(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-13
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】セラミックス体
(51)【国際特許分類】
C04B 35/581 20060101AFI20220118BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20220118BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20220118BHJP
C23C 16/458 20060101ALI20220118BHJP
C23C 16/46 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
C04B35/581
H01L21/302 101G
H01L21/68 R
C23C16/458
C23C16/46
(21)【出願番号】P 2018092277
(22)【出願日】2018-05-11
【審査請求日】2021-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】特許業務法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】薮花 優棋
(72)【発明者】
【氏名】小川 貴道
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-343733(JP,A)
【文献】特開2002-141163(JP,A)
【文献】特開2000-063177(JP,A)
【文献】特開2003-090811(JP,A)
【文献】特開2008-243990(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0240972(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/581
H01L 21/3065
H01L 21/683
C23C 16/458
C23C 16/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電部と、第1の方向において前記導電部に隣接するセラミックス部と、を備えるセラミックス体において、
前記セラミックス部は、セラミックス材料と、希土類とアルカリ金属とアルカリ土類金属とのいずれかに属する少なくとも一種の特定元素と、を含んでおり、
前記導電部は、導電材料部分とセラミックス材料部分とを有し、前記導電材料部分は、レニウム(Re)を含み、かつ、前記セラミックス材料部分は、前記セラミックス部に含まれる同種のセラミックス材料を含んでおり、
かつ、前記第1の方向に平行な少なくとも1つの断面に現れている前記導電材料部分におけるレニウムの面積占有率は、90%より高い、
ことを特徴とするセラミックス体。
【請求項2】
請求項1に記載のセラミックス体において、
前記少なくとも1つの断面において、前記導電部における前記特定元素の面積占有率は、10%以下である、
ことを特徴とするセラミックス体。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のセラミックス体において、
前記少なくとも1つの断面において、前記導電部における前記セラミックス材料部分の面積占有率は、20%以上、60%以下である、
ことを特徴とするセラミックス体。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のセラミックス体において、
前記導電部は、発熱抵抗体と電極と測温抵抗体との少なくとも1つを含む、
ことを特徴とするセラミックス体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、セラミックス体に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物(例えば、半導体ウェハ)を所定の処理温度に加熱する加熱装置(「サセプタ」とも呼ばれる)が知られている。加熱装置は、例えば、成膜装置(CVD成膜装置やスパッタリング成膜装置等)やエッチング装置(プラズマエッチング装置等)といった半導体製造装置の一部として使用される。
【0003】
