(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-13
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】ヒト機能性角膜内皮細胞およびその応用
(51)【国際特許分類】
C12N 5/077 20100101AFI20220203BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220203BHJP
A61K 35/44 20150101ALI20220203BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220203BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220203BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20220203BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20220203BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20220203BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20220203BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20220203BHJP
A61L 27/36 20060101ALI20220203BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20220203BHJP
A61K 31/496 20060101ALI20220203BHJP
A61K 31/4409 20060101ALI20220203BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220203BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20220203BHJP
C12Q 1/6837 20180101ALI20220203BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20220203BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20220203BHJP
C12Q 1/6876 20180101ALI20220203BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20220203BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220203BHJP
C07D 217/02 20060101ALN20220203BHJP
C07D 213/74 20060101ALN20220203BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20220203BHJP
【FI】
C12N5/077 ZNA
A61P27/02
A61K35/44
A61K45/00
A61P43/00 121
A61P43/00 111
A61K47/22
A61K47/12
A61K47/42
A61K47/26
A61K47/02
A61L27/36 400
A61L27/54
A61L27/36 410
A61K31/496
A61K31/4409
A61K9/08
C12Q1/02
C12Q1/6837 Z
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6876 Z
G01N33/68
G01N33/50 P
C07D217/02
C07D213/74
C12N15/113 Z
(21)【出願番号】P 2018561784
(86)(22)【出願日】2017-02-14
(86)【国際出願番号】 JP2017005386
(87)【国際公開番号】W WO2017141926
(87)【国際公開日】2017-08-24
【審査請求日】2020-02-13
(31)【優先権主張番号】P 2016026423
(32)【優先日】2016-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016026424
(32)【優先日】2016-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016026425
(32)【優先日】2016-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016026426
(32)【優先日】2016-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016077450
(32)【優先日】2016-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「再生医療実現拠点ネットワークプログラム」、「再生医療の実現化ハイウェイ」事業、課題名「培養ヒト角膜内皮細胞移植による角膜内皮再生医療の実現化」、及び平成27年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「再生医療実用化研究事業」、課題名「培養ヒト角膜内皮細胞移植による角膜内皮再生医療の実現化」にかかる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(72)【発明者】
【氏名】木下 茂
(72)【発明者】
【氏名】羽室 淳爾
(72)【発明者】
【氏名】外園 千恵
(72)【発明者】
【氏名】上野 盛夫
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/016371(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/051722(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト眼前房内への注入時にヒト角膜内皮機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞であって、
該細胞の細胞表面抗原の表現型は、CD44陰性~弱陽性
表現型、CD166陽性
表現型、CD133陰性
表現型、CD105陰性~弱陽性
表現型、CD24陰性
表現型、
およびCD26陰性表現型を含
む、細胞。
【請求項2】
前記細胞
の細胞表面抗原の表現型は、CD105陰性
表現型、CD24陰性
表現型、CD26陰性
表現型、CD166陽性
表現型、CD133陰性
表現型、およびCD44陰性表現型を含
む、請求項1に記載の細胞。
【請求項3】
前記細胞表面抗原
の表現型は、さらに、CD200陰性表現型を含む、請求項1または2に記載の細胞。
【請求項4】
前記細胞表面抗原
の表現型は、さらに、CD90陰性表現型を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項5】
前記細胞表面抗原の表現型は、さらに、LGR5陰性
表現型、SSEA3陰性
表現型、MHC1弱陽性
表現型、MHC2陰性
表現型、ZO-1陽性
表現型、およびNa
+/K
+ATPase陽性
表現型からなる群より選択される少なくとも1つ
の表現型を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項6】
前記細胞の平均細胞面積は、250μm
2以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項7】
ミトコンドリア系におけるエネルギー代謝系の酵素を含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項8】
OXPHOS活性が亢進していることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項9】
前記細胞は、PDGF-BB高産生、IL-8低産生、MCP-1低産生、TNF-α高産生、IFNγ高産生、およびIL-1Rアンタゴニスト高産生からなる群より選択される少なくとも一つの特性を有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項10】
前記細胞は、成熟分化角膜内皮機能性細胞a5の細胞特性を有する少なくとも1つのmiRNAを有し、ここで、該a5の細胞表面抗原の特性は、CD44陰性~弱陽性およびCD24陰性CD26陰性である、請求項1~9のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の細胞を含む細胞集団。
【請求項12】
前記細胞集団の飽和細胞培養(培養コンフルエント)時平均細胞密度が、少なくとも1500個/mm
2以上である、請求項11に記載の細胞集団。
【請求項13】
前記細胞集団を注入した後にヒトの角膜内皮面に生着した細胞の平均細胞密度が、少なくとも1000個/mm
2以上となる、請求項11または12に記載の細胞集団。
【請求項14】
前記細胞集団における少なくとも70%の細胞が、請求項1~10のいずれか一項に記載の特徴を有する、請求項11~13のいずれか1項に記載の細胞集団。
【請求項15】
前房内への注入時にアロ(同種異系)拒絶反応を生じさせない、請求項1~10のいずれか1項に記載の細胞または請求項11~14のいずれか1項に記載の細胞集団。
【請求項16】
前記細胞または細胞集団は、血清のサイトカインプロファイルにおいて、生体への投与後に血清炎症性サイトカインの増量などのヒト角膜内皮組織再建に関連しない目的外生体応答を実質的に惹起しない、請求項1~10のいずれか1項に記載の細胞または請求項11~14のいずれか1項に記載の細胞集団。
【請求項17】
ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜内皮機能特性を惹起し得る培養ヒト機能性角膜内皮細胞の品質管理または工程管理の方法であって、細胞表面マーカー;タンパク質性産物および該産物の関連生体物質;SASP関連タンパク質;細胞内および分泌型miRNA;エキソゾーム;アミノ酸を含む細胞代謝産物および該代謝産物の関連生体物質;細胞の大きさ;細胞の密度および自己抗体反応性細胞の存在からなる群より選択される少なくとも1つの細胞機能指標を測定する工程を包含し、前記ヒト機能性角膜内皮細胞
の細胞表面抗原の表現型が、CD44陰性~弱陽性
表現型、CD166陽性
表現型、CD133陰性
表現型、CD105陰性~弱陽性
表現型、CD24陰性
表現型、
およびCD26陰性表現型を含
む、方法。
【請求項18】
請求項1~16のいずれか1項に記載の少なくとも1つの角膜機能特性によって、前記培養機能性角膜内皮細胞の亜集団を同定する工程をさらに包含する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
培養ヒト角膜内皮細胞に混在する角膜内皮非機能性細胞の検出方法であって、細胞表面マーカー;タンパク質性産物および該産物の関連生体物質;SASP関連タンパク質;細胞内および分泌型miRNA;エキソゾーム;アミノ酸を含む細胞代謝産物および該代謝産物の関連生体物質;細胞の大きさ;細胞の密度および自己抗体反応性細胞の存在からなる群より選択される少なくとも1つの細胞機能指標を測定する工程を包含し、前記ヒト角膜内皮細胞
の細胞表面抗原の表現型が、CD44陰性~弱陽性
表現型、CD166陽性
表現型、CD133陰性
表現型、CD105陰性~弱陽性
表現型、CD24陰性
表現型、
およびCD26陰性表現型を含
む、方法。
【請求項20】
ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得る培養ヒト機能性角膜内皮細胞の品質管理もしくは工程管理の方法、または培養ヒト角膜内皮細胞に混在する角膜内皮非機能性細胞の検出方法であって、以下:
(1)培養上清ELISAによる純度試験
TIMP-1:500ng/mL以下
IL-8:500pg/mL以下
PDGF-BB:30pg/mL以上
MCP-1:3000pg/mL以下
(2)細胞FACSによる純度試験
CD166=95%以上
CD133=5%以下
CD105陰性~低陽性=95%以上
CD44陰性~低陽性=70%以上
CD44中程度~高陽性=15%以下
CD24=5%以下
CD26陽性=5%以下
CD200=5%以下
(3)バリア機能(ZO-1)陽性
(4)ポンプ機能(Na+/K+ATPase)陽性
(5)細胞生存率
トリパンブルー染色で70%以上
(6)細胞形態
外観試験で形質転換細胞を認めない
(7)Claudin10 陽性
(8)エフェクター細胞(E-ratio)>50%
(9)非目的細胞
非目的細胞A(CD44強陽性細胞)<15%、非目的細胞B(CD26陽性細胞)<5%、非目的細胞C(CD24陽性細胞)<5%
(10)核型異常陰性
(11)ミトコンドリア代謝系に係る酵素の発現、および
(12)OXPHOS活性
の1または複数を確認する工程を包含し、前記ヒト機能性角膜内皮細胞
の細胞表面抗原の表現型が、CD44陰性~弱陽性
表現型、CD166陽性
表現型、CD133陰性
表現型、CD105陰性~弱陽性
表現型、CD24陰性
表現型、
およびCD26陰性表現型を含
む、方法。
【請求項21】
ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得る培養ヒト機能性角膜内皮細胞の品質管理もしくは工程管理の方法であって、対象細胞について、(1)内皮ポンプ・バリア機能の保持、(2)特定のラミニンに対する接着・結合性、(3)分泌サイトカインプロファイル、(4)産生する代謝産物プロファイル(5)インビトロ培養時の飽和細胞密度、(6)培養時に得られる細胞の空間的大きさおよびその分布、ならびに(8)マウス角膜に対する液体窒素低温凍結損傷後に細胞注入した場合の細胞維持の1または複数の特徴を判定する工程を包含し、前記ヒト機能性角膜内皮細胞
の細胞表面抗原の表現型が、CD44陰性~弱陽性
表現型、CD166陽性
表現型、CD133陰性
表現型、CD105陰性~弱陽性
表現型、CD24陰性
表現型、
およびCD26陰性表現型を含
む、方法。
【請求項22】
前記細胞は角膜内皮組織由来細胞、角膜内皮前駆細胞、多能性幹細胞、間葉系幹細胞、または、角膜内皮から採取した角膜内皮前駆細胞、角膜内皮から採取した細胞、ならびにダイレクトプログラミング法で作製される角膜内皮前駆細胞および角膜内皮様細胞からなる群より選択される細胞を起源として作製されたものである請求項1~16のいずれか1項記載の細胞もしくは細胞集団。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜内皮機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞、その細胞を含む医薬、その製造法、およびその製造された細胞および製造工程の品質管理等の応用に関する。
【背景技術】
【0002】
水疱性角膜症を代表とする角膜内皮障害に対する現在の治療法はドナー角膜を用いた角膜移植術のみであるが、この手術の長期的な臨床結果は不十分である。また、角膜移植後の視力は、角膜不正乱視が誘導されることに起因して十分ではない。角膜移植患者の約60%以上は角膜内皮機能不全(水疱性角膜症)である。水疱性角膜症の主な原因は白内障手術、緑内障手術、硝子体網膜手術、またはレーザー虹彩切開術等の眼科手術に起因する角膜内皮障害、角膜外傷、偽落屑症候群、およびフックス角膜内皮ジストロフィである。欧米におけるフックス角膜内皮ジストロフィの遺伝的な素因を有する潜在的有病率は約5%以上と報告されている。角膜移植術では、病的な1眼を治療するために1眼のドナー角膜が必要であり、継続的なドナー不足を解決する手段とはならない。潜在患者が多数存在することに鑑み、角膜移植技術に比較し、広汎な医療機関で適用できる汎用性を持つ革新的医療の提供が、喫緊の課題として全世界で強く望まれている。加えて、細胞注入療法は、歪みのない角膜の正常な形状をもたらし、その結果、良好な視覚機能の回復をもたらす。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明者らは、培養ヒト角膜内皮細胞が培養中の細胞の相転移(線維化、上皮間葉系移行、老化、脱分化等)により複数の亜集団から構成されていることを世界において初めて見出し、培養中の亜集団を選択的に増殖する技術を考案することで、特定の亜集団、すなわち成熟分化ヒト角膜内皮細胞の機能を十分に有する機能性細胞(effector(エフェクター)細胞とも称する。)が、細胞注入療法に最適な小型で六角形の敷石様形状を形成し、主にミトコンドリア機能によるエネルギー代謝系を利用する成熟分化内皮細胞であることを確認し、革新的な本発明を完成した。
【0004】
従来の技術では、長い間不可能とされていた機能性ヒト角膜内皮細胞のインビトロ培養技術の開発に成功し、本技術により製造された高品質グレードの機能性培養ヒト角膜内皮細胞をヒトの眼前房内に注入する方法を確立した。前房内注入により角膜内皮を再生させるという概念は、(1)低侵襲性で、(2)基剤として人工材料を用いず、(3)若年者由来の老化の少ない高品質の機能性培養ヒト角膜内皮細胞をマスター細胞として用いることが可能となった。
【0005】
したがって、本発明は以下を提供する。
(細胞発明)
別の実施形態において、本発明はまた以下を提供する。
(項目1)ヒト眼前房内への注入時にヒト角膜内皮機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞。
(項目2)CD166陽性およびCD133陰性表現型を含む細胞表面抗原を発現する、項目1に記載の細胞。
(項目3)前記細胞表面抗原は、CD166陽性、CD133陰性、およびCD44陰性~中陽性表現型を含む、項目2に記載の細胞。
(項目4)前記細胞表面抗原は、CD166陽性、CD133陰性、およびCD44陰性~CD44弱陽性表現型を含む、項目2に記載の細胞。
(項目5)前記細胞表面抗原は、CD166陽性、CD133陰性、およびCD200陰性表現型を含む、項目2に記載の細胞。
(項目6)CD90陰性~弱陽性、CD105陰性~弱陽性、CD24陰性、CD26陰性、LGR5陰性、SSEA3陰性、MHC1弱陽性、MHC2陰性、PDL1陽性、ZO1陽性、Na
+/K
+ATPase陽性および以下の表
【表A】
に記載の細胞表面抗原からなる群より選択される少なくとも1つの発現特性をさらに含む、項目2~5のいずれか1項に記載の細胞。
(項目7)前記細胞は、PDGF-BB高産生、IL-8低産生、MCP-1低産生、TNF-α高産生、IFNγ高産生、およびIL-1Rアンタゴニスト高産生からなる群より選択される少なくとも一つの特性を有する、項目1~6のいずれか1項に記載の細胞。
(項目8)前記細胞は、成熟分化角膜内皮機能性細胞a5の細胞特性を有する少なくとも1つのmiRNAを有し、ここで、該a5の細胞表面抗原の特性は、CD44陰性~弱陽性およびCD24陰性CD26陰性である、項目1~7のいずれか1項に記載の細胞。
(項目9)前記miRNAの特性は、以下:
(A)機能性成熟分化角膜内皮細胞(a5):中程度分化角膜内皮細胞(a1):角膜内皮非機能性細胞(a2)=高発現:高発現:低発現を示すもの:
(細胞内)miR23a-3p、miR23b-3p、miR23c、miR27a-3p、miR27b-3p、miR181a-5p、miR181b-5p、miR181c-5p、miR181d-5p
(細胞分泌型)miR24-3p、miR1273e;
(B)a5:a1:a2=高発現:中発現:低発現を示すもの:
(細胞内)miR30a-3p、miR30a-5p、miR30b-5p、miR30c-5p、miR30e-3p、miR30e-5p、miR130a-3p、miR130b-3p、miR378a-3p、miR378c、miR378d、miR378e、miR378f、miR378h、miR378i、miR184、miR148a-3p
(細胞分泌型)miR184;
(C)a5:a1:a2=高発現:低発現:低発現を示すもの:
(細胞内)miR34a-5p、miR34b-5p
(細胞分泌型)miR4419b、miR371b-5p、miR135a-3p、miR3131、miR296-3p、miR920、miR6501-3p;
(D)a5:a1:a2=低発現:低発現:中高発現を示すもの:
(細胞内)miR29a-3p、miR29b-3p、miR199a-3p、miR199a-5p、miR199b-5p、miR143-3p
(細胞分泌型)miR1915-3p、miR3130-3p、miR92a-2-5p、miR1260a;
(E)a5:a1:a2=低発現:中発現:高発現を示すもの:
(細胞内)miR31-3p、miR31-5p、miR193a-3p、miR193b-3p、miR138-5p
(F)a5:a1:a2=高発現:低発現:高発現を示すもの:
(細胞分泌型)miR92b-5p
(G)a5:a1:a2=低発現:高発現:低発現を示すもの:
(細胞分泌型)miR1246、miR4732-5p、miR23b-3p、miR23a-3p、miR1285-3p、miR5096
からなる群より選択される少なくとも一つのmiRNAを含む、項目8に記載の細胞。
(項目10)前記miRNAマーカーは、(B)または(C)から選択される少なくとも一つを含む、項目9に記載の細胞。
(項目11)前記細胞の平均細胞面積は、250μm
2以下である、項目1~10のいずれか1項に記載の細胞。
(項目12)細胞表面マーカー;タンパク質性産物または該産物の関連生体物質;SASP関連タンパク質;miRNA;エキソゾーム;アミノ酸を含む細胞代謝産物および該産物の関連生体物質;細胞の大きさ;細胞の密度および自己抗体反応性細胞の存在からなる群からなる群より選択される少なくとも一つの細胞指標において、a5に相同する細胞機能特性を有する、項目1~11のいずれか1項に記載の細胞。
(項目13)前記細胞は核型以上を有しない、項目1~12のいずれか1項に記載の細胞。
(項目14)項目1~13のいずれか1項に記載の細胞を含む細胞集団。
(項目15)前記細胞集団の飽和細胞培養(培養コンフルエント)時平均細胞密度が、少なくとも1500個/mm
2以上である、項目14に記載の細胞集団。
(項目16)前記細胞集団の飽和細胞培養(培養コンフルエント)時平均細胞密度が、少なくとも2000個/mm
2以上である、項目14または15に記載の細胞集団。
(項目17)前記細胞集団を注入した後にヒトの角膜内皮面に生着した細胞の平均細胞密度が、少なくとも1000個/mm
2以上となる、項目14~16のいずれか1項に記載の細胞集団。
(項目18)前記細胞集団を注入した後にヒトの角膜内皮面に生着した細胞の平均細胞密度が、少なくとも2000個/mm
2以上となる、項目14~17のいずれか1項に記載の細胞集団。
(項目19)前記細胞集団における少なくとも70%の細胞が、項目A2またはA3に記載の特徴を有する、項目A14~A18のいずれか1項に記載の細胞集団。
(項目20)前記細胞集団における少なくとも90%の細胞が、項目A2またはA3に記載の特徴を有する、項目A14~A19のいずれか1項に記載の細胞集団。
(項目21)前記細胞集団における少なくとも40%の細胞が、項目4に記載の特徴を有する、項目14~20のいずれか1項に記載の細胞集団。
(項目22)前記細胞集団における少なくとも70%の細胞が、項目4に記載の特徴を有する、項目14~21のいずれか1項に記載の細胞集団。
(項目23)前記細胞集団における少なくとも80%の細胞が、項目4に記載の特徴を有する、項目14~22のいずれか1項に記載の細胞集団。
(項目24)前房内への注入時にアロ(同種異系)拒絶反応を生じさせない、項目1~13のいずれか1項に記載の細胞または項目14~23のいずれか1項に記載の細胞集団。
(項目25)前記細胞または細胞集団は、血清のサイトカインプロファイルにおいて、生体への投与後に血清炎症性サイトカインの増量などのヒト角膜内皮組織再建に関連しない目的外生体応答を実質的に惹起しない、項目1~13のいずれか1項に記載の細胞または項目14~24のいずれか1項に記載の細胞集団。
(項目26)項目1~13のいずれか1項に記載の細胞または項目14~25のいずれか1項に記載の細胞集団を含む製品。
(項目27)項目1~13のいずれか1項に記載の細胞または項目14~25のいずれか1項に記載の細胞集団を維持保存するための、細胞または細胞集団の保存方法。
(項目28)前記細胞または細胞集団の保存方法を実施する工程を含む、項目1~13のいずれか1項に記載の細胞または項目14~25のいずれか1項に記載の細胞集団の送達方法。
(医薬)
(項目A1)ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞を含む医薬。
(項目A2)前記医薬は角膜内皮機能障害または疾患の処置のためのものである、項目A1に記載の医薬。
(項目A3)前記角膜内皮機能障害または疾患は、角膜内皮障害Grade 3と角膜内皮障害Grade4 (水疱性角膜症)(例えば、フックス角膜内皮ジストロフィ、PEX-BK(pseudoexfoliation bullous keratopathy;偽落屑症候群に伴う水疱性角膜症)、レーザー虹彩切開術後水疱性角膜症、白内障手術術後水疱性角膜症(偽水晶体眼または無水晶体水疱性角膜症)、緑内障術後水疱性角膜症、外傷後の水疱性角膜症、原因不明の多重手術後の水疱性角膜症、角膜移植後の移植片不全、先天遺伝性角膜内皮ジストロフィ、先天性前房隅角形成不全症候群)とからなる群より選択される少なくとも1つを含む、項目A2に記載の医薬。本明細書において使用されるグレードシステムは、Japanese Journal of Ophthalmology 118: 81-83, 2014に基づいた角膜内皮疾患の重症度分類に基づく。
(項目A4)前記細胞を前房内投与することを特徴とする、項目A1~A3のいずれか1項に記載の医薬。
(項目A5)前記細胞はさらなる薬剤とともに投与される、項目A1~A4のいずれか1項に記載の医薬。
(項目A6)前記さらなる薬剤は、ステロイド剤、抗菌剤およびNSAIDからなる群より選択される少なくとも1つの薬剤を含む、項目A5に記載の医薬。
(項目A7)前記さらなる薬剤は、ROCK阻害剤を含む、項目A5またはA6に記載の医薬。
(項目A8)前記さらなる薬剤は前記医薬に含有される、項目A5~A7のいずれか1項に記載の医薬。
(項目A9)前記医薬は、5×10
4細胞/300μL~2×10
6細胞/300μLの密度で前記細胞を含む項目A1~A8のいずれか1項に記載の医薬。
(項目A10)前記医薬は細胞注入ビヒクルをさらに含む、項目A1~A9のいずれか1項に記載の医薬。
(項目A11)前記細胞注入ビヒクルはさらに、ROCK阻害剤、アルブミン、アスコルビン酸および乳酸の少なくとも1つを含む、項目A10に記載の医薬。
(項目A12)前記細胞注入ビヒクルはさらに、アルブミン、アスコルビン酸および乳酸を含む、項目A10またはA11に記載の医薬。
(項目A13)前記細胞注入ビヒクルはさらに、ROCK阻害剤、アルブミン、アスコルビン酸および乳酸のすべてを含む、項目A10~A12のいずれか1項に記載の医薬。
(項目A14)前記細胞注入ビヒクルは、OPEGUARD-MA(登録商標)を含む、上記項目A10~A13のいずれか1項に記載の医薬。
(項目A15)前記ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜内皮機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞は、以下(A15-2)~(A15-13):
(A15-2)CD166陽性およびCD133陰性表現型を含む細胞表面抗原を発現すること;
(A15-3)前記細胞表面抗原がCD166陽性、CD133陰性およびCD44陰性~中陽性表現型を含むこと;
(A15-4)前記細胞表面抗原がCD166陽性、CD133陰性およびCD44陰性~CD44弱陽性表現型を含むこと;
(A15-5)前記細胞表面抗原がCD166陽性、CD133陰性およびCD200陰性表現型を含むこと;
(A15-6)前記細胞表面抗原は、以下:
CD90陰性~弱陽性、CD105陰性~弱陽性、CD24陰性、CD26陰性、LGR5陰性、SSEA3陰性、MHC1弱陽性、MHC2陰性、PDL1陽性、ZO1陽性、Na
+/K
+ATPase陽性および以下の表
【表B】
に記載の細胞表面抗原からなる群より選択される少なくとも一つの発現特性をさらに含む;
(A15-7)前記細胞は、PDGF-BB高産生、IL-8低産生、MCP-1低産生、TNF-α高産生、IFNγ高産生、およびIL-1Rアンタゴニスト高産生からなる群より選択される少なくとも一つの特性を有する;
(A15-8)前記細胞は、少なくとも一つのmiRNAが成熟分化機能性角膜内皮細胞a5の細胞特性を有し、ここで、該a5の細胞表面抗原の特性は、CD44陰性~弱陽性、CD24陰性CD26陰性である;
(A15-9)前記miRNAの特性は以下:
(A)機能性成熟分化角膜内皮細胞(a5):中程度分化角膜内皮細胞(a1):角膜内皮非機能性細胞(a2)=高発現:高発現:低発現を示すもの:
(細胞内)miR23a-3p、miR23b-3p、miR23c、miR27a-3p、miR27b-3p、miR181a-5p、miR181b-5p、miR181c-5p、miR181d-5p
(細胞分泌型)miR24-3p、miR1273e;
(B)a5:a1:a2=高発現:中発現:低発現を示すもの:
(細胞内)miR30a-3p、miR30a-5p、miR30b-5p、miR30c-5p、miR30e-3p、miR30e-5p、miR130a-3p、miR130b-3p、miR378a-3p、miR378c、miR378d、miR378e、miR378f、miR378h、miR378i、miR184、miR148a-3p
(細胞分泌型)miR184;
(C)a5:a1:a2=高発現:低発現:低発現を示すもの:
(細胞内)miR34a-5p、miR34b-5p
(細胞分泌型)miR4419b、miR371b-5p、miR135a-3p、miR3131、miR296-3p、miR920、miR6501-3p;
(D)a5:a1:a2=低発現:低発現:中高発現を示すもの:
(細胞内)miR29a-3p、miR29b-3p、miR199a-3p、miR199a-5p、miR199b-5p、miR143-3p
(細胞分泌型)miR1915-3p、miR3130-3p、miR92a-2-5p、miR1260a;
(E)a5:a1:a2=低発現:中発現:高発現を示すもの:
(細胞内)miR31-3p、miR31-5p、miR193a-3p、miR193b-3p、miR138-5p
(F)a5:a1:a2=高発現:低発現:高発現を示すもの:
(細胞分泌型)miR92b-5p
(G)a5:a1:a2=低発現:高発現:低発現を示すもの:
(細胞分泌型)miR1246、miR4732-5p、miR23b-3p、miR23a-3p、miR1285-3p、miR5096
からなる群より選択される少なくとも一つのmiRNAを含む項目8に記載の細胞であって、発現水準は3種の細胞間での相対的強度であり、該a1の細胞表面抗原の発現は、CD44中陽性CD24陰性CD26陰性であり
該a2の細胞表面抗原の発現は、CD44強陽性CD24陰性CD26陽性である;
(A15-10)前記miRNAマーカーは、(B)または(C)から選択される少なくとも一つを含む;
(A15-11)前記細胞の平均細胞面積は、250μm
2以下である;
(A15-12)細胞表面マーカー;タンパク質性産物および該産物の関連生体物質;SASP関連タンパク質;miRNA;エキソゾーム;アミノ酸を含む細胞代謝産物および該産物の関連生体物質;細胞の大きさ;細胞の密度および自己抗体反応性細胞の存在からなる群からなる群より選択される少なくとも一つの細胞指標において、a5に相同する細胞機能特性を有する;
(A15-13)前記細胞は核型異常を有しない;
の1つまたは複数の特徴を有するか、または、細胞集団であり、該細胞集団は、
(A15-14)(A15-2)~(A15-13)のいずれか1項に記載の細胞を含む、細胞集団である;
(A15-15)前記細胞集団の飽和細胞培養(培養コンフルエント)時平均細胞密度が、少なくとも1500個/mm
2以上である、(A15-14)に記載の細胞集団;
(A15-16)前記細胞集団の飽和細胞培養(培養コンフルエント)時平均細胞密度が、少なくとも2000個/mm
2以上である、(A15-14)~(A15-15)に記載の細胞集団;
(A15-17)前記細胞集団を移植した後にヒトの角膜内皮面に生着した細胞の平均細胞密度が、少なくとも1000個/mm
2以上となる、(A15-14)~(A15-16)に記載の細胞集団;
(A15-18)前記細胞集団を移植した後にヒトの角膜内皮面に生着した細胞の平均細胞密度が、少なくとも2000個/mm
2以上となる、(A15-14)~(A15-17)に記載の細胞集団;
(A15-19)前記細胞集団における少なくとも70%の細胞が(A15-2)または(A15-3)に記載の特徴を有する、(A15-14)~(A15-18)に記載の細胞集団;
(A15-20)前記細胞集団における少なくとも90%の細胞が(A15-2)または(A15-3)に記載の特徴を有する、(A15-14)~(A15-19)に記載の細胞集団;
(A15-21)前記細胞集団における少なくとも40%の細胞が(A15-4)に記載の特徴を有する、(A15-14)~(A15-20)に記載の細胞集団;
(A15-22)前記細胞集団における少なくとも70%の細胞が(A15-4)に記載の特徴を有する、(A15-14)~(A15-21)に記載の細胞集団;
(A15-23)前記細胞集団における少なくとも80%の細胞が(A15-4)に記載の特徴を有する、(A15-14)~(A15-22)のいずれか1項に記載の細胞集団。
(A15-24)前房内注入時にアロ(同種異系)拒絶反応を生じることの無い、(A15-2)~(A15-13)のいずれかに記載の細胞または(A15-14)~(A15-22)のいずれか1項に記載の細胞集団;
(A15-25)前記細胞または細胞集団は、血清のサイトカインプロファイルにおいて、生体への投与後に血清炎症性サイトカインの増量などのヒト角膜内皮組織再建に関連しない目的外生体応答を実質的に惹起しない、(A15-2)~(A15-13)のいずれか1項に記載の細胞または(A15-14)~(A15-24)のいずれか1項に記載の細胞集団
であることを特徴とする、医薬。
(製造方法)
本発明はまた、以下をも提供する。
(項目B1)角膜内皮組織由来細胞または角膜内皮前駆細胞を直接、もしくは脱分化工程を介し間接的に、成熟分化させる工程を含むヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞の製造方法。
(項目B2)角膜内皮組織由来細胞または角膜内皮前駆細胞を、アクチン脱重合を包含する工程により培養し、成熟分化させる工程を包含する、ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞の製造方法。
(項目B3)前記アクチン脱重合は、ROCK阻害剤、HDAC阻害剤、アクチン脱重合阻害剤、PPARγ阻害剤、MMP2阻害剤、p53活性化剤およびmiRNAからなる群より選択される1つもしくは複数の薬剤により達成される、項目B1またはB2に記載の製造方法。
(項目B4)前記ROCK阻害剤は、Y-27632である、項目B3に記載の製造方法。
(項目B5)前記アクチン脱重合阻害剤は、ラトランクリンAおよびスウィンホライドAからなる群より選択される、項目B3に記載の製造方法。
(項目B6)前記角膜内皮組織由来細胞または角膜内皮前駆細胞を、上皮間葉系移行様の形質転換、増殖、成熟および分化に移行する条件で培養する工程をさらに包含する、項目B1~B5のいずれか1項に記載の方法。
(項目B7)前記増殖、成熟および分化する条件は、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)シグナル伝達阻害剤の非存在下での培養を含む、項目B6に記載の製造方法。
(項目B8)前記角膜内皮組織由来細胞または角膜内皮前駆細胞を、細胞老化が抑制される条件で培養する工程をさらに包含する、項目B1~B7のいずれか1項に記載の方法。
(項目B9)前記細胞老化が抑制される条件は、p38MAPキナーゼ阻害剤の存在下での培養を含む、項目B8に記載の製造方法。
(項目B10)前記p38MAPキナーゼ阻害剤はSB203580を含む、項目B9に記載の製造方法。
(項目B11)前記角膜内皮組織由来細胞または角膜内皮前駆細胞は、生体から採取したものであるか、または幹細胞もしくは前駆細胞から分化させたものである、項目B1~B10のいずれか1項に記載の製造方法。
(項目B12)前記培養は、100~1000細胞/mm
2の播種密度でなされる、項目B1~B11のいずれか1項に記載の製造方法。
(項目B13)培養細胞の細胞密度が飽和密度に達した後に細胞機能成熟のためにさらに培養する工程を包含する、項目B1~B12のいずれか1項に記載の製造方法。
(項目B14)前記培養細胞が飽和細胞密度に達し、かつ、その後、前記培養細胞の分化および成熟が、タイトジャンクションの十分な形成により完了した後、前記培養細胞の保存のために培地交換のみで培養がさらに1週間以上なされる、項目B13に記載の製造方法。
(項目B15)前記ヒト機能性角膜内皮細胞を識別する細胞指標を少なくとも1つ用いて前記培養後の細胞機能を検定する工程をさらに包含する、項目B1~B14のいずれか1項に記載の製造方法。
(項目B16)前記検定後、前記角膜内皮機能性エフェクター細胞と判断された画分を培養物中で選択的に増殖する工程をさらに包含する、項目B15に記載の製造方法。
(項目B17)前記培養中に、細胞亜集団組成をモニターする工程をさらに包含する、項目B1~B16のいずれか1項に記載の製造方法。
(項目B18)前記モニターは、ミトコンドリア機能、酸素消費および培養液のpH、アミノ酸組成、タンパク性産物、可溶性miRNA、非侵襲的工学的手法による細胞密度、細胞の大きさ、および細胞均一性からなる群より選択される少なくとも1つの項目を追跡することを包含する、項目B17に記載の製造方法。
(項目B19)前記培養工程は、継代培養する工程を包含する、項目B1~B18のいずれか1項に記載の製造方法。
(項目B20)前記培養工程は、継代培養時に、ROCK阻害剤、HDAC阻害剤、アクチン脱重合阻害剤、PPARγ阻害剤およびMMP2阻害剤、p53活性化剤、およびmiRNAからなる群より選択される1つもしくは複数の薬剤を加える工程を包含する、項目B1~B19のいずれか1項に記載の製造方法。
(項目B21)無血清培地存在下で培養する工程を包含する、項目B1~B20のいずれか1項に記載の方法。
(項目B22)前記角膜内皮組織由来細胞または角膜内皮前駆細胞は、多能性幹細胞、間葉系幹細胞、角膜内皮から採取した角膜内皮前駆細胞、角膜内皮から採取した細胞、ならびにダイレクトプログラミング法で作成される角膜内皮前駆細胞および角膜内皮様細胞からなる群より選択される、項目B1~B21のいずれか1項に記載の製造方法。
(項目B23)項目B1~B22のいずれか1項に記載の成熟分化機能性角膜内皮細胞を、製造後に培養を継続する工程を包含する成熟分化機能性角膜内皮細胞の保存方法。
(品質管理)
(項目C1)細胞表面マーカー;タンパク質性産物および該産物の関連生体物質;SASP関連タンパク質;miRNA;エキソゾーム;アミノ酸を含む細胞代謝産物および該代謝産物の関連生体物質;細胞の大きさ;細胞の密度および自己抗体反応性細胞の存在からなる群より選択される少なくとも1つの細胞指標を測定する工程を包含する、ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜内皮機能特性を惹起し得る培養ヒト機能性角膜内皮細胞の品質管理または工程管理の方法。
(項目C2)前記細胞指標は少なくとも3つ使用される、項目C1に記載の方法。
(項目C3)前記細胞指標は、細胞の大きさ、細胞の密度またはそれらの組合せを含む、項目C1またはC2に記載の方法。
(項目C4)前記細胞指標は、細胞表面マーカー、タンパク質性産物および該産物の関連生体物質の少なくとも1つ、miRNAの少なくとも1つ、ならびに細胞代謝産物および該代謝産物の関連生体物質の少なくとも1つの組合せを含む、項目C1~C3のいずれか1項に記載の方法。
(項目C5)さらに、角膜機能特性により前記培養機能性角膜内皮細胞の亜集団を識別することを含む、項目C1~C4のいずれか1項に記載の方法。
(項目C6)前記角膜機能特性は、細胞表面にCD166陽性およびCD133陰性を含む細胞表面抗原を発現することである、項目C5に記載の方法。
(項目C7)前記細胞表面抗原がCD166陽性、CD133陰性およびCD44陰性~中陽性を含むことを特徴とする、項目C5またはC6に記載の方法。
(項目C8)前記細胞表面抗原がCD166陽性、CD133陰性およびCD44陰性~CD44弱陽性を含むことを特徴とする、項目C5~C7のいずれか1項に記載の方法。
(項目C9)前記細胞表面抗原がCD166陽性、CD133陰性、CD44陰性~CD44弱陽性およびCD90陰性~弱陽性を含むことを特徴とする、項目C5~C8のいずれか1項に記載の方法。
(項目C10)前記細胞表面抗原がCD166陽性、CD133陰性およびCD200陰性を含むことを特徴とする、項目C5~C9のいずれか1項に記載の方法。
(項目C11)タンパク質性産物および該産物の関連生体物質;分泌型miRNA;アミノ酸を含む細胞代謝産物および該代謝産物の関連生体物質;の各々から複数の指標を選択して各指標のプロファイルの変動を確認し、CD166陽性、CD133陰性、CD44陰性~CD44弱陽性及びCD90陰性~弱陽性を含む細胞指標を有する細胞の同質性を判定することを特徴とする、項目C5~C10のいずれか1項に記載の方法。
(項目C12)前記タンパク質性産物および該産物の関連生体物質は、以下:
(A)ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞において、発現が上昇する:
COL4A1、COL4A2、COL8A1、COL8A2、CDH2、およびTGF-β2;ならびに
(B)ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞において発現が下がる
MMP1、MMP2、TIMP1、BMP2、IL13RA2、TGF-β1、CD44、COL3A1、IL6、IL8、HGF、THBS2、およびIGFBP3からなる群より選択される、項目C1~C11のいずれか1項に記載の方法。
(項目C13)前記miRNAの特性は以下:
(A)成熟分化機能性角膜内皮細胞(a5):成熟分化角膜内皮前駆細胞(a1):角膜内皮非機能性細胞(a2)=高発現:高発現:低発現を示すもの:
(細胞内)miR23a-3p、miR23b-3p、miR23c、miR27a-3p、miR27b-3p、miR181a-5p、miR181b-5p、miR181c-5p、miR181d-5p
(細胞分泌型)miR24-3p、miR1273e;
(B)a5:a1:a2=高発現:中発現:低発現を示すもの:
(細胞内)miR30a-3p、miR30a-5p、miR30b-5p、miR30c-5p、miR30e-3p、miR30e-5p、miR130a-3p、miR130b-3p、miR378a-3p、miR378c、miR378d、miR378e、miR378f、miR378h、miR378i、miR184、miR148a-3p
(細胞分泌型)miR184;
(C)a5:a1:a2=高発現:低発現:低発現を示すもの:
(細胞内)miR34a-5p、miR34b-5p
(細胞分泌型)miR4419b、miR371b-5p、miR135a-3p、miR3131、miR296-3p、miR920、miR6501-3p;
(D)a5:a1:a2=低発現:低発現:中高発現を示すもの:
(細胞内)miR29a-3p、miR29b-3p、miR199a-3p、miR199a-5p、miR199b-5p、miR143-3p
(細胞分泌型)miR1915-3p、miR3130-3p、miR92a-2-5p、miR1260a;
(E)a5:a1:a2=低発現:中発現:高発現を示すもの:
(細胞内)miR31-3p、miR31-5p、miR193a-3p、miR193b-3p、miR138-5p
(F)a5:a1:a2=高発現:低発現:高発現を示すもの:
(細胞分泌型)miR92b-5p
(G)a5:a1:a2=低発現:高発現:低発現を示すもの:
(細胞分泌型)miR1246、miR4732-5p、miR23b-3p、miR23a-3p、miR1285-3p、miR5096
のパターンからなる群より選択される少なくとも一つのmiRNAを含み、発現水準は3種の細胞間での相対的強度であり、高発現>中発現>低発現の順に発現強度が弱くなると定義され、
該a5の細胞表面抗原の特性は、CD44陰性~弱陽性、CD24陰性CD26陰性であり、
該a1の細胞表面抗原の発現は、CD44中陽性CD24陰性CD26陰性であり
該a2の細胞表面抗原の発現は、CD44強陽性CD24陰性CD26陽性である、
項目C1~C12のいずれか1項に記載の方法。
(項目C14)前記エキソゾームは以下の細胞指標:
(A)ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞において発現が低下するもの:
CD63、CD9、CD81およびHSP70からなる群より選択される少なくとも1つの指標を含む、項目C1~C13のいずれか1項に記載の方法。
(項目C15)前記細胞代謝産物および該代謝産物の関連生体物質は以下:
コハク酸、Pro、Gly、グリセロール3-ホスフェート、Glu、乳酸、アルギノコハク酸、キサンチン、N-カルバモイルアスパラギン酸、イソクエン酸、cis―アコニット酸、クエン酸、Ala、3-ホスホグリセリン酸、ヒドロキシプロリン、リンゴ酸、尿酸、ベタイン、葉酸、Gln、2-オキソイソ吉草酸、ピルビン酸、Ser、ヒポキサンチン、Asn、Trp、Lys、コリン、Tyr、尿素、Phe、Met、カルノシン、Asp、オルニチン、Arg、クレアチン、2-ヒドロキシグルタミン酸、β-Ala、シトルリン、Thr、Ile、Leu、Val、クレアチニン、His、N,N-ジメチルグリシンまたはその組み合わせもしくは相対比率からなる群より選択される少なくとも1つを含む、
項目C1~C14のいずれか1項に記載の方法。
(項目C16)前記細胞代謝産物および該代謝産物の関連生体物質は培養上清中のセリン、アラニン、プロリン、グルタミンまたはクエン酸/乳酸比率における上昇を含む、項目C15に記載の方法。
(項目C17)前記細胞の大きさは平均細胞面積が250μm
2以下である項目C1~C16のいずれか1項に記載の方法。
(項目C18)前記細胞の飽和細胞培養時の平均細胞密度は少なくとも2000個/mm
2以上である、項目C1~C17のいずれか1項に記載の方法。
(項目C19)細胞の大きさ;細胞の密度および自己抗体反応性細胞の存在からなる群より選択される少なくとも1つの細胞指標を測定する工程を包含する培養ヒト角膜内皮細胞に混在する角膜内皮非機能性細胞の検出方法。
(項目C20)項目C1~C19のいずれか1項に記載の細胞指標を測定する試薬または手段を含む、機能性成熟分化角膜内皮細胞の品質評価剤、工程管理剤または角膜内皮非機能性細胞検出剤。
(項目C21)前記測定する手段は標識されたものである、項目C20に記載の品質評価剤、工程管理剤または検出剤。
(項目C22)A)ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞を含む可能性のある試料を提供する工程;
B)項目C20またはC21に記載の品質評価剤、工程管理剤または角膜内皮非機能性細胞検出剤を用いて該試料が、該ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞を含むかどうかを決定する工程であって、該品質評価剤、工程管理剤または角膜内皮非機能性細胞検出剤による評価結果が、該細胞がヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞であることを示す場合に、該試料がヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得る該ヒト機能性角膜内皮細胞を含むと決定する工程;
C)ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞であると決定された細胞を培養物中で選択的に増殖する工程
を包含する、ヒト機能性角膜内皮細胞の選択的増殖方法。
(項目C23)A)ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞であるとして提供された細胞について、項目C20またはC21のいずれかに記載の品質評価剤、工程管理剤または角膜内皮非機能性細胞検出剤を用いて該細胞の該機能性角膜内皮細胞の細胞指標に関する情報を得る工程;および
B)該情報に基づき、該提供された細胞がヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞であると決定する工程、
を包含する、ヒト機能性角膜内皮細胞の品質検定方法。
(項目C24)ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞の調製において、該調製の品質を管理するための方法であって、
A)項目C20またはC21に記載の品質評価剤、工程管理剤または角膜内皮非機能性細胞検出剤を用いて該調製において得られる細胞の成熟分化機能性角膜内皮細胞の細胞指標に関する情報を得る工程、および
B)該情報に基づき、該調製がヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞の調製に適していると判定する工程を包含する、方法。
(項目C25)ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞の純度を検定する方法であって、
A)該ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞を含む可能性のある試料を提供する工程、
B)項目C20またはC21に記載の品質評価剤、工程管理剤または角膜内皮非機能性細胞検出剤を用いて該細胞の機能性角膜内皮細胞の細胞指標に関する情報を得る工程、ならびに
C)該情報に基づいて、該試料中の該ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞の純度を算出する工程
を包含する、方法。
(項目C26)A)ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得る機能性成熟分化角膜内皮細胞であるとして提供された細胞を培地中で培養して、項目C20またはC21のいずれかに記載の品質評価剤、工程管理剤または角膜内皮非機能性細胞検出剤を用いて該細胞の該機能性角膜内皮細胞の細胞指標に関する情報を得る工程;および
B)該情報に基づき、該培地が該ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞の製造に適切であると決定する工程、
を包含する、ヒト機能性角膜内皮細胞用の培地の品質検定方法。
(項目C27)A)ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞であるとして提供された細胞を細胞注入ビヒクル中で培養して、項目C20またはC21のいずれかに記載の品質評価剤、工程管理剤または角膜内皮非機能性細胞検出剤を用いて該細胞の該機能性角膜内皮細胞の細胞指標に関する情報を得る工程;および
B)該情報に基づき、該細胞注入ビヒクルが細胞注入療法に適切であると決定する工程、
を包含する、ヒト機能性角膜内皮細胞用の細胞注入ビヒクルの品質検定方法。
(項目C28)以下:
(1)培養上清ELISAによる純度試験
TIMP-1:500ng/mL以下
IL-8:500pg/mL以下
PDGF-BB:30pg/mL以上
MCP-1:3000pg/mL以下
(2)細胞FACSによる純度試験
CD166=95%以上
CD133=5%以下
CD105低陽性=95%以上
CD44 低陽性=70%以上
CD44高陽性=15%以下
CD24=10%以下
CD26陽性=5%以下
CD200=5%以下
(3)バリア機能(ZO-1)陽性
(4)ポンプ機能(Na+/K+ATPase)陽性
(5)細胞生存率
トリパンブルー染色で70%以上
(6)細胞形態
外観試験で形質転換細胞を認めない
(7)Claudin10 陽性
(8)エフェクター細胞(E-ratio)>50%
(9)非目的細胞
非目的細胞A(CD44強陽性細胞)<15%、非目的細胞B(CD26陽性細胞)<5%、非目的細胞C(CD24陽性細胞)<10%
(10)核型異常陰性
の1または複数を確認する工程を包含する、ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得る培養ヒト機能性角膜内皮細胞の品質管理もしくは工程管理の方法、または培養ヒト角膜内皮細胞に混在する角膜内皮非機能性細胞の検出方法。
(項目C29)前記確認は、細胞注入治療の3週間~直前または培地交換のみの保存的培養時に実施することを包含する、項目C28に記載の方法。
(項目C30)前記確認は、細胞注入治療の約7日前~直前に実施することを包含する、項目C28またはC29に記載の方法。
(項目C31)項目C28~C30に記載の特徴のうち1または複数を特徴とする、項目C22~C27のいずれか1項に記載の方法。
(項目C32)対象細胞について、(1)内皮ポンプ・バリア機能の保持、(2)特定のラミニンに対する接着・結合性、(3)分泌するサイトカインプロファイル、(4)産生する代謝産物プロファイル(5)インビトロ培養時の飽和細胞密度、(6)培養時に得られる細胞の空間的大きさやその分布および(8)マウス角膜に対する液体窒素凍結損傷後に細胞注入した場合の細胞維持の1または複数の特徴を判定する工程を包含する、ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞の品質管理もしくは工程管理の方法。
(項目C33)前記内皮ポンプ・バリア機能の保持の判定は、角膜内皮に通常使用されるポンプ機能測定法またはバリア機能測定法を用いて判定される、項目C32に記載の方法。
(項目C34)前記特定のラミニンに対する接着・結合性に関する判定は、ラミニン511(α5鎖、β1鎖、γ鎖1の複合体)、ラミニン521(α5鎖、β2鎖、γ鎖1の複合体)またはその機能性フラグメントに対する接着性および/またはこれに対するインテグリンの発現の上昇を指標に判定される、項目C32またはC33に記載の方法。
(項目C35)前記分泌するサイトカインプロファイルの判定は、血清または前房水のサイトカインプロファイルの産生レベルを測定することを包含する、項目C32~C34のいずれか1項に記載の方法。
(項目C36)前記産生する代謝産物プロファイルの判定は、前記細胞の代謝産物の産生レベルを測定することを包含する、項目C32~C35のいずれか1項に記載の方法。
(項目C37)前記産生するマイクロRNA(miRNA)プロファイルの判定は、全RNAを取得しそのマイクロRNA発現プロファイルを取得することを包含する、項目C32~C36のいずれか1項に記載の方法。
(項目C38)前記インビトロ培養時の飽和細胞密度の判定は、画像取得システムを用いて得られた前記細胞の画像において細胞を計数することを包含する、項目C32~C37のいずれか1項に記載の方法。
(項目C39)前記培養時に得られる細胞の空間的大きさおよびその分布の判定は、画像取得システムを用いて得られた前記細胞の画像において細胞を計数することを包含する、項目C32~C38のいずれか1項に記載の方法。
(項目C40)前記マウス角膜に対する液体窒素凍結損傷後に細胞注入した場合の細胞維持の判定は、マウスの角膜の中央領域を低温損傷により前処理し内皮細胞を取り除いて作製したモデルの眼前房に、判定すべき細胞を注入し、前記角膜の特徴を臨床的に観察し、前記角膜の厚さをパキメータにより評価し、HCECの接着をヒト核染色により病理組織学的に検査し、その細胞が機能を有するかどうかを確認することを包含する、項目C32~C39のいずれか1項に記載の方法。
(代替実施形態)
したがって、本願発明は、以下を提供する。
(細胞)
(項目X1)ヒトの眼前房内への移植時にヒト角膜内皮機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞。
(項目X2)CD166陽性およびCD133陰性を含む細胞表面抗原を発現することを特徴とする項目X1に記載の細胞。
(項目X3)前記細胞表面抗原がCD166陽性、CD133陰性およびCD44陰性~中陽性表現型を含むことを特徴とする項目X2に記載の細胞。
(項目X4)前記細胞表面抗原がCD166陽性、CD133陰性およびCD44陰性~CD44弱陽性を含むことを特徴とする項目X2またはX3に記載の細胞。
(項目X4A)CD44陰性~CD44弱陽性表現型を含む細胞表面抗原を発現する、項目X1に記載の細胞。
(項目X4B)CD44陰性表現型を含む細胞表面抗原を発現する、X1に記載の細胞。
(項目X5)前記細胞表面抗原がCD166陽性、CD133陰性およびCD200陰性表現型を含むことを特徴とする項目X2~X4、X4AおよびX4Bのいずれか1項に記載の細胞。
(項目X6)前記細胞表面抗原が、CD166陽性、CD133陰性、CD44陰性~中陽性およびCD90陰性表現型を含む、項目X2~X4、X4A、X4BおよびX5のいずれか1項に記載の細胞。
(項目X7)前記細胞表面抗原は、以下:
CD90陰性~弱陽性、CD105陰性~弱陽性、CD24陰性、CD26陰性、LGR5陰性、SSEA3陰性、MHC1弱陽性、MHC2陰性、PDL1陽性、ZO-1陽性、およびNa
+/K
+ATPase陽性からなる群より選択される少なくとも一つの表面抗原発現特性をさらに含む、項目X2~X4、X4A、X4BおよびX5~X6のいずれか1項に記載の細胞。
(項目X8)前記細胞は、PDGF-BB高産生、IL-8低産生、MCP-1低産生、TNF-α高産生、IFNγ高産生、およびIL-1Rアンタゴニスト高産生からなる群より選択される少なくとも一つの特性を有する、項目X1~X4、X4A、X4BおよびX5~X7のいずれか1項に記載の細胞。
(項目X9)前記細胞は、少なくとも一つのmiRNAが成熟分化角膜内皮機能性細胞a5の細胞特性を有し、ここで、該a5の細胞表面抗原の特性は、CD44陰性~弱陽性およびCD24陰性CD26陰性である、項目X1~X4、X4A、X4BおよびX5~X8のいずれか1項に記載の細胞。
(項目X10)前記miRNAの特性は以下:
(A)miR23a-3p、miR23b-3p、miR23c、miR27a-3p、miR27b-3p、miR181a-5p、miR181b-5p、miR181c-5p、miR181d-5p、miR24-3p、miR1273e;
(B)miR30a-3p、miR30a-5p、miR30b-5p、miR30c-5p、miR30e-3p、miR30e-5p、miR130a-3p、miR130b-3p、miR378a-3p、miR378c、miR378d、miR378e、miR378f、miR378h、miR378i、miR184、miR148a-3p、miR184;
(C)miR34a-5p、miR34b-5p、miR4419b、miR371b-5p、miR135a-3p、miR3131、miR296-3p、miR920、miR6501-3p;
(D)miR29a-3p、miR29b-3p、miR199a-3p、miR199a-5p、miR199b-5p、miR143-3p、miR1915-3p、miR3130-3p、miR92a-2-5p、miR1260a;
(E)miR31-3p、miR31-5p、miR193a-3p、miR193b-3p、miR138-5p;
(F)miR92b-5p;ならびに
(G)miR1246、miR4732-5p、miR23b-3p、miR23a-3p、miR1285-3p、miR5096
からなる群より選択される少なくとも一つのmiRNAを含む項目X9。
(項目X11)前記miRNAマーカーは、(B)または(C)から選択される少なくとも一つを含む、項目X10に記載の細胞。
(項目X12)前記細胞の平均細胞面積は、250μm
2以下である、項目X1~X4、X4A、X4BおよびX5~X11のいずれか1項に記載の細胞。
(項目X13)細胞表面マーカー;タンパク質性産物および該産物の関連生体物質;SASP関連タンパク質;細胞内および分泌型miRNA;エキソゾーム;アミノ酸を含む細胞代謝産物および該代謝産物の関連生体物質;細胞の大きさ;細胞の密度および自己抗体反応性細胞の存在からなる群からなる群より選択される少なくとも一つの細胞指標において、a5に相同する細胞機能特性を有する、項目X1~X4、X4A、X4BおよびX5~X12のいずれか1項に記載の細胞。
(項目X14)前記細胞は核型異常を有しない、項目X1~X4、X4A、X4BおよびX5~X13のいずれか1項に記載の細胞。
(項目X15)項目X1~X4、X4A、X4BおよびX5~X14のいずれか1項に記載の細胞を含む、細胞集団。
(項目X16)前記細胞集団の飽和細胞培養(培養コンフルエント)時平均細胞密度が、少なくとも1500個/mm
2以上である、項目X15に記載の細胞集団。
(項目X17)前記細胞集団の飽和細胞培養(培養コンフルエント)時平均細胞密度が、少なくとも2000個/mm
2以上である、項目X15またはX16に記載の細胞集団。
(項目X18)前記細胞集団を移植した後にヒトの角膜内皮面に生着した細胞の平均細胞密度が、少なくとも1000個/mm
2以上となる、項目X15~X17のいずれか1項に記載の細胞集団。
(項目X19)前記細胞集団を移植した後にヒトの角膜内皮面に生着した細胞の平均細胞密度が、少なくとも2000個/mm
2以上となる、項目X15~X18のいずれか1項に記載の細胞集団。
(項目X20)前記細胞集団における少なくとも70%の細胞が項目X2~X4、X4A、X4BおよびX5~X6のいずれか1項に記載の特徴を有する、項目X15~X19のいずれか1項に記載の細胞集団。
(項目X21)前記細胞集団における少なくとも90%の細胞が項目X2~X4、X4A、X4BおよびX5~X6のいずれか1項に記載の特徴を有する、項目X15~X20のいずれか1項に記載の細胞集団。
(項目X22)前記細胞集団における少なくとも40%の細胞が項目X4に記載の特徴を有する、項目X15~X21のいずれか1項に記載の細胞集団。
(項目X23)前記細胞集団における少なくとも70%の細胞が項目X4に記載の特徴を有する、項目X15~X22のいずれか1項に記載の細胞集団。
(項目X24)前記細胞集団における少なくとも80%の細胞が項目X4に記載の特徴を有する、項目X15~X23のいずれか1項に記載の細胞集団。
(項目X25)前房内移植時にアロ(同種異系)拒絶反応を生じることの無い、項目X1~X4、X4A、X4BおよびX5~X14のいずれかに記載の細胞または項目X15~X24のいずれかに記載の細胞集団。
(項目X26)前記細胞または細胞集団は、血清のサイトカインプロファイルにおいて、生体への投与後に血清炎症性サイトカインの増量などのヒト角膜内皮組織再建に関連しない目的外生体応答を実質的に惹起しない、項目X1~X4、X4A、X4BおよびX5~X14のいずれか1項に記載の細胞または項目X15~X25のいずれか1項に記載の細胞集団。
(項目X27)項目X1~X4、X4A、X4BおよびX5~X14のいずれか1項に記載の細胞または項目X15~X26のいずれか1項に記載の細胞集団を含む製品。
(項目X28)項目X1~X4、X4A、X4BおよびX5~X14のいずれか1項に記載の細胞または項目X15~X26のいずれか1項に記載の細胞集団を培地交換により細胞機能特性を維持および保存するための、該細胞または細胞集団の保存方法。
(項目X29)前記細胞または細胞集団の保存方法を実施する工程を含む、項目X1~X4、X4A、X4BおよびX5~X14のいずれか1項に記載の細胞または項目X15~X26のいずれか1項に記載の細胞集団の送達方法。
(医薬)
(項目XA1)ヒトの眼前房内への移植時にヒト角膜機能特性を惹起し得る機能性角膜内皮細胞を含む医薬。
(項目XA2)前記医薬は角膜内皮機能障害または疾患の処置のためのものである、項目XA1に記載の医薬。
(項目XA3)前記角膜内皮機能障害または疾患は角膜内皮障害Grade 3と角膜内皮障害Grade4 (水疱性角膜症)(例えば、フックス角膜内皮ジストロフィ、PEX-BK(pseudoexfoliation bullous keratopathy;偽落屑症候群に伴う水疱性角膜症)、レーザー虹彩切開術後水疱性角膜症、白内障手術術後水疱性角膜症(偽水晶体眼または無水晶体水疱性角膜症)、緑内障術後水疱性角膜症、外傷後の水疱性角膜症、原因不明の多重手術後の水疱性角膜症、角膜移植後の移植片不全、先天遺伝性角膜内皮ジストロフィ、先天性前房隅角形成不全症候群)とからなる群より選択される少なくとも1つを含む、項目XA2に記載の医薬。本明細書において使用されるグレードシステムは、Japanese Journal of Ophthalmology 118: 81-83, 2014に基づいた角膜内皮疾患の重症度分類に基づく。
(項目XA4)前記細胞を前房内投与することを特徴とする、項目XA1~XA3のいずれか1項に記載の医薬。
(項目XA5)前記細胞はさらなる薬剤とともに投与される、項目XA1~XA4のいずれか1項に記載の医薬。
(項目XA6)前記さらなる薬剤は、ステロイド剤、抗菌剤およびNSAIDからなる群より選択される少なくとも1つの薬剤を含む、項目XA5に記載の医薬。
(項目XA7)前記さらなる薬剤は、ROCK阻害剤を含む、項目XA5またはXA6に記載の医薬。
(項目XA8)前記さらなる薬剤は前記医薬に含有される、項目XA5~XA7のいずれか1項に記載の医薬。
(項目XA9)前記医薬は、5×10
4細胞/300μL~2×10
6細胞/300μLの密度で前記細胞を含む項目XA1~XA8のいずれか1項に記載の医薬。
(項目XA10)前記医薬は細胞移入液をさらに含む、項目XA1~XA9のいずれか1項に記載の医薬。
(項目XA11)前記細胞注入ビヒクルはさらに、ROCK阻害剤、アルブミン、アスコルビン酸および乳酸の少なくとも1つを含む、項目XA10に記載の医薬。
(項目XA12)前記細胞注入ビヒクルはさらに、アルブミン、アスコルビン酸および乳酸を含む、項目XA10またはXA11に記載の医薬。
(項目XA13)前記細胞注入ビヒクルはさらに、ROCK阻害剤、アルブミン、アスコルビン酸および乳酸のすべてを含む、項目XA10~XA12のいずれか1項に記載の医薬。
(項目XA14)前記細胞注入ビヒクルは、OPEGUARD-MA(登録商標)を含む、上記項目XA10~XA13のいずれか1項に記載の医薬。
(項目XA15)前記ヒト機能性角膜内皮細胞は、項目X1~X4、X4A、X4BおよびX5~X14のいずれか1項に記載の細胞であるか、または項目X15~X26のいずれか1項に記載の細胞集団である、項目XA1~XA14のいずれか1項に記載の医薬。
(製造方法)
(項目XB1)ヒト角膜内皮組織由来細胞または角膜内皮前駆細胞を直接、もしくは脱分化工程を介し間接的に、増殖、成熟および分化させる工程を含むヒトの眼前房内への移植時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞の製造方法。
(項目XB2)角膜内皮組織由来細胞または角膜内皮前駆細胞を、アクチン脱重合を包含する工程により培養し、成熟分化させる工程を包含する、ヒトの眼前房内への移植時にヒト角膜内皮機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞の製造方法。
(項目XB3)前記アクチン脱重合は、ROCK阻害剤、HDAC阻害剤、アクチン脱重合阻害剤、PPARγ阻害剤、MMP2阻害剤、p53活性化剤およびmiRNAからなる群より選択される1つもしくは複数の薬剤により達成される、項目XB1またはXB2に記載の製造方法。
(項目XB4)前記ROCK阻害剤は、Y-27632である、項目XB3に記載の製造方法。
(項目XB5)前記アクチン脱重合阻害剤は、ラトランクリンAおよびスウィンホライドAからなる群より選択される、項目XB3またはXB4に記載の製造方法。
(項目XB6)前記角膜内皮組織由来細胞または角膜内皮前駆細胞を、上皮間葉系移行様の形質転換、増殖、成熟および分化に移行する条件で培養する工程をさらに包含する、項目XB1~XB5のいずれか1項に記載の方法。
(項目XB7)前記増殖、成熟および分化する条件は、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)シグナル伝達阻害剤の非存在下での培養を含む、項目XB6に記載の製造方法。
(項目XB8)前記角膜内皮組織由来細胞または角膜内皮前駆細胞を、細胞老化が抑制される条件で培養する工程をさらに包含する、項目XB1~XB7のいずれか1項に記載の方法。
(項目XB9)前記細胞老化が抑制される条件は、p38MAPキナーゼ阻害剤の存在下での培養を含む、項目XB8に記載の製造方法。
(項目XB10)前記p38MAPキナーゼ阻害剤はSB203580を含む、項目XB9に記載の製造方法。
(項目XB11)前記角膜内皮組織由来細胞または角膜内皮前駆細胞は、生体から採取したものであるか、または幹細胞もしくは前駆細胞から分化させたものである、項目XB1~XB10のいずれか1項に記載の製造方法。
(項目XB12)前記培養は、100~1000細胞/mm
2の播種密度でなされる、項目XB1~XB11のいずれか1項に記載の製造方法。
(項目XB13)培養細胞の細胞密度が飽和密度に達した後に細胞機能成熟のためにさらに培養する工程を包含する、項目XB1~XB12のいずれか1項に記載の製造方法。
(項目XB14)前記培養細胞が飽和細胞密度に達し、かつ、その後、前記培養細胞の分化および成熟が、タイトジャンクションの十分な形成により完了した後、前記培養細胞の保存のために培地交換のみで培養がさらに1週間以上なされる、項目XB13に記載の製造方法。
(項目XB15)前記ヒト機能性角膜内皮細胞を識別する細胞指標を少なくとも1つ用いて前記培養後の細胞機能を検定する工程をさらに包含する、項目XB1~XB14のいずれか1項に記載の製造方法。
(項目XB16)前記検定後、前記ヒト機能性角膜内皮細胞と判断された画分を選別する工程をさらに包含する、項目XB15に記載の製造方法。
(項目XB17)前記培養中に、細胞亜集団組成をモニターする工程をさらに包含する、項目XB1~XB16のいずれか1項に記載の製造方法。
(項目XB18)前記モニターは、ミトコンドリア機能、酸素消費および培養液のpH、アミノ酸組成、タンパク性産物、可溶性miRNA,非侵襲的工学的手法による細胞密度、細胞の大きさ、および細胞均一性からなる群より選択される少なくとも1つの項目を追跡することを包含する、項目XB17に記載の製造方法。
(項目XB19)前記培養工程は、継代培養する工程を包含する、項目XB1~XB18のいずれか1項に記載の製造方法。
(項目XB20)前記培養工程は、継代培養時に、ROCK阻害剤、HDAC阻害剤、アクチン脱重合阻害剤、PPARγ阻害剤およびMMP2阻害剤、p53 活性化剤、およびmiRNAからなる群より選択される1つもしくは複数の薬剤を加える工程を包含する、項目XB1~XB19のいずれか1項に記載の製造方法。
(項目XB21)無血清培地存在下で培養する工程を包含する、項目XB1~XB20のいずれか1項に記載の方法。
(項目XB22)前記角膜内皮組織由来細胞または角膜内皮前駆細胞は、多能性幹細胞、間葉系幹細胞、角膜内皮から採取した角膜内皮前駆細胞、角膜内皮から採取した細胞、ならびにダイレクトプログラミング法で作成される角膜内皮前駆細胞および角膜内皮様細胞からなる群より選択される、項目XB1~XB21のいずれか1項に記載の製造方法。
(項目XB23)項目XB1~XB22のいずれか1項に記載の成熟分化ヒト機能性角膜内皮細胞を、製造後に培養を継続する工程を包含する成熟分化ヒト機能性角膜内皮細胞の保存方法。
(項目XB24)前記ヒト機能性角膜内皮細胞が、項目X1~X4、X4A、X4B、X5~X14およびX25~X26のいずれか1項に記載の細胞、またはX15~X26のいずれか1項に記載の細胞集団である、項目XB1~XB23のいずれか1項に記載の方法。
(品質管理)
(項目XC1)細胞表面マーカー;タンパク質性産物および該産物の関連生体物質;SASP関連タンパク質;細胞内および分泌型miRNA;エキソゾーム;アミノ酸を含む細胞代謝産物および該代謝産物の関連生体物質;細胞の大きさ;細胞の密度および自己抗体反応性細胞の存在からなる群より選択される少なくとも1つの細胞機能指標を測定する工程を包含する、ヒトの眼前房内への移植時にヒト角膜内皮機能特性を惹起し得る培養ヒト機能性角膜内皮細胞の品質管理または工程管理の方法。
(項目XC2)前記細胞指標は少なくとも3つ使用される、項目XC1に記載の方法。
(項目XC3)前記細胞指標は、細胞の大きさ、細胞の密度またはそれらの組合せを含む、項目XC1またはXC2に記載の方法。
(項目XC4)前記細胞指標は、細胞表面マーカー、タンパク質性産物および該産物の関連生体物質の少なくとも1つ、miRNAの少なくとも1つ、ならびに細胞代謝産物および該代謝産物の関連生体物質の少なくとも1つの組合せを含む、項目XC1~XC3のいずれか1項に記載の方法。
(項目XC5)さらに、角膜機能特性により前記ヒト機能性培養角膜内皮細胞の亜集団を識別することを含む、項目XC1~XC4のいずれか1項に記載の方法。
(項目XC6)項目X1~X4、X4A、X4B、X5~X14およびX25~X26ならびに/または項目X15~X26のいずれか1項に記載の角膜機能特性によって、前記培養機能性角膜内皮細胞の亜集団を識別する工程をさらに包含する、項目XC1~XC4のいずれか1項に記載の方法。
(項目XC7)タンパク質性産物および該産物の関連生体物質;分泌型miRNA;アミノ酸を含む細胞代謝産物および該代謝産物の関連生体物質;の各々から複数の指標を選択して各指標のプロファイルの変動を確認し、CD166陽性、CD133陰性、CD44陰性~CD44弱陽性及びCD90陰性~弱陽性を含む細胞指標を有する細胞の同質性を判定することを特徴とする、項目XC5~XC6のいずれか1項に記載の方法。
(項目XC8)前記タンパク質性産物および該産物の関連生体物質は、以下:
(A)ヒトの眼前房内への移植時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞において、発現が上昇する:
COL4A1、COL4A2、COL8A1、COL8A2、CDH2、およびTGF-β2;ならびに
(B)ヒトの眼前房内への移植時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞において発現が下がる
MMP1、MMP2、TIMP1、BMP2、IL13RA2、TGF-β1、CD44、COL3A1、IL6、IL8、HGF、THBS2、およびIGFBP3からなる群より選択される、項目XC1~XC7のいずれか1項に記載の方法。
(項目XC9)前記エキソゾームは以下の細胞指標:
(A)ヒトの眼前房内への移植時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞において発現が低下するもの:
