(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-13
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】核水添反応用触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 23/46 20060101AFI20220203BHJP
B01J 35/10 20060101ALI20220203BHJP
C07C 5/10 20060101ALI20220203BHJP
C07C 13/28 20060101ALI20220203BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
B01J23/46 301Z
B01J35/10 301G
C07C5/10
C07C13/28
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2019502925
(86)(22)【出願日】2018-02-22
(86)【国際出願番号】 JP2018006392
(87)【国際公開番号】W WO2018159436
(87)【国際公開日】2018-09-07
【審査請求日】2021-01-22
(31)【優先権主張番号】P 2017036939
(32)【優先日】2017-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017036940
(32)【優先日】2017-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000228198
【氏名又は名称】エヌ・イーケムキャット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】特許業務法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】水崎 智照
(72)【発明者】
【氏名】上野 晋司
(72)【発明者】
【氏名】小松 晃
(72)【発明者】
【氏名】鈴鹿 弘康
(72)【発明者】
【氏名】和田 佳之
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-542210(JP,A)
【文献】国際公開第2006/114942(WO,A1)
【文献】特表2012-507120(JP,A)
【文献】特開2012-041335(JP,A)
【文献】特開平06-055073(JP,A)
【文献】特表2015-504414(JP,A)
【文献】国際公開第2006/006277(WO,A1)
【文献】V. MAZZIERI et al.,XPS, FTIR and TPR characterization of Ru/Al2O3 catalysts,Applied Surface Science,2003年04月15日,Vol.210, No.3/4,p.222-230
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C07C 5/10
C07C 13/28
C07B 61/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族化合物の芳香環のπ結合の少なくとも1つを水素化する核水添反応に使用される核水添反応用触媒であって、
担体と、前記担体上に担持される触媒粒子と、を含んでおり、
前記触媒粒子が、Ru(0価)とRu酸化物とを構成成分として含んでおり、
X線光電子分光分析法(XPS)により測定される表面近傍の分析領域における、Ru(0価)の割合R
Ru(atom%)と、Ru酸化物の割合R
RuOx(atom%)とが、下記式(1)の条件を満たしている、
核水添反応用触媒。
1.67≦(R
Ru/R
RuOx)≦
3.61・・・式(1)
【請求項2】
前記担体がアルミナ担体である、請求項1に記載の核水添反応用触媒。
【請求項3】
前記アルミナ担体について、BJH法により求められる細孔径PSが8.00nm~12.00nmであり、BJH法により求められる細孔容積PVが0.250cm
3/g~0.400cm
3/gである、
