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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-13
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】神経難病の画像診断薬及び体外診断薬
(51)【国際特許分類】
   C07D 263/56 20060101AFI20220118BHJP
   A61B 5/055 20060101ALI20220118BHJP
   A61K 49/10 20060101ALI20220118BHJP
   A61K 51/04 20060101ALI20220118BHJP
   C07D 487/04 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
C07D263/56 CSP
A61B5/055 383
A61K49/10
A61K51/04 200
C07D487/04 144
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018041055
(22)【出願日】2018-03-07
(65)【公開番号】P2018150296
(43)【公開日】2018-09-27
【審査請求日】2021-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2017046350
(32)【優先日】2017-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504177284
【氏名又は名称】国立大学法人滋賀医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】391048049
【氏名又は名称】滋賀県
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠山 育夫
(72)【発明者】
【氏名】柳沢 大治郎
(72)【発明者】
【氏名】田口 弘康
(72)【発明者】
【氏名】曾我部 孝行
(72)【発明者】
【氏名】白井 伸明
(72)【発明者】
【氏名】平尾 浩一
【審査官】松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/016888(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/109296(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/097474(WO,A1)
【文献】特表2013-522365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるアニリン誘導体及び式(2)で表されるナフタレン誘導体から選択される化合物又はその塩。
【化1】
【化2】
(式中、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又はアルキルを示す。
A1及びA2のいずれか一方は水素原子を示し、他方はフッ素原子置換又は未置換のアルコキシ又は
【化3】
を示す。ここで、R3はフッ素原子置換又は未置換のエチレン基を示し、R4はフッ素原子置換又は未置換のエチルを示し、nは1~10の整数を示す。nが2以上の整数を示す場合、R3は同一であっても、異なっていてもよい。)
【請求項2】
A1及びA2のいずれか一方が水素原子を示し、他方が
【化4】
を示し、nが5~8の整数を示す、請求項1に記載の化合物又はその塩。
【請求項3】
標識化された請求項1に記載の化合物又はその塩。
【請求項4】
前記標識が放射性核種である、請求項3に記載の化合物又はその塩。
【請求項5】
請求項1若しくは2に記載の化合物又はその塩を有効成分とするタウオパチーのMRI用画像診断薬。
【請求項6】
請求項1、3若しくは4に記載の化合物又はその塩を有効成分とするタウオパチーのポジトロン断層撮影法(PET)用画像診断薬。
【請求項7】
前記タウオパチーがアルツハイマー病、進行性核上性麻痺、大脳皮質変性症、前頭側頭型認知症又はピック病である、請求項5又は6に記載の画像診断薬。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物又はその塩を有効成分とするタウオパチー診断用の体外診断薬。
【請求項9】
前記タウオパチーがアルツハイマー病、進行性核上性麻痺、大脳皮質変性症、前頭側頭型認知症又はピック病である、請求項8に記載の体外診断薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タウオパチーの画像診断薬及び体外診断薬、特に、アルツハイマー病の診断に有用な新規化合物及びその塩に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病は、初老期から老年期に起こる進行性の認知症を特徴とする疾患であり、現在、国内の患者数は460万人以上と言われている。さらに今後、人口の高齢化に伴いその数は確実に増加すると予想される。アルツハイマー病の研究の進歩により、根本的治療薬開発が精力的に進められている。これらの新規薬剤を用いてアルツハイマー病治療を行うためには、アルツハイマー病を早期に且つ正確に診断する非侵襲的方法が不可欠である。
【0003】
アルツハイマー病の臨床症状は、記憶障害、高次脳機能障害(失語、失行、失認、構成失行)等である。その症状は他の認知症疾患でも共通して見られることが多く、臨床症状だけでアルツハイマー病と確定診断することは極めて困難である。
【0004】
一方、アルツハイマー病の特徴的な病理組織所見としては、老人斑及び神経原線維変化がある。前者の主構成成分はβシート構造をとったアミロイドβ蛋白であり、後者のそれは過剰リン酸化されたタウ蛋白である。アルツハイマー病においては臨床症状が発症するかなり前から、脳内では凝集したアミロイドβ蛋白の蓄積等の上記病理的組織変化が始まっていることが知られている。
【0005】
このような観点から、近年、脳内アミロイドβ蛋白に選択的に結合するポジトロン断層撮影法(PET)及びシングルフォトン断層撮影法(SPECT)用の放射性造影剤の研究が進められている。しかしながら、それらは、11C、13N、15O、18F等の放射性核種を用いるため放射線障害による副作用が懸念されるとともに、近くにサイクロトロン施設を併設する必要があり、試薬の価格も極めて高価であることが問題になっている。そのため、放射性核種を用いない診断方法が望まれている。
【0006】
放射性核種を用いない診断方法の一つとして核磁気共鳴イメージング法(MRI)がある。これまで、フッ素核磁気共鳴画像法(フッ素MR画像法)を用いて老人斑の画像化に成功したことが、本発明者ら及び理化学研究所のグループから報告されている(特許文献1~5、非特許文献1)。
【0007】
タウ蛋白の異常な沈着が見られる疾患はタウオパチー(tauopathy)と称される。過剰リン酸化されたタウ蛋白の蓄積は、アミロイドβ蛋白の蓄積よりは遅れて生じてくると考えられているが、神経原線維変化はアミロイドβ蛋白の蓄積と比べて疾患の重症度と密接に関連していると考えられている。
【0008】
そこで、タウ蛋白に結合するPET及びSPECT用の放射性造影剤の研究が進められており、そのような造影剤としては、例えば、特許文献6~9で報告されている。放射性核種には前述するような問題が存在しているが、今までMRIを用いて神経原線維変化の画像化に成功したことの報告はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2005/042461号
【文献】国際公開第2007/111179号
【文献】特開2009-67762号公報
【文献】国際公開第2010/098502号
【文献】国際公開第2014/109296号
【文献】国際公開第2004/054978号
【文献】国際公開第2005/016888号
【文献】国際公開第2012/057312号
【文献】国際公開第2014/097474号
【非特許文献】
【0010】
【文献】Higuchi M, Iwata N, Matsuba Y, Sato K, Sasamoto K, Saido T: 19F and 1H MRI detection of amylid β plaques in vivo, Nature Neuroscience, 8(4), 527-533, 2005.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、タウオパチーのMRI診断用造影剤として好適な、タウ蛋白に対する高い結合特異性と高い検出感度とを併せ持つ物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、一定の化学構造の化合物がタウ蛋白に対する高い結合特異性を持ち、該化合物を造影剤とすることでMRIにより神経原線維変化を画像化できることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明は、式(1)で表されるアニリン誘導体及び式(2)で表されるナフタレン誘導体から選択される化合物又はその塩に関する。
