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特許7008726酸素分離モジュールが組み込まれたODHユニットを備えたコンプレックス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-13
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】酸素分離モジュールが組み込まれたODHユニットを備えたコンプレックス
(51)【国際特許分類】
   C07C 5/48 20060101AFI20220203BHJP
   C07C 11/04 20060101ALI20220203BHJP
   C07B 35/04 20060101ALI20220203BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
C07C5/48
C07C11/04
C07B35/04
C07B61/00 300
【請求項の数】 33
(21)【出願番号】P 2019557806
(86)(22)【出願日】2018-04-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-06-18
(86)【国際出願番号】 IB2018052810
(87)【国際公開番号】W WO2018198015
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-01-25
(31)【優先権主張番号】2965062
(32)【優先日】2017-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CA
(73)【特許権者】
【識別番号】513269848
【氏名又は名称】ノヴァ ケミカルズ(アンテルナショナル)ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】セラール、カマル
(72)【発明者】
【氏名】シマンゼンコフ、ワシリー
(72)【発明者】
【氏名】グーダルズニア、シャーヒン
(72)【発明者】
【氏名】ゲント、デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアムソン、マーク
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-096140(JP,A)
【文献】米国特許第04899003(US,A)
【文献】特表2004-509155(JP,A)
【文献】特開2006-193522(JP,A)
【文献】特開平07-053414(JP,A)
【文献】国際公開第2017/046880(WO,A1)
【文献】特開2000-304206(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 5/48
C07C 11/04
C07B 35/04
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低級アルカンの酸化的脱水素化のための化学コンプレックスであって、
i) 少なくとも1つの酸化的脱水素化反応器であり、酸化的脱水素化触媒を含み、任意に不活性希釈剤の存在下で、酸素含有ガスと低級アルカン含有ガスとを受け入れ、対応するアルケンと場合によっては1つ以上の以下の成分:
a.未反応の低級アルカン;
b.酸素;
c.不活性希釈剤;
d.二酸化炭素及び一酸化炭素を含む炭素酸化物;
e.酢酸、アクリル酸及びマレイン酸を含む酸素化物;並びに
f.水;
を含む生成物ストリームを生成するように設計された、酸化的脱水素化反応器と、
ii) 生成物ストリームを急冷し、前記生成物ストリームから水と可溶性酸素化物とを除去するための急冷塔と、
iii) 前記生成物ストリームから二酸化炭素を除去するためのアミン洗浄と、
iv) 前記生成物ストリームから水を除去するための乾燥機と、
v) 前記生成物ストリームからC2/C2+炭化水素を除去して、C1炭化水素が豊富なオーバーヘッドストリームを生成する蒸留塔と、
vi) 任意選択で、可燃性燃料を前記オーバーヘッドストリームに導入する手段と、
vii) 酸素分離モジュールであり、
a.密封容器内に収容され、保持側と透過側とを有する酸素輸送膜;
b.前記オーバーヘッドストリーム、可燃性燃料、又はその両方を前記保持側に導入するための第1の入口;
c.前記オーバーヘッドストリーム、可燃性燃料、又はその両方を前記透過側に導入するための第2の入口;、
d.保持側に空気を導入するための空気入口;
e.前記保持側からの酸素欠乏空気及び燃焼生成物の排出のための排気口;並びに
f.前記透過側から酸素富化ガス及び燃焼生成物を除去するための出口;
を含む酸素分離モジュールと、
を協同配置で備える化学コンプレックスであり、
i)からvii)の構成要素は、記載されている順序で直列に接続され、v)からのオーバーヘッドストリームは、前記保持側、前記透過側、又は前記保持側と前記透過側の両方に向けて送られてもよく、前記透過側からの酸素富化ガス及び燃焼生成物は、少なくとも1つの酸化的脱水素化反応器に導入される酸素含有ガスとして又はその一部として、i)に戻されてもよい、化学コンプレックス。
【請求項2】
少なくとも1つの酸化的脱水素化反応器に導入する前に、酸素含有ガスと低級アルカン含有ガスを予混合するためのフラッド型ガスミキサーをさらに含む、請求項1に記載の化学コンプレックス。
【請求項3】
酸化的脱水素化触媒が、以下からなる群から選択される混合金属酸化物を含む、請求項1又は2に記載の化学コンプレックス:
i)次式の触媒:
MoTeNbPd
(式中、a、b、c、d、e、及びfは、それぞれ元素Mo、V、Te、Nb、Pd及びOの相対原子量であり;a=1、b=0.01~1.0、c=0.01~1.0、d=0.01~1.0、0.00≦e≦0.10で、fは触媒の原子価状態を満たす数である);
ii)次式の触媒:
Ni
(式中、gは0.1~0.9の数であり;hは0.04~0.9の数であり;iは0~0.5の数であり;jは0~0.5の数であり;fは触媒の原子価状態を満たす数であり;Aは、Ti、Ta、V、Nb、Hf、W、Y、Zn、Zr、Si及びAl又はそれらの混合物からなる群から選択され;Bは、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Sb、Sn、Bi、Pb、Tl、In、Te、Cr、Mn、Mo、Fe、Co、Cu、Ru、Rh、Pd、Pt、Ag、Cd、Os、Ir、Au、Hg、及びそれらの混合物からなる群から選択され;Dは、Ca、K、Mg、Li、Na、Sr、Ba、Cs、Rb及びそれらの混合物からなる群から選択され;
Oは、酸素である);
iii)次式の触媒:
Mo
(式中、Eは、Ba、Ca、Cr、Mn、Nb、Ta、Ti、Te、V、W及びそれらの混合物からなる群から選択され;Gは、Bi、Ce、Co、Cu、Fe、K、Mg、V、Ni、P、Pb、Sb、Si、Sn、Ti、U、及びそれらの混合物からなる群から選択され;a=1;kは0~2;l=0~2、ただし、Co、Ni、Fe及びそれらの混合物のlの合計値は0.5未満であり;fは、触媒の原子価状態を満たす数である);
iv)次式の触媒:
MoNbTeMe
(式中、Meは、Ta、Ti、W、Hf、Zr、Sb及びそれらの混合物からなる群から選択される金属であり;mは0.1~3であり;nは0.5~1.5であり;oは0.001~3であり;pは0.001から5であり;qは0~2であり;fは触媒の原子価状態を満たす数である);並びに
v)次式の触媒:
Mo
(式中、Xは、Nb及びTaの少なくとも1つであり;Yは、Sb及びNiの少なくとも1つであり;Zは、Te、Ga、Pd、W、Bi及びAlの少なくとも1つであり;Mは、Fe、Co、Cu、Cr、Ti、Ce、Zr、Mn、Pb、Mg、Sn、Pt、Si、La、K、Ag及びInの少なくとも1つであり;a=1.0(正規化);r=0.05~1.0;s=0.001~1.0;t=0.001~1.0;u=0.001~0.5;v=0.001~0.3;fは触媒の原子価状態を満たす数である)。
【請求項4】
少なくとも1つの酸化的脱水素化反応器が、単一の固定床型反応器を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の化学コンプレックス。
【請求項5】
少なくとも1つの酸化的脱水素化反応器が、単一の流動床型反応器を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の化学コンプレックス。
【請求項6】
前記少なくとも1つの酸化的脱水素化反応器が、スイング床型反応器配置を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の化学コンプレックス。
【請求項7】
少なくとも1つの酸化的脱水素化反応器が、直列に接続された複数の酸化的脱水素化反応器を含み、各反応器は同じ又は異なる酸化的脱水素化触媒を含有し、一連の最後の酸化的脱水素化反応器を除く各酸化的脱水素化反応器からの生成物ストリームが、請求項1~3のいずれか一項に記載の化学コンプレックス。
【請求項8】
少なくとも1つの酸化的脱水素化反応器が、並列に接続された複数の酸化的脱水素化反応器を含み、各反応器は同じ又は異なる酸化的脱水素化触媒を含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の化学コンプレックス
【請求項9】
少なくとも1つの酸化的脱水素化反応器の少なくとも1つが、固定床型反応器を含む、請求項7又は8に記載の化学コンプレックス。
【請求項10】
少なくとも1つの酸化的脱水素化反応器の少なくとも1つが、流動床型反応器を含む、請求項7又は8に記載の化学コンプレックス。
【請求項11】
前記少なくとも1つの酸化的脱水素化反応器が、スイング床型反応器配置を含む、請求項7又は8に記載の化学コンプレックス。
【請求項12】
前記化学コンプレックスが、前記急冷塔のすぐ上流に少なくとも1つの熱交換器をさらに含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の化学コンプレックス。
【請求項13】
前記化学コンプレックスが、前記アミン洗浄のすぐ下流に苛性洗浄塔をさらに含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の化学コンプレックス。
【請求項14】
C2/C2+炭化水素が、蒸留塔を出て、未反応の低級アルカン及び対応するアルケンを未反応の低級アルカンストリーム及び対応するアルケンストリームに分離するため、スプリッターに送られる、請求項1~13のいずれか一項に記載の化学コンプレックス。
【請求項15】
蒸留塔が、生成物ストリームのC2/C2+炭化水素部分を、未反応の低級アルカンストリームと対応するアルケンストリームに分離することをさらに提供する、請求項1から12のいずれか一項に記載の化学コンプレックス。
【請求項16】
未反応の低級アルカンストリームが、低級アルカン含有ガスの一部として前記少なくとも1つの酸化的脱水素化反応器に戻される、請求項14又は15に記載の化学コンプレックス。
【請求項17】
酸素分離モジュールがチューブ状であり、酸素輸送膜が外殻内にある内側チューブを含み、保持側が内側チューブと外殻の間の環状空間を含み、透過側が内側チューブ内の空間である、請求項1~16のいずれか一項に記載の化学コンプレックス。
【請求項18】
酸素分離モジュールが、可燃性燃料を酸素分離モジュールに導入するため、保持側、透過側、又はその両方への追加の入口をさらに含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の化学コンプレックス。
【請求項19】
低級アルカンの対応するアルケンへの酸化的脱水素化方法であって、
i) 少なくとも1つの酸化的脱水素化反応器内で、任意に不活性希釈剤の存在下で、酸素含有ガス及び低級アルカン含有ガスを、酸化的脱水素化触媒と接触させて、対応するアルケンと場合によっては1つ以上の以下の成分:
a.未反応の低級アルカン;
