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特許7008404化学線および電子ビーム線硬化性の水をベースとする電極結合剤およびこの結合剤を組み込んだ電極
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  • 特許-化学線および電子ビーム線硬化性の水をベースとする電極結合剤およびこの結合剤を組み込んだ電極 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-13
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】化学線および電子ビーム線硬化性の水をベースとする電極結合剤およびこの結合剤を組み込んだ電極
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20220118BHJP
   H01G 11/38 20130101ALI20220118BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20220118BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20220118BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220118BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220118BHJP
【FI】
H01M4/04 A
H01G11/38
H01G11/86
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M10/052
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2016514111
(86)(22)【出願日】2014-05-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2016-08-18
(86)【国際出願番号】 US2014038328
(87)【国際公開番号】W WO2014186661
(87)【国際公開日】2014-11-20
【審査請求日】2017-04-13
【審判番号】
【審判請求日】2020-02-18
(31)【優先権主張番号】61/824,613
(32)【優先日】2013-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512089449
【氏名又は名称】ミルテック・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100104374
【弁理士】
【氏名又は名称】野矢 宏彰
(72)【発明者】
【氏名】アーノルド,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルカー,ゲイリー
(72)【発明者】
【氏名】ファソロ,ジョセフ
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】祢屋 健太郎
【審判官】池渕 立
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-273671(JP,A)
【文献】特開平6-325752(JP,A)
【文献】特開2008-153034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極を形成する方法であって、次の各工程:
電極の集電体に水性混合物を塗布することによって集電体の上に層を形成する工程、ここで、水性混合物は50000以下の数平均分子量を有するオリゴマーの形態の先駆物質を含み、且つ固体の電極粒子、光開始剤および水を含み、先駆物質は水の中に分散または溶解されている;および
層に化学線を当てることによってオリゴマーを互いに重合および架橋させて、重合および架橋したオリゴマーを集電体へ結合させ、それにより固体の電極粒子を集電体に結合させる電極結合剤を形成する工程;
を含む、前記方法。
【請求項2】
水性混合物はさらに、架橋剤を含み、水性混合物は任意にさらに水性混合物の約5重量%未満の有機溶媒を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
電極はカソードまたはアノードである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
オリゴマーはポリウレタン、ポリエステル、ポリオレフィン、セルロース誘導体、ゴム、ラテックス、ポリスルフィド、アクリル樹脂またはシリコーンを含む、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
水性混合物は先駆物質を約2重量%から約25重量%までの量で含み、そして/または、固体の電極粒子を約50重量%から約90重量%までの量で含む、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
固体の電極粒子は炭素の粒状物質、ケイ素をベースとする材料、金属酸化物の塩、セラミック材料、またはこれらの組み合わせを含む、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
層は、グラビア、フレキソ、スロットダイ、リバースロール、ロール式ナイフ塗布、フラットおよび回転スクリーン印刷、押出し、またはオフセットから選択されるコーティング法によって形成され、層の厚さは約1ミクロンから約500ミクロンまでである、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
層に隣接して電解質を付与することをさらに含み、そして電解質の中に電解質のセパレーターを含めてよい、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
第一の電極に隣接して第二の電極を組み合わせることをさらに含み、第二の電極は第一の電極と同じものであってよく、この方法はさらに、第一および第二の電極を、これら第一および第二の電極の間に設ける電解質およびセパレーターと組み合わせることを含む、請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
集電体とこの集電体に結合した層を含む電極であって、その層は電極結合剤の中に保持された光開始剤及び固体の電極粒子を含み、電極結合剤は50000以下の数平均分子量を有するオリゴマーが互いに架橋し集電体に結合したものを含み、
オリゴマーが官能化したポリウレタン、ポリエステル、ポリオレフィン、セルロース誘導体、ポリスルフィド、アクリル樹脂、またはシリコーンから選択され、そしてこれらオリゴマーは官能性を有する結果これらオリゴマーは水分散性か又は水溶性である、
前記電極。
【請求項11】
電極結合剤は、反応した化学線硬化性または電子ビーム硬化性の架橋剤であってオリゴマーに共有結合した架橋剤をさらに含み、そして任意に、オリゴマーに共有結合した光開始剤をさらに含む、請求項10に記載の電極。
【請求項12】
電極結合剤は架橋したモノマーをさらに含む、請求項10または11に記載の電極。
【請求項13】
電極はカソードまたはアノードである、請求項10から12のいずれかに記載の電極。
【請求項14】
固体の電極粒子は炭素の粒状物質、ケイ素をベースとする材料、金属酸化物の塩、セラミック材料、リチウム化した化合物、またはこれらの組み合わせを含む、請求項10から13のいずれかに記載の電極。
【請求項15】
請求項10から14のいずれかに記載の電極を含む電池。
【請求項16】
オリゴマーが水分散性か又は水溶性のオリゴマーである、請求項10~14のいずれかに記載の電極。
【請求項17】
集電体とこの集電体に結合した層とを含む電極であって、層が電極結合剤中に保持された光開始剤及び固体電極粒子を含み、電極結合剤が、50000以下の数平均分子量を有するオリゴマーが互いに架橋し且つ集電体に結合しているものを含み、そしてこれらオリゴマーは官能性を有し、その結果これらオリゴマーは水分散性か又は水溶性である、電極。
【請求項18】
