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特許7008330組み合わせ医薬品の製造方法および製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-13
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】組み合わせ医薬品の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/28 20060101AFI20220203BHJP
   A61M 5/14 20060101ALN20220203BHJP
   A61J 1/05 20060101ALN20220203BHJP
   A61J 1/20 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
A61M5/28 520
A61M5/14 584
A61J1/05 351A
A61J1/20 314C
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018111430
(22)【出願日】2018-06-11
(65)【公開番号】P2019213625
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-05-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520114797
【氏名又は名称】株式会社エムアイアイ
(74)【代理人】
【識別番号】100142114
【弁理士】
【氏名又は名称】小石川 由紀乃
(72)【発明者】
【氏名】盛本 修司
【審査官】川島 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-031189(JP,A)
【文献】特開2010-083557(JP,A)
【文献】特開2016-073377(JP,A)
【文献】国際公開第2017/042536(WO,A1)
【文献】特表2002-532670(JP,A)
【文献】特開平11-047274(JP,A)
【文献】国際公開第2016/158565(WO,A1)
【文献】特開2006-68122(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/28
A61M 5/14
A61J 1/05
A61J 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形状もしくは液状の薬剤または薬剤以外の液体が入ったシリンジおよび当該シリンジ内を往復動可能なプランジャを備える第1容器と、密閉された開口部を有すると共に固形状もしくは液状の薬剤または薬剤以外の液体が入った状態で密閉される第2容器と、第1容器のシリンジと第2容器との間に配備されて各容器を連通させた状態に連結可能な連結部材と、互いに連結される第1および第2の中空部材の連結により形成される収容空間を有する一方向に長い収容部材とを備え、前記第1の中空部材の一端部に前記第2容器が配置され、この第2容器に対向させた前記連結部材と前記第1容器とがそれぞれの中心軸を合わせかつその軸方向を前記収容部材の長さ方向に合わせて並ぶ関係をもって前記軸方向に沿って移動可能に前記収容部材の内部に保持され、前記連結部材を介して連通した第1容器と第2容器との内容物が混合されることによって液状薬剤が生成される組み合わせ医薬品、を製造する方法であって、
前記の各容器および各部材を組み合わせる処理を行うためのアイソレータの側面の一箇所に設けられた導入口の手前に、搬送機構を備える滅菌装置を含み、当該滅菌装置により滅菌された物品を無菌状態のまま前記導入口まで搬送する搬入ゾーンを設けると共に、前記アイソレータの前記導入口とは異なる場所に、滅菌処理が施された物品を受け入れて当該物品を無菌状態のまま前記アイソレータに導入する導入装置を配備し、
前記の薬剤または液体が入った第1容器および前記の薬剤または液体が入った第2容器ならびに前記連結部材のうちの少なくとも第1容器および第2容器を対象として、同一種類の複数個の対象物が収納されかつこれらの対象物を含む内部全体が滅菌されて密閉されたパッケージを前記搬入ゾーンに1つずつ順に送り込んで前記滅菌装置により前記パッケージの外表面に滅菌処理を施し、当該滅菌処理が完了したパッケージを無菌状態のまま前記導入口から滅菌処理済みの前記アイソレータの中に導入する第1の導入工程と、前記組み合わせ医薬品の構成要素であって当該医薬品を製造するために前記アイソレータに導入される物品のうちの前記第1の導入工程の対象とならなかった物品が滅菌処理後に無菌状態のまま複数個保管された収納容器内の各物品を、当該収納容器から前記導入装置を介して無菌状態のまま前記アイソレータに導入する第2の導入工程とを実行すると共に、前記第1の導入工程の対象物のうちの少なくとも第1容器については前記パッケージ内に整列状態で収納されるようにし、
前記第1および第2の導入工程によって前記組み合わせ医薬品を構成する全ての物品が導入されたアイソレータにおいて、
薬剤または液体が入った前記第2容器を前記第1の中空部材の一端部に前記開口部の側を他端部に向けた姿勢で配置すると共に、薬剤または液体が入った前記第1容器および前記連結部材を前記の関係を持たせかつ当該連結部材を前記第2容器に対向させて前記第1の中空部材に配置する工程と、前記の工程によって第1および第2の容器ならびに連結部材が収納された第1の中空部材に第2の中空部材を連結させる工程とを含む組立工程を実行し、完成した組み合わせ医薬品を前記アイソレータから送り出す、
ことを特徴とする組み合わせ医薬品の製造方法。
【請求項2】
固形状もしくは液状の薬剤または薬剤以外の液体が入ったシリンジおよび当該シリンジ内を往復動可能なプランジャを備える第1容器と、密閉された開口部を有すると共に固形状もしくは液状の薬剤または薬剤以外の液体が入った状態で密閉される第2容器と、第1容器のシリンジと第2容器との間に配備されて各容器を連通させた状態に連結可能な連結部材と、互いに連結される第1および第2の中空部材の連結により形成される収容空間を有する一方向に長い収容部材とを備え、前記第1の中空部材の一端部に前記第2容器が配置され、この第2容器に対向させた前記連結部材と前記第1容器とがそれぞれの中心軸を合わせかつその軸方向を前記収容部材の長さ方向に合わせて並ぶ関係をもって前記軸方向に沿って移動可能に前記収容部材の内部に保持され、前記連結部材を介して連通した第1容器と第2容器との内容物が混合されることによって液状薬剤が生成される組み合わせ医薬品、を製造する方法であって、
前記の各容器および各部材を組み合わせる処理を行うためのアイソレータの側面の一箇所に設けられた導入口の手前に、搬送機構を備える滅菌装置を含み、当該滅菌装置により滅菌された物品を無菌状態のまま前記導入口まで搬送する搬入ゾーンを設け、
前記の薬剤または液体が入った第1容器および前記の薬剤または液体が入った第2容器、ならびに前記組み合わせ医薬品のその他の構成要素であって当該医薬品を製造するために滅菌処理済みのアイソレータに導入される全ての種類の物品を対象として、同一種類の複数個の対象物が収納されかつこれらの対象物を含む内部全体が滅菌されて密閉されたパッケージを前記搬入ゾーンに1つずつ順に送り込んで前記滅菌装置により前記パッケージの外表面に滅菌処理を施し、当該滅菌処理が完了したパッケージを無菌状態のまま前記導入口から滅菌処理済みの前記アイソレータの中に導入する導入工程を実行すると共に、前記第1容器および第2容器ならびに連結部材のうちの少なくとも第1容器については前記パッケージ内に整列状態で収納されるようにし、
前記導入工程によって前記組み合わせ医薬品を構成する全ての物品が導入されたアイソレータにおいて、
薬剤または液体が入った前記第2容器を前記第1の中空部材の一端部に前記開口部の側を他端部に向けた姿勢で配置すると共に、薬剤または液体が入った前記第1容器および前記連結部材を前記の関係を持たせかつ当該連結部材を前記第2容器に対向させて前記第1の中空部材に配置する工程と、前記の工程によって第1および第2の容器ならびに連結部材が収納された第1の中空部材に第2の中空部材を連結させる工程とを含む組立工程を実行し、完成した組み合わせ医薬品を前記アイソレータから送り出す、
