(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-13
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】金属ナトリウムが内面に付着したタンクの洗浄方法
(51)【国際特許分類】
B08B 3/08 20060101AFI20220118BHJP
B08B 9/08 20060101ALI20220118BHJP
C23G 1/24 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
B08B3/08 Z
B08B9/08
C23G1/24
(21)【出願番号】P 2018006166
(22)【出願日】2018-01-18
【審査請求日】2020-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004307
【氏名又は名称】日本曹達株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109508
【氏名又は名称】菊間 忠之
(72)【発明者】
【氏名】木下 友樹
(72)【発明者】
【氏名】荒川 徹
【審査官】新井 浩士
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/186637(WO,A1)
【文献】特開平03-284315(JP,A)
【文献】特開2017-190921(JP,A)
【文献】特開2006-273802(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B08B 3/08
B08B 9/08
C23G 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ナトリウムが内面に付着したタンク(A)の頂部に継手(C)を介してタンク(B)の底部を、タンク(A)、継手(C)およびタンク(B)の内腔が連通するように、接続し、
タンク(A)、継手(C)およびタンク(B)の合計内容積に対し
て5%以上の内容積の空間
がタンク(B)内に確保され
、且つタンク(A)および継手(C)内は満たされるように、タンク(A)、継手(C)およびタンク(B)に不活性油を充填し、
次いでタンク(A)内の不活性油に水を添加
し、タンク(B)内に確保された空間に不活性ガスを直に導入すること
を有する、金属ナトリウムが内面に付着したタンク(A)の洗浄方法。
【請求項2】
水および不活性油のいずれか一方または両方が界面活性剤を含むものである、請求項1に記載の洗浄方法。
【請求項3】
タンク(A)内の不活性油の温度を0℃~98℃に調整することをさらに含む、請求項1または2に記載の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナトリウムが内面に付着したタンクを、安全かつ確実に洗浄する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属ナトリウム分散体(以下、SD薬剤ということがある。)は、金属ナトリウム粒子を不活性油に分散させてなるものである。金属ナトリウム分散体は、PCBの除去などに使用される。SD薬剤を貯槽に保管している間に、槽内天面または槽内側面に金属ナトリウムが堆積して氷柱状などの塊りになることがある。その塊りをそのまま放置していると、貯槽に亀裂が入り、水と金属ナトリウムとの反応で爆発や火災を起こす危険がある。
【0003】
金属ナトリウムが付着した装置または貯槽の洗浄方法として、特許文献1は、金属ナトリウムが付着した貯槽に不活性油を充溢させ、次いで、水、水蒸気または加湿不活性ガスを不活性油に添加し、貯槽に排気ラインを設けて該排気ラインの水素ガス濃度を測定し、水素ガス濃度のレベルに応じて、時間あたりの、水、水蒸気または加湿不活性ガスの添加量を調整し、また不活性油の温度を0℃~98℃に調整し、さらに水、水蒸気または加湿不活性ガスの不活性油への添加に並行して、不活性油の液面レベルを変えながら、金属ナトリウムを苛性ソーダに転化させることを有する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、金属ナトリウムが内面に付着したタンクを、安全かつ確実に洗浄する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために検討した結果、以下の形態を包含する本発明を完成するに至った。
【0007】
〔1〕 金属ナトリウムが内面に付着したタンク(A)の頂部に継手(C)を介してタンク(B)の底部を、タンク(A)、継手(C)およびタンク(B)の内腔が連通するように、接続し、
タンク(A)、継手(C)およびタンク(B)の合計内容積に対して、5%以上の内容積の空間が、タンク(B)内に確保されるように、タンク(A)、継手(C)およびタンク(B)に不活性油を充填し、
次いでタンク(A)内の不活性油に水を添加すること
を有する、金属ナトリウムが内面に付着したタンク(A)の洗浄方法。
【0008】
〔2〕 水および不活性油のいずれか一方または両方が界面活性剤を含むものである、〔1〕に記載の洗浄方法。
