(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-13
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】軟骨細胞の無血清培養方法,及び無血清培地
(51)【国際特許分類】
C12N 5/077 20100101AFI20220203BHJP
C07K 14/50 20060101ALN20220203BHJP
C07K 14/62 20060101ALN20220203BHJP
C07K 14/475 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
C12N5/077
C07K14/50
C07K14/62
C07K14/475
(21)【出願番号】P 2020139666
(22)【出願日】2020-08-20
(62)【分割の表示】P 2019096659の分割
【原出願日】2015-10-26
【審査請求日】2020-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2014231489
(32)【優先日】2014-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】514235444
【氏名又は名称】株式会社リジェネシスサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】矢永 博子
(72)【発明者】
【氏名】矢永 克
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】特表2000-515023(JP,A)
【文献】特表2002-529071(JP,A)
【文献】特開2008-136396(JP,A)
【文献】特表2009-540826(JP,A)
【文献】国際公開第2014/084085(WO,A1)
【文献】日本美容外科学会会報,2014年12月25日,Vol.36, No.4,p.150
【文献】日本創傷外科学会総会・学術集会プログラム・抄録集,2014年,Vol.6th,p.74
【文献】日本創傷外科学会総会・学術集会プログラム・抄録集,2013年,Vol.5th,p.77
【文献】Development,2001年12月15日,128(24),p.5099-5108
【文献】Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,2002年10月21日,99(22),p.14071-14076
【文献】Science,2012年04月05日,336(6082),p.717-721
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルトゲニンと,
FGF2,ヒドロコルチゾン,IGF(インスリン様増殖因子)
,インスリン
及びITSを含む軟骨細胞培養用の無血清培地。
【請求項2】
請求項1に記載の培地であって,0.05M以上5μM以下のカルトゲニンを含む培地。
【請求項3】
請求項1に記載の培地であって,培養対象である軟骨細胞を更に含む培地。
【請求項4】
請求項1に記載の培地と,アスコルビン酸剤及び脂肪酸剤を含む培地キットであって,
前記アスコルビン酸剤は,アスコルビン酸,アスコルビン酸の塩又はアスコルビン酸の溶媒和物を含み,
前記脂肪酸剤は,脂肪酸,脂肪酸の塩,又は脂肪酸の溶媒和物を含む,
培地キット。
【請求項5】
ヒト軟骨細胞を含む組織を,コラゲナーゼで処理する酵素処理工程と,
前記組織を無血清培地で培養する培養工程と,
を,この順で含み,
前記無血清培地は,カルトゲニンと,
FGF2,ヒドロコルチゾン,IGF(インスリン様増殖因子)
,インスリン
及びITSを含む,
軟骨細胞の無血清培養方法であって,
前記培養工程は,
培養開始から3日目から28日目の期間にアスコルビン酸,アスコルビン酸の塩又はアスコルビン酸の溶媒和物を前記無血清培地に添加し,
培養開始から3日目から28日目の期間に脂肪酸,脂肪酸の塩,又は脂肪酸の溶媒和物を前記無血清に添加する工程を含む,
方法。
【請求項6】
請求項5の方法であって,前記酵素処理工程の後に,前記組織をコラゲナーゼ阻害剤で処理する阻害剤処理工程を更に含む,方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,無血清培養を行う前に細胞をタンパク質分解酵素で処理した軟骨細胞の培養方法や,その方法に適した無血清培地に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2003-125787号公報には,軟骨細胞分化培養に用いられる無血清培地や,その無血清培地を用いた軟骨細胞の培養方法が開示されている。