ことを特徴とする組み合わせ医薬品の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載された方法において、
自装置内を搬送される物品に電子線を照射する電子線滅菌装置を前記滅菌装置として前記搬入ゾーンに配備する、組み合わせ医薬品の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載された方法において、
前記搬入ゾーンの前記電子線滅菌装置の後段に、アイソレータの前記導入口に連なる前処理室を設け、この前処理室において電子線滅菌装置により滅菌されたパッケージを開封し、開封後のパッケージをアイソレータに導入する、組み合わせ医薬品の製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載された方法において、
前記アイソレータの内部の一箇所に他の部分から隔離された領域を設け、この領域において前記電子線滅菌装置により滅菌された後にアイソレータに導入されたパッケージを開封し、開封後のパッケージを前記隔離された領域から隔離されていない領域へと移す、組み合わせ医薬品の製造方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載された方法において、
前記組立工程中の前記第1の中空部材に前記第2の中空部材を連結する工程において、両者を連結すると同時に当該連結部分を密閉し、この密閉によって気密状態となった組み合わせ医薬品をアイソレータから送り出す、組み合わせ医薬品の製造方法。
【請求項7】
請求項1または2に記載された方法において、
前記組立工程が終了したアイソレータにおいて、当該組立工程により連結された前記第1の中空部材と第2の中空部材との間の連結部分を密閉する工程または収容部材全体を密閉容器内に封入する工程を実行し、この工程によって気密状態となった組み合わせ医薬品を前記アイソレータから送り出す、組み合わせ医薬品の製造方法。
【請求項8】
固形状もしくは液状の薬剤または薬剤以外の液体が入ったシリンジおよび当該シリンジ内を往復動可能なプランジャを備える第1容器と、密閉された開口部を有すると共に固形状もしくは液状の薬剤または薬剤以外の液体が入った状態で密閉される第2容器と、第1容器のシリンジと第2容器との間に配備されて各容器を連通させた状態に連結可能な連結部材と、互いに連結される第1および第2の中空部材の連結により形成される収容空間を有する一方向に長い収容部材とを備え、前記第1の中空部材の一端部に前記第2容器が配置され、この第2容器に対向させた前記連結部材と前記第1容器とがそれぞれの中心軸を合わせかつその軸方向を前記収容部材の長さ方向に合わせて並ぶ関係をもって前記軸方向に沿って移動可能に前記収容部材の内部に保持され、前記連結部材を介して連通した第1容器と第2容器との内容物が混合されることによって液状薬剤が生成される組み合わせ医薬品、を製造する装置であって、
前記の各容器および各部材を組み合わせる処理を行うためのアイソレータと、当該アイソレータの側面の一箇所に設けられた導入口の手前に設けられた搬入ゾーンと、前記アイソレータの前記導入口とは異なる場所で滅菌済みの物品を受け入れて当該物品を無菌状態のままアイソレータに導入する導入装置とを備え、
前記搬入ゾーンは、搬送機構を備える滅菌装置を含むと共に、この滅菌装置を通過した物品を無菌状態のまま前記導入口まで搬送するように構成されており、
前記滅菌装置は、前記の薬剤または液体が入った第1容器および前記の薬剤または液体が入った第2容器ならびに前記連結部材のうちの少なくとも第1容器および第2容器を対象として、同一種類の複数個の対象物が収納されかつこれらの対象物を含む内部全体が滅菌されて密閉されたパッケージを1つずつ順に受け入れて自装置の中を通過させる間に当該パッケージの外表面に滅菌処理を施した後に、当該滅菌処理が完了したパッケージを前記導入口に向けて送り出し、
前記導入装置は、前記組み合わせ医薬品の構成要素であって当該医薬品を製造するために前記アイソレータに導入される物品のうちの前記滅菌装置による滅菌対象にならなかった物品を滅菌された状態で受け入れて、これらを前記アイソレータに導入し、
前記アイソレータには、薬剤または液体が入った前記第2容器を前記第1の中空部材の一端部に前記開口部の側を他端部に向けた姿勢で配置すると共に、薬剤または液体が入った前記第1容器および前記連結部材を前記の関係を持たせかつ当該連結部材を前記第2容器に対向させて前記第1の中空部材に配置する工程と、前記の工程によって第1および第2の容器ならびに連結部材が収納された第1の中空部材に第2の中空部材を連結させる工程と、完成した組み合わせ医薬品をアイソレータから送り出す工程とを実行する組立用機械が設けられている、
組み合わせ医薬品の製造装置。
【請求項9】
固形状もしくは液状の薬剤または薬剤以外の液体が入ったシリンジおよび当該シリンジ内を往復動可能なプランジャを備える第1容器と、密閉された開口部を有すると共に固形状もしくは液状の薬剤または薬剤以外の液体が入った状態で密閉される第2容器と、第1容器のシリンジと第2容器との間に配備されて各容器を連通させた状態に連結可能な連結部材と、互いに連結される第1および第2の中空部材の連結により形成される収容空間を有する一方向に長い収容部材とを備え、前記第1の中空部材の一端部に前記第2容器が配置され、この第2容器に対向させた前記連結部材と前記第1容器とがそれぞれの中心軸を合わせかつその軸方向を前記収容部材の長さ方向に合わせて並ぶ関係をもって前記軸方向に沿って移動可能に前記収容部材の内部に保持され、前記連結部材を介して連通した第1容器と第2容器との内容物が混合されることによって液状薬剤が生成される組み合わせ医薬品、を製造する装置であって、
前記の各容器および各部材を組み合わせる処理を行うためのアイソレータと、当該アイソレータの側面の一箇所に設けられた導入口の手前に設けられた搬入ゾーンとを備え、
前記搬入ゾーンは、搬送機構を備える滅菌装置を含むと共に、この滅菌装置を通過した物品を無菌状態のまま前記導入口まで搬送するように構成されており、
前記滅菌装置は、前記の薬剤または液体が入った第1容器および前記の薬剤または液体が入った第2容器、ならびに前記組み合わせ医薬品のその他の構成要素であって当該医薬品を製造するために前記アイソレータに導入される全ての種類の物品のそれぞれの種類を対象として、同一種類の複数個の対象物が収納されかつこれらの対象物を含む内部全体が滅菌されて密閉されたパッケージを1つずつ順に受け入れて自装置の中を通過させる間に当該パッケージの外表面に滅菌処理を施した後に、当該滅菌処理が完了したパッケージを前記導入口に向けて送り出し、
前記アイソレータには、薬剤または液体が入った前記第2容器を前記第1の中空部材の一端部に前記開口部の側を他端部に向けた姿勢で配置すると共に、薬剤または液体が入った前記第1容器および前記連結部材を前記の関係を持たせかつ当該連結部材を前記第2容器に対向させて前記第1の中空部材に配置する工程と、前記の工程によって第1および第2の容器ならびに連結部材が収納された第1の中空部材に第2の中空部材を連結させる工程と、完成した組み合わせ医薬品をアイソレータから送り出す工程とを実行する組立用機械が設けられている、
組み合わせ医薬品の製造装置。
【請求項10】
前記組立用機械は、1台または複数台の無菌環境対応型多関節ロボットである、
請求項8または9に記載された組み合わせ医薬品の製造装置。
【請求項11】
前記滅菌装置は、自装置内を搬送される物品に電子線を照射する電子線滅菌装置である、請求項8または9に記載された組み合わせ医薬品の製造装置。
【請求項12】
前記導入装置は、複数の滅菌された物品を受け入れてこれらを前記アイソレータに一括導入する機能を有する装置である、請求項8に記載された組み合わせ医薬品の製造装置。
【請求項13】
