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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-13
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】基礎構造
(51)【国際特許分類】
   E02D 27/00 20060101AFI20220118BHJP
   E02D 27/12 20060101ALI20220118BHJP
   E04B 1/64 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
E02D27/00 Z
E02D27/12 Z
E04B1/64 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017213895
(22)【出願日】2017-11-06
(65)【公開番号】P2019085752
(43)【公開日】2019-06-06
【審査請求日】2020-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 信博
(72)【発明者】
【氏名】林 賢一
(72)【発明者】
【氏名】上村 隆之
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-248167(JP,A)
【文献】特開平07-150583(JP,A)
【文献】実開昭61-050763(JP,U)
【文献】特開平07-026389(JP,A)
【文献】米国特許第04812212(US,A)
【文献】特開平11-029952(JP,A)
【文献】特開2014-185504(JP,A)
【文献】特開2005-068953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/00
E02D 27/12
E04B 1/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌中に埋設され、かつ内側に複数の杭鉄筋が配設されたコンクリート製の杭と、
前記土壌の表面に設置され、かつ内側に複数のスラブ鉄筋が配設されたコンクリート製の床スラブと、
前記杭と前記床スラブとを連結し、かつ少なくとも一部が前記土壌中に埋設された鋼製の基礎部と、
前記杭鉄筋および前記スラブ鉄筋のうちの少なくとも一方と、前記土壌と、の間に介在された第1絶縁部材と、
前記基礎部と前記土壌との間に介在された第2絶縁部材と、を備え、
前記基礎部は、前記杭の上端部に連結された鋼製の杭頭接合部と、前記杭頭接合部から上方に向けて延びる鋼製の支柱部と、前記支柱部から水平方向に延びるとともに、前記床スラブを支持する鋼製の基礎梁と、を備え、
前記第2絶縁部材は、前記杭頭接合部と前記支柱部との間にも介在されている基礎構造。
【請求項2】
前記第1絶縁部材は、前記杭と前記土壌との間、または前記床スラブと前記土壌との間に介在された請求項1に記載の基礎構造。
【請求項3】
土壌中に埋設され、かつ内側に複数の杭鉄筋が配設されたコンクリート製の杭と、
前記土壌の表面に設置され、かつ内側に複数のスラブ鉄筋が配設されたコンクリート製の床スラブと、
前記杭と前記床スラブとを連結し、かつ少なくとも一部が前記土壌中に埋設された鋼製の基礎部と、
前記杭鉄筋および前記スラブ鉄筋のうちの少なくとも一方と、前記土壌と、の間に介在された第1絶縁部材と、を備え、
前記第1絶縁部材は、前記杭鉄筋と前記土壌との間に介在された杭絶縁部材を備え、
前記杭絶縁部材は、前記杭の外周面における上側に位置する部分に塗装され、
地面から前記杭絶縁部材の下端部までの上下方向の長さは5m以下である基礎構造。
【請求項4】
前記基礎部と前記土壌との間に介在された第2絶縁部材を更に備える請求項3に記載の基礎構造。
【請求項5】
前記土壌中に埋設されて前記基礎部と導通された犠牲鋼材を更に備える請求項1から4のいずれか1項に記載の基礎構造。
【請求項6】
前記基礎部に防食電流を供給する電流供給部を更に備える請求項1から4のいずれか1項に記載の基礎構造。
【請求項7】
前記電流供給部は、前記土壌中に埋設されて前記基礎部と導通された犠牲陽極であり、
