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特許7008776セラミックス成形体及びセラミックス多孔体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-13
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】セラミックス成形体及びセラミックス多孔体
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/20 20060101AFI20220118BHJP
   B01D 46/00 20220101ALI20220118BHJP
   C04B 38/06 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
B01D39/20 D
B01D46/00 302
C04B38/06
C04B38/06 J
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020183781
(22)【出願日】2020-11-02
(62)【分割の表示】P 2017061217の分割
【原出願日】2017-03-27
(65)【公開番号】P2021035679
(43)【公開日】2021-03-04
【審査請求日】2020-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2016069762
(32)【優先日】2016-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】木俣 貴文
(72)【発明者】
【氏名】日高 憲一
(72)【発明者】
【氏名】菊池 芳郎
(72)【発明者】
【氏名】石川 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 規介
(72)【発明者】
【氏名】森本 健司
【審査官】瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-326427(JP,A)
【文献】特開平08-112809(JP,A)
【文献】特開2014-227324(JP,A)
【文献】特開2005-263537(JP,A)
【文献】特開平08-224720(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/00-41/04、46/00-46/54
B01J 20/00-20/28、20/30-20/34
B28B 3/00-5/12
C04B 38/00-38/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁状又は板状の成形部位を有し、アスペクト比が2以上300未満の粒子である第一粒子を含んでおり、乾燥状態において、前記成形部位をその厚さ方向に沿って切断した切断面を、前記成形部位の厚さ方向に三等分して得られた3つの領域の内、前記成形部位の厚さ方向の中心に位置する領域における前記第一粒子の配向度が0~53°であり、
前記配向度が、前記成形部位の厚さ方向と、前記粒子の最大長径の方向との成す角の角度であり、
前記配向度は、走査型電子顕微鏡観察によって得られた反射電子像から、画像解析して測定するセラミックス成形体。
【請求項2】
前記第一粒子の長さが、前記成形部位の厚さの50%以下である請求項1に記載のセラミックス成形体。
【請求項3】
前記第一粒子が、造孔材である請求項1又は2に記載のセラミックス成形体。
【請求項4】
前記第一粒子の含有量が、前記セラミックス成形体を構成する原料全体に対して45体積%以下である請求項1~3の何れか一項に記載のセラミックス成形体。
【請求項5】
前記セラミックス成形体が、複数のセルを区画形成する隔壁を有するハニカム状のセラミックス成形体であり、前記隔壁が、壁状又は板状の前記成形部位である請求項1~4の何れか一項に記載のセラミックス成形体。
【請求項6】
アスペクト比が2未満の粒子である第二粒子を更に含み、当該第二粒子が造孔材である請求項1~5の何れか一項に記載のセラミックス成形体。
【請求項7】
複数のセルを区画形成する複数の気孔を有する隔壁を備え、
前記隔壁の厚さ方向に沿って切断した切断面を、前記隔壁の厚さ方向に三等分して得られた3つの領域の内、前記隔壁の厚さ方向の中心に位置する領域である中央領域における前記気孔の配向度が0~53°であり、
前記3つの領域の内、前記中央領域の外側の領域である表面領域における気孔率と、前記隔壁の気孔率との差が、0~11%であり、
前記気孔は、アスペクト比が2以上300未満の気孔であり、
前記気孔の配向度が、前記隔壁の厚さ方向と、前記気孔の最大長径の方向との成す角の角度であり、
前記気孔の配向度は、走査型電子顕微鏡観察によって得られた反射電子像から、画像解析して測定するセラミックス多孔体。
【請求項8】
前記隔壁の気孔率が、65%以下である請求項7に記載のセラミックス多孔体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス成形体の押出成形方法によって成形されるセラミックス成形体、及びセラミックス多孔体に関する。更に詳しくは、高アスペクト比の粒子(第一粒子)を含み、その粒子の長さ方向が、壁状又は板状の成形部位の厚さ方向とほぼ平行になるように配向したセラミックス成形体を成形可能なセラミックス成形体の押出成形方法により得られるセラミックス成形体、及びセラミックス多孔体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)や水処理用フィルター等のフィルターとして、セラミックス多孔体が使用されている(例えば、特許文献1,2参照)。通常、フィルターとして使用されるセラミックス多孔体は、壁状又は板状の部位を有しており、当該部位を濾過層として、流体を透過させることにより、流体中に含まれる固体粒子等を捕集する。
【0003】
例えば、DPFに使用されるセラミックス多孔体には、複数のセルを区画形成する隔壁を有するハニカム状のセラミックス多孔体(ハニカム構造体)が広く使用されている。このようなハニカム構造体において、それぞれ隣接したセルの端部を、交互に(市松模様状に)目封止することにより、ディーゼルエンジン等からの排ガスに含まれているパティキュレートマター(PM)を捕集可能なフィルターが得られる。
【0004】
即ち、こうして目封止したハニカム構造体において、一方の端部から所定のセル(流入セル)に排ガスを流入させると、当該排ガスは、多孔質の隔壁を通過して、隣接したセル(流出セル)に移動してから、排出される。そして、排ガスが隔壁を透過する際に、隔壁が濾過層として機能し、排ガス中に含まれるPMが捕集される。
【0005】
このようなフィルターに使用されるセラミックス多孔体においては、圧力損失を低減させるため、高いガス透過性能が要求される。ここで、ガス透過性能を向上させる手段の1つとして、濾過層となる壁状又は板状の部位(例えばハニカム構造体の隔壁)の気孔を細長形状等の高アスペクト比の形状とし、その気孔の長さ方向が前記部位の厚さ方向と平行になるように配向させることが考えられる。前記部位の気孔をこのように配向させれば、前記部位の厚さ方向に連通する気孔が増えるため、ガス等の流体の透過経路が短くなって、高い透過性能が得られる。
【0006】
高アスペクト比の気孔は、例えば、繊維状等の高アスペクト比の造孔材(気孔形成剤)を用いることで形成することが可能である(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、そのような高アスペクト比の造孔材を、その長さ方向が、濾過層となる壁状又は板状の部位の厚さ方向と平行になるように配向することは困難である。
【0007】