前記アイソレータには、連結された前記第1の中空部材と第2の中空部材との間の連結部分を密閉するための密閉手段または収容部材全体を密閉容器内に封入するための封入手段が設けられる、請求項8または9に記載された組み合わせ医薬品の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単独で医薬品または医療機器として流通させることが可能な物品の中から2以上の異なる種類のものを組み合わせた「組み合わせ医薬品」のうち、液状薬剤を生成するための2種類の材料をそれぞれ個別に保管する2つの容器と、これらの容器を連結および連通させて各材料を混合させる機能とを有する組み合わせ医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
上記の組み合わせ医薬品に属するものとして、注射液を生成する2種類の材料の一方が入った注射器と他方の材料が入った密閉容器とが中心軸を合わせて連結され、その位置合わせ状態を維持して無菌状態で密閉され、無菌状態を維持したまま注射器の針を密閉容器に貫通させて両者を連通させることが可能な2室用時混合型のプレフィルドシリンジが提案されている(特許文献1を参照。)。
【0003】
特許文献1に具体例として記載されている2室用時混合型プレフィルドシリンジでは、粉末状薬剤が収容された注射器が挿入される筒状ケース(外筒)の先端に液体成分が収容された密閉容器が装着され、注射器の針が容器のシール部材に貫通しない程度に差し込まれることによって両者が連結される。また外筒とこれに嵌合される別の筒状カバーとによって、プランジャのロッドを含む注射器全体が気密状態で保持される。さらに、筒状ケースの上からプランジャのロッドを押圧することによって、プランジャやシリンジを前進させ、それによって注射針が容器のシール部材に完全に貫通して、注射筒と密閉容器とが連通される。
【0004】
特許文献1に記載された密閉タイプの2室用時混合型プレフィルドシリンジは、2種類の材料を混合させてしまうことなく保管できると共に、各材料を混合する処理を無菌状態で容易に行うことができる。しかし、このような構成のプレフィルドシリンジを実際に製造するには、当該プレフィルドシリンジを構成する各種物品を無菌状態のまま組み合わせる必要がある。この条件を満たす製造装置として、アイソレータの中に多関節ロボットが配備された構成の製造装置が考えられる。
【0005】
たとえば、特許文献2には、充填装置および打栓装置が組み込まれると共に各装置の近傍に多関節ロボットが設けられた構成のアイソレータに、滅菌済みのデバイス(バイアル,シリンジ等)が複数整列配備された支持部材(ネスト)を送り込み、ネストからのデバイスの取り出し、各装置へのデバイスのセットや装置間でのデバイスの受け渡し等の作業をロボットにより行わせるようにした医薬品の製造装置が開示されている。特許文献2のアイソレータでは薬剤が入った容器が製造されるだけであるが、ロボットにしかるべきプログラムを組み込んで、必要な部材をアイソレータに導入すれば、2室用時混合型プレフィルドシリンジを製作することも可能であると思われる。
【0006】
なお、特許文献2に記載の発明では、ロボットからの発塵でアイソレータの無菌環境が損なわれたり、薬剤の飛沫でロボットの機体が腐食することを防止するために、ロボットにスリーブスーツを装着しているが、近年、医療・医薬分野向けに、特殊コーティング処理等による耐腐食性や発塵発生防止機能等を備えた無菌環境対応型ロボットが開発され(非特許文献1を参照。)、スリーブスーツを使用する必要性はなくなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平5-31189号公報
【文献】特開2012-116495号公報
【非特許文献】
【0008】
「低振動な搬送と厳しい衛生環境への対応で再生医療の産業化に貢献する 医療・医薬分野向け産業用ロボットを新発売!」,平成28年6月24日,株式会社ダイヘン ニュースリリース<インターネット>,http://www.daihen.co.jp/newinfo_2016/pdf/160624.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
2室用時混合型プレフィルドシリンジには、それぞれ専用の設備を備えた場所で生産され、単独でも医療機器または医薬品として流通させることが可能な注射器や密閉容器を使用することができる。したがって、2室用時混合型プレフィルドシリンジのような密閉型の組み合わせ医薬品を製造する場合には、アイソレータに充填装置を設けずに、既に別所で生成された内容物入りの注射器や密閉容器を利用することができる。
【0010】
一方、注射器や容器を保持するための部材や外側のケース体を構成する部品(特許文献1では「外筒」および「カバー」)は、単独では商品にならない特注品であって、一般に成型加工を業とする事業者により生産される。
【0011】
このような事情から、2室用時混合型プレフィルドシリンジの組み立てを行う現場には、これを構成する各種の物品がそれぞれの生産現場である程度の数ずつまとめられ、箱や袋などの収納容器に詰められた形で搬送されることになると考えられる。もちろん、各物品の生産現場では収納容器も含めた滅菌処理が行われるが、収納容器の表面は搬送の過程で非無菌の環境に晒される。
【0012】
特に注射器の本体は、他の部材等に触れてシリンジが破損したりプランジャの変位・変形が生じるのを防ぐために、針部材も針の変形を防ぐために、「ネスト」と呼ばれる支持部材に起立姿勢で整列状態に支持されてパッケージ(タブ)に収納されているので、アイソレータにもこのネストやパッケージによる保護を維持したまま導入するのが望ましい。そうするためには、収納容器の外表面に対する滅菌処理を実施する必要があるが、オートクレーブ等による一般的な滅菌処理は非常に長い時間を要する。またシリンジの中に既に薬剤が入っている場合には、滅菌処理時の高温で薬剤が変質するおそれがある。
【0013】
成型加工により生産される物品も、その物品自体や収納容器の内部は滅菌済みであり、収納容器の外表面のみを滅菌すればよいが、そのために長時間の滅菌処理を行うのはきわめて非効率的である。
【0014】
安全性を確保しながら生産効率を高められる方法として、各種物品の収納容器をあらかじめアイソレータに導入し、アイソレータ全体を過酸化水素ガスで滅菌してから製造工程を開始する方法が考えられる。しかし、相当数の組み合わせ医薬品を製造するには、各種物品をそれぞれ多量に導入する必要があり、それらを収容容器ごと置くスペースをアイソレータに設ける必要があり、ただでさえ多額になるアイソレータの開発コストが大型化によってますます嵩んでしまう。
【0015】
別の解決方法として、組立処理を行うアイソレータとは別に、各種物品の保管用のアイソレータ(以下「保管庫」という。)を設け、近傍の無菌環境にある滅菌器で滅菌された収納容器を無菌状態を維持して保管庫まで搬送して保管、または保管庫内で滅菌処理を行ってから保管しておき、この保管庫から組立処理用のアイソレータに、収納容器ごとまたは収納容器から物品を取り出して搬送する方法も考えられる。しかし、この方法では、保管庫のほか、収納容器または物品を無菌環境で自動搬送するための設備が必要であり、先の方法よりコスト高になるおそれがある。
【0016】
このように、密閉型の組み合わせ医薬品を製造するための装置の開発には莫大なコストがかかるおそれがあり、そのコストを回収する都合から、組み合わせ医薬品の価格も高くなってしまう。
【0017】
本発明は上記の問題に着目してなされたもので、密閉型の組み合わせ医薬品を構成する各種の物品を無菌状態でアイソレータに効率良く導入できるようにすることによって、アイソレータの構成の簡易化および小型化を実現すると共に、アイソレータに導入される前の物品の管理を容易にして、組み合わせ医薬品を製造する装置の開発コストおよびそのコストが反映される組み合わせ医薬品の価格を大幅に削減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明による製造の対象となる組み合わせ医薬品は、シリンジおよび当該シリンジ内を往復動可能なプランジャを備える第1容器と、密閉された開口部を有する第2容器と、第1容器のシリンジと第2容器との間に配備されて各容器を連通させた状態に連結可能な連結部材と、互いに連結される第1および第2の中空部材の連結により形成される収容空間を有する一方向に長い収容部材とを備える。第1の中空部材の一端部に第2容器が配置され、この第2容器に対向させた連結部材と第1容器とが、それぞれの中心軸を合わせかつその軸方向を収容部材の長さ方向に合わせて並ぶ関係をもって前記軸方向に沿って移動可能に収容部材の内部に保持される。なお、収容部材において第1容器および連結部材を上記の状態で保持するための手段は、収容部材に対して挿脱自由な保持部材または収容部材の内部に一体に設けられる保持部として、具現化することができる。
