(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-13
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット、及び、スパッタリングターゲットの製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20220118BHJP
【FI】
C23C14/34 A
(21)【出願番号】P 2018013604
(22)【出願日】2018-01-30
【審査請求日】2020-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】山口 剛
(72)【発明者】
【氏名】陸田 雄也
(72)【発明者】
【氏名】井尾 謙介
(72)【発明者】
【氏名】河村 栞里
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-147511(JP,A)
【文献】特開2009-197279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
B22F 1/00-8/00
C22C 1/04-1/05
C22C 33/02
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属クロム相と窒化クロム相とを有するスパッタリングターゲットであって、
前記金属クロム相の母相中に、前記窒化クロム相が分散している
とともに、酸化クロム相が存在していることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項2】
請求項1に記載のスパッタリングターゲットを製造するスパッタリングターゲットの製造方法であって、
窒化クロム粉と金属クロム粉と
酸化クロム粉とを混合して焼結原料粉を得る焼結原料粉形成工程と、前記焼結原料粉を加圧しながら加熱して焼結体を得る焼結工程と、を有し、
前記焼結原料粉形成工程では、前記窒化クロム粉の平均粒径D
Nと前記金属クロム粉の平均粒径D
Mとの比D
N/D
Mを1未満とし、かつ、前記窒化クロム粉の体積V
Nと前記金属クロム粉の体積V
Mとの比V
N/V
Mを3未満とすることを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素含有クロム膜を形成する際に用いられるスパッタリングターゲット、及び、このスパッタリングターゲットの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上述の窒素含有クロム膜は、例えば特許文献1に示すように、半導体集積回路の回路パターンを形成する際に使用するフォトマスク等や、例えば特許文献2に示すように、圧力センサや加速度センサ等の歪ゲージ用薄膜として、利用されている。
このような窒素含有クロム膜を成膜する方法としては、特許文献1、2に示すように、スパッタリングターゲットを用いたスパッタ法が提案されている。
【0003】
ここで、特許文献1の段落番号0006には、従来技術として、金属クロム粉末と窒化クロム粉末を混合して焼結した焼結体からなるスパッタリングターゲット、及び、窒化クロム粉末のみを焼結した焼結体からなるスパッタリングターゲットが開示されている。そして、金属クロム粉末と窒化クロム粉末を混合して焼結した焼結体からなるスパッタリングターゲットにおいては、窒化クロム粉末の分散が不均一となり、窒素の分布が一様にならないといった問題がある、と指摘している。また、窒化クロム粉末のみを焼結した焼結体からなるスパッタリングターゲットにおいては、加工不良が多発し、製造歩留りが低下するといった問題がある、と指摘している。
そして、特許文献1においては、金属クロム粉末の表面を窒化させた窒化クロム粉末を形成し、これを焼結した焼結体からなるスパッタリングターゲットが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平08-003737号公報
【文献】特開平07-306002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1において提案されたスパッタリングターゲットにおいては、金属クロム粉末の表面を窒化させた窒化クロム粉末を焼結させていることから、窒化クロム相の中に金属クロム相が分散した組織とされている。ここで、上述の窒化クロム粉末においては、表面が窒化クロムとされているので、焼結性が不十分となりやすく、長時間スパッタ成膜した際に、パーティクルが生じ、異常放電が発生し、安定して成膜することができないおそれがあった。
