(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-13
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】攪拌装置
(51)【国際特許分類】
B01F 27/80 20220101AFI20220203BHJP
B01F 35/71 20220101ALI20220203BHJP
B01F 33/00 20220101ALI20220203BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20220203BHJP
H01M 4/88 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
B01F7/16 F
B01F15/02 A
B01F15/02 B
B01F13/00 Z
H01M4/139
H01M4/88
(21)【出願番号】P 2019030467
(22)【出願日】2019-02-22
【審査請求日】2021-11-12
(31)【優先権主張番号】P 2018096714
(32)【優先日】2018-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000225016
【氏名又は名称】プライミクス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大畠 積
(72)【発明者】
【氏名】森安 信彦
(72)【発明者】
【氏名】和仁 崇行
(72)【発明者】
【氏名】古市 尚
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-125454(JP,A)
【文献】特開2003-047836(JP,A)
【文献】特開2015-044156(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 1/00- 5/26
B01F 7/00- 7/32
H01M 4/139
H01M 4/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器と、この容器の内壁面のわずかに内側で高速回転する回転部材とを備え、前記回転部材による遠心力によって前記回転部材と前記内壁面との間に膜状に存在させた攪拌対象を攪拌する攪拌装置であって、
前記容器は、前記攪拌対象を構成する粉末成分を投入するための第1投入口、前記攪拌対象を構成する液体を含む成分を投入する第2投入口、及び前記粉末成分と液体を含む成分を混合した攪拌対象を排出するための排出口を有し、
前記第1投入口には前記容器の中心に配置され、容器外から容器内に向けて貫通する筒状の第1経路が接続されており、
前記第2投入口には前記第1経路の外周に隣接して配置され、容器外から容器内に向けて貫通する筒状の第2経路が接続されて
おり、
前記回転部材は、前記容器の内壁面に対してわずかな隙間を介して位置する筒状部を有しており、前記筒状部の内側に、水平に回転する水平部を有しており、
前記第1経路の先端は、前記第2経路の先端より、前記水平部に接近している
ことを特徴とする攪拌装置。
【請求項2】
前記筒状部は内外方向に貫通する複数の孔を有していることを特徴とする、請求項1に記載の攪拌装置。
【請求項3】
前記液体を含む成分は溶質成分を含み、
前記溶質成分の平均粒子径は前記粉末成分の平均粒子径より小さい
ことを特徴とする請求項1~2のいずれかに記載の攪拌装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散処理を行うための攪拌装置であって、たとえば、電池用電極材料を含む塗料の製造等に用いられる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポータブル電子機器用電源のほか、電気自動車用電源、風力・太陽光発電設備によって発電された電力の蓄積等、リチウムイオン二次電池や燃料電池に代表される電池需要は今後ますます増大することが予測される。また、電池自体の小型化、軽量化、安全性といった特性の一層の向上だけでなく、これら特性を備えた電池を効率的かつ低コストで生産することが要請されている。
【0003】
この課題を解決する有効な手段として、本願の発明者は、特許文献1に開示された攪拌装置システムを用いて電池電極用塗料等を製造する方法を提案している。
