(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-13
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】サイドエアバッグ装置及び、これを備えた車両用シート
(51)【国際特許分類】
B60R 21/233 20060101AFI20220118BHJP
B60R 21/207 20060101ALI20220118BHJP
B60R 21/2346 20110101ALI20220118BHJP
【FI】
B60R21/233
B60R21/207
B60R21/2346
(21)【出願番号】P 2020525336
(86)(22)【出願日】2019-05-08
(86)【国際出願番号】 JP2019018462
(87)【国際公開番号】W WO2019244493
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2020-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2018116479
(32)【優先日】2018-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100098143
【氏名又は名称】飯塚 雄二
(72)【発明者】
【氏名】桜井 努
(72)【発明者】
【氏名】小林 優斗
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】実開平05-042001(JP,U)
【文献】国際公開第2017/209192(WO,A1)
【文献】特開2007-176347(JP,A)
【文献】特開2008-120148(JP,A)
【文献】特開2016-078507(JP,A)
【文献】特開2009-023494(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16-21/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨張ガスを発生するインフレータと、前記膨張ガスによって車両用シートの側部から展開して乗員を保護するエアバッグとを備えたサイドエアバッグ装置において、
前記エアバッグは、車両前方に向かって展開するメインチャンバと;前記インフレータを収容し、前記メインチャンバの車幅方向内側で当該メインチャンバに先行して展開を開始するプリチャンバとを備え、
前記メインチャンバは、区画部によって前方領域と後方領域とに区画され、
前記メインチャンバと前記プリチャンバとの境界部分には、前記膨張ガスを前記プリチャンバから前記メインチャンバの前方領域に導くフロントベントと、前記後方領域に導くリアベントとが設けられていることを特徴とするサイドエアバッグ装置。
【請求項2】
前記メインチャンバの前記前方領域と前記後方領域とは、バッフルプレートによって区画され、
前記バッフルプレートには前記前方領域と前記後方領域とに流体連通するバッフルベントが設けられていることを特徴とする請求項1に記載のサイドエアバッグ装置。
【請求項3】
前記車両の横方向から見て、前記プリチャンバが、前記メインチャンバの前記区画部の少なくとも一部を覆うように設けられることを特徴とする請求項1
又は2に記載のサイドエアバッグ装置。
【請求項4】
前記車両の横方向から見て、前記プリチャンバは、下方において、車両前方に突出していて、前記メインチャンバの前端部分より車両後方側に位置する下方突出部と、上方において、車両前方に突出していて、前記メインチャンバの前端部分より車両後方側に位置する上方突出部とを有することを特徴とする請求項1、2又は3に記載のサイドエアバッグ装置。
【請求項5】
前記リアベントは、
前記下方突出部と前記上方突出部に対応する位置に少なくとも2カ所形成されていることを特徴とする請求項
4に記載のサイドエアバッグ装置。
【請求項6】
前記プリチャンバ内部で前記インフレータを包囲し、前記膨張ガスの流れを規制する整流部材を更に備えたことを特徴とする請求項1乃至
5の何れか一項に記載のサイドエアバッグ装置。
【請求項7】
前記整流部材は、前記インフレータから放出された前記膨張ガスを上下方向に導く開口を上端部及び下端部に備えていることを特徴とする請求項
6に記載のサイドエアバッグ装置。
【請求項8】
前記プリチャンバは、車両側方から見て
フレーム側壁部に重なって展開するように設けられていることを特徴とする請求項1乃至
7の何れか一項に記載のサイドエアバッグ装置。
【請求項9】
前記メインチャンバは、車両側方から見て
フレーム側壁部に重ならないで展開するように設けられている
