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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-13
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】被処理液の処理方法及び処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/62 20060101AFI20220118BHJP
【FI】
C02F1/62 D
C02F1/62 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2017189914
(22)【出願日】2017-09-29
(65)【公開番号】P2019063710
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】507027162
【氏名又は名称】DOWAテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】中塚 清次
(72)【発明者】
【氏名】田下 裕之
(72)【発明者】
【氏名】柳 汀洋
【審査官】小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】特開昭47-031450(JP,A)
【文献】米国特許第04579589(US,A)
【文献】特開2013-095988(JP,A)
【文献】特開2006-075759(JP,A)
【文献】特開2008-169449(JP,A)
【文献】特開昭47-031806(JP,A)
【文献】特開2011-240326(JP,A)
【文献】国際公開第2015/129541(WO,A1)
【文献】特開平2-157090(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00-1/78
B01D 37/08、61/14,500
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化物の溶解度積が硫化銅の溶解度積よりも小さい金属を含有する被処理液を中性ないしアルカリ性下で処理する方法であって、
中性ないしアルカリ性の前記被処理液に対して硫化銅を添加する硫化銅添加工程と、
前記硫化銅が添加された被処理液中の前記金属の硫化物の沈殿を含む固体成分と液体成分とを分離する固液分離工程と、
を有し、
前記固液分離工程を、前記被処理液をクロスフロー型のろ過フィルターに通すことで実施し、前記ろ過フィルターの目開きの最大幅が0.2~50μmであり、
前記硫化銅のレーザー回折式粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積50%粒子径が20~35μmであり、
前記硫化銅添加工程において、硫化銅を前記被処理液中の金属に対して0.9~50当量添加し、
前記固液分離工程で前記液体成分の一部と前記固体成分とからなるスラリーを得て、該スラリーの少なくとも一部を前記硫化銅添加工程で硫化銅が添加される被処理液中に戻すスラリー循環工程を更に有する、被処理液の処理方法。
【請求項2】
前記被処理液をpH7~14で処理する、請求項1に記載の被処理液の処理方法。
【請求項3】
連続式で行う、請求項1又は2に記載の被処理液の処理方法。
【請求項4】
前記硫化銅が、該硫化銅45gをpH7の水1L中で25℃で300rpmにて24時間攪拌した時の硫化銅の溶解量が5.8質量%以下であるものである、請求項1~3のいずれかに記載の被処理液の処理方法。
【請求項5】
前記金属は銀、水銀及び金からなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項1~のいずれかに記載の被処理液の処理方法。
【請求項6】
前記硫化銅添加工程に供される被処理液中の前記金属の含有量が10000ppm以下である、請求項1~のいずれかに記載の被処理液の処理方法。
【請求項7】
前記硫化銅添加工程の前に、前記被処理液に対してアルカリ性物質を添加して被処理液を中性ないしアルカリ性へと変化させるアルカリ性物質添加工程を更に有する、請求項1~のいずれかに記載の被処理液の処理方法。
【請求項8】
前記硫化銅添加工程において硫化銅を複数回に分けて添加する、請求項1~のいずれかに記載の被処理液の処理方法。
【請求項9】
前記金属が銀であって、
前記固液分離工程により分離された固体成分における、銀、銅及び硫黄の含有量の合計が95質量%以上であり、且つ、前記固体成分における銀の含有量が30質量%以上である、請求項1~のいずれかに記載の被処理液の処理方法。
【請求項10】
硫化物の溶解度積が硫化銅の溶解度積よりも小さい金属を含有する被処理液を中性ないしアルカリ性下で処理する装置であって、
中性ないしアルカリ性の被処理液に対して硫化銅を添加する硫化銅供給機構と、
前記硫化銅が添加された被処理液中の前記金属の硫化物の沈殿を含む固体成分と液体成分とを分離する固液分離機構と、
を有し、
前記固液分離機構がクロスフロー型のろ過フィルターを備え、該ろ過フィルターの目開きの最大幅が0.2~50μmであり、
前記固液分離機構が、該機構により前記液体成分の一部と前記固体成分とからなるスラリーを得られるように構成されており、該スラリーの少なくとも一部を前記硫化銅供給機構により硫化銅が添加される被処理液中に戻すスラリー循環機構を更に有する、被処理液の処理装置。
【請求項11】
前記被処理液に対してアルカリ性物質を添加するアルカリ性物質供給機構を更に有し、