即ち、フィルターとして使用されるセラミックス多孔体は、通常、低コストで大量生産可能な押出成形を用いて、成形用の原料から壁状又は板状の成形部位を有するセラミックス成形体(例えばハニカム成形体)を成形し、それを焼成することにより製造される。従来、セラミックス成形体の押出成形に用いられている口金は、原料供給面と、その原料供給面と反対側の面である原料成形面とを備えている。原料供給面には、成形用の原料を導入するための少なくとも1つの導入孔が設けられている。一方、原料成形面には、原料から壁状又は板状の成形部位を有するセラミックス成形体を押出成形するためのスリット(成形溝)が設けられている。導入孔とスリットとは、口金内部で連通しており、導入孔から口金に導入された原料は、スリット通過することにより、所定の厚さの壁状又は板状の成形部位を有するセラミックス成形体となる(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
このような口金を用いた従来のセラミックス成形体の押出成形方法において、成形用の原料に高アスペクト比の粒子(例えば造孔材)が含まれていると、原料が幅の狭いスリットを通過する際に、当該粒子は、その長さ方向が成形体の押出方向と平行になるように配向する。ここで、セラミックス成形体の押出方向は、壁状又は板状の成形部位の厚さ方向と直交する方向であり、当該成形部位の厚さ方向と平行な方向ではない。即ち、このような従来のセラミックス成形体の押出成形方法では、高アスペクト比の粒子(例えば造孔材)を含み、その粒子の長さ方向が、壁状又は板状の成形部位の厚さ方向と平行になるように配向したセラミックス成形体を得ることはできない。
【0009】
尚、特許文献3には、高アスペクト比の造孔材を用いて、ほぼ一方向に配向した気孔を有するセラミックス多孔体を製造する方法が開示されている。しかしながら、この製造方法でも、高アスペクト比の造孔材は、その長さ方向が成形体の押出方向と平行になるように配向する(特許文献3の図3及び図6参照)。よって、この特許文献3に開示された製造方法を用いても、高アスペクト比の粒子(例えば造孔材)を含み、その粒子の長さ方向が、壁状又は板状の成形部位の厚さ方向と平行になるように配向したセラミックス成形体を得ることはできない。
【0010】
また、従来、複数のセラミックス成形体を一層に集積した後、圧縮成型することにより、セラミックス成形体相互間の間隙に由来する一方向の貫通孔を有する多孔質セラミックスの前駆体を製造する方法が開示されている(特許文献4参照)。しかしながら、この方法は、先述の押出成形方法に比べて、大量生産が難しく、製造コストも高くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2006-225250号公報
【文献】特開2005-81609号公報
【文献】特許第4669925号公報
【文献】特開平11-139887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような従来の事情に鑑みてなされたものである。即ち、本発明の目的は、高アスペクト比の粒子を含み、その粒子の長さ方向が、壁状又は板状の成形部位の厚さ方向とほぼ平行になるように配向したセラミックス成形体を成形可能なセラミックス成形体の押出成形方法により得られるセラミックス成形体及びセラミックス多孔体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明によれば、以下のセラミックス成形体及びセラミックス多孔体が提供される。
【0014】
[1] 壁状又は板状の成形部位を有し、アスペクト比が2以上300未満の粒子である第一粒子を含んでおり、乾燥状態において、前記成形部位をその厚さ方向に沿って切断した切断面を、前記成形部位の厚さ方向に三等分して得られた3つの領域の内、前記成形部位の厚さ方向の中心に位置する領域における前記第一粒子の配向度が0~53°であり、前記配向度が、前記成形部位の厚さ方向と、前記粒子の最大長径の方向との成す角の角度であり、前記配向度は、走査型電子顕微鏡観察によって得られた反射電子像から、画像解析して測定するセラミックス成形体。
【0015】
[2] 前記第一粒子の長さが、前記成形部位の厚さの50%以下である前記[1]に記載のセラミックス成形体。
【0016】
[3] 前記第一粒子が、造孔材である前記[1]又は[2]に記載のセラミックス成形体。
【0017】
[4] 前記第一粒子の含有量が、前記セラミックス成形体を構成する原料全体に対して45体積%以下である前記[1]~[3]の何れかに記載のセラミックス成形体。
【0018】
[5] 前記セラミックス成形体が、複数のセルを区画形成する隔壁を有するハニカム状のセラミックス成形体であり、前記隔壁が、壁状又は板状の前記成形部位である前記[1]~[4]の何れかに記載のセラミックス成形体。
【0019】
[6] アスペクト比が2未満の粒子である第二粒子を更に含み、当該第二粒子が造孔材である前記[1]~[5]の何れかに記載のセラミックス成形体。
【0020】
[7] 複数のセルを区画形成する複数の気孔を有する隔壁を備え、前記隔壁の厚さ方向に沿って切断した切断面を、前記隔壁の厚さ方向に三等分して得られた3つの領域の内、前記隔壁の厚さ方向の中心に位置する領域である中央領域における前記気孔の配向度が0~53°であり、前記3つの領域の内、前記中央領域の外側の領域である表面領域における気孔率と、前記隔壁の気孔率との差が、0~11%であり、前記気孔は、アスペクト比が2以上300未満の気孔であり、前記気孔の配向度が、前記隔壁の厚さ方向と、前記気孔の最大長径の方向との成す角の角度であり、前記気孔の配向度は、走査型電子顕微鏡観察によって得られた反射電子像から、画像解析して測定するセラミックス多孔体。
【0021】
[8] 前記隔壁の気孔率が、65%以下である前記[7]に記載のセラミックス多孔体。
【発明の効果】
【0022】
本発明のセラミックス成形体において、それに含まれる高アスペクト比の粒子の多くは、その長さ方向が、壁状又は板状の成形部位の厚さ方向とほぼ平行になるように配向している。このため、前記粒子が造孔材である場合、本発明のセラミックス成形体を焼成して造孔材を焼失させることにより、高アスペクト比の気孔を有し、その気孔の長さ方向が前記成形部位の厚さ方向とほぼ平行になるように配向したセラミックス多孔体となる。また、高アスペクト比の粒子がセラミックス原料等の焼成により焼失しない粒子である場合でも、焼成後の第一粒子間隙に高アスペクト比の気孔が形成され、その気孔の長さ方向が成形部位の厚さ方向とほぼ平行になるように配向したセラミックス多孔体となる。このようなセラミックス多孔体は、前記成形部位の厚さ方向に連通する気孔が多く存在するため、フィルターとして用いた場合に、ガス等の流体の透過経路が短くなって、高い透過性能が得られ、その結果、圧力損失が低くなる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明のセラミックス成形体の押出成形方法にて成形されるセラミックス成形体の一例を模式的に示す斜視図である。
図2】本発明のセラミックス成形体の押出成形方法において用いられる押出成形用口金の一例を模式的に示す断面図である。
図3A】本発明のセラミックス成形体の押出成形方法を模式的に示す説明図である。
図3B】本発明のセラミックス成形体の押出成形方法を模式的に示す説明図である。
図3C】本発明のセラミックス成形体の押出成形方法を模式的に示す説明図である。
図4】壁状又は板状の成形部位をその厚さ方向に沿って切断した切断面を、前記成形部位の厚さ方向に三等分して得られた3つの領域を模式的に示す断面図である。
図5】第一粒子の配向度の測定方法を示す説明図である。
図6】従来の一般的なセラミックス成形体の押出成形方法において用いられる押出成形用口金を模式的に示す断面図である。
図7】従来の一般的なセラミックス成形体の押出成形方法を模式的に示す説明図である。
図8】実施例1で得られたセラミックス多孔体の中央領域の微構造を示すSEM(走査型電子顕微鏡)画像の写真である。
図9】比較例1で得られたセラミックス多孔体の中央領域の微構造を示すSEM(走査型電子顕微鏡)画像の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を具体的な実施形態に基づき説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0025】
(1)セラミックス成形体の押出成形方法:
本発明のセラミックス成形体の押出成形方法にて成形されるセラミックス成形体は、壁状又は板状の成形部位を有する。本発明において、「成形部位」とは、成形用の原料が押出成形用口金のスリットを通過することにより成形された部位のことを意味する。この「成形部位」は、セラミックス成形体の長さ方向(押出成形時における押出方向)において、一定の断面形状を有する。また、本発明において、「壁状又は板状の成形部位を有するセラミックス成形体」とは、その一部が壁状又は板状の成形部位であるようなセラミックス成形体と、全体が壁状又は板状の成形部位であるようなセラミックス成形体との両方を含む。本発明における「壁状又は板状の成形部位」としては、例えば、隔壁で区画された複数のセルを有するハニカム状のセラミックス成形体(ハニカム成形体)における隔壁を挙げることができる。また、板状(シート状)のセラミックス成形体における当該セラミックス成形体の全体や、管状(パイプ状)のセラミックス成形体における当該セラミックス成形体の全体(管の内部と外部とを隔てる管壁)なども、「壁状又は板状の成形部位」に含まれる。
【0026】
尚、以降においては、本発明のセラミックス成形体の押出成形方法の実施形態の一例を、当該方法により成形されるセラミックス成形体が、板状(シート状)のセラミックス成形体である場合を例に説明する。図1に示すように、本実施形態にて成形されるセラミックス成形体1は、板状(シート状)を呈するものであり、当該セラミックス成形体1の全体が、壁状又は板状の成形部位2である。本実施形態においては、このようなセラミックス成形体1を押出成形するに当たり、図2に示すような押出成形用口金4を用いる。この押出成形用口金4は、原料供給面5と、その原料供給面5と反対側の面である原料成形面6とを備えている。原料供給面5には、成形用の原料を導入するための少なくとも1つの導入孔7が設けられている。一方、原料成形面6には、原料から、板状(シート状)のセラミックス成形体1を押出成形するためのスリット(成形溝)8が設けられている。導入孔7とスリット8とは、押出成形用口金4の内部で連通している。スリット8は、押出成形における押出方向d1の上流側に位置するスリット前段部8aと、押出方向d1の下流側に位置するスリット後段部8bとを有しており、スリット後段部8bの幅Bは、スリット前段部8aの幅Aの3~27倍となっている。尚、本実施形態では、導入孔7が設けられた押出成形用口金4を用いているが、導入孔7は、押出成形用口金4に必須の構成要素ではない。即ち、押出成形用口金4がスリット8(スリット前段部8a及びスリット後段部8b)を有していれば、導入孔7を有していなくても、本発明の押出成形方法を実施することは可能である。この場合、成形用の原料は、スリット後段部8bへ直接導入される。
【0027】
本発明のセラミックス成形体の押出成形方法においては、成形用の原料として、アスペクト比が2以上300未満の粒子を含む原料を用いる。ここで、「粒子のアスペクト比」とは、粒子の最大長径と最大長径に直交する幅との比(最大長径/最大長径に直交する幅)を意味する。尚、本発明においては、「粒子の最大長径」のことを、「粒子の長さ」という場合がある。また、「粒子の最大長径に直交する幅」のことを、「粒子の厚み」という場合がある。更に、「アスペクト比が2以上300未満の粒子である第一粒子」のことを、「高アスペクト比の粒子」または「粒子10」と記す場合がある。
【0028】
本発明のセラミックス成形体の押出成形方法においては、図3A~Cに示すように、高アスペクト比の粒子10を含む原料(坏土)11を、導入孔7から押出成形用口金4に導入し、原料11が、スリット前段部8aを通過してからスリット後段部8bを通過するように押し出す。既述のとおり、押出成形用口金4において、スリット後段部8bの幅Bは、スリット前段部8aの幅Aの3~27倍となっている。このように、スリット後段部8bの幅Bとスリット前段部8aの幅Aとに大きな差があると、スリット前段部8aにおける原料11の通過速度よりも、スリット後段部8bにおける原料11の通過速度が遅くなる。このため、図3Aに示すように、原料11は、幅が狭いスリット前段部8aから、幅が広いスリット後段部8bに押し出される際に、先にスリット後段部8bに押し出されていた通過速度の遅い原料11’により、押出方向d1への進行が阻まれる。その結果、図3Bに示すように、原料11は、スリット後段部8b内に等方的に拡散することができず、スリット後段部8bの幅方向(スリット後段部8bを画定している対向する壁面9a、9bに向かう方向)へ流入し、原料11’に圧着される。その後、図3C示すように、後続の原料11も、スリット後段部8bの幅方向へ流入し、前方の原料11’に圧着される。原料11は、このようなスリット後段部8bの幅方向への流入と、前方の原料11’との圧着を経て、スリット後段部8bから押出方向d1に沿って押し出される。押し出された原料11は、スリット後段部8bの幅Bに対応した厚さを有する成形部位2となって、スリット後段部8bから押出成形用口金4の外部に押し出され、成形部位2を有するセラミックス成形体1となる。
【0029】
ここで、原料11に含まれている高アスペクト比の粒子10の向きに着目すると、図3Aのように、まず、原料11が幅が狭いスリット前段部8aを通過する過程では、粒子10は、その長さ方向(最大長径の方向)が、押出方向d1とほぼ平行になるように配向する。そして、図3Bのように、原料11が、幅が広いスリット後段部8bに押し出され、スリット後段部8bの幅方向へ流入する過程で、粒子10の向きが変わり、粒子10の長さ方向が押出方向d1とほぼ直交するように配向する。その後、図3Cのように、粒子10がこのような配向状態を保ったまま、原料11がスリット後段部8bの幅Bに対応した厚さの成形部位2となって、スリット後段部8bから押出成形用口金4の外部に押し出される。
【0030】
このように、原料11が、幅が狭いスリット前段部8aを通過してから、幅が広いスリット後段部8bに流入するようにしたことにより、原料11に含まれる粒子10の配向する方向を最大で90゜程度変化させることができる。このため、本発明のセラミックス成形体の押出成形方法によれば、高アスペクト比の粒子を含み、その粒子の長さ方向が、壁状又は板状の成形部位の厚さ方向とほぼ平行になるように配向したセラミックス成形体を成形することができる。尚、ここで言う、「ほぼ平行」には、前記成形部位の厚さ方向に対する前記高アスペクト比の粒子の長さ方向の傾斜角度が、0°から53°程度までのものを含む。また、この方法は、押出成形を用いるものであるため、前記のようなセラミックス成形体を低コストで、効率良く製造することができる。また、この方法で成形されたセラミックス成形体が、前記第一粒子として造孔材を含む場合、焼成して造孔材を焼失させることにより、高アスペクト比の気孔を有し、その気孔の長さ方向が前記成形部位の厚さ方向とほぼ平行になるように配向したセラミックス多孔体となる。また、高アスペクト比の粒子がセラミックス原料等の焼成により焼失しない粒子である場合でも、焼成後の第一粒子間隙に高アスペクト比の気孔が形成され、その気孔の長さ方向が成形部位の厚さ方向とほぼ平行になるように配向したセラミックス多孔体となる。このようなセラミックス多孔体は、前記成形部位の厚さ方向に連通する気孔が多く存在するため、フィルターとして用いた場合に、ガス等の流体の透過経路が短くなって、高い透過性能が得られ、その結果、圧力損失が低くなる。
【0031】
本発明のセラミックス成形体の押出成形方法において、押出成形用口金4のスリット後段部8bの幅Bは、スリット前段部8aの幅Aの3~27倍、好ましくは3~15倍、更に好ましくは3~6倍である。スリット後段部8bの幅Bが、スリット前段部8aの幅Aの3倍未満では、スリット前段部8aからスリット後段部8bに押し出された原料11が、スリット後段部8bの幅方向にほとんど流入しないため、粒子10の配向する方向を前記のように変化させることができない。また、スリット後段部8bの幅Bが、スリット前段部8aの幅Aの27倍を超えると、原料11が、スリット後段部8bの幅方向に十分に流入する前に、前方の原料11’と圧着され、その結果、粒子10の配向する方向の変化が不十分となる。
【0032】
本発明のセラミックス成形体の押出成形方法において、押出成形用口金4のスリット後段部8bの幅Bは、8mm以下であることが好ましく、0.3mm以下であることがより好ましい。スリット後段部8bの幅Bをこのような値とすることにより、原料11のスリット後段部8bに流入した部分同士が圧着され易くなる。
【0033】