【0019】
第1容器および第2容器には、それぞれ固形状もしくは液状の薬剤または薬剤以外の液体が入っており、連結部材を介して連通した第1容器と第2容器との内容物が混合されることによって液状薬剤が生成される。この要件を満たす内容物の組み合わせを具体的にあげると、2種類の液状薬剤の組み合わせ、固形状薬剤と液状薬剤との組み合わせ、固形状薬剤と薬剤以外の液体との組み合わせ、液状薬剤と薬剤以外の液体との組み合わせの4通りである。これらの混合により生成される液状薬剤には、完全な液体のほか、粉末や微小粒子が分散する分散液または混合液が含まれる。
【0020】
上記の各容器および各部材を組み合わせるために、本発明の第1の製造方法では、組み合わせ作業を行うためのアイソレータの側面の一箇所に設けられた導入口の手前に、搬送機構を備える滅菌装置を含み、当該滅菌装置により滅菌された物品を無菌状態のまま導入口まで搬送する搬入ゾーンを設けると共に、アイソレータの前記導入口とは異なる場所に、滅菌処理が施された物品を受け入れて当該物品を無菌状態のままアイソレータに導入する導入装置を配備する。そして滅菌処理が施されたアイソレータに対し、以下の2通りの導入工程を実行する。
【0021】
第1の導入工程では、前記の薬剤または液体が入った第1容器および前記の薬剤または液体が入った第2容器ならびに連結部材のうちの少なくとも第1容器および第2容器を対象として、同一種類の複数個の対象物が収納されかつこれらの対象物を含む内部全体が滅菌されて密閉されたパッケージ(たとえば前述したネスト入りのタブ)を前記搬入ゾーンに1つずつ順に送り込んで滅菌装置によりパッケージの外表面全体に滅菌処理を施す。そして、当該滅菌処理が完了したパッケージを無菌状態のまま導入口からアイソレータの中に導入する。
【0022】
第2の導入工程では、組み合わせ医薬品の構成要素であって当該医薬品を製造するためにアイソレータに導入される物品のうちの第1の導入工程の対象とならなかった物品(連結部材が含まれる場合がある。)を対象として、対象物品が滅菌処理後に無菌状態のまま複数個保管された収納容器内の各物品を、当該収納容器から前記導入装置を介して無菌状態のままアイソレータに導入する。
【0023】
第1および第2の導入工程を簡単に整理する。第1の導入工程では、組み合わせ医薬品を構成する物品のうちの少なくとも第1容器および第2容器(いずれも固形状もしくは液状の薬剤または薬剤以外の液体が入った状態のもの)を対象として、複数の対象物が無菌状態で収納されたパッケージをアイソレータに搬入する途中に当該パッケージの外表面全体を滅菌処理して無菌化し、その無菌状態を維持したままパッケージごとアイソレータに導入する。特に第1容器は、根幹をなす物品で取り扱いに注意が必要であるため、パッケージ内に整列状態で収納される。一方、第2容器のパッケージ必ずしも整列状態でパッケージ内に収納される必要はない。
【0024】
第2の導入工程では、第1の導入工程の対象にされなかったがそれぞれの生産現場等で滅菌され、収容容器に複数個まとめて保管された物品を、収容容器から導入装置に送り込むことによって各物品を無菌状態のままアイソレータに導入する。この導入装置として、複数の無菌状態の物品を受け入れてこれらをアイソレータに一括導入する機能を持つ装置を使用すれば、第2の導入工程による導入時間を大幅に短縮することができる。
【0025】
上記の方法によれば、同一種類の物品毎にまとめてパッケージに収容して第1の導入工程によりアイソレータに導入する物品がその必要性がある物品に限定され、その他の物品は無菌状態を維持したまま収納容器から導入装置に移してアイソレータに導入することができるので、各種物品の導入を効率良く行うことができる。第2の導入工程も上記のとおり効率良く行うことができるので、多数の滅菌済み物品またはこれらが入った滅菌済みの収納容器をアイソレータの外で保管する必要がない。
【0026】
収納容器から物品を取り出すためのスペースや収納容器の排出機構などの設備も第1の導入工程で導入されるパッケージに対応するものがあれば足りる。しかも、複数種の物品が第1の導入工程となるときも、上記のスペースや設備を物品の種類ごとに分ける必要がないので、アイソレータの構成を簡単かつ小型にすることができる。
【0027】
上記の各導入工程により組み合わせ医薬品を構成する全ての物品がアイソレータに導入されると、アイソレータでは、薬剤または液体が入った第2容器を収容容器を構成する第1の中空部材の一端部に開口部の側を他端部に向けた姿勢で配置すると共に、薬剤または液体が入った第1容器および連結部材を、両者がそれぞれの中心軸が合わせられてその軸方向に沿って並ぶ関係を持たせかつ連結部材を第2容器に対向させて第1の中空部材に配置する工程と、この工程によって第1および第2の容器ならびに連結部材が収納された第1の中空部材に第2の中空部材を連結させる工程とを含む組立工程を実行する。そして当該組立工程によって完成した組み合わせ医薬品をアイソレータから送り出す。なお、組立工程に含まれる二工程のうちの各容器や連結部材を第1の中空部材に配置する工程には、実行される手順に応じた複数の工程が含まれるが、その手順・工程は、第1の中空部材の構成によって異なるものとなる。
【0028】
上記のアイソレータ内で実施すべき一連の工程を多関節ロボットに行わせるようにすれば、アイソレータの内部に搬出入のためのコンベア装置を配置する必要がなくなり、アイソレータをよりコンパクトにすることができる。また、耐腐食性能や発塵発生の防止機能を持つ最新の無菌環境対応型の多関節ロボットを使用することによって、アイソレータの無菌状態を安定して維持することができる。
【0029】
なお、第1の導入工程では、対象となる物品は種毎に異なるパッケージに収納され、これらのパッケージが1つずつ順に搬送されてそれぞれに滅菌処理が施される。
【0030】
本発明の第2の製造方法では、上記と同じ構成の組み合わせ医薬品の構成要素となる物品の全てを、同一種類毎に複数個ずつ無菌状態で内部全体が滅菌されたパッケージに収納する。そして、これらのパッケージを搬入ゾーンに1つずつ順に送り込んで滅菌装置によりパッケージの外表面全体に滅菌処理を施し、当該滅菌処理が完了したパッケージを無菌状態のまま導入口から滅菌処理済みのアイソレータの中に導入する導入工程を実行する。この場合、全ての物品をパッケージの内部に整列させる必要はないが、第1容器および第2容器ならびに連結部材のうちの少なくとも第1容器については、パッケージ内に整列状態で収納させる。
【0031】
各種の物品の導入が完了したアイソレータでは、第1の製造方法と同様の組立工程が実行され、当該組立工程によって完成した組み合わせ医薬品がアイソレータから送り出される。
【0032】
なお、収容部材は複数の部品(少なくとも第1および第2の中空部材。保持部材や密閉のための付属品が含まれる場合もある。)により構成されるが、これらの部品については、部品毎に異なるパッケージに収納しても良いし、複数の部品を同一種類として同じパッケージに収納してもよい。たとえば、2つの中空部材を1セットとして複数セットを同一パッケージに収納することができる。
【0033】
第2の製造方法によれば、組み合わせ医薬品の各構成要素をアイソレータに導入するための導入口を1つにすることができ、アイソレータの構成をより一層簡単にすることができる。
【0034】
第1および第2の製造方法ともに、滅菌装置として、自装置内を搬送される物品に電子線を照射する電子線滅菌装置を使用することができる。また、電子線滅菌処理が施されたパッケージに関しては、開封の際に粉塵が発生する可能性を考慮して、搬入ゾーンの電子線滅菌装置の後段にアイソレータの導入口に連なる前処理室を設けるか、またはアイソレータの内部の一箇所に他の部分から隔離された領域を設け、これら前処理室または隔離された領域でパッケージを開封するのが望ましい。
【0035】
これらの方法により製造される組み合わせ医薬品の収容容器は、収容空間全体の無菌状態や液体が入っている容器内の水分量を維持するために密閉される必要がある。たとえば、組立工程中の第1の中空部材に第2の中空部材を連結する工程において、両者を連結すると同時に当該連結部分を密閉し、この密閉によって気密状態となった組み合わせ医薬品をアイソレータから送り出すことができる。