〔3〕 タンク(A)内の不活性油の温度を0℃~98℃に調整することをさらに含む、〔1〕または〔2〕に記載の洗浄方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の洗浄方法によれば、金属ナトリウムが内面に付着したタンクを、安全かつ確実に洗浄することができる。本発明の洗浄方法によれば、金属ナトリウムがタンクの内面、特に天井面に、付着していても、金属ナトリウムを安全に且つ確実に取り除くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の洗浄方法を実施するための装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る、金属ナトリウムが内面に付着したタンク(A)の洗浄方法は、金属ナトリウムが内面に付着したタンク(A)の頂部に継手(C)を介してタンク(B)の底部を接続し、タンク(A)、継手(C)およびタンク(B)の合計内容積に対して、5%以上の内容積の空間が、タンク(B)内に確保されるように、タンク(A)、継手(C)およびタンク(B)に不活性油を充填し、次いでタンク(A)内の不活性油に水を添加することを有するものである。
【0012】
金属ナトリウムが内面に付着したタンク(A)としては、例えば、金属ナトリウム分散体が貯められていたタンクを挙げることができる。本発明の洗浄方法においては、先ず、タンク(A)の頂部に継手(C)を介してタンク(B)の底部をタンク(A)、継手(C)およびタンク(B)の内腔が連通するように接続する。タンク(B)の底面は、タンク(A)の頂面よりも高い位置に設けることが好ましい。タンク(A)の頂面とタンク(B)の底面との間の距離は、特に制限されないが、好ましくは0.5~20m、より好ましくは0.5~10mである。タンク(B)および継手(C)は、金属ナトリウムが内面に付着していないものが好ましい。さらに必要に応じてタンク(B)の頂部に管(D)を介してデミスタや水洗塔などを接続することができる。金属ナトリウムを不活化した際に水素ガスが発生するので、その水素ガスを、タンク(A)から、継手(C)、タンク(B)、および管(D)を経て系外に排出することができる。タンク(B)からの排気には不活性油ミストが含まれていることがある。不活性油ミストには金属ナトリウム粒子が含まれていることがあるので、不活性油ミストを水と接触させて、含まれている金属ナトリウムを不活化することが好ましい。また、水素ガスの逆流を防止するための仕組みを管(D)に設けることが好ましい。逆流防止の仕組みとして、例えば、シールポットが挙げられる。安全性向上のために、不活性ガスの導入装置、フレームアレスターなどの各種安全装置を設けることが好ましい。タンク(B)の容量はタンク(A)の容量よりも大きくても小さくても構わないが、設備コストなどの観点からタンク(B)の容量はタンク(A)の容量よりも小さい方が好ましい。
【0013】
継手(C)は、筒部と結合部とからなり、タンク(A)とタンク(B)とをそれらの内腔が連通するように接続できるものであれば、特に制限されない。継手(C)の結合部としては、例えば、フランジ式、ねじこみ式、溶接式などの結合方式のものを挙げることができる。漏れ・強度・作業性などが良好で、分解・組立が容易であるなどの観点からフランジ式継手が好ましい。フランジ式継手は、円筒と円盤とが結合されたものである。フランジ式継手は、円筒と円盤との結合方法の違いによって、差込み溶接式フランジ(スリップオンフランジ)、ソケット溶接式フランジ(ソケットウェルドフランジ)、突合せ溶接式フランジ(ウェルドネックフランジ)、ねじ込み式フランジ、遊合式フランジ(ルーズフランジ、ラップジョイント)などの形式がある。継手(C)の筒部は、直管であってもよいし、蛇腹管、フレキ管などのような曲げることができる管であってもよい。継手(C)の長さは、タンク(A)の頂面とタンク(B)の底面との間の距離に合わせて適宜に選定される。
【0014】
次に、タンク(A)、継手(C)およびタンク(B)に不活性油(inert oil)を充填する。不活性油の充填は、タンク(A)、継手(C)およびタンク(B)の合計内容積に対して、5%以上の内容積の空間が、タンク(B)内に確保されるように行う。タンク(A)および継手(C)内は、不活性油によって、ほぼ完全に満たされることが好ましい。タンク(B)内に確保された空間には不活性ガス(Inert gas)を導入することが好ましい。不活性油の充填はタンク(A)に設けた供給口にて行うことが好ましい。
【0015】
本発明に使用される不活性油は、金属ナトリウムを保管する際に使用されるものであれば特に限定されない。不活性油としては、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、ケロシン、デカリン、トランス油(JIS C 2320-1993に記載のトランス油)、重油(JIS K2205に記載)、流動パラフィン又は洗浄油(フロン、トリクロロエタン、灯油などの代替品として、自動車、電子部品、精密機器の洗浄用に用いられる炭化水素系を主成分とした溶剤)などを挙げることができる。不活性油の温度は、金属ナトリウムから苛性ソーダへの転化反応効率および安全性の観点から、0℃~98℃であることが好ましく、0~60℃であることがより好ましく、0~40℃であることがより更に好ましい。
【0016】
次に、タンク(A)内の不活性油に水(H2O)を添加する。添加する水は、氷、水(液体)、水蒸気、加湿不活性ガス、霧、ミスト、ヒュームなどのいずれかの状態で添加することができる。水(H2O)の添加量は、転化反応効率の観点から、Na1モルに対して、好ましくは3モル以上(不活性油の温度:0~98℃)、さらに好ましくは4モル以上(不活性油の温度:0~40℃)である。水(H2O)の添加量の上限値は、発生する水素ガス濃度が4vol%未満となるように適宜設定される。
【0017】