【0006】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、長時間スパッタ成膜した場合であっても異常放電の発生を抑制でき、安定して成膜することが可能であり、かつ、窒素のばらつきが小さく均一な窒素濃度の窒素含有クロム膜を成膜可能なスパッタリングターゲット、及び、スパッタリングターゲットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のスパッタリングターゲットは、金属クロム相と窒化クロム相とを有するスパッタリングターゲットであって、前記金属クロム相の母相中に、前記窒化クロム相が分散しているとともに、酸化クロム相が存在していることを特徴としている。
【0008】
本発明のスパッタリングターゲットによれば、前記金属クロム相の母相中に、前記窒化クロム相が分散した組織とされているので、金属クロム相同士がネットワークを構築しており、確実に焼結されていることになる。よって、長時間スパッタ成膜した場合であっても、異常放電の発生を抑制することができ、安定してスパッタ成膜を行うことが可能となる。
【0009】
本発明のスパッタリングターゲットの製造方法は、上述のスパッタリングターゲットを製造するスパッタリングターゲットの製造方法であって窒化クロム粉と金属クロム粉と酸化クロム粉とを混合して焼結原料粉を得る焼結原料粉形成工程と、前記焼結原料粉を加圧しながら加熱して焼結体を得る焼結工程と、を有し、前記焼結原料粉形成工程では、前記窒化クロム粉の平均粒径DNと前記金属クロム粉の平均粒径DMとの比DN/DMを1未満とし、かつ、前記窒化クロム粉の体積VNと前記金属クロム粉の体積VMとの比VN/VMを3未満とすることを特徴としている。
【0010】
本発明のスパッタリングターゲットの製造方法によれば、焼結原料粉形成工程において、前記窒化クロム粉の平均粒径DNと前記金属クロム粉の平均粒径DMとの比DN/DMを1未満とし、かつ、前記窒化クロム粉の体積VNと前記金属クロム粉の体積VMとの比VN/VMを3未満としているので、金属クロム粉末が変形して窒化クロム粉末を覆い、金属クロム粉末同士が焼結することになり、前記金属クロム相の母相中に、前記窒化クロム相が分散した組織の焼結体を得ることができる。よって、金属クロム相同士がネットワークを構築することができ、確実に焼結することが可能となる。これにより、長時間スパッタ成膜した場合であっても、異常放電の発生を抑制することができ、安定してスパッタ成膜を行うことが可能なスパッタリングターゲットを製造することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、長時間スパッタ成膜した場合であっても異常放電の発生を抑制し、安定して成膜することが可能であり、かつ、窒素のばらつきが小さく均一な窒素濃度の窒素含有クロム膜を成膜可能なスパッタリングターゲット、及び、スパッタリングターゲットの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】ターゲット形状が平板で、スパッタ面が円形をなすスパッタリングターゲットのスパッタ面における窒素濃度の測定位置を示す説明図である。
【
図2】ターゲット形状が平板で、スパッタ面が矩形をなすスパッタリングターゲットのスパッタ面における窒素濃度の測定位置を示す説明図である。
【
図3】ターゲット形状が円筒で、スパッタ面が円筒外周面であるスパッタリングターゲットのスパッタ面における窒素濃度の測定位置を示す説明図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係るスパッタリングターゲットの製造方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の一実施形態であるスパッタリングターゲット、及び、スパッタリングターゲットの製造方法について説明する。なお、本実施形態であるスパッタリングターゲットは、窒素含有クロム膜を成膜する際に用いられるものである。
【0014】
