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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-13
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】制振構造、及び制振建物
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20220118BHJP
   F16F 15/023 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
E04H9/02 301
F16F15/023 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017201453
(22)【出願日】2017-10-18
(65)【公開番号】P2019073926
(43)【公開日】2019-05-16
【審査請求日】2020-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】蟹 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】磯部 共伸
(72)【発明者】
【氏名】青野 英志
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-129956(JP,A)
【文献】特開平09-324557(JP,A)
【文献】特開2000-160873(JP,A)
【文献】特開2011-058175(JP,A)
【文献】特開2000-328810(JP,A)
【文献】特開2009-114701(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
F16F 15/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中高層建物の柱梁架構内に設置される制振構造を備えた制振建物であって、
前記柱梁架構に一方端が接合された斜材と、
前記柱梁架構を構成する梁部材に並設し、かつ前記柱梁架構を構成する柱部材に一方端が接合された減衰装置と、
一方端が前記梁部材に接合され、吊り下げ支持された鉛直部材と、
前記斜材と前記減衰装置、及び前記鉛直部材の他方端同士が連結された接合部材と、を備え、
前記接合部材は、下方側に突出部を有し、当該突出部を挟み込むように前記梁部材の上面に面外方向移動拘束材が設置されており、
前記柱部材と前記斜材、前記鉛直部材、前記減衰装置で第1の制振手段が構成され、
さらに、前記柱部材間には、前記第1の制振手段と隙間を空けて間柱が設置され、
前記柱梁架構内には、前記第1の制振手段を形成する前記柱部材と前記斜材、前記鉛直部材、前記減衰装置に加えて、前記間柱と、該間柱により形成された短スパン梁部材とで構成された第2の制振手段が設置され、
前記第2の制振手段は、建物中間階の少なくとも下方側の複数階に跨って設置され、記第1の制振手段が、前記下方側の複数階に連続する前記建物中間階の上方側の複数階に跨がって設置されているとともに、前記第1の制振手段、及び前記第2の制振手段は、前記柱梁架構を構成する其々の各柱部材に添って設置されており、対向する前記斜材間に通路スペースが設けられていることを特徴とする制振建物。
【請求項2】
中高層建物の柱梁架構内に設置される制振構造であって、
前記柱梁架構に一方端が接合された斜材と、
前記柱梁架構を構成する梁部材に並設し、かつ前記柱梁架構を構成する柱部材に一方端が接合された減衰装置と、
一方端が前記梁部材に接合され、吊り下げ支持された鉛直部材と、
前記斜材と前記減衰装置、及び前記鉛直部材の他方端同士が連結された接合部材と、を備え、
前記接合部材は、下方側に突出部を有し、当該突出部を挟み込むように前記梁部材の上面に面外方向移動拘束材が設置されており、
前記柱部材と前記斜材、前記鉛直部材、前記減衰装置で第1の制振手段が構成され
さらに、前記柱部材間には、前記第1の制振手段と隙間を空けて間柱が設置され、
前記柱梁架構内には、前記第1の制振手段を形成する前記柱部材と前記斜材、前記鉛直部材、前記減衰装置に加えて、前記間柱と、該間柱により形成された短スパン梁部材とで構成された第2の制振手段が設置され、
前記第2の制振手段は、建物中間階の少なくとも下方側の複数階に跨って設置され、前記第1の制振手段が、前記下方側の複数階に連続する前記建物中間階の上方側の複数階に跨がって設置されていることを特徴とする制振構造。
【請求項3】
請求項に記載の制振構造を備えた制振建物であって、記第1の制振手段、及び前記第2の制振手段は、前記柱梁架構を構成する其々の各柱部材に添って設置されており、対向する前記斜材間に通路スペースが設けられていることを特徴とする制振建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物中間階の柱部材間に通路スペースが確保された制振構造と、その制振構造を備えた制振建物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ダンパー等の制振部材により地震エネルギーを吸収して、建物重量を支える柱梁架構の損傷を抑制する、制振構造を備える建物が、広く施工されている。
