(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-13
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】Ga2O3系半導体素子
(51)【国際特許分類】
H01L 29/24 20060101AFI20220118BHJP
C30B 29/16 20060101ALI20220118BHJP
C30B 23/08 20060101ALI20220118BHJP
H01L 29/47 20060101ALI20220118BHJP
H01L 29/872 20060101ALI20220118BHJP
H01L 29/423 20060101ALI20220118BHJP
H01L 29/49 20060101ALI20220118BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20220118BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20220118BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20220118BHJP
H01L 21/338 20060101ALI20220118BHJP
H01L 29/812 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
H01L29/24
C30B29/16
C30B23/08 M
H01L29/48 M
H01L29/48 D
H01L29/86 301D
H01L29/86 301M
H01L29/86 301E
H01L29/58 G
H01L29/78 653A
H01L29/78 652T
H01L29/78 652J
H01L29/78 301B
H01L29/80 B
(21)【出願番号】P 2017088866
(22)【出願日】2017-04-27
【審査請求日】2020-03-23
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)/次世代パワーエレクトロニクス」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用をうける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】515277942
【氏名又は名称】株式会社ノベルクリスタルテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東脇 正高
(72)【発明者】
【氏名】中田 義昭
(72)【発明者】
【氏名】上村 崇史
(72)【発明者】
【氏名】ワン マンホイ
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 公平
(72)【発明者】
【氏名】脇本 大樹
【審査官】岩本 勉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/035843(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/035845(WO,A1)
【文献】特開2016-039194(JP,A)
【文献】特開2010-141037(JP,A)
【文献】特開2016-197737(JP,A)
【文献】国際公開第2016/031633(WO,A1)
【文献】ZHANG LiYing,YAN jinLiang,ZHANG YiJun,LI Ting & DING XingWei,First-principles study on electronic structure and optical properties of N-doped P-type β-Ga2O3,Science China Physics,Mechanics & Astronomy january 2012,2011年12月15日,Vol.55 No.1,第19頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/24
C30B 29/16
C30B 23/08
H01L 29/47
H01L 29/872
H01L 29/423
H01L 29/78
H01L 29/12
H01L 21/336
H01L 21/338
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドナーを含むGa
2O
3系結晶層と、
前記Ga
2O
3系結晶層の
全体に形成されたN添加領域と、
を有する、
Ga
2O
3系半導体素子。
【請求項2】
ドナーを含むGa
2
O
3
系結晶層と、
前記Ga
2
O
3
系結晶層の少なくとも一部に形成されたN添加領域と、
を有し、
前記N添加領域が、電流通路又はガードリングである、
縦型ショットキーバリアダイオードとしての
、
Ga
2O
3系半導体素子。
【請求項3】
ドナーを含むGa
2
O
3
系結晶層と、
前記Ga
2
O
3
系結晶層の少なくとも一部に形成されたN添加領域と、
を有し、
前記N添加領域が
、電流通路となる開口領域を有する電流遮断領域である、
縦型MOSFETとしての
、
Ga
2O
3系半導体素子。
【請求項4】
ドナーを含むGa
2
O
3
系結晶層と、
前記Ga
2
O
3
系結晶層の少なくとも一部に形成されたN添加領域と、
を有し、
前記N添加領域が
、前記Ga
2O
3系結晶層中のチャネル領域と前記Ga
2O
3系結晶層の底面の間に