前記アルカリ性物質供給機構によりアルカリ性物質を添加されて、中性ないしアルカリ性となった被処理液に対して、前記硫化銅供給機構により硫化銅が添加されるように構成されている、請求項10に記載の被処理液の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理液の処理方法及び処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、銅や銀等の重金属類を含む廃水の処理方法として、水酸化剤(アルカリ剤)や硫化剤を添加して重金属類を水酸化物や硫化物の形で沈殿させ、凝集させて固液分離する方法が知られている。その際に、塩化鉄水溶液などの鉄塩あるいはポリ塩化アルミニウム水溶液等のアルミニウム塩も添加し、凝集性を高めて処理を行っている(特許文献1の[背景技術])。
【0003】
特許文献1においては、重金属含有廃水に水硫化ソーダ等の硫化剤を添加し、重金属を析出させつつ、ORP制御しながら酸化剤を添加してスラッジの凝集性を高めている(特許文献1の[0014][0025])。
【0004】
特許文献2においては、硫酸を使用して鉱石から銅などを回収しつつも、分離された残渣に銀などの貴金属が残っていることを鑑み、硫酸を使用して該残渣から銀を浸出させ、その後、硫化銅などを添加して銀を回収している(特許文献2のクレーム1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-69068号公報
【文献】米国特許第4579589号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の手法では、塩化鉄水溶液などの鉄塩あるいはポリ塩化アルミニウム水溶液等のアルミニウム塩を添加することから、回収対象となる金属(例えば銀)以外の物質が凝集物内に多量に含まれている。そうなると、回収対象の金属を効率良く回収することができなくなる上、回収対象の金属を回収した後の残渣が多量に発生してしまい、これを処理するためのコストが増大する。
【0007】
特許文献1に記載の技術では酸化剤や高分子凝集剤を使用することから、回収対象となる金属以外の物質が凝集物内に含まれており、従来の手法と同様の課題が生じる。また、特許文献1に記載の技術ではORP制御が必要となることから、操作が非常に煩雑となる。これは廃水処理の実操業において特に大きな問題となる。
【0008】
特許文献2に記載の技術では、硫酸を使用して該残渣から銀を浸出させ、その後、硫化銅などを添加する際に、硫酸を使用している関係上、酸性下で硫化銀の析出反応が進む。そのため、異臭及び腐食性のある硫化水素が発生するおそれがあり、作業の安全性について課題がある。
【0009】
更に、上記のいずれの技術においても、凝集物(残渣、沈殿物)を、フィルター(例えばマイクロフィルター膜:MF膜)を用いたろ過によって固液分離する際、フィルターに目詰まりが生じやすくなるという知見が本発明者により得られている。目詰まりのためフィルターの交換が必要となり、交換のたびに廃水処理の装置を止める必要がある。つまり、上記のいずれの技術においても、フィルターろ過を実施する場合には処理装置のメンテナンスの容易性という点で改善の余地がある。
【0010】
本発明は、各種の金属を含む廃水などの被処理液の処理方法において、コストの増加及び煩雑な操作を避けつつ、作業の安全性を確保し、さらにフィルターろ過を実施する場合には処理装置のメンテナンスの容易性も確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、中性ないしアルカリ性下にて、被処理液に対して硫化銅を添加した後、硫化物の沈殿を固液分離により分離するという手法を採用することにより、前記の課題を解決することができることを見出した。
【0012】
すなわち上記課題を解決する本発明の一態様は以下のものである。
第1の態様は、
対象とする金属の硫化物の溶解度積が硫化銅の溶解度積よりも小さい金属を含有する被処理液を中性ないしアルカリ性下で処理する方法であって、
中性ないしアルカリ性下の前記被処理液に対して硫化銅を添加する硫化銅添加工程と、
前記硫化銅が添加された被処理液中の前記金属の硫化物の沈殿を含む固体成分と液体成分とを分離する固液分離工程と、を有する、被処理液の処理方法である。
【0013】
第2の態様は、第1の態様であって、
前記被処理液をpH7~14で処理する。
【0014】
第3の態様は、第1又は第2の態様であって、
前記固液分離工程を、前記被処理液をクロスフロー型あるいはデッドエンド型のろ過フィルターに通すことで実施し、前記ろ過フィルターの目開きの最大幅が0.2~50μmである。
【0015】
第4の態様は、第1~第3のいずれかの態様であって、
前記硫化銅のレーザー回折式粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積50%粒子径が20~35μmである。
【0016】
第5の態様は、第1~第4のいずれかの態様であって、
前記硫化銅が、該硫化銅45gをpH7の水1Lg中で25℃で300rpmにて24時間攪拌した時の硫化銅の溶解量が5.8質量%以下であるものである。
【0017】
第6の態様は、第1~第5のいずれかの態様であって、
前記硫化銅添加工程において、硫化銅を前記被処理液中の金属に対して0.9~50当量添加する。
【0018】
第7の態様は、第1~第6のいずれかの態様であって、
前記金属は銀、水銀及び金からなる群より選ばれる少なくとも一種である。
【0019】
第8の態様は、第1~第7のいずれかの態様であって、
