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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-13
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】プローブ針
(51)【国際特許分類】
   G01R 1/067 20060101AFI20220118BHJP
   H01L 21/66 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
G01R1/067 H
H01L21/66 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018038051
(22)【出願日】2018-03-02
(65)【公開番号】P2019152542
(43)【公開日】2019-09-12
【審査請求日】2021-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003414
【氏名又は名称】東京特殊電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117226
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 俊一
(72)【発明者】
【氏名】深澤 雅章
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 貴志
(72)【発明者】
【氏名】岡田 洋一
(72)【発明者】
【氏名】小澤 卓弥
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-091494(JP,A)
【文献】特開2007-017219(JP,A)
【文献】特開2003-215160(JP,A)
【文献】特開2005-100968(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0122470(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 1/06-1/073
H01L 21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピン形状の金属導体の外周に絶縁層を有する胴体部と、前記金属導体の両端に該絶縁層を有しない端部とを有するプローブ針において、前記絶縁層が、イオン液体型帯電防止剤を含有する、ことを特徴とするプローブ針。
【請求項2】
前記絶縁層に含まれる前記イオン液体型帯電防止剤が、前記絶縁層を構成する全固形分に対して3~10質量%の範囲内で含まれている、請求項1に記載のプローブ針。
【請求項3】
前記絶縁層が、内側の第1絶縁層と外側の第2絶縁層とで構成され、前記第2絶縁層に含まれる前記イオン液体型帯電防止剤が、前記第2絶縁層を構成する全固形分に対して3~10質量%の範囲内で含まれている、請求項1に記載のプローブ針。
【請求項4】
前記第2絶縁層の厚さが、0.5~2.5μmの範囲内である、請求項3に記載のプローブ針。
【請求項5】
前記絶縁層が、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルイミド樹脂及びポリアミドイミド樹脂から選ばれる1又は2以上の樹脂を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のプローブ針。
【請求項6】
前記金属導体の外径が、8~110μmの範囲内である、請求項1~5のいずれか1項のプローブ針。
【請求項7】
前記絶縁層の厚さが、2~15μmの範囲内である、請求項1~6のいずれか1項のプローブ針。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電気の発生を抑制したプローブ針に関し、さらに詳しくは、主に電子部品及び基板等の導通検査に用いる検査用のプローブユニットに使用され、その組み付け時や使用時に発生しやすい静電気を抑制したプローブ針に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話等に使用される高密度実装基板、又は、パソコン等に組み込まれるBGA(Ball Grid Array)やCSP(Chip Size Package)等のICパッケージ基板等、様々な回路基板が多く用いられている。このような回路基板は、実装の前後の工程において、例えば直流抵抗値の測定や導通検査等が行われ、その電気特性の良否が検査されている。電気特性の良否の検査は、電気特性を測定する検査装置に接続された検査装置用治具(以下、「プローブユニット」という。)を用いて行われ、例えば、プローブユニットに装着されたピン形状のプローブ針の先端を、その回路基板の電極(以下「被測定体」ともいう。)に接触させることにより行われている(例えば特許文献1を参照。)。