、前記チャネル領域と前記底面を遮るように位置する、
横型MOSFETとしての
、
Ga
2O
3系半導体素子。
【請求項5】
ドナーを含むGa
2
O
3
系結晶層と、
前記Ga
2
O
3
系結晶層の少なくとも一部に形成されたN添加領域と、
を有し、
前記N添加領域が
、前記Ga
2O
3系結晶層中のチャネル領域と前記Ga
2O
3系結晶層の底面の間に
、前記チャネル領域と前記底面を遮るように位置する、
MESFETとしての
、
Ga
2O
3系半導体素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ga2O3系半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アンドープの(意図的にドーパントが添加されていない)Ga2O3系結晶膜をGa2O3系基板上にエピタキシャル成長させる技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、従来、Ga2O3系結晶からなる下地基板と、下地基板上にエピタキシャル成長した、アンドープのGa2O3系結晶からなるバッファ層及びバッファ層上のSiがドーパントとして添加されたGa2O3系結晶層を有する半導体素子が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Man Hoi Wong, et al., “Anomalous Fe diffusion in Si-ion-implanted β-Ga2O3and its suppression in Ga2O3 transistor structures through highly resistive buffer layers,” Applied Physics Letters 106, 032105, 2015.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
Ga2O3系結晶膜をアンドープでエピタキシャル成長させた場合、意図せぬドナーが発生し、n型になる場合がある。そのようなアンドープのGa2O3系結晶膜を半導体素子に用いると、アンドープのGa2O3系結晶膜がn型になっていることに起因する問題が生じる場合がある。
【0007】
例えば、アンドープのGa2O3系結晶膜をバッファ層に用いたFET(Field effect transistor)においては、チャネル層以外にバッファ層にも電流が流れてしまうため(リーク電流)、FETを正常に動作させることができない。
【0008】
このため、適切なアクセプターをアンドープのGa2O3系結晶層に添加し、非意図的に添加されたドナーを補償して高抵抗化することが求められる場合がある。また、Ga2O3系結晶層中でアクセプターとして機能する不純物であれば、アンドープのGa2O3系結晶層やn型のアンドープのGa2O3系結晶層中のp型の領域の形成に用いることもできる。
【0009】
本発明の目的は、新規なアクセプター不純物が添加されたGa2O3系結晶層を有するGa2O3系半導体素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、下記[1]~[5]のGa2O3系半導体素子を提供する。
【0011】
[1]ドナーを含むGa2O3系結晶層と、前記Ga2O3系結晶層の全体に形成されたN(窒素)添加領域と、を有する、Ga2O3系半導体素子。
【0015】
[2]ドナーを含むGa
2
O
3
系結晶層と、前記Ga
2
O
3
系結晶層の少なくとも一部に形成されたN添加領域と、を有し、前記N添加領域が、電流通路又はガードリングである、縦型ショットキーバリアダイオードとしての、Ga2O3系半導体素子。
【0016】
[3]ドナーを含むGa
2
O
3
系結晶層と、前記Ga
2
O
3
系結晶層の少なくとも一部に形成されたN添加領域と、を有し、前記N添加領域が、電流通路となる開口領域を有する電流遮断領域である、縦型MOSFETとしての、Ga2O3系半導体素子。
【0017】
[4]ドナーを含むGa
2
O
3
系結晶層と、前記Ga
2
O
3
系結晶層の少なくとも一部に形成されたN添加領域と、を有し、前記N添加領域が、前記Ga2O3系結晶層中のチャネル領域と前記Ga2O3系結晶層の底面の間に、前記チャネル領域と前記底面を遮るように位置する、横型MOSFETとしての、Ga2O3系半導体素子。
【0018】
[5]ドナーを含むGa
2
O
3
系結晶層と、前記Ga
2
O
3
系結晶層の少なくとも一部に形成されたN添加領域と、を有し、前記N添加領域が、前記Ga2O3系結晶層中のチャネル領域と前記Ga2O3系結晶層の底面の間に、前記チャネル領域と前記底面を遮るように位置する、MESFETとしての、Ga2O3系半導体素子。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、新規なアクセプター不純物が添加されたGa2O3系結晶層を有するGa2O3系半導体素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、第1の実施の形態に係るショットキーバリアダイオードの垂直断面図である。
【
図2】
図2は、第1の実施の形態に係るショットキーバリアダイオードの垂直断面図である。
【
図3】
図3は、第1の実施の形態に係るショットキーバリアダイオードの垂直断面図である。
【
図4】
図4は、第2の実施の形態に係る縦型MOSFETの垂直断面図である。
【
図5】
図5は、第2の実施の形態に係る縦型MOSFETの垂直断面図である。
【
図6】