【0003】
特許第3638614号公報には,軟骨細胞培地及びその培地を用いた軟骨細胞の培養方法が開示されている。また,この文献には,ITSが開示されている。
【0004】
特表2002-529071号公報には,軟骨細胞様細胞のための無血清培地が開示されている。
【0005】
特表2009-540826号公報には,初代ヒト軟骨細胞を関節軟骨生検から単離し,プロテアーゼ(ストレプトマイセス・グリセウス)を用いて1時間酵素的消化を行い,その後,コラゲナーゼで酵素的消化を行なう軟骨細胞の培養方法が開示されている。この文献では,コラゲナーゼが軟骨から軟骨細胞を剥離するために用いられている。コラゲナーゼが過度に作用すると細胞を障害する。このため,細胞にコラゲナーゼが付着した状態で無血清培養を行うと,軟骨細胞がうまく培養できない他,得られた軟骨細胞が移植等に適さない場合がある。
【0006】
特表2015-522590公報の段落[0145]には,カルトゲニンが変形性関節症の処置を助ける小分子であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-125787号公報
【文献】特許第3638614号公報
【文献】特表2002-529071号公報
【文献】特表2009-540826号公報
【文献】特表2015-522590公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の培養方法では,軟骨が培養されるものの,実際に培養した軟骨を移植等しようとした場合に,良好な結果が得られない場合があった。
【0009】
そこで,本発明は,効果的に培養でき,しかも良好な移植結果を得ることができる,軟骨細胞の無血清培養方法や,その方法に用いることができる無血清培地を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の側面は,軟骨細胞培養用の無血清培地に関する。この培地は,カルトゲニン又はスムーズンドアゴニストであるSAGのいずれか又は両方と,ITS,FGF2,及びヒドロコルチゾンを含む。
【0011】
この培地は,カルトゲニン及びSAGの両方を含むものが好ましい。
【0012】
この培地は,IGF(インスリン様増殖因子)を更に含むものが好ましい。
【0013】
この培地は,培養対象である軟骨細胞を更に含むものが好ましい。
【0014】
この培地の好ましい利用態様は,この培地と,アスコルビン酸剤及び脂肪酸剤を含む培地キットであって,アスコルビン酸剤は,アスコルビン酸,アスコルビン酸の塩又はアスコルビン酸の溶媒和物を含み,脂肪酸剤は,脂肪酸,脂肪酸の塩,又は脂肪酸の溶媒和物を含むものが好ましい。
【0015】
本発明の第2の側面は,軟骨細胞の無血清培養方法に関する。この方法は,
ヒト軟骨細胞を含む組織を,コラゲナーゼで処理する酵素処理工程と,
組織を無血清培地で培養する培養工程と,
を,この順で含み,
無血清培地は,カルトゲニン又はSAGのいずれか又は両方と,
ITS,FGF2,及びヒドロコルチゾンを含む,
軟骨細胞の無血清培養方法であって,
培養工程は,
培養開始から3日目から28日目の期間にアスコルビン酸,アスコルビン酸の塩又はアスコルビン酸の溶媒和物を無血清培地に添加し,
培養開始から3日目から28日目の期間に脂肪酸,脂肪酸の塩,又は脂肪酸の溶媒和物を無血清に添加する工程を含む,
方法である。
【0016】
この方法は,好ましくは,酵素処理工程の後に,組織をコラゲナーゼ阻害剤で処理する阻害剤処理工程を更に含む。
【発明の効果】
【0017】
効果的に培養でき,しかも良好な移植結果を得ることができる,軟骨細胞の無血清培養方法や,その方法に用いることができる無血清培地を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は,実施例1における培養0日目から16日目までの培養軟骨細胞を示す図面に替わる写真である。
【
図2】
図2は,実施例1における培養19日目から41日目までの培養軟骨細胞を示す図面に替わる写真である。
【
図3】
図3は,比較例1における培養1日目から5日目までの培養軟骨細胞を示す図面に替わる写真である。
【
図4】
図4は,実施例2(継代培養)における培養1日目から13日目までの培養軟骨細胞を示す図面に替わる写真である。
【
図5】
図5は,実施例2における培養18日目から28日目までの培養軟骨細胞を示す図面に替わる写真である。
【
図6】
図6は,培養29日目から52日目までの培養軟骨細胞を示す図面に替わる写真である。
【
図7】
図7は,比較例2における培養1日目から13日目までの培養軟骨細胞を示す図面に替わる写真である。この例では,SAGを含まないDMEM培地を用いた以外は実施例2と同様にして軟骨を培養した。
【
図8】
