(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-13
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】防振支持構造および防振システム
(51)【国際特許分類】
E04F 15/18 20060101AFI20220118BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
E04F15/18 601Z
F16F15/02 A
F16F15/02 D
(21)【出願番号】P 2017149608
(22)【出願日】2017-08-02
【審査請求日】2020-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】特許業務法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊賀 良彦
(72)【発明者】
【氏名】石垣 博邦
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-163536(JP,A)
【文献】特開昭58-189455(JP,A)
【文献】特開2010-047953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 15/18
F16F 15/02
E04B 5/43
E04B 1/62- 1/99
E04H 9/00- 9/16
G21C 13/00-13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波の振動と低周波の振動を抑制する防振支持構造であって、
建屋の床のうち壁近傍の所定領域に対向して立設される複数の支持部と、
前記各支持部により前記床上に支持される支持構造物と、
前記支持構造物を前記床に対して固定する固定装置とを備え、
前記固定装置は
、外部からの高速物体が建屋に衝突する際に解除指令を受信すると、前記支持構造物の前記床に対する固定を解除し、
前記支持部は、低周波の振動に対しては、前記支持構造物の並進変位を拘束し、前記支持構造物と前記床との相対変位を抑制しており、
前記所定領域は、
外部からの高速物体が建屋に衝突して前記床が
高周波の振動で振動する際に振動の節となる領域である、
防振支持構造。
【請求項2】
前記各支持部は、前記支持構造物を相対回転可能に支持する、
請求項1に記載の防振支持構造。
【請求項3】
前記支持構造物は、少なくとも一つの梁部材から構成される、
請求項1に記載の防振支持構造。
【請求項4】
前記支持構造物は、平板部材で構成される、
請求項1に記載の防振支持構造。
【請求項5】
高周波の振動と低周波の振動を抑制する防振支持構造を用いて振動を抑制する防振システムであって、
前記防振支持構造は、
建屋の床のうち壁近傍の所定領域に対向して立設される複数の支持部と、
前記各支持部により支持される支持構造物と、
前記支持構造物を前記床に固定する固定装置とを備えており、
前記防振支持構造を制御する制御装置は、
外部からの高速物体が建屋に衝突することを示す所定の入力を受信すると、前記固定装置に対して前記支持構造物の固定を解除させる解除指令を出力
し、
前記支持部は、低周波の振動に対しては、前記支持構造物の並進変位を拘束し、前記支持構造物と前記床との相対変位を抑制しており、
前記所定領域は、
外部からの高速物体が建屋に衝突して前記床が
高周波の振動で振動する際に振動の節となる領域である、
防振システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振支持構造および防振システムに関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉格納容器などを収容する原子炉建屋は、地震などの自然災害に耐えることができるように、鉄筋コンクリートなどを用いて強固に建設される。さらに近年では、航空機などの衝突に対する一層の安全強化も求められている。
【0003】
航空機などの飛来物が原子炉建屋に衝突した際には、衝撃によって発生した振動が屋根または壁から床を伝播し、建屋内部の床上に置かれた機器を振動させる。この振動は高周波数の成分を含み、機器に大きな加速度を発生させる可能性がある。よって機器の加速度が許容加速度以下となるように、床上に置かれた機器の振動を抑える必要がある。
【0004】
従来、床の振動を低減する構造として、床の振動を速やかに減衰できるようにした防振床構造が提案されている(特許文献1)。この従来技術では、床梁と床梁の端部を支持する構造躯体との間に、床梁の荷重を構造躯体に伝達する支持部材と、床梁の振動によって生じる床梁端部の回転変位を抑制する粘弾性部材を設置している。この支持部材は、断面が円形の棒状部材(鉄筋または円形鋼管)や球状部材(鋼球)などからなり、床梁の材軸直交方向に沿って設置されている。また粘弾性部材は、シリコーン系やポリウレタン系の樹脂からなり、支持部材の両側に設置されている。この従来構造では、床梁の振動によって生じる床梁端部の回転変位を粘弾性部材によって抑制することにより、床の振動を速やかに減衰させることができる。