【0014】
【化1】
【0015】
【化2】
【0016】
(式中、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又はアルキルを示す。
A1及びA2のいずれか一方は水素原子を示し、他方はフッ素原子置換又は未置換のアルコキシ又は
【0017】
【化3】
【0018】
を示す。ここで、R3はフッ素原子置換又は未置換のエチレンを示し、R4はフッ素原子置換又は未置換のエチルを示し、nは1~10の整数を示す。nが2以上の整数を示す場合、R3は同一であっても、異なっていてもよい。)
【0019】
また、本発明は、式(1)のアニリン誘導体及び式(2)で表されるナフタレン誘導体から選択される化合物又はその塩を有効成分とするタウオパチーのMRI用画像診断薬、PET用画像診断薬、及び体外診断薬に関する。
【0020】
R1及びR2のアルキル基としては、直鎖又は分枝鎖状のC1~6アルキルであればよく、その具体例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチルなどが挙げられ、直鎖又は分枝鎖状のC1~3アルキルが好ましい。
【0021】
A1及びA2のアルコキシ基としては、直鎖又は分枝鎖状のC1~10アルコキシであればよく、その具体例としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシなどが挙げられ、直鎖又は分枝鎖状のC1~6アルコキシが好ましい。
【0022】
A1及びA2は、好ましくは、いずれか一方が水素原子であり、他方が
【0023】
【化4】
【0024】
である。
【0025】
nは1~10の整数であり、好ましくは5~8の整数であり、より好ましくは5又は6であり、更に好ましくは検出精度の点から6である。
【0026】
式(1)のアニリン誘導体の二重結合における幾何異性体としては、シス体及びトランス体のいずれも包含される。
【0027】
式(1)のアニリン誘導体及び式(2)のナフタレン誘導体は、標識化されたものであることが好ましい。標識としては、蛍光物質、放射性核種などが挙げられ、好ましくは、放射性核種である。放射性核種としては、11C、13N、15O、18F、62Cu、68Ga、76Br等の陽電子放出核種を用いることによりPET用画像診断薬として使用できる。この中でも特に18Fが好ましい。放射性核種での式(1)のアニリン誘導体及び式(2)のナフタレン誘導体の標識位置は、化合物中のいずれの位置にすることもできる。また、化合物中の水素を陽電子放出核種で置換することもできる。
【0028】
一般的には、上記核種はサイクロトロン又はジェネレーターと呼ばれる装置により産生される。当業者であれば、産生核種に応じた産生方法及び装置が適宜選択可能である。これらの放射線核種で標識された化合物の製造方法は当該分野においてよく知られている。代表的な方法としては、化学合成法、同位体交換法及び生合成法がある。
【0029】
式(1)のアニリン誘導体及び式(2)のナフタレン誘導体の塩としては、医薬上許容される塩であればよく、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩などの鉱酸塩;酒石酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、安息香酸塩、グリコール酸塩、琥珀酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩などの有機酸塩などが挙げられる。また、これらの塩の中で結晶水を持つものもある。
【発明の効果】
【0030】
本発明化合物は、タウ蛋白に対する高い親和性と高い血液-脳関門透過性とを有し、タウオパチーの画像診断薬の有効成分、例えば、MRI造影剤及びPET造影剤の有効成分として有用である。また、タウオパチー診断用の体外診断薬の有効成分としても有用である。したがって、本発明化合物を用いれば、アルツハイマー病のようなタウオパチーの早期診断が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】試験例1におけるアルツハイマー病患者の死後脳切片の蛍光像である。スケールバー:100μm
図2】試験例2におけるタウ遺伝子改変マウスの脳切片の蛍光及び染色像である。A、C、D、E:蛍光像、B:リン酸化タウ抗体染色像、A、B:化合物1、C:化合物2、D:化合物3、E:化合物4
図3】試験例3における化合物2をタウ遺伝子改変マウス及び野生型マウスに投与した場合の頭部1H MRI画像(A, C)及びフッ素MRI画像(B, D)である。
図4】試験例4における化合物3をタウ遺伝子改変マウス及び野生型マウスに投与した場合の頭部1H MRI画像(A, C)及びフッ素MRI画像(B, D)である。
図5】試験例5における化合物2又は化合物3をタウ遺伝子改変マウスに投与した場合の脳切片(A, C:海馬、B, D:大脳皮質)の蛍光像である。A, B:化合物2、C, D:化合物3
図6】試験例6におけるアルツハイマー病患者の死後脳切片の蛍光像である。スケールバー:50μm
図7】試験例7における化合物6をタウ遺伝子改変マウスに投与した場合の頭部1H MRI画像(A)及びフッ素MRI画像(B)である。
図8】試験例8における化合物6をタウ遺伝子改変マウスに投与した場合の脳切片の蛍光像及び染色像である。A:蛍光像、B:リン酸化タウ抗体染色像 スケールバー:100μm
【発明を実施するための形態】
【0032】
式(1)の化合物又はその塩の内で、式(I)の化合物又はその塩の製造方法を以下に示す。
【0033】
式(I)の化合物又はその塩は、下記の方法により製造することができる。
【0034】
式(I)の化合物は、式(II)の化合物とシンナムアルデヒド誘導体とを反応させることにより製造することができる。
【0035】
【化5】
【0036】
(式中、R1、R2及びnは前述の通りである。)
【0037】
本反応の溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、石油エーテル、リグロイン、石油ベンジンなどの脂肪族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの酸アミド類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;スルホランなどのスルホン類;ヘキサメチルホスホリルアミドなどのリン酸アミド類;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類及びこれらの混合溶媒を挙げることができる。
【0038】
本反応を促進させるためには塩基を添加することが望ましく、その塩基としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物;リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムtert-ブトキシドなどの金属アルコキシド;水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カルシウムなどの金属水素化物などを挙げることができる。塩基は化合物(II)に対して1~5倍モル、望ましくは1~2倍モル使用することができる。
【0039】
本反応は、通常0~50℃、望ましくは0~20℃で行うことができ、その反応時間は通常0.5~6時間程度である。
【0040】
シンナムアルデヒド誘導体は、式(II)の化合物に対して1~5倍モル、望ましくは2~3倍モル使用することができる。
【0041】
式(II)の化合物は、式(IV)の化合物と式(III)の化合物とを反応させることにより製造することができる。
【0042】
【化6】
【0043】
(式中、mは前述の通りである)
【0044】
本反応の溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、石油エーテル、リグロイン、石油ベンジンなどの脂肪族炭化水素類:ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの酸アミド類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;スルホランなどのスルホン類及びこれらの混合溶媒を挙げることができる。
【0045】
本反応を促進するには、塩基を添加することが望ましく、その塩基としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの金属の炭酸塩;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物;水素化ナトリウム、水素化カルシウムなどの金属水素化物;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムtert-ブトキシドなどの金属アルコキシド;水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カルシウムなどの金属水素化物などを挙げることができる。塩基は式(III)の化合物に対して、1~5倍モル、望ましくは1~3倍モル使用することができる。
