(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-13
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】低温酸性プロテアーゼPsAPA並びにその調製方法及び応用
(51)【国際特許分類】
C12N 9/50 20060101AFI20220203BHJP
C07K 14/78 20060101ALI20220203BHJP
C12N 15/57 20060101ALN20220203BHJP
C12N 15/81 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
C12N9/50 ZNA
C07K14/78
C12N15/57
C12N15/81 Z
(21)【出願番号】P 2020141218
(22)【出願日】2020-08-24
【審査請求日】2020-09-03
(31)【優先権主張番号】2020104062801
(32)【優先日】2020-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】517322145
【氏名又は名称】中国農業科学院農産品加工研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】郭玉杰
(72)【発明者】
【氏名】張春暉
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108103048(CN,A)
【文献】特開2011-193870(JP,A)
【文献】特開昭53-108154(JP,A)
【文献】特表平09-510347(JP,A)
【文献】特公昭46-021787(JP,B1)
【文献】国際公開第2017/073785(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第111647584(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C07K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸配列が配列番号1に示す通りであることを特徴とする、酸性プロテアーゼPsAPA。
【請求項2】
DNA配列が配列番号2に示す通りであり、cDNA配列が配列番号4に示す通りであることを特徴とする、請求項1に記載の酸性プロテアーゼPsAPA。
【請求項3】
骨コラーゲンの抽出に用いることを特徴とする、請求項1に記載の酸性プロテアーゼPsAPAの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオテクノロジー分野に関し、より具体的には、低温酸性プロテアーゼPsAPA並びにその調製方法及び応用に関する。
【背景技術】
【0002】
家畜、家禽の骨には、機能性食品の調製に重要な原料であるコラーゲンが豊富に含まれる。骨コラーゲンの一般的な抽出方法には、酸、アルカリ、酵素法などの工程があり、このうち骨コラーゲンは酵素法による抽出が最も高効率である。骨コラーゲンは酸性溶液中で比較的高い溶解度を有するため、骨コラーゲンの抽出は、通常、低pH条件下で行う。抽出過程で酸性プロテアーゼを添加して、コラーゲンのテロペプチドの酵素分解を促進することができ、タンパクの架橋度を低下させ、骨コラーゲンの抽出効率を高める。他に、コラーゲンのらせんが熱によりほどけるのを防止するため、骨コラーゲンの抽出は、通常、低温条件下で行われるが;酵素法による抽出過程で通常使用するペプシンは常温プロテアーゼであり、骨コラーゲンの低温抽出過程では抽出率が低いなどの問題が存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の1つの目的は、少なくとも上記問題を解決し、少なくとも以下に説明する利点を提供することである。
【0004】
本発明のさらなる目的は、骨コラーゲンの抽出率を高めることができる、酸性プロテアーゼPsAPAを提供することである。
【0005】
本発明の別の目的は、酸性プロテアーゼPsAPAの調製方法を提供することである。