前記硫化銅添加工程に供される被処理液中の前記金属の含有量が10000ppm以下である。
【0020】
第9の態様は、第1~第8のいずれかの態様であって、
前記硫化銅添加工程の前に、前記被処理液に対してアルカリ性物質を添加して被処理液を中性ないしアルカリ性へと変化させるアルカリ性物質添加工程を更に有する。
【0021】
第10の態様は、第1~第9のいずれかの態様であって、
前記固液分離工程で前記液体成分の一部と前記固体成分とからなるスラリーを得て、該スラリーの少なくとも一部を前記硫化銅添加工程で硫化銅が添加される被処理液中に戻すスラリー循環工程を更に有する。
【0022】
第11の態様は、第1~第10のいずれかの態様であって、
前記硫化銅添加工程において硫化銅を複数回に分けて添加する。
【0023】
第12の態様は、第1~第11のいずれかの態様であって、
前記金属が銀であって、
前記固液分離工程により分離された固体成分における、銀、銅及び硫黄の含有量の合計が95質量%以上であり、且つ、前記固体成分における銀の含有量が30質量%以上である。
【0024】
第13の態様は、
硫化物の溶解度積が硫化銅の溶解度積よりも小さい金属を含有する被処理液を中性ないしアルカリ性下で処理する装置であって、
中性ないしアルカリ性下の被処理液に対して硫化銅を添加する硫化銅供給機構と、
前記硫化銅が添加された被処理液中の前記金属の硫化物の沈殿を含む固体成分と液体成分とを分離する固液分離機構と、
を有する、被処理液の処理装置である。
【0025】
第14の態様は、第13の態様であって、
前記固液分離機構がクロスフロー型あるいはデッドエンド型のろ過フィルターを備え、該ろ過フィルターの目開きの最大幅が0.2~50μmである。
【0026】
第15の態様は、第13又は第14の態様であって、
前記被処理液に対してアルカリ性物質を添加するアルカリ性物質供給機構を更に有し、
前記アルカリ性物質供給機構によりアルカリ性物質を添加されて、中性ないしアルカリ性となった被処理液に対して、前記硫化銅供給機構により硫化銅が添加されるように構成されている。
【0027】
第16の態様は、第13~第15のいずれかの態様であって、
前記固液分離機構が、該機構により前記液体成分の一部と前記固体成分とからなるスラリーを得られるように構成されており、該スラリーの少なくとも一部を前記硫化銅供給機構により硫化銅が添加される被処理液中に戻すスラリー循環機構を更に有する。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、コストの増加及び煩雑な操作を避けつつ、作業の安全性を確保し、さらにフィルターろ過を実施する場合には処理装置のメンテナンスの容易性も確保した被処理液の処理方法及びそのための処理装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、本実施形態の被処理液の処理方法を示すフローチャートである。
図2図2は、実施例2の被処理液の処理方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の実施形態について、当該実施形態のフローチャートである図1を用いて、以下の順で説明する。
1.被処理液の処理方法
1-1.準備工程(希釈工程、アルカリ性物質添加工程)
1-2.硫化銅添加工程
1-3.固液分離工程(金属の回収方法)
1-4.中和工程
1-5.蒸発濃縮工程
1-6.凝縮水処理工程
2.実施の形態による効果
3.被処理液の処理装置
4.その他
なお、本明細書における「~」は所定の数値以上かつ所定の数値以下を指す。
【0031】
<1.被処理液の処理方法>
(1-1.準備工程(希釈工程、アルカリ性物質添加工程)(図1の(1)))
本実施形態で用いる被処理液としては、所定の金属を含有するものであれば特に限定は無く、廃液であってもよい。前記所定の金属とは、硫化物の溶解度積が硫化銅(II)(以下、単に「硫化銅」と記載する)の溶解度積よりも小さい金属である。なお、溶解度積は25℃におけるものである。本実施形態では被処理液に硫化銅を添加し、これより硫化物の溶解度積が小さい金属が硫化物の沈殿となって固定され、固液分離されることで被処理液から除去される(以下、前記金属を「対象金属」ともいう)。固定された対象金属は、公知の手法によって回収することができる。対象金属の例として銀、水銀及び金が挙げられる。本実施形態では、これらの内少なくとも一つを含んだ被処理液を用いるのが好ましい。
【0032】
被処理液中の対象金属の濃度(2種以上含まれる場合は、その合計濃度)は特に制限されないが、10000ppm以下であることが好ましく、経済性の点から2~8000ppmであることがより好ましく、5~6000ppmであることがさらに好ましい。また、本工程において、被処理液における対象金属の濃度が高すぎる場合には、前記の10000ppm以下といった濃度になるように被処理液を希釈する希釈工程を実施してもよい。
【0033】
また、被処理液としては後述の硫化銅添加工程を行う際に中性ないしアルカリ性になっていればよく、元々中性ないしアルカリ性の被処理液を使用してもよいし、当初は酸性又は中性であった被処理液に対してアルカリ性物質を添加して被処理液を中性ないしアルカリ性へと変化させるアルカリ性物質添加工程を実施し、中性ないしアルカリ性の被処理液を準備してもよい。その際のアルカリ性物質としては特に限定は無く、例えばアンモニアやアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物(苛性ソーダ等)等を使用してもよい。なお、後述の硫化銅添加工程の開始以降は、被処理液を中性ないしアルカリ性下で処理する。