b.酸素;
c.不活性希釈剤;
d.二酸化炭素及び一酸化炭素を含む炭素酸化物;
e.酢酸、アクリル酸及びマレイン酸を含むがこれらに限定されない酸素化物;並びに
f.水;
を含む生成物ストリームを生成する工程と、
ii) i)からの生成物ストリームを急冷塔に通して、前記生成物ストリームから酸素化物と水を除去する工程と、
iii) ii)からの生成物ストリームをアミン洗浄に通して、前記生成物ストリームから二酸化炭素を除去する工程と、
iv) iii)からの生成物ストリームを乾燥機に通して、水を除去する工程と、
v) iv)からの生成物ストリームを蒸留塔に通して、C1炭化水素及びC2/C2+炭化水素よりも軽い他の化合物を含むオーバーヘッドストリームを分離する工程と、
vi) v)からのオーバーヘッドストリーム、及び任意に可燃性燃料を、請求項1に記載の酸素分離モジュールの保持側及び透過側の一方又は両方に通過させる工程と、
vii) 大気を前記保持側に導入することにより、前記オーバーヘッドストリームに存在して前記保持側に導入された可燃性C1炭化水素及び燃料の燃焼による熱の発生を可能にし、前記酸素輸送膜の温度を少なくとも850℃まで上昇させることにより、前記大気からの未反応酸素が前記酸素輸送膜の透過側に通過することを可能にし、前記オーバーヘッドストリームに存在して前記透過側に導入された可燃性C1炭化水素及び燃料の燃焼を可能にし、前記透過側で酸素富化ガスを生成し、前記保持側で酸素欠乏空気を残す工程と、
viii) 酸素欠乏空気と燃焼生成物を、酸素分離モジュールの排気口を通して前記保持側から排出する工程と、
ix) 前記酸素分離モジュールの前記出口から酸素富化ガスを除去する工程と、
を含む方法であり、
酸素富化ガスは、任意に、前記酸化的脱水素化反応器に導入される酸素含有ガスとして又はその一部として、i)に戻される、方法。
【請求項20】
酸素富化ガスが、少なくとも20%の酸素を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
低級アルカンがエタンである、請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
酸素含有ガスに対する低級アルカン含有ガスの比率が、爆発限界の上限を超えている、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
低級アルカン含有ガス及び酸素含有ガスが、少なくとも1つの酸化的脱水素化反応器に入る前に、フラッド型ガスミキサーで混合される、請求項19から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
酸化的脱水素化触媒が、以下を含む群から選択される混合金属酸化物を含む、請求項19~23のいずれか一項に記載の方法:
i)次式の触媒:
MoTeNbPd
(式中、a、b、c、d、e、及びfは、それぞれ元素Mo、V、Te、Nb、Pd及びOの相対原子量であり;a=1、b=0.01~1.0、c=0.01~1.0、d=0.01~1.0、0.00≦e≦0.10で、fは触媒の原子価状態を満たす数である);
ii)次式の触媒:
Ni
(式中、gは0.1~0.9の数であり;hは0.04~0.9の数であり;iは0~0.5の数であり;jは0~0.5の数であり;fは触媒の原子価状態を満たす数であり;Aは、Ti、Ta、V、Nb、Hf、W、Y、Zn、Zr、Si及びAl又はそれらの混合物からなる群から選択され;Bは、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Sb、Sn、Bi、Pb、Tl、In、Te、Cr、Mn、Mo、Fe、Co、Cu、Ru、Rh、Pd、Pt、Ag、Cd、Os、Ir、Au、Hg、及びそれらの混合物からなる群から選択され;Dは、Ca、K、Mg、Li、Na、Sr、Ba、Cs、Rb及びそれらの混合物からなる群から選択され;Oは、酸素である);
iii)次式の触媒:
Mo
(式中、Eは、Ba、Ca、Cr、Mn、Nb、Ta、Ti、Te、V、W及びそれらの混合物からなる群から選択され;Gは、Bi、Ce、Co、Cu、Fe、K、Mg、V、Ni、P、Pb、Sb、Si、Sn、Ti、U、及びそれらの混合物からなる群から選択され;a=1;kは0~2;l=0~2、ただし、Co、Ni、Fe及びそれらの混合物のlの合計値は0.5未満であり;fは、触媒の原子価状態を満たす数である);
iv)次式の触媒:
MoNbTeMe
(式中、Meは、Ta、Ti、W、Hf、Zr、Sb及びそれらの混合物からなる群から選択される金属であり;mは0.1~3であり;nは0.5~1.5であり;oは0.001~3であり;pは0.001から5であり;qは0~2であり;fは触媒の原子価状態を満たす数である);並びに
v)次式の触媒:
Mo
(式中、Xは、Nb及びTaの少なくとも1つであり;Yは、Sb及びNiの少なくとも1つであり;Zは、Te、Ga、Pd、W、Bi及びAlの少なくとも1つであり;Mは、Fe、Co、Cu、Cr、Ti、Ce、Zr、Mn、Pb、Mg、Sn、Pt、Si、La、K、Ag及びInの少なくとも1つであり;a=1.0(正規化);r=0.05~1.0;s=0.001~1.0;t=0.001~1.0;u=0.001~0.5;v=0.001~0.3;fは触媒の原子価状態を満たす数である)。
【請求項25】
少なくとも1つの酸化的脱水素化反応器の1つ以上が、固定床型の単一の反応器を含む、請求項19~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
少なくとも1つの酸化的脱水素化反応器の1つ以上が、流動床型の単一の反応器を含む、請求項19~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
少なくとも1つの酸化的脱水素化反応器が、直列に接続された複数の酸化的脱水素化反応器を含み、各反応器は同じ又は異なる酸化的脱水素化触媒を含有し、一連の最後の酸化的脱水素化反応器を除く各酸化的脱水素化反応器からの生成物ストリームが、下流の酸化的脱水素化反応器に供給される、請求項19~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
少なくとも1つの酸化的脱水素化反応器が、並列に接続された複数の酸化的脱水素化反応器を含み、各反応器は同じ又は異なる脱水素化触媒を含有する、請求項19~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
少なくとも1つの酸化的脱水素化反応器の少なくとも1つが、固定床型反応器である、請求項27又は28に記載の方法。
【請求項30】
少なくとも1つの酸化的脱水素化反応器の少なくとも1つが、流動床型反応器である、請求項27又は28に記載の方法。
【請求項31】
少なくとも1つの酸化的脱水素化反応器の少なくとも1つが、スイング床型反応器である、請求項27又は28に記載の方法。
【請求項32】
少なくとも1つの酸化的脱水素化反応器の各々からの生成物ストリームを熱交換器に通して、前記急冷塔に導入する前に、前記生成物ストリームの温度を下げる、請求項19に記載の方法。
【請求項33】
iii)からの生成物ストリームが、iv)の前記蒸留塔への導入の前に、苛性洗浄塔を通過する、請求項19~31のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、低級アルカンから対応するアルケンへの酸化的脱水素化(ODH)に関する。より具体的には、本発明は、酸素分離モジュールを含むODH用の化学コンプレックス(chemical complex)に関する。
【背景技術】
【0002】
対応するアルケンへのアルカンの触媒酸化的脱水素化(catalytic oxidative dehydrogenation)は、今日の商業規模の生産者の大多数が選択する方法である水蒸気分解に代わる代替法である。広範囲に使用されているにもかかわらず、水蒸気分解には欠点がある。第一に、水蒸気分解はエネルギー集約型であり、分解反応の高い吸熱特性を満たすために700℃~1000℃の範囲の温度が必要である。第二に、高い燃料需要、高温に耐えることができる反応器材料の要件、及び下流の分離ユニットを使用することによる不要な副生成物の分離の必要性のため、プロセスは高価である。第三に、コークス副生成物の生産には、クリーニングとメンテナンスのために定期的なシャットダウンが必要である。最後に、エチレン生産者にとって、エチレンの選択率は一般に60%を超えない変換率で80~85%程度である。対照的に、ODHは、より低い温度で操作され、コークスを生成せず、新しく開発された触媒を使用することにより、60%近くの変換率で約98%のエチレンの選択性が得られる。しかし、ODHの利点は、酸素が炭化水素と混合して壊滅的な事象が生じ得る条件によって覆い隠されている。
【0003】
ODHの概念は、少なくとも1960年代後半から知られている。それ以来、触媒効率と選択性の改善を含むプロセスの改善にかなりの努力が費やされてきた。これにより、カーボンモレキュラーシーブ、金属リン酸塩、及び最も顕著な混合金属酸化物を含むさまざまな触媒タイプに関する多数の特許が取得された。Petro-Tex Chemicalsに譲渡された初期の触媒に関する米国特許(Woskowらの名前での米国特許第3,420,911号及び第3,420,912号を含む)は、有機化合物の酸化的脱水素化におけるフェライトの使用を教示した。フェライトは、有機化合物と酸化剤とを含有する脱水素化ゾーンに短期間導入され、次いで、再酸化のために再生ゾーンに導入され、その後、別のサイクルのために脱水素化ゾーンにフィードバックされる。
【0004】
1984年5月22日にEastmanらに発行され、Phillips Petroleum Companyに譲渡された米国特許第4,450,313号は、温度が650℃以上のプロセスを使用し、エチレンに対する予想以上に高い選択率(92%)にもかかわらず、10%を超えない低いエタン変換率を特徴とする組成物LiO-TiOの触媒を開示している。
【0005】
エチレンへのエタンの低温酸化的脱水素化に有用な担持触媒の調製は、1986年6月24日にManyikらに発行され、Union Carbide Corporationに譲渡された米国特許第4,596,787号に開示されている。エチレンへのエタンの低温気相酸化的脱水素化のための担持触媒は、(a)金属化合物の可溶性と不溶性の部分を有する前駆体溶液を調製し、(b)可溶性部分を分離し、(c)可溶性部分に触媒担体を含浸し、及び(d)含侵担体を活性化させ触媒を得ることによって調製される。そのか焼触媒は、MoNbSbの組成物を有し、Xはなしか又はLi、Sc、Na、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zr、Hf、Y、Ta、Cr、Fe、Co、Ni、Ce、La、Zn、Cd、Hg、Al、Tl、Pb、As、Bi、Te、U、Mn及び/又はWであり;aは0.5~0.9であり;bは0.1~0.4であり;cは0.001~0.2であり;dは0.001~0.1であり;Xが成分である場合、eは0.001~0.1である。
【0006】
モリブデン、バナジウム、ニオブ及びアンチモンを含む、か焼酸化触媒を使用するエチレンへのエタンの低温酸化的脱水素化の他の例は、Union Carbide Corporationに譲渡されたた1985年6月18日に発行され米国特許第4,524,236A号及び1981年2月10に発行された米国特許第4,250,346Aに記載されている。触媒は、各金属の可溶性化合物及び/又は錯体の溶液から調製される。乾燥した触媒は、空気又は酸素中で220℃~550℃で加熱することにより焼成される。触媒前駆体溶液は、無機酸化物(例えば、シリカ、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、ジルコニア、チタニア又はそれらの混合物)上に担持されてもよい。エチレンへの選択率は、50%のエタンの変換率に対して、65%を超える場合がある。
【0007】