図6は、第2の実施の形態に係る縦型MOSFETの垂直断面図である。
【
図7】
図7は、第3の実施の形態に係る横型MOSFETの垂直断面図である。
【
図8】
図8は、第3の実施の形態に係る横型MOSFETの垂直断面図である。
【
図9】
図9は、第3の実施の形態に係る横型MOSFETの垂直断面図である。
【
図10】
図10は、第3の実施の形態に係る横型MOSFETの垂直断面図である。
【
図11】
図11は、第4の実施の形態に係るMESFETの垂直断面図である。
【
図12】
図12は、第4の実施の形態に係るMESFETの垂直断面図である。
【
図13】
図13は、実施例1に係る実験に用いた試料の垂直断面図である。
【
図14】
図14は、測定された試料のリーク特性を示すグラフである。
【
図15】
図15(a)~(c)は、第2のGa
2O
3系結晶層の成長に用いられるO
2とN
2の混合ガス中のN
2ガスの濃度がそれぞれ0体積%、0.04体積%、0.4体積%であるときの、第2のGa
2O
3系結晶層中のNのSIMSプロファイルである。
【
図16】
図16(a)~(c)は、第2のGa
2O
3系結晶層の成長に用いられるO
2とN
2の混合ガス中のN
2ガスの濃度がそれぞれ0体積%、0.04体積%、0.4体積%であるときの、ショットキーバリアダイオードの電気伝導特性を示すグラフである。
【
図17】
図17は、第2のGa
2O
3系結晶層の成長に用いられるO
2とN
2の混合ガス中のN
2ガスの濃度と、ショットキーバリアダイオードのアノード電圧が6Vのときの順方向電流密度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〔第1の実施の形態〕
第1の実施の形態は、半導体素子としての、N添加領域が形成されたGa2O3系結晶層を有するショットキーバリアダイオードに係る形態である。
【0022】
従来、N(窒素)が特性に影響を与えるほどの濃度でGa2O3系結晶に取り込まれることは知られておらず、また、当然ながら、NがGa2O3系結晶中でアクセプターとして機能することは知られていなかった。
【0023】
ここで、Ga2O3系単結晶とは、Ga2O3単結晶、又は、Al、In等の元素が添加されたGa2O3単結晶をいう。例えば、Al及びInが添加されたGa2O3単結晶である(GaxAlyIn(1-x-y))2O3(0<x≦1、0≦y<1、0<x+y≦1)単結晶であってもよい。Alを添加した場合にはバンドギャップが広がり、Inを添加した場合にはバンドギャップが狭くなる。
【0024】
図1は、第1の実施の形態に係るショットキーバリアダイオード1aの垂直断面図である。
【0025】
ショットキーバリアダイオード1aは、縦型のショットキーバリアダイオードであり、第1のGa2O3系結晶層10と、第1のGa2O3系結晶層10に積層された第2のGa2O3系結晶層11と、第2のGa2O3系結晶層11に接続されたアノード電極12と、第1のGa2O3系結晶層10に接続されたカソード電極13と、を有する。
【0026】
第1のGa2O3系結晶層10は、ドナーとしてのSi、Sn等のIV族元素を含むn+型のGa2O3系単結晶からなる。第1のGa2O3系結晶層10のドナー濃度は、例えば、1×1017~1×1020cm-3である。第1のGa2O3系結晶層10の厚さは、例えば、0.5~1000μmである。
【0027】
ショットキーバリアダイオード1aの典型的な構成においては、第1のGa2O3系結晶層10はGa2O3系基板である。第1のGa2O3系結晶層10の主面の面方位は、例えば、(010)、(001)、(-201)である。
【0028】
第2のGa2O3系結晶層11は、第1のGa2O3系結晶層10上にエピタキシャル結晶成長により形成される層であり、非意図的に添加されたドナーを含むGa2O3系単結晶からなる。ここで、非意図的に添加されたドナーには、不純物の他、酸素空孔等の欠陥も含まれる。非意図的に添加されたドナーの濃度は、例えば、1×1018cm-3以下である。第2のGa2O3系結晶層11の厚さは、例えば、0.1~100μmである。
【0029】
また、第2のGa2O3系結晶層11には、意図的にNが添加されており、非意図的に添加されたドナーを補償している。第2のGa2O3系結晶層11のN濃度は、電子濃度を下げるため、非意図的に添加されたドナー濃度以下であることが好ましい。Nは第2のGa2O3系結晶層11の結晶成長と並行して添加され(インサイチュドーピング)、第2のGa2O3系結晶層11の全体がN添加領域となる。なお、ドナーとしてのSi、Sn等のIV族元素をNと同時に意図的に添加する等の場合には、N濃度は非意図的に添加されたドナー濃度より大きくてもよい。
【0030】
第2のGa2O3系結晶層11は、例えば、Ga金属と、O2とN2の混合ガスを原料としたオゾンガスを用いた分子線エピタキシー法(MBE法)により形成される。
【0031】
アノード電極12は、例えば、Pt/Ti/Auの積層構造を有し、第2のGa2O3系結晶層11とショットキー接触する。
【0032】
カソード電極13は、例えば、Ti/Auの積層構造を有し、第1のGa2O3系結晶層10とオーミック接触する。
【0033】
ショットキーバリアダイオード1aにおいては、アノード電極12とカソード電極13との間に順方向の電圧(アノード電極12側が正電位)を印加することにより、第2のGa2O3系結晶層11から見たアノード電極12と第2のGa2O3系結晶層11との間のエネルギー障壁が低下し、アノード電極12からカソード電極13へ電流が流れる。このため、全体がN添加領域である第2のGa2O3系結晶層11は電流通路となる。一方、アノード電極12とカソード電極13との間に逆方向の電圧(アノード電極12側が負電位)を印加したときは、ショットキー障壁により、電流の流れが妨げられる。