オリゴマーが官能化したポリウレタン、ポリエステル、ポリオレフィン、セルロース誘導体、ポリスルフィド、アクリル樹脂、またはシリコーンから選択される、請求項17に記載の電極。
【請求項19】
電極結合剤が架橋したモノマーをさらに含む、請求項17または18に記載の電極。
【請求項20】
固体の電極粒子は炭素の粒状物質、ケイ素をベースとする材料、金属酸化物の塩、セラミック材料、リチウム化した化合物、またはこれらの組み合わせを含む、請求項17から19のいずれかに記載の電極。
【請求項21】
請求項17から20のいずれかに記載の電極を含む電池。
【請求項22】
リチウムイオン電池である、請求項21に記載の電池。
【請求項23】
請求項17から20のいずれかに記載の電極を含む二重層コンデンサー。
【請求項24】
リチウムイオン電池である、請求項15に記載の電池。
【請求項25】
請求項10から14のいずれかに記載の電極を含む二重層コンデンサー。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
関連出願についての相互参照
[0001]本出願は米国仮特許出願61/824613号(2013年5月17日提出)の出願利益について権利請求するものであり、その仮特許出願の内容は参考文献として本明細書に取り込まれる。
【技術分野】
【0002】
[0002]本発明はアルカリイオン二次電池(再充電可能な電池)において利用することができる電極の技術分野に属し、特にリチウムイオン二次電池および電気二重層コンデンサーとその製造の技術分野に属するものである。
【背景技術】
【0003】
[0003]電池と電気二重層コンデンサー(キャパシタ)(EDLC)を含めた電気化学デバイスには、携帯機器の電源や自動車のための補助電源を含めた電源において大きな有用性が見いだされている。例えば、リチウムイオン電池は、電話機、音楽プレーヤー、ポータブルコンピューターなどの携帯用電子機器において用いるものとして最も普及している電池のタイプのうちの一つである。リチウムイオン電池は極めて高いエネルギー対重量比を有し、メモリー効果を示さず、また使用していないときの電荷減少が緩やかである。リチウムイオン電池はまた、それらの高いエネルギー密度の故に軍事、電気自動車および航空宇宙の用途における人気が増しつつある。
【0004】
[0004]リチウムイオン電池の基本動作単位は電気化学セルである。電気化学セルは二つの電極を含んでいて、すなわち、セパレーターによって互いに物理的に分離されていて、イオンについて電解質を介して互いにつながっているアノード(負極)とカソード(正極)を含んでいる。アノードは典型的には銅のような導電性材料の薄い金属シートを含み、このシートはアノード集電体と呼ばれ、固体のアノード材料の粒子で被覆されている。そのアノードの粒子はアノード結合剤によってアノード集電体および互いに対して固定されていて、アノード結合剤は典型的には使用中に膨張または分解しないような粘着力と物理特性を保持しているポリマーである。典型的なアノード粒子は黒鉛を含むか、あるいはケイ素をベースとする物質またはチタン物質またはこれら三つの物質の組み合わせを含み、そして場合により幾分かのカーボンブラックを伴っている。アノード集電体を覆っている固体のアノード粒子のサイズは典型的に、呼称直径として数ナノメートルから数十ミクロンまでの範囲である。
【0005】
[0005]リチウムイオン電池の電解質は液体、固体またはゲルとすることができる。液体の電解質については、セパレーターはカソードからのアノードの物理的な分離を維持するために用いられる。典型的なセパレーターは薄い多孔質のポリマーシートであり、これにおいては空隙が電解質で満たされている。典型的な液体電解質はリチウムイオンの錯体を含むアルキル炭酸塩のような有機炭酸塩(一般に、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、ヘキサフルオロひ酸リチウム一水和物(LiAsF)、過塩素酸リチウム(LiClO)、テトラフルオロほう酸リチウム(LiBF)、およびリチウムトリフレート(LiCFSO)などの非配位アニオン塩)の混合物である。典型的な固体電解質はポリマーである。例えば、米国特許7387851号(Gozdz他)は液体ポリマー、オリゴマーまたはモノマーの電解質先駆物質から形成される電解質を記載していて、その先駆物質は架橋することにより固体ポリマー電解質を形成することができる。ゲル電解質としては広範囲の材料を用いることができる。これらの電解質は、アノードとカソードの間の電圧に耐えて、可燃性が生じる危険性を伴うことなくリチウムイオンの高い可動性を提供するように構成される。
【0006】
[0006]リチウムイオン電池において典型的に用いられるカソードはアルミニウムのような導電性材料の薄い金属シートを含み、このシートはカソード集電体と呼ばれ、固体のカソード粒子で被覆されている。カソード粒子はカソード結合剤によってカソード集電体および互いに対して固定されていて、アノード結合剤と同様に、カソード結合剤は典型的には使用中に膨張または分解しないような粘着力と物理特性を保持しているポリマーであり、そしてカソード結合剤とアノード結合剤は互いに同じものであっても、あるいは異なるものであってもよい。典型的なカソード粒子には、リチウムとコバルト、マンガン、ニッケルまたはバナジウムの酸化物のようなリチウム金属酸化物およびその他のリチウム化合物(例えば、リン酸リチウム鉄)が含まれる。カソード粒子も導電性を改善するための少量の炭素をしばしば含むが、しかしその炭素は一般に、アノードの主要炭素のような黒鉛質のものではないだろう。集電体を覆っているカソード粒子のサイズは、呼称直径として数ナノメートルから数ミクロンまでの範囲である。
【0007】
[0007]スーパーキャパシタまたはウルトラキャパシタとしても知られるEDLCは、従来のコンデンサー(キャパシタ)と比較して、並はずれて高いエネルギー密度を有する電気化学コンデンサーである。EDLCは介在物質によって分離された同じ構造の二つの別個の電極を有し、その介在物質は各層を物理的に分離する(ナノメートルのオーダーの)ほとんど無いくらいに薄い物質であるにもかかわらず、電荷の効果的な分離を与える。EDLCの電極は、典型的にはリチウムイオン電池のカソードの集電体に類似する集電体(例えば、アルミニウム)を採用している。エネルギーの貯蔵密度を向上させるために、黒鉛または活性炭のような多孔質の微粒子状炭素であるナノ多孔性物質が集電体の表面に結合剤とともに付与される。その結合剤は典型的には、使用中に粘着力と硬度を保持するとともに膨張または分解しないように製造されたポリマーである。炭素の粒子サイズは一般に、呼称直径として数ナノメートルから数ミクロンまでの範囲である。炭素の細孔は介在物質、すなわち液体またはゲルである電解質で満たされる。典型的な液体電解質は有機炭酸アルキルであり、これは選択したリチウム塩を含んでいてもよい。
【0008】
[0008]リチウムイオン電池またはEDLCにおいて見いだされるような電極を形成するための典型的なプロセスは、次の各工程を含む:
1)ポリマー結合材料を溶媒とともに溶液に形成し、この際、その溶液が、固体粒子と混合した後に集電体に塗布するための適度に低い粘度を有するようにする。
2)溶媒の約20~80重量%として、特に溶媒の約50重量%として、低粘度の結合剤溶液を電極の固体粒子と混合し、それによりペーストを形成する。
3)慣用のコーティング法を用いて集電体の上にペーストを(典型的に10~200ミクロンの)薄い層としてコーティングする。
4)コーティングを施した集電体を熱乾燥オーブンに通して、溶媒を飛ばし、そして結合剤ポリマーを固定させる。
5)狭い隙間(例えば、5~200ミクロン)によって分離された一対の回転するローラーに電極を通し、それにより集電体のコーティングを特定の厚さに圧縮する。
6)典型的に、電極集電体の両側を固体のアノード粒子またはカソード粒子でコーティングし、そして上述の各工程に従って加工処理する。
【0009】
[0009]電極の製造においては、製造コストに直接影響を及ぼす幾つかの短所がある。そのような短所としては、(これらに限定はされないが)次のことがある:
a)ポリマー結合材料を溶解するために用いられた溶媒を蒸発させなければならず、それには相当な熱エネルギーの投入を必要とする。
b)熱による乾燥と関連する相当なエネルギーの非効率性が存在する。
c)蒸発させた溶媒を回収し、そして処分するか、あるいは再生利用する必要がある。