【0046】
本反応は、通常0~150℃、望ましくは20~100℃で行うことができ、その反応時間は5~50時間程度である。
【0047】
式(III)の化合物は、式(IV)の化合物に対して1~5倍モル、望ましくは2~3倍モル使用することができる。
【0048】
式(IV)の化合物は、式(V)の化合物を臭素化することにより製造することができる。
【0049】
【化7】
【0050】
(式中、mは前述の通りである。)
【0051】
本反応の溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの飽和炭化水素類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、石油エーテル、リグロイン、石油ベンジンなどの脂肪族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトタヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの酸アミド類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;ヘキサメチルホスホリルアミドなどのリン酸アミド類;スルホランなどのスルホン類及びこれらの混合溶媒を挙げることができる。
【0052】
本反応は、通常50~150℃で行うのが望ましく、臭化アンモニウムは式(V)の化合物に対して2~5倍モル、望ましくは2~3倍モル使用することができる。
【0053】
式(V)の化合物は、式(VI)の化合物をp-トルエンスルホニル化することにより製造することができる。
【0054】
【化8】
【0055】
(式中、mは前述の通りである。)
【0056】
本反応は、酸加水分解による保護基の脱離反応と生成したアルコールのトシル化反応の2段階の反応を含んでいる。
【0057】
まず、酸加水分解であるが、溶媒としては水のほか、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類;含水テトラヒドロフラン、含水ジオキサンのエーテル類;含水ジメチルホルムアミド、含水ジメチルアセトアミドなどの酸アミド類;含水アセトニトリル、含水プロピオニトリルなどのニトリル類;含水ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類及びこれらの混合溶媒を挙げることができる。
【0058】
本反応を促進するために酸を添加することが望ましく、酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、過塩素酸などの鉱酸を挙げることができる。用いる酸は式(VI)の化合物に対して0.01~1倍モル程度で十分である。
【0059】
本反応は、通常0~100℃、望ましくは0~50℃で行うことができ、その反応時間は通常0.5~50時間程度である。
【0060】
次に、アルコールのトシル化であるが、この反応は加水分解して得られたアルコールと塩化p-トルエンスルホニルとを反応させることにより行う。
【0061】
本反応の溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、石油エーテル、リグロイン、石油ベンジンなどの脂肪族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの酸アミド類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類及びこれらの混合溶媒を挙げることができる。
【0062】
本反応を促進するために塩基を添加することが望ましく、その塩基としては、トリエチルアミン、ピリジン、N-メチルモルホリン、N,N,-ジメチルアニリン、ジイソプロピルエチルアミンなどの有機塩基;炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ金属の炭酸水素塩などを挙げることができる。塩基は塩化p-トルエンスルホニルに対して1~5倍モル、望ましくは1~2倍モル使用することができる。
【0063】
本反応は、通常0~100℃、望ましくは0~50℃で行うことができ、反応時間は1~50時間程度である。
【0064】
塩化p-トルエンスルホニルは、式(VI)の化合物に対して1~5倍モル、望ましくは2~3倍モル使用することができる。
【0065】
式(VI)の化合物は、式(VIII)の化合物と式(VII)の化合物とを反応させることにより製造することができる。なお、式(VIII)の化合物は、公知の方法で製造できる。
【0066】
【化9】
【0067】
(式中、mは前述の通りである。)
【0068】
本反応の溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、石油エーテル、リグロイン、石油ベンジンなどの脂肪族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの酸アミド類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;スルホランなどのスルホン類;ヘキサメチルホスホリルアミドなどのリン酸アミド類及びこれらの混合溶媒を挙げることができる。
【0069】
本反応を促進するために塩基を添加することが望ましく、その塩基としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属;水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カルシウムなどの金属水素化物;カリウムtert-ブトキシドなどの金属アルコキシドなどを挙げることができる。塩基は式(VII)の化合物に対して1~5倍モル、望ましくは1~3倍モル使用することができる。
【0070】
本反応は、通常0~150℃、望ましくは0~100℃で行うことができ、反応時間は1~50時間である。
【0071】
式(VII)の化合物は、式(VIII)の化合物に対して1~10倍モル、望ましくは1~3倍モル使用することができる。
【0072】
式(IX)の化合物又はその塩は、上記の方法において、6-ヒドロキシ-2-メチルベンゾオキサゾールに代えて5-ヒドロキシ-2-メチルベンゾオキサゾールを使用することにより製造することができる。
【0073】
【化10】
【0074】
(式中、R1、R2及びmは前述の通りである。)
【0075】
式(1)の化合物又はその塩の内で、A1又はA2がアルコキシである化合物又はその塩は、上記の方法において、式(IV)の化合物に代えてハロゲン化アルキルを使用することにより製造することができる。
【0076】
式(2)の化合物又はその塩は、上記の方法を適宜参考にして、後述する実施例に記載の方法に則して又は適宜変更して製造することができる。
【0077】
上記した製法及びそれに付随した方法で得られる式(1)及び式(2)の化合物は、公知の手段、例えば、濃縮、減圧濃縮、蒸留、分留、転溶、溶媒抽出、結晶化、再結晶、クロマトグラフィーなどにより単離、精製することができる。
【0078】
式(1)及び式(2)の化合物がフリー体で得られる場合、通常の方法で塩を形成させることができる。
【0079】
式(1)及び式(2)の化合物のいくつかの例を第1表に示す。
【0080】
第1表
【0081】
【表1】
【0082】
式(1)及び式(2)の化合物の化合物又はその塩は、タウオパチーのMRI用画像診断薬、PET用画像診断薬、及び体外診断薬として使用することができる。
【0083】
本発明の望ましい実施形態は、次のものである。
<1>式(1)若しくは式(2)の化合物又はその塩を有効成分とするタウオパチーのMRI用画像診断薬。
<2>式(1)若しくは式(2)の化合物又はその塩を有効成分とするタウオパチーのPET用画像診断薬。
<3>式(1)若しくは式(2)の化合物又はその塩を有効成分とするタウオパチー診断用の体外診断薬。
<4>前記タウオパチーがアルツハイマー病、進行性核上性麻痺、大脳皮質変性症、前頭側頭型認知症又はピック病である、<1>~<3>のいずれか一項に記載の画像診断薬又は体外診断薬。
<5><1>又は<2>に記載の画像診断薬を投与する工程を含む、タウオパチーの診断方法。
<6><3>に記載の体外診断薬を用いて試料中のタウ蛋白を検出する工程を含む、タウオパチーの診断方法。
【0084】
生体に投与する化合物としては水溶解度が高いことが望ましく、式(1)及び式(2)の化合物の内、塩を持つ化合物がより望ましい。
【0085】
式(1)若しくは式(2)の化合物又はその塩を画像診断薬として使用する場合、本発明化合物により脳内の神経原線維変化を特異的に検出することができる。特に、19F-MRIを用いて非侵襲的にタウ蛋白を検出する場合、その検出感度は、フッ素原子の数に依存しており、F原子の数は多い方が望ましい。そのため、MRI用画像診断薬として使用される式(1)若しくは式(2)の化合物又はその塩は、1個以上、好ましくは1~3個のフッ素原子により置換されていることが望ましい。また、PET用画像診断薬として使用される式(1)若しくは式(2)の化合物又はその塩は、通常、陽電子放出核種により標識されている。