CD63、CD9、CD81およびHSP70からなる群より選択される少なくとも1つの指標を含む、項目XC1~XC8のいずれか1項に記載の方法。
(項目XC10)前記細胞代謝産物および該代謝産物の関連生体物質は以下:
コハク酸、Pro、Gly、グリセロール3-ホスフェート、Glu、乳酸、アルギノコハク酸、キサンチン、N-カルバモイルアスパラギン酸、イソクエン酸、cis―アコニット酸、クエン酸、Ala、3-ホスホグリセリン酸、ヒドロキシプロリン、リンゴ酸、尿酸、ベタイン、葉酸、Gln、2-オキソイソ吉草酸、ピルビン酸、Ser、ヒポキサンチン、Asn、Trp、Lys、コリン、Tyr、尿素、Phe、Met、カルノシン、Asp、オルニチン、Arg、クレアチン、2-ヒドロキシグルタミン酸、β-Ala、シトルリン、Thr、Ile、Leu、Val、クレアチニン、His、N,N-ジメチルグリシンまたはその組み合わせもしくは相対比率からなる群より選択される少なくとも1つを含む、
項目XC1~XC9のいずれか1項に記載の方法。
(項目XC11)前記細胞代謝産物および該代謝産物の関連生体物質は培養上清中のセリン、アラニン、プロリン、グルタミンまたはクエン酸/乳酸比率における上昇を含む、項目XC10に記載の方法。
(項目XC12)細胞表面マーカー;タンパク質性産物および該産物の関連生体物質;SASP関連タンパク質;細胞内および分泌型miRNA;エキソゾーム;アミノ酸を含む細胞代謝産物および該代謝産物の関連生体物質;細胞の大きさ;細胞の密度および自己抗体反応性細胞の存在からなる群より選択される少なくとも1つの細胞機能指標を測定する工程を包含する培養ヒト角膜内皮細胞に混在する角膜内皮非機能性細胞の検出方法。
(項目XC13)項目XC1~XC12のいずれか1項に記載の細胞指標を測定する試薬または手段を含む、成熟分化角膜内皮機能性細胞の品質評価剤、工程管理剤または角膜内皮非機能性細胞検出剤。
(項目XC14)前記測定する手段は標識されたものである、項目XC13に記載の品質評価剤、工程管理剤または検出剤。
(項目XC15)A)ヒトの眼前房内への移植時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞を含む可能性のある試料を提供する工程;
B)項目XC13またはXC14に記載の品質評価剤、工程管理剤または角膜内皮非機能性細胞検出剤を用いて該試料が、該眼前房内への移植時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞を含むかどうかを決定する工程であって、該品質評価剤、工程管理剤または角膜内皮非機能性細胞検出剤による評価結果が、該細胞が眼前房内への移植時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞であることを示す場合に、該試料が眼前房内への移植時にヒト角膜機能特性を惹起し得る該ヒト機能性角膜内皮細胞を含むと決定する工程;
C)眼前房内への移植時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞であると決定された細胞を選別する工程
を包含する、ヒト機能性角膜内皮細胞の選別方法。
(項目XC16)A)眼前房内への移植時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞であるとして提供された細胞について、項目XC13またはXC14のいずれかに記載の品質評価剤、工程管理剤または角膜内皮非機能性細胞検出剤を用いて該細胞の該ヒト機能性角膜内皮細胞の細胞指標に関する情報を得る工程;および
B)該情報に基づき、該提供された細胞が眼前房内への移植時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞であると決定する工程、
を包含する、ヒト機能性角膜内皮細胞の品質検定方法。
(項目XC17)眼前房内への移植時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞の調製において、該調製の品質を管理するための方法であって、
A)項目XC13またはXC14に記載の品質評価剤、工程管理剤または角膜内皮非機能性細胞検出剤を用いて該調製において得られる細胞の成熟分化機能性角膜内皮細胞の細胞指標に関する情報を得る工程、および
B)該情報に基づき、該調製が眼前房内への移植時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞の調製に適していると判定する工程を包含する、方法。
(項目XC18)眼前房内への移植時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞の純度を検定する方法であって、
A)該眼前房内への移植時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞を含む可能性のある試料を提供する工程、
B)項目XC13またはXC14に記載の品質評価剤、工程管理剤または角膜内皮非機能性細胞検出剤を用いて該細胞のヒト機能性角膜内皮細胞の細胞指標に関する情報を得る工程、ならびに
C)該情報に基づいて、該試料中の該眼前房内への移植時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞の純度を算出する工程
を包含する、方法。
(項目XC19)A)眼前房内への移植時にヒト角膜機能特性を惹起し得る成熟分化ヒト機能性角膜内皮細胞であるとして提供された細胞を培地中で培養して、項目XC13またはXC14のいずれかに記載の品質評価剤、工程管理剤または角膜内皮非機能性細胞検出剤を用いて該細胞の該ヒト機能性角膜内皮細胞の細胞指標に関する情報を得る工程;および
B)該情報に基づき、該培地が該眼前房内への移植時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞の製造に適切であると決定する工程、
を包含する、ヒト機能性角膜内皮細胞用の培地の品質検定方法。
(項目XC20)A)眼前房内への移植時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞であるとして提供された細胞を細胞注入ビヒクル中で培養して、項目XC13またはXC14のいずれかに記載の品質評価剤、工程管理剤または角膜内皮非機能性細胞検出剤を用いて該細胞の該ヒト機能性角膜内皮細胞の細胞指標に関する情報を得る工程;および
B)該情報に基づき、該細胞注入ビヒクルが細胞移入療法に適切であると決定する工程、
を包含する、ヒト機能性角膜内皮細胞用の細胞注入ビヒクルの品質検定方法。
(項目XC21)以下:
(1)培養上清ELISAによる純度試験
TIMP-1:500ng/mL以下
IL-8:500pg/mL以下
PDGF-BB:30pg/mL以上
MCP-1:3000pg/mL以下
(2)細胞FACSによる純度試験
CD166=95%以上
CD133=5%以下
CD105陰性~低陽性=95%以上
CD44陰性~低陽性=70%以上
CD44中程度~高陽性=15%以下
CD24=5%以下
CD26陽性=5%以下
CD200=5%以下
(3)バリア機能(ZO-1)陽性
(4)ポンプ機能(Na+/K+ATPase)陽性
(5)細胞生存率
トリパンブルー染色で70%以上
(6)細胞形態
外観試験で形質転換細胞を認めない
(7)Claudin10 陽性
(8)エフェクター細胞(E-ratio)>50%
(9)非目的細胞
非目的細胞A(CD44強陽性細胞)<15%、非目的細胞B(CD26陽性細胞)<5%、非目的細胞C(CD24陽性細胞)<5%
(10)核型異常陰性
の1または複数を確認する工程を包含する、ヒトの眼前房内への移植時にヒト角膜機能特性を惹起し得る培養ヒト機能性角膜内皮細胞の品質管理もしくは工程管理の方法、または培養ヒト角膜内皮細胞に混在する角膜内皮非機能性細胞の検出方法。
(項目XC22)前記確認は、細胞注入治療の3週間~直前または培地交換のみの保存的培養時に実施することを包含する、項目XC21に記載の方法。
(項目XC23)前記確認は、細胞注入治療の約7日前~直前に実施することを包含する、項目XC21またはXC22に記載の方法。
(項目XC24)項目XC19~XC21に記載の特徴のうち1または複数を特徴とする、項目XC15~XC22のいずれか1項に記載の方法。
(項目XC25)対象細胞について、(1)内皮ポンプ・バリア機能の保持、(2)特定のラミニンに対する接着・結合性、(3)産生するサイトカインプロファイル、(4)産生する代謝産物プロファイル(5)インビトロ培養時の飽和細胞密度、(6)培養時に得られる細胞の空間的大きさやその分布および(8)マウス角膜に対する液体窒素凍結損傷後に細胞移入した場合の細胞維持の1または複数の特徴を判定する工程を包含する、ヒトの眼前房内への移植時にヒト角膜機能特性を惹起し得る培養ヒト機能性角膜内皮細胞の品質管理もしくは工程管理の方法。
(項目XC26)前記内皮ポンプ・バリア機能の保持の判定は、角膜内皮に通常使用されるポンプ機能測定法またはバリア機能測定法を用いて判定される、項目XC25に記載の方法。
(項目XC27)前記特定のラミニンに対する接着・結合性に関する判定は、ラミニン511(α5鎖、β1鎖、γ鎖1の複合体)、ラミニン521(α5鎖、β2鎖、γ鎖1の複合体)またはその機能性フラグメントに対する接着性および/またはこれに対するインテグリンの発現の上昇を指標に判定される、項目XC25またはXC26に記載の方法。
(項目XC28)前記産生するサイトカインプロファイルの判定は、血清または前房水のサイトカインプロファイルの産生レベルを測定することを包含する、項目XC23に記載の方法。
(項目XC29)前記産生する代謝産物プロファイルの判定は、前記細胞の代謝産物の産生レベルを測定することを包含する、項目XC25~XC28のいずれか1項に記載の方法。
(項目XC30)前記産生するマイクロRNA(miRNA)プロファイルの判定は、全RNAを取得しそのマイクロRNA発現プロファイルを取得することを包含する、項目XC25~XC28のいずれか1項に記載の方法。
(項目XC31)前記インビトロ培養時の飽和細胞密度の判定は、画像取得システムを用いて得られた前記細胞の画像において細胞を計数することを包含する、項目XC25~XC30のいずれか1項に記載の方法。
(項目XC32)前記培養時に得られる細胞の空間的大きさおよびその分布の判定は、画像取得システムを用いて得られた前記細胞の画像において細胞を計数することを包含する、項目XC25~XC31のいずれか1項に記載の方法。
(項目XC33)前記マウス角膜に対する液体窒素凍結損傷後に細胞移入した場合の細胞維持の判定は、マウスの角膜の中央領域を低温損傷により前処理し内皮細胞を取り除いて作製したモデルの眼前房に、判定すべき細胞を注入し、前記角膜の特徴を臨床的に観察し、前記角膜の厚さをパキメータにより評価し、HCECの接着をヒト核染色により病理組織学的に検査し、その細胞が機能を有するかどうかを確認することを包含する、項目XC25~XC32のいずれか1項に記載の方法。
【0006】
本発明において、上述した1または複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得ることが意図される。本発明のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解することにより、当業者に認識される。
【発明の効果】
【0007】
本治療法は、角膜内皮再生医療にパラダイムシフトをもたらすもので、国際展開のできる汎用性のある医療として世界で100万人を超える患者への適応拡大の潜在可能性を有する。
以下の図面の簡単な説明について、細胞表面マーカーの発現強度に関して、-、+、++、+++はそれぞれ陰性、弱陽性、中陽性、強陽性を示す。±は本明細書では-(陰性)に含まれる。neg、low、med、highはそれぞれ陰性、弱陽性、中陽性、強陽性を示す。なお、弱陽性(本明細書では低も指す)、中陽性(本明細書では中程度も指す)、強陽性(本明細書では高も指す)は、以下のように決定した:PE-Cy7標識抗ヒトCD44抗体(BD Biosciences)を使用して、FACS Canto IIのBlue laserのArea Scaling Factorを0.75、PE-Cy7のvoltageを495に設定した場合、弱の蛍光強度範囲はおよそ3800未満、中の蛍光強度範囲はおよそ3800以上~27500未満、強の蛍光強度範囲はおよそ27500以上である。陰性対照(アイソタイプコントロール)について同じ染色強度パターンであれば陰性であり、少しでもシフトすれば陽性と判断する。なお、上記設定での陰性対照(アイソタイプコントロール)の平均蛍光強度はおよそ50であった(55±25の範囲)。他の蛍光色素については、以下のように設定した:Area Scaling FactorについてはFSC=0.5、Blue laser=0.75、Red laser=0.8;voltageについてはFSC=270、SSC=400、FITC=290、PE=290、PerCP-Cy 5.5=410、PE-Cy 7=495、APC=430。各蛍光の他蛍光への漏れこみは、BD comp Beads(BD Biosciences)およびFACS DiVa softで補正した。このときの、陰性対照(アイソタイプコントロール)の平均蛍光強度は以下の通りであった:FITCについては約130、PEについては約120、PerCP-Cy5.5については約120、PE-Cy7については約50、APCについては約110。Lyoplate実験を用いる場合(実施例、表2)、検出にはAlexa Fluor 647標識2次抗体(キット付属)を使って測定する。その場合、各マーカーの蛍光強度中央値/陰性対照の蛍光強度中央値(アイソタイプコントロール抗体による染色)の値が、5未満、5以上10未満、10以上30未満、30以上の場合を、それぞれ-、+、++、+++と定義する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1-A】
図1-Aは、継代数に依存する亜集団(SP)組成の変化を示す。#82のHCECの初代培養および第1~第3継代についてのFACS分析および位相差顕微鏡写真の結果を示す。グラフの縦軸は、全細胞数に対するそれぞれのゲートで、培養物中で選択的に増殖された細胞数の百分率を示す。ゲートの条件は以下の通りである。ゲート1:CD24-CD44-~+CD105+CD166+、ゲート2:CD24-CD44++CD105+CD166+、ゲート3:CD24-CD44+++CD105++CD166+、ゲート4:CD24+CD44+~++CD105+CD166+、ゲート5:CD24+CD44+++CD105++CD166+。
【
図1-B】
図1-Bは、継代数に依存する亜集団(SP)組成の変化を示す。#88のHCECの初代培養および第1~第3継代についてのFACS分析および位相差顕微鏡写真の結果を示す。グラフの縦軸は、全細胞数に対するそれぞれのゲートで、培養物中で選択的に増殖された細胞数の百分率を示す。ゲートの条件は
図1-Aと同じである。
【
図1-C】
図1-Cは、継代数に依存する亜集団(SP)組成の変化を示す。#83のHCECの初代培養および第1~第3継代についてのFACS分析および位相差顕微鏡写真の結果を示す。グラフの縦軸は、全細胞数に対するそれぞれのゲートで、培養物中で選択的に増殖された細胞数の百分率を示す。ゲートの条件は
図1-Aと同じである。
【
図1-D】
図1-Dは、継代数に依存する亜集団(SP)組成の変化を示す。#84のHCECの初代培養および第1~第3継代についてのFACS分析および位相差顕微鏡写真の結果を示す。グラフの縦軸は、全細胞数に対するそれぞれのゲートで、培養物中で選択的に増殖された細胞数の百分率を示す。ゲートの条件は
図1-Aと同じである。
【
図2-A】
図2-Aは、継代数に依存する亜集団組成の変化を示す代表的なFACS分析を示す。#82のHCECの初代培養および第1~第3継代に対してCD44、CD166、CD24およびCD105の発現についてのFACS分析の結果を示す。
【
図2-B】
図2-Bは、継代数に依存する亜集団組成の変化を示す代表的なFACS分析を示す。#83のHCECの初代培養および第1~第3継代に対してCD44、CD166、CD24およびCD105の発現についてのFACS分析の結果を示す。
【
図3】
図3は、CD44およびCD24の発現によって特徴付けた亜集団のマーカー発現および形態を示す。核をヘマトキシリンで染色した。上から、Na
+/K
+ATPaseについての明視野観察像(3,3’-ジアミノベンジジン[DAB]による発色、茶褐色)、ZO-1についての明視野観察像(3,3’-ジアミノベンジジン[DAB]による発色、茶褐色)、位相差顕微鏡画像を示し、左から、CD24-CD44-~+であるC19第2継代、CD24-CD44++であるC16第3継代、CD24+CD44++であるC17第3継代、CD24+CD44+++であるC18第2継代を示す。
【
図4】
図4は、各培養物のCD200発現およびCD44発現についてのFACS分析を示す。ドットプロットでは、各培養物について、横軸はヒトCD44の発現強度の対数表示を示し、縦軸はCD200の発現強度の対数表示を示す。縦軸および横軸の両方において、対照としてマウスIgGの発現強度の対数表示を表すドットプロットも示す。ヒストグラムでは、各培養物について、横軸はCD200またはCD44の発現強度をマウスIgG(対照、灰色)の発現強度とともに対数表示で示し、縦軸は該当する細胞数を表す。
【
図5】
図5は、各培養物のCD26発現およびCD44発現の減少に伴って、表面HLAクラスI抗原の発現が減少することを示すFACS分析の結果を示す。免疫拒絶関連分子の発現からみてどの亜集団が患者への注入に望ましいのかを調べている。ドットプロットでは、各培養物について、横軸はヒトCD44の発現強度の対数表示を示し、縦軸はCD26の発現強度の対数表示を示す。ヒストグラムでは、各培養物について、横軸はHLAクラスI抗原の発現強度の対数表示を示し、縦軸は該当する細胞数を表し、色はCD26およびCD44のドットプロットにおいて示した細胞に対応する。ヒストグラム内の数値は、各ヒストグラムの平均蛍光強度(MFI:
Mean of
Fluorescence
Intensity)を表す。矢頭は、CD44
neg~lowがCD44
highに比べ低発現であることを示す。
【
図6-A】
図6-Aは、組織の切除および単一細胞懸濁物の調製直後の角膜組織(71歳のドナー由来)のCD44、CD166、CD24およびCD105の発現についてのFACS分析の結果を示す。
【
図6-B】
図6-Bは、
図6-Bと同様に処理された角膜組織(65歳のドナー由来)中でのマーカーの発現を示す免疫組織化学染色の結果である。
図6-Bは、上段は左から、LGR5、CD24、CD26、下段は左から、CD166、CD44、対照(アイソタイプコントロール)についての染色を、DAPI染色との重ね合わせにおいて示す。スケールバーは100μmである。
【
図7】
図7は、CD44の強度が異なる亜集団に由来するcHCECが異なる形態を示すことを示す。左上は、FACSによりゲーティングする前の培養細胞の位相差顕微鏡像を示す。右上は、この培養細胞のCD44およびCD24についてのFACS分析を示し、ゲートAには12.8%の細胞が含まれ、ゲートBには61.1%の細胞が含まれた。下は、それぞれのゲートからの培養細胞の位相差顕微鏡像および蛍光顕微鏡像である。上段はゲートAから得られたCD44を中程度~高度に発現した培養細胞を示し、下段はゲートBから得られたCD44を低度に発現した培養細胞を示す。左から、3日目、10日目、17日目の位相差顕微鏡像、DAPIおよび抗Na
+/K
+ATPase抗体で染色した明視野観察像を示す。
【
図8】
図8は、エフェクター細胞への分化またはCSTを起こした別の2種類の亜集団の培養内皮細胞における遺伝子発現の比較結果を示す。階層的クラスタリングを使用して遺伝子シグネチャの比較を行い、ヒートマップとして示した。赤は発現量が比較的高いことを示し、緑は発現量が比較的低いことを示す。
【
図9】
図9は、FACS分析による、cHCEC間で異なる細胞亜集団の細胞表面マーカーの発現の結果の一部を示す。
図9は、#154(第1継代、上)、#127D(第6継代、下)の2つのFACSゲート亜集団(CD166+CD105-CD24-CD44-~+(青)およびCD166+CD105-CD24+CD44+++(赤))について、それぞれのマーカーの発現強度を表すヒストグラムを示し、横軸はCD73、CD13、CD147またはCD200の発現強度を陰性対照(アイソタイプコントロール抗体による標識、灰色)の発現強度とともに対数表示で示し、縦軸は該当する細胞数を示す。
【
図10-A】
図10-Aは、エフェクター細胞の割合(E比)と他のドナーパラメーターとの相関を示す。各グラフにおいて、各プロットは別個の組織ドナーを表し、縦軸は第1継代培養物中のE比を表す。上段では、横軸はドナーの内皮細胞密度を示し、E比とドナーの内皮細胞密度との相関係数は0.4107である。中段では、横軸はドナーの年齢を示し、E比とドナーの年齢との相関係数は0.7333である。下段では、横軸は保存期間中の細胞死を示し、E比と保存期間中の細胞死との相関係数は0.0015である。
【
図10-B】
図10-Bは、培養HCE細胞の5つの異なるロットの3種類の免疫拒絶関連分子についてのFACS分析の結果を示す。
図10-Bは、免疫関連分子の発現からみてどの亜集団が患者への注入に適しているかを調べている。横軸は各免疫拒絶関連分子の発現強度、縦軸は該当する細胞数を表す。
図10-Bは、左から、C18、C19、C16、C17、#118の培養ヒト角膜内皮細胞であり、上からHLAI、HLAII、PDL1の発現を赤のヒストグラムで示し、MFIはこれらの分子についての平均蛍光強度を表す。対照を灰色のヒストグラムで示す。HLAIおよびPDL1はいずれの培養ヒト角膜内皮細胞についても陽性であるが、HLAIIはほぼ陰性である。
【
図10-C】
図10-Cは、細胞相転移を起こした細胞を含むヒト角膜内皮組織由来の培養細胞の蛍光顕微鏡像および位相差顕微鏡像を示す。健常人血清と反応させた細胞を上段左は抗ヒトIgG抗体で標識した蛍光顕微鏡像、上段中央は抗ヒトIgM抗体で標識した蛍光顕微鏡像、上段右はDAPIで標識した蛍光顕微鏡像、下段左は上段の3つの蛍光顕微鏡像の重ね合わせ、下段右は位相差顕微鏡像を示す。相転移を起こしたヒト角膜内皮組織由来の培養細胞にはIgGおよびIgMが部分的に結合していることから、ヒト血清中には、注入療法に適さない細胞相転移を起こした細胞に対する自然抗体が存在することが示される。
【
図11-A】
図11-Aは、初代培養を延長した場合に、CD44の発現が徐々に減少することを示す。
図11-Aは、左から、培養の1週目、2週目、3週目に回収した培養物のCD166、CD24、CD105およびCD44についてのFACS分析を示す。
【
図11-B】
図11-Bは、[(R)-(+)-トランス-(4-ピリジル)-4-(1-アミノエチル)-シクロヘキサンカルボキサミド2塩酸塩1水和物](Y-27632)の添加の有無による影響をCD166、CD24、CD105およびCD44についてのFACS分析ならびに位相差顕微鏡像によって示す。Y(+)はY-27632の添加を示し、Y(-)Y-27632の非添加を示す。スケールバーは200μmを示す。
【
図12-A】
図12-Aは、培養の間にY-27632を添加することで、細胞面積が小さい細胞亜集団が富化されることを表す。位相差顕微鏡像において、左はY-27632を添加しなかった場合、右はY-27632を添加した場合を表し、上段は培養47日目の培養物のPBS洗浄後の位相差写真像、下段は上段の画像のBZ-H3C Hybrid細胞計数ソフトウェアによる細胞領域の識別を示す。
【
図12-B】
図12-Bは、培養の間にY-27632を添加することで、細胞面積が小さい細胞亜集団が富化されることを示すヒストグラムである。-YはY-27632を添加しなかった場合、+YはY-27632を添加した場合を表し、縦軸は細胞数、横軸は細胞面積を示す。
【
図13】
図13は、核型異数性の例を示す。左上は、正常な核型を示す。右上は、Y染色体の脱落を示す。下は、20番染色体におけるトリソミーを示す。左上の画像のプレパラートについて調べると、カウントした30個の細胞中の30個の細胞について染色体の数は46本であり、詳細に核型分類を行うと、20個の細胞について染色体の数46本、XXであった。右上の画像のプレパラートについて調べると、カウントした50個の細胞中の50個の細胞について染色体の数は45本であり、詳細に核型分類を行うと、20個の細胞について染色体の数45本、X、-Yであった。下の画像のプレパラートについて調べると、カウントした50個の細胞中の33個の細胞について染色体の数は46本であり、17個の細胞について染色体の数は45本であり、詳細に核型分類を行うと、20個の細胞中の8個の細胞について染色体の数47本、XXであり、12個の細胞について染色体の数46本、XXであった。
【
図14】
図14は、核型分類の典型的な例を示す。それぞれの培養細胞の位相差顕微鏡像および詳細な核型を示す。aは、58歳の女性に由来する第3継代のcHCECである。bは、23歳の男性に由来する第2継代のcHCECである。cは、23歳の男性に由来する、第2継代のcHCECである。dは、15歳の女性に由来する第3継代のcHCECである。
【
図15】
図15は、異なるcHCECについての位相差顕微鏡像を示す。上段は、29歳男性ドナー由来の第2継代であり、細胞は6角形の形態を示し、CSTの兆候を示さない。中段は、22歳女性由来の第3継代であり、異常なCST様の形態を示す。下段は、9歳男性由来の第5継代であり、異常なCST様の形態を示す。ECDは培養物中の細胞密度(細胞/μm
2)を意味する。
【
図16】
図16は、異なるcHCECについてのFACS分析を示す。a、b、cのFACS分析結果は、それぞれ
図15のa、b、cの位相差顕微鏡像で示される培養細胞に対応する。上段は、CD44-である亜集団を多く含む。中段は、ほとんどCD44+++である亜集団を示し、CD24を強く発現する細胞を含む培養物である。下段は、CD26を強く発現する細胞を含む培養物である。
【
図17】
図17は、特定の亜集団を培養した場合に観察される核型異数性を示す位相差顕微鏡像および染色体観察像である。Aは、CD44
+++、CD166
+、CD24
-、CD26
+の亜集団は性染色体の脱落を起こしたことを示す。Bは、CD44
+++、CD166
+、CD24
+、CD26
-(G3)の亜集団が6番、7番および8番染色体上に高頻度のトリソミーを示すことを示す。Cは、CD44-、CD166
+、CD105
-、CD24
-、CD26
-(G1)である亜集団が異数性を示さないことを示す。
【
図18】
図18は、異なるドナーに由来するcHCECを特徴付ける4種類のcHCEC(C01、#87、C03および#C04)についての位相差顕微鏡像を示す。
【
図19】
図19は、異なるドナーに由来するcHCECを特徴付ける2種類のcHCEC(#2は57歳のドナー由来、#4は58歳のドナー由来)のCD44、CD166、CD24、CD26およびCD105についてのFACS分析の結果を示す。
【
図20】
図20は、異なるドナーに由来するcHCECを特徴付ける2種類のcHCEC(#2は57歳のドナー由来、#4は58歳のドナー由来)についての免疫染色後の明視野顕微鏡像(DABによる発色)であり、Na
+/K
+ATPase、ZO1、Claudin10、CD26についての抗体染色を示す。核はヘマトキシリンで染色している。
【
図21】
図21は、Y-27632の存在下および不存在下で培養した場合の亜集団分布の様子を示す。
【
図22-A】
図22-Aは、TGF-β阻害剤SB431542の不存在下で培養すると培養細胞の形態変化(CST)を引き起こしていないことを示す。
図22-Aは、SB431542の添加の有無についての、位相差顕微鏡像ならびにCD44、CD166、CD24、CD26およびCD105についてのFACS分析結果を示す。SB4(+)はSB431542を添加したことを表し、SB4(-)はSB431542を添加していないことを表す。
【
図22-B】
図22-Bは、2名の異なるドナー(ともに22歳)由来のcHCECの位相差顕微鏡像およびFACSゲーティング結果を示す。それぞれのcHCECについて、左に位相差顕微鏡像を、右にFACSゲーティング結果を示す。培養はY-27632存在下で行った。スケールバーは100μmを示す。
【
図22-C】
図22-Cは、71歳の被験者から採取した細胞を
図22-Bと同様に培養期間の間Y-27632の連続添加により培養した結果を示す。左に細胞写真を、右にCD44、CD166、CD24、CD26およびCD105についてのFACSゲーティング結果を示す。スケールバーは100μmを示す。
【
図22-D】
図22-Dは、2種類の薬剤で処理したcHEHCの代表的な顕微鏡像を示す。上図において、上段はトリコスタチンA(TSA)で処理したcHEHC、下段はY-27632で処理したcHEHCの蛍光顕微鏡像を示す。
図22-Dは、左から、ZO-1の蛍光、Na+/K+ATPaseの蛍光、DAPIの蛍光、およびこれらの重ね合わせの画像を示す。バーは100μmを示す。下図は、それぞれ、トリコスタチンA(TSA)またはY-27632で処理したcHEHCの位相差顕微鏡像を示す。
【
図23】
図23aは、c-Myc陽性である表現型転移細胞を示す。左は位相差画像、中央はc-Mycに対応する蛍光、右はDAPIの蛍光を示している。上段と下段の画像はそれぞれ異なる部分の顕微鏡像を示す。バルク培養cHCECのc-Myc発現についての免疫細胞化学的評価において、位相差顕微鏡において形態的に形質転換細胞様の形状の位置でc-Myc発現を示す蛍光が確認された。
図23bは、フローサイトメトリー分析による、バルク培養cHCECのグルコースの取り込みを示す図である。剥離したcHCECを、600μMの2NBGDとともに、5、10、30分間37℃でインキュベートした。次いで、培養培地を新鮮なグルコース消去培地に15分交換した後、細胞を2回低温FACSバッファー(1%BSA含有PBS)で洗浄し、氷冷FACSバッファーに再懸濁し、フローサイトメトリーに供した。サンプルは、BD FACS Canto II(BD Biosciences)を用いて、FITCレンジ(励起490nm、放射525nm バンドパスフィルター)で分析した。異なるグループの平均蛍光強度を、BD FACS Divaソフトウェアで分析し、非標識細胞由来の自家蛍光について補正した。全てのインキュベーション時間で2-NBGD取り込みの単一ピークが示された。左から順に、インキュベートしていない群、5分間インキュベートした群、10分間インキュベートした群、および30分間インキュベートした群を示す。
【
図24-A】
図24-Aは、乳酸の存在下でFBSを含まないグルコース飢餓DMEMでのcHCECの培養において位相差顕微鏡によって検出された形態的変化を示す。通常の培養条件下でP3まで継代した後、培養細胞を、10mMの乳酸を含み、グルコースを有しないDMEMで72時間インキュベートし、次いで、得られたcHCECを、さらに通常の条件下で4週間、3つの異なる希釈継代(1:3、1:9、1:30)で培養した。
【
図24-B】
図24-Bは、バルク培養におけるcHCECの亜集団の部分的な消失を評価するためのグルコース飢餓の前後でのNa
+/K
+-ATPaseの免疫組織化学染色を示している。Na
+/K
+-ATPaseは、HCECの機能関連マーカーとして使用した。消失効果からの回復の効率は、明確に添加された乳酸の濃度に依存していた。
【
図25-A】
図25-Aは、Lac処理前後でのcHCEC(#55)の形態の変化を示す写真である。左:Lac処理前。右:Lac処理後。
【
図25-B】
図25-Bは、Lac処理前後でのcHCEC(#55)におけるEMT、細胞老化および線維症などのCSTに関連する遺伝子の発現の変化を、定量リアルタイムPCRによって分析した結果を示す。発現強度は、処理前における各遺伝子の発現強度を1とした相対発現強度として示される。
【
図25-C】
図25-Cは、Lac処理前後でのcHCEC(#55)におけるEMT、細胞老化および線維症などのCSTに関連する遺伝子の発現の変化を、定量リアルタイムPCRによって分析した結果を示す。発現強度は、処理前における各遺伝子の発現強度を1とした相対発現強度として示される。
【
図25-D】
図25-Dは、Lac処理前後でのcHCEC(#72)の形態の変化を示す図である。左:Lac処理前。右:Lac処理後。
【
図25-E】
図25-Eは、Lac処理前後でのcHCEC(#72)におけるEMT、細胞老化および線維症などのCSTに関連する遺伝子の発現の変化を、定量リアルタイムPCRによって分析した結果を示す。発現強度は、処理前における各遺伝子の発現強度を1とした相対発現強度として示される。
【
図25-F】
図25-Fは、Lac処理前後でのcHCEC(#72)におけるEMT、細胞老化および線維症などのCSTに関連する遺伝子の発現の変化を、定量リアルタイムPCRによって分析した結果を示す。発現強度は、処理前における各遺伝子の発現強度を1とした相対発現強度として示される。
【
図25-G】
図25-Gは、Lac処理前後でのcHCEC(#72)におけるEMT、細胞老化および線維症などのCSTに関連する遺伝子の発現の変化を、定量リアルタイムPCRによって分析した結果を示す。発現強度は、処理前における各遺伝子の発現強度を1とした相対発現強度として示される。
【
図25-H】
図25-Hは、Lac処理前後でのcHCEC(#72)におけるEMT、細胞老化および線維症などのCSTに関連する遺伝子の発現の変化を、定量リアルタイムPCRによって分析した結果を示す。発現強度は、処理前における各遺伝子の発現強度を1とした相対発現強度として示される。
【
図26-A】
図26-Aは、3つのロットのcHCEC(164P1、C16P6およびC21P3、それぞれエフェクター細胞、細胞相転移細胞1、細胞相転移細胞2である)における細胞内代謝物シグナルポジショニングを、PCA分析として相対的に示す。
【
図26-B】
図26-Bは、3つのロットのcHCEC(164P1、C16P6およびC21P3、それぞれエフェクター細胞、細胞相転移細胞1および細胞相転移細胞2である)における細胞内代謝物シグナルのPC1コンポーネントにおける典型的な代謝物を示す。
【
図26-C】
図26-Cは、3つのロットのcHCEC(164P1、C16P6およびC21P3、それぞれエフェクター細胞、細胞相転移細胞1および細胞相転移細胞2である)における細胞内代謝物シグナルのPC2コンポーネントにおける典型的な代謝物を示す。
【
図26-D】
図26-Dは、それぞれのロットからの2サンプルずつにおける各代謝物の標準化強度をもちいた階層クラスタリング(HCA)を示す図である。各代謝物の標準化強度は、高いものは赤色、低いものは緑色で示される。
【
図26-E】
図26-E、
図26-Fおよび
図26-Gは、3つのロットのcHCECの形態的差異を、フローサイトメトリー分析と共に示した図である。下段には各cHCECのFACS分析が示され、細胞表面抗原の発現を
図1と同様の基準によって分類したそれぞれのロットの亜集団組成が示される。
【
図26-F】
図26-E、
図26-Fおよび
図26-Gは、3つのロットのcHCECの形態的差異を、フローサイトメトリー分析と共に示した図である。下段には各cHCECのFACS分析が示され、細胞表面抗原の発現を
図1と同様の基準によって分類したそれぞれのロットの亜集団組成が示される。
【
図26-G】
図26-E、
図26-Fおよび
図26-Gは、3つのロットのcHCECの形態的差異を、フローサイトメトリー分析と共に示した図である。下段には各cHCECのFACS分析が示され、細胞表面抗原の発現を
図1と同様の基準によって分類したそれぞれのロットの亜集団組成が示される。
【
図26-H】
図26-Hは、各cHCECロットにおける乳酸/ピルビン酸比および細胞内関連生理機能を制御する代謝産物の量を示したグラフである。マーカーとしては、GSH/GSSG、総グルタチオン、NADP+、NADPHおよびNADPH/NADP+が含まれる。
【
図27-A】
図27-Aは、馴化液において培養されたcHCECの異なるロットにおける代謝物変化の特性評価を示す。メタボロミックプロファイルの階層クラスタリングが示され、CSTの存在と相関する代謝物のクラスターが同定された。各代謝物の強度は、高いものは赤色、低いものは緑色で示される。クラスターは少なくとも4つの代謝物サブクラスターに分割された;上から、全てのcHCEC(#66、#72、#55)で増加した代謝物、主に#72および#55で増加したが#66では増加しなかった代謝物、#66で最も大きく減少した代謝物、3つのグループにおおよそ存在する代謝物、に分けられた。
【
図27-B】
図27-Bは、細胞相転移1および2の細胞において乳酸/ピルビン酸比がエフェクター細胞より高いことを示すグラフである。
【
図27-C】
図27Cは、#66、#72および#55の形態を示す顕微鏡画像である。
【
図28-A】
図28-Aおよび28-Bは、GMP条件下で産生した亜集団の組成の異なる4つの別個のcHCECとして、CD44+++細胞、CD24+細胞またはCD26+細胞を伴わないcHCECのFACS分析の結果を示す。CD166、CD24、CD26、CD44、CD105の発現強度について、基準値は上記のとおりとした。
図28-Aは、表面CD発現に基づき、それぞれのロット中のエフェクター細胞、中程度分化細胞、非目的細胞の組成をそれぞれ示す。
【
図28-B】
図28-Aおよび28-Bは、GMP条件下で産生した亜集団の組成の異なる4つの別個のcHCECとして、CD44+++細胞、CD24+細胞またはCD26+細胞を伴わないcHCECのFACS分析の結果を示す。CD166、CD24、CD26、CD44、CD105の発現強度について、基準値は上記のとおりとした。
図28-Bは、表面CD発現に基づき、それぞれのロット中のエフェクター細胞、中程度分化細胞、非目的細胞の組成をそれぞれ示す。
【
図28-C】
図28-Cおよび28-Dは、GMP条件下で産生した亜集団の組成の異なる4つの別個のcHCECとして、CD44+++細胞、CD24+細胞またはCD26+細胞を伴わないcHCECのFACS分析の結果を示す。CD166、CD24、CD26、CD44、CD105の発現強度について、基準値は上記のとおりとした。
図28Cは、表面CD発現に基づき、それぞれのロット中のエフェクター細胞、中程度分化細胞、非目的細胞の組成をそれぞれ示す。
【
図28-D】
図28-Cおよび28-Dは、GMP条件下で産生した亜集団の組成の異なる4つの別個のcHCECとして、CD44+++細胞、CD24+細胞またはCD26+細胞を伴わないcHCECのFACS分析の結果を示す。CD166、CD24、CD26、CD44、CD105の発現強度について、基準値は上記のとおりとした。
図28-Dは、表面CD発現に基づき、それぞれのロット中のエフェクター細胞、準合格細胞、非目的細胞の組成をそれぞれ示す。
【
図28-E】
図28-Eは、前記亜集団の組成の異なる4つのcHCECおよび馴化培地についての階層クラスタリングを示す。各代謝物の強度は、高いものは赤色、低いものは緑色で示される。クラスターは4つの代謝物サブクラスターに分割された。
【
図28-F】
図28-Fは、前記亜集団の組成の異なる4つのcHCECおよび馴化培地についてのPCA分析を示す。
【
図28-G】
図28-Gは、前記亜集団の組成の異なる4つのcHCECについてのPCA分析におけるPC1およびPC2に相関する主な代謝産物を示している。
【
図28-H】
図28-Hは、上段が、CD44-~CD44+対CD44++の割合のみが異なるC21、C22、C23およびC24の間のクエン酸/乳酸比の差異を示し、下段が、CD44+++亜集団の含量において異なる#66、#55および#72の間のクエン酸/乳酸比の差異を示すグラフである。
【
図29-A】
図29-Aは、665C(エフェクター細胞)、3411(構成する培養細胞亜集団が不明である培養ロット)、675A(細胞の相転移が形態学的に認められる培養細胞亜集団から構成される培養ロット)、C1121(島状のクラスター(老化細胞と推定される)を含む相転移細胞)の顕微鏡像を示す。
【
図29-B】
図29-Bは、3D gene (Toray)を用いて検出した細胞内miRのプロファイルを、エフェクター細胞(#66 P5)と、構成する細胞亜集団が不明であるcHCEC(2911、3411および3511)との間で比較する、種々の細胞内miRの相対量のスキャッタープロットである。横軸はエフェクター細胞におけるmiRの相対量であり、縦軸は構成する亜集団が不明である培養ロットにおけるmiRの相対量である。
【
図29-C】
図29-Cは、エフェクター細胞(#66 P5)と、細胞の相転移が形態学的に認められる培養細胞亜集団から構成されるcHCEC(675A1~A3)との間で3D gene (Toray)を用いて検出された種々の細胞内miRプロファイルの相対量のスキャッタープロットである。横軸はエフェクター細胞におけるmiRの相対量であり、縦軸は細胞の相転移が形態学的に認められるcHCEC亜集団から構成される培養ロットにおけるmiRの相対量である。
【
図29-D】
図29-Dは、エフェクター細胞(#66 P5)と、島状のクラスターを含む相転移細胞(C1121およびC1122)との間で3D gene (Toray)を用いて検出された種々の細胞内miRプロファイルの相対量のスキャッタープロットである。横軸はエフェクター細胞におけるmiRの相対量であり、縦軸は島状のクラスターを含む相転移細胞におけるmiRの相対量である。
【
図30-A】
図30-Aは、3D gene分析に供されるa5の、FACSによって測定されるCD発現に基づく亜集団組成を示す。上段の画像はa5の形態を示し、下段の画像はFACSによって測定されるCD発現を示している。CD166、CD24、CD26、CD44、CD105の発現強度について、基準値は上記のとおりとした。a5は、主にCD44-CD24-CD26-で構成される亜集団を含有する。
【
図30-B】
図30-Bは、3D gene分析に供されるa1の、FACSによって測定されるCD発現に基づく亜集団組成を示す。上段の画像はa1の形態を示し、下段の画像はFACSによって測定されるCD発現を示している。CD166、CD24、CD26、CD44、CD105の発現強度について、基準値は上記のとおりとした。a1は、主にCD44++CD24-CD26-で構成される亜集団を含有する。
【
図30-C】
図30-Cは、3D gene分析に供されるa2の、FACSによって測定されるCD発現に基づく亜集団組成を示す。上段の画像はa2の形態を示し、下段の画像はFACSによって測定されるCD発現を示している。CD166、CD24、CD26、CD44、CD105の発現強度について、基準値は上記のとおりとした。a2は、主にCD44+++CD24-CD26++亜集団で構成される亜集団を含有する。
【
図31-A】
図31-Aは、a5、a1およびa2の細胞におけるmiR378ファミリーの種々の細胞内miRの相対発現強度をまとめた表である。
【
図31-B】
図31-Bは、各細胞間における発現強度の変化による細胞内miRNAの5つのクラスへの分類を示している。各細胞内miRの発現は、グラフの下にそれぞれ表示されるように分類される。
【
図32-A】
図32-Aは、#66 P4(エフェクター細胞 4継代)、#66 P5(エフェクター細胞 5継代)、C11 P2(2継代)、C09 P2(2継代)、#55 P5(5継代)および#73 P2(2継代)の形態を示す写真である。
【
図32-B】
図32-Bは、#66 P4(エフェクター細胞 4継代)、#66 P5(エフェクター細胞 5継代)、C11 P2(2継代)、C09 P2(2継代)、#55 P5(5継代)および#73 P2(2継代)の各細胞の培養上清中のmiRの相対発現量を示す図である。分泌型miRは、細胞毎に特徴的な発現の変化のパターンを示す。相対発現強度は、#66 P4(エフェクター細胞 4継代)における発現量を1として表される。
【
図33-A】
図33-A~33-Bは、細胞毎の発現について明らかな傾向を有するいくつかの分泌型miRのパターンを示す。
図33-Aには、分泌型miR発現パターンの変化の概略が示される。
【
図33-B】
図33-A~33-Bは、細胞毎の発現について明らかな傾向を有するいくつかの分泌型miRのパターンを示す。
図33-Bにはそれぞれのパターンに属する分泌型miRの細胞毎の具体的な発現強度を示すグラフが示される。
【
図34-A】
図34-Aは、新鮮な角膜内皮組織におけるmiRプロファイルの比較を示したものである。
図34-Aは、グッタータ(guttata)を有する中程度のECDレベルの組織と、グッタータを有する低ECDレベル(ECD378)の組織とのmiRプロファイルの比較を示すスキャッタープロットである。
【
図34-B】
図34-Bは、新鮮な角膜内皮組織におけるmiRプロファイルの比較を示したものである。
図34-Bは、グッタータを有する低ECDレベル(ECD378)の組織と、正常組織とのmiRプロファイルの比較を示すスキャッタープロットである。
【
図34-C】
図34-Cは、新生児、若者、および成人に由来する角膜上皮組織、角膜内皮組織、ならびにグッタータを有する異なるECDレベルの成人の角膜内皮組織についての、miR-378a-5pの発現を示したグラフである。上皮組織よりも角膜内皮組織でアップレギュレートされた378ファミリーのmiRは、グッタータを有するより低いECDの内皮組織において劇的に減少していた。
【
図34-D】
図34-Dは、新生児、若者、および成人に由来する角膜上皮組織、角膜内皮組織、ならびにグッタータを有する異なるECDレベルの成人の角膜内皮についての、miR-378fの発現を示したグラフである。上皮組織よりも角膜内皮組織でアップレギュレートされた378ファミリーのmiRは、グッタータを有するより低いECD組織の内皮組織において劇的に減少していた。
【
図34-E】
図34-Eは、新生児、若者、および成人に由来する角膜上皮組織、角膜内皮、ならびにグッタータを有する異なるECDレベルの成人の角膜内皮組織についての、miR-146b-5pの発現を示したグラフである。
【
図34-F】
図34-Fは、新生児、若者、および成人に由来する角膜上皮組織、角膜内皮組織、ならびにグッタータを有する異なるECDレベルの成人の角膜内皮組織についての、miR-146b-3pの発現を示したグラフである。
【
図34-G】
図34-Gの左欄は、ECD378、ECD1552およびECD2457を有する細胞の形態を示す画像である。
図34-Gの右欄は、正常組織、ECD795および1410を有する組織における、miR378ファミリー(a-3p、eおよびf)についてのQ-RT-PCRの結果を示す。発現強度は、正常組織における発現強度を1とした相対発現量で示される。
【
図35-A】
図35-Aは、66P5(エフェクター細胞 5継代)および67P5(CSTが明瞭に認められる細胞 5継代)の形態を示す写真である。
【
図35-B】
図35-Bは、66P5(エフェクター細胞 5継代)と67P5CSTが明瞭に認められる細胞 5継代)との間の種々の遺伝子の発現強度の差異を示したスキャッタープロットである。
【
図35-C】
図35-Cは、miR378a-3pまたは5fの発現が検出されていなかったCD44+++ cHCEC亜集団へのmiR378a-3pまたは5f模倣物の予備トランスフェクションの結果を示す図である。senescence、EMT、fibrosis、p53およびEMAのPCRアレイによってアッセイした、2つのmiR模倣物のトランスフェクション後の遺伝子シグネチャー(signatures)のヒートマップが示される。トランスフェクトを行った細胞は、コラーゲン、ITGおよびMMPファミリーならびにCD44などの多数の遺伝子シグネチャーのアップレギュレーションを示した。それぞれの細胞およびそれぞれの遺伝子について、赤色は相対的高発現を示し、緑色は相対的低発現を示す。
【
図35-D】
図35-Dは、亜集団(エフェクター、中程度分化、CD44+++)毎に異なる分泌型miRについて、その発現パターンを分類したものを示す。亜集団別の培養上清中miRは
図35-Dに示されるように6つのパターンに分類される。
【
図35-E】
図35-Eの上段には、cHCECの異なる培養ロットa1、a2およびa5におけるCDマーカーの異なる発現レベルを有する亜集団の内容および形態像が示される。
図35-Eの下段は、Aに示される培養物a1、a2およびa3の培養上清の間のmiR発現プロファイルを比較するボルケーノプロットである。
【
図36】
図36は、HCECの結合能力を試験するための遠心細胞接着アッセイの概略図を示す。培養HCECを、コラーゲン、ラミニンまたはプロテオグリカンであらかじめコーティングされたU底96ウェル培養プレートに添加し、プレートをその後遠心した。接着細胞を位相差顕微鏡下で評価した。
【
図37】
図37は、遠心アッセイにおける培養HCECのラミニンへの結合を示す。上列は2nMの濃度でコーティングしたプレートへの結合の結果を示し、下列が5nMの濃度でコーティングしたプレートへの結合の結果を示している。左から、ラミニン-521、ラミニン-521、ラミニン-411、ラミニン-332、およびBSAを示す。
【
図38】
図38は、遠心アッセイにおける濃度依存的態様でラミニン521およびラミニン511に結合した培養HCECを示す。上列はラミニン-521に結合した培養HCECを示し、下列はラミニン-511に結合した培養HCECを示す。左から、ラミニンのコーティングの濃度、500pM、100pM、20pM、4pM、0.8pM、0pMを示す。
【
図39】
図39は、遠心アッセイにおける濃度依存的態様でIV型コラーゲンに結合した培養HCECを示す。左から、IV型コラーゲンのコーティングの濃度、4000ng/mL、1000ng/mL、250ng/mL、62.5ng/mL、0ng/mLを示す。
【
図40】
図40は、遠心アッセイにおける種々のプロテオグリカンおよび糖タンパク質に対する培養HCECの結合を示す。左から、アグリン、ナイドジェン-1、フィビュリン5、TSP-1、パールカン、BSA(すべて400nMの濃度でコーティング)でのコーティングを示す。
【
図41】
図41は、異なる培地における培養HCECのラミニン-411に対する結合を示す。左からOpti-MEM、Opeguard-MA、BSSを示す。ラミニン-411の濃度は、5nM、1.25nMおよび0nMを使用した。
【
図42】
図42は、ヒト血清アルブミン(HSA)、アスコルビン酸、乳酸(房水構成成分)の添加の有無によるラミニン-511に対する培養HCECの結合親和性の変化を示す。ラミニン-511の濃度は、0.8nM、0.2nM、および0.05nMを使用した。
【
図43】
図43は、ヒト血清アルブミン(HSA)、アスコルビン酸、乳酸(房水構成成分)の添加の有無によるラミニン-411に対する培養HCECの結合親和性の変化を示す。ラミニン-411の濃度は、5nM、1.25nM、および0nMを使用した。
【
図44】
図44は、磁性ビーズセルソーティング(MACS)により調製された六角形の形状を有するCSTの兆候を示さないcHCEC亜集団を示す。左パネルは、CSTの兆候を示さないcHCEC亜集団の位相差顕微鏡像を示し、上段のスケールバーは500μmを、下段のスケールバーは100μmを示す。右パネルは、解析のために提供されるcHCEC亜集団の純度を測定するためのフローサイトメトリーの結果を示す。
【
図45】
図45は、2種類の亜集団の代表的な蛍光顕微鏡像を示す。上段は
図44に示す亜集団、下段はC
図46に示す亜集団を示す。左から、ZO-1の蛍光、Na
+/K
+ATPaseの蛍光、DAPIの蛍光、およびこれらの重ね合わせの画像を示す。バーは50μmを示す。
【
図46】
図46は、磁性ビーズセルソーティング(MACS)により調製されたEMT表現型を有する亜集団を示す。左は、EMT表現型を有する亜集団の位相差顕微鏡像を示し、上段のスケールバーは500μmを、下段のスケールバーは100μmを示す。右パネルは、解析のために提供される亜集団の純度を測定するためのフローサイトメトリーの結果を示す。
【
図47】
図47は、デスメ膜の構成成分に対するHCEC亜集団の結合能力の比較を示す。上パネル:使用される各亜集団を、培養条件の制御または磁気細胞分離により調製し、細胞表面マーカーで染色して確認した。その後、遠心細胞接着アッセイを行った。成熟HCEC亜集団、およびEMT表現型亜集団を使用した。下パネル:ラミニンおよびIV型コラーゲンに対するHCEC亜集団の結合能力を遠心細胞接着アッセイにより比較した。結合指数を以下のように計算した。結合指数=(Δ基底(ラミニンまたはコラーゲン)-ΔBSA)/ΔBSA。Δは面積を示す。
【
図48】
図48は、HCEC亜集団におけるインテグリンαサブユニットの発現を示す。上段はインテグリンα2の発現、中段はインテグリンα3、下段はインテグリンα6の発現を示す。左列が成熟表現型、右列がEMT表現型を示す。
【
図49-A】
図49-Aは、実施例7において使用されたcHCECの位相差顕微鏡像および細胞表面マーカーの発現を示す。以下の通りFACS解析を行った。細胞を培養ディッシュから脱離し、FACSによりCD166、CD24、CD44、CD105およびCD26の発現を解析した。
【
図49-B】
図49-Bは、実施例7において使用されたcHCECの位相差顕微鏡像および細胞表面マーカーの発現を示す。以下の通りFACS解析を行った。細胞を培養ディッシュから脱離し、FACSによりCD166、CD24、CD44、CD105およびCD26の発現を解析した。
【
図50】
図50は、内皮の低温凍結損傷後の内皮表面における内皮核に接着した細胞、角膜透明性、および中央部の角膜の厚さを示す。低温凍結損傷の24時間~72時間後に、水平にマウントされた角膜を、マウス内皮細胞の損失および回復を観察するためにDAPIで染色した。(A)白色の点線は、内皮の欠損領域を示している(a、d、g)。水平にマウントした組織の点線および実線の四角(a、d、g)は、それぞれ
図50(b)(e)(h)および
図50(c)(f)(i)の領域をそれぞれ示している。矢印は、正常内皮と欠損内皮との間の辺縁部を示している。(B)0~2.0x10
4個のHCECの凍結損傷した眼への注入後(24時間、48時間、72時間)の臨床的外見を示す。(C)注入前、注入後(24時間、48時間、72時間)の角膜の厚さを示す(*p< 0.05)。
【
図51】
図51(A)は、異なる細胞懸濁ビヒクルにおけるcHCECの注入48時間後の角膜透明性を示す。BALB/cの眼を凍結損傷させ、2.0x10
4個のHCECを、Opti-MEM(a)、Opeguard MAt(b)に懸濁して前房内に注入し、また、対照として細胞を含まないOpeguard MAのみ(c)を前房内に注入した(それぞれ、N=3)。
図51(B)は、(A)と同様の実験を、Opi-MEM(a)、OpeguardF(b)に細胞を懸濁して行なった。また、対照として細胞を含まないOpeguardFのみ(c)を前房内に注入した(それぞれ、N=3)。
【
図52】
図52(A)は、異なる細胞懸濁ビヒクルにおけるcHCECの注入後の角膜の厚さを示す。BALB/cの眼を凍結損傷させ、2.0x10
4個のHCECを、Opti-MEM(a)、Opeguard MA(b)に懸濁して前房内に注入し、また、対照として細胞を含まないOpeguard MAのみ(c)を前房内に注入した(それぞれ、N=3)。
図52(B)は、
図52(A)と同様の実験を、Opti-MEM(a)、OpeguardF(b)に細胞を懸濁して行なった。また、対照として細胞を含まないOpeguardFのみ(c)を前房内に注入した(それぞれ、N=3)。注入前、24時間後および48時間後の角膜の厚さを評価した。*は統計学的有意差(p<0.05)を示す。
【
図53】
図53(A)は、異なる細胞懸濁ビヒクルにおける前房内へ注入したHCECの接着を示す蛍光顕微鏡画像である。BALB/cの眼を凍結損傷させ、2.0x10
4個のHCECを、Opti-MEM(a)、Opeguard MA(b)に懸濁して前房内に注入し、また、対照として細胞を含まないOpeguard MAのみ(c)を前房内に注入した(それぞれ、N=3)。
図53(B)は、
図53(A)と同様の実験を、Opti-MEM(a)、OpeguardF(b)に細胞を懸濁して行なった。また、(c)は、対照として細胞を含まないOpeguardFのみを前房内に注入した(それぞれ、N=3)。48時間後、角膜透明性および角膜の厚さを評価した直後に、これらの角膜を抗ヒト核抗体(注入したHCECの識別および宿主由来CECの識別)およびDAPIで染色した。点線の円は、凍結損傷させた領域を示している。DAPI(赤)、抗ヒト核抗体(緑)、および重ね合わせの画像は、DAPI(青)の画像の白色四角の領域の高倍率拡大図を示している。
【
図54-A(a)】
図54-A(a)~54-A(b)は、ヒト角膜内皮(Endo)/上皮(EP)組織およびcHCECを3D-GeneによってそれらのmRNAおよびmiRNAシグネチャについて分析した結果を示す。分析はHuman_25K_Ver2.1およびHuman_miRNA_Ver17によって行った。
図54-A(a)は、6つのヒト角膜内皮組織および5つのヒト角膜上皮組織それぞれの間のmRNA(左上)およびmiRNA(右上)シグネチャ同士の相関係数、ならびに7名のドナーの新鮮組織それぞれの間のmRNA(左下)およびmiRNA(右下)シグネチャ同士の相関係数を示す。
【
図54-A(b)】
図54-A(a)~54-A(b)は、ヒト角膜内皮(Endo)/上皮(EP)組織およびcHCECを3D-GeneによってそれらのmRNAおよびmiRNAシグネチャについて分析した結果を示す。分析はHuman_25K_Ver2.1およびHuman_miRNA_Ver17によって行った。
図54-A(b)は、6つの新鮮組織、3つの正常なcHCECおよび3つの細胞相遷移を起こしたcHCECそれぞれの間のmRNA(左)およびmiRNA(右)シグネチャ同士の相関係数を示す。
【
図54-B】
図54-Bは、ヒト角膜内皮(Endo)/上皮(EP)組織およびcHCECを3D-GeneによってそれらのmRNAおよびmiRNAシグネチャについて分析した結果を示す。分析はHuman_25K_Ver2.1およびHuman_miRNA_Ver17によって行った。Endo、EPおよびcHCECの遺伝子およびmiR発現プロファイルの散布図を示す。値は全体正規化後の値の平均である。2倍変化および1/2倍変化を表す直線を散布図中に示した。
【
図55-A】
図55-A~55-Bは、老化、EMTおよび繊維化についてのRT2 profiler PCR-Arrayを使用した、CSTを有さないcHCEC(#14、#18、#19)、CSTを有するcHCEC(#29、#34、#35)および新鮮な組織(20Yの8および9、12Yの12のEndo組織)間の遺伝子シグネチャの比較を示す。
図55-Aにおいて、(1)は左から、#14第3継代、#18第3継代、#19第3継代の位相差顕微鏡像を示す。(2)は左から、#29第1継代、#34第1継代、359第1継代の位相差顕微鏡像を示す。
【
図55-B】
図55-A~55-Bは、老化、EMTおよび繊維化についてのRT2 profiler PCR-Arrayを使用した、CSTを有さないcHCEC(#14、#18、#19)、CSTを有するcHCEC(#29、#34、#35)および新鮮な組織(20Yの8および9、12Yの12のEndo組織)間の遺伝子シグネチャの比較を示す。
図55-Bでは、CSTを有さないcHCEC、CSTを有するCHCECおよび新鮮Endo組織から抽出したmRNAを使用して、老化、EMTおよび繊維化についてのマイクロアレイによる解析を行った。階層的クラスタリングを使用して遺伝子シグネチャの比較を行い、ヒートマップとして示した。赤は発現強度が比較的高いことを示し、緑は発現強度が比較的低いことを示す。
【
図56-A】
図56-Aは、2つのcHCEC(#66第5継代(エフェクター細胞)およびCSTを有する#67第5継代)における個々のmRNAの発現をqRT-PCRによって比較した結果を示す。aは、#66第5継代および#67第5継代の位相差顕微鏡像である。これら2つの培養物は形態的に異なっていた。bは、候補遺伝子50種類の中のいくつかについてのmRNAの発現強度をqRT-PCRによって測定して比較した結果である。それぞれの棒グラフ内で左は#66第5継代を、右は#67第5継代を表す、縦軸は#66第5継代の発現強度を1とした場合のmRNAの相対的発現量を表す。
【
図56-B】
図56-Bは、#66と#67との間でmRNA発現強度が異なった遺伝子をまとめた表である。
【
図57-A】
図57-Aは、qRT-PCRによる選択遺伝子の解析について提供される培養物の写真を示す。
図57-Aでは、それぞれの培養物の位相差顕微鏡像を、cHCECのドナー番号、継代数および形態分類のために付与した点数とともに示す。高い点数ほど、品質の高いcHCECを意味する。
【
図57-B】
図57-Bは、形態的に分級したcHCECの間のqRT-PCRによる選択遺伝子の発現強度のグラフを示す。
図57Bでは、それぞれの遺伝子について、#66第5継代の発現量を1とした場合の相対的mRNA発現強度を縦軸に示し、mRNAを抽出した培養物の種類を横軸に示し、点数が10である培養物は薄い棒グラフで、点数が0~8である培養物を濃い棒グラフで示す。
【
図58-A】
図58-Aは、GMPの下で細胞処理センターで作製されたcHCECの間のqRT-PCRによる選択細胞の解析について提供される培養物の写真を示す。aは、#66第5継代、C09(16歳のドナー由来)第3継代およびC11(26歳のドナー由来)第3継代の位相差顕微鏡像を示す。miRの発現レベルをqRT-PCRによって評価した。それぞれの遺伝子について、それぞれの棒グラフにおいて、棒は左から、#66第5継代の培養穴A、#66第5継代の培養穴C、C09(16歳のドナー由来)第3継代およびC11(26歳のドナー由来)第3継代を表し、縦軸は#66第5継代の培養穴Aの発現強度を1とした場合のmRNAの相対的発現強度を表す。
【
図58-B】
図58Bは、GMPの下で細胞処理センターで作製されたcHCECの間のqRT-PCRによるcHCECの解析の結果、それぞれの培養物で高発現されていた遺伝子をまとめた表である。
【
図59-A】
図59-Aは、培養HCEC#82(P0~P3、72歳のドナー、ECD=3192/3409)、#84(P0~3、75歳のドナー、ECD=2598)、#88(P0~3、10歳のドナー、ECD=3879)の上清におけるサイトカインの量をBio-Plexによって分析した結果を示す。それぞれ、AはIL-6、BはIFN-γ、CはMCP-1、DはPDGF-bb、EはMIP-1b、についての定量結果を示す。
【
図59-B】
図59-B~59-Cは、cHCECの品質評価のための培養上清のELISAアッセイを示す。ELISAによって3回反復で定量した。グラフは、C17、C18、C23またはC24の培養物において分泌されたIL8、PDGFbbまたはMCP1の量を示す。P1は第1継代を示し、P2は第2継代を示し、P3は第3継代を示す。様々な培養日数の培養物について定量を実施した。
【
図59-C】
図59-B~
図59-Cは、cHCECの品質評価のための培養上清におけるELISAアッセイを示す。ELISAによって3回反復で定量した。C17、C18、C23またはC24の培養物において分泌されたIL8、PDGFbbまたはMCP1の量を示す。P1は第1継代を示し、P2は第2継代を示し、P3は第3継代を示す。様々な培養日数の培養物について定量を実施した。
【
図60-A】
図60-A~
図60-Bは、cHCECの品質評価のための培養上清のELISAアッセイを示す。3重反復で定量した。グラフは、それぞれの培養物において分泌されたTIMP1、IL8、PDGFbbまたはMCP1の量を示す。
図60-A~
図60-Bは、上から、C14第3継代の4週目、C15第3継代の4週目、C24第3継代の27日目、C23第2継代の31日目、C32第2継代の45日目を示す。
【
図60-B】
図60-A~
図60-Bは、cHCECの品質評価のための培養上清のELISAアッセイを示す。3重反復で定量した。グラフは、それぞれの培養物において分泌されたTIMP1、IL8、PDGFbbまたはMCP1の量を示す。
図60-A~
図60-Bは、上から、C14第3継代の4週目、C15第3継代の4週目、C24第3継代の27日目、C23第2継代の31日目、C32第2継代の45日目を示す。
【
図61-A】
図61-Aはサイトカインプロファイル図である。低品質なcHCECを注入した患者血清のサイトカインレベルのプロファイルを示す。cHCEC注入前、施術2日後、施術1週間後および施術1カ月後のプロファイルの比較を示す。それぞれの時点で患者血清中に存在するサイトカインの量を相対値で表す。低品質細胞は目的外生体応答惹起することを示す。
【
図61-B】
図61-Bはサイトカインプロファイル図である。低品質なcHCECを注入した患者血清のサイトカインレベルのプロファイルを示す。
図61-Aとは別の手術例を示す。cHCEC注入前、施術2日後、施術1週間後および施術1カ月後の血清サイトカインプロファイルの比較を示す。それぞれの時点で患者血清中に存在するサイトカインの量を相対値で表す。低品質細胞は目的外生体応答惹起することを示す。
【
図62】
図62および63はサイトカインプロファイル図を示す。高品質なcHCECを注入した患者血清のサイトカインレベルのプロファイルを示す。cHCEC注入前、施術2日後、施術1週間後のプロファイルの比較を示す。それぞれの時点で患者血清中に存在するサイトカインの量を相対値で表す。高品質細胞は目的外生体応答惹起しにくいことを示す。
【
図63】
図63はサイトカインプロファイル図を示す。高品質なcHCECを注入した患者血清のサイトカインレベルのプロファイルを示す。cHCEC注入前、施術2日後、施術1週間後のプロファイルの比較を示す。それぞれの時点で患者血清中に存在するサイトカインの量を相対値で表す。高品質細胞は目的外生体応答惹起しにくいことを示す。
【
図64-A】
図64-Aは、CSTを有するか有さないいずれかのcHCECからの培養上清における分泌されたエキソゾームを検出するための、抗CD63および抗CD9抗体を用いたウェスタンブロットの結果を示す図である。
【
図64-B】
図64-Bの上段には、#66(4継代)、#77(2継代)およびC11(2継代)の細胞の形態を示す位相差顕微鏡像が記載される。
図64-Bの下段は、各細胞培養培地において、CD9および/またはCD63を用いて、ExoScreenによって検出されたエキソゾームの量を示すグラフである。
【
図65】
図65は、CD44磁性ビーズによる磁性ビーズセルソーティング(MACS)を使用することによる細胞集団の構成の変化を示すFACS分析の結果である。C23第2継代のcHCECに対して操作を行った。ゲーティングを行ったドットプロットは、左から、MACS処理を行わなかった場合、MACS処理の非結合画分、MACS処理の結合画分、を示す。CD166およびCD24の発現についてゲーティングを行った後の、CD105およびCD44の発現についての分析を示す。右のCD26およびCD44の発現についてのドットプロットは、上から、MACS処理を行わなかった場合、MACS処理の非結合画分、MACS処理の結合画分、を示す。
【
図66】
図66は、CD44磁性ビーズによる磁性ビーズセルソーティング(MACS)を使用することによる細胞集団の構成の変化を示すFACS分析の結果である。C23第4継代のcHCECに対して操作を行った。左はMACS処理を行わなかった場合、右はMACS処理の非結合画分を示す。CD166およびCD24の発現についてゲーティングを行った後の、CD105およびCD44の発現についての分析ならびにCD26およびCD44の発現についての分析を示す。
【
図67】
図67は、CD44磁性ビーズによる磁性ビーズセルソーティング(MACS)を使用することによる細胞集団の構成の変化を示すFACS分析の結果である。C27第2継代のcHCECに対して操作を行った。左はMACS処理を行わなかった場合、右はMACS処理の非結合画分を示す。CD166およびCD24の発現についてゲーティングを行った後の、CD105およびCD44の発現についての分析ならびにCD26およびCD44の発現についての分析を示す。
【
図68】
図68は、FACS解析による培養細胞集団におけるエフェクターの含有量(E比)を推定する方法を示す図である。PE-Cy7標識抗ヒトCD44抗体(BD Biosciences)を使用して、FACS Canto IIのBlue laserのArea Scaling Factorを0.75、PE-Cy7のvoltageを495に設定した場合の測定において、ゲートを以下のように設定する。まず、X軸がCD24、Y軸がCD166のドットプロット(左上段)において、画分A、B、C、Dを設定する。このとき、画分AはCD24陰性かつCD166陽性、画分BはCD24陽性かつCD166陽性、画分CはCD24陰性かつCD166陰性、画分DはCD24陽性かつCD166陰性である。解析対照細胞を100%としたときの画分Bの割合を非目的細胞C[CD24陽性細胞]の含有率とする。画分BについてさらにX軸がCD44、Y軸がCD105のドットプロットにおいて、左下段の図のように画分1、2、3を設定する。このときの画分1の割合をE比、画分1の割合と画分2の割合の合計値を「エフェクター細胞+前駆細胞」含有率、画分3の割合を非目的細胞A[CD44強陽性細胞]の含有率とする。また、これらとは別にX軸がCD44、Y軸がCD26のドットプロットを作成し、下の右上段図のように画分a’、b’、c’、d’を設定する。解析対照細胞を100%としたときの画分Bの割合を非目的細胞B[CD26陽性細胞]の含有率とする。
【
図69】
図69は、注入された細胞品質(E比)に依存する手術後角膜厚を示し、E比が90%未満の細胞集団を注入された患者A~NおよびE比が90%以上の細胞集団を注入された患者I~Oについて、細胞注入前、1か月、3カ月後および6カ月後(それぞれ4週後、12週後および24週後)、ならびに1年後および2年後の角膜厚を測定した結果を示すグラフである。横軸は時間(術前、1カ月後、3カ月後、6カ月後(4週後、12週後および24週後))および縦軸は、角膜厚である。E比が90%以上である機能性細胞により、早期の希薄化が極めて良好に達成されていることが理解される。
【
図70】
図70は、E比が異なるcHCECによる臨床転帰の比較を示す。上段には非常に低いE比を有するC15(第3継代)によるcHCEC注入手術の結果、中段には本発明従ったC23(第2継代)によるcHCEC注入手術(E比<90%)の結果、および下段には本発明に従ったC32(第2継代)によるcHCEC注入手術(E比≧90%)の結果を示す。各段において左側から位相差顕微鏡写真の結果、注入する細胞のCD24、CD26、CD44に基づくFACS分析を示し、右側には、注入手術後のスペキュラーマイクロスコープ写真を示し、内皮組織におけるECDの数値(細胞数/mm
2)を示す。低E比(<10%)を有する細胞集団を注入した場合、1か月後でも3カ月後でも混濁があり内皮組織に接着した細胞の検出不能であった。6か月後にのみ、内皮組織に接着した細胞が検出可能であった。本発明による注入手術(亜集団選択あり、E比<90%)を用いた場合、1か月後では混濁のため細胞の検出が不能であったが、3カ月後には改善し、細胞の検出が可能となっていた。さらに、下段に示すように、本発明による移植手術(亜集団選択あり、E-ratio≧90%)を用いた場合は、1カ月後ですでに改善し、細胞の検出が可能となっていた。本発明において初めて開発された技術によって調製した細胞であれば、従来法に比べて顕著に早期に効果が現れることが判明した。
【
図71】
図71は、本発明の培養内皮細胞注入(上段)、DSAEK(従来法;中段)およびPKO(角膜移植、従来法;下段)における術後結果を示す。左に各手術後の眼球写真、上段中央には角膜厚分布を示す。右側に水平断面写真を示す。本発明の内皮注入では歪みのない角膜の再構築がもたらされ、良好なQAVの回復が生じるのに対して、DSAEKでは歪みおよび術法に起因する面が存在し、PKPでは顕著な歪みが存在する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、同様な内容については繰り返しの煩雑を避けるために、適宜説明を省略する。また、本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。従って、他に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0010】
最初に本発明において使用される用語および一般的な技術を説明する。
【0011】
本明細書において「角膜内皮」および「ヒト角膜内皮」は、当該分野で用いられる通常の意味で用いられる。角膜とは、眼を構成する層状の組織の一つであり透明であり、最も外界に近い部分に位置する。角膜は、ヒトでは外側(体表面)から順に5層でできているとされ、外側から角膜上皮、ボーマン膜(外境界線)、固有層、デスメ膜(内境界線)、および角膜内皮で構成される。特に、特定しない限り、上皮および内皮以外の部分は「角膜実質」とまとめて称することがあり、本明細書でもそのように称する。
【0012】
本明細書では、角膜内皮組織に由来する細胞を「角膜内皮組織由来細胞」という。また、分化することで、角膜内皮細胞になる細胞を「角膜内皮前駆細胞」という。
【0013】
本明細書において「ヒトの眼前房内への注入時に角膜内皮機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞」とは、ヒトの眼前房内に注入した際に、角膜内皮機能特性(ヒトについていう場合は「ヒト角膜内皮機能特性」といい、特に制限するものではないが、本明細書において単に「角膜内皮機能特性」という)を発現する能力を有する、角膜内皮の機能性を有する細胞である。特に省略していう場合は「本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞」ともいう。ヒト細胞についていうときは、「ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜内皮機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞」という。本発明はおもにヒトの角膜細胞に関連するものであることから、特に断らない限りヒト細胞をいうことが理解される。本明細書において、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞は、そのままの状態で角膜内皮機能特性を有する「機能性成熟分化角膜内皮細胞」および機能を一部欠くものの同様に使用されまたは注入後に機能性成熟分化角膜内皮細胞と同等の機能を発揮する「中程度分化角膜内皮細胞」を包含する。
【0014】
本明細書において「角膜内皮機能特性」とは、成熟分化角膜が正常な状態で有する機能特性をいう。
【0015】