【0036】
収容容器の密閉方法は上記に限らず、アイソレータに、連結された第1の中空部材と第2の中空部材との間の連結部分を密閉するための密閉手段または収容部材全体を密閉容器内に封入するための封入手段を設け、組立工程を終了した後に、当該組立工程により連結された各中空部材の間の連結部分を密閉する工程または収容部材全体を密閉容器内に封入する工程を実行してもよい。密閉手段や封入手段も多関節ロボットに設けることができるが、別途、シール材や密閉用の容器等を支持する器具や小型の封止用機器などをアイソレータ内に配置してもよい。シール材や密閉用の容器などの包装材はあらかじめアイソレータ内に入れてロボット等と共に滅菌しておくことができるが、組立工程の開始前にいずれかの導入工程を用いてアイソレータに導入することもできる。
【発明の効果】
【0038】
本発明では、組み合わせ医薬品の要素となる各種物品のうち、滅菌処理が施されたパッケージに密閉された状態で運ばれる物品について、アイソレータに搬入される間にパッケージの外表面を滅菌してアイソレータに導入し、それ以外の物品がある場合にもそれらを無菌状態のままアイソレータに導入することによって、各物品がアイソレータに導入されるまでの時間を大幅に短縮することができる。またアイソレータおよびその周辺に各物品に関する大がかりな設備やスペースを設ける必要がなくなって、アイソレータを小型化できる上に、いずれの物品も内部が滅菌された収納容器に収納した状態で非無菌環境で保管することができ、無菌対応の保管庫を設ける必要がない。これらの効果と上記した導入時間の短縮とによって、組み合わせ医薬品の製造に要するコストを大幅に下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】組み合わせ医薬品の製造装置の正面から見た概略構成を示す説明図である。
図2図1の製造装置の内部を上方から見た概略構成を示す説明図である。
図3】上記製造装置により製造される2室用時混合型プレフィルドシリンジの構成例を示す断面図である。
図4図3の2室用時混合型プレフィルドシリンジに組み込まれる注射器本体および針部材の構成例を示す斜視図である。
図5図3の2室用時混合型プレフィルドシリンジに組み込まれるバイアルの構成例を示す斜視図である。
図6図3の2室用時混合型プレフィルドシリンジに組み込まれる保持部材の構成例を示す斜視図である。
図7図3の2室型プレフィルドシリンジに使用されるケース体を構成する円筒状ケースを示す斜視図である。
図8】密閉状態および開封状態のネストタブの例を示す斜視図である。
図9図3の2室用時混合型プレフィルドシリンジを製造する手順を模式的に表した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1および図2は、本発明の一実施例にかかる組み合わせ医薬品の製造装置100の概略構成を表すものである。具体的には、図1は当該装置を正面から見た構成(透視した構成を含む。)を表し、図2は当該装置の内部を上方から見た構成を表す。
【0041】
この実施例の製造装置100は、図3に示す密閉タイプの2室用時混合型プレフィルドシリンジPS(以下、単に「プレフィルドシリンジPS」という。)を製造するためのもので、アイソレータ101,電子線滅菌装置102,無菌移送バルブ103,アイソレータ101の中に配置される多関節ロボット104などを主要な構成要素とする。電子線滅菌装置102は、アイソレータ101の一側面に設けられた導入口(図示省略)に前処理室106を介して連ねられている。無菌移送バルブ103はアイソレータ101の天井部に設けられた導入口(図示省略)に装着されている。
【0042】
アイソレータ101の電子滅菌装置102の側とは反対側の側面および背面には搬出口(図示省略)が設けられ、これらの搬出口にそれぞれ後処理室107,108を介してコンベア装置などによる搬出機構202,203が連ねられている。側面の搬出口は完成したプレフィルドシリンジPSを搬出するためのもので、背面の搬出口は後述するネストタブ6を搬出するためのものである。
【0043】
アイソレータ101は上記の前処理室106や後理室107,108に対して陽圧になる状態で維持され、これによって、各処理室106~108との間の扉が開放される際にアイソレータ101から処理室106~108に無菌エアーが流れてアイソレータ101への異物や菌の流入が防止され、アイソレータ101の中の無菌状態が維持されるようにしている。アイソレータ101の内部には、2台の多関節ロボット104(以下、単に「ロボット104」という。)や作業台105が配備されるほか、無菌移送バルブ103から導入された物品を受けるためのカゴ8や組立中の部材を支持するための治具(図示せず。)などの備品が含まれる。しかし、ロボット104以外の組立用機械やコンベア装置などの搬送機構は、アイソレータ101の内部には配備されていない。なお、アイソレータ101には、後述する組立工程(図9参照)の開始に先立ち過酸化水素ガスが送り込まれて、ロボット104その他の内部の備品類を含む全体が滅菌される。
【0044】
電子線滅菌装置102は、滅菌処理の対象となる物品を搬送する搬送機構(コンベアやピッキングアームなど)や加速器を含む電子線照射装置などを備える(公知の構成であるので詳細図示を省略する。)。前段の搬送装置201から電子線滅菌装置102に送り込まれた物品は当該装置内を搬送される間に全方位から電子線の照射を受け、その照射によって、物品が電子線滅菌装置102を通過する間にその外表面に対する滅菌処理を完了させることができる。
【0045】
無菌移送バルブ103は、滅菌済みの物品を受け入れる受入口と受け入れた物品を排出するための排出口との間に弁体ユニットが設けられた構成の特殊バルブ装置であって、受入口がアイソレータ101の上方空間に配置され、排出口がアイソレータ101の中に含まれるように配置される。この無菌移送バルブ103も、チャージポイント社のChargepoint AseptiSafe(国際登録商標)などの公知の装置を使用することができる。
【0046】
図4~7は、図3に示したプレフィルドシリンジPSを構成する各物品を個別に表したものである。以下、これらを図3と共に参照して、この実施例のプレフィルドシリンジPSの構成および特徴を説明する。なお、以下の説明では、図3を基準に上下の方向を表すことにする。
【0047】
この実施例のプレフィルドシリンジPSは、図4に示す注射器本体1(第1容器)および針部材2(連結部材)と、図5に示すバイアル3(第2容器)と、図6に示す保持部材4と、これら4種類の構成要素が封入されるケース体5とを備える。ケース体5は、保持部材4が内部に組み込まれることによって、注射器本体1,針部材2,バイアルの三者を収容する収容部材として機能する。
【0048】
注射器本体1は、シリンジ10と、シリンジ10の中を往復動可能なプランジャ11とを備える。プランジャ11にはロッド12が一体に設けられている。バイアル3はガラス製または樹脂製の瓶30とこれを封止するゴム製キャップ31とから成る。針部材2は、金属製または樹脂製の注射針21とこれを支える樹脂製の基部20とから成り、基部20にシリンジ21の先端が挿入されることによって注射器本体1に連結される。また注射針21がバイアル3のキャップ31に刺さることによって針部材2はバイアル3にも連結される。さらに注射針21がキャップ31を貫通して瓶30の内部に挿入されると、注射器本体1のシリンジ10とバイアル3の瓶30とを針部材2を介して連通させることができる。
【0049】
保持部材4は、注射器本体1と針部材2とをそれぞれの中心軸を合わせて連結した状態で保持すると共に、これらの中心軸がバイアル3の中心軸にも合わせられるように、ケース体5の内部における三者の位置関係を保持する。
【0050】
注射器本体1および針部材2ならびにバイアル3は、いずれも単独で医療器具または医薬品として流通させることが可能なものである。この実施例では、注射器本体1のシリンジ10に粉末状薬剤pが含まれ、バイアル3に当該粉末状薬剤pと混合される液体q(溶解用もしくは懸濁用の液体または液状薬剤)が含まれているが、反対に、シリンジ10に液体qを入れ、バイアル3に粉末状薬剤pを入れてもよい。または、シリンジ10およびバイアル3の一方に液状薬剤を入れ、他方に溶解用または懸濁用の液体を入れてもよいし、シリンジ10およびバイアル3の双方に液状薬剤(ただし異なる成分のもの)を入れてもよい。