【0003】
上記特許文献1の図6図7及び図9には、各種形態のプローブ針を装着しプローブユニットが記載されているが、こうしたプローブユニットへのプローブ針の組み付けは、ガイド板(特許文献1中の符号20,30,120,130)に設けられた複数から数千のプローブ針装着穴(以下、単に「穴」という。)それぞれにプローブ針を一本ずつ挿入して行われる。また、プローブ針は、その弾性力を利用して被測定体11の電極12にプローブ針1の先端2aを所定の圧力で押し当てることにより行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-322369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
検査用のプローブユニットへのプローブ針の組み付けや、プローブユニットの動作時において、プローブ針に静電気が発生して不具合が生じることがある。例えば、プローブユニットへのプローブ針の組み付け時においては、多本数のプローブ針が擦れあって、プローブ針外周面の絶縁層が静電気を帯び、一本一本のプローブ針を小さな穴に挿入しにくくなるという問題があった。また、プローブユニットの動作時においては、プローブ針による測定が繰り返し行われる過程で、隣り合うプローブ針が接触して、プローブ針外周面の絶縁層が静電気を帯びて引きつけ合い、電極に正確な接触ができなくなるおそれがある。
【0006】
特に近年の電子部品電極間の狭ピッチ化に伴い、プローブ細径化が進み、絶縁層の厚さが薄く設計される。そのため、プローブ針の重量が軽くなり、絶縁層が擦れることで生じる静電気の影響でプローブ針がお互いに引き付け合うことになる。こうした現象は以下のような問題を生じさせる。
【0007】
例えば、樹脂製梱包用カップに数百本入ったプローブ針を取り出してプローブユニットに1本1本装着する際、静電気を帯びて引き付けあった複数のプローブ針がピンセットにくっついたり、梱包用カップ内壁にくっついてしまったりして、作業効率が悪化することがあった。また、プローブ針をガイド板の穴に挿入する際に、プローブ針が穴に貼り付いてしまい、プローブ針の自重で下側のガイド板まで落ちてこないこともあり、作業効率の悪化の要因となっていた。
【0008】
また、プローブユニットによる電気特性の検査では、プローブ針の先端を回路基板の電極に接触させるが、その際にプローブ針が帯電していると、先端部に電極部の削り屑等の異物が付着しやすくなる。異物がプローブの先端に付着していると、プローブ針の先端と回路基板の電極部との間の電気的接触が不確実になり、その結果、検査自体が不正確になるおそれがある。
【0009】
また、表面に半導電性を付与する目的で、樹脂にCNT等の導電性フィラーを添加した絶縁電線が知られているが、プローブユニットによる電気特性の検査では、添加した導電性フィラーの脱落があると検査対象物への影響があるため、プローブ針には適用できないとともに、導電性フィラーの添加は耐電圧が低くなり過ぎるという問題もある。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、主に電子部品及び基板等の導通検査に用いる検査用のプローブユニットに使用され、その組み付け時や使用時に発生しやすい静電気を抑制したプローブ針を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るプローブ針は、ピン形状の金属導体の外周に絶縁層を有する胴体部と、前記金属導体の両端に該絶縁層を有しない端部とを有するプローブ針において、前記絶縁層が、イオン液体型帯電防止剤を含有することを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、絶縁層がイオン液体型帯電防止剤を含有し、イオン液体型帯電防止剤が表面付近に存在し又は表面を覆うので、絶縁層に静電気が発生するのを抑えることができる。その結果、プローブ針の組み付け時やプローブユニットの使用時に静電気の発生に起因した問題を防ぐことができる。