本実施形態であるスパッタリングターゲットは、金属クロム粉と窒化クロム粉の焼結体からなり、金属クロム相と窒化クロム相とを有しており、金属クロム相の母相中に、窒化クロム相が分散した組織とされている。
【0015】
そして、本実施形態であるスパッタリングターゲットにおいては、スパッタ面における窒素含有量のばらつきが25%以下とされている。
なお、スパッタ面における窒素含有量のばらつきは、下記式によって求められる。
(ばらつき)%= 標準偏差/平均値×100
【0016】
ここで、本実施形態においては、スパッタリングターゲットの形状が平板で、スパッタ面が円形をなす場合には、
図1に示すように、円の中心(1)、及び、円の中心を通過するとともに互いに直交する2本の直線上の外周部分(2)、(3)、(4)、(5)の5点で窒素含有量を測定し、スパッタ面における窒素含有量のばらつきを求める。
【0017】
また、スパッタリングターゲットの形状が平板で、スパッタ面が矩形をなす場合には、
図2に示すように、対角線が交差する交点(1)と、各対角線上の角部(2)、(3)、(4)、(5)の5点で窒素含有量を測定し、スパッタ面における窒素含有量のばらつきを求める。
【0018】
さらに、スパッタリングターゲットの形状が円筒で、スパッタ面が円筒外周面である場合は、
図3に示すように、軸線O方向に半分の地点から外周方向に90°間隔の(1)、(2)、(3)、(4)、及び、軸線O方向の端部で外周方向に90°間隔の(5)、(6)、(7)、(8)の合計8点で窒素含有量を測定し、スパッタ面における窒素含有量のばらつきを求める。
【0019】
ここで、窒化クロム相は、CrNまたはCr2Nを主体としている。なお、スパッタリングターゲット中には、窒化クロム相とともに、酸化クロム相が存在していてもよい。
また、本実施形態であるスパッタリングターゲットにおいては、窒素含有量が1mass%以上15mass%以下の範囲内とされている。
さらに、本実施形態であるスパッタリングターゲットにおいては、相対密度が98%以上とされている。
【0020】
次に、本実施形態であるスパッタリングターゲットの製造方法について説明する。
まず、窒化クロム粉と金属クロム粉を混合して、焼結原料粉を得る(焼結原料粉形成工程S01)。
ここで、金属クロム粉としては、質量比で純度99.99%以上(4N)以上のものを使用することが好ましい。
また、窒化クロム粉としては、CrN粉、Cr2N粉、及び、これらの混合粉末を用いることができる。CrN粉末及びCr2N粉末は、金属成分中のCrの純度が質量比で99%以上(2N)以上のものを使用することが好ましい。
なお、金属クロム粉及び窒化クロム粉に加えて、酸化クロム粉を添加してもよい。酸化クロム粉としては、例えば、金属成分中のCrの純度が質量比で99%以上(2N)以上のCr2O3粉等を用いることができる。
【0021】
この焼結原料粉形成工程S01においては、窒化クロム粉の平均粒径DNと金属クロム粉の平均粒径DMとの比DN/DMを1未満とする。
さらに、焼結原料粉形成工程S01においては、窒化クロム粉の体積VNと金属クロム粉の体積VMとの比VN/VMを3未満とする。
ここで、焼結原料粉における窒素含有量と、上述の体積比VN/VMを調整することにより、スパッタリングターゲットにおける窒素含有量が調整されることになる。
【0022】
秤量された窒化クロム粉と金属クロム粉を、ボールミル、ヘンシェルミキサー、ブレンダー等の混合装置によって混合し、原料粉末とする。このとき、金属クロム粉の酸化を防ぐために、混合装置内の雰囲気をAr等の不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。
この焼結原料粉形成工程S01において、窒化クロム粉と金属クロム粉とを十分に混合することにより、焼結体における窒素含有量を均一化することができる。
【0023】
次に、上述の焼結原料粉を加圧加熱することにより焼結して焼結体を得る(焼結工程S02)。
この焼結工程S02においては、ホットプレス装置を用いて焼結を行ってもよい。この場合、焼結温度を1100℃以上1400℃以下の範囲内、保持時間2時間以上5時間以下、圧力20MPa以上40MPa以下の条件で実施することが好ましい。なお、焼結温度は1250℃以上1350℃以下の範囲内とすることが好ましい。
