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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-13
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】溶接用電極チップの取り外し装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/36 20060101AFI20220118BHJP
【FI】
B23K11/36
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018054776
(22)【出願日】2018-03-22
(65)【公開番号】P2019166535
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】313015100
【氏名又は名称】OBARA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和泉 武宏
(72)【発明者】
【氏名】坂本 忠男
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】実開平03-111470(JP,U)
【文献】特開平04-052083(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャンクの先端側に装着された溶接用電極チップを取り外す溶接用電極チップの取り外し装置であって、
前記シャンクの、前記先端側よりも太い径の太径部の端面と、前記溶接用電極チップの端面との間に形成された隙間に、前記シャンクの径方向の外側から、互いに対向する向きに挿入される、その挿入方向の前端から後ろ側に向かうにしたがって厚さが厚くなる楔状に形成された第1挿入片及び第2挿入片、を備え、
前記第1挿入片及び前記第2挿入片は、前記隙間における重なりの程度に応じて、前記第1挿入片と前記第2挿入片との重なりによる厚さが、前記隙間の長さよりも薄い厚さから厚い厚さに変化するように形成され、
前記第1挿入片及び前記第2挿入片は、前記太径部の端面又は前記溶接用電極チップの端面と接する面が、軸方向に直交する直交面で形成され、前記隙間において互いに接する面が、前記直交面に対して傾斜している傾斜面で形成され、
前記第1挿入片及び前記第2挿入片は、前記シャンクの軸と平行の、共通の軸回りに回転自在であり、
前記傾斜面は、前記第1挿入片と前記第2挿入片との重なりによる厚さが、前記軸回りの回転角度に比例して厚くなる一定の傾斜面で形成されている、溶接用電極チップの取り外し装置。
【請求項2】
前記第1挿入片及び前記第2挿入片の少なくとも一方は、前記回転自在の方向に対して直交する方向にも移動自在に支持されている請項1に記載の溶接用電極チップの取り外し装置。
【請求項3】
前記第1挿入片及び前記第2挿入片はそれぞれ、前記挿入方向の前端から後ろ側に向かって、前記太径部の端面と前記溶接用電極チップの端面との間の前記シャンクの部分を逃げる切欠きが形成されている請求項1又は2に記載の溶接用電極チップの取り外し装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接用電極チップの取り外し装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接用電極チップ(以下、適宜、電極チップと略す。)は、シャンクの先端側のテーパが形成された部分に、シャンクの軸方向の先端側から装着され、テーパとの嵌合によりシャンクに固定されている。
【0003】
シャンクは、電極チップの端面から軸方向の後ろ側の所定の部分が、先端側の部分よりも太い径に形成されている。そして、電極チップをシャンクから取り外すときは、電極チップの端面とシャンクの太い径の部分(太径部)の端面との間の隙間に、差込部材(挿入片)を挿入し、挿入片に設けられた回動部材を回動させてこの隙間に当接させ、挿入片とシャンクの太径部の端面との当接箇所を支点として回動させる。それぞれの挿入片は、電極チップの端面の一部のみとシャンクの太径部の端面の一部のみに当たり、電極チップをシャンクに対して移動させることで、電極チップをシャンクから取り外す(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-040600号公報