1985年6月18日にMcCainに発行され、Union Carbide Corporationに譲渡された米国特許第4,524,236号、及び、1990年2月6日にManyikら発行され、Union Carbide ChemicalsとPlastics Company Inc.に譲渡された米国特許第4,899,003号は、V-Mo-Nb-Sbの混合金属酸化触媒を開示している。375℃~400℃では、エタンの変換率は70%に達し、選択率は71~73%に近づいた。しかし、このエタンの変換結果は、非常に低いガス毎時空間速度(すなわち、720/時間)のみで達成された。
【0008】
2003年9月23日にBharadwajらに発行された米国特許第6,624,116号、及び2003年5月20にBharadwajらに発行された米国特許第6,566,573(いずれも、Dow Global Technologies Inc.,に譲渡された)は、T>750℃において自動温度レジームで試験されたPt-Sn-Sb-Cu-Agモノリスシステムを開示している。ここでの原料ガス混合物は、水素を含有する(H:O=2:1、180000/時間のガス毎時空間速度(GHSV))。この触媒組成物は本発明のものと異なっており、本発明では、供給物中の分子状水素の使用を意図していない。
【0009】
2003年2月18日にOzkanらに発行され、オハイオ州立大学に譲渡された米国特許第6,521,808号は、エチレンへのエタンの酸化的脱水素化のためのゾル-ゲル担持触媒を教示している。この触媒は、混合シリカ/チタン酸化物担体上に少量のLi、Na、K、Rb、及びCsをドープ可能なNi-Co-Mo、V-Nb-Mo等の混合金属系であるようにみえる。この触媒は、酸化的脱水素化のための酸素を供給せず、むしろ供給原料にガス状酸素が含まれている。この特許は、請求項に記載された触媒によって触媒されるODH反応からの副生成物を使用することによる空気からの酸素分離のインテグレーションを教示していない。
【0010】
2005年5月10日にLiuに発行され、Symyx Technologies,Inc.に譲渡された米国特許第6,891,075号は、エタン等のパラフィン(アルカン)の酸化的脱水素化のための触媒を開示している。ガス状供給原料は、少なくともアルカン及び酸素を含むが、希釈剤(例えば、アルゴン、窒素等)又は他の成分(水や二酸化炭素等)を含んでもよい。脱水素化触媒は、少なくとも約2重量%のNiO及び広範な他の成分、好ましくはNb、Ta、及びCoを含む。請求項では、エチレンの選択率が少なくとも70%で、変換率が10%超であることが必要とされていた。
【0011】
2008年1月15日にLopez-Nietoらに発行され、Consejo Superior de Investigaciones Cientificasとバレンシア工科大学に譲渡された米国特許第7,319,179号は、360~400℃で50~70%のエタン変換率と95%までのエチレンへの選択率(38%変換率で)を供給するMo-V-Te-Nb-O酸化触媒を開示している。この触媒は、実験式MoTeNbを有し、Aは5番目の修飾元素である。この触媒は、か焼混合酸化物であり(少なくともMo、Te、V及びNb)であり、任意に、(i)シリカ、アルミナ及び/又はチタニア、好ましくは全担持触媒の20~70重量%におけるシリカ、又は(ii)炭化ケイ素上に担持される。担持触媒は、溶液から沈殿させ、沈殿物を乾燥させ、次いで焼成する従来の方法により調製される。
【0012】
酸化的脱水素化のプロセス自体に関する先行技術もかなりあり、安全性を高めるための反応器の構成及び実装を含んでいる。
【0013】
1975年9月9日にLoらに発行され、El Paso Products Companyに譲渡された米国特許第3,904,703号は、酸化的脱水素化ゾーンに続いて、水素を水に酸化する「酸化ゾーン」があるゾーン型又は層状型酸化反応器を教示している。酸化ゾーンに続いて、次の脱水素化ゾーンに入る前に反応物から水を除去する吸着床がある。これは、下流の脱水素化触媒への水の影響を低減するためのものである。
【0014】
欧州特許第0261264B1(発明者はManyikら、Union Carbide Corporationに譲渡され、1991年8月21日に特許付与された)は、複数の反応器を直列に使用することについて開示しており、各反応器の後には冷却工程が続き、後続の各反応器の前で補足酸素を添加することを開示している。最終反応器を除く各反応器の前での段間冷却と補足酸素の添加には効果があり、各段の前で総水分と酢酸含有量とを減らすことができる。
【0015】
Minetらに1993年4月13日に発行され、Medalert Incorporatedに譲渡された米国特許第5,202,517号は、エチレンへのエタンの従来の脱水素化で使用するセラミックチューブを教示している。その「チューブ」は、エタンがチューブ内を流れ、水素がチューブから拡散して反応速度を改善するセラミック膜である。反応性セラミックの厚さは、1.5~2mmの厚さの担体上で5マイクロメートルである。
【0016】
NOVA Chemicals(International)S.A.の名の米国公開出願第20110245571号は、反応器に酸素を供給するための再生酸化物床と接触している流動床中でのエタンの酸化的脱水素化を教示している。このプロセスでは、遊離酸素が供給原料と直接混合されないため、分解の可能性が低くなる。
【0017】
カナダ特許出願(発明者はSimanzhenkovら、「Inherently Safe Oxygen/Hydrocarbon Gas Mixer」のタイトルで、NOVA Chemicalsの名前で出願された)は、フラッド型ミキサー(flooded mixer)の使用を開示しており、ここで、炭化水素と酸素含有ガスは、爆発事象へと発火する恐れなく混合される。この利点は、プロセスの安全性を改善する選択肢を提供するので、ODHに直接適用される。可燃性エンベロープ(flammability envelope)の範囲外の比率で、ガスを、ODH反応器に導入する前に混合することができる。この特許は、酸素分離をODHプロセスに組み込むことを教示していない。
【0018】
上記のいずれの技術も、ODHプロセスの副生成物を使用して酸素分離プロセスを駆動し、ODH反応に寄与するためにリサイクルできる比較的純粋な酸素源をもたらす化学コンプレックスについて、教示も示唆もしていない。
【0019】
ODHが商業上の選択肢の主流になるためには、反応の熱暴走に関わるリスクを抑えて経済的利益が上回る必要がある。ほとんどの先行技術の特許は、より良い触媒とシステムを開発することによりリスクを低減し、反応の安全性と効率を改善することに向けられている。本発明は、定常状態の操作中に必要とされる高価な酸素の量を低減することにより、経済効率をさらに改善しようとするものである。さらに、酸素分離を促進するためにODH副生成物を使用することにより、大気中に放出される二酸化炭素の量が制限される。
【発明の概要】
【0020】
本発明は、経済的に実現可能であり、低級アルカンからのオレフィンの大規模商業生産に適した酸素分離インテグレーションを備えた酸化的脱水素化反応コンプレックス(oxidative dehydrogenation reaction complex)を提供しようとするものである。
【0021】
本発明は、協同配置で、以下を備える化学コンプレックスを提供する:
(a) 低級アルカン、酸素、及び任意に不活性希釈剤を受け入れるための、並びに、未変換の低級アルカン、対応するアルケン、及び場合によっては(任意に)炭素酸化物、酸素化物、及び水を放出するための、ODH触媒を含む少なくとも1つのODH反応器と、
(b) 前記生成物ストリームから酸素化物と水を除去するための急冷塔と、
(c) 前記生成物ストリームから二酸化炭素を除去するためのアミン洗浄塔と、
(d) 残留水を除去するための乾燥機と、
(e) 前記生成物ストリームからC2/C2+炭化水素を除去して、C1炭化水素が豊富なオーバーヘッドストリームを生成する蒸留塔と、
(f) 大気及び前記オーバーヘッドストリームを受け入れて、前記ODH反応器に供給することができる酸素富化ストリームを生成するための酸素分離モジュール。
【0022】
本発明の一実施形態では、化学コンプレックスは、酸化的脱水素化反応器に導入する前に、酸素と低級アルカンを予混合するためのフラッド型ガスミキサーをさらに含む。
【0023】
本発明の一実施形態では、化学コンプレックスは、少なくとも1つの各ODH反応器のすぐ下流で、かつ急冷塔の上流に熱交換器をさらに含む。
【0024】
本発明の一実施形態では、化学コンプレックスは、前記アミン洗浄のすぐ下流に苛性洗浄塔をさらに含む。
【0025】
本発明の一実施形態では、酸化的脱水素化反応器は、以下からなる群から選択される触媒を使用する:
i)次式の触媒:
MoTeNbPd
(式中、a、b、c、d、e、及びfは、それぞれ元素Mo、V、Te、Nb、Pd及びOの相対原子量であり;a=1、b=0.01~1.0、c=0.01~1.0、d=0.01~1.0、0.00≦e≦0.10で、fは他の元素の酸化状態に依存し、すなわち、fは触媒の原子価状態を満たす数である);
ii)次式の触媒:
Ni
(式中、gは0.1~0.9、好ましくは0.3~0.9、最も好ましくは0.5~0.85、最も好ましくは0.6~0.8の数であり;hは0.04~0.9の数であり;iは0~0.5の数であり;jは0~0.5の数であり;fは触媒の原子価状態を満たす数であり;Aは、Ti、Ta、V、Nb、Hf、W、Y、Zn、Zr、Si及びAl又はそれらの混合物からなる群から選択され;Bは、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Sb、Sn、Bi、Pb、Tl、In、Te、Cr、Mn、Mo、Fe、Co、Cu、Ru、Rh、Pd、Pt、Ag、Cd、Os、Ir、Au、Hg、及びそれらの混合物からなる群から選択され;Dは、Ca、K、Mg、Li、Na、Sr、Ba、Cs、Rb及びそれらの混合物からなる群から選択され;Oは、酸素である);
iii)次式の触媒:
Mo
(式中、Eは、Ba、Ca、Cr、Mn、Nb、Ta、Ti、Te、V、W及びそれらの混合物からなる群から選択され;Gは、Bi、Ce、Co、Cu、Fe、K、Mg、V、Ni、P、Pb、Sb、Si、Sn、Ti、U、及びそれらの混合物からなる群から選択され;a=1;kは0~2;l=0~2、ただし、Co、Ni、Fe及びそれらの混合物のlの合計値は0.5未満であり;fは、触媒の原子価状態を満たす数である);
iv)次式の触媒:
MoNbTeMe
(式中、Meは、Ta、Ti、W、Hf、Zr、Sb及びそれらの混合物からなる群から選択される金属であり;mは0.1~3であり;nは0.5~1.5であり;oは0.001~3であり;pは0.001から5であり;qは0~2であり;fは触媒の原子価状態を満たす数である);並びに
v)次式の触媒:
Mo
(式中、Xは、Nb及びTaの少なくとも1つであり;Yは、Sb及びNiの少なくとも1つであり;Zは、Te、Ga、Pd、W、Bi及びAlの少なくとも1つであり;Mは、Fe、Co、Cu、Cr、Ti、Ce、Zr、Mn、Pb、Mg、Sn、Pt、Si、La、K、Ag及びInの少なくとも1つであり;a=1.0(正規化);r=0.05~1.0;s=0.001~1.0;t=0.001~1.0;u=0.001~0.5;v=0.001~0.3;fは触媒の原子価状態を満たす数である)。
【0026】
本発明の一実施形態では、ODH触媒が担持されている。
【0027】
本発明の一実施形態では、ODH反応器は固定床反応器を含む。
【0028】
本発明の一実施形態では、ODH反応器は流動床反応器を含む。
【0029】
本発明の一実施形態では、ODH反応器は、外殻と、チューブの内部を下るエタン用の別個の流路を規定する1つ以上の内部セラミックチューブと、酸素含有ガスの流路を規定する反応器の外部殻とセラミックチューブとの間の環状流路とを備えている。
【0030】
本発明の別の実施形態では、セラミックチューブは、内部鋼メッシュ及び外部鋼メッシュをさらに含む。
【0031】
本発明の一実施形態では、蒸留塔を出るC2/C2+炭化水素留分はスプリッターに送られる。