図8は,無血清培地で培養したヒト耳介軟骨をヌードマウスの背部に移植し,6ヶ月後に軟骨が形成された様子を示す図面に替わる写真である。
【
図9】
図9は,ヌードマウスの背部に形成された軟骨を摘出した標本を示す図面に替わる写真である。
【
図10】
図10は,無血清培地(SAG+ITS)で培養したヒト耳介軟骨をヌードマウス背部に移植し,形成された軟骨の切片をトルイジンブルー,アリシアンブルーまたはEVG(Elastica Vangeson)にて染色した結果を示す図面に替わる写真である。
【
図11】
図11は,無血清培地(Kartogenin+ITS)で培養したヒト耳介軟骨をヌードマウス背部に移植し,形成された軟骨の切片をトルイジンブルー,アリシアンブルーまたはEVGを用いて染色した結果を示す図面に替わる写真である。
【
図12】
図12は,SAG濃度と培養軟骨細胞の増殖との関係を示すグラフである。
【
図13】
図13は,ITSとSAGを培地に添加した場合における,SAG濃度と培養軟骨細胞の増殖との関係を示すグラフである。
【
図14】
図14は,ITSとSAGを培地に添加した場合における,SAG濃度と培養軟骨細胞の増殖との関係を示す別のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下,図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜修正したものも含む。
【0020】
本発明は,軟骨細胞の無血清培養方法に関する。この方法は,酵素処理工程と,培養工程とを含む。この方法は,阻害剤処理工程を含んでも良い。
【0021】
酵素処理工程は,ヒト軟骨細胞を含む組織を,タンパク質分解酵素で処理する工程である。具体的に説明すると,ヒト軟骨細胞を含む組織とタンパク質分解酵素とを接触させ,ヒト軟骨細胞を含む組織に含まれるタンパク質をタンパク質分解酵素により分解させる工程である。タンパク質分解酵素で処理すること自体は既に知られているため,既に知られている方法に基づいてこの工程を行えばよい。
【0022】
ヒト軟骨細胞の例は,耳介軟骨,鼻中隔軟骨,肋軟骨,関節軟骨,脊間軟骨,気管軟骨,喉頭蓋から採取される軟骨細胞や,ヒト遺伝子から培養されたヒト軟骨細胞である。ヒト軟骨細胞を採取する方法は,公知である。すなわち外科的に患者からヒト軟骨細胞を採取すればよい。また,本発明は,軟骨細胞に分化しうる細胞を適宜用いて,ヒト軟骨細胞を得てもよい。ヒトや温血動物の骨髄由来の細胞,関節軟骨由来の細胞,皮膚由来の細胞,胚細胞,胎児由来細胞を用いてもよい,軟骨細胞に分化しうる細胞の例は,ヒト間葉系幹細胞,脱分化した軟骨細胞(例,脱分化したヒト正常軟骨細胞)である。
【0023】
そして,本発明は,ヒト軟骨組織と集合軟骨細胞を単細胞(single cell)にするためにタンパク質分解酵素で処理する。この工程は,ヒト軟骨組織や集合細胞に含まれるタンパク質の一部をタンパク質分解酵素で分解する消化工程である。タンパク質分解酵素の例は,トリプシン又はコラゲナーゼである。コラゲナーゼは,例えば,特許第4764006号公報や,特許第5322637号,及び特表2009-540826号公報に開示される通り,公知の化合物である。コラゲナーゼは,動物由来の成分を含まないコラゲナーゼが好ましい。そのようなコラゲナーゼは市販されているため,動物由来の成分を含まないコラゲナーゼを購入すればよい。この溶液には,たとえば,ペニシリンやストレプトマイシンといった公知の抗生物質を適宜含んでもよい。酵素処理工程は,たとえば,タンパク質分解酵素を含む溶液を用意し,この溶液にヒト軟骨細胞を浸漬すればよい。このようにして,ヒト軟骨細胞に含まれるタンパク質の一部をタンパク質分解酵素で分解することができる。もっとも,コラゲナーゼなどのタンパク質分解酵素は,ヒト軟骨細胞を完全には分解しない程度にヒト軟骨細胞と作用させることが好ましい。このため,タンパク質分解酵素は,溶液中に,0.01重量%以上1重量%以下(又は0.1重量%以上0.5重量%以下)含まれるものが好ましい。そして,浸漬時間は,例えば,3時間以上24時間以下のように調整することが好ましい。
【0024】
阻害剤処理工程は,酵素処理工程の後に,組織をタンパク質分解酵素の阻害剤で処理する工程である。この工程は,タンパク質分解酵素で処理された組織にタンパク質分解酵素の阻害剤を接触させ,タンパク質分解酵素の機能を阻害する処理を行う工程である。阻害剤の例は,トリプシン阻害剤又はコラゲナーゼ阻害剤である。トリプシン阻害剤及びコラゲナーゼ阻害剤の例は,大豆由来タンパク分解酵素阻害剤である。コラゲナーゼ阻害剤の他の例は,特許第5044071号公報に開示されるレチノール酸や,特開平5-97674号公報に開示される8-ヒドロキシキノリン誘導体である。レチノール酸は,塩や溶媒和物の形で用意されてもよい。塩や溶媒和物については,後述する通りである。この阻害剤処理工程も先の酵素処理工程と同様にして行うことができる。阻害剤処理工程は,たとえば,タンパク質分解酵素の阻害剤を含む溶液を用意し,この溶液にヒト軟骨細胞を浸漬すればよい。このようにして,ヒト軟骨細胞に含まれるタンパク質分解酵素の機能を阻害することができる。このように阻害剤処理工程を含むことで,本発明は効果的に良好な軟骨細胞を培養できる。