本発明のセラミックス成形体の押出成形方法において、押出成形用口金4のスリット後段部8bの押出方向d1における長さCは、13mm以下であることが好ましく、3mm以下であることがより好ましい。スリット後段部8bの長さCをこのような値とすることにより、その長さ方向が押出方向d1とほぼ直交するように配向した粒子10が、その配向状態を保ったまま、原料11がスリット後段部8bから押出成形用口金4の外部に押し出され易くなる。
【0034】
本発明のセラミックス成形体の押出成形方法において、粒子10の長さは、スリット後段部8bの幅Bの50%以下であることが好ましく、47%以下であることがより好ましい。粒子10の長さをこのような値とすることにより、粒子10の長さ方向が、成形部位2の厚さ方向とほぼ平行になるように配向し易くなる。
【0035】
本発明のセラミックス成形体の押出成形方法において、粒子10の添加量は、原料全体に対して70体積%以下であることが好ましく、45体積%以下であることがより好ましく、35体積%以下であることがさらに好ましい。粒子10の添加量をこのような値にすることにより、その長さ方向が、成形部位2の厚さ方向とほぼ平行になるように配向した粒子10が多く含まれるセラミックス成形体が得られ易くなる。なお、粒子10の添加量の下限値は、原料全体に対して1体積%であることが好ましい。
【0036】
本発明のセラミックス成形体の押出成形方法において、原料11は、炭化珪素、コージェライト、アルミニウムチタネート、ジルコニア、酸化アルミニウム、炭化珪素化原料、コージェライト化原料、アルミニウムチタネート化原料及びジルコニア化原料からなる群より選択される少なくとも一種のセラミックス原料を含むことが好ましく、炭化珪素、コージェライト、アルミニウムチタネート、酸化アルミニウム、炭化珪素化原料、コージェライト化原料及びアルミニウムチタネート化原料からなる群より選択される少なくとも一種のセラミックス原料を含むことがより好ましい。このような原料11を用いて成形されたセラミックス成形体は、焼成することにより、強度や耐熱衝撃性に優れたセラミックス多孔体となる。尚、「炭化珪素化原料」とは、焼成により炭化珪素となる原料を意味し、シリコンが30質量%、炭素が70質量%の化学組成となるように、「所定の原料」が混合されたセラミックス原料である。また、「コージェライト化原料」とは、焼成によりコージェライトとなる原料を意味し、シリカが42~56質量%、アルミナが30~45質量%、マグネシアが12~16質量%の範囲に入る化学組成となるように、「所定の原料」が混合されたセラミックス原料である。また、「アルミニウムチタネート化原料」とは、焼成によりアルミニウムチタネートとなる原料を意味し、アルミナが56質量%、チタニアが44質量%の化学組成となるように、「所定の原料」が混合されたセラミックス原料である。また、「ジルコニア化原料」とは、焼成によりジルコニアとなる原料を意味し、ジルコニアが100質量%となるように、「所定の原料」が混合されたセラミックス原料である。「所定の原料」としては、例えば、金属シリコン、カーボン源原料、タルク、カオリン、アルミナ源原料、シリカ、チタニア、ジルコニア等を挙げることができる。「カーボン源原料」とは、カーボンブラック、グラファイトや熱分解してカーボン源となるフェノール樹脂等のことをいう。「アルミナ源原料」とは、アルミニウム酸化物、水酸化アルミニウム、ベーマイト等、焼成により酸化物を形成する原料のことをいう。また、原料11は、前記のようなセラミックス原料と金属とを含んでいてもよい。このような原料11としては、例えば、80質量%の炭化珪素と20質量%の金属シリコンとを含むものが挙げられる。
【0037】
本発明のセラミックス成形体の押出成形方法において、粒子10のアスペクト比は2以上300未満である。このような高アスペクト比の粒子10を含む原料11を用いて成形されたセラミックス成形体1は、押出成形が可能で、粒子10の長さ方向が、成形部位2の厚さ方向とほぼ平行になるように配向し易い。
【0038】
本発明のセラミックス成形体の押出成形方法において、高アスペクト比の粒子10としては、造孔材やセラミックス原料が挙げられる。造孔材の種類は特に限定されないが、好適なものとしては、カーボン繊維、セルロース、グラファイト、ナイロン、レーヨン等が挙げられる。また、セラミックス原料の種類も特に限定されないが、好適なものとしては、炭化珪素、コージェライト、アルミナ、ジルコニア等が挙げられる。高アスペクト比の粒子10は、造孔材であることが好ましい。本発明の方法で成形されたセラミックス成形体が、粒子10として造孔材を含む場合、焼成して造孔材を焼失させることにより、高アスペクト比の気孔を有し、その気孔の長さ方向が成形部位2の厚さ方向とほぼ平行になるように配向したセラミックス多孔体となる。造孔材は、セラミックス成形体1を焼成することにより焼失し、造孔材が存在していた部分に、造孔材とほぼ同形状の気孔が形成される。また、高アスペクト比の粒子がセラミックス原料等の焼成により焼失しない粒子である場合でも、焼成後の第一粒子の間隙に高アスペクト比の気孔が形成され、その気孔の長さ方向が成形部位の厚さ方向とほぼ平行になるように配向したセラミックス多孔体となる。
【0039】
本発明のセラミックス成形体の押出成形方法においては、原料が、アスペクト比が2未満の粒子である第二粒子を含み、この第二粒子は造孔材であることが好ましい。この第二粒子を更に含むことにより、セラミックス成形体を焼成して得られるセラミックス多孔体におけるスス付き圧力損失の増大を抑制することができる。
【0040】
第二粒子の粒子径は、0.2~20μmであることが好ましく、5~15μmであることがより好ましい。第二粒子の粒子径を上記範囲とすることにより、隔壁表面の気孔率が高くなるため、スス付き圧力損失が低減する。第二粒子の粒子径が上記下限値未満であると、隔壁表面の気孔率が低くなるため、スス付き圧力損失が高くなるおそれがある。第二粒子の粒子径が上記上限値超であると、隔壁表面の気孔径が大きくなるため、隔壁の内部までススが侵入しスス付き圧力損失が高くなるおそれがある。
【0041】
ここで、本明細書において「第二粒子の粒子径」とは、以下のようにして測定される値である。フロー式粒子像分析装置(シスメックス社製の「FPIA-3000S(商品名)」)で、最大長と最大長垂直長を測定し、最大長と最大長垂直長の平均値を粒子径とした。
【0042】
第二粒子の種類は特に限定されないが、好適なものとしては、デンプン、カーボンブラック、アクリル樹脂等が挙げられる。本発明の方法で成形されたセラミックス成形体が、第二粒子を含む場合、焼成して第二粒子を焼失させることにより、第二粒子の気孔を有し、その気孔が、高アスペクト比の気孔により形成される流路における流体の透過性能を更に向上させる。その結果、圧力損失がより低くなる。具体的には、隔壁の表面領域においては、高アスペクト比の気孔が所定の配向度(0~53°)で形成され難くなることがある。この場合にも、第二粒子を更に添加することで隔壁全体(特に表面領域)に第二粒子の気孔を形成し、隔壁における流体の透過性能を更に向上させることができる。
【0043】
第一粒子と第二粒子の添加量の合計に対する第二粒子の添加量の割合は、0~50体積%であることが好ましく、6~29体積%であることがより好ましく、14~29体積%であることが特に好ましい。上記割合を上記範囲とすることにより、焼成後に得られるセラミックス多孔体におけるスス付き圧力損失の増大を更に抑制することができる。上記割合が上限値超であると、高アスペクト比の気孔の配向度が低下するため、スス付き圧力損失が高くなるおそれがある。
【0044】
本発明のセラミックス成形体の押出成形方法において、成形用の原料は、前記のようなセラミックス原料及び造孔材に、分散媒、有機バインダ、無機バインダ、界面活性剤、分散剤等を加えて混合し、ニーダー、真空土練機等で混練して形成することが好ましい。
【0045】
本発明のセラミックス成形体の押出成形方法により成形されるセラミックス成形体の形状については、壁状又は板状の成形部位を有する形状であること以外に、特に制限は無いが、好適なものの1つとして、ハニカム状のセラミックス成形体が挙げられる。ハニカム状のセラミックス成形体とは、具体的には、複数のセルを区画形成する隔壁を有するセラミックス成形体であり、それを焼成して得られるハニカム状のセラミックス多孔体は、DPF等のフィルターや触媒担体等に好適に利用することができる。このようなハニカム状のセラミックス成形体においては、隔壁が、「壁状又は板状の成形部位」である。