d)ポリマー結合材料を乾燥させるために必要なオーブンは相当な製造スペースを占め、それにはかなりの資本費用がかかる。
e)ポリマー結合材料を乾燥オーブンの中で乾燥させるのに要する時間によって、電極を製造するのに要する時間が長くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】米国特許7387851号(Gozdz他)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
[0010]当分野で必要とされているものは、電極を形成するための改良された材料と方法である。例えば、リチウムイオンのカソードとアノードおよびEDLC電極において用いるための改良された電極結合剤は、はなはだ有益であろう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
[0011]一つの態様によれば、電極を形成する方法が開示される。概して言えば、方法はポリマーの先駆物質、水および固体の電極粒子を合体させて水性混合物を形成することを含むことができる。その水性混合物は、混合物に化学線または電子ビーム線を当てるとポリマーの先駆物質と共有結合を形成することができる架橋剤を含むこともできる。ポリマーの先駆物質は水性混合物の水の中に分散または溶解することができる。
【0013】
[0012]この方法はまた、水性混合物を集電体の表面に塗布して層を形成し、次いで、その層に化学線または電子ビーム線を照射することも含み、その照射によってポリマーの先駆物質が重合および架橋し、それにより、固体の電極粒子どうしと集電体が結合するのに役立つ電極結合剤が形成し、そして電極が形成する。本明細書で記述する電極はカソードとアノードの両者を包含し得る。
【0014】
[0013]同様に開示されるのは、上記の方法に従って形成することができる電極である。例えば、電極は集電体とこの集電体の上の層を含むことができ、その層は電極結合剤の中に保持された固体の電極粒子を含み、電極結合剤は架橋したポリマー先駆物質を含む。電極結合剤はまた、反応した化学線硬化性または電子ビーム硬化性の架橋剤であってポリマー先駆物質に共有結合した架橋剤も含むことができる。一つの態様において、電極結合剤は光開始剤(光重合開始剤)も含むことができる。
【0015】
[0014]同様に開示されるのは、電極を組み込んだ製品(例えば、リチウムイオン電池などの電池)または二重層コンデンサーである。概して言えば、この製品はデバイスの一つ以上の追加の構成要素(例えば、第二の電極、セパレーター、電解質など)に隣接して保持される電極結合剤を含む電極を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】[0015]図1はここで開示される電極製造プロセスの一つの態様の平面図である。
図2】[0016]図2はここで開示される電極製造プロセスの別の態様の平面図である。
図3】[0017]図3は本開示の一つの態様に従うリチウムイオン電気化学セルの断面図である。
図4】[0018]図4は本開示の一つの態様に従うEDLCの断面図である。
図5】[0019]図5A図5Bはここで開示される電極結合剤を含むセルについての試験結果を示す。
図6】[0020]図6A図6Bはここで開示される電極結合剤を含むセルについての試験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[0021]ここから、開示される主題の様々な態様についての論及を詳しく行う。それらの態様の一つ以上の例を以下で示す。各々の例は主題を説明するために提示されるのであり、主題を限定するものではない。実際に、本開示においてその開示の範囲または精神から逸脱することなく様々な修正と変更が成されうる、ということが当業者には自明であろう。例えば、一つの態様の一部として例示または記述される特徴点は、別の態様において使用しても同じ結果になるかもしれない。従って、本開示はそのような修正と変更を含むものであるということが意図されている。
【0018】
[0022]概して言えば、本開示は費用のかさむオーブン乾燥または溶媒処理を必要とすることなく電極を製造するためのプロセスを対象とする。同様に開示されるのは、そのプロセスに従って形成される電極と、その電極を組み込むことができるリチウムイオン電池、EDLCおよびその他の製品である。より具体的には、開示される電極は、化学線または電子ビーム線を用いて硬化される、水に分散可能または溶解可能なポリマー先駆物質を組み込んでいる。
【0019】
[0023]このプロセスは、ポリマーの先駆物質が固体の電極粒子とともに水の中に分散または溶解している水性混合物を用いることによって、電極を形成することを可能にする。電極を形成することにおいて水性混合物を利用することは、プロセスに幾つかの利点をもたらしうる。例えば、このことにより電極の形成と関連するコストを低減することができ、すなわち、直接的には、そのプロセスのために費用のかさむ大量の有機溶媒をもはや入手する必要がなく、そして間接的には、全体として有機溶媒の回収処理が限定または回避されうる。例えば、電極結合剤を形成するために用いられる水性混合物は、この混合物の約5重量%未満または約1重量%ないし約2重量%の有機溶媒を含んでいてもよい。さらに、危険性のある廃棄物をほとんど生成しないか、または全く生成しないので、その形成プロセスは低公害のものになりうる。電子ビームまたは化学線によって硬化すると、水に分散性または可溶性のポリマー先駆物質は集電体(例えば、銅またはアルミニウム)への良好な付着性を示し、同時に、電池とEDLCの両者において存在する厳しい動作条件と電解物質に対して優れた耐性を提供する。
【0020】
[0024]本明細書において、化学線という用語は、光化学効果を生起することができる電磁線を指すことが意図されている。例えば、ポリマーの先駆物質を含む水性混合物は、紫外スペクトルまたは可視スペクトルの中で化学線によって硬化しうる(それらのスペクトルは両者とも化学線に包含される)。従来の紫外線硬化性および電子ビーム硬化性の結合剤樹脂は、電子結合剤を硬化させる電極の製造においてごく最近まで成功裏に用いられてきた(米国で発行された米国特許出願2011/0081575号(Voelker他)を参照されたい、この特許出願は参考文献として本明細書に組み込まれる)。過去において、電子ビームおよび化学線による硬化は、電池またはEDLCの厳しい環境の中では十分には耐えられないであろう厚くて不透明な薄膜の形成に限られていた。本明細書に記載する水性混合物は、過去において電子結合剤を形成するために用いられてきた大きくて完全に形成されるポリマーではなくて、ポリマーの先駆物質を含む。硬化すると、このポリマー先駆物質は集電体に良好に付着することができる電子結合剤を形成し、またこれは最終製品の厳しい環境の中で一体性を維持することもできる。
【0021】
[0025]このポリマー先駆物質は、化学線または電子ビーム線を用いて硬化しうる官能基を含むモノマーおよび/またはオリゴマーを含むことができる。硬化性の官能基は一般に、炭素-炭素二重結合基、チオール基およびエポキシ基から選択される。例として、硬化性官能基を含む炭素-炭素二重結合には、(メト)アクリレート、(メト)アクリルアミド、(メト)アクリルチオエステル、N-ビニルアミド、ビニルエステル、ビニルチオエステル、アリルエーテル、アリルアミン、アリルスルフィド、N-ビニルアミン、ビニルエーテル、ビニルスルフィド、マレエート、フマレート、マレアミド、フマルアミド、チオマレエート、チオフマレート、マレイミド、シトラコンイミド、およびノルボルネンの各基が含まれる。
【0022】
[0026]一つの態様において、ポリマー先駆物質は、(これらに限定はされないが)メチルアクリレート、エチルアクリレート、2-クロロエチルビニルエーテル、2-エチルヘキシルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、またはこれらの混合物を含む、水に分散性または溶解性のモノマーを含むことができる。ポリマー先駆物質は、架橋することによって電極結合剤からなる架橋した網状構造を形成しうるモノマー単独のものであってもよい。あるいは、モノマーのポリマー先駆物質はオリゴマーのポリマー先駆物質とともに用いることができる。しかしながら、モノマーのポリマー先駆物質を用いることは必須要件ではなく、一つの態様においてはオリゴマーのポリマー先駆物質だけを用いてもよく、化学線または電子ビーム線を適用するとともに架橋剤を使用することによってオリゴマーのポリマー先駆物質を架橋させることができる。