前記土壌中の前記犠牲陽極の電位は、前記土壌中の前記基礎部の電位よりも低い請求項6に記載の基礎構造。
【請求項8】
土壌中に埋設され、かつ内側に複数の杭鉄筋が配設されたコンクリート製の杭と、
前記杭に連結され、かつ少なくとも一部が前記土壌中に埋設された鋼製の基礎部と、
前記杭鉄筋と前記土壌との間に介在された第1絶縁部材と、
前記基礎部と前記土壌との間に介在された第2絶縁部材と、を備え、
前記基礎部は、前記杭の上端部に連結された鋼製の杭頭接合部と、前記杭頭接合部から上方に向けて延びる鋼製の支柱部と、を備え、
前記第2絶縁部材は、前記杭頭接合部と前記支柱部との間にも介在されている基礎構造。
【請求項9】
土壌中に埋設され、かつ内側に複数の杭鉄筋が配設されたコンクリート製の杭と、
前記杭に連結され、かつ少なくとも一部が前記土壌中に埋設された鋼製の基礎部と、
前記杭鉄筋と前記土壌との間に介在された第1絶縁部材と、を備え、
前記第1絶縁部材は、前記杭の外周面における上側に位置する部分に塗装され、
地面から前記第1絶縁部材の下端部までの上下方向の長さは5m以下である基礎構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基礎構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば下記特許文献1に示すような基礎構造が知られている。この基礎構造は、土壌中に埋設され、かつ内側に複数の杭鉄筋が配設されたコンクリート製の杭と、土壌の表面に設置され、かつ内側に複数のスラブ鉄筋が配設されたコンクリート製の床スラブと、杭と床スラブとを連結し、かつ少なくとも一部が土壌中に埋設された鋼製の基礎部と、を備えている。基礎部は、防錆防食材料により被覆されている。
この基礎構造では、一般的な土壌でのミクロセル腐食だけではなく、コンクリート土壌マクロセル腐食(以下、「CSマクロセル腐食」という。)が生じる。この基礎構造では、杭鉄筋やスラブ鉄筋と、基礎部と、が導通されていることから、これらの間に電位差が生じ、基礎部がアノードとなって基礎部でアノード反応が生じて杭鉄筋やスラブ鉄筋がカソードとなって杭鉄筋やスラブ鉄筋でカソード反応が生じ、アノードから土壌を通してカソードに腐食電流が流れアノードである基礎部にCSマクロセル腐食が生じる。このとき、基礎部の電位が貴側に移行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-068953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記基礎構造では、基礎部が防錆防食材料により被覆されているものの、この防食層における欠陥の発生は実質的に避けられない。防食層に欠陥部が生じていると、その欠陥部から基礎部のCSマクロセル腐食が進行する。この進行の速度は、防食層が形成されていない場合に比べて速く、欠陥を有する防食層を形成することによりかえってCSマクロセル腐食が局所的に促進されてしまう。
【0005】
本発明は前述した事情に鑑みてなされたものであって、CSマクロセル腐食を抑制することができる基礎構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の一態様に係る基礎構造は、土壌中に埋設され、かつ内側に複数の杭鉄筋が配設されたコンクリート製の杭と、前記土壌の表面に設置され、かつ内側に複数のスラブ鉄筋が配設されたコンクリート製の床スラブと、前記杭と前記床スラブとを連結し、かつ少なくとも一部が前記土壌中に埋設された鋼製の基礎部と、前記杭鉄筋およびスラブ鉄筋のうちの少なくとも一方と、前記土壌と、の間に介在された第1絶縁部材と、を備える。
【0007】
この発明によれば、第1絶縁部材が、杭鉄筋およびスラブ鉄筋のうちの少なくとも一方と、土壌と、の間に介在されている。このため、杭鉄筋やスラブ鉄筋においてカソード反応が発生することを抑制し、基礎部から土壌を介して杭鉄筋やスラブ鉄筋に電流が流れ込むのを抑制すること等ができる。これにより、基礎部におけるCSマクロセル腐食を抑制することができる。
【0008】
(2)本発明の一態様に係る基礎構造は、上記(1)に係る基礎構造であって、前記土壌中に埋設されて前記基礎部と導通された犠牲鋼材を更に備える。
【0009】