【0032】
本発明の一実施形態では、蒸留塔は、C2/C2+炭化水素留分を低級アルカンとそれに対応するアルケンに分離することができ、対応するアルケンは、側部出口を介して蒸留塔から排出されてもよく、低級アルカンは、底部出口を介して排出され、ODH反応器に戻されてもよい。
【0033】
本発明の一実施形態では、酸素分離モジュールはチューブ状であり、酸素輸送膜は外殻内にある内側チューブを含み、保持側は内側チューブと外殻の間の環状空間を含み、透過側は内側チューブ内の空間である。
【0034】
本発明の一実施形態において、化学コンプレックスは、酸素分離モジュールに供給する補助的な可燃性供給原料をオーバーヘッドストリームに添加するため、酸素分離モジュールの上流に燃料増強ラインをさらに含む。
【0035】
本発明の一実施形態では、酸素分離モジュールは、前記酸素分離モジュールを850℃以上の温度に加熱する手段をさらに備える。
【0036】
本発明の一実施形態では、化学コンプレックスは、酸素分離モジュールに入る前にオーバーヘッドストリームを加熱する手段をさらに含む。
【0037】
本発明の一実施形態では、ODH反応器は、直列に接続された複数のODH反応器を含み、各反応器は同じ又は異なるODH触媒を含有し、最後のODH反応器を除く各反応器からの生成物ストリームが、下流のODH反応器に供給される。
【0038】
本発明は、上記の化学コンプレックスを使用するODHのためのプロセスも提供する。
【0039】
本発明の一実施形態では、前述の化学コンプレックスを使用して、低級アルカンの対応するアルケンへの酸化的脱水素化方法が提供され、当該方法は以下を含む:、
i) 1つ以上の酸化的脱水素化反応器内で、任意に不活性希釈剤の存在下で、酸素含有ガス及び低級アルカン含有ガスを、酸化的脱水素化触媒と接触させて、未反応の低級アルカン及びその対応するアルケン、不活性希釈剤、未反応の酸素、及び場合によっては(任意に)1つ以上の以下の成分:
a.二酸化炭素及び一酸化炭素を含む炭素酸化物;
b.酢酸及びマレイン酸を含むがこれらに限定されない酸素化物;並びに
c.水;
を含む生成物ストリームを生成する工程と、
ii) i)からの生成物ストリームを急冷塔に通して、前記生成物ストリームから酸素化物と水を除去する工程と、
iii) ii)からの生成物ストリームをアミン洗浄に通して、前記生成物ストリームから二酸化炭素を除去する工程と、
iv) iii)からの生成物ストリームを乾燥機に通して、残留水を除去する工程と、
v) iv)からの生成物ストリームを蒸留塔に通して、C1炭化水素及び不活性希釈剤を含むオーバーヘッドストリームをC2/C2+炭化水素から分離する工程と、
vi) v)からのオーバーヘッドストリーム、及び任意に可燃性燃料を、酸素分離モジュールの保持側及び透過側の一方又は両方に通過させる工程と、
vii) 前記保持側に空気を導入することにより、可燃性C1炭化水素及び/又は前記可燃性燃料の燃焼をもたらし、熱を発生させて酸素輸送膜の温度を少なくとも850℃まで上昇させることにより、前記空気からの未反応酸素が前記酸素輸送膜の透過側に通過することを可能にし、透過側で酸素富化ガスを生成し、保持側で酸素欠乏空気を残す工程と、
viii) 酸素欠乏空気と燃焼生成物を、前記酸素分離モジュールの排気口を通して排出する工程と、
ix) 前記酸素分離モジュールの前記出口から、酸素富化ガスと燃焼生成物とを除去する工程と、
x) 前記酸素富化ガスを、1つ以上のODH反応器に導入される酸素含有ガスとして又はその一部として、i)に戻す工程。
【0040】
本発明の一実施形態では、プロセスは、酸素分離モジュールを出る酸素富化ガスが少なくとも50%の酸素を含むことをさらに含む。
【0041】
本発明の一実施形態では、プロセスは、酸素分離モジュールを出る酸素富化ガスが5%未満の不活性希釈剤を含むことをさらに含む。
【0042】
本発明の別の実施形態において、プロセスは、ii)の急冷塔を通過する前に、i)からの生成物ストリームを熱交換器に通過させることをさらに含む。
【0043】
本発明の別の実施形態において、プロセスは、iii)からの生成物ストリームを、iv)の乾燥機を通過する前に苛性洗浄液に通過させることをさらに含む。
【0044】
本発明の別の実施形態では、プロセスは、i)からの生成物ストリームからの水及び酸素化物を除去している間に、低pH化合物を急冷塔に添加することをさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1図1は、本発明の化学コンプレックスの概略図である。
図2図2は、ガスミキサーが存在する場合の代替配置を示す、本発明の化学コンプレックスの概略図である。
図3A図3Aは、C1炭化水素含有ラインが透過側に向けられている酸素分離モジュールの実施形態の概略図である。
図3B図3Bは、図3A図3C、及び図3Dに存在する、点線による酸素分離モジュールの断面図である。
図3C図3Cは、C1炭化水素含有ラインが保持側に向けられている酸素分離モジュールの実施形態の概略図である。
図3D図3Dは、酸素分離モジュールの実施形態の概略図であり、C1炭化水素含有ラインを透過側と保持側のいずれか又は両方に向けることができる。
【発明を実施するための形態】
【0046】
操作例以外において、又は別段に指定されていない限り、本明細書及び特許請求の範囲において使用される成分の量、反応条件等に関するすべての数字又は表現は、すべての場合において、「約」という用語により修飾されるものとして理解されるべきである。したがって、反対に示されない限り、以下の明細書及び添付の特許請求の範囲に記載される数値パラメータは、本発明が取得することを望む特性に応じて変わり得る近似値である。少なくとも、特許請求の範囲に対する均等論の適用を限定しようとすることなく、各数値パラメータは、少なくとも、報告される有効数字の数に照らして、及び通常の丸め手法を適用することにより解釈されるべきである。
【0047】
本発明は、低級アルカンから対応するアルケンへの酸化的脱水素化(ODH)に関する。本発明の一態様では、ODHに有用な化学コンプレックスがあり、別の態様では、第1の態様で概説した化学コンプレックスで実施できるODHのプロセスが記載されている。低級アルカンには、2~6個の炭素を含む飽和炭化水素が含まれることを意図しており、対応するアルケンには同じ数の炭素が含まれるが、単一の二重炭素と炭素との結合を有する炭化水素が含まれる。エタンの場合は、エチレンが対応するアルケンである。
【0048】
図面を参照する本発明の以下の説明では、同様の部分は同様の参照番号で示されていることに留意されたい。
【0049】
図1に概略的に一実施形態で示される本発明の化学コンプレックスは、協同配置で、ODH反応器1、急冷塔2、アミン洗浄塔3、乾燥機4、蒸留塔5、及び酸素分離モジュール6を含む。ODH反応器1は、酸素ライン7を介して導入される酸素の存在下で、アルカンライン8を介して導入された低級アルカンの酸化的脱水素化を触媒することが可能なODH触媒を含む。ODH反応は、酸素と炭化水素の混合物が可燃限界を超えないようにするために添加される二酸化炭素、窒素、蒸気などの不活性希釈剤の存在下でも発生する可能性がある。所定の温度と圧力で、混合物が可燃限界を超えているかどうかの判断は、当業者の知識の範囲内である。ODH反応器1内で発生するODH反応によって、ODH反応器1内の触媒及び一般的な条件に応じて、二酸化炭素、一酸化炭素、酸素化物、及び水を含み得るさまざまな他の生成物も生成し得る。これらの生成物は、未反応のアルカン、対応するアルケン、残留酸素、及び、添加された場合は不活性希釈剤とともに、ODH反応器生成物ライン9を介して、ODH反応器1から出る。
【0050】
ODH反応器生成物ライン9は、生成物ライン9からの生成物を急冷する急冷塔2に向けられ、急冷塔底部出口10を介して酸素化物及び水の除去を促進する。急冷塔2に添加された未変換の低級アルカン、対応するアルケン、未反応の酸素、二酸化炭素、一酸化炭素、及び不活性希釈剤は、急冷塔オーバーヘッドライン11から出て、アミン洗浄塔3に送られる。急冷塔オーバーヘッドライン11に存在する二酸化炭素は、アミン洗浄塔3によって分離され、二酸化炭素底部出口12を介して回収されて、販売されるか、あるいは不活性希釈剤(図示せず)としてODH反応器1にリサイクルされる。急冷塔オーバーヘッドライン11を介してアミン洗浄塔3に導入された生成物は、二酸化炭素以外、アミン洗浄塔オーバーヘッドライン13を介してアミン洗浄塔3を出て、乾燥塔4を通過してから蒸留塔5に送られる。ここで、C2/C2+炭化水素は分離され、C2/C2+炭化水素底部出口15を介して除去される残りは主にC1炭化水素を含み、残りの不活性希釈剤と一酸化炭素を含み、これらはオーバーヘッドストリーム16を介して蒸留塔5を出て、酸素分離モジュール6に送られる。
【0051】
酸素分離モジュール6は、酸素輸送膜19によって分離された保持側17及び透過側18を有する密封容器を含む。オーバーヘッドストリーム16は、保持側17又は透過側18のいずれかに向けられ得る。任意選択で、様々なレベルで両側への流れを可能にする流れ制御手段26(図3D)を含めることができる。その場合、操作者は、オーバーヘッドストリーム16からの流れのどの部分が保持側17に入るか、どの部分が透過側18に入るかを選択することができる。条件に応じて、操作者は、保持側か透過側かいずれかの側に切り替えたり、同等な量を両側に入れたり、いずれかの側にバイアスした量を向けたりすることができる。酸素分離モジュール6は、保持側17に大気又は他の酸素含有ガスを導入するための空気入口20も備える。酸素の導入による、保持側17に導入された生成物の燃焼は、酸素輸送膜19の温度を少なくとも850℃まで上昇させることに寄与し、酸素が保持側17から透過側18に通過し得る。大気中の成分、又は酸素以外の他の酸素含有ガスは、保持側17から透過側18に通過できず、排気口21を介してのみ酸素分離モジュール6から出ることができる。
【0052】
酸素が保持側17から透過側18に通過する結果として、保持側17に導入された大気又は他の酸素含有ガスから酸素が分離される。その結果、透過側18で酸素富化ガスが生成され、酸素富化底部ライン22を介して直接、又は酸素ライン7と組み合わせて(図1に示すように)、ODH反応器1に送られる。オーバーヘッドストリーム16が保持側17に向けて送られると、酸素富化底部ライン22中の酸素の純度は99%に近づくことができる。逆に、オーバーヘッドストリーム16が透過側18に向けて送られると、酸素富化底部ライン22中の酸素の純度は低くなり、上限は酸素80~90%で、残りは二酸化炭素、水、及び残りの不活性希釈剤の形態であるが、これらはすべて、本発明により意図されるODH反応に影響せず、ODH反応器1への富化された酸素を伴うことができる。水と二酸化炭素は、最終的に、急冷塔2とアミン洗浄塔3によってそれぞれ除去される。実際、本発明の利点の1つは、二酸化炭素が、温室効果ガスの排出に寄与する場所で燃え上がるのではなく、販売のために捕捉され回収できることである。あるいは、二酸化炭素を不活性希釈剤として使用する場合、アミン洗浄で捕捉された二酸化炭素はODHリアクター1にリサイクルして戻され、不活性希釈剤としての役割を果たすことができる。
【0053】
酸素輸送膜19には温度依存性があり、温度が少なくとも850℃に達したときにのみ酸素の輸送を可能にする。場合によっては、オーバーヘッドストリーム16中の成分自体は、酸素の存在下での燃焼時に、酸素輸送膜19の温度を必要なレベルまで上げることができない。このため、本発明の化学コンプレックスは、酸素分離モジュール6の上流に燃料増強ライン23も備えており、そこでは、例えばメタンなどの可燃性燃料を添加して、オーバーヘッドストリーム16から可燃性生成物を補充することができる。
【0054】