【0013】
本発明に係るプローブ針において、前記絶縁層に含まれる前記イオン液体型帯電防止剤が、前記絶縁層を構成する全固形分に対して3~10質量%の範囲内で含まれていることが好ましい。また、本発明に係るプローブ針において、前記絶縁層が、内側の第1絶縁層と外側の第2絶縁層とで構成され、前記第2絶縁層に含まれる前記イオン液体型帯電防止剤が、前記第2絶縁層を構成する全固形分に対して3~10質量%の範囲内で含まれていることが好ましい。
【0014】
これらの発明によれば、絶縁層に含有させるイオン液体型帯電防止剤が少量であるので、そのイオン液体型帯電防止剤を含まない場合と比較しても、同等の強度と耐電圧を有するものとすることができる。その結果、帯電防止性を有するとともに、強度や密着性に優れ、剥離し難くなる。
【0015】
本発明に係るプローブ針において、前記第2絶縁層の厚さが、0.5~2.5μmの範囲内であることが好ましい。
【0016】
本発明に係るプローブ針において、前記絶縁層が、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルイミド樹脂及びポリアミドイミド樹脂から選ばれる1又は2以上の樹脂を含むことが好ましい。
【0017】
本発明に係るプローブ針において、前記金属導体の外径が、8~110μmの範囲内であることが好ましい。
【0018】
本発明に係るプローブ針において、前記絶縁層の厚さが、2~15μmの範囲内であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、主に電子部品及び基板等の導通検査に用いる検査用のプローブユニットに使用され、その組み付け時や使用時に発生しやすい静電気を抑制したプローブ針を提供することができた。特に、プローブ針全体としての必要な絶縁層強度と耐電圧を確保できるとともに、帯電防止性能により静電気による被着体汚染が少なくなり、またプローブ針同士のくっつきが少なくなり、プローブユニットへの装着時や使用時に生じ得る課題(梱包用カップやピンセットへの張り付きによる作業効率の悪化、プローブ先端への異物付着による被測定物の電極との電気的接触不具合、等)を解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明のプローブ針の一例を示す模式断面図である。(A)は単一層形態であり、(B)は2層形態である。
図2】本発明のプローブ針の全体形状の一例を示す模式平面図である。
図3】本発明のプローブ針を装着したプローブユニットの一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のプローブ針について図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は下記の実施形態に限定されるものではない。
【0022】
[プローブ針]
本発明に係るプローブ針1は、図1及び図2に示すように、ピン形状の金属導体2の外周に絶縁層3を有する胴体部と、金属導体2の両端に絶縁層3を有しない端部2a,2bとを有するプローブ針1において、絶縁層3が、イオン液体型帯電防止剤を含有している。
【0023】
なお、図2において、端部2aは、被測定体側に配置されて図3に示す被測定体11の電極12に接触する「先端」側の金属導体2の端部であり、端部2bは、検査装置側に配置されて検査装置(図示しない)のリード線50に接触する「後端」側の金属導体2の端部である。また、絶縁層端部3aは、上記先端側の絶縁層3の加工端部であり、絶縁層端部3bは、上記後端側の絶縁層3の加工端部である。また、本願において、片端部とは、本願発明のプローブ針1の特定の端部を指し、両端部とは、本願発明のプローブ針1の両側の端部を指す。また、図2の例では、プローブ針1の先端側(端部2a側)の金属導体2は、絶縁層3が設けられていない露出部を所定の長さ有し、後端側(端部2b側)の金属導体2は、絶縁層3が設けられていない露出部をあまり有していない態様であるが、その後端側(端部2b側)を先端側と同様にして金属導体2の露出部を所定の長さ有するようにしてもよい。
【0024】
以下、各構成要素について説明する。
【0025】
<金属導体>
金属導体2は、所定の長さに加工されてなるピン形状の導体であり、高い導電性と高い弾性率を有する金属線(「金属ばね線」ともいう。)を切断加工されている。金属導体2に用いられる金属としては、広い弾性域を持つ金属を挙げることができ、例えばベリリウム銅等の銅合金、タングステン、レニウムタングステン、鋼(例えば高速度鋼:SKH)等を好ましく用いることができる。
