(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-13
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】橋梁の支承取替工法
(51)【国際特許分類】
E01D 22/00 20060101AFI20220118BHJP
E01D 19/04 20060101ALI20220118BHJP
E01D 2/00 20060101ALI20220118BHJP
E01D 19/02 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
E01D22/00 A
E01D19/04 Z
E01D2/00
E01D19/02
(21)【出願番号】P 2018012232
(22)【出願日】2018-01-29
【審査請求日】2020-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000103769
【氏名又は名称】オリエンタル白石株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【氏名又は名称】安彦 元
(74)【代理人】
【識別番号】100198214
【氏名又は名称】眞榮城 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】正司 明夫
(72)【発明者】
【氏名】角本 周
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 幸治
【審査官】皆藤 彰吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-242127(JP,A)
【文献】特開2009-256873(JP,A)
【文献】特開2017-082404(JP,A)
【文献】特開2002-004475(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 22/00
E01D 19/04
E01D 2/00
E01D 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の主桁を有する橋梁の支承を取り替える橋梁の支承取替工法であって、
前記複数の主桁の荷重を一時的に支える主桁仮受手段を設置する主桁仮受工程と、
既設支承を撤去する既設支承撤去工程と、
橋梁の下部構造の上部を斫り取って切り下げる切下工程と、
前記切下工程で切り下げたスペースに新設支承を設置する新設支承設置工程と、
前記複数の主桁同士を橋軸方向と交わる方向に繋ぐ横桁と前記主桁のいずれか一方又は両方の下部を下方から削孔して、削孔した孔に前記主桁が前記横梁とずれることを防止するずれ止めアンカーを設置するずれ止めアンカー設置工程と、
前記切下工程で切り下げたスペースに橋軸方向と交わる方向を長手方向とする横梁を構築する横梁構築工程と、を備え、
前記横梁構築工程では、前記切下工程で切り下げたスペースに型枠を組み立てて、必要な鉄筋を配筋した上、現場においてコンクリートを打設して前記主桁及び前記横桁との間に所定の隙間を形成して前記横梁を構築すること
を特徴とする橋梁の支承取替工法。
【請求項2】
前記横梁構築工程の後に、前記横梁にプレストレスを導入するプレストレス導入工程を有すること
を特徴とする請求項1に記載の橋梁の支承取替工法。
【請求項3】
前記横梁構築工程では、前記ずれ止めアンカーにアンカーキャップを装着し、当該アンカーキャップ内に遅延タイプの樹脂を注入すること
を特徴とする請求項
2に記載の橋梁の支承取替工法。
【請求項4】
前記横梁構築工程では、前記横梁と前記主桁との間に感圧硬化ゴムを設置すること
を特徴とする請求項1ないし
3のいずれかに記載の橋梁の支承取替工法。
【請求項5】
前記横梁構築工程では、前記横梁に上方へ向け広がるハンチを形成すること
を特徴とする請求項1ないし
3のいずれかに記載の橋梁の支承取替工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁の支承を取り替える橋梁の支承取替工法に関するものであり、詳しくは、横梁を構築して新設支承の数を低減することのできる橋梁の支承取替工法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁では、主桁(橋桁)や主構などの上部構造と、橋台や橋脚などの下部構造と、を直接剛結せずに、両者の間に支承(沓ともいう)を設けることが一般的となっている。支承は、上部構造の温度変化による伸縮の吸収や耐震性の向上を目的として設けられる部材であり、上部構造の変形(回転や伸縮)を吸収し、上部構造の荷重を下部構造に伝達する機能を有している。