前述のように、ODHの懸念は、炭化水素と酸素の混合である。特定の条件下では、混合物が不安定になり、爆発事象を引き起こす可能性がある。以前に出願されたカナダ特許出願(タイトルは「Inherently Safe Oxygen/Hydrocarbon Gas Mixer」、発明者はSimanzhenkovで、NOVA Chemicalsに譲渡された)は、フラッド型混合容器内で炭化水素含有ガスと酸素含有ガスを混合する手段を提供する。このように混合することにより、不安定な組成物のポケット(pockets)が不燃性の液体に囲まれているため、発火事象が発生した場合でもすぐに急冷される。ODH反応へのガスの添加が制御されているため、温度と圧力に関する所定の条件で、均質な混合物が可燃性エンベロープ(flammability envelope)の範囲外になるように制御され、結果として炭化水素と酸素の安全で均質な混合物が得られる。本発明は、係属中の出願に記載されているように、フラッド型(flooded)ガスミキサーで補足することができる。
【0055】
本発明の一実施形態では、ODH反応器1の上流にフラッド型ガスミキサー24(図2)がある。この場合、酸素ライン7及びアルカンライン8は、フラッド型ガスミキサー24に直接供給される。炭化水素と酸素、及び任意に不活性希釈剤を含む均質な混合物を、混合ライン25(図2)を介してフラッド型ガスミキサー24からODH反応器1に導入することができる。酸素富化底部ライン22を、酸素ライン7に直接又は酸素ライン7と組み合わせて、フラッド型ガスミキサー24に供給してもよい。
【0056】
典型的なODHプロセスにおける生成物ライン9内の内容物の温度は、450℃に達することがある。急冷塔2に導入する前に、ストリームの温度を下げることが望ましい場合がある。その場合、本発明は、各ODH反応器のすぐ下流で、前記急冷塔2のすぐ上流の熱交換器の使用を意図している。この方法で温度を下げるための熱交換器の使用は、当技術分野で周知である。
【0057】
また、本発明は、温度及び圧力などのパラメータを測定するための流量計、圧縮機、バルブ、及びセンサーを含む、化学反応器に一般的に使用されるさまざまなツールの使用も想定している。当業者は、操作に必要と思われる又は安全規制に関連する法的義務の順守に必要と思われるこれらの構成要素を含めることが期待される。
【0058】
<ODH反応器>
本発明は、炭化水素のODHに適用可能な任意の既知の反応器タイプの使用を想定している。本発明での使用に特に適しているのは、従来の固定床反応器である。典型的な固定床反応器では、反応物が一方の端で反応器に導入され、固定化された触媒を通過して流れ、生成物が形成され、反応器のもう一方の端から出る。本発明に適した固定床反応器の設計は、このタイプの反応器について公知の技術に従うことができる。当業者は、形状及び寸法、反応物の入力、生成物の出力、温度及び圧力制御、並びに触媒を固定化する手段に関して、どの特徴が必要であるかを知っているであろう。
【0059】
本発明の一実施形態では、ODH反応器は固定床反応器を含む。
【0060】
流動床反応器の使用もまた、本発明により想定されている。これらのタイプの反応器もよく知られている。典型的には、触媒は、反応器の下端近くに配置された多孔質構造、又は分配板によって支持され、反応物は、流動床を流動化するのに十分な速度で流れる(例えば、触媒が上昇し、流動化して旋回し始める)。反応物は、流動化された触媒と接触すると生成物に変換され、その後、反応器の上端から除去される。設計上の考慮事項には、反応器及び分配板の形状、入力及び出力、並びに温度及び圧力制御が含まれ、これらはすべて当業者の知識の範囲内にある。
【0061】
本発明の別の実施形態では、ODH反応器は流動床反応器を含む。
【0062】
本発明は、直列又は並列のいずれかの複数のODH反応器も意図している。本発明の一実施形態では、スイング床型(swing bed type)反応器も想定される。この例において、並列床(parallel beds)は、代替的に、任意の残留酸素を含む炭化水素を主に含む炭化水素供給物、又は炭化水素を含まない酸素供給物に曝される。酸素供給物は、1つの反応器に送られて使用済み触媒を再酸化すると同時に、炭化水素供給物が活性酸化触媒を含有する他の床(bed)を通過し、ODHが起こる。バルブ構成により、2つの床(beds)間で酸素と炭化水素の供給をスイングする(切り替える)ことができ、一方の床で酸化触媒を再生し、他方の床でODHを起こすことができる。ODH反応器を含む複数の反応器を、並列、直列、又はスイング床型のいずれかの配置で使用することは、当技術分野で周知である。
【0063】
本発明の別の実施形態では、ODH反応器は、酸素含有ガスを導入するための複数の入口を備えている。この実施形態では、酸素の添加が反応器全体に段階的に分配され、反応器の高さ又は長さ全体で酸素濃度を平準化することにより、ピーク温度の上昇を制限する。
【0064】
NOVA Chemicals Corporationに譲渡された発明者Simanzhenkovの「Complex Comprising Oxidative Dehydrogenation Unit」というタイトルの出願係属中の米国特許出願、出願番号13/783,727には、酸素透過性セラミックチューブがシェルの内側に配置されているODH反応器が記載されている。この特許には、酸素がチューブと外殻の間を流れる一方で、エタンがどのようにチューブを通して流れるかについて記載されている。酸素は、触媒を保持しているセラミック壁を通過することができ、セラミック壁とチューブの内部の間の界面でエタンのエチレンへの変換を可能にしている。セラミックは本質的に脆いため、強化又は保護する必要がある。これは、セラミックチューブの内面と外面に、鋼メッシュを組み込むことで実現できる。この設計には、セラミック膜が完全性を失うと、過剰な酸素だけがそのチューブに入るという利点がある。各チューブの出口にある酸素検出器は、過剰酸素の存在を検出でき、完全性の喪失を示すことができる。その後、反応器を安全にシャットダウンすることができ、損傷したチューブを見つけて修理することができる。本発明は、この反応器設計の使用を想定している。
【0065】
本発明の一実施形態では、ODH反応器は、外殻と、チューブの内部を下るエタン用の別個の流路を規定する1つ以上の内部セラミックチューブと、酸素含有ガスの流路を規定する反応器の外部殻及びセラミックチューブの間の環状流路とを備えている。
【0066】
本発明の別の実施形態では、セラミックチューブは、内部鋼メッシュ及び外部鋼メッシュをさらに含む。
【0067】
<ODH触媒>
本発明に従って使用され得る多くの触媒が存在する。以下の触媒系は、個別に、又は組み合わせて使用することができる。触媒の組合せを使用したときに拮抗効果があるかどうかを決定するには、触媒の組合せを実験室規模で試験する必要があることを、当業者は理解するであろう。
【0068】
本発明の酸化的脱水素化触媒は、以下からなる群から選択することができる:
i)次式の触媒:
MoTeNbPd
(式中、a、b、c、d、e、及びfは、それぞれ元素Mo、V、Te、Nb、Pd及びOの相対原子量であり;a=1、b=0.01~1.0、c=0.01~1.0、d=0.01~1.0、0.00≦e≦0.10で、fは他の元素の酸化状態に依存し、すなわち、fは触媒の原子価状態を満たす数である);
ii)次式の触媒:
Ni
(式中、gは0.1~0.9、好ましくは0.3~0.9、最も好ましくは0.5~0.85、最も好ましくは0.6~0.8の数であり;hは0.04~0.9の数であり;iは0~0.5の数であり;jは0~0.5の数であり;fは触媒の原子価状態を満たす数であり;Aは、Ti、Ta、V、Nb、Hf、W、Y、Zn、Zr、Si及びAl又はそれらの混合物からなる群から選択され;Bは、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Sb、Sn、Bi、Pb、Tl、In、Te、Cr、Mn、Mo、Fe、Co、Cu、Ru、Rh、Pd、Pt、Ag、Cd、Os、Ir、Au、Hg、及びそれらの混合物からなる群から選択され;Dは、Ca、K、Mg、Li、Na、Sr、Ba、Cs、Rb及びそれらの混合物からなる群から選択され;Oは、酸素である);
iii)次式の触媒:
Mo
(式中、Eは、Ba、Ca、Cr、Mn、Nb、Ta、Ti、Te、V、W及びそれらの混合物からなる群から選択され;Gは、Bi、Ce、Co、Cu、Fe、K、Mg、V、Ni、P、Pb、Sb、Si、Sn、Ti、U及びそれらの混合物からなる群から選択され;a=1;kは0~2;lは0~2、ただし、Co、Ni、Fe及びそれらの混合物のlの合計値は0.5未満であり;fは、触媒の原子価状態を満たす数である);
iv)次式の触媒:
MoNbTeMe
(式中、Meは、Ta、Ti、W、Hf、Zr、Sb及びそれらの混合物からなる群から選択される金属であり;mは0.1~3であり;nは0.5~1.5であり;oは0.001~3であり;pは0.001から5であり;qは0~2であり;fは触媒の原子価状態を満たす数である);並びに
v)次式の触媒:
Mo
(式中、Xは、Nb及びTaの少なくとも1つであり;Yは、Sb及びNiの少なくとも1つであり;Zは、Te、Ga、Pd、W、Bi及びAlの少なくとも1つであり;Mは、Fe、Co、Cu、Cr、Ti、Ce、Zr、Mn、Pb、Mg、Sn、Pt、Si、La、K、Ag及びInの少なくとも1つであり;a=1.0(正規化);r=0.05~1.0;s=0.001~1.0;t=0.001~1.0;u=0.001~0.5;v=0.001~0.3;fは触媒の原子価状態を満たす数である)。
【0069】
上記触媒は、個別に又は組み合わせて使用してもよい。当業者は、検討されている2つ以上の触媒との間で拮抗的相互作用があるかどうかを決定するためにルーチン試験を実施することに気づくであろう。
【0070】
触媒を調製する方法は当業者に公知である。
【0071】
本発明は、ODH触媒が担持されることも意図している。ODH触媒を担持することができるいくつかの方法があり、それらはすべて当技術分野で周知である。
【0072】
一つの実施形態において、担体は、好ましくは50m/g未満、より好ましくは20m/g未満の低い表面積を有してもよい。担体は、圧縮成形によって調製されてもよい。より高い圧力では、セラミック前駆体中の隙間は圧縮され崩壊する。担体前駆体に加わる圧力に応じて、担体の表面積は約20~5m/g、好ましくは18~10m/gであってもよい。
【0073】
低表面積の担体を使用すると、間隙が発火減を提供する酸化剤のみで満たされる可能性が低くなるので、安全上の利点がある。
【0074】
低表面積の担体は、球、リング、サドルなど、いずれの従来の形状であってもよい。これらの種類の担体は、多くの従来の反応器で使用されることができ、そこでは、ガス状反応物の混合ストリーム又は連続ストリームが担持触媒を通過し、エタンがエチレンに変換される。従来技術には、他にも多くのアプローチがあり、例えば、担持触媒と可逆性金属酸化物の混合床を一緒に反応ゾーンに通し、酸化物を反応に対して放出し、次いで酸化物を再生し得る。いくつかの実施形態では、可逆性金属酸化物は、エタンのストリームと一緒にスクリーン又は透過膜(反対側に担持触媒を有する)と接触して、酸素を反応に対して放出してもよい。
【0075】
以下に記載の他の実施形態において、触媒は、1つの反応物の流路の少なくとも一部を規定する透過膜の表面に担持されていてもよく、他の反応物がセラミックの反対側の表面上を流れ、酸化剤とエタンがセラミックの表面で反応できるようにしてもよい。
【0076】
担体を使用前に乾燥させることが重要である。一般的に、担体は、少なくとも200℃の温度で最大24時間、典型的には500℃~800℃の温度で約2~20時間、好ましくは4~10時間加熱してもよい。得られた担体は、吸着水を含まず、担体の約0.1~5mmol/g、好ましくは0.5~3mmol/gの表面ヒドロキシル含有量を有するだろう。
【0077】
シリカ中のヒドロキシル基の量は、J.B.Peri及びA.L.Hensley,Jr.,J.Phys.Chem.,72(8),2926頁,1968年によって開示された方法に従って決定してもよく、その全内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0078】
次いで、乾燥された担体を、圧縮成形により必要な形状に圧縮してもよい。担体の粒子サイズに応じて、不活性バインダーと組み合わせて圧縮部品の形状を保持してもよい。