例えば、特許文献1には、図7に示される建物の制振構造100が開示されている。制振構造100においては、柱部材101及び梁部材102によってラーメン構造となる主架構103が矩形状に構築され、この主架構103に対して、2本の垂直ブレース104が、それぞれの下端が下側の梁部材102に、互いに間隔105を空けて対峙して設けられている。また、それぞれの垂直ブレース104には1本の斜方ブレース106が設けられ、この斜方ブレース106は、垂直ブレース104の頂部と、梁部材102の各垂直ブレース104が隣設する端部角部とに接続されている。2本の垂直ブレース104の各頂部と、上側の梁部材102との間には、粘性ダンパー107と弾塑性ダンパー108とが、これの順に直列配置されて結合されている。
特許文献2にも、特許文献1の上記制振構造と同様な制振構造が開示されている。
特許文献3には、図8に示される建築物の制振構造110が開示されている。制振構造110においては、水平方向及び上下方向に適宜間隔を隔てて配置された柱部材111と梁部材112とによって矩形状の主架構113が構成されている。主架構113の一辺の両端角部またはその角部近傍に、それぞれの一端114aが固定されてV字状に配置される1対の斜材114と、斜材114の集合端部114bを主架構113の対向辺に連結するリンク115とから制振架構として機能するY型ブレース116が構成されている。斜材114の集合端部114bと、主架構113のリンク115が結合される辺を除くいずれかの辺とが、粘性ダンパー117を介して接続されている。
【0003】
特許文献1の制振構造100においては、主架構103の柱部材101間が長スパンとなっており、特に梁部材102の、2本の垂直ブレース104間の部分に対しては、粘性ダンパー107が効果的に変形を吸収できない。
特許文献2も同様である。
特許文献3の制振構造110においては、斜材114の集合端部114bがリンク115を介して梁部材112に接合固定されているため、例えば、リンク115が塑性変形しない程度の小規模地震が発生した場合等、粘性ダンパー117は効率よく振動エネルギーを吸収することができない場合がある。
したがって、制振部材がより効果的に振動エネルギーを吸収することができる制振構造が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-129956号公報
【文献】特開平9-324557号公報
【文献】特開2000-160873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、全体曲げ変形、層せん断変形のいずれの変形モードに対しても振動エネルギーを吸収することができる、制振構造、及び、これを備えた制振建物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、中高層建物の制振構造として、建物中間階の上方側複数階に、斜材と減衰装置が組み合わされた第1の制振手段を設置し、その第1の制振手段の下方階側に、梁部材の中間部分に間柱を有する第2の制振手段を設けるとともに、対向する制振手段同士の間に通路スペースを設けることで、高い制振性能を有し、かつ居室等に対して配置計画上の自由度の高い中高層建物を実現できる点に着眼して、本発明に至った。
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。すなわち、本発明は、中高層建物の柱梁架構内に設置される制振構造を備えた制振建物であって、前記柱梁架構に一方端が接合された斜材と、前記柱梁架構を構成する梁部材に並設し、かつ前記柱梁架構を構成する柱部材に一方端が接合された減衰装置と、一方端が前記梁部材に接合され、吊り下げ支持された鉛直部材と、前記斜材と前記減衰装置、及び前記鉛直部材の他方端同士が連結された接合部材と、を備え、前記柱部材と前記斜材、前記鉛直部材、前記減衰装置で第1の制振手段が構成され、さらに、前記柱部材間には、前記第1の制振手段と隙間を空けて間柱が設置され、前記柱梁架構内には、前記第1の制振手段を形成する前記柱部材と前記斜材、前記減衰装置に加えて、前記間柱と、該間柱により形成された短スパン梁部材とで構成された第2の制振手段が設置され、前記第2の制振手段は、建物中間階の少なくとも下方側の複数階に跨って設置され、前記第2の制振手段に連続する上方階側には前記第1の制振手段が設置されているとともに、前記第1の制振手段、及び前記第2の制振手段は、前記柱梁架構を構成する其々の各柱部材に添って設置されており、対向する前記斜材間に通路スペースが設けられていることを特徴とする制振建物を提供する。
上記のような構成によれば、柱梁架構を構成する柱部材に添わせて、斜材と減衰装置とを接合部材で連結されて3角形状を含む第1の制振手段を形成されることで、地震時に柱梁架構に生じる変形を、柱部材に接合された斜材で抑制させつつ、生じた変形量は柱部材と斜材との間に設置した減衰装置で吸収させる。第1の制振手段は、斜材と、斜材に対して上記3角形状の反対側に位置する鉛直部材、梁部材により形成される他の3角形状をも更に含むため、斜材による変形の抑制を更に効果的に奏することができる。
また、柱梁架構を構成する梁部材の中間部に間柱を設置し第2の制振手段を形成することで、柱梁架構内に形成された複数の短スパン梁によって地震時に柱梁架構に生じるせん断変形を効率的に吸収させることができる。また、第2の制振手段は、柱部材と接合された第1の制振手段と、当該第1の制振手段と隙間を空けて設置された間柱で構成されるものであり、第1の制振手段と、間柱、及び短スパン梁が互いに独立した曲げせん断抵抗機構によって、地震時の振動エネルギーを吸収することができる。