【0086】
式(1)若しくは式(2)の化合物又はその塩を画像診断薬として使用する場合、その投与は、局所的であってもよく、全身的であってもよい。投与方法には特に制限はなく、経口的又は非経口的に投与される。非経口的投与経路としては、皮下、腹腔内、静脈、動脈又は脊髄液への注射、点滴等が挙げられる。
【0087】
式(1)若しくは式(2)の化合物又はその塩を含む画像診断薬は、ヒトへの投与に適した医薬上許容される形態であって、生理学的に許容し得る添加剤を含む。かかる組成物は、適宜、医薬として許容し得る希釈剤、緩衝剤、可溶化剤(例えば、シクロデキストリン、ポリエチレングリコール、プルロニック(商標)、Tween (商標)、クレモフォール(商標)又はリン脂質のような界面活性剤)、無痛化剤等を添加することができ、更に必要に応じて、医薬として許容し得る溶剤、安定化剤又は酸化防止剤(例えば、アスコルビン酸等)のような成分を含み得る。本発明化合物の投与量は、用法、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度により適宜選択される。
【0088】
式(1)若しくは式(2)の化合物又はその塩を体外診断薬として使用する場合、本発明化合物により試料中のタウ蛋白を特異的に検出することができる。試料中に含まれるタウ蛋白に結合した本発明化合物の蛍光などを測定することにより試料中のタウ蛋白を測定することができる。体外診断薬の試料としては、血液、脳脊髄液のほか、涙、唾液、鼻汁、尿などの体液が挙げられる。体外診断薬は、当該体外診断薬の機能を阻害しない程度で他の添加剤を含み得る。本発明化合物の使用量は、タウ蛋白の存在についての判別が可能になる程度にまで結合量が十分となる量であればよく、試料の種類、濃度等の条件により適宜選択される。
【0089】
タウオパチーとしては、アルツハイマー病の他、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質変性症、前頭側頭型認知症、ピック病等が挙げられる。
【実施例
【0090】
次に本発明に係わる合成例及び試験例を記載するが、本発明はこれらに限定されるわけではない。
【0091】
[合成例1] 1-(6-メトキシベンゾオキサゾール-2-イル)-4-(4'-ジメチルアミノフェニル)ブタ-1,3-ジエン(化合物1)の合成
【0092】
(1)6-ヒドロキシ-2-メチルベンゾオキサゾール1.49 g(10 mmol)をアセトン(40 mL)に溶かした溶液にヨウ化メチル1.24 mL(20 mmol)を加え、さらに炭酸カリウム4.14 g(30 mmol)を加えた混合物を室温で6時間激しく攪拌した。反応終了後、反応液中の不溶固形物を濾過し、濾液を減圧下に濃縮乾固した。得られた残渣を酢酸エチルで抽出した。抽出液を飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下に溶媒を留去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル:ヘキサン=1:3)により精製し、6-メトキシ-2-メチルベンゾオキサゾール1.585 g(97%)を無色結晶(mp54℃)として得た。
1HNmr (CDCl3) δ2.60 (3H, s), δ3.85 (3H, s) δ6.90 (1H, dd, J=2.4Hz, 8.6Hz), δ7.01 (1H, d, J=2.4Hz), δ7.51 (1H, d, J=8.6Hz)
【0093】
(2)前記工程(1)で得られた6-メトキシ-2-メチルベンゾオキサゾール163 mg(1 mmol)と4-ジメチルアミノシンナムアルデヒド201 mg(1 mmol)とをDMF (1.5 mL)に溶かした溶液を氷冷し、攪拌しながらカリウムt-ブトキシド168 mg(1.5 mmol)を少量ずつ加えた。加え終わってから、反応液を室温で1.5時間攪拌した後、反応液を酢酸エチルで希釈した。酢酸エチル溶液を水及び飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下に溶媒を留去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタン)により精製し、さらに酢酸エチルより再結晶して、(E,E)-1-(6-メトキシベンゾオキサゾール-2-イル)-4-(4'-ジメチルアミノフェニル)ブタ-1,3-ジエン157 mg(45.5%)を濃赤褐色結晶(mp160-161℃)として得た。
1HNmr (CDCl3) δ3.01 (6H, s), δ3.87 (3H, s), δ6.47 (1H, d, J=15.5Hz), δ6.69 (2H, d, J=8.9Hz), δ6.8-6.85 (2H), δ6.90 (1H, dd, J=8.6Hz, 2.4Hz), 7.03 (1H, d, J=2.4Hz), δ7.39 (2H, d, J=8.9Hz), δ7.4-7.5 (1H), δ7.53 (1H, d, J=8.6Hz)
【0094】
[合成例2] 1-[6-(3',6',9',12',15'-ペンタオキサ-17',17',17'-トリフルオロヘプタデカニルオキシ)ベンゾオキサゾ―ル-2-イル]-4-(4'-ジメチルアミノフェニル)ブタ-1,3-ジエン(化合物2)の合成
【0095】
(1)窒素気流中、60%水素化ナトリウム0.49 g(12.2 mmol)をフラスコに量り取り、氷冷しながら、2-(2',2',2'-トリフルオロエトキシ)エタノール1.92 g(13.3 mmol)のTHF (12 mL)溶液を滴下し、滴下終了後、反応液を1時間室温で攪拌した。反応液を再度氷冷し、1-(2H-テトラヒドロピラン-2'-イルオキシ)-11-(4'-p-トルエンスルホニルオキシ)-3,6,9-トリオキサウンデカン4.43 g(10.2 mmol)のTHF (8 mL)溶液を滴下し、滴下終了後、反応液を室温で20時間攪拌した。反応液を酢酸エチルで希釈し、少量の水及び飽和食塩水で洗浄した。無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下に溶媒を留去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:メタノール:ジクロロメタン=1:200)により精製し、1-(2H-テトラヒドロピラン-2'-イルオキシ)-17,17,17-トリフルオロ-3,6,9,12,15-ペンタオキサヘプタデカン4.07 g(98%)を油状物として得た。
【0096】
(2)前記工程(1)で得られた1-(2H-テトラヒドロピラン-2'-イルオキシ)-17,17,17-トリフルオロ-3,6,9,12,15-ペンタオキサヘプタデカン4.07 g(10 mmol)をエタノール(40 mL)に溶かした溶液に1M-塩酸(0.1 mL)を加えて、室温に13時間放置した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて中和し、析出する沈殿を濾別した。濾液を減圧下に濃縮乾固し、得られた残渣をジクロロメタンで抽出した。抽出液を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下に溶媒を留去して得られた残渣(3.21 g)をジクロロメタン(25 mL)に溶かし、塩化p-トルエンスルホニル2.5 g(13 mmol)を加えた後、氷冷しながらトリエチルアミン2.1 mL(15 mmol)を少量ずつ加えた。反応液を室温で22時間攪拌した後、ジクロロメタンで薄め、少量の水及び飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下に溶媒を留去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:メタノール:ジクロロメタン=1:100)により精製し、1-(4'-pトルエンスルホニルオキシ)-17,17,17-トリフルオロ-3,6,9,12,15-ペンタオキサヘプタデカン4.02 g(85%)を無色油状物として得た。
【0097】
(3)前記工程(2)で得られた1-(4'-p-トルエンスルホニルオキシ)-17,17,17-トリフルオロ-3,6,9,12,15-ペンタオキサヘプタデカン4.02 g(8.5 mmol)をDMF (15 mL)に溶かした溶液に臭化アンモニウム1.67 g(17 mmol)を加えた混合物を、激しく攪拌しながら80-85℃に6時間加熱した。減圧下に溶媒を留去して得られた残渣を酢酸エチルで抽出した。抽出液を少量の水及び飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下に溶媒を留去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:メタノール:ジクロロメタン=1:200)により精製し、1-ブロモ-17,17,17-トリフルオロ-3,6,9,12,15-ペンタオキサヘプタデカン3.04 g(94%)を無色油状物として得た。
19FNmr (CDCl3) δ-75.56 (t, J=9Hz), 1HNmr (CDCl3) δ3.47 (2H, t, J=6Hz), δ3.6-3.9 (18H), δ3.91 (2H, q, J=9Hz)