【0046】
(2)セラミックス成形体:
本発明のセラミックス成形体は、これまで説明した本発明のセラミックス成形体の押出成形方法により得られるものである。即ち、本発明のセラミックス成形体は、図1に示すように、壁状又は板状の成形部位2を有し、アスペクト比が2以上300未満の粒子(第一粒子)を含んでいる。また、このセラミックス成形体は、乾燥状態において、次のような特徴を有する。即ち、図5のように、成形部位2をその厚さ方向d2に沿って切断した切断面12を、厚さ方向d2において三等分して得られた3つの領域の内、厚さ方向d2の中心に位置する領域(以下、「中央領域」という。)13における前記第一粒子の配向度が0~53°である。造孔材等の第一粒子がこのような配向度を持つセラミックス成形体を焼成することで、成形部位2の厚さ方向に連通する気孔が多いセラミックス多孔体となり、高い透過性能が得られ易くなる。
【0047】
本発明において、「第一粒子の配向度」とは、中央領域13に存在する高アスペクト比の粒子について、図5に示すような、成形部位2の厚さ方向d2と、粒子10の最大長径の方向d3との成す角αの角度を以下の方法で測定し、得られる測定値を平均した値を意味する。ここで、成形部位2の厚さ方向d2は、セラミックス成形体を押出成形する際の押出方向d1と直交する方向である。角αの角度は、中央領域13のSEM(走査型電子顕微鏡)観察によって得られたSEM画像(反射電子像)から、画像解析ソフトを用いて測定することができる。画像解析ソフトとしては、Media Cybernetics社製の画像解析ソフト「Image-Pro Plus 7.0J(商品名)」を挙げることができる。
【0048】
より具体的には、本明細書において、第一粒子の配向度の測定方法としては、(1)壁状又は板状の成形部位(ハニカム状の構造体の場合は、隔壁)の厚さが300μm超の場合、以下の通りである。まず、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて、成形部位(例えば隔壁)の厚さ方向の中央部の領域(撮像領域)における反射電子像を撮像する。このときの撮影倍率は200倍(1280×960ピクセル)とする。次に、撮像した画像中において、厚さ方向に100μm、厚さ方向に垂直な方向に400μmの範囲を選択し、評価視野とする。次に、この評価視野において、2Dフィルターにてメディアン(オプション:カーネルサイズを7×7、回数を1回)の処理を行い、2値化処理(即ち、高アスペクト比の粒子を白、それ以外の材料は黒くなる処理)を行う。次に、高アスペクト比の粒子の部分(画像上、高アスペクト比の粒子と認識される部分)について2Dフィルターにて細線化処理を行い、一次処理画像を得る。次に、細線化処理した画像(一次処理画像)を、2Dフィルターにて、枝/端点フィルターで、三又、十字四又処理を行い、二次処理画像を得る。次に、一次処理画像から二次処理画像を減算処理して、評価画像を得る。この評価画像中における第一粒子10に該当する粒子を全て選択し、その角度を計測して、角度の平均値を求める。これを50視野で計測し、その平均値を求める。そして、これを「第一粒子の配向度」とする。
【0049】
また、本明細書において、第一粒子の配向度の測定方法としては、(2)壁状又は板状の成形部位(ハニカム状の構造体の場合は、隔壁)の厚さが300μm以下の場合、具体的には以下の通りである。まず、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて、成形部位(例えば隔壁)を厚さ方向に3等分したときの中央領域における反射電子像を撮像する。このときの撮影倍率は200倍(1280×960ピクセル)とする。次に、撮像した画像中において、厚さ方向には成形部位を3等分した長さ、厚さ方向に垂直な方向には400μmの範囲を選択して、評価視野とする。次に、この評価視野において、2Dフィルターにてメディアン(オプション:カーネルサイズを7×7、回数を1回)の処理を行い、2値化処理(即ち、高アスペクト比の粒子を白、それ以外の材料は黒くなる処理)を行う。次に、高アスペクト比の粒子の部分(画像上、高アスペクト比の粒子と認識される部分)について細線化処理を行い、一次処理画像を得る。次に、細線化処理した画像(一次処理画像)を、2Dフィルターにて、枝/端点フィルターで、三又、十字四又処理を行い、二次処理画像を得る。次に、一次処理画像から二次処理画像を減算処理して、評価画像を得る。この評価画像中における第一粒子10に該当する粒子を全て選択し、その角度を計測して、角度の平均値を求める。これを50視野で計測し、その平均値を求める。そして、これを「第一粒子の配向度」とする。
【0050】
尚、高アスペクト比の粒子が造孔材である場合、その粒子(造孔材)の配向度は、乾燥状態のセラミックス成形体の他、セラミックス成形体を焼成して得られたセラミックス多孔体からも測定することができる。具体的には、セラミックス多孔体の壁状又は板状の部位をその厚さ方向に沿って切断した切断面を、その部位の厚さ方向に三等分して得られた3つの領域の内、その部位の厚さ方向の中心に位置する領域における気孔の配向度を、上述の測定方法を採用して第一粒子の配向度の代わりに測定する。セラミックス多孔体の気孔は、セラミックス成形体の焼成により、セラミックス成形体に含まれていた造孔材が焼失することにより形成されたものである。このため、セラミックス多孔体おける気孔の配向と、セラミックス成形体に含まれていた造孔材の配向とはほぼ一致しており、気孔の配向度を測定することで、造孔材の配向度を間接的に測定することができる。
【0051】
このようにして測定される高アスペクト比の粒子の配向度が0~53°である本発明のセラミックス成形体においては、高アスペクト比の粒子の多くは、その長さ方向が、壁状又は板状の成形部位の厚さ方向とほぼ平行になるように配向している。このため、本発明のセラミックス成形体を焼成することにより、高アスペクト比の気孔を有し、その気孔の長さ方向が前記成形部位の厚さ方向とほぼ平行になるように配向したセラミックス多孔体となる。このようなセラミックス多孔体は、前記成形部位の厚さ方向に連通する気孔が多く存在するため、フィルターとして用いた場合に、ガス等の流体の透過経路が短くなって、高い透過性能が得られ、その結果、スス付き圧力損失が低くなる。
【0052】
本発明のセラミックス成形体に含まれる高アスペクト比の粒子は、造孔材であることが好ましい。造孔材の種類は特に限定されないが、好適なものとしては、カーボン繊維、セルロース、グラファイト、ナイロン、レーヨン等が挙げられる。また、本発明のセラミックス成形体は、炭化珪素、コージェライト、アルミニウムチタネート、ジルコニア、酸化アルミニウム、炭化珪素化原料、コージェライト化原料、アルミニウムチタネート化原料及びジルコニア化原料からなる群より選択される少なくとも一種のセラミックス原料を含むことが好ましく、炭化珪素、コージェライト、アルミニウムチタネート、酸化アルミニウム、炭化珪素化原料、コージェライト化原料及びアルミニウムチタネート化原料からなる群より選択される少なくとも一種のセラミックス原料を含むことがより好ましい。また、本発明のセラミックス成形体は、前記のようなセラミックス原料及び高アスペクト比の粒子の他、分散媒、有機バインダ、無機バインダ、分散剤等を含んでいてもよい。
【0053】
本発明のセラミックス成形体において、高アスペクト比の粒子の長さは、成形部位の厚さの50%以下であることが好ましく、47%以下であることがより好ましい。高アスペクト比の粒子の長さをこのような値にすると、配向度が0~53°のセラミックス成形体が得られ易くなる。
【0054】
本発明のセラミックス成形体において、高アスペクト比の粒子の含有量は、セラミックス成形体を構成する原料全体に対して70体積%以下であることが好ましく、45体積%以下であることがより好ましく、35体積%以下であることがさらに好ましい。高アスペクト比の粒子の含有量をこのような値にすると、配向度が0~53°のセラミックス成形体が得られ易くなる。なお、高アスペクト比の粒子の添加量の下限値は、原料全体に対して1体積%であることが好ましい。