【0023】
[0027]ポリマー先駆物質は概して、約150000未満の数平均分子量を有することができる。例えば、オリゴマーのポリマー先駆物質の場合、そのオリゴマーは約7000から約150000まで、約10000から約130000まで、約10000から約50000まで、あるいは約15000から約40000までの数平均分子量を有することができる。
【0024】
[0028]ポリマー先駆物質として利用することができるオリゴマーは特に限定されないが、ただしそれらは、水に分散性または溶解性のものであるか、あるいは水に分散性または溶解性のものになるように官能化することができて、そしてここで説明しているような適当な架橋官能性を有することが条件となる。例えば、官能化したポリウレタン、ポリエステル、ポリオレフィン、セルロース誘導体、ゴム、ラテックス、ポリスルフィド、アクリル樹脂、シリコーンなどを用いることができる。
【0025】
[0029]一つの態様において、ポリマー先駆物質は官能化したポリウレタン先駆物質とすることができる。官能化したポリウレタン先駆物質は、所望により購入または形成することができる。例えば、適当な官能化したポリウレタン先駆物質はCytec Industries Inc. から入手することができる。官能化したポリウレタン先駆物質はまた、例えば米国特許8431673号(Wang他)に記載されているような、公知の方法に従って形成することもできる。
【0026】
[0030]官能化したポリウレタン先駆物質は、軟質セグメント成分、イソシアネート、および所望の官能性を付与しうる架橋成分の反応生成物を含むことができる。官能化したポリウレタンは任意の適当なジ-イソシアネートと任意の適当な軟質セグメントから形成することができる。例えば、ジ-イソシアネートは芳香族、脂肪族、芳香脂肪族(araliphatic)または環状脂肪族のポリイソシアネートまたはそれらの誘導体であって、ウレタン、イソシアヌレート、アロファネート、ビウレット、ウレトジオンおよび/またはイミノ-オキサジアジンジオンの各基を含むものとすることができる。適当なポリイソシアネートの例としては、(これらに限定はされないが)ジフェニルメタン-2,4’-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、2,4-トルエン-ジイソシアネート、2,6-トルエン-ジイソシアネート、1,6-ジイソシアナトヘキサン、ジシクロヘキシルメタン-2,4’-ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、5-イソシアナト-1-イソシアナトメチル-1,3,3-トリメチルシクロヘキサン(イソホロンジイソシアネート、IPDI)、メタ-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、1,3-ビス-(イソシアナトメチル)ベンゼン、1,5-ナフチレンジイソシアネート、これらのジ-、トリ-、またはオリゴマー、およびポリオールとのこれらの付加物が挙げられる。
【0027】
[0031]一つの態様において、軟質セグメントの分子はジオールとすることができる。加えて、軟質セグメントは、この軟質セグメントの主鎖に沿って何らかの結合セグメントを含んでいてもよく、これについては当分野で一般的に知られている。例えば、様々な態様において、軟質セグメントはポリカーボネート、二量体酸、ポリエステル、またはポリエーテルの結合セグメントを含んでいてもよい。軟質セグメントの例としては、(これらに限定はされないが)2-フェノキシエタノール、3-(メチルチオ)-1-プロパノール、4-(メチルチオ)ベンジルアルコールおよび2-フェニルチオエタノールが挙げられる。
【0028】
[0032]架橋成分は軟質セグメントまたはイソシアネートと反応することができる第一の官能基を含むことができ、また化学線または電子ビーム線によって硬化しうる第二の官能基を含むこともできる。例えば、第一の官能基はアルコール、チオールまたはアミンを含みうる。第二の官能基は上述した硬化性の官能基を含みうる。架橋成分の例としては次のものが挙げられる(これらに限定はされない):(メト)アクリレートおよび (メト)アクリルアミド、(例えば、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート(二つの異性体)、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ペンタエリトリトールトリアクリレート、ジ-トリメチロールプロパントリアクリレート、トリシクロデカン-ジメタノールモノアクリレート、N-メチルエタノールアミンアクリレート、N-(ヒドロキシメチル)アクリルアミド);N-ビニルアミド(例えば、5-(ヒドロキシメチル)-1-ビニル-2-ピロリジノン、3-ヒドロキシ-N-ビニルプロピオンアミド(カルボン酸に加水分解され、次いで、アルコールに還元された2-シアノ-N-ビニルアセトアミド));アリル(例えば、ジアリルアミン、アリルアルコール、N-アリル-N-メチルアミン、N-アリル-N-シクロペンチルアミン、N-アリル-N-フェニルアミン、N-アリル-2,2’-イミノジエタノール);ビニルエーテル(例えば、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、エチレングリコールモノビニルエーテル、3,4-ジヒドロ-2H-ピラン-2-メタノール、ジエチレングリコールモノビニルエーテル);ノルボルネン(例えば、5-ノルボルネン-2-メタノール、5-ノルボルネン-2,3-ジメタノールモノアクリレート);エポキシド(例えば、2-オキシラニルメタノール、(2S,3S)-トランス-3-フェニルオキシラン-2-メタノール、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、ペンタエリトリトールトリグリシジルエーテル、ビスフェノール-Aモノグリシジルエーテル、ビスフェノール-Fモノグリシジルエーテル、ビスフェノール-A(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)グリシジルエーテル)。
【0029】
[0033]官能化したポリウレタンは一般に、2工程法によって調製することができる。例えば、最初の工程において、ポリイソシアネートの少なくとも一部を架橋化合物と反応させることができ、そして第二の工程において、得られた反応生成物をさらに軟質セグメントと反応させる。反応は触媒(例えば、アミンおよび有機金属錯体触媒(例えば、ジブチル錫ジラウレート))の存在下で行うことができる。反応は約20℃から約120℃までの温度において行うことができ、また重合防止剤または安定剤またはこれらの任意の組み合わせの存在下で行うことができる。一次酸化防止剤(遊離基抑制剤)(例えば、キノン、特にヒドロキノン、およびジ-tertブチルp-クレゾール)を利用することができる。
【0030】
[0034]ポリマー先駆物質は、水に分散性または水に溶解性の官能化したポリオレフィンとすることができる。例えば、オリゴマーのポリエチレン、ポリプロピレン、またはそれらのコポリマーを、電極形成プロセスにおけるポリマー先駆物質とすることができる。ポリオレフィンのポリマー先駆物質は、電極を形成する間に架橋を促進するために一つ以上の置換基、例えば、カルボニル、スルフィド、アクリレートのような官能基を含んでいてもよい。本明細書において、「オレフィン」という用語は一般に、一つ以上の二重結合を有する脂肪族、環状脂肪族または芳香族の化合物を指す。代表的なオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン、ブタジエン、シクロ-ヘキセン、ジシクロペンタジエン、スチレン、トルエン、α-メチルスチレンなどが挙げられる。様々なポリオレフィンのポリマーを用いることができ、それには次のものが含まれる(これらに限定はされない):ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン/スチレン共重合体(ESI)、および触媒によって改質したポリマー(CMP)、例えば部分的または完全に水素化したポリスチレンまたはスチレン/ブタジエン/スチレンブロック共重合体、ポリビニルシクロヘキサンなど。