【0006】
本発明の他の目的は、骨コラーゲンの抽出における酸性プロテアーゼPsAPAの応用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のこれらの目的及びその他の利点を実現するため、酸性プロテアーゼPsAPAのアミノ酸配列は配列番号1に示す通りである。
【0008】
好ましくは、前記酸性プロテアーゼPsAPAのDNA配列は配列番号2に示す通りであり、前記酸性プロテアーゼPsAPAのcDNA配列は配列番号4に示す通りである。
【0009】
好ましくは、前記酸性プロテアーゼPsAPAの調製方法は、以下の工程を含む。
S1、最初にPenicillium sp.XT7の全RNA配列を抽出し、逆転写によりPenicillium sp.XT7のcDNA配列を得る。Penicillium sp.XT7のcDNA配列をテンプレートとして酸性プロテアーゼPsAPAのcDNA配列を増幅させ、その後、酸性プロテアーゼPsAPAのcDNA配列をピキア酵母発現ベクターpPIC9に接続して、組換え発現ベクターpPIC9-PsAPAを得る。
S2、組換え発現ベクターpPIC9-PsAPAを宿主細胞のピキア酵母に形質転換し、組換え菌株を得る。
S3、組換え菌株を30℃条件下で2~3d培養し、メタノール誘導下で組換え菌株を発現させて粗酵素液を生成する。
S4、粗酵素液を濃縮、精製することにより、精製した組換えプロテアーゼPsAPAを得る。
【0010】
4、工程S1において、Penicillium sp.XT7のcDNAをテンプレートとして酸性プロテアーゼPsAPAのcDNA配列を増幅させるのは、具体的に以下の工程:
S1a、酸性プロテアーゼPsAPAの特異的プライマーPsAPA_fヌクレオチド配列をCGGAATTCATGGCCGCTGCTGCCCCAA、PsAPA_rヌクレオチド配列をTTGCGGCCGCCTAAGCCTGCTTGGCGAAGCCAAGに設計し、設計したPsAPA_f及びPsAPA_rを北京華大生物有限公司に送って合成する;
S1b、逆転写して得られたPenicillium sp.XT7のcDNAをテンプレート、PsAPA_f、PsAPA_rをプライマーとしてPCR増幅を行い、酸性プロテアーゼPsAPAのcDNA配列を得る;を含むことを特徴とする、請求項3に記載の酸性プロテアーゼPsAPAの調製方法。
【0011】
好ましくは、工程S1において、Penicillium sp.XT7のcDNA配列をテンプレートとして酸性プロテアーゼPsAPAのcDNA配列を増幅させる条件は、95℃5min;94℃30s、60℃30s、72℃2min、35サイクル;72℃10minである。
【0012】
好ましくは、前記酸性プロテアーゼPsAPAの応用であり、前記酸性プロテアーゼPsAPAを骨コラーゲンの抽出に用いる応用である。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、以下の有益な効果を少なくとも含む。
骨コラーゲンを酵素法で抽出する過程において、本発明で提供する酸性プロテアーゼPsAPAを使用し、骨コラーゲンの抽出率を高めることができる。
【0014】
本発明のその他の利点、目標及び特徴は、一部を以下の説明により具体的に示し、一部は本発明についての研究及び実践により、当業者に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の1つの技術案に記載する酸性プロテアーゼPsAPAの様々なpH条件下における相対酵素活性の曲線図である。
【
図2】
図2は、本発明の1つの技術案に記載する酸性プロテアーゼPsAPAのpH安定性の曲線図である。
【
図3】
図3は、本発明の1つの技術案に記載する酸性プロテアーゼPsAPAの様々な温度下における相対酵素活性の曲線図である。
【
図4】
図4は、本発明の1つの技術案に記載する酸性プロテアーゼPsAPAの温度安定性の曲線図である。
【
図5】
図5は、本発明の1つの技術案に記載する骨コラーゲン抽出率の比較図である。
【
図6】