【0034】
なお本明細書において「中性ないしアルカリ性」とは液温25℃においてpH7以上(好ましくは7~14、更に好ましくは8~13)であることを指す。つまり「中性ないしアルカリ性下で処理」とは、液温25℃で測定した場合においてpH7以上となるpHの状態を維持しながら処理を行うことを指す。
【0035】
(1-2.硫化銅添加工程(図1の(2)))
本工程においては中性ないしアルカリ性の被処理液を例えば反応槽内に導入し、これに対して硫化銅を添加する。硫化銅の添加により、被処理液中の対象金属を硫化物として析出・沈殿させる(固定化)。この対象金属の硫化物の沈殿を含む固体成分(これの詳細については後述する)は、固液分離工程でフィルターが使用される場合、その目詰まりを極めて起こし難い。
【0036】
前記硫化銅のレーザー回折式粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積50%粒子径(D50)は、対象金属との反応性の点から10~50μmであることが好ましく、20~35μmであることがより好ましい。
【0037】
また、前記硫化銅45gをpH7の水1L中で25℃で300rpmにて24時間攪拌した時の溶解量が5.8質量%以下(すなわち2.61g以下)であるのが好ましい。様々な市販の硫化銅が存在するが、このように溶解量の少ない硫化銅を使用すると、効率的に対象金属を固定化することができる。効率的に対象金属を固定化する観点から、前記硫化銅の前記溶解量は好ましくは3.0質量%以下であり、より好ましくは1.5質量%以下である(なお、溶解量は通常0.05質量%以上である)。そのような硫化銅として、日本化学産業(株)製のものが挙げられる。
【0038】
硫化銅の添加量としては、硫化銅と、被処理液内の対象金属との当量比(硫化銅/対象金属)が0.9以上(特に1.0以上)となるように設定するのが好ましい。ここで「当量比」に関して、1当量は対象金属を硫化物にするのに必要な硫化銅の量を指し、当量比(硫化銅/対象金属)が1.0ということは対象金属を理論上完全に硫化物と変化させ得る量の硫化銅が添加されることを示す。経済性の観点から、硫化銅と被処理液内の対象金属との当量比(硫化銅/対象金属)は50以下となるように設定するのが好ましい。当量比(硫化銅/金属)はさらに好ましくは1.0~24.0であり、特に好ましくは1.0~12.0である。硫化銅の添加量を前記の範囲とすることにより、対象金属を極めて良好に固定化することが可能となり、また硫化銅の費用を抑えることが可能となる。
【0039】
なお、本実施形態はバッチ式で行っても連続式で行ってもよいが、連続式で行う場合の硫化銅の添加量は、被処理液中の対象金属の濃度の一定期間の平均値を求め、それに基づいて定めるとよい。
【0040】
また、硫化銅の添加を複数回(2回以上)に分けて行うのもよい。この方式を採用する際には断続的に添加を行ってもよく、その際の添加量としては、2回目以降の添加量を1回目の添加量よりも多くしても少なくしてもよい。
【0041】
対象金属の硫化物としての固定の効率を高めるため、硫化銅添加工程では、硫化銅が添加された被処理液を撹拌することが好ましい。
【0042】
また、被処理液中の対象金属が硫化物として固定される反応の反応時間(連続式の場合は被処理液の反応槽内での滞留時間)は特に制限されるものではなく、後述するスラリー循環工程を実施する場合としない場合など、処理方法の実施の形態によって変動しうる。
【0043】
(1-3.固液分離工程(金属の回収方法)(図1の(3)))
本工程においては、前記硫化銅添加工程により生じた対象金属の硫化物の沈殿を含む固体成分と、液体成分とを固液分離する。なお固体成分と液体成分を完全に分離する必要はなく、固体成分に液体成分の一部を含ませ、スラリーとしてもよい(このようにすると後述のスラリー循環工程の実施が容易であり、実操業上有利である)。固体成分は対象金属の硫化物を含み、場合によっては反応し切れず残存する硫化銅やその他の夾雑物を含むものである。分離効率の点から固液分離はろ過で行うことが好ましく、ろ過を行うための具体的な手法や装置構成としては特に限定は無いが、例えばクロスフロー型あるいはデッドエンド型のろ過フィルターを用いる手法を採用してもよい。これに被処理液を通すことで、固液分離を実施する。デッドエンド型とは、いわゆる全量ろ過方式のことであり、フィルターに対して被処理液を全量ろ過する方式であり、原理上固体成分と液体成分とが完全に分離される。それに対してクロスフロー型とは、被処理液の流れの周囲にフィルターを設けるもので、固体成分が液体成分の一部とともに、スラリーとして得られる方式である。デッドエンド型に比べて固体成分がフィルターに過度に堆積しないという特徴もある。
【0044】
前記ろ過に用いられるフィルターの目開きの最大幅が0.2~50μmであるのが好ましく、0.2~30μmであるのがより好ましい。この条件の目開きのフィルターを採用すれば、固体成分を確実に捕集しつつ、フィルターの目詰まりがより確実に起こりにくくなる。なお、本実施形態における目開きとは、フィルターを構成する繊維の線と線の隙間又は隙間の最大幅のことを指す。
【0045】