【0034】
図2は、第1の実施の形態に係るショットキーバリアダイオード1bの垂直断面図である。ショットキーバリアダイオード1bは、フィールドプレート構造を有する点で、ショットキーバリアダイオード1aと異なる。
【0035】
ショットキーバリアダイオード1bにおいては、第2のGa2O3系結晶層11の上面上に、アノード電極16の周囲に沿って、SiO2等からなる絶縁膜14が設けられ、その絶縁膜14の上にアノード電極12の縁が乗り上げている。
【0036】
このようなフィールドプレート構造を設けることにより、アノード電極16の端部への電界集中を抑制することができる。また、絶縁膜14は、第2のGa2O3系結晶層11の上面を流れる表面リーク電流を抑制するパッシベーション膜としても機能する。
【0037】
図3は、第1の実施の形態に係るショットキーバリアダイオード1cの垂直断面図である。
【0038】
ショットキーバリアダイオード1cは、ガードリング構造を有する点で、ショットキーバリアダイオード1bと異なる。ショットキーバリアダイオード1cにおいては、第2のGa2O3系結晶層15の上面近傍には、ガードリングとしてのN添加領域101が形成されている。すなわち、第2のGa2O3系結晶層15の一部にN添加領域101が形成されている。
【0039】
第2のGa2O3系結晶層15は、ドナーとしてのSi、Sn等のIV族元素を含むn-型のGa2O3系単結晶からなる。第2のGa2O3系結晶層15のドナー濃度は、例えば、1×1018cm-3cm-3以下である。第2のGa2O3系結晶層15の厚さは、例えば、0.1~100μmである。
【0040】
N添加領域101は、例えば、第2のGa2O3系結晶層15の上面のアノード電極16に一部が重なる領域に、Nイオン注入を選択的に施すことにより形成される。N添加領域101のN濃度は、第2のGa2O3系結晶層15のドナー濃度よりも高い。このようなガードリング構造を設けることにより、アノード電極16の端部における電界集中を緩和することができる。
【0041】
〔第2の実施の形態〕
第2の実施の形態は、半導体素子としての、N添加領域が形成されたGa2O3系結晶層を有する縦型MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)に係る形態である。
【0042】
図4は、第2の実施の形態に係る縦型MOSFET2aの垂直断面図である。
【0043】
縦型MOSFET2aは、第1のGa2O3系結晶層20と、第1のGa2O3系結晶層20に積層された第2のGa2O3系結晶層21と、ゲート絶縁膜25を介して第2のGa2O3系結晶層21上に形成されたゲート電極24と、第2のGa2O3系結晶層21の上面近傍のゲート電極24の両側に形成されたn+領域202と、n+領域202の外側に形成されたp+領域203と、n+領域202及びp+領域203を囲むN添加領域201と、第2のGa2O3系結晶層21上に形成され、n+領域202とp+領域203に接続されたソース電極22と、第1のGa2O3系結晶層20の第2のGa2O3系結晶層21と反対側の面上に形成されたドレイン電極23と、を有する。
【0044】
縦型MOSFET2aは、エンハンスメント型(ノーマリーオフ)の縦型MOSFETである。ゲート電極24に閾値以上の電圧を印加すると、ゲート電極24の下のN添加領域201に反転型チャネルが形成され、ドレイン電極23からソース電極22へ電流が流れるようになる。すなわち、N添加領域201はチャネル領域(チャネルが形成される領域)を含む。
【0045】
第1のGa2O3系結晶層20は、ドナーとしてのSi、Sn等のIV族元素を含むn+型のGa2O3系単結晶からなる。第1のGa2O3系結晶層20のドナー濃度は、例えば、1×1017~1×1020cm-3である。第1のGa2O3系結晶層20の厚さは、例えば、0.5~1000μmである。
【0046】
縦型MOSFET2aの典型的な構成においては、第1のGa2O3系結晶層20はGa2O3系基板である。第1のGa2O3系結晶層10の主面の面方位は、例えば、(010)、(001)、(-201)である。
【0047】
第2のGa2O3系結晶層21は、ドナーとしてのSi、Sn等のIV族元素を含むn-型のGa2O3系単結晶からなる。第2のGa2O3系結晶層21のドナー濃度は、例えば、1×1018cm-3cm-3以下である。第2のGa2O3系結晶層21の厚さは、例えば、1~100μmである。
【0048】
ソース電極22、ドレイン電極23、及びゲート電極24は、例えば、Ti/Auからなる。ゲート絶縁膜25は、SiO2等の絶縁材料からなる。
【0049】
n+領域202は、第2のGa2O3系結晶層21中にイオン注入等により形成されたn型ドーパントの濃度が高い領域である。p+領域203は、第2のGa2O3系結晶層21中へのp型材料の埋め込みやイオン注入等により形成されたp型ドーパントの濃度が高い領域である。
【0050】
N添加領域201は、イオン注入等により、n+領域202及びp+領域203を囲むような領域に形成される。すなわち、第2のGa2O3系結晶層21の一部にN添加領域201が形成されている。N添加領域201のN濃度は、第2のGa2O3系結晶層21(n+領域202及びp+領域203以外の領域)のドナー濃度よりも高い。
【0051】
図5は、第2の実施の形態に係る縦型MOSFET2bの垂直断面図である。縦型MOSFET2bは、ゲート電極が第2のGa
2O
3系結晶層に埋め込まれたトレンチ型の縦型MOSFETである点で縦型MOSFET2aと異なる。
