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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-13
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】粉体状合成パルプの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/53 20060101AFI20220203BHJP
   D06M 13/17 20060101ALI20220203BHJP
   D21H 13/14 20060101ALI20220203BHJP
   D06M 101/20 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
D06M15/53
D06M13/17
D21H13/14
D06M101:20
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017173217
(22)【出願日】2017-09-08
(65)【公開番号】P2019049068
(43)【公開日】2019-03-28
【審査請求日】2020-07-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 学
(72)【発明者】
【氏名】中村 健一
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-066380(JP,A)
【文献】特開昭63-235575(JP,A)
【文献】特開2005-015995(JP,A)
【文献】特開2007-077519(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0059347(US,A1)
【文献】特開2001-204761(JP,A)
【文献】韓国公開特許第2001-0076413(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00-D21J7/00
D06M13/00-15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体状合成パルプを製造するための方法であって、
ポリビニルアルコールと、ポリビニルアルコール以外の熱可塑性樹脂とを含むパルプ状物からなり、前記ポリビニルアルコールの含有量がパルプ状物の全質量に対して0.1質量%以上10質量%以下である含水シートを原料として提供する工程と、
前記原料を、パルプ状物100質量部に対する水分量が400質量部以下となる条件で粉砕する粉砕工程と、
前記原料に非イオン系界面活性剤を付着させる付着工程と、
前記非イオン系界面活性剤の付着した原料を乾燥する乾燥工程とを含み、
前記乾燥工程の前または前記乾燥工程と同時に、前記原料のパルプ状物全質量に対して、0.1質量%以上10質量%以下の前記非イオン系界面活性剤を用いて、前記付着工程を実施
前記非イオン系界面活性剤が、重量平均分子量が200以上10,000以下のポリプロピレングリコールである、
粉体状合成パルプの製造方法。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂が、結晶性ポリオレフィンである、請求項1に記載の粉体状合成パルプの製造方法。
【請求項3】
少なくとも前記粉砕工程を、下羽根および上羽根の上下二段に設置された撹拌羽根を撹拌容器内に有するミキサーで実施する、請求項1または2に記載の粉体状合成パルプの製造方法。
【請求項4】
少なくとも前記粉砕工程および前記乾燥工程を、連続式の装置内で実施する、請求項1または2に記載の粉体状合成パルプの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体状合成パルプの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂から製造されたパルプ状物、いわゆる合成パルプは、不織布状に加工し、各種包装紙などとして使用するための合成紙や、フィルタ等として使用したり、塗料やインクに添加する添加剤として用いられるものである。
【0003】
従来、熱可塑性樹脂から製造された合成パルプは、乾燥時には浸潤性が悪く、水に分散し難いという問題があった。合成パルプの分散性を高める方法としては、例えば、合成パルプをポリビニルアルコールで表面処理する方法が知られている。また、合成パルプの製造時に懸濁剤として使用したポリビニルアルコールが合成パルプの表面に残存することもある。表面にポリビニルアルコールの付着した合成パルプは、水に浸漬した際には良好な分散性を示すものの、乾燥状態においては撥水性を示し、吸水性が低いことが知られている。よって、水分散性が高く、且つ乾燥時にも合成パルプに浸潤性をの、効率的な製造方法が望まれている。
【0004】
例えば、特許文献1には、熱可塑性樹脂のパルプ状物にポリプロピレングリコールを付着させることで、親水性を改良した合成パルプが記載されている。特許文献1の実施例においては、パルプ状物を水に加え、そこにポリプロピレングリコールを加えて激しく撹拌することで、パルプ状物の表面にポリプロピレングリコールを付着させたスラリーを得ている。さらにポリプロピレングリコールの付着したパルプ状物のスラリーを脱水抄造してシート化し、乾燥させて乾燥シートを得、得られた乾燥シートを粉砕して、粉体状の合成パルプを得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭63-66380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、特許文献1に記載された製造方法と同様に、熱可塑性樹脂のパルプ状物にポリプロピレングリコールを付着させ、それを脱水抄造してシート状に加工したところ、脱水抄造に用いた機器のワイヤーメッシュなどに加工したシートが付着することがあった。また、加工したシートを裁断すると、シートの端部が崩れることがあった。シート端部の崩れは、作業効率および歩留まりの低下に繋がる。これら問題故に、合成パルプの製造効率のさらなる向上が望まれることが分かった。
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、乾燥時にも浸潤性を有する粉体状合成パルプを効率よく製造するための方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の粉体状の合成パルプの製造方法である。
[1] 粉体状合成パルプを製造するための方法であって、