【0005】
原子力プラントに航空機が衝突した場合の高次振動を抑制する技術も知られている(特許文献2)。特許文献2の技術では、大きな質量を有する球状のインパクタを常時は移動不能に固定しておき、航空機の衝突時にはインパクタを移動可能にする。そして、インパクタを航空機衝突時の衝撃で移動させることで、その振動エネルギを減衰させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-47953号公報
【文献】特開2014-152592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1記載の従来技術では、床の水平方向の変位は粘弾性部材で柔らかく拘束されているため、この床は水平方向に免震された状態となる。免震では、構造躯体から床上の機器への高周波の振動伝達を遮断することができる。しかし、ポンプなどの床置き機器をこの免震床上に置くと、地震時に建屋全体が低周波で振動した際に、建屋とポンプの間に相対変位が生じ、ポンプに接続している配管に大きな応力が発生する可能性がある。
【0008】
特許文献2記載の従来技術では、大重量のインパクタの移動によって振動エネルギを吸収するため、その構造が大がかりであり、コストも高い。
【0009】
さらに、従来技術では、高周波の振動と低周波の振動とを共通の構造で防振することができない。このため、両方の振動に対応しようとすると、別々の防振構造が必要となり、使い勝手が悪く、コストが増大する。
【0010】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、建屋の床に生じる高周波振動および低周波振動を抑制できるようにした防振支持構造および防振システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決すべく、本発明に従う防振支持構造は、振動を抑制する防振支持構造であって、建屋の床のうち壁近傍の所定領域に対向して立設される複数の支持部と、各支持部により床上に支持される支持構造物と、支持構造物を床に対して固定する固定装置とを備え、固定装置は解除指令を受信すると、支持構造物の床に対する固定を解除する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、支持構造物は各支持部および固定装置により床上に支持されるため、支持構造物は、建物全体が変形する低周波振動に対して建物と一緒に変位し、支持構造物と建物の間の相対変位を抑制できる。固定装置が解除指令を受信して、支持構造物の床に対する固定を解除すると、支持構造物は床のうち壁近傍の所定領域に配置された各支持部により支持される。壁付近では床の変位が少ないため、床が局所的に高周波数で振動した場合でも、その高周波振動が支持構造物へ伝わるのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施例に係る防振支持構造および防振システムの説明図。
【
図7】固定装置および支持部のさらに別の変形例を示す平面図。
【
図8】第2実施例に係る防振支持構造の支持部の構成を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。本実施形態では、外部から高速物体が建屋に衝突した場合に、床5の支持構造物22上に置かれた防振対象物6へ高周波振動が伝わるのを抑制できると共に、地震発生時に建物全体が変形して低周波振動が発生した場合でも、建屋と防振対象物6との間の相対変位を抑制できる防振支持構造2を説明する。
【0015】
本実施形態の防振支持構造2は、壁4の近傍の床5の上に支持部21を設け、この支持部21の上に支持構造物22を配置して、支持部21で支持構造物22の並進変位を拘束する。さらに、本実施形態の防振支持構造2では、支持構造物22の下部に取り付けた脚部23を床5の上にある固定装置24で固定し、図外の飛来物が建屋に衝突する際に固定装置24による固定を解除する。
【0016】
本実施形態の防振支持構造2によれば、飛来物衝突時に、支持構造物22は床5の振動の節となる床5の端部近傍のみで支持部21によって支えられているため、床5の高周波数の上下振動が支持構造物22には伝わりにくく、支持構造物22上に設置した防振対象物6に加わる高周波振動を低減できる。
【0017】
