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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-13
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】アッセイ
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/557 20060101AFI20220203BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20220203BHJP
   C40B 30/04 20060101ALI20220203BHJP
   C12N 9/12 20060101ALN20220203BHJP
   C07K 5/037 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
G01N33/557
G01N33/53 D
G01N33/53 V
C40B30/04
C12N9/12 ZNA
C07K5/037
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2019508836
(86)(22)【出願日】2017-08-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-09-19
(86)【国際出願番号】 GB2017052456
(87)【国際公開番号】W WO2018033753
(87)【国際公開日】2018-02-22
【審査請求日】2020-08-11
(31)【優先権主張番号】1614152.5
(32)【優先日】2016-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】519340400
【氏名又は名称】インペリアル・カレッジ・イノベーションズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】IMPERIAL COLLEGE INNOVATIONS LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マン,デイビッド・ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】クラベン,グレゴリー・ベネディクト
(72)【発明者】
【氏名】マチス,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】アームストロング,アラン
【審査官】三好 貴大
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-514891(JP,A)
【文献】Stefan G. Kathman et al.,Covalent tethering of fragments for covalent probe discovery,MedChemComm,2016年01月28日,vol17, no4,576-585
【文献】Christian K. Riener et al.,Quick measurement of protein sulfhydryls with Ellman's reagent and with 4,4'-dithiodipyridine,Anal Bioanal Chem,2002年06月06日,373,266-276
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
C40B 30/04
C12N 9/12
C07K 5/037
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的分子とリガンド候補との間の反応速度を測定する方法であって、
a)目的の結合部位と目的の結合部位内またはその近傍にあるチオール基とを含む標的分子を提供する、工程;
b)反応混合物中で標的分子をリガンド候補と接触させる工程、リガンド候補は、前記チオール基と不可逆的共有結合を形成することができる官能基を含む、工程;
c)標的分子のチオール基とリガンド候補の官能基との間で不可逆的な共有結合を形成させ、それによって標的分子-リガンドコンジュゲートを形成させる、工程;
d)反応中の定義された時点で前記反応混合物またはそのアリコートをチオール定量化試薬と接触させる工程、前記チオール定量化試薬は、遊離チオール基に結合して、前記反応混合物またはそのアリコートに生物物理学的方法によって評価可能な生物物理学的性質を付与する定量化コンジュゲートを形成することができる、工程;
e)前記反応混合物またはそのアリコートの前記生物物理学的性質を測定する、工程;ならびに
f)前記標的分子と前記リガンド候補との間の反応速度を計算する、工程;を含む方法。
【請求項2】
工程d)が、
i)前記反応混合物のアリコートを前記チオール定量化試薬と接触させることを含み、工程d)およびe)がさらに1回以上繰り返され、各繰り返しの間、工程d)が反応中の1つ以上のさらなる異なる時点で実施される、または、
ii)前記反応混合物全体またはその実質的な割合を前記チオール定量化試薬と接触させることを含み、工程a)~e)がさらに1回以上繰り返され、各繰り返しの間、工程d)が反応中の1つ以上のさらなる異なる時点で実施される、または、
iii)反応中の単一の時点で実施され、工程f)がその時点での前記標的分子の前記標的分子-リガンド候補への変換を計算することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程f)が、前記標的分子-リガンドコンジュゲートの形成についての速度定数の近似値を計算することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
工程f)が、前記標的分子-リガンドコンジュゲートの形成についての速度定数を計算することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
a)前記標的分子が、タンパク質、ポリペプチド、核タンパク質、糖ペプチド、およびリンタンパク質からなる群より選択される、および/または、
b)前記チオール基がシステイン残基によって提供される、および/または、
c)前記リガンド候補がフラグメントである、および/または、
d)前記官能基が求電子剤である、および/または、
e)前記チオール定量化試薬がチオール反応性染料である、
請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記リガンド候補が薬物様フラグメントである、、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記求電子剤が、アクリルアミド、アクリレート、α,β-不飽和ケトン、ビニルスルホンアミド、ビニルスルホン、ビニルスルホネート、α-ハロゲン化カルボニル誘導体、エポキシド、ニトリル誘導体、SNAr基質、ならびにそれらの置換誘導体からなる群から選択される、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記求電子剤がマイケルアクセプターである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記標的分子と前記リガンド候補とを還元剤の存在下で接触させる、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記還元剤が固定化されている、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
g)前記標的分子の代わりにモデルチオールを用いて工程a)~f)を繰り返し、同じリガンド候補を用いて、前記モデルチオールと前記リガンド候補との間の反応速度を計算する工程;ならびに
h)前記標的分子と前記リガンド候補との間の反応速度を、前記モデルチオールと前記リガンド候補との間の反応速度と比較することによって、前記リガンド候補についての速度増大を計算する工程;をさらに含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記モデルチオールがグルタチオンである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
i)前記リガンド候補についての速度増大が、選択された閾値レベルを上回るかどうかを決定する工程、この閾値レベルを上回る速度増大を伴うリガンド候補はヒットリガンドとして分類される、工程、をさらに含む、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
j)1つ以上のさらなるリガンド候補を用いて工程a)~i)を繰り返す工程をさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記リガンド候補が、リガンド候補のライブラリーを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
k)ヒットリガンドを薬物または他の阻害剤に開発する工程をさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記チオール基が標的分子に対して内因性であり、かつ
a)前記ヒットリガンドが不可逆的な共有結合的阻害剤に開発されるか;または
b)前記ヒットリガンドが非共有結合的類似体に修飾されて、可逆的な阻害剤に開発されるか;のいずれかである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記標的分子が前記チオール基を含むように修飾され、かつ前記ヒットリガンドが非共有結合的類似体に修飾されて、可逆的な阻害剤に開発される、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
チオールと、前記チオールと反応することができる分子との間の反応速度を測定する方法であって、
a)チオールを、前記チオールと反応することができる分子と接触させて、反応混合物中に反応生成物を形成する工程;
b)反応中の定義された時点で前記反応混合物またはそのアリコートをチオール定量化試薬と接触させる工程、前記チオール定量化試薬は、遊離チオール基に結合して、前記反応混合物またはそのアリコートに生物物理学的方法によって評価可能な生物物理学的性質を付与する定量化コンジュゲートを形成することができる、工程;
