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  • 特許-エアー式陰圧室装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-13
(45)【発行日】2022-02-14
(54)【発明の名称】エアー式陰圧室装置
(51)【国際特許分類】
   A61G 10/02 20060101AFI20220118BHJP
【FI】
A61G10/02 M
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021029208
(22)【出願日】2021-02-25
【審査請求日】2021-02-25
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年3月1日に自社ウェブサイトにて公開[刊行物等] 令和2年4月1日に自社ウェブサイトにて公開[刊行物等] 令和2年4月9日に自社ウェブサイトにて公開[刊行物等] 令和2年9月18日に自社ウェブサイトにて公開[刊行物等] 令和2年10月1日に自社ウェブサイトにて公開[刊行物等] 令和2年10月29日に自社ウェブサイトにて公開[刊行物等] 令和2年10月31日に自社ウェブサイトにて公開[刊行物等] 令和2年11月26日に自社ウェブサイトにて公開[刊行物等] 令和3年1月7日に自社ウェブサイトにて公開[刊行物等] 令和3年1月9日に自社ウェブサイトにて公開[刊行物等]令和3年1月23日に自社ウェブサイトにて公開[刊行物等]令和3年2月3日に自社ウェブサイトにて公開[刊行物等]令和3年2月6日に自社ウェブサイトにて公開[刊行物等]令和3年2月9日に自社ウェブサイトにて公開[刊行物等]
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520414103
【氏名又は名称】株式会社ワン・ステップ
(74)【代理人】
【識別番号】100177220
【弁理士】
【氏名又は名称】小木 智彦
(72)【発明者】
【氏名】山元 洋幸
(72)【発明者】
【氏名】金子 泰之
【審査官】齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-204312(JP,A)
【文献】国際公開第2006/095849(WO,A1)
【文献】特開2004-069400(JP,A)
【文献】特開2011-234929(JP,A)
【文献】特開平11-264264(JP,A)
【文献】中国実用新案第203321062(CN,U)
【文献】米国特許出願公開第2017/0156961(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 10/00-04
E04H 15/00-64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一又は複数の中空柱状体で構成され該中空柱状体の中空内部にエアーを注入することにより自立するエアー注入式構造体と、
自立した前記エアー注入式構造体によって形状保持されて閉鎖空間を形成する可撓性のシートと、
前記閉鎖空間を陰圧状態にする陰圧装置と、を備え、
前記エアー注入式構造体にエアーを出し入れすることにより収縮又は自立設置可能に設けられ
前方側の側面側のシートには入口と出口が左右に隣接して設けられ、
前記閉鎖空間は、平面視T字状の仕切りシートにより、前後に分割されるとともに前方側の分割閉鎖空間をさらに入口側と出口側と左右に分割されて、3つの分割した閉鎖空間が構成されており、
それらの3つの分割された閉鎖空間は入口から出口まで人の動線を一方通行としうるように設けられていることを特徴とするエアー式陰圧室装置。
【請求項2】
前記エアー注入式構造体の中空柱状体と前記シートとが予め接着されていることを特徴とする請求項1記載のエアー式陰圧室装置。
【請求項3】
前記エアー注入式構造体は、上面側に設置される複数の上面側中空柱状体と、
下面側に設置される複数の下面側中空柱状体と、
側面側に設置され前記上側中空柱状体と前記下側中空柱状体とを内部連通状態で連結する側面側中空柱状体と、を含むことを特徴とする請求項1又は2記載のエアー式陰圧室装置。
【請求項4】