この場合、犠牲鋼材が基礎部と導通されている。したがって、基礎部だけでなく、犠牲鋼材も腐食電流のアノードとして機能させることができる。これにより、アノード反応が起こる面積を増加させてアノードにおける腐食電流密度を小さくすることができる。その結果、基礎部におけるCSマクロセル腐食を効果的に抑制することができる。
【0010】
(3)本発明の一態様に係る基礎構造は、上記(1)に係る基礎構造であって、前記基礎部に防食電流を供給する電流供給部を更に備える。
【0011】
この場合、電流供給部が基礎部に防食電流を供給する。したがって、貴側に移行していた土壌中の基礎部の電位を、防食電流によって、例えばCSマクロセル腐食が発生しない場合の基礎部の自然電位まで卑化させること等ができる。このように、基礎部のCSマクロセル腐食を電気防食法によって抑制することができる。
【0012】
(4)本発明の一態様に係る基礎構造は、上記(3)に係る基礎構造であって、前記電流供給部は、前記土壌中に埋設されて前記基礎部と導通された犠牲陽極(流動陽極)であり、前記土壌中の前記犠牲陽極の電位は、前記土壌中の前記基礎部の電位よりも低い。
【0013】
この場合、犠牲陽極が基礎部と導通されていて、かつ、土壌中の犠牲陽極の電位が土壌中の基礎部の電位よりも低い。したがって、犠牲陽極がアノードとなって犠牲陽極でアノード反応が生じ、コンクリート中の杭鉄筋やスラブ鉄筋だけでなく、土壌中の基礎部がカソードとなって杭鉄筋やスラブ鉄筋、基礎部でカソード反応が生じる。このとき、アノードである犠牲陽極から土壌を通してカソードである杭鉄筋やスラブ鉄筋、基礎部に防食電流が流れる。
ところで、コンクリート中に配設された杭鉄筋やスラブ鉄筋には防食電流を供給する必要が無いものの、杭鉄筋やスラブ鉄筋に何も施さない場合には、前述のように防食電流が供給されるため、莫大な数量の犠牲陽極が必要となる。
これに対して、この基礎構造では、第1絶縁部材が、杭鉄筋およびスラブ鉄筋のうちの少なくとも一方と、土壌と、の間に介在されている。その結果、前述したように、杭鉄筋やスラブ鉄筋においてカソード反応の発生が抑制され、土壌から杭鉄筋やスラブ鉄筋に電流が流れ込むことが抑制されている。したがって、防食電流が杭鉄筋やスラブ鉄筋に供給されることを抑制し、基礎部における防食電流密度を高めることができる。これにより、例えば、第1絶縁部材が無い基礎構造に比べて、少量の犠牲陽極であっても十分な防食電流を基礎部に供給することができる。
【0014】
(5)本発明の一態様に係る基礎構造は、上記(1)、(3)、(4)に係る基礎構造であって、前記基礎部と前記土壌との間に介在された第2絶縁部材を更に備える。
【0015】
この場合、第2絶縁部材が、基礎部と土壌との間に介在されている。したがって、前記第1絶縁部材により、基礎部のCSマクロセル腐食が抑制され、且つ、第2絶縁部材によって、基礎部の一般的な土壌でのミクロセル腐食をも抑制することができる。
第1絶縁部材に第2絶縁部材を加えただけの場合は、基礎部の一般的な土壌でのミクロセル腐食の発生箇所を第2絶縁部材の欠陥部のみに特定することができる。
一方、第1絶縁部材および第2絶縁部材の他に、上記(3)や(4)に係る基礎構造のように防食電流を供給すれば、第2絶縁部材の欠陥部で生じていた一般的な土壌でのミクロセル腐食も抑止することができる。
【0016】
(6)本発明の一態様に係る基礎構造は、上記(1)から(5)に係る基礎構造であって、前記第1絶縁部材は、前記杭と前記土壌との間、または前記床スラブと前記土壌との間に介在されている。
【0017】
この場合、杭又は床スラブと土壌との間に第1絶縁部材を介在させることにより、杭鉄筋又はスラブ鉄筋を土壌と絶縁することが可能になる。このため、例えば複数の杭鉄筋又は複数のスラブ鉄筋それぞれの外表面を第1絶縁部材により個別に被覆する構成と比較して、杭鉄筋又はスラブ鉄筋を絶縁する作業を容易に行うことができる。
【0018】
(7)本発明の一態様に係る基礎構造は、土壌中に埋設され、かつ内側に複数の杭鉄筋が配設されたコンクリート製の杭と、前記杭に連結され、かつ少なくとも一部が前記土壌中に埋設された鋼製の基礎部と、前記杭鉄筋と前記土壌との間に介在された第1絶縁部材と、を備える。
