(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-13
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】蓄電素子
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20220118BHJP
H01M 10/0525 20100101ALI20220118BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20220118BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20220118BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20220118BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20220118BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20220118BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M10/0525
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/587
H01M4/131
H01M4/133
(21)【出願番号】P 2017215586
(22)【出願日】2017-11-08
【審査請求日】2020-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(72)【発明者】
【氏名】加古 智典
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 明彦
(72)【発明者】
【氏名】中井 健太
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 祥太
【審査官】菊地 リチャード平八郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-286614(JP,A)
【文献】特開2005-340089(JP,A)
【文献】国際公開第2017/122759(WO,A1)
【文献】特開2017-152177(JP,A)
【文献】特開2016-186886(JP,A)
【文献】特開2004-087492(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/00-4/62
H01G 11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極とを備え、
前記正極は、正極活物質を含む正極活物質層を有し、
前記正極活物質は、Li
x
Co
y
Ni
z
Mn
(1-y-z)
O
2
(ただし、0.95≦x≦1.2、0.1≦y≦0.34、0<z、1-y-z>0)の組成式で表されるリチウム金属複合酸化物であり、
前記負極は、負極活物質を含む負極活物質層を有し、
前記負極活物質は、難黒鉛化炭素であり、
前記正極活物質は、一次粒子が凝集した二次粒子を含み、
前記正極活物質の二次粒子を構成する一次粒子の平均粒子径をFPμmとし、前記負極活物質層の負極活物質の平均粒子径D50をDNμmとしたときに、
前記DNは、1.0μm以上5.9μm以下であり、
前記FP及び前記DNは、
0.070≦FP/DN≦0.875の関係式(1)を満たし、
前記正極活物質の平均粒子径D50をDPμmとしたときに、前記DP及び前記DNは、
0.7≦DP/DN≦5.0の関係式(2)を満たし、
前記正極活物質層の厚さをTPμmとし、前記負極活物質層の厚さをTNμmとしたときに、前記TP及び前記TNは、
0.7≦TP/TN≦1.05の関係式(3)を満たす、蓄電素子。
【請求項2】
前記正極活物質層は、前記正極活物質と導電助剤とバインダとを含み、前記負極活物質層は、前記負極活物質とバインダとを含む、請求項1に記載の蓄電素子。
【請求項3】
前記FPは、0.1μm以上3.0μm以下であり、前記DPは、1μm以上50μm以下である、請求項1又は2に記載の蓄電素子。
【請求項4】