一般に、加熱装置は、所定の方向(以下、「第1の方向」という)に略直交する保持面および裏面を有する板状の保持体と、第1の方向に延びる柱状であり、保持体の裏面に接合された柱状支持体とを備える(例えば、特許文献1参照)。保持体は、セラミックス材料によって形成されており、保持体の内部には、抵抗発熱体が配置されており、保持体の裏面側には、抵抗発熱体に電気的に接続された複数の受電電極(電極パッド)が配置されている。また、柱状支持体には、保持体の裏面側に開口する貫通孔が形成されており、貫通孔には、各受電電極に対して例えばろう付けにより接合された電極端子が収容されている。電極端子および受電電極を介して抵抗発熱体に電圧が印加されると、抵抗発熱体が発熱し、保持体の保持面上に保持された対象物(例えば、半導体ウェハ)が加熱される。また、保持体の内部には、さらに、測温抵抗体が配置されており、測温抵抗体を用いて、抵抗発熱体の発熱時における保持体の温度を測定可能とされている。測温抵抗体は、タングステンやモリブデン(以下、「タングステン等」という)を主成分とする材料から形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
タングステン等は、比較的に炭化しやすい。上述したように、従来の加熱装置では、タングステン等を主成分とする測温抵抗体が保持体の内部に配置されている。このため、測温抵抗体に含まれるタングステン等の炭化によって、例えば測温抵抗体の抵抗値の局所的な増加や抵抗値のばらつき等が生じるなど、測温抵抗体の性能が低下する。
【0006】
なお、このような課題は、従来の加熱装置における抵抗発熱体に共通の課題である。また、加熱装置に限らず、導電部と、導電部に隣接するセラミックス部と、を備えるセラミックス体一般に共通の課題である。
【0007】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書に開示される技術は、以下の形態として実現することが可能である。
【0009】
(1)本明細書に開示されるセラミックス体は、導電部と、第1の方向において前記導電部に隣接するセラミックス部と、を備えるセラミックス体において、前記セラミックス部は、セラミックス材料と、希土類とアルカリ金属とアルカリ土類金属とのいずれかに属する少なくとも一種の特定元素と、を含んでおり、前記導電部は、導電材料部分とセラミックス材料部分とを有し、前記導電材料部分は、レニウム(Re)を含み、かつ、前記セラミックス材料部分は、前記セラミックス部に含まれる同種のセラミックス材料を含んでおり、かつ、前記第1の方向に平行な少なくとも1つの断面に現れている前記導電材料部分におけるレニウムの面積占有率は、90%より高い。本セラミックス体では、導電部のうち、導電部とセラミックス部とが隣接する第1の方向に平行な少なくとも1つの断面に現れている導電材料部分におけるレニウムの面積占有率は、90%より高い。すなわち、本セラミックス体では、導電材料部分においてレニウムが支配的に存在する。ここで、レニウムは、タングステンやモリブデン等に比べて、炭化しにくい。このため、本セラミックス体によれば、導電材料部分が炭化しにくいため、導電部の性能低下(例えば抵抗値の局所的な増加や抵抗値のばらつき等)を抑制することができる。
【0010】
(2)上記セラミックス体において、前記少なくとも1つの断面において、前記導電部における前記特定元素の面積占有率は、10%以下である構成としてもよい。本セラミックス体では、導電部の少なくとも1つの断面において、導電部における特定元素の面積占有率は、10%以下である。このため、本セラミックス体によれば、導電部における特定元素の面積占有率が10%より高い構成に比べて、特定元素の拡散による導電部の性能低下を、より効果的に抑制することができる。
【0011】
(3)上記セラミックス体において、前記少なくとも1つの断面において、前記導電部における前記セラミックス材料部分の面積占有率は、20%以上、60%以下である構成としてもよい。本セラミックス体によれば、導電部におけるセラミックス材料部分の面積占有率が20%以上であるため、同面積占有率が20%未満である構成に比べて、セラミックス部と導電部との熱膨張差および接合強度の低下を抑制することができる。また、本セラミックス体によれば、導電部におけるセラミックス材料部分の面積占有率が60%以下であるため、同面積占有率が60%より高い構成に比べて、導電部として必要な導電性が確保できなくなることを抑制することができる。
【0012】
(4)上記セラミックス体において、前記導電部は、発熱抵抗体と電極と測温抵抗体との少なくとも1つを含む構成としてもよい。本セラミックス体によれば、発熱抵抗体と電極と測温抵抗体との少なくとも1つについて、特定元素の拡散による性能低下を抑制することができる。
【0013】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、保持装置、静電チャック、CVDヒータ等のヒータ装置、真空チャック、その他の半導体製造装置用部品の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態における静電チャック100の外観構成を概略的に示す斜視図である。