更に、中高層建物において、地震時の曲げ変形が比較的小さい建物中間階の少なくとも下方側においては、柱部材間に間柱を設けて短スパン梁を形成する一方で、上層階側においては、斜材、減衰装置、及び、接合部材が、柱梁架構を構成する其々の各柱部材側に対向して設置されている。例えば、中高層建物の場合、特に上層階側においては、地震時に、非常に大きな曲げ変形が作用するため、間柱を設けると、短スパン梁が境界梁となり、応力集中が生じる可能性があるが、上記のように、上層階側においては、間柱を備えない構成(第1の制振手段)とすることにより、応力集中を抑制することができる。また、建物中間階の少なくとも下方階側の連続した複数階に亘って、間柱を備えた第2制振手段を備えることにより、全体曲げ変形、層せん断変形のいずれの変形モードに対しても、効率的に振動エネルギーを吸収することができる。
また、対向する斜材間に通路スペースを設けることにより、高い制振性能を有し、かつ居室等に対して配置計画上の自由度の高い建物を実現できる。
【0007】
また、本発明は、中高層建物の柱梁架構内に設置される制振構造であって、前記柱梁架構に一方端が接合された斜材と、前記柱梁架構を構成する梁部材に並設し、かつ前記柱梁架構を構成する柱部材に一方端が接合された減衰装置と、一方端が前記梁部材に接合され、吊り下げ支持された鉛直部材と、前記斜材と前記減衰装置、及び前記鉛直部材の他方端同士が連結された接合部材と、を備え、前記接合部材は、下方側に突出部を有し、当該突出部を挟み込むように前記梁部材の上面に面外方向移動拘束材が設置されており、前記柱部材と前記斜材、前記鉛直部材、前記減衰装置で第1の制振手段が構成されていることを特徴とする制振構造を提供する。
上記のような構成によれば、柱梁架構を構成する柱部材に添わせて、斜材と減衰装置とを接合部材で連結されて3角形状を含む第1の制振手段を形成されることで、地震時に柱梁架構に生じる変形を、柱部材に接合された斜材で抑制させつつ、生じた変形量は柱部材と斜材との間に設置した減衰装置で吸収させる。第1の制振手段は、斜材と、斜材に対して上記3角形状の反対側に位置する鉛直部材、梁部材により形成される他の3角形状をも更に含むため、斜材による変形の抑制を更に効果的に奏することができる。
また、斜材と減衰装置とを連結する接合部材の下方端側には、面外方向移動拘束材を配置することで、地震発生時に第1の制振手段に加わる面外変形が抑制され、減衰装置には面内水平変形のみが作用するために、効率よく振動エネルギーを吸収することができる。
【0008】
本発明の一態様においては、さらに、前記柱部材間には、前記第1の制振手段と隙間を空けて間柱が設置され、前記柱梁架構内には、前記第1の制振手段を形成する前記柱部材と前記斜材、前記鉛直部材、前記減衰装置に加えて、前記間柱と、該間柱により形成された短スパン梁部材とで構成された第2の制振手段が設置されていることを特徴とする。
上記のような構成によれば、前述の作用効果に加えて、柱梁架構を構成する梁部材の中間部に間柱を設置することで、柱梁架構内に形成された複数の短スパン梁によって地震時に柱梁架構に生じるせん断変形を効率的に吸収させることができる。また、第2の制振手段は、柱部材と接合された第1の制振手段と、当該第1の制振手段と隙間を空けて設置された間柱で構成されるものであり、第1の制振手段と、間柱、及び短スパン梁が互いに独立した曲げせん断抵抗機構によって、地震時の振動エネルギーを吸収することができる。
【0009】
本発明の別の態様においては、制振建物であって、前記第2の制振手段は、建物中間階の少なくとも下方側の複数階に跨って設置され、前記第2の制振手段に連続する上方階側には前記第1の制振手段が設置されているとともに、前記第1の制振手段、及び前記第2の制振手段は、前記柱梁架構を構成する其々の各柱部材に添って設置されており、対向する前記斜材間に通路スペースが設けられていることを特徴とする。
上記のような構成によれば、中高層建物において、地震時の曲げ変形が比較的小さい建物中間階の少なくとも下方側においては、柱部材間に間柱を設けて短スパン梁を形成する一方で、上層階側においては、斜材、減衰装置、鉛直部材、及び、接合部材が、柱梁架構を構成する其々の各柱部材側に対向して設置されている。例えば、中高層建物の場合、特に上層階側においては、地震時に、非常に大きな曲げ変形が作用するため、間柱を設けると、短スパン梁が境界梁となり、応力集中が生じる可能性があるが、上記のように、上層階側においては、間柱を備えない構成(第1の制振手段)とすることにより、応力集中を抑制することができる。また、建物中間階の少なくとも下方階側の連続した複数階に亘って、間柱を備えた第2制振手段を備えることにより、全体曲げ変形、層せん断変形のいずれの変形モードに対しても、効率的に振動エネルギーを吸収することができる。
また、対向する斜材間に通路スペースを設けることにより、高い制振性能を有し、かつ居室等に対して配置計画上の自由度の高い建物を実現できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、全体曲げ変形、層せん断変形のいずれの変形モードに対しても振動エネルギーを吸収することができる、制振構造、及び、これを備えた制振建物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態における制振構造を備えた建物の、柱梁架構の正面図である。
図2図1のA部分の部分拡大図である。
図3図2のB部分の部分拡大図である。
図4図3のC-C横部分断面図である。
図5】本発明の実施形態における制振構造の、減衰装置の拡大図である。