【0098】
(4)前記工程(3)で得られた1-ブロモ-17,17,17-トリフルオロ-3,6,9,12,15-ペンタオキサヘプタデカン0.80 g(2.1 mmol)と6-ヒドロキシ-2-メチルベンゾオキサゾ―ル(III) 0.44 g(2.9 mmol)とをアセトン(8 mL)に溶かした溶液に、炭酸カリウム1.2 g(8.7 mmol)とヨウ化カリウム33 mg(0.2 mmol)とを加えた混合物を、激しく攪拌しながら10時間還流した。減圧下に反応液を濃縮乾固し、得られた残渣を酢酸エチルで抽出した。抽出液を少量の水及び飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下に溶媒を留去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル:ヘキサン=2:1)により精製し、2-メチル-6-(3',6',9',12',15'-ペンタオキサ-17',17',17'-トリフルオロヘプタデカニルオキシ)ベンゾオキサゾ―ル0.90 g(95%)を油状物として得た。
19FNmr (CDCl3) δ-75.56 (t, J=9Hz), 1HNmr (CDCl3) δ2.60 (3H, s), δ3.6-3.8 (16H), δ3.88 (2H, m), δ3.90 (2H, q, J=9Hz), 4.15 (2H, m), δ6.92 (1H, dd, J=2.1Hz, 8.6Hz), δ7.03 (1H, d, J=2.1Hz), δ7.50 (1H, d, J=8.6Hz)
【0099】
(5)前記工程(4)で得られた2-メチル-6-(3',6',9',12',15'-ペンタオキサ-17',17',17'-トリフルオロヘプタデカニルオキシ)ベンゾオキサゾール0.27 g(0.6 mmol)と4-ジメチルアミノシンナムアルデヒド0.21 g(1.2 mmol)とをDMF (2.5 mL)に溶かした溶液に、氷冷しながらカリウムt-ブトキシド0.20 g(1.8 mmol)を少量ずつ加えた。加え終わってから、反応液を室温で4時間攪拌した。反応液を酢酸エチルで希釈し、少量の水及び飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下に溶媒を留去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル:ヘキサン=2:1)により精製し、1-[6-(3',6',9',12',15'-ペンタオキサ-17',17',17'-トリフルオロヘプタデカニルオキシ)ベンゾオキサゾール-2-イル]-4-(4'-ジメチルアミノフェニル)ブタ-1,3-ジエン0.22 g(60%)を濃赤色油状物(幾何異性体の混合物)として得た。
19FNmr (CDCl3) δ-75.55 (t, J=9Hz), 1HNmr (CDCl3) δ3.01, 3.02, 3.03 (それぞれsinglet, 合わせて6H), δ3.6-3.8 (16H), δ3.8-4.0 (4H), 4.25 (2H, m), δ6.4-7.1 (7H), δ7.3-7.6 (4H)
【0100】
[合成例3] 1-[6-(3',6',9',12',15',18'-ヘキサオキサ-20',20',20'-トリフルオロイコサニルオキシ)ベンゾオキサゾール-2-イル]-4-(4'-ジメチルアミノフェニル)ブタ-1,3-ジエン(化合物3)の合成
【0101】
(1)窒素気流中、60%水素化ナトリウム0.40 g(10 mmol)をフラスコに量り取り、氷冷しながら、2-(2',2',2'-トリフルオロエトキシ)エタノール1.44 g(10 mmol)のTHF (12 mL)溶液を滴下し、滴下終了後、反応液を1時間室温で攪拌した。反応液を再び氷冷し、1-(2H-テトラヒドロピラン-2'-イルオキシ)-14-(4'-p-トルエンスルホニルオキシ)-3,6,9,12-テトラオキサテトラデカン4.29 g(9 mmol)のTHF (8 mL)溶液を滴下し、滴下終了後、反応液を室温で15時間攪拌した。反応液を減圧下に濃縮乾固し、残渣を酢酸エチルで抽出した。抽出液を少量の水、ついで少量の飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下にロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:メタノール:ジクロロメタン=1:50)により精製し、1-(2H-テトラヒドロピラン-2'-イルオキシ)-20,20,20-トリフルオロ-3,6,9,12,15,18-ヘキサオキサイコサン3.64 g(90%)を無色油状物として得た。
【0102】
(2)前記工程(1)で得られた1-(2H-テトラヒドロピラン-2'-イルオキシ)-20,20,20-トリフルオロ-3,6.9,12,15,18-ヘキサオキサイコサン3.64 g(8.12 mmol)をエタノール(25 mL)に溶かした溶液に1M-塩酸(0.1 mL)を加えて、24時間室温に放置した後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて中和し、析出する沈殿を濾別した。濾液をロータリーエバポレーターを用いて減圧下に濃縮乾固し、得られた残渣をジクロロメタンで抽出した。抽出液を硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下に濃縮乾固して得られた残渣(2.76 g)をジクロロメタン(20 mL)に溶かし、塩化p-トルエンスルホニル1.9 g(9.9 mol)を加えた後、氷冷しながらトリエチルアミン1.5 mL(10.8 mmol)を少量ずつ加えた。反応液を室温で24時間攪拌した後、ジクロロメタンで希釈し、少量の水及び飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下に溶媒を留去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:メタノール:ジクロロメタン=1:100)により精製し、1-(4'-p-トルエンスルホニルオキシ)-20,20,20-トリフルオロ-3,6,9,12,15,18-ヘキサオキサイコサン3.78 g(90%)を無色油状物として得た。
【0103】
(3)前記工程(2)で得られた1-(4'-p-トルエンスルホニルオキシ)-20,20,20-トリフルオロ-3,6,9,12,15,18-ヘキサオキサイコサン1.73 g(3.34 mmol)をDMF (7 mL)に溶かした溶液に臭化アンモニウム0.66 g(6.73 mmol)を加えた混合物を激しく攪拌しながら80-85℃に6時間加熱した。減圧下に溶媒を留去して得られた残渣を酢酸エチルで抽出した。抽出液を少量の水及び飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下に溶媒を留去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:メタノール:ジクロロメタン=1:100)により精製し、1-ブロモ-20,20,20-トリフルオロ-3,6,9,12,15,18-ヘキサオキサイコサン1.23 g(86%)を無色油状物として得た。
19FNmr (CDCl3) δ-75.56 (t, J=9Hz), 1HNmr (CDCl3) δ3.48 (2H, t, J=6Hz), δ3.6-3.9 (22H), δ3.91 (2H, q, J=9Hz)
【0104】
(4)前記工程(3)で得られた1-ブロモ-20,20,20-トリフルオロ-3,6,9,12,15,18-ヘキサオキサイコサン635 mg(1.49 mmol)と6-ヒドロキシ-2-メチルベンゾオキサゾ―ル(III)333 mg(2.23 mmol)とをアセトン(4 mL)に溶かした溶液に、炭酸カリウム923 mg(6.7 mmol)とヨウ化カリウム25 mg(0.15 mmol)とを加えて得られた混合物を、激しく攪拌しながら10時間還流した。反応液を減圧下に濃縮乾固して得られた残渣を酢酸エチルで抽出し、抽出液を少量の水及び飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下に溶媒を留去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル:ヘキサン=1:1)により精製し、2-メチル-6-(3',6',9',12',15',18'-ヘキサオキサ-20',20',20'-トリフルオロイコサニルオキシ)ベンゾオキサゾ―ル624 mg (85%)を油状物として得た。
19FNmr (CDCl3) δ-75.56 (t, J=9Hz), 1HNmr (CDCl3) δ2.60 (3H, s), δ3.6-3.8 (20H), δ3.88 (2H, m), δ3.91 (2H, q, J=9Hz), δ4.16 (2H, m), δ6.91 (1H, dd, J=2.1Hz, 8.6Hz), δ7.03 (1H, d, J=2.1Hz), δ7.50 (1H, d, J=8.6Hz)