【0003】
近年、支承は橋梁の長大化や耐震基準の強化により機構等が複雑化して高価なものとなり、橋梁の総費用に占める支承部分の費用が増加する傾向にある。このため、支承部分の費用が総工費の3割に達する場合も生じている。
【0004】
また、高度成長期に建造された全国の多数の橋梁の支承部分が耐用年数を超過し、機能不全に陥った支承を取り替える必要性が増している。
【0005】
しかし、従来の橋梁の支承取替工法は、仮支柱を構築し、その上に仮支承を設置して主桁の荷重を支えつつ、既設支承を新設支承に取り替えるものであり、支承の数を低減して支承取替費用を低減できるものではなかった。
【0006】
例えば、特許文献1には、支承装置の下の部分の橋脚を水平方向に削孔し、該削孔内に孔内用仮受けジャッキを設置し、この仮受けジャッキを使って橋桁を仮受けした後に、前記削孔内に設置した孔内用仮受けジャッキを撤去し、該削孔穴の上部のコンクリート躯体と旧支承装置を撤去する。そして、撤去したコンクリート躯体部分に、新支承装置を設置し硬化材を充填して該支承装置と橋脚上部とを固定した後、前記仮受けジャッキを撤去する橋桁の支承装置の取替工法が開示されている(特許文献1の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0015]~[0033]、図面の
図1~
図8等参照)。
【0007】
特許文献1に記載の橋桁の支承装置の取替工法では、橋脚上面部のコンクリート躯体と旧支承装置を容易且つ短時間に除去して新支承装置に取替えることが可能となり、従来のような大掛かりな仮受け材を使って長期的に仮受けを行う必要が無く、作業性が大幅に向上し、コストダウンすることができるとされている。しかし、支承の数を低減して支承取替費用を低減するという前記課題を解決することができるものではなかった。
【0008】
また、特許文献2には、既設支承の下沓を撤去する工程と、上部構造1の下面を所要厚さだけ斫り、既設支承の上沓のアンカーバーを一部露出させて該アンカーバーを切断し、切断残部が前記斫り部に突出するように残置して上沓を撤去する工程と、斫り部から鉛直方向上方に複数のコア抜きを行う工程と、斫り部に、残置アンカーバー3aの挿入孔12と新設アンカーバー13とが設けられたソールプレート11を配置して、挿入孔に残置アンカーバーを挿入して溶接するとともに、コア抜き孔10に新設アンカーバーを挿入し硬化材を注入して固定する工程と、上部構造の上面にベースプレート18を設置して、該ベースプレートとソールプレートとの間に支承本体19を設置する工程とを備えてなるコンクリート桁の支承取替方法が開示されている(特許文献2の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0010]~[0016]、図面の
図1~
図3等参照)。
【0009】
特許文献2に記載のコンクリート桁の支承取替方法では、既設支承の下沓のみならず上沓も撤去して新設支承を設置するので、支承の本来の機能を十分に発揮させることができるとされている。しかし、特許文献1の橋桁の支承装置の取替工法と同様に、支承の数を低減して支承取替費用を低減するという前記課題を解決することができるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2008-157006号公報
【文献】特開2009-287183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、前述した問題に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、新たに設置する新設支承の数を低減することのできる橋梁の支承取替工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る橋梁の支承取替工法は、複数の主桁を有する橋梁の支承を取り替える橋梁の支承取替工法であって、前記複数の主桁の荷重を一時的に支える主桁仮受手段を設置する主桁仮受工程と、既設支承を撤去する既設支承撤去工程と、橋梁の下部構造の上部を斫り取って切り下げる切下工程と、前記切下工程で切り下げたスペースに新設支承を設置する新設支承設置工程と、前記複数の主桁同士を橋軸方向と交わる方向に繋ぐ横桁と前記主桁のいずれか一方又は両方の下部を下方から削孔して、削孔した孔に前記主桁が前記横梁とずれることを防止するずれ止めアンカーを設置するずれ止めアンカー設置工程と、前記切下工程で切り下げたスペースに橋軸方向と交わる方向を長手方向とする横梁を構築する横梁構築工程と、を備え、前記横梁構築工程では、前記切下工程で切り下げたスペースに型枠を組み立てて、必要な鉄筋を配筋した上、現場においてコンクリートを打設して前記主桁及び前記横桁との間に所定の隙間を形成して前記横梁を構築することを特徴とする。