【0079】
触媒の担体は、二酸化ケイ素、溶融二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、二酸化トリウム、酸化ランタン、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化スズ、二酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化ホウ素、窒化ホウ素、炭化ホウ素、リン酸ホウ素、リン酸ジルコニウム、酸化イットリウム、ケイ酸アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素及びそれらの混合物からなる群から選択される酸化物、二酸化物、窒化物、炭化物及びリン酸塩から形成されたセラミック又はセラミック前駆体であってもよい。
【0080】
セラミック膜を形成するための好ましい成分には、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、マグネシウム、ケイ素の酸化物及びそれらの混合物が含まれる。
【0081】
典型的に、担体上に充填する触媒は、前記触媒の0.1~20重量%、典型的には5~15重量%、好ましくは8~12重量%、及び前記担体の99.9~80重量%、典型的には85~95重量%、好ましくは88~92重量%を提供する。
【0082】
触媒は、任意の方法で担体に添加してもよい。例えば、触媒は、含侵、洗浄コーティング、ブラッシング又はスプレーにより、スラリーから低表面積担体の一方の表面上に堆積させることができる。触媒はまた、スラリーからセラミック前駆体(例えば、アルミナ)と共沈殿させて、低表面積担持触媒を形成することもできる。
【0083】
担体と触媒を組み合わせてもよく、次いで粉砕して、1~100ミクロンの範囲の粒径を有する微粒子材料を生成してもよい。粉砕プロセスは、回転式、撹拌式及び振動式のボールミル及びビーズミル、バーミル又はチューブミル、ハンマーミル、及び研削ディスクを含む任意の従来のプロセスであってもよい。粉砕の好ましい方法は、ボールミル又はビーズミルである。
【0084】
粒子状触媒は、単一床又は複数床を含み得るODH反応器で使用されてもよい。
【0085】
<副生成物除去>
アルカンの酸化的脱水素化は、必然的に、対応するアルケンだけでなく、他の副生成物も生成する。触媒の種類などの条件に応じて、下流に存在する副生成物のレベルは、最小(2%未満)から最大(2%を超える)の範囲になる。副生成物は、最小限のレベルであっても、生成されたアルケンが使用される下流の用途を妨げる可能性があるため、望ましくない。エタンなどの低級アルカンのODHの場合、最も一般的な副生成物には、一酸化炭素と二酸化炭素を含む炭素酸化物、酸素化物、及び水が含まれる。
【0086】
典型的には、ODH反応器生成物ストリームからの酸素化物と水の分離は、急冷塔を使用して行われる。本発明では、酸素化物は、炭素、水素、及び酸素を含む酸化的脱水素化プロセスの副生成物を指し、酢酸、アクリル酸、及びマレイン酸が含まれるが、これらに限定されない。急冷塔の主な目的はガス状生成物ストリームの冷却であるが、本発明の目的には副次的な利点がある。反応器を出た後のガス状生成物ラインの冷却によって、水と酸素化物の凝縮が促進され、次いで、気相に残っている成分、すなわち低級アルカン、その対応するアルケン、及び任意の炭素酸化物から、分離することができる。いくつかの急冷塔では、水、又は酸素化物が溶解する他の液体の噴霧を伴い、その噴霧は、塔の上部から、塔の底部から入る生成物ストリームに向けて行われる。水と接触することにより、冷却が促進され、最終的には、除去が予定されているより重い成分の凝縮が促進される。
【0087】
本発明では、未変換のアルカン、対応するアルケン、残留酸素及び副生成物を含有する生成物ストリームは、水及び酸素化物を除去するために、急冷塔を通過する。残りは、精製の次のステップに渡される。この性質の技術は、徹底的に開発されており、従来技術では一般的である。当業者であれば、急冷塔を本発明の化学コンプレックスに組み込む方法を理解するであろう。
【0088】
本発明は、複数の急冷塔の使用も意図している。複数のODH反応器を使用する場合、特に反応器が直列である場合に、各ODH反応器の後に急冷塔が続くことが好ましい。この直列の設定では、酸素化物と水が除去されてから、(任意に追加の酸素が補充された)残りが、一連の次のODH反応器に送られる。並列配置では、並列反応器からの生成物ストリームが組み合わされてから、急冷塔に導入されてもよい。
【0089】
本発明での使用に適用可能な他の一般的かつ周知の分離方法は、ガス状組成物から二酸化炭素を除去するためのスクラバーにおけるアルキルアミン(本明細書ではアミンと呼ばれる)の使用である。ガス中に存在する二酸化炭素は、アミン水溶液に吸収され、次いで、残りのガス成分から分離できる。100℃以上に加熱することでアミンから二酸化炭素が除去され、プロセスを継続するためにリサイクルされ、一方でストリッパー蒸気からの水は凝縮され、比較的純粋な二酸化炭素が残る。高度に濃縮された二酸化炭素は、回収して販売することができ、あるいは、ODH反応器に導入されると、低級アルカン及び酸素含有ガスのための不活性希釈剤として作用するようにリサイクルすることもできる。これは、本発明の1つの利点である。このプロセスで生成された二酸化炭素は、温室効果ガスの排出に寄与する場所で燃え上がるのではなく、捕捉することができる。このことは、二酸化炭素も生成する酸素分離器を追加すると、より関連性が高くなる。
【0090】
アミンスクラビングは、特に石油化学業界で60年以上使用されている。本発明で使用するためのアミンスクラバー(アミン洗浄塔と呼ばれる)の設計及び操作に関して、当業者が利用できる多くの先行技術及び常識がある。このプロセスで使用されるアミンの種類を考慮するには、特別な注意が必要である。使用されるアミンは、酸素を除去する能力と、分解生成物の形成を促進する傾向が異なる。例えば、モノエタノールアミン(MEA)は一般的に使用され、低濃度であっても高い割合で二酸化炭素を除去できるが、二酸化炭素と反応して分解生成物を形成する可能性もある。これにより、二酸化炭素の捕捉が低下し、後続の吸収サイクルで使用可能なアミンが減少する。
【0091】
アミン洗浄塔を出るストリームは、未変換の低級アルカン、対応するアルケン、及び一酸化炭素、並びに場合によっては元の炭化水素供給原料に存在する汚染物質としてのメタンを含む。二酸化炭素以外の不活性希釈剤が使用される場合、その不活性希釈材もまた、アミン洗浄塔を出るストリーム中に存在する可能性がある。アミン洗浄塔を出るストリームには、アミン洗浄塔から持ち越される水も含まれている可能性が高く、この水は、ストリームを蒸留塔に送る前に乾燥機で除去すべきである。このような水の除去は、低温蒸留を使用する場合に不可欠である。低温蒸留を使用すると、ストリーム中に存在する水が蒸留塔で凍結し、塔の詰まりや汚れに関連する問題を引き起こすおそれがあるためである。乾燥機を使用したガス状組成物の脱水は、当技術分野で周知である。複数ある方法には、トリエチレングリコール(TEG)などの吸着剤を使用した吸収、吸着床を含有する少なくとも2つの固体乾燥剤による吸着、及び凝縮が含まれるが、これらに限定されない。生成物ストリームには、次の段階に進む前に、好ましくは50ppm未満の水、より好ましくは25ppm未満の水、最も好ましくは10ppm未満の水を含むであろう。
【0092】
水の除去後、本発明は、蒸留塔を使用して、生成物ストリームをオーバーヘッドストリームとC2/C2+炭化水素ストリームにさらに分離することを意図している。オーバーヘッドストリームは、主にC1炭化水素(炭素が1つのみの炭化水素)を含んでおり、主に一酸化炭素で構成されているが、少量のメタンと使用される場合は不活性希釈剤とが存在している可能性がある。C2/C2+炭化水素ストリームには、未変換の低級アルカンとその対応するアルケン、及びODH反応器に添加された元の炭化水素供給原料に不純物として存在していた追加の炭化水素(2つ以上の炭素を含む炭化水素)が含まれる。C1炭化水素とC2/C2+炭化水素の分離に蒸留塔を使用することは、当技術分野で周知であり、凝縮種を捕捉するトレイの存在下でガスの加熱及び冷却を行う。トレイの間隔と数によって、分離の程度が決まる。
【0093】
本発明の場合、蒸留塔は、オーバーヘッドストリームを除去するための上部出口と、より重いC2/C2+炭化水素を含む残りを除去するための下部出口とを備える。オーバーヘッドストリームは、本発明の化学コンプレックスの次のステップである酸素分離モジュールに送られる。次に、C2/C2+炭化水素は、C2+スプリッターに送られ、その対応するアルケンから低級アルカンを分離する。その低級アルカンは、ODH反応器にフィードバックされてもよく、対応するアルケン(標的生成物)は捕捉され、アルケンの性質に応じてさまざまな用途で使用することができる。例えば、所望の生成物がエチレンの場合、ポリエチレンの合成に使用することが適切である。
【0094】
前述のように、蒸留塔内で可能な分離の程度は、ユニット内のトレイの数に依存する。最も一般的な方法には低温蒸留であるため、分離の対象となる種の性質と相対的な揮発性が役割を果たす。例えば、エタンに対するエチレンの相対的な揮発性は非常に小さい。その結果、2つの種を分離するように設計された蒸留塔には高さが必要であり、多数のトレイを含む必要がある。C2/C2+炭化水素とC1炭化水素の相対揮発度の差は十分に大きいため、より少ないトレイを備えたより小さな蒸留塔で十分である。本発明に関して、当業者はこの関係から、未変換の低級アルカン及びその対応するアルケンから一酸化炭素及びメタン(C1炭化水素)を分離するにはより小さな蒸留塔で十分であることを理解するであろう。ただし、低級アルカンと対応するアルケンの分離も必要な場合は、はるかに大きな塔が必要になる。その場合、蒸留塔は、別の出口か又は側部出口を備え、対応するアルケンを蒸留塔から排出し得る。蒸留塔から低級アルカンと対応するアルケンを除去した後、別のユニットで低級アルカンと対応するアルケンを分離することも考えられる。具体的には、当技術分野で周知のスプリッターを使用してもよい。本発明の一実施形態では、蒸留塔を出るC2/C2+炭化水素のストリームは、スプリッターに送られる。
【0095】
本発明の一実施形態では、蒸留塔は、オーバーヘッドストリームを除去するための出口と、C2/C2+炭化水素ストリームを除去するための出口とを備える。本発明の別の実施形態では、蒸留塔は、アルケンを除去するための側部出口を含む。
【0096】
<酸素分離モジュール>
本発明の酸素分離モジュールは、温度依存性の酸素輸送膜によって分離された2つの区画を備えた密閉容器を含む。2つの区画は、保持側17と透過側18である。膜が温度に依存するということは、臨界温度で、膜が酸素を選択的に一方の側から他方の側へ通過させることを意味する。酸素分離モジュールは、少なくとも2つの入口も備えており、一方は、保持側17に大気を導入するための空気入力20で、もう一方は、保持側17若しくは透過側18のいずれかに、又は保持側17及び透過側18の両方にオーバーヘッドストリーム16を導入するための入口である。最後に、酸素分離モジュールからの2つの出力がある。保持側から酸素欠乏空気及び燃焼生成物を除去するための排気口21と、透過側から酸素富化ガス及び場合によっては燃焼生成物を酸素富化底部ライン22に除去するための出口(outlet)がある。酸素富化ガス、及び場合によっては燃焼生成物は、ODH反応器内に導入される酸素含有ガスとして、又はその一部としてリサイクルして戻すことができる。
【0097】
本発明の一実施形態では、酸素分離モジュールは、図3に概略的に示されているように、チューブである。酸素輸送膜19もまたチューブであり、より大きなチューブ27(酸素分離モジュール5の外壁を形成する)の内側にある。より大きなチューブ27と酸素輸送膜19との間の環状空間は、保持側に対応し、一方、酸素輸送膜19内の空間は、透過側に対応する。前記外壁の構築に適した材料には、850℃を超え、1000℃に近づく温度に耐えるものが含まれるが、その選択は当業者の知識の範囲内である。