【0055】
本発明のセラミックス成形体は、アスペクト比が2未満の粒子である第二粒子を更に含むものとすることができる。このような第二粒子を更に含有することにより、セラミックス成形体を焼成して得られるセラミックス多孔体におけるスス付き圧力損失の増大を抑制することができる。
【0056】
第二粒子の粒子径は、0.2~20μmであることが好ましく、5~15μmであることがより好ましい。第二粒子の粒子径を上記範囲とすることにより、隔壁表面の気孔率が高くなるため、スス付き圧力損失が低減する。第二粒子の粒子径が上記下限値未満であると、隔壁表面の気孔率が低くなるため、スス付き圧力損失が高くなるおそれがある。第二粒子の粒子径が上記上限値超であると、隔壁表面の気孔径が大きくなるため、隔壁内部までススが侵入しスス付き圧力損失が高くなるおそれがある。
【0057】
第二粒子の種類は特に限定されないが、好適なものとしては、デンプン、カーボンブラック、アクリル樹脂等が挙げられる。
【0058】
第一粒子と第二粒子の添加量の合計に対する第二粒子の添加量の割合は、0~50体積%であることが好ましく、6~29体積%であることがより好ましく、14~29体積%であることが特に好ましい。上記割合を上記範囲とすることにより、焼成後に得られるセラミックス多孔体におけるスス付き圧力損失の増大を更に抑制することができる。上記割合が上限値超であると、高アスペクト比の気孔の配向度が低下するため、スス付き圧力損失が高くなるおそれがある。
【0059】
本発明のセラミックス成形体の形状については、壁状又は板状の成形部位を有する形状であること以外に、特に制限は無いが、好適なものの1つとして、ハニカム状のセラミックス成形体が挙げられる。ハニカム状のセラミックス成形体とは、具体的には、複数のセルを区画形成する隔壁を有するセラミックス成形体であり、それを焼成して得られるハニカム状のセラミックス多孔体は、DPF等のフィルターや触媒担体等に好適に利用することができる。このようなハニカム状のセラミックス成形体においては、隔壁が、「壁状又は板状の成形部位」である。
【0060】
(3)セラミックス多孔体:
本発明のセラミックス多孔体は、複数のセルを区画形成する複数の気孔を有する隔壁を備えるものである。そして、本発明のセラミックス多孔体は、隔壁の厚さ方向に沿って切断した切断面を、隔壁の厚さ方向に三等分して得られた3つの領域の内、隔壁の厚さ方向の中心に位置する領域である中央領域における気孔の配向度が0~53°である。更に、本発明のセラミックス多孔体は、上記3つの領域の内、中央領域の外側の領域である表面領域における気孔率と、隔壁の気孔率との差が、0~11%である。気孔は、アスペクト比が2以上300未満の気孔である。
【0061】
本発明のセラミックス多孔体は、その隔壁の中央領域における気孔の配向度が上記のように0~53°であり、0~43°であることが好ましく、0~28°であることが更に好ましい。このような範囲とすることにより、流体の高い透過性能が得られ易くなる。なお、気孔の配向度は、上述した第一粒子の配向度の測定方法と同様の方法で、第一粒子に代えて気孔について測定を行うことで算出される値である。
【0062】
本発明のセラミックス多孔体は、上記の通り、その隔壁の表面領域と隔壁全体の気孔率の差(式:隔壁全体の気孔率-隔壁の表面領域の気孔率により算出される値)が0~11%であり、0~5%であることが好ましい。このような範囲とすることにより、流体についてのより高い透過性能が得られる。
【0063】
なお、隔壁の表面領域における気孔率は、画像解析により求めた値である。具体的には、以下のようにして求めた値である。
【0064】
(1)隔壁の厚さが300μm超の場合には以下のように測定する。まず、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて、隔壁の表面から厚さ方向に100μmまでの領域における反射電子像を撮像する。このときの撮影倍率は200倍(1280×960ピクセル)とする。そして、Media Cybernetics社製の画像解析ソフト「Image-Pro Plus 7.0J(商品名)」を使用して気孔率を算出する。次に、撮像した画像中において、厚さ方向に100μm、厚さ方向に垂直な方向に400μmの範囲を選択し、評価視野とする。次に、この評価視野において、2Dフィルターにてメディアン(オプション:カーネルサイズを7×7、回数を1回)の処理を行い、2値化処理(即ち、気孔は白く、セラミックスは黒くなる処理)を行う。次に、2値化処理した画像中における気孔(白い部分)とセラミックス(黒い部分)の面積比(気孔/セラミックス)を計測する。これを50視野で計測し、その平均値を求める。これを隔壁の表面領域における気孔率とする。
【0065】
(2)隔壁の厚さが300μm以下の場合には以下のように測定する。まず、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて、隔壁を厚さ方向に3等分したときの中央領域以外の領域(隔壁の表面に接している部分)における反射電子像を撮像する。このときの撮影倍率は200倍(1280×960ピクセル)とする。そして、Media Cybernetics社製の画像解析ソフト「Image-Pro Plus 7.0J(商品名)」を使用して気孔率を算出する。次に、撮像した画像中において、厚さ方向には隔壁を3等分した長さ、厚さ方向に垂直な方向には400μmの範囲を選択して、評価視野とする。次に、この評価視野において、2Dフィルターにてメディアン(オプション:カーネルサイズを7×7、回数を1回)の処理を行い、2値化処理(即ち、気孔は白く、セラミックスは黒くなる処理)を行う。次に、2値化処理した画像中における気孔(白い部分)とセラミックス(黒い部分)の面積比(気孔/セラミックス)を計測する。これを50視野で計測し、その平均値を求める。これを隔壁の表面領域における気孔率とする。
【0066】
本発明のセラミックス多孔体における隔壁(隔壁全体)の気孔率は、65%以下であることが好ましく、25~45%であることが更に好ましい。このような範囲とすることにより、セラミックス多孔体の強度が高く、かつ、スス付き圧力損失が低くなるという点が両立される。隔壁の気孔率が上限値超であると、セラミックス多孔体の強度が低下するおそれがある。なお、「隔壁の気孔率」は、JIS R 1634に準拠して、アルキメデス法にて測定した値である。
【0067】
本発明のセラミックス多孔体は、上述した本発明のセラミックス成形体を従来公知の方法で焼成などを行って得ることができる。セラミックス多孔体の形状は特に制限はなくハニカム状などとすることができる。特にハニカム状のセラミックス多孔体は、上記ハニカム状のセラミックス成形体を焼成して得ることができる。
【0068】
(4)従来のセラミックス成形体の押出成形方法:
本発明のセラミックス成形体の押出成形方法との比較として、従来の一般的なセラミックス成形体の押出成形方法を、当該方法により成形されるセラミックス成形体が、板状(シート状)のセラミックス成形体である場合を例に説明する。従来のセラミックス成形体の押出成形方法においては、図6に示すような押出成形用口金15を用いる。この押出成形用口金15は、原料供給面16と、その原料供給面16と反対側の面である原料成形面17とを備えている。原料供給面16には、成形用の原料を導入するための少なくとも1つの導入孔18が設けられている。一方、原料成形面17には、原料から、板状(シート状)のセラミックス成形体を押出成形するためのスリット(成形溝)19が設けられている。導入孔18とスリット19とは、押出成形用口金15の内部で連通している。スリット19は、押出成形における押出方向d1において均一な幅Eを有するように構成されている。
【0069】
従来のセラミックス成形体の押出成形方法においては、図7に示すように、この押出成形用口金15の導入孔18から原料11を導入し、原料11がスリット19を通過するように押し出す。こうしてスリット19を通過した原料11は、スリット19の幅Eに対応した厚さを有する成形部位2となって、スリット19から押出成形用口金15の外部に押し出され、当該成形部位2を有するセラミックス成形体となる。
【0070】