なお、前記固液分離工程後の固体成分を、図1に示すように、一部ないし全部、前記硫化銅添加工程を行う対象となる被処理液中に戻す循環工程を実施するのが好ましい。固体成分の移送の容易性から、これを固液分離工程で分離された液体成分の一部に分散させたスラリーとして戻すのが好ましい(スラリー循環工程)。その際に(戻されたスラリー中に存在する対象金属を固定するために)新たに硫化銅を添加する硫化銅再添加工程を実施してもよい。被処理液中の対象金属の濃度は経時的に変動するのが通常であるが、(スラリー)循環工程を実施することによってその変動に対応し、対象金属の濃度の最大値に対応した量より少ない量(たとえば対象金属の濃度の平均値に対応した量)の硫化銅の添加で、十分な割合で対象金属を固定化することができる(対象金属の回収率を高めることができる)。
【0046】
なお、本工程で分離された固体成分は上述の通り主に対象金属の硫化物で構成され、前記固体成分を回収してこれから対象金属を分離し、最終的に対象金属を回収するのがよい。その具体的な手法については公知のものを用いればよい。以上から、上記の硫化銅添加工程、固液分離工程を有する一連の工程を「対象金属の回収方法」ととらえることができる。
【0047】
また、固液分離された後の固体成分を構成する物質の大半が前記対象金属の硫化物及び硫化銅であることから、前記固体成分は再資源化原料として好適であり、前記固体成分から前記硫化銅さえ除去できれば対象金属を容易に回収することが可能である。つまり、後々に対象金属を容易に回収することが可能な「金属原料の作製方法」としても本実施形態には技術的意義がある。
また、以上説明した固液分離工程で分離された液体成分は、中和工程、蒸発濃縮工程、凝縮水処理工程などの公知の工程を経てさらに処理される。
【0048】
(1-4.中和工程(図1の(4)))
中和工程においては固液分離工程で生じた液体成分(ろ液)に酸を加えて中和する。ここで加えられる酸としては任意の公知のもので構わず例えば硫酸を採用しても構わない。(アルカリとしてアンモニアが使用されている場合は)アンモニアを硫安(硫酸アンモニウム)へと変化させることにより、以下の凝縮水処理工程にて処理対象となる凝縮水において、排水規制物質であるアンモニアの含有量を著しく低減させることが可能となる。
【0049】
(1-5.蒸発濃縮工程(図1の(5)))
本工程においては、中和工程で中和された液体成分(ろ液)を蒸発濃縮させる。なお、蒸発濃縮により残存した濃縮物は物質に応じて公知の手法にて処理すればよく、例えば産業廃棄物として処理してもよい。
【0050】
(1-6.凝縮水処理工程(図1の(6)))
本工程においては得られた蒸発濃縮工程で得られた凝縮水を適切に処理する。処理方法としては凝縮水に含有される物質に応じて公知の手法により処理すればよい。前記の手法としてたとえば好気性処理や嫌気性処理、RO膜処理があげられる。
【0051】
<2.実施の形態による効果>
本実施形態においては、上記各工程を経ることにより以下の効果を奏する。
【0052】
従来の手法とは異なり、塩化鉄水溶液などの鉄塩あるいはポリ塩化アルミニウム水溶液等のアルミニウム塩などの凝集剤を添加せずに済むことから、対象金属を効率良く回収することができる上、対象金属を回収した後の残渣が多量に発生することを抑制可能となり、残渣処理コストの増加を抑制できる。
【0053】
特許文献1に記載の技術とは異なり、酸化剤や高分子凝集剤を使用せずに済み、対象金属を回収した後の残渣が多量に発生することを抑制可能となり、残渣処理コストの増加を抑制できる。また、ORP制御を行う必要もなく、煩雑な操作を避けることが可能となる。
【0054】
特許文献2に記載の技術とは異なり、本実施形態においては対象金属を含有する被処理液を中性ないしアルカリ性下で処理することから、異臭及び腐食性のある硫化水素が発生するおそれをなくすことが可能となり、作業の安全性を確保することが可能となる。
【0055】
更に、硫化銅添加工程後で析出した前記対象金属の硫化物の沈殿を含有する固体成分について、フィルターを利用して固液分離する際に、フィルターに目詰まりが生じにくくなる。その結果、メンテナンスの容易性を確保できる。
【0056】
本実施形態は、対象金属を含む被処理液の処理において、コストの増加及び煩雑な操作を避けつつ、作業の安全性を確保し、フィルターろ過を実施する場合にはメンテナンスの容易性をも確保できる。
【0057】
<3.被処理液の処理装置>
上記の被処理液の処理方法の技術的思想を装置に反映させたものが以下の構成である。なお、以下の構成の処理装置においても上記の処理方法の実施の形態による効果を奏する。
『硫化物の溶解度積が硫化銅の溶解度積よりも小さい金属を含有する被処理液を中性ないしアルカリ性下で処理する装置であって、
中性ないしアルカリ性の被処理液に対して硫化銅を添加する硫化銅供給機構と、
前記硫化銅が添加された被処理液中の前記金属の硫化物の沈殿を含む固体成分と液体成分とを分離する固液分離機構と、
を有する、被処理液の処理装置。』
【0058】
中性ないしアルカリ性下で処理する装置であることから、本実施形態における被処理液の処理装置を構成する上記各機構(特に被処理液と接触する部分)は耐アルカリ性を有する材料で形成されているのが好ましい。なお、被処理液の処理装置に関する好適例については被処理液の処理方法にて述べた内容及び理由と同様であり、一部省略する。
【0059】
前記処理装置の一実施形態として、被処理液は反応槽へ配管などの移送手段を介して導入され、ここで硫化銅供給機構により硫化銅を添加され、対象金属の固定がなされる。対象金属の処理効率の点から、前記移送手段は被処理液を連続的に反応槽へ導入できるように構成されていることが好ましい。
【0060】
硫化銅供給機構は、中性ないしアルカリ性の被処理液が存在する反応槽に対して硫化銅を添加可能な構成であれば公知の構成(例えば硫化銅を貯留する容器及びそれを移送する配管(配管は一つであっても複数であってもよい))であっても構わない。また、対象金属の固定の効率の観点から、中性ないしアルカリ性の被処理液が存在する反応槽内に撹拌機構を設けておくのがよい。