ポリビニルアルコールと、ポリビニルアルコール以外の熱可塑性樹脂とを含むパルプ状物からなり、前記ポリビニルアルコールの含有量がパルプ状物の全質量に対して0.1質量%以上10質量%以下である含水シートを原料として提供する工程と、
前記原料を、パルプ状物100質量部に対する水分量が400質量部以下となる条件で粉砕する粉砕工程と、
前記原料に非イオン系界面活性剤を付着させる付着工程と、
前記非イオン系界面活性剤の付着した原料を乾燥する乾燥工程とを含み、
前記乾燥工程の前または前記乾燥工程と同時に、前記原料のパルプ状物全質量に対して、0.1質量%以上10質量%以下の前記非イオン系界面活性剤を用いて、前記付着工程を実施する、粉体状合成パルプの製造方法。
[2] 前記熱可塑性樹脂が、結晶性ポリオレフィンである、[1]に記載の粉体状合成パルプの製造方法。
[3] 前記非イオン系界面活性剤が、重量平均分子量が200以上10,000以下のポリプロピレングリコールである、[1]又は[2]に記載の粉体状合成パルプの製造方法。
[4] 少なくとも前記粉砕工程を、下羽根および上羽根の上下二段に設置された撹拌羽根を撹拌容器内に有するミキサーで実施する、[1]~[3]のいずれかに記載の粉体状合成パルプの製造方法。
[5] 少なくとも前記粉砕工程および前記乾燥工程を、連続式の装置内で実施する、[1]~[3]のいずれかに記載の粉体状合成パルプの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、乾燥時にも浸潤性を有する粉体状合成パルプを効率よく製造するための方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、上記課題に鑑みて鋭意研究を行った結果、ポリビニルアルコールが表面に付着した熱可塑性樹脂のパルプ状物に、さらにポリプロピレンなどの非イオン系界面活性剤が付着すると、浸潤性は向上するが、凝集力は低下することを見出した。凝集力の低下故に、ポリビニルアルコール及び非イオン系界面活性剤の付着したパルプ状物をシート状に成形すると、シートは脆くて型崩れしやすく、機器に付着したり、シートの裁断時にシート端部が崩れるといった問題が発生すると考えられる。
【0011】
そこで、本発明の製造方法においては、ポリビニルアルコールが付着しているが、非イオン系界面活性剤を実質的に含まない、パルプ状物からなる含水シートを原料として提供し、当該含水シートに対して、粉砕工程、非イオン系界面活性剤の付着工程、および乾燥工程を実施して、粉体状合成パルプを製造する。こうすることによって、パルプ状物を含水シートに加工する際に起こり得る、ワイヤーメッシュなどの機器への含水シートの付着や、含水シート裁断時のシート端部の崩れといった問題を防止して、製造効率を高めることが可能となった。また、このような製造方法によって得られる粉体状合成パルプは、従来の方法で製造した粉体状合成パルプと同等の優れた浸潤性を有している。
【0012】
以下に、例示的な実施形態を挙げて本発明の説明を行うが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
本発明は、粉体状合成パルプを製造するための、以下の工程を含む製造方法である。
ポリビニルアルコール(PVA)と、PVA以外の熱可塑性樹脂とを含むパルプ状物からなり、前記PVAの含有量がパルプ状物の全質量に対して0.1質量%以上10質量%以下である含水シート(以下、「PVA付着含水シート」と略記することもある)を原料として提供する工程と、
前記原料を所定範囲内の水分量の環境下で粉砕する粉砕工程と、
前記原料に非イオン系界面活性剤を付着させる付着工程と、
前記非イオン系界面活性剤の付着した原料を乾燥する乾燥工程。
【0014】
初めに、PVA付着含水シートを原料として提供する工程について説明する。
【0015】
PVAと、PVA以外の熱可塑性樹脂とを含むパルプ状物とは、熱可塑性樹脂から実質的になる複数の微小繊維が絡まり合って、分岐構造を有するより太い繊維を形成する構造を有する繊維(単に「ミクロフィブリル繊維」ともいい、このような構造を単に「ミクロフィブリル構造」ともいう。)が、全体として特定方向に整列せずに集合してなる繊維集合体であり、該繊維にPVAが付着したものである。
【0016】
PVAの含有率は、パルプ状物の全質量に対して0.1質量%~10質量%である。PVAの含有量が上記範囲内であれば、パルプ状物は水中で良好な分散性を示す。尚、PVAは、パルプ状物の製造時に使用した懸濁剤に由来するものであったり、分散性向上のための表面処理に使用されるものである。 PVAの含有量は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)によって測定することができる。具体的には、パルプ状物を熱プレスによりフィルム化してFT-IRで吸収スペクトルを測定し、得られた波長3370nm付近のピーク強度からPVAの付着量を求めることができる。
【0017】
パルプ状物からなる含水シートとは、上記パルプ状物と水分からなる不織布であって、その質量に対する水分含有量が25質量%以上70質量%以下、好ましくは30質量%以上60質量%以下のものである。なお、「上記パルプ状物と水分からなる」とは、PVA、熱可塑性樹脂および水分以外のその他の成分が存在していてもよいが、その他の成分の含有率が5質量%以下であること、好ましくは1質量%以下であることを意味する。
【0018】
上記水分含有量は、乾燥前後の重量変化によって測定した値である。より具体的には、赤外線水分計で測定した値である。
【0019】
PVA付着含水シートは、後述する非イオン系界面活性剤を実質的に含まないものである。ここで、「非イオン系界面活性剤を実質的に含まない」とは、凝集力を低下させない程度の微量の非イオン系界面活性剤の存在は許容されることを意味する。「実質的に含まない」とは、具体的には、非イオン系界面活性剤の含有量が含水シートの全質量に対して0.01質量%以下、好ましくは0.001質量%以下、より好ましくは検出限界以下であることをいう。なお、非イオン系界面活性剤の例は後述のとおりである。
【0020】
PVA付着含水シートにおける非イオン系界面活性剤の含有量は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)によって測定することができる。具体的には、例えば非イオン系界面活性剤としてポリプロピレングリコールを使用した場合には、合成パルプを熱プレスによりフィルム化してFT-IRで吸収スペクトルを測定し、得られた波長1100nm付近のピーク強度からポリプロピレングリコールの付着量を求めることができる。他の非イオン系界面活性剤にあっては、非イオン系界面活性剤の種別に応じて確認する波長を変更すればよい。
【0021】