図6は、本発明の1つの技術案において酵素法で抽出し、得られた骨コラーゲンのSDS-PAGE分析図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
注:PSCはペプシン抽出したウシ骨コラーゲンを表し、ESCは酸性プロテアーゼPsAPAで処理したウシ骨コラーゲンを表す。
【0017】
以下、実施例を組み合わせて本発明をさらに詳細に説明する。当業者は明細書の文章を参照することによって、実施することができる。
【0018】
試験材料及び試薬
1、菌株及びベクター:タンパクの異種発現に用いる人工菌株はピキア酵母(Pichia pastoris GS115)であり、生工生物工程(上海)股フン有限公司から購入した。ピキア酵母発現ベクターpPIC9及び菌株GS115は、Invitrogen社から購入した。
2、酵素類及びその他の生化学試薬:エンドヌクレアーゼはTaKaRa社から購入し、リガーゼはInvitrogen社から購入し、その他はいずれも国産試薬(いずれも生化試剤公司から購入することができる)である。
3、酵素産生培地:1Lの脱イオン水中に30g/Lの小麦ふすま、30g/Lのコーンコブ粉末、30g/Lの大豆粕、5g/Lの大麦グルカン、5g/Lの(NH4)SO4、1g/LのKH2PO4、0.5g/LのMgSO4・7H2O、0.01g/LのFeSO4・7H2O、0.2g/LのCaCl2を添加し、温度121℃、高圧下で20min蒸気滅菌処理を行う。
4、大腸菌の培地:1%酵母抽出物、2%ペプトン、1.34%YNB、0.000049<Biotin、1%グリセリン(v/v)。
5、BMGY培地:1%酵母抽出物、2%ペプトン、1.34%YNB、0.000049<Biotin、1%グリセリン(v/v)。
6、BMMY培地:0.5%メタノールでグリセリンを代替する以外、他の成分はいずれもBMGYと同じであり、pHは4.0である。
注:以下の実施例で具体的に説明していない分子生物学実験の方法は、いずれも「分子克隆実験指南(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)」(第3版)J.Sambrookに記載の具体的な方法を参照して行うか、又はキット及び製品の説明書に基づいて行う。
【0019】
実施例
1、酸性プロテアーゼPsAPAのDNA配列を得る
Penicillium sp.XT7のDNA配列を抽出し、-20℃の温度下で保存する。
【0020】
クローニングプライマーPsAPA_f及びPsAPA_rを設計し、プライマーPsAPA_f及びPsAPA_rの配列はそれぞれ配列番号5及び配列番号6である。Penicillium sp.XT7のDNA配列をテンプレートとしてPCR増幅を行い、このうち、増幅条件は95℃5min;94℃30s、60℃30s、72℃2min、35サイクル;72℃10minである。約1100bpのDNA配列が得られ、該DNA配列を回収後、叡博生物技術有限公司に送ってシークエンシングを行う。その遺伝子配列は配列番号2に示され、酸性プロテアーゼPsAPAのDNA配列であり、対応するアミノ酸配列は配列番号1である。
【0021】
2、酸性プロテアーゼPsAPAのcDNA配列を得る
Penicillium sp.XT7のRNA配列を抽出し、さらに逆転写によりPenicillium sp.XT7のcDNA配列を得る。クローニングプライマーPsAPA_f及びPsAPA_rを設計し、プライマーPsAPA_f及びPsAPA_rの配列はそれぞれ配列番号5及び配列番号6である。Penicillium sp.XT7のcDNA配列をテンプレートとしてPCR増幅を行い、cDNA配列を増幅させ、増幅させたcDNA配列を叡博生物技術有限公司に送ってシークエンシングを行う。その遺伝子配列は配列番号4に示され、これは酸性プロテアーゼPsAPAのcDNA配列であり、対応するアミノ酸配列は配列番号1である。
【0022】