前記TPは、5μm以上100μm以下であり、前記TNは、5μm以上100μm以下である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の蓄電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池などの蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、正極と負極と非水電解液とを有するリチウムイオン電池が知られている。この種の電池としては、負極が、黒鉛及び非晶質カーボンの少なくとも一方を含む負極活物質と、黒鉛を含む導電助材と、結着剤と、を有する電池が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1に記載の電池では、負極活物質が、球状または塊状の形状を有し、導電助材が、板状の形状を有し、負極活物質の表面に導電助材のエッジ面の一部が接している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本実施形態は、比較的高い初期出力を有することができ且つ高レートで繰り返し充放電が繰り返されてもリチウム電析の生成を抑制できる蓄電素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態の蓄電素子は、正極と負極とを備え、
正極は、正極活物質を含む正極活物質層を有し、
負極は、負極活物質を含む負極活物質層を有し、
正極活物質は、一次粒子が凝集した二次粒子を含み、
正極活物質の二次粒子を構成する一次粒子の平均粒子径をFPμmとし、負極活物質層の負極活物質の平均粒子径D50をDNμmとしたときに、FP及びDNは、
0.070≦FP/DN≦0.875 の関係式(1)を満たし、
正極活物質の平均粒子径D50をDPμmとしたときに、DP及びDNは、0.7≦DP/DN≦5.0 の関係式(2)を満たし、
正極活物質層の厚さをTPμmとし、負極活物質層の厚さをTNμmとしたときに、TP及びTNは、0.7≦TP/TN≦1.05 の関係式(3)を満たす。
【発明の効果】
【0007】
本実施形態によれば、比較的高い初期出力を有することができ且つ高レートで繰り返し充放電が繰り返されてもリチウム電析の生成を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る蓄電素子の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る蓄電素子の一実施形態について、
図1及び
図2を参照しつつ説明する。蓄電素子には、二次電池、キャパシタ等がある。本実施形態では、蓄電素子の一例として、充放電可能な二次電池について説明する。尚、本実施形態の各構成部材(各構成要素)の名称は、本実施形態におけるものであり、背景技術における各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0010】
本実施形態の蓄電素子1は、非水電解質二次電池である。より詳しくは、蓄電素子1は、リチウムイオンの移動に伴って生じる電子移動を利用したリチウムイオン二次電池である。この種の蓄電素子1は、電気エネルギーを供給する。蓄電素子1は、単一又は複数で使用される。具体的に、蓄電素子1は、要求される出力及び要求される電圧が小さいときには、単一で使用される。一方、蓄電素子1は、要求される出力及び要求される電圧の少なくとも一方が大きいときには、他の蓄電素子1と組み合わされて蓄電装置に用いられる。前記蓄電装置では、該蓄電装置に用いられる蓄電素子1が電気エネルギーを供給する。
【0011】
蓄電素子1は、
図1及び
図2に示すように、正極と負極とを含む電極体2と、電極体2を収容するケース3と、ケース3の外側に配置される外部端子7であって電極体2と導通する外部端子7と、を備える。また、蓄電素子1は、電極体2、ケース3、及び外部端子7の他に、電極体2と外部端子7とを導通させる集電部材5等を有する。
【0012】
電極体2は、正極と負極とがセパレータによって互いに絶縁された状態で積層された積層体22が巻回されることによって形成される。
【0013】
正極は、金属箔(正極基材)と、金属箔の表面に重ねられ且つ活物質を含む活物質層と、を有する。本実施形態では、活物質層は、金属箔の両方の面にそれぞれ重なる。なお、正極の厚さは、20μm以上150μm以下であってもよい。
【0014】
金属箔は帯状である。本実施形態の正極の金属箔は、例えば、アルミニウム箔である。正極は、帯形状の短手方向である幅方向の一方の端縁部に、正極活物質層の非被覆部(正極活物質層が形成されていない部位)を有する。
【0015】
正極活物質層は、粒子状の活物質(正極活物質)と、粒子状の導電助剤と、バインダとを含む。正極活物質は、一次粒子が凝集した二次粒子を含む。換言すると、正極活物質層は、正極活物質の一次粒子が凝集した二次粒子を含む。二次粒子では、一次粒子同士が互いに固着していてもよい。二次粒子は、中空状であってもよい。二次粒子が中空状である場合、二次粒子の内部に電解液が入ることから、高レートにおける充放電特性がより向上する。
【0016】