【0014】
請求項2に係る橋梁の支承取替工法は、請求項1に係る橋梁の支承取替工法において、前記横梁構築工程の後に、前記横梁にプレストレスを導入するプレストレス導入工程を有することを特徴とする。
【0015】
請求項3に係る橋梁の支承取替工法は、請求項2に係る橋梁の支承取替工法において、前記横梁構築工程では、前記ずれ止めアンカーにアンカーキャップを装着し、当該アンカーキャップ内に遅延タイプの樹脂を注入することを特徴とする。
【0016】
請求項4に係る橋梁の支承取替工法は、請求項1ないし3のいずれかに係る橋梁の支承取替工法において、前記横梁構築工程では、前記横梁と前記主桁との間に感圧硬化ゴムを設置することを特徴とする。
【0017】
請求項5に係る橋梁の支承取替工法は、請求項1ないし3のいずれかに係る橋梁の支承取替工法において、前記横梁構築工程では、前記横梁に上方へ向け広がるハンチを形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1~5に係る発明によれば、横梁構築工程を備えるので、新たに設置する新設支承の数を低減することができる。このため、支承取替工事において大きなウェイトを占めていた新設支承の設置コストを大幅に低減することができ、支承取替工事の工事費全体のコストダウンを達成することができる。
また、請求項1~5に係る発明によれば、ずれ止めアンカー設置工程を有するので、主桁と横梁をより強固に一体化することができ、主桁が横梁とずれることを確実に防止することができる。
【0020】
特に、請求項2に係る発明によれば、プレストレス導入工程を有するので、所定の強度を有した横梁の断面寸法を小さいものとすることができる。このため、切下工程で斫り取る下部構造の切下部分を低く小さくして下部構造の損傷を極力抑えることができるとともに、切下工程の作業時間の短縮と横梁構築の材料費を低減してコストダウンを達成することができる。
【0021】
特に、請求項3に係る発明によれば、遅延タイプの樹脂によりプレストレス導入後にずれ止めアンカーの周りの樹脂を硬化させるので、後から、横梁にプレストレスを導入しても、ずれ止めアンカーを介して主桁に有害な曲げ応力等が伝達されることがない。
【0022】
特に、請求項4に係る発明によれば、感圧硬化ゴムにより不陸調整をすることができ、横梁と主桁との接合部分の一部に応力が集中することを防止することができる。このため、橋梁の耐久性を向上させることができる。
【0023】
特に、請求項5に係る発明によれば、ハンチにより応力の流れが良くなり、横梁と主桁との接合部分に応力が集中して損傷することを低減することができる。このため、橋梁の耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施形態に係る橋梁の支承取替工法を適用する橋梁の構成を模式的に示す構成説明図であり、(a)が橋軸直角方向に見た鉛直断面図であり、(b)が橋軸方向に見た鉛直断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る橋梁の支承取替工法の主桁仮受工程を示す工程説明図であり、(a)が橋軸直角方向に見た鉛直断面図であり、(b)が橋軸方向に見た鉛直断面図である。
【
図3】同上の橋梁の支承取替工法の既設支承撤去工程及び切下工程を示す工程説明図であり、(a)が橋軸直角方向に見た鉛直断面図であり、(b)が橋軸方向に見た鉛直断面図である。
【
図4】同上の橋梁の支承取替工法の新設支承設置工程及びずれ止めアンカー設置工程を示す工程説明図であり、(a)が橋軸直角方向に見た鉛直断面図であり、(b)が橋軸方向に見た鉛直断面図である。
【
図5】同上の橋梁の支承取替工法の横梁構築工程を示す工程説明図であり、(a)が橋軸直角方向に見た鉛直断面図であり、(b)が橋軸方向に見た鉛直断面図である。
【
図6】同上の橋梁の支承取替工法のプレストレス導入工程を示す工程説明図であり、(a)が橋軸直角方向に見た鉛直断面図であり、(b)が橋軸方向に見た鉛直断面図である。
【
図7】同上の橋梁の支承取替工法の仮受撤去工程を示す工程説明図であり、(a)が橋軸直角方向に見た鉛直断面図であり、(b)が橋軸方向に見た鉛直断面図である。
【