【0052】
縦型MOSFET2bにおいては、ゲート電極26がゲート絶縁膜27に覆われて第2のGa2O3系結晶層21に埋め込まれており、その両側にN添加領域201、n+領域202、及びp+領域203が位置する。
【0053】
縦型MOSFET2bは、エンハンスメント型の縦型MOSFETである。ゲート電極26に閾値以上の電圧を印加すると、ゲート電極26の側方のN添加領域201に反転型チャネルが形成され、ドレイン電極23からソース電極22へ電流が流れるようになる。すなわち、N添加領域201はチャネル領域を含む。
【0054】
図6は、第2の実施の形態に係る縦型MOSFET2cの垂直断面図である。縦型MOSFET2cは、電流遮断層が形成されたディプリーション型(ノーマリーオン)の縦型MOSFETである点で縦型MOSFET2aと異なる。
【0055】
縦型MOSFET2cにおいては、第2のGa2O3系結晶層21の上面近傍のゲート電極24の両側にn+領域205が形成され、第2のGa2O3系結晶層21中のn+領域205の下方の一部に、開口領域を有する電流遮断領域としてのN添加領域204が形成されている。
【0056】
n+領域205は、第2のGa2O3系結晶層21中にイオン注入等により形成されたn型ドーパントの濃度が高い領域である。
【0057】
N添加領域204は、イオン注入等により、n+領域205の下方の一部に形成される。ゲート電極24の下方に位置するN添加領域204に囲まれた領域204aは、電流遮断領域の開口領域であり、電流通路となる領域である。すなわち、第2のGa2O3系結晶層21の一部にN添加領域204が形成されている。N添加領域204のN濃度は、第2のGa2O3系結晶層21(n+領域205以外の領域)のドナー濃度よりも高い。
【0058】
縦型MOSFET2cは、上述のように、ディプリーション型の縦型MOSFETである。ゲート電極24に電圧を印加しない状態又は閾値以上の電圧を印加した状態ではドレイン電極23からソース電極22へ電流を流すことができるが、ゲート電極24に閾値以下の電圧を印加すると、チャネルの一部が閉じ、結果として、電流をオフにすることができる。
【0059】
〔第3の実施の形態〕
第3の実施の形態は、半導体素子としての、N添加領域が形成されたGa2O3系結晶層を有する横型MOSFETに係る形態である。
【0060】
図7は、第3の実施の形態に係る横型MOSFET3aの垂直断面図である。
【0061】
横型MOSFET3aは、第1のGa2O3系結晶層30と、第1のGa2O3系結晶層30に積層された第2のGa2O3系結晶層31と、第2のGa2O3系結晶層31上に形成されたソース電極32及びドレイン電極33と、ソース電極32とドレイン電極33との間の第2のGa2O3系結晶層31上の領域にゲート絶縁膜35を介して形成されたゲート電極34と、第2のGa2O3系結晶層31の上面近傍のゲート電極34の両側に形成され、それぞれソース電極32、ドレイン電極33が接続されたn+領域302と、第2のGa2O3系結晶層31中のn+領域302と第1のGa2O3系結晶層30との間に面内方向に連続して形成されたN添加領域301と、を有する。
【0062】
横型MOSFET3aは、ディプリーション型の横型MOSFETである。ゲート電極34に電圧を印加しない状態ではドレイン電極33からソース電極32へ電流を流すことができるが、ゲート電極34に閾値以下の電圧を印加すると、空乏層が拡がって2つのn+領域302の間のチャネルが狭まり、電流の流れが妨げられる。
【0063】
第1のGa2O3系結晶層30は、ドナー濃度よりも高い濃度のFe等のアクセプター不純物が意図的に添加された半絶縁性の層である。第1のGa2O3系結晶層30の抵抗率は、例えば、1×1010Ωcm以上である。第1のGa2O3系結晶層30の厚さは、例えば、0.5~1000μmである。
【0064】
横型MOSFET3aの典型的な構成においては、第1のGa2O3系結晶層30はGa2O3系基板である。第1のGa2O3系結晶層30の主面の面方位は、例えば、(010)、(001)、(-201)である。
【0065】
第2のGa2O3系結晶層31は、ドナーとしてのSi、Sn等のIV族元素を含むn-型のGa2O3系単結晶からなる。第2のGa2O3系結晶層31のドナー濃度は、例えば、1×1016~5×1019cm-3である。第2のGa2O3系結晶層31の厚さは、例えば、0.02~100μmである。
【0066】
ソース電極32、ドレイン電極33、及びゲート電極34は、例えば、Ti/Auからなる。ゲート絶縁膜35は、SiO2等の絶縁材料からなる。
【0067】
n+領域302は、第2のGa2O3系結晶層31中にイオン注入等により形成されたn型ドーパントの濃度が高い領域である。
【0068】
N添加領域301は、イオン注入等により、2つのn+領域302の間に形成されるチャネルと、第2のGa2O3系結晶層31と第1のGa2O3系結晶層30との界面の間を遮るような位置に形成される。すなわち、N添加領域301は、第2のGa2O3系結晶層31の一部である、第2のGa2O3系結晶層31中のチャネル領域と第2のGa2O3系結晶層31の底面との間に形成される。このため、N添加領域301は、第2のGa2O3系結晶層31と第1のGa2O3系結晶層30との界面を流れるリーク電流を抑制することができる。N添加領域301のN濃度は、第2のGa2O3系結晶層31(n+領域302以外の領域)のドナー濃度よりも高い。
【0069】
図8は、第3の実施の形態に係る横型MOSFET3bの垂直断面図である。横型MOSFET3bは、第2のGa
2O