【0026】
金属導体2は、通常、上記の金属が所定の径の線状導体となるまで冷間又は熱間伸線等の塑性加工が施される。金属導体2の外径は、近年の狭ピッチ化の要請から、プローブユニット10(図3を参照。)において隣り合う各プローブ針1の間隔に応じて、8~110μmの範囲内、好ましくは15~90μmの範囲内から任意に選択することができる。
【0027】
プローブ針1をプローブユニット10に装着し易くし、且つ、プローブユニット10の使用時においてプローブ針1の先端2aがガイド板20の案内穴に引っかかることによりプローブ針1の動きが妨げられるのを防止する観点からは、金属導体2の真直度が高いことが好ましく、具体的には真直度が曲率半径Rで1000mm以上であることが好ましい。真直度の高い金属導体2は、通常、絶縁層3が設けられる前の長尺の金属線を予め直線矯正処理することにより行われる。ここでの直線矯正処理は、例えば回転ダイス式直線矯正装置等によって行われる。
【0028】
金属導体2の先端側の端部2a及び/又は後端側の端部2bの形状は、図示しないが、半球形状、円錐形状、先端に半球形状を有する円錐形状、先端に平坦形状を有する円錐形状、等から選ばれるいずれかとすることができる。ここでいう「半球形状」、「円錐形状」は、正確な半球や円錐を含むが、略円錐や略半球も含む。
【0029】
金属導体2の端部2a,2bにおいては、金属導体2と、被測定体11の電極12又は検査装置のリード線50との接触抵抗値の上昇を抑制するために、めっき層が端部2a,2bに設けられていてもよい。めっき層を形成する金属としては、ニッケル、金、ロジウム等の金属や金合金等の合金を挙げることができる。めっき層は、単層であってもよいし複層であってもよい。複層のめっき層としては、ニッケルめっき層上に金めっき層が形成されたものを好ましく挙げることができる。めっき層は、通常、絶縁層3を形成した金属導体2を切断した後、絶縁層3の剥離加工と金属導体2の端部加工を行った後に形成される。
【0030】
<絶縁層>
絶縁層3は、図1に示すように、イオン液体型帯電防止剤を含有し、金属導体2上に設けられている。イオン液体型帯電防止剤を含有する絶縁層3は、絶縁性を有するとともに、そのイオン液体型帯電防止剤が少なくとも表面付近に存在し又は表面を覆うので、絶縁層3が静電気を発生するのを抑えることができる。なお、絶縁層3は、基本的には、金属導体2上に設けられて被測定体11の電気特性を検査する際のプローブ針同士の接触を防いで短絡を防止するように作用する。
【0031】
絶縁層3にイオン液体型帯電防止剤を含有させる態様として、図1に示す2態様を挙げることができる。第1態様は、図1(A)に示すように、絶縁層3が単一層であり、その絶縁層3中にイオン液体型帯電防止剤が含まれる態様であり、第2態様は、図1(B)に示すように、絶縁層3が2層であり、内側の第1絶縁層4aと外側の第2絶縁層4bとで構成され、第2絶縁層4bだけにイオン液体型帯電防止剤が含まれる態様である。これら第1態様及び第2態様のいずれも、絶縁層3の表面にはそのイオン液体型帯電防止剤が表面付近に存在し又は表面を覆うので、絶縁層3が静電気を発生するのを抑えることができる。なお、絶縁層3が3層以上であってもよく、その場合には、最外層又は最外層を含む数層がイオン液体型帯電防止剤を含むように構成してもよい。
【0032】
絶縁層3としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂及びポリイミド樹脂から選ばれる1又は2以上の樹脂を含むように構成される。より耐熱性が要求される場合には、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等で形成されることが好ましい。第2態様のように、第1絶縁層4aと第2絶縁層4bを有する絶縁層3では、各絶縁層4a,4bが同じ樹脂又は同種の樹脂(変成樹脂を含む。)で構成されていることが好ましく、相溶性がよく密着に優れたものになる。一方、必ずしも同じでなくてもよく、第1絶縁層4aと第2絶縁層4bそれぞれに特有の樹脂性能(強度、耐熱、滑り、金属導体との密着、等)を分担させるように任意に構成してもよい。
【0033】
絶縁層3が単一層(第1態様)の場合や2層(第2態様)の場合や3層以上の複数層の場合のいずれにおいても、その総厚さは、金属導体2の種類と外径を考慮し、さらに最終的なプローブ針1にどの程度の強度と耐電圧を持たせるか、さらに、図3に示す被測定体11側の端面3aが下側ガイド板20のガイド穴に当接してプローブ1がガイド穴を通過して落下しない厚さであること、等によって任意に設定されるが、近年のプローブ針の細径化と狭ピッチ化の要請から、2~15μmの範囲内、好ましくは3~14μmの範囲内である。