(8)本発明の一態様に係る基礎構造は、土壌の表面に設置され、かつ内側に複数のスラブ鉄筋が配設されたコンクリート製の床スラブと、前記床スラブに連結され、かつ少なくとも一部が前記土壌中に埋設された鋼製の基礎部と、前記スラブ鉄筋と前記土壌との間に介在された第1絶縁部材と、を備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、CSマクロセル腐食を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1実施形態に係る基礎構造の断面模式図である。
図2】本発明の第2実施形態に係る基礎構造の断面模式図である。
図3】本発明の第3実施形態に係る基礎構造の断面模式図である。
図4】本発明の第4実施形態に係る基礎構造の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1実施形態)
以下、図1を参照し、本発明の第1実施形態に係る基礎構造1について説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る基礎構造1は、土壌D中に埋設され、かつ内側に複数の杭鉄筋11が配設されたコンクリート製の杭10と、地面Gに設置され、かつ内側に複数のスラブ鉄筋21が配設されたコンクリート製の床スラブ20と、杭10と床スラブ20とを連結し、かつ少なくとも一部が土壌D中に埋設された鋼製の基礎部30と、を備えている。なお本実施形態では、基礎構造1は、基礎部30に防食電流を供給する電流供給部を備えていない。言い換えると、基礎構造1では、電気防食法を採用していない。
以下の説明において、杭10が延びる方向を上下方向Xといい、上下方向Xと直交する方向を水平方向という。
【0022】
杭10は筒状をなしている。杭10の周壁の内側に、複数の杭鉄筋11が配設されている。杭鉄筋11は周方向に間隔をあけて複数形成されている。
床スラブ20は、表裏面が上下方向Xを向く板状に形成され、上面視で矩形状を呈している。床スラブ20の内側には、スラブ鉄筋21が水平方向に間隔をあけて複数配設されている。
【0023】
基礎部30は、杭10の上端部に連結された鋼製の杭頭接合部31と、杭頭接合部31から上方に向けて延びる鋼製の支柱部32と、支柱部32から水平方向に延びるとともに、床スラブ20を支持する鋼製の基礎梁33と、を備えている。
杭頭接合部31は有頂筒状をなしている。杭頭接合部31の頂部には、支柱部32が立設されている。
杭頭接合部31は、杭鉄筋11と当接している。これにより、杭頭接合部31および杭鉄筋11は互いに導通されている。杭鉄筋11の上端部が、杭頭接合部31の下端開口縁と当接している。
【0024】
支柱部32は地面Gの上方に向けて延びている。支柱部32は、床スラブ20の上面視における4隅をなす各角部に配置されている。図示の例では、支柱部32として、上面視でH字状を呈するH鋼が採用されているが、他に角形鋼管なども採用される。
基礎梁33は支柱部32に複数接続されている。基礎梁33は、床スラブ20の上面視における周縁部に配置され矩形状をなし、床スラブ20を下方から支持している。
【0025】
基礎梁33は、延在方向から見た平面視でH字状を呈するH鋼である。基礎梁33のうち、表裏面が前記延在方向と直交する方向を向くウェブ33Aの上下方向Xの両端部には、表裏面が上下方向Xを向くフランジ部33Bが各別に接続されている。
基礎梁33における上側に位置するフランジ部33Bの上面には、上方に向けて突出するスタッドジベル34が配設されている。スタッドジベル34は、フランジ部33Bの上面に、基礎梁33の延在方向に沿って、間隔をあけて複数配設されている。基礎梁33は、スタッドジベル34を介してスラブ鉄筋21と連結されている。これにより、基礎梁33およびスラブ鉄筋21が互いに導通されている。
【0026】
そして、本実施形態では、基礎構造1が、杭鉄筋11およびスラブ鉄筋21のうちの少なくとも一方と、土壌Dと、の間に介在され、土壌Dよりも電気抵抗が大きい第1絶縁部材40を更に備えている。本実施形態では、第1絶縁部材40は、杭鉄筋11およびスラブ鉄筋21の双方と、土壌Dと、の間に各別に介在している。第1絶縁部材40は、スラブ鉄筋21と土壌Dとの間に介在されたスラブ絶縁部材41と、杭鉄筋11と土壌Dとの間に介在された杭絶縁部材42と、を備える。なお、このような態様に限られず、第1絶縁部材40は、杭鉄筋11およびスラブ鉄筋21のうちのいずれか一方と、土壌Dと、の間に介在していてもよい。