【文献】特開2004-066252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、挿入片は、電極チップの端面及びシャンクの端面の半周の範囲にしか引っ掛かっておらず、しかも、挿入片が引っ掛かっている半径方向の掛り代は例えば1[mm]程度と極めて微小であるため、軸方向に大きな荷重を掛けたとき、反力を受けて挿入片に曲げモーメントや剪断力が集中して作用し、挿入片に欠けや折損等の損傷、変形が生じることがある。特に、高い加圧力が要求される材料を溶接する溶接装置に用いられた電極チップは、その加圧力に応じて強い荷重でシャンクに嵌合しているため、電極チップを取り外すために挿入片に掛ける荷重も大きくなり、損傷、変形が生じ易い。
【0006】
このような損傷、変形を防止又は抑制するには、熱処理等によって挿入片の強度を高めることが必要であるが、追加的な熱処理等は挿入片の製造コストを上昇させる。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、挿入片の強度を高めることなく挿入片の損傷、変形を防止又は抑制することができる溶接用電極チップの取り外し装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、シャンクの先端側に装着された溶接用電極チップを取り外す溶接用電極チップの取り外し装置であって、前記シャンクの、前記先端側よりも太い径の太径部の端面と、前記溶接用電極チップの端面との間に形成された隙間に、前記シャンクの径方向の外側から、互いに対向する向きに挿入される、その挿入方向の前端から後ろ側に向かうにしたがって厚さが厚くなる楔状に形成された第1挿入片及び第2挿入片、を備え、前記第1挿入片及び前記第2挿入片は、前記隙間における重なりの程度に応じて、前記第1挿入片と前記第2挿入片との重なりによる厚さが、前記隙間の長さよりも薄い厚さから厚い厚さに変化するように形成されている、溶接用電極チップの取り外し装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る溶接用電極チップの取り外し装置によれば、挿入片の強度を高めることなく挿入片の損傷、変形を防止又は抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】本発明の一実施形態である溶接用電極チップの取り外し装置を電極チップの側から見た斜視図である。
図1B図1Aに示した取り外し装置を電極チップとは反対側から見た斜視図である。
図2】取り外し装置によって電極チップが取り外される電極部材を示す斜視図である。
図3】電極チップとシャンクとが分離された状態の電極部材を示す斜視図である。
図4A】取り外し装置による電極チップを取り外す作用を示す斜視図(その1)である。
図4B図4Aに対応した側面図である。
図5A】取り外し装置による電極チップを取り外す作用を示す斜視図(その2)である。
図5B図5Aに対応した側面図である。
図6A】取り外し装置による電極チップを取り外す作用を示す斜視図(その3)である。
図6B図6Aに対応した側面図である。
図7A】取り外し装置による電極チップを取り外す作用を示す斜視図(その4)である。
図7B図7Aに対応した側面図である。
図8図1に示した取り外し装置に手動でトルクを付与するのに適した回転操作補助部材の一例として取っ手を備えた構成の変形例1を示す取り外し装置を示す斜視図であり、第1板状体と第2板状体とを重ね合わせていない状態を示す。
図9図1に示した取り外し装置に手動でトルクを付与するのに適した回転操作補助部材の一例として取っ手を備えた構成の変形例1を示す取り外し装置を示す斜視図であり、第1板状体と第2板状体とを重ね合わせた状態を示す。
図10A図1に示した取り外し装置に手動以外の動力源でトルクを付与する一例としてアクチュエータを備えた構成の変形例2を示す取り外し装置を示す斜視図であり、アクチュエータの可動部をカバーで覆った使用状態で、第1板状体と第2板状体とを重ね合わせていない状態を示す。
図10B図10Aの状態からカバーを外した状態を示す。
図11図1に示した取り外し装置に手動以外の動力源でトルクを付与する一例としてアクチュエータを備えた構成の変形例2を示す取り外し装置を示す斜視図であり、第1板状体と第2板状体とを重ね合わせた状態を示す。
図12A】変形例3の取り外し装置による電極チップを取り外す作用を示す斜視図(その1)である。
図12B図12Aの矢印方向から見た図で、図12Aに対応した側面図である。
図13A】変形例3の取り外し装置による電極チップを取り外す作用を示す斜視図(その2)である。
図13B図12Aの矢印方向から見た図で、図13Aに対応した側面図である。
図14A】変形例3の取り外し装置による電極チップを取り外す作用を示す斜視図(その3)である。
図14B図12Aの矢印方向から見た図で、図14Aに対応した側面図である。
図15A】変形例3の取り外し装置による電極チップを取り外す作用を示す斜視図(その4)である。