酸性プロテアーゼPsAPAのDNA配列及びPsAPAのcDNA配列情報を分析すると、酸性プロテアーゼPsAPAのDNA配列全長は1178bpであり、1つのイントロンを含む。イントロンの塩基配列は配列番号3に示す通りであり、cDNA配列の全長は1122bpである。DNA配列が発現するアミノ酸配列は、ソフトウェアにより、N端にシグナルペプチド配列が存在しないと予測されるため、酸性プロテアーゼPsAPAのDNA配列が発現するアミノ酸配列、及びcDNA配列が発現するアミノ酸配列は同じで、いずれも配列番号1に示す通りである。Blast比較により、Penicillium sp.XT7から分離、クローニングして得られたプロテアーゼをエンコードする遺伝子は比較的高い新規性を有することが証明されている。
【0023】
3、組換え菌株の調製
(1)組換え菌株の調製
シークエンシングが正確な酸性プロテアーゼPsAPAのcDNAをテンプレートとし、それぞれEcoRI及びNotI制限酵素切断部位を有するプライマーPsAPA_f及びPsAPA_rを設計、合成した。プライマーPsAPA_f及びPsAPA_rの配列はそれぞれ配列番号5及び配列番号6であり、このうち、プライマーPsAPA_f配列の下線部分はEcoRI制限酵素切断部位であり、プライマーPsAPA_r配列の下線部分はNotI制限酵素切断部位である。酸性プロテアーゼPsAPAのcDNAをテンプレートとし、PsAPA_f及びPsAPA_rをプライマーとしてPCR増幅を行い、その後EcoRI及びNotIを利用してPCR産物を酵素切断し、増幅した酸性プロテアーゼPsAPAのcDNA配列を得る。増幅した酸性プロテアーゼPsAPAのcDNA配列をピキア酵母発現ベクターpPIC9に接続し、組換え発現ベクターpPIC9-PsAPAを得る。すなわち酸性プロテアーゼPsAPAのcDNA配列を上記発現ベクターのシグナルペプチド配列の下流に挿入し、シグナルペプチドと正確なリーディングフレームを形成させ、ピキア酵母発現ベクターpPIC9-PsAPAを構築し、その後大腸菌培地中の大腸菌コンピテントセルTrans1中に形質転換する。陽性の形質転換体のDNAシークエンシングを行い、シークエンシングが正確な形質転換体を大量の組換えプラスミドの調製に用いる。制限エンドヌクレアーゼBglIIを用いて発現プラスミドベクターのDNA配列を線形化し、ピキア酵母GS115コンピテントセルに電気的形質転換を行い、さらに30℃の温度下で2~3日間培養する。MDプレートで成長した形質転換体をピックアップし、さらなる発現実験を行うが、具体的な操作はピキア酵母発現操作のマニュアルを参考のこと。さらに同様の方式でPsAPAシグナルペプチド配列を含むcDNA配列の発現ベクターを構築して形質転換を行う。
【0024】
(2)高プロテアーゼ活性形質転換体のスクリーニング
滅菌した爪楊枝を用いて形質転換体が生長したMDプレートから複数のシングルコロニーをピックアップし、番号に応じて別のMDプレートに植菌する。MDプレートを30℃のインキュベータで1~2日間培養し、コロニーまで成長させる。番号に応じて、順番にMDプレートから形質転換体をピックアップし、3mLのBMGY培地を入れた遠沈管中にそれぞれ対応して接種し、温度30℃、回転速度220rpmの条件下で48h振とう培養する。48h振とう培養した菌液を3000×gで15min遠心分離して上清を除去し、遠沈管中に0.5%メタノールを含む1mLのBMMY培地を添加し、温度30℃、回転速度220rpmの条件下で誘導培養を行う。48h誘導培養を行った後、3000×gで5min遠心分離し、上清を酵素活性の測定に用い、ここから高プロテアーゼ活性の形質転換体をスクリーニングするが、具体的な操作はピキア酵母発現操作マニュアルを参照のこと。
【0025】
4、組換えプロテアーゼPsAPAの調製
(1)組換え菌株pPIC9-PsAPAの発現
酵素活性が比較的高い形質転換体をスクリーニングし、300mLのBMGY液体培地内に接種し、温度30℃、回転速度220rpmの条件下で48h振とう培養する。振とう培養後に5000rpmで5min遠心分離し、上清を除去してから、菌体に0.5%メタノールを含む100mLのBMMY液体培地を添加し、温度30℃、回転速度220rpmの条件下で72h誘導培養を行う。誘導培養の期間、24hごとに1回メタノール溶液を追加してメタノールの損失を補い、メタノール濃度を0.5%前後に保持する。72h誘導培養した後、12000×gで10min遠心分離し、上清の発酵液を集めて酵素活性を測定し、さらにSDS-PAGEタンパク質電気泳動により分析する。
