスの影響により基材170付近を移動する。固相粒子30bは、スプレーノズル130の側面から横方向に10mm以上の領域(図中のLが10mm以上となる領域)では、基材170から高さ20mm以下となる領域(図中のHが20mm以下となる領域)において高い粒子分布を示す。以下、高い粒子分布を示す領域を「高分布領域」と称する。
【0051】
図7は、固相粒子30bが回収される様子を示す図である。図示されていないが、開口部3の開口3a、3bは、好ましくは、高分布領域に設けられる。開口3a、3bを高分布領域に位置決めすることにより、固相粒子30bの回収効率を高めることができる。
【0052】
図8は、治具10a、10bが基材170上に設けられた様子を示す図である。治具10aは開口3aの下方に位置し、治具10bは開口3bの下方に位置する。治具10a及び治具10bは、スプレーノズル130から噴射されたキャリアガスの流れを整流し、開口3a、3bの方向に固相粒子30bを誘導する。これにより、固相粒子30bの回収効率をさらに高めることができる。
【0053】
図9は、治具10の形状例を示す。図中、治具10aの断面形状は円形で示され、治具10bの断面形状は正方形で示されている。これらは一例であって、治具10は、正方形、長方形、三角形、円形、又は弧状などの断面形状を有してもよい。治具10は、スプレーノズル130の先端に接触しないサイズであればよい。
【0054】
治具10は、一つのみであってもよい。しかしながら、治具10は、好ましくは、スプレーノズル130が稼働する方向に沿って延在する2つの治具10aおよび治具10bを有する。これにより、固相粒子30bの回収効率をさらに高めることができる。
【0055】
(実施例)
以下、ケース(1)~(3)ごとに算出した、固相粒子30bの回収効率を示す。
(1)治具10を使用せず:9.2%
(2)図3のケース:26.8%
(3)図4のケース:24.3%(R=20mm)
(条件)
・(1)~(3)の何れのケースもアタッチメント1を使用。
・開口部3の開口中心:
スプレーノズル130の側面から横方向に10mm、基材170から高さ20mm
・開口部3の開口半径:7.5mm
・開口部3の開口数:2つ
・2つの開口位置:係合部2を挟むように、治具10a、10b上にそれぞれ配置。
・集塵機21の風量:1.5m/min
・スプレーノズル130の走査速度:5mm/sec
・回収効率:「(回収量/投入量)×100」により算出。
【0056】
上記の各数値は、それぞれ1回実施した結果の値である。
・スプレーノズル130と基材170との距離:10mm
・基材170に対するスプレーノズル130の角度:90度
・固相粒子:ニッケル
・キャリアガスの圧力:タンク110の出口において70PSI以上150PSI以下(約0.48Mpa以上約1.03Mpa以下)に調整。
【0057】
通常、コールドスプレー法では、投入した固相粒子のうち約97%が飛散する。上記(1)は、アタッチメント1のみを使用したケースである。このケースにおいても、投入した固相粒子の9.2%が回収されたことが示された。この結果より、スプレーノズル130が稼働する場合においても、固相粒子の回収効率が高まることが分かる。回収効率が高まるほど資源およびコストを節約することができる。
【0058】
上記(2)、(3)は、アタッチメント1および治具10を使用したケースである。これらのケースでは、固相粒子の回収効率がさらに高まり、上記(1)の約3倍となることが分かった。
【0059】
固相粒子積層装置(コールドスプレーまたはエアロゾルデポジション)では、スプレーノズルが稼働する場合がある。この場合においても、上述したように、本実施形態に係る、固相粒子回収システム40、固相粒子回収装置25、及びアタッチメント1は、従来の技術よりも固相粒子の回収効率を大幅に高めることができるという効果を奏する。
【0060】
この効果は、スプレーノズル130内のキャリアガス通路の断面が矩形の場合には、より効果が大きくなる。
【0061】
具体的に、スプレーノズル130内のキャリアガス通路の断面が矩形の場合、キャリアガスの通過する方向に対して垂直な断面において端部ほど流体エネルギーが低くなる。これにより、空中に飛散する固相粒子は増加しやすくなる。
【0062】
この点、本実施形態に係るアタッチメント1はスプレーノズル130に設けられている。このため、スプレーノズル130内のキャリアガス通路の断面が矩形の場合であっても、固相粒子の回収効率を維持することができる。つまり、本実施形態に係る、固相粒子回収システム40、固相粒子回収装置25、及びアタッチメント1は、スプレーノズル130内のキャリアガス通路の断面形状に関係なく、有効に用いることができる。それゆえ、本実施形態に係る、固相粒子回収システム40、固相粒子回収装置25、及びアタッチメント1は、固相粒子の飛散が製品の大量生産を阻害していたという従来の課題も併せて解決することができる。