【0025】
つまり,軟骨細胞を培養するとコラーゲンが発現する。このため通常であれば,採取した軟骨細胞をコラゲナーゼで処理しようとは思わない。軟骨細胞は,軟骨組織中ではコラーゲンなどの細胞外マトリクス(matrix)に取り囲まれている。従って軟骨細胞をマトリクス(matrix)から取り出すために,本発明ではあえて,採取した軟骨細胞をコラゲナーゼやトリプシンで処理し,軟骨細胞の培養や移植後にふさわしくない成分を分解する。一方,トリプシンが機能を発揮し続けると,軟細胞が傷害されて,軟骨細胞の培養が進まない。そのため,本発明は,阻害剤処理工程で,トリプシンなどのタンパク質分解酵素の機能を阻害する。血清中にはタンパク分解酵素阻害剤様成分が存在するので,血清を用いた培地にはタンパク分解酵素阻害剤の添加は必要ない。一方,無血清培地には酵素阻害剤様成分がないので,タンパク質分解酵素の機能を阻害するために酵素阻害剤様成分を添加する。なお,コラゲナーゼを用いた場合もコラゲナーゼ阻害剤を用いてもよいが,コラゲナーゼの作用は強くないので,コラゲナーゼ阻害剤を用いなくてもよい。
【0026】
培養工程は,阻害剤処理工程の後に,組織を無血清培地で培養する工程である。軟骨細胞の無血清培養は上記のとおりすでに知られている。したがって,本発明においても公知の培養方法を適宜採用すればよい。一方,本発明は,無血清培地がスムーズンドアゴニストを含むことが好ましい。スムーズンド又はスムーズンド受容体は,例えば,特許第5270362号公報や,特許第5424923号公報において紹介されている通り,ソニックヘッジホッグ(Shh)を活性化させるタンパク質である。そして,スムーズンド(smoothened)アゴニストは,SAG又はSAG1.1であることが好ましい。SAGは,CAS番号364590-63-6で知られ,化学物質名がN-メチル-N’-(3-ピリジニルベンジル)-N’-(3-クロロベンゾ[b]チオフェン-2-カルボニル)-1,4-ジアミノシクロヘキサン(N-Methyl-N’-(3-pyridinylbenzyl)-N’-(3-chlorobenzo[b]thiophene-2-carbonyl)-1,4-diaminocyclohexane)である化合物である。SAGは,国際公開WO2014-084085号パンフレットに開示される通り,ソニックヘッジホッグ(Shh)を活性化させるタンパク質である。SAG1.1は,化学物質名がN-メチル-N’-(3-(4-ベンゾニトリル)-4-メトキシベンジル)-N-(3-クロロベンゾ[b]チオフェン-2-カルボニル)-1,4-ジアミノシクロヘキサン(N-Methyl-N-(3-(4-benzonitrile)-4-methoxybenzyl)-N’-(3-chlorobenzo[b]thiophene-2-carbonyl)-1,4-diaminocyclohexane))である。SAGについては文献Sinha S, Chen JK. Nat Chem Biol. 2006 Jan;2(1):29-30.及びChen JK, Taipale J, Young KE, Maiti T, Beachy PA. Proc Natl Acad Sci U S A. 2002 Oct 29;99(22):14071-6.に詳しい。同様に,SAG1.1については文献Chen, W., Ren, X. R., Nelson, C. D., Barak, L. S., Chen, J. K., Beachy, P. A.,de Sauvage, F. & Lefkowitz, R. J. (2004) Science 306,(5705) 2257-2260に詳しい。
【0027】
軟骨細胞を培養する方法は,通常の経験や知見に基づいて適宜行えばよい。無血清培地として,基本培地に適宜試薬を添加したものを用いればよい。試薬の量は,公知の量を適宜修正して用いればよい。
【0028】
本発明は,無血清培地をも提供する。この無血清培地は,スムーズンドアゴニスト(たとえば,SAG)を含むことが好ましい。そして,この培地は,軟骨細胞の培養に好ましく用いられる。このため,この無血清培地は,培養時において,軟骨細胞を含む無血清培地である。
【0029】