PVA付着含水シートは、PVA及びPVA以外の熱可塑性樹脂を含むパルプ状物を製造し、製造したパルプ状物をシート状に加工することで得ることができる。また、市販の合成パルプに、必要に応じてPVAを付着させた後に、抄紙して、所望のPVA含有量及び水分含有量の含水シートを製造してもよい。さらに、市販のシート状の合成パルプ(例えば合成紙)のPVA含有量および水分含有量を調整して、PVA付着含水シートとして使用することもできる。
【0022】
本発明に用いることのできる合成パルプとしては、例えば、三井化学株式会社製のポリオレフィン合成パルプSWP、ESS-5及びSWP、ESS-2が挙げられる。
【0023】
PVA付着含水シートを構成する熱可塑性樹脂は、PVA以外の熱可塑性樹脂である限りに特に限定はないが、ポリオレフィンであることがより好ましい。上記ポリオレフィンの例には、炭素数2~6のα-オレフィンの単独重合体および共重合体が含まれる。上記共重合体は、2種類以上の炭素数2~6のα-オレフィンの共重合体でもよいし、炭素数2~6のα-オレフィンと他の重合性化合物との共重合体でもよい。上記他の重合性化合物の例には、炭素数2~6のα-オレフィン以外のオレフィン、アクリル酸およびメタクリル酸などを含む不飽和カルボン酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ならびに酢酸ビニルなどが含まれる。上記共重合体は、上述した単独重合体または共重合体に、不飽和カルボン酸モノマーを過酸化物でグラフト反応させて得られる、グラフト共重合体であってもよい。上記単独重合体または共重合体は、結晶性であることが好ましい。
【0024】
上記炭素数2~6のα-オレフィンの好ましい例には、エチレン、プロピレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテンおよび4-メチル-1-ブテンが含まれる。これらの炭素数2~6のα-オレフィンを含む材料から製造される結晶性の単独重合体または共重合体の例には、線状低密度ポリエチレンやエラストマー(エチレン-α-オレフィン共重合体)などを含む低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、エチレン-メタクリル酸共重合体、マレイン酸やアクリル酸による酸変性ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ3-メチルブテン、およびポリ4-メチルブテン、ならびにこれらの混合物が含まれる。
【0025】
上記熱可塑性樹脂は、分子量分布(Mw/Mn)(TSKgelカラムを用いたGPC法によるポリスチレン換算の分子量を用いて算出した値)が1.5以上3.5以上であることが好ましい。また、上記熱可塑性樹脂は、メルトフローレート(MFR:ASTMD1238による190℃、2.16kg加重で測定される値)が0.1g/10min以上200g/10min以下であることが好ましく、5.0g/10min以上150g/10min以下であることがより好ましい。さらに上限は110g/10min以下が好ましく、100g/10min以下であることが特に好ましい。
【0026】
上記熱可塑性樹脂は、ポリエチレンからなることが好ましく、特には上記メルトフローレートが5.0g/10min以上150g/10min以下であるポリエチレンからなることが好ましい。
【0027】
熱可塑性樹脂を含むパルプ状物を製造する方法に特に限定はないが、通常はフラッシュ法で製造することが可能である。フラッシュ法とは、樹脂が溶媒に溶解している高圧の樹脂溶液を減圧下に噴出することで上記溶媒を揮散させて上記樹脂からなる繊維を形成し、さらに必要に応じてワーリングブレンダーまたはディスクリファイナーなどで上記形成された繊維を切断および叩解する方法である。フラッシュ法は、シート化したときに強度が高いパルプ状物を得られるため好ましい。特に、特開昭48-44523号公報に記載されているような、ポリオレフィン溶液を懸濁剤の存在下、水媒体に分散させたものをフラッシュさせる方法は、乱雑に分岐した形状を有する繊維状の樹脂を有するパルプ状物が得られるため、好ましい。
【0028】
フラッシュ法は、パルプ状物を構成するミクロフィブリル樹脂の材料となる熱可塑性樹脂を溶解し、懸濁剤および水を添加してエマルジョンとする工程と、上記エマルジョンを減圧下に噴出(フラッシュ)すると同時に溶剤を気化させる工程と、を含む。
【0029】
フラッシュ法の第1工程では、前記熱可塑性樹脂を、当該熱可塑性樹脂を溶解可能な溶剤に溶解し、懸濁剤および水を加えてエマルジョンとする。
【0030】
上記溶剤の例には、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンおよびシクロヘキサンなどを含む飽和炭化水素系溶剤、ベンゼンおよびトルエンなどを含む芳香族系溶剤、塩化メチレン、クロロホルムおよび四塩化炭素などを含むハロゲン化炭素類などが含まれる。これらの溶剤から、製造しようとするパルプ状物を構成するミクロフィブリル樹脂の材料となる熱可塑性樹脂を溶解せしめ、かつ、フラッシュ時に揮発し得られた繊維の集合体に残存しにくいものを適宜選択すればよい。
【0031】
上記懸濁剤の例には、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸塩、ゼラチン、トラガカントゴム、デンプン、メチルセルロース、およびカルボキシメチルセルロースなどを含む親水性樹脂が含まれる。また、上記親水性樹脂と、一般的なカチオン系界面活性剤またはアニオン系界面活性剤とを併用することもできる。懸濁剤は、上記熱可塑性樹脂、溶剤および水を均一に混合させるため、エマルションを安定化させ、かつ、フラッシュ後の繊維の切断および叩解を水中でも安定して行うことを可能とする。
【0032】
粉体状合成パルプの浸潤性及び製造効率をより向上させる観点から、懸濁剤としてはPVAが好ましい。
【0033】
上記懸濁剤の添加量は、繊維中、懸濁剤が0.1重量%以上10重量%以下となる量とするのが好ましい。上記懸濁剤の量は、製造過程において、添加した懸濁剤の一部が抜けるような操作をする場合は多めに添加するなど、適宜調整することが好ましい。添加量の目安としては、熱可塑性樹脂100質量部に対して0.1質量部以上20質量部以下とすることができる。
【0034】
パルプ状物にミクロフィブリル繊維以外の種々の化合物(以下、単に「他の化合物」ともいう。)を添加する場合には、上記エマルジョンに添加することが好ましい。このようにすることで、他の化合物がパルプ状物中に十分に分散し、上記他の化合物による効果を長期間保持することが可能となる。パルプ状物に添加可能な他の化合物としては、抗菌剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、各種安定剤、酸化防止剤、分散剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、顔料、天然油、合成油、ワックス、および充填剤などとして公知の化合物が挙げられる。パルプ状物は、複数種のこれらの化合物を含有していても良く、その含有量はこれらの化合物を含有させる目的に応じて適宜選択できる。
