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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-13
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置用冷却装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/20 20060101AFI20220118BHJP
【FI】
H01J37/20 E
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019188313
(22)【出願日】2019-10-15
(65)【公開番号】P2021064515
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2020-11-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 将司
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-232542(JP,A)
【文献】実開昭50-137962(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体冷媒を貯留する主貯留空間を有する主貯留容器と、
前記主貯留容器を取り囲む副貯留容器と、
前記主貯留容器及び前記副貯留容器を収容したハウジングと、
前記主貯留容器に連結された部材であって、荷電粒子線が照射される試料を冷却するために熱輸送を行う熱伝導部材と、
を含み、
前記主貯留容器と前記副貯留容器の間に前記液体冷媒の気化により生じた気化冷媒を貯留する副貯留空間が設けられ、
前記副貯留容器の下部が前記主貯留容器の下部に連結され、これにより前記主貯留容器が前記副貯留容器を介して前記ハウジングにより保持され、
前記主貯留容器の上部は周囲の構造物に接していない隔離状態にある、
ことを特徴とする荷電粒子線装置用冷却装置。
【請求項2】
請求項1記載の冷却装置において、
前記主貯留容器は前記副貯留容器を介して前記ハウジングに熱的に連結されている、
ことを特徴とする荷電粒子線装置用冷却装置。
【請求項3】
請求項記載の冷却装置において、
前記ハウジングが前記副貯留容器の上部を保持している
ことを特徴とする荷電粒子線装置用冷却装置。
【請求項4】
請求項記載の冷却装置において、
前記主貯留容器の底板及び前記副貯留容器の底板として機能する共通底板を含み、
前記共通底板が前記熱伝導部材に連結され、
前記共通底板により前記副貯留空間の底が画定される、
ことを特徴とする荷電粒子線装置用冷却装置。
【請求項5】
請求項記載の冷却装置において、
前記主貯留空間へ液体冷媒を導入する導入配管を含み、
前記導入配管の下端開口のレベルは、前記主貯留容器の上部開口のレベルよりも下である、
ことを特徴とする荷電粒子線装置用冷却装置。
【請求項6】
請求項記載の冷却装置において、
前記副貯留空間から上昇してきた気化冷媒を排出する排出配管を含み、
前記排出配管は前記主貯留容器から隔てられつつ前記副貯留容器に連結されている、
ことを特徴とする荷電粒子線装置用冷却装置。
【請求項7】
請求項1記載の冷却装置において、
前記副貯留容器と前記ハウジングとの間に設けられた輻射シールドを含む、
ことを特徴とする荷電粒子線装置用冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は荷電粒子線装置用冷却装置に関し、特に、液体冷媒を貯留する冷却装置の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子線装置として、透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡、イオンビーム照射装置、等が知られている。荷電粒子線装置において、観察、分析又は加工の対象となる試料を冷却しなければならない場合、冷却装置が利用される。
【0003】