【0105】
(5)前記工程(4)で得られた2-メチル-6-(3',6',9',12',15',18'-ヘキサオキサ-20',20',20'-トリフルオロイコサニルオキシ)ベンゾオキサゾ―ル333 mg(0.673 mmol)と4-ジメチルアミノシンナムアルデヒド236 mg(1.35 mmol)とをDMF (2.7 mL)に溶かした溶液に、氷冷しながらカリウムt-ブトキシド224 mg(2 mmol)を少量ずつ加えた。加え終わってから、室温で5時間攪拌した。反応液を酢酸エチルで希釈し、少量の水及び飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下に溶媒を留去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル:ヘキサン=2:1)により精製し、1-[6-(3',6',9',12',15',18'-ヘキサオキサ-20',20',20'-トリフルオロイコサニルオキシ)ベンゾオキサゾ―ル-2-イル]-4-(4'-ジメチルアミノフェニル)ブタ-1,3-ジオン267 mg(61%)を濃赤色油状物(幾何異性体の混合物)として得た。
19FNmr (CDCl3) δ-75.56 (t, J=9Hz), 1HNmr (CDCl3) δ3.01, 3.02, 3.03 (それぞれsinglet,合わせて6H), δ3.6-3.8 (20H), δ3.8-4.0 (4H), δ4.1-4.2 (2H), δ6.4-7.1 (7H), δ7.3-7.6 (4H)
【0106】
[合成例4] 1-[6-(3',6',9',12',15',18',21'-ヘプタオキサ-23',23',23'-トリフルオロトリコサニルオキシ)ベンゾオキサゾ―ル-2-イル]-4-(4'-ジメチルアミノフェニル)ブタ-1,3-ジエン(化合物4)の合成
【0107】
(1)窒素気流中、60%水素化ナトリウム 0.42 g(10.5 mmol)をフラスコに量り取り、氷冷しながら、2-(2',2',2'-トリフルオロエトキシ)エタノール1.58 g(11 mmol)のTHF (12 mL)溶液を滴下し、滴下終了後、反応液を1時間室温で攪拌した。反応液を再び氷冷し、1-(2H-テトラヒドロピラン-2-イルオキシ)-17-(4'-p-トルエンスルホニルオキシ)-3,6,9,12,15-ペンタオキサヘプタデカン4.68 g(9 mmol)のTHF (8 mL)溶液を滴下し、滴下終了後、反応液を室温で13時間攪拌した。反応液を減圧下に濃縮乾固し、得られた残渣を酢酸エチルで抽出した。抽出液を少量の水及び飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下に溶媒を留去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:メタノール:ジクロロメタン=1:100)により精製し、1-(2H-テトラヒドロピラン-2-イルオキシ)-23,23,23-トリフルオロ-3,6,9,12,15,18,21-ヘプタオキサトリコサン4.22 g(77%)を無色油状物として得た。
【0108】
(2)前記工程(1)で得られた1-(2H-テトラヒドロピラン-2-イルオキシ)-23,23,23-トリフルオロ-3,6,9,12,15,18,21-ヘプタオキサトリコサン4.22 g(8.6 mmol)をエタノール(40 mL)に溶かした溶液に1M-塩酸(0.1 mL)を加えて、22時間室温に放置した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて中和し、析出する沈殿を濾別した。濾液を減圧下に濃縮乾固して得られた残渣をジクロロメタンで抽出し、抽出液を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下に溶媒を留去して得られた残渣(3.50 g)をジクロロメタン(20 mL)に溶かし、塩化p-トルエンスルホニル2.1 g(11 mmol)を加えた後、氷冷しながらトリエチルアミン1.8 mL(13 mmol)を少量ずつ加えた。反応液を室温で24時間攪拌した後、ジクロロメタンで薄め、少量の水及び飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下に溶媒を留去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:メタノール:ジクロロメタン=1:100)により精製し、1-(4'-p-トルエンスルホニルオキシ)-23,23,23-トリフルオロ-3,6,9,12,15,18,21-ヘプタオキサトリコサン4.28 g(89%)を無色油状物として得た。
【0109】
(3)前記工程(2)で得られた1-(4'-p-トルエンスルホニルオキシ)-23,23,23-トリフルオロ-3,6,9,12,15,18,21-ヘプタオキサトリコサン4.28 g(7.6 mmol)をDMF (16 mL)に溶かした溶液に、臭化アンモニウム1.5 g(15.3 mmol)を加えた混合物を激しく攪拌しながら80-85℃に6時間加熱した。減圧下に溶媒を留去して得られた残渣を酢酸エチルで抽出した。抽出液を少量の水及び飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下に溶媒を留去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:メタノール:ジクロロメタン=1:100)により精製し、1-ブロモ-23,23,23-トリフルオロ-3,6,9,12,15,18,21-ヘプタオキサトリコサン3.04 g(85%)を無色油状物として得た。
19FNmr (CDCl3) δ-75.56 (t, J=9Hz), 1HNmr (CDCl3) δ3.48 (2H, t, J=6Hz), δ3.6-3.9 (22H), δ3.80 (4H, m), δ3.91 (2H, q, J=9Hz)
【0110】
(4)前記工程(3)で得られた1-ブロモ-23,23,23-トリフルオロ-3,6,9,12,15,18,21-ヘプタオキサトリコサン431 mg(0.91 mmol)と6-ヒドロキシ-2-メチルベンゾオキサゾ―ル164 mg(1.1 mmol)とをアセトン(4 mL)に溶かした溶液に、炭酸カリウム304 mg(2.2 mmol)とヨウ化カリウム17 mg(0.1 mmol)とを加えて得られた混合物を、激しく攪拌しながら10時間還流した。反応液を減圧下に濃縮乾固して得られた残渣を酢酸エチルで抽出し、抽出液を少量の水及び飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下に溶媒を留去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル)により精製し、2-メチル-6-(3',6',9',12',15',18',21'-ヘプタオキサ-23',23',23'-トリフルオロトリコサニルオキシ)ベンゾオキサゾール435 mg(88%)を油状物として得た。
19FNmr (CDCl3) δ-75.56 (t, J=9Hz), 1HNmr (CDCl3) δ2.60 (3H, s), δ3.6-3.8 (24H), δ3.88 (2H, m), δ3.91 (2H, q, J=9Hz), δ4.16 (2H, m), δ6.92 (1H, dd, J=2.3Hz, 8.6Hz), δ7.03 (1H, d, J=2.3Hz), δ7.50 (1H, d, J=8.6Hz)
【0111】
(5)前記工程(4)で得られた2-メチル-6-(3',6',9',12',15',18',21'-ヘプタオキサ-23',23',23'-トリフルオロトリコサニルオキシ)ベンゾオキサゾール423 mg(0.78 mmol)と4-ジメチルアミノシンナムアルデヒド320 mg(1.6 mmol)とをDMF (5 mL)に溶かした溶液に、氷冷しながらカリウムt-ブトキシド260 mg(2.3 mmol)を少量ずつ加えた。加え終わってから、反応液を室温で4時間攪拌した。反応液を酢酸エチルで希釈し、少量の水及び飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下に溶媒を留去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル)により精製し、1-[6-(3',6',9',12',15',18',21'-ヘプタオキサ-23',23',23'-トリフルオロトリコサニルオキシ)ベンゾオキサゾ―ル-2-イル]-4-(4'-ジメチルアミノフェニル)ブタ-1,3-ジオン264 mg(47%)を濃赤色油状物(幾何異性体の混合物)として得た。
19FNmr (CDCl3) δ-75.55 (t, J=9Hz), 1HNmr (CDCl3) δ3.01, 3.02, 3.03 (それぞれsinglet, 合わせて6H), δ3.6-3.8 (24H), δ3.8-4.0 (4H), δ4.18 (2H, m), δ6.4-7.1 (7H), δ7.3-7.6 (4H)
【0112】
[合成例5] 4-(6-メトキシナフト-2-イル)ビリミド[1,2-a]ベンゾイミダゾール(化合物5)の合成