【0035】
フラッシュ法の第2工程では、上記第1工程で得られたエマルジョンを、温度が100℃以上200℃以下、好ましくは130℃以上150℃以下となるように加熱し、かつ、圧力が0.1MPa以上5.0MPa以下、好ましくは圧力0.5MPa以上1.5MPa以下の加圧状態にする。その後、上記加熱および加圧したエマルジョンを、ノズルより減圧された空間へ噴出(フラッシュ)すると同時に溶剤を気化させ揮散させる。上記減圧された空間は、圧力が1kPa以上95kPa以下であることが好ましい。また、上記減圧された空間は、窒素雰囲気などの不活性雰囲気であることが好ましい。なお、本発明において、「圧力」とは絶対圧力のことを示す。
【0036】
上記工程により、熱可塑性樹脂を原料とした、分岐構造を有する不定長のミクロフィブリル繊維が得られる。このようにして得られたミクロフィブリル繊維は、さらにワーリング・ブレンダーまたはディスクリファイナーなどで、平均繊維長が所望の範囲の長さになるように切断および叩解することが好ましい。このとき、上記ミクロフィブリル繊維を水に溶解または分散させて、濃度が0.5g/L以上5.0g/Lの水スラリーにして、上記切断および叩解を行うことが好ましい。
【0037】
このとき、たとえば、ディスクリファイナーの刃の種類、回転数、またはスクリーンの径などを所定の条件に沿って選択することで、ミクロフィブリル樹脂の繊維径などを所望の程度に調整することができる。
【0038】
ミクロフィブリル繊維の平均繊維長(1本の繊維の端部間の距離のうち、最長となるように設定された端部間の距離の平均値)に特に限定はないが、0.01mm以上50mm以下であることが好ましく、0.05mm以上10mm以下であることがより好ましい。平均繊維長がこの範囲にあれば、パルプ状物としたときに、適度な嵩高性を有し圧力を印加されたときに十分な復元力を有するため好ましい。
【0039】
平均繊維長は以下の手順で求めることができる。
【0040】
パルプ状物を構成するミクロフィブリル繊維を、上記最長となる長さを用いて長さ0.05mmごとに分級する。その後、それぞれの級(長さ)に含まれるミクロフィブリル繊維の実測繊維長と、それぞれの級に含まれるミクロフィブリル繊維の本数を測定する。測定は、12000~13000本の繊維について行えばよい。その後、上記測定結果から、以下の式により、それぞれの級の数平均繊維長Ln(mm)を求める。
【0041】
Ln=ΣL/N
L:1つの級に含まれるミクロフィブリル繊維の実測繊維長(mm)
N:1つの級に含まれるミクロフィブリル繊維の本数
【0042】
その後、以下の式により、パルプ状物を構成するミクロフィブリル繊維の平均繊維長(mm)を求める。
【0043】
平均繊維長=Σ(Nn×Ln)/Σ(Nn×Ln
Nn:それぞれの級に含まれるミクロフィブリル繊維の本数
【0044】
なお、上記実測繊維長は、たとえば、濃度0.02質量%になるようにパルプ状物を水に分散し、フィンランド国、メッツォオートメーション社製自動繊維測定機(製品名:FiberLab-3.5)で合成パルプを構成する繊維の一本一本の繊維の長さを測定して求めることができる。当該測定機では、キャピラリー中を流れる際の繊維にキセノンランプ光を照射してCCD(電荷結合素子)センサーで映像信号を採取し、画像解析する。
【0045】
また、ミクロフィブリル繊維は、直径(以下、単に「繊維径」ともいう。)の最小値が0.5μm以上であることが好ましく、繊維径の最大値が50μm以下であることが好ましい。平均繊維径は、15μm以上であることがより好ましく、35μm以下であることがより好ましい。繊維径がこの範囲にあれば、当該繊維を集合体としたときに適度な嵩高性を有し圧力を印加されたときに十分な復元力を有するため好ましい。
【0046】
繊維径は、1本、1本の繊維を、光学顕微鏡および電子顕微鏡などの顕微鏡で観察して測定できる。
【0047】
具体的には、繊維径の最大値および最小値は、次のようにして測定できる。
【0048】
キーエンス社製デジタルHFマイクロスコープVH8000にて倍率100倍で合成パルプを観察し、繊維径が10μm以上であるように観察されるミクロフィブリル繊維を無作為に100本選択する。選択されたミクロフィブリル繊維の繊維径を測定し、測定値のうち最大の値を「繊維径の最大値」とする。
【0049】
日本電子社製走査型電子顕微鏡JSM6480にて倍率3000倍でパルプ状物を観察し、繊維径が10μm未満であるように観察されるミクロフィブリル繊維を無作為に100本選択する。選択されたミクロフィブリル繊維の繊維径を測定し、測定値のうち最小の値を「繊維径の最小値」とする。
【0050】
また、平均繊維径は、バルメットオートメーション製Valmet FS5などの繊維画像分析計を用いて測定することができる。
【0051】
上述のフラッシュ法によって得られたミクロフィブリル樹脂を、乾燥後、ミキサーなどによって開綿して、パルプ状物とすることができる。
【0052】
次に熱可塑性樹脂を含むパルプ状物、または市販の合成パルプを用いて、特定含水シートを製造する。含水シートの製造方法に特に限定はなく、例えば、湿式不織布の製造方法で製造することができる。
【0053】
熱可塑性樹脂を含むパルプ状物または市販の合成パルプを水に懸濁して、スラリーを得る。例えば、市販の合成パルプがシート状の場合には、パルパーを用いて水と激しく撹拌することで、合成パルプのスラリーを得ることができる。
【0054】
次に、熱可塑性樹脂を含むパルプ状物、または市販の合成パルプのPVA含有量が少ない場合には、合成パルプのスラリーにPVAを添加、混合し、合成パルプのPVAの含有量が、合成パルプの全質量に対して0.1質量%以上10質量%以下となるようにPVAを付着させる。
【0055】
次に、得られたスラリーを網などに均一に載せ、圧力や熱で脱水することで、含水シートに成形することができる。スラリーからシートを成型するための装置としては、シートマシン、長網抄紙機、円網抄紙機、円網短網コンビネーション抄紙機、傾斜ワイヤー式抄紙機などの抄紙機が挙げられる。
【0056】
抄紙機等によって成型したシートを、所望の水分含有量となるように乾燥させる。乾燥温度は、パルプ状物の融点以下の温度が好ましい。乾燥用の装置としては、ヤンキードライヤー、エアスルードライヤー、ドラム式ドライヤーなどの乾燥機が挙げられる。
【0057】