【0063】
上記(1)~(3)は固相粒子としてニッケルを使用したが、当然に、他の固相粒子を用いても同様の効果を期待できる。
【0064】
(まとめ)
本発明の態様1に係るアタッチメントは、固相粒子積層装置のスプレーノズルに係合する係合部と、上記係合部に結合し、かつ、上記スプレーノズルから基材に噴射されて、当該基材上での成膜に関わらない固相粒子を回収する回収部に連結する少なくとも1つの開口を有する開口部と、で構成されている。
【0065】
上記の構成によれば、固相粒子積層装置のスプレーノズルが稼働する場合においても、飛散する固相粒子を効率的に回収することが可能である。
【0066】
本発明の態様2に係るアタッチメントでは、上記の態様1において、上記開口部は、上記係合部と一体であってもよい。
【0067】
上記の構成によれば、アタッチメントの製造が容易になり、かつ、上記係合部と上記開口部とを人手で結合させる必要がなくなる。
【0068】
本発明の態様3に係るアタッチメントでは、本発明の態様1または2おいて、上記少なくとも1つの開口は、2つの開口を含み、上記2つの開口は、上記係合部を挟んで設けられている構成であってもよい。
【0069】
上記の構成によれば、上記係合部を挟んで反対方向から飛散する固相粒子を回収することになるため、固相粒子の回収効率を高めることができる。
【0070】
本発明の態様4に係る固相粒子回収装置は、上記固相粒子積層装置のスプレーノズルに設けられ、開口を有するアタッチメントと、上記開口に連結し、当該開口を介して、上記スプレーノズルから基材に噴射されて、当該基材上での成膜に関わらない固相粒子を回収する回収部と、上記基材に設けられ、上記固相粒子を上記開口の方向に誘導する誘導部材と、を備える構成である。
【0071】
上記の構成によれば、上記アタッチメントと同様の効果を奏することができる。
【0072】
本発明の態様5に係る固相粒子回収システムは、固相粒子積層装置のスプレーノズルに設けられ、開口を有するアタッチメントと、上記開口に連結し、当該開口を介して、上記スプレーノズルから基材に噴射されて、当該基材上での成膜に関わらない固相粒子を回収する回収部と、上記基材に設けられ、上記固相粒子を上記開口の方向に誘導する誘導部材と、を備える構成である。
【0073】
上記の構成によれば、上記アタッチメントおよび上記固相粒子回収装置と同様の効果を奏することができる。
【0074】
本発明の態様6に係る固相粒子回収システムでは、本発明の態様5において、上記誘導部材は、上記スプレーノズルが稼働する方向に沿って延在する構成であってよい。
【0075】
上記の構成によれば、上記スプレーノズルが稼働した場合においても、上記固相粒子の回収効率を維持することができる。
【0076】
本発明の態様7に係る固相粒子回収システムでは、本発明の態様5または6において、上記誘導部材は、上記開口の下方に位置する構成であってよい。
【0077】
上記の構成によれば、上記固相粒子の回収効率をさらに高めることができる。
【0078】
本発明の態様8に係る固相粒子回収システムでは、本発明の態様7において、上記開口の開口中心は、上記スプレーノズルの側面から横方向に5mm以上30mm以下の位置であって、かつ、上記基材から5mm以上20mm以内の高さに位置決めされる構成であってよい。
【0079】
上記の構成によれば、上記固相粒子の回収効率の改善が期待できる。
【0080】
本発明の態様9に係る固相粒子回収システムでは、本発明の態様5から8の何れかにおいて、上記誘導部材の、上記スプレーノズルが稼働する方向に対して垂直な断面の形状は、矩形、正方形、三角形、円形、または弧状であってよい。
【0081】
上記の構成によれば、飛散する固相粒子を効率的に回収することができる。
【0082】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0083】
1 アタッチメント
2 係合部
3 開口部
3a、3b 開口
30a、30b 固相粒子
10、10a、10b 治具(誘導部材)
20 回収部
21 集塵機
22 ホース
25 固相粒子回収装置
40 固相粒子回収システム
100 コールドスプレー装置
110 タンク
120 ヒーター
130 スプレーノズル
140 フィーダ
150 基材ホルダー
170 基材
図1
図2
図3
図4
図5
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図8
図9