第1絶縁部材40は、杭10と土壌Dとの間、又は床スラブ20と土壌Dとの間に介在されている。本実施形態では、スラブ絶縁部材41は、床スラブ20と土壌Dとの間に介在され、杭絶縁部材42は、杭10と土壌Dとの間に介在されている。
【0027】
スラブ絶縁部材41はアスファルトにより形成されている。スラブ絶縁部材41は、地面Gに敷設された割栗石22の上方、かつ床スラブ20の下方に配置されている。スラブ絶縁部材41は、床スラブ20の下面における全域に介在されている。なお、スラブ絶縁部材41は床スラブ20の下面における一部に介在されてもよい。このように、床スラブ20と土壌Dとの間にスラブ絶縁部材41が介在されることで、スラブ鉄筋21と土壌Dとの間に第1絶縁部材40が介在されている。
なお、スラブ絶縁部材41はアスファルトに限られない。例えばポリエチレンシート、絶縁ゴムシートなど絶縁性の高い有機材料であれば、スラブ絶縁部材41に適用することができる。
【0028】
杭絶縁部材42は、杭10の外周面に塗装されている。杭絶縁部材42は、杭10の外周面における上側に位置する部分に塗装されている。このように、杭10の外周面に杭絶縁部材42が塗装されることにより、杭鉄筋11と土壌Dとの間に杭絶縁部材42が介在されている。
なお、杭絶縁部材42は塗装に限られない。例えば、アスファルト、ポリエチレンシート、絶縁ゴムシートなど絶縁性が高い有機材料であれば、杭絶縁部材42に適用することができる。
【0029】
ここで、地面Gから杭絶縁部材42の下端部までの上下方向Xの寸法は、例えば5mに設定されている。土壌D中において、地面Gから5mよりも下方に位置する部分では、後述するカソード反応を起こす際に必要な酸素の含有量(濃度)が極端に少なくなる。そのため、杭10において地面Gから5m以下に位置する部分には、杭絶縁部材42を設けていない。なお、地面Gから杭絶縁部材42の下端部までの上下方向Xの長さは5m以下であってもよいし、5m以上であってもよい。また、杭10の外面を、上下方向Xの全域にわたって杭絶縁部材42により塗装してもよい。
【0030】
前記基礎構造1では、土壌D中に埋設された鋼製の基礎部30の電位(例えば-0.6V)は、コンクリートの内側に配設された鉄筋(杭鉄筋11、スラブ鉄筋21)の電位(例えば-0.3V)よりも低い。そのため、電位の低い基礎部30がアノードとなり、電位の高い鉄筋11、21がカソードとなり、アノード(基礎部30)から土壌Dを通してカソード(鉄筋11、21)に腐食電流が流れ、CSマクロセル腐食が生じようとする。なおこのとき、基礎部30では、下記(3)式に示すアノード反応が起こり、鉄筋11、21では、下記(4)式に示すカソード反応が起こる。
【0031】
Fe→Fe2++2e・・・(3)
1/2O+HO+2e→2OH・・・(4)
【0032】
以上説明したように、本実施形態に係る基礎構造1によれば、第1絶縁部材40が、杭鉄筋11およびスラブ鉄筋21のうちの少なくとも一方と、土壌Dと、の間に介在されている。このため、コンクリート内に配設された杭鉄筋11およびスラブ鉄筋21(カソード)のうち、例えば、土壌D中の酸素濃度が高い領域に位置する部分などにおいて、上記(4)式で示すカソード反応が発生することを抑制し、土壌Dから杭鉄筋11やスラブ鉄筋21に電流が流れ込むのを抑制することができる。これにより、腐食電流の総量を抑えてアノード(基礎部30)における腐食電流密度を小さくすることが可能になり、基礎部30におけるCSマクロセル腐食を抑制することができる。
【0033】
また、杭10又は床スラブ20と土壌Dとの間に第1絶縁部材40を介在させることにより、杭鉄筋11又はスラブ鉄筋21を土壌Dと絶縁することが可能になる。これにより、例えば複数の杭鉄筋11又は複数のスラブ鉄筋21それぞれの外表面を第1絶縁部材40により個別に被覆する構成と比較して、杭鉄筋11又はスラブ鉄筋21を絶縁する作業を容易に行うことができる。
【0034】
(第2実施形態)
次に、図2を用いて本発明の第2実施形態について説明する。
なお、本実施形態においては、第1実施形態における構成要素と同一の部分については同一の符号を付し、その説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。