上述の方法で得られた含水シートは所望の大きさに裁断することができる。含水シートの大きさに特に限定はなく、次の工程で使用する装置の容量などを考慮して適宜選択することができ、通常、400cm以上14400cm以下、好ましくは1600cm以上8100cm以下に裁断する。また、含水シートの一辺の長さは、通常、20cm以上120cm以下、好ましくは40cm以上90cm以下に裁断する。
【0058】
市販のシート状の合成パルプ(例えば合成紙)をPVA付着含水シートとして使用する場合には、必要に応じてシート状の合成パルプのPVA含有量および水分含有量を所望の範囲内となるように調整してから使用する。シート状の合成パルプは、その全質量に対して0.1質量%以上10質量%以下のPVAを含有している場合もあるが、PVA含有量が0.1質量%未満の場合には、例えば、シート状の合成パルプにPVAの溶液を噴霧することで、PVA含有量を高めることができる。シート状の合成パルプの水分含有量を高める方法に特に限定はないが、例えば、シート状の合成パルプを水に浸漬することができる。また、水分含有量を下げるためには、上述したような乾燥機を用いて乾燥させればよい。
【0059】
次に、PVA付着含水シートを原料として、原料を粉砕する粉砕工程と、原料に非イオン系界面活性剤を付着させる付着工程と、非イオン系界面活性剤の付着した原料を乾燥する乾燥工程を実施する。粉砕工程と付着工程は、どちらを先に実施してもかまわない。即ち、本願の実施例1のように、PVA付着含水シートを粉砕してから、粉砕物に非イオン系界面活性剤を付着させてもよいし、実施例2のように、PVA付着含水シートに非イオン系界面活性剤を付着させてから、PVA付着含水シートを粉砕してもよい。また、粉砕工程と付着工程を1つの装置内で同時に行ってもよい。
【0060】
但し、付着工程は、乾燥工程の前または乾燥工程と同時に実施する。従って、粉砕工程と付着工程を同時に行う場合には、粉砕工程、付着工程および乾燥工程の3工程を1つの装置内で同時に行ってもよい。例えば、実施例3においては、付着工程、粉砕工程および乾燥工程を1つの装置内で同時に実施した。
【0061】
粉砕工程においては、原料、即ち、PVA付着含水シートそのものまたは非イオン系界面活性剤の付着したPVA付着含水シートを粉砕する。粉砕工程は、パルプ状物100質量部に対する水分量が、400質量部以下となる条件で行う。水分量が400質量部を超えると、再度脱水抄造してシート化しなくてはならず、製造効率に劣る。また、水分量は、製造効率をより向上させる観点から、パルプ状物100質量部に対して、300質量部以下が好ましく、200質量部以下がより好ましい。
【0062】
粉砕工程は、乾燥工程の前、乾燥工程の後または乾燥工程と同時に実施することができるが、製造効率の観点から、乾燥工程の前または乾燥工程と同時に実施するのが好ましい。乾燥工程の前または乾燥工程と同時に粉砕工程を実施する場合においては、付着工程において非イオン系界面活性剤をパルプ状物に効率的に付着させる観点から、パルプ状物100質量部に対する水分量が33質量部以上となる条件で行うことが好ましく、43質量部以上がより好ましく、54質量部以上がさらに好ましい。なお、粉砕工程と乾燥工程を同時に実施する場合における上記水分量は、粉砕工程を始める際の水分量である。
【0063】
粉砕工程は、原料が所望の大きさになるように実施すればよい。粉砕物のサイズは、最終的な粉体状合成パルプの用途などに応じて選択することができるが、通常、粉砕物のサイズは、0.04cm以下が好ましく、繊維が1本1本に分離された状態がより好ましい。
【0064】
粉砕物中のパルプ状物のミクロフィブリル繊維の平均繊維長(1本の繊維の端部間の距離のうち、最長となるように設定された端部間の距離の平均値)に特に限定はないが、0.01mm以上50mm以下であることが好ましく、0.05mm以上10mm以下であることがより好ましい。平均繊維長がこの範囲にあれば、粉体状合成パルプとしたときに、適度な嵩高性を有し圧力を印加されたときに十分な復元力を有するため好ましい。
【0065】
原料の粉砕方法に特に限定はなく、当業界においてパルプの製造などに使用されている粉砕機を使用することができる。粉砕機の具体例としては、ナイフミル、カッティングミル、ハンマーミル、ローラーミル、ボールミル、サンドミル等が挙げられる。また、パルプの叩解処理に用いるシングルディスクリファイナー、ダブルディスクリファイナー等を用いて粉砕することもできる。また、粉砕工程は、原料の粉砕、非イオン系界面活性剤の付着、および乾燥の3工程全てを実施可能な、後述するようなバッチ式または連続式の粉砕混合乾燥機で実施してもよい。
【0066】
付着工程においては、原料、即ち、含水シートそのものまたは含水シートの粉砕物に非イオン系界面活性剤を付着させる。
【0067】
付着工程で使用する非イオン系界面活性剤に特に限定はないが、そのHLB値は4以上9以下であることが好ましく、5以上8以下であることがより好ましい。HLB値とは、Hydrophile-Lipophile-Balance、親水性-親油性-バランスのことであり、化合物の親水性又は親油性の大きさを示す値である。HLB値が小さいほど親油性が高く、値が大きいほど親水性が高くなる。
【0068】
HLBが4以上の非イオン系界面活性剤を使用することによって、粉体状合成パルプに十分な浸潤性を付与することが可能となる。また、HLBが9以下の非イオン系界面活性剤を使用することによって、合成パルプを浸潤させた際に生じうる泡立ちを抑制することができる。
【0069】
付着工程で使用する非イオン系界面活性剤の種類としては、EO・POブロック共重合体型、アルキルエーテル型、エステル型、アマイド型、ポリアルキレングリコール型等の非イオン系界面活性剤が挙げられる。中でも、合成パルプを湿潤させた際に生じうる泡立ちをより抑制し、かつ、浸潤性をより向上させる観点から、ポリアルキレングリコール型の非イオン系界面活性剤が好ましく、特にポリプロピレングリコールが好ましい。
【0070】
本発明において非イオン系界面活性剤として使用するポリプロピレングリコールは、プロピレンオキシドを常法により重合させることによって得られるものであり、分子量が200~10,000、好ましくは400~6,000のものである。
【0071】
ここでポリプロピレングリコール(PPG)の分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって決定された値であって、OH価既知の標準PPGと試料PPGとのOH価の対比から算出される。ポリプロピレングリコールの分子量が上記範囲をはずれて小さ過ぎるとパルプ状物への付着性が低下し、大き過ぎると親水性付与効果が低下する。
【0072】