例えば、透過型電子顕微鏡においては、冷却系によって、試料ホルダによって保持された試料が冷却される。冷却系は、熱交換装置として機能する冷却装置、それに連結された熱伝導部材、等により構成される。熱伝導部材が、試料を保持している部材や試料を取り囲む部材に連結される。
【0004】
一般に、冷却装置は、液体冷媒を貯留する貯留容器と、その貯留容器を収容するハウジングと、を含み、ハウジングの内部空間が真空とされている(例えば特許文献1を参照)。貯留容器の上部には、複数の配管が連結されており、ハウジングが複数の配管を介して貯留容器を保持している。液体冷媒は、液体窒素、液体ヘリウム、等である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-149791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
荷電粒子線装置用の冷却装置において、液体冷媒を貯留する貯留容器へ多量の熱が伝わると、その内部の液体冷媒が激しく気化、蒸発する。つまりバブリングが生じる。バブリングにより生じた振動が荷電粒子線装置の動作に大きな影響を与える。バブリング抑制のためには、外界からの液体冷媒への熱流入をできるだけ低減する必要がある。液体冷媒の消費量を少なくする観点からも、外界から液体冷媒への熱流入をできるだけ低減することが望まれる。
【0007】
本開示の目的は、荷電粒子線装置用の冷却装置において、貯留された液体冷媒への熱流入を少なくすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る荷電粒子線装置用の冷却装置は、液体冷媒を貯留する主貯留空間を有する主貯留容器と、前記主貯留容器を取り囲む副貯留容器と、前記主貯留容器及び前記副貯留容器を収容したハウジングと、前記主貯留容器に連結された部材であって、荷電粒子線が照射される試料を冷却するために熱輸送を行う熱伝導部材と、を含み、前記主貯留容器と前記副貯留容器の間に前記液体冷媒の気化により生じた気化冷媒を貯留する副貯留空間が設けられた、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、荷電粒子線装置用の冷却装置において、貯留された液体冷媒への熱流入を少なくできる。これにより、バブリングを抑制でき、あるいは、液体冷媒の消費量を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態に係る冷却装置が取り付けられた透過型電子顕微鏡を示す垂直断面図である。
図2】第1実施形態に係る冷却装置を示す垂直断面図である。
図3】第1実施形態に係る冷却装置を示す水平断面図である。
図4】比較例に係る冷却装置を示す垂直断面図である。
図5】第2実施形態に係る冷却装置を示す垂直断面図である。
図6】第3実施形態に係る冷却装置を示す垂直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
(1)実施形態の概要
実施形態に係る荷電粒子線装置用冷却装置は、主貯留容器、副貯留容器、ハウジング、及び、熱伝導部材を有する。主貯留容器は、液体冷媒を貯留する主貯留空間を有する。副貯留容器は、主貯留容器を取り囲む形態を有する。ハウジングは、主貯留容器及び副貯留容器を収容したケーシングである。熱伝導部材は、主貯留容器に連結された部材であって、荷電粒子線が照射される試料を冷却するために熱輸送を行う部材である。主貯留容器と副貯留容器の間に、液体冷媒の気化により生じた気化冷媒を貯留する副貯留空間が設けられる。
【0013】
上記構成によれば、主貯留容器と副貯留容器の間に、換言すれば、副貯留容器の内部に、副貯留空間が設けられているので、主貯留空間で生じた気化冷媒が主貯留空間から副貯留空間へ移動し、そこに蓄積される。副貯留容器は気化冷媒によって常時冷やされる。主貯留空間で生じた気化冷媒の温度は液体冷媒の温度に近いので、主貯留容器を低温ブラケットで包み込んだ状態を形成できる。外界からの輻射熱が、そのような低温ブラケットを経由して、主貯留容器内の液体冷媒に流入することになる。これにより、液体冷媒への熱流入を抑制することが可能となる。
【0014】