【0098】
本発明は、透過側(図3A)又は保持側(図3B)のいずれかに向けて酸素輸送モジュール6に入るオーバーヘッドストリームの入口を意図している。本発明は、オーバーヘッドストリームを保持側又は透過側に送ることを切り替えるためのバルブの使用も意図している。これにより、操作者は、オーバーヘッドストリームを透過側と保持側のどちらに向けて送るかを選択できる。
【0099】
最後に、本発明は、保持側と透過側の両方にオーバーヘッドストリームを同時に導入することも意図している。これには、それぞれの側に導入されるオーバーヘッドストリームの相対的な量を変更する機能が含まれる。例えば、オペレーターは、オーバーヘッドストリームの80%を保持側に、20%のみを透過側に導入することを選択でき、あるいはその逆を選択できる。明確にするために、透過側、保持側のいずれかの側に導入されるオーバーヘッドストリームの量は0~100%の範囲で、それぞれの側の割合の合計は100%である。いずれかの側に送られる流れを制御できる精密バルブは、当技術分野で周知であり、ソレノイドバルブ、ボールバルブ、又は背圧ニードルバルブとソレノイドバルブとの組合せが含まれるが、これらに限定されない。
【0100】
酸素輸送モジュールの酸素輸送膜コンポーネントにより、膜が臨界温度に達すると、酸素の通過が選択的に可能になる。この性質の膜は知られている。具体的には、混合イオン電子伝導性(MIEC)膜が、本発明での使用において想定される。膜を横切る酸素の移動は、酸素分圧勾配によって駆動され、高酸素分圧側から低酸素分圧側に移動する。酸素を透過側に移動させるために、当業者である操作者は、透過側の酸素分圧に等しいか、それを超える点まで保持側の酸素分圧を上げる必要があることを理解するであろう。例えば、透過側の酸素が1気圧の圧力で体積の100%に近い場合、保持側の圧力を少なくとも5気圧まで上げる必要があり、このとき、大気が加えられて約21体積%の酸素が含まれる。あるいは、真空駆動プロセスを使用して、透過側の圧力を0.2atm以下のレベルに下げることができる。
【0101】
酸素分離モジュールの設計では、蒸気又は二酸化炭素などの掃引ガスを透過側に追加して、保持側から通過してくる酸素を希釈する機能も想定されている。掃引ガスの効果は、透過側の酸素分圧を低下させて、保持側からの酸素の拡散を促進することである。この構成の結果、掃引ガスによって希釈されるため、酸素富化底部ライン22内の酸素の割合がはるかに低くなる。理論的には、酸素の割合は10%を大きく下回る可能性がある。しかし、水が掃引ガスである場合、酸素分離モジュール6の下流の熱交換器を使用して、凝縮後に水を除去し、ライン内の酸素の相対量を増加させることができる。二酸化炭素が使用される場合、操作者は、酸素富化底部ライン22内で所望の酸素レベルを生成するために必要な量を決定できる。掃引ガスの量を変更することにより、操作者は、酸素分離モジュールを出るときにラインに存在する酸素の量を制御できる。当業者はこの関係を理解し、掃引ガスの使用、及び本発明の酸素分離モジュールに想定されているタイプのような密閉容器内の圧力を制御する手段の使用に精通しているであろう。
【0102】
膜を横切る酸素フラックスが膜の厚さに依存することは、よく知られている。薄い膜は、厚い膜よりも速く酸素を通過させることができる。単層又はモノリシックタイプの膜で構成される膜は、酸素フラックスを大きくするために、0.1~0.2μMの範囲で厚さを減らすことができる。ただし、これらの厚さは、機械的不安定性の影響を受けやすいため実用的ではない。モノリシック膜を使用する場合、0.2mm未満の厚さは推奨されない。他の既知の膜構成には、非常に薄い導電層が多孔質構造によって両側で支持されている非対称膜が含まれる。これにより、ユーザーは安定性を犠牲にすることなく、より高い酸素フラックスを可能にする非常に薄い膜を使用できる。膜を横切る酸素フラックスが十分であれば、特定の膜構造を使用することは必須ではない。本発明では、酸素輸送膜は、300~1500l/時×m、より好ましくは500~1300l/時×m、最も好ましくは700~1000l/時×mの範囲内の酸素フラックスを有する。
【0103】
理論的には、酸素輸送膜は、オーバーヘッドストリームに存在するC1炭化水素の燃焼の発熱性のために850℃に達することがある。ただし、燃焼の供給原料の唯一の供給源としてのC1炭化水素が必要な温度に達するには不十分な場合、本発明では、酸素分離モジュールに可燃性燃料を添加すること、又は酸素輸送膜を含む酸素分離モジュールを加熱するための独立した手段を含めることを意図している。例えば、酸素分離モジュールに入る前のオーバーヘッドストリームに、又は、酸素分離モジュールに直接、メタンなどの可燃性燃料を別のラインで追加してもよい。あるいは、熱交換器又は他の手段を使用して、モジュールを必要な温度に加熱してもよい。熱交換器又はその他の加熱手段を使用する場合、その熱はモジュール全体に均等に分配されることが好ましい。本発明は、酸素分離モジュールのすぐ上流のオーバーヘッドストリームを加熱することも意図している。
【0104】
化学コンプレックスの起動中に、酸素輸送膜が必要な温度にならない場合がある。その結果、注入された空気からの酸素が、透過側に移動することができない。この場合、オーバーヘッドストリームを保持側のみに向けて、その保持側での燃焼が酸素輸送膜の温度を酸素が通過できる点まで上昇させるのに寄与することが好ましいであろう。定常状態で、酸素輸送膜の温度が850℃を超えると、酸素が自由に通過して燃焼を可能にし、熱が連続的に発生するため、オーバーヘッドストリームをいずれの側にも向けることができる。あるいは、起動中に、熱交換器などの他の手段を使用して、膜を加熱してもよい。
【0105】
<ODHプロセス>
本発明の化学コンプレックスに記載されているODH反応器の使用は、当業者の知識の範囲内にある。最良の結果を得るには、低級アルカンの酸化的脱水素化は、300℃~550℃、典型的には300℃~500℃、好ましくは350℃~450℃の温度で、0.5~100psi(3.447~689.47kPa)、好ましくは15~50psi(103.4~344.73kPa)の圧力で行われ、反応器内の低級アルカンの滞留時間は、典型的には0.002~30秒、好ましくは1~10秒である。
【0106】
低級アルカン含有ガスは、理想的には純度が95%超、最も好ましくは98%である。本発明の一実施形態において、プロセスは、好ましくは95%、最も好ましくは98%の純度を含むエタンの添加を含む。
【0107】
好ましくは、この方法は、対応するアルケン(エタンODHの場合はエチレン)に対して95%超、好ましくは98%超の選択性を有する。ガス毎時空間速度(GHSV)は、500~30000/時間であり、好ましくは1000/時間超であろう。対応するアルケンの空時収率(生産性)は、触媒のkg当たりのg/時間で、900以上、好ましくは1500超、3000超、最も好ましくは350~400℃で3500超であろう。触媒の生産性は、選択性が犠牲にされるまで、温度の上昇に伴って増加するであろうことに留意すべきである。
【0108】
低級アルカンがエタンである場合、エチレンへの変換率の特異性は80%以上、好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上でなければならない。
【0109】
プロセスの安全性が、主たる関心事である。そのため、低級アルカンと酸素の混合物は、可燃性エンベロープの範囲外の比率で構成する必要がある。本発明は、酸素に対するアルカンの比率が、可燃性エンベロープ上部の範囲外となり得ることを意図している。この場合、混合物中の酸素の割合は30%以下、好ましくは25%以下、最も好ましくは20%以下である。
【0110】
酸素の割合が高い場合、混合物を可燃性エンベロープの外側に保つように、アルカンの割合を選択することが不可欠である。当業者は適切なレベルを決定することができるであろうが、アルカンの割合は40%を超えないことが推奨される。ODHより前のガスの混合物が20%の酸素と40%のアルカンを含む場合、残りは窒素、二酸化炭素、又は蒸気などの不活性希釈剤で補う必要がある。不活性希釈剤は、反応器内の条件において気体状態で存在する必要があり、且つ、反応器に添加される炭化水素の可燃性を増加させないようにしなければならず、このような特徴は、どの不活性希釈剤を使用するかを決定する際に当業者が理解することである。不活性希釈剤は、ODH反応器に入る前に低級アルカン含有ガス又は酸素含有ガスのいずれかに添加するか、ODH反応器に直接添加することができる。
【0111】
本発明では、1:1に等しくない又は1:1に近似しない低級アルカンと酸素との比の使用を意図しているが、それぞれの添加は1:1に近いことが好ましい。これは、ODH反応器から出る未反応のアルカンと酸素を最小限に抑えて、100%の変換を目標としているためである。成分が不均衡な比率で添加された場合、生成物ストリーム中の酸素又は未反応アルカンの存在は避けられない。本発明の一実施形態では、ODH反応器を出る生成物ストリームは、未反応低級アルカンを5%未満、好ましくは2.5%未満、最も好ましくは1%未満含む。本発明の別の実施形態において、ODH反応器を出る生成物ストリームは、2%未満の酸素、好ましくは1.5%未満の酸素、最も好ましくは1%未満の酸素を含む。
【0112】
ODH反応器に添加される低級アルカンに対する酸素の比率もまた、ODH反応器を出る生成物ストリームへの副生成物の組成と寄与に影響を与える可能性がある。過剰な酸素は、対応するアルケンを酸化してカルボン酸にすることがある。例えば、ODH反応器で生成されたエチレンは、さらに酢酸に酸化される。望ましい生成物によっては、これが望ましい場合がある。熟練した操作者であれば、ODH触媒の選択と組み合わせて、添加ガスの比率をどのように変化させると、ODH反応器を出るストリームに存在する生成物がどのように変更されるかを理解するであろう。
【0113】
酸素化物(例えば、酢酸)などの副生成物の除去は、これらのタイプのプロセスに熟練した操作者にとってルーチンである。主に生成物ストリームの温度を下げるために使用される急冷塔は、ODH反応器で生成される酸素化物と水を分離するために使用できる。生成物ストリームを冷却すると、アルケンの露点よりもはるかに高い温度で、対応するアルケンガスの酸素化物が凝縮する。この違いを利用することで、操作者は、凝縮した生成物を捕捉することができ、生成物ストリームから副生成物を分離して、ガス状の残りを次のステップへと移動させることができる。捕捉された酸素化物は、他の周知の下流プロセスで使用されてもよい。例えば、エタンからエチレンへのODHでは、エチレンはさらに酸化されて酢酸になり、エチレンと反応して酢酸ビニル又は他の酸素化物を生成し得る。
【0114】
本発明では、酸素化物の除去を改善する効果がある低pH化合物を急冷塔に添加することも意図している。低pH化合物を添加しない場合、すべての酸素化物が急冷塔内で凝縮するわけではない。この場合、ガス状の残留酸素化物は、次の段階に送られ得る。低pH化合物(重炭酸ナトリウムなど)を添加すると、酸素化物の露点がより高い化合物への変換が促進され、結露の可能性が高まる。
【0115】
酸素分離モジュールと組み合わせて、生成物ストリームから二酸化炭素を除去することは、本発明の利点の1つである。酸素分離モジュールで生成された二酸化炭素は、酸素輸送膜の透過側での燃焼により、大気中に放出される代わりに捕捉される。リサイクルされた酸素富化ガスと関連する燃焼生成物は、化学コンプレックスに再び入るため、アミン洗浄で存在する二酸化炭素を分離できる。さらに、本発明は、アミン洗浄によって分離された二酸化炭素を不活性希釈剤として使用可能なODH反応器にリサイクルすることも意図している。
【0116】
ODHは大量の二酸化炭素を生成しないが、一酸化炭素を生成する。一酸化炭素は、通常、製造現場で付加価値の高い化学物質に変換する機会が得られない場合に大気中で燃やされる。本発明によれば、結果として生じる二酸化炭素を捕捉し、それを捕捉可能なODH化学コンプレックスを通して往復輸送するシステムの中で、一酸化炭素の燃焼を可能にする。