3系結晶層の全体にN添加領域が形成されている点で横型MOSFET3aと異なる。
【0070】
横型MOSFET3bの第2のGa2O3系結晶層36は、第1のGa2O3系結晶層30上にエピタキシャル結晶成長により形成される層であり、非意図的に添加されたドナーを含むGa2O3系単結晶からなる。非意図的に添加されたドナーの濃度は、例えば、1×1018cm-3以下である。第2のGa2O3系結晶層36の厚さは、例えば、0.02~100μmである。
【0071】
また、第2のGa2O3系結晶層36には、意図的にNが添加されており、非意図的に添加されたドナーを補償している。第2のGa2O3系結晶層36のN濃度は、電子濃度を下げるため、非意図的に添加されたドナー濃度以下であることが好ましい。Nは第2のGa2O3系結晶層36の結晶成長と並行して添加され、第2のGa2O3系結晶層36の全体がN添加領域となる。また、Nはイオン注入により第2のGa2O3系結晶層36に添加されてもよい。なお、ドナーとしてのSi、Sn等のIV族元素をNと同時に意図的に添加する等の場合には、N濃度は非意図的に添加されたドナー濃度より大きくてもよい。
【0072】
横型MOSFET3bは、ディプリーション型の横型MOSFETである。ゲート電極34に電圧を印加しない状態ではドレイン電極33からソース電極32へ電流を流すことができるが、ゲート電極34に閾値以下の電圧を印加すると、空乏層が拡がって2つのn+領域302の間のチャネルが狭まり、電流の流れが妨げられる。すなわち、第2のGa2O3系結晶層36の全体に形成されたN添加領域は、チャネル領域を含む。
【0073】
図9は、第3の実施の形態に係る横型MOSFET3cの垂直断面図である。横型MOSFET3cは、エンハンスメント型である点で横型MOSFET3bと異なる。
【0074】
横型MOSFET3cの第2のGa2O3系結晶層37は、第1のGa2O3系結晶層30上にエピタキシャル結晶成長により形成される層であり、非意図的に添加されたドナーを含むGa2O3系単結晶からなる。非意図的に添加されたドナーの濃度は、例えば、1×1018cm-3以下である。第2のGa2O3系結晶層37の厚さは、例えば、0.02~100μmである。
【0075】
また、第2のGa2O3系結晶層37には、意図的にNが添加されており、非意図的に添加されたドナーを補償している。第2のGa2O3系結晶層37のN濃度は、非意図的に添加されたドナー濃度より大きいことが好ましい。Nは第2のGa2O3系結晶層37の結晶成長と並行して添加され、第2のGa2O3系結晶層37の全体がN添加領域となる。また、Nはイオン注入により第2のGa2O3系結晶層37に添加されてもよい。
【0076】
横型MOSFET3cのゲート電極38は、ソース電極32とドレイン電極33の間に連続したチャネル領域を形成するため、n+領域302の端部に被る又は非常に近接している。
【0077】
横型MOSFET3cは、エンハンスメント型の横型MOSFETである。ゲート電極38に閾値以上の電圧を印加すると、第2のGa2O3系結晶層37の上面近傍の2つのn+領域302の間にチャネルが形成され、ドレイン電極33からソース電極32へ電流が流れるようになる。すなわち、第2のGa2O3系結晶層37の全体に形成されたN添加領域は、チャネル領域を含む。
【0078】
図10は、第3の実施の形態に係る横型MOSFET3dの垂直断面図である。横型MOSFET3dは、N添加領域が第2のGa
2O
3系結晶層の上側の一部にのみ形成されている点で横型MOSFET3cと異なる。
【0079】
横型MOSFET3dのN添加領域303は、イオン注入等により、第2のGa2O3系結晶層31の上側のn+領域302を含む領域に形成される。すなわち、第2のGa2O3系結晶層31の一部にN添加領域303が形成されている。N添加領域303のN濃度は、第2のGa2O3系結晶層31(n+領域302以外の領域)のドナー濃度よりも高い。
【0080】
横型MOSFET3dは、横型MOSFET3cと同様、エンハンスメント型の横型MOSFETである。ゲート電極38に閾値以上の電圧を印加すると、第2のGa2O3系結晶層31(N添加領域303)の上面近傍の2つのn+領域302の間にチャネルが形成され、ドレイン電極33からソース電極32へ電流が流れるようになる。すなわち、N添加領域303は、チャネル領域を含む。
【0081】
〔第4の実施の形態〕
第4の実施の形態は、半導体素子としての、N添加領域が形成されたGa2O3系結晶層を有するMESFET(Metal-Semiconductor Field Effect Transistor)に係る形態である。
【0082】
図11は、第4の実施の形態に係るMESFET4aの垂直断面図である。
【0083】
MESFET4aは、第1のGa2O3系結晶層40と、第1のGa2O3系結晶層40に積層された第2のGa2O3系結晶層41と、第2のGa2O3系結晶層41上に形成されたソース電極42及びドレイン電極43と、ソース電極42とドレイン電極43との間の第2のGa2O3系結晶層41上の領域に形成されたゲート電極44と、第2のGa2O3系結晶層41の上面近傍のゲート電極44の両側に形成され、それぞれソース電極42、ドレイン電極43が接続されたn+領域402と、第2のGa2O3系結晶層41中のn+領域402と第1のGa2O3系結晶層40との間に面内方向に連続して形成されたN添加領域401と、を有する。
【0084】
ゲート電極44は第2のGa2O3系結晶層41の上面にショットキー接触し、第2のGa2O3系結晶層41中のゲート電極44下に空乏層が形成されている。この空乏領域の厚さに応じて、MESFET4aは、ディプリーション型のトランジスタ又はエンハンスメント型のトランジスタとして機能する。