【0051】
注射器本体1および針部材2ならびにバイアル3は、それぞれ無菌環境下にある専用の設備で生産された後、ネスト入りのタブ6(以下、「ネストタブ6」または単に「タブ6」という。)に収納できる数毎にまとめられて、当該タブ6に収納され、密閉される。あるいは、非無菌環境でタブ6に収納されてから、高圧蒸気滅菌,乾熱滅菌,ガス滅菌,放射線滅菌などの通常の滅菌方法で、中身ごと滅菌される場合もある。
【0052】
図8(A)(B)に示すように、ネストタブ6は、対象物品を起立状態で支持するための穴が複数設けられたネスト60によって対象物品を起立状態で支持する構成のもので、収容が完了したタブ6の開口部は密閉シール61により封止される。
【0053】
なお、図8(A)(B)では、バイアル3が収納されるネストタブ6の構成を表している。注射器本体1や針部材2が収納されるネストタブ6も、ネスト60の穴の大きさおよび数やパッケージの厚みが異なるだけで、ほぼ同様に構成される。
【0054】
ただし、ネスト60により支持することが絶対条件となるのは注射器本体1のみである。シリンジ10とプランジャ11との中心軸の位置合わせ精度やプランジャ11の初期位置は厳格に維持する必要があり、他の部材との衝突等によってシリンジ10に破損や変形が生じたり、プランジャ11に変形や変位が生じることを防止しなければならないからである。針部材2も他の物品に触れて注射針21が変形することがないようにネスト60により支持するのが望ましいが、針カバーなどの保護手段により注射針21が保護されている場合には、ネスト60により整列させることなく、バラバラの状態でタブ6に収納してもよい。バイアル3も破損のおそれがなければネスト60による整列支持を不要にできる。
【0055】
ケース体5は、それぞれ一方の端縁のみが開口された長短一対の筒状ケース5A,5Bを連結させた構成のものである(図7参照。)。各筒状ケース5A,5Bは樹脂による成型加工により形成される。長い方の筒状ケース5Aの内径はバイアル3の外径より若干大きく設定され、短い方の筒状ケース5Bの内径は筒状ケース5Aより大きく設定される。筒状ケース5Aの開口側の端部にはゴム製の環状パッキン50が装着され、この環状パッキン50を介して各筒状ケース5A,5Bの開口側を密閉状態で係合させることができる。さらに、連結部分にシール・テープ・シュリンクフィルム等を巻くなど、密閉状態を万全にするための処理を行うこともできる。
【0056】
筒状ケース5Bの内底面にはプランジャ11のロッド12の後端部12aが嵌まる大きさの凹部52が形成され、内壁面の後方側(長さ中央部から閉鎖側の端部まで)に所定の厚みを持つリブ51が一体に設けられている(図3参照。)。
【0057】
保持部材4も樹脂による成型品であって、図6に示すように、長短一対の円筒状部41,42が一対の連結片43,43を介して軸方向に並ぶように連結された形状のものである。各円筒状部41,42の外径は筒状ケース5Aの内径よりやや小さく設定されており、短い方の円筒状部42の中にシリンジ10の後部が入り、長い方の円筒状部41の中にシリンジ10と針部材2の基部20との連結部分および針部材2が入る(図3参照。)。円筒状部41の下端部には、針部材2の基部20の外径に対応する大きさの穴を有する肉薄の円錐台部41bが一体に設けられ、円筒状部42の上端部には、シリンジ10の外径に対応する大きさの穴を有するフランジ部42aが一体に設けられる。円筒状部41の上端部には、注射針21よりも十分に大きな穴を有するフランジ部41aが設けられ、その周囲に上方に突出する複数の係止片40が互いの間に所定の間隔を隔てて設けられている。
【0058】
図3に示すように、バイアル3は筒状ケース5Aの上端側の内端面に瓶30の底面を密着させた状態にして配置される。この配置により、バイアル3の中心軸はケース体5Aの中心軸に合わせられた状態となる。
【0059】
保持部材4は、注射器本体1および針部材2の連結部分を円筒状部41の円錐台部41bにより支持し、シリンジ10の長さ中央部を円筒状部42のフランジ部42aにより支持することによって、注射器本体1および針部材2をそれぞれの中心軸が合わせられた状態に保持する。この保持部材4は針部材2を上方に向けた姿勢をもって筒状ケース5Aに挿入され、筒状ケース5Aの内部を軸方向に沿って移動可能に配置される。注射器本体1のロッド12の後部分は筒状ケース5Aの下端より突出するが、この部分には筒状ケース5Bが被せられ、ロッド12の後端部12aが筒状ケース5Bの内底面の凹部52に嵌合すると共に、シリンジ10の後端にある鍔部10aが筒状ケース5Bのリブ51に支えられた状態になる。
【0060】
上記構成の保持部材4およびケース体5によって、注射器本体1および針部材2ならびにバイアル3は、それぞれの中心軸を合わせてその軸に沿って直線状に並ぶ状態になって、ケース体5の内部に収納される。保持部材4は注射器本体1および針部材2の保持状態を維持すると共に、先端の係止片40によりバイアル3のキャップ31の縁を支える。筒状ケース5A,5Bの連結部分は環状パッキン50により密閉されているので、ケース体5の内部を無菌状態で維持することができる。
【0061】
上記構成のプレフィルドシリンジPSにおいて、筒状ケース5Bの下端面が押圧されると、筒状ケース5Bが上方へと押し上げられ、それに伴ってシリンジ10の鍔部10aにリブ51からの押圧力が加えられることによって、注射器本体1および針部材2を保持する保持部材4も押し上げられ、注射器本体1および針部材2がバイアル3に接近する。この上昇はシリンジ10の鍔部10aが筒状ケース5Aの下端面に当接する位置で停まるが、そのときには注射針21がバイアル3のキャップ31を貫通しており、それにより注射器本体1とバイアル3とが連通した状態になる。なお、このとき保持部材4の係止片40がバイアル3の瓶30の首部や肩部に係合する状態になって、注射針21が挿入されるときの瓶30の位置ずれが防止される。
【0062】
筒状ケース5Bがさらに押圧されるとプランジャ11が押し上げられ、それによりシリンジ10の中の空気がバイアル3に注入されてバイアル3の内部が加圧される。ここで押圧が解除されると、バイアル3に注入された空気がシリンジ10に戻る力に引かれてプランジャ11が後方に押し戻されると共にバイアル3の液体がシリンジ10の中に入る。この液体の流入の勢いによって、シリンジ10の中の粉末状薬剤と液体とが混合される。
【0063】
ここで図1および図2に参照を戻して、上記構成のプレフィルドシリンジPSを構成する各種の物品をアイソレータ101に導入する方法について説明する。
【0064】
先にも述べたように、注射器本体1,針部材2およびバイアル3は、種類毎に無菌環境下で生産され、複数個ずつまとめられてネストタブ6に収納、あるいは非無菌環境で生産されてタブ6に収納された後にタブ6ごと滅菌され、保管される。一方、ケース体5を構成する筒状ケース5A,5B、保持部材4,筒状ケース5Aに装着される環状パッキン50は、いずれも成型加工によって製作され、その成型の際に高温環境下に置かれることによって、あるいは成型後に滅菌処理が施されることによって無菌状態となって、密閉袋等に保管される。なお、この実施例では、筒状ケース5Aにあらかじめ環状パッキン50が装着され(前出の図7参照)、両者が一体の状態で密閉袋等に収納されるものとする。
【0065】
上記のとおり、プレフィルドシリンジPSを構成する各種の物品は全て無菌状態のまま収納容器に保管されるが、これらの収納容器は製造装置100が設けられた場所に運ばれる間に非無菌の環境に置かれ、収納容器の表面に菌が付着している可能性が高い。したがって各物品を安全にアイソレータ101に導入するためには、収納容器の表面を滅菌してから収納容器ごとアイソレータ101に導入する工程(第1の導入工程)、または収納容器に収納された物品を無菌状態を維持したまま取り出してアイソレータ101に導入する工程(第2の導入工程)を実施する必要がある。稼働時間やコストのことを考えると全ての物品を効率良く導入できるようにしなければならないが、人体に投与される注射液を構成する材料が入った注射器本体1やバイアル3、および注射液の注入に用いられる針部材2については、材料も含めての品質を万全に保持する必要がある。また、ロボット104による把持や組立作業を容易にするためにも、注射器本体1,針部材2,バイアル3は、同一種類毎に複数個ずつまとめられて、一定の間隔をもって整列した状態でアイソレータ101に導入されるのが望ましい。