【
図2】実施形態における静電チャック100のXZ断面構成を概略的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
A.実施形態:
A-1.静電チャック100の構成:
図1は、実施形態における静電チャック100の外観構成を概略的に示す斜視図であり、
図2は、実施形態における静電チャック100のXZ断面構成を概略的に示す説明図である。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向といい、Z軸負方向を下方向というものとするが、静電チャック100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。
【0016】
静電チャック100は、対象物(例えばウェハW)を静電引力により吸着して保持する装置であり、例えば半導体製造装置の真空チャンバー内でウェハWを固定するために使用される。静電チャック100は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向(Z軸方向))に並べて配置されたセラミックス板10およびベース部材20を備える。セラミックス板10とベース部材20とは、セラミックス板10の下面S2(
図2参照)とベース部材20の上面S3とが上記配列方向に対向するように配置される。静電チャック100は、特許請求の範囲におけるセラミックス体に相当する。
【0017】
セラミックス板10は、上述した配列方向(Z軸方向)に略直交する略円形平面状の上面(以下、「吸着面」という)S1を有する板状部材である。り、セラミックス材料(例えば、アルミナや窒化アルミニウム等)を含む材料により形成されている。セラミックス板10の直径は例えば50mm~500mm程度(通常は200mm~350mm程度)であり、セラミックス板10の厚さは例えば1mm~10mm程度である。Z軸方向は、特許請求の範囲における第1の方向に相当する。また、本明細書では、Z軸方向に直交する方向を「面方向」という。
【0018】
図2に示すように、セラミックス板10の内部には、導電性材料により形成されたチャック電極40が配置されている。Z軸方向視でのチャック電極40の形状は、例えば略円形である。チャック電極40に電源(図示しない)から電圧が印加されると、静電引力が発生し、この静電引力によってウェハWがセラミックス板10の吸着面S1に吸着固定される。
【0019】
セラミックス板10の内部には、また、それぞれ導電性材料により形成された、発熱用抵抗体50と、発熱抵抗体用ドライバ51と、測温用抵抗体60と、測温抵抗体用ドライバ70と、各種ビアとが配置されている。本実施形態では、発熱用抵抗体50はチャック電極40より下側に配置され、発熱抵抗体用ドライバ51は発熱用抵抗体50より下側に配置され、測温用抵抗体60は、発熱抵抗体用ドライバ51より下側に配置され、測温抵抗体用ドライバ70は測温用抵抗体60より下側に配置されている。チャック電極40、発熱用抵抗体50、発熱抵抗体用ドライバ51、測温用抵抗体60、測温抵抗体用ドライバ70、各種ビアは、特許請求の範囲における導電部に相当する。また、セラミックス板10のうち、これらの導電部(チャック電極40等)に隣接するセラミックス部分11は、特許請求の範囲におけるセラミックス部に相当する。導電部およびセラミックス板10のセラミックス部分11の形成材料については後で詳説する。
【0020】
ベース部材20は、例えばセラミックス板10と同径の、または、セラミックス板10より径が大きい円形平面の板状部材であり、例えば金属(アルミニウムやアルミニウム合金等)により形成されている。ベース部材20の直径は例えば220mm~550mm程度(通常は220mm~350mm)であり、ベース部材20の厚さは例えば20mm~40mm程度である。
【0021】
ベース部材20は、セラミックス板10の下面S2とベース部材20の上面S3との間に配置された接合部30によって、セラミックス板10に接合されている。接合部30は、例えばシリコーン系樹脂やアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂等の接着材により構成されている。接合部30の厚さは、例えば0.1mm~1mm程度である。
【0022】
ベース部材20の内部には冷媒流路21が形成されている。冷媒流路21に冷媒(例えば、フッ素系不活性液体や水等)が流されると、ベース部材20が冷却され、接合部30を介したベース部材20とセラミックス板10との間の伝熱(熱引き)によりセラミックス板10が冷却され、セラミックス板10の吸着面S1に保持されたウェハWが冷却される。これにより、ウェハWの温度制御が実現される。