水の添加は不活性ガス雰囲気下で不活性油を撹拌しながら行うことが好ましい。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガスなどが挙げられる。撹拌は攪拌機で行ってもよいし、水蒸気または加湿不活性ガスの吹き込みによるバブリングで行ってもよい。不活性ガスは、発生する水素ガス濃度が4vol%未満となるように流量を調節しながら、連続的にタンク(A)内に導入することが好ましい。タンク(A)に付着していた金属ナトリウムはH2Oと反応して苛性ソーダに転化し、不活化させることができる。反応の進行状態は、水素ガス濃度を測定することによって把握することができる。例えば、タンク(B)の排気ラインにて水素ガス濃度を測定することができる。急激な水素ガス濃度の上昇は安全性向上の観点から避けることが好ましい。空気中の水素爆発限界濃度は4vol%~75vol%である。そこで、測定された水素ガス濃度に基づいて、時間あたりの水の添加量を調整することが好ましい。具体的には、水素ガス濃度が4vol%未満となるように、排気中の水素ガス濃度をモニターしながら、時間あたりの水の添加量を調整することが好ましい。例えば、時間あたりの水の添加量は、Na1モルに対して、好ましくは10~100ml/時程度、より好ましくは15~90ml/時程度、更に好ましくは35~70ml/時程度の範囲で、水素ガス濃度に基づき適宜設定されることが好ましい。
また、不活性油の温度を好ましくは0℃~98℃、より好ましくは0~60℃、より更に好ましくは0~40℃に調整する。
【0018】
前述の水および不活性油のいずれか一方または両方は、界面活性剤(surfactant)を含むものであることが好ましく、少なくとも水は界面活性剤を含むものであることがより好ましい。界面活性剤は、水と不活性油との親和性を高めることができるものであれば特に限定されない。界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤などを挙げることができる。
【0019】
ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキル(C11-15)エーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンベンジルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンモノスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアリールエーテル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキレングリコール、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックポリマーなどが挙げられる。
【0020】
アニオン性界面活性剤としては、アルキルアリールスルホン酸ナトリウム、アルキルアリールスルホン酸カルシウム、アルキルアリールスルホン酸アンモニウムなどのアルキルアリールスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩、ドデシル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩のホルムアルデヒド重縮合物、リグニンスルホン酸塩、ポリカルボン酸塩などが挙げられる。
【0021】
カチオン性界面活性剤としては、アルキル第4級アンモニウム塩、アルキルアミン塩、アルキルピリジニウム塩などを挙げることができる。
両性界面活性剤としては、アルキルベタイン、アミンオキサイド、アルキルアミノ酸塩などを挙げることができる。
これらの界面活性剤は、1種単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、アニオン性界面活性剤、またはノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0022】
界面活性剤の含有量は水と不活性油との親和性を高めることができる範囲であれば特に限定されない。例えば、界面活性剤は、水の質量に対して、好ましくは0.01~20質量%、より好ましくは1~10質量%、より更に好ましくは5~10質量%を含有させることができる。例えば、界面活性剤は、不活性油の質量に対して、好ましくは0.01~20質量%、より好ましくは1~10質量%を含有させることができる。
【0023】
その後、タンク(A)、継手(C)およびタンク(B)から水および苛性ソーダを含む不活性油を抜き出す。不活性油の抜き出しはタンク(A)に設けた排液管(E)にて行うことができる。
不活性油を抜き出した後、タンク(A) 、継手(C)およびタンク(B)の内面に、必要に応じて、水を吹き付けることができる。水によって微量に残る金属ナトリウムを不活化することができる。また不活化で生じた苛性ソーダを水に溶出させ洗い流すことができる。不純物に由来してスラッジなどが生成することがある。スラッジなどの固形分は水や油などにて洗い流すことができる。
【0024】
そして、タンク(A)の内面に残る水、苛性ソーダおよび油分を拭き取ることができる。拭き取りは、例えば、先ずタンク(A)内の酸素濃度を測定して安全を確認後に、必要に応じて槽内に足場を設置し、人がタンク(A)に入って行う。拭き取りの前または後に、継手(C)を介して接続されていたタンク(B)をタンク(A)から切り離すことができる。
【0025】
以上の洗浄方法によれば、金属ナトリウムがタンク(A)の内面、特に天井面に、付着していても、金属ナトリウムを安全に且つ確実に取り除くことができる。
【符号の説明】
【0026】
A: タンク(A)
B: タンク(B)
C: 継手(C)
D: 管(D)
E: 管(E)
G: 空間(気相)
L: 不活性油(液相)