本発明の培地は,好ましくは,カルトゲニン(Kartogenin)を含む。カルトゲニンは,物質名が,2-[(ビフェニル-4-イル)カルバモイル]ベンゼン酸(2-[(Biphenyl-4-yl)carbamoyl]benzoic acid)であり,市販されている。本発明の培地は,カルトゲニン及びSAGのいずれか又は両方を含むことが好ましく,カルトゲニンのみを含むものであっても,SAGのみを含むものであってもよいし,カルトゲニンとSAGを両方含むものであっても良い。
【0030】
本発明の無血清培地は,基本培地に適宜必要な要素を添加すればよい。基本培地の例は,イーグル基礎培地,及びDMEMである。試薬は,培地に用いる公知のものを適宜添加すればよい。試薬の例は,上記したSAG(又はSAG1.1),FGF2(ビーズ),IGF(インスリン様増殖因子),インスリン,HC(ヒドロコルチゾン)などのステロイド,PDGF(platelet derived growth factor),ACTH(副腎皮質刺激ホルモン),LIF(白血病阻害因子),TGFβ,BMP,ステロイド,脂肪酸,大豆トリプシン阻害剤,アスコルビン酸,ヒアルロン酸,プロリン,デキサメタゾン,インスリン,トランスフェリン,亜セレン酸である。アスコルビン酸などを培地に添加する場合,2-リン酸塩など塩の形のものを添加してもよい。
【0031】
例えば,特許5228187号には,グルクロン酸を含むことを特徴とする軟骨細胞培養用培地組成物が開示されている。本発明においても,例えば,この公報に記載されている培地の添加物を適宜用いればよい。
【0032】
インスリンは,ITSとして添加されるものが好ましい。ITSは,インスリン,トランスフェリン,及び亜セレン酸ナトリウムを含む試薬であり,その組成例は,インスリン5μg/ml,トランスフェリン5μg/ml,及び亜セレン酸ナトリウム5ng/mlである。ITSは,市販されているので,市販されているものを適宜用いればよい。ITSは,動物由来の成分を含まないアニマルフリーのものが好ましい。なお,本発明においては,基本的に動物由来の成分を含まない原料を用いることが好ましい。
【0033】
SAG,カルトゲニン,FGF2,IGF(インスリン様増殖因子),インスリン,ヒドロコルチゾンなどのステロイド,PDGF,ACTH(副腎皮質刺激ホルモン),LIF(白血病阻害因子),TGFβ,BMP,ステロイド,及びITSは,たとえば,それぞれ培地に0.1ng/mL以上20μg/mL以下(又は0.2ng/mL以上10μg/mL以下)となるように添加すればよい。これらは精製の程度や必要量に応じて適宜調整して添加すればよい。試行錯誤の結果,無血清培地は,基本培地に,SAG(たとえば,0.05以上5μM以下,好ましくは0.1μM以上2μM以下,好ましくは0.2μM以上1μM以下),FGF2(たとえば,1ng/mL以上1μg/mL以下),IGF(たとえば,1ng/mL以上50μg/mL以下),及びHC(たとえば,1ng/ML以上μg/mL以下)を添加したものをベースとしたものが好ましいことが分かった。
【0034】
上記の細胞を通常の培養条件(例えば37℃,5%CO2)で培養・増殖させる。細胞量は10%前後から100%コンフルエントな状態まで可能であり,また,100%コンフルエントを超えるような高密度,重層状態での培養も可能である。移植後すぐに,あるいはしばらく静置した後,低酸素状態に移行させてもよい。低酸素培養は,例えば市販の窒素ガスなどを混合し,酸素分圧を低下させるタイプの低酸素インキュベーターを用いることもできるし,適当な空間に窒素ガスなどを吹き込んで酸素分圧を下げるなどして培養してもよい。
【0035】
実施例において行った培養工程は,以下のとおりである。すなわち,上記のSAGを培地に添加した。培地にアスコルビン酸や脂肪酸を適宜添加する。実験を繰り返した結果,アスコルビン酸や脂肪酸を培養開始から含めた場合,軟骨細胞がうまく増殖しなかった。一方,アスコルビン酸や脂肪酸を,培養開始後所定期間が経た後に添加すると軟骨細胞が顕著に増加した。よって,培養開始後3日から28日目の期間にアスコルビン酸,アスコルビン酸の塩又はアスコルビン酸の溶媒和物を無血清培地に添加することが好ましい。アスコルビン酸の添加時期は,培養開始から5日目から25日目までの期間であってもよいし,10日目から22日目の期間であってもよいし,14日から21日目の期間であってもよい。また,これらの期間を適宜短縮又は延長した期間であってもよい。また,培養開始から3日目から28日目の期間に脂肪酸,脂肪酸の塩,又は脂肪酸の溶媒和物を無血清培地に添加することが好ましい。脂肪酸等の添加時期は,培養開始から5日目~2ヶ月目までの期間からであってもよいし,10日目から40日目までの期間からであってもよいし,19日目から25日目であってもよい。このような培養を行うことで,対照に比べて圧倒的に効果的に軟骨細胞を培養できた。
【0036】