図8】同上の橋梁の支承取替工法の横梁構築工程で構築する横梁の変形例を示す橋軸直角方向に見た鉛直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る橋梁の支承取替工法の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0026】
<橋梁>
先ず、
図1を用いて、本発明の実施形態に係る橋梁の支承取替工法を適用する橋梁1について簡単に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る橋梁の支承取替工法を適用する橋梁1の構成を模式的に示す構成説明図である。
図1(a)が橋軸直角方向に見た鉛直断面図であり、
図1(b)が橋軸方向に見た鉛直断面図である。
【0027】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る橋梁の支承取替工法を適用する橋梁1は、下部構造として例示する橋台2の上に、上部構造であるT字状のT桁からなる複数の主桁3が一定間隔をおいて並設された鉄筋コンクリート製のT桁橋である。勿論、本発明が適用される橋梁の主桁は、T桁に限られず、鋼桁の橋にも本発明を適用することができる。
【0028】
この橋梁1は、下部構造である橋台2と上部構造である主桁3との間に主桁3毎に複数の既設支承4が介装されている。また、これらの複数の主桁3(図示形態では11本)は、橋軸直角方向Yに沿って横桁5で連結されて一体化されている。なお、Xは、主桁3の軸方向である橋軸方向Xであり、Zは、上下方向Zを指している。
【0029】
ここで、横桁5で橋軸直角方向Yに沿って主桁3同士が連結されたものを例示したが、橋梁のコーナー部分など必ずしも横桁5が橋軸方向Xに直交する橋軸直角方向Yに沿っているものに限られない。要するに、横桁5は、橋軸方向Xと交わる方向に沿っていて、主桁3同士を連結して一体化しているものであればよい。
【0030】
その上、この橋梁1は、複数の主桁3の上には、上部構造として鉄筋コンクリート製の床版6が載置され、橋の縁に沿って鉄筋コンクリート製の壁高欄7も設置されている。
【0031】
<橋梁の支承取替工法>
次に、
図2~
図7を用いて、本発明の実施形態に係る橋梁の支承取替工法について説明する。
【0032】
(主桁仮受工程)
図2は、本発明の実施形態に係る橋梁の支承取替工法の主桁仮受工程を示す工程説明図である。
図2(a)が橋軸直角方向に見た鉛直断面図であり、
図2(b)が橋軸方向に見た鉛直断面図である。
【0033】
先ず、
図2に示すように、本実施形態に係る橋梁の支承取替工法では、複数の主桁3の荷重を一時的に支える主桁仮受手段Kを設置する主桁仮受工程を行う。
【0034】
具体的には、H形鋼などの仮設の鋼材を組み立てて仮支柱であるベントB1を設置し、そのベントB1の上に仮支承K1を設置する。このベントB1と仮支承K1を合せたものが主桁仮受手段Kである。この主桁仮受手段Kは、支承取替工事中において上部構造である主桁3の変形(回転や伸縮)を吸収しつつ、複数の主桁3の荷重を一時的に支えて、既設支承4等を撤去可能とする仮設の支承装置である。
【0035】
(既設支承撤去工程及び切下工程)
図3は、本実施形態に係る橋梁の支承取替工法の既設支承撤去工程及び切下工程を示す工程説明図である。
図3(a)が橋軸直角方向に見た鉛直断面図であり、
図3(b)が橋軸方向に見た鉛直断面図である。
【0036】
次に、
図3に示すように、本実施形態に係る橋梁の支承取替工法では、橋台2と主桁3との間に主桁3毎に設置された複数の既設支承4を撤去する既設支承撤去工程を行う。このとき、主桁3にアンカー等で一体化された既設支承4の上沓も、主桁3の底面を斫り取って撤去する。
【0037】
また、この既設支承撤去工程と同時並行して、斫り機等を用いて下部構造である橋台2の上部の一部となる切下部分2aを斫り取って上面の一部を所定の高さに切り下げる切下工程を行う。ここで、所定の高さとは、後述の新設支承8と横梁9を設置できるスペースを確保することができる高さを指している。
【0038】
(新設支承設置工程及びずれ止めアンカー設置工程)
図4は、本実施形態に係る橋梁の支承取替工法の新設支承設置工程及びずれ止めアンカー設置工程を示す工程説明図である。
図4(a)が橋軸直角方向に見た鉛直断面図であり、
図4(b)が橋軸方向に見た鉛直断面図である。
【0039】
次に、
図4に示すように、本実施形態に係る橋梁の支承取替工法では、前工程で切り下げた橋台2の上方のスペースに新設支承8を設置する新設支承設置工程を行う。
【0040】
具体的には、新設支承8の下沓を、橋台2の斫り出した鋼材や新たに削孔して設置したアンカー等に固定し、切り下げた橋台2の上面の上に新設支承8を必要数(図示形態では4個)設置する。