図15B図12Aの矢印方向から見た図で、図15Aに対応した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る溶接用電極チップの取り外し装置の実施形態について、図面を参照して説明する。図1Aは本発明の一実施形態である溶接用電極チップ110(以下、電極チップ110という)の取り外し装置1を電極チップ110の側から見た斜視図、図1B図1Aに示した取り外し装置1を電極チップ110とは反対側から見た斜視図である。また、図2は取り外し装置1によって電極チップ110が取り外される電極部材100を示す斜視図、図3は電極チップ110とシャンク120とが分離された状態の電極部材100を示す斜視図である。
【0012】
<電極部材の構成>
抵抗溶接のガンに用いられる電極部材100は、図2に示すように、シャンク120と電極チップ110とによって構成されている。シャンク120及び電極チップ110は、銅合金等の材料で形成されている。
【0013】
シャンク120は、図3に示すように、概略円筒状に形成されている。シャンク120は、中心軸C2方向の先端側部分122が、先端121に近づくにしたがって連続的に径が細くなるテーパ状に形成されている。
【0014】
電極チップ110は中心軸C2方向の一端が閉じられた円筒状に形成されている。その閉じられた端部の外面は概略半球面状に形成され、溶接対象となる被溶接部材に接する先端部112を構成している。電極チップ110は、シャンク120の先端側部分122に嵌め合わされることでシャンク120に装着され、電極チップ110の内周面とシャンク120の先端側部分122との摩擦力によって固定されている。
【0015】
シャンク120の、先端側部分122を有する先端121よりも、中心軸C2方向の後ろ側(先端121とは反対の側)には、先端側部分122の最も太い直径の部分よりも太い太径部125が形成されている。そして、その先端側部分122と太径部125との間には、段差面である太径部125の端面126が形成されている。
【0016】
太径部125は、図2に示すように、先端側部分122に電極チップ110が装着されて固定された状態で、電極チップ110の装着側の端面(先端部112とは反対側の端面)111よりも中心軸C2方向の後ろ側に形成されている。したがって、中心軸C2方向に沿って、電極チップ110の端面111と太径部125の端面126との間は、寸法(長さ)L1の隙間130(電極チップ110の端面111における直径及び太径部125の直径よりも細い括れ部分)が形成されている。
【0017】
<取り外し装置の構成>
電極チップ110の取り外し装置1は、シャンク120の先端側に装着された電極チップ110を取り外す装置である。電極チップ110の取り外し装置1は、図1A,1Bに示すように、第1板状部材10と、第2板状部材20と、円柱状の軸部材30とを備えている。第1板状部材10は、平板状の第1板状体12(第1挿入片の一例)とスリーブ18とが接合して構成されている。スリーブ18は、第1板状体12の一方の端部に、第1板状体12の板面(表面)に対して直交する姿勢で接合されている。
【0018】
第2板状部材20も、平板状の第2板状体22(第2挿入片の一例)とスリーブ28とが接合して構成されている。スリーブ28は、第2板状体22の一方の端部に、第2板状体22の板面に対して直交する姿勢で接合されている。第1板状体12と第2板状体22とは同じ厚さであるが、同じ厚さでなくてもよい。
【0019】
本実施形態においては、スリーブ18,28は円筒状の外観を呈しているが、この形状のものに限定されず、円柱や角柱などのその他の柱体状のものであってもよいし、それ以外の形状であってもよい。また、スリーブ18とスリーブ28とは同じ形状であってもよいし、異なる形状であってもよい。
【0020】
なお、第1板状部材10と第2板状部材20とが全体として同一の形状であってもよい。ただし、後述するように、第2板状体22に形成された切欠き25の長さを、第1板状体12に形成された切欠き15の長さよりも長く形成することが好ましい。
【0021】
第1板状部材10と第2板状部材20は、それぞれのスリーブ18,28が外側に突出した姿勢(図1A,1Bにおいては、スリーブ18が下側、スリーブ28が上側となる姿勢)で、かつスリーブ18,28が一直線上に並んだ配置で重ねられ、スリーブ18,28を軸部材30が貫通して組み合わせられている。
【0022】
なお、このように第1板状部材10と第2板状部材20と軸部材30とが一体化された図1A,1Bに示した状態で、第1板状体12と第2板状体22は、その鉛直方向(中心軸C1方向)において略同じ高さ位置となる。
【0023】
取り外し装置1は、第1板状部材10と第2板状部材20とが、軸部材30の中心軸C1回りに相対的に回転自在となっている。
【0024】