また、焼結工程S02においては、HIP装置を用いて焼結を行ってもよい。この場合、焼結原料粉を充填した後、真空度1.5Pa以下、保持温度500℃以上600℃以下、保持時間5時間以上の条件で脱ガス処理を行い、その後、HIP装置で、焼結温度1100℃以上1400℃以下の範囲内、保持時間1時間以上3時間以下、圧力90MPa以上110MPa以下の条件で実施することが好ましい。なお、焼結温度は1200℃以上1300℃以下の範囲とすることが好ましい。
【0024】
そして、焼結工程S02によって得られた焼結体を所定の寸法となるように機械加工する(機械加工工程S03)。
以上により、本実施形態であるスパッタリングターゲットが製造される。
【0025】
以上のような構成とされた本実施形態であるスパッタリングターゲットにおいては、金属クロム相の母相中に窒化クロム相が分散した組織とされており、金属クロム相同士がネットワークを構築しているので、金属クロムが十分に焼結によって結合されており、長時間スパッタ成膜した場合であっても、異常放電の発生を抑制することができ、安定してスパッタ成膜を行うことが可能となる。
【0026】
そして、本実施形態であるスパッタリングターゲットにおいては、スパッタ面における窒素含有量のばらつきが25%以下とされているので、窒素濃度が均一な窒素含有クロム膜を成膜することが可能となる。
【0027】
また、本実施形態であるスパッタリングターゲットにおいては、窒素含有量が1mass%以上15mass%以下の範囲内とされているので、窒素含有クロム膜を確実に成膜することができる。
さらに、本実施形態であるスパッタリングターゲットにおいては、相対密度が98%以上とされているので、スパッタ成膜時に異常放電が発生することをさらに抑制でき、安定してスパッタ成膜することができる。
【0028】
また、本実施形態であるスパッタリングターゲットの製造方法によれば、焼結原料粉形成工程S01においては、窒化クロム粉の平均粒径DNと金属クロム粉の平均粒径DMとの比DN/DMを1未満とし、かつ、窒化クロム粉の体積VNと金属クロム粉の体積VMとの比VN/VMを3未満としているので、金属クロム粉末が変形して窒化クロム粉末を覆い、金属クロム粉末同士が焼結することになり、金属クロム相の母相中に窒化クロム相が分散した組織の焼結体を得ることができる。よって、長時間スパッタ成膜した場合であっても、異常放電の発生を抑制することができ、安定してスパッタ成膜を行うことが可能なスパッタリングターゲットを製造することができる。
また、窒化クロム粉が均一に分散されることになり、スパッタ面における窒素含有量のばらつきを25%以下とすることができる。
【0029】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
本実施形態では、ホットプレス装置、あるいは、HIP装置を用いて焼結を行うものとして説明したが、これに限定されることはなく、他の焼結装置を用いてもよい。
【実施例】
【0030】
以下に、本発明の有効性を確認するために行った確認実験の結果について説明する。
【0031】
原料粉として、金属クロム粉(純度:99.9mass%以上)、CrN粉(金属成分中のCrの純度:99mass%以上)、Cr2N粉(金属成分中のCrの純度:99mass%以上)、Cr2O3粉(金属成分中のCrの純度:99mass%以上、平均粒径3μm)を準備した。
そして、表1に示す平均粒径の金属クロム粉、CrN粉、Cr2N粉を、表1に示す体積比で混合した。なお、本発明例11,12においては、表1に記載する量のCr2O3粉を添加した。
また、従来例においては、金属クロム粉に対して、窒化処理を実施し、表面に窒化クロム層を形成した金属クロム粉を準備した。なお、窒化処理は、ロータリーキルン炉にて真空アルゴン置換した後に900℃まで昇温し、その後、従来例の窒素濃度となるようにアルゴンガスと窒素ガスの混合ガスを流し、30分間加熱した。
【0032】
これらの原料粉を、Arガス雰囲気とされた乾式ボールミル装置のポリエチレン製容器(10L)の中に投入する。このとき、ポリエチレン製容器内に、直径5mmのジルコニアボールを5kg、直径10mmのジルコニアボールを5kg投入した。そして、回転数73rpmで18時間混合した。これにより、焼結原料粉を得た。
【0033】
そして、表2に示すように、HIP法、あるいは、ホットプレス(HP)法によって焼結し、得られた焼結体を機械加工することにより、円板形状(直径6インチ、厚み6mm)、あるいは、円筒形状(外径160mm、内径135mm、長さ600mm)のスパッタリングターゲットを得た。