図6図3のE-E断面の部分断面図である。
図7】従来の建物の制振構造の説明図である。
図8】従来の建築物の制振構造の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、中高層建物を対象とする、建物中間階の上方側複数階に斜材と減衰装置が組み合わされた第1の制振手段を設置し、その第1の制振手段と連続する建物中間階の下方側複数階に、前記第1の制振手段と隙間を空けて、梁部材の中間部分に間柱を設置した第2の制振手段を設けた制振構造である。
本実施形態では、建物中間間の下方階側に第2の制振手段を設置し、上方階側に第1制振手段を備えた制振建物(図1~6)とである。
本発明の特徴は、曲げ変形が支配的な建物上層階側においては、柱部材に添わせて斜材と減衰装置を組み合わせた第1の制振手段を配置し、せん断変形量が増加する建物下層階側では、梁部材の中間に間柱を設定して短スパン梁を形成させ、短スパン梁と、間柱と、上層階から連続する斜材と減衰装置などが組み合わされた第2の制振手段とを、複数階に亘って連続的に配置することで、特に建物高さが高くなる中高層建物や高層建物にて顕著となる、全体曲げ変形、層せん断変形のいずれの変形モードに対しても、効率的に振動エネルギーを吸収できる点である。
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態における制振構造を備えた建物(制振建物)1の、柱梁架構4の正面図である。
建物1は中高層の建物1であり、下層階LFL、中間階MFL、及び、上層階HFLを備えている。下層階LFLは、1階1FLから3階3FLにより構成されている。中間階MFLは、4階4FLから7階7FLより構成されている下方側階層MLFLと、8階8FLから13階13FLにより構成されている上方側階層MHFLを備えている。上層階HFLは、14階14FLより上方の階層により構成されている。
建物1は、柱部材2と梁部材3によりラーメン構造として構築された柱梁架構4を備えている。下層階LFLと中間階MFLの下方側階層MLFLにおいては、柱梁架構4の柱部材2間に、柱部材2よりも径が小さな間柱11が設けられている。例えば、柱部材2のうち、柱梁架構4の内側に位置する2本の柱部材2の間は、2本の間柱11によって区画されている。この、2本の間柱11の間においては、梁部材3は、中間階MFLの上方側階層MHFLより上層等の、間柱11が設けられていない階層の梁部材3に比べると短くなっており、短スパン梁3Sが形成されている。
本実施形態においては、柱部材2はコンクリート充填鋼管柱であり、梁部材3と間柱11は鉄骨である。
【0014】
上記の建物1の、特に中間階MFLの下方側階層MLFLにおいては、柱梁架構4内に、以下に説明する制振構造が設けられている。
まず、制振構造は、柱梁架構4に一方端が接合された斜材6と、柱梁架構4を構成する梁部材3に並設し、かつ柱梁架構4を構成する柱部材2に一方端が接合された減衰装置13と、一方端が梁部材3に接合され、吊り下げ支持された鉛直部材61と、斜材6と減衰装置13、及び鉛直部材61の他方端同士が連結された接合部材31と、を備え、接合部材31は、下方側に突出部を有し、突出部を挟み込むように梁部材3の上面に面外方向移動拘束材が設置されている。このような構成において、柱部材2と斜材6、鉛直部材61、減衰装置13で第1の制振手段(制振構造)40が構成されている。
特に中間階MFLの下方側階層MLFLにおいては、第1の制振手段40が柱部材2間に設けられ、第1の制振手段40と隙間を空けて上記のような間柱11が設置されることで、第2の制振手段10が設けられている。すなわち、柱梁架構4内には、第1の制振手段40を形成する柱部材2と斜材6、鉛直部材61、減衰装置13に加えて、間柱11と、間柱11により形成された短スパン梁部材3Sとで構成された第2の制振手段(制振構造)10が設置されている。
【0015】
まず、図2乃至図6を用いて、第2の制振手段10を詳細に説明する。図2は、図1のA矢視部分の拡大図である。図3は、図2のB矢視部分の拡大図である。図4は、図3のC-C部分の断面図である。図5は、図3のD矢視部分の拡大図である。図6は、図3のE-E部分の断面図である。
【0016】
図2、3に示されるように、梁部材3は、梁本体5と、鋼製梁部材18を備えている。梁本体5は、鉄骨であり、本実施形態においては、H形鋼である。すなわち、梁本体5は、鉛直面内に位置して水平方向に延在するように設けられたウェブ5cと、ウェブ5cの上側の端辺に、ウェブ5cに対して垂直に接合されている上フランジ5a、及び、ウェブ5cの下側の端辺に、ウェブ5cに対して垂直に接合されている下フランジ5bを備えている。梁本体5は、ウェブ5cの側面に垂直に、鉛直方向に延在するように設けられて、上フランジ5a、下フランジ5b、及び、ウェブ5cの各々に接合された、鉛直補剛板5fを備えている。
梁本体5は、鋼製梁部材18を介して、柱部材2に接合されている。鋼製梁部材18は、梁本体5と略同等の断面形状を備えており、すなわち、図3に示されるように、梁本体5と同様に、上フランジ18a、下フランジ18b、及び、ウェブ18cを備えている。梁本体5と鋼製梁部材18は、互いに突き合わされ、各々の表面を跨ぐようにスプライスプレート20が添えられて、このスプライスプレート20を介してボルト・ナット21を緊締することにより接合されている。
鋼製梁部材18は、ウェブ18cの側面に対して垂直に設けられて、上フランジ18a、下フランジ18b、及び、ウェブ18cの各々に接合された、鉛直リブ材18fを備えている。