二次粒子を構成する一次粒子の平均値(以下、FPともいう)は、0.1μm以上3.0μm以下であってもよい。斯かる一次粒子の平均値は、正極活物質層を厚さ方向に切断した断面図の走査型電子顕微鏡観察像において、少なくとも100個の一次粒子径の直径を測定し、測定値を平均することによって求められる。一次粒子が真球状でない場合、最も長い径を直径として測定する。測定方法の詳細については、実施例に記載されている。
【0017】
正極活物質層(1層分)の厚さ(以下、TPともいう)は、5μm以上100μm以下であってもよい。厚さは、ランダムに選んだ少なくとも5箇所の厚さを測定した平均値である。具体的に、厚さの測定前に、例えば電池を5Aの電流で2.0Vまで放電した後、5時間2.0Vで保持する。保持後、5時間休止させ、電池をドライルームまたはアルゴン雰囲気化のグローブボックス内に置いた状態で、容器内から電極体2を取り出す。電極体2から正極を取り出し、純度99.9質量以上,水分量20ppm以下のジメチルカーボネート(DMC)で3回以上洗浄した後、真空乾燥によりDMCを除去する。さらに、正極の金属箔と、金属箔の両面に重なった活物質層とを含む、ランダムに選んだ少なくとも5箇所の厚さを測定する。平均値から金属箔の厚さを差し引き、差し引いた後の厚さを半分にすることで、1層分の厚さTPを算出する。正極活物質層(1層分)の目付量は、1mg/cm2以上100mg/cm2 以下 であってもよい。正極活物質層の密度は、0.5g/cm3 以上5.0g/cm3 以下であってもよい。密度は、金属箔の一方の面を覆うように配置された1層分における密度である。
【0018】
正極活物質は、リチウムイオンを吸蔵放出可能な化合物である。正極活物質の平均粒子径D50(以下、DPともいう)は、1μm以上50μm以下であってもよい。活物質の平均粒子径D50は、粒径の粒度分布において小径側から体積累積分布を描き、体積累積頻度が50%となる平均粒子径(メディアン径とも呼ばれる)である。平均粒子径D50は、レーザ回折・散乱式の粒度分布測定装置を用いたレーザ回折法によって求める。測定条件については、実施例において詳しく説明する。なお、製造された電池の活物質の平均粒子径D50を測定する場合、例えば、電池を放電した後、該電池を乾燥雰囲気下で解体する。次に、活物質層を取り出してジメチルカーボネートで洗浄して砕いた後、2時間以上真空乾燥する。その後、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)中で超音波により粒子の分散処理を行う。分散処理後の分散液を粒度分布測定装置を用いて測定し、平均粒子径D50を求めることができる。なお、活物質と導電助剤とは、比重差などによって分離することができる。
【0019】
正極活物質としては、例えば、LixMOn(Mは少なくとも一種の遷移金属を表し、0.95≦x≦1.2、nが2以上4以下の整数)の組成式で表されるリチウム金属複合酸化物が挙げられる。斯かるリチウム金属複合酸化物としては、LixCoO2、LixNiO2、LixMn2O4、LixMnO3、LixCoyNi(1-y)O2、LixCoyNizMn(1-y-z)O2、LixNizMn(2-z)O4などが挙げられる(0<y<1、0<z<1)。
正極活物質としては、例えば、LiaMeb(AOc)d(Meは少なくとも一種の遷移金属を表し、Aは例えばP、Si、B、Vであり、0.95≦a≦1.2、bが1又は2であり、cが4であり、dが1以上3以下の整数である)で表されるポリアニオン化合物が挙げられる。また、斯かるポリアニオン化合物としては、LiFePO4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiCoPO4、Li3V2(PO4)3、Li2MnSiO4、Li2CoPO4Fなどが挙げられる。
上記の化合物中の元素又はポリアニオンの一部は、他の元素又は他のアニオン種で置換されていてもよい。粒子状の活物質の表面は、ZrO2、MgO、Al2O3などの金属酸化物や炭素で被覆されてもよい。正極活物質としては、ジスルフィド、ポリピロール、ポリアニリン、ポリパラスチレン、ポリアセチレン、ポリアセン系材料などの導電性高分子化合物、擬黒鉛構造炭素質材料等を用いることもできる。正極活物質の材料は、これらに限定されるものではない。正極活物質は、これらの化合物の1種単独物であってもよく、2種以上の混合物であってもよい。
【0020】
本実施形態では、正極活物質は、リチウム金属複合酸化物である。斯かるリチウム金属複合酸化物は、LixCoyNizMn(1-y-z)O2(ただし、0.95≦x≦1.2、0.1≦y≦0.34、0<z、1-y-z>0)の組成式で表されるものであることが好ましい。斯かる組成式で表されるリチウム金属複合酸化物であることによって、高レートで繰り返し充放電が繰り返されてもリチウム電析の生成をより十分に抑制できる。
【0021】