本発明の方法で製造された軟骨細胞または軟骨は,例えば,関節疾患(例,整形外科領域における骨折,再骨折,骨変形・変形脊椎症,骨肉腫,骨髄腫,骨形成不全,側弯症等の非代謝性骨疾患;骨欠損,骨粗鬆症,骨軟化症,くる病,線維性骨炎,腎性骨異栄養症,骨ぺーチェット病,硬直性脊髄炎等の代謝性骨疾患;変形性関節炎,慢性関節リウマチなどの軟骨疾患)などにおいて,軟骨を修復するための外科的手法として行われる軟骨移植に使用することが可能である。軟骨移植方法は常套手段を用いて行うことができる。したがって,本発明の方法で製造された軟骨細胞または軟骨は,上記関節疾患に対する安全で低毒性な予防・治療剤として使用することができる。また,本培養系を用いて軟骨分化に関わる遺伝子の探索や,医薬品の探索も可能である。
【0037】
培養細胞の回収
上記のようにして培養された軟骨細胞は,細胞が積み重なってできた集合体を形成している。そのため,例えば,培養後,培地に横方向から棒を挿入し,その棒を上方へ引き上げると,軟骨組織の培養物を効果的に回収することができる。通常であれば,培養細胞を回収するために,容器から軟骨組織をはがす必要がある。このため,通常の方法では,コラゲナーゼやトリプシンといったタンパク質分解酵素を作用させて容器から軟骨細胞を剥離していた。このため,培養して得られる軟骨組織は,ばらばらのものしか得られなかった。本発明の培養方法では,軟骨細胞が積み重なってできた集合体が,容器から剥がれやすい状態となっているため,上記の回収方法を用いるだけで,例えばシート状や塊状の軟骨組織を容易に回収できる。
【実施例1】
【0038】
組織の消化-培養準備-
初代ヒト軟骨細胞を関節軟骨生検から単離し,その試料を細分した。その後,0.1%から0.3%コラゲナーゼ溶液に浸漬し,37℃にて4から5時間酵素的消化を行なった。得られた細胞を5分間,1,200rpmで遠心分離して回収した。
【0039】
DMEM培地に,FGF100ng/mL,SAG0.5μM,HC400ng/mL,IGF5ng/mL及びインスリン5μg/mLを添加したものを培地として用いた。先に得られた培養細胞を,1000細胞/cm2の密度で播種した。培養は,37℃,5%CO2の環境において行った。
【0040】
図1は,実施例1における培養0日目から16日目までの培養軟骨細胞を示す図面に替わる写真である。軟骨組織が徐々に増加したことがわかる。
【0041】
図2は,実施例1における培養19日目から41日目までの培養軟骨細胞を示す図面に替わる写真である。培養18日目に培地に50μg/mLのアスコルビン酸を添加した。試行錯誤の結果,この程度の期間においてアスコルビン酸を添加することが,無血清培地において軟骨細胞を培養するうえで非常に有効であることが分かった。培養3週間日目に脂肪酸を1:1000から1:500で添加した。脂肪酸を加えたところ細胞数が増え,培地の粘度が上がった。
【0042】
培養中に添加した脂肪酸及びコレステロールは,以下のとおりである。
【0043】
培養中に添加している脂肪酸及びコレステロール
濃度 mg/mL
アラキドン酸 2.0
リノール酸 10.0
リノレン酸 10.0
ミリスチン酸 10.0
オレイン酸 10.0
パルミチン酸 10.0
パルミトオレイン酸 10.0
ステアリン酸 10.0
コレステロール 220.0
DLα酢酸トコフェロール(ビタミンE) 70.0
【0044】
上記の添加量は±200%,好ましくは±100%の範囲で増減しても構わない。なお,脂肪酸の範囲は1:50から1:2000の範囲であってもよい。
【0045】
継代培養の際は,コラゲナーゼに替えてトリプシンを用い,回収した細胞をトリプシン阻害剤である大豆由来タンパク分解酵素阻害剤に浸漬した。
【0046】
[比較例1]
図3は,比較例1における培養1日目から5日目までの培養軟骨細胞を示す図面に替わる写真である。この例では,SAGを含まないDMEM培地を用いた以外は実施例1と同様にして軟骨を培養した。
図3に示されるとおり,SAGを含まない状態では,軟骨細胞を効果的に培養できないことが示された。
【0047】
アスコルビン酸及び脂肪酸の添加時期の調整
アスコルビン酸の添加を培養開始時,培養開始1時間後,3時間後,12時間後,1日後,2日後,3日後,5日後,1週間後,10日後,2週間後,20日後,3週間後,25日後,4週間後,30日後,5週間後,40日後,6週間後,45日後,7週間後,50日後,8週間後,60日後,9週間後,70日後のそれぞれから開始した。アスコルビン酸の添加は,定期的(例えば,12時間毎,1日毎,2日毎)とした。
脂肪酸の添加も,アスコルビン酸の添加と同様に調整した。
その結果,培養開始からすぐにアスコルビン酸を添加するよりも,3日程度経過した後からアスコルビン酸を添加することが望ましいことがわかった。