前記下面側中空柱状体は、左右に対向配置された2本の中空柱状体と、それらを連結する中空柱状体と、で構成されることを特徴とする請求項3記載のエアー式陰圧室装置。
【請求項5】
前記閉鎖空間を閉鎖しているシートのうち少なくとも一つの側面側では、該側面側の略全体が開閉可能に設けられたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のエアー式陰圧室装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療現場等で陰圧室が必要となった際に簡易に設置することができるエアー式陰圧室装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の新型コロナウィルス(COVID-19)の流行により、ウイルス感染者が急激に増加し、世界的に大きな問題となっている。新型コロナウイルスに限らず、ウイルス感染症等の感染者は、感染拡大を防止するために適切な施設で隔離することが望ましく、例えば、感染者がいる病室内の汚染されたおそれがある空気をそのまま外に出さないようにするために、室内の気圧を室外よりも低くするとともに定期的に換気が行われる陰圧室が利用される。
【0003】
従来の病院施設では、例えば、特定の病室に室内空気をHPEAフィルタ付きの陰圧装置によって排気して陰圧室が形成されているが、陰圧室を備えた病院施設はそれほど多くない現状にある。特に、前述のように昨今の新型コロナウイルスの急激な流行により、病院施設の陰圧室は数が不足しがちであり、その対策が喫緊の課題となっている。
【0004】
一方、陰圧空間を利用した感染者隔離室に関する技術も種々提案されており、例えば、特許文献1には、互いに隙間をあけて設置される二枚のシートをフレームで形状保持して最下層のシートの内側に患者の隔離室を形成するテントと、テントの外部に設置された空気清浄部と燻蒸部とを備え、空気清浄部は二枚のシートの間の隙間に形成される陰圧雰囲気生成空間の空気を吸引して陰圧雰囲気にし吸引した空気を殺菌除菌した後に排気口から排出するとともに、燻蒸部は陰圧雰囲気生成空間及び隔離室をオゾン燻蒸し、それらの空間に残るオゾンを酸素に戻して回収する隔離室形成装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-264074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、隙間を空けた二枚のシートを維持するためにシートの間にスペーサを設けたり、シートを支持するために複数本の棒状部材が組み合わさって形成されるフレームを有する構造であることから、陰圧雰囲気の隔離室を形成するための部品点数が多いうえ、所望の場所に簡単に組み立てて使用することが困難なものであった。よって、所定の場所に誰でも簡単に設置可能で、陰圧空間を確実に形成することができる陰圧室の開発が強く求められている。
【0007】
本発明は、上記従来の課題に鑑みてなされたものであり、エアーを注入して膨張させるだけで簡単かつスムーズに設置可能で、かつ、密封が徹底され良好な陰圧状態の陰圧室を形成することができるエアー式陰圧室装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明は、一又は複数の中空柱状体12A~12Dで構成され該中空柱状体12A~12Dの中空内部にエアーを注入することにより自立するエアー注入式構造体14と、自立した前記エアー注入式構造体14によって形状保持されて閉鎖空間22を形成する可撓性のシート16と、前記閉鎖空間22を陰圧状態にする陰圧装置18と、を備え、前記エアー注入式構造体14にエアーを出し入れすることにより収縮又は自立設置可能に設けられたエアー式陰圧室装置10から構成される。
【0009】
また、前記エアー注入式構造体14の中空柱状体12A~12Bと前記シート16とが予め接着されていることとしてもよい。
【0010】
また、前記エアー注入式構造体14は、上面側に設置される複数の上面側中空柱状体12Cと、下面側に設置される複数の下面側中空柱状体12Aと、側面側に設置され前記上側中空柱状体12Cと前記下側中空柱状体12Aとを内部連通状態で連結する側面側中空柱状体12Bと、を含むこととしてもよい。
【0011】