第1板状体12と第2板状体22とは、第1板状部材10と第2板状部材20とが中心軸C1回りに相対的に回転したときに互いに対向して接近する前端11a,21aから、それぞれの回転方向の後ろ側の部分11b,21bに向かうにしたがって厚さが厚くなる楔状に形成されている。
【0025】
具体的には、第1板状体12は、その下面13が中心軸C1に直交し、上面14が下面13に対して傾斜した傾斜面を有し、その傾斜面においては、前端11aにおける厚さが後ろ側の部分11b(下面13に平行な平面の部分)における厚さよりも薄くなっている。なお、上面14が傾斜した範囲では、中心軸C1回りの任意の角度における半径方向に沿った全ての位置での厚さは同じになっている。なお、上面14は、上述したように一部が傾斜面であってもよいし、全体が傾斜面であってもよい。
【0026】
一方、第2板状体22は、その上面24が中心軸C1に直交し、下面23が上面24に対して傾斜した傾斜面を有し、その傾斜面においては、前端21aにおける厚さが後ろ側の部分21b(上面24に平行な平面の部分)における厚さよりも薄くなっている。なお、下面23が傾斜した範囲では、中心軸C1回りの任意の角度における半径方向に沿った全ての位置での厚さは同じになっている。なお、下面23は、上述したように一部が傾斜面であってもよいし、全体が傾斜面であってもよい。
【0027】
このように、第1板状体12と第2板状体22とが楔状に形成されていることにより、第1板状部材10と第2板状部材20とが中心軸C1回りに相対的に回転して互いに接する前の状態では、前端11aが前端21aよりも下方に位置した状態となる。そして、回転が進んで第2板状体22の前端21aが第1板状体12の前端11aとすれ違い、前端21aが第1板状体12の上面14の傾斜面上まで進むと、第2板状体22の下面23が第1板状体12の上面14の傾斜面に接して第1板状体12と第2板状体22とが中心軸C1方向に重なる。
【0028】
さらに、第2板状体22の下面23の傾斜面が第1板状体12の上面14の傾斜面に接しながら回転が進むことにより、第2板状体22が第1板状体12に対して上方に押されてせり上がり、第2板状部材20が第1板状部材10に対して中心軸C1の上方に移動する。第2板状部材20が移動する寸法は回転角度(第1板状体12と第2板状体22との中心軸C1回りの重なりの程度)に応じたものとなり、回転角度に比例して移動する寸法が大きくなる。この結果、第1板状体12の下面13と第2板状体22の上面24との間の寸法である第1板状体12と第2板状体22との中心軸C1方向への重なりによる厚さLが、回転角度に応じて大きくなる。
【0029】
第1板状体12と第2板状体22との重なりによる厚さLは、第2板状体22の下面23の傾斜面が第1板状体12の上面14の傾斜面に接して重なり始めた状態において最小であり、このとき、電極部材100の隙間130の寸法L1よりも小さい(L<L1)。そして、第1板状体12と第2板状体22との重なりによる厚さLは、回転が進むにしたがって大きくなり、やがて、電極部材100の隙間130の寸法L1よりも大きくなる(L1<L)。
【0030】
なお、第1板状体12の上面14が中心軸C1に直交し、下面13が上面14に対して傾斜した傾斜面で形成され、前端11aにおける厚さが後ろ側の部分11bにおける厚さよりも薄くなるように形成し、第2板状体22の下面23が中心軸C1に直交し、上面24が下面23に対して傾斜した傾斜面で形成され、前端21aにおける厚さが後ろ側の部分21bにおける厚さよりも薄くなるように形成してもよい。
【0031】
また、第1板状体12と第2板状体22には、前端11a,21aから、それぞれの回転方向の後ろ側の部分11b,21bに向かって回転方向に沿って延びた切欠き15,25が形成されている。切欠き15と切欠き25は、中心軸C1回りの半径方向において、同じ位置に形成されている。
【0032】
切欠き15,25の幅(中心軸C1回りの半径方向の寸法)は、電極部材100のシャンク120における隙間(括れ部分)130の直径より僅かに大きく、かつ電極チップ110の端面111における直径や太径部125の端面126における直径よりも小さい。
【0033】
また、切欠き15の長さ(中心軸C1回りの回転方向に沿った寸法)は、電極部材100のシャンク120における隙間130(括れ部分)の直径と略同じである。一方、切欠き25の長さは、切欠き15の長さよりも長く形成されている。なお、切欠き25の長さを、切欠き15の長さと同じにしてもよく、この場合、第1板状部材10と第2板状部材20とは同一の形状となる。
【0034】
切欠き15,25は、電極部材100の隙間130におけるシャンク120の先端側部分122を逃げる形状となっていて、第1板状体12の切欠き15の周囲の部分及び第2板状体22の切欠き25の周囲の部分がそれぞれ、隙間130に、シャンク120の径方向(中心軸C2回りの半径方向)の外側から挿入される。第1板状部材10と第2板状部材20とは、中心軸C1回りに相対的に回転するため、切欠き15,25がそれぞれ形成された前端11a,21aが互いに対向する向きに、前端11a,21aから隙間130に挿入される。