【0066】
この実施例では、上記の課題を考慮し、第1の導入工程の対象をネストタブ6により搬送される3種類の物品に限定すると共に、この導入工程に電子線滅菌装置102を使用する。残りの物品は第2の導入工程の対象として、この工程に無菌移送バルブ103を使用することにより、複数の対象物品をアイソレータ101に一括投入できるようにしている。
【0067】
かくして電子滅菌装置102には、第1の導入工程の対象となる注射器本体1,針部材2,バイアル3がそれぞれ収納された3種類のタブ6が順次導入される。これらのタブ6は電子線滅菌装置102を通過する間に外表面が滅菌され、前処理室106に移される。タブ6の密閉シール61が剥がされる際には粉塵が発生する可能性があるため、この実施例では前処理室106で密閉シール61を剥がす作業を行い、その作業とアイソレータ101からの無菌エアーによる換気とが完了してからタブ6をアイソレータ101に導入する。なお、密閉シール61を剥がす作業は人の手で行ってもよいし、ロボットハンド等の機械を用いてもよい。
【0068】
一方、無菌移送バルブ103には、図1に示すように、アイソレータ101の上方の受入口に移送の対象となる物品が収納された袋7が作業者によりセットされ、袋7の内部の複数の収納物品が弁体ユニットの受入側の空間に移される。作業者のレバー操作により弁体ユニットが動かされると、弁体ユニットの特殊弁が開いて各物品が弁体ユニットの排出側の空間に運ばれ、そのまま排出口から自然落下する。なお、無菌移送バルブ103にセットされる収納容器は袋7に限らず、硬質材料によるケースであってもよい。
【0069】
上記のとおり、電子線滅菌装置102を用いた第1の導入工程、無菌移送バルブ103を用いた第2の導入工程ともに、複数の対象物品を種類毎に効率良く導入することができる。また第1の導入工程と第2の導入工程とは並列で実施することができるので、各物品の導入に要する時間を大幅に短縮することができる。
【0070】
アイソレータ101では、2台のロボット104の一方が前処理室106に近い場所に配備され、他方が無菌移送バルブ103に近い場所に配備されている。これらのロボット104,104は、先にあげた非特許文献に記載されているような、特殊コーティング処理等による耐腐食性や発塵発生防止機能等を備えた無菌環境対応型ロボットである。
【0071】
前処理室106の近傍に位置するロボット104は前処理室106からアイソレータ101に導入されたタブ6を受け止めて、これを作業台105の所定位置に配置する。無菌移送バルブ103の近傍に位置するロボット104は、アイソレータ101の外にいる作業者から送られる指令に応じて、作業台105の空のカゴ8を持ち上げてこれを無菌移送バルブ103の排出口にあてがい、当該バルブ103から落下する部材をカゴ8に受け止めた後にこのカゴ8を作業台105に戻す。または無菌移送バルブ103の排出口に湾曲および伸縮が自在な筒状体を装着すれば、その筒状体が空のカゴ8の縁まで延びるようにロボット104により筒状体を変形させてから、バルブ103からの排出を行うこともできる。
【0072】
前処理室106からのタブ6の受け入れおよび無菌移送バルブ103からの部材の受け入れをそれぞれ複数回繰り返すことによって、プレフィルドシリンジPSを構成する全ての物品がアイソレータ101に導入されると、2台のロボット104の協働作業によって、図9に示す組立工程が実施される。
【0073】
組立工程では、まず筒状ケース5Aの開口部に対して瓶底を向けた姿勢にされたバイアル3が開口部から挿入され、これが筒状ケース5Aの奥まで運ばれて当該ケース5Aの内端面に押し付けられ、位置決めされる(図9(a))。また、このバイアル3をセットする工程の前もしくは後、または当該工程に並列させて、注射器本体1に針部材2を連結する工程(図9(b))と、この連結体を保持部材4に挿入して保持部材4に保持された状態にする工程(図9(c))とが実行される。
【0074】
ここまでの処理が完了すると、つぎに、注射器本体1および針部材2を保持する保持部材4を筒状ケース5Aに挿入する工程(図9(d))と、注射器本体1の筒状ケース5Aから突出している部分(ロッド12)に後方から筒状ケース5Bを被せて、筒状ケース5Bを筒状ケース5Aに連結させる工程(図9(e))とが実行される。このとき図9(e)に示すように、保持部材4の挿入を最終位置よりやや手前で停めて筒状ケース5Bを被せ、筒状ケース5Bを少し押し込んで筒状ケース5Aに係合させれば、注射器本体1のロッド12の後端部12aやシリンジ10の鍔部10aが筒状ケース5Bの凹部52やリブ51に支えられた状態となり、針部材2の先端も適切な位置に合わせることができる。
【0075】
上記の各工程により完成したプレフィルドシリンジPS(図9(f))は、ロボット104の手で搬出口より後処理室107へと押し出される。また組立工程が進んで空になったタブ6も、ロボット104の手で背面側の搬出口より後処理室108へと押し出される。なお、プレフィルドシリンジPSを受け入れた後処理室107または搬送機構202の下流の処理室(図示せず。)において、プレフィルドシリンジPSのパッケージングなどを実施することができる。
【0076】
図9に示した各工程は、アイソレータ101の中で、注射器本体1、針部材2、バイアル3がそれぞれ整列状態で収納された3種類のネストタブ6と、ケース体5を構成する2つの筒状ケース5A,5Bおよび保持部材4がそれぞれ収納された3個のカゴ8とを前にしたロボット104の協働作業によって実施されるものである。部材の支持用の治具が使用される場合もあるが、動力で動く機械はロボット104のみであり、組立対象の物品やこれらを収納するタブ6およびカゴ8も小型である。また、部品にあたる組立対象の物品の種類は多いが、導入経路は電子線滅菌装置102からと無菌移送バルブ103からの2通りのみで、いずれの導入経路もロボット104のみで複数種類の物品を受け入れることが可能である。よってアイソレータ101に大がかりな設備を設ける必要がなくなり、アイソレータ101の構成を簡単かつ小型にすることができる。
【0077】
以下、上記実施例の変形例を列挙する。
上記実施例では、注射器本体1に針部材2を連結してからこれらの連結体を保持部材4に保持させたが、これに限らず、注射器本体1と針部材2とをそれぞれの中心軸を合わせるだけで連結させずに保持するように、保持部材4の構成を変更してもよい。特に、注射器本体1をシリンジ10が密閉されたタイプに変更し、針部材2を両頭針タイプに変更する場合は、両者を連結せずに保持するのが望ましい。
【0078】
注射器本体1と針部材2とが連結されずに保持される場合には、筒状ケース5Bの押圧によって注射器本体1のみが動いてシリンジ10が針部材2に連結され、その連結状態が保持されたまま針部材2がバイアル3に連結されるように、保持部材の構成をアレンジする必要がある。
【0079】
保持部材は一体物に限らず、複数の部材を組み合わせて形成される構成にしてもよい。たとえば横断面が半円状の一対の部材を嵌合させたものを保持部材4とすれば、一方の部材に注射器本体1および針部材2をセットしてからその上に他方の部材を被せて両部材を嵌合する、という方法で、注射器本体1および針部材2を保持状態にすることができる。特に、注射器本体1と針部材2とが連結されないタイプにおいては、このような半分に分かれるタイプの保持部材4を使用することで組立作業を容易にすることができる。
【0080】
バイアル3も図5に示したものに限らず、中央部にゴムが設けられたプラスチック製のキャップで封止されたものや、すべてがプラスチックで中央部の厚みが薄く、その薄肉部分に押圧力が加えられることによって薄肉部分が瓶に押し込まれて開封される構成のものを使用してもよい。後者のタイプのバイアル3であれば、針部材2に代えてチューブを連結部材として使用することもできる。
【0081】