この攪拌装置システムに含まれる高速攪拌機は、容器とこの容器の内壁面のわずかに内側で高速回転する回転部材とを有する高速攪拌機に攪拌対象物を連続的に供給し、回転部材による遠心力によって回転部材と内壁面との間に膜状に存在させた状態で連続攪拌するというものである。
この攪拌装置システムを用いて電池電極用塗料を製造すると、電池の安全性を高度に維持しつつ、電池の高性能化に適した電極用塗料を効率的に製造することができる。
【0004】
しかしながら、前記攪拌装置システムでは、高速攪拌機に供給される攪拌対象は予め材料全体をかき混ぜて混合状態を平均化しておく必要があるため、前工程として予備化攪拌工程が設けられている。
予備攪拌工程では、例えばリチウムイオン二次電池用の電極用塗料を製造する場合、活物質としての粉末、溶媒、バインダー等といった複数の構成成分を含む攪拌対象物を混合し、材料全体の混合状態を平均化する必要があるため、比較的高価な大型装置を使用して時間をかけて処理を行う必要がある。
このため、前記攪拌装置システムを用いて電池電極用塗料等を製造する方法は、コスト面での課題があった。
【0005】
この問題を解決する方法としては、予備攪拌工程を経由せずに高速攪拌機に撹拌対象物に含まれる粉末成分を直接投入する方法を採用し、装置構成を簡略化するのが有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、高速攪拌機に撹拌対象物に含まれる全ての構成成分を直接投入する方法を使用する場合、高速攪拌機に投入された撹拌対象物の構成成分が投入経路内で滞留したり、攪拌容器内でダマ状の塊状物が生成したりして攪拌対象物の連続供給を阻害し、処理効率が著しく低下するという問題が生じる。
この問題を解決するために本発明の発明者らが鋭意検討したところ、高速攪拌機の攪拌対象の投入口の形状及びその配置を見直すことにより上記課題を解決できることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
具体的には、本発明の攪拌装置は、容器と、この容器の内壁面のわずかに内側で高速回転する回転部材とを備え、前記回転部材による遠心力によって前記回転部材と前記内壁面との間に膜状に存在させた攪拌対象を攪拌する攪拌装置であって、前記容器は、前記攪拌対象を構成する粉末成分を投入するための第1投入口、前記攪拌対象を構成する液体を含む成分を投入する第2投入口、及び前記粉末成分と液体を含む成分を混合した攪拌対象を排出するための排出口を有し、前記第1投入口には前記容器の中心に配置され、容器外から容器内に向けて貫通する筒状の第1経路が接続されており、前記第2投入口には前記第1経路の外周に隣接して配置され、容器外から容器内に向けて貫通する筒状の第2経路が接続されており、前記回転部材は、前記容器の内壁面に対してわずかな隙間を介して位置する筒状部を有しており、前記筒状部の内側に、水平に回転する水平部を有しており、前記第1経路の先端は、前記第2経路の先端より、前記水平部に接近している(請求項1)。
【0009】
好ましくは、前記筒状部は内外方向に貫通する複数の孔を有している(請求項2)。
【0010】
本発明の攪拌装置に投入する撹拌対象物は、前記液体を含む成分は溶質成分を含み、前記溶質成分の平均粒子径は前記粉末成分の平均粒子径より小さいことが好ましい(請求項3)。
【発明の効果】
【0011】
前記のように前記第1投入口には前記容器の中心に配置され、容器の天板部から容器内に向けて貫通する筒状の第1経路が接続されており、前記第2投入口には前記第1経路の外周に隣接して配置され、容器外から容器内に向けて貫通する筒状の第2経路が接続されていると、攪拌対象物を構成する粉末成分と液体を含む成分を分けつつ、攪拌容器内の特定箇所にピンポイントで投入できるようになる。
これにより、撹拌対象物の構成成分が投入経路内で滞留したり、攪拌容器内でダマ状の塊状物が生成したりする問題を解決できるだけでなく、回転部材による遠心力によって回転部材と内壁面との間に膜状に存在させた状態で行う攪拌の効果をより一層高めることができるようになる。
【0012】
また前記のように回転部材が前記容器の内壁面に対してわずかな隙間を介して位置する筒状部を有しており、前記筒状部の内側に、水平に回転する水平部を有していると、攪拌容器内に投入された粉末成分が、液体を含む成分と接触する前に水平部の回転によって水平方向に飛散するので、粉末成分と液体を含む成分の混合を理想的な状態で行うことができ、投入経路内での滞留やダマ状の塊状物の生成を抑制する効果や、回転部材による遠心力によって回転部材と内壁面との間に膜状に存在させた状態で行う攪拌の効果をより一層高めることができるようになる。