【0017】
柱部材2から一定の距離だけ離れた位置には、鉛直鋼材61が設けられている。鉛直鋼材(鉛直部材)61は、例えばH形鋼であり、ウェブ61cと、ウェブ61cの長さ方向に延在する2つの端辺に、ウェブ61cに対して垂直に接合されている、2つのフランジ61aを備えている。鉛直鋼材61は、一方の端部(一方端)が梁本体5の下フランジ5bの下面に接合されて、鉛直下方に延伸するように設けられている。鉛直鋼材61は、ウェブ61cが柱梁架構4面内に位置するように設けられている。鉛直鋼材61の下端は、鉛直鋼材61の下方に位置する梁部材3よりも上方で終端して、後述する接合部材31に接合されている。このように鉛直鋼材61は、一方端が梁部材3に接合され、吊り下げ支持されており、他方端が接合部材31に連結されている。
【0018】
図2、3に示されるように、斜材6は、斜材本体12、斜材取付治具17、及び、斜材接合部材30を備えている。斜材6は、柱部材2と、鉛直鋼材61側との間に設けられている。
斜材本体12は、一方の端部12sが、後述する斜材取付治具17を介して、柱梁架構4の、柱部材2と、斜材本体12が設けられる階の天井を構成する梁部材3との接合部に、接合されている。斜材本体12は、この柱梁架構4に接合されている側の端部12sから、鉛直鋼材61の下端に向けて斜めに延伸するように設けられている。
本実施形態においては、斜材本体12は、H形鋼により形成されている。すなわち、斜材本体12は、図3に示されるように、ウェブ12cと、ウェブ12cの長さ方向に延在する2つの端辺に、ウェブ12cに対して垂直に接合されている、2つのフランジ12aを備えている。斜材本体12の2つの端部12s、12tの各々の近傍には、補剛板12fが、ウェブ12cの側面に垂直に設けられて、2つのフランジ12a、及び、ウェブ12cの各々に接合されている。
【0019】
斜材取付治具17は、図3に示されるように、斜材本体12と同様に、ウェブ17cと、2つのフランジ17aを備えた鋼材である。斜材取付治具17は、柱梁架構4の、柱部材2と梁部材3の接合部に接合される、柱梁架構4側の端部17sと、斜材本体12の端部12sに接合される、斜材本体12側の端部17tを備えている。
斜材取付治具17は、斜材本体12側の端部17tにおいては、斜材本体12と略同等の断面形状を備えている。ウェブ17cは、斜材本体12側の端部17tから一定の位置から、反対側の端部17sに向かうにつれ、漸次幅が広がるように形成されている。
柱梁架構4側の端部17sは、鋼製梁部材18の下面18eと、柱部材2の側面2mに、柱部材2と鋼製梁部材18に跨るように接合されており、2つのフランジ17aのうち、一方が鋼製梁部材18の下面18eに、他方が柱部材2の側面2mに接合されている。ここで、鋼製梁部材18の下面18eに接合されているフランジ17aにおいては、その上端が、鋼製梁部材18の鉛直リブ材18fの下端と略同等の水平位置に設けられるように接合されている。これにより、鉛直リブ材18fと、鋼製梁部材18に接合されているフランジ17aは、鋼製梁部材18の下フランジ18bを挟んで上下方向に連続するように設けられている。
斜材本体12の端部12sと、斜材取付治具17の斜材本体12側の端部17tは、互いに突き合わされ、各々の表面を跨ぐようにスプライスプレート22が添えられて、このスプライスプレート22を介してボルト・ナット23を緊締することにより接合されている。
斜材取付治具17の斜材本体12側の端部17t近傍には、補剛板17fが、ウェブ17cの側面に対して垂直に設けられて、2つのフランジ17a、及び、ウェブ17cの各々に接合されている。
【0020】
図2、3に示されるように、斜材本体12の、鉛直鋼材61側の端部12tには、斜材接合部材30が接合されている。斜材接合部材30は、斜材本体12を挟んで、斜材取付治具17と略対称的な形状に形成されている。
斜材接合部材30は、斜材本体12の鉛直鋼材61側の端部12tに接合される、斜材本体12側の端部30sと、後に説明する接合部材31と鉛直鋼材61とに接合される、鉛直鋼材61側の端部30tを備えている。
斜材接合部材30は、図3に示されるように、斜材本体12と同様に、ウェブ30cと、2つのフランジ30aを備えている。斜材接合部材30は、斜材本体12側の端部30sにおいては、斜材本体12と略同等の断面形状を備えている。ウェブ30cは、斜材本体12側の端部30sから一定の位置から、反対側の端部30tに向かうにつれ、漸次幅が広がるように形成されている。
斜材本体12の端部12tと、斜材接合部材30の斜材本体12側の端部30sは、互いに突き合わされ、各々の表面を跨ぐようにスプライスプレート22が添えられて、このスプライスプレート22を介してボルト・ナット23を緊締することにより接合されている。
鉛直鋼材61側の端部30tは、鉛直鋼材61の柱部材2を向く側のフランジ61aに接合されている。
斜材接合部材30の斜材本体12側の端部30s近傍には、補剛板30fが、ウェブ30cの側面に対して垂直に設けられて、2つのフランジ30a、及び、ウェブ30cの各々に接合されている。
【0021】
以上により、斜材取付治具17、斜材本体12、及び、斜材接合部材30を備えている斜材6は、柱部材2と、鉛直鋼材61との間に設けられ、一方端17sが柱部材2に接合され、他方の端部(他方端)30tは鉛直鋼材61に接合されている。
【0022】