実施形態において、副貯留容器は、主貯留容器を取り囲むように設けられる。副貯留容器に底を設ければ、その内部に気化冷媒を自然に溜められる。副貯留容器に底を設けずにその内部に気化冷媒が溜まる又は流通するようにしてもよい。副貯留空間が主貯留空間の下側及び/又は下側に及ぶようにしてもよい。実施形態において、ハウジングの内部空間は真空空間である。荷電粒子線装置として、透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡、イオンビーム照射装置、等があげられる。
【0015】
実施形態においては、主貯留容器は副貯留容器を介してハウジングに熱的に連結されている。この構成によれば、ハウジングから主貯留容器までの熱伝導経路を長くして、また、その熱伝導経路上に熱吸収部分を設けて、主貯留容器への熱流入を低減できる。
【0016】
実施形態においては、ハウジングが副貯留容器の上部を保持し、副貯留容器の下部が主貯留容器の下部に連結されている。これにより主貯留容器が副貯留容器を介してハウジングにより保持されている。主貯留容器の上部は、周囲の構造物に接していない隔離状態にある。
【0017】
上記構成によれば、ハウジングから副貯留容器の上部へ伝わった熱が、副貯留容器の上部から下部へ伝わり、続いて、副貯留容器の下部から主貯留容器の下部へ伝わる。副貯留容器内には気化冷媒が存在し、副貯留容器それ自身がかなり冷却された状態にあるので、換言すれば、その内部の気化冷媒が熱を吸収するので、主貯留容器内の液体冷媒への熱流入が低減される。副貯留空間内では、熱を吸収して軽くなった気化冷媒が自然に上方へ移動して、最終的に外部へ排出される。その代わりに、主貯留空間内で生じた冷たい気化冷媒が副貯留空間内に入り込む。それらの作用が同時に進行する。これにより副貯留容器は常時、冷たい状態におかれる。
【0018】
実施形態において、冷却装置は、主貯留容器の底板及び副貯留容器の底板として機能する共通底板を含む。共通底板が熱伝導部材に連結されている。共通底板により副貯留空間の底が画定されている。この構成によれば冷却装置の部品点数を少なくできる。また、熱伝導効率を高められる。
【0019】
実施形態において、冷却装置は、主貯留空間へ液体冷媒を導入する導入配管を含む。導入配管の下端開口のレベルは、主貯留容器の上部開口のレベルよりも下である。この構成によれば、液体冷媒が副貯留容器内へ入ることを防止できる。
【0020】
実施形態において、冷却装置は、副貯留空間から上昇してきた気化冷媒を排出する排出配管を含む。排出配管は主貯留容器から隔てられつつ副貯留容器に連結されている。実施形態において、冷却装置は、副貯留容器とハウジングとの間に設けられた輻射シールドを含む。この構成によれば、主貯留容器への輻射熱の流入をより低減できる。
【0021】
(2)実施形態の詳細
図1には、第1実施形態に係る冷却装置10が取り付けられた透過型電子顕微鏡12が示されている。冷却装置10が他の荷電粒子線装置に取り付けられてもよい。
【0022】
透過型電子顕微鏡12は鏡筒14を有する。鏡筒における試料室16内には観察対象である試料を保持した試料ホルダ18が設けられている。試料ホルダ18は保持機構20に保持されている。具体的には保持機構20におけるアーム21により試料ホルダ18が保持されている。鏡筒14の内部は真空であり、つまり、試料室16は真空室である。
【0023】
試料が生物試料等である場合、試料が冷却状態におかれる。試料の冷却を行うための装置が冷却装置10である。シールド22は試料ホルダ18を取り囲む部材である。シールド22により輻射熱が遮断される。試料ホルダ18と冷却装置10の間には熱伝導性の良好な硬質の材料(例えば銅)で構成された熱伝導部材24が設けられている。熱伝導部材24は例えば棒状の形態を有する。
【0024】
熱伝導部材24の先端部と試料ホルダ18の間には柔軟性を有する熱伝導部材26が設けられている。熱伝導部材24の先端部とシールド22との間にも柔軟性を有する熱伝導部材28が設けられている。熱伝導部材26,28は、熱伝導性の良好な軟質の材料(例えば銀箔)からなる。なお、シールド22には、電子線を通過させる入射開口及び出射開口が設けられている。なお、上方から見て、熱伝導部材24の中心軸線とアーム21の中心軸線は交差している。