c)前記反応混合物またはそのアリコートの前記生物物理学的性質を測定する工程;ならびに
d)前記チオールと、前記チオールと反応することができる分子との間の反応速度を計算する工程;を含む方法。
【請求項20】
前記工程b)が、
i)前記反応混合物のアリコートを前記チオール定量化試薬と接触させることを含み、工程b)およびc)がさらに1回以上繰り返され、各繰り返しの間、工程b)が反応中の1つ以上のさらに異なる時点で実施される、または、
ii)前記反応混合物全体またはその実質的な割合を前記チオール定量化試薬と接触させることを含み、工程a)~c)がさらに1回以上繰り返され、各繰り返しの間、工程b)が反応中の1つ以上のさらに異なる時点で実施される、または、
iii)反応中の単一の時点で実施され、工程d)がその時点での前記チオールの前記反応生成物への変換を計算することを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
工程d)が、反応生成物の形成についての速度定数の近似値を計算することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
工程d)が、反応生成物の形成についての速度定数を計算することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
工程a)において、前記チオールを、前記チオールと反応することができる分子と並行して還元剤とも接触させ、前記還元剤は、前記反応混合物またはそのアリコートをチオール定量化試薬と接触させる前に、工程b)において除去される、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記チオール定量化試薬が前記チオールに不可逆的に結合する、請求項19~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
標的分子とリガンド候補との間の解離定数を測定する方法であって、
a)目的の結合部位と、目的の結合部位内またはその近傍にあるチオール基とを含む標的分子を提供する工程;
b)反応混合物中で標的分子をリガンド候補と接触させる工程、リガンド候補は、チオール基と不可逆的な共有結合を形成することができる官能基を含む、工程;
c)標的分子のチオール基とリガンド候補の官能基との間で不可逆的な共有結合を形成させ、それによって標的分子-リガンドコンジュゲートを形成させる工程;
d)反応中の定義された時点で前記反応混合物またはそのアリコートをチオール定量化試薬と接触させる工程、前記チオール定量化試薬は、遊離チオール基に結合して、前記反応混合物またはそのアリコートに生物物理学的方法によって評価可能な生物物理学的性質を付与する定量化コンジュゲートを形成することができる、工程;
e)前記反応混合物またはそのアリコートの前記生物物理学的性質を測定する工程;
f)前記標的分子と前記リガンド候補との間の反応速度を計算する工程;
g)複数の異なる濃度の前記リガンド候補を用いて工程a)~f)を繰り返す工程;ならびに
h)標的分子とリガンド候補との間の解離定数を計算する工程;を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的分子とリガンド候補との間の反応速度を測定する方法、この方法に従って同定された目的のリガンド、およびそのようなリガンドから開発された薬物に関する。本発明はまた、チオールと該チオールと反応することができる分子との間の反応速度を測定する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
新薬は長い開発過程の産物であり、その第1段階は多くの場合、可逆的または不可逆的に標的分子に結合するリガンド候補のライブラリーをスクリーニングすることである。過去には、1つまたは複数の成功したリードが浮かび上がることを期待して、ハイスループットスクリーニング(HTS)法を使用して、化合物の巨大なライブラリーが標的分子に対してスクリーニングされた。
【0003】
近年、創薬に対するフラグメントに基づくアプローチ(FBDD)が、HTSによる従来のリード同定の代替アプローチとして登場した。HTSとは異なり、FBDDは、生物学的標的の異なる部分に結合するより小さな化合物、「フラグメント」を同定する。
【0004】
標的分子との相互作用の数が少ないため、多くのフラグメントはそれらの標的に対して弱い固有の親和性を有する。フラグメントとその標的分子との間の弱い相互作用は検出が困難であり得る。さらに、高濃度でフラグメントを適用する必要性によってスクリーニングが複雑になる可能性があり、これは溶解性、化合物凝集、タンパク質変性、および複数部位でのリガンド結合に関する問題をもたらす。
【0005】
これらの問題は、テザリング技術を使用して克服されており、それによって求電子性官能基を含むように修飾されたフラグメントは、標的分子の表面上の求核性基と共有結合を形成する。共有結合は標的分子上の所定の部位、例えば天然または非天然システインに形成されるので、化学量論および結合位置は、この方法により同定されるリガンドについて知られている。標的分子とリガンド候補との間の共有結合の形成は、標的分子に対するフラグメントの親和性を増幅し、より低い濃度での検出を可能にする。
【0006】
当初、テザリング技術は可逆的共有結合の形成に焦点を当てていた1、2、3。標的分子-リガンドコンジュゲートの分布は、最も熱力学的に安定なコンジュゲートが混合物を支配するところで生じる。不可逆的な共有結合の形成を含むテザリング技術は、近年、ビニルスルホンアミド、アクリルアミドおよびアミノメチルアクリル酸メチルのような官能基を利用して開発された4、5。不可逆的なテザリングでは、得られる標的分子-リガンドコンジュゲート混合物は、標的分子と最も迅速に反応するリガンド候補によって支配される。
【0007】
可逆的および不可逆的なテザリング技術の両方について、典型的には5~10個のフラグメントの混合物が標的分子と共にインキュベートされ、混合物を支配するコンジュゲートが最も有望なリードを表す。典型的には、コンジュゲートは、インタクトタンパク質質量分析法(MS)を用いて同定されたが、反応混合物の不均一性のために、定量化は困難であり得る。不可逆的なテザリングについて重要なことであるが、固有のフラグメント反応性は、コンジュゲート形成の速度に影響を及ぼし得るため、支配的なコンジュゲートは必ずしも最も有望なリードとはならない。したがって、特定のスクリーニングプール中のリガンド候補は、明確なヒット同定を容易にするために、非常に類似した固有の反応性ならびに十分に異なる分子量を示さなければならない。グルタチオンなどのモデルチオールとの固有のフラグメント反応性の事前決定は、典型的には、個々の候補に対して実施される質量分析または核磁気共鳴(NMR)のいずれかに依存しており、結果として、低スループットをもたらす。この反応性決定を迂回するためには、候補は、それらの固有の反応性が類似するように、化学空間の類似の領域内から選択されなければならないであろう。これは、スクリーニングすることができるリガンド候補の種類の多様性を減少させる。さらに、MSによるテザリングの分析はフラグメントプールの逐次測定を必要とし、スループットを著しく低下させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、当技術分野では、モデルに対して固有の反応性を正規化する際に、異なるリガンド候補間の直接的な比較を可能にする定量的データを提供する、標的分子に対してリガンド候補を個別にスクリーニングするためのハイスループット方法を提供する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、動的チオール消費アッセイを用いて標的分子とリガンド候補との間の反応速度を測定する方法を提供することによって上記の問題を解決し、ここで、標的分子は、目的の結合部位内またはそれらの近傍にチオール基を含み、リガンド候補は、チオール基と不可逆的な共有結合を形成することができる官能基を含む。この方法は、リガンド候補間の直接的な比較を可能にする定量的情報を提供する。この方法を使用して目的のリガンドを同定することができ、それを次に例えば薬物に開発することができる。動的チオール消費アッセイはまた、目的のリガンドの同定を超える潜在的用途も有する。
【0010】
本発明を、添付の非限定的な図面を参照してさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】標的分子-リガンドコンジュゲートの形成のピクトグラフ図である。鋳型捕捉では、リガンド候補は標的分子上の目的の結合部位に非共有結合し、次いで、標的分子のチオール基(SH)とリガンド候補の官能基(または「捕捉基」)との間に不可逆的な共有結合が形成される。非鋳型捕捉では、リガンド候補が目的の結合部位へ予め非共有結合することなく、不可逆的な共有結合が標的分子のチオール基とリガンド候補の官能基との間に形成される。
図2A】モデルチオール-リガンドコンジュゲート、特に、グルタチオン-リガンドコンジュゲート(上)の形成と、標的分子-リガンドコンジュゲート、特に、タンパク質-リガンドコンジュゲート(下)の形成との描図であり、ここで、リガンド候補は、アクリルアミド官能基を含む。
図2B】速度増大に対するフラグメント頻度の例示的プロットである(k標的/kモデル)。垂直方向の点線は、速度増大についての選択された閾値レベルを表す。ほとんどの場合、この線の左側(選択された閾値レベルより下)にあるフラグメントは、非鋳型反応性を伴うフラグメントを表す。同様に、ほとんどの場合、この線の右側(選択された閾値レベルより上)にあるフラグメントは、モデルチオールと比較して標的分子の速度定数が有意に増大した鋳型反応性を伴うフラグメントを表し、「ヒット」として分類される。
図3】本発明の第1の態様による方法の一実施形態における工程の描図である。
図4A】特定のリガンド候補についての経時的な蛍光の例示的プロットである。速度定数は、データポイントに一次指数関数的減衰を適用することによって導き出される。
図4B】特定のリガンド候補についての経時的なln(蛍光)の例示的プロットである。速度定数は、データポイントに線形近似を適用することによって導き出される。