【0061】
反応槽内で被処理液中の対象金属の少なくとも一部が硫化物として固定される。この被処理液は反応槽から抜き出され、配管などの移送手段により次の固液分離機構へ移送される。処理装置は、硫化物としての固定をバッチ式で行って、反応槽から全ての被処理液を抜き出すように構成されていてもよいし、前記固定を連続式で行って、連続的に被処理液を抜き出すように構成されていてもよい。
【0062】
固液分離機構は、前記硫化銅の添加により析出した前記対象金属の硫化物を含有する固体成分を液体成分から分離可能な構成であれば公知の構成(例えばクロスフロー型あるいはデッドエンド型のろ過フィルターを備えたろ過装置)であっても構わない。ろ過装置などの簡単な固液分離手段を採用すれば、固液分離機構の小体積化が図れ、ひいては装置全体の小体積化が図れる。その際、固体成分を確実に捕集しつつ、フィルターの目詰まりを起こしにくくする観点から、前記ろ過に用いられるフィルターの目開きの最大幅が0.2~50μmであるのが好ましい。
【0063】
また、本実施形態の被処理装置は、酸性又は中性の被処理液が存在する反応槽に対して、あるいは反応槽へと移送されている被処理液に対してアルカリ性物質を添加するアルカリ性物質供給機構(例えばアルカリ性物質を貯留する容器及びそれを移送する配管)を更に有しても構わない。この場合、前記アルカリ性物質供給機構によりアルカリ性物質を添加されて中性ないしアルカリ性となった被処理液に対して前記硫化銅供給機構により硫化銅が添加される。
【0064】
また、前記固液分離機構が、当該固液分離機構により前記液体成分の一部と前記固体成分とからなるスラリーを得られるように構成されており、該スラリーの少なくとも一部を前記硫化銅供給機構により硫化銅が添加される被処理液中に戻すスラリー循環機構(例えば硫化銅の添加対象となる被処理液が存在する反応槽に前記液体成分の一部と前記固体成分とからなるスラリーを移送する配管)を更に有するのが好ましい。前記のように構成されている固液分離機構の例としては、クロスフロー型のろ過フィルターを備えたろ過装置が挙げられる。
【0065】
<4.その他>
なお、本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。例えば上記の各変形例の組み合わせや上記の実施形態にて例示した内容との組み合わせについても本発明の技術的思想の適用範囲である。
【0066】
例えば、先の被処理液の処理方法(における固液分離工程)が、後々に対象金属を容易に回収することが可能な「金属原料の作製方法」としての技術的意義も有すると述べた。この金属原料を物として規定すると以下のようになり、対象金属を容易に回収することが可能という効果を奏する。
『固体の対象金属含有物であって、該対象金属含有物における対象金属、銅及び硫黄の含有量の合計が95質量%以上であり、該対象金属含有物における対象金属の含有量が30質量%以上である、対象金属含有物。』
対象金属のうち銀は、その優れた導電性や耐酸化性から産業において広く利用されており、これを含む廃液も多い。このような廃液を被処理液として本発明の処理方法を実施して前記の対象金属(銀)含有物を得て、これから銀を回収することが好ましい。
【0067】
また、前記金属含有物を再資源化原料として好適であるという点も、本発明の実施の形態の被処理液の処理方法の有利な効果である。
【0068】
また、先ほどまでは被処理液から対象金属を回収することに着目したが、例えば前記対象金属を被処理液から除去することに着目してもよい。例えば対象金属が無機水銀(Hg(II))である場合、硫化銅添加工程を実施することにより、硫化水銀の沈殿を生じさせ、この沈殿を除去することにより、被処理液から無機水銀(Hg(II))を除去することが可能となる。この場合の「被処理液の処理方法」は言い換えると「被処理液からの対象金属の除去方法」となる。
【実施例
【0069】
次に実施例を示し、本発明について具体的に説明する。以下の実施例では主に銀を回収対象とする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0070】
<実施例1>
日本化学産業製の硫化銅(II)3gを7mLの純水に分散させ、硫化銅スラリーを調製した。硫化銅スラリーを29℃、2分間超音波で分散させた。分散後のスラリーは、マグネティックスターラーにより700rpmで攪拌し、沈降を防いだ。使用した硫化銅の平均粒径は、マイクロトラックベル製 MT3300EX IIで、比表面積はマウンテック製 HM model-1210で測定した。その結果、本実施例における硫化銅の体積平均粒径(体積基準の累積50%粒子径)は25μm、BET法による比表面積は1.3m/gであった。これをまとめたのが表1である。
【表1】
【0071】
被処理液(以降、原水とも称する。)としては以下の表2の組成のものを用いた。
【表2】
【0072】
原水0.5Lに対し、硫化銅と銀との質量比(CuS/Ag比と称する。)が0.5(CuSのAgに対する当量比(CuS/Ag)は約1.13)、1、2または3となるように硫化銅スラリーを加えた。これらの溶液をマグネティックスターラーで、500rpm、30分間攪拌した。攪拌後、目開き0.45μmのフィルター(MF膜:マイクロフィルター。以降、同様。)にてクロスフロー型でのろ過を行った。なお、フィルターとしては旭化成製マイクローザMF(孔径0.45μm)を用いた。フィルター入口の圧力は0.1MPa以下、出口圧力は0.01MPaとなるように調整した。
【0073】