また、本実施形態の防振支持構造2によれば、支持構造物22は支持部21で並進変位を拘束されているため、建屋全体が変形する地震時の低周波振動に対しては、支持構造物22と床5とはほぼ一体となって動き、両者の相対変位を抑えることができる。さらに、通常時(地震時も含む)は、支持構造物22の下部に取り付けた脚部23を介して支持構造物22が床5に固定されているため、上下方向の地震動を受けても支持構造物22と床5の間の相対変位は発生しない。
【実施例1】
【0018】
図1~
図7を用いて第1実施例を説明する。
図1は、防振支持構造2と制御システム3を含む防振システム1の構成例を示す。
【0019】
防振システム1は、防振支持構造2と、防振支持構造2を制御する制御システム3とを備えている。防振支持構造2は、例えば原子炉建屋(図示せず)の一方の壁4と他方の壁4の間に設けられる。壁4は、外壁または内壁である。つまり、建屋の外壁と内壁の間に防振支持構造2を設けることもできるし、建屋の向かい合う内壁間に防振支持構造を設けることもできる。制御システム3は、防振支持構造2ごとに設けてもよいし、あるいは、一つの制御システム3で複数の防振支持構造2を制御してもよい。
【0020】
防振支持構造2では、建屋の壁4近傍の床5の所定領域上に複数の支持部21が対向して設けられており、各支持部21の上には支持構造物22が載せられている。
【0021】
所定領域とは、壁4で固定されている床5の周縁部であって、床5の振動時に、振動の節となる箇所である。つまり、本実施例では、床5の振動時に節となる箇所にそれぞれ支持部21を設置する。したがって、各支持部21は、床5上に離間して対向して(対面して)配置される。各支持部21の下側の端部は、床5に固着されている。各支持部21の上側の端部は、支持構造物22の下面に固着されている。
【0022】
支持構造物22の変位は、各支持部21によって拘束されている。支持構造物22の下部には、脚部23が設けられている。通常、この脚部23は、床5の上に設置された固定装置24によって床5へ固定されている。
【0023】
制御システム3は、防振支持構造2の固定装置24の動作を制御する。制御システム3は、例えば、アクチュエータ31と、制御装置32と、ユーザインターフェース装置(図中、UI装置)33と、警報発生装置34とを備える。
【0024】
アクチュエータ31は、固定装置24を駆動して、支持構造物22に対する固定を解除する駆動装置である。制御装置32は、解除指令を受信すると、アクチュエータ31に制御信号を出力し、固定装置24による支持構造物22の固定を解除する。
【0025】
ユーザインターフェース部33は、制御装置32との間で情報を交換する装置であり、例えば、解除指令を与える解除指示部331と、状態表示部332を備える。管理者などのユーザは、航空機の衝突を予想すると、解除指示部331を用いて解除指令の出力を制御装置32に対して指示する。
【0026】
状態表示部332は、防振支持構造2の固定状態を表示する。制御装置32は、防振支持構造2に設けられたセンサ35からの信号に基づいて、固定状態を判別し、その判別結果を状態表示部332へ表示する。センサ35は、固定装置24の作動状態を検出できるセンサであればよく、例えば、光センサ、近接スイッチ、機械式リミットスイッチなどを用いることができる。
【0027】
警報発生装置34は、例えば、航空機の衝突などの異変を検知すると、解除指令を制御装置32へ出力する。警報発生装置34は、例えば、レーダ装置、防災通信網などから情報を取得し、解除指令を出力する。
【0028】
制御システム3のうち、例えば、アクチュエータ31を防振支持構造2の近傍に配置し、制御装置32とユーザインターフェース装置33および警報発生装置34を制御室などに設けてもよい。
【0029】
図2は、防振支持構造2を上から眺めた平面図である。支持構造物22は、例えば平行に配置された2本の梁からなり、この2本の梁の上に防振対象物6が固定される。3本以上の梁で支持構造物22を形成してもよい。
【0030】
図3を用いて、固定装置24の構造例を説明する。固定装置24は、例えば、床5に一部が埋め込まれた土台241と、土台241に伸縮可能に取り付けられたピストン242とからなる。土台241は、脚部23を左右両側から挟み込む形状に形成されており、床5に埋め込まれている。ピストン242は、油圧または空気圧または電動のアクチュエータ31によって、
図3中の左右方向に移動する。
【0031】
図3(a)に示すように、通常時は、ピストン242を伸ばして支持構造物22の脚部23を左右両側から挟み込むことにより、脚部23を床5に対して固定する。固定装置24により、脚部23の上下方向の変位は拘束される。
【0032】
図3(b)に示すように、図外の飛来物が建屋に衝突する場合は、制御装置32からの解除指令にしたがってアクチュエータ31が動作し、ピストン242が縮退する。これにより、固定装置24による固定は解除され、脚部23は開放される。
【0033】