図5】実施例1で作成した正規化した速度分布を示し、試験した120個のリガンド候補のそれぞれについての速度増大(kCdk2/kGSH)を示す。水平方向の点線は、速度増大についての選択された閾値レベルを表し、この線を超えると、リガンド候補は「ヒット」として分類される。2つの例示的リガンド候補:ネガティブ化合物(EL-1007)およびヒットフラグメント(EL-1071)が表示される。
図6図6Aは、モデルチオールグルタチオン(GSH)を伴う、リガンド候補EL-1007についての相対的蛍光の経時的プロットである。このデータを使用して、0.025の速度定数(kGSH)を計算した。図6Bは、標的分子であるサイクリン依存性キナーゼ2(Cdk2)を伴う、リガンド候補EL-1007についての相対的蛍光の経時的プロットである。このデータを使用して、0.035の速度定数(kCdk2)を計算した。kCdk2をkGSHで除算すると、1.4の速度増大をもたらす。
図7図7Aは、モデルチオールグルタチオン(GSH)を伴う、リガンド候補EL-1071についての相対的蛍光の経時的プロットである。このデータを使用して、0.051の速度定数(kGSH)を計算した。図7Bは、標的分子であるサイクリン依存性キナーゼ2(Cdk2)を伴う、リガンド候補EL-1071についての相対的蛍光の経時的プロットである。このデータを使用して、0.433の速度定数(kCdk2)を計算した。kCdk2をkGSHで除算すると、8.5の速度増大をもたらす。
図8】標的分子-リガンドコンジュゲートの形成についての2段階機序の描図である。
図9】Cdk2(C177A、F80C)に対して同定されたヒットリガンド候補(CA37)濃度に対する観察された速度定数のプロットである。
図10A】EL1071によるCdk2(F80C、C177A)の完全な単一修飾を交差検証した、インタクトタンパク質質量分析質量スペクトルである(この図において、Cdk2(AS)=Cdk2(F80C、C177A)、1=EL1071)。
図10B】1-Cdk2(AS)複合体をトリプシンで消化し、得られたペプチドの塩基配列を決定することにより得られた、修飾部位をF80Cとして確証する、タンデム質量分析質量スペクトルである。
図10C】Cdk2(WT)、Cdk2(AS)、および1-Cdk-2(AS)のキナーゼ活性を比較したプロットである。
図11】リガンドがF80Cでシステイン残基に結合することを確証する、X線結晶構造解析により決定された結晶化1-Cdk2(AS)複合体の構造の描図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の第1の態様は、標的分子とリガンド候補との間の反応速度を測定する方法であって、
a)目的の結合部位と目的の結合部位内またはその近傍にあるチオール基とを含む標的分子を提供する工程;
b)反応混合物中で標的分子をリガンド候補と接触させる工程、ここで、リガンド候補は、チオール基と不可逆的な共有結合を形成することができる官能基を含む、工程;
c)標的分子のチオール基とリガンド候補の官能基との間で不可逆的な共有結合を形成させ、それによって標的分子-リガンドコンジュゲートを形成させる工程;
d)反応中の定義された時点で反応混合物またはそのアリコートをチオール定量化試薬と接触させる工程、ここで、チオール定量化試薬は、遊離チオール基に結合して、反応混合物またはそのアリコートに生物物理学的方法によって評価可能な生物物理学的性質を付与する定量化コンジュゲートを形成することができる、工程;
e)反応混合物またはそのアリコートの生物物理学的性質を測定する工程;ならびに
f)標的分子とリガンド候補との間の反応速度を計算する工程;を含む方法を提供する。
【0013】
この方法は、スクリーニングされた各々の個別のリガンド候補について標的分子とリガンド候補との間の反応速度の計算を可能にし、異なるリガンド候補間の直接的な比較を可能にする定量的情報を提供する。
【0014】
計算された反応速度は、標的分子-リガンドコンジュゲートの形成についての速度定数を得るため、またはその近似値を得るために使用することができる。
【0015】
標的分子は、目的の結合部位、すなわち、特定のリガンドが結合する部位を含む。典型的には、リガンドと標的分子上の目的の結合部位との間の分子相互作用は非共有結合であり、これは、水素結合、ファンデルワールス相互作用、および静電相互作用を含む。
【0016】
標的分子はまた、目的の結合部位内またはその近傍にチオール基を含む。
【0017】
チオールは、生理学的pHおよびほとんどのスクリーニング条件下でチオレートアニオンとして主に存在する、炭素に結合したスルフヒドリル(-C-SHまたはR-SH)基(式中、Rは有機部分または生体分子を表し得る)を含む、有機硫黄化合物である。
【0018】
本発明によれば、チオール基は、リガンド候補が目的の結合部位に結合する場合に、チオール基とリガンド上の官能基との間の共有結合の形成を可能とするのに十分に目的の結合部位に近い場合、目的の結合部位の近傍にあるとみなされる。好ましくは、リガンド候補が目的の結合部位に結合する場合、それは同時にリガンド候補上の官能基をチオール基と十分に接近させて、リガンド候補の共有結合的捕捉をもたらす。
【0019】
リガンド候補と標的分子上の目的の結合部位との結合に続くこの共有結合の形成は、「鋳型捕捉」と呼ばれる。リガンド候補と標的分子上の目的の結合部位との結合がない場合のこの共有結合の形成は、「非鋳型捕捉」と呼ばれる。非鋳型捕捉は、通常、リガンド候補が目的の結合部位に対する結合親和性を全く有していないか、またはごくわずかな親和性しか有していない場合に生じる。鋳型捕捉は、リガンド候補が標的分子に対して親和性を有する場合に生じ、リガンド候補と標的分子との間の反応速度に増大をもたらす。
【0020】
チオール基は、目的の結合部位から10Å未満、例えば、5~10Åであってもよい。チオール基は、例えば、リンカーがリガンド候補と官能基との間に含まれる場合、目的の結合部位からさらに離れていてもよい。
【0021】
問題のチオール基は、一旦リガンド候補が標的分子に結合すると、官能基との共有結合形成のために接近可能でなければならない。好ましくは、チオール基は相対的に表面に露出している。
【0022】
チオール基は、標的分子に対して内因性であり得る。あるいは、標的分子は、チオール基を含むように修飾されていてもよい。当業者は、目的の結合部位またはその近傍にチオール基を有するように標的分子を修飾するために日常的に使用することができる様々な組換え技術、化学技術、合成技術または他の技術に精通しているであろう。そのような技術には、部位特異的突然変異誘発、カセット突然変異誘発、および/または拡張遺伝暗号を用いた非天然アミノ酸のタンパク質への組み込みが含まれる。
【0023】
チオール基は、チオール含有アミノ酸残基、好ましくは、システイン残基によって提供されるのが好ましい。好ましくは、チオール基は、表面に露出したシステイン残基によって提供される。チオール基に関して上記で論じたように、チオール基を提供するシステイン残基は標的分子に対して内因性であり得るか、または標的分子はシステイン残基を含むように修飾され得る。システイン残基が内因性である場合、それは触媒的または非触媒的であり得る。
【0024】
標的分子は、最初に得られた場合または修飾後に、リガンド候補上の官能基と共有結合を形成するために接近可能な2つ以上の遊離チオール基を含み得る。例えば、標的分子は、2つ以上の表面に露出したシステイン残基を含み得る。好ましくは、標的分子は、リガンド候補に対する共有結合部位として潜在的に機能し得る、限られた数の遊離チオール基のみを含む。標的分子は、5個以下の遊離チオール基、4個以下の遊離チオール基、3個以下の遊離チオール基、2個以下の遊離チオール基、または1個のみの遊離チオール基を含み得る。標的分子は、所望の数の遊離チオール基を予め有するように最初に得られるかまたは選択されてもよく、または所望の数の遊離チオール基を有するように修飾されてもよい。標的分子は、もちろん、標的分子上の官能基との共有結合形成のために接近できない任意の数の内部チオール基を含んでもよい。
【0025】
標的分子は、典型的には、目的の分子、例えば、可逆的または不可逆的阻害剤によって影響を受ける潜在的な標的を含む。標的分子は、創薬または生化学的調査の文脈において、生物学的標的であり得る。
【0026】
好ましくは、標的分子は、タンパク質またはその誘導体、例えば、ポリペプチド、核タンパク質、糖ペプチドまたはリンタンパク質からなる群より選択される。
【0027】
標的分子は、酵素、ホルモン、転写因子、受容体、受容体に対するリガンド、成長因子、免疫グロブリン、ステロイド受容体、核タンパク質、シグナル伝達要素、アロステリック酵素調節剤などからなる群より選択され得る。
【0028】
酵素の例には、キナーゼ、ホスファターゼ、GTPアーゼ、プロテアーゼ、リガーゼ、カスパーゼ、グリコシルトランスフェラーゼ、グリコシドヒドロラーゼ、脂質トランスフェラーゼおよびレダクターゼ酵素が含まれる。
【0029】
例示的な標的分子には、それぞれ単一の表面露出システイン残基を有する、様々なサイクリン依存性キナーゼ2(Cdk2)変異体が含まれる。
【0030】
本発明の文脈において、「リガンド候補」は、標的分子上のチオール基と不可逆的な共有結合を形成することができる官能基を含む化合物である。リガンド候補は、標的分子に対して固有の結合親和性を有しても有さなくてもよい。リガンド候補が標的分子に対して固有の結合親和性も有する、すなわち、それが標的分子上の目的の結合部位に結合することができると決定されると、リガンド候補は「リガンド」と称され得る。
【0031】
リガンド候補は、分子量900Da以下の分子として分類される小分子を含み得る。好ましい小分子は、500Da未満の重量を有する。リガンド候補は、代替的に、バイオポリマーに基づくリガンドまたは合成もしくは内因性分子の任意の組み合わせを含み得る。
【0032】
リガンド候補はまた、分子のフラグメントを含み得る。フラグメントは、定義された結合部位と「高品質」の相互作用を示す可能性がはるかに高くなる。たとえ弱い親和性のみであっても、標的分子と親和性を有することが見出されたフラグメントは、次いで、伸長させるかまたは組み合わせて、より高い親和性を有するリードを生成することができる。
【0033】
好ましくは、フラグメントは、比較的低い分子量、好ましくは、300Da以下、250Da以下、200Da以下、150Da以下または100Da以下の分子量を有する。
【0034】
好ましくは、フラグメントは「3の法則」に従う(フラグメントの分子量は<300Daであり、cLogPは≦3であり、水素結合供与体の数は≦3であり、および水素結合受容体の数は≦3である)。
【0035】