【0041】
そして、この新設支承設置工程と同時並行して、主桁3が後述の横梁9とずれることを防止するずれ止めアンカーを設置するずれ止めアンカー設置工程を行う。
【0042】
具体的には、後述の横梁9の上方に位置する横桁5及び主桁3の下部を削孔して、当該削孔した孔に鋼棒などからなる鋼材を挿入し、その周囲を樹脂で固めた樹脂アンカーからなるずれ止めアンカーA1を設置する。勿論、設置するずれ止めアンカーA1は、樹脂アンカーに限られず、コンクリート構造物である主桁3や横桁5に強固に固定できるあと施工アンカーであればよい。
【0043】
図示形態では、ずれ止めアンカーA1は、橋軸方向に沿って前後2列、各主桁3に2本、各横桁5に4本ずつの計62本設置する。勿論、ずれ止めアンカーA1の本数やアンカー径等は、後述の横梁9の断面寸法を含め構造計算等により必要本数及び必要径を算出して設置するものである。
【0044】
なお、新設支承設置工程とずれ止めアンカー設置工程とは、同時並行して行ってもよいし、新設支承設置工程とずれ止めアンカー設置工程の両工程を前後していずれを先に行ってもよい。
【0045】
(横梁構築工程)
図5は、本実施形態に係る橋梁の支承取替工法の横梁構築工程を示す工程説明図である。
図5(a)が橋軸直角方向に見た鉛直断面図であり、
図5(b)が橋軸方向に見た鉛直断面図である。
【0046】
次に、
図5に示すように、本実施形態に係る橋梁の支承取替工法では、前切下工程で切り下げた橋台2の上面の上方のスペースに横梁9を構築する横梁構築工程を行う。
【0047】
この横梁9は、橋軸直角方向Yを長手方向とする鉛直断面矩形の鉄筋コンクリート製の横架材であり、主桁3から伝達される荷重を下から支えて新設支承8に応力を伝達する機能を有している。この横梁9を設けることにより、従来、主桁3毎に必要だった新設支承8の数を大幅に低減することが可能となる。
【0048】
図示形態では、既設支承4が主桁3の数と同数の11個なのに対して、新設支承8の数は、4個と大幅に必要個数が低減されている。このため、耐震基準の強化等により新設支承8に要求される機能が高くなり又は支承が大型化して単価がアップした場合でも、個数の低減により支承取替工事全体の必要コストを削減することが可能となる。
【0049】
本横梁構築工程では、型枠を組み立てて、必要な鉄筋を配筋した上、現場においてコンクリートを打設して横梁9を構築する。このとき、主桁3や横桁5との間には、20mm程度の隙間を形成し、形成した隙間にはモルタルなどの無機系材料を充填する。また、この隙間には、圧力を加えると硬化する性質を持つ感圧硬化ゴム(図示せず)を設置することが好ましい。横梁9と主桁3との不陸を吸収して接触圧を均一化するためである。
【0050】
なお、感圧硬化ゴムの設置は、感圧硬化ゴムが高価であることを勘案して、横梁9と主桁3や横桁5との前記隙間の大部分に無機系材料を充填し、横梁9と主桁3等との接触圧の負担が大きい前面側(橋台2から遠い横梁9の長手方向の側面側)のみを感圧硬化ゴムとしても良い。少なくとも、応力の高い部分の接触圧を均一化することができるからである。
【0051】
また、本工程では、後工程でプレストレスを掛けるPC鋼材を挿通するためのシース管も設置しておく。
【0052】
その上、横梁9に内包されるずれ止めアンカーA1の下部には、アンカーキャップ(図示せず)を装着し、このアンカーキャップ内にプレストレス導入後に硬化する遅延タイプの樹脂(硬化時間を遅延する硬化遅延剤を混入した樹脂)を注入しておく。後工程であるプレストレス導入工程で横梁9の長手方向にプレストレスをかけた場合にも、主桁3に有害な曲げ応力が伝達されないようにするためである。
【0053】
以上、現場打ちで横梁9を構築する工程を例示したが、工場等で予め打設した複数個のPCa(プレキャスト)製の横梁を現場で接合して後述のプレストレス導入工程で一体化させたPCa製のPC(プレストレスコンクリート)部材とすることも可能である。
【0054】
また、本横梁構築工程では、横梁9を鉛直断面が矩形のものを例示したが、
図8に示すように、橋台2から離れた方の側に上方に行くに従って広がる、即ち、主桁3に近づくに従って広がるハンチ9aが形成された横梁9’としてもよい。主桁3と横梁9’間の応力の流れが良好となるからである。
図8は、前述の横梁構築工程で構築する横梁の変形例を示す橋軸直角方向に見た鉛直断面図である。
【0055】
(プレストレス導入工程)
図6は、本実施形態に係る橋梁の支承取替工法のプレストレス導入工程を示す工程説明図である。
図6(a)が橋軸直角方向に見た鉛直断面図であり、
図6(b)が橋軸方向に見た鉛直断面図である。