【0023】
静電チャック100は、発熱用抵抗体50への給電のための構成を備えている。具体的には、静電チャック100には、一対の端子用孔(図示しない)が形成されており、各端子用孔には給電端子(図示しない)が収容されている。発熱用抵抗体50は、中継ビア53を介して、発熱抵抗体用ドライバ51に電気的に接続されており、発熱抵抗体用ドライバ51は、ビアや電極パッド(共に図示しない)等を介して互いに給電端子に電気的に接続されている。電源(図示しない)から給電端子、電極パッド、ビア、発熱抵抗体用ドライバ51、および、中継ビア53を介して発熱用抵抗体50に電圧が印加されると、発熱用抵抗体50が発熱する。
【0024】
また、静電チャック100は、測温用抵抗体60への給電のための構成を備えている。具体的には、
図2に示すように、静電チャック100には、ベース部材20の下面S4からセラミックス板10の内部に至る一対の端子用孔22が形成されており、各端子用孔22には給電端子12が収容されている。測温用抵抗体60は、中継ビア73を介して、測温抵抗体用ドライバ70に電気的に接続されており、測温抵抗体用ドライバ70は、給電側ビア75や電極パッド77を介して給電端子12に電気的に接続されている。電源(図示しない)から給電端子12、電極パッド77、給電側ビア75、測温抵抗体用ドライバ70、および、中継ビア73を介して測温用抵抗体60に電圧が印加されると、測温用抵抗体60に電流が流れる。測温用抵抗体60は、温度が変化すると抵抗値が変化する導電性材料により形成されている。具体的には、測温用抵抗体60は、温度が高くなるほど抵抗値が高くなる。また、静電チャック100は、測温用抵抗体60に印加された電圧と測温用抵抗体60に流れる電流とを測定するための構成(例えば、電圧計や電流計(いずれも図示しない))を有している。そのため、本実施形態の静電チャック100では、測温用抵抗体60の電圧の測定値と測温用抵抗体60の電流の測定値とに基づき、測温用抵抗体60の温度を測定(特定)することができる。
【0025】
A-2.セラミックス板10のセラミックス部分11および導電部の形成材料:
セラミックス板10のセラミックス部分11は、セラミックス材料と、希土類とアルカリ金属とアルカリ土類金属とのいずれかに属する少なくとも一種の特定元素と、を含んでいる。具体的には、セラミックス部分11には、セラミックス材料に加えて、焼結助剤が含まれており、特定元素は、例えば焼結助剤の構成元素としてセラミックス部分11に含まれている。導電部は、導電材料部分とセラミックス材料部分とを有する。セラミックス材料部分は、セラミックス板10のセラミックス部分11に含まれる同種のセラミックス材料を含んでいる。導電材料部分は、主成分として、レニウム(Re)を含んでいる。
【0026】
また、本実施形態のセラミックス板10は、次の第1の要件を満たす。
第1の要件:「上下方向(Z軸方向)に平行な少なくとも1つの特定断面に現れている導電材料部分におけるレニウムの面積占有率は、90%より高い。」
レニウムの面積占有率は、導電材料部分における所定の単位領域の全体面積に対する、該単位領域内に存在するレニウムの総面積の割合である。なお、上下方向(Z軸方向)に平行な少なくとも1つの断面は、セラミックス板10のセラミックス部分11と導電部とが隣接している部分が現れている断面であればよい。
【0027】
また、本実施形態のセラミックス板10は、さらに、次の第2の要件を満たす。
第2の要件:「上記特定断面において、導電部における特定元素の面積占有率は、10%以下である。」
なお、ここでいう「10%以下」には、導電部における特定元素の面積占有率が0%であることも含まれる。
【0028】
また、本実施形態のセラミックス板10は、さらに、次の第3の要件を満たす。
第3の要件:上記特定断面において、導電部におけるセラミックス材料部分の面積占有率は、20%以上、60%以下である。」
【0029】
A-3.静電チャック100の製造方法:
次に、本実施形態における静電チャック100の製造方法を説明する。はじめに、導電部が内部に配置された板状のセラミックス成形体を作製する。セラミックス成形体の作製は、例えば、公知のシート積層法やプレス成形法により行うことができる。
【0030】
シート積層法によるセラミックス成形体の作製方法の一例は、次の通りである。まず、窒化アルミニウム(AlN)粉末100重量部に、酸化イットリウム(Y2O3)粉末1重量部と、アクリル系バインダ20重量部と、分散剤と可塑剤とを適量加えて混合物に、トルエン等の有機溶剤を加えて、ボールミルにて24時間混合し、得られた混合物をドクターブレード法によってシート状に成形することにより、複数枚のセラミックスグリーンシートを作製する。酸化イットリウムは、窒化アルミニウムの焼結助剤の一例である。また、ビア用インクや電極用インクは、次のように作製される。所定量のレニウム粉末と窒化アルミニウム粉末とを秤量し、バインダ溶剤13.5重量部を加えて、得られた混合物を混練することにより、電極用インク等を作製する。