ことを特徴とする請求項1乃至
8の何れか一項に記載のサイドエアバッグ装置。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れか一項に記載のサイドエアバッグ装置を装備した車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイドエアバッグ装置及び、これを備えた備えた車両用シートに関する。特に、メインチャンバの内側(乗員側)で展開するプリチャンバを備えたサイドエアバッグ装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の事故発生時に乗員を保護するために1つまたは複数のエアバッグを車両に設けることは周知である。エアバッグは、例えば、自動車のステアリングホイールの中心付近から膨張して運転者を保護する、いわゆる運転者用エアバッグ、自動車の窓の内側で下方向に展開して車両横方向の衝撃や横転、転覆事故時に乗員を保護するカーテンエアバッグ、更には、車両横方向の衝撃時に乗員を保護すべく乗員とサイドパネルとの間で展開するサイドエアバッグなどの様々な形態がある。本発明は、サイドエアバッグ装置及び、これを備えた車両用シートに関するものである。
【0003】
下記特許文献1に記載されたサイドエアバッグ装置は、メインとなって乗員を拘束する主エアバッグと、主エアバッグとは別の補助エアバッグとを備えている。そして、主エアバッグに先行して補助エアバッグを膨張展開させることにより、乗員を早期に拘束するようにしている。このようなサイドエアバッグ装置においては、設置領域における制約が大きいため、装置のコンパクト化の要請が強い。
また、展開速度の向上や展開挙動、展開形状の安定化による適切な乗員保護性能が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記のような状況に鑑みてなされたものであり、速やか且つ適切に乗員を拘束可能なサイドエアバッグ装置及び、これを備えた車両用シートを提供することを目的とする。
また、装置のコンパクト化に寄与するサイドエアバッグ装置及びこれを備えた車両用シートを提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、明細書、特許請求の範囲、および図面においては、次のように方向を規定するものとする。乗員がシートバックに当該乗員の背中の大部分が接触するように正常な着座姿勢で着座した場合に、当該乗員の胴体が向く方向を「前」とし、その反対方向を「後」とする。また当該前後方向に対して直交する方向で、乗員の右手方向を「右」とし、左手方向を「左」とする。この左右方向において、シートのサイドフレームより乗員側の領域を「内」とし、サイドフレームから見て乗員とは反対の領域を「外」を示すものとする。
【0007】
本発明は、膨張ガスを発生するインフレータと、前記膨張ガスによって車両用シートの側部から展開して乗員を保護するエアバッグとを備えたサイドエアバッグ装置に適用される。そして、上記目的を達成するために、前記エアバッグは、車両前方に向かって展開するメインチャンバと;前記インフレータを収容し、前記メインチャンバの車幅方向内側で当該メインチャンバに先行して展開を開始するプリチャンバとを備える。ここで、前記メインチャンバは、区画部によって前方領域と後方領域とに区画される。そして、前記メインチャンバと前記プリチャンバとの境界部分には、前記膨張ガスを前記プリチャンバから前記メインチャンバの前方領域に導くフロントベントと、前記後方領域に導くリアベントとが設けられる。
【0008】
上記のような構成の本発明によれば、サイドエアバッグ装置の作動初期の段階において、プリチャンバが真っ先に展開を開始し、乗員が車両幅方向外側に移動するのを速やかに拘束することが可能となる。このとき、プリチャンバが乗員を車両幅方向内側に向かって押しつけるような格好となるため、乗員を背中方向から斜め前方に押し出すような力の発生を抑制することができる。すなわち、エアバッグの展開によって、乗員がシートベルトを引き出す方向(進行方向)へ押されることがなく、乗員への加害性を抑えつつも、拘束性能を最大限に発揮することが可能となる。
【0009】
前記プリチャンバは、前記車両の横方向から見たときに、前記メインチャンバの前記区画部の少なくとも一部を覆うように設けることができる。
【0010】
前記プリチャンバの下方部分には、前記車両の横方向から見たときに、車両前方に突出していて、前記メインチャンバの前端部分より車両後方側に位置する下方突出部を形成することができる。
【0011】