【0034】
HIP法では、焼結条件を、保持温度1300℃、圧力98MPa、保持時間2時間とした。
ホットプレス(HP)法では、焼結条件を、保持温度1350℃、圧力35MPa、保持時間3時間とした。
【0035】
上述のようにして得られたスパッタリングターゲットについて、以下の項目について評価した。
【0036】
(スパッタリングターゲットの組成)
スパッタリングターゲット中の窒素含有量を、不活性ガス融解-熱伝導度検出法によって測定し、残部をCrとした。また、酸素含有量は、不活性ガス融解-熱伝導検出法によって測定した。評価結果を表2に示す。
【0037】
(スパッタリングターゲットの相対密度)
重量と寸法より密度を算出した。そして、Cr:7.19g/cm3,Cr2N:6.51g/cm3,CrN:5.90g/cm3、Cr2O3:5.21g/cm3として、理論密度を算出し、相対密度を算出した。
測定の結果、作製したすべてのスパッタリングターゲットの相対密度は95%以上であった。
【0038】
(スパッタリングターゲットの相対密度)
スパッタリングターゲットについて、組織観察を行った。EPMA(電子プローブマイクロアナライザー)JXA9500Fを用いて、加速電圧15kVにて元素マッピングを行い、組織を観察した。
ここで、金属クロム相を母相とし、この金属クロム相中に窒化クロム相が分散されたものを「A」、窒化クロム相を母相とし、この窒化クロム相中に金属クロム相が分散されたものを「B」、窒化クロム相単体のものを「C」として表2に表記した。
【0039】
(窒素含有量のばらつき)
円板形状のスパッタリングターゲットにおいては、
図1に示すように、スパッタ面内の5箇所(1)~(5)の測定点について、窒素含有量を不活性ガス融解-熱伝導度検出法によって測定した。
円筒形状のスパッタリングターゲットにおいては、
図3に示すように、スパッタ面内の8箇所(1)~(8)の測定点について、窒素含有量を不活性ガス融解-熱伝導度検出法によって測定した。
そして、以下の式により、窒素含有量のばらつきを評価した。
(ばらつき)%= 標準偏差/平均値×100
【0040】
(異常放電回数)
得られたスパッタリングターゲットについて、スパッタリング時の異常放電発生回数を以下の手順で測定した。
円板形状のスパッタリングターゲットにおいては、Cuのバッキングプレートに装着して、以下の成膜条件により、成膜試験を行った。
到達真空度:7×10-4Pa
ガス流量:Ar 50sccm
スパッタ雰囲気:0.67Pa
電力:500W
全圧:0.4Pa
【0041】
また、円筒形状のスパッタリングターゲットにおいては、SUS製のバッキングチューブに装着し、以下の成膜条件により、成膜試験を行った。
到達真空度:7×10-4Pa
ガス流量:Ar 50sccm
スパッタ雰囲気:0.67Pa
電力:1000W
【0042】
上記成膜条件において12時間のスパッタリングを行い、その後の6時間のスパッタリング時において、異常放電の発生回数をスパッタ電源装置に付属したアーキングカウンターにて自動的にその回数を計測した。
【0043】
【0044】
【0045】
金属クロム粉に対して、窒化処理を実施し、表面に窒化クロム層を形成した金属クロム粉を用いた従来例1,2においては、窒化クロム相中に金属クロム相が分散された組織を有しており、異常放電回数が非常に多くなり、安定してスパッタ成膜を行うことができなかった。
【0046】
金属クロム粉と窒化クロム粉の粒径の比率、体積比が本発明の範囲を満足しない比較例1-5,7においては、窒化クロム相中に金属クロム相が分散された組織を有しており、異常放電回数が多くなり、安定してスパッタ成膜を行うことができなかった。
窒化クロム粉のみを用いた比較例6においては、異常放電回数が多くなり、安定してスパッタ成膜を行うことができなかった。
【0047】
これに対して、金属クロム粉と窒化クロム粉の粒径の比率、体積比が本発明の範囲を満足する本発明例11,12においては、金属クロム相中に窒化クロム相が分散された組織を有しており、異常放電回数が少なく、安定してスパッタ成膜を行うことができた。
【0048】
以上のように、本発明例によれば、長時間スパッタ成膜した場合であっても異常放電の発生を抑制し、安定して成膜することが可能であり、かつ、窒素のばらつきが小さく均一な窒素濃度の窒素含有クロム膜を成膜可能なスパッタリングターゲットを提供可能であることが確認された。