【0034】
絶縁層3が第2態様の場合は、イオン液体型帯電防止剤を含む第2絶縁層4bの厚さが0.5~2.5μmの範囲内であることが好ましい。こうした厚さの第2絶縁層4bは、含まれるイオン液体型帯電防止剤による帯電防止作用を発揮することができる。なお、第2態様の絶縁層3において、第1絶縁層4aの厚さは、絶縁層3の総厚さから第2絶縁層4bの厚さを差し引いた厚さになる。
【0035】
イオン液体型帯電防止剤としては、カチオン液体型、アニオン液体型を挙げることができる。カチオン液体型帯電防止剤としては、イミダゾリウム、ピリジニウム、アンモニウム、ホスホニウム、スルホニウム等の化合物骨格を含む帯電防止剤を挙げることができ、そのような又はそれ以外の具体的なカチオン液体型帯電防止剤としては、1,3-ジメチルイミダゾリウム、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム,1-プロピル-3-メチルイミダゾリウム、1-メチル-3-プロピルイミダゾリウム、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウム、1-オクチル-3-メチルイミダゾリウム等を挙げることができる。また、アニオン液体型帯電防止剤としては、クロライド、ブロマイド、アセテート、ハイドロジェンサルフェート、メチルサルフェート、エチルサルフェート、テトラクロロアルミネート、チオシアネート、トリフルオロメタンスルホン酸、ビストリフルオロメタンスルホン酸イミド、又はビスペンタフルオロエタンスルホン酸イミド、ヘキサフルオロフォスフェート、テトラフルオロボレート等の化合物骨格を含む帯電防止剤を挙げることができ、そのような又はそれ以外の具体的なアニオン液体型帯電防止剤としては、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムハイドロジェンサルフェート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムメタンスルホン酸、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムメチルサルフェート等を挙げることができる。なかでも、トリ-n-ブチルメチルアンモニウム ビストリフルオロメタンスルホンイミドが好ましい。イオン液体型帯電防止剤は、固形の導電性フィラー等ではないので、分散性が悪いという難点がなく、好ましく含有させることができる。イオン液体型帯電防止剤は、1種類だけを含有させてもよいし、2種以上を性能に応じて任意に組み合わせて含有させてもよい。
【0036】
イオン液体型帯電防止剤の含有量は、図1(A)の第1態様においては、絶縁層3を構成する全固形分に対して3~10質量%の範囲内で含まれていることが好ましい。また、図1(B)の第2態様においては、第2絶縁層4bに含まれるイオン液体型帯電防止剤は、第2絶縁層4bを構成する全固形分に対して3~10質量%の範囲内で含まれていることが好ましい。こうした範囲内で含まれることにより、帯電防止性に優れたものとすることができる。なお、こうしたイオン液体型帯電防止剤は絶縁層形成用樹脂組成物中に含有させ、連続エナメル焼き付け方法で絶縁層3に含有させることができる。
【0037】
なお、本願において、「絶縁層3を有する」としているのは、絶縁層3以外に、他の層を有していてもよいことを意味するが、その場合における他の層は、通常、金属導体2と絶縁層3との間に設けられる。
【0038】
また、絶縁層3が担保する絶縁層強度は、本願では後述の実施例で説明するピール試験で測定した絶縁層3と金属導体2との密着力(密着性)で評価した。絶縁層強度(密着力)は0.3N以上程度であればよく、0.4N以上程度であればより好ましい。また、絶縁層3が担保する耐電圧についても、「JIS C 3003 エナメル線試験方法の絶縁破壊試験」によって測定した値で評価し、0.5kV以上であればよく、0.8kV以上であればより好ましい。なお、絶縁層強度と耐電圧の好ましい値は、絶縁層3を構成する絶縁層3と最外層5との合計膜厚を厚くすることにより実現することができる。
【0039】
(プローブ針を用いた電気特性の検査方法)