【0113】
(1)2-アセチル-6-メトキシナフタレン1.0 g(5.0 mmol)をジメチルホルムアミドジエチルアセタール(5.0 mL)中で135℃に5時間加熱した。冷却して得られる結晶を濾過し、ヘキサンで洗ったのちデシケータで乾燥すると3-ジメチルアミノ-1-(6-メトキシナフト-2-イル)プロプ-2-エン-1-オン1.21 g(95%)が得られた(mp143-144℃)。
1HNmr (CDCl3) δ2.97 (3H, br.s), δ3.14 (3H, br.s), δ3.93 (3H,s), δ5.86 (1H, d, J=12.4Hz), δ7.1-7.2 (2H), δ7.74 (1H, d, J=8.8Hz), δ7.82 (1H, d, J=8.8Hz), δ7.85 (1H, d, J=12.4Hz), δ7.99 (1H, dd, J=2.0Hz, 8.8Hz), δ8.33 (1H, d, J=2.0Hz)
【0114】
(2)3-ジメチルアミノ-1-(6-メトキシナフト-2-イル)プロプ-2-エン-1-オン370 mg(1.45 mmol)と2-アミノベンゾイミダゾール193 mg(1.45 mmol)とをジエチレングリコールジメチルエーテル(1.5 mL)中、160℃に6時間加熱した。析出した沈殿を濾取し、メタノールから再結晶すると4-(6-メトキシナフト-2-イル)ピリミド[1,2-a]ベンゾイミダゾール117 mg(25%)が得られた(mp>200℃)。
1HNmr (CDCl3) δ4.00 (3H, s), δ6.79 (1H, d, J=8.8Hz), δ6.84 (1H, d, J=4.4Hz), δ6.99 (1H, t, J=7.2Hz), δ7.25-7.35 (2H), δ7.46 (1H, t, J=7.2Hz), δ7.58 (1H, dd, J=2.0Hz, 8.4Hz), δ7.85 (1H, d, J=9.2Hz), δ7.97 (1H, d, J=8.8Hz), δ8.00 (1H, d, J=9.2Hz), δ8.04 (1H, d, J=2.0Hz), δ8.82 (1H, d, J=4.4Hz)
【0115】
4-(6-メトキシナフト-2-イル)ピリミド[1,2-a]ベンゾイミダゾールの合成ルートを以下に示す。
【0116】
【化11】
【0117】
[合成例6] 4-[6-(3',6',9',12',15',18'-ヘキサオキサ-20',20',20'-トリフルオロエイコサニルオキシ)ナフト-2-イル]ピリミド[1,2-a]ベンゾイミダゾール(化合物6)の合成
【0118】
(1)2-アセチル-6-ヒドロキシナフタレン542 mg(2.91 mmol)と1-ブロモ-3,6,9,12,15,18-ヘキサオキサ-20,20,20-トリフルオロイコサン957 mg(2.24 mmol)とをアセトン(20 mL)に溶かした溶液に、炭酸カリウム800 mg(5.80 mmol)とヨウ化カリウム50 mg(0.3 mmol)とを加えて得られた混合物を、激しく攪拌しながら12時間還流した。反応液を減圧下に濃縮乾固して得られた残渣を酢酸エチルで抽出し、抽出液を少量の水及び飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下に溶媒を留去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル)により精製し、2-アセチル-6-(3',6',9',12',15',18'-ヘキサオキサ-20',20',20'-トリフルオロエイコサニルオキシ)ナフタレン1.10 g(92%)を無色油状物として得た。
19FNmr (CDCl3) δ-75.54 (t, J=9Hz), 1HNmr (CDCl3) δ2.69 (3H, s), δ3.6-3.8 (20H), δ3.89 (2H, q, J=9Hz), δ3.93 (2H, t, J=4.8Hz), δ4.27 (2H, t, J=4.8Hz), δ7.15 (1H, d, J=2.8Hz), δ7.23 (1H, dd, J=2.8Hz, 9.2Hz), δ7.74 (1H, d, J=8.4Hz), δ7.84 (1H, d, J=8.4Hz), δ7.99 (1H, dd, J=1.6Hz, 8.8Hz), δ8.38 (1H, d, J=1.6Hz)
【0119】
(2)2-アセチル-6-(3',6',9',12',15',18'-ヘキサオキサ-20',20',20'-トリフルオロエイコサニルオキシ)ナフタレン506 mg(0.95 mmol)をジメチルホルムアミドジエチルアセタール(1.1 ml)中で135℃に5時間加熱した。反応液を室温まで冷却し、酢酸エチルで抽出した。抽出液を少量の水及び飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下に溶媒を留去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル)により精製し、3-ジメチルアミノ-1-[6-(3',6',9',12',15',18'-ヘキサオキサ-20',20',20'-トリフルオロエイコサニルオキシ)ナフト-2-イル]プロプ-2-エン-1-オン480 mg(85%)を淡黄色油状物として得た。
19FNmr (CDCl3) δ-75.54 (t, J=9Hz), 1HNmr (CDCl3) δ3.00 (3H, br.s), δ3.13 (3H, br.s), δ3.6-3.8 (20H), δ3.88 (2H, q, J=9Hz), δ3.92 (2H, t, J=4.8Hz), δ4.25 (2H, t, J=4.8Hz), δ5.85 (1H, d, J=12Hz), δ7.14 (1H, d, J=2.0Hz), δ7.18 (1H, dd, J=2.0Hz, 8.8Hz), δ7.72 (1H,d J=8.8Hz), δ7.82 (1H, d, J=8.8Hz), δ7.85 (1H, d, J=12Hz), δ7.97 (1H, dd, J=1.6Hz, 8.8Hz), δ8.32 (1H, d, J=1.6Hz)
【0120】
(3)3-ジメチルアミノ-1-[6-(3',6',9',12',15',18'-ヘキサオキサ-20',20',20'-トリフルオロエイコサニルオキシ)ナフト-2-イル]プロプ-2-エン-1-オン390 mg(0.73 mmol)とベンゾイミダゾール116 mg(0.88 mmol)とをジエチレングリコールジメチルエーテル(1.1 mL)中、150℃に9時間加熱した。反応液を室温まで冷却し、酢酸エチルで抽出した。抽出液を少量の水及び飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下に溶媒を留去して得られた残渣をエタノールに溶かし、2M-塩酸を加えてpH2に調整した後、濃縮乾固した。残渣を水に溶かしジエチルエーテルで洗浄した後、炭酸水素カリウムを加えて中和して酢酸エチルで抽出した。抽出液を少量の水及び飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下に溶媒を留去すると4-[6-(3',6',9',12',15',18'-ヘキサオキサ-20',20',20'-トリフルオロエイコサニル)ナフト-2-イル]ピリミド[1,2-a]ベンゾイミダゾール140 mg(31%)が黄色油状物として得られた。
19FNmr (CDCl3) δ-75.53 (t, J=9Hz), 1HNmr (CDCl3) δ3.6-3.8 (20H), δ3.89 (2H, q, J=9Hz), δ3.97 (2H, t, J=4.8Hz), δ4.32 (2H, t, J=4.8Hz), δ6.78 (1H, d, J=8.4Hz), δ6.82 (1H, d, J=4.0Hz), δ6.98 (1H, t, J=8.0Hz), δ7.29 (1H, d, J=2.4Hz), δ7.33 (1H, dd, J=2.4Hz, 9.2Hz), δ7.45 (1H, t, J=8.4Hz), δ7.56 (1H, dd, J=1.6Hz, 8.4Hz), δ7.84 (1H, d, J=9.2Hz), δ7.95 (1H, d, J=8.8Hz), 7.99 (1H, d, J=8.0Hz), δ8.03 (1H, d, J=1.6Hz), δ8.82 (1H, d, J=4.0Hz)
【0121】
4-[6-(3',6',9',12',15',18'-ヘキサオキサ-20',20',20'-トリフルオロエイコサニル)ナフト-2-イル]ピリミド[1,2-a]ベンゾイミダゾールの合成ルートを以下に示す。
【0122】
【化12】
【0123】
[試験例1] 化合物のヒト神経原線維変化への結合能の検証