硫化銅により銀が固定されているかどうかを調べるべく、マイクロフィルターの透過液に含まれる銀濃度の分析を行った。また、硫化銅の銅がイオン化する一方で銀が硫化していることを調査すべく銅濃度の分析も行った。なお、透過液に含まれる銀及び銅濃度の分析には、誘導結合プラズマ原子発光分析装置(ICP-AES; HITACHI SPS-5100)を用いた。
【0074】
その結果、原水では銀濃度23.3mg/Lだったのに対し、CuS/Ag比が0.5となるように硫化銅を添加したときは透過液中の銀濃度9.9mg/Lであり、銀濃度が大きく減少していた。これは、硫化銅により銀が固定されたことを示している。
【0075】
また、原水では銅濃度38mg/Lだったのに対し、CuS/Ag比が0.5となるように硫化銅を添加したときは透過液中の銅濃度45mg/Lであり、銅濃度が増加していた。これは、硫化銅の銅がイオン化(して透過液中に移行)する一方で銀が硫化したためと推察される。
【0076】
CuS/Ag比が1となるように硫化銅を添加したときは透過液中の銀濃度0.2mg/Lであり、銀濃度が更に大きく減少していた。また、銅濃度は46mg/Lであり、CuS/Ag比が0.5のときと同様に銅濃度が増加していた。なお、CuS/Ag比が2または3となるように硫化銅を添加したときも同様の結果が得られた。これらの結果をまとめたものが表3である。
【表3】
【0077】
原水中の銀は、硫化銅と銀との質量比(CuS/Ag比)が1以上の場合、99%以上除去されることを確認した。また、溶出した銅濃度(透過液と原水の銅濃度の差)は硫化銅と銀の交換反応が起こるとした場合のものと調和的であることを確認した。
【0078】
また、硫化銅単位質量あたりの銀の吸着容量を計算した結果、1.03mg(Ag)/mg(CuS)であった。
【0079】
以上の試験で使用した硫化銅45gをpH7の水1L中で室温(25℃)で300rpmにて24時間撹拌した時の溶解量は0.5質量%(0.225g)であった。一方同条件で求めた溶解量が10.6質量%の硫化銅を使用して、上記と同様に原水からの銀の除去試験を行った。このとき、CuS/Ag比は1.3、1.6、2.1、2.5及び2.9の5通りで試験を行った。結果(原水からの銀の除去率)を上記の試験結果とあわせて、下記表4に示す。
【表4】
溶解量0.5質量%の硫化銅(日本化学産業製)の方が、少ない使用量で高い銀除去率を達成できることがわかる。以降の実施例では、この硫化銅を使用した。
【0080】
<実施例2>
実施例2は図2に示すフローチャートに基づいて試験を行った。
【0081】
日本化学産業製の硫化銅(II)1.56gを100mLの純水に分散させ、硫化銅スラリーを調製した。硫化銅スラリーを29℃、5分間超音波で分散させた。分散後のスラリーは、マグネティックスターラーにより400rpmで攪拌し、沈降を防いだ。なお、特記の無い事項は実施例1で述べた通りとした。
【0082】
被処理液(原水)としては以下の表5の組成のものを用いた。なお、実施例2で用いた原水は、実施例1で用いた原水に比べて銀と銅の濃度のみが異なる。
【表5】
【0083】
そして、二段タービン羽を具備した13L反応槽に対して硫化銅スラリー(硫化銅の総量1.56g)を供給した。次に、原水を0.4L/minで連続的に装置に供給した。装置内での原水の水理学的滞留時間は約30分(=13L/(0.4L/min))である。供した原水の総量は21.6Lであった。この時、銀量は663mgであり、CuS/Ag比は2.4であった。反応槽攪拌機の回転速度は480rpm、攪拌強度1.3W/Lとなるように設定した。
【0084】
反応槽から配管流速1m/秒以上の流速となるよう反応液を抜き出し、実施例1と同様のマイクロフィルターに供し、同様の圧力条件とした。マイクロフィルターユニットでは、透過液を0.4L/分で抜き出す一方、ろ別されたスラリー(銀の硫化物の沈殿を含有する懸濁物質+循環液)は全て、図2に示すように濃縮スラリーとして反応槽へ戻した。
【0085】
原水の供給を開始してから30分の時点で得られたマイクロフィルターの透過液を採取し、透過液中の銀及び銅の濃度を測定した。この透過液の銀濃度が小さければ原水中の銀が良好に硫化銅により固定されていると判断できる。透過液に含まれる銀及び銅濃度の分析には、ICP-AESを用いた。
【0086】
水理学的滞留時間30分で行った上記の試験の結果、銀の除去率は99%以上であった。なお、同様の実験を、原水供給流量を0.8L/min(水理学的滞留時間15分)、2.4L/min(水理学的滞留時間5分)に設定して別途行った結果、同様に、銀の除去率は99%以上であった。つまり、水理学的滞留時間を5分に設定すれば効果的に銀を除去することが可能となり、連続操業が可能であることが確認された。なお、水理学的滞留時間5分の場合の、各通水量となった時点での上記の透過液における銀濃度及び銅濃度、銀除去率をまとめたのが以下の表6である。
【表6】
【0087】
なお、水理学的滞留時間30分で行った上記の試験において、原水の供給を開始してから30分の時点で反応槽内の被処理液を一部抜き出し、この被処理液を加圧ろ過することにより懸濁物質と液体成分に分離した。この加圧ろ過において、ろ過圧力は0.2MPaに調整し、5Cろ紙(ADVANTEC)を用いた。ろ紙上の残渣(懸濁物質)を70℃、6時間で乾燥した後、3:1の体積比で混合した濃硝酸、濃硫酸で加圧分解し、分解液に含まれる銀及び銅濃度をICP-AESにより測定し、硫黄濃度をXRDにより測定した。その結果を示すのが表7である。
【表7】