非イオン系界面活性剤を原料(含水シートまたはその粉砕物)に付着させる方法としては、非イオン系界面活性剤またはその水溶液あるいは水分散液を含水シートに噴霧する方法、粉砕物の水性スラリーに非イオン系界面活性剤を添加混合する方法、非イオン系界面活性剤またはその水溶液あるいは水分散液に粉砕物を添加混合する方法、非イオン系界面活性剤を予め他の合成パルプと混合し、この混合物を粉砕物と混合する方法などが挙げられる。非イオン系界面活性剤またはその水溶液あるいは水分散液を含水シートに噴霧する方法は、その後に行う粉砕工程および乾燥工程に使用する装置の設計において自由度が高まるため好ましい。
【0073】
また、非イオン系界面活性剤を予め他の合成パルプと混合しておく方法は、非イオン系界面活性剤を粉体として扱えるため、非イオン系界面活性剤の取り扱いが容易になる点で好ましい。この場合、他の合成パルプとしては、予め粉砕された合成パルプが用いられる。尚、非イオン系界面活性剤と予め混合しておく他の合成パルプの種類は、最終的に得られる粉体状合成パルプの物性などに影響しない限り特に限定はないが、含水シートを構成するパルプ状物と同一であることが好ましい。また、予め他の合成パルプと混合しておく場合における、非イオン系界面活性剤の全質量に対する他の合成パルプの使用量(他の合成パルプ/非イオン系界面活性剤)は、質量基準で、1/5~20/1であることが好ましく、1/3~10/1であることが好ましい。
【0074】
付着工程における非イオン系界面活性剤の使用量は、原料の含水シートにおけるパルプ状物の全質量に対して(すなわち、含水シートから水分を除いた全質量に対して)、0.1質量%以上10質量%以下であり、好ましくは0.2質量%以上8質量%以下であり、より好ましくは0.4質量%以上6質量%以下である。非イオン系界面活性剤の使用量が0.1質量%以上であれば、パルプ状物の親水性改良効果が達成される。また、10質量%以下であれば、パルプ状物の合成パルプとしての性能が低下する懸念は少ない。
【0075】
付着工程は、非イオン系界面活性剤を効率的にパルプ状物に付着させる観点から、パルプ状物100質量部に対する水分量が、33質量部以上400質量部以下となる条件で行うことが好ましい。また、同様の観点から、付着工程における水分量は、43質量部以上300質量部以下がより好ましく、54質量部以上200質量部以下がさらに好ましい。
【0076】
上記付着工程は、一般的に0~90℃で実施すればよく、室温で行うのが便利である。
【0077】
さらに、非イオン系界面活性剤の付着した原料を乾燥する乾燥工程を実施する。乾燥工程で実施する乾燥方法に特に限定はなく、従来から合成パルプなどの乾燥に使用されている方法を用いることができる。一般的には、減圧下で加温する方法や、熱風を装置内に通風する方法などが挙げられる。また、乾燥用の装置としては、ヤンキードライヤー、エアスルードライヤー、ドラム式ドライヤーなどの乾燥機を使用することができる。
【0078】
バッチ式の製造方法においては、乾燥方法は減圧下で加温する方法が好ましい。一方、連続式の製造方法においては、装置内に熱風を通風する方法がより簡便であり、好ましい。
【0079】
乾燥工程は、最終産物である粉体状合成パルプの水分含有量が4質量%以下となるまで、好ましくは2質量%以下となるまで、より好ましくは1質量%以下となるまで実施する。粉体状合成パルプの水分含有量は、上述した含水シートの水分含有量と同様に測定することができる。
【0080】
乾燥工程の実施条件は、パルプ状物の変性の恐れがなく、且つ最終産物である粉体状合成パルプの水分含有量が上記値以下となる条件である限り、特に限定はない。乾燥温度および熱風の温度は、50℃以上100℃以下が好ましく、60℃以上90℃以下がより好ましい。減圧する際の装置内圧力は、-150KPa以上-20KPa以下であることが好ましく、-100KPa以上-50KPa以下がより好ましい。尚、本発明において、「圧力」とは絶対圧力のことを示す。
【0081】
また、乾燥工程を実施する時間は、10分以上180分以下が好ましく、20分以上120分以下がより好ましい。
【0082】
本発明の製造方法における粉砕工程、付着工程および乾燥工程は、それぞれ個別の装置を用いて実施してもよいし、1つの装置内で複数の工程を順次または同時に実施してもよい。本発明においては上記3工程の内の少なくとも2つを1つの装置内で実施することが、製造効率を向上させる観点から好ましい。
【0083】
本発明の製造方法によれば、原料である含水シートの製造後に、再度シート化する必要がない。そのため、脱水抄造に用いる機器(ワイヤーメッシュなど)にシートが付着するおそれがなく、製造効率に優れる。本発明の製造方法としては、脱水抄造を伴うシート化工程を含まないことが好ましい。また、仮に、再度シート化したとしても、付着工程の前に再度シート化することで、脱水抄造に用いるワイヤーメッシュなどの機器に加工したシートが付着するおそれがなく、製造効率に優れる。
【0084】
次に、複数の工程を実施可能な装置について説明する。
【0085】
原料の粉砕、付着、乾燥の3工程を実施可能な装置の一例として、下羽根および上羽根の上下二段に設置された撹拌羽根を撹拌容器内に有するミキサーが挙げられる。このようなミキサーは、粉体状合成パルプをバッチ式で製造する場合に使用することができる。当該ミキサーは、下羽根による回転力によって原料(含水シート)を流動させ、同時に上羽根による剪断力によって、原料を粉砕することができる。
【0086】
粉砕工程を実施する際の下羽根の周速度は、10m/s以上100m/s以下であることが好ましく、20m/s以上80m/s以下であることがより好ましい。一方で上羽根の回転速度は、下羽根と同軸で、同周速度で構わない。二軸等で下羽根と周速度を変えられるときは、下羽根の周速度の範囲で周速度を変えることもできる。粉砕工程の実施時間は1分以上30分以下であることが好ましく、2分以上20分以下であることがより好ましい。
【0087】
また、非イオン系界面活性剤をミキサーに投入すれば、下羽根による回転力によって原料(含水シートおよび/またはその粉砕物)と非イオン系界面活性剤とを流動させ、同時に上羽根による剪断力によって、原料と非イオン系界面活性剤とを撹拌および混合することで、原料に非イオン系界面活性剤を付着させることができる。
【0088】
さらに上記ミキサーの内部を減圧し、加温することで、ミキサー内の非イオン系界面活性剤の付着した原料を乾燥させることができる。上記撹拌・混合による非イオン系界面活性剤の付着を行う際に、ミキサー内を減圧および加温することで、付着工程と乾燥工程を同時に行うことができる。また、付着工程を一定期間実施した後に、ミキサー内を減圧および加温することで、付着工程の後に乾燥工程を行うこともできる。
【0089】