【0035】
図2に示すように、本実施形態における基礎構造2は、犠牲鋼材50を備えている。犠牲鋼材50は、土壌D中に埋設されている。犠牲鋼材50は、基礎部30と導通している。犠牲鋼材50は、鋼製であり、基礎部30と同一の材料(金属材料)により形成されている。土壌D中に埋設された基礎部30の電位と、土壌D中に埋設された犠牲鋼材50の電位と、は同等である。犠牲鋼材50は、土壌D中のうち、上面視で基礎梁33の近傍箇所に埋設されているが、基礎梁33間の中間位置に埋設されていてもよい。犠牲鋼材50は、導線55により基礎部30の基礎梁33と互いに接続されている。
【0036】
以上説明したように、本実施形態における基礎構造2によれば、犠牲鋼材50が、基礎部30と導通されている。したがって、基礎部30だけでなく、犠牲鋼材50も腐食電流のアノードとして機能させることができる。これにより、アノード反応が起こる面積(以下、「アノード面積」という。)を増加させてアノードにおける腐食電流密度をより小さくすることができる。その結果、基礎部30におけるCSマクロセル腐食を効果的に抑制することができる。
【0037】
ここで、第1絶縁部材40は、カソードとなる杭鉄筋11およびスラブ鉄筋21を被覆し、カソード反応が起こる面積(カソード面積)を小さくすることで、アノード(基礎部30)における腐食電流密度を小さくし、基礎部30におけるCSマクロセル腐食を抑制している。
一方、犠牲鋼材50は、自らがアノードとなり、アノード面積を大きくすることで、アノード(基礎部30)における腐食電流密度を小さくし、基礎部30におけるCSマクロセル腐食を抑制している。
このように本願発明者は、基礎構造1、2が、電気防食法を採用していない場合に、アノード(基礎部30)における腐食電流密度を小さくし、基礎部30におけるCSマクロセル腐食を抑制することができることを見出した。
【0038】
(第3実施形態)
次に、図3を用いて本発明の第3実施形態について説明する。
なお、本実施形態においては、第2実施形態における構成要素と同一の部分については同一の符号を付し、その説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。
【0039】
図3に示すように、本実施形態に係る基礎構造3は、土壌Dよりも電気抵抗が大きい第2絶縁部材43を備えている。第2絶縁部材43は、基礎部30と土壌Dとの間に介在されている。第2絶縁部材43は、例えば、重防食被覆層により形成されている。重防食被覆層は、例えば、厚膜のポリエチレンやウレタン等により形成される。第2絶縁部材43は、基礎部30における杭頭接合部31、支柱部32、および基礎梁33の外面のうち、土壌D中に位置する部分の全体に塗装されている。
【0040】
以上説明したように、本実施形態における基礎構造3によれば、第2絶縁部材43が、基礎部30と土壌Dとの間に介在されている。したがって、前記第1絶縁部材40により、基礎部30のCSマクロセル腐食が抑制され、且つ、第2絶縁部材43によって、基礎部30の一般的な土壌Dでのミクロセル腐食をも抑制することができる。
なお第2絶縁部材43が、塗装や有機被覆であることにより、腐食の進行が遅くなるが、第2絶縁部材43は、塗装や有機被覆でなくてもよく、例えば、杭絶縁部材42と同一の材料で形成されていてもよい。第2絶縁部材43は、杭頭接合部31、支柱部32、および基礎梁33の外面の一部にのみ適用されてもよい。
【0041】
(第4実施形態)
次に、図4を用いて本発明の第4実施形態について説明する。
なお、本実施形態においては、第3実施形態における構成要素と同一の部分については同一の符号を付し、その説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。
【0042】
図4に示すように、本実施形態に係る基礎構造4は、犠牲鋼材50に代えて、電流供給部51を備えている。電流供給部51は、基礎部30に防食電流を供給する。基礎構造4では、電気防食法を採用している。