【0035】
なお、切欠き25の長さは、第1板状体12と第2板状体22との重なりによる厚さLが電極部材100の隙間130の寸法L1よりも大きくなった(L1<L)回転角度において、切欠き15と切欠き25との重なりによって形成される開口が電極部材100の隙間130(括れ部分)におけるシャンク120の直径よりも大きくなるように設定されている。
【0036】
<作用>
次に、本実施形態の取り外し装置1の作用を説明する。図4A,5A,6A,7Aは、取り外し装置1による電極チップ110を取り外す作用を示す斜視図、図4B,5B,6B,7Bは、図4A,5A,6A,7Aにそれぞれ対応した側面図を示す。
【0037】
取り外し装置1は、図4Aに示すように、中心軸C1がシャンク120の中心軸C2と平行になる姿勢で配置される。そして、電極部材100のシャンク120における隙間130に、第1板状部材10の切欠き15が配置されるように、第1板状体12がその前端11aから隙間130に挿入される。このとき、前端11aは隙間130の相対的に下半分の範囲(シャンク120の端面126側)に配置される(図4B参照)。
【0038】
次いで、図5Aに示すように、第2板状部材20が軸部材30の中心軸C1回りに、前端21aが第1板状部材10の前端11aに近づく方向に回転し、第2板状体22がその前端21aから隙間130に挿入される。そして、前端21aが前端11aとすれ違い、前端21aが第1板状体12の上面14の傾斜面上まで進んで、第2板状体22の下面23の傾斜面が第1板状体12の上面14の傾斜面に接し、第1板状体12と第2板状体22とが中心軸C1方向に重なり始める(図5B参照)。
【0039】
この第2板状体22の下面23の傾斜面が第1板状体12の上面14の傾斜面に接し始めた状態においては、第1板状体12と第2板状体22との重なりによる厚さLは、電極部材100の隙間130の寸法L1よりも小さい(L<L1)。
【0040】
図6Aに示すように、第2板状体22の下面23の傾斜面が第1板状体12の上面14の傾斜面に接しながら第2板状部材20の回転が進むと、第2板状体22が第1板状体12に対して上方に押されてせり上がり、第2板状部材20が第1板状部材10に対して中心軸C1の上方に移動する。これにより、第1板状体12と第2板状体22との重なりによる厚さLが徐々に大きくなり、厚さLが隙間130の寸法L1と略一致すると、図6Bに示すように、第1板状体12の下面13が太径部125の端面126に接するとともに、第2板状体22の上面24が電極チップ110の端面111に接する。
【0041】
ここで、第1板状体12の下面13と太径部125の端面126は、中心軸C1に対して直交する直交面で形成されており、第1板状体12の、隙間130に挿入された部分における下面13と端面126とは、中心軸C2を挟んだ両側でそれぞれ接触する。同様に、第2板状体22の上面24と電極チップ110の端面111も、中心軸C1に対して直交する直交面で形成されており、第2板状体22の、隙間130に挿入された部分における上面24と端面111とは、中心軸C2を挟んだ両側でそれぞれ接触する。
【0042】
図7Aに示すように、第2板状部材20の回転がさらに進むと、第1板状体12と第2板状体22との重なりによる厚さLは、隙間130の寸法L1よりも大きくなる(L1<L)。これにより、第1板状体12の下面13が太径部125の端面126を下方に押圧し、第2板状体22の上面24が電極チップ110の端面111を上方に押圧する。この結果、電極チップ110の端面111とシャンク120の太径部125の端面126とが相対的に離れる方向に移動し、電極チップ110がシャンク120から取り外される。
【0043】
以上、説明したように、本実施形態の取り外し装置1によれば、互いに対向する2つの楔状の挿入片である第1板状体12と第2板状体22とを相対的に移動させるだけの簡単な構成で、電極チップ110をシャンク120から取り外すことができる。
【0044】
また、本実施形態の取り外し装置1は、隙間130における2つの板状体12,22が、中心軸C1方向において一体的に、電極チップ110の端面111からの反力とシャンク120の太径部125の端面126からの反力を受ける。これにより、隙間130の寸法L1を2つの板状体12,22の重なりによる厚さLによって拡げる際に、2つの板状体12,22は上述した反力によって圧縮荷重を受けるが、個々の板状体12,22は中心軸C1を挟んだ両側で荷重を受けるため曲げモーメントや剪断力を受けない。したがって、板状体12,22は中心軸C1方向に大きな荷重を掛けても、欠けや折損等の損傷、変形が生じ難い。