図2、3に示されるように、柱梁架構4の、柱部材2と、斜材本体12が設けられる階の床を構成する梁部材3との接合部には、ダンパー取付治具16が設けられている。ダンパー取付治具16は、図3に示されるように、鉛直面内に設けられた略矩形形状のウェブ16cと、ウェブ16cの上端辺に沿ってウェブ16cに対して垂直に接合されたフランジ16aを備えている。ダンパー取付治具16は、柱部材2の鉛直鋼材61側の側面2mに、フランジ16aの端部とウェブ16cの側端辺が当接され、かつ、鋼製梁部材18の上面18d上に、ウェブ16cの下端辺が当接されるように位置づけられ、これらに接合されている。
ウェブ16cの、柱部材2に接合された端辺とは反対側の側端辺には、ウェブ16cに対して垂直に、かつ鉛直方向に延在するように、鉛直板16gが接合されている。ウェブ16cの、水平方向の長さは、柱部材2の側面2mから鋼製梁部材18の鉛直リブ材18fの上端までの距離と、略同等となるように形成されている。これにより、鉛直板16gと、鉛直リブ材18fは、鋼製梁部材18の上フランジ18aを挟んで上下方向に連続するように設けられている。
以上のような構成により、図2に示されるように、ダンパー取付治具16と直下階に設置された他の斜材6L(図2参照)の材端接合部、すなわち斜材取付治具17は、鉛直リブ材18fが設けられた鋼製梁部材18を挟んで接合されている構成となっている。
図3に示されるように、ウェブ16cには、ウェブ16cに対して垂直に、かつ水平方向に延在するように、水平補剛板16iが接合されている。水平補剛板16iは、柱部材2の側面2mと、鉛直板16gに対しても接合されている。
ダンパー取付治具16の鉛直板16gの、鉛直鋼材61側の表面には、ダンパー受け部材35が接合されている。
【0023】
第2の制振手段10は、上記のように、柱梁架構4の梁部材3に並設された、すなわち、梁部材3と並ぶように設けられた、減衰装置13を備えている。減衰装置13は、例えば、オイルダンパーである。
減衰装置13は、図5に示されるように、振動エネルギーを吸収して伸縮する本体13aと、本体13aの両端に設けられた2つの接続端部13s、13tを備えている。本体13aは、伸縮する方向が、梁部材3の延伸方向と一致するように設けられている。
図5に破線で示されるように、接続端部13s、13tの先端は、球状に形成されている。ダンパー受け部材35は、減衰装置13の接続端部13sの球状と略同一の曲率半径を備えるように、球状に形成されている球状凹部35aを備えている。減衰装置13の接続端部13sは、この球状凹部35a内に収容されることにより、減衰装置13はダンパー受け部材35に接合されている。
以上のように、減衰装置13の一方端13sは、ダンパー受け部材35とダンパー取付治具16を介して、柱部材2と梁部材3に、ダンパー受け部材35を支点として回転可能に、ピン接合されている。
【0024】
図3に示されるように、鉛直鋼材61の下端(他方端)と、斜材6の、より詳細には、斜材接合部材30の、鉛直鋼材61に接合された端部(他方端)30tと、減衰装置13の、ダンパー受け部材35を介してダンパー取付治具16に接合された接続端部13sとは反対側の、すなわち鉛直鋼材61側の接続端部(他方端)13tは、梁部材3に並設された、すなわち、梁部材3と並ぶように設けられた、接合部材31で連結されている。
【0025】
接合部材31は、H形鋼を基にして製作されている。すなわち、接合部材31は、鉛直面内に位置して水平方向に延在するように設けられたウェブ31cと、ウェブ31cの上側の端辺に、ウェブ31cに対して垂直に接合されている上フランジ31a、及び、ウェブ31cの下側の端辺に、ウェブ31cに対して垂直に接合されている下フランジ31bを備えている。
接合部材31は、ウェブ31cの側面に垂直に、鉛直方向に延在するように設けられて、上フランジ31a、下フランジ31b、及び、ウェブ31cの各々に接合された、鉛直補剛板31fを備えている。接合部材31は、長さ方向の2つの端部31s、31tの各々に、上フランジ31a、下フランジ31b、及び、ウェブ31cの各々に対して垂直に設けられてこれらに接合されている、外側鉛直板31g、31hを備えている。
ウェブ31cには、ウェブ31cに対して垂直に、かつ水平方向に延在するように、水平補剛板31iが接合されている。水平補剛板31iは、短い方の外側鉛直板31hと、鉛直補剛板31fに対しても接合されている。
【0026】
接合部材31は、図6に示されるように、下方側に面外方向移動被拘束板(突出部)31jを有している。面外方向移動被拘束板31jは、鋼板であり、下フランジ31bの下面31eに対して、ウェブ31cが部分的に下フランジ31bを超えて下方向に延在するように、下フランジ31bに対して垂直に接合されている。
面外方向移動被拘束板31jの2つの側面の各々には、表面がポリテトラフルオロエチレンによりコーティングされた、金属板である滑り板31kが接合されている。
【0027】
図3に示されるように、接合部材31は、一方の端部31sが減衰装置13側を、反対側の端部31tが鉛直鋼材61側を、それぞれ向くように梁部材3の上方に設けられている。
端部31t側の、上フランジ31aの上面31dには、斜材接合部材30の端部30tと鉛直鋼材61の下端が接合されている。
減衰装置13側の外側鉛直板31hには、ダンパー取付治具16に設けられているダンパー受け部材35と対向するように、ダンパー受け部材32が接合されている。図5に示されるように、ダンパー受け部材32は、ダンパー受け部材35と同様に、球状に形成されている球状凹部32aを備えている。減衰装置13の鉛直鋼材61側の接続端部13tは、ダンパー受け部材32の球状凹部32a内に収容されることにより、減衰装置13は接合部材31に接合されている。