【0031】
[0035]電極の形成においてはセルロース誘導体を用いることができる。例えば、部分的または完全にアルキル化またはアクリル化したセルロースを用いることができる。一つの態様において、セルロースのヒドロキシル基をアセチル基または3個以上の炭素原子を有するアシル基で置換することによって得られる、セルロースの脂肪酸エステルであるセルロースアクリレートを、ポリマー先駆物質として用いることができる。例えば、セルロースのヒドロキシル基の置換度は次の数式を満たす必要がある:
1.0<A+B<3.5
ここで、Aはアセチル基によるヒドロキシル基の置換度であり、Bは3個以上の炭素原子を有するアシル基によるヒドロキシル基の置換度である。
【0032】
[0036]3個以上の炭素原子を有するアシル基は脂肪族基または芳香族炭化水素基であってもよい。例えば、3個以上の炭素原子を有するアシル基は、セルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルまたは芳香族カルボニルエステルおよび芳香族アルキルカルボニルエステルであってもよく、またそれらはさらに置換されてもよい。特定の例としては次のものが挙げられる(これらに限定はされない):プロピオニル基、ブタノイル基、ヘプタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、イソブタノイル基、t-ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基、その他同種類のもの。これらの中で好ましいものはプロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t-ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基、その他同種類のものである。
【0033】
[0037]ここで包含されるアクリル化したセルロースの特定の例としては次のものが挙げられる(これらに限定はされない):セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、およびこれらの混合物。
【0034】
[0038]ポリマー先駆物質として用いるためのセルロースの誘導体は、当分野で一般的に知られた方法に従って形成することができる。典型的な合成方法は無水カルボン酸/酢酸/硫酸触媒を用いる液相アセチル化法であり、これは米国特許7951430号(Sugiyama他)に記載されている(この特許の内容は参考文献として本明細書に組み込まれる)。この形成方法は、電極の形成方法において、生成物から高分子量の成分を分離することと、ポリマー先駆物質として低分子量の成分を用いることを含むことができる。
【0035】
[0039]一つの態様において、ポリマー先駆物質はゴムまたはラテックスのオリゴマーを含むことができる。例えば、米国で発行された特許出願2011/0081575号(Voelker他、この特許出願は参考文献として本明細書にすでに組み込まれている)に記載されているポリイソプレンおよび/またはポリブタジエンおよび/またはスチレンブタジエンのゴムを用いることができる。しかしながら、ゴムまたはラテックスのポリマー先駆物質は、イソプレン成分および/またはブタジエン成分だけを組み込んでいる物質に限定はされない。用いることのできる官能化ゴムのポリマー先駆物質には、イソプレン、ブタジエン、シクロペンタジエン、エチリデンノルボルネン、およびビニルノルボルネンのモノマー単位、またはこれらの組み合わせのうちの少なくとも一つが含まれてもよい。
【0036】
[0040]ポリマー先駆物質の一つの態様は、次の一般式で表わされるカルボキシル化およびメタクリレート化されたイソプレンの主鎖を有するものである。
【0037】
【化1】
【0038】
ここで、mは約10と約1000の間、または約100と約1000の間、または約200と約500の間であり、そしてnは1と約20の間、または1と約10の間、または約2と約10の間、または約2と約5の間である。
【0039】
[0041]ポリマー先駆物質の別の態様はカルボキシル化およびメタクリレート化されたブタジエンの主鎖を含むことができ、そして次の一般式を有することができる。
【0040】
【化2】
【0041】
ここで、mは約10と約1000の間、または約100と約1000の間、または約200と約500の間であり、そしてnは1と約20の間、または1と約10の間、または約2と約10の間、または約2と約5の間である。
【0042】
[0042]さらに別のゴムのポリマー先駆物質はブタジエンの主鎖を含むことができ、そして次の一般式を有することができる。
【0043】
【化3】
【0044】
ここで、nは約5と約2000の間、または約10と約1500の間、または約100と約1000の間である。
[0043]当然であるが、ポリマー先駆物質は複数の異なる主鎖のセグメントを含むことができる。例えば、イソプレン-ブタジエンコポリマーをポリマー先駆物質として用いることができる。
【0045】
[0044]ポリマー先駆物質は、水への分散性と金属の付着性を改善し、そして/または、EB(電子ビーム線)または化学線を用いる架橋による硬化性を改善する追加の酸性反応基を含むように官能化することができる。例えば、ポリマー先駆物質は、ポリマー先駆物質の親水性を増大させるとともに水性混合物中でのポリマー先駆物質の分散性を改善することができるカルボキシ、アミノおよび/またはヒドロキシルの各官能基で官能化することができる。
【0046】
[0045]一般に、ポリマー先駆物質は水性混合物の中に、この水性混合物の約4重量%から約25重量%まで、約5重量%から約20重量%まで、あるいは約6重量%から約18重量%までの量で含ませることができる。
【0047】
[0046]ポリマー先駆物質に加えて、水性混合物は固体の電極粒子を含むことができる。固体の電極粒子は当分野で一般的に知られているような任意の粒状物質を含むことができ、例えば次のものが挙げられる(これらに限定はされない):炭素の粒状物質(例えば、グラフェン、活性炭、黒鉛、低硫黄黒鉛、カーボンブラック、カーボンナノチューブなど);ケイ素をベースとする材料を含めたセラミック材料(例えば、酸化ケイ素);金属酸化物の塩(例えば、リチウム、コバルト、マンガン、ニッケル、アルミニウムまたはバナジウムの酸化物)。例として、粒状物質はリチウム化合物(すなわち、リチウム化した化合物)を含むことができ、例えば次のものが挙げられる:酸化リチウムマンガン、酸化リチウムコバルト、酸化リチウムニッケル、酸化リチウムニッケルコバルトアルミニウム、リン酸リチウム鉄、リチウムニッケルマンガンコバルト(NMC)、およびこれらの混合物。いずれかの態様についての好ましい物質は、電極のタイプ(カソードまたはアノード)および電極を組み込む製品に応じて変わり、これについては知られている。
【0048】
[0047]一般に、水性混合物は固体の電極粒子を、混合物の約50重量%から混合物の約90%までの量、あるいは混合物の約55重量%から混合物の約85%までの量で含むことができる。
【0049】
[0048]水性混合物は1種以上の架橋剤も含むことができる。当然ながら、ポリマー先駆物質がその先駆物質の中に直接の架橋をもたらす官能基を含む態様においては、架橋剤を含有させることは不必要かもしれない。例えば、水性混合物は1種以上の架橋剤を組成物の約0.2重量%から約1重量%までの量、あるいは約0.3重量%から約0.7重量%までの量で含むことができる。典型的な架橋剤は、EBおよび/または化学線を当てたときに混合物のポリマー先駆物質と反応することができるものを含むことができる。それぞれの架橋剤に適した特定の電磁線は当分野で一般的に知られている。例えば、紫外スペクトルまたは可視スペクトルの中で混合物に化学線を当てると、架橋剤は反応することができる。架橋剤の例としては、(これらに限定はされないが)一官能価アクリレート、二官能価アクリレートおよび多官能価アクリレートおよびその他のビニル化合物が挙げられる。適当なアクリレートは線状、枝分れ、環状または芳香族のものであろう。線状アクリレートとしてはアルキルアクリレートを挙げることができ、この場合、アルキルは4~20個の炭素原子を含む。枝分れアクリレートとしては枝分れアルキルアクリレートを挙げることができ、この場合、アルキルは4~20個の炭素原子を含み、例えば2-エチルヘキシルアクリレートまたはイソステアリルアクリレートである。環状アクリレートとしてはジシクロペンタニルアクリレートおよびn-ビニルカプロラクタムを挙げることができる。芳香族アクリレートとしてはフェノキシエチルアクリレートを挙げることができる。二官能価および多官能価のアクリレートとしては1,6-ヘキサンジオジ(メト)アクリレート、1,9-ヘキサンジオジ(メト)アクリレートおよびトリシクロデカンジメタノールジアクリレートを挙げることができる。