【0045】
これにより、本実施形態の取り外し装置1は、板状体12,22の強度を高めることなく板状体12,22の損傷、変形を防止又は抑制することができる。
【0046】
また、本実施形態の取り外し装置1は、2つの板状体12,22の重なりによる厚さLが隙間130の寸法L1以上になったとき、第1板状体12の、隙間130に挿入された部分における下面13と端面126とが面で接触して、その面で、中心軸C1方向の荷重を受けるため、一部分で荷重を受ける場合に比べて、面圧を下げることができる。
【0047】
しかも、2つの板状体12,22の重なりが、両端面111,126に対して中心軸C1方向に沿った荷重を均等に掛けるため、電極チップ110を、中心軸C1に沿って真っ直ぐ取り外すことができる。
【0048】
また、本実施形態の取り外し装置1は、第1板状体12の上面14及び第2板状体22の下面23がそれぞれ、中心軸C1回りの回転角度に比例して厚さが厚くなる一定の傾斜面で形成されているため、第1板状部材10と第2板状部材20との中心軸C1回りの相対的な回転の際、回転角度に比例して両板状体12,22の重なりによる厚さLを厚くすることができる。
【0049】
このように、取り外し装置1は、回転角度に比例して厚さLを厚くすることにより、回転角度に比例せずに厚さLを変化させるものに比べて、回転角度に対する厚さLの変化を制御し易くなる。これにより、回転角度を制御するアクチュエータ等を用いて、第1板状部材10及び第2板状部材20の少なくとも一方を回転させる構成を採用した場合には、厚さLを制御することができる。
【0050】
なお、本実施形態の取り外し装置1は、第1板状部材10と第2板状部材20とがいずれも中心軸C1方向に沿って移動自在であるが、第1板状部材10と第2板状部材20との少なくとも一方が、中心軸C1方向に沿って他方から離れる方向に移動自在であればよい。この場合、軸部材30を第1板状部材10と第2板状部材20とにそれぞれ別体で形成しなくてもよく、軸部材30をいずれか一方の板状部材10,20と一体に形成してもよい。
【0051】
本実施形態の取り外し装置1は、第1板状部材10及び第2板状部材20の少なくとも一方が中心軸C1方向に沿って移動自在であることにより、第1板状部材10と第2板状部材20との重なりによる厚さの変化を、第1板状部材10及び第2板状部材20の少なくとも一方の中心軸C1方向に沿った移動によって実現することができる。
【0052】
ただし、本発明に係る溶接用電極チップの取り外し装置は、第1挿入片及び第2挿入片の少なくとも一方の中心軸方向に沿った移動により、第1挿入片と第2挿入片との重なりによる厚さの変化を実現するものに限定されない。つまり、本発明に係る溶接用電極チップの取り外し装置は、第1挿入片と第2挿入片との重なりによる厚さが変化する構造であれば、第1挿入片及び第2挿入片のいずれも中心軸方向に移動しなくてもよい。
【0053】
例えば、上述した取り外し装置1における第1板状体12の下面13を、前端11aから後ろ側の部分11bに向けて傾斜した傾斜面とし、上面14を、中心軸C1に直交した面とする。同様に、第2板状体22の上面24を、前端21aから後ろ側の部分21bに向けて傾斜した傾斜面とし、下面23を、中心軸C1に直交した面とする。
【0054】
このように構成された第1板状体12と第2板状体22とが中心軸C1回りに相対的に回転すると、第2板状体22の下面23が第1板状体12の上面14に接し、回転が進むにしたがって第1板状体12と第2板状体22との重なりが進むと、第1板状体12も第2板状体22も中心軸C1方向に移動しないが、第1板状体12の傾斜した下面13と第2板状体22の傾斜した上面24との間の、第1板状体12と第2板状体22との重なりによる厚さLは増大する。
【0055】
これにより、第1板状体12の傾斜した下面13が太径部125の端面126を下方に押圧し、第2板状体22の傾斜した上面24が電極チップ110の端面111を上方に押圧して、電極チップ110をシャンク120から取り外すことができる。
【0056】
なお、本実施形態の取り外し装置1は、第1板状体12及び第2板状体22のうち少なくとも一方を中心軸C1方向(相対的な回転方向に直交する方向)に移動自在とした構成により、第1板状体12と第2板状体22とが重なり合う面(接触する面)を傾斜面とすることができ、これにより、第1板状体12の下面13及び第2板状体22の上面24を中心軸C1に直交した面とし、第1板状体12の下面13と太径部125の端面126との接触面積及び第2板状体22の上面24と電極チップ110の端面111との接触面積を、従来の構造(線接触)に比べて増大させることができる。
【0057】