脂肪酸の添加も,アスコルビン酸の添加と同様であったが,アスコルビン酸の添加を行った後に,脂肪酸を添加したケースの方が望ましいことがわかった。
【実施例2】
【0048】
DMEM培地に,FGF2を100ng/mL,SAG0.5μM,HC400ng/mL,IGF5ng/mL及びインスリン5μg/mLを添加したものを継代培養用の培地として用いた。実施例1で培養細胞を,10000細胞/cm2の密度で播種した。培養は,37℃,5%CO2の環境において行った。
【0049】
図4は,実施例2(継代培養)における培養1日目から13日目までの培養軟骨細胞を示す図面に替わる写真である。培養開始から10日程度で,培地に粘性が見られ,吸引器で培地を除去すると細い糸を引くことが観測された。13日目から培地の粘度が上がっていた。
【0050】
図5は,実施例2における培養18日目から28日目までの培養軟骨細胞を示す図面に替わる写真である。培養18日目に培地に50μg/mLのアスコルビン酸を添加した。試行錯誤の結果,この程度の期間においてアスコルビン酸を添加することが,無血清培地において軟骨細胞を培養するうえで非常に有効であることが分かった。培養3週間日目に脂肪酸を1:1000から1:500で添加した。脂肪酸を加えたところ細胞数が増え,培地の粘度が上がった。
【0051】
図6は,培養29日目から52日目までの培養軟骨細胞を示す図面に替わる写真である。吸引器で培地を除去すると太い糸を引いた。図に示される通り,無血清培地を用いた軟骨細胞の培養により,効果的に軟骨細胞を培養できることが示された。
【0052】
培養中に添加した脂肪酸及びコレステロールは,以下のとおりである。
【0053】
培養中に添加している脂肪酸及びコレステロール
濃度 mg/ML
アラキドン酸 2.0
リノール酸 10.0
リノレン酸 10.0
ミリスチン酸 10.0
オレイン酸 10.0
パルミチン酸 10.0
パルミトオレイン酸 10.0
ステアリン酸 10.0
コレステロール 220.0
DLα酢酸トコフェロール(ビタミンE) 70.0
【0054】
上記の添加量は±200%,好ましくは±100%の範囲で増減しても構わない。なお,脂肪酸の範囲は1:50から1:2000の範囲であってもよい。
【0055】
[比較例2]
図7は,比較例2における培養1日目から13日目までの培養軟骨細胞を示す図面に替わる写真である。この例では,SAGを含まないDMEM培地を用いた以外は実施例2と同様にして軟骨を培養した。
図7に示されるとおり,SAGを含まない状態では,軟骨細胞を効果的に培養できないことが示された。
【実施例3】
【0056】
本発明の無血清培地で培養した軟骨細胞が,移植に適した細胞であることを確認するため,ヌードマウスに移植し,生体内で軟骨が形成されるかを調査した。
まず,ヒト耳介軟骨由来の軟骨細胞を,実施例1で述べた手順に従って準備し,本発明の無血清培地で培養した。培養後の軟骨細胞をコラーゲンの綿に浸漬させ,次いで,この綿と共にヌードマウスの背部の2か所に移植した。移植手術およびヌードマウスの管理は,公知の方法に従って行った。移植の6ヶ月後,ヌードマウスの背部を切開し,移植部位に細胞が定着し,軟骨が形成されているか否かを確認した。
【0057】
図8は,移植の6ヶ月後に,ヌードマウスの背部を切開した様子を示した写真である。培養した軟骨細胞を移植した部位(左右の背部)に,大きな白い軟骨(A-2,B-2)が確認できた。よって,培養細胞が移植部位に定着して増殖し,軟骨を形成したこと考えられた。
【0058】
図9は,ヌードマウスの背部に形成された軟骨を摘出した様子を示している。A1は,下記の培養条件(A)(SAG+ITS)で培養した軟骨細胞を移植したヌードマウスに形成された軟骨を示している。ITSは,アニマルフリーのものを用いた。
【0059】
培養条件(A)
DME(H):F―12=1:1
SAG 0.1uM
FGF 50ng/mL
HC 400ng/mL
ITS ×1
培養8日目からアスコルビン酸 50ug/mL,脂肪酸 1:500を添加
【0060】
一方,C1は,下記の培養条件(C)(Kartogenin+ITG)で培養した,培地が分離しがちで一番粘度が低かった軟骨細胞を移植したヌードマウスに形成された軟骨を示している。
【0061】
培養条件(C)
DME(H):F―12=1:1
Kartogenin 1uM
FGF 50ng/mL
HC 400ng/mL
ITS ×1
培養8日目からアスコルビン酸 50ug/mL,脂肪酸 1:500を添加
【0062】
培養条件(A)で培養した軟骨細胞は,培養条件(C)で培養した軟骨細胞よりも,大きな軟骨を形成していた。また,コラーゲンの綿のみを移植したヌードマウス(ネガティブコントロール)では,軟骨が形成されなかった(D2およびD3)。
【0063】