好ましくは、フラグメントは、脂肪族、ヘテロ原子含有、環式、芳香族およびヘテロ芳香族部分からなる群から選択される少なくとも1つの官能基を含む。
【0036】
目的の結合部位と目的の結合部位内またはその近傍にあるチオール基とを含む標的分子の使用は、所定のタンパク質表面に弱く結合する低分子量フラグメントの部位特異的発見を可能にする。
【0037】
本発明のリガンド候補は、薬物様分子または薬物様フラグメントを含み得る。そのような分子およびフラグメントは当該分野で周知であり、これらは、低分子量ならびに望ましい物理化学的および薬理学的性質、ならびに既知の化学的または薬理学的性質を有する下部構造などの薬物様の性質を有する。
【0038】
好ましくは、リガンド候補は、有機分子または他の配列特異的結合分子、例えばペプチド、ペプチド模倣薬、複合炭水化物または個々の単位もしくはモノマーの他のオリゴマーを含む群から選択される。
【0039】
上記のように、リガンド候補は、標的分子上のチオール基と不可逆的な共有結合を形成することができる官能基を含む。そのような官能基はまた、「捕捉基」または「弾頭(warhead)」とも称され得る。
【0040】
好ましくは、官能基は求電子剤である。
【0041】
適切な求電子剤は、アクリルアミド、アクリレート、α、β-不飽和ケトン、ビニルスルホンアミド、ビニルスルホン、ビニルスルホネート、α-ハロゲン化カルボニル誘導体、例えば、α-クロロケトンおよびα-クロロアセトアミド、エポキシド、ニトリル誘導体(例えば、A-アミノニトリル)、SAr基質(例えば、電子求引性基を有する芳香環)、ならびにその置換誘導体を含む。
【0042】
好ましい求電子剤には、マイケルアクセプター、すなわち、共鳴安定化した炭素求核剤を用いて1,4-付加反応を受けるα、β-不飽和カルボニルまたはニトリル化合物が含まれる。特に好ましいマイケルアクセプターには、アクリルアミド、メチルアクリレートおよびビニルスルホンアミドが含まれる。
【0043】
当業者は、アクリルアミドなどの官能基を分子またはそのフラグメントに連結またはテザリングするために日常的に使用することができる様々な技術に精通しているであろう。例えば、官能基を本発明の標的分子に連結させるための適切な技術は、Allen、C.E.らにおいて見出されることができ、これは、参照により本明細書中に組み込まれる。
【0044】
本発明の第1の態様の方法は、反応混合物中で標的分子をリガンド候補と接触させ、その結果、標的分子のチオール基とリガンド候補の官能基との間に不可逆的な共有結合を形成させ、それによって標的分子-リガンドコンジュゲートを形成する工程を含む。この標的分子-リガンドコンジュゲートは、鋳型または非鋳型捕捉の結果として(すなわち、標的分子上の目的の結合部位へリガンド候補が結合するかどうかに関わらず)形成されていてもよい。「リガンド」という用語は、この文脈において、簡潔を目的としてのみ使用される。用語「標的分子-リガンド候補コンジュゲート」も同様に使用することができる。
【0045】
標的分子は、当業者に知られているであろう任意の適切な反応条件下でリガンド候補と接触させることができる。
【0046】
反応は、任意の適切な容器、例えば、反応プレートのウェル内で起こり得る。
【0047】
標的分子は、リガンド候補の添加の前に容器に添加されてもよい。あるいは、リガンド候補は、標的分子の添加の前に容器に添加されてもよい。いずれの場合も、リガンド候補と標的分子は、組み合わされて、反応混合物を作り出す。
【0048】
任意の適切な量の標的分子が使用され得る。添加される標的分子の量は、1~10μMの標的分子、例えば、約5μMの標的分子に対応し得る。
【0049】
標的分子は、適切な緩衝液、例えば、脱気リン酸緩衝液(pH8)中にあってもよい。緩衝剤が使用される場合、使用される緩衝液と標的分子の合計量は、pL~μL、例えば、10pL~300μL、10pL~100nL、10pL~100pL、100pL~100nL、10μL~300μL、100μL~250μL、150μL~200μL、または約150μLの範囲であり得る。
【0050】
好ましくは、標的分子とリガンド候補とを還元剤の存在下で接触させる。任意の適切な還元剤、例えば、トリス-(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)またはジチオトレイトール(DDT)を使用することができる。
【0051】
還元剤は、評価される生物物理学的性質に応じて可溶化または固定化することができる。好ましくは、評価される生物物理学的性質が蛍光である場合、還元剤は固定化される。固定化された還元剤の使用は、チオール酸化が真のシグナルを不明瞭にしないようにアッセイの小型化を可能にする。還元剤はアガロースに結合され得る。
【0052】
任意の適切な量の還元剤が使用され得る。例えば、以下の実施例のように、2%v/vの固定化剤を使用することができる。
【0053】
還元剤が使用される場合、標的分子のチオールが完全に還元されることを確実にするために、リガンド候補を添加する前に、標的分子を還元剤とインキュベートすることができる。そのため、チオール定量化反応中のチオールシグナルの任意の減少は、リガンド候補との反応に起因し得る。例えば、以下の実施例のように、標的分子を還元剤と共に4℃で1時間インキュベートしてもよい。
【0054】
リガンド候補は、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの適切な溶媒中に添加され得る。リガンド候補は、任意の適切な量で添加され得る。リガンド候補は、最終濃度100~1000μMのリガンド候補、例えば、約500μMのリガンド候補を得るのに十分な量で提供され得る。
【0055】
好ましくは、リガンド候補は、標的分子よりはるかに高い濃度で添加される。好ましくは、リガンド候補は、過剰に、最も好ましくは、10倍以上過剰に提供される。
【0056】
本発明の第1の態様による方法は、新規アッセイを用いて、標的分子とリガンドとの間の反応速度、すなわち、標的分子-リガンドコンジュゲートの形成速度を測定することを含む。このアッセイは、標的分子-リガンドコンジュゲートの形成速度を示すために標的分子中のチオール基の消費速度の測定に依存するので、「動的チオール消費アッセイ」と呼ばれることがある。本明細書中で使用される場合、チオール基の消費とは、リガンド候補上の官能基との不可逆的な共有結合の形成の際のチオール基の化学的修飾を指す。
【0057】
標的分子中のチオール基の消費速度は、対照と比較されるクエンチアッセイを使用して、反応中の単一または複数の時点で、反応混合物またはそのアリコート中の「遊離」(すなわち未反応)チオール基の相対量を測定することによって推定される。遊離チオール基の相対量の経時的な任意の減少は、標的分子とリガンド候補との間の不可逆的な共有結合の形成における遊離チオール基の消費の結果であると考えられる。
【0058】
特定の時点での反応混合物またはそのアリコート中の遊離チオール基の相対量は、遊離チオール基に結合して、反応混合物またはそのアリコートに生物物理学的方法によって評価可能な生物物理学的性質を付与する定量化コンジュゲートを形成することができる、チオール定量化試薬を用いて測定される。生物物理学的性質は、反応混合物またはそのアリコート中の定量化コンジュゲートの相対量の指標をもたらす。
【0059】
所望の場合、反応混合物またはそのアリコート中の定量化コンジュゲートの濃度は、適切な較正方法を用いる当業者に周知の方法であって、かつ使用されるチオール定量化試薬に依存する方法を用いて、生物物理学的性質の測定から決定され得る。
【0060】
生物物理学的性質は、例えば、蛍光、蛍光偏光、蛍光異方性、または特定の波長における可視光の吸光度であり得る。
【0061】
定量化コンジュゲート自体が、評価可能な生物物理学的性質を有してもよい。あるいは、定量化コンジュゲートの誘導体が、評価可能な生物物理学的性質を有していてもよく、または定量化コンジュゲートの生成が、評価可能な生物物理学的性質を有する化合物の生成をもたらしてもよい。
【0062】
好ましくは、チオール定量化試薬はチオール反応性染料である。
【0063】
チオールの定量的アッセイのために多数の試薬および方法が開発されてきた。チオール反応性試薬としては、ヨードアセトアミド、マレイミド、ハロゲン化ベンジルおよびブロモメチルケトンが挙げられ、これらは、チオールのS-アルキル化によって反応して、安定なチオエーテル生成物を生成する。NBDハライドのようなアリール化試薬は、求核剤による芳香族ハライドの同様の置換によりチオールと反応する。ジスルフィドおよびチオサルフェートに基づく染料は、チオール定量のための可逆的なチオール修飾を可能にする。
【0064】
マレイミドまたはマレイミド誘導体、例えば、N-(7-ジメチルアミノ-4-メチルクマリン-3-イル)マレイミド(DACM)、フルオレセイン-5-マレイミド、および特に、7-ジエチルアミノ-3-(4’-マレイミジルフェニル)-4-メチルクマリン(CPM)が好ましい。これらのチオール定量化試薬は、チオールとのコンジュゲーション後までは明確な蛍光を発しない。マレイミドの二重結合にチオールを付加して、高蛍光チオエーテルを得る。
【0065】
エルマン試薬(5,5’-ジチオビス-(2-ニトロ安息香酸)またはDTNB)もまた使用され得る。チオールはこの化合物と反応し、ジスルフィド結合を切断して、2-ニトロ-5-チオベンゾエート(TNB)を与え、これは中性およびアルカリ性pHの水中でTNB2-ジアニオンにイオン化する。このTNB2-イオンは、412nmの可視光を吸収する黄色を有する。
【0066】
第1の態様による方法の工程d)において、反応混合物全体、その実質的な割合、または単にそのアリコートのみをチオール定量化試薬と接触させてもよい。
【0067】
アリコートが使用される場合、それらは任意の適切な容量を含み得る。アリコート容量は、pL~μLの範囲、例えば、1~10μL、1~8μL、1~5μL、または約3μLであり得る。典型的には、各アリコートは全反応容量の1~5%を占める。
【0068】
好ましくは、固定化された任意の還元剤がクエンチプレートへ移動する危険性を回避または最小にするように、反応混合物またはその実質的な割合を、標的分子をリガンド候補と接触させる容器から取り出すか、またはアリコートを反応混合物から取り出す。
【0069】
好ましくは、各アリコートは、クエンチプレートの別々のウェルに移される。
【0070】
好ましくは、各クエンチプレートは、過剰なチオール定量化試薬を含む。チオール定量化試薬は、緩衝液、例えば、脱気リン酸緩衝液(pH7.5)中にあってもよい。