本明細書において「機能性成熟分化角膜内皮細胞」とは、成熟分化角膜内皮およびその機能(代表的には、上記角膜内皮機能特性)を有する任意の細胞を指し、ヒトの細胞の場合、機能性成熟分化ヒト角膜内皮細胞という。特に、角膜内皮機能特性は、小型で六角形の敷石様形状を形成しミトコンドリア機能によるエネルギー代謝系を利用することで確認され、注入したとき(例えば、ヒトの眼前房内に)に、治療効果を有し得るかどうかで判定をすることができるが、それに限定されず、角膜内皮機能特性は、サロゲートマーカーを指標に判定することもできる。そのようなサロゲートマーカーとしては、(1)内皮ポンプ・バリア機能の保持、(Claudin発現を含む)(2)特定のラミニンに対する接着・結合性、(3)分泌サイトカインプロファイル、(4)産生するマイクロRNA(miRNA)プロファイル、(5)産生する代謝産物プロファイル、(6)インビトロ培養時の飽和細胞密度、(7)培養時に得られる細胞の空間的大きさやその分布、(8)マウス角膜に対する液体窒素低温凍結損傷後に細胞注入した場合の細胞維持の8種類のいずれかもしくはその組み合わせで判定することもできる。
【0016】
(1)内皮ポンプ・バリア機能の保持の判定は、例えば、角膜内皮に通常使用されるポンプ機能測定法、バリア機能測定法を用いて判定することができる。このような判定は、シート形態の場合に利用されるUssing chamberを用いて Wigham C, Hodson S. : Current Eye Research, 1, 37-41,1981、Hodson S, Wigham C. : J Physiol., 342:409-419,1983、Hatou S., Yamada M., Akune Y., Mochizuki H., Shiraishi A., Joko T., Nishida T., Tsubota K. :Investigative Ophthlmology & Visual Science, 51, 3935-3942, 2010に記載の方法を応用した技術が挙げられる。Claudin発現は、当該分野で公知の手法、例えば、免疫学的手法を用いて確認することができるClaudin発現は当該分野で公知の任意の免疫学的手法を用いて確認することができる。ただし、本発明の細胞は、懸濁液中で注入されることが想定されることから、その場合、好ましくは、Claudin発現または(2)~(8)のいずれかまたはその組み合わせを応用して角膜内皮機能を評価することができる。
【0017】
(2)特定のラミニンに対する接着・結合性に関する判定には、ラミニン511(α5鎖、β1鎖、γ鎖1の複合体)、ラミニン521(α5鎖、β2鎖、γ鎖1の複合体)またはその機能性フラグメント(例えば、ラミニン511-E8フラグメント)に対する接着性および/またはこれに対するインテグリン(例えば、α3β1、α6β1等)の発現の上昇を指標に判定することができる。そのような手法は実施例6に例示される細胞接着アッセイによって実施することができる。
【0018】
ここで、ラミニンα鎖について、「α5鎖」(LAMA5)とは、細胞外マトリックスにある細胞接着分子のタンパク質・ラミニンのサブユニットの1つであり、LAMA5;KIAA1907などと称する。ヒトLAMA5は、それぞれ遺伝子およびタンパク質の配列がNCBI登録番号のNM_005560およびNP_005551に登録されている。OMIMは601033とのアクセッション番号で同定される。ラミニンβ鎖について、「β1鎖」(LAMB1)とは、細胞外マトリックスにある細胞接着分子のタンパク質・ラミニンのサブユニットの1つであり、LAMB1;CLM;LIS5などと称する。ヒトLAMB1は、それぞれ遺伝子およびタンパク質の配列がNCBI登録番号のNM_002291およびNP_002282に登録されている。OMIMは150240とのアクセッション番号で同定される。また、「β2鎖」(LAMB2)(laminin S)とは、細胞外マトリックスにある細胞接着分子のタンパク質(ラミニン)のサブユニットの1つであり、LAMB2;LAMS;NPHS5などと称する。ヒトLAMB2は、それぞれ遺伝子およびタンパク質の配列がNCBI登録番号のNM_002292およびNP_002283に登録されている。OMIMは150325とのアクセッション番号で同定される。ラミニンγ鎖について、「γ1鎖」(LAMC1)とは、細胞外マトリックスにある細胞接着分子のタンパク質(ラミニン)のサブユニットの1つであり、LAMC1;LAMB2などと称する。ヒトLAMC1は、それぞれ遺伝子およびタンパク質の配列がNCBI登録番号のNM_002293およびNP_002284に登録されている。OMIMは150290とのアクセッション番号で同定される。
【0019】
(3)分泌サイトカインプロファイルの判定は、本明細書において別の箇所において説明される「血清」または「前房水」のサイトカインプロファイルの産生レベルを測定することで実施することができる。このようなサイトカインにはRANTES、PDGF-BB、IP-10、MIP-1b、VEGF、EOTAXIN、IL-1ra、IL-6、IL-7、IL-8、IL-0、IL-10、IL-12(p70)、IL-13、IL-17、FGFbasic、G-CSF、GM-CSI、IFN-γ、MCP-1、MIP-1a、TNF-α等が含まれるがそれらに限定されない。具体的には、サイトカインの統合解析のためのBio-Plex等のサイトカイン測定キットおよび解析システムを用いて解析することができ、その手法は実施例9に例示されている。
(4)産生するマイクロRNA(miRNA)プロファイルの判定は、本明細書において別の箇所において説明される「miRNAプロファイル」の解析手法を用いて測定することができる。例えば、実施例5または9に記載されているマイクロRNA発現プロファイルの分析方法を用いて実現することができ、例えば、Torayの「3D-Gene」ヒトmiRNAオリゴチップ(miRBase version 17)を用いて実施することができる。組織および細胞の両方の試料から取得した全RNAを、例えば、miRCURY LNA(登録商標)microRNA Power Labeling Kits (Exiqon, Vedbaek, Denmark)などのキットを使用してHy5等の標識で標識したものと、上清から取得した全miRNAを標識したものとを調製する。標識したマイクロRNAを、別々にマイクロRNAチップの表面にハイブリダイズさせ、適切な条件(例えば、16時間32°Cで)インキュベートする。このマイクロRNAチップを、オゾンを含まない環境において洗浄および乾燥した後、3D-Gene scanner 3000 (Toray Industries Inc., Tokyo, JAPAN)のようなスキャナを使用してスキャンを行い、3D-Gene Extraction software (Toray)を使用して解析することができる。
(5)産生する代謝産物プロファイルは、例えば、実施例4に記載される方法によって、実施することができる。細胞内代謝物の代謝抽出物を、Internal Standard Solution (Human Metabolome Technologies; HMT, Inc., Tsuruoka, Japan)などの内部標準試薬を含有するメタノールを有するcHCEC培養容器から調製する。培地を置換し、細胞抽出物を処理し(処理条件は実施例4に例示される)、CE-MS分析を行い代謝物を解析する。メタボローム解析は、Soga, et al. (Soga, D. et al., T. Soga, et al., Anal.Chem. 2002; 74: 2233-2239 Anal.Chem. 2000; 72: 1236-1241; T. Soga, et al., J. Proteome Res. 2003; 2: 488-494)によって開発された方法に従って、測定することができ、適宜自動統合ソフトウェア (それぞれMasterHands, Keio University, Tsuruoka, Japan (M. Sugimoto, et al., Metabolomics, 2009; 6: 78-95) および MassHunter Quantitative Analysis B.04.00, Agilent Technologies, Santa Clara, CA, USA)を用いて解析する。CEにおけるMTおよびTOFMSによって測定されたm/z 値に基いて、HMT代謝物データベースから、仮定的な代謝物によってピークをアノテーションし、標準化して計算する。階層クラスター分析(HCA)および主成分分析(PCA)を行い、メタボローム測定を行うことができる。
(6)インビトロ培養時の飽和細胞密度は、本明細書に記載される適宜の培養条件を用いて、細胞密度を測定することで判定することができ、細胞の大きさと並行して測定されることもあり、倒立顕微鏡システム(例えば、CKX41, Olympus,Tokyo, Japan)によって、BZ X-700顕微鏡システム(Keyence, Osaka, Japan)等の画像取得システムを含む機器を用いて撮影位相差顕微鏡画像を取得し、細胞計数ソフトウェア(例えば、BZ-H3C Hybrid細胞計数ソフトウェア(Keyence))等を用いて定量することができる。本発明において好ましい飽和細胞密度は本明細書の他の箇所に記載されている。
(7)培養時に得られる細胞の空間的大きさやその分布は、本明細書に記載される適宜の培養条件を用いて、細胞の写真を撮影し任意のソフトウェア等で測定したりして、細胞の空間的大きさやその分布を測定することで判定することができ、BZ-H3C Hybrid細胞計数ソフトウェア(Keyence)等の祖画像処理ソフトウェアによって実現することができる。本発明において好ましい飽和細胞密度は本明細書の他の箇所に記載されている。
(8)マウス角膜に対する液体窒素低温凍結損傷後に細胞注入した場合の細胞維持の判定は、実施例7で例示されるマウスモデルを作製することにより実施することができる。具体的には、適切なマウス(例えば、BALB/c)の角膜の中央領域(例えば、2mm)を低温損傷により前処理し内皮細胞を取り除いてモデルを作製する。そしてそのモデルの眼前房に、判定すべき細胞を注入し、角膜透明性の特徴を臨床的に観察し、角膜の厚さをパキメータにより評価し、HCECの接着をヒト核染色により病理組織学的に検査してその細胞が機能を有するかどうかを確認する。これらの手法は実施例8に例示されている。
【0020】
角膜内皮に由来したものではない細胞(例えば、幹細胞(例えば、誘導性多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)等から角膜内皮への分化をさせて生産した細胞)は、生体に存在する角膜内皮細胞と完全に同一かどうか不明のこともあるが、角膜内皮機能特性を有する限りにおいて本発明のヒトの眼前房内への注入時に角膜内皮機能特性を惹起し得る機能性角膜内皮細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞の範囲に入る。本明細書において示される説明や実験においては、本発明のヒト機能性成熟分化角膜内皮細胞は、「ヒト機能性成熟分化角膜内皮細胞」、「機能性成熟分化ヒト角膜内皮細胞」等とも称され、「a5」細胞、「目的細胞」、「合格細胞」あるいは単に「エフェクター細胞」などとも称されることがあるが、いずれも同義で使用される。また、「機能性成熟分化角膜内皮細胞」は、その機能性が高められた細胞については「高品質」機能性成熟分化角膜内皮細胞ということがある。このような高品質のものは、CD44陰性のものを選択的に増殖させることで提供し得、理論に拘束されることを望まないが、陰性のもののみに収れんしたほうがより高品質であり、成熟分化した生体組織にある細胞との同一性が高いと考えられる。
【0021】
本明細書において「中程度分化角膜内皮細胞」とは、機能性成熟分化角膜内皮細胞が有する角膜内皮機能特性(ヒト細胞の場合はヒトの角膜内皮機能特性)を発揮し得るが、機能性成熟分化角膜内皮細胞ほどの完全な角膜内皮機能特性を持たず、その機能を少なくとも一部発揮する細胞をいう。ヒト細胞について言う場合は、「中程度分化角膜内皮細胞」または「ヒト中程度分化角膜内皮細胞」というが、本発明は主としてヒトを対象とすることに留意されたい。「機能性成熟分化角膜内皮細胞」は、眼前房に注入された後機能性成熟分化角膜内皮細胞として機能し得る能力を有することから、本発明において利用され得る細胞である。「中程度分化ヒト角膜内皮細胞」は、一定程度であれば、混入して注入治療に使用されても効果を発揮するか、または少なくとも治療効果の阻害にならない。このような中程度分化角膜内皮細胞は、注入後(例えば、ヒトの眼前房への注入後)に生体内で機能性成熟分化角膜内皮細胞に成熟分化し機能し得るものである。本明細書において示される説明や実験においては、「a1」細胞、あるいは単に「角膜内皮準機能性細胞」、「準機能性細胞」、「中程度分化エフェクター細胞」、または「準目的細胞」などとも称されるがいずれも同義である。
【0022】
本明細書において、「角膜内皮非機能性細胞」とは、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞(すなわち、「機能性成熟分化角膜内皮細胞」および「中程度分化角膜内皮細胞」)以外の細胞であり、「非目的細胞」、「不合格細胞」、「目的外細胞」、「非機能性細胞」などと称することがある。このような細胞は「a2」画分を含む。
【0023】
本明細書において、「細胞指標」とは、ある細胞が、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞、(例えば機能性成熟分化角膜内皮細胞または中程度分化角膜内皮細胞)であることを示す任意の指標をいい、成熟分化ヒト角膜内皮およびその機能を有する任意の細胞の有する特性であるため、「機能性細胞指標」ともいう。その具体的な特性は「細胞機能特性」ともいう。例えば、対象となる細胞がa5細胞に相同する細胞機能特性を有するという場合、a5が示す細胞指標の各々の値の範囲に相当する値を、対象となる細胞が有することをいう。
【0024】
本明細書において「形質転換」とは、細胞の形質が正常ではない状態に変化することをいい、正常細胞が無制限に分裂を行うようになる、つまりがん化の意味、または化生の中で特にダイナミックなもの(幹細胞まで脱分化したり組織の基本形の壁を越えて変化したりするもの)の意味を含む。形質転換の例としては、EMT,線維化、上皮間葉系移行、老化、脱分化等のような細胞状態相転移(CST)を挙げることができる。角膜内皮細胞は、しばしば上皮間葉相転移のような形質転換を起こし、機能性成熟分化角膜内皮細胞でなくなることが多い。本発明の製造方法には、このような上皮間葉系移行の生じた細胞でも、脱分化後、成熟分化させることで、機能性成熟分化角膜内皮細胞に変換させることができる製造法を含む。
【0025】
本明細書では、「上皮間葉相転移」(EMT;上皮間葉転換ともいう)とは、上皮細胞がその細胞極性や周囲細胞との細胞接着機能を失い、遊走、浸潤能を得ることで間葉系様の細胞へと変化するプロセスをいう。
【0026】
ここで、本明細書において使用され得る各種試料や製造方法における出発細胞としては、機能性成熟分化角膜内皮細胞または目的とする細胞またはそれに由来する物質であって遺伝子発現を可能にするものを含むと考えられる試料であればよく、例えば、角膜内皮から直接単離した細胞(角膜内皮組織由来細胞ともいう)あるいは分化することで角膜内皮様の機能を有するようになった細胞を用いることができる。角膜内皮組織由来細胞は公知の方法により取得することができる(Koizumi N, Okumura N, Kinoshita S., Experimental Eye Research. 2012;95:60-7.)。好ましくは、角膜内皮のドナーから得られた細胞等を細胞試料として用いることができる。また、インビトロで分化誘導された、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞を含む培養細胞を試料として用いることができる。インビトロにおける本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞への分化誘導は、公知のES細胞、iPS細胞、骨髄間質細胞等の細胞を出発材料として、公知の方法、例えば、AMED法等による分化させる<Ueno M, Matsumura M, Watanabe K, Nakamura T, Osakada F, Takahashi M, Kawasaki H, Kinoshita S, Sasai Y:, Proc Natl Acad Sci USA. 103(25): 9554-9559, 2006.>処理を行うことにより実施することができる。
【0027】
本発明において「miRNA」とはマイクロRNA(microRNA)の省略形で、ゲノム上にコードされ、多段階的な生成過程を経て生じるRNAをいう。miRNAには、多様な種類が発見されている。通常は20~25塩基長であることが多いとされるが、特にこれに限定されるものではなく、既知のものはmicroRNA database、miRBase(hGp://www.mirbase.org/)等で登録されている。miRNAは、前駆体の場合は「mir」と表示し、成熟型の場合は「miR」と表示することが通常である。また、miR(mir)の後に登録番号を付するが、類似する場合は、小文字のアルファベットを付することとされている。また、生成過程の由来を付することを定義する場合は、5’末端側の鎖を5pと付し、3’型末端側の鎖を3pと付する。生物種を区別する場合は、ヒトの場合hsaを付ける。これらはハイフンで結び、例えば、「hsa-miR-15a-5p」などと表示することとされている。なお、本明細書はヒトを主に対象とするものであるから、格別hsaを付けない場合でもヒトを意図することが理解される。本発明において特に区別して用いる場合は、「細胞内」miRNAおよび「分泌型」miRNAに区別し得る。本発明では、miRNAを用いて細胞の亜集団を識別することができることを世界で初めて見出したことも特徴の一つであるが、その中でも、細胞上清に分泌される「分泌型」miRNAで細胞型または亜集団を識別することができ、細胞注入治療において品質管理に用いられることができることを見出したことが特徴の一つである。
【0028】
本明細書において「細胞内」miRNAとは、細胞内に存在する任意のmiRNAをいう。
【0029】
本明細書において「分泌型」miRNAとは、分泌され、培養上清にて検出され得る任意のmiRNAをいう。当該分野では「細胞分泌型」miRNA、「培養上清中」miRNA、「細胞上清」miRNA、「細胞上清・培養型」miRNAと称することがあるがいずれも同じものを指す。分泌型miRNAは、細胞を破壊せずに検出することができる。
【0030】
本明細書においてmiRNA等の「高発現」、「中発現」および「低発現」とは、miRNAの発現強度を相対的に表示する場合に用いられるものであり、標準と比較しての相対的強度をいう。「高発現」、「中発現」および「低発現」は、発現強度が高発現>中発現>低発現である。本明細書では、代表的に、miR発現量(発現強度)としては蛍光強度が測定されている遺伝子を判定した後、サンプル間の遺伝子総コピー数が大きく違わないと仮定した上で検出された全遺伝子の発現強度中央値が同一になるように補正した値を使用することができる。「高発現」と「低発現」とは、発現強度について、統計学的有意差(相対比2倍以上P-value0.05以下)がある。必要に応じて中発現を含めることができる。3群以上の細胞において最強のものと最弱のものとは異なる第三の発現強度が認められる場合に中発現を含めて評価してもよい。また、「高発現」と「中発現」、「低発現」と「中発現」ともまた、統計学的有意差があってもよい。
【0031】
本明細書で用いられる場合、代表的には、a5細胞の発現特性は、CD44陰性~弱陽性CD24陰性CD26陰性であり、a1細胞の発現特性は、CD44中陽性CD24陰性CD26陰性であり、a2細胞の発現特性は、CD44強陽性CD24陰性CD26陽性である、と特定した場合、miRNAの「高発現」、「中発現」および「低発現」は、a5細胞:a1細胞:a2細胞の発現強度を相対的に表現する際に用いられる。なお、「中発現」はない場合もあり、その場合、「高発現」および「低発現」でそれぞれの細胞を識別することができる。
【0032】
本明細書において「細胞の大きさ」は、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞の一つの細胞指標であり、当該分野で慣用される技術によって測定される。細胞の大きさは、例えば、細胞面積によって表現される。本明細書において「細胞面積」は、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞の一つの細胞指標であり、細胞の写真を撮影し任意のソフトウェア等で測定することができる。このような測定手法としては、例えば、BZ-H3C Hybrid細胞計数ソフトウェア(Keyence)等の画像処理ソフトウェアを利用する方法が挙げられる。その平均値は「平均細胞面積」という。通常は算術平均が用いられる。
【0033】
本明細書において「細胞の密度」、「(平均)細胞密度」は、一定面積に存在する細胞の数で表示される細胞の指標であり、当該分野で慣用される任意の技術によって測定される。細胞集団の平均密度は、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞の一つの細胞指標である。平均としては通常は算術平均が用いられる。細胞の大きさと並行して測定されることもあり、倒立顕微鏡システム(例えば、CKX41, Olympus,Tokyo, Japan)によって、BZ X-700顕微鏡システム(Keyence, Osaka, Japan)等の画像取得システムを含む機器を用いて撮影位相差顕微鏡画像を取得し、細胞計数ソフトウェア(例えば、BZ-H3C Hybrid細胞計数ソフトウェア(Keyence))等を用いて定量することができる。細胞密度は、飽和細胞培養((培養)コンフルエントともいい、本明細書では飽和細胞培養と(培養)コンフルエントとは同じ意味で使用される。)時におけるものを指標とすることのほか、播種する際の密度も本発明の製造方法において目安として使用される。また、細胞密度は、注入後の治療成績の指標としても使用され得る。
【0034】
本明細書において「核型異常」とは、異常を有する任意の核型をいい、ヒトの場合、標準的な人類染色体国際命名規約(ISCN)(1995年)およびその定義に従って測定することができる。また、その具体的な分析手法は実施例において記載されている。
【0035】
本明細書において「免疫特性」とは、ある細胞についていうとき、その細胞が、移植される場合に宿主由来細胞との間に示す免疫学的応答性をいい、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞の一つの細胞指標であり、例えば、アロ(allo;同種異系)注入でありながら免疫拒絶応答が起こらないことを挙げることとができる。
【0036】
本明細書において「遺伝子特性」とは、ある細胞についていうとき、その細胞に関する遺伝子の発現等の特性をいい、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞の一つの細胞指標である。
【0037】
本明細書において「血清のサイトカインプロファイル」とは、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞の一つの細胞指標であり、血清中の少なくとも1つのサイトカインの量、レベル等を示したプロファイルをいう。代表的には本明細書において例示される円心法により表示でプロファイルを表示することができる。
【0038】
本明細書において、「細胞表面マーカー」とは、細胞表面に発現される任意の生体物質をいう。細胞表面抗原、表面抗原あるいは表面マーカーとも呼ばれ、モノクローナル抗体が結合する抗原として識別することができ、当該分野では、CDマーカー、CD抗原とも呼ばれているものも含む。細胞表面マーカーによってあらわされる形質は細胞表面形質とも称され、本明細書では同じ意味で用いられることがある。
【0039】
本明細書において「タンパク質性産物」とは、細胞が産生する任意のタンパク質性の産物をいい、「タンパク質性産物(該産物)の関連生体物質」とは、細胞タンパク質性産物に関連する任意の生体物質(例えば、そのタンパク質性産物をコードする遺伝子(DNA)、mRNA、タンパク質の前駆体等)を指し、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞の一つの細胞指標である。代表的には、遺伝子およびその産物であり、本発明では、例えば(A)本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞(機能性成熟分化ヒト角膜内皮細胞を含む)において、発現が上昇するもの(COL4A1、COL4A2、COL8A1、COL8A2、CDH2、TGF-β2等)ならびに(B)本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞(機能性成熟分化ヒト角膜内皮細胞を含む)において発現量が下がるもの(MMP1、MMP2、TIMP1、BMP2、IL13RA2、TGF-β1、CD44、COL3A1、IL6、IL8、HGF、THBS2、およびIGFBP3等)を挙げることができる。
【0040】
本明細書において「SASP関連タンパク質」、「SASP因子」および「SASPメディエーター」とは、交換可能に用いられ、SASP(Senescenc Associated Secretory Phenotypeの略称)に関する任意のタンパク質をいい、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞、機能性成熟分化角膜内皮細胞または非目的細胞の一つの細胞指標である。細胞老化関連分泌とも言われる。SASPとは、細胞老化に関連する現象であり、炎症反応や発がんを誘導する作用を示すさまざまな分泌性タンパク質が高発現する現象である。このようなSASP関連タンパク質としては、例えば、炎症性サイトカイン(IL-6)や炎症性ケモカイン(IL-8やMCP-1など)、プロテアーゼ(MMPsなど)、PAI-1、GRO-α、VEGFを挙げることができる。
【0041】
本明細書において「エキソゾーム」とは、エキソゾーム複合体とも呼ばれ、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞の一つの細胞指標であり、CD63、CD9、CD81およびHSP70などを挙げることができる。
【0042】
本明細書において「細胞代謝産物」とは、細胞が生成する任意の代謝産物をいい、「細胞代謝産物(該産物)の関連生体物質」とは、細胞代謝産物に関連する任意の生体物質(例えば、その代謝産物を合成する酵素、代謝する酵素、シグナル伝達経路に関連するタンパク質等)をいい、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞の一つの細胞指標である。代謝産物としては、例えば、ミトコンドリア系におけるエネルギー代謝系の産物、グルタチオン代謝系産物、メチオニン代謝回路産物、脂質代謝産物、ペントースリン酸経路産物、トリカルボキシル酸(TCA)回路代謝産物、解糖系代謝産物等に関連する任意の産物が含まれ、特に、TCA回路代謝産物、解糖系代謝産物が重要である。細胞代謝産物および該産物の関連生体物質としては、例えば、コハク酸、Pro、Gly、グリセロール3-ホスフェート、Glu、乳酸、アルギノコハク酸、キサンチン、N-カルバモイルアスパラギン酸、イソクエン酸、cis―アコニット酸、クエン酸Ala、3-ホスホグリセリン酸、ヒドロキシプロリン、リンゴ酸、尿酸、ベタイン、葉酸、Gln、2-オキソイソ吉草酸、ピルビン酸、Ser、ヒポキサンチン、Asn、Trp、Lys、コリン、Tyr、尿素、Phe、Met、カルノシン、Asp、オルニチン、Arg、クレアチン、2-ヒドロキシグルタミン酸、β-Ala、シトルリン、Thr、Ile、Leu、Val、クレアチニン、His、N,N-ジメチルグリシンを挙げることができる。
【0043】
本明細書において「自己抗体反応性細胞」は、自己抗体に反応する任意の細胞をいい、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞を選択するための一つの細胞指標である。自己抗体反応性細胞の検出は、当該分野で公知の任意の技術によって行うことができる。非目的細胞亜集団は、自己抗体に反応性の場合も多いことから、目的細胞を明確にする目的で、自己抗体に対する反応性を評価することができる。
【0044】
本発明の細胞の検出、同定、品質管理等は、マーカーとなる物質に結合する物質や相互作用分子を用いることによって実現することができる。本発明の関連において、マーカーとなる物質に「結合する物質」または「相互作用分子」は、少なくとも一時的にマーカーとなる物質(例えば、CD44)等の分子に結合し、そして好ましくは、結合したことを表示しうる(例えば標識されるか標識可能な状態である)、分子または物質である。CD44等の分子に結合する物質はCD44等の分子のリガンドであってもよく、その例としては、抗体、アンチセンス・オリゴヌクレオチド、siRNA、低分子量分子(LMW)、結合性ペプチド、アプタマー、リボザイムおよびペプチド模倣体(peptidomimetic)等を挙げることができ、例えばCD44等の分子に対して向けられる、結合性タンパク質または結合性ペプチド、並びにCD44等の分子の遺伝子に対して向けられる核酸も含まれる。本明細書において、CD44等の分子について「結合性タンパク質」または「結合性ペプチド」とは、CD44等の分子に結合する種類のタンパク質またはペプチドを指し、そしてCD44等の分子に対して指向されるポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体、抗体フラグメントおよびタンパク質骨格を含むがこれらに限定されない。
【0045】
本明細書において「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。このポリマーは、直鎖であっても分岐していてもよく、環状であってもよい。アミノ酸は、天然のものであっても非天然のものであってもよく、改変されたアミノ酸であってもよいが、細胞内に含まれるものを標的とする場合は天然のものである。
【0046】
本明細書において「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいう。この用語はまた、「オリゴヌクレオチド誘導体」または「ポリヌクレオチド誘導体」を含む。「オリゴヌクレオチド誘導体」または「ポリヌクレオチド誘導体」とは、ヌクレオチドの誘導体を含むか、またはヌクレオチド間の結合が通常とは異なるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドをいい、互換的に使用される。本明細書において「核酸」はまた、遺伝子、cDNA、mRNA、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドと互換可能に使用される。本明細書において「ヌクレオチド」は、天然のものでも非天然のものでもよいが、細胞内のものは天然のものである。核酸やヌクレオチドを検出手段として用いる場合は人工のものといえる。
【0047】
本明細書において「遺伝子」とは、遺伝形質を規定する因子をいう。通常染色体上に一定の順序に配列している。タンパク質の一次構造を規定する遺伝子を構造遺伝子といい、その発現を左右する遺伝子を調節遺伝子という。本明細書では、「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」を指すことがある。「遺伝子産物」とは、遺伝子に基づいて産生された物質でありタンパク質、mRNAなどを指す。
【0048】
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に認知された1文字コードにより言及され得る。本明細書では、アミノ酸配列および塩基配列の類似性、同一性および相同性の比較は、配列分析用ツールであるBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。同一性の検索は例えば、NCBIのBLAST 2.2.28(2013.4.2発行)を用いて行うことができる。本明細書における同一性の値は通常は上記BLASTを用い、デフォルトの条件でアラインした際の値をいう。ただし、パラメータの変更により、より高い値が出る場合は、最も高い値を同一性の値とする。複数の領域で同一性が評価される場合はそのうちの最も高い値を同一性の値とする。類似性は、同一性に加え、類似のアミノ酸についても計算に入れた数値である。
【0049】
本明細書において「単離された」物質または生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、天然の状態で共存する因子が存在しない状態となっていることをいう。他方、本明細書において、「精製された」物質または生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その生物学的因子に天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいう。従って、通常、精製された生物学的因子におけるその生物学的因子の純度は、その生物学的因子が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。本明細書中で使用される用語「単離された」および「精製された」は、好ましくは少なくとも約75重量%、より好ましくは少なくとも約85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも約95重量%、そして最も好ましくは少なくとも約98重量%の、同型の生物学的因子が存在することを意味する。本発明で用いられる物質は、好ましくは「単離された」物質または「精製された」物質である。
【0050】
本明細書において「マーカー(物質、タンパク質または遺伝子(核酸))」とは、ある状態(例えば、機能性、形質転換状態、疾患状態、障害状態、あるいは増殖能、分化状態のレベル、有無等)にあるかまたはその危険性があるかどうかを追跡する示標となる物質をいう。このようなマーカーとしては、遺伝子(核酸=DNAレベル)、遺伝子産物(mRNA、タンパク質など)、代謝物質、酵素などを挙げることができる。本発明において、ある状態(例えば、分化障害などの疾患)についての検出、診断、予備的検出、予測または事前診断は、その状態に関連するマーカーに特異的な薬剤、剤、因子または手段、あるいはそれらを含む組成物、キットまたはシステム等を用いて実現することができる。本明細書において、「遺伝子産物」とは、遺伝子によってコードされるタンパク質またはmRNAをいう。本明細書では、眼細胞、特に角膜内皮細胞への関連が示されていない遺伝子産物(すなわち、CD44等の分子など)が角膜内皮細胞の機能性かどうか(形質転換したかどうか)の指標として使用可能であることが見出された。
【0051】
本明細書においてポリヌクレオチドまたはポリペプチド発現の「検出」または「定量」は、例えば、検出剤、検査剤または診断剤への結合または相互作用を含む、mRNAの測定および免疫学的測定方法を含む適切な方法を用いて達成され得る。分子生物学的測定方法としては、例えば、ノーザンブロット法、ドットブロット法またはPCR法などが例示される。免疫学的測定方法としては、例えば、方法としては、マイクロタイタープレートを用いるELISA法、RIA法、蛍光抗体法、発光イムノアッセイ(LIA)、免疫沈降法(IP)、免疫拡散法(SRID)、免疫比濁法(TIA)、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などが例示される。また、定量方法としては、ELISA法またはRIA法などが例示される。アレイ(例えば、DNAアレイ、プロテインアレイ)を用いた遺伝子解析方法によっても行われ得る。DNAアレイについては、(秀潤社編、細胞工学別冊「DNAマイクロアレイと最新PCR法」)に広く概説されている。プロテインアレイについては、NatGenet.2002 Dec;32 Suppl:526-532に詳述されている。遺伝子発現の分析法としては、上述に加えて、RT-PCR、RACE法、SSCP法、免疫沈降法、two-hybridシステム、in vitro翻訳、FACS(蛍光活性化細胞ソーティング)などが挙げられるがそれらに限定されない。そのようなさらなる分析方法は、例えば、ゲノム解析実験法・中村祐輔ラボ・マニュアル、編集・中村祐輔、羊土社(2002)などに記載されており、本明細書においてそれらの記載はすべて参考として援用される。FACSで使用されるフローサイトメトリー (flow cytometry) とは微細な粒子を流体中に分散させ、その流体を細く流して、個々の粒子を光学的に分析する手法であり、これを応用した手法がFACS(蛍光活性化細胞ソーティング)である。FACSは蛍光抗体で染色した細胞を液流に乗せて流し、レーザー光の焦点を通過させ、個々の細胞が発する蛍光を測定することによって細胞表面に発現される抗原量を定量的に測定することのできる技術である。
【0052】
本明細書において「発現強度」とは、目的の細胞、組織などにおいて、ポリペプチドまたはmRNA等が発現される量をいう。そのような発現強度としては、本発明の抗体を用いてELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などの免疫学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明ポリペプチドのタンパク質レベルでの発現強度、またはノーザンブロット法、ドットブロット法、PCR法などの分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明において使用されるポリペプチドのmRNAレベルでの発現強度が挙げられる。「発現強度の変化」とは、上記免疫学的測定方法または分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明において使用されるポリペプチドのタンパク質レベルまたはmRNAレベルでの発現強度が増加あるいは減少することを意味する。あるマーカーの発現強度を測定することによって、マーカーに基づく種々の検出または診断を行うことができる。
【0053】
本明細書において、活性、発現産物(例えば、タンパク質、転写物(RNAなど))の「
減少」または「抑制」あるいはその類義語は、特定の活性、転写物またはタンパク質の量、質または効果における減少、または減少させる活性をいう。減少のうち活性、発現産物等が検出限界未満になる場合、特に区別して「消失」ということがある。本明細書では、「消失」は「減少」または「抑制」に包含される。
【0054】
本明細書において、活性、発現産物(例えば、タンパク質、転写物(RNAなど))の「増加」または「活性化」あるいはその類義語は、特定の活性、転写物またはタンパク質の量、質または効果における増加または増加させる活性をいう。
【0055】
本明細書において「抗体」は、広義にはポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、多重特異性抗体、キメラ抗体、および抗イディオタイプ抗体、ならびにそれらのフラグメント、例えばFvフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)2およびFabフラグメント、ならびにその他の組換えにより生産された結合体または機能的等価物(例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、多機能抗体、二重特異性またはオリゴ特異性(oligospecific)抗体、単鎖抗体、scFV、ダイアボディー、sc(Fv)2(single chain (Fv)2)、scFv-Fc)を含む。さらにこのような抗体を、酵素、例えばアルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、αガラクトシダーゼなど、に共有結合させまたは組換えにより融合させてよい。本発明で用いられるCD44等に対する抗体は、それぞれ、CD44等のタンパク質に結合すればよく、その由来、種類、形状などは問われない。具体的には、非ヒト動物の抗体(例えば、マウス抗体、ラット抗体、ラクダ抗体)、ヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体などの公知の抗体が使用できる。本発明においては、モノクローナル、あるいはポリクローナルを抗体として利用することができるが好ましくはモノクローナル抗体である。抗体のCD44等のそれぞれのタンパク質への結合は特異的な結合であることが好ましい。
【0056】
本明細書において「手段」とは、ある目的(例えば、検出、診断、治療)を達成する任意の道具となり得るものをいい、特に、本明細書では、「選択的に認識(検出)する手段」とは、ある対象を他のものとは異なって認識(検出)することができる手段をいう。
【0057】
本発明の検出剤または診断剤あるいはその他医薬は、プローブおよびプライマーの形態を採ることができる。本発明のプローブおよびプライマーは、CD44等の分子と特異的にハイブリダイズすることができる。本明細書に記載されるように、CD44等の分子の発現は角膜内皮細胞における正常細胞または形質転換細胞であるかどうかの指標であり、また、形質転換の度合いの指標として有用である。従って、本発明によるプローブおよびプライマーは、角膜内皮細胞のうち正常細胞または形質転換細胞および/または形質転換の度合いを識別するために用いることができる。本発明のプローブおよびプライマーは、1つの実施形態では、CD44等の分子の発現を検出することができればよく、複数のデオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)等の塩基または塩基対からなる重合体を指す。二本鎖cDNAも組織in situハイブリダイゼーションにおいて利用可能であることが知られており、本発明のプローブおよびプライマーにはそのような二本鎖cDNAも含まれる。組織中のRNAの検出において特に好ましいプローブおよびプライマーとしては、RNAプローブ(リボプローブ)を挙げることができる。
【0058】
本明細書において「(核酸)プライマー」とは、高分子合成酵素反応において、合成される高分子化合物の反応の開始に必要な物質をいう。核酸分子の合成反応では、合成されるべき高分子化合物の一部の配列に相補的な核酸分子(例えば、DNAまたはRNAなど)が用いられ得る。本明細書においてプライマーはマーカー検出手段として使用され得る。
【0059】
通常プライマーとして用いられる核酸分子としては、目的とする遺伝子(例えば、本発明のマーカー)の核酸配列と相補的な、少なくとも8の連続するヌクレオチド長の核酸配列を有するものが挙げられる。そのような核酸配列は、好ましくは、少なくとも9の連続するヌクレオチド長の、より好ましくは少なくとも約10の連続するヌクレオチド長の、さらに好ましくは少なくとも約11の連続するヌクレオチド長の、少なくとも約12の連続するヌクレオチド長の、少なくとも約13の連続するヌクレオチド長の、少なくとも約14の連続するヌクレオチド長の、少なくとも約15の連続するヌクレオチド長の、少なくとも約16の連続するヌクレオチド長の、少なくとも約17の連続するヌクレオチド長の、少なくとも約18の連続するヌクレオチド長の、少なくとも約19の連続するヌクレオチド長の、少なくとも約20の連続するヌクレオチド長の、少なくとも約25の連続するヌクレオチド長の、少なくとも約30の連続するヌクレオチド長の、少なくとも約40の連続するヌクレオチド長の、少なくとも約50の連続するヌクレオチド長の、核酸配列であり得る。プライマーとして使用される核酸配列には、上述の配列に対して、少なくとも70%相同な、より好ましくは、少なくとも80%相同な、さらに好ましくは、少なくとも90%相同な、少なくとも95%相同な核酸配列が含まれる。プライマーとして適切な配列は、合成(増幅)が意図される配列の性質によって変動し得るが、当業者は、意図される配列に応じて適宜プライマーを設計することができる。そのようなプライマーの設計は当該分野において周知であり、手動でおこなってもよくコンピュータプログラム(例えば、LASERGENE,PrimerSelect,DNAStar)を用いて行ってもよい。
【0060】
本発明によるプライマーは、二種以上の該プライマーからなる、プライマーセットとしても使用することができる。
【0061】
本発明によるプライマーおよびプライマーセットは、PCR法、RT-PCR法、リアルタイムPCR法、in situ PCR法、LAMP法等の核酸増幅法を利用して目的遺伝子を検出する公知の方法において、常法に従ってプライマーおよびプライマーセットとして利用することができる。
【0062】
本発明によるプライマーセットはCD44等の分子等の目的のタンパク質のヌクレオチド配列をPCR法等の核酸増幅法により増幅できるように選択することができる。核酸増幅法は周知であり、核酸増幅法におけるプライマーペアの選択は当業者に自明である。例えば、PCR法においては、二つのプライマー(プライマー対)の一方がCD44等の分子目的のタンパク質の二本鎖DNAのプラス鎖に対合し、他方のプライマーが二本鎖DNAのマイナス鎖に対合し、かつ一方のプライマーにより伸長された伸長鎖にもう一方のプライマーが対合するようにプライマーを選択できる。また、LAMP法(WO00/28082号公報)においては、標的遺伝子に対して3’末端側からF3c、F2c、F1cという3つの領域を、5’末端側からB1、B2、B3という3つの領域を、それぞれ規定し、この6つの領域を用いて4種類のプライマーを設計することができる。本発明のプライマーは、本明細書に開示したヌクレオチド配列に基づき、化学合成できる。プライマーの調製は周知であり、例えば、『Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed.』(Cold Spring Harbor Press(1989))、『Current Protocols in Molecular Biology』(John Wiley & Sons(1987-1997))に従って実施することができる。
【0063】
本明細書において「プローブ」とは、インビトロおよび/またはインビボなどのスクリーニングなどの生物学的実験において用いられる、検索の手段となる物質をいい、例えば、特定の塩基配列を含む核酸分子または特定のアミノ酸配列を含むペプチド、特異的抗体またはそのフラグメントなどが挙げられるがそれに限定されない。本明細書においてプローブは、マーカー検出手段としてもちいられる。
【0064】
通常プローブとして用いられる核酸分子としては、目的とする遺伝子の核酸配列と相同なまたは相補的な、少なくとも約8の連続するヌクレオチド長の核酸配列を有するものが挙げられる。そのような核酸配列は、好ましくは、少なくとも約9の連続するヌクレオチド長の、より好ましくは少なくとも約10の連続するヌクレオチド長の、さらに好ましくは少なくとも約11の連続するヌクレオチド長の、少なくとも約12の連続するヌクレオチド長の、少なくとも約13の連続するヌクレオチド長の、少なくとも約14の連続するヌクレオチド長の、少なくとも約15の連続するヌクレオチド長の、少なくとも約20の連続するヌクレオチド長の、少なくとも約25の連続するヌクレオチド長の、少なくとも約30の連続するヌクレオチド長の、少なくとも約40の連続するヌクレオチド長の、少なくとも約50の連続するヌクレオチド長の、少なくとも核酸配列であり得る。プローブとして使用される核酸配列には、上述の配列に対して、少なくとも約70%相同な、より好ましくは、少なくとも約80%相同な、さらに好ましくは、少なくとも約90%相同な、少なくとも約95%相同な核酸配列が含まれる。
【0065】
1つの実施形態において、本発明の検出剤は、標識されたものでありうる。あるいは、本発明の検出剤は、タグを結合させたものであってもよい。
【0066】
本明細書において「標識」とは、目的となる分子または物質を他から識別するための存在(例えば、物質、エネルギー、電磁波など)をいう。そのような標識方法としては、RI(ラジオアイソトープ)法、蛍光法、ビオチン法、化学発光法等を挙げることができる。本発明のマーカーまたはそれを捕捉する因子または手段を複数、蛍光法によって標識する場合には、蛍光発光極大波長が互いに異なる蛍光物質によって標識を行う。蛍光発光極大波長の差は、10nm以上であることが好ましい。リガンドを標識する場合、機能に影響を与えないものならば何れも用いることができる。例えば、実際にFACSに使用している標識として、FITC、PE、PerCP-Cy5.5、PE-Cy7、APC、AlexaTMFluorTM488、AlexaTMFluor647が挙げられる。免疫染色の代表例では、AlexaTMFluor488、AlexaTMFluor555またはAlexaTMFluor594、AlexaTMFluor647を組み合わせて使用することができる。。AlexaTMFluorは、クマリン、ローダミン、フルオレセイン、シアニンなどを修飾して得られた水溶性の蛍光色素であり、広範囲の蛍光波長に対応したシリーズであり、他の該当波長の蛍光色素に比べ、非常に安定で、明るく、またpH感受性が低い。蛍光極大波長が10nm以上ある蛍光色素の組み合わせとしては、AlexaTM555とAlexaTM633の組み合わせ、AlexaTM488とAlexaTM555との組み合わせ等を挙げることができる。核酸を標識する場合は、その塩基部分と結合できるものであれば何れも用いることができるが、シアニン色素(例えば、CyDyeTMシリーズのCy3、Cy5等)、ローダミン6G試薬、N-アセトキシ-N2-アセチルアミノフルオレン(AAF)、AAIF(AAFのヨウ素誘導体)等を使用することができる。実際に使用している標識例としては、DAPI またはHoechst 33342が挙げられる。蛍光発光極大波長の差が10nm以上である蛍光物質としては、例えば、Cy5とローダミン6G試薬との組み合わせ、Cy3とフルオレセインとの組み合わせ、ローダミン6G試薬とフルオレセインとの組み合わせ等を挙げることができる。本発明では、このような標識を利用して、使用される検出手段に検出され得るように目的とする対象を改変することができる。そのような改変は、当該分野において公知であり、当業者は標識におよび目的とする対象に応じて適宜そのような方法を実施することができる。
【0067】
本発明による検出の1つの実施形態によれば、本発明によるプローブを核酸試料(mRNAまたはその転写産物)とハイブリダイズさせ、ハイブリダイゼーション複合体、すなわちヌクレオチド二本鎖、を直接または間接的に検出することにより細胞試料におけるCD44等の分子またはその分子の遺伝子の発現を検出することができる。ハイブリダイゼーション法の詳細な手順については、『Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed.』(Cold Spring Harbor Press(1989)、特にSection 9.47-9.58)、”Current Protocols in Molecular Biology”(John Wiley & Sons(1987-1997)、特にSection 6.3-6.4)、”DNA Cloning 1:Core Techniques, A Practical Approach 2nd ed.”(Oxford University(1995)、条件については特にSection 2.10)を参照しうる。
【0068】
ハイブリダイゼーション法を利用したCD44等の分子またはこれらの分子の遺伝子の発現の検出は、例えば、:(a)被験試料由来のポリヌクレオチドと、本発明によるプローブとを接触させる工程;および(b)ハイブリダイゼーション複合体を検出する工程により実施することができる。工程(a)において、目的の被験試料から調製されたmRNAまたはそのmRNAから転写された相補的DNA(cDNA)を、被験細胞試料由来のポリヌクレオチドとして、プローブと接触させることができる。プローブを用いた検出法においては、プローブを標識して用いることができる。標識としては例えば、放射能活性(例えば、32P、14C、および35S)、蛍光(例えば、FITC、ユーロピウム)、化学発色のような酵素反応(例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ)等を利用した標識が挙げられる。ハイブリダイゼーション産生物の検出は、ノーザンハイブリダイゼーション、サザンハイブリダイゼーション、コロニー・ハイブリダイゼーション等の周知の方法を用いて実施できる。ハイブリダイゼーション複合体が検出された細胞は、CD44等の分子を発現している細胞であるので、該細胞について、増殖能が高い(未分化細胞、前駆細胞または幹細胞等)および/または分化能が高いと判定することができる。
【0069】
本発明による検出の別の実施形態によれば、本発明によるプライマーまたはプライマーセットを用いて核酸増幅法により核酸試料(mRNAまたはその転写産物)を増幅させ、増幅産物を検出することにより、試料におけるCD44等の分子またはこれらの分子の遺伝子の発現を検出することができる。
【0070】
核酸増幅法を利用したCD44等の分子またはこれらの分子の遺伝子の発現の検出は、例えば、(i)被験試料由来のポリヌクレオチドを鋳型とし、本発明によるプライマーまたはプライマーセットを用いて核酸増幅法を実施する工程;および(ii)形成された増幅産物を検出する工程により実施することができる。
【0071】
工程(i)において、目的の被験試料から調製されたmRNAまたはそのmRNAから転写された相補的DNA(cDNA)を鋳型として用いることができる。増幅産物の検出は、PCR法、RT-PCR法、リアルタイムPCR法、LAMP法等の核酸増幅法を用いて実施できる。増幅産物が検出される細胞は、正常角膜内皮細胞マーカーについては、正常角膜内皮細胞の傾向が高いものであり、形質転換角膜内皮細胞マーカーについては、形質転換角膜内皮細胞の傾向が高いものであるので、該細胞について、正常または形質転換された細胞であるかどうかを判定することができる。
【0072】
免疫学的方法としては、細胞試料を必要に応じて適切な処理、例えば、細胞の分離、抽出操作などをした試料について、免疫組織染色法、酵素免疫測定法、ウェスタンブロット法、凝集法、競合法、サンドイッチ法など既知の方法を適用することができる。免疫組織染色法は、例えば標識化抗体を用いる直接法、該抗体に対する抗体の標識化されたものを用いる間接法などにより行うことができる。標識化剤としては蛍光物質、放射性物質、酵素、金属、色素など公知の標識物質を使用することができる。
【0073】
本発明において、「Rhoキナーゼ」とは、Rhoの活性化に伴い活性化されるセリン/スレオニンキナーゼを意味する。例えば、ROKα(ROCK-II:Leung, T. et al., J.Biol.Chem., 270, 29051-29054, 1995)、p160ROCK(ROKβ、ROCK-I:Ishizaki, T. et al., The EMBO J., 15(8), 1885-1893, 1996)およびその他のセリン/スレオニンキナーゼ活性を有するタンパク質が挙げられる。
【0074】
Rhoキナーゼ阻害剤としては、下記文献:米国特許4678783号、特許第3421217号、国際公開第95/28387、国際公開99/20620、国際公開99/61403、国際公開02/076976、国際公開02/076977、国際公開第2002/083175、国際公開02/100833、国際公開03/059913、国際公開03/062227、国際公開2004/009555、国際公開2004/022541、国際公開2004/108724、国際公開2005/003101、国際公開2005/039564、国際公開2005/034866、国際公開2005/037197、国際公開2005/037198、国際公開2005/035501、国際公開2005/035503、国際公開2005/035506、国際公開2005/080394、国際公開2005/103050、国際公開2006/057270、国際公開2007/026664などに開示された化合物があげられる。かかる化合物は、それぞれ開示された文献に記載の方法により製造することができる。具体例として、1-(5-イソキノリンスルホニル)ホモピペラジンまたはその塩(たとえば、ファスジル(1-(5-イソキノリンスルホニル)ホモピペラジン))、(+)-トランス-4-(1-アミノエチル)-1-(4-ピリジルカルバモイル)シクロヘキサン((R)-(+)-トランス-(4-ピリジル)-4-(1-アミノエチル)-シクロヘキサンカルボキサミド)またはその塩(たとえば、Y-27632((R)-(+)-トランス-(4-ピリジル)-4-(1-アミノエチル)-シクロヘキサンカルボキサミド2塩酸塩1水和物)など)などがあげられ、これらの化合物は、市販品(和光純薬株式会社、旭化成ファーマ等)を好適に用いることもできる。
【0075】
本明細書において「診断」とは、被験体における疾患、障害、状態(例えば、水疱性角膜症、フックス内皮ジストロフィ)などに関連する種々のパラメータを同定し、そのような疾患、障害、状態の現状または未来を判定することをいう。本発明の方法、装置、システムを用いることによって、体内の状態を調べることができ、そのような情報を用いて、被験体における疾患、障害、状態、投与すべき処置または予防のための処方物または方法などの種々のパラメータを選定することができる。本明細書において、狭義には、「診断」は、現状を診断することをいうが、広義には「早期診断」、「予測診断」、「事前診断」等を含む。本発明の診断方法は、原則として、身体から出たものを利用することができ、医師などの医療従事者の手を離れて実施することができることから、産業上有用である。本明細書において、医師などの医療従事者の手を離れて実施することができることを明確にするために、特に「予測診断、事前診断もしくは診断」を「支援」すると称することがある。
【0076】
本明細書において「治療」とは、ある疾患または障害(例えば、水疱性角膜症、フックス内皮ジストロフィ)について、そのような状態になった場合に、そのような疾患または障害の悪化を防止、好ましくは、現状維持、より好ましくは、軽減、さらに好ましくは消退させることをいい、患者の疾患、もしくは疾患に伴う1つ以上の症状の、症状改善効果あるいは予防効果を発揮しうることを含む。事前に診断を行って適切な治療を行うことは「コンパニオン治療」といい、そのための診断薬を「コンパニオン診断薬」ということがある。
【0077】
本明細書において、ある医薬成分(例えば、本発明の細胞医薬等)と別の医薬成分(例えば、ROCK阻害剤等併用薬剤等)とを「併用」することは、同時(共存)投与および連続投与を含むことを意図している。連続投与は、医薬(1種または複数種)と本発明の医薬等(1種またな複数種)を種々の順序で対象に投与することを包含することを意図する。ある医薬成分(例えば、本発明の細胞医薬)と別の医薬成分(例えば、ROCK阻害剤等)とを「併用」して投与するための薬剤は、「併用剤」と呼ばれることがある。
【0078】
本明細書において「予後」という用語は、水疱性角膜症、フックス内皮ジストロフィなどの疾患に起因する死亡または進行が起こる可能性を予測することを意味する。予後因子とは疾患の自然経過に関する変数のことであり、これらは、いったん疾患を発症した患者の再発率等に影響を及ぼす。予後の悪化に関連した臨床的指標には、例えば、本発明で使用される任意の細胞指標が含まれる。予後因子は、しばしば、患者を異なった病態をもつサブグループに分類するために用いられる。
【0079】
本明細書において「検出薬(剤)」または「検査薬(剤)」とは、広義には、目的の対象を検出または検査することができるあらゆる薬剤をいう。
【0080】
本明細書において「診断薬(剤)」とは、広義には、目的の状態(例えば、角膜内皮疾患等の疾患など)を診断できるあらゆる薬剤をいう。
【0081】
本明細書において「治療薬(剤)」とは、広義には、目的の状態(例えば、角膜内皮疾患等の疾患など)を治療できるあらゆる薬剤をいう。本発明の一実施形態において「治療薬」は、有効成分と、薬理学的に許容される1つもしくはそれ以上の担体とを含む医薬組成物であってもよい。医薬組成物は、例えば有効成分と上記担体とを混合し、製剤学の技術分野において知られる任意の方法により製造できる。また治療薬は、治療のために用いられる物であれば使用形態は限定されず、有効成分単独であってもよいし、有効成分と任意の成分との混合物であってもよい。また上記担体の形状は特に限定されず、例えば、固体または液体(例えば、緩衝液)であってもよい。なお医薬は、予防のために用いられる薬物(予防薬)、または角膜内皮疾患の状態を改善する医薬(治療薬)を含む。
【0082】
本明細書において「予防」とは、ある疾患または障害(例えば、角膜内皮疾患)について、そのような状態になる前に、そのような状態にならないようにすることをいう。本発明の薬剤を用いて、診断を行い、必要に応じて本発明の薬剤を用いて例えば、疾患等の予防をするか、あるいは予防のための対策を講じることができる。
【0083】
本明細書において「予防薬(剤)」とは、広義には、目的の状態(例えば、角膜内皮疾患など)を予防できるあらゆる薬剤をいう。
【0084】
一般的に、本発明の組成物、医薬、剤(治療剤、予防剤等)等は、治療有効量の医薬または有効成分、および薬学的に許容しうるキャリアもしくは賦形剤を含む。本明細書において「薬学的に許容しうる」は、動物、そしてより詳細にはヒトにおける使用のため、政府の監督官庁に認可されたか、あるいは薬局方または他の一般的に認められる薬局方に列挙されていることを意味する。本明細書において使用される「キャリア」は、医薬を一緒に投与する、培養液、注入ビヒクル、潅流液、希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルを指す。本発明の細胞医薬は、細胞を主成分として含むため、キャリアとしては、培養液、注入ビヒクル、潅流液などの、細胞を維持し得るものが好ましい。本発明は細胞医薬の他に、他の医薬、例えば、ステロイド剤、抗生物質、ROCK阻害剤等を併用することがあるが、そのような医薬については、通常の医薬と同様の投与形態が可能である。その場合のキャリアは、無菌液体、例えば水および油であることも可能であり、石油、動物、植物または合成起源のものが含まれ、限定されるわけではないが、ピーナツ油、ダイズ油、ミネラルオイル、ゴマ油等が含まれる。例えば、医薬(組成物)を静脈内投与する場合は、生理食塩水および水性デキストロースが好ましいキャリアである。好ましくは、生理食塩水溶液、並びに水性デキストロースおよびグリセロール溶液が、注射可能溶液の液体キャリアとして使用される。医薬を経口投与する場合は、水が好ましいキャリアである。適切な賦形剤には、軽質無水ケイ酸、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、モルト、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノール、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩等が含まれる。組成物は、望ましい場合、少量の湿潤剤または乳化剤、あるいはpH緩衝剤もまた含有することも可能である。これらの組成物は、溶液、懸濁物、エマルジョン、錠剤、ピル、カプセル、粉末、持続放出配合物等の形を取ることも可能である。伝統的な結合剤およびキャリア、例えばトリグリセリドを用いて、組成物を座薬として配合することも可能である。経口配合物は、医薬等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリン・ナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの標準的キャリアを含むことも可能である。適切なキャリアの例は、E.W.Martin, Remington’s Pharmaceutical Sciences(Mark Publishing Company, Easton, U.S.A)に記載される。このような組成物は、患者に適切に投与する形を提供するように、適切な量のキャリアと一緒に、治療有効量の療法剤、好ましくは精製型のものを含有する。配合物は、投与様式に適していなければならない。これらのほか、例えば、界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等を含んでいてもよい。
【0085】
本発明を医薬として投与する場合、種々の送達(デリバリー)系が知られ、そしてこのような系を用いて、本発明の医薬を適切な部位(例えば、眼前房)に投与することも可能である。本発明の細胞医薬は、代表的な投与形態としては、前房への注入があり、そのような場合は、細胞を注入ビヒクルに懸濁し、前房内に針(例えば、26G針)を用いて注入することができる。他の併用薬については、通常の医薬と同様の投与形態が可能であり、このような系には、例えばリポソーム、微小粒子、および微小カプセル中の被包などがある。投与方法には、限定されるわけではないが、皮内、筋内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻内、硬膜外、および経口経路が含まれる。好適な経路いずれによって、例えば注入によって、ボーラス(bolus)注射によって、上皮または皮膚粘膜裏打ち(例えば口腔、直腸および腸粘膜など)を通じた吸収によって、医薬を投与することも可能であるし、必要に応じてエアロゾル化剤を用いて吸入器または噴霧器を使用しうるし、そして細胞と一緒に投与することも可能である。投与は全身性または局所であることも可能である。
【0086】
好ましい実施形態において、公知の方法に従って、ヒトへの投与に適応させた医薬組成物として、組成物を配合することができる。このような組成物は注射または注入により投与することができる。組成物を注入によって投与しようとする場合、細胞注入液、無菌薬剤等級の水または生理食塩水を含有する注入ビンを用いて、分配することも可能である。
【0087】
本発明の併用薬(例えば、抗生物質、ROCK阻害剤)等の低分子または高分子の医薬を中性型または塩型あるいは他のプロドラッグ(例えば、エステル等)で配合することも可能である。薬学的に許容しうる塩には、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などに由来する遊離型のカルボキシル基とともに形成されるもの、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどに由来するものなどの遊離型のアミン基とともに形成されるもの、並びにナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、および水酸化第二鉄などに由来するものが含まれる。
【0088】
特定の障害または状態の治療に有効な本発明の医薬の量(細胞数や投与回数等)は、障害または状態の性質によって変動しうるが、当業者は本明細書の記載に基づき標準的臨床技術によって決定可能である。さらに、場合によって、in vitroアッセイを使用して、最適投薬量範囲を同定するのを補助することも可能である。配合物に使用しようとする正確な用量はまた、投与経路、および疾患または障害の重大性によっても変動しうるため、担当医の判断および各患者の状況に従って、決定すべきである。しかし、投与量は特に限定されないが、本明細書において記載した任意の細胞密度および量を採用することができ、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよく、例えば、1.5×106個が例示される。投与間隔は特に限定されないが、例えば、単回投与でもよく、1、7、14、21、または28日あたりに1または2回投与してもよく、それらいずれか2つの値の範囲あたりに1または2回投与してもよい。投与量、投与間隔、投与方法は、患者の年齢や体重、症状、対象疾患等により、適宜選択してもよい。また治療薬は、治療有効量、または所望の作用を発揮する有効量の有効成分を含むことが好ましい。病態を示すマーカーが、投与後に有意に減少した場合に、治療効果があったと判断してもよい。有効用量は、in vitroまたは動物モデル試験系から得られる用量-反応曲線から推定可能である。
【0089】
本発明の一実施形態において「患者」は、ヒトが主に想定されるが、適用可能である限りヒトを除く哺乳動物であってもよい。
【0090】
(好ましい実施形態)
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、本発明の以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができることが理解される。
【0091】
(ヒトの眼前房内への移入時にヒト角膜内皮機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞)
一つの局面において、本発明は、ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜内皮機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞(本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞ともいう。)を提供する。本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞は、成熟分化角膜内皮の角膜内皮機能特性を有するものであり、細胞注入治療(例えば、ヒトの眼前房内への注入時に角膜内皮機能特性を惹起し得る)においても効果を奏するものであることから、代表的には、ヒトの眼前房内への注入時に角膜内皮機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞ということができる。本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞は機能性成熟分化角膜内皮細胞のほか、中程度分化角膜内皮細胞を含みうる。本発明の機能性成熟分化角膜内皮細胞は、角膜内皮機能を発揮する成熟分化した細胞であり、注入に最適な亜集団であるエフェクター細胞が小型で六角形の敷石様形状を形成しミトコンドリア機能によるエネルギー代謝系を利用する。
【0092】
従来「培養角膜内皮細胞」または「培養ヒト角膜内皮細胞」との名称の細胞が報告されているが、これらが複数の亜集団から構成されていることは知られておらず、これを明らかにし、その中で特に細胞注入療法に最適な亜集団が存在することも知られていなかったことから、本発明の意義は大きい。特に、本発明の開示前は、再生医療に随伴する細胞の不均質性に係る課題自体がヒト角膜内皮細胞においては明確には認識されておらず、このような課題を見出し解決したことの意義は大きい。ヒト角膜内皮細胞(HCEC)は、インビボでは細胞分裂することができず細胞周期のG1期で停止しているものの、増殖能は依然保持しているとされているが、近年の研究から、HCECを長期間培養することは大変困難であると理解されていたからである。
【0093】
本発明の応用例として、特に、高品質で核型異常を示さず免疫拒絶応答を惹起しない「アロ」機能性成熟分化ヒト角膜内皮細胞を懸濁液として用いて前房内注入による角膜内皮機能の再生を可能とするという点で注目される。本発明の細胞を用いた医療技術では、特に、若年者ドナー由来の角膜内皮細胞を、生体外で拡大培養、増幅後、細胞懸濁液を水疱性角膜症患者の前房内に注入する治療を可能とするものであり、ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針に基づく臨床研究において、ヒト適用においての安全性、臨床POCが本発明により実証・確立されたものである。
【0094】
本発明の細胞を提供することができた経緯の一つとして、注入治療に用いる細胞は不均質細胞亜集団の混合物であること、および治療に使用され得る「ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜内皮機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞」はその一部に限定されることを見出したことがある。
【0095】
本発明において、角膜内皮細胞では、核型異常は亜集団選択的に生じ、亜集団選択的に反応する自己抗体が存在することも判明した。本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞は、特に、機能性成熟分化角膜内皮細胞ではかかる異常はなく、他亜集団に比較し、免疫拒絶反応に係るHLAクラスI抗原は他亜集団より相対的に低発現で、従来、細胞マーカーではないかとこれまで想定されていたCD200抗原の発現が陰性であることも判明した。非目的細胞では細胞老化に係るサイトカイン(SASP関連タンパク質)産生が高いことも判明した。
【0096】
本発明の開示前は、再現性の良い培養手段が限られていたため、線維化や細胞老化、上皮間葉系移行(EMT)などのような細胞状態相転移(CST)がなく核型異数性のない培養ヒト角膜内皮細胞をインビトロで増殖しようとする試みは、その細胞特性に関する知見ならびに細胞集団が複数の亜集団から構成されるのか、培養条件により産生される細胞集団が安定的公正を示すかなどに関する知見・報告が全くなく、そうした視点での解析すら行われていなかったため、著しく困難であった。
【0097】
培養HCECは、CSTを起こして老化表現型、EMTおよび線維芽細胞形態に向かう傾向がある。本発明者らは、これらを識別する明確な細胞表面マーカーを同定し、非機能性ヒト角膜内皮組織の再構築に適用可能であるHCEC集団を規定することを可能にした。
【0098】
cHCECにおける核型異数性の報告およびcHCECの代謝プロファイルの可塑性を考慮して、SPを規定するためにいくつかのCDマーカーを選択した。すなわち、CD166, CD44, CD49e, CD73, CD105, CD90, CD133, CD26およびCD24であり、これらは全て、間葉系幹細胞(MSC)、がん幹細胞(CSC)またはCST中の形質変化になんらかの関連がある(Davies S, Beckenkamp A, Buffon A. Biomed Pharmacother. 2015; 71:135-8; Roberta Pang, et al., Stem Cell, 6, 2010, 603-615; Krawczyk N, et al., Biomed Res Int. 2014; 2014:415721. Epub 2014 May 8; Irollo E, Pirozzi G. Am J Transl Res. 2013 Sep 25; 5:563-81; Williams K, et al., Exp Biol Med (Maywood). 2013; 38:324-38; Zhe Shi, et al., Mol Cell Biochem (2015) 401:155-164)。この選択はもっともらしかったが、これは正常な幹細胞は組織中で最も長く生存する細胞であり、時間経過により変異を蓄積している可能性が高く、CSCsはmay arise from transit-amplifying cellから発生するという理由からであった(B.J. Huntly Cancer Cell, 6 (2004), 587-596; C.H. Jamieson et al., N. Engl. J. Med., 351 (2004), pp. 657-667)。