また、前記下面側中空柱状体12Aは、左右に対向配置された2本の中空柱状体と、それらを連結する中空柱状体と、で構成されることとしてもよい。
【0012】
また、前記閉鎖空間22、221、222、223を閉鎖しているシート16のうち少なくとも一つの側面側では、該側面側の略全体が開閉可能に設けられたこととしてもよい。閉鎖空間22を複数に分割した構成の場合には、それぞれの分割した閉鎖空間(221、222、223)の側面側のシートの略全体を開閉可能とするようにしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のエアー式陰圧室装置によれば、一又は複数の中空柱状体で構成され該中空柱状体の中空内部にエアーを注入することにより自立するエアー注入式構造体と、自立した前記エアー注入式構造体によって形状保持されて閉鎖空間を形成する可撓性のシートと、前記閉鎖空間を陰圧状態にする陰圧装置と、を備え、前記エアー注入式構造体にエアーを注入することで出し入れすることにより収縮又は自立設置可能に設けられたことから、主としてエアー注入式構造体にエアーを注入することで簡単に陰圧室を設置することができるとともに、エアー注入式構造体からエアーを抜くことで簡単にコンパクト収納することができ、簡便で使い勝手が良い陰圧室を提供することができる。その結果、陰圧室を所望の場所に簡単に設置することができ、陰圧室不足を解消して、感染拡大を防止しながら適切な感染症患者の治療を行うことができる。
【0014】
また、前記エアー注入式構造体の中空柱状体と前記シートとが予め接着されている構成とすることにより、エアー注入式構造体にエアーを注入するだけで該エアー注入式構造体及びシートを適切な設置状態とできるので、極めて簡単に陰圧室を設置することができる。さらに、中空柱状体とシートとの間から空気が無駄に漏れることを防止でき、閉鎖空間の陰圧状態を良好に保持できる陰圧室構造を具体的に実現できる。
【0015】
また、前記エアー注入式構造体は、上面側に設置される複数の上面側中空柱状体と、下面側に設置される複数の下面側中空柱状体と、側面側に設置され前記上側中空柱状体と前記下側中空柱状体とを内部連通状態で連結する側面側中空柱状体と、を含む構成とすることにより、エアー注入式の構造体であっても陰圧室の強度を保持でき、安定した設置状態で陰圧室を使用できる。さらに、複数の中空柱状体が互いに連通しているので、一か所の注入口からエアーを注入するだけで簡単にエアー注入式構造体を自立設置することができ、簡単に陰圧室を設置することができるとともに、一か所からエアーを抜くだけで簡単に収納することができる。
【0016】
また、前記シートで形成される閉鎖空間は、仕切りシートにより3つの分割した閉鎖空間に分割されるとともに、それらの3つの分割された閉鎖空間が人の動線を一方通行としうるような配置構成で設けられた構成とすることにより、入口側の前室と患者の治療を行う本室と出口側の前室との3つの空間に仕切って利用することで、入口側と出口側とが異なるように一方通行の動線が確保できる結果、安全性及び感染拡大防止機能をより一層向上することができる。
【0017】
また、前記閉鎖空間を閉鎖しているシートのうち少なくとも一つの側面側では、該側面側の略全体が開閉可能に設けられた構成とすることにより、閉鎖空間内へ病床や比較的大きなサイズの医療機器を陰圧室となる閉鎖空間に出し入れしやすいので使い勝手が良い。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係るエアー式陰圧室装置の斜視説明図及び一部拡大説明図である。
図2図1のエアー式陰圧室装置のエアー注入式構造体の説明図である。
図3図1のエアー式陰圧室装置の使用例を模式的にあらわした説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下添付図面を参照しつつ、本発明のエアー式陰圧室装置の実施形態について説明する。本発明に係るエアー式陰圧室装置は、必要に応じて医療現場や介護施設等の所望のスペースに簡単に設置して利用することができる感染症対策用の簡易設置式陰圧室である。
【0020】