ケース体5を構成する円筒状ケース5A,5Bも一体成型品に限らず、たとえば円筒体の一端部にキャップ部材を嵌着した構成にしてもよい。この場合には、滅菌された円筒体とキャップ部材とをあらかじめ連結・固定したものを無菌移送バルブ103からアイソレータ101に導入しても良いが、両者をそれぞれ別個に無菌移送バルブ103からアイソレータ101に導入し、アイソレータ101の中でロボット104に円筒体とキャップとを連結する作業を行わせてもよい。
【0082】
ケース体5を構成する一対のケースは円筒状に限らず角筒状にしてもよい。円筒または角筒に相当する形状でなくとも、注射器本体1および注射針2を保持する保持部材4とバイアル3とをそれぞれの中心軸が合わせられた状態で収容可能な空間を備え、各ケースが連結されることで一方向に長いケース体となる条件を満たす形状のケースであればよい。また一対のケースの連結部分を密閉する方法も環状パッキンやOリングに限らず、ケース体同士を接着剤または材料樹脂の溶着により密閉する方法、連結部分をシール材・テープ・シュリンクフィルムなどで被覆する方法、ケース体5の全体をアルミピローで包装する方法などを採用することができる。これらの密閉用の部材も滅菌処理をした上で第1または第2の導入工程によりアイソレータ101に導入することができるが、先に述べた治具と同様の備品として、あらかじめアイソレータ101の中に入れておくこともできる。
【0083】
上記実施例では、ネストタブ6の密着シール61を剥がす作業をアイソレータ101の手前の前処理室106において行ったが、これに代えて、アイソレータ101の内部の一箇所に、壁部や無菌エアー等により周囲から隔離された隔離スペースを設定して、そのスペースでロボットハンド等により密閉シール61を剥がすようにすることもできる。
【0084】
上記実施例の注射器本体1やバイアル3にはあらかじめ薬剤や薬剤と組み合わせて使用される液体が収容されていたが、これらのうちの少なくとも一方を空のままアイソレータ101に導入し、アイソレータの内部の一箇所を隔離スペースとしてそのスペースに充填機を配備し、そちらで薬剤または液体を対象の容器に入れるようにしてもよい。または、いったんアイソレータから搬出して外部で充填処理を行った後にアイソレータに戻してもよい。この充填の対象がバイアル3である場合には、バイアル3をネストタブ6には収納せずに瓶30とキャップ31とを分離した状態にして、これらを無菌移送バルブ103を用いてアイソレータ101に一括導入することもできる。または、ネスト60を使用することなく、バラバラの状態でタブ6に収納してもよい。
【0085】
バイアル3にあらかじめ材料が入っている場合でも、プラスチック容器などの破損のおそれがない容器が使用されている場合には、バイアル3を電子線滅菌の対象とはせずに、無菌移送バルブ103を用いてアイソレータ101に一括導入してもよいし、ネスト60を使用することなく、バラバラの状態でタブ6に収納してもよい。
【0086】
針部材2についても、注射針21に保護キャップが装着されている場合には、ネストタブ6を使用せずに、無菌移送バルブ103からアイソレータ101に複数個を一括投入することもできる。または、ネスト60を使用することなく、バラバラの状態でタブ6に収納してもよい。この保護キャップが注射針21を貫通させることができる材質のものであれば、保護キャップを注射針21に装着したまま針部材2を保護部材4に装着してもよい。
【0087】
第2の導入工程に使用される無菌移送バルブ103は1つに限らず、複数の無菌移送バルブ103をアイソレータ102に取り付けてよい。そうすると、それぞれのバルブ103による複数の第2の導入工程を並列で実施することができ、筒状ケース5A,5Bや保持部材4の導入に要する時間を大幅に削減することができる。
【0088】
また、無菌移送バルブ103による第2の導入工程に関しては、各種の部材を種類毎にまとめて導入することは必ずしも必須ではなく、異なる種類の部材が混じり合った状態で収納されている袋またはケースをバルブ103にセットし、これらの部材を一括でアイソレータに導入してよい。その場合には、アイソレータ101の中でロボット104により仕分けをさせてから、組立作業を行うことになる。
【0089】
第2の導入工程に使用される装置は無菌移送バルブ103に限るものではない。たとえば、製造装置100の近傍で筒状ケース5A,5Bや保持部材4を生産する成型装置が配備されるのであれば、この成型装置とアイソレータ101との間に無菌環境の搬送路や前処理室を設けることによって、成型装置から送り出された部材(高温環境下での成型により滅菌済み)をアイソレータ101に連続的に導入することができる。もちろんこの連続導入のための設備と無菌移送バルブ103との両方を用いて第2の導入工程を実行することもできる。
【0090】
図3に示したプレフィルドシリンジPSは、注射器本体1と注射針2とを保持部材4により保持させてケース体5の中に収容したが、これに代えて、注射器本体1および注射針2をそれぞれの中心軸をケース体の長さ方向に合わせかつその長さ方向に沿って並ぶ関係を保たせながら両者をケース体の長さ方向に沿って移動可能に保持する保持部をケース体に一体に設けてもよい。
【0091】
たとえば、長短一対の円筒状ケースの長い方のケースの両端面を開口すると共にこのケースの内壁面に上記の保持部を一体に設け、短い方のケースを一方の端面のみを開口した構成にすると、前者のケースの一方の開口部にバイアル3が装着されたキャップ部材を嵌め込み、他方の開口部より針部材2および注射器本体1をこの順に挿入してこれらを保持部に装着した後に、2つのケースを係合させて密着することによって、バイアル3,針部材2,注射器本体1がそれぞれの中心軸を合わせて並ぶ関係を維持してケース体に収容されたプレフィルドシリンジを製造することができる。
【0092】
または、長い方のケースを、軸方向に沿って二分割される構成とすれば、分割により生じる一対のケース半体の一方にバイアル3,針部材2,注射器本体1を位置決めした後に、他方のケース半体を連結し、連結により形成されたケースに他方のケースを連結する、という工法を実施することもできる。
【0093】
上記2通りの工法はいずれも、図1および図2に示した構成の製造装置を用いて実施することができる。プレフィルドシリンジを構成する各物品の構成やアイソレータ101への導入についても、先に詳述した実施例や変形例を適用することができる。
【0094】
さらに図1および図2に示した製造装置の変形例として、無菌移送バルブ103を設けずに、アイソレータ101に導入される全ての物品を種類毎に異なるタブ6に滅菌状態で収納して当該タブ6を密閉し、これらのタブ6を順に電子線滅菌装置102および前処理室106を介してアイソレータ101に導入する構成にすることもできる。この場合も、注射器本体1はネスト60により整列状態にして収納する必要があるが、注射針2やバイアル3ならびにこれらを収容する部材を構成する物品(各ケース5A,5B,保持部材4など)は必ずしもネスト60を用いる必要はなく、バラバラの状態で収納してもよい。また、ケース5Aと5Bなど、同一部材の部品に相当する複数の物品を同一種類の物品として組み合わせ、複数の当該組み合わせを同じタブに収納してもよい。注射針2やバイアル3も破損のおそれがなければ、ネスト60により整列させることなく、バラバラの状態でタブ6に収納してもよい。
【0095】
上記製造装置の変形例によれば、プレフィルドシリンジPSの構成要素となる各種物品を受け入れるためにアイソレータ101に設ける導入口を1つのみにすることができるので、アイソレータ101の構成をより簡単にすることができ、コストをさらに削減することができる。
【符号の説明】
【0096】
PS 2室型プレフィルドシリンジ(組み合わせ医薬品)
1 注射器本体(第1容器)
2 針部材(連結部材)
3 バイアル(第2容器)
4 保持部材
5 ケース体
6 ネストタブ
7 収納袋
5A,5B 筒状ケース
10 シリンジ
11 プランジャ
12 ロッド
20 基部
21 注射針
30 瓶
31 キャップ
50 環状パッキン
60 ネスト
61 密閉シール
100 製造装置
101 アイソレータ
102 電子線滅菌装置
103 無菌移送バルブ
104 多関節ロボット
106 前処理室
図1
図2
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図9