【0050】
[0049]ポリマー先駆物質が化学線の存在下で硬化される態様においては、水性混合物は光開始剤も含むことができる。光開始剤は水性混合物の中に約1重量%までの濃度で存在することができ、例えば、水性混合物の約0.2重量%から約1重量%までの量、あるいは約0.3重量%から約0.7重量%までの量である。
【0051】
[0050]典型的な光開始剤としては次のものが挙げられる(これらに限定はされない):ベンゾフェノン、ヒドロキシアセトフェノン、メチルベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピル)ケトン、およびその他のベンゾフェノン誘導体、ベンジルジメチルケタール、2-ベンジル-2-N,N-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-1ブタノン、2-メルカプトベンゾオキサゾール、ショウノウキノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-(4-t-ブチル)フェニルプロパン-1-ノン、2-メチル-1-[4-(メチルチオフェニル)-2-モルホリノプロパノン、マレイミド、2,4,5-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメチルオキシベンゾイル)2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド、以上のものから誘導されるポリマー光開始剤、およびこれらの組み合わせ。一つの態様において、約70重量%のオリゴ(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノンと約30重量%の2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オンの混合物のようなプロパノン光開始剤を用いてもよく、これはLamberti USA, Inc., Conshohocken, PAからEsacure(登録商標)KIP 150またはKIP 100Fの商品名で市販されている。その他の光開始剤であってLamberti USA, Inc. によりKIPまたはEsacure(登録商標)の名称で販売されているものも用いることができる(例えば、Esacure SM 303)。その他のポリマー光開始剤としてはPalermo Lundahl IndustriesからのPL-816Aがある。別の態様において、酸化物の光開始剤を用いることができる。一つの適当な酸化物光開始剤はCiba Specialty Chemicals(ニューヨーク州、Tarrytown)からIrgacure(登録商標)819の商品名で市販されているビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシドである。Ciba Specialty ChemicalsによってIrgacure(登録商標)の商品名で販売されているその他の光開始剤も、用いるのに適している。
【0052】
[0051]特定の化合物は光開始剤と架橋剤の両方として作用する。これらの化合物は、紫外線に曝露すると二つ以上の反応種(例えば、遊離基、カルベン、ニトレンなど)を生成し、それに続いて二つの先駆物質のポリマーと共有結合する能力があることによって特徴づけられる。これら二つの機能を果たすことができる任意の化合物を用いることができ、代表的な化合物としては、米国特許6211302号(Ho他)および同6284842号(Ho他)に記載されているスルホニルアジドがある(これら両者の内容は参考文献として本明細書に取り込まれる)。
【0053】
[0052]水性混合物は、この混合物または硬化した電極結合剤の所望の特性に適したその他の添加剤を含んでいてもよい。添加剤は、コーティング組成物の中で各々の添加剤について、水性混合物の約10重量%までの量で用いることができ、幾つかの態様においては約5重量%までの量、また幾つかの態様においては約2重量%までの量で用いることができる。水性混合物の中に含めることができる添加剤としては、(これらに限定はされないが)カップリング剤、定着剤、分散剤、硬化促進剤、光増感剤、湿潤剤、脱泡剤などがある。例えば、適当なカップリング剤はy-グリシドキシプロピルトリメトキシシランであり、例えば、Momentive Performance Materials(ニューヨーク州、Albany)から市販されているSilquest(登録商標)A-187がある。
【0054】
[0053]一つの態様において、湿潤剤を水性混合物の中に含めることができる。湿潤剤は固体電極粒子と、ポリマー先駆物質と、電極を形成する際に上に水性混合物を塗布することができる集電体との間の接触と湿潤を改善することができる。従って、湿潤剤を含めると、電極結合剤が硬化した後の様々な成分の間の付着性を改善することができる。湿潤剤はまた、水性混合物のその他の成分の溶解性と分散性を改善することもできる。
【0055】
[0054]湿潤剤は、一般に結合剤コーティング組成物が硬化する前または硬化する間に揮発する犠牲物質ならびに硬化した後に製品の中に残ることができる物質の両方を含むことができる。例えば、湿潤剤は結合剤が硬化した後に電解質として機能することができる。典型的な湿潤剤としては、(これらに限定はされないが)アセトン、イソプロピルアルコール、ジメチルカーボネート、その他同種類のものが挙げられる。一般に、水性混合物の各成分と集電体との間の湿潤と接触を改善することができる任意の溶媒または電解質材料を用いることができる。一つの態様において、速く蒸発する低沸点の湿潤剤を用いることができる。例として、湿潤剤は約160°F(約71℃)未満の沸点を有することができる。有利なこととして、低沸点の湿潤剤を用いることにより、紫外線または電子ビーム線によって硬化する間に湿潤剤は散逸することができ、そしてこれまでに知られたプロセスにおいて溶媒を除去するのに必要な相当な熱エネルギーの投入を必要としない。あるいは、硬化した後に材料の中に残るように、例えば電解質として利用するために、湿潤剤を用いることができる。
【0056】
[0055]ここで図面を参照すると、図1図2は電極の集電体2に水性混合物を層5として塗布するための態様を示し、そして図3は形成された製品を例示する。図3において、固体の電極粒子9と残りの水性混合物10が、別個の層として示されている。しかしながら、一般に、これら二つは、単一の層5を形成するための単一の水性混合物として予め混合された状態で集電体2に塗布される。層5のポリマー先駆物質は、化学線および/または電子ビーム線を用いて集電体2の上で硬化される。架橋することによって集電体に付着したマトリックスを形成した後、その架橋したポリマー先駆物質は優れた耐薬品性を示すことができ、また高温において電解質の中で不溶性であり、同時に、集電体への並はずれた付着性を示すだろう。
【0057】
[0056]さらに詳しくは、図1図2を参照すると、電極の集電体の繰出しロール1は電極の集電体2を供給する。アプリケーター3は固体の電極粒子を残りの水性混合物と混合し、そして水性混合物の薄い層5を移動する集電体2に塗布することができる。この塗布コーティングは慣用のコーティング法によって、例えば、グラビア、フレキソ、スロットダイ、リバースロール、ロール式ナイフ塗布、フラットおよび回転スクリーン印刷、押出し、オフセット、またはその種の他の方法によって行うことができる。
【0058】
[0057]電極層5を形成した後、この層に化学線4および/または電子ビーム線8を当てることができ、それにより層5のポリマー先駆物質を架橋させることができる。例えば、水性混合物に紫外線、可視光および/または電子ビーム線を照射し、このとき必要であれば光開始剤の存在下でその照射を行うと、水性混合物の架橋剤はポリマー先駆物質の反応性官能基と反応することができ、層の全体に共有結合が形成し、それにより架橋した網状構造の中に固体の電極粒子がしっかりと封入され、また層5が集電体2に強固に結合する。