【0071】
好ましくは、反応混合物またはそのアリコートは、生物物理学的性質が測定される前に、適切な時間にわたってクエンチプレート中でインキュベートされる。反応混合物またはそのアリコートは、0.1~2時間、例えば、約1時間インキュベートされ得る。インキュベーションは任意の適切な温度、例えば、室温で実施することができる。
【0072】
反応混合物またはそのアリコートの生物物理学的性質は、任意の適切な生物物理学的方法を使用して測定され得る。例えば、蛍光または蛍光偏光は、EnVisionプレートリーダーなどの蛍光光度計を使用して測定されてもよい。特定の波長の光の吸光度は、分光光度計を用いて測定されてもよい。
【0073】
反応混合物またはそのアリコート中の定量化コンジュゲートの濃度は、特定の時点での反応混合物またはそのアリコート中の「遊離」チオール基の濃度を反映し、それはさらには未反応の標的分子(すなわち、リガンド候補と反応しなかった標的分子)の濃度を反映する。このことから、その特定の時点における反応した標的分子(すなわち、標的分子-リガンドコンジュゲート)の濃度を推定することができ、したがって、標的分子とリガンド候補との間の反応速度を推定することができる。
【0074】
本明細書中で使用される場合、反応混合物またはそのアリコート中の「遊離」チオール基の濃度、未反応標的分子の濃度、およびしたがって反応した標的分子(すなわち、標的分子-リガンドコンジュゲート)の濃度に関連した「時間の特定点」または「特定の時点」への言及は、反応混合物またはそのアリコートがチオール定量化試薬と接触する時点に対するものである。反応混合物またはそのアリコートをチオール定量化試薬と接触させた後、標的分子は任意のインキュベーション時間にわたってリガンド候補と反応し続けるであろう。しかしながら、チオール定量化試薬は、リガンド候補よりも標的分子とはるかに迅速に反応するように選択されることが好ましく、そのため、最初の概算では、チオール定量化試薬の添加後の標的分子とリガンド候補との間の反応は最小限である。
【0075】
標的分子とリガンド候補との間の反応速度は、生物物理学的性質の単一の測定に基づいて、または反応過程の間の異なる時点でのクエンチ後にそれぞれ行われる複数の測定に基づいて、計算できる。
【0076】
複数の測定が使用される場合、反応混合物またはそのアリコートは、標的分子とリガンド候補との間の反応が始まる時点から測定された様々な異なる時点でチオール定量化試薬と接触させられる。当業者は、適切な数の異なる時点、これらの時点の間の適切な間隔、およびこれらの時点が拡張する適切な時間幅を選択することができる。例えば、これらの工程は、1~10の異なる時点で繰り返され得る。これらの時点は、使用されるリガンド候補と標的分子の組み合わせ、特にリガンド候補の反応性に応じて、適切な期間にわたって拡張し得る。例えば、時点は、反応が開始する時点から、300時間、250時間、200時間、150時間、100時間、50時間、20時間または10時間にわたって拡張されてもよい。精度を向上させるために、繰り返し測定が実施されてもよい。
【0077】
生物物理学的性質の測定値は、次いで、標的分子とリガンド候補との間の反応速度を計算するために使用することができる。好ましくは、生物物理学的性質の測定値は時間に対してプロットされる。次いで、数学的演算をこのデータに適用することができ、例えば、指数関数的減衰を適合させることができ、または当てはめ関数の一次導関数を計算することができる。次いで、定義された時点における速度定数、半減期、または傾斜の勾配などのパラメータを定量化することができる。次に、このパラメータを使用して、異なるリガンド候補間の反応速度を比較することができる。
【0078】
好ましくは、生物物理学的性質の測定値は、標的分子-リガンドコンジュゲートの形成についての速度定数を計算するために使用される。これは任意の適切な方法を用いて行われてもよい。例えば、生物物理学的性質の測定値は、最初に時間に対してプロットされ得る。次いで、図4Aに示すように、一次指数関数的減衰をデータに適合させることによって、速度定数を計算することができる。あるいは、速度定数は、4Bに示すように、時間に対する生物物理学的性質の対数プロットに対して線形近似を実施することによって計算することができる。
【0079】
上記のように、各時点でのクエンチ工程は、反応混合物全体、その実質的な割合、またはそのアリコートのみを含み得る。反応混合物全体またはその実質的な割合がクエンチされる場合、標的分子を提供する工程、標的分子をリガンド候補と接触させる工程、標的分子-リガンドコンジュゲートを形成する工程、反応混合物をチオール定量化試薬と接触させる工程、および反応混合物の生物物理学的性質を測定する工程(すなわち、工程a)~e))は、全て繰り返される。各繰り返しにおいて、反応混合物は、反応中の異なる時点で、すなわち、標的分子とリガンド候補との接触後の異なる時間で、チオール定量化試薬と接触させられる。
【0080】
チオール定量化試薬は、例えば標的分子をリガンド候補と接触させた容器中で、反応混合物に直接添加することができる。あるいは、反応混合物全体(または反応混合物の実質的に全て)をチオール定量化試薬を含むクエンチプレートに移してもよい。
【0081】
反応混合物全体またはその実質的な割合がクエンチされる場合、各繰り返しごとに新たな反応混合物が形成されるので、反応混合物のアリコートをクエンチする場合よりも、一般に、工程b)においてはるかに少量の反応混合物が必要とされる。
【0082】
反応混合物のアリコートのみがクエンチプレートに移される場合、この反応混合物のアリコートは本方法の各繰り返しごとに除去されるので、一般に、工程b)においてより大量の反応混合物が必要とされる。さらに、工程d)およびe)を繰り返すことだけが必要である。各繰り返しにおいて、反応混合物のアリコートは、反応中の異なる時点で、すなわち、標的分子とリガンド候補との接触後の異なる時間で、チオール定量化試薬と接触させられる。
【0083】
本発明の第1の態様による方法の好ましい一実施形態は、
a)目的の結合部位と目的の結合部位内またはその近傍にあるチオール基とを含む標的分子を提供する工程;
b)反応混合物中で標的分子をリガンド候補と接触させる工程、ここで、リガンド候補は、チオール基と不可逆的な共有結合を形成することができる官能基を含む、工程;
c)標的分子のチオール基とリガンド候補の官能基との間で不可逆的な共有結合を形成させ、それによって標的分子-リガンドコンジュゲートを形成させる工程;
d)反応中の初めの時点で反応混合物のアリコートをチオール定量化試薬を含むクエンチプレートへ移す工程、ここで、チオール定量化試薬は、遊離チオール基に結合して、アリコートに生物物理学的方法によって評価可能な生物物理学的性質を付与する定量化コンジュゲートを形成することができる、工程;
e)そのアリコートの生物物理学的性質を測定する工程;ならびに
f)標的分子とリガンドとの間の反応速度を計算する工程;
ここで、工程d)およびe)はさらに1回以上繰り返され、この繰り返しの間、工程d)は反応中の1つ以上のさらなる異なる時点で実施される、工程;を含む。
【0084】
生物物理学的性質の測定値は、対照、例えば、標的分子のみの対照に対して正規化することができる。
【0085】
生物物理学的性質の単一の測定のみが行われる場合、クエンチ工程は反応の過程中、単一の時点でのみ起こる。したがって、第1の態様による本方法の工程は、各リガンド候補に対して一度だけ実施される。これは、もちろん、各繰り返しの同じ時点でクエンチを実施しながら、この方法を任意の特定のリガンド候補について繰り返すという可能性を排除するものではない。
【0086】
生物物理学的性質の単一の測定のみでも、標的分子とリガンドとの間の反応速度は計算することができ、または少なくとも概算することができる。
【0087】
例えば、標的分子の標的分子-リガンドコンジュゲートへの変換の計算は、反応速度の一次近似を可能にする。生物物理学的性質の単一の測定から標的分子の標的分子-リガンドコンジュゲートへの変換の計算を可能にするために、2つの近似を行うことができる:
1.T=0(標的分子-リガンドコンジュゲートが全く形成されていない場合)における生物物理学的性質の値が、リガンド候補が全く導入されていない場合(第1の態様による本方法の工程b)およびc)を省略した場合と等価)の生物物理学的性質に等しい;ならびに
2.標的分子が完全に標的分子-リガンドコンジュゲートに変換した場合の生物物理学的性質の値は、a)標的分子が全く導入されていない場合の生物物理学的性質に等しいか、またはb)ゼロに等しい、のいずれかである。
【0088】
生物物理学的性質のこれら2つの値が決定されると、生物物理学的性質の単一の測定値のみを使用してリガンド候補をスクリーニングすることができる。
【0089】
生物物理学的性質の単一の測定は、例えば、工程e)で測定された生物物理学的性質を標的分子の標的分子-リガンドコンジュゲートへの変換に関連付けることによって、標的分子-リガンドコンジュゲートの形成についての反応速度を概算するために使用されてもよい。具体的には、反応の数学的記述が特徴付けられるならば、反応についての速度定数を導き出すことができる。例えば、反応の全てが擬一次速度論の下で行われる場合、反応は一相指数関数的減衰に従うことが知られている。
【0090】
複数の異なる時点でクエンチした後の生物物理学的性質の複数の測定の使用は、異なるリガンド候補間の反応速度のより正確な分析および比較を可能にするが、各リガンド候補についての生物物理学的性質の単一の測定の使用は、特定の状況下ではより好ましいであろうさらなるハイスループット技術となる。
【0091】
本発明の第1の態様による方法は、リガンド候補についての速度増大を計算する工程をさらに含み得る。これには、
g)標的分子の代わりにモデルチオールを用いて工程a)~f)を繰り返し、同じリガンド候補を用いて、モデルチオールとリガンド候補との間の反応速度を計算する工程;ならびに
h)標的分子とリガンド候補との間の反応速度を、モデルチオールとリガンド候補との間の反応速度と比較することによって、リガンド候補についての速度増大を計算する工程;が含まれ得る。
【0092】
標的分子をリガンド候補と反応させる条件、および反応速度、速度定数などの計算についての上記説明は、モデルチオールとリガンド候補との反応に準用される。
【0093】