【0026】
(2)組換えプロテアーゼPsAPAを精製して得る
発現した組換え菌株のプロテアーゼ上清液を振とうフラスコに収集して、10kDaメンブレンにより濃縮し、さらにこの培地を低塩緩衝液で置換し、その後10kDa限外ろ過チューブでさらに濃縮する。濃縮物は一定倍数の組換えプロテアーゼPsAPAに希釈することができ、さらにイオン交換クロマトグラフィで精製することにより、組換えプロテアーゼPsAPAが得られる。具体的に、組換えプロテアーゼPsAPA濃縮液2.0mLを、予め20mMTris-HCl(pH7.5)で平衡化したHiTrapQ Sepharose XL陰イオンカラムに供し、その後0.1mol/LのNaClで直線勾配溶出を行う。段階的に収集した溶出液の酵素活性を測定し、さらにタンパク濃度を測定する。
【0027】
5、酸性プロテアーゼPsAPAの一部の性質を分析する
フォリンフェノール試薬による呈色法を用いて、本発明で調製した組換えプロテアーゼPsAPA、すなわち酸性プロテアーゼPsAPAの活性分析を行う。具体的な方法は以下の通りである。酸性プロテアーゼPsAPAを1mLの反応系で10min反応させた後、1mLのトリクロロ酢酸(0.4mol/L)を添加して反応を終了させる。このうち、1mLの反応系のpHは3.0、温度は30℃であり、さらに500μLの適当に希釈した酵素液、500μLの基質を含む。反応を終了させた後、該反応系を12000rpmで3min遠心分離し、500μLの上清液を吸い取り、2.5mLの炭酸ナトリウム(0.4mol/L)を添加する。さらに500μLのフォリンフェノール試薬を添加し、40℃の温度下で20min呈色させ、冷却後、紫外波長680nmの条件下でOD値を測定する。プロテアーゼ活性単位は、一定条件下、1分当たり基質のカゼインを分解して1μmolのチロシンを生成するのに必要な酵素量を1活性単位(U)と定義する。
【0028】
(1)酸性プロテアーゼPsAPAの最適pH及びpH安定性の測定
本発明で精製して得られた組換えプロテアーゼPsAPA、すなわち酸性プロテアーゼPsAPAについて、様々なpH条件下で酵素反応を行い、その最適pH値を測定する。用いる緩衝液はpHが1.0~3.0のグリシン-塩酸緩衝液、pHが3.0~8.0のクエン酸-リン酸水素二ナトリウム系緩衝液、及びpHが8.0~10.0のTris-HCl系緩衝液である。精製して得られた酸性プロテアーゼPsAPAについて、様々なpHの緩衝体系において、温度30℃の条件下で測定した最適pHの結果は
図1に示す通りである。つまり温度30℃の条件下、酸性プロテアーゼPsAPAの最適pHは3.0であり、pHが2.5~3.5の範囲内で、該酵素はその70%以上の酵素活性を維持することができる。
【0029】
酵素液を様々なpH値の緩衝液中において10℃下で60min処理してから、酵素活性を測定して酵素のpH安定性を研究する。結果は
図2に示す通りであり、結果は、酸性プロテアーゼPsAPAはpHが3.0~6.0の間で90%以上の酵素活性を維持することができることを表し、該酵素が酸性条件下で良好なpH安定性を有することを説明している。
【0030】
(2)酸性プロテアーゼPsAPAの最適反応温度及び熱安定性の測定
精製して得られた酸性プロテアーゼPsAPAについて、pH3.0の条件下で、様々な温度(5~40℃)における酵素活性を測定する。
図3に示す通りであり、つまり該酵素の最適反応温度は30℃であり、さらに10℃のときも依然として40%以上の酵素活性を有する。精製して得られた酸性プロテアーゼPsAPAについて、それぞれ30℃、35℃及び40℃の条件下で様々な時間処理してから、30℃下で酵素活性の測定を行う。結果は
図4に示す通りであり、PsAPAは40℃条件下で30min処理すると、タンパクを完全に失活させることができる。まとめると、該プロテアーゼは低温条件下で高効率のタンパク質加水分解活性を有し、さらに比較的低い熱不活性化温度を有することがわかる。これは、新しく発明したプロテアーゼが食品、医薬などの分野で重要な応用的価値を有することを意味している。