図4を用いて、振動の様子を説明する。飛来物が原子炉建屋に衝突した際には、
図4(a)の一次振動モードと
図4(b)の二次振動モードとに示すように、床5が局所的に高周波数で振動する振動モードが励起される。
【0034】
これらの振動モードでは、壁4近傍(図中のFの位置)は振動の節になるため、これらの位置Fでの振動振幅は小さい。飛来物衝突時には、固定装置24による固定が解除され、振幅が小さい位置Fのみで支持構造物22が支持部21によって支えられる。これにより、床5が上下方向に局所的に高周波数で振動したとしても、床5の振動が支持構造物22へ伝わりにくい。よって支持構造物22上に設置した防振対象物6の高周波振動を低減できる。
【0035】
支持構造物22は、各支持部21で変位を拘束されているため、建屋全体が変形する低周波の振動に対しては、支持構造物22と床5とはほぼ一体となって動く。したがって、支持構造物22の上に防振対象物6としてポンプ等の機器を置いたとしても、防振対象物6と床5との相対変位を抑えることができる。このため、ポンプ等に接続されている配管等(不図示)に対して、相対変位に起因する大きな応力が発生するのを抑制できる。
【0036】
さらに、通常時(地震時も含む)では、脚部23を介して支持構造物22が床5に固定されているため、上下方向の地震動を受けたとしても、支持構造物22と床5の間で相対変位は発生しない。よって、本実施例によれば、飛来物の衝突時に発生する床5の高周波振動が床置きの防振対象物6に伝わらないようにするとともに、建屋全体が変形する低周波の振動に対して、建屋と床置きの防振対象物6との間の相対変位を抑制できる。
【0037】
図5は、固定装置24の変形例を示す。
図3では、脚部23をピストン242で挟み込む構造としたが、これに代えて、
図5に示すように、脚部23に凹部231を設け、凹部231にピストン242を差し込む構造としてもよい。
【0038】
図3の構造では、ピストン242の先端を脚部23に強固に押しつけることにより脚部23の上下方向の変位を拘束するため、大きな荷重を発生させることができるアクチュエータ31が必要であった。これに対し、
図5の変形例によれば、ピストン242と凹部231とが上下方向に接触することで脚部23の上下方向の変位を拘束するため、アクチュエータ31で発生させる荷重は
図3に比べて小さくてすむ。
【0039】
図6は、他の変形例に係る固定装置24aの構造例を示す。この変形例では、固定装置24の土台241のうち脚部23を挟み込む部分と脚部23とに同軸の貫通孔haを設け、その貫通孔haに連結棒243を挿通する。連結棒243を貫通孔haに挿通することにより、脚部23の上下方向の変位を拘束する。連結棒243は、直動ソレノイド244によって駆動される。直動ソレノイド244はアクチュエータ31の一例である。
【0040】
図6(a)に示すように、直動ソレノイド244が伸長して、連結棒243が貫通孔haの全長にわたって挿通されると、固定装置24aは、脚部23を介して支持構造物22を床5に固定する。
【0041】
これに対し、
図6(b)に示すように、飛来物の衝突に備えて直動ソレノイド244が縮退し、連結棒243が脚部23に形成された孔(貫通孔haの一部)から引き抜かれると、固定装置24aは支持構造物22の固定を解除する。
【0042】
図6に示す変形例では、連結棒243が水平方向に移動することで、固定装置24aで支持構造物22を固定したり、その固定を解除したりすることができる。したがって、
図6の変形例によれば、
図3および
図5で示した構造よりも簡単な構造で、固定装置24を構成することができる。
【0043】
壁4で囲まれた部屋内の複数個所に防振対象物が点在する場合は、支持構造物22を梁ではなく、平板で構成してもよい。この場合の支持部21および固定装置24の配置例を
図7に示す。
【0044】
図7の変形例に示す防振支持構造2aでは、室内の四辺を取り囲むようにして、4つの支持部21を部屋の周囲の壁4に沿ってそれぞれ配置し、これらの支持部21の上に平板形状の支持構造物(図示せず)を載せる。平板状の支持構造物の下部には、複数の脚部(図示せず)が設けられており、これらの脚部の直下に配置される各固定装置24により各脚部を固定する。
【0045】
以上詳述した通り、本実施例によれば、外部から飛行機などの高速物体が建屋に衝突した場合に、床5に置かれた防振対象物6へ高周波振動が伝わるのを抑制できると共に、地震発生時に建物全体が変形して低周波振動が発生した場合でも、建屋と防振対象物6との間の相対変位を抑制できる。
【0046】
すなわち、本実施例によれば、一つの防振支持構造2により高周波振動および低周波振動の両方を抑制することができ、比較的簡易な構成かつ低コストに振動に対する信頼性を高めることができる。
【0047】
なお、