前記プリチャンバの上方部分には、前記車両の横方向から見たときに、車両前方に突出していて、前記メインチャンバの前端部分より車両後方側に位置する上方突出部を形成することができる。
【0012】
プリチャンバに上方突出部を設けることにより、エアバッグが展開した際に、当該上方突出部が乗員の頭部付近に位置し、傷害の発生し易い頭部を速やかに拘束することができる。また、プリチャンバに下方突出部を設けることにより、エアバッグが展開した際に、当該下方突出部が乗員の腰部付近に位置し、人間の身体における重心に近い腰部を押すことにより、事故発生時の初期段階における乗員拘束性能が向上する。
【0013】
本発明において、前記リアベントは、少なくとも2カ所形成することが好ましい。メインチャンバの後方領域は、プリチャンバ内に収容されたインフレータに近い位置にあるため、リアベントの数を1つではなく複数とすることによって、膨張ガスが速やかにメインチャンバに送り込まれる。その結果、メインチャンバを速やかに膨張・展開させることが可能となる。
【0014】
前記リアベントは、前記プリチャンバの高さ方向(又は垂直方向)中間部分よりも上方に形成することができる。サイドエアバッグ装置が作動したときに、プリチャンバの展開によって乗員の横方向(車両の幅方向)への移動が速やかに拘束される。このとき、リアベントを上方に配置しておけば、乗員の頭部付近に位置するメインチャンバの上方部分が早めに展開し、乗員の頭部を速やかに拘束することが可能となる。すなわち、乗員の頭部及び頚部への傷害を最小限に抑えることが可能となる。
【0015】
前記フロントベントは、前記プリチャンバの高さ方向(又は垂直方向)中間部分よりも下方に形成することが好ましい。リアベントを上方に配置し、フロントベントを下方に配置することで、メインチャンバを全体として速やかにバランス良く展開させることが可能となる。
【0016】
前記メインチャンバにおいて、前記前方領域と前記後方領域との境界は、バッフルプレートによって区画することができる。そして、当該バッフルプレートには、前記前方領域と前記後方領域とに流体連通するバッフルベントを設けることが好ましい。このように、メインチャンバの前方領域と後方領域との間でガスが流れるように構成すれば、プリチャンバからメインチャンバの前方領域及び後方領域にガスが流れるのに加え、メインチャンバの後方領域から前方領域にもガスが流れることになる。従って、より速やかにメインチャンバ全体(特に、前方領域)を展開させることができる。
【0017】
前記プリチャンバ内部で前記インフレータを包囲し、前記膨張ガスの流れを規制する整流部材を更に備えることができる。整流部材により、例えば、前記整流部材の上端部及び下端部に前記インフレータから放出された前記膨張ガスを上下方向に導く開口を備える構造とすれば、プリチャンバの高さ方向全体に速やかにガスを供給することができる。
【0018】
前記プリチャンバを、車両側方から見て前記フレーム側壁部に重なって展開するように設けることができる。この場合、フレーム側壁部がプリチャンバ展開時の反力を受け止めた状態で、確実にシート中心側に向かって展開する。展開後においても、乗員からの圧力をフレーム側壁部で受け止めることができ、乗員をシート中心方向に対して確実に拘束することが可能となる。
一方、メインチャンバが車両側方から見てフレーム側壁部に重ならないように展開するように構成することができる。この場合、メインチャンバがサイドフレームやプリチャンバによって展開を阻害されることなく、速やか且つスムーズに展開可能となる。
【0019】
なお、本発明に係るサイドエアバッグは、シートのドア側(外側)に展開するタイプの他、シートの車両中心側に展開するタイプを含むものとする。シートの車両中心側に展開するタイプのサイドエアバッグは、例えば、ファーサイドエアバッグ、フロントセンターエアバッグ、リアセンターエアバッグ等と称される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明に係る車両用シートに使用される車両用シートの主に外観形状を示す斜視図であり、エアバッグユニットの図示は省略する。
【
図2】
図2は、
図1に示す車両用シートの骨組みとして機能する内部構造体(シートフレーム)を示す斜視図であり、エアバッグユニットの図示は省略する。
【
図3】
図3は、本発明に係る車両用シートの概略側面図であり、エアバッグユニットが収容された状態を車幅方向の外側から観察した様子を示す。
【
図4】
図4は、本発明に係る車両用シートの構造を示す断面図であり、
図3のA1-A1方向の断面の一部に対応する。
【
図5】
図5(A)は、本発明の第1実施例に係る車両用シートの概略側面図であり、エアバッグが展開した状態を車幅方向の外側(乗員の反対側)から観察した様子を示す。