請求項1又は2に記載の核水添反応用触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族化合物の核水添反応に使用される触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、芳香族化合物の核水添反応は、高機能プラスチック製品の原料となるエポキシ樹脂やポリアミドイミド樹脂等を合成するために利用されている。そして、芳香族化合物の核水添反応に使用される触媒としてはルテニウム触媒が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2009-286747号公報)には、ポリウレタンフォーム製造用触媒、エポキシ硬化剤、レジスト剥離剤、鋼用腐食防止剤として有用なN,N-ジメチルシクロヘキシルアミン類を効率的に経済性良く製造する方法を提供することを目的とし、芳香族化合物をルテニウム触媒等及び水素の存在下で核水添反応させ、得られたシクロヘキシル化合物を、前記貴金属触媒、ホルムアルデヒド誘導体及び水素の存在下で還元メチル化反応させるN,N-ジメチルシクロへキシルアミン類の製造法が開示されている(特許文献1、[要約])。
【0004】
より具体的には、アルミナ(担体)にルテニウムが5%担持されたルテニウム触媒が開示されている(特許文献1、[0032]実施例1及び[0034]実施例2等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような従来のルテニウム触媒では、芳香族化合物の核水添反応において反応物の転化率をより向上させるという観点からは、未だ改善の余地があることを本発明者らは見出した。
【0007】
そこで、本発明は、かかる技術的事情に鑑みてなされたものであって、芳香族化合物の核水添反応において、従来のルテニウム触媒よりも優れた反応物の転化率を得ることのできる優れた触媒活性を有する核水添反応用触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本件発明者らは、核水添反応に用いられるルテニウム触媒において、担体上に担持される触媒粒子に含まれるルテニウムの状態に着目し、触媒活性の更なる向上を実現する構成について鋭意検討を行った。
【0009】
その結果、X線光電子分光分析法(XPS)により測定されるルテニウム触媒の表面近傍の分析領域におけるRu酸化物の割合RRuOxに対するRu(0価)の割合が下記の条件を満たしていることが触媒活性の向上に有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
より具体的には、本発明は、以下の技術的事項により構成される。
即ち、本発明は、
芳香族化合物の芳香環のπ結合の少なくとも1つを水素化する核水添反応に使用される核水添反応用触媒であって、
担体と、前記担体上に担持される触媒粒子と、を含んでおり、
前記触媒粒子が、Ru(0価)とRu酸化物とを構成成分として含んでおり、
X線光電子分光分析法(XPS)により測定される表面近傍の分析領域における、Ru(0価)の割合RRu(atom%)と、Ru酸化物の割合RRuOx(atom%)とが、下記式(1)の条件を満たしている、
核水添反応用触媒を提供する。
0.50≦(RRu/RRuOx)≦4.00・・・式(1)
【0011】
ここで、本発明においては、XPSで観察される核水添反応用触媒の表面近傍の分析領域におけるRu(0価)の割合RRu(atom%)と、Ru酸化物の割合RRuOx(atom%)とは、これら2つの成分の合計が100%となる条件で算出される数値としている。
【0012】
本発明において、上記式(1)に示される(RRu/RRuOx)の値が0.50以上で4.00以下となる構成とすることにより、本発明の核水添反応用触媒は、芳香族化合物の核水添反応において、従来のルテニウム触媒よりも優れた反応物の転化率を得ることのできる優れた触媒活性を発揮することができる。
【0013】
本発明の核水添反応用触媒が優れた触媒活性を有することについて詳細な理由は十分に解明されていないが、本発明者らは、以下のように考えている。即ち、式(1)を満たす構造の核水添反応用触媒は、Ru酸化物に対するRu(0価)の割合が従来の核水添反応用触媒よりも高いので、芳香族化合物の核水添反応に対する活性が向上していると推察している。
【0014】
ここで、本発明において、XPSによる測定条件は以下の(A1)~(A5)であるものとする。
(A1)X線源:単色化AlKα
(A2)光電子取出確度:θ=75℃(後述する
図1を参照)
(A3)帯電補正:C1sピークエネルギーを284.8eVとして補正
(A4)分析領域:200μm
(A5)分析時のチャンバ圧力:約1×10
-6Pa
【0015】
また、本発明の効果をより確実に得る観点から、本発明の核水添反応用触媒においては、前記担体がアルミナ担体であることが好ましい。
更に、本発明の効果をより確実に得る観点から、本発明の核水添反応用触媒においては、前記アルミナ担体について、BJH法により求められる細孔径PSが8.00nm~12.00nmであり、BJH法により求められる細孔容積PVが0.250cm3/g~0.400cm3/gであることが好ましい。
【0016】