残渣(懸濁物質)における銀の含有量は70質量%、銅の含有量は20質量%、硫黄の含有量は10質量%であった。つまり、本実施例で得られた懸濁物質には、銀が非常に高濃度で濃縮されており、しかもこの銀とそれの固定に用いた硫化銅由来の元素だけで実質的に懸濁物質が構成されており、これは銀のリサイクル原料として十分に価値があることが確認できた。
【0088】
<実施例3>
CuS/Ag比が48/108(当量比で1/1)になるように硫化銅スラリーの供給量を変更した以外は、実施例2と同様に試験を行った(水理学的滞留時間は30分とした)。原水の供給を開始してから30分の時点で得られたマイクロフィルターの透過液を採取し、透過液中の銀濃度を測定し、原水からの銀の除去率を求めた。その結果、透過液中の銀濃度は0.1mg/Lであり、原水からの銀の除去率は99%以上であった。
【0089】
<実施例4>
日本化学産業製の硫化銅(II)1gを10mLの純水に分散させ、硫化銅スラリーを調製した。硫化銅スラリーを29℃、5分間超音波で分散させた。分散後のスラリーは、マグネティックスターラーにより400rpmで攪拌し、沈降を防いだ。
【0090】
原水としては、実施例1と同様の組成を有するものに、金の1000ppm原子吸光用標準溶液(関東化学製)を添加して調製した。得られた金含有原水における金の濃度は、5ppmとした。なお、特記の無い事項は実施例1で述べた通りとした。例えば実施例4での金の回収試験はバッチ試験で行なった。
【0091】
上記のように予め調製した金含有原水200mLに上記の硫化銅スラリーを所定量添加した。この金含有原水における固形分としての硫化銅濃度が50、100、200ppmとなるようにそれぞれ硫化銅スラリーを添加し、各々の金含有原水を用意した。硫化銅スラリーを添加した金含有原水を室温で45分間攪拌した。その後、実施例1と同様にマイクロフィルターの透過液を採取し、金濃度の分析を行った。その結果を表8に示す。
【表8】
表8に示すように、硫化銅濃度が100、200ppm(すなわち100ppm以上)のときには、透過液における金の濃度は4.8ppmから3.1~3.3ppmへと減少しており、すなわち原水中の金の30%程度が硫化物の沈殿として回収可能であることがわかった。
【0092】
<実施例5>
日本化学産業製の硫化銅(II)2.5gを50mLの純水に分散させ、硫化銅スラリーを調製した。硫化銅スラリーを29℃、5分間超音波で分散させた。分散後のスラリーは、マグネティックスターラーにより400rpmで攪拌し、沈降を防いだ。
【0093】
原水としては、実施例1と同様の組成を有するものを純水で50倍に希釈したものに対し、1000ppmの無機水銀(Hg(II))原子吸光用標準溶液(関東化学製)を添加して調製した。得られた水銀含有原水における水銀の濃度は、7.5ppmであった。なお、特記の無い事項は実施例1で述べた通りとした。
【0094】
上記のように予め調製した水銀含有原水250mLに上記の硫化銅スラリーを添加した。スラリー添加した水銀含有原水中の固形分としての硫化銅濃度が100、200ppmとなるように、それぞれ前記のスラリーを添加して、各々の水銀含有原水を用意した。硫化銅スラリーを添加した水銀含有原水を室温で45分間攪拌した。その後、水銀含有原水を孔径0.45μmのシリンジフィルターでろ過した。ろ液を5%硝酸(関東化学製)で10倍希釈し、水銀量の測定に供した。分析装置には日本インスツルメント製 マーキュリーMA-2000水銀分析装置を用いた。その結果を表9に示す。
【表9】
原水中の水銀は、硫化銅の添加により0.005ppm未満へと減少させられることを確認した。つまり本発明は、原水からの水銀の除去にも適用可能であることがわかった。
【0095】
<実施例6>
硫化銅スラリーとしては実施例1と同様のものを用いつつ、原水としては、銀濃度が44ppmである以外は実施例1と同様の組成の原水を用いた。その原水に対し、硝酸(関東化学製 有害金属測定用)あるいは水酸化ナトリウムを添加してpHを調整した。調整後のpHは各々7、11、13に設定した。
【0096】
予めpH調整した原水500mLに対し、上記の硫化銅スラリーを添加した。固形分としての硫化銅濃度は、CuS/Ag比が2となるように設定して、硫化銅スラリーを加えた。この溶液を室温で、マグネティックスターラーを用いて、30分間攪拌した。攪拌後、孔径0.45μmのシリンジフィルターでろ過し、ろ液を銀濃度の測定に供した。なお、特記の無い事項は実施例1で述べた通りとした。例えば実施例6での試験はバッチ試験で行なった。以上の結果を下記表10に示す。いずれのpHの原水でも、銀が回収されることを確認した。
【表10】
【0097】
<比較例1>
硫化銅(II)の代わりに硫化亜鉛(II)を用いて、硫化亜鉛(II)のスラリーを調製した。和光純薬株式会社製の硫化亜鉛(II)2.0gを10mLの純水に分散させ、硫化亜鉛スラリーを調製した。硫化亜鉛スラリーを29℃、5分間超音波で分散させた。分散後のスラリーは、マグネティックスターラーにより400rpmで攪拌し、沈降を防いだ。
【0098】
原水としては、実施例1と銀濃度が1020ppmである以外、同様の組成を有するものを用いた。なお、特記の無い事項は実施例1で述べた通りとした。
【0099】
前記原水300mLに上記硫化亜鉛スラリー1.8mLを添加し、30分間攪拌した。混合液における固形分としての硫化亜鉛濃度は1080ppmであった。攪拌後の原水を孔径0.45μmのシリンジフィルターでろ過した。ろ液に含まれる銀濃度を測定した。ろ液中の銀濃度は、987ppmであった。以上の結果を下記表11にまとめる。
【表11】
硫化亜鉛の添加によっては原水から銀が除去できないことがわかった。

図1
図2