付着工程および乾燥工程を実施する際の下羽根の周速度は、10m/s以上100m/s以下であることが好ましく、20m/s以上80m/s以下であることがより好ましい。一方で上羽根の回転速度は、下羽根と同軸で、同周速度で構わない。二軸等で下羽根と周速度を変えられるときは、下羽根の周速度の範囲で周速度を変えることもできる。付着工程の実施時間は3分以上30分以下であることが好ましく、5分以上20分以下であることがより好ましい。乾燥工程の実施時間は3分以上30分以下であることが好ましく、5分以上20分以下であることがより好ましい。また、付着工程と乾燥工程を同時に行う場合には、実施時間は3分以上30分以下であることが好ましく、5分以上20分以下であることがより好ましい。
【0090】
尚、粉砕工程と付着工程との間で、撹拌翼を適宜変更することで、剪断力等の調整が可能である。
【0091】
上記上下二段に設置された撹拌羽根を有するミキサーの例には、ヘンシェル型ミキサーが含まれる。特に、日本コークス工業製のFMミキサー、CPミキサー、サイクロミックス(R)CLX高速せん断型混合機などが好ましい。これらの中でも、剪断および混合をより十分に行い得る、日本コークス工業社製FMミキサーが好ましい。
【0092】
原料の粉砕、付着、乾燥の3工程を実施可能な装置の別の例としては、連続式の混合撹拌装置が挙げられる。このような装置は合成パルプを連続式で製造する場合に使用することができる。連続式の装置の一例として、投入口と排出口とを有し、投入口から排出口に向けて内容物を混合するための混合撹拌羽根と、混合撹拌羽根による粉砕を促進するための返し羽根とを有する装置が挙げられる。その具体例は、(株)切川物産のマゼレーシリーズの装置である。
【0093】
連続式の装置の他の例としては、投入口と排出口とを有し、投入口から排出口に向けて内容物を混合するための混合撹拌羽根と、高速回転することで内容物を粉砕する粉砕羽根とを有する装置が挙げられる。その具体例は、太平洋機工(株)のパムアペックスミキサーである。
【0094】
いずれのタイプの連続式の装置においても、撹拌・混合と粉砕とを同時に行うことが可能であるため、投入口から含水シートと非イオン系界面活性剤とを同時に投入することで、粉砕工程と付着工程とを同時に行うことができる。さらに装置内部に熱風を通風させることで、乾燥工程を粉砕工程および付着工程と同時に行うことも可能である。
【0095】
本発明の製造方法によって得られる粉体状合成パルプは、従来、粉体状合成パルプが使用されている用途に使用することができる。具体的には、粉体状合成パルプ単独で、そのまま添加剤として、またはシート状に形成して単独シートとして用いることができる。また、粉体状合成パルプと、天然パルプ、有機繊維、無機繊維および無機粉体等と、の混合物や混抄シートにして用いることができる。また、単独シートあるいは混抄シートと、別のシートと、の積層体等の形態にして用いることができる。
【0096】
本発明の製造方法によって得られる粉体状合成パルプの用途は、何ら限定されるものではないが、より具体的には次の用途に用いることができる。
(1)単独でシート状にして、電池用セパレータ、成形ボード、ティーバッグ紙、滅菌紙、乾燥剤包装袋等の製造に用いるヒートシール紙にする。
(2)単独で添加剤として、塗料のタレ防止剤、シーラー、シーラント、コーキング材、接着剤等の増粘用添加剤とする。
(3)木材パルプ等の天然パルプと混抄して、ラベル紙、ティッシュペーパー、タオルペーパー、ワイプ等の耐水紙にする。
(4)他の合成繊維と混抄して、合成紙、インモールドラベル紙にする。
(5)粉砕パルプ等と混合した後にマット状にして、水、油、溶剤、尿などを吸収する吸水シートもしくは吸水マットにする。
(6)他の解砕繊維等と混合して、電線ケーブル被覆材、絶縁紙、ブックカバー等の乾式バインダーにする。
(7)ファイバーセメント等のセメント添加剤にする。
(8)気体用フィルター、液体用フィルター、マスク、セラミックスペーパー等のフィルター材にする。
(9)その他、紙皿などの成形板紙、壁紙、クッションフロアーの裏打ち材、壁材の補強用繊維、タイルグラウト、濾過助剤等にする。
【実施例
【0097】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0098】
(実施例1)
市販の合成パルプを用いて、次のとおりPVA付着含水シートを作成した。
ポリエチレンから製造されたパルプ状物(三井化学(株)製、登録商標SWP、ESS-5)100gを10Lの水に加え、パルパーにて室温で30秒間激しく撹拌して、合成パルプのスラリーを得た。このスラリーを、25×25cm角型シート・マシーンにより脱水抄造し、ハンドプレスにて更に脱水して、水分含有率50重量%で、絶乾秤量1500g/mの含水シートを作成した。
【0099】
得られた含水シートのポリビニルアルコール(PVA)含有量を、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)によって測定した。具体的には、含水シートをを熱プレスによりフィルム化してFT-IRで吸収スペクトルを測定し、得られた波長3370nm付近のピーク強度からPVAの付着量を求めた。
その結果、含水シートのPVA含有量は0.5質量%であった。
【0100】
シート・マシーンのワイヤーメッシュを目視にて確認したところ、シートの付着は少なかった。また、含水シートをウォーターカッターで切断したが、含水シートの端部に崩れは認められなかった。
【0101】
上記で作成した含水シートを、原料となるPVA付着含水シートして、粉砕混合乾燥機(日本コークス工業製、FMミキサーFM20C/I)に入れ、周速20m/sで4分間粉砕した。その後、分子量が2000であるポリプロピレングリコール(アデカ製のP-2000)1.0gを添加し、10分間混合した。さらに、ジャケットを80℃の温水で加温し、1時間、-80KPaの減圧で攪拌しながら乾燥して、絶乾状態の紛体状合成パルプを得た。
【0102】
粉砕混合乾燥機の攪拌翼は、必要に応じて変更した。攪拌翼としては、A0/Z0を用いた。
【0103】
得られた紛体状合成パルプの表面に、20±2℃の水を滴下したところ、水は直ちに合成パルプに吸収された。また、紛体状合成パルプを20±2℃の水中に10g/Lの濃度になるように加え、静かに撹拌したところ、均一なスラリーが得られた。このスラリーから、8カット・スクリーンにて塊状物をより分けたところ、その量は10ppm以下であり、良好な分散状態であることがわかった。
【0104】
(実施例2)
市販の合成パルプを用いて、次のとおりPVA付着含水シートを作成した。
ポリエチレンから製造されたパルプ状物(三井化学(株)製、登録商標SWP、ESS-5)100gを10Lの水に加え、パルパーにて室温で30秒間激しく撹拌して、合成パルプのスラリーを得た。このスラリーを、25×25cm角型シート・マシーンにより脱水抄造し、ハンドプレスにて更に脱水して、水分含有率50重量%で、絶乾秤量1500g/mの含水シートを作成した。得られた含水シートのPVA含有量を前述の方法で測定したところ、0.5質量%であった。