図1ないし図3は、本発明のエアー式陰圧室装置の一実施形態を示している。図1に示すように、本実施形態では、エアー式陰圧室装置10は、中空柱状体(12A~12D)で構成されたエアー注入式構造体14と、エアー注入式構造体14の外面を閉鎖するシート16と、陰圧装置18と、を備えている。エアー注入式構造体14とシート16とでエアー式テント20を構成しており、陰圧装置18により該エアー式テント20内の空気を排気することにより陰圧室を形成する。
【0021】
図1図2に示すように、エアー注入式構造体14は、エアーを抜いた状態では収縮状態となるとともに、エアーを注入して膨張させることにより支持力を得て自立するエアー式のフレーム体である。本実施形態では、エアー注入式構造体14は、例えば、複数の中空柱状体12A、12B、12C、12Dを組み合わせて立体的なフレーム構造で形成される。各中空柱状体12A~12Dは、例えばビニル樹脂等の可撓性材料で中空筒状に形成されており、内部にエアーを注入して膨らませることで所定の強度を有しフレームとして機能する。
【0022】
図2は、説明のためにエアー注入式構造体14のみを示しているが、図2に示すように、具体的には、エアー注入式構造体14は、下面側に設置される複数の下面側中空柱状体12Aと、側面側に立ちあがって設置される複数の側面側中空柱状体12Bと、上面側に設置される複数の上面側中空柱状体12Cと、それらで囲まれた内部空間内に立設された内側中空柱状体12Dと、を有している。
【0023】
下面側中空柱状体12Aは、例えば、3本が略コ字状に配置されるとともに、そのコ字内部側に2本の中空柱状体12Aの中間位置を連結するように1本配置され、計4本が組み合わさった構成となっている。
【0024】
側面側中空柱状体12Bは、下端が下面側中空柱状体12Aに連結されて縦に立設されており、例えば、コ字状に組み付けられた下面側中空柱状体12Aの四隅位置と、コ字内部側の下面側中空柱状体12Aの両端が連結された位置と、の計6本が配置されている。
【0025】
上面側中空柱状体12Cは、対向配置された側面側中空柱状体12Bの上端を連結するように配置される3本の上面側中空柱状体12Cと、それらの3本の上面側中空柱状体12Cと直交して連結するように配置される3本の上面側中空柱状体12Cと、で構成され、計6本が設置されている。なお、側面側中空柱状体12Bと上面側中空柱状体12Cとの連結部分はアールになっており、それらが逆U字状の中空柱状体として形成されている。よって、3つの逆U字状の中空柱状体が間隔をあけて設定されるとともに、それらの逆U字状の中空柱状体が上面側中空柱状体12Cと下面側中空柱状体12Aによって連結された構成ともいえる。
【0026】
内側中空柱状体12Dは、下端がコ字内側に配置される下面側中空柱状体12Aの中間位置に連結されて立設され、上端が上面側中空柱状体12Cに連結されている。
【0027】
これらの下面側中空柱状体12Aと側面側中空柱状体12Bと上面側中空柱状体12Cと内側中空柱状体12Dは、互いに内部連通状態で連結されており、互いにエアーが自在に通過できるようになっている。すなわち、エアー注入式構造体14は、4本の下面側中空柱状体12Aと6本の上面側中空柱状体12Cとが6本の側面側中空柱状体12Bと一本の内部中空柱状体12Dにより互いに内部連通状態で連結されて組み付けられている。図1中の一部拡大図に示すように、エアー注入式構造体14は、一本の側面側中空柱状体12Bにエアーの出し入れ注入口となる空気弁26が設けられている。全ての中空柱状体12A~12Dが内部連通しているので、一か所の空気弁26から送風機28によってエアーを注入することで、全体にエアーを入れて膨張させることができ、簡単に自立状態に組み立てることができる。さらに、一か所の空気弁26から空気を出すだけで全ての中空柱状体12A~12Dを縮めてコンパクトに収納することができる。なお、エアー注入式構造体14は、上記の中空柱状体の構成に限らず、中空柱状体の数や配置構成、サイズ等は任意の構成としてもよい。また、エアー注入式構造体14は、例えば、所定の形状の一つの中空柱状体12で構成してもよい。また、空気弁を2つ設けて中空柱状体12の内部の空気圧を自動制御するようにしてもよく、この際、例えば、中空柱状体12の内部空気圧が一定以上の圧力となる場合には、自動的に排気して破裂を防止するようにしてもよい。
【0028】