【0099】
本発明が開示される前は、真の意味でのヒト機能性成熟分化角膜内皮細胞の特異的細胞表面マーカー(群)は認められていなかった。Glypican-4およびCD200は、HCECを角膜実質線維芽細胞から区別するためのHCECマーカーとして提唱された(Cheong YK et al., Invest Ophthalmol Vis Sci. 2013; 54: 4538-4547)。しかし、HCEC培養の実際的な問題は、脆弱な形質転換した培養ヒト角膜内皮細胞が混在することであることが見いだされた。この点は、本発明で提供される製造方法で解消することができた。
【0100】
フローサイトメトリー分析によって、数種類の培養ヒト角膜内皮細胞の亜集団が存在することを示し、代表的にCD166陽性, CD105陰性, CD44陰性, CD24陰性, CD26陰性という表面発現を示す1種類の特定の培養ヒト角膜内皮細胞の亜集団は、CSTを有さない亜集団であることを示した。このことは、この亜集団を臨床的使用に適用することを可能にした初の知見であり、本明細書に規定されるCDマーカーの組み合わせは、臨床適用のための培養ヒト角膜内皮細胞の機能的特徴を保証するための品質管理に適切である。本発明者らはさらに研究を進め、機能性成熟分化角膜内皮細胞の角膜内皮機能特性をより適切に反映する細胞指標を見出した。
【0101】
一つの実施形態では、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞は、本明細書において規定される細胞指標の角膜発現特性を有する。
【0102】
本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞が有し得る細胞指標には、細胞表面マーカー(CDマーカー等)、細胞産物特性、細胞形態指標、細胞の遺伝子特性などが含まれ、具体的には、細胞表面マーカー(CDマーカー等);タンパク質性産物および該産物の関連生体物質の特性;SASP関連タンパク質の発現特性;miRNA(例えば、細胞内miRNA、分泌型miRNA等)の発現;エキソゾームの特性;細胞代謝産物および該産物の関連生体物質の発現特性;細胞の大きさ;細胞の密度および自己抗体反応性細胞の存在を含みうる。本発明の機能性成熟分化角膜内皮細胞は、その細胞指標が、特定の範囲またはレベルの細胞機能特性またはその組み合わせを示す。したがって、特定の細胞指標の特定の範囲またはレベルの細胞機能特性またはその組み合わせを定めることにより、本発明の機能性成熟分化角膜内皮細胞かどうかを判定することができる。本発明の機能性成熟分化角膜内皮細胞に特有の特定の範囲またはレベルの細胞機能特性またはその組み合わせについては、本発明で初めて同定されたものであり、これにより種々の細胞の亜集団を特定することができ、品質管理や品質検定をすることができるようになり、ひいては、効果の高い治療を達成することが可能となった。以下に、これらの細胞指標およびその特定の範囲またはレベルの細胞機能特性またはその組み合わせについて、具体的に詳細に説明する。
【0103】
特定の実施形態では、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞は、CD166陽性およびCD133陰性を含む細胞機能特性を有する。さらなる細胞機能特性として重要なものにCD44の発現特性があり、その発現強度は好ましくは、CD44陰性~中陽性、より好ましくは、CD44陰性~弱陽性、さらに好ましくは、CD44陰性を挙げることができるが、それに限定されない。本発明では、角膜内皮細胞または角膜内皮様に分化させた細胞において機能性かどうかを確認するために、CD166陽性およびCD133陰性であることを確認することによって、機能性かどうかを確認することができることを見出した。これに加えて、CD44についてもその発現が低い(CD44陰性~中陽性、好ましくは、CD44陰性~弱陽性)ことを確認することで、機能性かどうかをより高い精度で見出すことができた。
【0104】
したがって、好ましい実施形態では、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞は、CD166陽性、CD133陰性およびCD44陰性~弱陽性を含む細胞機能特性を有する。理論に束縛されることを望まないが、これらの3つの細胞マーカーを有することによって、角膜内皮細胞または角膜内皮様に分化させた細胞において、高い品質の機能性を有する機能性成熟分化角膜内皮細胞であることが確認された。このような機能性は、臨床研究の結果において、短期間(例えば、1か月程度)で、角膜内皮細胞検査(スペキュラ)の値で見ると約1000(個/mm2)を超えるレベル、約2000(個/mm2)を超えるレベル、好ましくは約2300(個/mm2)を超えるレベル、さらに好ましくは約2500(個/mm2)を超えるレベル、場合によっては約3000(個/mm2)を超えるレベルという高いレベルの治療効果が達成されることが示されている。
【0105】
さらに好ましくは、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞は、CD166陽性、CD133陰性およびCD44陰性を含む細胞機能特性を有する。理論に束縛されることを望まないが、CD44陰性細胞にさらに限定することによって、増殖能等が高度に担保された品質の高い細胞(本明細書では「高品質」の機能性成熟分化角膜内皮細胞ということがある。)をより適切に提供することができる。「高品質」の機能性成熟分化角膜内皮細胞は、より安定し、改善された角膜内皮機能特性を有する。
【0106】
別の実施形態では、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞は、CD166陽性、CD133陰性およびCD200陰性を含む細胞機能特性を有する。従来CD200については、CD200陽性が角膜内皮細胞の特性であるといわれてきたが、本発明において亜集団ごとに詳細に検討することにより、CD200陽性細胞は移入には適さないCSTを有する大型細胞であることが判明するとともに、CD200陰性がヒトの眼前房内への移入時にヒト角膜内皮機能特性を惹起し得る機能性角膜内皮細胞の特性であることを見出した。このような特性については、従来の知見では予想できなかったことであり、本発明において亜集団を丹念に分析した結果であるともいえる。
【0107】
別の実施形態では、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞は、CD166陽性、CD133陰性、CD44陰性~CD44弱陽性およびCD90陰性~弱陽性を含む細胞機能特性を有する。これによりさらに細胞の同質性を担保することができる。あるいは、細胞表面抗原は、CD166陽性、CD133陰性、およびCD44陰性~中陽性、CD90陰性表現型を含む。別の実施形態において、細胞葉面抗原は、CD166陽性、CD133陰性、およびCD44陰性~CD44弱陽性表現型を含み、あるいは、細胞は、CD44陰性~CD44弱陽性表現型を含む細胞表面抗原を発現する。
【0108】
本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞は、さらに追加の細胞機能特性を有し得る。このような細胞機能特性としては、CD90陰性(CD90陰性~弱陽性)、CD105陰性~弱陽性、CD24陰性、CD26陰性、LGR5陰性、SSEA3陰性、MHC1弱陽性(特に、相転移細胞に比較して弱陽性である。)、MHC2陰性、PDL1陽性、ZO-1陽性、Na+K+/ATPase陽性、Claudin10陽性および以下の表1A
【0109】
【0110】
(ここで、各マーカーの蛍光強度中央値÷陰性対照(アイソタイプコントロール抗体による染色)の値が
30以上:強陽性
10以上30未満:中陽性
5以上10未満:弱陽性
(なお、弱陽性、中陽性、強陽性を合わせて「陽性」という)
5未満:陰性
に記載の発現特性のうち、一つまたはそれより多くの発現特性を含みうるが、これらに限定されない。あるいは、群は、CD105陰性~弱陽性、CD24陰性、CD26陰性、LGR5陰性、SSEA3陰性、MHC1弱陽性、MHC2陰性、ZO-1陽性、Na+/K+ATPase陽性からなる群であってもよい。
【0111】
本発明で使用される各種遺伝子は以下のアクセッション番号で特定される。
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
なお、本発明で挙げる他のタンパク質すべてにも同じことがあてはまる。従って、既定のタンパク質または核酸の名称は、配列表に示すようなタンパク質または核酸を指すだけでなく、機能的に活性な誘導体も含まれることが理解される。
【0118】
本明細書において、CDマーカー等の細胞指標のマーカーの発現の強度は、発現が実質的にないものを陰性(-と表示することがある。また、-と±とを分ける場合はいずれも含む)と表示する。ここで、陰陽性(dull Positive)は本明細書では陰性に包含する。陰性ではないもの、すなわち発現が有意に観察されるものを陽性(すなわち、+と-との2分類で表示する場合は+と表示することがある。)で表す。特に発現レベルを区別する場合、その強度を3段階に分類し、弱陽性、中陽性、強陽性で識別する。FACS測定の結果グラフの表示等の関係から、これらは、+の個数で表示することもあり、弱陽性、中陽性、強陽性はそれぞれ、+、++、+++で表示されることもあるが、これらは同義である。この場合、「弱陽性」「中陽性」「強陽性」として区別することができる。区別しない場合は、単に陽性といってもよい。弱陽性には満たない場合通常は陰性という。これらのレベルの強度は、当該分野で慣用される通りに用いられる。これらのレベルは、相対的なものであり、以下のように定義する。例えば、「-」は発現が実質的にみられないものを指す。発現が認められるものは、弱陽性、中陽性、強陽性の三段階に分類する。FACS分離の際に、シグナルは陰性、弱陽性、中陽性、強陽性に等級づけることができる。
【0119】
具体的なレベルは、FACSにおけるシグナル強度の表示に関して、陰性、陰陽性、弱陽性、中陽性、強陽性の表示について、平均蛍光シグナル強度(MFI)を用いて識別することができる。細胞の分布をヒストグラムで表示して、相対的に判断して陰性、陰陽性、弱陽性、中陽性、強陽性を表示することができるが、さらに具体的な測定値についての判断基準を説明すると、具体的には以下のようなレベルが例示される。
【0120】
本明細書では、CDマーカー等の細胞指標のマーカーの発現の強度は代表的に、標識の蛍光の種類、機器設定により蛍光強度が異なるため、以下の条件:PE-Cy 7 標識抗ヒトCD44抗体(BD Biosciences)を使用して、FACS Canto II の Blue laser の Area Scaling Factor を0.75、PE-Cy 7 のvoltage を 495 に設定した場合の弱の蛍光強度範囲はおよそ3800未満、中の蛍光強度範囲はおよそ3800以上~27500未満、強の蛍光強度範囲はおよそ27500以上である。尚、本明細書の実施例において、この設定での陰性対照(アイソタイプコントロール)の平均蛍光強度はおよそ50であった。(55±25の範囲、細胞ロットにより同じ設定でも多少ずれることがあるが、当業者はこれらのずれを理解して実施することができる。)。したがって、「弱の蛍光強度範囲はおよそ3800未満、中の蛍光強度範囲はおよそ3800以上~27500未満、強の蛍光強度範囲はおよそ27500以上である。」からすると、陰性対照(アイソタイプコントロール)の平均蛍光強度PE-Cy 7: 約50 [33~80程度]であるため、弱:<76倍、中:76~550倍、強>550倍となる。陰性対照(アイソタイプコントロール)について同じ染色強度パターンであれば陰性であり、少しでもシフトすれば陽性と判断する。
【0121】
本明細書において使用される場合、他の設定値としては以下を挙げることができる:
・Area Scaling Factor: FSC=0.5、Blue laser= 0.75、Red laser=0.8
・voltage: FSC=270、SSC=400、FITC=290、PE=290、PerCP-Cy 5.5=410、PE-Cy 7=495、APC=430
・陰性対照(アイソタイプコントロール)の平均蛍光強度としては、以下を挙げることができる。
FITC: 約130 [65~225程度]
PE: 約120 [73~204程度)]
PerCP-Cy5.5: 約120 [74~191程度]
PE-Cy 7: 約50 [33~80程度]
APC: 約110 [67~196程度]。
【0122】
別の実施形態において、Lyoplate実験を用いる場合(実施例、表2)、検出にはAlexa Fluor 647標識2次抗体(キット付属)を使って測定する。その場合、弱陽性、中陽性、強陽性は、以下のように定義され得る。すなわち、各マーカーの蛍光強度中央値÷陰性対照(アイソタイプコントロール抗体による染色)の値が左の場合右の分類となる。
30以上:強陽性
10以上30未満:中陽性
5以上10未満:弱陽性
(なお、弱陽性、中陽性、強陽性を合わせて「陽性」という
5未満:陰性
なお、このような細胞のマーカーの強度は、蛍光活性化細胞分類及び免疫組織化学など(これらに限定されるものではない)の技術によって容易に評価できる。上記のマーカー及びそれらの発現レベルに関して、「陰性」はマーカーの発現が欠如している又はそのレベルが著しく低いことを意味し、「陽性」は発現が顕著であることを意味する。細胞マーカーの「陰性」から「陽性」への移行は、欠如している発現又は低レベルの発現から高レベル又は著しいレベルの発現への変化を示す。「弱陽性」という用語は弱い発現すなわち低レベルの発現を意味し「低発現」と表示されることもあり、「中陽性」とは容易に検出できる中レベルの発現を意味するため「中発現」と表現されることもあり、「強陽性」は発現が顕著でありきわめて容易に検出できる強い発現すなわち高レベルの発現を意味し、「高発現」と表示されることもある。この場合、「弱陽性」から「中陽性」)、「中陽性」から「強陽性」又は「強陽性」から「中陽性」、「中陽性」から「弱陽性」への発現の移行は、容易に確認できる。例えば、非目的細胞はCD44強陽性を示し、前駆細胞はCD44中陽性を示し、本発明の機能性成熟分化角膜内皮細胞はCD44陰性またはCD44弱陽性を示す。例えば実施例で示されているように、2つ以上の細胞表面マーカー等を用いて細胞を亜集団等に分類することができる。
【0123】
本発明で使用される更なる細胞指標には、MHC-1、MHC-2の発現強度が含まれるが、いずれも免疫拒絶がないことに関連するものである。本発明は臨床的に、細胞注入治療に使用されることから、免疫拒絶反応がないか、低いことが好ましい。
【0124】
本発明で使用される更なる細胞指標には、ZO-1、Na+K+/ATPaseが含まれる。これらはヒト角膜内皮細胞の機能性を示すために密接に関連する特性であることから、これらはいずれも正常に明確に発現していること(+)が好ましい。
【0125】
本発明では、タンパク質性産物または該産物の関連生体物質もまた、細胞指標として使用することができる。本発明では、例えば(A)本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞(機能性成熟分化角膜内皮細胞を含む)において、発現が上昇するものおよびならびに(B)本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞(機能性成熟分化角膜内皮細胞を含む)において発現が下がるものCD44を挙げることができる。本発明のタンパク質性産物または該産物の関連生体物質は、これらの細胞指標の1つまたは複数の組合せによって、対象細胞が本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞(機能性成熟分化角膜内皮細胞や中程度分化角膜内皮細胞)かどうかを判定することができ、ある実施形態では、(A)から複数選択して組み合わせてもよく、(B)から複数選択して組み合わせてもよく、あるいは(A)のものと(B)のものを組み合わせて利用することができる。理論に束縛されることを望まないが、これらの遺伝子は、発現量が比較的多く、治療に適した細胞と適していない細胞とを明確に分類することができるものであるからである。(A)については、中程度分化角膜内皮細胞もまた、機能性成熟分化角膜内皮細胞と同様の傾向を示すものと理解される。
【0126】
この他、好ましい実施形態において、以下に記載されるものを1つまたは複数使用することができる(一部上記のものと重複し得る)。
【0127】
【0128】
これを形態ベースでみると、以下のような特性を有することが判明しており適宜これらの情報を用いてマーカーを使用することができる。すなわち、MMP9、SPP1、STEAP1、IL33、TSLP、CDH1は発現強度が少ないため、定量実験をする際には工夫が必要である。COL4A1、COL4A2、COL8A1、COL8A2、CDH2、TGF-β2は本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞において発現量が上がるものである。MMP1、MMP2、TIMP1、BMP2、IL13RA2、TGF-β1、CD44、COL3A1、IL6、IL8、HGF,THBS2、IGFBP3は非機能性細胞において発現量が上昇するものである。MMP4、CD105、CD24は本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞と非機能性細胞とで発現強度が識別され得るものである。CD166、IGFBP7も使用し得る。
【0129】
本発明が提供する本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞は、革新的な治療法を臨床応用を可能とするものであるところ、品質管理することが必要であり、そのための信頼度の高い方法が必要とされる。細胞相転移(CST)および核型異常(異数性)を起こさない機能性成熟分化角膜内皮細胞の識別および品質管理のために遺伝子の多様性を利用することができることを本発明で明らかにした。角膜内皮細胞の形態的特徴は、同一の培養プロトコルを使用した場合でさえ培養間で大きく異なる。角膜内皮細胞を細胞注入療法に適用する際の最も大きな障害の1つは、角膜内皮細胞が、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞として細胞品質を満たしているかをどのように検証するかにあるが、本発明では、遺伝子多様性をも利用することによってこのことを解決することができる。
【0130】
一つの実施形態では、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞は、特定のサイトカインやその関連物質について機能性に特異的な特性を有し得る。そのような特性としては、例えば、PDGF-BB高産生、IL-8低産生、MCP-1低産生、TNF-α高産生、IFNγ高産生、およびIL-1Rアンタゴニスト高産生、VEGF低産生等を挙げることができるがこれらに限定されない。好ましい指標としては、炎症性の細胞等他を攻撃する状態を反映する場合のサイトカインレベルは好ましくなく、正常状態である場合の状態を反映するサイトカインレベルが好ましい。
【0131】
本明細書において使用される場合、「高産生」「低産生」とは、相対的なものであり、各々のサイトカイン等によって、通常観察されるレベルと比較して高いか低いかで判断する。例えば、本発明で使用される場合、実施例4で例示される培養方法(Opti-MEM-I (Life Technologies Corp., Carlsbad, CA, USA)、8%のウシ胎児血清(FBS)、5 ng/mLの上皮成長因子、20 μg/mLのアスコルビン酸, 200 mg/Lの塩化カルシウム、0.08%のコンドロイチン硫酸および50 μg/mLのゲンタマイシンを用いた基礎培地、適宜の馴化培地(Nakahara, M. et al. PLOS One (2013) 8, e69009参照)を用いる)での培養を行った場合、代表的に、PDGF-BBは約30pg/ml以上であることが好ましく、IL-8は約500pg/mlであることが好ましい。また、MCP-1は約3000pg/ml以下であることが好ましい。TNF-αは約10pg/ml以上であることが好ましく、IFNγは約30pg/ml以上であることが好ましく、IL-1Rアンタゴニストは、約40pg/ml以上であることが好ましく、VEGFは約200~500pg/ml以下であることが好ましい。
【0132】
本発明の利点は、外観試験を超える最終製造物たる本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞の品質評価を行うための細胞指標を提供する点にもある。なぜなら、本発明の研究課程において、製品品質を型物規格やタンパク性分泌産物で規定しても臨床上の薬理効果と対応しないことが判明したからである。ヒト幹臨床研究で適用した規格はすべて完全に満足されていることが確認されているが、非目的細胞の構成割合やタンパク生産物MCP-1の産生量が望ましくない範囲であることが判明した。したがって、MCP-1での指標もまた、好ましい実施形態では、低産生であることが好ましい。
【0133】
本発明の細胞は、使用前に品質検定を行ったとき、以下のような基準を満たしていることが好ましい。
【0134】
ここで外観試験は、六角形の敷石様形状であることや線維化していないことを確認することなどを含む。
【0135】
【0136】
E-ratioの算出方法、非目的細胞A、B、Cの算出方法は以下のとおりである。
【0137】
E-ratioの算出方法:代表的に、標識の蛍光の種類、機器設定により蛍光強度が異なるため、以下の条件:PE-Cy7標識抗ヒトCD44抗体(BD Biosciences)を使用して、FACS Canto IIのBlue laserのArea Scaling Factorを0.75、PE-Cy7のvoltageを495に設定した場合の測定において、ゲートを以下のように設定する。まず、X軸がCD24、Y軸がCD166のドットプロット(
図68、左上段)において、画分A、B、C、Dを設定する。このとき、画分AはCD24陰性かつCD166陽性、画分BはCD24陽性かつCD166陽性、画分CはCD24陰性かつCD166陰性、画分DはCD24陽性かつCD166陰性である。解析対照細胞を100%としたときの画分Bの割合を非目的細胞C [CD24陽性細胞]の含有率とする。画分BについてさらにX軸がCD44、Y軸がCD105のドットプロットにおいて、
図68左下段のように画分1、2、3を設定する。このときの画分1の割合をE-ratio、画分1の割合と画分2の割合の合計値を「機能性成熟分化角膜内皮細胞+中程度分化角膜内皮細胞」含有率、画分3の割合を非目的細胞A [CD44強陽性細胞]の含有率とする。また、これらとは別にX軸がCD44、Y軸がCD26のドットプロットを作成し、
図68右上段図のように画分a’、b’、c’、d’を設定する。解析対照細胞を100%としたときの画分Bの割合を非目的細胞B[CD26陽性細胞]の含有率とする(
図68参照)。
【0138】
一つの実施形態では、本発明は、miRNAで初めてその機能性を識別することができたことに基づき、特定のmiRNAを有する細胞、特に角膜内皮細胞を提供する。本発明では、miRNAの種類の相違を、それが発現する細胞の機能性を同定することに使用することができることを初めて提供するものである。microRNA(miRNAもしくはmiR)は、遺伝子発現の内因性レギュレーターとして機能するノンコーディング小分子RNAである。それらのディスレギュレーションは、様々な疾患の病因に関係している。miRNAが、細胞増殖、発達、および分化を含む様々な生物学的プロセスにおいて重要な役割を果たしていることを示唆する証拠は強化されている(Bartel DP. Cell. 2004; 116:281-297;Croce CM, Cell. 2005; 122:6-7)。miRNAの発現は、細胞外マトリックス(ECM)の形成、維持、再構築を含む多くの細胞プロセスの調節において必須であり(Rutnam ZJ, Wight TN, Yang BB. Matrix Biol. 2013; 32:74-85)、それはcHCECにおけるCSTと密接なつながりを有する。角膜内皮に関係するmiRNA発現について、機能性成熟分化角膜内皮細胞を識別することができる情報は現在存在していない。本発明は、そのような中、機能性成熟分化角膜内皮細胞の識別に使用することができるmiRNAを見出した。このようなmiRNAは、3D-Gene miRNAマイクロアレイプラットフォーム(例えば、日本、鎌倉、Torayから市販される)および階層クラスタリングによって、表現型の異なる機能性成熟分化角膜内皮細胞の比較研究を行うことにより、多種類のmiRNAの発現パターンが明らかになった。アップおよびダウンレギュレートされたmiRNAクラスターを含む独特なmiRNA発現パターンが、培養細胞および対応する培養上清において明らかにされた。培養上清におけるmiRNA、すなわち分泌型miRNAは、前房への注入による細胞治療に適合した機能性成熟分化角膜内皮細胞を非侵襲的に識別するためのツールとして働き得る。
【0139】
代表的な実施形態において、例えば、機能性成熟分化角膜内皮細胞(a5)、中程度分化角膜内皮細胞(a1)および角膜内皮非機能性細胞(a2)として、a5の発現特性は、CD44陰性~弱陽性CD24陰性CD26陰性であると定義される場合、a1の発現特性は、CD44中陽性CD24陰性CD26陰性であり、a2の発現特性は、CD44強陽性CD24陰性CD26陽性であるとすると、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞は、少なくとも一つのmiRNAがa5特性を有する。
【0140】
一つの実施形態では、本発明において使用される前記miRNAマーカーとしては以下が提供される。すなわち、前記miRNAの特性は以下:
(A)機能性成熟分化角膜内皮細胞(a5):中程度分化角膜内皮細胞(a1):角膜内皮非機能性細胞(a2)=高発現:高発現:低発現を示すもの:
(細胞内)miR23a-3p、miR23b-3p、miR23c、miR27a-3p、miR27b-3p、miR181a-5p、miR181b-5p、miR181c-5p、miR181d-5p
(細胞分泌型)miR24-3p、miR1273e;
(B)a5:a1:a2=高発現:中発現:低発現を示すもの:
(細胞内)miR30a-3p、miR30a-5p、miR30b-5p、miR30c-5p、miR30e-3p、miR30e-5p、miR130a-3p、miR130b-3p、miR378a-3p、miR378c、miR378d、miR378e、miR378f、miR378h、miR378i、miR184、miR148a-3p
(細胞分泌型)miR184;
(C)a5:a1:a2=高発現:低発現:低発現を示すもの:
(細胞内)miR34a-5p、miR34b-5p
(細胞分泌型)miR4419b、miR371b-5p、miR135a-3p、miR3131、miR296-3p、miR920、miR6501-3p;
(D)a5:a1:a2=低発現:低発現:中高発現を示すもの:
(細胞内)miR29a-3p、miR29b-3p、miR199a-3p、miR199a-5p、miR199b-5p、miR143-3p
(細胞分泌型)miR1915-3p、miR3130-3p、miR92a-2-5p、miR1260a;
(E)a5:a1:a2=低発現:中発現:高発現を示すもの:
(細胞内)miR31-3p、miR31-5p、miR193a-3p、miR193b-3p、miR138-5p
(F)a5:a1:a2=高発現:低発現:高発現を示すもの:
(細胞分泌型)miR92b-5p
(G)a5:a1:a2=低発現:高発現:低発現を示すもの:
(細胞分泌型)miR1246、miR4732-5p、miR23b-3p、miR23a-3p、miR1285-3p、miR5096
からなる群より選択される少なくとも一つのmiRNAを含み、発現水準は3種の細胞間での相対的強度であり、該a5の細胞表面抗原の特性は、CD44-~弱陽性、CD24陰性CD26陰性であり、該a1の細胞表面抗原の発現は、CD44中陽性CD24陰性-CD26陰性であり、該a2の細胞表面抗原の発現は、CD44強陽性CD24陰性CD26陽性である。
【0141】
発現強度が強発現>中発現>低発現であり、強発現と低発現との間には統計学的に有意な差異がある。上記を模式的に表すと以下のとおりである。
【0142】
【0143】
これらの強発現、中発現、弱発現は、各々のmiRNAによって絶対的なレベルは異なるが、実際の測定の際には、適宜決定することができる。代表的には、miR発現量(発現強度)とは蛍光強度が測定されている遺伝子を判定したのち、サンプル間の遺伝子総コピー数が大きく違わないと仮定した上で検出された全遺伝子の発現強度中央値が同一になるように補正した値で比較したものである。強発現と弱発現では有意な差(相対比2倍以上P-value0.05以下)がみられている。必要に応じて中発現を含める。3群以上の細胞において最強のものと最弱のものとは異なる第三の発現強度が認められる場合に中発現を含めて評価する。
【0144】
本発明で使用される各種miRNAは以下の番号で特定される。本発明で用いられる場合は、成熟型(MiRBase)の情報に基づいて相対強度を測定することができるが、これに限定されず、当業者は、Stem-Loopの情報を用いて適宜情報を処理することで、同様に、相対強度を測定することができることが理解される。
【0145】
【0146】
【0147】
【0148】
好ましい実施形態では、本発明で使用されるmiRNAマーカーは、上記分類のうち、(B)または(C)から選択される少なくとも一つを含む。(B)のパターンを有するmiRNAを用いる場合および(C)のパターンを有するmiRNAを用いる場合、一つのマーカーを測定するだけで、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞(a5+a1)を識別することができるからである。機能性成熟分化角膜内皮細胞(a5)および中程度分化角膜内皮細胞(a1)と、非目的細胞(a2)とを識別する場合は、例えば、(A)、(B)、(D)または(E)のパターンを用いると一つで識別できる。もちろん、3種類を識別したい場合は、(B)や(E)の物を使用するか、あるいは、(A)と(C)との組み合わせ等複数のmiRNAマーカーを使用することができる。miRNAは、例えば、公知の手法でRNAを抽出し、実施例に記載されるような手法でマイクロアレイ分析を用いて同定しレベルを決定することができる。例えば、Torayの3D-GeneTM ヒトマイクロRNAチップなどの市販の分析用チップを用いることができる。得られたデータは、スキャナー(例えば、3D-Gene スキャナー3000 (Toray Industries Inc., Tokyo, JAPAN))で画像処理し、処理ソフトウェア(例えば、3D-Gene Extractionソフトウェア(Toray))で処理することができる。得られたデジタル化蛍光シグナルは、生データとみなしてさらに標準化することができる。例えば、蛍光強度の中央値を25に補正することができる。あるいは、標準化レベルは、高ランクから100番目の値が一致するように補正することができる。
【0149】
好ましい実施形態では、使用されるmiRNAは、分泌型のものが好ましい。分泌型のmiRNAであれば、細胞を破壊することなく、いわゆる非破壊型の識別が可能であるからである。
【0150】
本発明においてmiRNAを用いて本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞を特定することは、細胞表面マーカー(CDマーカー)等でCD166陽性、CD133陰性、CD105陰性、CD44陰性、CD24陰性、CD26陰性、CD200陰性のような細胞を特定する手法とは異なり、非侵襲的な方法を提供することができる点で有利である。
【0151】
一つの実施形態では、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞は、エキソゾームが異常値を示さないことが好ましい。エキソゾームは、細胞で分泌される直径40nm~150nm程度の膜小胞であり、リボヌクレアーゼ活性を持つタンパク質を多く含むこのような異常値については、関連するマーカーを用いて調べることができる。そのようなマーカーとしては、CD63,CD9、CD81、HSP70などを挙げることができる。本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞は、これらのエキソゾームに関するマーカーの発現が低いことが好ましい。具体的なレベルについては以下のような実験で例示することができる。すなわち、代表的には、Exoscreen法を用い培養上清中エクソソームタンパク質にマーカーが存在するのか否かを測定することができ、Exoscreen法に代わるエクソソームタンパク質の検出をウェスタンブロット法にて実施することができる。また、ウェスタン検出バンドの大きさを視覚的に判断することができる。
【0152】
本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞は、その細胞面積が少ないこと、すなわち小さな細胞であることが好ましい。本発明において、細胞面積は、通常PBS処理した細胞を画像化した条件での細胞面積で評価される。すなわち、本明細書では、ハイブリッドセルカウントの測定値は、PBS処理した細胞で画像を取得しているため、細胞間に間隙ができている状態の面積で測定される。すなわち、培養液中飽和細胞培養(コンフルエント)時のタイトジャンクションが形成された成熟分化の状態よりは細胞面積が低い値で測定されることになる。機能性細胞は1細胞あたりの面積が小さく、培養における細胞密度が最も高くなることで、品質が高いことが本発明で判明している。これは、正常角膜内皮組織の内皮細胞と同じ水準の細胞面積、細胞密度のレベルあるいはこれを超えるレベルであるといえる。PBS処理した細胞の好ましい飽和細胞培養(コンフルエント)時の細胞面積としては、その細胞集団の平均または個々の細胞が約250μm2以下を挙げることができ、より好ましくは、約245μm2以下、約240μm2以下、約235μm2以下、約230μm2以下、約225μm2以下、約220μm2以下、約215μm2以下、約210μm2以下、約205μm2以下、約200μm2以下等を挙げることができる。他方、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞の好ましい細胞面積として実現した値としては、例えば、約150μm2以上、約155μm2以上、約160μm2以上、約165μm2以上、約170μm2以上、約175μm2以上、約180μm2以上等を挙げることができるがこれらに限定されない。細胞面積は当該分野で公知の任意の手法で測定することができるが、代表的な例として、位相差顕微鏡画像を用いた測定法があり、ここでは、倒立顕微鏡システム(CKX41, Olympus,Tokyo, Japan)等の市販のシステムを用いて撮影することができる。また、面積分布測定のためには、例えば、対象となる細胞をPBS (-)で3回洗浄する等して測定しやすい前処理を行った後、位相差顕微鏡画像を例えば、BZ X-700顕微鏡システム(Keyence, Osaka, Japan)等の市販のシステムを用いて取得することができる。また、面積分布はBZ-H3C Hybrid細胞計数ソフトウェア(Keyence)等の市販のソフトウェアを用いて定量することができる。
【0153】
したがって、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞は、細胞の大きさ;細胞の密度および自己抗体反応性細胞の存在からなる群より選択される少なくとも1つの細胞指標において、上記好ましい数値を有していることが有利である。
【0154】
本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞は、本明細書において説明される、細胞表面マーカー;タンパク質性産物および該産物の関連生体物質;SASP関連タンパク質;細胞内または分泌型miRNA;エキソゾーム;アミノ酸を含む細胞代謝産物および該産物の関連生体物質;細胞の大きさ;細胞の密度および自己抗体反応性細胞の存在からなる群より選択される少なくとも一つの細胞指標において、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞(すなわち、機能性成熟分化角膜内皮細胞および中程度分化角膜内皮細胞を含む)に相同する細胞機能特性、好ましくは機能性成熟分化角膜内皮細胞であるa5に相同する細胞機能特性を有することが好ましい。本発明において好ましい細胞指標としては、例えば、本明細書の各指標に関する説明において記載される具体的な数値や範囲、レベルが任意に採用され、それらの組合せも採用され得る。ある候補細胞がこれらの細胞指標について、本明細書に規定された本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞、好ましくは機能性成熟分化角膜内皮細胞が有するべき値を有する場合、その候補細胞は、ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜内皮機能特性を発現する中程度分化角膜内皮細胞であるまたは機能性成熟分化角膜内皮細胞と判定される。また、上記に列挙したような細胞指標での判定に加えて、または並行して、以下のような指標も参照できる。特に、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞の機能は、小型で六角形の敷石様形状を形成しミトコンドリア機能によるエネルギー代謝系を利用することで確認され、注入したとき(例えば、眼前房内に)に、治療効果を有し得るかどうかで判定をすることができる。更に、限定されず、サロゲートマーカー的な指標も有効である。そのような指標としては、(1)内皮ポンプ・バリア機能の保持、(Claudin発現を含む)の陽性(2)ラミニン511、あるいはそのフラグメントE8に対する高接着・結合性、(3)分泌サイトカインプロファイル、PDGFbb、TNFα、IFNγ、IL-1受容体アンタゴニストの産生量が基準値以上であること(4)産生するマイクロRNA(miRNA)プロファイルによる規定(5)産生する代謝産物プロファイルによる規定、(6)インビトロ培養時の飽和細胞密度、(7)培養時に得られる細胞の空間的大きさやその分布、(8)マウス角膜に対する液体窒素低温凍結損傷後に細胞注入した場合の角膜内皮面への接着性の8種類のいずれかもしくはその組み合わせを指標とすることもできる。特に、理論に束縛されることを望まないが、タンパク質性産物または該産物の関連生体物質によって、おおよそのCST細胞かどうかを判別することができ、miRNAにより、目的外細胞を一部または全部除去することができ、細胞代謝産物または該産物の関連生体物質によって、中程度分化角膜内皮細胞と機能性成熟分化角膜内皮細胞とを区別することができ、より品質の高い機能性角膜内皮細胞を培養物中において選択的に増殖することができるからである。
【0155】
好ましい実施形態では、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞、特に、成熟分化角膜内皮細胞は核型異常を有しない。cHCECを細胞注入再生医薬に適用する上での最も大きな障害は、Miyaiらによって示されたように、cHCECは、多くの場合、数代の継代で培養中に異数性を示すことである(Miyai T, et al., Mol Vis. 2008; 14:942-50)。cHCECにおいて観察される異数性は、細胞分裂に起因して培養中に誘導される。ここで、本発明者らは、cHCECにおける異数性の有無が、cHCEC中で優勢な特定の細胞亜集団に密接に関連するという新たな知見を提供する。本発明者らは、核型異常のない特定の細胞亜集団は、角膜組織中に存在する機能性成熟分化角膜内皮細胞と表面発現型の特定のパターンに並行して現れることを見出した。核型異常のない機能性成熟分化角膜内皮細胞からほとんどなる細胞亜集団を選択的に増殖させる洗練した培養条件の確立に成功し、これによって水疱性角膜症等の角膜内皮障害の処置のために機能性成熟分化角膜内皮細胞を細胞懸濁液の形態で前房に注入することによる安全で安定した再生医薬を提供することができるようになった。このように、本発明では、これまで明らかではなかった、核型異常は亜集団選択的に生じることを見出した。そして、本発明の技術を用いることによって、核型異常を実質的に起こさない亜集団を選択することができるようになった。
【0156】
また、本発明の機能性角膜内皮特性具備細胞は、自己抗体も実質的に存在しない事象が亜集団特異的に生じることも本発明において明らかになった。本発明では、特定の亜集団を選択することによって、自己抗体が実質的に存在しない亜集団を選択することができる。自己抗体は当該分野で公知の手法によって測定することができる。例えば、以下のような手順が例示される。まず、HCECをメタノールで固定し、PBSで洗浄を2回し、PBS-0.2% Tx-100で透過処理(室温、15分間)し、1% BSA/PBSでブロッキング(室温>1時間)する。その後、1%BSA/PBSで5倍または25倍に希釈した正常人血清250μLをウェルに添加し、4℃、O/N 静置する。その後、PBS-0.2%Tx-100で洗浄×4を行い、Alexa Fluor 488標識Anti-human IgG(5μg/mL)およびAlexa Fluor 647標識Anti-human IgM(5μg/mL)を含む1% BSA/PBSを添加(250μL/ウェル)する。その後、室温、1時間静置し、PBS-0.2% Tx-100で洗浄×2を行い、PBSで洗浄×1を行う。DAPI(5μg/mL)で核を染色(室温、15分間)し、PBSで洗浄した後、倒立蛍光顕微鏡(BZ-9000)で検鏡する(
図10C参照)。
【0157】
別の局面において、本発明は、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞、特に機能性成熟分化角膜内皮細胞を含む、細胞集団を提供する。
【0158】
本発明の細胞集団は、その平均細胞密度が、飽和細胞培養(コンフルエント)時に少なくとも約1500個/mm2以上、少なくとも約1600個/mm2以上、少なくとも約1700個/mm2以上、少なくとも約1800個/mm2以上、少なくとも約1900個/mm2以上、あるいは少なくとも約2000個/mm2以上であることが好ましい。本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞を含む細胞集団は、細胞の大きさが小さいため、その密度が相当程度高く提供されることが理解される。細胞密度は高品質な角膜内皮機能特性に伴って見出される特徴であり、逆にこのような細胞密度を測定することで品質の高い機能性成熟分化角膜内皮細胞を選択する一つの指標として用いることができる。細胞密度は、細胞面積と直接関連する数値であるから、細胞面積を当該分野で公知の任意の手法で測定することで、同様に算定することができる。上述したように、代表的な例として、位相差顕微鏡画像を用いた測定法があり、ここでは、倒立顕微鏡システム(CKX41, Olympus,Tokyo, Japan)等の市販のシステムを用いて撮影することができる。また、面積分布測定のためには、例えば、対象となる細胞をPBS(-)で3回洗浄する等して測定しやすい前処理を行った後、位相差顕微鏡画像を例えば、BZ X-700顕微鏡システム(Keyence, Osaka, Japan)等の市販のシステムを用いて取得することができる。また、面積分布はBZ-H3C Hybrid細胞計数ソフトウェア(Keyence)等の市販のソフトウェアを用いて定量することが
できる。
【0159】
好ましい実施形態では、本発明の細胞集団の平均細胞密度は、少なくとも約2100個/mm2以上、少なくとも約2200個/mm2以上、少なくとも約2300個/mm2以上、少なくとも約2400個/mm2以上、少なくとも約2500個/mm2以上であるがこれらに限定されない。上限としては、任意の実現可能な数値を挙げることできるが、例えば、約3000個/mm2以上、約3100個/mm2、約3200個/mm2、約3300個/mm2、約3400個/mm2、約3500個/mm2、約3600個/mm2、約3700個/mm2、約3800個/mm2、約3900個/mm2、約4000個/mm2等でも上限として実現可能である。これらの上限下限の任意の組合せが、本発明の細胞集団の好ましい細胞密度範囲として使用されることが理解される。
【0160】
このような細胞密度または細胞面積の特徴は、ハイブリッドセルカウント法による培養細胞の位相差像定量化技術による培養最終細胞産物の治験適用適合性評価に応用することができる。本発明の機能性成熟分化角膜内皮細胞は1細胞あたりの面積が小さく、培養における細胞密度が最も高くなることが判明している。本発明の製造法で作製した培養ヒト角膜内皮細胞でも実施例において例示されるように細胞面積は216μm2、細胞密度は2582個/mm2と正常角膜内皮組織の内皮細胞と同じ水準の細胞面積、細胞密度を示している。
【0161】
一つの実施形態において、本発明の細胞集団は、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞が、天然に存在する比率よりも高められた比率で存在することが特徴である。角膜内皮機能特性を惹起し得る細胞の比率が、天然に存在する比率よりも高い細胞集団を提供することによって、天然に入手可能な角膜内皮細胞の集団を用いるよりも効果の高い治療を提供することができるからである。このような角膜内皮機能特性を惹起し得る細胞の比率を高めることができるのは、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞(例えば、機能性成熟分化角膜内皮細胞または中程度分化角膜内皮細胞)を数多くの亜集団を特定し選抜することができる技術が提供されたからである。
【0162】
好ましい実施形態では、本発明の細胞集団における少なくとも5%以上の、約10%以上の、約15%以上の、約20%以上の、約25%以上の、約30%以上の、約35%以上の、約40%以上の、約45%以上の、約50%以上の、約55%以上の、約60%以上の、約65%以上の、約70%以上の、約75%以上の、約80%以上の、約85%以上の、約90%以上の、約95%以上の、約98%以上の、約99%以上の細胞が本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞であることが有利である。ここで、これらの細胞集団に含まれる細胞は、いわゆるa5またはa1のいずれかに属する細胞機能特性を有し得る。例えば、これらの細胞集団に含まれる細胞としては、CD166陽性およびCD133陰性を含む細胞機能特性を含み、必要に応じてCD44陰性~中陽性を有するものが選抜される。本発明の細胞集団が効果を奏する理由としては、理論に拘束されることを望まないが、一定程度の本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞が含まれることにより、その細胞集団を被験体に注入した際に、良好な治療効果または予防効果が示されるからである。好ましい実施形態では、本発明の細胞集団は、約70%以上の細胞が本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞であることが有利である。このレベルの本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞の存在により、角膜細胞注入治療の成功の目安とされる細胞密度(例えば、約2300細胞/mm2)を達成することができるからである。さらに好ましい実施形態では、本発明の細胞集団は、約90%以上の細胞が本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞であることが有利である。このレベルの本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞の存在比を達成しようとした場合は、偶然の手法ではできず、細胞亜集団をきっちりと確実に識別し分離することができる技術および情報を確立することが必要であるからであり、従来の技術ではこのようなことは大凡不可能であったといえるからである。なお、角膜細胞注入治療の成功の目安とされる細胞密度は、細胞集団を注入した後にヒトの角膜内皮面に生着した細胞の平均細胞密度を測定することによって、算定することができる。そのような細胞密度は、少なくとも約1000個/mm2以上であり、好ましくは少なくとも約1100個/mm2以上、好ましくは少なくとも約1200個/mm2以上、好ましくは少なくとも約1300個/mm2以上、好ましくは少なくとも約1400個/mm2以上、好ましくは少なくとも約1500個/mm2以上、好ましくは少なくとも約1600個/mm2以上、好ましくは少なくとも約1700個/mm2以上、好ましくは少なくとも約1800個/mm2以上、好ましくは少なくとも約1900個/mm2以上、好ましくは少なくとも約2000個/mm2以上、好ましくは少なくとも約2200個/mm2以上、好ましくは少なくとも約2300個/mm2以上、好ましくは少なくとも約2400個/mm2以上、好ましくは少なくとも約2500個/mm2以上、好ましくは少なくとも約2600個/mm2以上、好ましくは少なくとも約2700個/mm2以上、好ましくは少なくとも約2800個/mm2以上、好ましくは少なくとも約2900個/mm2以上、好ましくは少なくとも約3000個/mm2以上でありうる。
【0163】
さらに好ましい実施形態では、本発明の細胞集団は、機能性成熟分化角膜内皮細胞の比率が、天然に存在する比率よりも高められた比率で存在することが特徴である。機能性成熟分化角膜内皮細胞は、そのまま眼前房内への注入時にヒト角膜内皮機能特性を発現するというものであり、高品質の細胞の比率が、天然に存在する比率よりも高い細胞集団を提供することによって、天然に入手可能な角膜内皮細胞の集団を用いるよりもさらに効果の高い治療を提供することができるからである。このような高品質な機能性が付与された細胞の比率を高めることができるのは、本発明の機能性成熟分化角膜内皮細胞を数多くの亜集団において特定し選抜することができる技術が提供されたからである。
【0164】
好ましい実施形態では、本発明の細胞集団における少なくとも5%以上の、約10%以上の、約15%以上の、約20%以上の、約25%以上の、約30%以上の、約35%以上の、約40%以上の、約45%以上の、約50%以上の、約55%以上の、約60%以上の、約65%以上の、約70%以上の、約75%以上の、約80%以上の、約85%以上の、約90%以上の、約95%以上の、約98%以上の、約99%以上の細胞が機能性成熟分化角膜内皮細胞であることが有利である。このような機能性成熟分化角膜内皮細胞の比率は、本明細書において「E-ratio」(「E比」ともいう)と表示することがある。E-ratioの算出方法は本明細書の他の箇所に記載されている。ここで、これらの細胞集団に含まれる細胞は、いわゆるa5に属する機能性特性を有し得る。例えば、これらの細胞集団に含まれる細胞としては、CD166陽性、CD133陰性およびCD44陰性~弱陽性(好ましくは、CD44陰性)を有するものが選抜される。あるいは、CD166陽性、CD133陰性およびCD200陰性の細胞が選抜され得る。さらに品質を高めた本発明の細胞集団が効果を奏する理由としては、理論に拘束されることを望まないが、一定程度の機能性成熟分化角膜内皮細胞が含まれることにより、なお一層、その細胞集団を被験体に注入した際に、良好な治療効果または予防効果が示されるからである。好ましい実施形態では、本発明の細胞集団は、約40%以上の細胞が機能性成熟分化角膜内皮細胞であることが有利である。このレベルの機能性細胞の存在により、角膜細胞注入治療の成功の目安とされる高い品質の細胞密度(例えば、角膜内皮面に生着した細胞で約1000細胞/mm2以上、好ましくは約2000細胞/mm2、通常約2300細胞/mm2)をより確実に達成することができるからである。さらに好ましい実施形態では、本発明の細胞集団は、少なくとも約70%以上の、より好ましくは少なくとも80%以上の、さらにより一層好ましくは少なくとも約90%以上の細胞が機能性成熟分化角膜内皮細胞であることが有利である。このレベルの機能性細胞の存在比を達成しようとした場合は、偶然の手法ではできず、細胞亜集団をきっちりと確実に識別し分離することができる技術および情報を確立することが必要であるからであり、従来の技術ではこのようなことは大凡不可能であったといえるからである。なお、発明の技術を用いることにより、機能性成熟分化角膜内皮細胞の比率は、さらに高めることができ、例えば、少なくとも約95%以上の、少なくとも約96%以上の、少なくとも約97%以上の、少なくとも約98%以上の、少なくとも約99%以上の細胞が機能性成熟分化角膜内皮細胞である細胞集団も提供することができる。そして、このような機能性成熟分化角膜内皮細胞を含む細胞集団が提供されることにより約2300細胞/mm2を超える(例えば、約3000細胞/mm2)ような治療成績を注入後1か月もたたないうちに達成することができることも実証されており、従来にない迅速かつ高品質な治療技術が提供されているといえる。
【0165】
一つの実施形態において、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞(機能性成熟分化角膜内皮細胞を含む)または細胞集団は、他亜集団に比較し、免疫拒絶反応に係るHLAクラスI抗原や細胞変性関連抗原の発現が低いことも特徴である。また、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞、特に機能性成熟分化角膜内皮細胞は他亜集団でみられる自己抗体が存在しないことから、免疫学的にも安定な細胞であるといえる。
【0166】
一つの実施形態では、本発明で使用される細胞代謝産物および該産物の関連生体物質は以下の物質:
コハク酸、Pro、Gly、グリセロール3-ホスフェート、Glu、乳酸、アルギノコハク酸、キサンチン、N-カルバモイルアスパラギン酸、イソクエン酸、cis―アコニット酸、クエン酸Ala、3-ホスホグリセリン酸、ヒドロキシプロリン、リンゴ酸、尿酸、ベタイン、葉酸、Gln、2-オキソイソ吉草酸、ピルビン酸、Ser、ヒポキサンチン、Asn、Trp、Lys、コリン、Tyr、尿素、Phe、Met、カルノシン、Asp、オルニチン、Arg、クレアチン、2-ヒドロキシグルタミン酸、β-Ala、シトルリン、Thr、Ile、Leu、Val、クレアチニン、His、N,N-ジメチルグリシンまたはその組み合わせ若しくは相対比率を挙げることができるがこれらに限定されない。あるいは、本発明の細胞代謝産物は以下を含む。
培養により低下した物質群(細胞に取り込まれた物質群):Arg、クレアチン、総アミノ酸、Tyr、カルノシン、Asp、総必須アミノ酸、総ケト原性アミノ酸、Trp、Val、総オキサロ酢酸関連アミノ酸、総グルタミン酸関連アミノ酸、総アセチルCoA関連アミノ酸、総スクシニルCoA関連アミノ酸、シトルリン、総BCAA,Fischer比、ヒポキサンチン、Leu、Asn、Ile、2-ヒドロキシグルタル酸、ピルビン酸、Ser、シトルリン/オルニチン比、尿酸、β-アラニン
培養により増加した物質群(細胞から排出された物質群):サルコシン、セドヘプツロース7-ホスフェート、スペルミジン、スペルミン、総アデニル酸、総グルタチオン、総グアニル酸、UDP-グルコース、XMP、キシルロース5-ホスフェート、cis-アコニット酸、クエン酸、ベタイン、グルコース6-リン酸、乳酸/ピルビン酸、グリセロール3-リン酸、Ala、乳酸、2-オキソイソ吉草酸、アルギノコハク酸、Glu、ヒドロキシプロリン、キサンチン、オルニチン、総ピルビン酸関連アミノ酸、Pro、Gly、N,N-ジメチルグリシン、コリン、尿素、葉酸、His、クレアチニン、Met、Lys、Thr、コハク酸、γ-アミノ酪酸、Phe、総非必須アミノ酸、総フマル酸関連アミノ酸、総芳香族アミノ酸、総糖原性アミノ酸
特に、本発明では、培養上清中のセリン、アラニン、プロリン、グルタミンまたはクエン酸/乳酸比率、特にクエン酸/乳酸比率における上昇を用いることで本発明の本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞の品質管理を行うことができる。
【0167】
代謝産物を使用することができることにより、非侵襲的に細胞特性を識別することができる。いわゆる従来から使用されている「ヘテロ集団」としての「培養ヒト角膜内皮細胞」の亜集団毎にエネルギー代謝特性が大幅に異なることが本発明の一環として行われたメタボローム解析で判明した。相転移を起こした細胞(形質転換細胞)亜集団では細胞培養上清に解糖系エネルギー代謝系が亢進し、核型異常のないエフェクター細胞亜集団(機能性成熟分化角膜内皮細胞)ではミトコンドリア系でのエネルギー代謝系が亢進することが判明した。ミトコンドリアは、体細胞の大半における細胞エネルギー産生の調整を担っており、特定の状態の全ての細胞型は、異なる代謝特性を有し得る。増殖性の細胞、例えば幹細胞は、解糖を好む傾向がある一方で、成熟分化細胞、例えば本発明の機能性成熟分化角膜内皮細胞は、より酸化的リン酸化(OXPHOS)の調整下にあるといわれる。このような知見から、分化の間のOXPHOS活性への依存性の増加、または細胞増殖の間の解糖的代謝へのシフトのいずれかの代謝プロファイルに関する情報を見ることにより、本発明の細胞をより高品質化することができ、本発明の細胞の培養、製造条件の最適化に資するといえる。「ヘテロ集団」としての「培養ヒト角膜内皮細胞」は、老化表現型、内皮間葉転移(EMT)、および形質転換線維芽細胞様細胞形態への細胞相転移(CST)への傾向を有する。本発明者らは、培養上清を用いて、それらの分泌代謝物の点からcHCECの中の亜集団を区別する方法を見出した。CST亜集団は、ミトコンドリア依存性OXPHOSの代わりに、嫌気的解糖への傾向を示す。細胞懸濁液の形で、代謝的に規定された機能性成熟分化角膜内皮細胞を用いた安全で安定な再生医療のための製品を提供することができる。
【0168】
本発明において、例えば、細胞外フラックスアナライザーを購入し、工程管理法としてタンパク性産物、分泌型miRNAに加えて、培養液中の代謝産物、酸素消費を連続的に追跡し、製品の生産時の工程管理法を提供することができる。本発明の機能性成熟分化角膜内皮細胞においてミトコンドリア系でのエネルギー代謝系が最も亢進することを示す。本発明では、培養液中の乳酸、ピルビン酸、乳酸/ピルビン酸、クエン酸/乳酸、Ser、Pro/Ser、Leu、Ile(分岐鎖アミノ酸)およびGlnの活用とともに、治験および製造に適用すべき評価法としての有用性を実践検証することができる。
【0169】
他の実施形態において、本発明の機能性成熟分化角膜内皮細胞または細胞集団は、他亜集団に比較し、優れた特定の遺伝子形態を有する。「遺伝子特性」としては、上記タンパク質性産物の項に記載される任意の遺伝子産物において、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞(例えば、機能性成熟分化角膜内皮細胞または中程度分化角膜内皮細胞)が示す任意の細胞機能特性に対応する遺伝子を挙げることができる。
【0170】
別の実施形態では、本発明の機能性成熟分化角膜内皮細胞または細胞集団は、血清のサイトカインプロファイルを含む、生体への投与後に目的外生体応答を実質的に惹起しないことを特徴とする。従来の品質の低い細胞では、注入後2日ですでに、炎症性サイトカインが惹起されず
図61-A~61-Bに示すような結果が出ることが示されている。
【0171】
他方、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞、機能性成熟分化角膜内皮細胞または細胞集団は、
図62および63に示されるように、2日後も、1週間後も、その後も異常なまたは炎症性のサイトカインを惹起していないことが理解される。
【0172】
ここで、使用される「目的外」サイトカインプロファイルには、RANTES、PDGF-BB、IP-10、MIP-1b、VEGF、EOTAXIN、IL-1ra、IL-6、IL-7、IL-8、IL-0、IL-10、IL-12(p70)、IL-13、IL-17、FGFbasic、G-CSF、GM-CSI、IFN-γ、MCP-1、MIP-1a、TNF-α等を含むがこれらに限定されない。「目的外サイトカインプロファイル」は、その産生が通常より多く検出されると本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞ではない、「目的外」であることを示すプロファイルである。
【0173】
ここで、本明細書において「目的外生体応答」とは、上記「目的外」サイトカインプロファイルの少なくとも一つにおいて、通常惹起されるレベルを超えるレベルが惹起されることをいう。
【0174】
一つの局面では、本発明は、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または細胞集団を含む細胞バンクを提供する。細胞バンクは、研究等を通じて生み出されたあるいは収集された「細胞」(通常培養細胞)を預かり、それを他の研究者や事業者に提供するための機関またはシステムをいう。
【0175】
別の局面では、本発明は、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または細胞集団を含む製品を提供する。このような製品は、どのような形態でもよく、例えば、ヒトに投与するために調製される細胞加工製品等を指すがこれらに限定されない。このような細胞製品は、好ましくは、目的外の形質転換を起こしていないことや、細胞・組織が産生する生理活性物質による影響もないかまたは少ないこと、正常な細胞又は組織への影響もないかまたは少ないこと、異所性組織を形成する可能性がないかまたは少ないこと、望ましくない免疫反応が生じる可能性がないかまたは少ないこと、腫瘍形成及びがん化の可能性がないかまたは少ないこと、遺伝子導入が行われている場合には、遺伝子治療用製品指針に定める安全性評価がなされていること、および一般毒性試験等をクリアしていることが望ましい。
【0176】
別の局面では、本発明は、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞、機能性成熟分化角膜内皮細胞または細胞集団を培地交換により継代することを包含する該細胞または細胞集団の保存方法を提供する。ここで、この培地交換により、細胞機能特性が維持保存されることが本発明で解明された。ここで使用される培地は、任意の培地を用いることができるが、好ましくは、本明細書において説明される細胞の製法に用いられる成分や培地を用いることが有利である。
【0177】
別の実施形態では、本発明は、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞、機能性成熟分化角膜内皮細胞または細胞集団の保存方法を実施する工程を含む、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞、機能性成熟分化角膜内皮細胞または細胞集団の送達方法を提供する。
【0178】
なお、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞、機能性成熟分化角膜内皮細胞を分取する手順としてソーティングが代表的に挙げられるが、それ以外の方法として、例えば、目的細胞と非目的細胞の細胞特性の差を活用しての非目的細胞に選択的なアポトーシス誘導(miRNAスイッチ法)や壊死誘導(グルコース飢餓など)による方法を用いることができる。しかしながら、本発明では、通常、本発明の製法により本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞の純度を高めることがなされる。
【0179】
(ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜内皮機能特性を発現し得るヒト機能性角膜内皮細胞の製造方法)
一つの局面において、角膜内皮組織由来細胞または角膜内皮前駆細胞を成熟分化させる工程を含む、ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜内皮機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞(本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞)または機能性成熟分化角膜内皮細胞の製造方法を提供する。この方法は、成熟分化工程のほかに、脱分化工程を介した後におこなってもよい。本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞は、本明細書の他の箇所にも記載されているように、そのままの状態で角膜内皮機能特性を有する「機能性成熟分化角膜内皮細胞」のほか、機能を一部欠くものの同様に使用されまたは細胞注入後に機能性成熟分化角膜内皮細胞と同等の機能を発揮する「機能性成熟分化角膜内皮細胞」とを包含する。
【0180】
別の局面において、本発明は、角膜内皮組織由来細胞または角膜内皮前駆細胞を、アクチン脱重合させる条件で培養する工程を包含する、ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜内皮機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞(本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞)または機能性成熟分化角膜内皮細胞の製造方法を提供する。アクチン脱重合を包含する工程により培養することで、成熟分化が達成され、これにより、当該細胞がヒトの眼前房内への注入時に角膜内皮機能特性を発現し得るようになる。
【0181】
本明細書において「成熟分化」とは、当該分野で使用されている通常の意味とは厳密には異なり得る。すなわち、本明細書での「成熟分化」は、角膜内皮についていう場合、角膜内皮機能を発揮する分化した細胞であって、細胞注入に最適な小型で六角形の敷石様形状を形成しミトコンドリア機能によるエネルギー代謝系を利用する細胞であることが確認されている細胞となることをいう。
【0182】
本発明では、アクチン脱重合を起こす条件に角膜内皮細胞またはそのように分化させた細胞ないしそれらの前駆細胞を曝した場合に、上記の厳密な意味で成熟分化を起こすことが見出されたことによって完成されたものである。
【0183】
一つの実施形態において、本発明で用いられるアクチン脱重合またはアクチン脱重合を達成する条件は、ROCK阻害剤、HDAC阻害剤、アクチン重合阻害剤、PPARγ阻害剤、MMP2阻害剤、p53活性化剤およびmiRNAからなる群より選択される少なくとも一つの薬剤により達成される。
【0184】
具体的な実施形態において、本発明で用いられるアクチン重合阻害剤は、ラトランクリンA、スウィンホライドA等を挙げることができるがそれらに限定されない。ここで、ラトランクリンAは、例えば、約0.4μMで用いることができ、スウィンホライドAは、約0.1μMで用いることができる。
【0185】
また、HDAC阻害剤としては、トリコスタチンA(TSA)、ボリノスタット等を挙げることができる。トリコスタチンAは、約0.5μMで用いることができる。PPARγ阻害剤としては、ロシグリタゾンやピオグリタゾンなどを挙げることができる。MMP2阻害剤としては、レスベラトロールなどを挙げることができる。p53活性化剤としては癌研究において使用されるものを挙げることができる。miRNAとしては、本明細書においてヒトの眼前房内への注入時に角膜内皮機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞において活性化すると関連するもの、例えば、miRNA34、1246、1273、4732などを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0186】
別の具体的な実施形態では、アクチン脱重合またはアクチン脱重合を達成する条件に使用される薬剤は、アクチン脱重合を達成するのに有効な濃度で前記工程における培地中に存在する。そのような濃度としては、例えば、ROCK阻害剤であるY-27632の場合約1~約30μM、例えば、約10μMであり、HDAC阻害剤トリコスタチンの場合は約100~2000nM例えば500nMであるがこれらに限定されず、当業者は、得られる細胞の細胞機能を測定し(例えば、サロゲートマーカーを用いる)、あるいは細胞指標を確認することによって、適宜濃度を変更することができる。
【0187】
一つのさらなる局面において、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞の製造方法は、前記角膜内皮組織由来細胞または角膜内皮前駆細胞を、上皮間葉系移行様の形質転換、増殖、成熟および分化に移行する条件で培養する工程をさらに包含する。
【0188】
このような上皮間葉系移行様の形質転換が生じた細胞が増殖成熟分化する条件は、例えば、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)シグナル伝達阻害剤(例えば、4-[4-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-5-(2-ピリジニル)-1H-イミダゾール-2-イル]-ベンザミド](SB431542))の非存在下での培養によって達成され得る。培養した角膜内皮組織由来細胞は、老化表現型、EMTおよび線維芽細胞形態への細胞状態移行(CST)へと向かう傾向を有することが知られており、TGF-βシグナルの遮断が培養角膜内皮組織由来細胞において細胞の形態変化を引き起こすことがはっきり示された。CD44,CD24,IL-8およびIGFBP3のアップレギュレーションならびにコラーゲン4A1,4A2および8A2のダウンレギューションもなされることも解明されており、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)シグナル伝達阻害剤の非存在下での培養によって、上皮間葉系移行様の形質転換が生じた細胞が増殖成熟分化し、機能性成熟分化角膜内皮細胞の品質が高められることが判明した。本発明においては、上皮間葉系移行様の形質転換が生じた細胞が増殖成熟分化する条件で培養する工程(例えばトランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)シグナル伝達阻害剤の非存在下での培養)は含んでいても含んでいなくてもよいと理解される。
【0189】
別のさらなる局面において、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞の製造方法は、前記角膜内皮組織由来細胞または角膜内皮前駆細胞を、細胞老化が抑制される条件で培養する工程をさらに包含する。
【0190】
このような細胞老化が抑制される条件は、p38MAPキナーゼ阻害剤の存在下での培養によって達成され得る。p38MAPキナーゼ阻害剤としては、例えば、4-(4-フルオロフェニル)-2-(4-ヒドロキシフェニル)-5-(4-ピリジル)-1H-イミダゾール(SB-202190)、trans-4-[4-(4-フルオロフェニル)-5-(2-メトキシ-4-ピリミジニル)-1H-イミダゾール-1-イル]シクロヘキサノール(SB-239063)、4-(4-フルオロフェニル)-2-(4-メチルスルフィニルフェニル)-5-(4-ピリジル)-1H-イミダゾール(SB-203580)、4-(4-フルオロフェニル)-5-(2-メトキシピリミジン-4-イル)-1-(ピペリジン-4-イル)イミダゾール(SB-242235)等を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0191】
好ましい実施形態では、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞の製造方法は、成熟分化またはアクチン脱重合する条件に曝露する条件で、上皮間葉系移行様の形質転換が生じた細胞が増殖成熟分化する条件で、かつ、細胞老化が抑制される条件またはp38MAPキナーゼ阻害剤の存在下で培養する。このような組合せにより、成熟分化が正しく方向づけられ、上皮間葉系移行様の相転移が抑制ないし元に戻り、老化が抑制されるため、有利には高品質の機能性成熟分化角膜内皮細胞を製造することができる。
【0192】
従来知られている製造方法で角膜内皮細胞を製造した場合、細胞表面CDマーカーによって規定されるSPを顕著に異なる割合で生じることが頻繁にある。そして、CD44陰性CD166陽性CD24陰性CD26陰性CD105陰性である亜集団の割合によって規定されるE比は0.2~19%または0.1~31.2%であることも判明した。CD44の発現は培養角膜内皮細胞が機能性成熟分化角膜内皮細胞へと分化するにしたがって減少することも確認された。細胞中にCD24かまたはCD26かのいずれかを発現するSPが存在すると、顕著な核型異常、例えば、性染色体脱落、トリソミーまたは転座を有する何らかのSPが存在するおそれがあり、注入治療には適切ではない。CD24陽性細胞の割合は最大で54.3%~96.8%に達し、CD26陽性細胞の割合は44.2%に達した。また、CD44強陽性の発現細胞が80%を超える最も高い割合で存在することが観察され、これは、外観上の表現型は非線維芽細胞様であり、位相差顕微鏡によって観察すると、特徴的な接触阻害による多角形状および単層性を有していた。驚くべきことに、HCECのマーカーとして周知のZO-1およびNa+/K+-ATPaseの両方が、CD24陽性、CD26陽性またはCD44強陽性のSPについて染色された。このことから、形態的判断だけではcHCEC中に存在する不均一なSPを十分に区別できないおそれがあることも本発明において判明した。本発明の方法は、このような不適切な細胞の割合を減らし、注入に適した本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞またはヒト機能性成熟分化角膜内皮細胞の割合を高めるという効果を奏するものである。ヒト骨髄由来間葉系幹細胞培地は、細胞周期のG1タンパク質を制御することによりHCECの増殖を刺激するだけでなくcHCECの内皮機能のために必要な分化型表現型を維持させるこれを利用することがcHCECを維持するために推奨されていた(Nakahara M, et al., PLoS One. 2013; 8:e69009)が、本発明において、骨髄由来間葉系幹細胞培地を含む培地とこれを含まない培地との間には、機能性成熟分化細胞細胞の割合を高めるための相違はなく、影響はないことが解明された。
【0193】
理論に束縛されることを望まないが、本発明において、アクチン脱重合化させる条件で培養することで、角膜内皮細胞を成熟分化させることができる理由は以下のとおりである。
【0194】