【0059】
[0058]この形成方法は、化学線による硬化4および/または電子ビーム線による硬化8についての比較的短い滞留時間を伴うことができる。従って、電極の集電体2への層5の塗布とその架橋は、製造の速度を増大させ、そしてコストを低減させることができる。電極のコーティング材料からなる複数個の層を形成するために複数のアプリケーターの位置3を用いることができ、場合によりそれらの層の間にセパレーターの層を設け、それにより必要な最終的な厚さを(例えば、約20フィート/分から約400フィート/分までの)高速度で得ることができる。
【0060】
[0059]電極の層の間に含めることができるセパレーターは、当分野で一般的に知られた任意のセパレーターとすることができる。例えば、EDLCまたはリチウムイオン電池を形成する場合、隣接する電極層の間にセパレーターを付与することができ、そのセパレーターはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、またはPPとPEが融合した層、その他同種類のもののような、多孔質の(また、しばしば強化された)ポリマーのシートで形成される。
【0061】
[0060]水性混合物は一般に、電極の集電体2に極めて薄い層5として塗布される。電極の層5の厚さは、約1ミクロンから約500ミクロンまで、約5ミクロンから約250ミクロンまで、約5ミクロンから約200ミクロンまで、あるいは約5ミクロンから約150ミクロンまでとすることができる。層5は集電体2の一方の側または両側に付与することができる。図1図2は、集電体2の各々の側に電極の層5を付与する装置を示している。
【0062】
[0061]図1図2はそれぞれ、化学線による硬化と電子ビーム線による硬化4および8の両方を使用する装置を表わしている。水性混合物の特性に応じて、化学線の装置4単独、電子ビーム線の装置8単独、あるいは両方を使用することができる。
【0063】
[0062]図1を参照すると、電解質6を電極の集電体2および層5と合体させてもよい。電解質6は固体、液体またはゲルとすることができ、これについては当分野で知られている。例えば、電解質6は有機電解質とすることができ、例えばカーボネート(例えば、リチウムイオンの錯体を含むエチレンカーボネートまたはジエチルカーボネート)であり、または水性電解質(例えば、水酸化カリウム、硫酸)であり、あるいはリチウムイオンの錯体を含むアルキルカーボネートのような有機カーボネートの液体混合物(例えば、LiPF、LiAsF、LiClO、LiBFおよびLiCFSOのような非配位陰イオンの塩)である。電解質6が液体である場合、電解質の層6の中にポリマーのセパレーターが含まれていてもよい。一般に、電解質6が固体またはゲルである場合、電解質のセパレーターは必要ではないが、しかしこれらの態様においてもなおセパレーターを使用してもよい。層5を集電体2の両側に付与する場合、電解質6を集電体2の各々の側に合体させてもよい。次いで、製品をカレンダーロール7に通してもよく、これにより層を所望の厚さに圧縮することができる。所望により、電子ビーム線の装置8は電解質6を貫いて照射するようにすることができ、それによって結合材料を硬化させる。
【0064】
[0063]図2を参照すると、これは電解質6を組み込まない電極を製造するためのプロセスを示している。図3に示すような電気化学セル11を組立てるために、図2に示す方法を図1に示す方法と組み合わせることができる。例えば、アノードまたはカソード(集電体2と層5)および電解質6を構成するために図1に示すプロセスを用いることができる。電解質6の無い反対側の電極を構成するために図2に示すプロセスを用いることができる。次いで、電気化学セルを構成するために図1の製品と図2の製品を組み合わせることができる。
【0065】
[0064]例えば、図3は全体としてリチウムイオン電気化学セル11を例示している。示されているように、セル11は集電体2とその各々の側に配置された層5を含む。層5はアノード(-)またはカソード(+)の活性固体電極粒子9と残りの水性混合物10を含む。図3はまた、図解の便宜上、固体電極粒子9と残りの水性混合物10が層5の中で分離していることを示している。各々の電極層5の上に、電解質6および場合により電解質のセパレーター(図示せず)が配置されていてもよい。当業者であればわかるであろうが、リチウムイオン電池は、所望により任意の数の電気化学セル11を直列または並列に含むことができる。セル11に加えて、本開示に従って構成されるリチウムイオン電池は絶縁材料、ケーシング、制御回路部品、コネクターなどをさらに含むことができ、これについては当業者であれば認識できるであろう。さらに、電池は円筒形、角柱、パンチタイプ、あるいは当分野で知られているその他の電池のような、任意のタイプのリチウムイオン電池とすることができる。
【0066】
[0065]同様に、EDLCを構成するために、第一の電極と第二の同様の電極を、これらの電極の間に適当な電解質とセパレーターを伴って組み立てることができる。例えば、図4を参照すると、EDLC40は第一のアルミニウムの集電体42と第二のアルミニウムの集電体43を含むことができる。第一および第二の集電体42、43はセパレーター46によって分離することができる。セパレーター46の両側にある第一の層44と第二の層45は同じものであっても、あるいは異なるものであってもよい。例えば、両層44および45は、化学線または電子ビーム線によって硬化した水性混合物50と、この混合物の中に含まれる固体の微粒子52(例えば、黒鉛)を含むことができる。セパレーター46は任意の標準的なセパレーター(例えば、多孔質のPP-PE-PPの薄膜)とすることができる。
【0067】
[0066]本開示は多くの利点をもたらすことができる。例えば、開示された方法は電極のための製造コストを著しく低減することができ、従って、その電極から製造される製品のコストも低減する。本開示の利点としては(これらに限定はされないが)次のことが挙げられる:
a)電極の結合材料を硬化させるための処理時間の相当な低減。
b)熱硬化用オーブンを用いる必要性が解消することと、これに関連して化学線および/または電子ビーム線による硬化を行う位置の代わりに熱乾燥を行うエネルギーの非効率性が解消することによる資本および運転のコストのかなりの低減。
c)熱硬化に伴うスペース、建物、施設および補修管理の相当な低減。例えば、自動車の電池のための現行の加熱ラインは長さが300フィートで1分間当り10~20フィート稼動される。(298フィートの製造ラインに代えて)2フィートの長さに2個の紫外線ランプを設置することができ、200フィート/分で電池を製造する。従って、200フィート/分で稼動するように加熱ラインを拡張するために、製造ラインの加熱部分を少なくとも3000フィートの長さに拡大する必要があり、あるいは建物は0.57マイルの長さを追加する必要がある。
d)コーティングは通常クリーンルームの中で施されるので、製造エリアの除湿に関連するエネルギーと資本の相当な低減。
e)より短い加工ラインを使用するということは、長い乾燥処理を行う間に薄片を張力と自重に耐えられるほどに厚くする必要がないことも意味する。より薄い薄片を用いると電池の重量も軽くなり、このことは、電池自体の重量と車両の重量を移動させるために電池のエネルギーが用いられる車両の用途において極めて有益である。
f)有機溶剤を使用する必要性がかなり低減するか、あるいは解消し、それにより揮発性有機化合物(VOC)の調達、回収および処分の費用をかなり低減または解消することができる。
【0068】
[0067]以下の実施例を参照することによって、本発明をもっと理解できるだろう。
【実施例
【0069】
[0068]実施例において使用した材料は以下の通りである:
ポリマーの先駆物質
PP1- Cytec Industries, Inc. から入手できるUcecoat(登録商標)7689アクリル化ポリウレタン分散剤
PP2- Cytec Industries, Inc. から入手できるUcecoat(登録商標)7699脂肪族ポリウレタン分散剤
光開始剤
PI 1- 2-ヒドロキシ-メチル-1-フェニルプロパノン
PI 2- ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド
PI 3- 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン
PI 4- ベンゾフェノン
固体電極粒子
SEP1- メソカーボンマイクロビーズ黒鉛(MSMB)
SEP2- カーボンブラック
SEP3- 酸化リチウム(ニッケルコバルトマンガン)
分散剤
Disp1- Tamol(登録商標)1254-Dow Chemical Co. から入手できる多酸分散剤
Disp2- Lubrizol Corp. から入手できるSolsperse(登録商標)41000
促進剤
トリエタノールアミン
光増感剤
チオキサントンとイソプロパノールの混合物
脱泡剤
Def1- Cytec Industries, Inc. から入手できるAdditol(登録商標)VXW
Def2- BYK Chemie から入手できるBYK(登録商標)-028
湿潤剤
Dow Chemical Co. から入手できるDowanol(登録商標)PMグリコールエーテル。
【0070】
実施例1
[0069]アノード結合剤を形成するための水性混合物を形成した。この水性混合物の成分内容を下の表に記載する。
【0071】
【表1】
【0072】
[0070]水性混合物は黒鉛の分散を促進するための18.3重量%の追加の水を含んでいた。成分の多くが水を含んでいたので、水性混合物中の水の合計は30.7重量%であった。25μmの厚さの銅の電極にコーティングを塗布し、ホットエアガンを用いて乾燥し、そしてベルト速度が100フィート/分で2個のMiltec HPI 650 W/インチのランプを備えたMiltec コンベヤーの上で2回のパスを行って、紫外線による硬化を行った。コーティングの密度は8.3mg/cmであった。水性混合物は紫外線の代わりに電子ビームを用いて硬化することもできたが、その場合は、混合物から光開始剤を省くことができた。
【0073】
[0071]対極としてリチウム金属を用いるコイン型セル試験において、電極とコーティングの評価を行った。結果を図5A図5Bに示す。図5Aでの評価において、最初の放電は48mAh/gにおいて行われ、最初の充電は38mAh/gにおいて行われた。図5Bでの評価において、最初の放電は313mAh/gにおいて行われ、最初の充電は264mAh/gにおいて行われた。示されるように、このリチウムイオン電池は充電と放電を行うことができた。
【0074】
実施例2
[0072]アノード結合剤を形成するための水性混合物を形成した。この水性混合物の成分内容を下の表に記載する。
【0075】
【表2】
【0076】
[0073]#9のマイヤーロッドを備えたRKコントロールコーター(RK Control-Koter)(RK Print-Coat Instruments Ltd., 英国、Hertz)を用いて、25μmの厚さの銅の電極に水性混合物を塗布した。熱風を用いてコーティングから水を乾燥させた。次いで、ベルト速度が100フィート/分で2個のMiltec HPI 650 W/インチのランプを備えたMiltec コンベヤーの上で2回のパスを行って、紫外線によるコーティングの硬化を行った。コーティングの密度は7.59mg/cmであった。
【0077】
[0074]実験の結果を図6A(静電容量に対する電圧の変化)および図6B(サイクル数に対する静電容量の変化)に示す。この電池は40サイクルにわたるサイクル(充放電サイクル)を行い、サイクルが進むにつれて静電容量が増大した。MCMBの電極粒子についての電流密度は30mA/g(C/10)カットオフは0.001~1.5V、塗布量は6.8mg/cmであった。3回のサイクルについてC/10を用い、残りについてはC/3を用いた。理解できるように、この電池は実施例1のものよりも大きな静電容量を有していた。これは追加のカーボンブラックによるものと考えられる。
【0078】
実施例3
[0075]カソード結合剤を形成するための水性混合物を形成した。この水性混合物の成分内容を下の表に記載する。
【0079】
【表3】
【0080】
[0076]以上の説明は、最良の形態であると現在考えられているものを当業者が製造して使用することを可能にするが、本明細書における特定の態様、方法および実施例の変形、組み合わせおよび同等物が存在することを、当業者であれば理解し、認識するだろう。
従って、本開示は上記の態様、方法および実施例によって限定されるべきではなく、特許請求の範囲の開示の範囲と精神に含まれる全ての態様と方法によって確定されるべきである。
[発明の態様]
[1]
電極を形成する方法であって、次の各工程:
電極の集電体に水性混合物を塗布することによって集電体の上に層を形成する工程、ここで、水性混合物はポリマーの先駆物質、固体の電極粒子および水を含み、ポリマーの先駆物質は水の中に分散または溶解されている;および
層に電子ビーム線および/または化学線を当てることによってポリマーの先駆物質を重合および架橋させる工程、それにより固体の電極粒子を集電体に結合させる電極結合剤が形成し、そして電極が形成する;
を含む、前記方法。
[2]
水性混合物はさらに、架橋剤と、場合により光開始剤を含み、水性混合物はさらに添加剤を含み、例えば重量で約5重量%未満の混合有機溶媒を含む、1に記載の方法。
[3]
電極はカソードまたはアノードである、1または2に記載の方法。
[4]
ポリマーの先駆物質はモノマーまたはオリゴマーを含み、例えばオリゴマーはポリウレタン、ポリエステル、ポリオレフィン、セルロース誘導体、ゴム、ラテックス、ポリスルフィド、アクリル樹脂またはシリコーンであり、オリゴマーのポリマー先駆物質は、例えば約150000未満の数平均分子量を有する、1から3のいずれかに記載の方法。
[5]
水性混合物はポリマー先駆物質を約2重量%から約25重量%までの量で含み、そして/または、固体の電極粒子を約50重量%から約90重量%までの量で含む、1から4のいずれかに記載の方法。
[6]
固体の電極粒子は炭素の粒状物質、ケイ素をベースとする材料、金属酸化物の塩、セラミック材料、またはこれらの組み合わせを含む、1から5のいずれかに記載の方法。
[7]
層は、グラビア、フレキソ、スロットダイ、リバースロール、ロール式ナイフ塗布、フラットおよび回転スクリーン印刷、押出し、またはオフセットから選択されるコーティング法によって形成され、層の厚さは約1ミクロンから約500ミクロンまでである、1から6のいずれかに記載の方法。
[8]
層に隣接して電解質を付与することをさらに含み、そして場合により電解質の中に電解質のセパレーターを含める、1から7のいずれかに記載の方法。
[9]
第一の電極に隣接して第二の電極を組み合わせることをさらに含み、場合により第二の電極は第一の電極と同じものであり、この方法はさらに、第一および第二の電極を、これら第一および第二の電極の間に設ける電解質およびセパレーターと組み合わせることを含む、1から8のいずれかに記載の方法。
[10]
集電体とこの集電体の上の層を含む電極であって、その層は電極結合剤の中に保持された固体の電極粒子を含み、電極結合剤はポリウレタン、ポリエステル、ポリオレフィン、セルロース誘導体、ポリスルフィド、アクリル樹脂、シリコーン、またはポリオレフィンの先駆物質から選択される架橋したポリマー先駆物質を含む、前記電極。
[11]
電極結合剤は、反応した化学線硬化性または電子ビーム硬化性の架橋剤であってポリマー先駆物質に共有結合した架橋剤をさらに含み、そして場合により、ポリマー先駆物質に共有結合した反応した光開始剤をさらに含む、10に記載の電極。
[12]
電極結合剤は架橋したモノマー先駆物質をさらに含む、10または11に記載の電極。
[13]
電極はカソードまたはアノードである、10から12のいずれかに記載の電極。
[14]
固体の電極粒子は炭素の粒状物質、ケイ素をベースとする材料、金属酸化物の塩、セラミック材料、リチウム化した化合物、またはこれらの組み合わせを含む、10から13のいずれかに記載の電極。
[15]
10から14のいずれかに記載の電極を含む電池または二重層コンデンサー、例えばリチウムイオン電池。
【符号の説明】
【0081】
1 集電体の繰出しロール、 2 電極の集電体、 3 アプリケーター、 4 化学線、 5 水性混合物の層、 6 電解質、 7 カレンダーロール、 8 電子ビーム線、 9 固体の電極粒子、 10 水性混合物、 11 電気化学セル、 40 EDLC、 42 第一の集電体、 43 第二の集電体、 44 第一の層、 45 第二の層、 46 セパレーター、 50 硬化した水性混合物、 52 固体の微粒子。
図1
図2
図3
図4
図5
図6