ここで、本発明においては、細孔径PSはBJH(Barrett, Joyner, Hallender)法により吸着質(気体分子)が固体表面から脱離するときの相対圧と吸着量の関係である脱着等温線から求められる値(BJH Desorption average pore diameter)である。
また、本発明において、細孔容積PVも、BJH法により求められる値(BJH Desorption cumulative volume of pores between 1.7000 nm and 300.0000 nm diameter)である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、芳香族化合物の核水添反応において、従来のルテニウム触媒よりも優れた反応物の転化率を得ることのできる優れた触媒活性を有する核水添反応用触媒が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明におけるX線光電子分光分析法(XPS)の分析条件を説明するためのXPS装置の概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<核水添反応用触媒>
以下、本発明の核水添反応用触媒の好適な実施形態について詳細に説明する。本発明の水添反応用触媒は核水添反応に使用されるものである。例えば、下記の化学反応式(1)で示される、芳香族化合物であるジフェニルメタン(反応式(1)中の化合物1)の芳香環のπ結合を水素化して、α-シクロヘキシルトルエン(反応式(1)中の化合物2)及びジシクロヘキシルメタン(反応式(1)中の化合物3)に転化する核水添反応に使用することができる。
【化1】
【0020】
本発明の核水添反応用触媒は、担体と、前記担体上に担持される触媒粒子と、を含んでおり、前記触媒粒子が、Ru(0価)とRu酸化物とを構成成分として含んでおり、X線光電子分光分析法(XPS)により測定される表面近傍の分析領域における、Ru(0価)の割合RRu(atom%)と、Ru酸化物の割合RRuOx(atom%)とが、下記式(1)の条件を満たしている。
0.50≦(RRu/RRuOx)≦4.00・・・式(1)
【0021】
本発明の核水添反応用触媒は、担体と、前記担体上に担持される触媒粒子と、を含んでいればよく、触媒粒子の担持の形態については特に制限はなく、種々の構造を採り得る。
【0022】
(担体)
担体としては、触媒粒子を担持することができ、かつ表面積が比較的大きいものであれば特に制限されないが、触媒粒子を含んだ溶液中で良好な分散性を有し、不活性であることが好ましい。
【0023】
不活性担体としては、例えば、炭素系材料(カーボン)、シリカ、アルミナ、シリアカルミナ、マグネシア等が好ましく、アルミナ(アルミナ担体)が特に好ましい。炭素系材料としては、例えば、グラッシーカーボン(GC)、ファインカーボン、カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維、活性炭、活性炭の粉砕物、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0024】
なお、炭素系材料としては、導電性カーボンが好ましく、特に、導電性カーボンとしては、導電性カーボンブラックが好ましい。また、導電性カーボンブラックとしては、商品名「ケッチェンブラックEC300J」、「ケッチェンブラックEC600」、「カーボンEPC」等(ライオン化学株式会社製)を例示することができる。
【0025】
また、上記アルミナ担体については、BJH法により求められる細孔径PSが8.00nm~12.00nmであり、BJH法により求められる細孔容積PVが0.250cm3/g~0.400cm3/gであることが好ましい。
【0026】
ここで、細孔径PSはBJH(Barrett, Joyner, Hallender)法により吸着質(気体分子)が固体表面から脱離するときの相対圧と吸着量の関係である脱着等温線から求められる値(BJH Desorption average pore diameter)である。また、本発明において、細孔容積PVも、BJH法により求められる値(BJH Desorption cumulative volume of pores between 1.7000 nm and 300.0000 nm diameter)である。
【0027】
(触媒粒子)
次に、本発明において上記担体に担持される触媒粒子は、Ru(0価)とRu酸化物とを構成成分として含んでおり、上記のとおり、X線光電子分光分析法(XPS)により測定される表面近傍の分析領域における、Ru(0価)の割合RRu(atom%)と、Ru酸化物の割合RRuOx(atom%)とが、下記式(1)の条件を満たしている。
0.50≦(RRu/RRuOx)≦4.00・・・式(1)