【0056】
次に、
図6に示すように、本実施形態に係る橋梁の支承取替工法では、前横梁構築工程で構築した横梁9にプレストレスを導入するプレストレス導入工程を行う。
【0057】
具体的には、前工程で構築した横梁9の長手方向に沿ったシース管にPC鋼材を挿通し、横梁9のコンクリートに所定の強度が発現した後、ジャッキ等を用いてPC鋼材を緊張して、PC鋼材の端部を定着具で止め付けてプレストレスを導入する。
【0058】
また、プレストレスを導入した後、前述の横梁構築工程で形成した隙間に無収縮モルタルを充填する。プレストレス導入時に主桁3へ不要な応力が伝達されないようにするとともに、横梁9の上面の不陸を調整し、横梁9と主桁3等とが断面欠損のない同一面で当接するようにして、応力の集中を防ぎ、応力の伝達を良好とするためである。
【0059】
このように、横梁9にプレストレスを導入することにより、横梁9にかかる応力に対抗できる断面寸法を小さくすることができる。このため、前切下工程で斫り取る下部構造の切下部分を低く小さくして下部構造の損傷を極力抑えることができる。それに加え、切下工程の作業時間を短縮するとともに、横梁9の構築の材料費を低減してコストダウンを達成することができる。
【0060】
(仮受撤去工程)
図7は、本実施形態に係る橋梁の支承取替工法の仮受撤去工程を示す工程説明図である。
図7(a)が橋軸直角方向に見た鉛直断面図であり、
図7(b)が橋軸方向に見た鉛直断面図である。
【0061】
次に、
図7に示すように、本実施形態に係る橋梁の支承取替工法では、前主桁仮受工程で設置した主桁仮受手段Kを撤去する仮受撤去工程を行う。本工程は、横梁構築工程で形成した隙間に充填した無収縮モルタルの強度が発現した後に、ベントB1及び仮支承K1の撤去を行う。強度発現前に撤去すると不陸調整が無意味になるからである。
【0062】
以上により、本実施形態に係る橋梁の支承取替工法が完了する。
【0063】
以上説明した本実施形態に係る橋梁の支承取替工法によれば、横梁構築工程で横梁9を構築するので、新たに設置する新設支承8の数を低減することができる。このため、支承取替工事において大きなウェイトを占めていた新設支承8の設置コストを大幅に低減することができ、支承取替工事の工事費全体のコストダウン(概算で3割減)を達成することができる。また、支承の数が少なくなることにより、損傷しているか否かを定期的に確認しなければならない点検箇所も低減することとなり、維持管理上もメリットがある。
【0064】
また、本実施形態に係る橋梁の支承取替工法によれば、前記作用効果に加え、ずれ止めアンカー設置工程においてずれ止めアンカーA1を設置するので、主桁3と横梁9をより強固に一体化することができる。よって、主桁3が横梁9と横方向(水平方向)にずれることを確実に防止することができる。
【0065】
その上、本実施形態に係る橋梁の支承取替工法によれば、プレストレス導入工程を有するので、所定の強度を有した横梁9の断面寸法を小さいものとすることができる。このため、切下工程で斫り取る下部構造(橋台2)の切下部分2aを低く小さくして下部構造の損傷を極力抑えることができる。それに加え、斫り取る切下部分2aを小さくすることにより切下工程の作業時間の短縮を達成することができるともに、横梁9の断面寸法を小さくすることにより横梁9の材料費を低減してコストダウンを達成することができる。
【0066】
それに加え、本実施形態に係る橋梁の支承取替工法によれば、アンカーキャップを装着し、このアンカーキャップ内にプレストレス導入後に硬化する遅延タイプの樹脂を注入する。このため、後工程のプレストレス導入工程で横梁9にプレストレスを導入しても、ずれ止めアンカーA1を介して主桁3に有害な曲げ応力等が伝達されることがない。
【0067】
以上、本発明の実施形態に係る橋梁の支承取替工法について詳細に説明したが、前述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎない。よって、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。特に、主桁3がコンクリート桁であるものを例示したが、鋼桁など他の形式の桁にも適用することができる。
【符号の説明】
【0068】
1:橋梁
2:橋台(下部構造)
2a:切下部分
3:主桁(上部構造)
4:既設支承
5:横桁(上部構造)
6:床版(上部構造)
7:壁高欄(上部構造)
8:新設支承
9,9’:横梁
9a:ハンチ
A1:ずれ止めアンカー
K:主桁仮受手段
B1:ベント(仮支柱)
K1:仮支承
X:橋軸方向
Y:橋軸直角方向(橋軸方向と交わる方向)
Z:上下方向