次に、上述した本発明のプローブ針を用いた電気特性の検査方法について説明する。図3は本発明のプローブ針を備えたプローブユニットを用いて被測定体の電気特性を検査する方法を説明するための模式断面図である。なお、ここでの検査方法は一例であり、図示の装置構成に限定されないことは言うまでもない。
【0040】
本発明のプローブ針1は、プローブユニット10に装着されて回路基板等の被測定体11の電気特性の良否の検査に利用される。プローブユニット10は、図3に示すように、複数本から数千本のプローブ針1と、プローブ針1を被測定体11の電極12にガイドするガイド板20と、プローブ針1を検査装置のリード線50にガイドするガイド板30とを備えている。検査装置側のガイド板30は、プローブ針1の外径よりも若干大きい案内穴を有し、その案内穴は一本一本のプローブ針1の金属導体2をリード線50にガイドする。被測定体側のガイド板20は、図3に示す形態のプローブユニット10においては、金属導体2の直径よりも若干大きい案内穴を有し、その案内穴は一本一本のプローブ針1の金属導体2を電極21にガイドする。
【0041】
プローブユニット10と被測定体11は、被測定体11の電気特性を検査する際、プローブ針1と電極12とが対応するように位置制御される。電気特性の検査は、プローブユニット10を上下させ、プローブ針1の弾性力を利用して被測定体11の電極12にプローブ針1の先端2aを所定の圧力で押し当てることにより行われる。このとき、プローブ針1の後端2bはリード線50に接触し、被測定体11からの電気信号がそのリード線50を通って検査装置(図示しない。)に送られる。なお、図3中、符号40はリード線用の保持板を示している。
【0042】
こうしたプローブ針1は、作業者が梱包用カップから直接又は数十本単位で小皿等に出したものをピンセットで1本ずつ取り出し、上方の少なくとも1枚のガイド板30に設けられたガイド穴に挿入した後、下方の少なくとも1枚のガイド板20に設けられたガイド穴に挿入する。
【0043】
以上説明した本発明のプローブ針1を用いれば、プローブユニットへのプローブ針1の組み付け時において、多本数のプローブ針が擦れあっても、プローブ針外周面の絶縁層が静電気を帯びるのを抑制でき、一本一本のプローブ針を小さな穴に挿入しにくくなることを防ぐことができる。また、プローブユニットの動作時においては、プローブ針による測定が繰り返し行われる過程で隣り合うプローブ針が接触しても、プローブ針外周面の絶縁層が静電気を帯びるのを防ぐことができ、電極に正確な接触を行わせることができる。
【0044】
特に近年の電子部品電極間の狭ピッチ化に伴い、プローブ細径化が進み、絶縁層の厚さが薄く設計されて重量が軽くなった場合であっても、絶縁層が擦れても静電気が発生し難いので、プローブ針がお互いに引き付け合うことがない。その結果、例えば、樹脂製梱包用カップに数百本入ったプローブ針を取り出してプローブユニットに1本1本装着する際、静電気を帯びて引き付けあうことがなく、複数のプローブ針がピンセットにくっつくこともなく、梱包用カップ内壁にくっついてしまうこともない。また、プローブ針をガイド板の穴に挿入する際に、プローブ針が穴に貼り付いてプローブ針の自重で下側のガイド板まで落ちてこないこともない。
【0045】
また、プローブユニットによる電気特性の検査では、プローブ針の先端を回路基板の電極に接触させるが、本発明のプローブ針は帯電しにくいので、先端部に電極部の削り屑等の異物が付着しやすくなることはなく、プローブ針の先端と回路基板の電極部との間の電気的接触が不確実になることを防ぐことができる。また、樹脂にCNT等の導電性フィラーを添加した場合のような導電性フィラーの脱落が起きない。
【実施例
【0046】
以下、本発明を実施例と比較例に基づいて説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
金属導体2として、長尺のレニウムタングステン線(外径0.030mm)を用いた。絶縁層3は、第2態様とし、第1絶縁層4aと第2絶縁層4bとで構成した。第1絶縁層4aは、第1絶縁層用塗料として、ポリエステル樹脂系のエナメル塗料(東特塗料株式会社製、商品名:L3330KF-N)を用いた。第2絶縁層4bは、第2絶縁層用塗料として、イオン液体型帯電防止剤(3M株式会社製、FC-4400)を成膜後の固形分比100:5で5質量%となるように含有させたポリエステル樹脂系のエナメル塗料(東特塗料株式会社製、商品名:L3330KF-N)を用いた。なお、イオン液体型帯電防止剤の含有量は、ESCA(X線光電分光法、Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)によって測定した。