また、本実施形態の取り外し装置1は、第1板状体12及び第2板状体22のうち少なくとも一方を他方に対して中心軸C1回りに回転自在とした構成により、第1板状部材10と第2板状部材20とを相対的に回転させる動力として、アクチュエータ等の回転する動力を適用し易い。
【0058】
<変形例1>
本実施形態の取り外し装置1は、第1板状部材10と第2板状部材20とを相対的に回転させるトルクを手動で付与する際に、より大きなトルクを付与すための回転操作補助部材を設けてもよい。
【0059】
図8,9は、図1に示した取り外し装置1に手動でトルクを付与するのに適した回転操作補助部材の一例として取っ手310,320を備えた構成の変形例1を示す取り外し装置301を示す斜視図であり、図8は第1板状体12と第2板状体22とを重ね合わせていない状態、図9は第1板状体12と第2板状体22とを重ね合わせた状態をそれぞれ示す。
【0060】
図8,9に示した変形例1の取り外し装置301は、第1板状体12に、中心軸C1を挟んで第1板状体12とは反対向きに長く延びた取っ手310を結合し、第2板状体22に、中心軸C1を挟んで第2板状体22とは反対向きに長く延びた取っ手320を結合したものである。
【0061】
変形例1の取り外し装置301は、取っ手310を一方の手で握り、取っ手320を他方の手で握り、取っ手310と取っ手320との間の中心軸C1回りの角度を狭める向き(矢印の向き)に、両手に荷重を掛けることにより、第1板状体12と第2板状体22との間には、中心軸C1回りに大きなトルクを掛けることができる。これにより、図9に示すように、第1板状体12と第2板状体22とを、電極部材100の隙間130に挿入したとき、その大きなトルクによって、電極チップ110を取り外すことができる。
【0062】
なお、変形例1の取り外し装置301は、手動でより大きなトルクを付与する回転操作補助部材を備えた取り外し装置の一例にすぎない。したがって、第1板状体12及び第2板状体22の少なくとも一方に手動でトルクを付与する構成は、上述した取っ手310,320に限定されるものではない。
【0063】
<変形例2>
本実施形態の取り外し装置1は、第1板状部材10と第2板状部材20とを相対的に回転させる動力を、手動以外の動力源によって付与する動力源を設けてもよい。
【0064】
図10A,10B,11は、図1に示した取り外し装置1に手動以外の動力源でトルクを付与する一例としてアクチュエータ430を備えた構成の変形例2を示す取り外し装置401を示す斜視図であり、図10Aはアクチュエータ430の可動部(ギヤ431等)をカバー440で覆った使用状態で第1板状体12と第2板状体22とを重ね合わせていない状態、図10B図10Aの状態からカバー440を外した状態、図11は第1板状体12と第2板状体22とを重ね合わせた状態をそれぞれ示す。
【0065】
図10A,10Bに示した変形例2の取り外し装置401は、実施形態の取り外し装置1に、第2板状体22を第1板状体12に対して相対的に回転させるアクチュエータ430を備えている。アクチュエータ430は、取り外し装置1を支持した支持板460に固定されている。また、第1板状体12は支持板460に固定されていて回転しない。
【0066】
また、取り外し装置401は、アクチュエータ430のギヤ431に噛み合うとともに、第2板状体22に固定されて、アクチュエータ430の回転に応じて中心軸C1回りに回転するギヤ450を備えている。
【0067】
図10A,10Bに示した変形例2の取り外し装置401は、アクチュエータ430を回転させることにより、ギヤ431、ギヤ450を介して第2板状体22を、第1板状体12に対して中心軸C1回りに回転させる。これにより、図11に示すように、第1板状体12と第2板状体22とを、電極部材100の隙間130に挿入したとき、アクチュエータ430により付与されたトルクによって、電極チップ110を取り外すことができる。
【0068】
なお、図10A,10B,11に示した変形例2の取り外し装置401は、アクチュエータ430でトルクを付与する構成の取り外し装置の一例にすぎない。したがって、第1板状体12及び第2板状体22の少なくとも一方に、手動以外の動力源によりトルクを付与する構成は、サーボモータ、ステッピングモータ、リニアモータ、流体圧シリンダなど公知のアクチュエータを適用することができる。
【0069】
<参考例>
上述した実施形態の取り外し装置1、変形例1,2の取り外し装置301,401は、いずれも、第1板状体12と第2板状体22とを、中心軸C1回りに相対的に回転させる構成である。
【0070】
図12A,13A,14A,15Aは、参考例の取り外し装置501による電極チップ110を取り外す作用を示す斜視図であり、図12B,13B,14B,15Bは、図12Aの矢印方向から見た図12A,13A,14A,15Aにそれぞれ対応した側面図を示す。参考例の取り外し装置501は、本発明に係る溶接用電極チップの取り外し装置に含まれない。