シート16は、可撓性素材で形成されたシートからなり、エアーが注入されて自立したエアー注入式構造体14に形状保持されて支持されるとともに、該エアー注入式構造体14の外面側を覆って内部に陰圧室となる閉鎖空間22を形成する被覆手段である。本実施形態では、例えば透明のビニル樹脂等からなり、外部から閉鎖空間22内部を見ることができるようになっている。図1に示すように、本実施形態では、シート16は、エアー式構造体14の下面側と、四方側面と、上面側と、を全て覆うように展開して設置される。シート16は、エアー注入式構造体14の各中空柱状体12A~12Dに接着部位30で予め接着されている。このようにシート16とエアー注入式構造体14を予め所定位置で接着しておくことにより、エアー注入式構造体14にエアーを注入するだけで自動的にシート16も該エアー注入式構造体14を覆う展開状態となり所定の閉鎖空間22を形成でき、簡単に陰圧室を設置することができる。エアー注入式構造体14からエアーを抜いた状態では、中空柱状体12A~12Dとともに折り畳んだり折り曲げたりしてコンパクトに収納することができる。
【0029】
一つの側面側のシート16には、人が閉鎖空間22に出入りするために一部を開閉可能とするための線ファスナ32が設けられている。本実施形態では、後述のように入口と出口とが異なる構造であるため、入口用の線ファスナ32と出口用の線ファスナ32が設けられている。図1では、入口用の線ファスナ32は、縦に直線状に設けられている。出口用の線ファスナ32は、逆J字状に設けられており、線ファスナを開いた際には入口用の開口幅に比して大きく開口されるように設定されている。なお、本実施形態では、説明のために出入口が設けられる側面側を前方とし、その反対側を後方、前後方向に直交する横方向を左右方向とする。
【0030】
図1図3に示すように、本実施形態では、シート16で形成される閉鎖空間22は、仕切りシート34によって3つの分割閉鎖空間221、222、223に区画されている。例えば、閉鎖空間22を前後方向に2分割するように第1の仕切りシート34が閉鎖空間22の前後中間位置に設置されている。
【0031】
さらに、前後に分割された空間のうち前方側の空間をさらに左右に2分割するように第2の仕切りシート34が設置されている。すなわち、閉鎖空間22内に平面視で略T字状に仕切りシート34が設置されることにより、該閉鎖空間22は、3つの第1、第2、第3の分割閉鎖空間221、222、223が形成されている。
【0032】
それぞれの仕切りシート34は、例えば、透明のビニル樹脂等の可撓性素材で形成されており、前後中間位置の中空柱状体12A~12Dが設置された位置に対応して設置されているとともに、予めそれらの中空柱状体12A~12Dに接着されている。すなわち第1の仕切りシート34は、前後中間位置の下面側中柱状体12A、側面側中空柱状体12B、上面側中空柱状体12C及び内側中空柱状体12Dに接着されている。
【0033】
第2の仕切りシート34は、2辺が左右中間位置の前後に長い上側中空柱状体12Aと内側中空柱状体12Dに接着されているとともに、他の2辺が前方側の側面を閉鎖するシート16及び下面側を閉鎖するシート16に接着されており、第1の分割閉鎖空間221と第3の分割閉鎖空間223は完全に仕切られて構成される。
【0034】
本実施形態では、例えば、入口用の線ファスナ32により入口が設けられるシート16に面する空間を第1の分割閉鎖空間221とし、後方側の一番大きな空間を感染者等を治療するために隔離する本室となる第2の分割閉鎖空間222とし、出口用の線ファスナ32により出口が設けられるシート16に面する空間を第3の分割閉鎖空間223としている。
【0035】
そして、第1、第3の分割閉鎖空間221、223は、感染者が隔離される本室となる第2の分割閉鎖空間222の前室となるとともに、入口と出口を分けた構造としているので、より安全に利用することができる陰圧室を実現している。すなわち、仕切りシート34で3つに分割された第1、第2、第3の分割閉鎖空間221、222、223は、第1の分割閉鎖空間221から第2の分割閉鎖空間222へ、そして第2の分割閉鎖空間222から第3の分割閉鎖空間223へ人の動線が一方通行となり得るように設けられている。
【0036】