図1では、固定装置24を支持構造物22の中央に1つだけ配置する例を示したが、固定装置24の配置場所および個数は適宜設定することができる。例えば、支持構造物22が長い場合には、脚部23が固定された状態であっても、支持構造物22の固有振動数が低くなるため、地震時に共振するおそれがある。そこで、支持構造物22が地震時に共振する可能性がある場合には、支持構造物22の長さ方向に複数の固定装置24を配置する。これにより、支持構造物22の固有振動数を上げて、地震時の共振を避けることができる。
【0048】
固定装置24を1つだけ配置する場合であっても、その位置は支持構造物22の中央である必要はない。例えば、防振対象物6が支持構造物22の中央(重心位置)から離れた位置に載っている場合、防振対象物6の直下に固定装置24を配置するとよい。これにより、防振対象物6の直下の支持構造物22は振動の節となって振幅が小さくなるため、地震時の防振対象物6の上下方向の振動を効果的に抑えることができる。
【実施例2】
【0049】
図8~
図13を用いて第2実施例を説明する。本実施例は第1実施例の変形例に該当するため、第1実施例との相違を中心に説明する。本実施例の防振支持構造2bでは、支持構造物22の端部の回転変位を拘束しない支持部21bを用いる。
図8は防振支持構造2bの側面図であり、
図9は支持部21bの拡大図である。
【0050】
支持部21bは、その先端が球形状または円柱形状のスタッド211と、スタッド211の先端の並進変位を拘束するソケット212とを備える。この構造では、スタッド211の先端がソケット212の中でボールジョイントのように回転可能なため、支持部21は支持構造物22の端部の回転変位を拘束しない。
【0051】
したがって、本実施例の防振支持構造2bによれば、
図4で示したように床5が変形し、床5の端部(図中の位置F)で床5に若干の回転変位が生じたとしても、この回転変位は支持構造物22の端部には伝わらないため、床5から支持構造物22への振動伝達を第1実施例よりも低減することができる。
【0052】
図10,
図11に示すような支持部を用いてもよい。
図10に示す支持部21cは、先端が半球形または半円形のスタッド211と、このスタッド211の先端の水平方向の変位を拘束するソケット212とを備える。
【0053】
図11に示す支持部21dは、支持構造物22と床5とにそれぞれ取り付けられた一組のソケット215と、この一組のソケット215に挟まれた転動体214(球または円柱または円管)からなる。
図11に示す構造も、
図9に示す構造と同様に、支持構造物22の端部の回転変位を拘束することはなく、床5から支持構造物22への振動伝達を第1実施例よりも低減することができる。
【0054】
さらに、
図10に示す構造では、スタッド211が設けられた支持構造物22を、床5上のソケット212に載せるだけで、組立が完了する。同様に、
図11に示す構造では、上側ソケット215を取り付けた支持構造物22を、転動体214を上下から挟み込むようにして下側ソケット215の上に載せるだけで、組立が完了する。したがって、
図10,
図11に示す構造は、
図9の構造よりも施工が容易になる。
【0055】
ただし、
図10,
図11に示す構造では、支持構造物22の上下方向の変位が拘束されていないため、防振対象物6の質量が軽い場合には、地震時に支持構造物22が床5から浮き上がる可能性がある。そこで、ソケット212の近傍に支持構造物22と床5をつなぐワイヤ213を取り付け、ワイヤ213により支持構造物22の上下方向の変位を拘束して、浮き上がりを防止してもよい。
【0056】
図12,
図13にさらに別の変形例を示す。
図12は、支持部21eを拡大して示す斜視図である。
図13は、防振支持構造2の側面図である。
【0057】
支持部21eは、床5上に離間して固定された複数の支持ブロック216と、各支持ブロック216間に相対回転可能に取り付けられた支持構造物22と、各支持ブロック216と各支持構造物22とを貫通する軸217とを備える。
【0058】
図13に示すように、各支持構造物22の両端部は、それぞれ複数の支持ブロック216で相対回転可能に支持されている。
【0059】
図12,
図13に示す構造も、
図9の構造と同様に支持構造物22の並進変位を拘束しながらも、支持構造物22の端部の回転変位を拘束することはない。そして、
図12,
図13に示す構造は、単純な形状の角材と軸とで構成されているため、部品の加工が容易であり、防振支持構造の製造コストを低減できる。
【0060】
なお、本発明は上記した実施例に限定されず、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0061】
1:防振システム、2:防振支持構造、3:制御システム、4:壁、5:床、6:防振対象物、21:支持部、22:支持構造物、23:脚部、24:固定装置、32:制御装置、F:振動の節、