【0117】
理論的には、酸素分離の前の酸素化物及び二酸化炭素の除去は絶対に必須というわけではないことに留意されたい。ODH反応器からの生成物ストリームを、酸素分離モジュールに直接通すことも考えられる。ただし、この場合、標的のアルケンが燃焼して失われ、ODH反応の目的が無効になる。酸素分離の前に、標的のアルケンを分離する必要がある。本発明は、低温蒸留プロセスを使用した、より軽いC1炭化水素からの未変換アルカン及び対応するアルケンの分離を含む。酸素化物(酢酸など)と二酸化炭素の存在は、低温蒸留プロセスの機能に深刻な影響を与える。この理由から、本発明では、本明細書に記載されているプロセスを使用する場合、酸素化物及び二酸化炭素の除去が、成功のために不可欠であることを考慮している。
【0118】
アミン洗浄により、生成物ストリーム内に水が添加され、この水は蒸留前に除去される必要がある。前述のように、ガス状組成物の脱水は、当業者の技術常識の範囲内である。
【0119】
ガス状生成物の蒸留及び成分の分離も、当技術分野で周知である。当業者であれば、蒸留塔を使用してC1炭化水素をC2/C2+炭化水素から分離する方法を知っているであろう。
【0120】
酸素分離に関連するODHのプロセスは、主に酸素輸送膜の温度に応じて変化する可能性がある。酸素輸送膜が、酸素が選択的に通過できる温度より低い場合、好ましい実施形態は、オーバーヘッドストリームを、大気が導入される保持側に送ることである。この状況では、その空気中の酸素は、オーバーヘッドストリームに存在するC1炭化水素の燃焼のために存在する。操作者は、この燃焼が酸素輸送膜の温度を上昇させることについて、その程度が、選択的な酸素輸送が起こるのに十分かどうかを判断しなければならない。それが不十分な場合、すなわち温度が850℃を超えない場合は、モジュールに流入するC1炭化水素ガスの量に関係なく、次いで、可燃性燃料を追加することができる。例えば、メタンをオーバーヘッドストリームに添加することにより、必要な温度に達することができる。
【0121】
可燃性燃料の添加により十分な燃焼が発生し、膜の温度が850℃を超える場合、可燃性燃料又はオーバーヘッドストリームを、透過側に向けて送ることができる。これが可能な理由は、膜が十分に高温であるため、酸素が通過することができ、透過側に送られオーバーヘッドストリーム中に存在しているC1炭化水素に作用し、膜を酸素輸送可能なモードに維持するために熱を放出するためである。オーバーヘッドストリームがどこに向けられるかは、酸素分離の望ましい程度に依存する。保持側に向けて送られると、燃焼により水と二酸化炭素が生成され、これらは通過できず、排気口から排出される。このモードでは、記載されている化学コンプレックスで生成された二酸化炭素を捕捉することはできない。関与する可能性のある捕捉には他のモードがあるが、ODH化学コンプレックスには組み込まれていない。この構成で通過する酸素は、燃焼生成物を伴わないため、非常に高純度である。本発明の一実施形態では、オーバーヘッドストリームは保持側に向けて送られ、酸素富化ストリームは、少なくとも95%の酸素、好ましくは98%の酸素、最も好ましくは99%の酸素を含む。
【0122】
別の方法では、オーバーヘッドストリームを透過側に向けることができる。この設定では、酸素輸送膜は必要な温度でなければならない。この場合、透過側に送られたオーバーヘッドストリーム中のC1炭化水素は、膜を通過した酸素で燃焼する。未反応の酸素と燃焼生成物は、そこを出る前に混合される。その結果、酸素は希釈され、酸素富化ストリームはより低い程度の酸素を含む。掃引ガスを使用すると、酸素希釈度も大幅に増加し、10%未満のレベルに近づくこともある。本発明の一実施形態では、オーバーヘッドストリームは透過側に向けて送られ、酸素富化ストリームは、少なくとも20%の酸素、好ましくは55%の酸素、最も好ましくは90%の酸素を含み、残りは二酸化炭素と水、及び場合によっては不活性希釈剤を含む。
【0123】
プロセスの最適化には、オーバーヘッドストリームが向けられる側が、生成される二酸化炭素に影響を与えることと、二酸化炭素が酸素富化ガスに寄与して戻る程度とを、操作者が理解する必要がある。二酸化炭素は低級アルカン及び酸素含有ガスの希釈に適した不活性希釈剤であるため、所望のレベルの二酸化炭素を含む酸素富化ガスを生成するために、透過側に入るオーバーヘッドストリームに対する保持側に入るオーバーヘッドストリームの比率を調整できることが、操作者に期待される。理想的には、アミン洗浄によって分離された二酸化炭素と組み合わせたときに、総量が低級アルカン及び酸素含有ガスの希釈に必要な量に等しくなると同時に、酸素分離モジュールの排気口から排出された後、大気中に放出される二酸化炭素の量を最小限に抑えるように、レベルが調整される。
【0124】
本発明の一実施形態では、アミン洗浄で分離された二酸化炭素全体は、不活性希釈剤としてリサイクルされる。透過側に入るオーバーヘッドストリームに対する保持側に入るオーバーヘッドストリームの比率は、ある程度の二酸化炭素を含んだ酸素富化ガスを生成することができるように変更され、アミン洗浄からの二酸化炭素と混合すると、低アルカン含有ガスを含む混合物は、安全に必要なレベル内に収まる。
【0125】
以下の実施例を参照することにより、本発明をさらに説明する。以下の実施例は、本発明の単なる例示であり、限定することを意図するものではない。特に明記しない限り、すべてのパーセンテージは重量によるものである。
【実施例
【0126】
速度モデルは、Aspen Plus V8.6ソフトウェアを用いて開発され、この速度モデルをシミュレーションで使用して、固定床反応器を用いたエタンの酸化的水素化に続くさまざまな種の生産率を予測した。さまざまな供給組成物及び温度/圧力条件のシミュレーションデータを、以下に記載する条件下で固定床反応器を用いて、エタンのODHから収集した実験データと比較した。
【0127】
<ODH反応条件>
光学直径1.0インチ、長さ34インチのSS316Lステンレス鋼チューブで構成された2つのベンチスケール固定床管状反応器を直列に使用して、エタンのODHを実行した。各反応器を電気加熱ジャケットに包み、セラミック絶縁材料で密封した。反応器内の温度は、7点熱電対を使用してモニターした。各反応器の触媒床は、下付き文字で示されるMoの相対量1に対する各成分の相対原子量で、式MoV0.40Nb0.16Te0.14Oを有する総重量150gの触媒を含んでいた。実験ラン中の触媒床の動きを防ぐため、床の上下に石英粉を詰め、反応チューブの上部と下部にグラスウールを詰めることにより触媒床を定位置に固定した。
【0128】
複数の実験ランの反応圧力は約1barで、反応器を通る流量の重量空間速度(WHSV)は0.68/時であった。3つのそれぞれのランは、温度316℃(ラン1)、332℃(ラン2)、及び336℃(ラン3)で完了した。エタン、エチレン、酸素、及び二酸化炭素を43/0/22/35の重量%(wt%)で事前混合した供給組成物を反応器1に導入した。反応器で生成された各成分のモル分率を、反応器2の下流で測定した。各実験ランの結果を、速度モデルを用いて同じ条件で得られた結果と比較した(表1を参照)。Rの二乗の値(0.9933から0.9961の範囲)からわかるように、実験ランとシミュレーションの間には優れた一致がある。
【0129】
【表1】


<化学コンプレックスシミュレーション>
【0130】
動力学モデルがODH反応器で生成された生成物の値の合理的な推定値を提供することの確認に続いて、本発明と同等であるが、最後に酸素分離モジュールを備えていない仮想的な化学コンプレックスについて、さらなるシミュレーションを行った。エタンODHシミュレーションは、ODH反応器1に入る約23.38kg/時のエタンの流量(ストリーム8)と、28.61kg/時の速度で流れる二酸化炭素ストリーム(ストリーム7)で希釈された約16.72kg/時の酸素の流量(ストリーム7)とを使用し、目標エチレン生成速度を20kg/時に設定して行われた。シミュレーションでは、エタン供給原料に微量のプロパンとメタンが頻繁に混入することを考慮した。各ストリーム内のさまざまな成分の組成のシミュレーション結果を、測定が行われたポイントの温度と圧力とともに表2に示す。明確にするために、微量元素(水酸化物ラジカルなど)は含まれていない。この結果は、シミュレートされたODH条件下で予想される範囲内に収まっている。二酸化炭素底部出口12においてアミン洗浄塔3から出る二酸化炭素の流量(29.61kg/時)は、ODH反応器1に流れる十分な不活性希釈剤を提供するのに十分であろう。
【0131】
【表2】

【0132】
<酸素分離モジュールシミュレーション>
蒸留塔5から出るオーバーヘッドストリーム16に存在する可燃性C1炭化水素が、酸素輸送膜の温度を必要な温度まで上昇させるのに十分な供給原料であるかどうかを確認するために、Aspen Plus V8.6を使用して追加のモデルを作成した。断熱燃焼プロセスをシミュレートするために、アスペンのRstoicブロックを使用した。モデルの開発では、膜モジュールの操作温度が850℃以上の場合にのみ、酸素輸送膜が、100%の選択性で保持側から透過側にOを透過できると仮定した。前のシミュレーションのオーバーヘッドストリーム16中に存在するさまざまな成分の値をモデルで使用した(例えば、0.20kg/時の一酸化炭素と0.35kg/時のメタン)。ライン23(図1及び図2)を介して追加の可燃性燃料を添加するかどうか、並びにオーバーヘッドストリームが膜のどちら側に向けられるか、が異なる4つのシナリオをモデル化した。ケース0では、追加の可燃性燃料がオーバーヘッドストリーム16に添加されず、そのストリームの100%が保持側に送られた。ケース1)流量2.1kg/時のメタンがライン23を介してオーバーヘッドストリーム16に添加され、そのストリームが保持側に向けて送られた。ケース2)流量2.1kg/時のメタンがライン23を介してオーバーヘッドストリーム16に添加され、そのストリームが透過側に向けて送られた。ケース3)流量2.1kg/時のメタンがライン23を介してオーバーヘッドストリーム16に添加され、そのストリームの50%が保持側に向けて送られ、50%が透過側に向けて送られた。これらの条件を用いてシミュレーションを行い、酸素分離モジュール内の温度と、酸素富化底部ライン22を介して酸素分離モジュールから出てくるさまざまな成分の流量とを推定し、図3に示した。
【0133】
【表3】

【0134】
シミュレーションの結果、メタンがライン23を介してオーバーヘッドストリーム16に添加されない条件下では、オーバーヘッドストリーム16内に、酸素分離モジュール内の温度を850℃超まで上昇させるのに十分な可燃性C1炭化水素が存在しないことがわかる。結果として生じる568℃の温度は、膜を通過するOがなく、最終的には酸素富化底部ライン22を介して酸素分離モジュールを出るOが存在しないことに対応した。ケース1~3では、流量2.1kg/時のメタンを、ライン23を介して添加するだけで、モジュールの温度を850℃まで上げることができた。3つのケースすべてにおいて、17kg/時のOがモジュールから排出され、これは、先のシミュレーションにおけるODH反応器1に入る16.7kg/時の量を超えている。最後に、ケース2とケース3において、酸素富化底部ライン22中に二酸化炭素が提供されたことは驚くことではなく、これらのケースでは、オーバーヘッドストリームが透過側に送られていたためである。二酸化炭素は、透過側に送られたメタンの燃焼によって生成される。酸素富化底部ライン22に存在する二酸化炭素は、ODH反応器1での反応において不活性希釈剤として作用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0135】
化学コンプレックスは、低級アルカンの酸化的脱水素化(ODH)に適用できる。このプロセスは、低級アルカンのODHに続く空気からの酸素の分離、及びODH副生成物の燃焼による温度依存性酸素分離膜の加熱に適用できる。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D