このような従来のセラミックス成形体の押出成形方法においては、スリットの幅Eが押出方向d1において均一であるため、図7に示すように、スリット19に流入した原料11は、その流入方向が変化することなく、押出方向d1に沿って直進する。よって、原料11に、高アスペクト比の粒子10が含まれている場合、原料11が導入孔18からスリット19に流入する際に、粒子10は、その長さ方向(最大長径の方向)が、押出方向d1とほぼ平行になるように配向する。そして、粒子10がこのような配向状態を保ったまま、原料11がスリット19の幅Eに対応した厚さの成形部位となって、スリット19から押出成形用口金15の外部に押し出される。
【0071】
このように、従来のセラミックス成形体の押出成形方法においては、スリット19に流入した原料11に含まれる高アスペクト比の粒子10は、スリット19の途中で配向の方向を変えることなく、押出成形用口金15の外部に押し出される。このため、高アスペクト比の粒子が含まれた原料を用い、従来のセラミックス成形体の押出成形方法によって成形されるセラミックス成形体は、高アスペクト比の粒子を含むものの、その粒子の長さ方向が、押出方向とほぼ平行になるように配向したものとなる。即ち、従来のセラミックス成形体の押出成形方法では、高アスペクト比の粒子を含み、その粒子の長さ方向が、成形部位の厚さ方向とほぼ平行になるように配向したセラミックス成形体を成形することはできない。
【実施例
【0072】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0073】
(実施例1)
セラミックス原料としてアルミナ粉末を用いた。このセラミックス原料に、造孔材、バインダ及び分散剤を加えて成形用の原料とし、この原料に水を加えて混練することにより、硬度が10である坏土を得た。造孔材としては、長さ(最大長径)が200μm、厚み(最大長径に直交する幅)が12μm、アスペクト比が17であるカーボン繊維を用いた。バインダとしては、ヒドロキシプロポキシルメチルセルロースを用いた。分散剤としては、ポリアクリル酸塩を用いた。造孔材の添加量は、原料全体の35体積%となるようにした。坏土の硬度は、NGK粘土硬度計(日本ガイシ社製)で測定した(以下、実施例2~14についても同様とした)。
【0074】
得られた坏土を、押出成形用口金を用いて押出成形し、板状(シート状)のセラミックス成形体を得た。押出成形用口金には、図2に示す構造のものを用いた。押出成形用口金のスリット前段部の幅Aは0.3mmとし、スリット後段部の幅Bは8mmとし、押出方向におけるスリット後段部の長さCは13mmとした。
【0075】
得られたセラミックス成形体をマイクロ波及び熱風で乾燥した後、大気雰囲気中にて約800℃で脱脂した。更に、脱脂後のセラミックス成形体を、大気雰囲気中にて約1500℃で焼成して、アルミナから構成された、板状(シート状)のセラミックス多孔体を得た。
【0076】
得られたセラミックス多孔体について、上述の方法で気孔の配向度(実質的に造孔材の配向度と同一)を測定し、その結果を表2に示した。また、得られたセラミックス多孔体の中央領域の微構造を示すSEM(走査型電子顕微鏡)画像の写真を図8に示した。この図8に示すSEM画像において、色の濃い部分が、造孔材の焼失により形成された気孔である。
【0077】
更に、板状(シート状)のセラミックス多孔体について、「スス付き圧力損失」の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0078】
なお、このセラミックス多孔体の隔壁の気孔率(表2、表3中、「全体の気孔率」と示す)は、26%であった。また、セラミックス多孔体の隔壁の気孔率は、JIS R 1634に準拠して、アルキメデス法にて測定を行った。また、表面領域の気孔率は、17%であった。なお、「表面領域の気孔率」は、上述した走査型電子顕微鏡を用いた画像解析により行った。
【0079】
[スス付き圧力損失]
作製したセラミックス多孔体のスス付き圧力損失(KPa/mm)を以下のようにして測定した。なお、スス付き圧力損失とは、ススが堆積していないときの圧力損失(P1)とススを堆積させた後の圧力損失(P2)の差(P2-P1)の値である。
【0080】
具体的には、まず、ススを捕集させていない状態で、377mm/秒の空気を流し、板状のセラミックス多孔体(縦30mm、横30mm、厚さ0.3mm)の前後の圧力差(圧力損失(P1))を測定した。次に、スートジェネレーター(東京ダイレック株式会社製、「CAST2」)により発生させたススを、30m/分の空気で希釈し、この混合ガスを2700秒間、板状のセラミックス多孔体に通し、板状のセラミックス多孔体に堆積させた。その後、ススを捕集させた状態で、377mm/秒の空気を板状のセラミックス多孔体に流し、そのときの圧力差(圧力損失(P2))を測定した。その後、式:P2-P1により、スス付き圧力損失を算出した。なお、ガスを流す際には、板状のセラミックス多孔体は、隔壁の厚さ方向に平行にガスが流れるように配置した。
【0081】
(実施例2)
造孔材の添加量を、原料全体の45体積%となるようにした以外は、実施例1と同様にして、板状(シート状)のセラミックス多孔体を得た。得られたセラミックス多孔体について、上述の方法で気孔の配向度(実質的に造孔材の配向度と同一)を測定し、その結果を表2に示した。
【0082】
また、板状のセラミックス多孔体について、「隔壁の気孔率」及び「表面領域の気孔率」を求めた。そして、この板状のセラミックス多孔体について実施例1と同様にして「スス付き圧力損失」の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0083】
(実施例3)
炭化珪素粉末75質量部と、金属珪素粉末35質量部と、タルク粉末6.6質量部と、アルミナ粉末4.4質量部と、カオリン粉末13.4質量部と、モンモリロナイト粉末1.0質量部とを混合してセラミックス原料を得た。得られたセラミックス原料に、造孔材及びバインダを加えて成形用の原料とし、この原料に水を加えて混練することにより、硬度が12である坏土を得た。造孔材としては、長さ(最大長径)が140μm、厚み(最大長径に直交する幅)が15μm、アスペクト比が9であるセルロースを用いた。バインダとしては、ヒドロキシプロポキシルメチルセルロースを用いた。造孔材の添加量は、原料全体の13体積%となるようにした。坏土の硬度は、NGK粘土硬度計で測定した。
【0084】
得られた原料を、押出成形用口金を用いて押出成形し、板状(シート状)のセラミックス成形体を得た。押出成形用口金には、図2に示す構造のものを用いた。押出成形用口金のスリット前段部の幅Aは0.1mmとし、スリット後段部の幅Bは0.3mmとし、押出方向におけるスリット後段部の長さCは3mmとした。
【0085】
得られたセラミックス成形体をマイクロ波及び熱風で乾燥し、更に大気雰囲気中にて約450℃で脱脂した後、上述の方法で高アスペクト比の粒子(造孔材)の配向度を測定し、その結果を表2に示した。
【0086】
また、板状のセラミックス多孔体について、「隔壁の気孔率」及び「表面領域の気孔率」を求めた。そして、この板状のセラミックス多孔体について実施例1と同様にして「スス付き圧力損失」の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0087】
(実施例4)
造孔材として、長さ(最大長径)が150μm、厚み(最大長径に直交する幅)が10μm、アスペクト比が15であるグラファイトを用いた以外は、実施例3と同様にして、板状(シート状)のセラミックス成形体を得た。得られたセラミックス成形体をマイクロ波及び熱風で乾燥し、更に大気雰囲気中にて約800℃で脱脂した後、上述の方法で高アスペクト比の粒子(造孔材)の配向度を測定し、その結果を表2に示した。
【0088】
また、板状のセラミックス多孔体について、「隔壁の気孔率」及び「表面領域の気孔率」を求めた。そして、この板状のセラミックス多孔体について実施例1と同様にして「スス付き圧力損失」の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0089】
(実施例5)