モデルチオールは、任意の適切なモデルチオール、例えば、チオール基を含有する小分子を含み得る。モデルチオールは、グルタチオン、ペプチドまたはタンパク質などのアミノ酸誘導体を含み得る。モデルチオールは、標的分子と比較すると異なる表面位置にチオール基を有する標的分子の変異体を含み得る。例えば、異なる表面位置にチオール基を有する標的分子の少数の変異体など、2つ以上のモデルチオールを使用することができる。複数のモデルチオール、例えば、異なる表面位置にチオール基を有する少数の標的分子の変異体が使用される場合、変異体の平均反応速度を計算し、全体的な対照反応速度として使用することができる。
【0094】
標的分子-リガンドコンジュゲートおよびモデルチオール-リガンドコンジュゲートの形成についての速度定数が計算される場合、速度増大は、標的分子-リガンドコンジュゲートの形成についての速度定数をモデルチオール-リガンドコンジュゲートの形成についての速度定数と比較することによって計算され得る。例えば、リガンド候補についての速度増大は、標的分子-リガンドコンジュゲートの形成についての速度定数をモデル-チオールコンジュゲートの形成についての速度定数で除算することによって計算することができる。他の適切な方法もまた当業者に知られているだろう。
【0095】
特定のリガンド候補についての速度増大を計算することは、官能基の固有の反応性を考慮に入れる。したがって、異なる種類の官能基およびより多様な足場を同じスクリーニングで使用することができる。
【0096】
リガンド候補についての速度増大は、例えば、新規薬物の開発のための出発点として、リガンド候補が対象となるかどうかを決定するために使用され得る。そのようなリガンド候補は「ヒット」と呼ばれる。本発明の第1の態様による方法は、さらに
i)リガンド候補についての速度増大が、選択された閾値レベルを上回るかどうかを決定する工程、ここで、この閾値レベルを上回る速度増大を伴うリガンド候補はヒットリガンドとして分類される、工程、を含み得る。
【0097】
リガンド候補は通常、モデルチオールと比較して有意に増大された速度定数を有する場合、「ヒット」として分類される。
【0098】
閾値レベルは経験論的に決定することができる。チオール残基の固有の反応性は標的分子に応じて変わるので、閾値レベルは平均からの標準偏差に基づくことが好ましい。閾値レベルは、例えば、平均に対する2標準偏差または平均に対する3標準偏差であり得る。
【0099】
本発明の第1の態様による方法は、さらに、
j)1つ以上のさらなるリガンド候補を用いて工程a)~f)を繰り返す工程、を含んでもよい。
【0100】
もちろん、複数のリガンド候補のそれぞれは、同時にまたは順次に、並行して、工程a)~f)に付すことができる。
【0101】
各リガンド候補について工程g)~i)を繰り返してもよい。スクリーニングされる複数のリガンド候補の全て、またはそのサブセットについての速度増大が計算された後、リガンド候補は、工程i)に従って「ヒット」として定義され得る。これは、リガンド候補についての速度増大の範囲が、閾値レベルに影響を及ぼし得るためであり、ここで、閾値レベルは、それを超えるとリガンド候補が「ヒット」として分類されるものである。
【0102】
さらに、リガンド候補と標的タンパク質との間の反応は、図8に示される2段階機序に従うので、観察された速度定数は、リガンド候補濃度に対する以下の双曲線依存を示す(式中、[I]=リガンド候補の濃度、kobs=観測された速度定数)。
【0103】
【数1】
【0104】
したがって、このアッセイは、適切な範囲のリガンド候補濃度でkobsを実験的に決定することによってkおよびKの両方を計算するために使用され得る。通常、Kとkは、次いで、双曲線をリガンド候補濃度に対するkobsのプロットに適合させることによって決定される(図9)。
【0105】
したがって、本発明の第1の態様による方法の工程a)~e)は、異なる濃度のリガンド候補を用いて複数回実施することができる。本方法はまた、さらに
j)候補リガンドについての解離定数を決定する工程、を含んでもよい。
【0106】
定数Kおよびkは、独立して、または上記で論じたように速度増大と組み合わせて、ヒットリガンドをランク付けするために使用され得る。
【0107】
さらなる一態様において、本発明は、標的分子とリガンド候補との間の解離定数を測定する方法であって、
a)目的の結合部位と目的の結合部位内またはその近傍にあるチオール基とを含む標的分子を提供する工程;
b)反応混合物中で標的分子をリガンド候補と接触させる工程、ここで、リガンド候補は、チオール基と不可逆的共有結合を形成することができる官能基を含む、工程;
c)標的分子のチオール基とリガンド候補の官能基との間で不可逆的な共有結合を形成させ、それによって標的分子-リガンドコンジュゲートを形成させる工程;
d)反応中の定義された時点で反応混合物またはそのアリコートをチオール定量化試薬と接触させる工程、ここで、チオール定量化試薬は、遊離チオール基に結合して、反応混合物またはそのアリコートに生物物理学的方法によって評価可能な生物物理学的性質を付与する定量化コンジュゲートを形成することができる、工程;
e)反応混合物またはそのアリコートの生物物理学的性質を測定する工程;
f)標的分子とリガンド候補との間の反応速度を計算する工程;
g)複数の異なる濃度のリガンド候補を用いて工程a)~f)を繰り返す工程;ならびに
h)標的分子とリガンド候補との間の解離定数を計算する工程;を含む方法を提供する。
【0108】
好ましくは、複数のリガンド候補は、リガンド候補のライブラリーを含む。本発明の方法は、ライブラリー中の各リガンド候補について、独立した反応速度、速度定数、および/または速度増大を誘導することを可能にする。
【0109】
当業者は、標的分子中のチオール基に共有結合することができる官能基を含むように修飾された分子またはフラグメントのライブラリーを作製するために日常的に使用することができる様々な技術に精通している。標的分子に対してスクリーニングされる分子のライブラリーは、例えば、商業的供給源および非商業的供給源を介して、標準的な化学合成技術またはコンビナトリアル合成技術を用いてそのような化合物を合成することを含む様々な方法で得ることができる。例えば、本発明の方法においてスクリーニングされる分子のライブラリーを作製するための適切な技術は、Allen、C.E.ら、において見出されることができ、これは、参照により本明細書中に組み込まれる。
【0110】
ライブラリーは、好ましくは、少なくとも25個の異なる分子またはフラグメント、例えば、少なくとも100個、少なくとも500個、少なくとも1000個、または少なくとも10,000個の異なる分子またはフラグメントを含む。
【0111】
例示的なライブラリーは以下の表1に示されており、表中、官能基はアクリルアミドを含む。さらなる候補が表2に示されており、表中、官能基は、クロロアセトアミド、エポキシド、SNAr基質、ビニルスルホン、シアナミドおよびアリールニトリルを含む。
【0112】
【表1-1】
【0113】
【表1-2】
【0114】
【表1-3】
【0115】
【表1-4】
【0116】
【表1-5】
【0117】
【表1-6】
【0118】
【表1-7】
【0119】
【表1-8】
【0120】
【表1-9】
【0121】
【表1-10】
【0122】
【表1-11】
【0123】
【表1-12】
【0124】
【表1-13】
【0125】
【表1-14】
【0126】
【表1-15】
【0127】
【表1-16】
【0128】
【表1-17】
【0129】
【表1-18】
【0130】
【表1-19】
【0131】
【表1-20】
【0132】
【表1-21】
【0133】
【表1-22】
【0134】
【表1-23】
【0135】
【表1-24】
【0136】
【表1-25】
【0137】
【表1-26】
【0138】
【表1-27】
【0139】
【表1-28】
【0140】
表1:リガンド候補の例示的なライブラリー。全ての溶液はDMSO中50mMである。
【0141】
【表2-1】
【0142】
【表2-2】
【0143】
【表2-3】
【0144】
表2:さらなる例示的なリガンド候補。全ての溶液はDMSO中50mMである。
【0145】
チオール基を含む標的分子に対してリガンド候補のライブラリーをスクリーニングするための正確な反応条件は、選択されたライブラリーの化学的性質などの因子に依存し、経験論的な方法で当業者によって決定され得る。
【0146】
本発明の第1の態様による方法は、さらに
k)ヒットリガンドを薬物または他の阻害剤に開発する工程、を含み得る。
【0147】
チオール基が標的分子に対して内因性である場合、ヒットリガンドは不可逆的な共有結合阻害剤に開発され得る。あるいは、ヒットリガンドは(例えば官能基の除去により)非共有結合的類似体に修飾され、可逆的な阻害剤に開発され得る。
【0148】
標的分子がチオール基を含むように修飾された場合、ヒットリガンドは(例えば官能基の除去により)非共有結合的類似体に修飾され、そして可逆的な阻害剤に開発され得る。
【0149】
ヒットリガンドがフラグメントを含む場合、このフラグメントは、例えば、フラグメント連結、フラグメント伸長、他の分子との組み合わせ、または相互の組み合わせにより、作製させることができ、高親和性の薬物リードを提供することができる。新しいフラグメントを既知の阻害剤からの要素と併合して、新しい高親和性の阻害剤をもたらすことができる。
【0150】
ヒットリガンドの開発は、以下の工程のうちの1つ以上を含み得る:
-例えばX線結晶構造解析またはNMRによって、標的分子に結合したリガンドの構造を得る工程;
-標準的な医化学技術に従って行われるフラグメントを作製する工程;
-より高い親和性のリガンド候補を選択するためにヒットリガンドの類似体を使用して、本発明の第1の態様による方法を繰り返す工程;
-タンパク質修飾を確認し、修飾残基を同定するための、質量分析法またはNMRを使用する工程;
-例えばタンパク質阻害を確認するために、ヒットおよびその誘導体に対して他の生化学アッセイを並行して実施する工程(標的分子がCdk2の場合、これらの他の生化学アッセイは、サイクリン結合アッセイおよび/またはキナーゼ活性アッセイを含み得る)。
【0151】
本発明の方法に従って同定されたリガンドは、例えば、新規治療薬リード化合物、酵素阻害剤、生化学アッセイ用プローブ、またはタンパク質架橋剤などとしての用途が見出される。
【0152】
本発明の第1の態様による方法の例示的な実施形態を図1、2、3および4に示す。