【0105】
シート・マシーンのワイヤーメッシュを目視にて確認したところ、シートの付着は少なかった。また、含水シートをウォーターカッターで切断したが、含水シートの端部に崩れは認められなかった。
【0106】
ポリエチレンから製造されたパルプ状物(三井化学(株)製、登録商標SWP、ESS-5)100gを粉砕し、これと、分子量が2000であるポリプロピレングリコール(アデカ製P-2000)100gとをあらかじめ混合してポリプロピレングリコール混合物を得た。得られた混合物2.0gと、上記で作成した、原料であるPVA付着含水シートとを、連続式粉砕混合乾燥機(日本コークス工業製、連続FMミキサFM-C型)に投入し、装置内に90℃の熱風を通風しながら、含水シートの粉砕、ポリプロピレングリコール混合物との撹拌混合、および乾燥を連続的に実施し、絶乾状態の紛体状合成パルプを得た。
【0107】
得られた紛体状合成パルプの表面に、20±2℃の水を滴下したところ、水は直ちに合成パルプに吸収された。また、紛体状合成パルプを20±2℃の水中に10g/Lの濃度になるように加え、静かに撹拌したところ、均一なスラリーが得られた。このスラリーから、8カット・スクリーンにて塊状物をより分けたところ、その量は10ppm以下であり、良好な分散状態であることがわかった。
【0108】
(実施例3)
市販の合成パルプを用いて、次のとおりPVA付着含水シートを作成した。
ポリエチレンから製造されたパルプ状物(三井化学(株)製、登録商標SWP、ESS-5)100gを10Lの水に加え、パルパーにて室温で30秒間激しく撹拌して、合成パルプのスラリーを得た。このスラリーを、25×25cm角型シート・マシーンにより脱水抄造し、ハンドプレスにて更に脱水して、水分含有率50重量%で、絶乾秤量1500g/mの含水シートを作成した。得られた含水シートのPVA含有量を前述の方法で測定したところ、0.5質量%であった。
【0109】
シート・マシーンのワイヤーメッシュを目視にて確認したところ、シート付着が少なかった。また、含水シートをウォーターカッターで切断したが、含水シートの端部に崩れは認められなかった。
【0110】
上記で作成した、原料となるPVA付着含水シート、および分子量が2000であるポリプロピレングリコール((株)アデカ製P-2000)1.0gを、連続式粉砕混合乾燥機(切川物産製、マゼレーKB3200)に投入し、装置内に90℃の熱風を通風しながら、含水シートの粉砕、ポリプロピレングリコールの付着、および乾燥を連続的に実施し、絶乾状態の紛体状合成パルプを得た。
【0111】
得られた紛体状合成パルプの表面に、20±2℃の水を滴下したところ、水は直ちに合成パルプに吸収された。また、紛体状合成パルプを20±2℃の水中に10g/Lの濃度になるように加え、静かに撹拌したところ、均一なスラリーが得られた。このスラリーから、8カット・スクリーンにて塊状物をより分けたところ、その量は10ppm以下であり、良好な分散状態であることがわかった。
【0112】
(実施例4)
市販の合成パルプを用いて、次のとおりPVA付着含水シートを作成した。
ポリエチレンから製造されたパルプ状物として、SWP、ESS-5に変えて、SWP、ESS-2(三井化学社製)を用いた以外は実施例1と同様にして含水シートを作製した。得られた含水シートのPVA含有量を前述の方法で測定したところ、0.5質量%であった。
【0113】
シート・マシーンのワイヤーメッシュを目視にて確認したところ、シートの付着は少なかった。また、含水シートをウォーターカッターで切断したが、含水シートの端部に崩れは認められなかった。
【0114】
次に、上記で作成した含水シートを、原料となるPVA付着含水シートして使用し、実施例1と同様にして絶乾状態の紛体状合成パルプを得た。
【0115】
得られた紛体状合成パルプの表面に、20±2℃の水を滴下したところ、水は直ちに合成パルプに吸収された。また、紛体状合成パルプを20±2℃の水中に10g/Lの濃度になるように加え、静かに撹拌したところ、均一なスラリーが得られた。このスラリーから、8カット・スクリーンにて塊状物をより分けたところ、その量は10ppm以下であり、良好な分散状態であることがわかった。
【0116】
(比較例1)
従来技術である特開昭61-209450の実施例1に記載の方法で粉体状合成パルプを得た。具体的には以下のとおりである。
ポリエチレンから製造されたパルプ状物(三井石油化学工業(株)製、登録商標SWP、ESS-5)100gを10Lの水に加え、さらに分子量が2000であるポリプロピレングリコール(和光純薬製試薬)1.0gを添加して、混合物とした。得られた混合物を数回に分けて家庭用ミキサーに投入し、室温で30秒間激しく撹拌して、合成パルプのスラリーを得た。
【0117】
得られたスラリーを、25×25cm角型シート・マシーンにより脱水抄造し、ハンドプレスにて更に脱水して、水分含有率50重量%で、絶乾秤量1500g/mの含水シートを作成した。含水シートのPVA含有量を前述の方法で測定したところ、0.5質量%であった。
【0118】
含水シートを、循環式乾燥機により50℃で8時間乾燥して、絶乾状態の乾燥シートを作成した。この乾燥シートをハンマーミル型粉砕機によって粉砕し、絶乾状態の粉体状合成パルプを得た。
【0119】
シート・マシーンのワイヤーメッシュを目視にて確認したところ、シートの付着が多く見られた。また、含水シートをウォーターカッターで切断したところ、含水シートの端部に崩れが認められた。
【0120】
実施例1~実施例4の方法によれば、PVA含有量がパルプ状物の全質量に対して0.1質量%以上10質量%以下であるPVA付着含水シートを原料として使用し、シート化を行わずに粉体状合成パルプを製造することができた。このため、脱水抄造の際に起こり得る機器へのシートの付着や、シート切断時のシート端部の崩れといった問題を回避することができた。また、得られた紛体状合成パルプは、浸潤性に優れていた。
【0121】
一方、PVA含有量が0.1質量%以上10質量%以下であるパルプ状物にポリプロピレングリコールを付着させ、それを脱水抄造してシート状に加工して含水シートを得た後に、当該シートを乾燥させて粉砕した比較例1においては、脱水抄造に用いたワイヤーメッシュにシートが付着した。さらに得られた含水シートを切断すると、シートの端部に崩れが認められた。これは、比較例1の方法では、パルプ状物の凝集力が低下したためと考えられる。よって、比較例1の製造方法は、作業効率および歩留まりの低い方法であった。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明によれば、乾燥時にも浸潤性を有する粉体状合成パルプを効率よく製造するための方法を提供することができる。この方法は、粉体状合成パルプのさらなる普及に寄与することが期待される。