図5(B)は、エアバッグの展開状態を示す正面図であり、進行方向前方から後方を見た様子である。
【
図6】
図6は、本発明の第1実施例に係るエアバッグ装置の構造を示す断面図であり、(A)が
図5(A)のA1-A1方向、(B)が
図5(A)のA2-A2方向、(C)が
図5(A)のA3-A3方向の断面に各々対応する。
【
図7】
図7は、本発明の第1実施例に係るサイドエアバッグ装置に使用されるエアバッグのプリチャンバを構成するパネル構造を示す説明図である。
【
図8】
図8(A),(B)は、本発明の第1実施例に係るサイドエアバッグ装置に使用されるエアバッグのメインチャンバを構成するパネル構造を示す説明図である。
【
図9】
図9(A)は、本発明の第2実施例に係る車両用シートの概略側面図であり、エアバッグが展開した状態を車幅方向の外側(乗員の反対側)から観察した様子を示す。
図9(B)は、エアバッグの展開状態を示す正面図であり、進行方向前方から後方を見た様子である。
【
図10】
図10は、本発明の第2実施例に係るエアバッグ装置の構造を示す断面図であり、(A)が
図9(A)のA1-A1方向、(B)が
図9(A)のA2-A2方向、(C)が
図9(A)のA3-A3方向の断面に各々対応する。
【
図11】
図11は、本発明の第2実施例に係るサイドエアバッグ装置に使用されるエアバッグのプリチャンバを構成するパネル構造を示す説明図である。
【
図12】
図12(A),(B)は、本発明の第2実施例に係るサイドエアバッグ装置に使用されるエアバッグのメインチャンバを構成するパネル構造を示す説明図である。
【
図13】
図13は、本発明(第1実施例、第2実施例)に係るエアバッグ装置の展開状態を示す説明図(断面図)であり、(A)が展開初期、(B)が展開後期の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態に係るサイドエアバッグ装置を搭載した車両用シートについて、添付図面に基づいて説明する。なお、乗員がシートバックに当該乗員の背中の大部分が接触するように正常な着座姿勢で着座した場合に、当該乗員の胴体が向く方向を「前」とし、その反対方向を「後」とする。また当該前後方向に対して直交する方向で、乗員の右手方向を「右」とし、左手方向を「左」とする。この左右方向において、シートのサイドフレームより乗員側の領域を「内」とし、サイドフレームから見て乗員とは反対の領域を「外」を示すものとする。
【0022】
図1は、本発明に係る車両用シートの主に外観形状を示す斜視図であり、エアバッグ装置(20)の図示は省略する。
図2は、
図1に示す車両用シートの骨組みとして機能する内部構造体(シートフレーム)を示す斜視図であり、ここでも、エアバッグ装置(20)の図示は省略する。
図3は、本発明に係る車両用シートの概略側面図であり、車両用シートのドアに近い側面(ニアサイド)にエアバッグ装置20が収容された状態を車幅方向の外側から観察した様子を示す。
【0023】
本発明は、車両シート本体部と、当該シートに収容されるサイドエアバッグ装置(20)とを備えた車両用シートである。本実施例に係る車両シート本体部は、部位として観たときには、
図1及び
図2に示すように、乗員が着座する部分のシートクッション2と;背もたれを形成するシートバック1と、シートバック1の上端に連結されるヘッドレスト3とによって構成されている。
【0024】
シートバック1の内部にはシートの骨格を形成するシートバックフレーム1fが設けられ、その表面及び周囲にはウレタン発泡材等からなるパッドが設けられ、当該パッドの表面は皮革、ファブリック等の表皮14によって覆われている。シートクッション2の底側には着座フレーム2fが配置され、その上面及び周囲にはウレタン発泡材等からなるパッドが設けられ、当該パッドの表面は皮革、ファブリック等の表皮14(
図4)によって覆われている。着座フレーム2fとシートバックフレーム1fとは、リクライニング機構4を介して連結されている。
【0025】
シートバックフレーム1fは、
図2に示すように、左右に離間して配置され上下方向に延在するサイドフレーム10と、このサイドフレーム10の上端部を連結する上部フレームと、下端部を連結する下部フレームとにより枠状に構成されている。ヘッドレストフレームの外側にクッション部材を設けることでヘッドレスト3が構成される。
【0026】
図4は、本発明に係る車両用シートの構造を示す断面図であり、
図3のA1-A1方向の断面の一部に対応する。サイドフレーム10は、樹脂又は金属によって成形され、
図4に示すようにL字断面形状又はコの字断面形状とすることができる。サイドフレーム10は、水平断面を上方から見たときに車両進行方向に沿って延びるフレーム側壁部10aを備えている。そして、このフレーム側壁部10aの内側(シート中心側)にエアバッグモジュール(サイドエアバッグ装置)20が固定される。