上記のごときLipNiqMnrCosOtの化学組成で表されるリチウム金属複合酸化物は、例えば、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNi1/6Co1/6Mn2/3O2、LiCoO2 などである。
【0022】
正極活物質層に用いられるバインダは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エチレンとビニルアルコールとの共重合体、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレンブタジエンゴム(SBR)である。本実施形態のバインダは、ポリフッ化ビニリデンである。
【0023】
正極活物質層の導電助剤は、炭素を98質量%以上含む炭素質材料である。炭素質材料は、例えば、ケッチェンブラック(登録商標)、アセチレンブラック、黒鉛等である。本実施形態の正極活物質層は、導電助剤としてアセチレンブラックを有する。
【0024】
負極は、金属箔(負極基材)と、金属箔の上に形成された負極活物質層と、を有する。本実施形態では、負極活物質層は、金属箔の両面にそれぞれ重ねられる。金属箔は帯状である。本実施形態の負極の金属箔は、例えば、銅箔である。負極は、帯形状の短手方向である幅方向の一方の端縁部に、負極活物質層の非被覆部(負極活物質層が形成されていない部位)を有する。負極の厚さは、5μm以上100μm以下であってもよい。
【0025】
負極活物質層は、粒子状の活物質(負極活物質)と、バインダと、を含む。負極活物質層は、セパレータを介して正極と向き合うように配置される。負極活物質層の幅は、正極活物質層の幅よりも大きい。
【0026】
負極活物質層では、バインダの比率は、負極活物質とバインダとの合計質量に対して、5質量%以上10質量%以下であってもよい。
【0027】
負極活物質は、負極において充電反応及び放電反応の電極反応に寄与し得るものである。例えば、負極活物質は、グラファイト、非晶質炭素(難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素)などの炭素材料、又は、ケイ素(Si)及び錫(Sn)などリチウムイオンと合金化反応を生じる材料である。本実施形態の負極活物質は、非晶質炭素であることが好ましく、難黒鉛化炭素であることがより好ましい。なお,本明細書における非晶質炭素とは、放電状態で解体後に水洗および乾燥した後の状態において、線源としてCuKα線を用いた広角X線回折法によって求められる(002)面の平均面間隔d002が、0.340nm以上0.390nm以下のものである。また、難黒鉛化炭素とは、前記平均面間隔d002が、0.360nm以上0.390nm以下のものである。負極活物質が非晶質炭素であることによって、活物質の粒子径に応じてLiイオンの挿入サイトの数がより変動する。即ち、活物質の粒子径が小さくなり単位体積あたりの表面積が大きくなると、Liイオンの挿入サイトがより増える。従って、リチウム電析の生成をより抑制できる。
【0028】
負極活物質の平均粒子径D50(以下、DNともいう)は、1μm以上10μm以下であってもよい。平均粒子径D50は、1.0μm以上5.9μm以下であることが好ましい。上記DN(負極活物質の平均粒子径D50)が、1.0μm以上5.9μm以下であることによって、より確実に、比較的高い初期出力を有することができ且つ高レートで繰り返し充放電が繰り返されてもリチウム電析の生成を抑制できる。なお、負極活物質の平均粒子径D50は、上記のごとく、正極活物質の平均粒子径D50と同様にして測定される。
【0029】
負極活物質層(1層分)の厚さ(以下、TNともいう)は、5μm以上100μm以下であってもよい。厚さは、上述した正極活物質層の厚さと同様にして測定する。負極活物質層の目付量(1層分)は、1mg/cm2以上100mg/cm2 以下であってもよい。負極活物質層の密度(1層分)は、0.5g/cm3以上5.0g/cm3 以下であってもよい。
【0030】
負極活物質層に用いられるバインダは、正極活物質層に用いられたバインダと同様のものである。本実施形態のバインダは、ポリフッ化ビニリデンである。
【0031】
負極活物質層は、ケッチェンブラック(登録商標)、アセチレンブラック、黒鉛等の導電助剤をさらに有してもよい。
【0032】
正極活物質の二次粒子を構成する一次粒子の平均粒子径をFPμmとし、負極活物質の平均粒子径D50をDNμmとしたときに、FP及びDNは、
0.070≦FP/DN≦0.875 の関係式(1)を満たす。
関係式(1)のうち、0.070≦FP/DNであることによって、高レートでの充電時であっても、正極活物質から移動してきたLiイオンが負極活物質内に挿入されやすい。従って、負極活物質の表面でLiイオンが還元されてLi電析が生じることが起こりにくい。これにより、高レートで繰り返し充放電が繰り返されてもリチウム電析の生成を抑制できる。また、FP/DN≦0.875であることによって、比較的高い初期出力を有することができる。