以上のように、減衰装置13の鉛直鋼材61側の接続端部13tは、ダンパー受け部材32を介して、斜材6に接合された接合部材31に、ダンパー受け部材32を支点として回転可能に、ピン接合されている。
【0028】
接合部材31が上記のように位置づけられることにより、面外方向移動被拘束板31jがその下に位置する梁部材3に向かって突出するように設けられている。図6に示されるように、この面外方向移動被拘束板(突出部)31jを挟み込むように、梁部材3の梁本体5の上面5dに、面外方向移動拘束材15が設置されている。
面外方向移動拘束材15は、基部33と拘束部34を備えている。
【0029】
基部33は、ウェブ33c、上フランジ33a、及び、鉛直補剛板33fを備えている。ウェブ33cは、梁本体5の上フランジ5aの上面5dに対して、ウェブ5cが部分的に上フランジ5aを超えて上方向に延在するように、上フランジ5aに対して垂直に接合されている。上フランジ33aは、ウェブ33cの上側の端辺に、略水平となるように接合されている。鉛直補剛板33fは、ウェブ33cの側面に垂直に、鉛直方向に延在するように設けられて、上フランジ33aとウェブ33c、及び、梁本体5の上フランジ5aの各々に接合されている。
【0030】
拘束部34は、2つの支持板34aを備えている。2つの支持板34aは、接合部材31から下に向かって突出している面外方向移動被拘束板31jを挟んで対向するように、面外方向移動被拘束板31jと略平行に設けられている。各支持板34aの、面外方向移動被拘束板31jとは反対側の側面には、補強板34bが、該側面に垂直に、鉛直方向に延在するように設けられて、該側面と基部33の上フランジ33aの上面33dに接合されている。
各支持板34aの、面外方向移動被拘束板31j側の側面には、例えばステンレス等により製作された拘束板34cが接合されている。各支持板34aに設けられた拘束板34cの各々は、面外方向移動被拘束板31jの両側面に設けられた2つの滑り板31kを、互いに反対側の側面から圧接して挟むように設けられている。
【0031】
上記のように、図1に下方側階層MLFLとして示されるような、建物1の、中間階MFLの少なくとも下方側の複数階(4階4FL~7階7FL)には、柱部材2と斜材6、鉛直部材61、減衰装置13で構成された第1の制振手段40と、その外側に第1の制振手段40と隙間を空けて設けられた間柱11と、及び間柱11間に延在する短スパン梁3Sと、によって構成された、第2の制振手段10が設けられている。
間柱11間には通路スペースSが設けられている。
【0032】
第2の制振手段10が設置された複数階(4階4FL~7階7FL)に連続する上方階側、より詳細には、中間階MFLの上方側階層MHFLとして示される複数階(8階8FL~13階13FL)においては、第1の制振手段40が設けられている。
すなわち、中間階MFLの上方側階層MHFLにおいては、図1に示されるように、柱梁架構4に一方端が接合された斜材46と、柱梁架構4を構成する梁部材3に並設し、かつ柱梁架構4を構成する柱部材2に一方端が接合された減衰装置43と、一方端が梁部材3に接合され、吊り下げ支持された鉛直部材71と、斜材46と減衰装置43、及び鉛直部材71の他方端同士が連結された接合部材51と、を備え、接合部材51は、下方側に突出部を有し、突出部を挟み込むように梁部材3の上面に面外方向移動拘束材が設置されることにより、第1の制振手段(制振構造)40が構成されている。
中間階MFLの上方側階層MHFLにおいては、間柱11が設けられておらず第2の制振手段(制振構造)10が形成されていないため、下方側階層MLFLにおいて説明したような短スパン梁3Sは形成されておらず、柱部材2間に長く延在する長スパンの梁3となっている。
上方側階層MHFLにおいては、このような第1の制振手段(制振構造)40が、柱梁架構4を構成する其々の各柱部材2側に設置されて互いに対向するように設けられている。これらの第1の制振手段(制振構造)40の、対向する斜材42間に、通路スペースSが設けられている。
【0033】
このように、建物1においては、第2の制振手段10が、建物中間階の少なくとも下方側の複数階(4階4FL~7階7FL)に跨って設置され、第2の制振手段10に連続する上方階側(8階8FL~13階13FL)には第1の制振手段40が設置されている。また、第1及び第2の制振手段10、40は、柱梁架構4を構成する其々の各柱部材2に添って設置されており、対向する斜材6、46間に通路スペースSが設けられている。
【0034】
次に、上記の制振構造、及び、これを備えた制振建物1の効果について説明する。
【0035】
上記のような構成によれば、柱梁架構4を構成する柱部材2に添わせて、斜材6、46と減衰装置13、43とを接合部材31、51で連結されて3角形状を含む第1の制振手段40を形成されることで、地震時に柱梁架構4に生じる変形を、柱部材2に接合された斜材6、46で抑制させつつ、生じた変形量は柱部材2と斜材6、46との間に設置した減衰装置13、43で吸収させることができる。第1の制振手段40は、斜材6、46とと、斜材6、46とに対して上記3角形状の反対側に位置する鉛直部材61、71、梁部材3により形成される他の3角形状をも更に含むため、斜材6、46による変形の抑制を更に効果的に奏することができる。