【0031】
そして、所定のセラミックスグリーンシートに対して、スルーホールの形成やビア用インクの充填、導電部(チャック電極40や発熱用抵抗体50等)の形成のための電極用インクの塗布等の必要な加工を行う。電極用インクが塗布された箇所が、導電部となる。その後、複数のセラミックスグリーンシートを積層して熱圧着し、所定のサイズに加工することにより、セラミックス成形体を得る。次に、セラミックス成形体を窒素中で、例えば550℃で12時間、脱脂して、脱脂体を得る。得られた脱脂体を、加湿した水素窒素雰囲気で、所定の温度(例えば1900℃)で4時間、焼成することにより、セラミックス板10を作製する。
【0032】
次に、セラミックス板10とベース部材20とを、接合部30を介して接合する。その後、必要により後処理(外周の研磨、端子の形成等)を行う。以上の製造方法により、上述した構成の静電チャック100が製造される。
【0033】
A-4.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態の静電チャック100では、導電部のうち、導電部とセラミックス部分11とが隣接する第1の方向に平行な少なくとも1つの特定断面に現れている導電材料部分におけるレニウムの面積占有率は、90%より高い(第1の要件)。すなわち、導電材料部分においてレニウムが支配的に存在する。ここで、レニウムは、タングステン(W)やモリブデン(Mo)等に比べて、炭化しにくい。このため、本実施形態の静電チャック100によれば、導電材料部分が炭化しにくいため、導電部の性能低下(例えば抵抗値の局所的な増加や抵抗値のばらつき等)を抑制することができる。
【0034】
また、上述したように、セラミックス板10の焼成過程において、セラミックス部分11と導電部とが同時焼成される。この際、仮に、導電部の導電材料部分の主成分が、高融点材料のタングステンやモリブデン等である場合、焼成過程において、セラミックス部分11の前駆体(上述のセラミックス成形体のセラミックスグリーンシート部分)に含まれる焼結助剤の成分元素(例えばイットリウム(Y) 以下、「特定元素」という)が、導電部の前駆体(電極用インク等)へと軟化流動する。その結果、焼成後において、導電材料部分内において、導電材料の粒子同士の間に、比較的に導電性が低い特定元素が介在し、導電部の性能低下(例えば抵抗値の局所的な増加や抵抗値のばらつき等)を招くおそれがある。これに対して、本実施形態の静電チャック100では、上記特定断面に現れている導電材料部分におけるレニウムの面積占有率は、90%より高い。これにより、セラミックス板10の焼成過程において、セラミックス部分11の前駆体に含まれる特定元素が、導電部の前駆体へと軟化流動する前に、低融点材料であるレニウムによって導電部の焼結を進めることができるため、特定元素の拡散による導電部の性能低下を抑制することができる。
【0035】
また、本実施形態では、上記特定断面において、導電部における特定元素の面積占有率は、10%以下である(第2の要件)ことが好ましい。この場合、本実施形態の静電チャック100によれば、導電部における特定元素の面積占有率が10%より高い構成に比べて、特定元素の拡散による導電部の性能低下を、より効果的に抑制することができる。
【0036】
また、本実施形態では、導電部におけるセラミックス材料部分の面積占有率が20%以上であるため、同面積占有率が20%未満である構成に比べて、セラミックス部と導電部との熱膨張差および接合強度の低下を抑制することができる。また、本実施形態の静電チャック100によれば、導電部におけるセラミックス材料部分の面積占有率が60%以下であるため、同面積占有率が60%より高い構成に比べて、導電部として必要な導電性が確保できなくなることを抑制することができる。
【0037】
A-5.性能評価:
複数のセラミックス板(セラミックス板10)のサンプルを作製し、作製された複数のセラミックス板のサンプルを用いて性能評価を行った。
図3は、性能評価結果を示す説明図である。
図3中の「導電材料部分の成分元素」は、導電部のうち、導電材料部分を構成する元素(導電材料)を意味する。また、「セラミックス材料部分の面積占有率(%)」は、導電部におけるセラミックス材料部分の面積占有率を意味する。なお、各サンプルにおける導電材料部分の成分元素およびセラミックス材料部分の面積占有率は、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)の定量分析により特定することができる。