炭化珪素粉末90質量部と、金属珪素粉末35質量部と、タルク粉末6.6質量部と、アルミナ粉末4.4質量部と、カオリン粉末13.4質量部と、モンモリロナイト粉末1.0質量部と混合してセラミックス原料を得た。得られたセラミックス原料に、高アスペクト比の粒子、球状造孔材及びバインダを加えて成形用の原料とし、この原料に水を加えて混練することにより、硬度が11である坏土を得た。高アスペクト比の粒子としては、長さ(最大長径)が21μm、厚み(最大長径に直交する幅)が10μm、アスペクト比が2である炭化珪素を用いた。球状造孔材としてはでんぷんを用いた。バインダとしては、ヒドロキシプロポキシルメチルセルロースを用いた。高アスペクト比の粒子の添加量は、原料全体の37体積%となるようにした。坏土の硬度は、NGK粘土硬度計で測定した。この坏土を用いて、実施例3と同様に板状(シート状)のセラミックス成形体を押出成形した。得られたセラミックス成形体をマイクロ波及び熱風で乾燥し、更に大気雰囲気中にて約450℃で脱脂した後、上述の方法で高アスペクト比の粒子(炭化珪素)の配向度を測定し、その結果を表2に示した。
【0090】
(実施例6~15)
表1に示す条件の原料を作製して表2に示す押出成形用口金を用いたこと以外は、実施例1と同様に板状のセラミックス多孔体を作製した。作製した板状のセラミックス多孔体について、実施例1と同様にして「隔壁の気孔率」及び「表面領域の気孔率」を求めた。また、この板状のセラミックス多孔体について実施例1と同様にして「スス付き圧力損失」の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0091】
実施例5~13、15においては、アスペクト比が2以上300未満の粒子である第一粒子(表1中、「高アスペクト比粒子X」の欄に示す)に加えて、アスペクト比が2未満の粒子である第二粒子(表1中、「低アスペクト比粒子Y」の欄に示す)を更に配合した原料を用いた。
【0092】
実施例5~13、15のセラミックス多孔体は、第一粒子と第二粒子のうち、第一粒子のみを用いて作製したセラミックス多孔体に比べて、「スス付き圧力損失」の評価結果が更に向上していた。
【0093】
(比較例1)
図6に示す従来構造の押出成形用口金を用いた以外は、実施例1と同様にして、板状(シート状)のセラミックス多孔体を得た。押出成形用口金の導入孔の直径Dは25mmとし、スリットの幅Eは0.3mmとし、押出方向におけるスリットの長さFは3mmとした。得られたセラミックス多孔体について、上述の方法で気孔の配向度(実質的に造孔材の配向度と同一)を測定し、その結果を表2に示した。また、得られたセラミックス多孔体の中央領域の微構造を示すSEM(走査型電子顕微鏡)画像の写真を図9に示した。この図9に示すSEM画像において、色の濃い部分が、造孔材の焼失により形成された気孔である。
【0094】
また、板状のセラミックス多孔体について、「隔壁の気孔率」及び「表面領域の気孔率」を求めた。そして、この板状のセラミックス多孔体について実施例1と同様にして「スス付き圧力損失」の評価を行った。評価結果を表3に示す。なお、比較例2~5のセラミックス多孔体についても同様に「隔壁の気孔率」及び「表面領域の気孔率」を求め、更に「スス付き圧力損失」の評価を行った。
【0095】
(比較例2)
図6に示す従来構造の押出成形用口金を用いた以外は、実施例2と同様にして、板状(シート状)のセラミックス多孔体を得た。押出成形用口金の導入孔の直径Dは25mmとし、スリットの幅Eは0.3mmとし、押出方向におけるスリットの長さFは3mmとした。得られたセラミックス多孔体について、上述の方法で気孔の配向度(実質的に造孔材の配向度と同一)を測定し、その結果を表3に示した。
【0096】
(比較例3)
図6に示す従来構造の押出成形用口金を用いた以外は、実施例3と同様にして、板状(シート状)のセラミックス成形体を得た。押出成形用口金の導入孔の直径Dは25mmとし、スリットの幅Eは0.3mmとし、押出方向におけるスリットの長さFは3mmとした。得られたセラミックス成形体を実施例3と同様に乾燥及び脱脂した後、上述の方法で高アスペクト比の粒子(造孔材)の配向度を測定し、その結果を表3に示した。
【0097】
(比較例4)
図6に示す従来構造の押出成形用口金を用いた以外は、実施例4と同様にして、板状(シート状)のセラミックス成形体を得た。押出成形用口金の導入孔の直径Dは25mmとし、スリットの幅Eは0.3mmとし、押出方向におけるスリットの長さFは3mmとした。得られたセラミックス成形体を実施例4と同様に乾燥及び脱脂した後、上述の方法で高アスペクト比の粒子(造孔材)の配向度を測定し、その結果を表3に示した。
【0098】
(比較例5)
図6に示す従来構造の押出成形用口金を用いた以外は、実施例5と同様にして、板状(シート状)のセラミックス成形体を得た。押出成形用口金の導入孔の直径Dは25mmとし、スリットの幅Eは0.3mmとし、押出方向におけるスリットの長さFは3mmとした。得られたセラミックス成形体を実施例5と同様に乾燥及び脱脂した後、上述の方法で高アスペクト比の粒子(炭化珪素)の配向度を測定し、その結果を表3に示した。
【0099】
(比較例6)
造孔材として、長さ(最大長径)が3000μm、厚み(最大長径に直交する幅)が10μm、アスペクト比が300であるカーボン繊維を用いた以外は、実施例1と同様に坏土を得た。得られた坏土を、実施例3と同様の押出成形用口金を用いて押出成形し、板状(シート状)のセラミックス成形体を得ようとしたが、坏土が押出成形用口金を通過せず、成形できなかった。評価結果を表2に示す。
【0100】
(比較例7)
表1に示す条件の原料を作製して表2に示す押出成形用口金を用いたこと以外は、実施例1と同様にして板状のセラミックス多孔体を作製した。作製した板状のセラミックス多孔体について、実施例1と同様にして「隔壁の気孔率」及び「表面領域の気孔率」を求めた。また、この板状のセラミックス多孔体について実施例1と同様にして「スス付き圧力損失」の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0101】
(比較例8)
表1に示す条件の原料を作製して表2に示す押出成形用口金を用いたこと以外は、実施例1と同様にして板状のセラミックス多孔体を作製した。作製した板状のセラミックス多孔体について、実施例1と同様にして「隔壁の気孔率」及び「表面領域の気孔率」を求めた。また、この板状のセラミックス多孔体について実施例1と同様にして「スス付き圧力損失」の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】
【0104】
【表3】
【0105】
(結果)
表2に示すように、本発明の押出成形方法を用いた実施例1~15は、高アスペクト比の粒子の配向度の値が小さく、高アスペクト比の粒子の多くは、その長さ方向が、セラミックス成形体の成形部位の厚さ方向とほぼ平行になるように配向していたことがわかる。一方、表3に示すように、従来の一般的な押出成形方法を用いた比較例1~5は、高アスペクト比の粒子の配向度の値が大きく、高アスペクト比の粒子の多くは、その長さ方向が、押出方向とほぼ平行になるように配向していたことがわかる。尚、アスペクト比が300の粒子(造孔材)を用いた比較例6は、坏土が押出成形用口金を通過せず、セラミックス成形体を押出成形することができなかった。また、高アスペクト比の粒子を用いない比較例7は、配向度の値が大きく、「スス付き圧力損失」の値が大きいものであった。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、高アスペクト比の粒子を含み、その粒子の長さ方向が、壁状又は板状の成形部位の厚さ方向とほぼ平行になるように配向したセラミックス成形体を成形可能なセラミックス成形体の押出成形方法として好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0107】
1:セラミックス成形体、2:壁状又は板状の成形部位、4:押出成形用口金、5:原料供給面、6:原料成形面、7:導入孔、8:スリット、8a:スリット前段部、8b:スリット後段部、9a:壁面、9b:壁面、10:高アスペクト比の粒子、11,11’:原料、12:切断面、13:中央領域、15:押出成形用口金、16:原料供給面、17:原料成形面、18:導入孔、19:スリット。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7
図8
図9