【0025】
冷却装置10について説明する。ハウジング30は円筒状の形態を有する。ハウジング30の内部空間36は真空である。ハウジング30内には、円筒状の主貯留容器32が配置されており、また、主貯留容器32を包み込むように又は囲み込むように、円筒状の副貯留容器34が配置されている。主貯留容器32は液体冷媒容器として機能する。その内部空間は主貯留空間38であり、そこに液体冷媒が溜められる。液体冷媒は、例えば、液体窒素である。主貯留空間38の中心軸に沿って液面センサ44が配置されている。液面センサ44は断熱構造を有し、それを媒介とした熱伝導は僅かである。
【0026】
副貯留容器34は気化冷媒を貯留するためのものである。副貯留容器34は気化冷媒容器として機能する。副貯留容器34の内部空間は副貯留空間42である。換言すれば、主貯留容器32と副貯留容器34との間の隙間が副貯留空間42である。主貯留空間38において液体冷媒が蒸発、気化し、気化冷媒が生じる。その気化冷媒は主貯留空間38の上部からその周囲に設けられた副貯留空間42へ流れ込む。副貯留空間42において輻射熱等により温度が上がった(つまり軽くなった)気化冷媒は副貯留空間42を上昇し、外部へ流れ出す。副貯留空間42には流れ出た気化冷媒の代わりに主貯留空間38からの冷たい気化冷媒が入り込む。それらの作用が同時に進行する。
【0027】
液面センサ44からの検出信号は信号線46を介して制御部48へ送られている。制御部48は検出信号に基づいて液体冷媒の供給を制御する。具体的には、タンク52を備えた冷媒供給部の動作を制御する。タンク52は液体冷媒の供給源である。冷媒供給部50からの液体冷媒が配管54を介して冷却装置10へ送られている。
【0028】
以下、図2を用いて冷却装置10の構成及び動作を詳述する。冷却装置10は、上述したように、ハウジング30、主貯留容器32及び副貯留容器34を有する。主貯留容器32の内部空間が主貯留空間38であり、副貯留容器34の内部空間が副貯留空間42である。主貯留空間38は液体冷媒を溜める円柱状の空間であり、副貯留空間42は気化冷媒を溜める環状の空間である。主貯留容器32及び主貯留空間38は、底部分を除いて、副貯留空間42に囲まれている。
【0029】
より詳しく説明すると、ハウジング30は、例えば、ステンレス等の金属により構成され、それは、円筒状の本体30A、円盤状の天井壁30B及び円盤状の底壁30Cを有する。本体30Aは、中空の繋ぎ部材60の外端部に連結されている。繋ぎ部材60の内部空間とハウジング30の内部空間36は連なっている。繋ぎ部材60の内端部は鏡筒の外壁に連結されている。
【0030】
副貯留容器34は、例えば、ステンレス、銅等の金属で構成され、それは、本体34A及び天井壁34Bを有する。実施形態においては、本体34A及び天井壁34Bはステンレスで構成されている。共通底板61は円盤状の形態を有し、それが副貯留容器34の底壁として機能している。共通底板61は、熱伝導性の良好な材料(例えば銅)で構成される。
【0031】
主貯留容器32は、熱伝導性の良好な材料(例えば銅)で構成され、それは、本体32A及び開口32Bを有する。共通底板61が主貯留容器32の底壁として機能する。本体32Aは筒状の形態を有し、開口32Bは円形である。主貯留容器32は副貯留容器34内に閉じ込められている。もっとも、両者の底壁は上記のように一体化されている。
【0032】
上部構造63により、ハウジング30と副貯留容器34とが連結されている。換言すればハウジング30が上部構造63を介して副貯留容器34(及び主貯留容器32)を保持している。副貯留容器34は主貯留容器32等を保持している。整理すると、ハウジング30は、上部構造63を介して、副貯留容器34、共通底板61、主貯留容器32及び熱伝導部材24を保持している。
【0033】
上部構造63は、筒状部材62,66,70を有する。ハウジング30の天井壁30Bに対してそれらの筒状部材62,66,70が貫通しつつ固定されている。筒状部材62,66,70の下端部が副貯留容器34の天井壁34Bに連結されている。
【0034】