電流供給部51は、犠牲陽極52である。犠牲陽極52は、土壌D中に埋設されている。犠牲陽極52は、基礎部30と導通されている。土壌D中の犠牲陽極52のうちマグネシウム合金陽極の電位(例えば-1.5V)は、土壌D中の基礎部30の電位(例えば-0.6V)よりも低い。したがって、この電位差に基づいて、犠牲陽極52をアノードとするとともに基礎部30をカソードとし、アノードからカソードへ土壌D中を流れる防食電流を流すことができる。図示の例では、犠牲陽極52は、マグネシウム合金やマグネシウムにより形成されており、犠牲陽極52では、下記(5)式に示すアノード反応が生じる。
Mg→Mg2++2e・・・(5)
なお、犠牲陽極52を形成する材料には、マグネシウム合金やマグネシウムに代えて、例えば、亜鉛合金や亜鉛などを採用することも可能である。
【0043】
以上説明したように、本実施形態における基礎構造4によれば、電流供給部51が基礎部30に防食電流を供給する。したがって、貴側に移行していた土壌D中の基礎部30の電位を、防食電流によって、例えばCSマクロセル腐食が発生しない場合の基礎部30の自然電位まで卑化させること等ができる。このように、基礎部30のCSマクロセル腐食を電気防食法によって抑制することができる。
【0044】
本実施形態では、犠牲陽極52が基礎部30と導通されていて、かつ、土壌D中の犠牲陽極52の電位が土壌D中の基礎部30の電位よりも低い。したがって、犠牲陽極52がアノードとなって犠牲陽極52でアノード反応が生じ、コンクリート中の杭鉄筋11やスラブ鉄筋21だけでなく、土壌D中の基礎部30がカソードとなって杭鉄筋11やスラブ鉄筋21、基礎部30でカソード反応が生じる。このとき、アノードである犠牲陽極52から土壌Dを通してカソードである杭鉄筋11やスラブ鉄筋21、基礎部30に防食電流が流れる。
【0045】
ところで、コンクリート中に配設された杭鉄筋11やスラブ鉄筋21には防食電流を供給する必要が無いものの、杭鉄筋11やスラブ鉄筋21に何も施さない場合には、前述のように防食電流が供給されるため、莫大な数量の犠牲陽極が必要となる。
これに対して、この基礎構造4では、第1絶縁部材40が、杭鉄筋11およびスラブ鉄筋21のうちの少なくとも一方と、土壌Dと、の間に介在されている。その結果、前述したように、杭鉄筋11やスラブ鉄筋21において、上記(4)式で示すカソード反応の発生が抑制され、土壌Dから杭鉄筋11やスラブ鉄筋21に電流が流れ込むことが抑制されている。したがって、防食電流が杭鉄筋11やスラブ鉄筋21に供給されることを抑制し、基礎部30における防食電流密度を高めることができる。これにより、例えば、第1絶縁部材40が無い基礎構造に比べて、少量の犠牲陽極52であっても十分な防食電流を基礎部30に供給することができる。
【0046】
すなわち、本実施形態における電気防食法は、日本水道鋼管協会規格「マクロセル腐食防食指針 WSP045-90」に記載された電気防食法である近接陽極法ではない。前記指針では、本実施形態の基礎部30に相当する構成が水道鋼管であり、この水道鋼管が有機材料により被覆されている。一方、本実施形態の杭鉄筋11やスラブ鉄筋21に相当する構成である鉄筋側には、絶縁部材による処理は適用していない。この状況で、電流供給部から防食電流を供給すると、水道鋼管の被覆欠陥部には防食電流が十分流入せず、鉄筋側に電流がほとんど流れてしまうので、前記指針では、水道鋼管のCSマクロセル腐食の影響範囲に電流供給部(犠牲陽極)を接近させて密に設置し、水道鋼管周辺の大地電位を上昇させることによってCSマクロセル腐食の抑止している(これを近接陽極法という)。
この対策を本実施形態で行うと、基礎部30の外表面の近傍に犠牲陽極52を密に接近させて設置することになり、犠牲陽極52の数は莫大なものとなり、適切な電気防食の適用とならない。本実施形態は、杭鉄筋11やスラブ鉄筋21等の鉄筋側と土壌Dとの絶縁を図り、基礎部30も土壌Dとの絶縁を図ることにより、最小限度の電流供給部51(犠牲陽極52数)でCSマクロセル腐食を抑制することが可能となる。そして、犠牲陽極52の設置位置も基礎部30の近傍でなくてよく、例えば、上面視で床スラブ20の中央部の土壌D中でもよい。
【0047】
なお電流供給部51として、犠牲陽極52に代えて、外部電源を採用してもよい。この場合、土壌D中に不溶性陽極を埋設し、外部電源が、基礎部30と不溶性陽極との間に電圧を印加してもよい。このとき、例えば、外部電源の電源容量や不溶性陽極の本数、設置位置などを、コンピュータ装置を利用したシミュレーションによって設計すること等も可能である。