また、中間階MFLの下方側階層MLFLにおいては、柱梁架構4の柱部材2間に間柱11が設けられて第2の制振手段10を形成することにより、柱部材2間が短スパンとなって短スパン梁3Sが形成されているため、短スパン梁3Sのせん断変形により振動エネルギーを吸収しつつ、短スパン梁3Sが、間柱11と柱部材2間に位置する梁部材3と、間柱11とを介して、制振機構10に曲げ戻しモーメントを付与することで、曲げ変形を制振機構10で効率良く吸収させることができる。これにより、建物1のせん断変形、曲げ変形を、効果的に、抑制することができる。
特に、第2の制振手段10は、柱部材2と接合された第1の制振手段40と、第1の制振手段40と隙間を空けて設置された間柱11で構成されるものであり、第1の制振手段40と、間柱11、及び短スパン梁3Sが互いに独立した曲げせん断抵抗機構によって、地震時の振動エネルギーを吸収することができる。すなわち、第1及び第2の制振手段10、40では、地震時に減衰装置13、43に水平力が加わると、減衰装置13、43と斜材6、46が接合される鉛直鋼材61に軸力が加わり、鉛直鋼材61が接合された梁部材3に力が作用することになる。この時、梁部材3が変形すると、減衰装置13、43のエネルギー吸収効率が悪くなる。そこで、第2の制振手段10では、間柱11を取り付けることで梁部材3のスパン長を短くして、剛性を増大させて減衰装置13、43のエネルギー吸収効率を高めている。
更に、斜材6と減衰装置13は、梁部材3に並設された接合部材31で連結され、接合部材31は下方側に突出部31jを有しており、突出部31jを挟み込むように梁部材3の上面に面外方向移動拘束材15が設置されているため、地震時に、斜材6の上記他方端30tが柱梁架構4の面外へ移動するように変形しようとした場合においても、この変形は面外方向移動拘束材15によって抑制される。これにより、減衰装置13が効率よく振動エネルギーを吸収することができる。
以上が相乗し、全体曲げ変形、層せん断変形のいずれの変形モードに対しても、減衰装置13が効果的に振動エネルギーを吸収することができる。
【0036】
また、減衰装置13と、柱部材2及び梁部材3とを接合するダンパー取付治具16は、直下階に設置された他の斜材6L(図2参照)の材端接合部(斜材取付治具17)と、鉛直リブ材18fが設けられた鋼製梁部材18を挟んで接合されているため、これらダンパー取付け治具16、他の斜材6Lの材端接合部17、及び、鋼製梁部材18が、鉛直リブ材18fにより一体化されている。これにより、減衰装置13、斜材6、及び、柱梁架構4が、高剛性により接合されているため、減衰装置13へ確実に振動エネルギーを伝達し、減衰装置13が伝達された振動エネルギーを効率よく吸収することができる。
【0037】
また、建物1の、地震時の曲げ変形が比較的小さい建物中間階MFLの少なくとも下方側MLFLにおいては、上記のように、柱部材2間に間柱11を設けて短スパン梁3Sを形成する一方で、上層階MHFL側においては、斜材46、減衰装置43、鉛直部材71、及び、接合部材51が、柱梁架構4を構成する其々の各柱部材2側に対向して設置されている。例えば中高層の建物の、特に上層階側においては、地震時に、非常に大きな曲げ変形が作用するため、間柱を設けると、短スパン梁が境界梁となり、応力集中が生じる可能性があるが、上記のように、上層階MHFL側においては、間柱11を備えない構成とすることにより、応力集中を抑制することができる。このように、建物中間階MFLの少なくとも下方側MLFLと、上層階MHFL側の各々において、それぞれ適した異なる制振構造10、40を複数階に亘って連続的に配置することにより、地震時に建物1に複雑に加わる変形をを効率よく吸収することができる。
また、対向する斜材42間に通路スペースSを設けることにより、高い制振性能を有し、かつ居室等に対して配置計画上の自由度の高い建物1を実現できる。
【0038】
なお、本発明の制振構造、及び、これを備えた制振建物は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において他の様々な変形例が考えられる。
【0039】
例えば、上記実施形態においては、図1に示されるような階層構成の建物に制振構造が設けられていたが、建物は、他の形状、構成、階数を備えていてもよいのは、言うまでもない。下層階、中間階MFLの下方側階層MLFL、上方側階層MHFL、及び、上層階HFLに対する各階の割り当てが、図1と異なっていてもよい。
また、上記実施形態においては、減衰装置13はオイルダンパーであったが、他の種類の減衰装置であっても構わない。
【0040】
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 建物(制振建物) 30 斜材接合部材
2 柱部材 30t 端部(斜材の他方端)
3 梁部材 31、51 接合部材
3S 短スパン梁 31j 面外方向移動被拘束板(突出部)
4 柱梁架構 31k 滑り板
5 梁本体 33 基部
5d 上面 34 拘束部
6、46 斜材 34c 拘束板
10 第2の制振手段(制振構造) 34a 支持板
11 間柱 35 ダンパー受け部材
12 斜材本体 40 第1の制振手段(制振構造)
13、43 減衰装置 61 鉛直鋼材(鉛直部材)
13s 接続端部(減衰装置の一方端) MFL 中間階
13t 接続端部(減衰装置の他方端) MLFL 下方側階層
15 面外方向移動拘束材 MHFL 上方側階層
16 ダンパー取付治具 S 通路スペース
17 斜材取付治具(材端接合部)
17s 端部(斜材の一方端)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8