仕切りシート34には、第1の分割閉鎖空間221から第2の分割閉鎖空間222に入るために該シート34の一部を開閉可能とする縦に直線状の線ファスナ36が設けられると同時に、第2の分割閉鎖空間222から第3の分割閉鎖空間223に入るために該シート34の一部を開閉可能とする略コ字状の線ファスナ36が設けられている。
【0038】
図1に示すように、第2の分割閉鎖空間222の側面側を閉鎖しているシートのうち1つのシート16は、該側面側の略全体を開閉可能とするように設けられている。例えば、該側面側のシート16には、2本の側面側中空柱状体12Bと下面側中空柱状体12Cに隣接するように略U字状に形成された線ファスナ38が設けられており、その略U字状の線ファスナ38を開くと側面側の略全体が開口されるようになっている。
【0039】
これにより、シート16に人の出入口とは別途に、比較的大きな面積で開口できる開閉可能部位を形成することで、例えば、ベッドや比較的大きな医療機材等をスムーズに閉鎖空間22内に出し入れすることが可能となる。
【0040】
本実施形態では、側面側のシート16の線ファスナ38を開いて、そのU字状内側のシート部分を開いた状態で保持しておくシート支持手段40が設けられており、開いた状態を維持してベッドや機材類を出し入れする際に邪魔になりにくいようにすることができる。
【0041】
シート支持手段40は、例えば、一端がシート16に固定された複数の帯状部材を有しており、U字状の内側のシート部分を下から巻き上げ状にした状態で該帯状部材を巻き付けて帯状部材の端部に設けた面ファスナ等で固定して支持することができる。
【0042】
なお、側面側のシートの略全体を開閉できる構成は、複数の側面側のシート16に設けることとしてもよい。また、例えば、閉鎖空間22が一つの空間で形成された場合にも、少なくともいずれか一つの側面側のシートについて略全体を開閉可能に設けることとしてもよい。
【0043】
陰圧装置18は、シート16で形成される閉鎖空間22内の空気を排気し陰圧状態にすることにより同閉鎖空間22を陰圧室とする陰圧形成手段の要素である。本実施形態では、陰圧装置18は、後述の換気口42、内部換気口44と協働して閉鎖空間22の3つに分割された第1、第2、第3の分割閉鎖空間221、222、223の全てを陰圧にする陰圧形成手段を構成している。
【0044】
陰圧装置18は、例えば、HEPAフィルタ(High Efficiency Particulate Air Filter)を内蔵しており吸気口24から吸い込んだ空気を該フィルタでウイルスや病原体、埃等を捕集してクリーンな空気のみを排気口25から排気する排気ユニットである。陰圧装置18は、吸気口24に接続された管が側面側のシート16を貫通して閉鎖空間22の第2の分割閉鎖空間222に内部連通しており、該第2の分割閉鎖空間222内の空気を吸引して排気口25から外部に排気する。
【0045】
図1に示すように、側面側及び上面側を閉鎖する各シート16には、空気を換気するための開閉自在な換気口42が設けられている。さらに、仕切りシート34には、第1の分割閉鎖空間221と第2の分割閉鎖空間222を連通・閉鎖するように開閉自在な内部換気口が設けられているとともに、第2の分割閉鎖空間222と第3の分割閉鎖空間223を連通・閉鎖するように開閉自在な内部換気口44が設けられている。
【0046】
シート16の換気口42は、陰圧装置18で閉鎖空間22の空気を排気するのに応じて外部から該閉鎖空間22内に空気を取り入れて、所定の圧力差で閉鎖空間22内の陰圧状態を保持する空気取り込み口である。換気口42の開閉により取り入れる空気量を調整して、閉鎖空間22と外部との圧力差を調整することができる。前術のように3つの空間の第2の分割閉鎖空間222にのみ陰圧装置18が接続されるが、仕切りシート34の内部換気口44を介して空気の通り道を形成することにより第1の分割閉鎖空間221及び第3の分割閉鎖空間223も同時に陰圧状態とすることができる。
【0047】
内部換気口44の開閉により分割した分割閉鎖空間221、222、223の流れる空気量を調整して、適切な差圧の陰圧状態を調整することができる。なお、換気口42や内部換気口44には、フィルタ等を設置すると、陰圧室としてより安全に使用することができる。
【0048】