化合物1をDMSOに溶解して10 mMの溶液を調製した後、30μLを量りとり、50%エタノールを加えて3 mLの試験溶液とした(薬液濃度:100μM)。アルツハイマー病患者の死後脳組織固定標本(4μm厚)を脱パラフィンした後、0.25%過マンガン酸カリウム溶液に20分間、10 mMリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に2分間を2回、0.1%ピロ亜硫酸カリウム溶液に5秒間、0.15%シュウ酸に5秒間それぞれ浸漬した。PBSで2分間3回洗浄した後、試験溶液に10分間浸漬した。蒸留水に2秒間浸漬した後、風乾し、カバーガラスを被せて、蛍光顕微鏡(BX61、オリンパス(株))にて神経原線維変化への化合物の結合を観察した。陰性対照には試験溶液の代わりに1%DMSO含有50%エタノールを用いて同処理を行った。
【0124】
図1に化合物1の蛍光観察像を示す。化合物1の蛍光が神経原線維変化に認められたことから(矢頭)、化合物1は神経原線維変化に結合することが示された。なお、陰性対照では、神経原線維変化特異的な蛍光は認められなかった。
【0125】
[試験例2] 化合物のタウ病変(リン酸化タウ凝集体)への結合能の検証
化合物1-4をDMSOに溶解して10 mMの溶液を調製した後、3μLを量りとり、50%エタノールを加えて3 mLの試験溶液とした(薬液濃度:100μM)。タウ遺伝子改変マウス(rTg4510マウス)の脳切片に試験溶液を90分間浸漬した。次いで、80%エタノールに1分間、蒸留水に3分間浸漬した後、風乾し、カバーガラスを被せて、蛍光顕微鏡(Bz-8000、(株)キーエンス)にて化合物の蛍光を観察した。陰性対照には試験溶液の代わりに1%DMSO含有50%エタノールを用いて同処理を行った。
【0126】
一部は、試験溶液に浸漬した後、0.3% Triton X-100含有0.1 Mリン酸緩衝生理食塩水(PBST)で10分3回洗浄し、2%牛血清アルブミン含有PBSTに30分浸漬した。その後、抗リン酸化タウ抗体(AT8, Thermo Fisher Scientific)を0.2%牛血清アルブミン含有PBSTで1000倍に希釈して、切片と一晩反応させた。PBSTで10分3回洗浄した後、Alexa555標識ロバ抗マウスIgG抗体(Thermo Fisher Scientific;500倍希釈)と4時間反応した。PBSTで10分3回洗浄した後、カバーガラスを被せて、蛍光顕微鏡(Bz-8000、(株)キーエンス)にてタウ病変(リン酸化タウ凝集体)への化合物の結合を観察した。
【0127】
図2に化合物1-4の蛍光観察結果を示す。AとBは同一視野における蛍光観察像で、AはGFP-Bフィルターを用いて観察された化合物1の蛍光(矢頭)を、BはTexasRedフィルターを用いて観察されたAT8陽性のリン酸化タウ(矢頭)を示している。化合物1の蛍光がAT8陽性のリン酸化タウに一致して認められることから、化合物1がrTg4510マウスにおけるタウ病変(リン酸化タウ凝集体)に結合することが示された。同様に、化合物2-4においてもrTg4510マウスにおけるタウ病変において蛍光が観察された(矢頭)ことから、これらの化合物もタウ病変に結合することが示唆された。
【0128】
[試験例3] フッ素磁気共鳴画像法(MRI)によるタウ病変の検出
化合物2を20%クレモフォール含有生理食塩水に溶解して10 mg/mLに調製したものを投与液とした。この投与液をペントバルビタールナトリウム(50 mg/kg, i.p.)による麻酔下のタウ遺伝子改変マウス(rTg4510マウス)と野生型マウスに、尾静脈から投与した(投与量200 mg/kg、投与速度0.2 mL/kg/min)。投与終了後、7テスラMRI装置(Agilent Technologies)を用いてマウス頭部のMRIを測定した。フッ素MRIの画像はケミカルシフトイメージング法(CSI法)によって取得した。
【0129】
図3に測定結果を示す。AとBは野生型マウス(Wild-type)の頭部1H MRI画像(A)とフッ素MRI画像(B)を示し、CとDはrTg4510マウスの頭部1H MRI画像(C)とフッ素MRI画像(D)を示す。BとDの白線は脳の輪郭を示す。フッ素MRI画像を比較すると、前脳領域において、rTg4510マウスでは野生型マウスよりも強いMR信号が検出された。一方、rTg4510マウスと野生型マウスともに嗅球と小脳の周辺に強い信号が観察された。
【0130】
[試験例4] フッ素磁気共鳴画像法(MRI)によるタウ病変の検出
化合物3を20%クレモフォール含有生理食塩水に溶解して10 mg/mLに調製したものを投与液とした。この投与液をペントバルビタールナトリウム(50 mg/kg, i.p.)による麻酔下のタウ遺伝子改変マウス(rTg4510マウス)と野生型マウスに、尾静脈から投与した(投与量200 mg/kg、投与速度0.2 mL/kg/min)。投与終了後、7テスラMRI装置(Agilent Technologies)を用いてマウス頭部のMRIを測定した。フッ素MRIの画像はケミカルシフトイメージング法(CSI法)によって取得した。
【0131】
図4に測定結果を示す。AとBは野生型マウス(Wild-type)の頭部1H MRI画像(A)とフッ素MRI画像(B)を示し、CとDはrTg4510マウスの頭部1H MRI画像(C)とフッ素MRI画像(D)を示す。BとDの白線は脳の輪郭を示す。フッ素MRI画像を比較すると、主に前脳領域において、rTg4510マウスでは野生型マウスに比べて頭部に強いMR信号が検出された。
【0132】
[試験例5] 化合物が血液脳関門を通過して脳内タウ病変に結合することの検証
試験例3と4でMRI測定したマウスから脳を摘出し、4%パラホルムアルデヒド含有0.1 Mリン酸緩衝液で24時間固定した後、15%ショ糖含有0.1 Mリン酸緩衝液に最低2日間浸漬した。その後、クリオスタットで20μm厚の切片を作製した。この切片をスライドグラスにのせ、風乾し、カバーガラスを被せて、蛍光顕微鏡(Bz-8000、(株)キーエンス)にて化合物の蛍光を観察した。
【0133】
図5に化合物2(A, B)又は化合物3(C, D)を投与したrTg4510マウスの海馬(A, C)及び大脳皮質(B, D)における蛍光観察結果を示す。海馬及び大脳皮質に形成された病変に化合物の蛍光(矢頭)が観察されたことから、投与化合物は血液脳関門を通過して脳に達し、タウ病変に結合することが示された。
【0134】
[試験例6] 化合物のヒト神経原線維変化への結合能の検証
化合物5-6をDMSOに溶解して5 mMの溶液を調製した後、60μLを量りとり、50%エタノールを加えて3 mLの試験溶液とした(薬液濃度:100μM)。アルツハイマー病患者の死後脳組織固定標本(4μm厚)を脱パラフィンした後、0.25%過マンガン酸カリウム溶液に20分間、10 mMリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に2分間を2回、0.1%ピロ亜硫酸カリウム溶液に5秒間、0.15%シュウ酸に5秒間それぞれ浸漬した。PBSで2分間3回洗浄した後、試験溶液に10分間浸漬した。蒸留水に2秒間浸漬した後、風乾し、カバーガラスを被せて、蛍光顕微鏡(BX61、オリンパス(株))にて神経原線維変化への化合物の結合を観察した。陰性対照には試験溶液の代わりに1%DMSO含有50%エタノールを用いて同処理を行った。
【0135】
図6に化合物5(A)と化合物6(B)の蛍光観察像を示す。化合物の蛍光が神経原線維変化に認められたことから(矢頭)、これらの化合物は神経原線維変化に結合することが示された。なお、陰性対照では神経原線維変化特異的な蛍光は認められなかった。
【0136】
[試験例7] フッ素磁気共鳴画像法(MRI)によるタウ病変の検出
化合物6を20%クレモフォール含有生理食塩水に溶解して10 mg/mLに調製したものを投与液とした。この投与液をペントバルビタールナトリウム(50 mg/kg, i.p.)による麻酔下のタウ遺伝子改変マウス(rTg4510マウス)に、尾静脈から投与した(投与量100 mg/kg、投与速度0.2 mL/kg/min)。投与終了後、7テスラMRI装置(Agilent Technologies)を用いてマウス頭部のMRIを測定した。フッ素MRIの画像はケミカルシフトイメージング法(CSI法)によって取得した。
【0137】
図7に測定結果を示す。AとBは頭部矢状断の1H MRI画像(A)とフッ素MRI画像(B)を示す。化合物6のフッ素MR信号が脳で検出された。
【0138】
[試験例8] 化合物が血液脳関門を通過して脳内タウ病変に結合することの検証
試験例7でMRI測定したマウスから脳を摘出し、4%パラホルムアルデヒド含有0.1 Mリン酸緩衝液で24時間固定した後、15%ショ糖含有0.1 Mリン酸緩衝液に最低2日間浸漬した。その後、クリオスタットで20μm厚の切片を作製した。この切片をスライドグラスにのせ、風乾し、カバーガラスを被せて、蛍光顕微鏡(BX61、オリンパス(株))にて化合物の蛍光を観察した。また、タウ病変の形成部位を特定するために抗リン酸化タウ抗体による免疫組織化学的解析を実施した。
【0139】
図8に化合物6を投与したrTg4510マウスの海馬における蛍光観察結果を示す。AとBは同一視野における蛍光観察像で、Aは化合物6の蛍光を、Bはリン酸化タウ抗体による蛍光を示す。化合物6の蛍光は海馬に認められた。リン酸化タウ抗体による蛍光も同様に海馬に認められたことから、投与化合物は血液脳関門を通過して脳に達し、タウ病変に結合したことが示唆された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8