【0031】
(3)酸性プロテアーゼPsAPAの触媒特異性
酸性プロテアーゼPsAPAの触媒特性は、アスパラギン酸プロテアーゼファミリーのその他のプロテアーゼと基本的に一致し、主に基質分子中の疎水性アミノ酸残基又は芳香族アミノ酸残基間のペプチド結合、例えばLeu-Tyr、Phe-Phe、Phe-Tyrなどを切断する。プロテアーゼの活性はPepstatinAに特異的に阻害されることができ、PepstatinAは酸性プロテアーゼPsAPAの触媒ポケットに特異的に結合することができるが、切断はされず、これにより触媒残基の活性を阻害している。したがって、該種の阻害剤は基質類似阻害剤に属する。
【0032】
6、ウシ骨コラーゲンの抽出における酸性プロテアーゼPsAPAの応用
ウシ骨コラーゲンの抽出過程:
ウシの骨を破砕した後、0.1MNaOH溶液(v/w)を添加し、8h撹拌して非コラーゲン成分を除去する。その後蒸留水で洗浄してから水を切り、さらに10%n-ヘキサンを添加し、12h撹拌して脂肪を除去する。脂肪を除去した後、溶液が中性になるまで蒸留水で繰り返し洗浄してから水を切り、水を切ったウシの骨が得られる。pH7.4、濃度0.25MのEDTA-Na
2溶液を用いて、水を切ったウシの骨に対してカルシウム塩を除去する処理を行い、カルシウム塩を除去したウシの骨が得られる。カルシウム塩を除去したウシの骨を平均して2つに分け、このうちの1つのカルシウム塩を除去したウシの骨に5倍体積(v/w)の0.5M酢酸溶液及びウシの骨の質量の1.6%倍(w/w)のペプシンを添加し、もう1つには5倍体積(v/w)の0.5M酢酸溶液及びウシの骨の質量の1.6%倍(w/w)の酸性プロテアーゼPsAPAを添加し、2つの混合物が得られる。各混合物をいずれも24h撹拌して抽出し、その後2層のガーゼでろ過してウシ骨粗コラーゲンのろ液が得られる。各ろ液中にNaClを添加してNaClの終濃度を0.9M(0.05MTrisを含む。pH7.0)に調整し、撹拌して綿状の沈殿物が析出すると、NaClを添加したろ液が得られる。各NaClを添加したろ液を、温度4℃、回転速度10000gの条件下で20min遠心分離し、沈殿、すなわち塩析後のウシ骨粗コラーゲンを収集する。各塩析後のウシ骨粗コラーゲンを0.5M酢酸溶液に溶解し、順番に0.1mol/Lの酢酸及び超純水を用いてそれぞれ24h透析し、期間中それぞれ3回液を交換する。得られた透析物を-20℃の温度下で凍結乾燥させると、ペプシン抽出したウシ骨コラーゲン(PSC)及び酸性プロテアーゼPsAPAで処理したウシ骨コラーゲン(ESC)が得られる。その後PSC及びESCの抽出率を計算し、さらにSDS-PAGEタンパク電気泳動により分析する。結果はそれぞれ
図5及び
図6に示す。
【0033】
図5に示すように、PSCの収率は8.34±0.27しかなく、ESCの収率は11.93±0.53に達する。ペプシンと比較して、酸性プロテアーゼPsAPA処理は骨コラーゲンの抽出率を明らかに高めた。骨コラーゲンのテロペプチドは分子架橋が容易に生じ、その酸性条件下での溶解度を低下させ、骨コラーゲンの抽出に不利である。酸性プロテアーゼPsAPA処理はコラーゲンのテロペプチドの酵素分解を触媒することができ、コラーゲンの酸性条件下における溶解度を高め、コラーゲンの収率を高める。SDS-PAGEタンパク電気泳動による分析は
図6に示す通りである。酸性プロテアーゼPsAPAで抽出したコラーゲンのバンドはペプシン抽出したコラーゲンと一致する。これは、酸性プロテアーゼPsAPAが抽出液中のコラーゲン濃度を高めることができるが、その全体構造は破壊しないことを表している。まとめると、酸性プロテアーゼPsAPAは骨コラーゲンの抽出効率を顕著に高めることができ、骨コラーゲンの収率を高める。
【0034】
本発明の実施案を上記のように開示したが、本発明は明細書及び実施方式に列記した利用に限定されず、各種本発明に適した分野に完全に適用することができ、当業者は、他の修正を容易に実現することができる。従って、特許請求の範囲及び同等の範囲による限定を逸脱しない一般的な概念下で、本発明は特定の細部並びにここで提示及び記載した凡例に限定されない。
【配列表】