【0038】
A-5-1.各サンプルについて:
図3に示すように、性能評価は、セラミックス板のサンプル1~8を対象として行った。サンプル1~8は、いずれも、セラミックス材料として、AlNが用いられている点で共通するが、導電材料部分の成分元素と、セラミックス材料部分の面積占有率との少なくとも1つが互いに異なる。
【0039】
サンプル1~3では、導電材料部分の成分元素は、レニウム(含有率(vol%)100%)であり、したがって、特定断面に現れている導電材料部分におけるレニウムの面積占有率は、100%である。すなわち、サンプル1~3は、第1の要件を満たす。また、サンプル1~3では、セラミックス材料部分の面積占有率は、互いに異なるが、20%以上、60%以下である。すなわち、サンプル1~3は、いずれも、第3の要件を満たす。
【0040】
一方、サンプル4,5では、導電材料部分の成分元素は、タングステン(含有率100%)であり、したがって、特定断面に現れている導電材料部分におけるレニウムの面積占有率は、0%である。また、サンプル6,7では、導電材料部分の成分元素は、モリブデン(含有率100%)であり、したがって、特定断面に現れている導電材料部分におけるレニウムの面積占有率は、0%である。また、サンプル8では、導電材料部分の成分元素は、タングステン(含有率97%)とレニウム(含有率3%)であり、したがって、特定断面に現れている導電材料部分におけるレニウムの面積占有率は、3%である。すなわち、サンプル4~8は、いずれも、第1の要件を満たさない。なお、サンプル4~8では、セラミックス材料部分の面積占有率は、互いに異なるが、20%以上、60%以下である。すなわち、サンプル4~8は、いずれも、第3の要件を満たす。
【0041】
A-5-2.評価方法について:
図3中の「特定元素の移動」は、セラミックス部分11に含まれる焼結助剤の構成成分である特定元素(例えばイットリウム)の導電部内への移動(特定元素の軟化流動)の有無を意味する。また、
図3中の「導電部のネッキングの有無」は、導電部における導電部を構成する金属同士のネッキングの有無を意味する。また、
図3中の「炭化」は、導電材料の炭化の有無を意味する。
【0042】
これらは、次のようにして評価した。各サンプルのセラミックス板を、導電部が露出するように破断し、その破断面に対して旋盤によって鏡面加工を施した。セラミックス板における鏡面加工後の面を、EPMAにより分析した。具体的には、導電部について、50μm程度の長さ分を測定できるように、EPMAにおける測定視野を調整した。EPMAによって元素マッピングを行って、セラミックス板における鏡面加工後の面に存在する各元素を検出した。このマッピング分析結果から、導電部内に特定元素の分布が確認されなかったサンプルについては、特定元素の移動無しと評価し、導電部内に特定元素の分布が確認されたサンプルについては、特定元素の移動有りと評価した。特定元素の移動無しとは、第2の要件について、導電部における特定元素の面積占有率が0%であることを意味する。なお、マッピング分析結果から、導電部とセラミックス部との境界を確認することができる。
【0043】
また、マッピング分析結果から、導電部のネッキングの有無を評価した。また、マッピング分析結果から、導電材料(レニウム、タングステン、モリブデン)と炭素(C)とが重なり合うサンプルについては、導電材料の炭化有りと評価し、導電材料と炭素とが重ならないサンプルについては、導電材料の炭化無しと評価した。また、セラミックス材料部分の面積占有率については、マッピング分析結果から、各導電材料が検出された部分の面積を、該導電材料部分の面積とし、導電部のうち、アルミニウム(Al)と窒素(N)とが重なり合う部分の面積を、導電部におけるセラミックス材料部分の面積とした。なお、同様に、第2の要件における、導電部における特定元素の面積占有率も、マッピング分析結果から特定した。
【0044】
また、サンプル1,4,7については、XRD(粉末X線回折法)により、X線回折パターンを得た。
【0045】
A-5-3.評価結果について:
図3に示すように、サンプル1~3では、いずれも、特定元素の移動無し、導電部のネッキング無し「○」、導電材料の炭化無しと評価された。また、サンプル1のX線回折パターンからも、AlNとレニウムは検出されたが、炭化物は検出されなかった。この評価結果から、第1の要件(特定断面に現れている導電材料部分におけるレニウムの面積占有率は、90%より高い)を満たすことによって、導電材料部分の炭化や特定元素の移動が抑制されることによって、導電部の性能低下が抑制されることが分かる。また、サンプル1~3では、セラミックス材料部分の面積占有率が高いほど、比抵抗値(μΩ・cm)が大きくなっている。なお、レニウムは、タングステンやモリブデン等に比べて若干導電性が低い。このため、タングステンやモリブデン等を主成分とする導電部と同程度の導電性を確保するため、セラミックス材料部分の面積占有率は、40%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましい。