【0013】
さらに、第1経路の先端が、第2経路の先端より水平部に接近していると、第2経路の先端から排出される液体を含む成分の多くが、水平部との接触によって、直ちに回転部材の筒状部付近に移送される。
これにより、回転部材による遠心力によって回転部材と内壁面との間に攪拌対象を膜状に存在させた状態で行う攪拌の効果をより一層高めることができるようになる。
【0014】
さらに、回転部材の筒状部は、内外方向に貫通する複数の孔を有しているので、混合された撹拌対象物を回転部材による遠心力の作用によって、筒状部の内側から回転部材と内壁面との間に直接送り込むことができる。 これにより、上記のようにして投入された粉末成分及び液体を含む成分を、直ちに回転部材と内壁面との間に撹拌対象物を送り込んで攪拌対象を膜状に存在させた状態で行う攪拌処理を行うことができ、回転部材と内壁面との間に攪拌対象を膜状に存在させた状態で行う攪拌の効果をより一層高めることができるようになる。
【0015】
また、液体を含む成分が溶質成分を含み、この溶質成分の平均粒子径が粉末成分の平均粒子径より小さい場合、これらを含む攪拌処理対象物を高速攪拌機で処理すると、回転部材による遠心力によって回転部材と内壁面との間に攪拌対象を膜状に存在させた状態で行う攪拌の効果がより顕著に発現されるようになる。
【0016】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
図1は本発明の攪拌装置の内部構造を示す概略図である。
図1に示すように、本発明の攪拌装置1は、容器2と、この容器2の中心を垂直方向に延びる回転軸6を中心として高速回転する回転部材7とを有する。
容器2は、円筒状の内壁面21を有して上下方向に所定長さを有する円筒状空間を規定している。 回転軸6は、これに接続された高トルクモータ(図示せず)によって高速回転し、これに伴って回転部材7も高速で回転する。
回転部材7は、容器2の内壁面21に対して1~10mm程度のわずかな隙間を介して対向する筒状部8を有する。
筒状部8の内側には、水平に回転する水平部9が配置されている。水平部9の形状は円盤状であり、筒状部8と同心状となるように一体的に構成されている。水平部の下面側には回転軸が接続されており、水平部9は回転部材7とともに回転軸6を中心として高速で回転する。
【0019】
容器2の天板上方には、第1投入口3及び第2投入口4がそれぞれ設けられている。
第1投入口3は容器2の中心軸上に配置されており、さらに第1投入口3には、容器2の天板上方から容器2の下方に向けて貫通する筒状の第1経路31が接続されている。
第2投入口4は前記第1経路31の外周に隣接して配置され、さらに第2投入口4は、容器2の天板上方から容器2の下方に向けて貫通する筒状の第2経路41に接続されている。
容器2の下部には、処理した攪拌対象物を排出するための排出口5が設けられている。
【0020】
攪拌装置1への攪拌対象物の投入は、液体を含まない粉末成分と液体を含む成分に分けて行う。
液体を含まない粉末成分の投入は第1投入口3を経由して行われ、投入された粉末成分は第1経路31内を降下する。第1経路31の先端は容器2内の回転部材7の水平部9付近まで伸びており、投入された粉末成分は、第1経路31の先端開口から回転部材7の水平部9の中央付近に向けて排出される。
第1経路31の先端から排出された粉末成分は、高速で回転する水平部9に接触し、その作用によって回転軸6の径方向(水平方向)に飛散する。
【0021】
液体を含む成分の投入は第2投入口4を経由して行われ、投入された液体成分は第2経路41内を降下する。
第2経路4は第1経路3に比べて短く、容器2内側の先端開口が容器2内の比較的高い位置に配置されている。また、容器2内側の先端開口の直下は、回転部材7の筒状部8の内周面82に近接している。
これにより、容器2内側の先端開口から排出される液体を含む成分の多くは、直ちに回転部材7の筒状部8の内周面82付近に移送される。
【0022】
回転部材7の筒状部8の内周面82付近に到達した粉末成分及び液体を含む成分は、高速回転する回転部材7の筒状部8によって付加される遠心力により、筒状部8の内外方向に貫通する複数の孔(図示せず)を経由して、容器2の内壁面21と回転部材7の筒状部8の間のわずかな隙間に移送される。
容器2の内壁面21と回転部材7の外周面81のわずかな隙間では、攪拌対象が回転部材7による遠心力の作用により容器2の内壁面21に押し付けられ、回転部材7の外周面81と、容器2の内壁面との間の隙間に行き渡り膜状となる。さらに、膜状となった攪拌対象物は、回転部材7の回転に伴って容器2内を高速で旋回する。