【0071】
参考例の取り外し装置501は、図12A,13A,14A,15Aに示すように、実施形態の取り外し装置1における第1板状部材10に代えて第1板状体512、第2板状部材20に代えて第2板状体522を備えた構成である。
【0072】
実施形態1の取り外し装置1は、第1板状体12と第2板状体22との少なくとも一方が他方に対して相対的に、中心軸C1回りに回転するものであったのに対して、取り外し装置501は、第1板状体512と第2板状体522との少なくとも一方が他方に対して一直線状に移動自在となっている。より具体的には、第1板状体512は固定されていて動かず、第2板状体522のみが、第1板状体512に向かって直線状に移動自在となっている。
【0073】
なお、第1板状体512及び第2板状体522は、第1板状体12及び第2板状体22と同様に、シャンク120の太径部125の端面126と電極チップ110の端面111との間に形成された隙間130に、シャンク120の径方向の外側から、互いに対向する向きに直線状に挿入される。そして、第1板状体512及び第2板状体522は、その挿入方向の前端から後ろ側の部分に向かうにしたがって厚さが厚くなる楔状に形成されている。
【0074】
そして、第1板状体512及び第2板状体522は、隙間130における第1板状体512と第2板状体522との重なりの程度に応じて、第1板状体512と第2板状体522との重なりによる厚さLが、隙間130の寸法L1よりも薄い厚さから厚い厚さの間に変化するように形成されている。
【0075】
また、第1板状体512に形成された切欠き515は、第1板状体12に形成された切欠き15に対応し、第2板状体522に形成された切欠き525は、第2板状体22に形成された切欠き25に対応している。なお、両切欠き515,525は、第2板状体522の移動方向に向いたときに互いに対向する位置に形成され、隙間130におけるシャンク120の先端側部分122を逃げる部分である。
【0076】
また、第1板状体512は、その上面514が、第1板状体12の上面14と同様に傾斜した傾斜面に形成され、その下面513は、第1板状体12の下面13と同様に電極部材100の中心軸C2に直交した平面に形成されている。第2板状体522は、その下面523が、第2板状体22の下面23と同様に傾斜した傾斜面に形成され、その上面524は、第2板状体22の上面24と同様に電極部材100の中心軸C2に直交した平面に形成されている。これらの上面514及び下面523の傾斜面は、直線状の移動方向の移動距離に比例して両板状体512,522の重なりによる厚さLが厚くなるように形成されている。
【0077】
このように構成された参考例の取り外し装置501は、図12Aに示すように、第1板状体512の切欠き515に、電極部材100の隙間130におけるシャンク120の先端側部分122を配置して、隙間130に第1板状体512が挿入される(図12B参照)。
【0078】
次いで、図13Aに示すように、第2板状体522が第1板状体512に近づく方向に直線状に移動し、第2板状体522が隙間130に挿入される(図13B参照)。そして、図14Aに示すように、第2板状体522の隙間130への挿入が進むと、第2板状体522が第1板状体512に対して上方に押されてせり上がり、隙間130における第1板状体512と第2板状体522との重なりによる厚さLが増大し、第2板状体522が電極チップ110の端面111を上方に押圧し、第1板状体512が太径部125の端面126を下方に押圧する(図14B参照)。
【0079】
図15Aに示すように、第2板状体522の隙間130への挿入がさらに進むと、隙間130における、第1板状体512と第2板状体522との重なりによる厚さLが、隙間130の寸法L1を上回って、シャンク120から電極チップ110を取り外すことができる。
【0082】
また、変形例2の取り外し装置401における第1板状体12は、移動しない固定のものとして説明したが、第2板状体22と同様に、移動する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0083】
1 取り外し装置
10 第1板状部材
11a,21a 前端
11b,21b 後ろ側の部分
12 第1板状体
20 第2板状部材
22 第2板状体
100 電極部材
110 溶接用電極チップ
111 端面
120 シャンク
125 太径部
126 端面
130 隙間
C1,C2 中心軸
L1 寸法
L 重なりによる厚さ
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12A
図12B
図13A
図13B
図14A
図14B
図15A
図15B