【0046】
一方、サンプル4,5では、いずれも、特定元素の移動有りと評価された。また、サンプル4では、導電材料の炭化有りと評価され、サンプル5では、導電材料の炭化無しと評価された。サンプル4のX線回折パターンからも、AlNとタングステンだけでなく、タングステンの炭化物が検出された。この評価結果から、タングステンは炭化しやすいことが分かる。また、サンプル4では、導電部のネッキング無し「×」と評価され、サンプル5では、導電部のネッキング有りと評価された。この評価結果から、タングステンを主成分とする導電部を備えるサンプル4,5では、セラミックス材料部分の面積占有率を60%以上とすると、導電部のネッキングが有ることにより、導電部における抵抗値の局所的な増加や抵抗値のばらつきが生じ、導電部の性能低下を招くことが分かる。また、特定元素の移動により、導電部の性能が変化するおそれがある。例えば、測温用抵抗体60は、特定元素の移動により導電部の抵抗値が変化すると、正確な温度測定ができなくなるおそれがある。逆に、サンプル3の評価結果によれば、第1の要件を満たす場合、セラミックス材料部分の面積占有率が60%であっても、導電部の性能低下を抑制できることが分かる。
【0047】
また、サンプル6,7では、いずれも、特定元素の移動無し、導電部のネッキング無し、導電材料の炭化有りと評価された。サンプル7のX線回折パターンからも、AlNとモリブデンだけでなく、モリブデンの炭化物が検出された。この評価結果から、モリブデンは特に炭化しやすいことが分かる。また、サンプル8では、特定元素の移動有り、導電部のネッキング無し、導電材料の炭化無しと評価された。この評価結果から、レニウムの面積占有率が低いと、特定元素の移動を抑制できないことが分かる。
【0048】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0049】
上記実施形態における静電チャック100の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。上記実施形態では、導電部として、セラミックス板10の内部に配置されたチャック電極40等を例示したが、導電部は、セラミックス板10の外部に配置されたもの(例えば電極パッド77やヒータ等でもよい)。また、上記実施形態において、第1の要件を満たせば、導電材料部分の成分元素は、レニウム以外に、他の導電材料(例えばタングステン、モリブデンや白金等)を含んでいてもよい。また、上記実施形態において、10に備えられた導電部のうちの一部だけに本発明を適用してもよい。ただし、特に、チャック電極40等での電極、発熱用抵抗体50、測温用抵抗体60は、特に均一な導電特性を要求されるため、本発明を適用することが有効である。なお、導電部は、高周波(RF)電極など、他の機能を有するものでもよい。
【0050】
また、上記実施形態において、セラミックス板10のセラミックス部分11に含まれる特定元素は、イットリウムに限らず、希土類とアルカリ金属とアルカリ土類金属とのいずれかに属する少なくとも一種の元素であればよい。また、上記実施形態において、静電チャック100は、第2の要件および第3の要件の少なくとも一方を満たさないとしてもよい。
【0051】
上記実施形態では、第1の方向として、静電チャック100の上下方向(Z軸方向)を例示したが、第1の方向は、セラミックス板10において、導電部とセラミックス部分11とが隣接する方向であればよく、例えば面方向でもよい。
【0052】
また、本発明は、静電引力を利用してウェハWを保持する静電チャック100に限らず、例えば、セラミックス板の表面上に対象物を保持する他の保持装置(例えば、CVDヒータ等のヒータ装置や真空チャック等)にも適用可能である。要するに、本発明は、導電部と、該導電部に隣接するセラミックス部と、を備えるセラミックス体に適用可能である。
【符号の説明】
【0053】
10:セラミックス板 11:セラミックス部分 12:給電端子 13:バインダ溶剤 20:ベース部材 21:冷媒流路 22:端子用孔 30:接合部 40:チャック電極 50:発熱用抵抗体 51:発熱抵抗体用ドライバ 53:中継ビア 60:測温用抵抗体 70:測温抵抗体用ドライバ 73:中継ビア 75:給電側ビア 77:電極パッド 100:静電チャック S1:吸着面 S2:下面 S3:上面 S4:下面 W:ウェハ