すなわち、本発明の特定の角膜内皮細胞を成熟分化させる条件では、ある経路において、HDAC阻害、またはmiRNA34発現の亢進、および/またはCD44発現の抑制を行うことで、別の経路における、アクチン重合が抑制され、RhoAも抑制され、チューブリンとアクチンの重合が抑制される結果、細胞に仮足が生成する作用を抑制する。さらに別の経路において、CD44はまた、MMP2を介してRhoAを活性化するため、MMP2阻害剤を用いても同様の効果が達成されると期待される。したがって、MMP2の抑制によっても同様に、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または成熟分化角膜内皮機能性細胞を製造することができる。
【0195】
本明細書において「角膜内皮組織由来細胞または角膜内皮前駆細胞」とは、本明細書において別の箇所で定義されるように、それぞれ、角膜内皮組織に由来する細胞および脱分化工程を経て分化することで、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞になる細胞を指すが、これらには、ドナーの角膜内皮から入手した細胞の他、iPS細胞、ES細胞等から角膜内皮細胞様に分化させた細胞、角膜内皮細胞に分化する前の前駆細胞等任意の細胞を含み、本明細書で定義される中程度分化角膜内皮細胞も含まれる。
【0196】
本発明の製造方法において、使用され得る出発材料としての角膜内皮組織由来細胞は、生体から採取したものであり、あるいは、使用され得る出発材料は、角膜内皮前駆細胞、例えば、幹細胞もしくは前駆細胞から分化させたものであってもよい。このような分化させた細胞は、例えば、種々の幹細胞(例として、誘導性多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)、受精卵、体性幹細胞)から分化させた細胞を含みうるがこれらに限定されない。したがって、具体的な実施形態では、本発明において使用される(出発材料としての)角膜内皮組織由来細胞または角膜内皮前駆細胞は、多能性幹細胞、間葉系幹細胞、角膜内皮から採取した角膜内皮前駆細胞、角膜内皮から採取した角膜内皮細胞、ならびにダイレクトプログラミング法で作成される角膜内皮前駆細胞および角膜内皮様細胞等を挙げることができるがこれらに限定されない。ここで、多能性幹細胞としては、誘導性多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)等を挙げることができるがそれらに限定されない。したがって、本発明において使用される(出発材料としての)角膜内皮細胞またはその前駆細胞は、誘導性多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)等から、角膜内皮様に分化させることによって調製される細胞を含むことが理解される。誘導性多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)等から、角膜内皮様に分化させる技術は当該分野において公知であり、例えば、AMED法(Uenoら上述)、WO2013/051722(慶應義塾)等を挙げることができるがそれらに限定されない。
【0197】
角膜内皮様に分化させていない細胞を用いる場合は、角膜内皮様に分化または成熟分化させる工程を包含することが好ましい。
【0198】
多能性幹細胞、間葉系幹細胞等の幹細胞から、角膜内皮細胞様の細胞に分化させる方法は当該分野において公知であり、例えば、AMED法(Uenoら上述)、WO2013/051722(慶應義塾)等を挙げることができるがそれらに限定されない。
【0199】
細胞播種密度も製造方法の品質に関係し得る。例えば、細胞播種密度が高くなるほど、次の継代における本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞の比率の減少は少なくなった。機能性成熟分化角膜内皮細胞の比率が90%より高い群は、200細胞/mm2の細胞播種密度で細胞数の非常に急速な増加(つまり、増殖速度が大きい)を示していることから、200細胞/mm2以上の細胞播種密度が有利であることが理解される。好ましい実施形態では、本発明の製造方法における培養は、約200~約1000細胞/mm2の培養密度でなされることが有利である。さらに好ましくは、約400~約800細胞/mm2等で行うことがさらに有利である。培養密度は、例えば、下限として、約100細胞/mm2、約150細胞/mm2、約200細胞/mm2、約250細胞/mm2、約300細胞/mm2、約350細胞/mm2、約400細胞/mm2等を挙げることができるがこれらに限定されない。その上限としては、約800細胞/mm2、約850細胞/mm2、約900細胞/mm2、約950細胞/mm2、約1000細胞/mm2、約1100細胞/mm2、約1200細胞/mm2、約1300細胞/mm2、約1400細胞/mm2、約1500細胞/mm2、約1600細胞/mm2、約1700細胞/mm2、約1800細胞/mm2、約1900細胞/mm2、約2000細胞/mm2等を挙げることができるがこれらに限定されない。これらの任意の上限下限の組合せが用いられることが理解される。
【0200】
一つの実施形態では本発明の製造方法では、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞を識別するマーカーを少なくとも一つ用いて前記培養後の細胞を検定する工程をさらに包含する。本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞を識別するマーカーは本明細書の他の箇所において説明されており、それらの任意のものまたは組合せを用いることができることが理解される。製造された細胞を検定することで、品質を一定以上に保つことができるからである。
【0201】
別の実施形態では、本発明の製造方法は、前記検定後、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞と判断された画分を選択的に増殖する工程をさらに包含してもよい。良品質であると検定された細胞とそうでない細胞とを分け、良品質の細胞を選択し、好ましくは分取することで、提供される細胞の品質をさらに向上させることができるからである。このような細胞の選別は、当該分野で公知の手法を用いることができ、蛍光活性化細胞選別(FACS)のほか、目的細胞と非目的細胞の細胞特性の差を活用しての非目的細胞選択的アポトーシス誘導(miRNAスイッチ法など)や壊死誘導(グルコース飢餓など)等の手法を用いることができる。
【0202】
さらに別の実施形態では、本発明で使用される製造方法は、前記培養中に、細胞亜集団組成をモニターする工程をさらに包含する。このようなモニターは、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞を識別するマーカーを少なくとも一つ用いて行うことができ、あるいは、ミトコンドリア機能、酸素消費および培養液のpH等を測定することでモニターすることができる。このような製造過程でのモニターにより、その製法自体の品質管理を行うことができる。モニターは、例えば、ミトコンドリア機能、酸素消費および培養液のpH、アミノ酸組成、タンパク性産物、可溶性miRNA,非侵襲的工学的手法による細胞密度、細胞の大きさ、その均一性からなる群より選択される少なくとも1つの項目を追跡することで実現することができる。
【0203】
上記品質管理の結果実施している製法に劣化が観察された場合、必要に応じて、実施中の製法を改変してもよい。そのような改変としては、成熟分化またはアクチン脱重合の条件の強化(例えば、ROCK阻害の強化)、上皮間葉系移行様の形質転換が生じた細胞の増殖成熟分化の強化、例えば、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)シグナル伝達の更なる阻害の強化、細胞老化の抑制の強化、例えばp38MAPキナーゼ阻害の強化、あるいはそれらの組合せ等を挙げることができるがそれらに限定されない。
【0204】
一つの実施形態では、本発明の製造方法は、継代培養する工程を包含する。継代培養することによって、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞を指数関数的に増殖させることができる。この際、一回の継代培養によりおおよそ3倍程度に細胞数が拡大する。もちろん、この拡大倍率は、当該分野で公知の条件に基づいて培養条件を適宜改変することによって、上下させることができる。継代の際には、上述のように有利な細胞播種密度で継代培養することが好ましい。また、継代の際に本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞の比率をできるだけ高く、例えば、90%以上にしておくことが好ましい。
【0205】
特定の実施形態では、本発明の製造方法は、継代培養時にROCK阻害剤または他のアクチン脱重合剤、例えば、HDAC阻害剤、アクチン重合阻害剤、PPARγ阻害剤およびMMP2阻害剤、p53 活性化剤、miRNAを加える工程を包含する。このようなROCK阻害剤または他のアクチン脱重合剤の添加は、継代培養時以外でも、その濃度を一定レベル以上に維持するように添加してもよい。そのような濃度は、Y-27362の場合、約1μMでは極僅か、約5μMで少し改善(=E-ratio、中程度分化角膜内皮細胞の割合の増加)が見られるが、より効果が見られるのは約10μM以上である。アクチン重合阻害剤については、ラトランクリン(Latrunculin)Aでは、約1~約50nMであり、約200μMでも使用可能であることが示されている。スウィンホライド(Swinholide)Aでは、約1nM以下であり、約3nMでも使用可能であることが示されている。このほか、その詳細は実施例等を含む本明細書の他の箇所に説明されている。
【0206】
本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞の製造方法は、細胞馴化液の存在下または非存在下でなされ得る。従来方法では、間葉系幹細胞用馴化培地(例えば、Nakahara, M. et al. PLOS One (2013) 8, e69009参照)等を用いることも多用されていたが、本発明の条件で機能性細胞を製造する場合、細胞馴化液は存在しても存在させなくてもよいことが判明した。したがって、本発明は、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞の製造方法において、培養が細胞馴化液非存在下で行われる態様を含む。
【0207】
別の局面において、本発明は、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞、機能性成熟分化角膜内皮細胞または本発明の製造方法で得られた細胞を、製造後に、培養細胞の細胞密度が飽和密度に達した後に細胞機能成熟のために培養を継続する工程を包含する、機能性成熟分化角膜内皮細胞の保存方法を提供する。好ましくは、細胞機能成熟後、培養細胞の保存のために培地交換のみで培養が例えば1週間以上なされる。かかる培地交換は、前記さらに培養する工程において細胞が飽和細胞密度に達し、かつ、その後、細胞機能成熟後になされることが有利である。本発明で製造した細胞は、製造されると通常の培養条件とは異なり継代をすることなく培地交換のみでその機能性と品質を維持・保存することができることが判明した。このような保存は、代表的には少なくとも1週間~6ケ月程度培地交換を実施することで達成され、例えば、2~4週間程度培養を継続することで達成され得る。上限には特に限定はないが、本発明者らは、少なくとも6カ月以上、例えば、200日程度を超え、1年程度は培養を継続しても機能性成熟分化角膜内皮細胞の状態を継続して保存が可能であることを見出している。
【0208】
1つの実施形態では、本発明の製造方法は、前記ヒト機能性角膜内皮細胞を識別する細胞指標またはサロゲートマーカーを少なくとも1つ用いて前記培養後の細胞機能を検定する工程をさらに包含し得る。
【0209】
1つの例示的な実施形態では、以下のように製造方法を実施することができる。すなわち、米国アイバンクSightLife社等から入手した角膜(好ましくは、厚生労働省やFDA等の公的機関の安全性基準を満たしているものが有利である)から、デスメ膜とともに単層の角膜内皮層を剥がし、一晩、コラゲナーゼ処理により角膜内皮細胞を分離する。適切な培地(例えば、Opti-MEM)を基礎培地として、適切な補充成分(例えば、8%FBS)を含む培養培地(例えば、Nancy培地(Cheng Zhu and Nancy C. Joyce, Invest Ophthalmol Vis Sci 2004 1743;Gary S. L. Peh et al., PLoS ONE 2012 e28310 [Table 1];US6541256))で培養を行う。初代培養(P0培養)には同一ドナーの左右2眼分の内皮細胞を適宜のスケール(例えば、2well/6wellプレート)のコラーゲンIプレートに播種して培養を開始する。培養には成熟分化細胞への分化を誘導するために適切な成熟分化のための成分(例えば、10μM Y-27632(ROCK阻害剤))を添加する。また、培養期間中に細胞の老化防止または相転移抑制を目的に適切な成分(例えば、10μMのSB203580)を添加する。適切な期間の培養(例えば、約4~8週間後)細胞がコンフルエントになった後に継代を行う。コンフルエントになった後は、培地交換のみで数週間にわたり同品質が保持される。継代は細胞を適宜の剥離用の試薬(例えば、TrypLE)でプレートから剥離して培地で洗浄後、細胞密度を適切なレベル(例えば、400細胞/mm2以上)でT25コラーゲンIフラスコに播種する。P2(継代2回、以下同様)或いはP3までの培養の細胞を用いることで良好な成績を得られており、さらに、P5~P6までの培養細胞を用いても十分に治療効果のある細胞が得られると考えられる。
【0210】
本発明の方法で培養した場合、角膜内皮細胞は培養がコンフルエントに達した後、37℃インキュベーターで更に2~8週間継代せずに培地交換のみを行い培養を継続している限り、本発明の高品質の機能性成熟分化角膜内皮細胞(すなわち、注入で有効性を示すと考えている目的細胞)の純度とその機能は変わらない。また、非目的細胞の存在割合も変動しないことから、本発明の製造方法は、実務的な面でも良好な製造方法であるといえる。なお、臨床用の細胞を製造する際にはOpti-MEMに通常含有されるメタバナジン酸(MVA)非含有の培地を使用するとともに、培地に添加する血清のロットや添加物はその品質について事前に周到なロット検定をすることが好ましい。
【0211】
(ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜内皮機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞の医薬用途)
別の局面において、本発明は、ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜内皮機能特性を惹起し得る機能性角膜内皮細胞(本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞)または機能性成熟分化角膜内皮細胞を含む医薬を提供する。本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞は、本明細書の他の箇所にも記載されているように、そのままの状態で角膜内皮機能特性を有する機能性成熟分化角膜内皮細胞のほか、機能を一部欠くものと同様に使用されまたは細胞注入後に機能性成熟分化角膜内皮細胞と同等の機能を発揮する中程度分化角膜内皮細胞とを包含する。
【0212】
本発明で使用される本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞としては、本発明で提供される任意の本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞、機能性成熟分化ヒト角膜内皮細胞またはその細胞亜集団を含有する細胞集団を使用することができる。
【0213】
本明細書において、「細胞亜集団」とは細胞表面マーカー等で培養物中で選択的に増殖した後に一定の範囲内の性質を有するとしてその範囲で均一な細胞の集団をいい、「細胞集団」は、任意の細胞の集団を指し、1つの「細胞亜集団」からなるものでもよく、複数の「細胞亜集団」を含んでもよく、特に細胞亜集団とは無関係に任意の細胞を含む集団であり得る。
【0214】
本発明の医薬において使用される本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞、機能性成熟分化角膜内皮細胞または細胞集団は、本発明の(ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜内皮機能特性を発現し得るヒト機能性角膜内皮細胞)の項に説明される任意の実施形態またはそれらの組合せを使用することができることが理解される。
【0215】
特定の実施形態では、本発明の医薬は、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞が、天然に存在する比率よりも高められた比率で存在する細胞集団を含む。このような細胞集団としては、(ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜内皮機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞)の節に記載される任意の実施形態を利用することができる。
【0216】
さらに好ましい実施形態では、本発明の医薬は、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%の細胞が本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞である細胞集団を含む。この実施形態でもまた、これらの細胞集団に含まれる細胞としては、CD166陽性およびCD133陰性を含む細胞機能特性を含み、必要に応じてCD44陰性~CD44中陽性を有するものが選抜され、好ましくはCD44陰性~CD44弱陽性を有するものが濃縮される。高純度の機能性成熟分化ヒト角膜内皮細胞が存在することにより、角膜細胞注入治療の成功の目安とされる細胞密度(例えば、角膜内皮面に生着した細胞で約1000細胞/mm2以上、好ましくは約2000細胞/mm2、通常約2300細胞/mm2)をより確実に達成することができることが確認されている。
【0217】
別の実施形態では、本発明の医薬は、機能性成熟分化角膜内皮細胞の比率が、天然に存在する比率よりも高められた比率で存在する細胞集団を含む。このような細胞集団としては、(ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜内皮機能特性を惹起し得る角膜内皮機能性)の節に記載される任意の例を利用することができる。
【0218】
さらに好ましい実施形態では、本発明の医薬は、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%の細胞が機能性成熟分化角膜内皮細胞である細胞集団を含む。この実施形態でもまた、これらの細胞集団に含まれる細胞としては、CD166陽性、CD133陰性およびCD44陰性~弱陽性(好ましくは、CD44陰性)またはCD166陽性、CD133陰性およびCD200陰性を有するものが選抜される。これらの高いレベルの機能性成熟分化角膜内皮細胞が存在することにより、角膜細胞注入治療の成功の目安とされる細胞密度(例えば、約2300細胞/mm2またはそれより高いレベル)をより確実に達成することができることが確認されている。さらに好ましい実施形態では、本発明の医薬は、少なくとも約95%以上の、少なくとも約96%以上の、少なくとも約97%以上の、少なくとも約98%以上の、少なくとも約99%以上の細胞が機能性成熟分化角膜内皮細胞である細胞集団を含む。このような機能性成熟分化角膜内皮細胞を含む細胞集団が提供されることにより約2300細胞/mm2を超えるような治療成績(例えば、約3000細胞/mm2以上)を注入後1か月もたたないうちに達成することができることも実証されており、従来にない迅速かつ高品質な治療技術が提供されている。 本発明の医薬は、術後6か月までに良好な臨床成績を達成することが示されており、このような効果がE-ratioおよび本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞の比率と相関していることも見出された。したがって、本発明の医薬により、安定して良好な臨床成績を提供することができることが理解される。特に、E-ratioまたは本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞の比率を上昇させることによって、より早期の治療効果が達成されることが見出されており、3カ月場合によっては1カ月後でも観察可能な程度の臨床効果が達成されることが理解される。このような効果は、E-ratioまたは本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞の比率を上昇させることによって達成できるものであり、E-ratioまたは本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞の比率に基づく亜集団選抜およびE-ratioまたは本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞の比率の上昇を可能にした細胞の製造方法等によっても達成し得るものであり、このような効果は本発明の開示によって達成され得たものである。特に、実施例において実証されているように、約500細胞/mm2だったものが角膜内皮細胞密度(ECD)について、少なくとも約1000細胞/mm2を超える密度を達成し、平均でも約2000細胞/mm2を超える密度を達成し、そのうち半数近くの症例では約2300細胞/mm2を超える密度を達成し、従来達成し得た水準を超える治療効果があることが判明した。加えて、E-ratioをさらに高め90%以上とした場合は、1か月後の成績ですでに平均で3000細胞/mm2を超える成績を達成し、正常被験者に匹敵する成績を達成しており、その成績が顕著に改善している。
【0219】
また、本発明の医薬は、他の治療評価項目、例えば、角膜厚、視力等でも顕著に改善するものであり、例えば、角膜厚の評価を見ても、従来法に比べ早期に治療効果が達成され、3カ月後には効果が達成されており、E-ratioを上昇させることで1カ月後でも十分に角膜厚が減少しており、顕著な改善が見られている。
【0220】
また、所見レベルでもE-ratioまたは本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞の比率の制御に基づく効果はみられており、E-ratioも本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞の比率もコントロールしていない場合は、3カ月後でも混濁がみられていたが、E-ratioまたは本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞の比率をコントロールした場合には、3カ月で角膜浮腫を消失させることができ、さらにその比率を高めE-ratioの比率を上昇させることで、1か月で浮腫を消失させることができるようになった。
【0221】
また、本発明の医薬は、他の項目、例えば、視力、実質浮腫およびこれらの合計スコアでも、顕著に改善するものであり、また、重篤な有害事象は観察されず、非重篤な有害事象もほとんど観察されず、良好な治療結果を提供するものであると理解される。
【0222】
本発明の医薬が奏する一つの顕著な事例として、水疱性角膜症の患者を対象として、Rhoキナーゼ阻害剤を併用した培養角膜内皮細胞注入を行うことができる。本発明の医薬を用いる治療方法では、例えば米国アイバンク等の提供機関より提供を受けた角膜より角膜内皮細胞を採取して培養したものを、前房と呼ばれる角膜の後ろ側にRhoキナーゼ阻害剤とともに注射する態様が例示される。例えば、注射後は代表的には3時間以上のうつむき姿勢により注入細胞の内皮面への接着を図る実施形態が例示される。
【0223】
細胞移植の後は、術後炎症などを生じていないか慎重な経過観察を行うことによって、生じうる合併症を可能な限り回避することが好ましい。万一、重篤な副作用が生じた場合には、直ちに治療を中止し、副作用に応じた対応を行うことによって対応することができる。治療期間は、代表的には24週間であるが、期間は治療経過を見て伸縮し得る。例えば、本発明では、治療後1か月で角膜内皮スペキュラ顕微鏡で3000細胞/mm2を超過している例もあるため、一定期間が経過した後は経過観察で対応することもできる。また、通常、期間終了後も安全性および治療効果の確認のため経過観察を行うことが望ましい。治療効果は、視力、角膜の透明性、角膜内皮細胞密度、角膜の厚みなどの所見による評価を行い判定することができる。このような具体的な治療形態については、当業者は、対象患者は適応症、注入ビヒクルや注入すべき細胞数等について、当該分野で公知の知見を用いて、必要に応じて適切な試験を介した上で決定することができる。
【0224】
一つの具体的な実施形態では、本発明の医薬は、角膜内皮機能障害、角膜内皮障害または角膜内皮疾患の処置のためのものである。このような角膜内皮機能障害、角膜内皮障害または角膜内皮疾患としては、角膜内皮障害Grade 3と角膜内皮障害Grade4 (代表的に、水疱性角膜症)(例えば、フックス角膜内皮ジストロフィ、PEX-BK(pseudoexfoliation bullous keratopathy;偽落屑症候群に伴う水疱性角膜症)、レーザー虹彩切開術後水疱性角膜症、白内障手術術後水疱性角膜症(偽水晶体眼または無水晶体水疱性角膜症)、緑内障術後水疱性角膜症、外傷後の水疱性角膜症、原因不明の多重手術後の水疱性角膜症、角膜移植後の移植片不全、先天遺伝性角膜内皮ジストロフィ、先天性前房隅角形成不全症候群等)とからなる群より選択される少なくとも一つを含むがこれらに限定されない。本明細書において使用されるグレードシステムは、Japanese Journal of Ophthalmology 118: 81-83, 2014に基づいた角膜内皮疾患の重症度分類に基づく。例えば、水疱性角膜症の一例としてレーザー虹彩切開術後水疱性角膜症があるが、緑内障治療薬のみでは眼圧コントロールが難しい患者の虹彩にレーザーで穴を開け、房水の流れを良くする手術であるが、その流水が角膜内皮に当たって、内皮が損傷すると考えられており、本発明の医薬は著効を示すと考えられる。フックス角膜ジストロフィについては、先天性の遺伝子疾患で、欧米では40~50歳以上の4~5%が罹患していると言われており、角膜中央の内皮が脱落して混濁を呈し、欧米での角膜移植の原因のトップを占めている。本発明の医薬はフックス角膜ジストロフィにも著効を示すと考えられる。また、Multiple OP-BKと呼ばれる原因不明の多重手術後の水疱性角膜症にも有効である。このような多重手術としては、代表的に網膜硝子体手術と白内障+眼内レンズ挿入を同時に行う手術で、通常「トリプル手術」と言われている術後などを挙げることができる。
【0225】
本発明の医薬は、任意の形態で被験体に投与することができるが、好ましい実施形態では、本発明の医薬に含まれる細胞は前房内投与されることが望ましい。培養角膜内皮細胞を前房内に注入する技術が確立されており、理論に拘束されることを望まないが、前房内注入により角膜内皮を再生させるという概念は、(1)低侵襲性で、(2)人工材料を用いず、(3)若年者由来の老化の少ない高機能性の角膜内皮細胞をマスター細胞として用いることが可能であるからである。また、前房内注入することによって、角膜内皮機能再生が最も効率よく行われるからであり、また、生体外で培養拡大後、細胞懸濁液を(水疱性角膜症等の)患者の前房内に注入することは、ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針に基づく研究(偵察・探索臨床研究)により、ヒト適用においての安全性、臨床POCは確立していることが本発明の過程において明らかになっているからである。
【0226】
本発明の医薬は、細胞の他に、さらなる薬剤とともに投与されてもよい。このようなさらなる薬剤としては、眼科治療において通常使用される薬剤(例えば、ステロイド剤、抗生物質、抗菌物質、NSAID)が使用され得る。このほか、細胞の品質を維持または向上させることを主として目的として、ROCK阻害剤の他、本発明の特定の角膜内皮細胞を成熟分化させる条件において使用される薬剤もまた医薬として使用され得るものについては含めることができる。
【0227】
併用される薬剤としてステロイド剤があるが、ここでは、術後炎症の制御と拒絶反応予防の目的で副腎皮質ステロイド薬(例えば、メチルプレドニゾロン(ソル・メドロール(登録商標))、ベタメタゾン(リンデロン(登録商標))、フルオロメトロン(フルメトロン(登録商標))、デキサメサゾン(デカドロン(登録商標)等)、プレドニゾロン(プレドニン(登録商標))等)を投与してもよい。感染防止を目的として、抗生物質が投与され、そのような抗生物質としては、フロモキセフナトリウム(フルマリン(登録商標))、セフカペンピボキシル塩酸塩(フロモックス(登録商標)、ガチフロキサシン(ガチフロ(登録商標))等)等を挙げることができるがそれらに限定されない。炎症防止を目的として、NSAIDsが投与され得るが、このようなNSAIDsの例としては、インドメロール点眼液(一般名:インドメタシン)、ニフラン点眼液(一般名:プラノプロフェン)、ジクロード点眼液(一般名:ジクロフェナクナトリウム)、ブロナック点眼液(一般名:ブロムフェナクナトリウム水和物)、ネバナック懸濁性点眼液(一般名:ネパフェナク)等を挙げることができる。
【0228】
併用される薬剤としてのROCK阻害剤としては、例えば、米国特許4678783号、特許第3421217号、国際公開第95/28387、国際公開99/20620、国際公開99/61403、国際公開02/076976、国際公開02/076977、国際公開第2002/083175、国際公開02/100833、国際公開03/059913、国際公開03/062227、国際公開2004/009555、国際公開2004/022541、国際公開2004/108724、国際公開2005/003101、国際公開2005/039564、国際公開2005/034866、国際公開2005/037197、国際公開2005/037198、国際公開2005/035501、国際公開2005/035503、国際公開2005/035506、国際公開2005/080394、国際公開2005/103050、国際公開2006/057270、国際公開2007/026664などに開示された化合物があげられる。かかる化合物は、それぞれ開示された文献に記載の方法により製造することができ、例えば、1-(5-イソキノリンスルホニル)ホモピペラジンまたはその塩(たとえば、ファスジル、ファスジル塩酸塩)、(+)-トランス-4-(1-アミノエチル)-1-(4-ピリジルカルバモイル)シクロヘキサンカルボキサミドまたはその塩(たとえば、Y-27632((R)-(+)-トランス-(4-ピリジル)-4-(1-アミノエチル)-シクロヘキサンカルボキサミド2塩酸塩1水和物)など)などを挙げることができ、好ましくはY-27632を含む。
【0229】
このようなさらなる薬剤は、医薬として本発明の細胞医薬に含まれていてもよく、あるいは、別途投与される形態で提供されてもよい。別途提供または投与される形態の場合、キットや組合せ薬剤として提供される。キットや組合せ薬剤として使用される場合は、その使用方法を記した添付書類等が組み合わされてもよい。
【0230】
本発明の医薬、医薬組成物または剤(治療剤もしくは予防剤等)はキットとして提供することができる。特定の実施形態では、本発明は、本発明の組成物または医薬の1以上の成分が充填された、1以上の容器を含む、薬剤パックまたはキットを提供する。場合によって、このような容器に付随して、医薬または生物学的製品の製造、使用または販売を規制する政府機関によって規定された形で、政府機関による、ヒト投与のための製造、使用または販売の認可を示す情報を示すことも可能である。
【0231】
本発明の医薬に含まれる本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞は、例えば、約5×104細胞/300μl~約2.0×106細胞/300μL、あるいは約2×105細胞/300μL~約5×105細胞/300μLの密度で含まれ得る。適切な細胞密度は、これに限定されるものではなく、その上限と下限はそれぞれ適宜変動し得る。例えば、下限としては、約5×104細胞/300μL、約1×105細胞/300μL、約1.5×105細胞/300μL、約2×105細胞/300μL、約2.5×105細胞/300μL、約3×105細胞/300μL等を挙げることができ、上限としては、例えば、約3.0×106細胞/300μL、約2.5×106細胞/300μL、約2.0×106細胞/300μL、約1.5×106細胞/300μL、約1.0×106細胞/300μL等を挙げることができ、これらの任意の組合せが使用され得る。
【0232】
本発明の医薬は、さらに、細胞注入ビヒクルを含んでいてもよい。このような細胞注入ビヒクルは、本発明の細胞と混合されて提供されてもよく、あるいは、別々に提供されてもよい。別途提供または投与される形態の場合、キットや組合せ薬剤として提供される。キットや組合せ薬剤として使用される場合は、その使用方法を記した添付書類等が組合せされてもよい。
【0233】
本明細書において「キット」とは、通常2つ以上の区画に分けて、提供されるべき部分(例えば、検査薬、診断薬、治療薬、抗体、標識、説明書など)が提供されるユニットをいう。安定性等のため、混合されて提供されるべきでなく、使用直前に混合して使用することが好ましいような組成物の提供を目的とするときに、このキットの形態は好ましい。そのようなキットは、好ましくは、提供される部分(例えば、検査薬、診断薬、治療薬をどのように使用するか、あるいは、試薬をどのように処理すべきかを記載する指示書または説明書を備えていることが有利である。本明細書においてキットが試薬キットとして使用される場合、キットには、通常、検査薬、診断薬、治療薬、抗体等の使い方などを記載した指示書などが含まれる。
【0234】
本明細書において「指示書」は、本発明を使用する方法を医師または他の使用者に対する説明を記載したものである。この指示書は、本発明の検出方法、診断薬の使い方、または医薬などを投与することを指示する文言が記載されている。また、指示書には、投与部位として、経口、食道への投与(例えば、注射などによる)することを指示する文言が記載されていてもよい。この指示書は、本発明が実施される国の監督官庁(例えば、日本であれば厚生労働省、米国であれば食品医薬品局(FDA)など)が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、いわゆる添付文書(package insert)であり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ、電子メール)のような形態でも提供され得る。
【0235】
本明細書において使用される「細胞注入ビヒクル」は、細胞を維持することができる限りどのような液でも用いることができ、眼潅流液等として用いられるものが含まれる。細胞注入ビヒクルとして使用されるものとしては、Opti-MEM、その添加物追加形態、OPeguard-MA、OPeguard+F等を挙げることができる。
【0236】
本発明で用いられる細胞注入ビヒクルはさらに、アルブミン、アスコルビン酸および乳酸の少なくとも一つを含んでいてもよい。これらの成分を加えることで、細胞の維持が容易になるからである。好ましくは、これらの成分すべてが、細胞注入ビヒクルに添加される。これらを使用するものの治療成績が良好であることが示されているからである。好ましい実施形態では、OPeguard-MA(登録商標)およびこれに、アルブミン、アスコルビン酸および乳酸の少なくとも1つ、2つまたは3つすべてを加えたものが用いられる。
【0237】
なお、本明細書において得られた知見をもとにして、細胞表面マーカー等の発現特性、サイトカイン、miRNA、代謝産物等を指標として、患者を層別化し、層別化された患者の病態に応じて本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞を適宜調製し、適切な治療を行うことができる。
【0238】
(生産した細胞、細胞培地、細胞注入ビヒクル等の品質評価または工程管理)
別の局面において、本発明は、生産した本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞、これらの細胞のための細胞培地(培養液)、細胞注入ビヒクル(混濁液)等の品質評価または工程管理に関する技術を提供する。一つの局面では、本発明は、細胞表面マーカー;タンパク質性産物および該産物の関連生体物質;SASP関連タンパク質;miRNA(例えば、分泌型(可溶性)miRNA、細胞内miRNA);エキソゾーム;アミノ酸を含む細胞代謝産物および該産物の関連生体物質;細胞の大きさ;細胞の密度および自己抗体反応性細胞の存在からなる群より選択される少なくとも一つの細胞指標を測定する工程を包含する、ヒト角膜内皮機能特性を惹起し得る培養ヒト機能性角膜内皮細胞、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞の品質評価または工程管理の方法を提供する。細胞表面マーカー;細胞タンパク質性産物および該産物の関連生体物質;SASP関連タンパク質;miRNA(例えば、分泌型miRNA、細胞内miRNA);エキソゾーム;細胞代謝産物および該産物の関連生体物質;細胞の大きさ;細胞の密度および自己抗体反応性細胞の存在の各々の細胞指標については、本明細書において他の箇所にて詳細に説明される。このような細胞指標を用いた品質評価または工程管理技術は、従来提供されていないものであり、本発明において、このような細胞指標を用いた特性を詳細に明らかにする技術が提供されたことにより、注入治療に用いる細胞は不均質細胞亜集団の混合物であり、目的細胞はその一部に限定されることが判明した。培養ヒト角膜内皮細胞は機能性成熟分化角膜内皮細胞、中程度分化角膜内皮細胞、目的外細胞の亜集団などで構成されていることも判明した。核型異常は亜集団選択的に生じることも判明しており、亜集団選択的に反応する自己抗体が存在することも判明した。本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞にはかかる異常はなく、他の亜集団に比較し、免疫拒絶反応に係るHLAクラスI抗原や細胞変性関連抗原の発現が低いことも判明した。非目的細胞では細胞老化に係るサイトカイン(SASP)産生が高く、細胞が注入される前房環境のSASP量は患者によって大きく異なることも判明していることから、これらの細胞指標を用いて本発明の機能性成熟分化角膜内皮細胞の品質評価または工程管理を行うことができるようになった。このような品質評価または工程管理は、本発明の技術があって初めてなし得たことであり、従来の知見では全く想像もできなかったことであるといえる。
【0239】
細胞側の本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞の純度、非目的細胞の混在割合、注入細胞から分泌され、あるいは、細胞注入部位に内在するSASP関連タンパク質、miRNA、代謝産物などを評価するとともに、生体側の自己抗体など宿主因子を評価することで、品質評価または工程管理を行うことができることを見出した。
【0240】
これらに加え、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞を識別できる評価法または工程管理が開発され、例えば、培養細胞中の本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞と非目的細胞の識別に、分泌型miRNA、トリカルボキシル酸(TCA)回路代謝産物vs解糖系代謝産物などが有効に活用できることも本発明で見出した。したがって、本発明は、例えば、分泌型miRNA、TCA回路代謝産物vs解糖系代謝産物による純度評価法およびそれに使用する機器を提供する。
【0241】
また、本発明は、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞の生産工程を追跡評価できる代謝を追跡する方法およびそれに使用する機器を提供する。
【0242】
加えて、本発明は、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞の品質評価または工程管理の方法であって、細胞面積とその分布を評価することを含む方法を提供する。
【0243】
具体的な実施形態では、本発明の細胞指標は少なくとも3つ使用される。少なくとも3つの細胞指標を用いることによって、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞の品質をきっちり評価し、または工程管理を行うことができる。
【0244】
1つの好ましい実施形態では、本発明で使用される細胞指標は、細胞の大きさ、細胞の密度またはそれらの組合せを含む。細胞の大きさ、細胞の密度またはそれらの組合せを評価することで、角膜内皮の機能性を相当程度評価することができる。
【0245】
特定の実施形態では、本発明で用いられる細胞指標は、細胞表面マーカー;細胞タンパク質性産物および該産物の関連生体物質の少なくとも一つ、miRNA(細胞内miRNA、分泌型miRNA等)の少なくとも一つ、ならびに細胞代謝産物および該産物の関連生体物質の少なくとも一つの組合せを含む。これらの3種類の細胞指標を用いることで、形質転換細胞を除外し、目的外細胞も除外し、中程度分化角膜内皮細胞も識別することがより確実にできるからである。また、miRNAとして分泌型を用いることで、いずれも細胞からの産物(タンパク質生産物および代謝産物)との組み合わせで非侵襲性の品質評価または工程管理または工程管理を行うことができる。
【0246】
本発明の品質評価または工程管理法または工程管理法では、さらに、細胞指標および/または角膜機能特性により機能性成熟分化角膜内皮細胞の亜集団を識別することを含む。亜集団ごとに種々の品質が想定され、用途や品質に応じて適宜適切な細胞製品を提供することができるからである。
【0247】
例えば1つの実施形態では、本発明は、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞が有する細胞指標の少なくとも一つ(例えば、細胞表面マーカー)を測定することで、品質評価または工程管理または工程管理を行うことができる。細胞表面マーカー等の細胞指標については、本明細書において(ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞)等において詳述される任意の実施形態を単独でまたは組み合わせて採用することができることが理解される。
【0248】
本発明の品質評価または工程管理技術の一つの実施形態において、角膜機能特性は、細胞表面にCD166陽性およびCD133陰性を含む細胞表面抗原を発現することを含む。好ましくは、この細胞表面抗原がCD166陽性、CD133陰性およびCD44陰性~中陽性を含むことを特徴とし、あるいは、CD166陽性、CD133陰性およびCD44陰性~CD44弱陽性を含むことを特徴としてもよい。また、細胞表面抗原がCD166陽性、CD133陰性、CD44陰性~CD44弱陽性およびCD90陰性を含むことを特徴としてもよい。あるいは、別の実施形態では、細胞表面抗原がCD166陽性、CD133陰性およびCD200陰性を含むことを特徴とする。
【0249】
1つの具体的な実施形態では、タンパク質性産物および該産物の関連生体物質;分泌型miRNA;アミノ酸を含む細胞代謝産物および該産物の関連生体物質;の各々から複数の指標を選択して各指標のプロファイルの変動を確認し、CD166陽性、CD133陰性、CD44陰性~CD44弱陽性及びCD90陰性~弱陽性を含む細胞指標を有する細胞の同質性を判定することで、品質評価または工程管理を行うことができる。
【0250】
一つの実施形態では、本発明において用いられる細胞タンパク質性産物および該産物の関連生体物質は、(A)機能性成熟分化角膜内皮細胞において、発現が上昇するものおよび(B)機能性成熟分化角膜内皮細胞において発現が下がるものを含むがこれらに限定されない:
【0251】
一つの実施形態では、本発明で使用されるmiRNAマーカーは、(ヒト眼前房内への注入時にヒト角膜内皮機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞)の節等の本明細書に記載される任意のものを使用することができる。
【0252】
一つの実施形態では、本発明において使用されるエキソゾームは以下の細胞指標:(A)機能性細胞において発現が低下するものを有し得、さらに特定すると、CD63、CD9、CD81、HSP70等からなる群より選択される少なくとも一つの指標を含む。
【0253】
一つの実施形態では、本発明で使用される細胞代謝産物および該産物の関連生体物質は、(ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜内皮機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞)の節等の本明細書に記載される任意のものを使用することができる。
【0254】
別の実施形態では、本発明で使用される細胞の大きさは平均細胞面積が約250μm2以下、約240μm2以下、約230μm2以下、約220μm2以下、約210μm2以下、約200μm2以下である。あるいは、平均細胞面積は、約300μm2以下、約290μm2以下、約280μm2以下、約270μm2以下、約260μm2以下であってもよい。本発明の機能性成熟分化角膜内皮細胞は、機能性を有する比較的小さな細胞と同レベルのサイズの減少を達成した。また、本発明が規定するサイズを達成することによって、機能性であること、しかも品質との相関があることが判明した。したがって、本発明が規定するサイズであるかどうかを判断することによって、本発明の機能性成熟分化角膜内皮細胞の品質を管理することができる。
【0255】
さらなる実施形態では、本発明で使用される細胞集団の飽和細胞培養時の平均細胞密度は少なくとも約2000個/mm2以上である。本発明の細胞集団は、その飽和細胞培養時の平均細胞密度が、少なくとも約1500個/mm2以上、少なくとも約1600個/mm2以上、少なくとも約1700個/mm2以上、少なくとも約1800個/mm2以上、少なくとも約1900個/mm2以上、あるいは少なくとも約2000個/mm2以上であることを観察することによって治療に使用し得るかどうかを判定することができる。あるいは、前記細胞集団の飽和細胞培養時の平均細胞密度は、少なくとも2100個/mm2以上、少なくとも2200個/mm2以上、少なくとも2300個/mm2以上、少なくとも2400個/mm2以上、少なくとも2500個/mm2以上であるがこれらに限定されない。上限としては、任意の実現可能な数値を挙げることできるが、例えば、3000個/mm2以上、3100個/mm2、3200個/mm2、3300個/mm2、3400個/mm2、3500個/mm2、3600個/mm2、3700個/mm2、3800個/mm2、3900個/mm2、4000個/mm2等でも上限として実現可能である。これらの上限下限の任意の組合せが、本発明の細胞集団の好ましい飽和細胞培養時の細胞密度範囲として使用されることが理解される。
【0256】
例えば、工程管理は、継代培養の経過の中で任意の時点において培養液中のタンパク性産物(例えば、サイトカイン類等)をELISA法による定量によって実施することができる。このとき、同時期に細胞の形態検査を実施してもよい。また、注入前の一定の時点(例えば、注入1日前、1週間前、2週間前、3週間前等、直前~3週間前の任意の時点等、あるいは3週間以上前等)の時点で一部の細胞を取り出しFACSにより細胞表面形質について規格基準値を満たすかどうか検定してもよい。あるいは、継代培養時におこなってもよい。同一ロットの範囲内において複数のフラスコ間に、規格値を逸脱する水準での差異を認められないことが通常であるから、このFACS解析は複数のプレートがある場合に任意の一つのフラスコ或いはスケールダウンプレートについて実施することで充足させることができる。
【0257】
あるいは、品質規格試験(細胞機能確認試験)を追加であるいは別個に行ってもよい。例えば、品質規格試験(細胞機能確認試験)としては、免疫染色試験(Na+/K+ATPase,ZO-1)を実施することができ、例えば、プレート(24ウェルプレートが例示される)に同じ細胞密度で播種し、培養したものを用いて免疫染色試験を実施してもよい。別スケールで培養して得られるヒト角膜内皮細胞がヒトへの注入用の懸濁細胞を評価する際の評価法への組み込みが可能である。
【0258】
本発明の1つの例示的な実施形態では、以下のように品質評価または工程管理を行うことができる。すなわち、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞はヒトの眼前房内に細胞懸濁液として注入されることを想定するものである。培養細胞は、その形状(大きさ、形態など)は固より、多岐にわたる細胞形質(接着性、可溶性産物産生能、細胞表面形質、細胞内機能性分子の発現)など、全てにおいて分布を有する。他方で、培養によって、細胞株ではない初代培養細胞は様々な形質転換(上皮間葉系移行、細胞老化など)、様々な正常の可塑性を示す。細胞医薬では、低分子化合物と異なり品質規格を定めることについて多くの先験的試みが要求されるため、本発明の品質評価または工程管理方法は重要である。本発明が対象とする本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞の製造法の典型的な例として、成熟分化細胞への分化を誘導するために例えば、10μM Y-27632(ROCK阻害剤)を添加し、培養期間中に細胞の相転移抑制を目的に例えば、10μMのSB203580を添加し、細胞の成熟分化のために細胞密度的に培養細胞が細胞飽和(コンフルエント)状態になった後に数週間にわたる培地交換での培養を継続することなどを含む方法を行う。この際に、細胞表面形質を複数種類(例えば、9種類)用いて本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞の細胞純度を客観的に再現性良く規定する方法が、本発明によって提供される。工程管理法としては、培養途上の培養器の幾つかの抜出により、その培養液交換時の培養液を用いてタンパク生産物について工程管理・規格項目を設定するとともに基準値を定めることによって、達成することができる。また、各継代時の培養細胞密度、細胞の大きさ、大きさの分布についても規格値を規定することで、品質評価または工程管理を行うことができる。本発明により、非侵襲的な工程管理・規格試験法として非目的細胞の混入を推定できるmiRNA, 細胞代謝産物についても基準が提供されるため、これらの種々の基準値を用いて各場面において、品質評価または工程管理を達成することができる。
【0259】
別の局面では、本発明は、細胞の大きさ;細胞の密度および自己抗体反応性細胞の存在からなる群より選択される少なくとも1つの細胞指標を測定する工程を包含する培養ヒト角膜内皮細胞に混在する角膜内皮非機能性細胞(非目的細胞)の検出方法を提供する。
【0260】
さらなる局面では、本発明は、本発明の細胞指標を測定する試薬または手段を含む、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞の品質評価剤、工程管理剤または角膜内皮非機能性細胞検出剤を提供する。
【0261】
測定する手段としては、細胞指標を測定することができるものであればどのようなものでもよい。
【0262】
本明細書において品質評価剤、工程管理剤または角膜内皮非機能性細胞検出剤等として使用される「薬剤」、「剤」または「因子」(いずれも英語ではagentに相当する)は、広義には、交換可能に使用され、意図する目的を達成することができる限りどのような物質または他の要素(例えば、光、放射能、熱、電気などのエネルギー)でもあってもよい。そのような物質としては、例えば、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸(例えば、cDNA、ゲノムDNAのようなDNA、mRNAのようなRNAを含む)、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、有機低分子(例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、有機低分子、コンビナトリアルケミストリで合成された分子、医薬品として利用され得る低分子(例えば、低分子リガンドなど)など)、これらの複合分子が挙げられるがそれらに限定されない。ポリヌクレオチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリヌクレオチドの配列に対して一定の配列相同性を(例えば、70%以上の配列同一性)もって相補性を有するポリヌクレオチド、プロモーター領域に結合する転写因子のようなポリペプチドなどが挙げられるがそれらに限定されない。ポリペプチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリペプチドに対して特異的に指向された抗体またはその誘導体あるいはその類似物(例えば、単鎖抗体)、そのポリペプチドがレセプターまたはリガンドである場合の特異的なリガンドまたはレセプター、そのポリペプチドが酵素である場合、その基質などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0263】
例えば、細胞表面マーカー(例えば、CDマーカー)であれば、抗体等を挙げることができるがそれらに限定されない。miRNAであれば、相補配列を有するプローブ等を挙げることができるがそれらに限定されない。このような測定する手段は好ましくは標識されたものである。
【0264】
細胞タンパク質性産物および該産物の関連生体物質、SASPタンパク質、エキソゾーム、細胞代謝産物および該産物の関連生体物質等については、酵素反応を利用した測定キットを挙げることができる。
【0265】
一つの局面において、本発明は、A)ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を発現し得るヒト機能性角膜内皮細胞(または機能性成熟分化角膜内皮細胞)を含む可能性のある試料を提供する工程;B)本発明の品質評価剤、工程管理剤または角膜内皮非機能性細胞検出剤を用いて該試料が、該ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞(または機能性成熟分化角膜内皮細胞)を含むかどうかを決定する工程であって、該品質評価剤、工程管理剤または角膜内皮非機能性細胞検出剤による評価結果が、該細胞がヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞(または機能性成熟分化角膜内皮細胞)であることを示す場合に、該試料がヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞を含むと決定する工程;C)ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞(または機能性成熟分化角膜内皮細胞)であると決定された細胞を選別する工程を包含する、ヒト機能性角膜内皮細胞の培養物中における選択的増殖方法を提供する。
【0266】
別の局面において、本発明は、A)ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得る機能性角膜内皮細胞(または機能性成熟分化角膜内皮細胞)であるとして提供された細胞について、本発明の品質評価剤、工程管理剤または角膜内皮非機能性細胞検出剤を用いて該細胞の該機能性角膜内皮細胞の細胞指標に関する情報を得る工程;およびB)該情報に基づき、該提供された細胞がヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞(または機能性成熟分化角膜内皮細胞)であると決定する工程、を包含する、ヒト機能性角膜内皮細胞の品質検定方法を提供する。
【0267】
さらに別の局面において、本発明は、ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞(または機能性成熟分化角膜内皮細胞)の調製において、該調製の品質を管理するための方法であって、A)本発明の品質評価剤、工程管理剤または角膜内皮非機能性細胞検出剤を用いて該調製において得られる細胞の機能性成熟分化角膜内皮細胞(または機能性成熟分化角膜内皮細胞)の細胞指標に関する情報を得る工程、およびB)該情報に基づき、該調製がヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞(または機能性成熟分化角膜内皮細胞)の調製に適していると判定する工程を包含する、方法を提供する。
【0268】
さらにまた、本発明は、ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞(または機能性成熟分化角膜内皮細胞)の純度を検定する方法であって、A)該ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞(または機能性成熟分化角膜内皮細胞)を含む可能性のある試料を提供する工程、B)本発明の品質評価剤、工程管理剤または角膜内皮非機能性細胞検出剤を用いて該細胞の機能性角膜内皮細胞の細胞指標に関する情報を得る工程、ならびにC)該情報に基づいて、該試料中の該ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞(または機能性成熟分化角膜内皮細胞)の純度を算出する工程を包含する、方法を提供する。
【0269】
本発明は、A)ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞(または機能性成熟分化角膜内皮細胞)であるとして提供された細胞を培地中で培養して、本発明の品質評価剤、工程管理剤または角膜内皮非機能性細胞検出剤を用いて該細胞の該機能性角膜内皮細胞の細胞指標に関する情報を得る工程;およびB)該情報に基づき、該培地が該ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞(または機能性成熟分化角膜内皮細胞)の製造に適切であると決定する工程、を包含する、ヒト機能性角膜内皮細胞用の培地の品質検定方法を提供する。
【0270】
本発明は、A)ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞(または機能性成熟分化角膜内皮細胞)であるとして提供された細胞を培養して、本発明の品質評価剤、工程管理剤または角膜内皮非機能性細胞検出剤を用いて該細胞の該機能性角膜内皮細胞の細胞指標に関する情報を得る工程;およびB)該情報に基づき、該細胞注入ビヒクルが細胞注入療法に適切であると決定する工程、を包含する、ヒト角膜内皮機能性細胞用の細胞注入ビヒクルの品質検定方法を提供する。
【0271】
本明細書において「ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞(または機能性成熟分化角膜内皮細胞)を含む可能性のある試料」とは、本発明のヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞(または機能性成熟分化角膜内皮細胞)の製造方法または他の方法によって得られた任意の試料をいい、ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞が含まれている可能性があればいずれも該当する。
【0272】
別の局面において、本発明のヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞の品質評価または工程管理の方法において、以下の項目:
(1)培養上清ELISAによる純度試験、TIMP-1:500ng/mL以下、IL-8:500pg/mL以下、PDGF-BB:30pg/mL以上、MCP-1:3000pg/mL以下、(2)細胞FACSによる純度試験、CD166=95%以上、CD133=5%以下、CD105陰性~低陽性=95%以上、CD44陰性~低陽性=70%以上、CD44高陽性=15%以下、CD24=10%以下、CD26陽性=5%以下、CD200=5%以下、(3)バリア機能(ZO-1)陽性、(4)ポンプ機能(Na+/K+ATPase)陽性、(5)細胞生存率、トリパンブルー染色で70%以上、(6)細胞形態、外観試験で形質転換細胞を認めない、(7)Claudin10 陽性、(8)エフェクター細胞(E-ratio)>50%、(9)非目的細胞、非目的細胞A(CD44強陽性細胞)<15%、非目的細胞B(CD26陽性細胞)<5%、非目的細胞C(CD24陽性細胞)<10%
(10)核型異常陰性
の1または複数を確認する工程を包含する。
【0273】
勿論、このほかにも、無菌試験(例えば、バクテリアラート法により、菌の発育がみられないこと)、マイコプラズマ(例えば、PCR法で陰性であること)、エンドトキシン(例えば、比濁時間分析法にて2.3pg/mL未満(0.017EU/mL未満等、ウイルス(例えば、PCR法にて陰性)、残存BSA量(例えば、最終洗浄液をELISAにより125ng/mL以下)等の項目を試験してもよい。
【0274】
これらの項目は、本発明のヒト機能性角膜内皮細胞の培養物中における選択的増殖方法、ヒト機能性角膜内皮細胞の品質検定方法、ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞の調製において、該調製の品質を管理するための方法、ヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞の純度を検定する方法、ヒト機能性角膜内皮細胞用の培地の品質検定方法、ヒト機能性角膜内皮細胞用の細胞注入ビヒクルの品質検定方法において任意に1つまたは複数の項目を確認または評価することを包含し、これらは、細胞注入治療の3週間~直前(例えば、7日前)、または培地交換のみの保存的培養時または継代培養時に実施され得る。
【0275】
前記確認は、細胞注入治療の3週間~直前、好ましくは約7日前~直前、継代培養時または培地交換のみの保存的培養時に実施してもよい。継代培養時とは、継代前、継代中、継代後およびそれらの約1~7日以内の期間等を指すがこれらに限定されない培地交換のみの保存的培養時とは、本発明の細胞を製造した後に培地交換のみで保存することができるところ、その際の培地を交換する時点またはその前後をいう。前後とは、それらの約1~7日以内の期間であってもよい。
【0276】
別の局面において、本発明のヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞の品質評価または工程管理の方法はまた、対象細胞について、(1)内皮ポンプ・バリア機能の保持、(2)特定のラミニンに対する接着・結合性、(3)分泌サイトカインプロファイル、(4)産生する代謝産物プロファイル(5)インビトロ培養時の飽和細胞密度、(6)培養時に得られる細胞の空間的大きさやその分布および(8)マウス角膜に対する液体窒素低温凍結損傷後に細胞注入した場合の細胞維持の1または複数の特徴を判定する工程を包含する。
【0277】
1つの実施形態では、(1)内皮ポンプ・バリア機能の保持の判定は、角膜内皮組織に通常使用されるポンプ機能測定法、バリア機能測定法を用いて判定することを包含する。
【0278】
1つの実施形態では、(2)内皮ポンプ・バリア機能の保持の判定は、角膜内皮組織に通常使用されるポンプ機能測定法、バリア機能測定法を用いて判定することを包含する。
【0279】
1つの実施形態では、(3)特定のラミニンに対する接着・結合性に関する判定は、ラミニン511(α5鎖、β1鎖、γ鎖1の複合体)、ラミニン521(α5鎖、β2鎖、γ鎖1の複合体)またはその機能性フラグメントに対する接着性および/またはこれに対
するインテグリンの発現の上昇を指標に判定することを包含する。
【0280】
1つの実施形態では、(4)分泌サイトカインプロファイルの判定は、血清または前房水のサイトカインプロファイルの産生レベルを測定することを包含する。
【0281】
1つの実施形態では、(5)産生する代謝産物プロファイルの判定は、前記細胞の代謝産物の産生レベルを測定することを包含する。
【0282】
1つの実施形態では、(6)産生するマイクロRNA(miRNA)プロファイルの判定は、全RNAを取得しそのマイクロRNA発現プロファイルを取得することを包含する。
【0283】
1つの実施形態では、(7)インビトロ培養時の飽和細胞密度の判定は、画像取得システムを用いて得られた前記細胞の画像において細胞を計数することを包含する。
【0284】
1つの実施形態では、(8)マウス角膜に対する液体窒素低温凍結損傷後に細胞注入した場合の細胞維持の判定は、マウスの角膜の中央領域を低温損傷により前処理し内皮細胞を取り除いて作製したモデルのヒトの眼前房に、判定すべき細胞を注入し、角膜の特徴を臨床的に観察し、角膜の厚さをパキメータにより評価し、HCECの接着をヒト核染色により病理組織学的に検査してその細胞が機能を有するかどうかを確認することを包含する。
【0285】
細胞指標に関する情報は、例えば、コンピュータ読み取り可能な状態で保存されまたは出力されることもでき、そのような状態のデータを用いて、さらなる提供された細胞が細胞注入療法に適した機能性成熟分化角膜内皮細胞であると決定することや、機能性成熟分化角膜内皮細胞であると決定された細胞を培養物において選択的に増殖すること、調製が細胞注入療法に適した機能性成熟分化角膜内皮細胞の調製に適していると判定することや、試料中の機能性成熟分化角膜内皮細胞の純度を算出することができる。
【0286】
例示的な実施形態では、注入細胞の品質、純度試験、機能確認等は以下のように行うことができる。
【0287】
(注入細胞の品質試験、純度試験、機能確認)
培養角膜内皮細胞は以下の品質評価または工程管理(Quality Control: QC)試験を
実施し、品質が確保され出荷規格を満たした製品を本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞または機能性成熟分化角膜内皮細胞として使用する。
1) 工程管理試験
・ 外観試験(各フラスコ)
培地中の TIMP-1、IL-8、PDGF-ββ、MCP-1(各フラスコ)
・ 生細胞数/生存率
2) 最終製品の出荷規格および試験方法例
【0288】
【0289】
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J. et al.(1989). Molecular Cloning: A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001); Ausubel, F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience; Ausubel,F.M.(1989). Short Protocols inMolecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience;Innis,M.A.(1990).PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications, Academic Press; Ausubel,F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates;Ausubel,F.M. (1995).Short Protocols in MolecularBiology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates;Innis,M.A. et al.(1995).PCR Strategies, Academic Press; Ausubel,F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods fromCurrent Protocols in Molecular Biology,Wiley, and annual updates; Sninsky, J.J.et al.(1999). PCR Applications: Protocols for Functional Genomics, Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997、エクソソーム解析マスターレッスン(実験医学 別冊 羊土社)、リアルタイムPCR完全実験ガイド(実験医学 別冊 羊土社)、遺伝子導入プロトコール(実験医学 別冊 羊土社)、RNAi実験なるほどQ&A(羊土社)などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0290】
DNA技術および核酸化学については、例えば、Gait, M.J.(1985). Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press; Gait,M.J.(1990). Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, IRL Press; Eckstein,F.(1991). Oligonucleotides and Analogues:APractical Approach, IRL Press;Adams, R.L. et al.(1992). The Biochemistry of the Nucleic Acids, Chapman&Hall; Shabarova,Z. et al.(1994). Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids, Weinheim;Blackburn, G.M.et al.(1996). Nucleic Acids in Chemistry and Biology, Oxford University Press; Hermanson,G.T.(I996).Bioconjugate Techniques, Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
【0291】
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値の範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
【0292】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0293】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0294】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、すべてのヒトに関する実験については、ヘルシンキ宣言に基づき、その他政府規制および大学内の規制を遵守して行った。また、視覚および眼科研究における動物の使用についてのARVO宣言(the ARVO Statement for the Use of Animals in Ophthalmic and Vision Research)に従って動物の飼育および取り扱いを行った。試薬類は具体的には実施例中に記載した製品を使用したが、他メーカー(Sigma、和光純薬、ナカライ、abcam、Santa Cruz Biotechnology、R & D Systems、Abnova、AssayPro、Origene、Biobyt、Biorad、Cell Signaling Technology、GE Healthcare、IBL等)の同等品でも代用可能である。
【0295】
(略号)
以下の略号を適宜用いる。
SP:亜集団
cHCEC:培養ヒト角膜内皮細胞
CST:細胞状態相転移
EMT:上皮間葉系相転移
E比(E-ratio):機能性成熟分化角膜内皮細胞と機能性成熟分化角膜内皮前駆細胞の合計を全細胞で除した数(目的細胞の比率)
ECM:細胞外マトリックスCSC:がん幹細胞
ECD:角膜内皮細胞密度
ugおよびuLはそれぞれμgおよびμLを示す。
(実施例1:細胞注入療法に必須の培養ヒト角膜内皮細胞についての細胞均一性)
本実施例では、不均一な培養ヒト角膜内皮細胞(cHCEC)の中の細胞状態相転移(CST)を起こしていない細胞注入療法に適切な亜集団(SP)の識別を実証することを目的とした。なぜなら、角膜内皮機能不全の治療のためにドナー角膜の代替となることが期待されるcHCECは、細胞状態相転移(CST)を起こして老化表現型に向かう傾向があり、このために臨床的使用への適用が困難であるからである。
【0296】
cHCEC中の亜集団の存在は、フローサイトメトリーによって表面CDマーカーの発現に基づいて確認した。異なる亜集団を区別するために有効なCDマーカーは、平均細胞面積が小さく培養物中の細胞密度の高い確立したcHCECに基づいて解析することによって選択した。3種類の典型的なcHCECの亜集団を差別化する特徴を、細胞外マトリックス(ECM)についてのPCRアレイによってもまた確認した。CDマーカーを組み合わせた解析によって、様々な亜集団から細胞注入治療に適した亜集団(エフェクター細胞)を明らかに識別することができた。ZO1およびNa+/K+ATPase、CD200およびHLAの発現を異なる亜集団間で比較した。本実験の概要は以下のとおりである。
【0297】
(方法および材料)
ヒト角膜内皮細胞ドナー
使用したヒト組織は、ヘルシンキ宣言の倫理的原則に則って取り扱った。20名のヒトの遺体角膜から取得したHCECは核型分析を行う前に培養した。ヒトドナー角膜はSightLife Inc.(Seattle, WA, USA)から入手した。全ての死亡したドナーの近親者から、研究のために眼を提供することについて書面によるインフォームドコンセントを得た。全ての組織は統一死体提供法(UAGA)の原則に則って回収し、このUAGAはドナーの同意書を得て、組織を回収した州のものであった。
【0298】
ドナーの年齢は2~75歳の範囲(43.7±26.4歳)であった。男性は9名であり、女性が11名であった。全てのドナーの角膜をOptisol-GS(Chiron Vision, Irvine, CA, USA)中に保存し、研究の目的で航空輸入した。ドナーの情報によると、全てのドナーの角膜は角膜疾患のない健康なものであると考えられ、染色体異常の既往歴のあるドナーは一人もいなかった。
【0299】
HCECの培養