筒状部材62の内部を配管54が通過しており、その下端部分はノズル56を構成している。筒状部材62にはキャップ64が設けられており、それが配管54を保持している。ノズル56の下端開口(吐出口)は主貯留容器32の開口32Bを通過して主貯留空間38の内部まで進入している。これにより、ノズル56による液体冷媒の吐出時に(符号76参照)、液体冷媒が副貯留空間42に入ってしまうことが防止されている。
【0035】
液面センサ44は棒状体であり、それは筒状部材66の内部を通過している。筒状部材66にはキャップ68が設けられており、それが液面センサ44を保持している。筒状部材70は、気化冷媒を排出するポートとして機能する。筒状部材70にはキャップ72が設けられ、そこに配管74が連結されている。なお、筒状部材62,66,70は、例えば、ステンレス等の金属で構成される。キャップ64,68,72を熱絶縁性の良好な材料で構成してもよい。
【0036】
既に説明したように、3つの筒状部材62,66,70の中間部がハウジング30の天井壁30Bに固定されており、3つの筒状部材62,66,70の下端部が副貯留容器34の天井壁34Bに固定されている。これにより、ハウジング30が副貯留容器34及び主貯留容器32を保持している。もっとも、ハウジング30それ自体は、副貯留容器34に接触していない。それらの間には真空層が存在する。主貯留容器32の主要部(底部分を除く部分)は、周囲構造物から隔てられており、それは非接触状態にある。
【0037】
共通底板61は熱伝導部材24の端部24Aに固定されている。実際には、その固定によって副貯留容器34を通じてハウジング30により熱伝導部材24が保持されている。このように、ハウジング30は、上部構造63を介して、その内部の構造物全部を支持している。
【0038】
図2において、h1は副貯留空間42の天井レベルを示している。h2は主貯留容器32の開口レベルを示している。h3はノズル56の吐出開口レベルを示している。h1>h2>h3の関係がある。主貯留容器32内において液体冷媒が気化し、気化冷媒が生じた場合、符号78で示されるように、その気化冷媒は主貯留容器32の本体32Aの上縁を乗り越え、副貯留容器34内の副貯留空間42へ流れ込む。副貯留空間42では、輻射熱や伝導熱により温められて軽くなった気化冷媒が上昇する。その代わりに、主貯留空間38からの冷たい重い気化冷媒が副貯留空間42に流れ込む。上昇した気化冷媒は、符号80で示すように、副貯留容器34内の上部を経由し、筒状部材70の中に入り、配管74を介して外界へ放出される。配管74上に大気の進入を防止する逆流防止弁を設けてもよい。この構成によれば、大気の流入による霜又は氷の発生を防止できる。
【0039】
副貯留空間42内においては常時、冷たい気化冷媒が蓄えられることになる。副貯留容器34それ自体が低温状態におかれる。輻射熱82A,82Bに対して副貯留容器34(及び副貯留空間42)が輻射熱の遮蔽体又は吸収体として機能し、輻射熱82A,82Bが直接的に主貯留容器32に到達することが防止される。本体34Aのみならず天井壁34Bも輻射熱遮断機能を発揮する
【0040】
矢印A,B,C,D,Eで示されているように、上部構造63を介して、外界の熱が副貯留容器34の天井壁34Bへ流入する。その熱は、天井壁34Bから本体34Aに伝わり、続いて、本体34Aから共通底板61を介して主貯留容器32の本体32Aに伝わる。このように、折返しを有する熱伝導経路が構成されているので、しかもその途中に熱吸収部分が存在しているので、主貯留容器への熱伝導による熱流入量は非常に小さくなる。熱伝導経路上に複数の折返しを設けてもよい。
【0041】
以上のように、副貯留容器34及び副貯留空間42は、輻射の観点から見て、低温ブランケットとして機能する。副貯留容器34及び副貯留空間42は、熱伝導の観点から見て、熱吸収体として機能する。実施形態においては、液面センサ44が設けられており、そこからの検出信号に基づいて制御部が液体冷媒の供給量を制御するので、主貯留容器32から液体冷媒が溢れ出ることはない。主貯留容器32の上部に対する直接的な熱流入が回避されているので、主貯留容器32に比較的に多くの液体冷媒を入れてもバブリングが生じ難い。結果として、冷却装置10の冷却性能を著しく高められる。