【0048】
(検証試験)
次に、以上説明した作用効果の解析について説明する。
この検証試験では、構成の違いによる基礎部30に生じる腐食の程度を評価するために、電位・電流分布シミュレーションを行った。
【0049】
実施例1として、第1実施形態に係る基礎構造1を採用し、実施例2として、第2実施形態に係る基礎構造2を採用した。また、実施例3として、第3実施形態に係る基礎構造3を採用し、実施例4として、第4実施形態に係る基礎構造4を採用した。
そして、有限要素法(FEM)ベースの汎用物理シミュレーションソフトウェア(COMSOL Multiphysics(登録商標))を利用して、実施例1~4についての電位・電流分布シミュレーションを実施し、基礎部30の電位(以下、「電位E」という)について算出して評価した。
【0050】
なお解析に際し、シミュレーション条件は適宜設定した。シミュレーション条件には、既知データを利用したり、実測値を利用したりすることができる。
主たるシミュレーション条件としては、例えば、金属電位、分極抵抗、土壌の抵抗率、第1絶縁部材40および第2絶縁部材43の抵抗率や欠陥率などが挙げられる。金属電位としては、土壌D中の鋼材(基礎部30)やマグネシウム合金(犠牲陽極52)の自然電位、コンクリート中の鉄筋(杭鉄筋11、スラブ鉄筋21)の自然電位が挙げられる。土壌D中の鋼材の自然電位は、-0.6Vとした。分極抵抗としては、鋼材や鉄筋、マグネシウム合金の分極抵抗が挙げられる。鉄筋の分極抵抗は、土壌D中の深さ(酸素濃度)に応じて変更した。土壌の抵抗率も、土壌D中の深さに応じて変更した。
【0051】
この解析では、電位Eは低いほど卑化されていて好ましいと言える。評価に際しては、土壌D中に埋設された基礎部30の自然電位である-0.6Vを基準値とし、-0.55V<電位Eの場合を「不可」とし、-0.6V<電位E≦-0.55の場合を「可」とし、電位E≦-0.6Vを「良」とした。結果を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
この解析の結果、実施例1~4に係る基礎構造1~4ではいずれも、基礎部30の電位(電位E)が自然電位と同等程度、または同等以上に卑化されることが確認された。したがって、基礎構造1~4では、基礎部30におけるCSマクロセル腐食が抑制されていると言える。
【0054】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることができる。
例えば、上記各実施形態においては、杭10の外面に杭絶縁部材42を塗装することにより、杭鉄筋11と土壌Dとの間に杭絶縁部材42を介在させている構成を示したが、このような態様に限られない。例えば、複数の杭鉄筋11の外面に、杭絶縁部材42を各別に塗装することにより、杭鉄筋11と土壌Dとの間に杭絶縁部材42を介在させてもよい。
【0055】
また、上記各実施形態においては、床スラブ20と地面Gとの間にスラブ絶縁部材41を配置することにより、スラブ鉄筋21と土壌Dとの間にスラブ絶縁部材41を介在させた構成を示したが、このような態様に限られない。例えば、複数のスラブ鉄筋21の外面に、土壌Dよりも電気抵抗が大きい塗料を各別に塗装することにより、スラブ鉄筋21と土壌Dとの間に第1絶縁部材40を介在させてもよい。
【0056】
また、上記各実施形態においては、基礎部30が、杭頭接合部31、支柱部32、および基礎梁33を備えた構成を示したが、このような態様に限られない。基礎部30が杭鉄筋11およびスラブ鉄筋21に接続されて導通されていれば、基礎部30は他の部材により構成されてもよいし、一体に形成されてもよい。
また、上記各実施形態においては、基礎構造1、2、3、4が杭10および床スラブ20の両方を備えているが、杭10および床スラブ20の一方のみを備えていてもよい。
【0057】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1、2、3、4 基礎構造
10 杭
11 杭鉄筋
20 床スラブ
21 スラブ鉄筋
30 基礎部
31 杭頭接合部
32 支柱部
33 基礎梁
40 第1絶縁部材
43 第2絶縁部材
50 犠牲鋼材
51 電流供給部
52 犠牲陽極
図1
図2
図3
図4