【0048】
まず、ボビン等の線材供線装置から繰出された上記レニウムタングステン線からなる線材に、第1塗料槽にて上記第1絶縁層用塗料を塗布・焼き付けし、厚さ5μmの第1絶縁層4aを形成した。引き続いて、その第1絶縁層4a上に、第2絶縁層用塗料を塗布・焼き付けし、厚さ0.7μmの第2絶縁層4bを形成した。本願での第1絶縁層4a、第2絶縁層4b及び絶縁層3の各厚さは、LASER SCAN MICROMETER(Mitutoyo社製、測定部型番:LSM-500S、表示部型番:LSM-6200)を用いて、インラインで連続測定した外径測定結果に基づいて、平均膜厚で評価した。
【0049】
次に、絶縁層3(総厚約11.4μm)が形成された長尺のプローブ針素線を定尺切断機で切断して長さ25mmの絶縁層付きプローブ針を切り出し、その絶縁層付きプローブ針の両端部を研削加工装置により半球形状に加工した。その後、先端側の絶縁層3を所定長さレーザー剥離し、図2に示す態様からなる実施例1のプローブ針1を作製した。
【0050】
[実施例2]
イオン液体型帯電防止剤の含有量を3質量%とした他は、実施例1と同様にして、実施例2のプローブ針を作製した。
【0051】
[実施例3]
イオン液体型帯電防止剤の含有量を10質量%とした他は、実施例1と同様にして、実施例3のプローブ針を作製した。
【0052】
[実施例4]
イオン液体型帯電防止剤を含有する第2絶縁層4bの厚さを0.5μmとした他は、実施例1と同様にして、実施例4のプローブ針を作製した。
【0053】
[実施例5]
イオン液体型帯電防止剤を含有する第2絶縁層4bの厚さを2μmとした他は、実施例1と同様にして、実施例5のプローブ針を作製した。
【0054】
[実施例6]
絶縁層3を第1態様とし、単一の絶縁層3で構成した。絶縁層用塗料として、イオン液体型帯電防止剤(3M株式会社製、FC-4400)を成膜後の固形分比100:5で5質量%となるように含有させたポリエステル樹脂系のエナメル塗料(東特塗料株式会社製、商品名:L3330KF-N)を用い、厚さ5.7μmの絶縁層3を形成した。それ以外は、実施例1と同様にして、実施例6のプローブ針を作製した。
【0055】
[比較例1]
第2絶縁層4bを設けず、第1絶縁層4aの厚さを6μmとした他は、実施例1と同様にして、比較例1のプローブ針を作製した。
【0056】
[比較例2]
イオン液体型帯電防止剤を含有する第2絶縁層4bに代えて、PTFE微粒子を含有させた絶縁層を第2絶縁層4bとして設けた他は、実施例1と同様にして、比較例2のプローブ針を作製した。なお、PTFE微粒子を含有させた絶縁層は、PTFE微粒子(BYK社製、商品名:CERAFLOUR 998、平均粒径:0.3μm)を用い、これを成膜後の総固形分に対する含有量が3.0質量%になるように含有させた塗料と塗布焼き付けして形成した。
【0057】
[各特性の測定、評価]
絶縁層強度(密着力)は、精密万能試験機(島津製作所社製、型番:AG-I)を用いたピール試験(密着性試験)で評価した。具体的には、金属導体の導体径と全体の総外径の中間値の穴径37μm(ユニットのストッパー部と同じ径)のダイスに各プローブ針1の先端2aを通し、後端2bから荷重を与えたときの試験荷重を上記装置で検知し、得られた値を相互に比較して密着性を評価した。その値が大きいほど密着性に優れ、小さいほど密着性に劣ることになる。
【0058】
耐電圧は、自動交流耐圧試験機(東京精電社製、型番:ITS-20005T.SP)を用い、「JIS C 3003 エナメル線試験方法の絶縁破壊試験」の条件で測定した結果で評価した。
【0059】
帯電防止効果の評価は、プローブ針1を梱包用カップ(材質はポリカーボネート樹脂)に500本入れ、フィーダーで20分間振動させ、振動終了直後にカップよりプローブ針1を自然落下させたとき、静電気でカップに張り付いたコンタクトプローブの数を数えた。
【0060】
[結果]
実施例1~6及び比較例1,2について、絶縁層強度(密着性)、耐電圧、帯電防止性の評価結果を表1に示す。実施例1~6のプローブ針はいずれの特性とも良好な結果であった。
【0061】
【表1】
【符号の説明】
【0062】
1 プローブ針
2 金属導体
2a 端部(先端)
2b 端部(後端)
3 絶縁層
3a,3b 絶縁層端部(端面)
4a 第1絶縁層
4b 第2絶縁層
10 プローブユニット
11 被測定体
12 電極
20 被測定体側のガイド板
30 検査装置側のガイド板
40 リード線用の保持板
50 リード線
図1
図2
図3