【0033】
正極活物質の平均粒子径D50をDPμmとしたときに、DP及びDNは、0.7≦DP/DN≦5.0 の関係式(2)を満たす。0.7<DP/DNであってもよく、0.75≦DP/DNであってもよい。上記関係式(2)のうち、0.7≦DP/DNであることよって、充電時において、負極活物質あたりの電流密度が正極活物質あたりの電流密度よりも大きくなり得る。これにより、負極活物質の表面でLiイオンが還元されてLi電析が生じることが起こりにくい。従って、高レートで繰り返し充放電が繰り返されてもリチウム電析の生成をより十分に抑制できる。一方、DP/DN≦5.0であることによって、高レートで充電を行ったときでも、負極活物質層における充電深度のばらつきが抑えられる。また、高負荷でサイクル充放電が行われたときに充電深度が深くなった部分でLi電析が生じることを抑制できる。また、DP/DN≦5.0であることによって、比較的高い初期出力を有することができる。
【0034】
正極活物質層の厚さをTPμmとし、負極活物質層の厚さをTNμmとしたときに、TP及びTNは、0.7≦TP/TN≦1.05 の関係式(3)を満たす。0.9≦TP/TN≦1.0であってもよい。関係式(3)に示されるように、正極活物質層の厚さと、負極活物質層の厚さとの比が近いことによって、充放電時において、活物質層の厚さ方向での反応の偏りが抑制される。充電時に、充電深度が高くなるとLi電析が生じ得るが、関係式(3)が満たされていることによって、負極活物質層の金属箔側よりもセパレータ側の方で充電深度が高くなってしまうことを抑制できる。これにより、高レートで繰り返し充放電が繰り返されてもリチウム電析の生成を抑制できる。
【0035】
以上のように、関係式(1)~関係式(3)のすべてが満たされることによって、本実施形態の蓄電素子1では、比較的高い初期出力を有することができ且つ高レートで繰り返し充放電が繰り返されてもリチウム電析の生成を抑制できる。
【0036】
本実施形態の電極体2では、以上のように構成される正極と負極とがセパレータによって絶縁された状態で巻回される。即ち、本実施形態の電極体2では、正極、負極、及びセパレータの積層体22が巻回される。セパレータは、絶縁性を有する部材である。セパレータは、正極と負極との間に配置される。これにより、電極体2(詳しくは、積層体22)において、正極と負極とが互いに絶縁される。また、セパレータは、ケース3内において、電解液を保持する。これにより、蓄電素子1の充放電時において、リチウムイオンが、セパレータを挟んで交互に積層される正極と負極との間を移動する。
【0037】
電極体2では、正極活物質層及び負極活物質層は、互いに対向し、正極活物質層及び負極活物質層が厚さ方向に互いに重なる部分の面積で、定格容量(後に詳述)を割った値である1CA電流密度は、0.8mA/cm2以上であってもよい。斯かる1CA電流密度は、1.4mA/cm2 以下であってもよい。斯かる1CA電流密度が0.8mA/cm2未満であれば、Li電析がやや生成しにくい一方で、0.8mA/cm2 以上であると、Li電析がやや生成しやすくなる。本実施形態の蓄電素子1では、斯かる1CA電流密度が0.8mA/cm2以上であっても、上記の関係式(1)~(3)の全てが満たされるため、リチウム電析の生成を十分に抑制できる。
【0038】
セパレータは、帯状である。セパレータは、多孔質なセパレータ基材を有する。本実施形態のセパレータは、セパレータ基材のみを有する。セパレータは、正極及び負極間の短絡を防ぐために正極及び負極の間に配置されている。
【0039】
セパレータ基材は、多孔質である。セパレータ基材は、例えば、織物、不織布、又は多孔膜である。セパレータ基材の材質としては、高分子化合物、ガラス、セラミックなどが挙げられる。高分子化合物としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)などのポリオレフィン(PO)、又は、セルロースが挙げられる。
【0040】
セパレータの幅(帯形状の短手方向の寸法)は、負極活物質層の幅より僅かに大きい。セパレータは、正極活物質層及び負極活物質層が重なるように幅方向に位置ずれした状態で重ね合わされた正極と負極との間に配置される。
【0041】
電解液は、非水溶液系電解液である。電解液は、有機溶媒に電解質塩を溶解させることによって得られる。有機溶媒は、例えば、プロピレンカーボネート及びエチレンカーボネートなどの環状炭酸エステル類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネートなどの鎖状カーボネート類である。電解質塩は、LiClO4、LiBF4、及びLiPF6等である。本実施形態の電解液は、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネートを所定の割合で混合した混合溶媒に、0.5~1.5mol/LのLiPF6を溶解させたものである。