このとき、膜状となった攪拌対象物が、回転する回転部材7の外周面81と、静止する容器2の内壁面との間で強大な剪断力を受け続け、その強大なエネルギーによって高レベルでの分散が施される。
以上のようにして処理された攪拌対象物は、容器2の下方空間に向けて順次降下し、排出口5から容器2の外に排出される。
【0023】
次に、本発明の攪拌装置及び比較例の攪拌装置を、リチウムイオン二次電池の電極用塗料の製造に適用した例について説明する。
【0024】
(実施例)
本実施例では、
図1に示す本発明の攪拌装置を使用し、粉末成分としてリチウム二次電池用正極活物質(Ni-Co-Mn系(NCM))粉末(平均粒子径10.5μm)を第1投入口から投入し、液体を含む成分として導電材(カーボンブラック)及び結着剤(PVDF)を含む導電材スラリーを第2投入口から投入して、回転部材7及び水平部9を周速25m/secで回転させながら処理した。
(比較例)
本比較例では、
図2に示す特許文献1相当の攪拌装置を使用した。
本比較例の攪拌装置は、高速攪拌機300で処理する前に、攪拌対象物をある程度混合させておくための予備攪拌タンク100を有している。
予備攪拌タンク100は、垂直状の回転軸101周りに高速回転する小径の攪拌羽根102と、同じく垂直状の回転軸103周りに低速回転する大径の攪拌羽根104とを備えており、材料ホッパ120、130から投入された材料を溜めて、両攪拌羽根102、104を回転させることにより、攪拌対象物を予備攪拌する。
小径の攪拌羽根102が高速回転することにより、撹拌対象物を混合させ、大径の攪拌羽根104が回転することにより、攪拌対象物の混合状態を平均化する。
次いで混合状態が平均化された撹拌対象物は、高速攪拌機300に移送されて処理される。
【0025】
高速攪拌機300は、容器310と、この容器310の中心を垂直方向に延びる回転軸350を中心として高速回転する回転部材330とを有する。
上記容器310は、略円筒状の内壁面311を有して上下方向に所定長さを有する円筒状空間を規定している。上記回転軸350は、容器310の上部に搭載された高トルクモータ351によって高速回転させられる。上記容器310の底部には、上記下部空間につながる材料供給口314が設けられており、この材料供給口314から、混合状態が平均化された撹拌対象物が供給される。上記容器310の上部には、上記上部空間につながる排出口315が設けられており、スラリー状の攪拌済み材料が外部に排出される。
本比較例では、実施例で使用したNi-Co-Mn系(NCM)活物質粉末、導電材(カーボンブラック)及び結着剤(PVDF)を実施例と同じ配合比で予備攪拌処理した後、実施例と同じ周速25m/secで高速攪拌300による処理を行った。
【0026】
以上のようにして作製された実施例及び比較例のリチウムイオン二次電池の電極用塗料を比較したところ、実施例の塗料は比較例の塗料に比べ、導電材の凝集物の生成を抑制することができ、さらに長期に亘って導電材の再凝集を抑制することができ、極めて高度な安全性が要求される電池に好適な電極用塗料を製造することができることが確認できた。
【0027】
なお上記例においては、粉末成分としてリチウム二次電池用正極活物質(Ni-Co-Mn系(NCM))粉末、液体を含む成分として導電材(カーボンブラック)及び結着剤(PVDF)を含む導電材スラリーを使用したが、これらの物質に限らず、他の活物質、添加材であっても同等の効果を得ることができる。
【0028】
本発明に係る攪拌装置は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る攪拌装置の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0029】
1 攪拌装置
2 容器
3 第1投入口
4 第2投入口
5 排出口
6 回転軸
7 回転部材
8 筒状部
9 水平部
10 メカニカルシール
21 内壁面
31 第1経路
41 第2経路
81 外周面
82 内周面
100 予備攪拌タンク
101,103 回転軸
102,104 攪拌羽根
110 ジャケット
120,130 材料ホッパ
140 排出口
150 ポンプ
200 貯蔵タンク
201 回転軸
202 攪拌羽根
210 ジャケット
220 ポンプ
300 高速攪拌機
310 容器
311 内壁面
314 材料供給口
315 排出口
330 回転部材
350 回転軸
351 高トルクモータ
410 排出経路
411 冷却管