次に、本実施形態に係るエアー式陰圧室装置10の使用例について説明する。例えば、エアー式陰圧室装置10を保管したり、所望の場所に持ち運んだりする際には、エアー注入式構造体14からエアーを抜いて収縮状態とし、コンパクトな状態としておく。医療現場等で陰圧室が必要となった際には、現場に持ち運び、エアー注入式構造体14の一つの中空柱状態12Bに設けられた空気弁26からエアーを注入してエアー注入式構造体14を膨らませて自立させる。
【0049】
エアー注入式構造体14の各中空柱状体12A~12Dは内部連通して連結されているとともに、該中空柱状体12A~12Dとシート16及び仕切りシート34が予め接着されているので、一か所の空気弁26からエアーを注入するだけでエアー式テント20を簡単に設置することができる。エアー注入式構造体14とシート16とにより構成されるエアー式テント20が設置されるとシート16の内部に3つの空間で分割された閉鎖空間22が形成される。陰圧装置18を接続して、閉鎖空間22内の空気を排気することにより、該閉鎖空間22と外部とに差圧が生じ陰圧状態となる。この際、適宜、シート16の換気口42、仕切りシート34の内部換気口44を開閉調整して閉鎖空間22内の第1、第2、第3の空間内の空気量、空気圧が調整される。
【0050】
閉鎖空間22を陰圧状態にして陰圧室を形成した状態で、図3に示すように、その陰圧室内にウイルス感染者を隔離して感染拡大防止を図りながら治療等を行う。例えば、本実施形態では、ウイルス感染者は、閉鎖空間22内において陰圧装置18が接続された第2の分割閉鎖空間222に収容隔離される。治療等のために医者や看護者等の医療従事者が陰圧室に出入りする際には、閉鎖空間22の3つの空間を一方通行で通過することとなる。
【0051】
まずシート16の入口側の線ファスナ32を開けて第1の分割閉鎖空間221に入り、線ファスナ32を閉じる。必要に応じて第1の分割閉鎖空間221内で着替える。また線ファスナ32の開閉により閉鎖空間22内と外部との差圧が小さくなった場合には、所定の差圧状態になるまで待機するとよい。次に、仕切りシート34の線ファスナ36を開けて、医療従事者は、第1の分割閉鎖空間221から第2の分割閉鎖空間222に入り、線ファスナ36を閉じる。
【0052】
医療従事者は、第2の分割閉鎖空間222で感染者等の治療を行った後、第3の分割閉鎖空間223に通じる仕切りファスナ36を開けて、第2の分割閉鎖空間222から第3の分割閉鎖空間223に移動し、線ファスナ36を閉じる。第3の分割閉鎖空間223では、着替えることとしてもよい。このように入口側の第1の分割閉鎖空間221と出口側の第3の分割閉鎖空間223とが仕切られて、第1、第2、第3の空間の順に人の動線が一方通行となるように閉鎖空間22が3つに分割されているので、より高い安全性を担保しながら陰圧室での感染者の治療を行うことができる。
【0053】
以上説明した本発明のエアー式陰圧室装置は、上記した実施形態のみの構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の本質を逸脱しない範囲において、任意の改変を行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のエアー式陰圧室装置は、屋内外の所望のスペースに簡易に設置して陰圧室を形成しウイルス感染症患者の治療等に利用することができる。
【符号の説明】
【0055】
10 エアー式陰圧室装置
12A 下面側中空柱状体
12B 側面側中空柱状体
12C 上面側中空柱状体
12D 内側中空柱状体
14 エアー注入式構造体
16 シート
18 陰圧装置
20 エアー式テント
22 閉鎖空間
221 第1の空間
222 第2の空間
223 第3の空間
34 仕切りシート

【要約】
【課題】エアーを注入して膨張させるだけで簡単かつスムーズに設置可能で、かつ、密封が徹底され良好な陰圧状態の陰圧室を形成することができるエアー式陰圧室装置を提供する。
【解決手段】一又は複数の中空柱状体12A~12Dで構成され該中空柱状体12A~12Dの中空内部にエアーを注入することにより自立するエアー注入式構造体14と、自立した前記エアー注入式構造体14によって形状保持されて閉鎖空間22を形成する可撓性のシート16と、前記閉鎖空間22を陰圧状態にする陰圧装置と、を備え、前記エアー注入式構造体14にエアーを出し入れすることにより収縮又は自立設置可能に設けられる。
【選択図】図1

図1
図2
図3