【0042】
ケース3は、開口を有するケース本体31と、ケース本体31の開口を塞ぐ(閉じる)蓋板32と、を有する。ケース3は、電極体2及び集電部材5等と共に、電解液を内部空間に収容する。ケース3は、電解液に耐性を有する金属によって形成される。
【0043】
ケース3は、ケース本体31の開口周縁部と、長方形状の蓋板32の周縁部とを重ね合わせた状態で接合することによって形成される。また、ケース3は、ケース本体31と蓋板32とによって画定される内部空間を有する。本実施形態では、ケース本体31の開口周縁部と蓋板32の周縁部とは、溶接によって接合される。
【0044】
蓋板32は、ケース3内のガスを外部に排出可能なガス排出弁321を有する。ガス排出弁321は、ケース3の内部圧力が所定の圧力まで上昇したときに、該ケース3内から外部にガスを排出する。ガス排出弁321は、蓋板32の中央部に設けられる。
【0045】
ケース3には、電解液を注入するための注液孔が設けられる。注液孔は、ケース3の内部と外部とを連通する。注液孔は、蓋板32に設けられる。注液孔は、注液栓326によって密閉される(塞がれる)。注液栓326は、溶接によってケース3(本実施形態の例では蓋板32)に固定される。
【0046】
外部端子7は、他のリチウムイオン二次電池1の外部端子7又は外部機器等と電気的に接続される部位である。外部端子7は、導電性を有する部材によって形成される。外部端子7は、バスバ等が溶接可能な面71を有する。面71は、平面である。
【0047】
集電部材5は、ケース3内に配置され、電極体2と通電可能に直接又は間接に接続される。本実施形態の集電部材5は、導電性を有する部材によって形成される。集電部材5は、ケース3の内面に沿って配置される。集電部材5は、リチウムイオン二次電池1の正極と負極とにそれぞれ導通される。
【0048】
本実施形態のリチウムイオン二次電池1では、電極体2とケース3とを絶縁する袋状の絶縁カバー6に収容された状態の電極体2(詳しくは、電極体2及び集電部材5)がケース3内に収容される。
【0049】
本実施形態の蓄電素子1は、4Ah以上10Ah以下の定格容量を有してもよい。定格容量は、例えば、活物質の量を増やすことによって大きくすることができ、活物質の量を減らすことによって、小さくすることができる。
【0050】
次に、上記実施形態の蓄電素子1の製造方法について説明する。
【0051】
蓄電素子1の製造方法では、金属箔(電極基材)に活物質を含む合剤を塗布し、活物質層を形成し、電極(正極及び負極)を作製する。次に、正極、セパレータ、及び負極を重ね合わせて電極体2を形成する。続いて、電極体2をケース3に入れ、ケース3に電解液を入れることによって蓄電素子1を組み立てる。
【0052】
電極(正極)の作製では、金属箔の両面に、活物質とバインダと溶媒とを含む合剤をそれぞれ塗布することによって正極活物質層を形成する。合剤の塗布量を調整することによって、正極活物質層の目付量を調整することができる。正極活物質層を形成するための塗布方法としては、一般的な方法が採用される。塗布された正極活物質層を所定の圧力でロールプレスする。プレス圧を調整することによって、正極活物質層の厚さや密度を調整できる。負極も同様にして作製する。
【0053】
電極体2の形成では、正極と負極との間にセパレータを挟み込んだ積層体22を巻回することによって、電極体2を形成する。詳しくは、正極活物質層と負極活物質層とがセパレータを介して互いに向き合うように、正極とセパレータと負極とを重ね合わせ、積層体22を作る。続いて、積層体22を巻回して、電極体2を形成する。
【0054】
蓄電素子1の組み立てでは、ケース3のケース本体31に電極体2を入れ、ケース本体31の開口を蓋板32で塞ぎ、電解液をケース3内に注入する。ケース本体31の開口を蓋板32で塞ぐときには、ケース本体31の内部に電極体2を入れ、正極と一方の外部端子7とを導通させ、且つ、負極と他方の外部端子7とを導通させた状態で、ケース本体31の開口を蓋板32で塞ぐ。電解液をケース3内へ注入するときには、ケース3の蓋板32の注入孔から電解液をケース3内に注入する。
【0055】
尚、本発明の蓄電素子は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。
【0056】
上記の実施形態では、活物質を含む活物質層が金属箔に直接接した正極について詳しく説明したが、本発明では、正極が、バインダと導電助剤とを含み且つ活物質を含まない導電層を有してもよい。
【0057】
上記実施形態では、活物質層が各電極の金属箔の両面側にそれぞれ配置された電極について説明したが、本発明の蓄電素子では、正極又は負極は、活物質層を金属箔の片面側にのみ備えてもよい。