【0085】
第1のGa2O3系結晶層40は、ドナー濃度よりも高い濃度のFe等のアクセプター不純物が意図的に添加された半絶縁性の層である。第1のGa2O3系結晶層40の抵抗率は、例えば、1×1010Ωcm以上である。第1のGa2O3系結晶層40の厚さは、例えば、0.5~1000μmである。
【0086】
MESFET4aの典型的な構成においては、第1のGa2O3系結晶層40はGa2O3系基板である。第1のGa2O3系結晶層40の主面の面方位は、例えば、(010)、(001)、(-201)である。
【0087】
第2のGa2O3系結晶層41は、ドナーとしてのSi、Sn等のIV族元素を含むn-型のGa2O3系単結晶からなる。第2のGa2O3系結晶層41のドナー濃度は、例えば、1×1016~5×1019cm-3である。第2のGa2O3系結晶層41の厚さは、例えば、0.02~100μmである。
【0088】
ソース電極42及びドレイン電極43は、例えば、Ti/Auからなる。また、ゲート電極44は、例えばPt/Ti/Auからなる。
【0089】
n+領域402は、第2のGa2O3系結晶層41中にイオン注入等により形成されたn型ドーパントの濃度が高い領域である。
【0090】
N添加領域401は、イオン注入等により、2つのn+領域402の間に形成されるチャネルと、第2のGa2O3系結晶層41と第1のGa2O3系結晶層40との界面の間を遮るような位置に形成される。すなわち、N添加領域401は、第2のGa2O3系結晶層41の一部である、第2のGa2O3系結晶層41中のチャネル領域と第2のGa2O3系結晶層41の底面との間に形成される。このため、N添加領域401は、第2のGa2O3系結晶層41と第1のGa2O3系結晶層40との界面を流れるリーク電流を抑制することができる。N添加領域401のN濃度は、第2のGa2O3系結晶層41(n+領域402以外の領域)のドナー濃度よりも高い。
【0091】
図12は、第4の実施の形態に係るMESFET4bの垂直断面図である。MESFET4bは、第2のGa
2O
3系結晶層の全体にN添加領域が形成されている点でMESFET4aと異なる。
【0092】
MESFET4bの第2のGa2O3系結晶層45は、第1のGa2O3系結晶層40上にエピタキシャル結晶成長により形成される層であり、非意図的に添加されたドナーを含むGa2O3系単結晶からなる。非意図的に添加されたドナーの濃度は、例えば、1×1018cm-3以下である。第2のGa2O3系結晶層45の厚さは、例えば、0.02~100μmである。
【0093】
また、第2のGa2O3系結晶層45には、意図的にNが添加されており、非意図的に添加されたドナーを補償している。第2のGa2O3系結晶層45のN濃度は、電子濃度を下げるため、非意図的に添加されたドナー濃度以下であることが好ましい。Nは第2のGa2O3系結晶層45の結晶成長と並行して添加され、第2のGa2O3系結晶層45の全体がN添加領域となる。また、Nはイオン注入により第2のGa2O3系結晶層45に添加されてもよい。なお、ドナーとしてのSi、Sn等のIV族元素をNと同時に意図的に添加する等の場合には、N濃度は非意図的に添加されたドナー濃度より大きくてもよい。
【0094】
ゲート電極44は第2のGa2O3系結晶層45の上面にショットキー接触し、第2のGa2O3系結晶層45中のゲート電極44下に空乏層が形成されている。この空乏領域の厚さに応じて、MESFET4bは、ディプリーション型のトランジスタ又はエンハンスメント型のトランジスタとして機能する。
【0095】
(実施の形態の効果)
上記第1~4の実施の形態によれば、従来、Ga2O3系結晶に用いられるアクセプターとして知られていなかったNを用いて、Ga2O3系結晶の高抵抗化や、p型領域の形成を行うことができる。そして、そのNが添加されたGa2O3系結晶層を有する半導体素子を提供することができる。
【実施例1】
【0096】
Ga2O3系結晶中に添加されたNがアクセプターとして機能していることを実験により確かめた。
【0097】
図13は、実施例1に係る実験に用いた試料5の垂直断面図である。試料5は、非意図的に添加されたドナーを含むGa
2O
3単結晶基板50と、Ga
2O
3単結晶基板50に積層されたn
+型のGa
2O
3単結晶層51と、Ga
2O
3単結晶基板50中に形成されたN添加領域501と、Ga
2O
3単結晶基板50の上面(Ga
2O
3単結晶層51の反対側の面)近傍に形成されたn
+領域502と、Ga
2O
3単結晶基板50のn
+領域502にオーミック接続されたTi/Au積層構造を有する電極52と、Ga
2O
3単結晶層51にオーミック接続されたTi/Au積層構造を有する電極53と、を有する。
【0098】
Ga2O3単結晶基板50の非意図的に添加されたドナーの濃度は、およそ3×1017cm-3である。Ga2O3単結晶基板50の主面の面方位は(001)である。
【0099】
N添加領域501は、480keV、4×1013cm-2の注入条件で、Ga2O3単結晶基板50の上面から600~700nmの深さの層状の領域にNをイオン注入することにより形成した。また、イオン注入後、添加されたNの活性化及びイオン注入によるGa2O3単結晶基板50のダメージの回復のため、N2雰囲気で800~1200℃、30分の条件でアニール処理を実施した。N添加領域501のNの最大濃度は1.5×1018cm-3であった。
【0100】
n+領域502は、Ga2O3単結晶基板50の上面近傍にSiをイオン注入することにより形成し、イオン注入後、添加されたSiの活性化のため、N2雰囲気で800℃、30分の条件でアニール処理を実施した。