【0028】
上記担体への上記触媒粒子の担持量は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されるものではなく、本発明の核水添反応用触媒が採用される反応系、反応条件、製造コストなどにより適宜設定される。通常0.5~10質量%程度であればよい。なお、ここでいう担持量とは、式:{触媒粒子の質量/(触媒粒子の質量+担体の質量)}×100で得られる値(率)のことをいう。
【0029】
次に、本発明においては、上記のとおり、上記式(1)に示される(RRu/RRuOx)の値が0.50以上で4.00以下となる構成とすることにより、本発明の核水添反応用触媒は、芳香族化合物の核水添反応において、従来のルテニウム触媒よりも優れた反応物の転化率を得ることのできる優れた触媒活性を発揮することができる。
【0030】
この(RRu/RRuOx)の値は、X線光電子分光分析法(XPS)により測定される核水添反応用触媒粒子の表面近傍の分析領域における、Ru(0価)の割合RRu(atom%)と、Ru酸化物の割合RRuOx(atom%)と、の比であり、Ru(0価)及びRu酸化物の担持割合を示すものである。この(RRu/RRuOx)の値が大きいと、核水添反応用触媒粒子の表面近傍においてRu(0価)がRu酸化物に比べてより多く存在し、この(RRu/RRuOx)の値が小さいと、核水添反応用触媒粒子の表面近傍においてRu(0価)がRu酸化物に比べてより少なく存在することを意味する。
【0031】
そして、本発明の核水添反応用触媒粒子の表面近傍においてRu(0価)がRu酸化物に比べてより多く存在すると、詳細なメカニズムは解明されていないが、核水添反応に対する触媒活性が向上するという効果が得られる傾向にある。また逆に、本発明の核水添反応用触媒粒子の表面近傍においてRu(0価)がRu酸化物に比べてより少なく存在すると、核水添反応に対する触媒活性が低下するという効果が得られる傾向にある。本発明では、上記式(1)に示される(RRu/RRuOx)の値が0.50以上で4.00以下となる構成にすることにより、これらの作用効果をバランス良く実現するものである。
【0032】
X線光電子分光分析法(XPS)は、以下の分析条件(A1)~(A5)で実施しされるものとする。
(A1)X線源:単色化AlKα
(A2)光電子取出確度:θ=75℃
(A3)帯電補正:C1sピークエネルギーを284.8eVとして補正
(A4)分析領域:200μm、
(A5)分析時チャンバ圧力:約1×10
-6Pa
ここで、(A2)の光電子取出確度θは、
図1に示すように、エックス線源32から放射されたX線が、試料ステージ34上にセットされた試料へ照射され、当該試料から放射される光電子を分光器36で受光するときの角度θである。すなわち、光電子取出確度θは、分光器36の受光軸と試料ステージ34の試料の層の面との角度に該当する。
【0033】
<核水添反応用触媒の製造方法>
本発明の核水添反応用触媒の製造方法は、担体に上記触媒粒子を担持させることができる方法であれば、特に制限されるものではない。
【0034】
例えば、担体にRu化合物を含有する溶液を接触させ、担体に触媒成分を含浸させる含浸法、触媒成分を含有する溶液に還元剤を投入して行う液相還元法、電気化学的析出法、化学還元法、吸着水素による還元析出法等を採用した製造方法を例示することができる。
【0035】
ただし、核水添反応用触媒の製造における製造条件は、X線光電子分光分析法(XPS)により測定される表面近傍の分析領域における、Ru(0価)の割合RRu(atom%)と、Ru酸化物の割合RRuOx(atom%)とが、下記式(1)の条件を満たすように調節されている。
0.50≦(RRu/RRuOx)≦4.00・・・式(1)
【0036】
なお、本発明の核水添反応用触媒を、上述した式(1)で示した条件、及び粉末X線回折(XRD)により測定される結晶子サイズの平均値を好ましい条件(好ましくは3~16.0nmに調節する条件など)を満たすように製造する方法は特に限定されない。このような製造方法としては、例えば、生成物(触媒)の化学組成や構造を各種の公知の分析手法を用いて分析し、得られる分析結果を製造プロセスにフィードバックし、選択する原料、その原料の配合比、選択する合成反応、その合成反応の反応条件などを調製・変更する方法が挙げられる。
【0037】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
≪実施例1≫
Ru(0価)とRu酸化物とを含む触媒粒子が担体であるアルミナ(Al2O3)粒子に5質量%の担持率で担持された実施例1の核水添反応用触媒として、商品名「HYAc-5E A-type」、N.E.CHEMCAT社製)を製造した。