【0153】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様の方法に従って同定されたヒットリガンドまたはリガンド候補を提供する。
【0154】
したがって、本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様による方法を用いてヒットリガンドとして同定された場合には、上記の表1に示された任意のリガンド候補を含む。
【0155】
本発明の第2の態様はまた、そのようなリガンドの誘導体も包含する。誘導体は、任意のハロゲン、H以外の任意の原子、任意のアルキル鎖、任意の環、任意の炭素環、または任意の複素環などの様々な芳香族または脂肪族置換を含み得る。さらに、アクリルアミド官能基の代わりに他の求電子性基、例えばアクリレート、α,β-不飽和ケトン、ビニルスルホンアミド、ビニルスルホン、ビニルスルホネート、α-ハロゲン化ケトン、エポキシドおよびそれらの置換誘導体を使用することができる。
【0156】
実施例1は、モデルチオールとしてグルタチオンを用いた、1つの内因性表面露出システイン(C177)残基を含む野生型サイクリン依存性キナーゼ2(Cdk2)に対する120個のアクリルアミドのライブラリーのスクリーニングを記載する。この方法は、2つの「ヒットリガンド」、CA-184およびEL-1071を同定した。それらの構造を以下に示す:
【0157】
【化1】
【0158】
実施例2は、1つの内因性表面露出システイン(C177)残基を含む野生型サイクリン依存性キナーゼ2(Cdk2)に対する120個のアクリルアミドのライブラリーのスクリーニングを記載する。この実施例では、2つの操作された表面露出システイン残基を含む突然変異体Cdk2(C177A、F80C、K278C)をモデルチオールとして用いた。この方法は、2つの「ヒットリガンド」、CA-89およびCA-92を同定した。それらの構造を以下に示す:
【0159】
【化2】
【0160】
したがって、本発明の第2の態様は、CA-184(式A)、CA-89(式C)およびCA-92(式D)を含み、これらは、本発明者らにより作製され、本発明の第1の態様による方法を用いてヒットリガンドとして同定された新規フラグメントである。
【0161】
本発明の第2の態様はまた、上で定義したように、CA-184(式A)、CA-89(式C)、およびCA-92(式D)の誘導体も包含する。したがって、本発明の第2の態様は、以下の式で表される化合物およびその誘導体を含み、式中、Rは、任意の適切な求電子性基、例えば、アクリルアミド官能基、アクリレート、α,β-不飽和ケトン、ビニルスルホンアミド、ビニルスルホン、ビニルスルホネート、α-ハロゲン化ケトン、エポキシドおよびそれらの置換誘導体からなる群から選択される求電子性基を含む:
【0162】
【化3】
【0163】
上記のように、これらの化合物の誘導体は、任意のハロゲン、H以外の任意の原子、任意のアルキル鎖、任意の環、任意の炭素環、または任意の複素環などの様々な芳香族または脂肪族置換を含み得る。
【0164】
本発明の第3の態様は、本発明の第1の態様による方法を用いて開発された薬物を提供する。
【0165】
したがって、本発明の第3の態様は、本発明の第1の態様による方法を用いてヒットリガンドとして同定された場合には、上記の表1に示された任意のリガンド候補およびその誘導体から開発された薬物を含む。
【0166】
したがって、例えば、本発明の第3の態様は、上記で議論された任意の「ヒットリガンド」、例えば、CA-184(式A)、CA-89(式C)またはCA-92(式D)を含む式I、式IIおよび式IIIの化合物またはそれらの誘導体から開発された薬物を含む。
【0167】
本発明の第3の態様は、EL-1071(式B)またはその誘導体、例えば、式IVの化合物から開発された薬物を含み、式中、Rは、任意の適切な求電子性基、例えば、アクリルアミド官能基、アクリレート、α,β-不飽和ケトン、ビニルスルホンアミド、ビニルスルホン、ビニルスルホネート、α-ハロゲン化ケトン、エポキシドおよびそれらの置換誘導体からなる群から選択される求電子性基を含む:
【0168】
【化4】
【0169】
上記のように、これらの化合物の誘導体は、任意のハロゲン、H以外の任意の原子、任意のアルキル鎖、任意の環、任意の炭素環、または任意の複素環などの様々な芳香族または脂肪族置換を含み得る。
【0170】
上記で論じた動的チオール消費アッセイはまた、本発明の第1の態様による方法の文脈を超えた潜在的用途も有する。したがって、本発明の第4の態様は、チオールと該チオールと反応することができる分子との間の反応速度を測定する方法であって、
a)チオールを、該チオールと反応することができる分子と接触させて、反応混合物中に反応生成物を形成する工程;
b)反応中の定義された時点で反応混合物またはそのアリコートをチオール定量化試薬と接触させる工程、ここで、チオール定量化試薬は、遊離チオール基に結合して、反応混合物またはそのアリコートに生物物理学的方法によって評価可能な生物物理学的性質を付与する定量化コンジュゲートを形成することができる、工程;
c)反応混合物またはそのアリコートの生物物理学的性質を測定する工程;ならびに
d)チオールと、該チオールと反応することができる分子との間の反応速度を計算する工程;を含む方法を提供する。
【0171】
本発明の第1の態様の詳細の全ては、本発明の第4の態様に準用される。
【0172】
したがって、本発明の第4の態様の工程b)は、反応混合物のアリコートをチオール定量化試薬と接触させることを含んでもよく、ここで、工程b)およびc)はさらに1回以上繰り返され、各繰り返しの間、工程b)は反応中の1つ以上のさらなる異なる時点で実施される。
【0173】
本発明の第4の態様の工程b)は、代替的に、反応混合物全体またはその実質的な割合をチオール定量化試薬と接触させることを含んでもよく、ここで、工程a)~c)はさらに1回以上繰り返され、各繰り返しの間、工程b)は反応中の1つ以上のさらなる異なる時点で実施される。
【0174】
いずれの場合も、工程d)は、反応生成物の形成についての速度定数を計算することを含み得る。
【0175】
あるいは、工程b)は、反応中の単一の時点で行われてもよく、工程d)は、その時点でのチオールの反応生成物への変換を計算することを含んでもよい。この方法は、反応生成物の形成についての速度定数の近似値を計算することをさらに含み得る。
【0176】
本発明の第4の態様による方法の好ましい一実施形態は、
a)チオールを、該チオールと反応することができる分子と接触させて、反応混合物中に反応生成物を形成する工程;
b)反応中の定義された時点で反応混合物のアリコートをチオール定量化試薬を含むクエンチプレートへ移す工程、ここで、チオール定量化試薬は、遊離チオール基に結合して、アリコートに生物物理学的方法によって評価可能な生物物理学的性質を付与する定量化コンジュゲートを形成することができる、工程;
c)そのアリコートの生物物理学的性質を測定する工程;ならびに
d)チオールと、該チオールと反応することができる分子との間の反応速度を計算する工程;
ここで、工程b)およびc)はさらに1回以上繰り返され、この繰り返しの間、工程b)は反応中の1つ以上のさらなる異なる時点で実施される、工程;を含む。
【0177】
上記のように、本発明の第4の態様による方法を、本発明の第1の態様による方法において用いて、標的分子とリガンド候補との反応速度を測定することができる。しかしながら、本発明の第4の態様による方法は他の用途を有することができる。例えば、それは酵素アッセイにおいて、特にチオール基に作用するかまたはチオール基を必要とする酵素に関して使用され得る。
【0178】
第4の態様の方法の別の好ましい実施形態は、チオールを不可逆的に係合させるチオール定量化試薬の使用を含み得る。この文脈における不可逆的結合の意味は当業者により理解されるであろうが、一旦チオールに結合すると、チオール定量化試薬はこの方法で使用される条件下で非結合とならないことを意味することが意図される。そのような薬剤としては、マレイミド(N-(7-ジメチルアミノ-4-メチルクマリン-3-イル)マレイミドおよびフルオレセイン-5-マレイミドを含むがこれに限定されない)、Hongら、2009に開示されている化合物5a、および3-(7-ヒドロキシ-2-オキソ-2H-クロメン-3-イルカルバモイル)アクリル酸メチルエステルを含むがこれらに限定されない。不可逆的な試薬の使用は、より正確な測定を提供し得る。チオール検出試薬については、Chenら、2010でさらに詳細に議論されている。
【0179】
さらに第4の態様の方法のなお好ましい一実施形態は、望ましくないチオール酸化を防ぐための還元剤の使用を含む。還元剤は、チオール定量化の前にチオールから分離され、反応速度のより正確な定量化をもたらす。還元剤の除去は、固定化された還元剤を使用することによって達成することができ、それは該チオールと反応することができる分子と並行して添加されてもよい。次いで、固定化された還元剤を、チオール定量化の前にチオールから分離することができる。したがって、第4の態様の方法の好ましい一実施形態では、工程a)において、チオールは、該チオールと反応することができる分子と並行して還元剤とも接触させ、還元剤は、反応混合物またはそのアリコートをチオール定量化試薬と接触させる前に、工程b)において除去される。
【0180】
好ましい固定化された還元剤は、アガロースビーズ(Thermo Fisherから商業的に入手可能である)に固定化されたトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)である。TCEPは他の方法でも固定化することができ、それは当業者に明らかであろう(例えばAlzahrani&Welham201410を参照されたい)。他のジスルフィド還元剤(例えば、ホスフィンおよびチオール)も同様に固定化し、使用することができる。
【0181】
上記の説明および以下の実施例にて提供される本発明の詳細は、本発明の全ての態様および実施形態に準用される。
【0182】
明確にするために別々の実施形態の文脈において説明されている本発明の特定の特徴は、単一の実施形態において組み合わせて提供されてもよいことを理解されたい。逆に、簡潔にするために単一の実施形態の文脈において説明されている本発明の様々な特徴は、別々にまたは任意の適切なサブコンビネーションで提供されてもよい。
【0183】
ここで、本発明の態様は、以下の非限定的な実施例によって説明される。
【実施例
【0184】
実施例1および2
方法論:
標準的技法を用いてcDNAをpRSETA細菌発現ベクターにクローニングして、ポリヒスチジンタグ付きCdk2融合体を作成し、これをE.coliから精製することにより調製したa)ヒトサイクリン依存性キナーゼ2(Cdk2、1つの表面露出システイン残基-C177を含む)、ならびにb)モデルチオール(具体的な詳細は以下に示す)に対して、120個のアクリルアミドのライブラリーをスクリーニングした。これら120個のアクリルアミドの構造は、上記表1に示されている。
【0185】
脱気リン酸緩衝液(pH8)中に150μLのチオール(Cdk2またはモデルチオール)(5μM)を含むウェルへ、固定化TCEPビーズ(2%v/v)を添加した。チオールが完全に還元されたことを確実にするために4℃で1時間インキュベートした後、DMSO中のアクリルアミドストック溶液を添加し、最終濃度500μMのリガンドを得た。
【0186】
0.25~250時間の範囲の時間間隔で、3μLのアリコートを取り出し(TCEPビーズは移さない)、各ウェルが脱気リン酸緩衝液(pH7.5)中27μLのCPM(1.25μMの最終濃度)を含む、別の蛍光プレートにクエンチした。
【0187】
蛍光プレートを室温で1時間インキュベートした後、蛍光測定(380/470nmの励起光/発光)をPerkinElmer EnVisionマルチラベルプレートリーダーで行い、EnVisionワークステーションバージョン1.12で処理した。
【0188】
蛍光測定値をDMSO/チオールのみの対照に対して正規化し、次いで、時間に対してプロットした。
【0189】
GraphPadソフトウェアPrismバージョン6を使用して、一次指数関数的減衰をデータに適合させることによって、速度定数を計算した。Cdk2を伴う各アクリルアミドについての速度定数を、モデルチオールを伴うそのフラグメントについての速度定数で除算して、各リガンド候補についての速度増大をもたらした。
【0190】
実施例1:
実施例1におけるモデルチオールは、グルタチオン(GSH)である。結果を以下の表3に示す。ヒットは、kCdk2/kGSH>5.8(経験論的に平均値に対する3標準偏差として決定される)であるフラグメントとして定義された。
【0191】
正規化した速度分布の図を図5に示す。この図から分かるように、CA-184およびEL-1071に対応する2つのヒットフラグメントが同定され、それらの構造は以下に示される:
【0192】
【化5】
【0193】
2つの例示的化合物、ネガティブ化合物EL-1007およびヒットフラグメントEL-1071を、例として以下でより詳細に考察する。
【0194】
図6Aおよび図6Bに示されるように、EL-1007-GSHコンジュゲートの形成についての速度定数(kGSH)は0.025であり、一方、EL-1007-Cdk2コンジュゲートの形成についての速度定数(KCdk2)は0.035であった。EL-1007-Cdk2コンジュゲートの形成についての速度定数(KCdk2)をEL-1007-GSHコンジュゲートの形成についての速度定数(kGSH)で除算すると、EL-1007についての速度増大は1.4となる。これは、選択された速度増大の閾値5.8を下回るので、EL-1007はネガティブ化合物として定義された。
【0195】
図7Aおよび図7Bに示されるように、EL-1071-GSHコンジュゲートの形成についての速度定数(kGSH)は0.051であり、一方、EL-1071-Cdk2コンジュゲートの形成についての速度定数(kCdk2)は0.433であった。EL-1071-Cdk2コンジュゲートの形成についての速度定数(KCdk2)をEL-1071-GSHコンジュゲートの形成についての速度定数(kGSH)で除算すると、EL-1071についての速度増大は8.5となる。これは、選択された速度増大の閾値5.8を上回るので、EL-1071はヒットフラグメントとして定義された。
【0196】
実施例2:
実施例2で使用したモデルチオールは、2つの操作された表面露出システイン残基を含むヒトCdk2(C177A、F80C、K278C)の突然変異体である。標準的技法を用いて、部位特異的突然変異誘発によって突然変異を導入し、得られたcDNAをpRSETA細菌発現ベクターにクローニングし、ポリヒスチジンタグ付きCdk2融合体を作成し、これをE.coliから精製した。結果を以下の表3に示す。
【0197】
以下のリガンド候補(CA-89およびCA-92)は、それらが両方のモデルチオール(GSHおよび突然変異体Cdk2)に対して有意な速度増大を示すので、ヒットとして同定された。ヒットの構造を以下に示す:
【0198】
【化6】
【0199】
結果:
グルタチオンに伴う速度定数(k(GSH))、Cdk2に伴う速度定数(k(Cdk2))、Cdk2[C177A、F80C、K278C]に伴う速度定数(k(Cdk2_mut))、ならびにスクリーニングされた各リガンド候補について計算された速度増大(k(Cdk2)/k(GSH)およびk(Cdk2)/k(Cdk2_mut))が以下の表3に示される。
【0200】
【表3-1】
【0201】
【表3-2】
【0202】
【表3-3】
【0203】
【表3-4】
【0204】
表3:スクリーニングされた各リガンド候補についての速度定数および速度増大
【0205】
実施例3
さらなるCdk2突然変異体のさらなるセットのセットをスクリーニングした。これらは全てC177A突然変異を含み、したがって表面上に1つだけシステインを含む。
F80C(K278C突然変異なし)
H71C
S276C
N272
T182C
R122C
S181C
【0206】
標準的技法を用いて、部位特異的突然変異誘発によって突然変異を導入し、得られたcDNAをpRSETA細菌発現ベクターにクローニングし、ポリヒスチジンタグ付きCdk2融合体を作成し、これをE.coliから精製した。
このスクリーニングからのデータを表4および5に示す。
【0207】
【表4-1】
【0208】
【表4-2】
【0209】
【表4-3】
【0210】
【表4-4】
【0211】
【表4-5】
【0212】
【表4-6】
【0213】
【表4-7】
【0214】
表4:各突然変異体Cdk2を伴う各リガンドについての速度定数
【0215】
【表5-1】
【0216】
【表5-2】
【0217】
【表5-3】
【0218】
【表5-4】
【0219】
【表5-5】
【0220】
【表5-6】
【0221】
表5:各突然変異体Cdk2を伴う各リガンドについての速度増大
【0222】
実施例4-モデルチオールとして数個のチオールの平均の使用
実施例1では、対照チオール、グルタチオンと比較して、速度増大を計算した。実施例3からのデータは、数個の異なるチオールの平均を対照として使用できることを示している。
【0223】
一例として、全てのCdk2構築物(Cdk(WT)を除く)と反応したリガンド候補EL1157についての速度定数を平均化し、次いで、Cdk2(WT)に伴う速度定数と比較した。
【0224】
【表6】
【0225】
表6:Cdk2(WT)との反応における速度定数と比較した、種々のCdk2構築物との反応におけるリガンド候補EL1157についての速度定数
【0226】
対照チオールとして複数のタンパク質の平均を用いたこの速度増大の値は、標的タンパク質に対するヒットリガンドの選択性の尺度となる。
【0227】
実施例5
Cdk2(C177A、F80C)に対して同定されたヒットリガンドのうちの1つ(CA37)についてのkおよびKの決定の一例として、観察された速度定数は、2、1、0.5、0.35、0.2、0.1、0.05および0.02mMのリガンド候補濃度で計算した(下記表7参照)。実施例1および2の方法論セクションに記載されているように、速度定数を計算した。
【0228】
【表7】
【0229】
表7:Cdk2(C177A、F80C)に結合する種々の濃度のCA37についての速度定数
【0230】
双曲線方程式をこのデータに適合させると(図9)、K=1.2mM、k=0.009427分-1となる。
【0231】
実施例6-ヒットリガンドの検証
本方法によって同定されたヒットリガンドの結合を検証するために、質量分析法およびX線結晶構造解析を使用した。
【0232】
Cdk2(F80C、C177A)のスクリーニングから、本発明者らは、ヒット分子としてEL1071を同定した(GSHに対する速度増大=60.5)。インタクトタンパク質質量分析により、ラベリングを交差検証した(これは2時間のインキュベーション後に、Cdk2(F80C、C177A)がEL1071によって完全に単一修飾されたことを示した)(この図において、Cdk2(AS)=Cdk2(F80C、C177A)、1=EL1071)-図10Aを参照のこと)。
【0233】
次いで、得られた複合体をトリプシンで消化し、得られたペプチドをタンデム質量分析によって配列決定し、修飾部位をF80Cとして確認した(図10B)。
【0234】
キナーゼアッセイも実施し、これは、Cdk2(F80C、C177A)がCdk2(WT)と同程度の活性を有し、かつEL1071がCdk2(F80C、C177A)を完全に阻害することを示した。また、1-Cdk2は、EL1071で標識されたCdk2(F80C、C177A)を指す(図10C)。
【0235】
最後に、EL1071-Cdk2(F80C、C177A)複合体を結晶化し、その構造をX線結晶構造解析により決定した(図11)。これにより、リガンドがF80Cでシステイン残基に結合し、タンパク質の活性部位を遮断して、観察された阻害をもたらすことが確認される。
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9.Chen、X.;Zhou、Y.;Peng、X.およびJuyoung、Y.、2010.Fluorescent and colorimetric probes for detection of thiols.Chem.Soc. Rev.、39、2120-2135
10.Alzahrani、E.;Welham、K.2014.Fabrication of a TCEP-immobilised monolithic silica microchip for reduction of disulphide bonds in proteins Anal.Methods、6、558-568
上記の全ての参考文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図11
【配列表】
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