次に,培養細胞の移植部位に形成された軟骨が,軟骨であることを組織学的に調査した。具体的には,摘出した軟骨(A1,C1)の切片を作成し,軟骨を特異的に染色するトルイジンブルーやアルシアンブルーを用いて染色した。また,弾性軟骨を特異的に染色するEVG(Elastica Vangeson)を用いて染色を行った。結果を
図10および
図11に示した。
【0064】
図10は,A1の軟骨の染色結果を示している。
図10(A)は,トルイジンブルー染色の結果であり,軟骨は紫色に染色された。
図10(B)は,アリシアンブルー染色の結果であり,軟骨は青色に染色された。従って,A1の軟骨は両染色について陽性であり,軟骨としての特性を有していることが確認された。
また,
図10(C)は,EVG染色の結果を示しており,軟骨は褐色に染色された。従って,弾性軟骨であることが証明され,耳介軟骨であることが同定された。
【0065】
図11は,C1の軟骨の染色結果を示している。
図11(A)は,トルイジンブルー染色の結果であり,軟骨は紫色に染色された。
図11(B)は,アリシアンブルー染色の結果であり,軟骨は青色に染色された。従って,C1の軟骨は両染色について陽性であり,軟骨としての特性を有していることが確認された。
また,
図11(C)は,EVG染色の結果を示しており,軟骨は褐色に染色された。従って,弾性軟骨であることが証明され,耳介軟骨であることが同定された。
【0066】
よって,本発明の無血清培地で培養した軟骨細胞は移植に適した細胞であり,ヌードマウスに移植した場合には,移植部位に軟骨を形成できることが証明された。
【実施例4】
【0067】
培地に添加するSAGの至適濃度を調査するために,無血清培地中のSAG濃度を0.05uM,0.01uMまたは,0.5uMと変え,培養軟骨細胞の増殖に対する影響を調べた。具体的には,実施例1と同様の手順で準備した軟骨細胞を,10000個/Wellの密度で播種し,播種後4,7,14,21目の細胞数を計測した。結果を
図12に示した。
いずれのSAG濃度においても,培養14日目まで細胞の増殖にほとんど差は見られず,培養21日目においても,想定したほどの顕著な差は見られなかった。
【0068】
SAGは非常に高価な試薬であるため,できるだけ低い濃度で使用できることが好ましい。発明者らは,SAGとともにITS(Insulin-Transferrin-Selenium)を添加することで,低濃度のSAGでも十分に軟骨細胞の増殖を促すことができるという知見を得たため,これを確認した。具体的には,ITSを添加した無血清培地のSAG濃度を0.01uM,0.05uM,0.1uMまたは,0.5uMと変えて,培養軟骨細胞を培養し,播種後4,7,14,21目の細胞数を計測した。結果を
図13に示した。
【0069】
ITSもSAGも添加しない場合には,軟骨細胞の増殖に対する顕著な効果は見られなかった。一方,ITSともにSAGを添加した場合には,0.01uM~0.5uMのいずれのSAG濃度においても,ほぼ同程度の軟骨細胞の増加が見られた。したがって,ITSと共に添加する場合には,0.01uMのSAGでも充分な効果が得られることが明らかとなった。
また,SAGではなく,カルトゲニン(Kartogenin)を添加した場合にも,軟骨細胞の増殖に効果的であることが明らかとなった。
【0070】
軟骨細胞の増加に対するITSとSAGの効果をさらに調べるため,ITSとSAGの両者を添加した処理区(ITS+ SAG 0.01uM,ITS+ SAG 0.1uM),ITSを単独で添加した処理区(ITS+ SAG-),ITSもSAGも添加しない処理区(ITS- SAG-)における,軟骨細胞の増加を調べた。結果を
図14に示した。
【0071】
軟骨細胞の増殖に対する効果は,ITSもSAGも添加しない処理区(ITS- SAG-)においてもっとも低かった。ITSを単独で添加した処理区(ITS+ SAG-)では,わずかに増殖効果が見られた。しかし,ITSとSAGの両者を添加した処理区に比べるとその効果は小さかった。よって,軟骨細胞の増殖に対するITSの効果はあまり強くなく,SAGと組み合わせることによって顕著な効果が得られるといえる。
また,ITSとKartogeninを組み合わせた処理区(ITS+ Kartogenin 1uM)でも,軟骨細胞の増殖効果が見られることが分かった。ただし,ITGとSAGの組み合わせた場合に比べると,その効果は小さかった。
【0072】
これらの結果より,軟骨細胞の増殖には,ITSと共にSAGを添加することが有効であることが確認できた。また,ITSと共にKartogeninを添加することも有効であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の無血清培地や軟骨細胞の培養方法は,培養軟骨を製造するために用いることができる。このため,本発明や医薬産業の分野で利用されうる。