【0058】
上記実施形態では、積層体22が巻回されてなる電極体2を備えた蓄電素子1について詳しく説明したが、本発明の蓄電素子は、巻回されない積層体22を備えてもよい。詳しくは、それぞれ矩形状に形成された正極、セパレータ、負極、及びセパレータが、この順序で複数回積み重ねられてなる電極体を蓄電素子が備えてもよい。
【0059】
上記実施形態では、蓄電素子1が充放電可能な非水電解質二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)として用いられる場合について説明したが、蓄電素子1の種類や大きさ(容量)は任意である。また、上記実施形態では、蓄電素子1の一例として、リチウムイオン二次電池について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、本発明は、種々の二次電池、その他、電気二重層キャパシタ等のキャパシタの蓄電素子にも適用可能である。
【0060】
蓄電素子1(例えば電池)は、蓄電装置(蓄電素子が電池の場合は電池モジュール)に用いられてもよい。蓄電装置は、少なくとも二つの蓄電素子1と、二つの(異なる)蓄電素子1同士を電気的に接続するバスバ部材と、を有する。この場合、本発明の技術が少なくとも一つの蓄電素子に適用されていればよい。
【実施例】
【0061】
以下に示すようにして、非水電解質二次電池(リチウムイオン二次電池)を製造した。
【0062】
(試験例1)
(1)正極の作製
正極活物質として、平均粒径D50(上記DP)が5.0μmのLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2を用いた。導電助剤として、アセチレンブラックを用いた。バインダとして、PVdFを用いた。正極活物質層を作製するための正極ペーストは、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を溶媒として用い、導電助剤が4.5質量%、バインダが4.5質量%、正極活物質が91質量%となるように、溶媒と導電助剤とバインダとを混合、混練することによって調製した。調製した正極ペーストを、厚さ15μmのアルミ箔上に塗布した。塗布後に、活物質層の幅が83mm、未塗布部(活物質層の非形成領域)の幅が11mm、目付量が6.9mg/cm2となるように正極ペーストを塗布した。乾燥後、活物質層の活物質充填密度が2.48g/cm3になるようにロールプレスを行い、真空乾燥によって水分を除去し、正極を作製した。正極活物質層の1層分の厚さ(TP)は、32μmであった。
・活物質について
一次粒子が凝集した二次粒子を用いた。二次粒子を構成する一次粒子の平均粒子径(上記FP)は、0.18μmであった。斯かる平均粒子径は、走査型電子顕微鏡観察像において、100個の一次粒子径の直径を測定し、測定値を平均することによって求めた。一次粒子が真球状でない場合、最も長い径を直径として測定した。
【0063】
(2)負極の作製
負極活物質として、平均粒径D50(上記DN)が2.5μmの難黒鉛化性炭素を用いた。バインダとしてはPVdFを用いた。負極ペーストは、NMPを溶媒として用い、バインダが7質量%、負極活物質が93質量%となるように、溶媒とバインダと活物質とを混合、混練することによって調製した。調製した負極ペーストを、厚さ8μmの銅箔上に塗布した。塗布後に、活物質層の幅が87mm、未塗布部(活物質層の非形成領域)の幅が9mm、目付量が3.3mg/cm2となるように負極ペーストを塗布した。乾燥後、活物質層の活物質充填密度が1.01g/cm3となるようにロールプレスを行い、真空乾燥によって水分を除去し、負極を作製した。負極活物質層の1層分の厚さ(TN)は、35μmであった。
【0064】
(3)セパレータ
セパレータとして厚さが21μmのポリエチレン製微多孔膜を用いた。ポリエチレン製微多孔膜の透気度は、100秒/100ccであった。
【0065】
(4)電解液の調製
電解液としては、以下の方法で調製したものを用いた。非水溶媒として、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートを、いずれも1容量部ずつ混合した溶媒を用い、この非水溶媒に、塩濃度が1.2mol/LとなるようにLiPF6を溶解させ、電解液を調製した。
【0066】
(5)ケース内への電極体の配置
上記の正極、上記の負極、上記の電解液、セパレータ、及びケースを用いて、一般的な方法によって電池を組み立てた。
まず、セパレータが上記の正極および負極の間に配されて積層されてなるシート状物を巻回した。正極活物質層と負極活物質層とが重なった部分の面積は、5775cm2であった。次に、巻回されてなる電極体を、ケースとしてのアルミニウム製の角形電槽缶のケース本体内に配置した。続いて、正極及び負極を2つの外部端子それぞれに電気的に接続させた。さらに、ケース本体に蓋板を取り付けた。上記の電解液を、ケースの蓋板に形成された注液口からケース内に注入した。最後に、ケースの注液口を封止することによって、ケースを密閉した。