別途具体的に記載しない限り、HCECは、公開されているプロトコルにいくつかの変更を加えたものに従って培養した。簡潔に記載すると、デスメ膜を角膜内皮細胞とともにドナーの角膜から剥がし、37℃において1mg/mLのコラゲナーゼA(Roche Applied Science, Penzberg, Germany)で2時間処理して消化した。単一のドナー角膜から取得したHCECを、I型コラーゲンコーティング6ウェル細胞培養プレート(Corning Inc., Corning, NY, USA)のウェルの一つに播種した。培養培地は公開されているプロトコルにしたがって調製した。簡潔に記載すると、基礎培地は、Opti-MEM-I(Life Technologies Corp., Carlsbad, CA, USA)、8%のウシ胎児血清(FBS)、5ng/mLの上皮成長因子(EGF; Life Technologies)、20μg/mLのアスコルビン酸(Sigma-Aldrich Corp., St. Louis, MO, USA)、200mg/Lの塩化カルシウム(Sigma-Aldrich Corp., St. Louis, MO, USA)、0.08%のコンドロイチン硫酸(Wako Pure Chemical Industries, Ltd., Osaka, Japan)および50μg/mLのゲンタマイシンを用いて調製した。馴化液は以前に記載されたとおりに調製した(Nakahara, M. et al. PLOS One (2013) 8(7), e69009)。この馴化液を用いて5%のCO2を含む加湿大気下において37℃でHCECを培養した。培養培地は週に2回交換した。コンフルエントに達したら、37℃で12分間10xTrypLE Select(Life Technologies)を使用してHCECを1:3の比率で継代培養した。第2~第5継代のHCECを全ての実験に使用した。
【0300】
位相差顕微鏡
位相差顕微鏡画像は、倒立顕微鏡システム(CKX41, Olympus,Tokyo, Japan)によって撮影した。細胞面積分布解析のために、cHCECをPBS(-)で3回洗浄し、位相差顕微鏡画像をBZ X-700顕微鏡システム(Keyence, Osaka, Japan)によって取得した。細胞面積分布はBZ-H3C Hybrid細胞計数ソフトウェア(Keyence)によって定量した。
【0301】
免疫蛍光染色
HCECは、FNC Coating Mixでコーティングされた24ウェル細胞培養プレート中で1×105細胞/ウェルの密度で培養し、免疫蛍光分析のために3~4週間維持した。この細胞を、5%の酢酸を加えた95%エタノール中において室温で10分間固定し、1%のBSAとともに30分間インキュベートした。サンプルを、CD73(1:300; BD Pharmingen染色バッファー)、CD166(1:300; BD Pharmingen染色バッファー)、ZO1(1:300; Zymed Laboratories, South San Francisco, CA, USA)およびNa+/K+ATPase(1:300; Upstate Biotec, Lake Placid, NY, USA)に対する抗体とともに4℃で一晩インキュベートした。PBSで洗浄した後、Alexa Fluor 488結合ヤギ抗マウスIgG(Life Technologies)か、またはAlexa Fluor 594結合ヤギ抗ウサギIgG(Life Technologies)かのいずれかを1:1000の希釈率で2次抗体として使用した。核をDAPI(Vector Laboratories, Burlingame, CA, USA)で染色した。48ウェル細胞培養プレート中で培養した細胞を、蛍光顕微鏡(BZ-9000; Keyence, Osaka, Japan)によって直接調べた。
【0302】
IgGおよびIgMの蛍光染色
まず、HCECをメタノールで固定し、PBSで洗浄を2回し、室温で15分間PBS-0.2% Tx-100 で透過処理し、室温で1時間以上1% BSAのPBSでブロッキングした。その後、1% BSAのPBSで5倍または25倍に希釈した正常人血清250uLをウェルに添加し、4℃で一晩静置した。その後、0.2% Tx-100のPBSで洗浄を4回行い、Alexa Fluor 488標識抗ヒトIgG(5ug/mL)およびAlexa Fluor 647標識抗ヒトIgM(5ug/mL)を含む1% BSAのPBSを添加(250uL/ウェル)した。その後、室温で1時間静置し、0.2% Tx-100のPBSで洗浄を2回行い、PBSで1回洗浄した。室温において15分間DAPI(5ug/mL)で核を染色し、PBSで洗浄した後、倒立蛍光顕微鏡(BZ-9000)で検鏡した。
【0303】
BD Lyoplateスクリーニング
表面マーカーのスクリーニングは、製造元のプロトコルにしたがってヒト細胞表面マーカースクリーニングパネル(BD Biosciences, San Jose, CA, USA)によってマーカーの発現を評価することによって実施した。簡潔に記載すると、培養HCECを、製造元のプロトコルに示された希釈率における242種類の1次抗体およびアイソタイプIgG(BD Biosciences)とともに4℃で30分間インキュベートした。この細胞を、1%のBSAおよび5mMのEDTAを含むPBSで洗浄し、次に、AlexaFluor 647結合2次抗体(1:200の希釈率、BD Biosciences)とともに4℃で30分間インキュベートした。この細胞を、1%のBSAおよび5mMのEDTAを含むPBSで再び洗浄し、BD FACSCant II(BD Biosciences)およびCellQuest Proソフトウェア(BD Biosciences)を使用してフローサイトメトリーによって分析した。
培養HCECのフローサイトメトリー解析
HCECを、上記の通りTrypLE Select処理によって培養ディッシュから回収し、FACSバッファー(1%のBSAおよび0.05%のNaN3を含むPBS)中に4×106細胞/mLの濃度で懸濁させた。同体積の抗体溶液を添加し、4℃で2時間インキュベートした。この抗体溶液は以下を含むものであった。FITC結合抗ヒトCD26 mAb、PE結合抗ヒトCD166 mAb、PerCP-Cy 5.5結合抗ヒトCD24 mAb、PE-Cy 7結合抗ヒトCD44(これらは全てBD Biosciencesから入手)、APC結合抗ヒトCD105(eBioscience、San Diego、CA、USA)。FACSバッファーで洗浄した後、HCECをFACS Canto II(BD Biosciences)で解析した。
【0304】
細胞のソーティング
細胞ソーティング実験のために、HCECを回収し、FITC結合抗ヒトCD24 mAbおよび上記の通りのPE-Cy 7結合抗ヒトCD44 mAb(BD Biosciences)で染色した。FACSバッファーで洗浄した後、細胞をFACSバッファーに再懸濁させた。CD24陰性/CD44陽性細胞およびCD24陰性/CD44陽性細胞をBD FACSJazzセルソーター(BD Biosciences)を使用してソーティングし、後の解析のために24ウェル細胞培養プレート上に4.2×104細胞の密度で播種した。なお使用した各配列はこれらの製品に付随の配列を使用した。
【0305】
免疫関連表面抗原の確認
HLA-I、HLA-IIおよびPDL1の蛍光標識には、Alexa647標識結合抗HLAI抗体(Santa Cruz [#SC-32235 AF647])、FITC結合汎抗HLAII抗体(BD Biosciences [#550853])およびPE-Cy7結合抗PDL1抗体(BD Biosciences [#558017])を使用した。
【0306】
PCRアレイ
全RNAを、miRNeasy Miniキット(QIAGEN strasse1 40724 Hilden Germany)を使用して培養HCECから抽出した。cDNA合成は、RT2 First Strandキット(Qiagen)を使用して96ウェルプレートのフォーマットに対して100ngの全RNAを用いて実施した。内皮のmRNAの発現は、製造元の推奨プロトコルに従ってRT2 Profiler PCR-Array Human Extracellular Matrix and Adhesion Molecules(Qiagen)を使用して調べ、RT2 Profiler PCR Array Data Analysis Tool version 3.5を使用して解析した。
【0307】
自己抗体の測定
自己抗体の測定は以下のプロトコルに従って行った。
【0308】
・HCECをメタノールで固定。
↓PBSで2回洗浄
↓PBS-0.2% Tx-100で透過処理(室温、15分間)
・1% BSA/PBSでブロッキング(室温で1時間以上)
・1% BSA/PBSで5倍または25倍に希釈した正常人血清250μLをウェルに添加
↓4℃、一晩静置
↓PBS-0.2% Tx-100で4回洗浄
・Alexa Fluor 488標識Anti-human IgG(5μg/mL)およびAlexa Fluor 647標識Anti-human IgM(5μg/mL)を含む1% BSA/PBSを添加(250μL/ウェル)
↓室温、1時間静置
↓PBS-0.2% Tx-100で2回洗浄
↓PBSで1回洗浄
・DAPI(5μg/mL)で核を染色(室温、15分間)。
↓PBSで1回洗浄
・倒立蛍光顕微鏡(BZ-9000)で検鏡
【0309】
統計解析
2つのサンプル比較についての平均値の統計的有意性(P値)は、Student's t-検定によって決定した。複数のサンプルセットの比較についての統計的有意性は、Dunnett's多重比較検定で決定した。グラフ中の値は平均±標準誤差を表す。
【0310】
(結果)
培養間での表現型のばらつき
5歳のドナー、1名の若年のドナーおよび2名の新生児ドナーに由来するcHCECを培養した。培養は、Okumuraらの方法(Okumura N, et al., Invest Ophthal Vis Sci. 2014; 55:7610-8.)に従って実施し、CD44、CD166、CD24およびCD105の表面発現を特徴付けた(表1Ga)。別のドナー由来のcHCECをCD44、CD166、CD105およびCD24に代えてLGR5について解析した別のセットを表1Gbにまとめる。
【0311】
【0312】
ドナーの違いに依存して、表面マーカーで規定される亜集団の割合は大きく異なることが明らかとなった。最も高い割合で存在する亜集団はCD166+CD24-CD44+CD105+の亜集団であり、一方、高齢のドナー#1および#2由来のcHCEC中で最も高い割合の亜集団は、CD166+CD44+CD105+CD24-である亜集団であった。表1bは、CD166+CD44+CD105+LGR5-である亜集団が最も高い割合であることを示す。初代培養cHCECでさえ、同じ培養条件下での培養の間に様々な表現型を示した。従来法で培養した任意の角膜内皮組織由来は、培養により多様な細胞が生じ、大きさ、形態、細胞密度、均質性の異なる培養物となる。このような不均一性は、以下の本実施例での亜集団分別により解消し得る。
【0313】
継代数に依存する不均一性を確認するために、多くの培養物を、亜集団の組成の変化についてフローサイトメトリーでモニターした。代表的な結果を、位相差顕微鏡写真とともに
図1(A-B)に示した。
図2(A-B)は代表的なFACS分析を示す(
図2-Aは
図1-Aに対応し、
図2-Bは
図1-Cに対応する)。まとめると、継代数の違いおよびドナーの違いの両方が亜集団の割合に大きなばらつきをもたらした。これにより、いわゆる「培養角膜内皮細胞」にはヘテロな亜集団が存在し、そのうちの特定の亜集団が機能性成熟分化角膜内皮エフェクター細胞であるものと判断し以下解析を進めた。
【0314】
ZO1およびNa+/K+ATPaseの発現からは均一性は保証されない
HCECのマーカーとして周知であるZO1およびNa+/K+ATPaseの両方は、CD44-の亜集団について染色されただけではなく、層状かつ線維芽細胞様の形態を有するCD44++CD24-の亜集団およびCD44++CD24+の亜集団についても染色された(
図3)。典型的な層状かつ線維芽細胞様の形態を有するCD44+++CD24+の亜集団はこれらを発現していなかった(
図3)。
【0315】
亜集団間でのCD200およびHLAクラスIの発現
驚くべきことに、HCECのマーカーであると以前主張されたCD200の発現は、脆弱なCSTを起こしたcHCEC中の1種類のCD44++の亜集団に限られていた(
図4c)。重要なことに、CD44-細胞はCD200発現を全く示さず(
図4a)、より興味深いことに、高度にCD44陽性であるいくつかの亜集団は、CD200を発現していなかった。同種の宿主に注入され得るcHCECの免疫原性に関して、本発明者らは、亜集団は表面HLAクラスI抗原の発現において異なり、これはCD44およびCD26の発現の減少に伴って減少することを見出した(
図5)。
【0316】
HLA-I、HLA-IIおよびPDL1のcHCECにおける発現についても解析したところ、
図10-Bおよび
図5に示されるように、本発明の機能性成熟分化角膜内皮細胞は、HLA-IおよびPDL1はいずれの培養ヒト角膜内皮細胞についても陽性であるが、HLAIIはほぼ陰性であった。
【0317】
また、
図10-Cに示されるように、相転移を起こした細胞を含む培養ヒト角膜内皮細胞の蛍光顕微鏡像および位相差顕微鏡像を見ると、細胞転移を起こした培養ヒト角膜内皮細胞にはIgGおよびIgMが結合していることから、血清中には細胞相転移を起こした細胞に対する自然抗体が存在することが示される。このように、本発明の機能性細胞は、自己抗体も実質的に存在しないことが亜集団特異的に生じることが明らかになった。本実施例で示されるように、特定の亜集団をモニターして選択することによって、自己抗体が実質的に存在しない亜集団を選択することができる。自己抗体は当該分野で公知の手法によって測定することができる。
【0318】
フローサイトメトリー分析を、前房内への細胞注入に適応可能な亜集団を規定するためにさらに実施した。cHCECの表現型を、CD166、CD133、CD105、CD90、CD44、CD26、CD24、HLA-ABC、HLA-DR/DP/DQおよびPDL1について調べた。また、摘出直後の角膜組織中でのこれらのマーカーの発現も確認し、CD133、CD105、CD90、CD44、CD26、CD24、HLA-DR/DP/DQは発現されていないことを確認した(
図6-B)。免疫組織学的試験に基づいて、CD133、CD105、CD90、CD44、CD26、CD24およびHLA-DR/DP/DQが陰性、かつCD166およびHLA-ABCが陽性である亜集団をエフェクター細胞(本発明の成熟分化角膜内皮機能性細胞に該当する)として定義して、細胞注入療法への適用を確実にした。代表的な免疫細胞学的染色を
図6-Bに示した。本発明者らによる予備的ではあるがさらなる実験において、新鮮なヒト角膜内皮は、CD24、CD26、CD44、CD90およびCD133のいずれの存在も示さなかったが、明らかにCD166を強く発現していた。このことから、ここで示したcHCECの異数性を全く示さない亜集団の表現型は新鮮な角膜内皮組織中のHCECの亜集団と符合することが示される。
【0319】
高度に精製されたCD44-亜集団は、CSTのない表現型を惹起する
CD44は幹細胞の特徴の維持に貢献し、CD44の機能的貢献は、付近にある分子、隣接細胞および周辺のマトリックスと情報をやり取りする能力によるものである。これをうけて、CD44陰性(
図7のゲートB)の亜集団および陽性(ゲートA)の亜集団をBD FACSJazzセルソーターによってソーティングし、精製した亜集団を24ウェルプレート中で培養し、その後、17日間さらに培養した。CD44+の亜集団として取得した亜集団は急速に増殖し、紡錘体様の形態を有し、Na+/K+ATPaseの不規則な弱い染色を示したのに対して、CD44-の亜集団として取得した亜集団は比較的緩徐な増殖を示し、Na+/K+ATPaseの明らかな発現を示した(
図7)。この結果は、亜集団の中には細胞注入療法に適したエフェクター細胞が存在するという新しく導入した考えをさらに支持する。
【0320】
ECMについてのPCRアレイによる亜集団の識別
エフェクター細胞およびCSTを起こした別の2種類の亜集団に由来する内皮細胞mRNAの発現を、RT
2 Profiler PCR-Array Human Extracellular Matrix and Adhesion Molecules(Qiagen)を使用して調べた。3種類の典型的なcHCECの亜集団間で対照的な特徴を確認した。クラスター(ヒートマップ)解析によって、これら3種類の亜集団間の明確な差異が
図8の通り示され、再度、EMA遺伝子特徴の異なるエフェクター亜集団の存在が示された。
【0321】
CDマーカーによるエフェクター細胞の特定の亜集団があることの証明
CD44-cHCECおよびCD44+cHCECについての細胞表面マーカーを、フローサイトメトリーによって242種類の細胞表面抗原の発現についてスクリーニングすることによって評価した(Lyoplate, BD Biosciences)。CDマーカーの発現プロファイルを
図9および表2に示す。
【0322】
【0323】
各マーカーの蛍光強度中央値÷陰性対照の蛍光強度中央値(アイソタイプコントロール抗体による染色)の値が
30以上:+++
10以上30未満:++
5以上10未満:+
5未満:-
両方の群で低い発現レベルを示したマーカーは示していない。CD73、CD26、CD105のタンパク質発現はCD44+の亜集団においてのみ見られ、CD44-の亜集団においては全く見られなかった。これに対して、HCEC由来細胞の代表的マーカーとして用いられるCD166は、CD44の発現強度に関わらずほとんど全ての亜集団において観察された。この観察結果は、CD166は正常細胞および線維芽細胞様細胞の両方において発現されることを記載したOkumuraらの結果と符合する。異なる亜集団を区別するのに有効なCDマーカーを、平均細胞面積が小さく、細胞密度の高い確立したcHCECと比べて解析することによって選択した。CDマーカーの組み合わせ解析によって、治療に適した亜集団(エフェクター細胞)が明確に識別される。
【0324】
本実施例の因子はcHCECにおけるエフェクター細胞の比率に影響を与える
亜集団を規定するための実際的な科学的指標が存在しないので、培養物間のばらつきを定量する唯一の方法は形態を顕微鏡下で観察することである。しかし、本発明において培養物中のエフェクター亜集団の割合(E比)を定量する方法を開発した。この方法によって、ドナーの年齢、ドナーの内皮細胞密度および死と保存時の間の期間(D-P)と、cHCECにおけるエフェクター細胞の割合(E比)との関係が明らかになった(
図10-A)。ドナーの年齢のみがE比と統計的に有意に相関することが判明した。
【0325】
E比率(エフェクター)に影響を与える因子
上記の通り、CD44は、CST、幹細胞特性の維持およびがん幹細胞(CSC)の誘導において様々な重要な役割を果たし、cHCEC上でのCD44の発現を決定付ける因子を調べることが重要である。初代培養を延長して行うと、CD44の発現は徐々に減少するが(
図11-A)、この減少は成熟分化型への進行と連関することを示す。第6継代においてさえ、35日間にわたる培養の間にY-27632を添加することで、E比は1.2%から52.3%へと大きく増加したが、形態変化は認められなかった。47日間にわたる培養の間にY-27632を添加することでもまた、E比が増加した。このことはまた、細胞面積の分布の明らかな縮小、258から216μm
2への平均細胞面積の減少および2229から2582細胞/mm
2への培養細胞密度の増加から裏付けられた(
図12(A-B))。
【0326】
(まとめ)
フローサイトメトリー分析によって、CD166+CD105-CD44-CD24-CD26-発現であるがCD200-発現ではないエフェクター細胞を同定した。CD166+CD105-CD44+++(CD24およびCD26の一方が+で他方が-)である他の亜集団もまた存在することを確認した。PCRアレイによって、3種類の完全に異なる発現プロファイルのECMを明らかにした。これらの亜集団のうちいくらかは、ZO1およびNa+/K+ATPaseをエフェクター細胞に匹敵するレベルで発現していたが、これらの亜集団のうち1種類のみがCD200を発現しており、これはエフェクター細胞上にはなかった。HLAの発現は、エフェクター亜集団において減少していた。エフェクター細胞の割合(E比)はドナーの年齢に反比例し、培養の継代を延長すると減少した。ROCK阻害剤の存在はcHCECのE比を増加させた。エフェクター細胞の平均細胞面積は、約200~220μm2であり、培養細胞密度は2500細胞/mm2を超えていた。
【0327】
(結論)
角膜組織中の成熟HCECと表面発現型を共有する特定の培養エフェクター細胞は、角膜内皮機能不全の治療のためにドナー角膜の代替となり得る。
【0328】
培養細胞は、理想的な培養プロトコル下においてさえ、培養間で、形態が異なるだけでなく、cHCEC中の亜集団の組成もまた大きく異なる(表1G)。これは一つには、ドナー年齢のばらつきによって説明され(Senoo, T., Joyce, N.C., 2000. Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 41, 660e667;Zhu, C., Joyce, N.C., 2004. Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 45, 1743e1751)、培養の継代数の差異によっても説明されるが、これは幹細胞マーカーであるCD29、CD49e、CD73、CD90、CD105およびCD166に関して間葉系幹細胞(MSC)培養物の場合にも同様であった。角膜ドナーの年齢はエフェクター細胞の頻度と有意な負の相関を示したが(
図10-A)、核型異数性とは正の相関を示した(Miyai T, et al. Mol Vis. 2008; 14:942-50)。
【0329】
本発明が開示される前は、HCEC特異的細胞表面マーカーは規定されておらず、高品質の亜集団を定性的に評価するCDマーカーの組み合わせをこれまで提供できていない。臨床的使用のために、がん幹細胞(CSC)に関するCDマーカーを組み合わせた。これは、HCEC培養物中においてEMTが高頻度に生じるためである。
【0330】
多機能であるCD44は、多くの細胞において、幹細胞の挙動、例えば、自己再生および分化を含め様々な機能を制御し、細胞間相互作用および細胞-ECM間相互作用、細胞内輸送、ホーミングおよびシグナル伝達イベントにおける変化に応答してECMにおける変化を検出し、これにより組織環境に対する柔軟な対応が可能となる(Karamanos NK, et al. FEBS J. 2011; 278:1429-43; Williams K et al., Exp Biol Med (Maywood). 2013; 38:324-38)。エフェクター細胞は、CD44-CD166+CD133-CD105-CD24-CD26-発現によって識別できるが、CD200の発現からは識別できないことが判明した。CD44+~+++CD166+CD133-CD105-(CD24およびCD26の一方が+で他方が-)であるその他の亜集団もまた存在することが確認された。また、Y-27632の存在および培養期間の延長などの培養条件の違いによって、CD44の発現が減少し、E比が上昇する可能性があった。さらなる研究によって、成熟HCECへの分化経路におけるCD44の果たす役割の解明が待たれる。CD44の下流のシグナル因子にはRhoAおよびMMP2があり、これらはチューブリンおよびアクチン細胞骨格の組織化および細胞の仮足形成に必要である(Lin L, et al., Oncol Rep. 2015; 34:663-72)。
【0331】
EMTは、多くの疾患で異常に誘導されている。培養HCECは、CSTを起こしてEMTに向かう傾向がある。EMTの過程において細胞間接着は減少する。EMTを起こした細胞は、しばしば、幹細胞様の特性を獲得し、これはTGF-βによって誘導されたものを含む。EMTが、表現型変化の間にがん幹細胞またはそのニッチが生成されることと密接に関係することは周知である(Krawczyk N, et al.. Biomed Res Int. 2014; 2014:415721. Epub 2014 May 8)。これを受けて、本発明者らはCD44に関して異なる亜集団の存在を試験し区別することができることを見出した。
【0332】
cHCECの遺伝子的な不安定さによる表現型の不均一さを考慮すると、CSCマーカーを含むマーカーの組み合わせを選択することで、細胞療法に最も適した亜集団を適切に品質評価できる可能性がある。
【0333】
McGowanらは角膜内皮幹細胞を同定することができたと報告しているが、それを単離して培養することは行っていない(McGowan, S.L., et al., Mol. Vis. 13, 1984e, 2000)。
【0334】
CD44は、分化したcHCECを、未分化のcHCECおよびCSTを経たcHCECのいずれからも区別することができる顕著な特徴である。CD44はECMの主要な接着分子として、そしてTGF-βによって媒介される間葉系表現型の誘導において重要な働きをする。CD44を欠失させるとこれらの変化は起こらなくなる(Nagano O, et al., Cancer Sci. 2004; 95:930-935)。CD44を欠失させると、ミトコンドリア呼吸への流入が増加し、解糖系への流入は阻害される。CD44の欠失によって誘導されるこのような代謝の変化によって、還元型グルタチオンの顕著な減少が引き起こされる(Tamada M et al., Cancer Res. 2012; 72:1438-48)。HDAC1はmiRNA-34a/CD44軸ならびにRhoAおよびMMP2を含むCD44の下流の因子の活性化を制御している(Lin L, et al., Oncol Rep. 2015; 34:663-7245)。
【0335】
本研究によって、cHCECが様々な細胞から構成されていることおよびCD44-、CD166+、CD133-、CD105-、CD24-、CD26-という表面発現を示すcHCECの特定の亜集団はCSTもEMTも起こさずに再現性良く培養できることを示した。上述のCDマーカーの組み合わせによって、ミトコンドリア依存的OXHOSへの傾倒を示すが、嫌気的解糖への傾倒は示さない亜集団を品質評価できる。このように識別した亜集団は核型異常を示さず、これにより安全かつ安定して治療のためにこの培養細胞を提供できるようになり、すなわち、水疱性角膜症の処置のための細胞懸濁液の形態でcHCECを前房中に移植することができるようになる。
【0336】
(実施例2:培養ヒト角膜内皮細胞の異数性は異なる分化表現型を示す異なる亜集団の存在に依存する)
本実施例の目的は、不均一なcHCEC中の特定の亜集団(SP)が異数性を示し、その他のものは異数性を示さないのかを明らかにすることである。
【0337】
本実施例では、cHCEC中に存在する亜集団を、フローサイトメトリーによって表面CD抗原発現レベルに基づいて解析した。分析したCD抗原は、CD166、CD105、CD44、CD26およびCD24であった。細胞遺伝学的試験を、いくつかの細胞亜集団からなる全細胞プレパラート(バルク)として、あるいは異なる表面CDマーカーを用いた磁気ビーズ細胞ソーティング(MACS)による半精製亜集団として23ロットのcHCECについて実施した。HCECのドナーは9~69歳であり、培養の継代は初代培養から第5継代であった。以下により詳細なプロトコルを記載する。
【0338】
(材料および方法)
ヒト角膜内皮細胞ドナー
使用したヒト組織は、ヘルシンキ宣言の倫理的原則に則って取り扱った。23名のヒトの遺体角膜から取得したHCECは核型分析を行う前に培養した。ヒトドナー角膜はSightLife Inc.(Seattle, WA, USA)から入手した。全ての死亡したドナーの近親者から、研究のために眼を提供することについて書面によるインフォームドコンセントを得た。全ての組織は統一死体提供法(UAGA)の原則に則って回収し、このUAGAはドナーの同意書を得て、組織を回収した州のものであった。
【0339】
ドナーの年齢は9~69歳の範囲であった。男性は14名であり、女性が7名であった。全てのドナーの角膜をOptisol-GS(Chiron Vision, Irvine, CA, USA)中に保存し、研究の目的で航空輸入した。ドナーの情報によると、全てのドナーの角膜は角膜疾患のない健康なものであると考えられ、染色体異常の既往歴のあるドナーは一人もいなかった。
【0340】
HCECの培養
公開されているプロトコルにいくつかの変更を加えたものに従ってHCECを培養した(Nayak SK, Binder PS. Invest Ophthalmol Vis Sci. 1984; 25:1213-6)。合計30名の異なる年齢のヒトドナーの角膜を実験に使用した。簡潔に記載すると、デスメ膜を角膜内皮細胞とともにドナーの角膜から剥がし、37℃において1mg/mLのコラゲナーゼA(Roche Applied Science, Penzberg, Germany)で2時間処理して消化した。単一のドナー角膜から取得したHCECを、I型コラーゲンコーティング6ウェル細胞培養プレート(Corning Inc., Corning, NY, USA)のウェルの一つに播種した。培養培地は公開されているプロトコルにしたがって調製した。簡潔に記載すると、基礎培地は、Opti-MEM-I(Life Technologies Corp., Carlsbad, CA, USA)、8%のウシ胎児血清(FBS)、5ng/mLの上皮成長因子(EGF; Life technologies)、20μg/mLの アスコルビン酸(Sigma-Aldrich Corp.)、200mg/Lの塩化カルシウム(Sigma-Aldrich Corp., St. Louis, MO, USA)、0.08%のコンドロイチン硫酸(Wako Pure Chemical Industries, Ltd., Osaka, Japan)および50μg/mLのゲンタマイシンを用いて調製した。馴化液は以前に記載されたとおりに調製した(Nakahara, M. et al. PLOS One (2013) 8, e69009)。この馴化液を用いて5%のCO2を含む加湿大気下において37℃でHCECを培養した。培養培地は週に2回交換した。コンフルエントに達した場合、37℃で12分間10xTrypLE Select(Life technologies)を使用してHCECを1:3の比率で継代培養した。第2~第5継代のHCECを全ての実験に使用した。
【0341】
フローサイトメトリー
細胞表面マーカーのスクリーニングは、製造元のプロトコルに従ってヒト細胞表面マーカースクリーニングパネル(BD Biosciences, San Jose, CA, USA)を使用してマーカーの発現を評価することによって実施した。簡潔に記載すると、培養HCECを、製造元のプロトコル通りに希釈した242種類の1次抗体およびアイソタイプIgG(BD Biosciences)とともに4℃で30分間インキュベートした。この細胞を、1%のBSAおよび5mMのEDTAを含むPBSで洗浄し、次に、Alexa Fluor 647結合2次抗体(1:200の希釈率、BD Biosciences)とともに4℃で30分間インキュベートした。この細胞を、1%のBSAおよび5mMのEDTAを含むPBSで再度洗浄し、BD FACSCant II(BD Biosciences)およびCell Quest Proソフトウェア(BD Biosciences)を使用してフローサイトメトリーによって解析した。
【0342】
培養HCECのフローサイトメトリー解析
cHCECを、上記の通りTrypLE Select処理によって培養ディッシュから回収し、FACSバッファー(1%のBSAおよび0.05%のNaN3を含むPBS)中に4×106細胞/mLの濃度で懸濁させた。同体積の抗体溶液を添加し、4℃で2時間インキュベートした。この抗体溶液は以下を含むものであった。FITC結合抗ヒトCD26 mAb、PE結合抗ヒトCD166 mAb、PerCP-Cy 5.5結合抗ヒトCD24 mAb、PE-Cy 7結合抗ヒトCD44(これらは全てBD Biosciencesから入手)、APC結合抗ヒトCD105(eBioscience、San Diego、CA、USA)。FACSバッファーで洗浄した後、HCECをFACS Canto II(BD Biosciences)で解析した。
【0343】
MACSによるHCEC亜集団の単離
HCECを、上記の通りTrypLE Selectで遊離させ、CD44-HCEC亜集団(エフェクター亜集団)を抗ヒトCD44マイクロビーズ(Miltenyi Biotec, Bergisch Gladbach, Germany)およびautoMACS Pro separator(Miltenyi Biotec)のプログラムdepl05を用いて単離した。フローサイトメトリーにより確かめたところ、単離したエフェクター亜集団の純度は、全ての場合において95%より高かった。
【0344】
核型分類
細胞遺伝学的試験を、表3に示す通り21名のドナーに由来する継代細胞のいくつかに対して実施した。本研究の早期段階において、細胞遺伝学的試験は、細胞のソーティングを行っていない培養細胞全体についてのみ実施した。標準的な細胞遺伝学上の回収法、固定化法ならびにリプシンおよびギムザ後Gバンド法(GTGバンド法)をHCECに対して使用した。細胞分裂を停止させるために0.06μg/mlのコルセミドとともに16時間インキュベートした後、HCECを0.05%のトリプシン/EDTAを用いて遊離させた。HCECを0.075MのKClで処理し、次に、カルノア固定液(メタノールと氷酢酸との3:1混合液)で固定した。HCEC懸濁液をスライドガラスの上に滴下し、風乾させた。次に、HCECを0.005%のトリプシンで7分間処理して、6%のギムザ染色液で3.5分間染色した。それぞれのHCECプレパラートについて、50個の細胞の染色体の数を調べた。それぞれのHCECプレパラートについて、20個の細胞について詳細な核型を調べた。標準的な人類染色体国際命名規約(ISCN)(1995年)およびその定義に従った。個々の染色体について欠失または獲得の頻度を調べた。試料毎に異数性の頻度(異常細胞の個数を調べた分裂中期の全細胞の個数で除した)を調べた。全ての分析は、Nippon Gene Research Laboratories(NGRL Sendai, Japan)で実施した。
【0345】
(結果)
cHCECの核型の一般的特徴
9~69歳の間のドナーに由来する21種類の培養HCECの核型を分析した。同一の培養プロトコル下であったにもかかわらず、培養細胞の形態的ばらつきだけでなく、cHCECの組成も培養間で大きさおよび形態において大きく異なった。このばらつきが生じた原因の一つとしては、ドナーの年齢が考えられ、別の原因としては継代数の違いが考えられる。角膜ドナーの年齢とエフェクター細胞の頻度との間には有意な負の相関が見られることも見出されており、これとは反対に、角膜ドナーの年齢と核型異数性の間には正の相関が見られた(Miyai T, et al., Mol Vis. 2008; 14:942-50)。
【0346】
本実施例の早期の段階において、細胞遺伝学的試験を、細胞のソーティングを行わず培養細胞全体についてのみ実施した。それぞれのHCECプレパラートについて、50個の細胞の染色体の数を調べた。それぞれのHCECプレパラートについて、20個の細胞について詳細な核型を調べた(
図13)。
【0347】
以前に報告があるとおり、HCECは、性染色体脱落およびトリソミーの両方を示すが、本研究においてもまたこれが観察された(
図13、表3)。
【0348】
【0349】
9~69歳の間のドナーに由来する21種類のcHCECの全培養物の核型分類を、培養継代およびドナーのばらつきに関して分析した。ドナーの情報を核型分析の結果とともにまとめる(表3)。記載がない箇所は、細胞遺伝学的試験の前に中期cHCECの十分に増殖が得られなかったことを意味する。上記の通り、cHCECは、Miyaiらの報告と同様に高頻度の核型異常、例えば、性染色体脱落およびトリソミーを示した。しかし、上記21種類の中で一つのケース(ドナー#13)においてのみ、転座が見られ、これは先行研究では観察されなかった。本研究において、培養したHCEC全体は大部分のケースで異数性を示し、これは初代培養から第5継代までの継代数にかかわらず生じた。本研究において細胞の培養継代数は多くてもせいぜい5回かまたはそれ未満に限られたので、この結果から先行研究の結論が否定されることはない。統計解析は行わなかったが、ドナーの角膜内皮細胞密度(ECD)は、異数性の頻度に直接的な影響を及ぼさなかった。ドナーのECDとは反対に、分析時において低い細胞密度のcHCECは、異数性の頻度といくらか相関し得る。細胞密度が1000細胞/mm2未満であった8種類のcHCECの中で、7種類が明確な異数性(ほぼ90%に達した)を示した。逆に、細胞密度が1000細胞/mm2より高かった4種類のcHCECはいずれも異常を示さなかった。このことから、cHCECの培養の品質または効率あるいはCSTの存在は観察された異数性と相関を有し得ることが間接的に示唆される。
【0350】
ドナーの年齢および核型異数性
先行研究(Mimura T et al.,. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2004; 45: 2992-299710)と同様に、異数性の頻度はHCECドナーの年齢と明らかな負の相関を示した。若年のドナー(29歳未満のドナーと付随的に定義する)に由来する14種類のHCECのうち10種類が、正常な核型を示し(71%)、残りの4種類は性染色体脱落かまたはトリソミーのいずれかを示した。30~69歳のドナー由来の場合、8種類のうち6種類が異数性(75%)を示し、正常な核型を示したのは25%のみであった。加齢によって遺伝子の不安定性が増しDNA修復遺伝子の発現が減少するという一般的に受け入れられている考えを考慮すると、異数性の増加は妥当であると考えられる。
【0351】
しかし、最も関連する問題は、29歳未満の若年のドナーに由来する細胞において、cHCECの29%で核型異常が存在するということである。
図14a~14dにおいて、核型分類の典型的な例が示される。高齢のドナー#10(58歳、女性、培養継代P3)に由来するcHCEC、若年のドナー#19(23歳、男性、P2)に由来するcHCEC、若年のドナー#9(23歳、男性、P2)に由来するcHCECおよび若年のドナー#14(15歳、女性、P3)に由来するcHCECにおいて異数性は存在しない。29歳未満の若年のドナーに由来するcHCECの29%において核型異常が存在することから、ドナーの年齢と無関係にか、またはドナーの年齢に加えて、HCECの培養における何らかの未解明の潜在的な内因的要因が核型異数性を促進し得ることが示唆された。そこで、本発明者らはcHCECの組成を詳細に調べた。
【0352】
フローサイトメトリーによるcHCEC中の亜集団の分析
cHCECは大きさおよび形態において均一ではなく、培養条件によって異なる亜集団から構成される(実施例1)。HCEC培養における未解明の潜在的な内因的要因を明らかにするために、CD表面抗原マーカーについてcHCECをフローサイトメトリーによって分析した。CD44-の亜集団を多く含有するcHCECは6角形の形態を示し、CSTの兆候を示さなかった。一方、CD44+++、CD24+またはCD26+いずれかの発現を示す亜集団を含有する培養物は異常なCST様の形態を示した(
図15および
図16)。この分析から、cHCECの表現型特性は培養物間で大きく異なり、cHCEC中の亜集団の構成にばらつきがあることが明らかとなった。このばらつきは、cHCECにおける異数性の頻度に関して、ドナーの年齢、ドナーのECDの継代数などの上記の因子の影響を超え得る。
【0353】
cHCECの構成は異数性に大きな影響を与える
cHCEC中のCD44-、CD166+、CD105-、CD24-、CD26-である亜集団を、磁気ビーズ細胞ソーティング(MACS)によって精製した。
図16に示される通り亜集団間のCD44発現は不均一なので、亜集団を分離するためにCD44磁気ビーズを主に使用した。CD44磁気ビーズによる分離によってCD44-、CD166+、CD105-、CD24-、CD26-である亜集団は90%より高純度で半精製された。(CD44+++、CD166+、CD24-、CD26+)または(CD44+++、CD166+、CD24+、CD26-)のいずれかの発現を示す亜集団もまた70%より高純度で半精製された。
【0354】
図17に示される通り、CD44-、CD166+、CD105-、CD24-、CD26-である第1の亜集団は、150個の細胞において全く異数性を示さなかった。これに対して、CD44+++、CD166+、CD24-、CD26+の亜集団は100%の細胞(60個の細胞中)において性染色体の脱落を起こした。一方、CD44+++、CD166+、CD24+、CD26-の亜集団は6番、7番、12番および20番染色体上に高頻度のトリソミーを示した。
【0355】
角膜ドナーの年齢と、CD44-、CD166+、CD105-、CD24-、CD26-の亜集団の頻度との間には有意な負の相関が見られ、これに対して、核型異数性との間には正の相関が見られた。
【0356】
(まとめ)
フローサイトメトリー分析によって、少なくとも3種類のcHCECの亜集団が存在することを示した。MACSによって精製した、CD166+、CD105-、CD44-、CD24-、CD26-という表面発現を示すcHCECの特定の亜集団は、150個の細胞においていずれの異数性も示さなかった。対して、CD166+、CD44+++、CD24-、CD26+であるcHCECの亜集団は、100%の細胞(60個の細胞)で性染色体の脱落を示し、CD166+、CD44+++、CD24+、CD26-である亜集団は部分的ではあるものの、6番、7番、12番および20番染色体においてトリソミーを示した。
【0357】
結論:本実施例において、HCECの培養中に観察される異数性はcHCEC中に存在する特定の亜集団に密接に関連しており、角膜組織中に存在する成熟したHCECと表面表現型を共有する特定の亜集団だけは核型異常を示さないという新たな知見が示された。
【0358】
考察
近年、様々な疾患について組織の加工に基づく新たな治療法が可能となってきている(Okano H Nakamura M Yoshida K. Circ Res. 2013; 112: 523-533.、 Tabar V Studer L. Nat Rev Genet. 2014; 15: 82-92.)。インビトロでの培養によって増殖させたcHCECには、異なるCSTを起こした様々な亜集団が存在し得る。このことは、cHCECの特徴を明確に規定する上で障害となった。HCECは培養によって増殖可能であるので、角膜内皮機能不全を処置するためのcHCECの注入療法が模索されてきた。概して、培養細胞は核型変化を起こすという潜在的なリスクを伴う。そのため、処置の安全性および安定性が厳密に管理されなければならない臨床的使用を見据えると、cHCECの品質は慎重にモニタリングしなければならない。
【0359】
現在のところ、HCEC特異的な細胞表面抗原は報告されていない。HCECと角膜間質線維芽細胞とを区別するためのHCECマーカーとしてGlypican-4およびCD200が提唱されている(Cheong YK et al., Invest Ophthalmol Vis Sci. 2013; 54: 4538-4547)。しかし、HCEC培養の実際的な問題は、cHCEC中には明確に異なる脆弱なCSTを起こす亜集団が存在することである。Cheongらの報告したCD200では、分化したHCECを区別することはできず、これはむしろ何らかのCSTを経たcHCECの亜集団において発現されていた。従来のCDマーカーは、正常な機能を有する非線維芽細胞様細胞と線維芽細胞変化を経た細胞とを区別し得るが、本発明の機能性成熟分化角膜内皮細胞を識別することは困難であることが判明した。本実施例において、核型異常を有する非線維芽細胞様細胞の中に亜集団が存在することが明確に示された。臨床的使用に適う品質のcHCECを識別するには、より詳細な解析により、cHCECの中の線維芽細胞変化以外のCSTを経た亜集団を見分ける必要がある。本研究の目的は、cHCECの中の異数性を示す亜集団または異数性を示さない亜集団において発現される細胞表面CD抗原を特定して、cHCECにおいて現在観察される異数性が、異なる分化表現型を有する亜集団の存在に依存するのかどうかを明確にすることである。
【0360】
本実施例では、初代培養から第5継代までの細胞を使用したにもかかわらず、培養HCECは多くの場合、異数性を示した。ここで、観察されたcHCECの異数性は、培養中の細胞分裂によって引き起こされたと考えられる。Miyaiらの観察結果(Miyai T, et al., Mol Vis. 2008; 14:942-50)とも一致するが、初代培養の細胞にさえ異常が存在したことから、cHCECにおいて観察される大部分の異常核型は、培養の非常に早期の段階で発生すると考えられる(表3の#4、#5、#6)。統計解析は行っていないが、ドナーの年齢と異数性の頻度との間にはMiyaiらが指摘したように顕著な正の相関関係があるようだ。
【0361】
本実施例において、cHCECは、性染色体のモノソミーならびに6番、7番、12番および20番染色体のトリソミーをモザイク状に示す傾向があった。以前の研究では、性染色体が、抹消リンパ球、骨髄細胞、角膜実質細胞[Stone JF, et al., Mutat Res. 1995; 338:107-13;Pettenati MJ, et al., Hum Genet. 1997; 101:26-9]および角膜内皮において年齢に依存して脱落することが報告された。したがって、性染色体の脱落は年齢依存的な現象であり、細胞の種類によらない。本実施例における結果は、少なくとも性染色体の脱落に関してはMiyaiらの研究結果(上記)とよく符合する。しかし、この先行研究は8番染色体のトリソミーについてのみ記載しているので、6番、7番、12番および20番染色体におけるトリソミーの存在については符合しない。8番染色体モザイクトリソミー症候群は角膜の不透明化を伴う[Miyata K,et al., Cornea. 2001; 20:59-63]。このトリソミーの位置の違いを究明するにはさらなる詳細な研究が必要である。本実施例における結果から、臨床治療のためのcHCECは、若年のドナーから取得すべきであることもまた示される。さらに、臨床適用の前にcHCECの核型を慎重に調べることが非常に重要であることも示された。
【0362】
MACSによって半精製したCD166+、CD105-、CD44-、CD24-、CD26-という表面発現型を示すcHCECの特定の亜集団では150個の細胞を調べてもいずれの異数性も観察されなかったことがフローサイトメトリー分析から示された。本発明者らのさらなる解析によってこの亜集団の中にも、CD90+およびCD90-両方の亜集団が存在することが示されているが、核型分類の結果には影響を与えないようだ。本実施例によって、cHCECに異数性の核型を示さない亜集団が存在することが初めて直接的に示された。これにより、この亜集団を臨床適用することが可能となる。対して、CD166+、CD44+++、CD24-、CD26+という表面発現型を示すcHCECの亜集団では、100%の細胞において性染色体の脱落が観察され、一方、CD166+、CD44+++、CD24+、CD26-という表面発現型である亜集団は、部分的にではあるが、6番、7番、12番および20番染色体のトリソミーを示した。本発明者らによる予備的ではあるがさらなる実験において、新鮮なヒト角膜内皮は、CD24、CD26、CD44およびCD90のいずれの存在も示さなかったが、CD166を均一に発現していた。このことから、ここで示したcHCECの異数性を示さない亜集団の表現型は新鮮な角膜内皮組織中のHCECの亜集団と符合すると思われる。
【0363】
本実施例は、これまで報告されてきたcHCEC培養物中に存在する異数性はcHCECの限られた亜集団において非常に限定的に生じるが、新鮮な角膜組織中に存在する成熟した分化HCECと表面表現型を共有する生化学的に精製された亜集団には核型異常がないという新たな知見を提供する。
【0364】
(実施例3:細胞注入療法のために重要な均一な培養ヒト角膜内皮細胞の作製)
本実施例は、細胞療法のためにCSTを起こさず成熟HCECの細胞機能特性を有するほぼ均一な亜集団(SP)を再現性よく作製する培養プロトコルを確立することを目的とする。
【0365】
本実施例では、cHCEC中の亜集団の存在を、フローサイトメトリーによって表面CDマーカーの発現から確認した。様々な亜集団の中から細胞療法に最も適した目的の亜集団(エフェクター細胞)を、明確に特定できるCDマーカーについて分析した。培養プロセスをエフェクター細胞亜集団の割合(E比)について評価した。
【0366】
(材料および方法)
(試薬および抗体)
HCECは、上述のTrypLE Select処理により培養ディッシュから回収し、FACSバッファー(1%BSAおよび0.05%NaN3を含むPBS)中に4×106細胞/mLの濃度で懸濁した。等容量の抗体溶液を加え、4℃で2時間インキュベートした。抗体溶液を以下の抗体を混合することにより調製した:FITCまたはPE結合抗ヒトCD26 mAb、PE結合抗ヒトCD166 mAb、PerCP-Cy 5.結合抗ヒトCD24 mAb、PE-Cy 7またはPerCP-Cy 5.5結合抗ヒトCD44(以上すべてBD Biosciencesから入手)、APC結合抗ヒトCD105(eBioscience, San Diego, CA, USA)。FACSバッファーで洗浄した後、HCECをFACS Canto II(BD Biosciences)で分析した。
【0367】
ヒト角膜内皮細胞ドナー
使用したヒト組織は、ヘルシンキ宣言の倫理的原則に則って取り扱った。20名のヒトの遺体角膜から取得したHCECは核型分析を行う前に培養した。ヒトドナー角膜はSightLife Inc.(Seattle, WA, USA)から入手した。全ての死亡したドナーの近親者から、研究のために眼を提供することについて書面によるインフォームドコンセントを得た。全ての組織は統一死体提供法(UAGA)の原則に則って回収し、このUAGAはドナーの同意書を得て、組織を回収した州のものであった。ドナーの年齢は2~75歳の範囲(43.7±26.4歳)であった。男性は9名であり、女性が11名であった。全てのドナーの角膜をOptisol-GS(Chiron Vision, Irvine, CA, USA)中に保存し、研究の目的で航空輸入した。ドナーの情報によると、全てのドナーの角膜は角膜疾患のない健康なものであると考えられ、染色体異常の既往歴のあるドナーは一人もいなかった。
【0368】
HCECの培養
別途記載しない限り、HCECは、公開されているプロトコルにいくつかの変更を加えたものに従って培養した。合計30名の異なる年齢のヒトドナーの角膜を実験に使用した。簡潔に記載すると、デスメ膜を角膜内皮細胞とともにドナーの角膜から剥がし、37℃において1mg/mLのコラゲナーゼA(Roche Applied Science, Penzberg, Germany)で2時間処理して消化した。単一のドナー角膜から取得したHCECを、I型コラーゲンコーティング6ウェル細胞培養プレート(Corning Inc., Corning, NY, USA)のウェルの一つに播種した。培養培地は公開されているプロトコルにしたがって調製した。簡潔に記載すると、基礎培地は、Opti-MEM-I(Life Technologies Corp., Carlsbad, CA, USA)、8%のウシ胎児血清(FBS)、5ng/mLの上皮成長因子(EGF; Life technologies)、20μg/mLのアスコルビン酸(Sigma-Aldrich Corp.)、200mg/Lの塩化カルシウム(Sigma-Aldrich Corp., St. Louis, MO, USA)、0.08%のコンドロイチン硫酸(Wako Pure Chemical Industries, Ltd., Osaka, Japan)および50μg/mLのゲンタマイシンを用いて調製した。馴化液は以前に記載されたとおりに調製した(Nakahara, M. et al. PLOS One(2013) 8, e69009)。この馴化液を用いて5%のCO2を含む加湿大気下において37℃でHCECを培養した。培養培地は週に2回交換した。コンフルエントに達した場合、37℃で12分間10xTrypLE Select(Life technologies)を使用してHCECを1:3の比率で継代培養した。第2~第5継代のHCECを全ての実験に使用した。
HCECのトリコスタチンA(TSA)処理
HCECのトリコスタチンA処理は、以下のように実施した。デスメ膜を角膜内皮細胞とともにドナーの角膜から剥がし、37℃において1mg/mLのコラゲナーゼA(Roche Applied Science, Penzberg, Germany)で2時間処理して消化した。単一のドナー角膜から取得したHCECを、I型コラーゲンコーティング6ウェル細胞培養プレート(Corning Inc., Corning, NY, USA)のウェルの一つに播種した。トリコスタチンA含有培地は、Opti-MEM-I(Life Technologies Corp., Carlsbad, CA, USA)、8%のウシ胎児血清(FBS)、5ng/mLの上皮成長因子(EGF; Life technologies)、20μg/mLのアスコルビン酸(Sigma-Aldrich Corp. , St. Louis, MO, USA)、200mg/Lの塩化カルシウム(Sigma-Aldrich Corp., St. Louis, MO, USA)、0.08%のコンドロイチン硫酸(Wako Pure Chemical Industries, Ltd., Osaka, Japan)、50μg/mLのゲンタマイシンおよび0.5μMのトリコスタチンAを用いて調製した。トリコスタチンA含有培地を用いて5%のCO2を含む加湿大気下において37℃でHCECを培養した。培養培地は週に2回交換した。コンフルエントに達した場合、37℃で12分間10xTrypLE Select(Life technologies)を使用してHCECを1:3の比率で継代培養した。培養を30日間行い、第2継代のHCECを蛍光顕微鏡観察に使用した。
【0369】
位相差顕微鏡
位相差顕微鏡画像は、倒立顕微鏡システム(CKX41, Olympus,Tokyo, Japan)によって撮影した。細胞面積分布解析のために、cHCECをPBS(-)で3回洗浄し、位相差顕微鏡画像をBZ X-700顕微鏡システム(Keyence, Osaka, Japan)によって取得した。細胞面積分布はBZ-H3C Hybrid細胞計数ソフトウェア(Keyence)によって定量した。
【0370】
免疫蛍光染色
HCECは、FNC Coating Mixでコーティングされた24ウェル細胞培養プレート中で1×105細胞/ウェルの密度で培養し、免疫蛍光分析のために3~4週間維持した。この細胞を、5%の酢酸を加えた95%エタノールまたは4%パラホルムアルデヒド中において室温で10分間固定し、1%のBSAとともに30分間インキュベートした。サンプルを、CD73(1:300; BD Pharmingen染色バッファー)、CD166(1:300; BD Pharmingen染色バッファー)、ZO1(1:300; Zymed Laboratories, South San Francisco, CA, USA)およびNa+/K+ATPase(1:300; Upstate Biotec, Lake Placid, NY, USA)に対する抗体とともに4℃で一晩インキュベートした。PBSで洗浄した後、Alexa Fluor 488結合ヤギ抗マウスIgG(Life Technologies)か、またはAlexa Fluor 594結合ヤギ抗ウサギIgG(Life Technologies)かのいずれかを1:1000の希釈率で2次抗体として使用した。核をDAPI(Vector Laboratories, Burlingame, CA, USA)で染色した。48ウェル細胞培養プレート中で培養した細胞を、蛍光顕微鏡(BZ-9000; Keyence, Osaka, Japan)によって直接調べた。
【0371】
培養HCECのフローサイトメトリー解析
HCECを、上記の通りTrypLE Select処理によって培養ディッシュから回収し、FACSバッファー(1%のBSAおよび0.05%のNaN3を含むPBS)中に4×106細胞/mLの濃度で懸濁した。同体積の抗体溶液を添加し、4℃で2時間インキュベートした。この抗体溶液は以下を含むものであった。FITC結合抗ヒトCD26 mAb、PE結合抗ヒトCD166 mAb、PerCP-Cy 5.5結合抗ヒトCD24 mAb、PE-Cy 7結合抗ヒトCD44(これらは全てBD Biosciencesから入手)、APC結合抗ヒトCD105(eBioscience、San Diego、CA、USA)。FACSバッファーで洗浄した後、HCECをFACS Canto II(BD Biosciences)で解析した。
【0372】
結果
cHCEC中の亜集団組成のばらつきによって培養品質が確認できない
異なる年齢のドナーに由来するHCECを、Okumuraらの方法(Okumura N, et al., Invest Ophthalmol Vis Sci. 2014; 55:7610-8.)に従って培養し、CD44、CD166、CD24、CD26およびCD105の表面発現を特徴付けた(
図19)。代表的なものを、位相差顕微鏡写真とともに
図18~20にまとめる。一見して、cHCECが様々な亜集団を含むことがかなり明確である。CD44-CD166+CD24-CD26-CD105-である亜集団の割合によって規定されるE比は様々であった(
図19)。他の箇所に記載したとおり、CD44の発現はcHCECが成熟cHCECへと分化するにしたがって減少した。ある培養物中にCD24かまたはCD26かのいずれかを発現する亜集団存在すると、顕著な核型異常、例えば、性染色体脱落、トリソミーまたは転座を有する何らかの亜集団が存在するおそれがある。そのため、これらの細胞の大部分は臨床的使用における注入に適さない。CD24+細胞の割合は最大で54.3%~96.8%に達し、CD26+細胞の割合は44.2%に達した。また、CD44+++の発現細胞が80%を超える最も高い割合で存在することが観察され、これは、外観上の表現型は非線維芽細胞様であり、位相差顕微鏡によって観察すると、特徴的な接触阻害による多角形状および単層性を有していた。驚くべきことに、HCECのマーカーとして周知のZO1およびNa+/K+ATPaseの両方が、CD24+、CD26+またはCD44+++の亜集団について染色された。このことから、形態的判断だけではcHCEC中に存在する不均一な亜集団を十分に区別できないおそれがある。この結果をうけて、エフェクター細胞亜集団の割合(E比)の観点から培養プロセスを詳細に評価するために培養プロトコルを再評価した。
【0373】
TGF-βシグナル伝達を利用することでより高品質なcHCECを提供できる
培養したHCECは、老化表現型、EMTおよび線維芽細胞形態へと向かう細胞状態相転移(CST)を起こす傾向を有する。TGF-βの多能性機能および体液中における存在から、TGF-βは細胞外マトリックス(ECM)内に浸潤する表現型の獲得を阻害するように働き得ると仮説を立てた。これに対して、TGF-βは、様々な生物学的システムおよび病理学的システムにおいてEMTを促進し、維持し得る。しかし、EMTに重要なシグナル分子であるこの増殖因子TGF-βの、EMTの発達および進行に重要な分子としての役割は十分に研究されている(Wendt MK, et al., Future Oncol 5: 1145-1168)。そこで、TGF-βシグナルを維持することで、成熟分化角膜内皮細胞の機能性を維持または向上させることができると考えた。そのため、TGF-βシグナル伝達阻害剤を含まない条件下での培養結果を確認したところ、ヒト角膜内細胞の機能性が維持されていることが確認できた(
図22-A)。また、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤であるトリコスタチンAを添加した培地中でHCECを培養することによって成熟cHCECへの分化を促進することができた(
図22-D)。
細胞播種密度はcHCECにおけるE比に影響を与える
本実施例で示されるように、cHCECの品質は、E比およびCD44+++細胞の割合により大部分がモニター可能である。臨床的使用のための均一性までHCECを培養するプロトコルを完成させる前に、細胞播種密度がE比およびCD44+++細胞の割合に及ぼす影響について調べた。正確な結論を得るために、E比がそれぞれ54.0%(培養継代2)、77.3%(継代1)および93.4%(継代2)と異なる3つのロットのcHCECについて調べた。全ての群において、細胞播種密度が高くなるほど、次の継代におけるE比の減少は少なくなった。また、培養前に高いE比を有する群は、E比の減少が最も低かった。E比が90%より高い群は、200細胞/mm
2の細胞播種密度で細胞数の非常に急速な増加(つまり、増殖速度が大きい)を示し、750および1000細胞/mm
2の細胞播種密度から出発した群に匹敵する細胞密度に達した。驚くべきことに、750細胞/mm
2の播種密度の群ではCD44+++細胞の割合は1.2%までであったのに対して、この群のCD44+++細胞の割合は0.7から24%までであった。しかし、CD44-からCD44++へと移行する割合の増加は、細胞播種密度のより低い群において優勢であった。
【0374】
臨床適用のためにHCECをほぼ均質にするための培養プロトコル
上記の観察結果を全てまとめて、臨床的使用のために最大限に均一にするためのHCECの培養プロトコルを暫定的に以下のように定めた。ドナーの年齢は7~29歳の間で、1回の継代の後の細胞播種密度は400細胞/mm
2より高くし、TGF-βシグナル伝達を阻害しない条件(典型的には阻害剤を使用しない)を用いる。ROCK阻害剤Y-27632の添加を、CD44-の亜集団へと効率的に分化させるために培養の全期間を通して3日に1回へと変更した。この培養条件下では、Y-27632は、CD44の発現を低下させながらcHCECの成熟状態への分化を劇的に誘導した。CD44の下流の因子には、Y-27632の標的であるRhoAがある。Y-27632の連続添加は、
図21、
図22Bおよび
図22Cに示すようにE比を劇的に増加させ、CD24+またはCD26+の亜集団の割合を減少させた。E比は、約90%またはそれより高く、cHCECにおいて目的外の亜集団は殆ど見られなかった。この条件下では、第5継代や57~71歳の高齢のドナーからでさえ高品質なcHCECが高頻度に観察された。
【0375】
(まとめ)
CD44-CD166+CD133-CD105-CD24-CD26-エフェクター細胞を検出するフローサイトメトリー分析は、培養手順を標準化するのに簡便で信頼性の高い方法であった。90%を超えるE比を有するcHCECが核型異常なく再現性良く作製できていることを確実にするためには、ドナーの年齢は29歳未満であることが好ましかった。E比は培養間で大きく異なり、ROCK阻害剤のような添加剤の存否などの培養条件に依存した。また、TGF-βのシグナル伝達を利用することで、より高品質な成熟分化角膜内皮の機能性を維持または向上することができることが見出された。継代培養時の細胞播種密度もまた、さらなる継代のために高いE比を維持するのに重要であった。ROCK阻害剤Y-27632が培養期間を通して連続的に存在することによってE比が改善された。また、HDAC阻害剤トリコスタチンAが存在したことによってもE比が改善された。
【0376】
結論:高いE比を有するcHCECを再現性良く作製するための詳細な培養条件を決定し、角膜内皮機能不全の処置に適した成熟した機能を有する均一なcHCECを提供することができることを確かめた。
【0377】
考察
本発明者らは、一つの例として、CD133、CD105、CD90、CD44、CD26、CD24、HLA-DR、DQについて陰性であり、CD166、HLA-ABCおよびPDL1について陽性であるcHCECの亜集団を再生医療への安全かつ安定な適用が保障されるエフェクター細胞と定義した。90%を超えるE比を有し、核型異常を示さないcHCECを再現性良く生産するために、Rock阻害剤Y-27632が培養期間を通して連続的に存在することと、HDAC阻害剤トリコスタチンAが存在することと、TGF-βシグナル伝達を阻害しない条件であることとが推奨された。
【0378】
CD44は幹細胞の特徴の維持に貢献し、CD44の機能的貢献は、付近にある分子、隣接細胞および周辺のマトリックスと情報をやり取りする能力による(Zoller M. Front Immunol. 2015; 6:1-25)。CD44は、分化したcHCECを未分化のcHCECおよびCSTを経たcHCECのいずれからも区別することができる顕著な特徴である。そのため、cHCEC上のCD44発現レベルを制御する因子を調べることと、90%を超えるE比を有する最終生成細胞を得るための培養プロトコルを決定することとは関連が深い。多機能であるCD44は、多くの細胞において、幹細胞の挙動、例えば、自己再生および分化を含め様々な機能を制御し、細胞間相互作用および細胞-ECM間相互作用、細胞内輸送、ホーミングおよびシグナル伝達イベントにおける変化に応答してECMにおける変化を検出し、これにより組織環境に対する柔軟な対応が可能となる(Williams K, et al.,. Exp Biol Med (Maywood).2013; 38:324-38)。CD44の下流のシグナル因子にはRhoAおよびMMP2があり、これらはチューブリンおよびアクチン細胞骨格の組織化および細胞の仮足形成に必要である(Lin L,et al., Oncol Rep. 2015; 34:663-72)。CD44の欠失によりこれらが変化する(Nagano O, et al., Cancer Sci. 2004; 95:930-935)。CD44を欠失させると、ミトコンドリア呼吸への流入が増加し、解糖系への流入は阻害される。miRNA-34a/CD44経路の活性化はCD44の下流の因子、例えば、RhoAおよびMMP2(Lin L, et al., Oncol Rep. 2015; 34:663-72)を制御する。このシグナル経路は、部分的にではあるが、Y-27632によるcHCEC上のCD44発現の減少に関わる。本発明者らは以前、様々な亜集団においてmiR29のアップレギュレーションはCD44発現のアップレギュレーションを伴うことを確認した。すなわち、本明細書において他の箇所に記載されるように、このmiRはcHCECの亜集団の中でもCD44-表現型であるエフェクター細胞において最もダウンレギュレートされていた。興味深いことに、このmiRは、EMT促進効果を有すると報告されている(Rostas JW 3rd, et al., Mol Cancer. 2014; 13:200)。
【0379】
本実施例の始めにおいて、培養HCECは、CSTを起こしCD44およびCD24を様々に発現する不安定な表現型を示し(
図18~20)、MMP2レベルの上昇を示した。
【0380】
上記の通り、CD44は、miR34/RhoA/MMP2経路とも関連する。CD44++~CD44+++の亜集団からCD44-エフェクター細胞を区別することができる唯一のmiRは、miR34aとして同定された。
【0381】
cHCECを高いエフェクター細胞割合で再現性良く作製する詳細な培養プロトコルを、最近開発したE比という指標を使用することによって発展させ、それによってフックス角膜内皮ジストロフィ、外傷または外科的介入に起因する角膜内皮細胞の組織損傷に対する細胞注入療法のための細胞調製物として役立つ成熟機能を有するcHCECの提供を可能とした。
【0382】
本実施例の製法に関して得られた知見によると、未分化増殖性細胞は、アクチン脱重合による分化を起こし、機能性成熟分化細胞(エフェクター細胞)となり、脱分化して未分化増殖性細胞となる。他方、線維芽細胞様になったり老化すると、老化休止期細胞または線維芽細胞様細胞になる。これらは、再度上皮間葉系移行様の形質転換が生じた細胞が増殖成熟分化する条件で培養する工程にかけることによって、機能性成熟分化角膜内皮細胞へと変換することができる。
【0383】
(実施例4:培養ヒト角膜内皮細胞の細胞状態恒常性および分化における代謝可塑性)
本実施例は、再生医薬に適合できるcHCECを正しくソートするための方法を探索することを狙いとして、分化状態において異種性であるcHCECのどれが異なるエネルギー代謝を示すのかを明らかにすることを目的とする。
【0384】
本実施例では、cHCECにおける亜集団の存在は、表面CDマーカー発現の点から検証された。cHCECまたは異なる細胞表現型に対応するcHCECの培養上清からの代謝抽出物を調製し、キャピラリー電気泳動(CE)と連結したCE-MS/MSシステム(HMT,CARCINOSCOPE)を用いて分析した。内部標準の面積に対して各代謝物のピーク面積を標準化し、標準曲線を用いることで、代謝物の濃度を計算した。
【0385】
材料および方法
ヒト角膜内皮細胞ドナー
本実施例で使用されるヒト組織は、ヘルシンキ宣言の倫理的原則に則って取り扱った。HCECを20のヒト死体角膜から得、核型分類分析を行う前に培養した。ヒトドナー角膜は、SightLife Inc.(Seattle,WA,USA)から得た。研究のための眼の提供に関する書面によるインフォームドコンセントが、すべての死亡したドナーの親族から得られた。すべての組織は、ドナーの同意を得て組織を回収した州の統一死体提供法(UAGA)の原則に則って回収した。
【0386】
ドナー年齢は2~75歳(平均43.7±26.4)の範囲であった。女性および男性の両方が含まれていた。すべてのドナーの角膜をOptisol-GS(Chiron Vision,Irvine,CA,USA)中に保存し、研究の目的で航空輸入した。ドナーの情報によると、すべてのドナー角膜は角膜疾患のない健常なものであると判断され、全てのドナーは、染色体異常の過去歴を有しなかった。
【0387】
HCECの細胞培養
別途記載しない限り、HCECは、公開されているプロトコルにいくつかの変更を加えたものに従って培養した。異なる年齢のヒトドナー角膜を、実験に使用した。簡潔に記載すると、デスメ膜をCECとともにドナーの角膜から剥がし、37℃において1mg/mLのコラゲナーゼA(Roche Applied Science,Penzberg,Germany)で2時間処理して消化した。単一のドナー角膜から取得したHCECを、I型コラーゲンコーティング6ウェル細胞培養プレート(Corning Inc.,Corning,NY,USA)のウェルの一つに播種した。培養培地は公開されているプロトコルにしたがって調製した。簡潔に記載すると、基礎培地は、Opti-MEM-I(Life Technologies Corp.,Carlsbad,CA,USA)、8%のウシ胎児血清(FBS)、5ng/mLの上皮成長因子(EGF;Life technologies)、20μg/mLのアスコルビン酸(Sigma-Aldrich Corp.)、200mg/Lの塩化カルシウム(Sigma-Aldrich Corp.,St. Louis,MO,USA)、0.08%のコンドロイチン硫酸(Wako Pure Chemical Industries,Ltd.,Osaka,Japan)および50μg/mLのゲンタマイシンを用いて調製した。馴化液は以前に記載されたとおりに調製した(Nakahara,M. et al. PLOS One(2013) 8,e69009)。この馴化液を用いて5%のCO2を含む加湿大気下において37℃でHCECを培養した。培養培地は週に2回交換した。コンフルエントに達した場合、37℃で12分間10x TrypLE Select (Life technologies)を使用してHCECを1:3の比率で継代培養した。第2~第5継代のHCECを全ての実験に使用した。
【0388】
培養HCECのフローサイトメトリー分析
HCECを、上記の通りTrypLE Select処理によって培養ディッシュから回収し、FACSバッファー(1%のBSAおよび0.05%のNaN3を含むPBS)中に4×106細胞/mLの濃度で懸濁した。同じ体積の抗体溶液を添加し、4℃で2時間インキュベートした。FACSバッファーで洗浄した後、HCECをFACS Canto II(BD Biosciences)で解析した。
【0389】
c-Myc発現の免疫細胞化学的評価
6ウェルプレートで培養したHCECをPBSで洗浄し、4%PFAで15分固定し、次いで、PBSで洗浄し、PBS中の0.1%TritonX100で5分室温で処理した。ブロッキングは、5分間PBS中1%BSAを用いて行い、ウサギ抗c-Myc抗体(Ab)(細胞シグナリング #5605)を用いて4℃で一晩染色した。PBSで3回洗浄した後、二次Abとして、Alexa488結合抗ウサギIgG(1:1000、Invitrogen A11034)で染色した。細胞核質は、DAPI(Vector Laboratories, Inc., Burlingame, CA)で染色した。
【0390】
2-NBGD取り込みの蛍光分析
バルク培養HCECによるグルコース取り込みは、フローサイトメトリー分析によって行った。簡潔に述べると、剥離したcHCECを、培養培地を新鮮なグルコース消去培地に15分交換した後、600μMの2NBGDとともに、5、10、30分間37℃でインキュベートした。次いで、細胞を2回低温FACSバッファー(1%BSA含有PBS)で洗浄し、氷冷FACSバッファーに再懸濁し、フローサイトメトリーに供した。サンプルは、BD FACS Canto II(BD Biosciences)を用いて、FITCレンジ(励起 490nm, 放射 525nm バンドパスフィルター)で分析した。異なるグループの平均蛍光強度を、BD FACS Divaソフトウェアで分析し、非標識細胞由来の自家蛍光について補正した。
【0391】
グルコース飢餓
HCECは上述の手順に従って培養した。単一ドナー角膜から得られたHCECを、タイプIコラーゲン被覆6-ウェルプレート(Corning Inc.,Corning,NY,USA)の一つのウェルに播種した。培地は、公開されているプロトコルに従って調製した。
【0392】
培養HCECを、乳酸(別段の記載がなければ10mM)をサプリメントしたか、もしくはしていないグルコース欠損培養条件に、異なった時間だけ曝露した。曝露したHCECは、形態学、表面マーカー、およびコラーゲン4A1、4A2および8A2といったHCEC関連機能的マーカーの遺伝子発現の点から評価した。
【0393】
Na+/K+-ATPアーゼ
バルク培養におけるcHCECの亜集団の部分的な消失を評価するために、Na+/K+-ATPaseの免疫組織化学染色を、グルコース飢餓の前後で行った。Na+/K+-ATPaseは、HCECの機能関連マーカーとして使用した。細胞を氷冷メタノールで10分間固定し、次いで、0.1%TritonX-100を含有するPBS(-)で10分間透過処理した。PBS(-)中1%BSAにより、室温で1時間非特異的反応性をブロッキングした後に、Na+/K+-ATPase染色を、2μg/mLのNa+/K+-ATPaseモノクローナル抗体(Millipore,Temecula,CA,USA)を用いて行い、次いで、Histofine MAX-PO(MULTI)(Nichirei Biosciences,Tokyo,Japan)を用いた。0.1%TritonX-100含有PBS(-)で洗浄した後、Histofine Simple Stain DAB Solution(Nichirei Biosciences)で発色させ、ヘマトキシリン(Merck, Darmstadt, Germany)で対比染色した。最後に、細胞をHistofine水性マウンティング培地(Nichirei Biosciences)にマウントし、明視野顕微鏡下で観察した。