下記のようにして求めた核水添反応用触媒1の(RRu/RRuOx)値、並びに、担体のアルミナ粒子の細孔径PS及び細孔容積PVを表1に示した。
【0039】
≪実施例2及び実施例3≫
得られた核水添反応用触媒における(RRu/RRuOx)の値を表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2の核水添反応用触媒(商品名「HYAc-5E B-type」、N.E.CHEMCAT社製)及び実施例3の核水添反応用触媒(商品名「HYAc-5E C-type」、N.E.CHEMCAT社製)を製造した。
【0040】
≪実施例4≫
担体として表1に示した細孔径PS及び細孔容積PVを有する担体を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例4の核水添反応用触媒(商品名「HYAc-5E F-type」、N.E.CHEMCAT社)を製造した。
【0041】
≪比較例1≫
用いた触媒粒子における(RRu/RRuOx)の値を表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例1の核水添反応用触媒を製造した。
【0042】
≪比較例2≫
用いた触媒粒子における(RRu/RRuOx)の値を表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例2の核水添反応用触媒を製造した。
【0043】
[評価試験]
上記の実施例1~4及び比較例1~2で得た核水添反応用触媒を用い、下記の反応式(1)にしたがって、芳香族化合物であるジフェニルメタン(反応式(1)中の化合物1)の芳香環のπ結合を水素化して、α-シクロヘキシルトルエン(反応式(1)中の化合物2)及びジシクロヘキシルメタン(反応式(1)中の化合物3)に転化する核水添反応を行った。
【0044】
その際、核水添反応用触媒の使用量は、原料であるジフェニルメタン(反応式(1)中の化合物1)の0.4モル%とし、圧力が0.2MPaとなるように水素ガスを供給しながら、温度を50℃に昇温し、反応させた。
【化2】
【0045】
(1)X線光電子分光分析(XPS:X-ray photoelectron spectroscopy)による核水添反応用触媒の表面分析
【0046】
実施例1~4及び比較例1~2の核水添反応用触媒についてXPSによる表面分析を実施し、Ru(0価)の割合R
Ru(atom%)と、Ru酸化物の割合R
RuOx(atom%)とを測定し、(R
Ru/R
RuOx)の値を算出した。
具体的には、XPS装置として「Quantera SXM」(アルバック・ファイ社製)を使用し、以下の分析条件で実施した。
(A1)X線源:単色化AlKα
(A2)光電子取出確度:θ=75℃(
図1参照)
(A3)帯電補正:C1sピークエネルギーを284.8eVとして補正
(A4)分析領域:200μm
(A5)分析時のチャンバ圧力:約1×10
-6Pa
(A6)測定深さ(脱出深さ):約5nm以下
【0047】
分析結果を表1に示した。なお、Ru(0価)の割合RRu(atom%)とRu酸化物の割合RRuOx(atom%)については、これらの2成分で100%となるように算出した。
【0048】
(2)担持率の測定(ICP分析)
実施例1~4及び比較例1~2の核水添反応用触媒について、Ru(0価)とRu酸化物とを構成成分として含む触媒粒子の担持率(wt%)を以下の方法で測定した。即ち、核水添反応用触媒を王水に浸し、金属を溶解させた。次に、王水から不溶成分のアルミナを除去した。次に、アルミナを除いた王水をICP分析した。全ての核水添反応用触媒について、触媒粒子の担持率は5%であった。
【0049】
(3)転化率の算出
反応後の混合組成物におけるジフェニルメタン、α-シクロヘキシルトルエン及びジシクロヘキシルメタンの含有比(質量)を測定することによって、ジフェニルメタンの転化率(%)を算出し、結果を表1に示した。
【0050】
【0051】
表1に示す結果から、(RRu/RRuOx)の値が先に述べた式(1)を満たす実施例1~4において、従来のルテニウム触媒を用いた比較例1及び比較例2に比べて、ジフェニルメタンの転化率が高く、本発明の核水添反応用触媒の触媒活性が高く、芳香族化合物の核水添反応において優れた反応物の転化率を得ることのできる優れた触媒活性を有することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の核水添反応用触媒は、優れた触媒活性を有し、芳香族化合物の核水添反応において優れた反応物の転化率を得ることができる。従って、本発明は、高機能プラスチック製品の原料となるエポキシ樹脂やポリアミドイミド樹脂等の合成に適用することができる核水添反応用触媒であり、各種産業の発達に寄与する。