【0042】
図3には、図2において符号82で示す断面が示されている。ハウジングの本体30A、副貯留容器の本体34A、及び、主貯留容器の本体32Aからなる同心円状の多重構造が構成されている。本体32Aの内部が主貯留空間38であり、本体34Aの内部が副貯留空間42である。本体30Aの内部空間36は真空空間である。
【0043】
図4には、比較例に係る冷却装置100が示されている。ハウジング102内に貯留容器104が設けられている。ハウジング102は上部構造116を介して貯留容器104を保持している。貯留容器104の底壁106が熱伝導部材108に連結されている。貯留容器104の内部空間が液体冷媒を貯留する貯留空間110である。そこでの気化により生じた気化冷媒は、符号114で示すように、貯留空間から外部へ追い出されている。
【0044】
比較例に係る構成によると、ハウジング102から出た輻射熱が貯留容器104へ容易に到達してしまう。また、矢印F,G,Hで示されているように、上部構造116を介して熱が貯留容器104へ直接的に伝わってしまう。これにより、貯留容器104内においてバブリングが生じ易くなる。特に、貯留容器104内に比較的に多くの液体冷媒を入れた場合にバブリングが生じ易くなる。また、その場合、液体冷媒の消費量が大きくなる。
【0045】
これに対して、図1乃至図3に示した第1実施形態に係る冷却装置によれば、副貯留容器及び副貯留空間により、比較例に比べて、主貯留容器内の液体冷媒に伝わる熱を大幅に低減でき、バブリングが効果的に抑制される。同時に、冷媒消費量が低減される。
【0046】
図5には、第2実施形態に係る冷却装置120が示されている。なお、既に説明した要素には同一符号を付しその説明を省略する。このことは次に説明する図6についても同様である。
【0047】
図5において、ハウジング30内において、主貯留容器32を包み込むように副貯留容器122が設けられている。副貯留容器122の底壁124は、主貯留容器32の中間位置に固定されている。すなわち、副貯留容器122は底板125まで達しておらず、副貯留容器122と底板125は非接触である。符号126はそれらの間のギャップを示している。
【0048】
この構成によれば、ギャップ126を介して、主貯留容器32への輻射熱の進入が懸念されるものの、副貯留容器122を媒介とした熱伝導部材127へ直接的な熱伝導を回避できる。
【0049】
図6には、第3実施形態に係る冷却装置130が示されている。ハウジング30内には、主貯留容器32が設けられており、それを包み込むように副貯留容器34が設けられている。副貯留容器34とハウジング30の間には、円筒状の輻射シールド132が設けられている。輻射シールド132は副貯留容器34の全体を非接触で包み込んでいる。輻射シールド132は例えば銅によって構成される。それは、符号132Aで示すように、上部構造63に固定されており、上部構造63に保持されている。輻射シールド132の下部には開口132Bが形成され、その開口132Bを熱伝導部材24が非接触で通過している。
【0050】
第3実施形態によれば、副貯留容器34に到達する輻射熱を低減でき、副貯留容器34の輻射熱遮断作用と相俟って、主貯留容器32に到達する輻射熱を大幅に低減することが可能となる。輻射シールド132の下部を熱伝導部材24に連結することも可能であるが、それらを非接触とすることにより、熱伝導部材24へ伝わる熱を低減できる。
【0051】
上記各実施形態によれば、主貯留容器内の液体冷媒への輻射による熱流入及び熱伝導による熱流入を効果的に抑制できる。主貯留容器内でのバブリングを低減できるので、バブリングによる振動問題を解消又は低減できる。これにより荷電粒子線装置の性能を維持又は向上することが可能となる。また、液体冷媒の消費量を低減できる。なお、上記冷却装置を荷電粒子線装置以外の装置へ設けてもよい。例えば、NMR測定装置へ上記冷却装置を設けてもよい。
【符号の説明】
【0052】
10 冷却装置、12 透過型電子顕微鏡、30 ハウジング、32 主貯留容器、34 副貯留容器、38 主貯留空間、42 副貯留空間。
図1
図2
図3
図4
図5
図6