【0394】
定量RT-PCR
トータルRNAを、miRNeasy Mini kit (QIAGEN strasse1 40724 Hilden Germany)を用いて培養HCECから抽出した。RNase Inhibitorを伴うHigh Capacity cDNA Reverse Transcriptionキット(Applied Biosystems,Foster City,CA,USA)を用いてcDNAを合成した。TaqMan Fast Advanced Master Mix(Applied Biosystems)およびTaqMan Gene Expression Assays,Inventoried(Applied Biosystems)を用いて、以下の条件でPCR反応を行った。なお使用した各配列はこれらの製品に付随の配列を使用した。以下に使用したプライマーIDを示す。
【0395】
【0396】
95℃で20秒の酵素の活性化、95℃で1秒の変性および60℃で20秒のアニーリング/伸長を40サイクル。StepOnePlus Real-Time PCR system (Applied Biosystems)を、PCR増幅および分析のために使用した。
【0397】
MMP1, MMP2, MMP4, TIMP1, BMP2, SPARC, TGF-β1, TGF-β2, FN1,SERPINB2, CD44, CD166, CD105, CD24, Col3A1, Col4A1, Col4A2, Col8A2, CDH2,VIM, CDKN1B,CDKN1C,IGFBP3,SNAIL1, SNAIL2およびIL1Bのレベルを、18SrRNAのレベルに対して標準化した。結果を、ΔΔCt(発現の相対単位)として表した。
【0398】
統計分析
2サンプル比較の平均値の統計的有意性(P値)を、スチューデントt検定によって決定した。複数サンプルセットの比較の統計的有意性は、ダネット多重比較検定により決定した。グラフに示される値は、平均±SEを表す。
【0399】
cHCECにおける代謝物の測定
細胞内代謝物の代謝抽出物を、Internal Standard Solution(Human Metabolome Technologies;HMT,Inc.,Tsuruoka,Japan)を含有するメタノールを有するcHCEC培養6ウェルプレートまたは24ウェルプレートから調製した。培地をウェルから吸引し、細胞を、5%マンニトール溶液(6ウェルプレートではまず1.5mL、次いで0.5mL、あるいは24ウェルプレートではまず0.3mL、次いで0.1mL)で2回洗浄した。次いで、細胞を、600μL(6ウェルプレート)または200μL(24ウェルプレート)のメタノールで処理し、酵素を不活化させるために30秒静置した。次に、細胞抽出物を内部標準(H3304-1002,Human Metabolome Technologies,Inc.,Tsuruoka,Japan)を含有する10μL(6ウェルプレート)または140μL(24ウェルプレート)のMilli-Q水で処理し、また30秒静置した。抽出物を取得し、2,300×g、4℃で5分間遠心し、全ての上部の水層をMillipore5-kDaカットオフフィルターを通して4℃で120分間9,100×gで遠心的にフィルターし、タンパク質を除去した。ろ液は、遠心的に濃縮し、CE-MS分析のために50μLのMilli-Q水に再懸濁した。
【0400】
培地の代謝物の測定
20μLの培地と、内部標準(H3304-1002,Human Metabolome Technologies,Inc.,Tsuruoka,Japan)を含有する80μLのMilli-Q水とを十分に混合した。混合物をMillipore5-kDaカットオフフィルターを通して4℃で120分間9,100×gで遠心的にフィルターし、タンパク質および高分子を除去した。ろ液は、CE-MSのためにMilli-Q水によって5倍に希釈した。
【0401】
メタボローム分析のデータ分析
Soga,et al.(Soga,D. et al.,T. Soga, et al.,Anal.Chem. 2002;74:2233-2239 Anal.Chem. 2000;72:1236-1241; T. Soga, et al.,J. Proteome Res. 2003;2:488-494)によって開発された方法にしたがって、カチオン性化合物を、CE-TOFMSのポジティブモードで測定し、アニオン性化合物を、CE-MS/MSのポジティブモードおよびネガティブモードで測定した。CE-TOFMSおよびCE-MS/MSによって検出されたピークを、m/z、移動時間(MT)、およびピーク面積を含めたピーク情報を得るために、自動統合ソフトウェア(それぞれMasterHands,Keio University,Tsuruoka,Japan (M. Sugimoto, et al., Metabolomics,2009;6:78-95)およびMassHunter Quantitative Analysis B.04.00, Agilent Technologies, Santa Clara,CA,USA)を用いて抽出した。CEにおけるMTおよびTOFMSによって測定されたm/z値に基いて、HMT代謝物データベースから、仮定的な代謝物によってピークをアノテーションした。ピークアノテーションについての寛容範囲(tolerance range)は、MTについて±0.5分、m/zについて±10ppmと設定した。加えて、代謝物の濃度を、内部標準の面積および3点キャリブレーションによって得た標準曲線に対して各代謝物のピーク面積を標準化することによって計算した。
【0402】
階層クラスター分析(HCA)および主成分分析(PCA)を、それぞれ本発明者ら自身のソフトウェアであるPeakStatおよびSampleStatによって行った。検出された代謝物を、VANTED(Visualization and Analysis of Networks containing Experimental Data)ソフトウェア(B. H. Junker, et al., BMC Bioinformatics.2006; 7: 109)を用いて代謝経路マップにプロットした。メタボローム測定は、Human Metabolome Technologies,Inc.,Tsuruoka,Japanの施設サービスを通じて行った。
【0403】
(結果)
バルク培養細胞によるc-Myc発現およびグルコース取り込み
亜集団に分けていないバルク培養cHCECを、抗c-Myc抗体により免疫細胞化学染色した。位相差顕微鏡において形態的に形質転換細胞様の形状の位置でc-Myc発現が確認された(
図23)。このことは、特定の培養条件で、cHCECにおいてc-Mycを発現するか、または発現しない少なくとも2つの亜集団が存在することを示していた。解糖におけるc-Mycの役割を考慮して、バルク培養cHCECにおけるグルコースの取り込みを、フローサイトメトリーによって調査し、cHCECにおける大きな取り込みを確認したが、グルコース取り込みの程度における差異はなかった(全てのインキュベーション時間で2-NBGD取り込みの単一ピーク)(
図23)。2NBGDは、グルコーストランスポーターによって多くの細胞型に取り込まれることが示されている。このことから、グルコース飢餓は、バルク培養におけるcHCECの亜集団の部分的だが選択的な消失をもたらすのかどうかという問いが直ちに生じる。
【0404】
グルコース飢餓による表現型および形態的変化
バルク培養におけるcHCECの亜集団の選択的消失を評価するため、cHCECを、乳酸の存在下でFBSを含まないグルコース飢餓DMEMで培養した。FBSの不存在は、FBSからのグルコースのキャリーオーバーを防ぐことを狙いとしていた。通常の培養条件下でP3まで継代した後、培養細胞を、10mM以下の乳酸を含むか、または含まない、グルタミンを有するがグルコースを有しないDMEMで72時間インキュベートし、次いで、結果的なcHCECを、さらに通常の条件下で4週間、3つの異なる希釈継代(1:3、1:9、1:30)で培養した。位相差顕微鏡によって検出された形態的変化(
図24-A)は、cHCECのいくつかの亜集団の消失を実証しており、均一なグルコース取り込み(
図23)の下であっても、解糖的エネルギー代謝が存在することを示していた。バルク培養におけるcHCECの亜集団の部分的な消失を評価するため、グルコース飢餓の前後でNa
+/K
+-ATPaseの免疫組織化学染色を、グルコース飢餓の前後で行った。Na
+/K
+-ATPaseは、HCECの機能関連マーカーとして使用した。消失効果からの回復の効率は、明確に添加された乳酸の濃度に依存していた(
図24-B)。グルコース飢餓によるcHCECの部分的消失は、HCECの別の培養ロットを用いても確認した。飢餓は継代P3で72時間行い、次いで、形態的に、1:3希釈で4週間回復した。
【0405】
グルコース飢餓によるEMT、細胞老化、および線維症関連遺伝子の変化
グルコース飢餓によるcHCEC亜集団の部分的、選択的消失は、培養毎の形態的多様性にかかわらず、再現的に確認でき、このことは解糖的エネルギー代謝において異なる亜集団の存在を示していた。消失効果の理解を深めるため、飢餓前のcHCECおよび72時間飢餓後のcHCECからRNAを抽出した。例えば、EMT、細胞老化および線維症などのCSTに関連する遺伝子の発現を、定量リアルタイムPCRによって分析した(
図25(A-H))。グルコース飢餓の後の最も印象的なアップレギュレーションは、MMP1、MMP2、BMP2およびTGF-β1に係るものであり、一方で、TGF-β2は減少を示した(
図25(A-H))。
【0406】
他の培養および飢餓についての同一の実験では、TGF-β2が減少を示す一方で、MMP1、MMP2、MMP4、TIMP1、BMP2およびTGF-β1についてアップレギュレーションを確認した。反対に、EMTおよび線維症に関連する大半の遺伝子は、一様にダウンレギュレートされていた。ダウンレギュレートされていた遺伝子としては、SPARC、TGF-β2、IL-1β、CD44、CD24、CDH2、VIM、SNAIL1、SNAIL2、IGFBP3、4、7が挙げられる(
図25(A-H))。コラーゲンのいくつかのアイソフォームもダウンレギュレートされており(3A1、4A1、8A2)、CDKN1は減少の傾向を示した。
【0407】
異種性cHCECの間の代謝プロファイルクラスタリング
異なるcHCEC間での細胞内代謝物のバリエーションを同定するため、CE-MSを行い、小分子代謝物のレベルをプロファイルした。3つのロットのcHCEC(C16P6、C21P3および164P1)を分析し、サブコンフルエント細胞密度(それぞれ7.22X10
5、9.85X10
5および3X10
5)で培地交換した2または3日後にタンパク質を抽出した。標準化細胞内代謝物シグナルポジショニングを、PCA1および2コンポーネントにおける典型的な代謝物と共に、PCA分析として
図26-Aに相対的に示した。標準化代謝物強度の階層クラスタリング(HCA)は、3つのロットのcHCEC間の明確な分離を示した(
図26-A)。これらのcHCECの形態的差異は、フローサイトメトリー分析と共に示した(
図26-E~26-G)。表面的に類似した顕鏡的特徴にもかかわらず、特にC16、C164およびC21の間で、HCAは大きく異なっていた。フローサイトメトリー分析による区別は、この結果とよく一致していた。それでもなお、代謝物プロファイルは、C164とC16との間で異なっており、これは、C16におけるCD44+++細胞集団の存在によるものである可能性がある(
図26-D)。このクラスタリング結果は、代謝リプログラミングが、分化/成熟プロセスの間およびEMTもしくは線維症といったCSTの獲得の間の両方で必要とされるという可能性と一致している。
【0408】
乳酸/ピルビン酸比は、C16およびC21より、C164において高く、細胞内酸化還元状態のマーカーである、GSH、GSSG、ならびに総グルタチオンの含量は、C164と比較してC16およびC21において劇的に低かった。形質転換細胞における低GSHレベルは、CSTのプロセスにおいて還元型抗酸化活性が発生することを示唆している。
【0409】
まとめると、この観察は、C16およびC21は、C164より比較的嫌気的解糖を用いやすい傾向があり、これは細胞ストレスへの曝露によるものであり得ることを示唆している。
【0410】
分泌代謝物の代謝プロファイリングクラスタリング
本実施例では、表面CDマーカーを追う侵襲的な方法の代わりとなる、画期的な医薬としての再生治療のためのcHCECの質の適合性をモニターする実用的、非侵襲的で、感度の良い方法を提供することを目的とする。培地中の分泌代謝物の包括的な調査は、表面CD44抗原の発現レベルにおいて異なるcHCEC亜集団を、正確に振り分けた。
図27は、馴化液における代謝物変化を特性評価する。培地のメタボロミックプロファイルの階層クラスタリングは、CSTの存在と相関する代謝物のサブセットを同定した。クラスターは少なくとも4つの代謝物サブセットに分割された;全てのcHCEC(#66、#72、#55)で増加した代謝物、主に#72および#55で増加したが#66では増加しなかった代謝物、#66で最も大きく減少した代謝物、3つのグループにおおよそ存在する代謝物に分けられた(
図27-A)。解糖系のいくつかの中間体は、#72および#55では#66より高く、上昇した速度の解糖の「ワールブルク効果」と一致していた。ワールブルク効果は、乳酸産生の上昇を含む。実際に、乳酸/ピルビン酸比は、#72および#55では#66より高かった(
図27-B)。これらの3ロットは、顕鏡下の検査では良好な形態を示していたということは注目に値するものであり、培地の分泌代謝物の包括的調査の最大限の有用性を示すものである。
【0411】
CD44+++、CD24+および/またはCD26+亜集団を有しない質の制御されたcHCECの間の分泌代謝物の詳細な区別
細胞注入治療のためのHCECの培養の間の細胞外代謝物のモニタリングの有用性を検証するため、GMP条件下で産生したHCECの、CD44+++細胞、CD24+細胞またはCD26+細胞を伴わない培地を分析した。CD44-~CD44+対CD44++亜集団に関して亜集団の組成の異なる4つのcHCRCを調査した。上述のクラスタリングと一致して、HCAは、上述のように4つの代謝物サブセットを同定した(
図28-A~28-E)。4つのロットは同様の代謝プロファイリングを示したが、C23は、嫌気的解糖の代わりにミトコンドリア依存性OXHOSへの強い傾向を示し、これは、乳酸の産生が最も低いこと、乳酸/ピルビン酸比が最も低いこと、そしてクエン酸/イソクエン酸およびシス-アコニット酸といったTCA回路中間体の産生がもっとも高いことによっても検証されている。興味深いことに、Gln消費はC24で最も高く、C21では最も低く、このことはこれらの2つにおけるグルタミノリシスの差異の可能性を示唆している。アミノ酸代謝および酸化還元状態における区別には大きな差異はなかった。この結果は、これらの4つのロット間の分泌代謝物における定量的な差異を示唆していた。全体として、データは、分泌代謝物の分析からの結論を補強するものであった。TCA回路代謝物の変化は、細胞治療に適した良質なcHCECに伴う。最も理想的なcHCEC、C23における解糖系代謝物の減少およびミトコンドリア依存性OXHOSへの傾向を確認するため、本発明者らは、クエン酸/乳酸比によって培地における代謝物をモニターするシンプルな方法を提唱する。
図28-Hは、CD44-~CD44+対CD44++の割合のみが異なるC21、C22、C23およびC24の間のクエン酸/乳酸比の差異を示すグラフ、ならびにCD44+++亜集団の含量において異なる#66、#55および#72の間のクエン酸/乳酸比の差異を示すグラフである。質は、cHCEC培養上清中の乳酸に対するクエン酸の比によってモニターし得る。
【0412】
(まとめ)
エネルギー代謝関連機能マーカーであるC-MycおよびCD44について詳細にするため、培養HCECを試験した。表現型スイッチングの根底にある分子メカニズムについての知見を得るため、亜集団において異種性であるcHCECの代謝要求性の傾向を調査した。cHCECは、エネルギー供給について異なる代謝要求性を有する亜集団から構成されていることが明らかになった。本発明者らは、亜集団を、その分泌代謝物の点から区別することに成功し、細胞状態相転移(CST)亜集団は、ミトコンドリア依存性酸化的リン酸化の代わりに、嫌気的解糖への傾向を示した。これは、初めてcHCECのエネルギー代謝における傾向を監視する方法を切り開くものであり、細胞懸濁物の形態である代謝的に規定されたcHCECを用いる安全で安定な再生医薬へとつながるものである。
【0413】
(結論)
本研究の結果は、異なるエネルギー代謝を有するcHCECにおける亜集団の存在を解き明かし、ミトコンドリア依存性酸化的リン酸化を起こしやすいようにさせ、六角形の敷石様形状(cobble-stone shape)の成熟cHCECを選択的に増殖させる効果的な培養条件の確立の可能性を提供する。
【0414】
HCECは培養中で増殖することができるため、角膜内皮機能不全の処置のためのcHCECの細胞注入治療は、広範に探索されている。いくつかのグループによって指摘されているように、培養細胞は、一般的に核型変化のリスクを有する(Miyai T, et al., Mol Vis. 2008;14:942-50)。cHCECの細胞治療への適用に対する最も大きな課題の一つは、cHCECの細胞の質を検証する方法である。本実施例において、表面CDマーカーを追跡する侵襲的な方法の代わりに、非侵襲的に細胞の質をモニタリングする候補を提示することに成功した。培養培地中の分泌型代謝物の包括的な調査は、表面CD44抗原の発現レベルにおいて区別されるcHCEC亜集団を正確に特定した。
【0415】
体細胞組織では典型的である酸化的代謝からの、解糖への移行は、多能性状態への再構成の必要条件である。反対に、多能性から規定された系統への再指示は、ミトコンドリア生合成および効率的な酸化エネルギー生成の成熟を必要とする。
【0416】
代謝状態は、細胞状態に影響する。好気的解糖を運命づけられた癌細胞におけるワールブルグ効果は、代表的な例である。それでもなお、HCECの成熟および分化における具体的な代謝再構成についての必要性は、未だに探索されている。本発明者らの発見は、cHCECにおける異なる亜集団の間のエネルギー代謝状態の重大な変化を、初めて記載するものである。細胞相転移cHCECは、解糖的代謝型へとスイッチする一方で、分化したcHCECは、より酸化的ミトコンドリア呼吸系依存性である。cHCECの成熟亜集団における低乳酸産生および上昇したリン酸化活性化のレベルは、細胞の質のコントロールにおけるメタボロミクスの適用の可能性、ならびに/あるいは角膜内皮機能不全(例えば、フックス角膜内皮ジストロフィ)の診断、予後予測および治療効率のためのバイオマーカーとしての有用性を示唆している。
【0417】
本実施例はまた、例えば、細胞の異常、複数のグッタータの癒合、外形等の重要な特徴を有するFECDにおけるグッタータの起源への新規な知見を提供する。代謝的なアウトプットと、恒常的およびストレス条件下での組織一体性のための細胞機能の要求を適合させる必要を考慮すると、代謝変化に関係するグッタータの起源の将来的な説明は、フックス角膜内皮ジストロフィ(FECD)の病因への新規な知見を提供する。
【0418】
まとめると、本発明者らのデータは、エネルギー代謝におけるcHCECの傾向をモニタリングし、細胞懸濁物の形態での代謝的に規定されたcHCECによる安全で安定な再生医薬をもたらす方法を提供する。同時に、本発明者らの新規な知見は、予備的段階のものではあるものの、角膜内皮における代謝調節を、FECDを含む水疱性角膜症を有する患者を処置するためのより効率的な標的型治療の開発へと結び付け得る証拠を提供する。
【0419】
(実施例5:microRNAプロファイルは培養ヒト角膜内皮細胞の表現型特徴を識別する)
本実施例は、細胞治療に適合可能で、かつCSTのない培養細胞を評価および同定する非侵襲的な方法を発見することを目的とする。
【0420】
本実施例では、異種性の亜集団(SP)におけるcHCECのその組成におけるバリエーションを、その表面CDマーカーおよび形態の面から証明した。培養細胞または上清におけるmiRNAプロファイルは、3D-gene(Toray)によって検出した。また、プロファイルを、グッタータを有するか、もしくは有しない別個の内皮細胞密度(ECD)を有する新鮮な角膜組織について解析した。3D-gene結果を評価するため、qPCRを行った。選択されたmiRNAでトランスフェクトしたcHCECからRNAを抽出し、そして標的遺伝子をPCRarray(Qiagen)によって推定した。
【0421】
(材料および方法)
ヒト角膜内皮細胞ドナー
本実施例で使用されるヒト組織は、ヘルシンキ宣言の倫理的原則に則って取り扱った。HCECを20のヒト死体角膜から得、核型分類分析を行う前に培養した。ヒトドナー角膜は、SightLife Inc.(Seattle,WA,USA)から得た。研究のための眼の提供に関する書面によるインフォームドコンセントが、すべての死亡したドナーの親族から得られた。すべての組織は、ドナーの同意を得て組織を回収した州の統一死体提供法(UAGA)の原則に則って回収した。
【0422】
ドナー年齢は2~75歳(平均43.7±26.4)の範囲であった。女性および男性の両方が含まれていた。すべてのドナーの角膜をOptisol-GS(Chiron Vision,Irvine,CA,USA)中に保存し、研究の目的で航空輸入した。ドナーの情報によると、すべてのドナー角膜は角膜疾患のない健常なものであると判断され、全てのドナーは、染色体異常の過去歴を有しなかった。グッタータを有する角膜内皮組織の分析のために、2000細胞/mm2未満(380まで)の内皮細胞密度(ECD)を有する組織を用い、同じ年齢範囲の組織と比較した。
【0423】
HCECの細胞培養
別途記載しない限り、HCECは、公開されているプロトコルにいくつかの変更を加えたものに従って培養した。異なる年齢のヒトドナー角膜を、実験に使用した。簡潔に記載すると、デスメ膜をCECとともにドナーの角膜から剥がし、37℃において1mg/mLのコラゲナーゼA(Roche Applied Science,Penzberg,Germany)で2時間処理して消化した。単一のドナー角膜から取得したHCECを、I型コラーゲンコーティング6ウェル細胞培養プレート(Corning Inc.,Corning,NY,USA)のウェルの一つに播種した。培養培地は公開されているプロトコルにしたがって調製した。簡潔に記載すると、基礎培地は、Opti-MEM-I(Life Technologies Corp.,Carlsbad,CA,USA)、8%のウシ胎児血清(FBS)、5ng/mLの上皮成長因子(EGF;Life technologies)、20μg/mLのアスコルビン酸(Sigma-Aldrich Corp.)、200mg/Lの塩化カルシウム(Sigma-Aldrich Corp.,St. Louis,MO,USA)、0.08%のコンドロイチン硫酸(Wako Pure Chemical Industries,Ltd.,Osaka,Japan)および50μg/mLのゲンタマイシンを用いて調製した。馴化液は以前に記載されたとおりに調製した(Nakahara, M. et al. PLOS One (2013) 8,e69009)。この馴化液を用いて5%のCO2を含む加湿大気下において37℃でHCECを培養した。培養培地は週に2回交換した。コンフルエントに達した場合、37℃で12分間10×TrypLE Select(Life technologies)を使用してHCECを1:3の比率で継代培養した。第2~第5継代のHCECを全ての実験に使用した。
【0424】
位相差顕微鏡法
位相差画像を、倒立顕微鏡システム(CKX41,Olympus,Tokyo,Japan)によって撮影した。
【0425】
領域分布分析のために、cHCECをPBS(-)で3回洗浄し、位相差画像をBZ X-700顕微鏡システム(Keyence,Osaka,Japan)によって取得した。BZ-H3C Hybrid細胞カウントソフトウェア(Keyence)によって、領域分布を定量した。
【0426】
免疫蛍光染色
HCECは、FNC Coating Mixでコーティングされた24ウェル細胞培養プレート中で1×105細胞/ウェルの密度で培養し、免疫蛍光分析のために3~4週間維持した。この細胞を、5%酢酸を添加した95%エタノール中において室温で10分間固定し、1%のBSAとともに1時間インキュベートした。サンプルを、CD73(1:300;BD Pharmingen Stain Buffer)、CD166(1:300;BD Pharmingen Stain Buffer)、ZO-1(Life technologies)およびNa+/K+-ATPase(Milford,MA,USA)に対する抗体とともに4℃で一晩インキュベートした。PBSで洗浄した後、Alexa Fluor 488結合ヤギ抗マウスIgG(Life Technologies)か、またはAlexa Fluor 594結合ヤギ抗ウサギIgG(Life Technologies)かのいずれかを1:1000の希釈率で2次抗体として使用した。核質はDAPI(Vector Laboratories, Burlingame, CA, USA)で染色した。48ウェル細胞培養プレート中で培養した細胞を、蛍光顕微鏡(BZ-9000;Keyence,Osaka,Japan)によって直接調べた。
【0427】
培養HCECのフローサイトメトリー解析
HCECを、上記の通りTrypLE Select処理によって培養ディッシュから回収し、FACSバッファー(1%のBSAおよび0.05%のNaN3を含むPBS)中に4×106細胞/mLの濃度で懸濁した。同じ体積の抗体溶液を添加し、4℃で2時間インキュベートした。抗体溶液は以下のとおりであった:FITC結合抗ヒトCD26 mAb、PE結合抗ヒトCD166 mAb、PerCP-Cy5.5結合抗ヒトCD24 mAb、PE-Cy7結合抗ヒトCD44(全てBD Biosciences)、APC結合CD105(eBioscience,San Diego,CA,USA)。FACSバッファーで洗浄した後、HCECをFACS Canto II(BD Biosciences)で解析した。
【0428】
マイクロアレイ分析(3D-Gene)
マイクロRNA抽出:
角膜内皮組織および上皮組織を、ドナー角膜から剥がした後に取得し、QIAzol Lysis Reagent(QIAGEN strasse1 40724 Hilden Germany)中-80℃で、トータルRNA抽出まで保存した。miRNeasy Mini kit(QIAGEN)を用いてトータルRNAを抽出した。Bioanalyzer 2100(Agilent Technologies,Palo Alto,Calif.,USA)によって、精製したトータルRNAの質を分析した。
【0429】
マイクロRNA発現プロファイリング
本発明者らは、Torayの3D-GeneTMヒトマイクロRNAチップ(miRBaseバージョン17-19)を、マイクロRNA発現プロファイリングに使用した。一つは、miRCURY LNATM microRNA Power Labeling Kits(Exiqon,Vedbaek,Denmark)を用いて標識された細胞および組織サンプルの両方に由来する250ng~500ngのトータルRNAであり、もう一つは標識された400μLの上清由来のmiRNAの全てであった。標識されたマイクロRNAを、個別にマイクロRNAチップ表面にハイブリダイズさせ、16時間32℃でインキュベートした。洗浄し乾燥させたオゾンフリー環境のマイクロRNAチップを、3D-Gene スキャナー3000(Toray Industries Inc.,Tokyo,JAPAN)を用いてスキャンし、3D-Gene Extractionソフトウェア(Toray)を用いて分析した。なお使用した各配列はこれらの製品に付随の配列を使用した。
【0430】
標準化データ処理
該ソフトウェアによって提供されたデジタル化蛍光シグナルを、生データとみなした。全ての標準化データを、マイクロアレイ毎にグローバルに標準化し、蛍光強度の中央値を25に補正した。組織、cHCECおよび上清の棒グラフの場合、標準化レベルは、高ランクから100番目の値が一致するように補正した。
【0431】
PCRアレイ
培養HCECから、miRNeasy Mini kit(QIAGEN strasse1 40724 Hilden Germany)を用いて、トータルRNAを抽出した。cDNA合成を、RT2 First Strand kit(Qiagen)を用いて、96ウェルプレートフォーマットのための100ngについて行った。内皮mRNAの発現を、RT2 Profiler PCR-Array(Human Extracellular Matrix and Adhesion Molecules、Human p53 Signaling Pathway、Human Fibrosis、Human Cellular senescence、およびHuman Epithelial to Mesenchymal Transition(EMT))(Qiagen)を用いて調査し、RT2 Profiler PCR Array Data Analysis Tool version3.5を用いて分析した。
【0432】
統計分析
2サンプル比較の平均値の統計的有意性(P値)を、スチューデントt検定によって決定した。複数サンプルセットの比較の統計的有意性は、ダネット多重比較検定により決定した。グラフに示される値は、平均±SEを表す。
【0433】
(結果)
HCEC培養物間で異なるmiR発現プロファイル
本実施例では、目立ったEMTをほとんど有しないcHCECの改善された培養物について扱った。しかしながら、異種性の亜集団の中からわずかなEMTの存在を区別するのは困難である。初めに、本発明者らは3D gene(Toray)を用いて検出したmiRのプロファイルを、CD44-亜集団(エフェクター細胞)と、亜集団の組成について不明であるいくつかの培養細胞(2911、3411および3511、すべて1継代)との間で比較した(
図29-B)。エフェクター細胞と比較して、後者の亜集団においては、miR29c発現のわずかなアップレギュレーションおよびmiR378発現のダウンレギュレーションがあった。次いで、エフェクターCD44-亜集団を、CSTが明らかである培養細胞67(その亜集団の組成は
図30-A~30-Cに示す)と比較した(
図29-C)。比較によって、miR378ファミリーのダウンレギュレーションがまた明らかにされた。これは、目立ったEMTが無い場合であっても、cHCECにおいて少なくとも2つの異なるタイプのCSTが存在することを明確に示すものである。miR378の顕著な減少は、質の良くない形態的に区別できる培養物において確認され、miR378ファミリーの発現レベルは、培養物C66およびC11の間で同等であった。
【0434】
異なるCDマーカーを有する亜集団間のmiR発現プロファイル
CD44のようなCDマーカー発現レベルの異なる亜集団の組成へのmiRの発現プロファイルの依存性を明らかにすることを狙いとして、FACSにより定義されたcHCEC亜集団(
図30-A~30-C)から抽出したRNAを3D gene分析に供した。これらの3つのcHCEC、a5、a1およびa2は、それぞれ主にCD44-CD24-CD26-SP、CD44++CD24-CD26-亜集団およびCD44+++ CD24- CD26++亜集団で構成される亜集団を含有する。a5およびa1の間で、再びmiR378ファミリーの発現レベルは同等であったが、a2においては上昇したCD44発現とともに劇的な減少が確認された。
図31-Aに、miR378a-3p、378a-5pおよび378f等のmiR378ファミリーの亜集団ごとの発現の差異を示した。miR378ファミリーに加えて、23、27、30、130および181ファミリーはCD44発現と負の相関を示し、その一方で29、31、193および199ファミリーは、正に相関した。状況を明確にするため、変化を5つのクラスに分けた。
図31-Bにおいて、miR378ファミリーの発現のCD44の発現と逆行する減少は、CD44の減少とともにゆるやかになるため、a5およびa1の間のCSTを区別できない(a5およびa2の間ではできる)。a5およびa1の間でのmiR34の発現レベルの変化は顕著であって、a1およびa2の間では区別できないとしても、a5とa1間のCSTを区別するには最も妥当である。
【0435】
上記知見の一部を、さらなる検証に供した。Q-RT-PCRもまた、miR378ファミリーが最も高く発現されているという観察を実証した。同時に、miR1246がCD44陽性細胞においてダウンレギュレートされ、その一方でmiR1273、miR205がそれらの細胞でアップレギュレートされていた(データ示さず)。
【0436】
培養上清における異なるmiR発現プロファイル
本実施例では、細胞治療に適合したcHCEC亜集団を非侵襲的に識別するための代替ツールとして働き得る培養上清中のmiRを見出すことを目的とする。上記と同一の3つのcHCEC(すなわち、a5、a1およびa2)を用いて、対応する培養上清からRNAを抽出し、3Dgene分析に供した。多数のmiRを選択し、変化のパターンを6つに分類した。その中で、特徴的な傾向を有するパターンを、
図33(A-B)に示した。cHCECからの結果と異なり、細胞におけるmiR378ファミリーと同様にCD44の発現と逆行する様式でmiR184がゆるやかに減少していた。miR24-3p/1273eは、細胞におけるmiR23、27および181ファミリーと同様に、a2におけるその減少によって、a2からa5およびa1を区別することができた。また、miR24-3p/1273eと対照的に、a2における増加によって、a2からa5およびa1を区別することができる4つのmiRが存在した。
【0437】
グッタータを有する角膜内皮組織とmiR378および146
EMT、細胞老化、および線維症のようなin vitroCSTの間の共通性を考慮して、本発明者らは次に新鮮な角膜内皮組織におけるmiRプロファイルを比較した。通常のECDレベルを有する組織と、ECD378の組織の間のmiR発現プロファイルのスキャッタープロットは、角膜上皮組織より角膜内皮組織においてmiR378ファミリーのアップレギュレーションを実証していた(データ示さず)が、進行したグッタータを伴う低ECD組織では劇的に減少していることが示された。反対に、miR378ファミリーよりはるかに高い発現レベルのmiR146b-5pは減少しなかった。miR378ファミリーのアップレギュレーションは、角膜内皮および上皮組織の間で同等であった。該ファミリーは、培養の間も顕著にアップレギュレートされ、CD44陰性エフェクター細胞亜集団で最も高い発現が観察されたことは注目すべきである(
図34(A-G))。
いくつかのmiRを、上記発見のさらなる検証に供した。Q-RT-PCRもまた、miR 378ファミリー(a-3p、eおよびf)の発現が、ECD795および1410を有する組織(このときはECD378を有する組織由来のRNAは利用できなかった)において均一に抑制されていたことを実証した。その一方で、それらの細胞では、miR200c、205および124-5pはアップレギュレートされていた。
【0438】
miR378の標的候補
最後に、本発明者らは、miR378a-3pまたは5f模倣物の、これらの2つの発現が検出されていなかったCD44+++ cHCEC亜集団への予備トランスフェクションを行った。細胞は、
図35-Cに示されるように、ECMおよび接着分子クラスの遺伝子シグネチャーを顕在化させた。細胞は、コラーゲン、ITGおよびMMPファミリーならびにCD44の多数の遺伝子シグネチャーのアップレギュレーションを示した。
図35-Cに、senescence、EMT、fibrosis、p53およびEMAのPCRアレイによってアッセイした、2つのmiR模倣物のトランスフェクション後の遺伝子シグネチャーのヒートマップを示した。CCNF、TWIS1およびGADD45といった遺伝子のいくつかは、senescenceアレイ中でアップレギュレートされていた。p53PCRアレイにおいて多数の遺伝子が異なるシグネチャーを形質導入の後に示し、同様にEMTアレイにおいてTCF4、TCF3、TGF-β2、TGF-β3およびSOX10iのmiR378f模倣体によるダウンレギュレーションが示された。miR378ファミリーに加えてのmiR146のトランスフェクションは、FECDを含むBKの病因への補完的な知見を加え得る。
【0439】
(まとめ)
形態的に異なる様々なcHCECの間のmiRNA発現プロファイルは、それらの間の明確な差異性を明らかにした。CD44++~CD44+++表現型を有する亜集団からCD44-亜集団を区別できるmiRとして、miR34aが同定された。378ファミリーのmiRのダウンレギュレーションは、cHCECの表面CD44のアップレギュレーションと平行していた。興味深いことに、角膜内皮でアップレギュレートされた378ファミリーのmiRは、進行したグッタータを有するより低いECDの組織においては劇的に減少していた。このことは、フックス角膜内皮ジストロフィ(FECD)の病因に対して新たな知見を示すものである。
【0440】
(結論)
成熟HCECとCD44-表面表現型をシェアしている特定された培養亜集団は、miR378の最も高い発現を示すことが示された。反対に、アップレギュレートされたCD44+++を有する亜集団は、miR378の減少を示した。したがって、培養細胞または上清におけるmiRNAは、培養cHCECを識別するための代替ツールとして働き得る。
【0441】
ドナー角膜内皮由来のcHCECの増殖は、cHCEC細胞治療のための実用的なツールを提供し得る。in vitroの培養システムで増殖したcHCECは、異なるCSTを有する亜集団の混合物であり得る。培養細胞は核型変化しがちな傾向がある。したがって、cHCECは、安全性が厳密に保証されるべき臨床セッティングの観点から、異種性亜集団組成に関するその質および純度を注意深く観察する必要がある。
【0442】
培養細胞の形態的なバリエーションだけではなく、培養物毎に、同様の形態的外観であったとしても、CDマーカーによって分類されるcHCEC亜集団の組成も大きく変動した。CDマーカーの組み合わせ分析により、様々な亜集団の中から細胞治療に適合した亜集団(エフェクター細胞)を明確に特定した。本発明者らは、本明細書において記載されているように、培養物内のエフェクター亜集団の割合(E比)を定量する方法を提唱した。本発明者らは、CD133、CD105、CD90、CD44、CD26、CD24、HLA-DRが陰性であって、CD166、HLA-ABCおよびPD-L1が陽性である亜集団が、核型異数性が完全になく、新鮮な角膜組織のHCECのCDマーカープロファイルと一致する、機能性細胞であることを見出した。
【0443】
間葉系マーカーの発現および上皮マーカーの喪失といった形態的、表現型的な変換による可塑性は、集合的にEMTと呼ばれる。培養HCECは、EMTへのCSTへの傾向を有する。多数のmiRNAが、EMTに関与していた(miR-200、miR-34およびmiR-203ファミリー)。
図29-Aに示される異なる培養物の比較では、これらのEMT関連miRの明白な変化は検出されず、本実施例における培養条件はかかる明白なEMTを除外しているとの判断と一致していた。しかしながら、表5にまとめられるように、その亜集団が異種性であるか、低いE比を有する培養物中では、miR378ファミリーの多数が、明白にダウンレギュレートされていた。
【0444】
【0445】
新鮮なHCE組織では、miRシグネチャーの対照的な特徴が観察された。低ECDを有するHCE組織では、EMTに関連するmiRがアップレギュレートされており、miR146についても同様であった(進行したグッタータを有する組織においてもアップレギュレートされていた)。低E比を有する培養物では、miR378ファミリーがダウンレギュレートされていた(
図34)。最近報告された(Bracken CP, et al., Cancer Res. 2015;75:2594-9)。
【0446】
miR-146aは、ECMの組み立て、組成および組織化において重要な構造的ECMタンパク質に影響する。
【0447】
miR-378は、トリカルボン酸(TCA)回路遺伝子発現の減少ならびに乳酸産生の増加につながる代謝シフトを行う。CD44は、分化したcHCECを、未分化であるか、もしくはCSTを有するcHCECからE比によって区別するためのホールマークである。CD44の除去(アブレーション)は、ミトコンドリア呼吸への代謝フラックスを増加させ、それに伴い、解糖系へのエントリーを阻害した。CD44アブレーションによって誘導されるかかる代謝リプログラミングは、細胞内還元性グルタチオンの顕著な減少をもたらす(Tamada M,et al., Cancer Res. 2012;72:1438-48)。
【0448】
注目すべきは、CD44-エフェクター細胞を、CD44++~CD44+++亜集団から区別することができるmiRとして、miR34aが同定されたことである(
図31-B)。MiR-34a/CD44軸は、RhoAおよびMMP-2を含むCD44の下流の因子を活性化させる(Lin L,et al.,Oncol Rep. 2015;34:663-72)。2007年には、いくつかのグループが、miR-34ファミリーのメンバーを、最も普遍的なp53-誘導miRNAとして同定した。現在では、miR-34ファミリーのメンバーは、がん抑制の重要なメディエーターとして認識されている(He L, et al., Nat Rev Cancer. 2007;7:819-22)。このことは、CD44-エフェクター亜集団のみが核型異常の不存在を示したという上記実施例2の結果とも一致する。
【0449】
miR378ファミリーは、CD44の発現の減少と平行して、ゆるやかな減少を示した(
図31-B)。miR-378は、ミトコンドリアのエネルギー恒常性において役割を果たしていることが知られている(Eichner LJ, Pet al., Cell Metab. 2010;12:352-361l;Carrer M, et al., Proc Natl Acad Sci USA. 2012;109:15330-15335)。このことは、直ちに、好気的、酸化的代謝から解糖的代謝へのシフトはcHCECのいくつかのCSTの特性的特徴であることを示す(実施例4参照)。ピルビン酸は、酸化的リン酸化(OXPHOS)を通してTCA回路によって処理される。クエン酸/乳酸比は、CD44-エフェクター細胞を、CD44+++からだけでなく、わずかなCSTを有するCD44++亜集団からも区別することができる(実施例4参照)。
【0450】
miR-378a-5pを含むいくつかのマイクロRNA(miRNA)はまた、p53経路を標的とし、老化に関係することが示されている。老化誘導は、miR-378a-5pがcHCECにおけるCST調節に関係する機構のさらなる可能性を提供し得る。
【0451】
BKまたはFECDの治療的選択肢の観点からは、本実施例から以下のように述べることができる。慢性的ストレス下の組織のリモデリングは、部分的にであっても、miR-378のダウンレギュレーションおよびEMTを調節するmiR200ファミリーのアップレギュレーションから生じると考えられる。したがって、不十分な組織ストレスへの適合は、これらのmiRによって制御される病因の進行であり得る。
【0452】
本実施例において、cHCECが、おそらくCSTおよび老化の存在によって、miRクラスターの階層の調節不全の発現から構成されることを実証した。低ECD、グッタータを有する新鮮な角膜内皮組織では、miR378のアイソフォームはダウンレギュレートされ、反対に、miR146アイソフォームはアップレギュレートされていた。培地中で検出されたmiRプロファイルは、cHCEC中のmiRプロファイルと異なっており、培地に分泌されたmiRのアッセイは、miR34aによってCD44陰性エフェクター細胞から細胞相転移CD44+++cHCEを明確に区別することができた。しかしながら、培地中のmiRのプロファイルは、エフェクター細胞から未分化前駆細胞を区別することができず、この問題は将来に持ち越される。この実用的な目的に加えて、ここで示される新たな知見は、BKおよびFECDの病因におけるmiRの調節不全の発現の役割の理解をより深めるためのさらなる調査を保証する。
【0453】
CSTを有するcHCEC亜集団におけるmiR29のアップレギュレーションもまた、Wnt/β-カテニンシグナリングを通じたEMT促進効果におけるその役割を記載している最近の報告(Rostas JW 3rd, et al., Mol Cancer. 2014;13:20031)に関連して注目すべきである。EMTを有するmiR378f CD44+++ cHCEC亜集団によるTCF4などのダウンレギュレーションの詳細については、本明細書において他の実施例等で記載する。
【0454】
(さらなるmiRNA)
上記と同様の実験を他のmiRNAについて行った結果、以下の結果がさらに判明した。
(C)a5:a1:a2=高発現:低発現:低発現を示すもの:
(細胞分泌型)miR4419b、miR371b-5p、miR135a-3p、miR3131、miR296-3p、miR920、miR6501-3p;
(F)a5:a1:a2=高発現:低発現:高発現を示すもの:
(細胞分泌型)miR92b-5p
(G)a5:a1:a2=低発現:高発現:低発現を示すもの:
(細胞分泌型)miR1246、miR4732-5p、miR23b-3p、miR23a-3p、miR1285-3p、miR5096
以上の結果は、
図35-Dに示されており、細胞亜集団別に異なる分泌型miRの発現のパターンは6つに分類された。
【0455】
CD44発現レベルとmiRプロファイル
公知の方法で調製したcHCEC培養物は、本実施例では明白なEMTをほとんど排除していたが、老化様の形態を維持していた。老化様cHCECによる干渉を除外するため、SB203580(p38 マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(p38 MAPK)阻害剤)を、老化様CSTを制御するため培養物全体に添加した。この培養プロトコルの下で、本発明者らは、培養物a5、a1およびa2を取得することに成功し、それらは、老化様の形態を一見有していなかった。しかしながら、興味深いことに、それらは表面におけるCD44、CD24およびCD26の発現の観点からは、異種性であった(
図35-E)。これらのcHCECを用いて、対応する培養上清からRNAを抽出した。これらのcHCEC(すなわち、a5、a1およびa2)の間で異なる発現を示すmiR(23a-3p、184、1260a、3130-3p、23b-3p、135a-3p、1246、3131、24-3p、296-3p、1290、4419b、92a-2-5p、371b-5p、6501-3p、920のmiR)をボルケーノプロットを用いて同定した(
図35-E)。
【0456】
さらに、形態のよし悪しの基準で分けた細胞の良い細胞(エフェクター細胞)の培養上清中において、92b-5p、1273e、1285-3p、4732-5p、221-3p、1273f、1915-3p、4745-5p、1246、1273g-3p、1972、4792、3937、5096のmiRが同定された。したがって、これらのmiRは、非侵襲的な細胞の品質の判別に用いる分泌型miRの候補となる。
【0457】
また、亜集団(エフェクター、準合格、CD44+++)の培養上清中のmiRを3D-Geneで解析することで、これらの亜集団間で異なる発現パターンを示すmiRとして、23a-3p、184、1260a、3130-3p、23b-3p、135a-3p、1246、3131、24-3p、296-3p、1290、4419b、92a-2-5p、371b-5p、6501-3p、920のmiRが同定された。したがって、これらのmiRは、非侵襲的な細胞の品質の判別に用いる分泌型miRの候補となる。
【0458】
(実施例6:培養されたヒト角膜内皮細胞亜集団のデスメ膜の構成成分への結合特性の違い)
本実施例は、亜集団(SP)の接着特性を明らかにするために内皮表面に分布する主なデスメ膜の構成成分(すなわち、ラミニン-511、ラミニン-411、IV型コラーゲン、およびプロテオグリカン)への培養HCEC亜集団の結合能力を比較した。
【0459】
本実施例では、各亜集団を、培養条件を制御することによって、または磁性細胞分離を使用することによって調製して、その後いくつかの細胞表面マーカーを染色することによって確認した。HCEC亜集団の結合能力を試験するために、細胞を、コラーゲン、ラミニン、またはプロテオグリカンが固定された96ウェル培養プレートに添加し、その後プレートを遠心した。次いで、接着した細胞を位相差顕微鏡下で評価した。
【0460】
(材料および方法)
ヒト角膜内皮細胞ドナー
本実施例で使用されるヒト組織は、ヘルシンキ宣言の倫理的原則に則って取り扱った。ヒトドナー角膜は、SightLife Inc.(Seattle, WA, USA)から得た。研究のために眼を提供することについて書面によるインフォームドコンセントが、すべての死亡したドナーの親族から得られた。すべての組織は、ドナーの同意を得て、組織を回収した州の統一死体提供法(UAGA)の原則に則って回収し、すべてのドナーの角膜をOptisol-GS (Chiron Vision, Irvine, CA, USA)中に保存し、研究の目的で航空輸入した。ドナーの情報は、すべてのドナーの角膜は角膜疾患のない健常なものである判断されたことを示している。
【0461】
ヒト角膜内皮細胞の細胞培養
別途記載しない限り、HCECは、公開されているプロトコルにいくつかの変更を加えたものに従って培養した。合計30名の異なる年齢のヒトドナーの角膜を実験に使用した。簡潔に記載すると、デスメ膜をCECとともにドナーの角膜から剥がし、37℃において1 mg/mLのコラゲナーゼA(Roche Applied Science, Penzberg, Germany)で2時間処理して消化した。単一のドナー角膜から取得したHCECを、I型コラーゲンコーティング6ウェル細胞培養プレート(Corning Inc., Corning, NY, USA)のウェルの一つに播種した。培養培地は公開されているプロトコルにしたがって調製した。簡潔に記載すると、基礎培地は、Opti-MEM-I(Life Technologies Corp., Carlsbad, CA, USA)、8%のウシ胎児血清(FBS)、5ng/mLの上皮成長因子(EGF; Life technologies)、20μg/mLのアスコルビン酸(Sigma-Aldrich Corp.)、200mg/Lの塩化カルシウム(Sigma-Aldrich Corp., St. Louis, MO, USA)、0.08%のコンドロイチン硫酸(Wako Pure Chemical Industries, Ltd., Osaka, Japan)および50μg/mLのゲンタマイシンを用いて調製した。馴化液は以前に記載されたとおりに調製した(Nakahara, M. et al. PLOS One (2013) 8, e69009)。この馴化液を用いて5%のCO2を含む加湿大気下において37℃でHCECを培養した。培養培地は週に2回交換した。コンフルエントに達した場合、37℃で12分間10xTrypLE Select(Life technologies)を使用してHCECを1:3の比率で継代培養した。第2~第5継代のHCECを全ての実験に使用した。
【0462】
細胞接着アッセイ
ラミニン、I型コラーゲン、プロテオグリカンおよび糖タンパク質への細胞接着を、以前に記載された遠心細胞接着アッセイ(いくつかの変更を含む)により試験した(Friedlander et al., 1998. J. Cell Biol. 107: p2329)。ラミニン-521、ラミニン-511、ラミニン-411、およびラミニン-332は、Veritas(Tokyo,Japan)から購入し、パールカン、アグリン、ナイドジェン-1、TSP-1およびフィビュリン5は、R&D Systems(Minneapolis, MN)から購入した。IV型コラーゲンは、BD Biosciences(San Jose, CA, USA)から購入した。
【0463】
U型96ウェルMaxisorpプレート(Nunc)の各ウェルを、40μlのラミニン、コラーゲン、プロテオグリカンまたは糖タンパク質の溶液で一晩4℃でコーティングした。ウェルを、PBS(-)で3回洗浄し、0.1M NaHCO3(pH8.0)中の1% BSAで1時間室温でブロックした。培養HCECを、Opti-MEM、Opeguard-MA(Senju Pharmaceutical, Osaka, Japan)中またはBSS-Plus(Alcon Laboratories, Fort Worth, TX, USA)中に、1×105細胞/mLの濃度で懸濁し、0.1mLの細胞懸濁物を各ウェルに添加して、10分間インキュベートした。その後、プレートを200xgで2分間遠心した。明視野Zスタック画像を、2倍の対物倍率でBZ-9000顕微鏡(Keyence, Osaka, Japan)によりキャプチャーし、全焦点画像を、BZ-II Analyzerソフトウェアを使用して、これらのイメージから作製した。Friedlanderらのプロトコル(Friedlander et al., 1998. J. Cell Biol. 107: p2329)に従って、細胞を遠心して、非接着性基質のウェルの底にペレット状にした。基質の接着力が高いと、より多くの細胞がウェルの壁に沿って基質に結合する。基質への結合は、ウェルの底における測定可能な直径を有する円形の領域において検出される。強い接着性の基質において、細胞は、ウェル上におおよそ均一に分布した(Grumet M, Flaccus A, and Margolis RU. J. Cell Biol. 1993;120:815-824)。
【0464】
免疫蛍光染色
HCECは、I型コラーゲンでコーティングされた24ウェル細胞培養プレート中で1×105細胞/ウェルの密度で培養し、免疫蛍光分析のために3~4週間維持した。この細胞を、氷冷メタノール中において室温で10分間固定し、1%のBSAとともに1時間インキュベートした。サンプルを、ZO-1(Life technologies)およびNa+/K+-ATPase(Milford, MA, USA)に対する抗体とともに4℃で一晩インキュベートした。PBS(-)で洗浄した後、Alexa Fluor 488結合ヤギ抗マウスIgG(Life Technologies)か、またはAlexa Fluor 594結合ヤギ抗ウサギIgG(Life Technologies)かのいずれかを1:1000の希釈率で2次抗体として使用した。核をDAPI(Vector Laboratories, Burlingame, CA, USA)で染色した。48ウェル細胞培養プレート中で培養した細胞を、蛍光顕微鏡(BZ-9000; Keyence, Osaka, Japan)によって直接調べた。
【0465】
培養HCECのフローサイトメトリー解析
HCECを、上記の通りTrypLE Select処理によって培養ディッシュから回収し、FACSバッファー(1%のBSAおよび0.05%のNaN3を含むPBS)中に4×106細胞/mLの濃度で懸濁した。同じ体積の抗体溶液を添加し、4℃で2時間インキュベートした。FACSバッファーで洗浄した後、HCECをFACS Canto II(BD Biosciences)で解析した。
【0466】
MACSによるHCEC亜集団の単離
HCECを上記の通りTrypLE Selectで分離し、CD44-HCEC亜集団(エフェクター亜集団)を抗ヒトCD44μビーズおよびautoMACS Pro separator(Miltenyi Biotec, Bergisch Gladbach, Germany)のプログラムdepl05を使用して単離した。単離されたエフェクター亜集団の純度は、フローサイトメトリーにより示されるようにすべての場合で95%より高かった。
【0467】
(結果)
培養HCECは、ラミニン-411およびラミニン-332よりもラミニン-511により強く結合した。
細胞注入療法において、治療有効性のための重要なステップの一つは、デスメ膜へのHCECの接着である。デスメ膜は、主にIV型コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチンおよびプロテオグリカン/糖タンパク質で構成されている[Fitch et al., 1990 and Suda et al., 1981](表6)(Weller JM, Zenel M, Schlotzer-Schrehardt U,Bachmann OB, Tourtas T, Kruse FE. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2014;55:3700-3708)。
【0468】
【0469】
したがって、本実施例において、表6に記載されるデスメ膜の構成成分へのHCECの接着能力を試験した。このHCECの接着能力を評価するための方法として、本実施例において、いくつかの変更を含む遠心細胞接着アッセイを行った[Friedlander et al., 1998. J. Cell Biol. 107: p2329](
図36)。培養HCECを(材料および方法)に記載の通り培養ディッシュから分離し、細胞懸濁物を1×10
5細胞/mlの濃度で調製した。100μlの細胞懸濁物を、ラミニン-511、ラミニン-411、IV型コラーゲンまたは表6に記載されたデスメ膜の他の構成成分でコーティングされたU底96ウェルプレートの各ウェルに添加した。プレートを室温で10分間インキュベートし、その後200xgで2分間遠心した。接着した細胞を、(材料および方法)に記載の通りBZ-9000顕微鏡システム下で評価した。
【0470】
図37に示される通り、HCECは、ラミニン-521またはラミニン-511でコーティングされたウェルの底に均一に分布し、他方で、陰性対照BSAコーティングウェルの底では、HCECはペレットを形成した。ラミニン-411またはラミニン-332でコーティングされたウェルでは、HCECは、円形のペレットを形成した。これらの結果は、HCECがラミニン-411およびラミニン-332よりもラミニン-521およびラミニン-511により強く結合したことを示している。
【0471】
本実施例において、ラミニンのコーティング濃度を減らすことによって、ラミニン-521およびラミニン-511への培養HCECの結合能力をさらに比較した。
図38に示される通り、培養HCECは、濃度依存的態様でラミニン-521およびラミニン-511に結合したが、ラミニン511とラミニン521に対して結合に明確な差異がなかった。
【0472】
IV型コラーゲンに結合した培養HCEC
次に、IV型コラーゲンへの培養HCECの結合を試験した。遠心接着アッセイをIV型コラーゲンでコーティングされたプレートで同様に行った。
図39に示される通り、培養HCECは、濃度依存的態様でIV型コラーゲンに結合した。
【0473】
培養HCECはアグリン、TSP-1およびパールカンに弱く結合した
本実施例において、デスメ膜に存在すると報告されているプロテオグリカン/糖タンパク質(すなわちアグリン、Nidgen-1、フィビュリン5、TSP-1およびパールカン)への培養HCECの結合をさらに試験した。これらのプロテオグリカン/糖タンパク質のコーティング濃度が
図37と同じ5nMである場合、結合は観察されなかった(データは示さず)が、アグリン、TSP-1およびパールカンへの結合は、400nMほどのコーティング濃度で観察された(
図40)。これらの結果は、培養HCECが、これらの構成成分に結合するが、結合親和性がラミニンと比べてかなり低いことを示している。
【0474】
培養HCEC結合に対する細胞懸濁注入ビヒクルの影響
【0475】
細胞注入療法において、細胞懸濁注入ビヒクルの選択は重大である。したがって、本実施例において、HCECのデスメ膜の構成成分への接着に対する細胞懸濁注入ビヒクルの影響を比較した。細胞懸濁注入ビヒクルとして、Opti-MEM、Opeguard-MAおよびBSS Plusを選択した。Opti-MEM(
図37~40において使用した)は、HCEC培養のための基本培地である。Opeguard-MAおよびBSS Plusは、臨床的慣例で使用される眼内潅流溶液である。デスメ膜の構成成分は、ラミニン-411を使用した。なぜなら、ラミニン-411は、培養HCECに対する高い親和性を有するラミニン-511よりも検出しやすいと考えられるからである。 Opti-MEMおよびOpeguard-MAの場合の両方で、HCECはラミニン-411に結合したが、BSS Plusにおいては結合が観察されなかった(
図41)。次に、本実施例において、房水構成成分(タンパク質、アスコルビン酸および乳酸)のOpeguard-MAへの追加により、ラミニン-511およびラミニン-411に対する培養HCECの結合親和性が増強するかどうかをさらに試験した。
図42および43に示される通り、増強効果は観察されなかった。
【0476】
培養HCEC亜集団(SP)は異なる結合親和性を有する
培養の間に上皮間葉転換または線維化のような細胞の相転移(CST)に移行する傾向は、HCEC由来の別個の表面CDマーカーを有する異なる亜集団(SP)をもたらす。これまで、本発明者らは、これらの亜集団を、細胞表面マーカーに関して明確に区別する方法を開発してきた。これらの亜集団の接着特性を明確にするために、本実施例において、遠心接着アッセイにより培養HCEC亜集団の結合能力を比較した。
【0477】
六角形の形状(完全に分化した成熟HCEC亜集団)を有するCSTの兆候を示さない精製されたHCEC亜集団を、磁性ビーズセルソーティング(MACS)による、ヒトCD44磁性ビーズを用いたネガティブ選択により調製した((材料および方法)に記載の通り)。
図44に示される通り、CD44磁性ビーズを用いてMACSにより分離されたエフェクター亜集団は、90%を超える純度(フローサイトメトリー分析で決定)で精製され、これらの細胞は、Na
+/K
+ ATPaseおよびZO-1を発現した(
図45)。
【0478】
EMT表現型(CD166
+、CD44
+++、CD24
-)を有する亜集団を得るために、ヒトCD44磁性ビーズを用いてMACSポジティブ選択は行わなかったが、代わりに、培養物中に自発的に生じた亜集団を使用した(
図46)。これは、細胞表面のCD44とCD44磁性ビーズとの直接的な相互作用による細胞接着能力への影響を避けるためである。
【0479】
完全に分化した成熟HCECの亜集団およびEMT表現型を有する亜集団の両方が、ラミニンまたはコラーゲンでコーティングされたプレートに接着することが見出された(
図47)。興味深いことに、ラミニンへの結合特性は、これらの亜集団の間で異なっていた。ラミニン-411でコーティングされたプレートに接着した細胞のレベルは、HCECの亜集団の間で同じであったが、完全に分化した成熟HCEC亜集団は、EMT表現型を有する亜集団よりもラミニン-511にかなり強固に結合した(
図47)。
【0480】
培養HCEC亜集団におけるインテグリンα2サブユニットの発現の違い
以前Okumuraらは、ラミニン-511とcHCECとの間の相互作用がインテグリンα3β1およびインテグリンα6β1により促進されることを報告した(Okumura et al. (2015) Invest Ophthalmol Vis Sci. 2015; 56:2933-2942.)。そこで、本実施例において、これらの亜集団におけるインテグリンα3およびインテグリンα6の発現を試験した。予想外にも、EMT表現型を有する亜集団におけるこれらのインテグリンαサブユニットの発現は、成熟HCEC SPに匹敵するか、または成熟HCEC亜集団よりもわずかに高かった(
図48)。興味深いことに、EMT表現型を有するSPにおけるインテグリンα2サブユニットの発現は、成熟HCEC亜集団よりも顕著に高かった(
図48)。
(まとめ)
培養HCECは、濃度依存的態様でラミニン-511、ラミニン-411およびIV型コラーゲンに結合した。これらの細胞は、パールカン、アグリンおよびTSP-1に弱く結合した。本発明者らは、培養HCECの接着に対する細胞懸濁注入ビヒクルの影響を比較した。HCECがOpti-MEMまたはOpeguard-MA中に懸濁された場合、これらの細胞はラミニンに結合したが、BSS Plus中では結合が観察されなかった。次に、本発明者らは、HCEC亜集団の接着特性を比較した。完全に分化した成熟HCEC亜集団およびEMT表現型亜集団の両方が、ラミニンまたはコラーゲンでコーティングされたプレートに接着することが見出された。興味深いことに、ラミニンへの結合特性は、これらの亜集団の間で異なっていた。ラミニン-411でコーティングされたプレートに結合した細胞のレベルは、HCEC亜集団の間で同じであったが、完全に分化した成熟HCEC亜集団は、EMT表現型を有する亜集団よりもラミニン-511によりかなり強固に結合した。
【0481】
結論:本実施例における結果は、HCEの主なデスメ膜の構成成分への結合能力は、培養HCECの亜集団の中で異なることを示している。Opeguard-MAは、OptiMEMと同様に細胞注入療法の細胞懸濁注入ビヒクルとして有用である。さらに、本明細書において使用される簡便な方法は、HCECと細胞外マトリクス構成成分との間の相互作用の評価に有効である。
【0482】
本実施例において、遠心細胞接着アッセイにより培養HCECの結合特性を調べた。培養HCECは、ラミニン-411およびラミニン-332よりもラミニン-521およびラミニン-511により強く結合し、これは、培養HCECがラミニンα5サブユニットに高い親和性を有していることを示している。これらの細胞はまた、濃度依存的態様でIV型コラーゲンに結合した。本実施例で観察された細胞結合に必要な最小濃度は、以下の通りである:ラミニン-511: 4 pM (3ng/mL)、ラミニン-411:1.25nM(2.85μg/mL)、IV型コラーゲン:200ng/mL。パールカン、TSP-1およびアグリンへの結合は、400nMの濃度でしか観察されなかった。
【0483】
HCECは、いくつかのインテグリン(α2β1、α3β1、α5β1,およびα6β1)を発現する。最近、Okumuraらが、ラミニン-511に結合するHCECがインテグリンα3β1およびインテグリンα6β1により媒介されることを報告した[Okumura et al.(2015) Invest Ophthalmol Vis Sci. 2015; 56:2933-2942.]。インテグリンα3β1およびインテグリンα6β1は、ラミニン-332またはラミニン-411よりもラミニン-511に対して高い親和性を有する[Barczyk et al. (2010) Cell Tissue Res. 2010;339:269-280]。本実施例において、ラミニン-511に対してより高い親和性を有するにもかかわらず、完全に分化した成熟HCEC亜集団におけるインテグリンα3およびインテグリンα6の発現は、EMT表現型を有する亜集団よりも低かった。他方で、インテグリンα2サブユニットの発現は、EMT表現型を有する亜集団よりも完全に分化した成熟HCEC亜集団において高かった。さらに、インテグリンβ1の発現は、これらの2つの亜集団の間で顕著な違いはなかった(データは示さず:Lyoplate(BD Biosciences, San Jose, CA, USA)により評価)。インテグリンα2サブユニットの高い発現が、インテグリンに結合するコラーゲンとして知られているα2β1複合体を生じさせ(Barczyk et al. (2010) Cell Tissue Res. 2010;339:269-280)、α3β1複合体およびα6β1複合体のより低い発現をもたらしている可能性がある。これは、亜集団の間でインテグリンα2β1対インテグリンα3β1およびインテグリンα6β1の比における差異の存在を明らかに示しており、その割合は培養HCECではっきりと観察された。
【0484】
「細胞注入療法」において、細胞懸濁注入ビヒクルは、治療有効性に関して重要である。本実施例において、ラミニンへのHCECの接着に対する、3つの細胞懸濁注入ビヒクル、Opti-MEM、Opeguard-MAおよびBSS Plusの効果を比較した。Opeguard-MAはOpti-MEMに匹敵した。Opti-MEMの組成は、提供元により開示されていないため、Opeguard-MA(臨床的慣例で使用される眼内潅流溶液)が、細胞注入療法のための細胞懸濁注入ビヒクルにより好ましいと思われる。
【0485】
(実施例7:細胞注入療法(ヒト角膜内皮細胞注入)のための培養角膜内皮細胞の細胞品質評価のための低温誘導凍結損傷マウスモデルの開発~サロゲートエンドポイントの開発)
本実施例では、マウスモデルの利用によるHCECのサロゲートエンドポイントを開発し、効率的な臨床試験を達成することを目的とする。
【0486】
本実施例では、フローサイトメトリー解析によりその組成を完全に特徴付けたcHCECを提唱するモデルの検討のために提供した。BALB/cの角膜の2mmの中央の領域を低温誘導凍結損傷に供して、内皮細胞を取り除き、その後、4x104個のHCECを眼の前房に注入した。角膜の特徴を臨床的に観察し、角膜の厚さをパキメータにより評価した。cHCEC懸濁液について、Opti-MEM、Opeguard MA、およびヒトアルブミン、アスコルビン酸、乳酸を含むOpeguard MA(Opeguard-F)をこのモデルにおいて比較した。ROCK阻害剤(Y-27632)の存在もまた、評価した。
【0487】
(材料及び方法)
ヒト角膜内皮細胞ドナー
本実施例で使用されるヒト組織は、ヘルシンキ宣言の倫理的原則に則って取り扱った。ヒトドナー角膜は、SightLife Inc.(Seattle, WA, USA)から得た。研究のために眼を提供することについて書面によるインフォームドコンセントが、すべての死亡したドナーの親族から得られた。すべての組織は、ドナーの同意書を得て、組織を回収した州の統一死体提供法(UAGA)の原則に則って回収し、すべてのドナーの角膜をOptisol-GS(Chiron Vision, Irvine, CA, USA)中に保存し、研究の目的で航空輸入した。ドナーの情報によれば、すべてのドナーの角膜は角膜疾患のない健常なものであると判断される。
【0488】
ヒト角膜内皮細胞の培養
別途記載しない限り、HCECは、公開されているプロトコル(Nakahara M, Okumura N, Kay EP, et al. PLoS One 2013;8:e69009)にいくつかの変更を加えたものに従って培養した。合計4名の異なる年齢のヒトドナーの角膜を実験に使用した。簡潔に記載すると、デスメ膜を角膜内皮細胞とともにドナーの角膜から剥がし、37℃において1mg/mLのコラゲナーゼA(Roche Applied Science, Penzberg, Germany)で2時間処理して消化した。単一のドナー角膜から取得したHCECを、I型コラーゲンコーティング6ウェル細胞培養プレート(Corning Inc., Corning, NY, USA)のウェルの一つに播種した。培養培地は公開されているプロトコルにしたがって調製した。簡潔に記載すると、基礎培地は、Opti-MEM-I(Life Technologies Corp., Carlsbad, CA, USA)、8%のウシ胎児血清(FBS)、5ng/mLの上皮成長因子(EGF; Life technologies)、20μg/mLのアスコルビン酸(Sigma-Aldrich Corp.)、200mg/Lの塩化カルシウム(Sigma-Aldrich Corp., St. Louis, MO, USA)、0.08%のコンドロイチン硫酸(Wako Pure Chemical Industries, Ltd., Osaka, Japan)および50μg/mLのゲンタマイシンを用いて調製した。5%のCO2を含む加湿大気下において37℃でHCECを培養した。培養培地は週に2回交換した。コンフルエントに達した場合、37℃で12分間10xTrypLE Select(Life technologies)を使用してHCECを1:3の比率で継代培養した。第2継代のHCECをすべての実験に使用した。
【0489】
注入のための細胞懸濁物の調製
HCECを上記のTrypLE処理により培養ディッシュから回収し、添加物を含むかまたは含まないOpti-MEMまたはOpeguard-MA(Senju Pharmaceutical, Osaka, Japan)中に6.7×106細胞/mLの濃度で懸濁した。添加物は、Opti-MEMについては100μM Y-27632、Opeguard-MAについては0.024% ヒト血清アルブミン、1.06mM アスコルビン酸、4.5mM 乳酸、および100μM Y-27632を使用した。
【0490】
培養HCECのフローサイトメトリー解析
HCECを上記のTrypLE Select処置により培養ディッシュから回収し、FACSバッファー(PBS含有1% BSAおよび0.05% NaN3)中に4×106細胞/mLの濃度で懸濁した。等量の抗体溶液を添加し、4℃で2時間インキュベートした。抗体溶液は以下の通りである。FITC結合抗ヒトCD26 mAb、PE結合抗ヒトCD166 mAb、PerCP-Cy 5.5結合抗ヒトCD24 mAb、PE-Cy 7結合抗ヒトCD44 mAb(すべてBD Biosciences)、APC結合抗ヒトCD105 mAb(eBioscience, San Diego, CA, USA)。FACSバッファーで洗浄後、HCECをFACS Canto II(BD Biosciences)で解析した。
【0491】
動物
8~12週齢の雄性のBALB/c(H-2d)マウス(SLC, Osaka, Japan)を本実施例において使用した。すべての動物を、「Association for Research in Vision and Ophthalmology」により公布されている「Statement for the Use of Animals in Ophthalmic and Vision Research」に従って処置した。すべての実験は、京都府立医科大学の動物実験委員会により承認された。いずれの外科的手順の前に、すべての動物を3mgのケタミンの腹腔内注射により完全に麻酔した。
【0492】
凍結損傷処置および眼の前房へのHCEC注入
内皮細胞を取り除くために凍結損傷を、各マウスの右眼に適用した(Han SB, et al., Mol Vis 2013;19:1222-1230; Koizumi N, et al., Invest Ophthalmol Vis Sci 2007;48:4519-4526.)。簡潔に述べると、散瞳剤(Mydrin‐P, Santen, Japan)の局所適用後、ステンレス鋼(直径2mm)でできたクライオプローブ(液体窒素により-196℃まで予冷)を角膜の中央に穏やかに配置することよって、経角膜凍結を開始した。水晶体および線維柱帯網を含む隣接する組織への損傷を避けるため圧力をかけなかった。プローブの先端ではなく側面を角膜上に配置し、接触面を最大にした。氷球が角膜上に形成されて角膜表面全体を覆うまで(10秒間に相当する)、クライオプローブを角膜表面上に維持した。内皮における欠損は、報告された氷球のサイズ(Khodadoust AA, G Invest Ophthalmol 1976;15:96-101)と同じサイズであることが示された。凍結直後にクライオプローブを角膜表面から離し、平衡塩類溶液で洗浄し、角膜を自然解凍した。この実験期間において局所的薬物適用を行わなかった。