(6)製造した電池の容量確認
以下の方法によって、まず、初期放電容量を測定した。詳しくは、各電池を、25℃において5A定電流で4.2Vまで充電し、さらに4.2V定電圧で合計3時間充電した後、5A定電流で、終止電圧2.4Vの条件で放電することによって初期放電容量を測定した。この結果から、正極活物質層及び負極活物質層が厚さ方向に互いに重なる部分の面積で、定格容量を割った値である1CA電流密度は、0.88mA/cm2であった。
【0067】
・正極活物質及び負極活物質の平均粒子径D50について
製造した電池から正極及び負極の各極板を取り出した。各極板をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)または水に入れた状態で超音波により粒子を分散させる分散処理を行った。分散処理後にろ過することで、それぞれ、活物質を得た。測定装置としてレーザ回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製「SALD2200」)、測定制御ソフトとして専用アプリケーションソフトフェアDMS ver2を用いた。具体的な測定手法としては、散乱式の測定モードを採用し、測定試料(活物質)が分散する分散液が循環する湿式セルを2分間超音波環境下に置いた後に、レーザ光を照射し、測定試料から散乱光分布を得た。そして、散乱光分布を対数正規分布により近似し、その粒度分布(横軸、σ)において最小を0.021μm、最大を2000μmに設定した範囲の中で累積度50%(D50)にあたる粒径を平均粒子径とした。また、分散液は、界面活性剤と、分散剤としてのSNディスパーサント 7347-C(製品名)またはトリトンX-100(製品名)とを含む。分散液には、分散剤を数滴加えた。
【0068】
(試験例2~25)
FP/DNの値、DP/DNの値、TP/TNの値がそれぞれ表1に示す値となるように変更した点以外は、試験例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を製造した。なお、DP、FP、TP、TN、DNの値も適宜変更した。
【0069】
【0070】
<出力確認試験>
容量確認試験後の電池について、前述の容量確認試験で得られた放電容量の20%を充電することで電池のSOC(State Of Charge)を20%に調整した。その後、-10℃にて4時間保持し、さらに、2.3Vの定電圧放電を1秒間行い、1秒目の電流値から低温出力(初期出力)を算出した。上記の試験例の一部について結果を表1に示す。試験例2~5については、試験例1の結果を基にして、試験例7~14については、試験例6の結果を基にして、試験例15~19については、試験例15の結果を基にして、初期出力を相対値(比率)でも表している。初期出力は、負極活物質の平均粒径D50(上記DN)の大小に依存して変動しやすいため、DNが同じ試験例においては、初期出力を算出値だけでなく相対値(比率)でも表した。
【0071】
<電析の評価>
充放電サイクル試験の試験条件を決めるために、SOC50%に調整した電池を55℃にて4h保持し、SOC80%になるまで40Aの定電流充電を行った。その後、SOC80%からSOC20%まで40Aの定電流放電を行うことで、SOC80%の充電電圧V80とSOC20%の放電電圧V20を決定した。
55℃サイクル試験は、40Aの定電流にて行い、充電時のカットオフ電圧をV80とし、放電時のカットオフ電圧をV20として、休止時間を設定せずに連続して行った。サイクル時間は、合計3000hとした。3000hのサイクル試験終了後、25℃で4h保持し、前述の容量確認試験と低温出力確認試験を行った。その後、電池を5Aの電流で2.0Vまで放電した後、5時間2.0Vで保持した。保持後、5時間休止させ、電池をドライルームまたはアルゴン雰囲気化のグローブボックス内に置いた状態で、容器内から電極体を取り出した。負極極板の表面を目視で観察することによって、Li電析の有無を確認した。
【0072】
実施例の電池では、比較的高い初期出力を有することができ且つリチウム電析が十分に抑制された。一方、比較例の電池では、比較的高い初期出力を有すること及びリチウム電析を抑制することを必ずしも両立できなかった。また、FP/DNが0.875よりも大きかったり、DP/DNが5よりも大きかったりすると、初期出力が低くなる傾向があった。
【符号の説明】
【0073】
1:蓄電素子(非水電解質二次電池)、
2:電極体、
3:ケース、 31:ケース本体、 32:蓋板、
5:集電部材、
6:絶縁カバー、
7:外部端子、 71:面。