【0101】
この試料5の電極52と電極53との間に電圧を印加して、縦方向のリーク電流の大きさを測定することにより、N添加領域501中のNがアクセプターとして機能していることを確かめた。
【0102】
図14は、測定された試料5のリーク特性を示すグラフである。
図14は、アニール温度が800℃から1200℃の間で増加するのに伴ってリーク電流が減少することを示している。アニール温度が1200℃のとき、バイアス電圧が200Vのときのリーク電流の大きさの最小値は1~10μA/cm
2であった。これにより、N添加領域501中のNがアクセプターとして機能していることが確かめられた。
【実施例2】
【0103】
上記第1の実施の形態に係るショットキーバリアダイオード1aを形成し、全体がN添加領域である第2のGa2O3系結晶層11のN濃度とショットキーバリアダイオード1aの電気伝導特性との関係を調べた。
【0104】
本実施例においては、(010)面を主面とする、Snをドープしたn+型のGa2O3単結晶基板を第1のGa2O3系結晶層10として用いた。第1のGa2O3系結晶層10の裏面には濃度5×1019cm-3のSiを深さ150nmのボックスプロファイルでイオン注入し、カソード電極13をオーミック接触させた。
【0105】
また、Ga金属と、O2とN2の混合ガスを原料としたオゾンガスを用いたMBE法により、Nが添加されたGa2O3単結晶を第1のGa2O3系結晶層10上に厚さ2.6μmホモエピタキシャル成長させ、第2のGa2O3系結晶層11とした。
【0106】
また、アノード電極12として、直径200μmの円形のPt/Ti/Au積層構造を有する電極を形成した。カソード電極13として、Ti/Au積層構造を有する電極を形成した。
【0107】
まず、第2のGa2O3系結晶層11中にNが添加されていることを確かめるために、アノード電極12及びカソード電極13の形成されていない試料に対して二次イオン質量分析法(SIMS)による測定を行った。
【0108】
図15(a)~(c)は、第2のGa
2O
3系結晶層11の成長に用いられるO
2とN
2の混合ガス中のN
2ガスの濃度がそれぞれ0体積%、0.04体積%、0.4体積%であるときの、第2のGa
2O
3系結晶層11中のNのSIMSプロファイルを示す。図中の点線の深さよりも浅い部分(点線の左側の部分)が第2のGa
2O
3系結晶層11中のプロファイルであり、点線の深さよりも深い部分(点線の右側の部分)が第1のGa
2O
3系結晶層10中のプロファイルである。
【0109】
図15(a)~(c)に示されるように、O
2とN
2の混合ガス中のN
2ガスの濃度が0体積%、0.04体積%、0.4体積%であるときの第2のGa
2O
3系結晶層11中のN濃度は、それぞれ2.5×10
16cm
-3、3.4×10
16cm
-3、1.5×10
17cm
-3であった。これにより、Ga
2O
3系結晶にNを添加することは可能であり、また、オゾンの原料ガスに含まれるN濃度によりGa
2O
3系結晶中のN濃度を制御可能であることがわかった。
【0110】
次に、アノード電極12及びカソード電極13が形成された試料に対して、ショットキーバリアダイオード1aの電気伝導特性を測定した。
【0111】
図16(a)~(c)は、第2のGa
2O
3系結晶層11の成長に用いられるO
2とN
2の混合ガス中のN
2ガスの濃度がそれぞれ0体積%、0.04体積%、0.4体積%であるときの、ショットキーバリアダイオード1aの電気伝導特性を示すグラフである。
【0112】
図16(a)~(c)によれば、いずれのショットキーバリアダイオード1aも、アノード電圧が正のときにのみ電流が多く流れるn型の整流性を示している。
【0113】
図17は、
図16(a)~(c)の電流特性から導出した、第2のGa
2O
3系結晶層11の成長に用いられるO
2とN
2の混合ガス中のN
2ガスの濃度と、ショットキーバリアダイオード1aのアノード電圧が6Vのときの順方向電流密度との関係を示すグラフである。
【0114】
図17に示されるO
2とN
2の混合ガス中のN
2ガスの濃度が0体積%、0.04体積%、0.4体積%であるときの順方向電流密度は、それぞれ4.88×10
-6、5.70×10
-7、8.76×10
-9A/cm
2である。
【0115】
図17は、N
2ガスの濃度が増加すると電流が指数関数的に減少することを示している。これは、第2のGa
2O
3系結晶層11中の意図的に添加されたNが、第2のGa
2O
3系結晶層11の高抵抗化に寄与していることを示している。
【0116】
以上、本発明の実施の形態、実施例を説明したが、本発明は、上記実施の形態、実施例に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。また、発明の主旨を逸脱しない範囲内において上記実施の形態、実施例の構成要素を任意に組み合わせることができる。
【0117】
また、上記に記載した実施の形態、実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態、実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0118】
1a、1b、1c…ショットキーバリアダイオード、 2a、2b、2c…縦型MOSFET、 3a、3b、3c、3d…横型MOSFET、 4a、4b…MESFET、 10、20、30、40…第1のGa2O3系結晶層、 11、15、21、31、36、41、45…第2のGa2O3系結晶層、 101、201、204、301、303、401…N添加領域