【0493】
凍結損傷により内皮細胞を取り除いた後、マイクロナイフにより宿主BALB/cマウスの角膜の中央に斜めの切り込みを入れ、3μlの房水をガラス針により取り除いた。その後3μlの適切な溶液中の0.5~2×104個のHCECを漏出しないように前房に注入した(Streilein JW. FASEB J 1987;1:199-208;Yamada J, et al., Invest Ophthalmol Vis Sci 1997;38:2833-2843)。この細胞数は、ヒトの場合の5x105個から計算された。内皮表面にHCECを沈殿させるために、1時間ごとに1mgの追加のケタミン注射をしながら、これらのマウスを3時間寝かせた。
【0494】
臨床的評価および病理組織学的評価
臨床的評価のために、眼を細隙灯生体顕微鏡により試験し、手技的な問題がないことを確認した。角膜の厚さを、凍結損傷前、HCEC注入の24時間後および48時間後にパキメータ(SP-100, Tomey, Japan)により測定した。
【0495】
病理組織学的評価のために、眼を注入の48時間後に摘出し、次いで、4%のパラホルムアルデヒドで4℃で3日間固定し、そして、解剖して角膜眼杯を作製した。PBS(-)で2回洗浄後、透過処理のために、これらをPBS(-)中の0.1% トリトンX-100と共に室温で5分間インキュベートした。次いで、PBS(-)で2回洗浄後、室温で20分間PBS(-)中の1% BSAと共にインキュベートし、眼杯を、1:20希釈のAlexa Fluor 488結合マウス抗ヒト核抗体(Merck Millipore, Germany)で、室温で2時間染色した。2回洗浄後、これらの眼杯を4つの切込みにより水平にマウントし、DAPI(Vector Laboratories, Burlingame, CA, USA)で染色した。切片を蛍光顕微鏡(OLYMPUS, Tokyo, Japan)により評価した。
【0496】
統計方法
対応のあるStudentのt検定を使用して、角膜の厚さを比較した。P値<0.05を有意とみなした。
【0497】
(結果)
提唱するマウスモデルは、細胞性の異なる注入cHCECの効果を区別するのに有効であることが明らかになった。cHCEC注入48時間後を、注入したcHCECの影響をモニターするための時点として選択した。cHCEC注入は、角膜の厚さを有意に改善した(p<0.01)。
【0498】
機能性成熟分化角膜内皮細胞(エフェクターHCEC)の調製および選択
本発明者は協力者と共にcHCEC注入療法を開発した。これは、水疱性角膜症のための新たな治療方法であり、cHCECを前房に直接注入する。この方法では、cHCECの組成の品質が薬学的作用に重大な影響を及ぼすことが明らかになった。そのため、本研究に使用したcHCECの組成を評価した。
【0499】
細胞を培養ディッシュから脱離させ、(材料および方法)に記載の通りFACS Canto IIフローサイトメーターによりCD166、CD24、CD44、CD105およびCD26の発現を解析した。CD166+CD24-(R1)またはCD166+CD24+(R2)でゲーティング後、以下の5つの亜集団を定義した:CD166+CD24-CD44-~+CD105-~+の亜集団(ゲート1=G1)、CD166+CD24-CD44++CD105+の亜集団(G2)、CD166+CD24-CD44+++CD105+の亜集団(G3)、CD166+CD24+CD44+CD105+の亜集団(G4)、CD166+CD24+CD44++CD105+の亜集団(G5)。CD44++CD26+細胞も検出した(
図49(A-B))。本発明者らは、G1細胞がエフェクター細胞亜集団であると仮定したので(実施例1)、医薬としての作用に必須と考えられたため、高い割合でG1細胞を含む培養フラスコを以下の実験で使用した(
図49(A-B)の細胞を、
図51~
図53のそれぞれで試験した)。
【0500】
マウスモデルにおけるHCEC注入後の評価プロトコルの判定
その単純さと手順が容易なことを考慮して、レシピエントとしてマウスを選択し、Hanら(Han SB, et al., Mol Vis 2013;19:1222-1230.)の報告した凍結損傷モデルを利用した。BALB/cマウスは同種移植(Sonoda Y, and Streilein JW. J Immunol 1993;150:1727-1734)および異種移植(Tanaka K, et al., Transplantation 2000;69:610-616)の組み合わせの角膜移植試験で主に使用されるため、アルビノ種のBALB/cを選択した。これらのマウスの色素のない眼では、インビボでの観察を評価することが容易であり、組織学的試験が容易である。さらに、BALB/cマウスはC57BL/6マウスより角膜拒絶を起こしにくい(Yamada J, and Streilein JW. Transpl Immunol 1998;6:161-168.)。C57BL/6マウスまたはC3Hマウスにおいて同様の試験を試みたときには、前房が浅い、眼の前房内に虹彩色素が浮遊するなどのいくつかの技術的に困難な点が観察された(データ示さず)。
【0501】
凍結損傷後の内皮脱落の個体差を最初に試験した。直径1.8~2.2mmの角膜のマウス内皮細胞は、凍結損傷の直後に致命的に損傷されることがDAPIによる核染色の組織学的試験から判明した。重要なことに、中心領域には健常な内皮細胞が観察されなかったが、周辺領域のCECは全て健常であった(データ示さず)。次に、凍結損傷したBALB/cの眼(それぞれn=6)を適切な時期に解剖し、水平にマウントし、DAPIで染色した。
図50に示される通り、マウス内皮細胞のほとんどが、デスメ膜から離れ、損傷した核のみが、凍結損傷24時間後に中央の領域で残っていた(
図50(A-c))。損傷した内皮細胞の周縁部は、明確に視認できた(白の矢印)。はっきりとした核を有する正常な角膜内皮細胞が、凍結損傷した角膜の周辺領域で観察された。凍結損傷の48時間後、これらのBALB/cマウス由来の内皮細胞の核が消えて、デスメ膜の表面は安定しているように見える(
図50A-f)。しかしながら、急速なマウス角膜内皮の増殖は、損傷の72時間後で観察された(
図50)。これらの観察から、損傷の48時間後の観察が、接着したHCEC細胞を比較するためのより好ましい評価時期であると考えられる。
【0502】
BABL/c角膜の凍結損傷の直後、Opti-MEM中の0~2.0x10
4個のHCECを前房内に注入した(それぞれN=4)。臨床成績(
図50)によれば、角膜は、凍結損傷の24時間後および48時間後で浮腫状かつ不透明であり、72時間後にはそれらの透明性は、HCECを注入していない対照眼でもほとんど回復した。典型的な異種拒絶反応は72時間観察されなかった。角膜の透明度(虹彩縁の可視性等により評価した)は、各角膜で様々であり、HCEC注入の効果を評価することができなかった。これらの眼の角膜の厚さを測定し、結果を
図50(C)に示した。角膜の厚さは、24時間後で非常に高まり、徐々に回復した。前房内にHCECを注入することによって、角膜の厚さは迅速に回復し、特に2.0x10
4個のHCECが注入された角膜は、48時間で有意な回復を示した(p<0.05)。
【0503】
これらの観察を考慮して、本発明者らは、凍結損傷の48時間後の観察時期と2.0x104個の注入細胞数を選択した。次に、角膜の厚さおよびHCECの組織学的染色を以下の実験で比較した。
【0504】
異なる細胞懸濁注入ビヒクルを用いて注入したcHCECの評価
次に、このアッセイがサロゲートエンドポイントとして有用なのかどどうかを異なる細胞懸濁注入ビヒクルを用いて注入したcHCECの影響を比較することによって評価した(
図51~
図53)。
【0505】
損傷後、2.0x10
4個のHCEC(
図49の集団)を、4種類の注入ビヒクル、Opti-MEM(a)およびOpeguard MA(b)と共に前房内に注入した。これらをOpeguard MAのみを注射した対照(c)と比較した(それぞれn=3)。さらに、房水中の様々な因子がcHCECの接着性に関与することを模倣するために、Opeguard MAにヒトアルブミン、アスコルビン酸および乳酸を添加した(Opeguard F)。次に、同様の実験を、Opti-MEM(a)またはOpeguard F(b)を使用してcHCEC(
図49の集団)を前房に注入することによって実施してOpeguard Fビヒクルのみ(c)の対照と比較した(それぞれ、n=3)。
図51に示す通り、48時間での角膜の転帰は、それぞれ異なっていたが、すべての眼は、正常な前房を維持し、前房出血はなかった。2.0x10
4個のHCECを注入することによって、角膜の透明度は、虹彩縁の可視性の観察から、より優れた回復を示すと考えられる。角膜の厚さは、HCECの注入により凍結損傷の48時間後に有意に回復した(
図52)。特に、角膜の厚さの回復はOpeguardを使用する場合に再現性があった(
図52)。霊長類の角膜内皮細胞と異なり、マウスの角膜内皮細胞はインビボで迅速に増殖する。そのため、注入したcHCECの接着性を増殖した移植先マウスの角膜内皮細胞の接着性と区別するために、cHCECの接着性を、
図53に示すように抗ヒト核抗体の染色によって評価した(Kuzma-Kuzniarska M, et al. Differentiation 2012;83:128-137; Sanchez-Pernaute R, et al. Stem Cells 2005;23:914-922; Le Belle JE, et al., J Neurosci Res 2004;76:174-183; Wurmser AE, et al., Nature 2004;430:350-356.)。ヒト核陽性の細胞はHCEC注入を行った2つの群の内皮表面に存在したが、整列したHCEC核は、Opeguard F群において最も明確に見られた(
図53)。Opeguard F、Opti-MEMおよびOpeguard MAの群の順番でより良好なHCECの接着が観察された。
【0506】
(まとめ)
HCEC注入の48時間後がすべての評価に適切な時期であった。HCEC注入は、角膜の厚さを有意に改善した(p<0.01)。
【0507】
結論:本明細書において確立したこのサロゲートマウスモデルは、インビボにおいて注入したHCECの機能的評価に有効である。いくつかのアミノ酸を含有するから、インビボにおけるマウスのデスメ膜へのHCECの最も優れた結合能力が得られた。
【0508】
本実施例において、インビボにおけるHCEC品質評価のマウスモデルを初めて確立した。注入されたHCECは、角膜の内側表面に十分に接着することができ、角膜の浮腫を抑制する役割を担っていた。さらに、注入ビヒクルの間で結果に顕著な違いがあった。現在のところ、Opti-MEMが、臨床的に優れたHCEC注入ビヒクルであるが、ヒトでの使用が承認されていない。本実施例において、Opeguard MAを改変したOpeguard Fが、顕著に優れたHCEC接着および角膜浮腫の抑制を示した。本実施例における結果はより安全なHCEC注入を裏付け得る。
【0509】
cHCECの接着性は、内皮細胞注入の成功のために最も重要な要因の1つである。cHCECの接着性は、コラーゲン、ラミニンまたはプロテオグリカンを固定化した96-ウェル培養プレートを遠心分離することによってインビトロで評価することができる(実施例6等)。理論的には、BALB/cマウスは、異種移植のcHCECを超急性に拒絶するが、内皮移植モデルにおけるウサギ研究(Ishino Y, et al. Invest Ophthalmol Vis Sci 2004;45:800-806; Mimura T, et al. Invest Ophthalmol Vis Sci 2004;45:2992-2997)およびラット研究(Mimura T, et al. Exp Eye Res 2004;79:231-237)においては超急性拒絶は観察されなかった。実際に本実施例で使用したモデルにおいて、多くのヒト核陽性細胞が注入の72時間後に生存していた。しばしば磁場を使用することによって角膜内皮細胞を角膜表面に接着させることが試みられていたが、本実施例における結果は、HCECそれ自体が角膜の内表面に接着する能力を有し、移植時に使用する注入ビヒクルが、HCECの接着のために重要な因子であることを示す。細胞接着分子の発現の影響を試験することでより詳細な状態を理解することができる。
【0510】
注入時の注入ビヒクルの間の結果には有意な差があった。安全試薬を含むOpeguard-MAは、臨床上で良好な注入ビヒクルである。改変Opeguard MA、Opeguard Fのためにヒト血清アルブミン、アスコルビン酸および乳酸を選択した。これら3つの試薬は、房水の成分であり、臨床等級の材料として市販されている。ここで、Opeguard MA改変Opeguard Fは、有意に良好なHCEC接着および角膜浮腫の抑制を示した。本実施例の結果から、ヒトにおけるより安全なcHCEC注入が達成され得ると理解される。
【0511】
結論として、本発明者らはインビボでのcHCEC注入療法のためのサロゲートエンドポイントを評価するための新規なマウスモデルを確立した。このインビボのマウスモデルは、併用薬物の影響、cHCEC懸濁液注入ビヒクルまたは注入のための最適な細胞数などのcHCEC注入療法に関する系の評価のためにもまた価値が見いだされる。
【0512】
(実施例8:培養ヒト角膜内皮細胞を再現性良く品質評価するための遺伝子シグネチャに基づくELISAアッセイの開発)
本実施例では、臨床的使用に適用できるcHCECの機能を品質評価する方法の開発を行った。
【0513】
本実施例では、様々な組織やドナーに由来するHCECにおける様々な遺伝子およびmiRNAシグネチャを3D-gene(Toray)によって確認した。細胞形態または培養ロットの異なる20種類より多くのcHCECの間でこれらのシグネチャを比較した。qRT-PCRによる検証の後に候補遺伝子を選択し、これらの遺伝子をELISA法でアッセイした。さらなるスクリーニングステップを経て、品質評価のための最終的な候補サイトカインを選択した。
【0514】
(材料および方法)
ヒト角膜内皮細胞ドナー
使用したヒト組織は、ヘルシンキ宣言の倫理的原則に則って取り扱った。20名のヒトの遺体角膜から取得したHCECは核型分析を行う前に培養した。ヒトドナー角膜はSightLife Inc.(Seattle, WA, USA)から入手した。全ての死亡したドナーの近親者から、研究のために眼を提供することについて書面によるインフォームドコンセントを得た。全ての組織は統一死体提供法(UAGA)の原則に則って回収し、このUAGAはドナーの同意書を得て、組織を回収した州のものであった。全てのドナーの角膜をOptisol-GS (Chiron Vision, Irvine, CA, USA)中に保存し、研究の目的で航空輸入した。ドナーの情報によると、全てのドナーの角膜は角膜疾患のない健康なものであると考えられ、染色体異常の既往歴のあるドナーは一人もいなかった。
【0515】
HCECの培養
別途記載しない限り、HCECは、公開されているプロトコルにいくつかの変更を加えたものに従って培養した。簡潔に記載すると、デスメ膜を角膜内皮細胞とともにドナーの角膜から剥がし、37℃において1mg/mLのコラゲナーゼA(Roche Applied Science, Penzberg, Germany)で2時間処理して消化した。単一のドナー角膜から取得したHCECを、I型コラーゲンコーティング6ウェル細胞培養プレート(Corning Inc., Corning, NY, USA)のウェルの一つに播種した。培養培地は公開されているプロトコルにしたがって調製した。簡潔に記載すると、基礎培地は、Opti-MEM-I(Life Technologies Corp., Carlsbad, CA, USA)、8%のウシ胎児血清(FBS)、5ng/mLの上皮成長因子(EGF; Life technologies)、20μg/mLのアスコルビン酸(Sigma-Aldrich Corp., St. Louis, MO, USA)、200mg/Lの塩化カルシウム(Sigma-Aldrich Corp., St. Louis, MO, USA)、0.08%のコンドロイチン硫酸(Wako Pure Chemical Industries, Ltd., Osaka, Japan)および50μg/mLのゲンタマイシンを用いて調製した。馴化液は以前に記載されたとおりに調製した(Nakahara, M. et al. PLOS One (2013) 8(7), e69009)。この馴化液を用いて5%のCO2を含む加湿大気下において37℃でHCECを培養した。培養培地は週に2回交換した。コンフルエントに達した場合、37℃で12分間10xTrypLE Select(Life technologies)を使用してHCECを1:3の比率で継代培養した。第2~第5継代のHCECを全ての実験に使用した。
【0516】
位相差顕微鏡
位相差顕微鏡画像は、倒立顕微鏡システム(CKX41, Olympus,Tokyo, Japan)によって撮影した。
【0517】
全RNA抽出:角膜内皮組織および上皮組織をドナー角膜を、全RNA抽出を実施するまでQIAzol Lysis Reagent(QIAGEN strasse1 40724 Hilden Germany)中において-80°Cで保存した。培養HCECおよびcHCECの上清をQIAzol Lysis Reagentによって溶解し、全RNA抽出を実施するまで-80℃で保存した。全RNAをmiRNeasy Miniキット(QIAGEN)を使用して抽出した。精製した全RNAの品質をBioanalyzer 2100(Agilent Technologies, Palo Alto, Calif., USA)によって分析した。マイクロRNA発現プロファイル:マイクロRNA発現プロファイルを得るためにTorayの「3D-Gene」ヒトmiRNAオリゴチップ(miRBase version 17)を使用した。組織および細胞の両方の試料から取得した250ng~500ngの全RNAをmiRCURY LNA(登録商標)microRNA Power Labeling Kits(Exiqon, Vedbaek, Denmark)を使用してHy5で標識したものと、400μLの上清から取得した全miRNAを標識したものとを調製した。標識したマイクロRNAを、別々にマイクロRNAチップの表面にハイブリダイズさせ、16時間32°Cでインキュベートした。このマイクロRNAチップを、オゾンを含まない環境において洗浄および乾燥した後、3D-Gene scanner 3000(Toray Industries Inc., Tokyo, JAPAN)を使用してスキャンを行い、3D-Gene Extraction software(Toray)を使用して解析した。
【0518】
mRNA発現プロファイル:mRNA発現プロファイルを得るためにTorayの「3D-Gene」Human Oligo chip 25K(version 2.1)を使用した。200ng~500ngの全RNAを、Amino Allyl MessageAmp TM II aRNA Amplification Kit(ambion, CA, USA)を使用して増幅した。この増幅RNAを、Amersham Cy5 Mono-Reactive Dye(GE Healthcare, UK)を使用してCy5で標識した。標識した増幅RNAを、別々にマイクロRNAチップの表面にハイブリダイズさせ、16時間37°Cでインキュベートした。このオリゴチップを、オゾンを含まない環境において洗浄および乾燥した後、3D-Gene scanner 3000(Toray Industries Inc., Tokyo, JAPAN)を使用してスキャンを行い、3D-Gene Extraction software(Toray)を使用して解析した。
【0519】
正規化したデータの処理
ソフトウェアによってデジタル化された蛍光シグナルを生データとみなした。全ての正規化したデータを、シグナル強度の中央値が調整されるように各マイクロアレイについて全体的に正規化した。
【0520】
定量的RT-PCR
全RNAを、miRNeasy Miniキット(QIAGEN strasse1 40724 Hilden Germany)を使用して培養HCECから抽出した。cDNAを、RNase阻害剤を含むHigh Capacity cDNA Reverse Transcriptionキット(Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)を使用して合成した。
【0521】
PCR反応は、TaqMan Fast Advanced Master Mix(Applied Biosystems)およびTaqMan Gene Expression Assays,Inventoried(Applied Biosystems)を使用して以下の条件で実施した:20秒間95°Cで酵素を活性化、1秒間の95°Cでの変性および20秒間の60°Cでのアニーリング/伸長のサイクルを40サイクル行った。StepOnePlus Real-Time PCR system(Applied Biosystems)を使用してPCR増幅および分析を行った。遺伝子発現のレベルは、18S rRNAの発現レベルに対して正規化した。結果は、ΔΔCt(発現の相対単位)で表した。
【0522】
なお使用した各配列はこれらの製品に付随の配列を使用した。以下にそのID情報を示す。
【0523】
【0524】
PCRアレイ
全RNAを、miRNeasy Miniキット(QIAGEN strasse1 40724 Hilden Germany)を使用して培養HCECから抽出した。cDNA合成は、RT2 First Strandキット(Qiagen)を使用して96ウェルプレートのフォーマットのために100ngの全RNAを用いて実施した。内皮のmRNAの発現は、製造元の推奨プロトコルに従ってRT2 Profiler PCR-Array Human Extracellular Matrix and Adhesion Molecules(Qiagen)を使用して調べ、RT2 Profiler PCR Array Data Analysis Tool version 3.5を使用して解析した。
【0525】
サイトカインの統合解析のためのBio-Plex
cHCECの培養上清を4日間培養した後に回収し、回収後すぐに-80℃で凍結させ分析するまで保存した。培養上清のサイトカインレベルを、Luminex X-Map technology(Bio-Plex 200, BioRad, Hercules, CA, USA)と、Bio-Plex Human 27-plex panel kit(BioRad)とをメーカーの説明書通りに用いて分析した。以下のサイトカインを測定した:インターロイキン-1β(IL-1β)、IL-1rα、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-12p70、IL-13、IL-15、IL-17A、塩基性線維芽細胞増殖因子(b-FGF)、エオタキシン、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクリファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、インターフェロンγ(IFN-γ)、インターフェロン誘導タンパク質10(IP-10)、単球走化性タンパク質1(MCP-1)、マクロファージ炎症性タンパク質1α(MIP-1α)、MIP-1β、血小板由来成長因子BB(PDGF-BB)、regulated upon activation normal T-cell expressed and secreted(RANTES)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)および血管内皮増殖因子(VEGF)。それぞれのサイトカイン(2回繰り返し)についての検量線を、このキット中で提供される参照サイトカインを使用して作成し、培養上清に含まれるサイトカイン濃度の算出に使用した。
【0526】
酵素免疫測定法
細胞培養上清をcHCHCから回収し、10分間RTにおいて1580gで遠心分離して分離した細胞を除去した。上清を回収し、0.22μmフィルター(Millex-GV Millipore)を通して濾過した。
【0527】
ELISAは以下のキットを使用して実施した:Clusterin(Human) Competitive ELISA kits(Adipogen , Inc., Incheon, Korea)、Procollagen type I C-peptide(PIP) EIA kit(TaKaRa., JAPAN)、ヒトCCL2/MCP-1、ヒトTGF-γ1、ヒトTIMP-1およびヒトHGF、(R&D System, Inc. USA)、BMP2 Human Elisa kit、 PDGF-bb Human ELISA Kit、IL6 Human ELISA KitおよびHuman IL8 ELISA Kit(abcam., OFL, UK)、Human Osteopontin Assay kitおよびHuman Osteopontin N-Half Assay Kit(IBL., Gunma, JAPAN)、Enzyme-Linked Immunosorbent Assay Kit For Early Growth Response Protein 1(USCN Life Science INC., China)、IP-10 ELISA Kit、Human, IL-1RA ELISA Kit, Human IFN-γ ELISA Kit, and TNF-α Human ELISA Kit(Invitrogen)、Collagen TypeIII α1 ELISA kit Human(-)およびCollagen α-2(VIII) chain ELISA kit Human(-)(CUSABIO)。
【0528】
統計解析
2つのサンプル比較についての平均値の統計的有意性(P値)は、Studentのt検定によって決定した。複数のサンプルセットの比較についての統計的有意性はDunnettの多重比較検定で決定した。グラフ中の値は平均±標準誤差を表す。
【0529】
(結果)
遺伝子およびmiRNAシグネチャは培養間で異なった
6名の高齢ドナー由来のヒト角膜内皮(Endo)組織および5種類の角膜上皮(EP)を、3D-gene(Toray)によってそのmRNAおよびmiRNAシグネチャについて分析した。EndoとEPとの間で遺伝子シグネチャが乖離していることは明らかであったのに対して、この2つの組織間でのmiRシグネチャの差異は、mRNAの場合ほど大きくなかった(
図54-A(a)、54-A(b)および54-B)。このシグネチャは、6名のドナー間でほぼ同様であった。さらに、新生児ドナーのmRNAシグネチャ以外は、4つの世代から得た組織において、EndoおよびEpにおける変化は両方とも明確ではなかった。
【0530】
これとは反対に、cHCECのmRNAおよびmiRNAシグネチャは両方とも、新鮮なEndoのものから大きく異なることが判明し(
図54-A(a)、54-A(b)および54-B)、シグネチャは、miRNAにおいて新鮮な組織のものと大きくかけ離れていた。このことは培養中にエピジェネティック制御が働いたことを示す。
【0531】
CSTに関連する遺伝子の発現のばらつき
HCECの培養中に遺伝子発現が顕著に変化するという知見とも一致するが、形態の明確に異なる典型的な培養物(
図55-Aおよび55-B)を新鮮なEndoとともに、EMT、線維化および細胞老化についてのRT
2 Profiler PCR-Arrayを使用するPCRアレイに供した。ヒートマップから、これら3つの群が明確に異なることが明らかになった。注目すべきことに、
図55-Aおよび55-Bに示すcHCECの2つの群でさえ異なる遺伝子発現プロファイルを示した。ほぼ50種類の遺伝子が、2つの培養細胞において共通して向上していた。これらには、Col3A1、FN1、IGFBP3、4、5、ITGA3、5、MMP2、TIMP1、ZEB2、MAP1B、Serpine1、THBS2、TGFbR2、TGFb1、CD44が含まれた。
図55-Aおよび55-Bの2つの培養物間で、多くのアップレギュレートされた遺伝子およびダウンレギュレートされた遺伝子が明らかとなり(データ示さず)、このことから同じ培養プロトコルを使用していてもcHCEC培養物間で遺伝子発現が異なることが示唆される。培養物間で遺伝子が異なるというこれらのスクリーニング結果をうけて、50種類の候補遺伝子を選択し、qRT-PCRによってさらなる検証を行った(スクリーニングにより32種類の遺伝子を選択し、これにCSTにおいて機能的に重要であると考えられる18種類の遺伝子を追加した)(表8)。
【0532】
【0533】
選択した遺伝子のqRT-PCRによる検証
候補遺伝子を、
図56-Aおよび56-Bに示す2つのcHCEC(すなわち、665A2および675A2であり、これらは形態的に好対照をなす)におけるこれらの発現をqRT-PCRによって比較することで検証した。
図56-Aおよび56-Bは結果の一部を示す。CDH2、TGF-β2およびCol8A2の遺伝子発現は、CSTを起こしていないcHCEC(すなわち665A2)において明らかにアップレギュレートされていたのに対して、TIMP1、Col3A1、CD44、IL-6、IL-8およびBMP2は、CSTを起こしたcHCEC(すなわち675A2)においてアップレギュレートされていた。この比較において、VIM、CD166、CD105、CD24およびMMP4遺伝子は、両方のcHCECにおいて同程度のレベルで発現されていた。結果を
図56-Bにまとめる(表には、極めて低い発現レベルを示した遺伝子は含まれていない)。
【0534】
形態的に分級したcHCECを用いた選択遺伝子の検証
上記の結果から、CSTは、EMT、老化および線維化を考慮に入れてもなお、より大きくばらつくことが明確に示されたので、その発現レベルをより詳細に調べた。培養細胞の形態について0~10の点数を割り振って11種類のcHCECに分級した(3名が係わった)(
図57-A)。調べたいくつかの遺伝子の発現レベルを
図57-Bに示した。一つのグループはこの点数の順番に負の相関を示す発現のアップレギュレーションを示し、第2のグループはこれに正の相関を示したが、第3のグループはこの点数とほとんど相関しなかった。興味深いことに、点数が10であるcHCEC間においてさえ、CD24の発現は異なり、このことからこの遺伝子は
図57-Bの他の遺伝子よりより緻密に制御されていることが示される。細胞処理センターでGMPの下で産生したcHCECを使用して次の検証を行った(
図58-Aおよび58-B)。この比較において、CSTの様式が異なるとみられる2つのcHCEC(C9およびC11)は、対照的な遺伝子発現プロファイルを示した。例えば、CD24は、C9においてのみアップレギュレートされており、Col4A1、4A2も同様であったが、MMP2、TIMP1、IL-6、IL-8およびTGF-β1はC11においてのみ向上していた。CD44、THBS2、Col3A1およびHGFは、C9およびC11の両方においてアップレギュレートされていた。
【0535】
産生されるサイトカインのBio-Plexヒトサイトカイン27-plexパネルによるスクリーニング
遺伝子発現は通常、1本鎖からなる生産物に対応し、ヘテロダイマーとしての生産物を十分に反映するわけではない。この問題を克服し、培養上清により可能であるアッセイを確認するため、次に、Bio-Plexヒトサイトカイン27-plexパネル(Bio-Rad)によって様々なcHCECの培養上清を分析した。培養継代数の異なる3つのcHCEC(#82、#84、#88)を分析のために用意した。典型的な結果を
図59-Aに示す。分泌されるサイトカインの多くは、継代数の増加にしたがう減少または増加を示した。この試験から、IL-6、MCP-1およびIL-8は、培養品質の悪化に伴って増加を示した。これに対して、培養物中のIL-1Rα、IFN-γ、IP-10、PDGF-bbおよびMIP-1βは培養品質の改善と対応して増加した。
【0536】
cHCECの再現性の高い品質検査のためのELISAアッセイ
さらなる試験によって、cHCECを再現性良く品質評価する方法を開発し、4つのサイトカイン(すなわち、TIMP1、MCP-1、IL-8およびPDGF-bb)を選択した。Kyoto Prefectural University of Medicineの細胞処理センターで産生したcHCECのロット32個を品質評価するのに実際的に使用することができるかどうかを試験した後で最終的な条件の絞り込みを行った。この選択はまた、その品質評価性能について、細胞注入療法を実施した日に細胞を回収した時点で行ったFACSによる品質評価と対応するかどうかによっても検証した。標準的な値は、それぞれのサイトカインについて、500ng/ml未満のTIMP1、500pg/ml未満のIL-8、3000pg/ml未満のMCP-1および30pg/mlより高濃度のPDGFである。この品質評価は細胞注入治療の7日前に実施するべきである。
さらに、様々な培養株、継代数、継代日数の培養物について、培養上清に分泌されたMCP-1、IL-8およびPDGF-bbの量における差異を調べた(
図59-B~59-C)。亜集団比率が異なるとサイトカイン産生量も異なることが示される。
【0537】
(まとめ)
異なる培養ロット間でのcHCECの遺伝子およびmiRNAシグネチャは、年齢の異なるドナーに由来する新鮮な組織間のシグネチャよりばらついた。20個より多くの培養物のロットを比較することによって、32種類の候補遺伝子がcHCECの形態的特徴における違いに関連すると考えられた。qRT-PCRによる候補遺伝子の検証によって、cHCECにおける形態的ばらつき(例えば、EMTまたは細胞老化などの特徴)に対応してアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションのいずれかを受ける遺伝子を明らかにした。Bio-Plexヒトサイトカイン27-plexパネルによるELISAの結果をさらに加えて、11種類の候補サイトカインをcHCECの機能を品質評価するのに適切であるとしてさらに選択した。前眼房中に存在するということを考慮して、IL-8、TIMP-1、MCP-1およびPDGFを採取的に選択し、臨床における本細胞注入研究に実際的に使用できるcHCECの品質評価の実施に適用した。
【0538】
結論
cHCECの機能的特徴を適切に区別する特定のサイトカインを決定し、これによって、角膜内皮機能不全の治療のためにドナー角膜の代わりに適用可能なcHCECを品質評価することが可能となった。
【0539】
ドナーの角膜内皮からcHCECを増殖させることによって、cHCEC細胞注入療法のための方法を提供することができる。インビトロ培養システム中で増殖させた培養HCECには、CSTを起こしたcHCECが混在し得る。培養細胞はまた、核型変化を起こす傾向にある(実施例2も参照)。したがって、cHCECの臨床的使用のためにはその品質を慎重にモニタリングしなければならない。
【0540】
cHCECの形態的特徴は、同一の培養プロトコルを使用した場合でさえ培養間で大きく異なる。cHCECを細胞療法に適用する際の最も大きな障害の一つは、cHCECの細胞品質をどのように検証するかにある。
【0541】
cHCECの線維芽細胞への形態変化は、顕微鏡観察によって容易に検出される(
図55-Aおよび55-B)。結果として、関連するより困難な品質評価は、CSTを起こしていないcHCECを細胞老化したcHCECから区別することである(
図60-Aおよび60-B)。
【0542】
EMTは、多くの疾患で異常に誘導されている。培養HCECは、CSTを起こしてEMTに向かう傾向がある。EMTの過程において細胞間接着は減少する。EMTを起こした細胞は、しばしば、幹細胞様の特性を獲得し(Krawczyk N, Meier-Stiegen F, Banys M, et al. Biomed Res Int. 2014; 2014:415721.)、これはTGF-βによって誘導されたものを含む。本研究の初めにおいては、このEMT様CSTがしばしば起こったが、培養プロトコルの改善を図った後には、多くの培養物が老化型CSTを示す傾向にあった。
【0543】
老化は、腫瘍抑制因子p53およびpRbに係るシグナル伝達ネットワークによって刺激依存的様式で制御されている(Sheerin AN, et al., Aging Cell. 2012; 11: 234-240)。しかし、老化細胞は、代謝的に活性であり、そのため隣接細胞に老化プロセスを伝播させ、注目すべきことに、これはSASPメディエーターと呼ばれる膨大な種類の炎症メディエーターの分泌によるものである(Lasry A, Ben-Neriah Y. Cell, 2015; 36:217-228)。
【0544】
本実施例において、非侵襲的方法で細胞品質をモニタリングする際の候補を提供することに成功した。様々なcHCEC遺伝子およびmiRNAシグネチャを比較調査することで、cHCECの品質を見極めるELISAアッセイを開発することに成功した。SASPの選択も並行して行った。分泌型miRNAを使用するアッセイは別に公開する。本明細書において、初めて、培養上清からcHCECがCSTを起こしているかどうかを見分ける方法について記載する。
【0545】
本品質試験アッセイはフックス角膜内皮ジストロフィ、外傷または外科的介入に起因するHCECの組織損傷に対する細胞注入療法のための高品質なcHCECの提供を可能とする。
【0546】
(実施例9:エキソゾームの解析)
本実施例では、エキソゾームの解析を行った。特に、CD63およびCD9について解析を行った。
【0547】
(材料および方法)
ヒト角膜内皮細胞ドナー
本実施例で使用されるヒト組織は、ヘルシンキ宣言の倫理的原則に則って取り扱った。HCECを20のヒト死体角膜から得、核型分類分析を行う前に培養した。ヒトドナー角膜は、SightLife Inc.(Seattle,WA,USA)から得た。研究のための眼の提供に関する書面によるインフォームドコンセントが、すべての死亡したドナーの親族から得られた。すべての組織は、ドナーの同意を得て組織を回収した州の統一死体提供法(UAGA)の原則に則って回収した。
【0548】
ドナー年齢は2~75歳(平均43.7±26.4)の範囲であった。女性および男性の両方が含まれていた。すべてのドナーの角膜をOptisol-GS(Chiron Vision,Irvine,CA,USA)中に保存し、研究の目的で航空輸入した。ドナーの情報によると、すべてのドナー角膜は角膜疾患のない健常なものであると判断され、全てのドナーは、染色体異常の過去歴を有しなかった。
【0549】
HCECの細胞培養
別途記載しない限り、HCECは、公開されているプロトコルにいくつかの変更を加えたものに従って培養した。異なる年齢のヒトドナー角膜を、実験に使用した。簡潔に記載すると、デスメ膜をCECとともにドナーの角膜から剥がし、37℃において1mg/mLのコラゲナーゼA(Roche Applied Science,Penzberg,Germany)で2時間処理して消化した。単一のドナー角膜から取得したHCECを、I型コラーゲンコーティング6ウェル細胞培養プレート(Corning Inc.,Corning,NY,USA)のウェルの一つに播種した。培養培地は公開されているプロトコルにしたがって調製した。簡潔に記載すると、基礎培地は、Opti-MEM-I(Life Technologies Corp.,Carlsbad,CA,USA)、8%のウシ胎児血清(FBS)、5ng/mLの上皮成長因子(EGF;Life technologies)、20μg/mLのアスコルビン酸(Sigma-Aldrich Corp.)、200mg/Lの塩化カルシウム(Sigma-Aldrich Corp.,St. Louis,MO,USA)、0.08%のコンドロイチン硫酸(Wako Pure Chemical Industries,Ltd.,Osaka,Japan)および50μg/mLのゲンタマイシンを用いて調製した。馴化液は以前に記載されたとおりに調製した(Nakahara,M. et al. PLOS One(2013) 8,e69009)。この馴化液を用いて5%のCO2を含む加湿大気下において37℃でHCECを培養した。培養培地は週に2回交換した。コンフルエントに達した場合、37℃で12分間10x TrypLE Select(Life technologies)を使用してHCECを1:3の比率で継代培養した。第2~第5継代のHCECを全ての実験に使用した。
【0550】
エキソゾームの単離
Total Exosome isolation from cell culture media(invitorgen)を用い、製品のプロトコルに従って各細胞の培養上清からエキソゾームを単離した。
【0551】
ウェスタンブロット
各細胞の培養上清からエキソゾームが単離されているか、エキソゾームの代表的な表面マーカーに特異的な抗体(抗CD63抗体、抗CD9抗体および抗CD81抗体)を用いてウェスタンブロット解析を行った。
【0552】
Qubit Protein Assay kit(Q33211 ライフテクノロジー社)を用いて、上記Exosome溶液のタンパク濃度測定を行った。測定した濃度に基づき、1サンプルあたりタンパク量10μg/非還元条件にてサンプル調製を行い、70℃で10分の熱処理を行った。熱処理したサンプルを、Bolt 4-12% Bis-Tris Plus gel(NW04120BOX Invitrogen)へロードした。165V 35分 60mA(1mini gel)または130mA(2mini gels)にて電気泳動を行った。iBlot 2 Dry Blotting System(IB21001 life technologies)を用い、PVDF膜(iBlot2 PVDF Regular Stacks IB24001 life
technologies)へpre-run-gel中のタンパク質を転写した。転写条件は、20Vで1分間、23Vで4分間、25Vで2分間であった。
【0553】
ブロッキングならびに1次抗体反応および2次抗体反応を、iBind Western System(SLF1000S life technologies)を使用して行った。それぞれの標的に特異的な1次抗体を、最終濃度10ug/ml、2ml使用して行った。2次抗体として、HRP標識抗マウス抗体を1000~2000倍希釈で用いた。HRP反応による抗原化学発光法検出は、Novex ECL Chemiluminescent Substrates Reagent Kit(WP20005 Invitrogen)・ImageQuant-LAS-3000(Fujifilm)CCDカメラによる検出として行った。
【0554】
(結果)
CD63およびCD9について、ウェスタンブロットの検出バンドが確認され、その大きさを視覚的に比較することができた(
図64-A)。CD81については検出することができなかった(データ示さず)。さらに、Exoscreen法を用い培養上清中エクソソームタンパク質におけるCD63および/またはCD9のマーカーを検出した結果を、
図64-Bに示した。
【0555】
(まとめ)
したがって、HCECから分泌されるエキソゾームについて、少なくともCD63またはCD9をマーカーとして用いることによって検出することができることが確認された。
【0556】
エキソゾームは、本発明において目的とされるヒトの眼前房内への注入時にヒト角膜機能特性を惹起し得るヒト機能性角膜内皮細胞が、目的外の相転移細胞へと変化する機構に関係し得る。例えば、様々なストレスによって、エネルギー代謝系がミトコンドリア呼吸系の好気的なTCAサイクルから嫌気性の糖代謝に偏奇することによって、相転移が生じ得る。この代謝の偏奇にmiR378などのmiR発現が関与している可能性が示唆されており、そのmiRの増幅にエキソゾームや分泌型miRが関与する可能性がある。
【0557】
(実施例10:水疱性角膜症に対するヒト角膜内皮特性具備機能性細胞注入に関する臨床研究)
本実施例では、水疱性角膜症患者(後述の適用対象患者を総括して以後このように呼称する)に対する本発明のヒト角膜内皮特性具備機能性細胞の注入に関する臨床研究(以後本試験という)の目的は、従来、唯一の治療法がアロドナー角膜(他家角膜)を用いた角膜注入である水疱性角膜症の患者を対象に、培養ヒト角膜内皮細胞注入の安全性と有効性および移入細胞の品質規格の妥当性を確認した。
【0558】
本試験は、以下の手順で行った。
【0559】
(●指針の遵守について)
本試験は、厚生労働省の監督下で定められたヒト幹細胞臨床研究に関する審査委員会において「水疱性角膜症に対する培養角膜内皮細胞移植に関する臨床試験」の承認を得た上で、「ヘルシンキ宣言」、「再生医療等の安全性確保等に関する法律」、「ヒト(同種)体性幹細胞加工医薬品等の品質及び安全性の確保について」、「ヒト又は動物細胞株を用いて製造されるバイオテクノロジー応用医薬品のウイルス安全性評価」、及び「生物由来原料基準」に従って実施した。
【0560】
(●試験方法)
1.実施要項および実施医療機関
本研究は厚労省科学技術部会審議会の最終承認を得たうえで、京都府立医科大学病院で水疱性角膜症のため、角膜移植が必要と診断された15例を対象とした。
【0561】
2.対象患者および疾患
本試験参加に先立ち文書による同意が得られ、適格基準を判定するための選択規準:1)最良矯正視力が0.5未満、2)角膜内皮スペキュラマイクロスコープで角膜内皮細胞が観察できないか、もしくは内皮細胞密度が1平方ミリあたり500未満、3)角膜厚が630μm以上、かつ角膜上皮浮腫の存在、4)同意取得時の年齢が20歳以上90歳未満の患者、5)本人ないし代諾者から文書同意を得た患者、の全ての要件を満たし、且つ、除外基準:1)活動性の角膜感染症(細菌・真菌・ウイルスなど)を有する患者、2)妊娠またはその可能性のある患者、授乳中の患者、3)出血性の疾患を有する患者、4)精神的無能力(中等度および重度認知症を含む)のため、担当医師により十分な理解と協力が得られないと判断された患者、5)眼圧のコントロールが不良な緑内障患者、6)血糖コントロール不良な糖尿病患者、7)ステロイド剤に対する過敏症を有する患者、8)全身性の自己免疫疾患を合併する患者(SLE、ベーチェット病等)、9)他の原因による視力障害の関与が強く疑われる患者、10)既に本プロトコル治療を実施した患者、11)抗がん剤の使用者および使用を予定された患者、12)心疾患(心筋梗塞、心不全、コントロール不良の不整脈等)、脳血管障害(脳卒中)の既往を有する(及び/又は合併する)患者、13)その他、合併症等のために本治療を実施するのに不適当と考えられる患者等、研究責任医師または研究分担医師が本治療の参加に支障があると判断した患者、の何れにも抵触しない水疱性角膜症患者で、角膜移植手術が必要と診断された症例を対象とした。
【0562】
3.本実施例の試験用の培養角膜内皮細胞の調製法および移入手術時の用法・用量
以下の1)から3)の手順に従い、培養・調製した培養角膜内皮細胞を角膜注入手術の手技に準じ1回、1×106cells/300μLの細胞を前房内に移入した。
1) 原材料の角膜組織 原材料の角膜は、米国シアトルのアイバンクSightLife Inc.社から、同社において実施した角膜提供者の適格性診断と摘出した角膜の安全性試験より、角膜移植に適合していると判断されたヒト角膜の提供を受け、継代培養の原材料とした。
2)培養角膜内皮細胞の調製
培養角膜内皮細胞は、GMPに準拠した京都府立医科大学セルプロセッシングセンター(CPC)において規定の作業手順書(SOP)に従い調製した。手短に述べると、ヒト角膜よりデスメ膜ごと角膜内皮細胞を剥離して、コラゲナーゼAで酵素処理後、細胞培養用培地に懸濁して培養皿に播種し継代培養を行った。具体的な条件については、本明細書の実施例2または11に記載される本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞の調製方法において記載されている条件を用いてこれらの培養を行った。移植手術時に供する際に細胞の汚染や異常がないことを確認したうえで、TrypLEによる酵素処理により細胞を回収し、フェノールレッド不含Opti-MEM I で洗浄を行った。最終濃度が100μMとなるY-27632((R)-(+)-トランス-(4-ピリジル)-4-(1-アミノエチル)-シクロヘキサンカルボキサミド2塩酸塩1水和物)を添加したOpti-MEM Iに、培養角膜内皮細胞数が1.5×106cells/450μLとなるようにプロテオセーブに分注し、移植用サンプルとした。
3)培養角膜内皮細胞の移入
手術は原則として局所麻酔により行った。角膜輪部に約2mmの切開創を作成したうえで、角膜内皮剥離用シリコンニードル(イナミ等から入手可能)を用いて直径5-10mmのレシピエントの変性角膜内皮細胞または異常な細胞外マトリクスを取り除いた。取り除いた後、Y-27632を最終濃度100μM含有するOpti-MEM I(Life Technologies)に懸濁した培養角膜内皮細胞を、26G針を用いて前房内に1×106/300μL注入した。結膜下にステロイド剤(下記参照)の注射を行った。手術終了直後より、患者には3時間以上のうつむき姿勢をとらせた。
【0563】
(●検査・観察項目)
1)検査項目および検査実施時期
検査項目および検査実施時期の試験スケジュールを表9に示す。
【0564】
【0565】
登録前:登録前4週間以内のデータであれば使用可能とする。
移入後:2日±1日、7日±2日、14日±2日を許容範囲とする。さらに、4週間±7日、8週間±7日、12週間±7日、16週間±7日、20週間±7日、24週間±14日を許容範囲とする。8週、16週、20週の諸検査について、遠方で来院できない場合は連携先の近医にて確認することを許容する。12週間(±7日)、24週間(±14日)の臨床検査については、薬剤の全身投与継続中であれば実施する。経過観察期間として、細胞注入の1年後は15症例のすべておよび2年後は8症例のデータが利用可能であった。
凡例 ○:症例報告書記載項目 △:症例報告書記載不要項目 ●:症例報告時期であり、いずれも本実施例において実施した項目である。
なお、本実施例および関連する図において、4週との表示は1カ月と同義であり、12週との表示は3カ月と同義であり、24週との表示は6カ月と同義である。
【0566】
<1>被検者背景として原疾患の経緯、角膜移植および眼手術既往歴、全身疾患・薬剤アレルギーの有無を問診および診察で確認した。
<2>術前の臨床検査として、(1)血液学的検査:赤血球数、白血球数、ヘモグロビン量、ヘマトクリット値、血小板数、白血球分画、[INR(PT/APTT)、フィブリノーゲン]、(2)血液生化学的検査:血糖、総コレステロール、中性脂肪、総蛋白、アルブミン、クレアチニン、総ビリルビン、GOT、GPT、γ-GTP、LDH、ALPおよび(3)感染症検査:HBV,HCV,HIV,HTLV,梅毒感染および活動性の角膜感染症(細菌・真菌・ウイルスなど)の有無を確認した。
<3>眼科基本検査としての視力は、小数視力として測定し、角膜厚はペンタカムを用いて経時的に測定した。角膜内皮細胞検査は非接触型もしくは接触型スペキュラーマイクロスコープを用いて、眼圧は非接触型もしくは接触型眼圧計を用いて測定した。
<4>眼科所見Aは、細隙灯顕微鏡による角膜所見(上皮浮腫、上皮障害、実質浮腫、実質混濁)、前房所見、結膜所見(結膜充血、結膜浮腫)を、0:ない、1:軽度、2:中等度、3重度の4段階に分類しスコア化すると伴に、前眼部所見を写真撮影により記録した。
<5>眼科所見Bは、視力に影響を及ぼす虹彩所見、白内障、緑内障、網膜疾患について、細隙灯顕微鏡検査あるいは視野検査、眼底検査を実施し、0:ない、1:軽度、2:中等度、3重度の4段階で判定した。
<6>移植前・後の視機能の変化とQOLとの関係を評価するため、NEI VFQ-25(The 25-item National Eye Institute Visual Function Questionnaire)によるアンケートを実施した。
【0567】
2)有害事象
本試験の経過観察中に生じた全ての好ましくない、あるいは意図しない徴候、症状または病気を有害事象として扱い、当該プロトコル治療に伴う移植手技、移植細胞あるいは治療全般との因果関係が否定できない反応を副作用とした。有害事象が発現した場合、その事象名、発現日、死亡・入院・不可逆的な障害に関する重篤・非重篤の判定、重症度、有害事象の転帰確認日および転帰を消失、軽減、不変、悪化の4段階で判定することとした。なお、有害事象が認められた場合は、本注入治療との因果関係の有無に係わらず、転帰が確定するまで追跡調査を行うこととした。本治療との因果関係が否定できない有害事象に関しては、注入手技、注入細胞あるいは関連治療との因果関係を記録することとした。
【0568】
3)併用薬及び併用処置
通常の角膜移植における薬剤投与レジメンに準じ、術後炎症の制御と拒絶反応の抑制目的で副腎皮質ステロイド薬(メチルプレドニゾロン静注、ベタメタゾン静注・内服、ベタメタゾン点眼、フルオロメトロン点眼)、および術後感染症の予防として抗生物質、合成抗菌剤(フロモキセフナトリウム静注、セフカペンピボキシル内服、ガチフロキサシン点眼)の全身および局所投与による併用治療を行った。なお、経過観察期間中の悪性腫瘍治療目的の抗がん剤、薬物の硝子体内投与等、また、移植眼に対する白内障手術等の侵襲的な処置・手術は禁止した。
【0569】
(●評価方法および統計手法)
培養角膜内皮細胞が注入された全症例を解析対象集団とし、主要評価項目として設定した注入手術後24週の角膜内皮細胞密度が500個/mm2以上の症例数の割合とその95%信頼区間、および注入前から注入後24週の角膜厚の変化とその95%信頼区間、ならびに注入後24週の角膜厚が650μm以下の症例数の割合とその95%信頼区間を算出した。
【0570】
副次評価項目としては、注入前から注入後24週に2段階以上の視力改善を得た症例の割合とその95%信頼区間、注入前から注入後24週の角膜実質浮腫+混濁のスコアの和が1ポイント以上改善した症例の割合とその95%信頼区間、および注入前から注入後24週のVFQ-25スコアが改善した症例の割合とその95%信頼区間を算出した。
【0571】
また、培養内皮細胞の規格と臨床効果との関係を探索し検討するため、注入に用いた内皮細胞のE比の割合と術後の角膜内皮細胞密度および角膜厚の菲薄化との層別解析を行った。
【0572】
有害事象については、プロトコル治療を開始してから移植手術を経て、移植後24週までに発現した有害事象症例の割合とその95%信頼区間を算出した。
【0573】
(●目標症例数の設定根拠)
水疱性角膜症を対象とした培養角膜内皮細胞注入手術による安全性と有効性を探索的に検討するとともに、培養角膜内皮細胞の規格設定の妥当性を検討するために必要と考えられる15症例を設定した。
【0574】
(結果) 本実施例において角膜内皮細胞注入手術を施行した15症例の症例一覧を表10に結果を示す。
【0575】
文書同意を取得したうえで選択・除外基準に従って登録された男性7例、女性8例の計15例(平均67.3±11.4歳)を対象とした角膜内皮細胞注入手術症例の、主要評価項目である角膜内皮細胞密度および角膜厚の推移ならびに副次評価項目の視力および角膜所見観察・測定の術後2年までの観察・評価を報告する。
【0576】
【表10-1】
【表10-2】
【表10-3】
【表10-4】
【0577】
次に評価項目である角膜内皮細胞密度の分布を表11に示す。
【0578】
【0579】
術後1年の経過観察が終了した15例(8例については2年)の内皮細胞密度は、全て1,000cells/mm2以上の観察結果が得られており、角膜内皮障害の重症度分類(日眼会誌118:81-83,2014)の正常あるいはGrade 1(軽度)にまで回復していた。本実施例において、対象となった15例は、手術前の状態が角膜実質浮腫と混濁のためスペキュラーマイクロスコープ(以下、スペキュラー)による手術前の角膜内皮細胞密度の観察・測定が不能で、重症度分類Grade 4の水疱性角膜症と診断された症例であった。これらの症例が、術後4週から24週の間に重症度分類Grade 1にまで回復しており、更に15例中12例80.0%(95%信頼区間:51.9~95.7%)は、
角膜の内皮機能を維持するうえで支障のない、正常角膜と考えられる2,000cells/mm2以上の内皮密度を維持していることが確認できた。
【0580】
主要評価項目の角膜厚の推移を表12に示す。
【0581】
角膜実質浮腫と混濁を伴っていた角膜は、注入手術後4週には15例中12例80.0%(95%信頼区間:51.9~95.7%)が、また術後12週には13例中14例86.7%(95%信頼区間:59.5~98.3%)が、米国における角膜厚の異常所見の概ね基準となる650μm以下に減少しており、術後24週には15例全てがこの基準をクリアしていた。術前745±61μmの角膜厚は、術後4週には596±69μmと統計学的にも有意な(p<0.001)菲薄化を示し、その後も術後12週には569±57μm、術後24週には557±48μmまで漸減し、ほぼ正常に近い安定した角膜厚が維持されていた。さらなる結果(1および2年)については表12を参照のこと。
【0582】
【0583】
また、副次的評価項目のLogMAR視力の推移を表13に示す。
【0584】
移植手術後24週の経過観察を終了した15例の平均LogMAR視力は、移植手術前の0.97±0.52に対し12週後に0.43±0.33、24週後に0.33±0.29と術後12週以降に有意な(p<0.001)視力の改善を示した。また、術前視力と比較して12週後には平均で5.4段階の、24週後には6.4段階(95%信頼区間:4.2段階~8.7段階)の改善を認め、24週後に2段階以上の視力改善を得た症例は15例中13例86.7%(95%信頼区間:59.5~98.3%)であった。注入療法による角膜内皮細胞の再生に伴い、角膜浮腫の軽減・菲薄化が可能となり、これらの組織学的あるいは形態学的な改善が、患者のQOLに直結する視力に反映された結果と言える。表中、カッコ内に小数視力を示す。
【0585】
【0586】
細隙灯顕微鏡による角膜実質混濁と実質浮腫の合計スコアの改善ポイントの分布を表14に示す。移植手術後24週の経過観察を終了した15例中13例86.7%(95%信頼区間:59.5~98.3%)において、角膜実質所見のスコア合計が0となる著明な改善を認め、15例全てにおいて副次的評価項目であるスコア合計の和が1ポイント以上の改善を示した。
【0587】
【0588】
本実施例において、15例の角膜内皮細胞注入手術に用いた角膜内皮細胞の規格は全て、新たに設定した機能性細胞と準機能性細胞を併せた本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞の比率が90%を超えるものであった。
【0589】
しかし、機能性細胞の割合を示すE-Ratioは10%≦から90%≦にまで広く分布していたことから、E-Ratioの角膜厚および角膜内皮細胞に及ぼす影響をE-Ratio≧90%群とE-Ratio<90群の2群に分けて比較検討した。
【0590】
E-Ratio<90%の群は症例A~Hで構成されており、8例中3例の患者で術後4週の時点で角膜厚が600μm未満にまで減少し、5例の患者で主要評価項目の指標となる角膜厚650μm未満の基準に達していた。一方、E-Ratio≧90%群の症例I~Oでは、7例すべての患者において術後4週に主要評価項目の角膜厚650μm未満の基準を達成しており、さらに7例中6例の角膜厚は600μm未満にまで回復していた。
【0591】
図69は、E-Ratioが90%未満の細胞集団を注入した患者(患者A~H)および90%以上の細胞集団を注入した患者(患者I~O)の注入前および注入後4週、12週および24週までの角膜厚の推移を示すグラフである。本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞により、早期に角膜の菲薄化が達成されていることが理解できる。本発明による注入手術(亜集団選択あり、E-Ratio≧90%)を施行した患者群のI~Oでは角膜厚の低下も顕著であり、
図69に示すように、術前747±63μmの角膜厚は、術後4週の時点で596±69μmと有意な菲薄化を認め、24週後には7例中6例がほぼ正常角膜厚と言っても過言ではない550μm前後のレベルにまで達成していたことが確認できた。
【0592】
図70は、従来法(亜集団選択を行わない方法)および本発明の亜集団選択によって調製した細胞を前房内に注入した症例の対比である。上段には従来法による注入手術(亜集団選択なし)の結果を、中段には本発明による注入手術(亜集団選択あり、E-Ratio<90%)の結果を、および下段には本発明による注入手術(亜集団選択あり、E-Ratio≧90%)の結果を示す。また、各段の左側から、継代培養時の位相差顕微鏡写真の結果、注入する細胞のCD24、CD26、CD44に基づくFACS分析の結果、および右側には術後のスペキュラーの写真と角膜内皮細胞密度の数値(細胞数/mm
2)を示す。従来法によって調製した細胞集団を注入した場合、症例数は少ないものの、角膜実質の混濁や浮腫の影響により術後12週後でもスペキュラーによる角膜内皮細胞の撮影が困難な症例が散見されている。しかし、本発明による注入手術(亜集団選択あり、E-Ratio<90%)を用いた場合、スペキュラーによる内皮細胞の観察は、術後3カ月から可能となった。さらに、下段に示すように、注入手術(亜集団選択あり、E-Ratio≧90%)を用いた場合は、術後4週の時点でスペキュラーによる角膜内皮細胞の観察と鮮明な写真撮影が得られている。E-R<90群においては術後1ヶ月でスペキュラー撮影が可能となった症例は8例中2例(25.0%)に対しE-R≧90群においては注入した7例全例であった。また、E-R≧90群の平均内皮密度は、術後4週の時点で3604±666cells/mm2と若年者の内皮細胞密度と同程度の組織学的な再生が得られていた。術後12週の時点では、E-R<90においても8例全例でスペキュラーによる撮影が可能となり、平均内皮細胞密度も2329±696cells/mm2と正常の内皮密度まで回復していた。一方、E-R≧90においては術後12週の時点でも3331±551 cells/mm2と、E-R<90よりも有意な(p=0.00899)角膜内皮細胞密度が確認され、最終観察時点での術後24週においても、E-R<90の2014±567cells/mm2に対しE-R≧90は3302±535 cells/mm2と、E-R<90よりも有意な(p<0.001)角膜内皮細胞密度が維持されていた。本発明の亜集団選択によって調製した細胞であれば、従来法に比べて早期に顕著な効果が現れることが判明した。
図71は、本発明の角膜内皮細胞注入療法、DSAEK(従来法)およびPKP(全層角膜移植、従来法)における術後の前眼部スリット所見を示す。本発明の内皮細胞注入療法後はPKPのような注入縫合部の顕著な歪みや不正乱視が発現する可能性も少なく、またDSAEKのような角膜内皮面の段差や歪みを生じることも少ない術式と言える。移植後24週の角膜内皮スペキュラーについても、6カ月経過までに主要評価項目の角膜内皮細胞密度が500個/mm
2以上という基準を上回り、15例すべての症例で1,000個/mm
2以上の内皮細胞密度に達成していた。E-Ratioによる層別では、術後24週でE-Ratio<90%群のA~Hまでの患者の8例中5例は、角膜内皮障害の重症度分類で正常角膜内皮に分類されている2,000個/mm
2以上のレベルにまで回復していた。また、E-Ratioを90%以上に高めた患者群のI~Oでは、術後24週の時点に7例すべての患者で2,500個/mm
2以上の内皮細胞密度が維持されており、さらに7例中4例は3,000個/mm
2以上という若年者のような極めて高いレベルの角膜内皮細胞密度が得られており、顕著な治療成績を示した。
【0593】
また、従来法の、例えば、DSAEKや全層角膜移植(PKP)では角膜の歪みを避けることはできない。しかし、本実施例の方法では、手術後に生体本来の持つ角膜曲率に戻すために、術後に撮影された術式の異なる前眼部スリット写真と前眼部OCT画像からも分かるように、本方法は角膜に対して極めて侵襲の少ない治療法であることか確認できる(
図71)。また、症例のKおよびNは、角膜移植で拒絶反応を発症した患者で、従来技術ではこれらの症例に対して有効な治療法がないと考えられていた。しかし、本実施例の亜集団選択を行った細胞による注入療法では、前房内での免疫寛容が誘導され、これまでに拒絶反応を起こした症例にも関わらず角膜内皮密度および角膜厚とも順調な回復経過を示しており、これまでのDSAEKやDMEKあるいはPKPに代わる画期的で、尚且つ患者に対しても安全で有効な治療であり得ることが証明できた。
【0594】
有害事象としては、併用治療薬のステロイド点眼に起因すると考えられる非重篤の眼圧上昇が1例、術後3カ月の時点で57歳女性に発現した。ベタメタゾン点眼をフルメトロン点眼に変更し、眼圧上昇に対して抗緑内障薬のザラカムを併用しながら24週のプロトコルに準じた経過観察を終了した。なお、それ以外に、治療に用いた培養角膜内皮細胞に起因すると考えられる有害事象、例えば、内眼炎、感染症あるいは注入手技等に関連する医原性の事象は認めなかった。
【0595】
以上の結果から、本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞および機能性成熟分化角膜内皮細胞は従来技術に比較して、優れた治療効果を奏することが示された。 本発明の亜集団分類に基づいて調製した細胞医薬では、亜集団分類を行っていない従来の細胞調製法よって得られた角膜内皮機能を有するとされていた細胞集団を用いた場合に比べ、総合的にみると、治療成績が向上していることが分かった。特に、
図70に示すように、亜集団分類をしていない例で注入療法を行った場合は、3か月経過後でも角膜実質混濁による影響のため角膜内皮際細胞の観察が行えない症例が観察されたのに対して、本発明の亜集団分類を行って調製した本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞および/または機能性成熟分化角膜内皮細胞を用いた医薬では、術後3カ月には角膜実質の浮腫・混濁は消失しており、E-Ratioを上昇させることで術後1カ月の早期に角膜の透明性を回復させることができる高品質で画期的な治療法の可能が示された。
【0596】
特に、亜集団分類を行うことによって可能になったこととして、E-Ratioまたは本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞の比率が認識可能になったことが挙げられる。このように、本発明において、E-Ratioまたは本発明の角膜内皮特性具備機能性細胞の比率を上昇させることで、治療成績が改善できることを見出した。このようなことは、従来の細胞調製技術や細胞の分類、選択手法では解明されていなかったことであり、本発明の亜集団分類に基づく細胞、その製法、細胞医薬としての効果が証明され、これらを品質管理の間接的または直接的な指標とするべきことも判明した。
【0597】
加えて、上述したように、角膜内皮細胞注入手術を施行した症例すべてにおいて、併用治療に起因する非重篤な眼内圧上昇が1例に発現したものの重篤な有害事象は観察されず、また、手術時のドナー角膜の入手を待つ間の精神的あるいは手術時の肉体的な負担も軽減され、本発明により角膜内皮治療から得られるQOLも飛躍的に改善したことが理解される。
【0598】
(実施例11:細胞の製造法)
本実施例では、水疱性角膜症の治療を目指したヒト培養角膜内皮細胞の製造法に関して、以下概略する。
【0599】
米国アイバンクSightLife Inc.から輸入したFDA及び厚生労働省の安全性基準に適合した角膜より、単層の角膜内皮層を剥がし、一晩、コラゲナーゼ処理により角膜内皮細胞を分離した。Opti-MEMを基礎培地として、8%FBSを含むNancy培地(Invest Ophthalmol Vis Sci 2004 1743/PLoS ONE 2012 e28310)(NGF、pituitary extract不含)で培養を行った。P0培養には同一ドナーの左右2眼分の内皮細胞を2ウェル/6ウェルプレートのコラーゲンIプレートに播種して培養を開始した。培養には成熟分化細胞への分化を誘導するために10μM Y-27632(ROCK阻害剤)を添加した。また、培養期間中に細胞の相転移抑制を目的に10μMのSB203580を添加した。約4~8週間後細胞がコンフルエントになった後に継代を行った。コンフルエントになった後は、培地交換のみで数週間にわたり同品質が保持されていた。継代は細胞をTrypLEでプレートから剥離して培地で洗浄後、細胞密度を400細胞/mm2以上でT25コラーゲンIフラスコに播種する。臨床研究には基本的にP2或いはP3までの培養の細胞が用いられているが、P5~P6までの培養細胞を用いることができる。培養に用いる主な生物由来原材料はFBS(原産国オーストラリア)である。
【0600】
HCECの培養
公開されているプロトコルにいくつかの変更を加えたものに従ってHCECを培養した(Nayak SK, Binder PS. Invest Ophthalmol Vis Sci. 1984; 25:1213-6)。合計30名の異なる年齢のヒトドナーの角膜を実験に使用した。簡潔に記載すると、デスメ膜をCECとともにドナーの角膜から剥がし、37℃において1mg/mLのコラゲナーゼA(Roche Applied Science, Penzberg, Germany)で2時間処理して消化した。単一のドナー角膜から取得したHCECを、I型コラーゲンコーティング6ウェル細胞培養プレート(Corning Inc., Corning, NY, USA)のウェルの一つに播種した。培養培地は公開されているプロトコルにしたがって調製した。簡潔に記載すると、基礎培地は、Opti-MEM-I(Life Technologies Corp., Carlsbad, CA, USA)、8%のウシ胎児血清(FBS)、5ng/mLの上皮成長因子(EGF; Life technologies)、20μg/mLのアスコルビン酸(Sigma-Aldrich Corp.)、200mg/Lの塩化カルシウム(Sigma-Aldrich Corp., St. Louis, MO, USA)、0.08%のコンドロイチン硫酸(Wako Pure Chemical Industries, Ltd., Osaka, Japan)および50μg/mLのゲンタマイシンを用いて調製した。馴化液は以前に記載されたとおりに調製した(Nakahara, M. et al. PLOS One (2013) 8, e69009)。この馴化液を用いて5%のCO2を含む加湿大気下において37℃でHCECを培養した。培養培地は週に2回交換した。コンフルエントに達した場合、37℃で12分間10xTrypLE Select (Life technologies)を使用してHCECを細胞密度800 cells/mm2で継代培養した。第2~第5継代のHCECを全ての実験に使用した。
【0601】
細胞数の計測
細胞懸濁液を等量の0.4%トリパンブルー溶液(Sigma, T8154)と混和した後、血球計算盤にて細胞数を計測した。
【0602】
細胞のソーティング
細胞ソーティング実験のために、HCECを回収し、上記の通りFITC結合抗ヒトCD24 mAbおよびPE-Cy 7結合抗ヒトCD44 mAb(BD Biosciences)で染色した。バッファーで洗浄した後、細胞をFACSバッファーに再懸濁させた。CD24ネガティブ/CD44ポジティブ細胞およびCD24ネガティブ/CD44ネガティブ細胞をBD FACSJazzセルソーター(BD Biosciences)を使用してソーティングし、後の解析のために24ウェル細胞培養プレート上に4.2×104細胞の密度で播種した。
【0603】
培養HCECのフローサイトメトリー解析
HCECを、上記の通りTrypLE Select処理によって培養ディッシュから回収し、FACSバッファー(1%のBSAおよび0.05%のNaN3を含むPBS)中に4×106細胞/mLの濃度で懸濁した。同じ体積の抗体溶液を添加し、4℃で2時間インキュベートした。FACSバッファーで洗浄した後、HCECをFACS Canto II(BD Biosciences)で解析した。
【0604】
MACSによるHCEC亜集団の単離
HCECを、上記の通りTrypLE Selectで遊離させ、CD44
-HCEC亜集団(エフェクター亜集団)を抗ヒトCD44マイクロビーズ(Miltenyi Biotec, Bergisch Gladbach, Germany)およびautoMACS Pro separator(Miltenyi Biotec)のプログラムdepl05を用いて単離した。フローサイトメトリーにより確かめたところ、単離したエフェクター亜集団の純度は、全ての場合において90%より高かった(
図65~
図67)。
【0605】
(実施例12:臨床研究における水疱性角膜症患者への投与細胞懸濁液の調製:投与ビヒクルの種類、ROCK阻害剤、細胞の安定性)
水疱性角膜症患者への注入用細胞懸濁液の調整の概略を以下に示す。
【0606】
培養終了後、フラスコ内の細胞をPBSで洗浄して、TrypLEで処理する。細胞を回収後、Opit-MEMで2回洗浄してBSAなど培養液成分を充分に除いた後、注入液(ビヒクル)と100μM Y-27632を添加して細胞懸濁液を調整し、注入ビヒクルとした。
【0607】
この注入ビヒクルを用いた場合、氷中・室温共に6時間までの生存率に変化が無いことを確認した。また、注入ビヒクル中の長時間の安定性の検討試験も実施した。Opti-MEMとの比較で眼科領域でよく使用されている眼還流液であるオペガード(10%HSAを添加)と最長72時間にわたって細胞生存率を比較した。
【0608】
その結果、少なくとも24時間までの生存率に関しては共に80%以上を示した。注入ビヒクル中の細胞の安定性に関して、多施設治験を想定して再度CPCで調整後24時間~48時間の安定性試験として生存率のみならず細胞表面のマーカーならびに産生物など品質規格試験項目について安定性が示される。
【0609】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および他の文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。本発明は、日本国において、2016年2月15日に出願された、特願2016-26423、特願2016-26424、特願2016-26425、特願2016-26426、および特願2016-77450に対して優先権を主張するものであり、これらの出願のその内容の全体が、本願において参考として援用される。
【産業上の利用可能性】
【0610】
本治療法は、角膜内皮再生医療にパラダイムシフトをもたらすもので、国際展開のできる汎用性のある医療として世界で100万人を超える患者への適応拡大の潜在可能性を有することから、医療産業およびその周辺産業において利用可能性が見出される。