【0027】
図4に示すように、シートバック1は、車幅方向側部(端部)において車両進行方向(車両前方)に膨出したサイドサポート部12を備える。サイドサポート部12の内部には、ウレタンパッド16が配置されていない隙間にサイドエアバッグ装置20が収容される。サイドエアバッグ装置20は、膨張展開することで乗員を拘束するエアバッグ(34,36)と;エアバッグ(34,36)に対して膨張ガスを供給するインフレータ30とを備える。
【0028】
シートバック1の表皮14の継ぎ目18,22,24は内側に織り込まれて縫製によって連結されている。なお、前方の継ぎ目18は、エアバッグが展開した時に開裂するようになっている。
また、サイドサポート部12には、プリチャンバ36(
図5、
図6参照)の膨張によってサイドサポート部12が乗員側に折れ曲がる際の起点となる起点領域26が形成されている。起点領域26としては、切り込み、凹部又は薄肉領域の何れか又は組み合わせとすることができる。起点領域26は、サイドサポート部12内部のウレタン16部分にのみ形成されていても良い。また、起点領域26を省略することも可能である。
【0029】
エアバッグ(34,36)は、ファブリック製の柔軟なカバー20aによって覆われている。メインチャンバ34とプリチャンバ36との関係において、エアバッグ(34,36)は蛇腹状に折り畳むもしくはロールする(「折り畳み」にはロールすることも含む)他、適宜最適な圧縮方法を採用することができる。
図4において、符号25はドアトリムを示す。図示しないが、プリチャンバとメインチャンバとは、平らに広げた平面状態で重なるようにして一体的に折り畳まれる。このため、エアバッグが折り畳まれた収容状態においては、膨張展開時の位置関係を適切に保持することができる。他方、プリチャンバとメインチャンバとが個別的に折り畳まれる場合は、折り畳まれたプリチャンバ部分は、折り畳まれたメインチャンバ部分よりも、インフレータに近い位置に配置されるか、もしくは、折り畳まれたメインチャンバ部分とサイドフレームとの間に配置されてもよい。すなわち、折り畳まれたプリチャンバは、折り畳まれたメインチャンバに対して乗員側に配置されてもよい。
【0030】
図5(A)は、本発明の第1実施例に係る車両用シートの概略側面図であり、エアバッグ(34,36)が展開した状態を車幅方向の外側(乗員と反対側)から観察した様子を示す。
図5(B)は、エアバッグ(34,36)の展開状態を示す正面図であり、車両前方から見た様子を示す。
図6は、本発明の第1実施例に係るエアバッグ装置の構造を示す断面図であり、(A)が
図5(A)のA1-A1方向、(B)が
図5(A)のA2-A2方向、(C)が
図5(A)のA3-A3方向の断面に各々対応する。
【0031】
図5(A)に示すように、エアバッグ(34,36)は、サイドサポート部12の前方に向かって展開するメインチャンバ34と;メインチャンバ34の車幅方向内側で展開するプリチャンバ36とを備える。
【0032】
メインチャンバ34は、バッフルプレート134cによって、前方に位置する比較的容量の小さな前方チャンバ34Fと、後方に位置し、前方チャンバ34Fより容量の大きな後方チャンバ34Rとに区画されている。
図6(B)に示すように、前方チャンバ34Fと後方チャンバ34Rとは、バッフルプレート134cに形成された内部ベントV34c、V34dによって流体連通しており、後方チャンバ34Rから前方チャンバ34Fに膨張ガスが流れるようになっている。また、
図5(B)に示すように、前方チャンバ34Fの前端部には、外部にガスを排気するための排気ベントV34a,V34bが設けられている。
【0033】
図6(A),(B),(C)に示すように、エアバッグ(34,36)は、シートのサイドサポート部12の前方に向かって展開するメインチャンバ34と;インフレータ30を収容し、メインチャンバ34の車幅方向内側で当該メインチャンバ34に先行して展開を開始するプリチャンバ36とから構成される。また、
図5(A)及び
図6(A),(B)に示すように、メインチャンバ34とプリチャンバ36の仕切り部(境界部分)には、膨張ガスがプリチャンバ36からメインチャンバ34に流れ込む内部ベントV1,V2,V3が設けられている。
【0034】
本実施例においては、インフレータ30を包囲し、膨張ガスの流れを規制する、例えばチューブ状の整流部材200がプリチャンバ36の内部に設けられている。これによって、プリチャンバ36への膨張ガスの流れを制御可能となっている。そして、整流部材200の上端部及び下端部に、インフレータ30から放出されたガスを上下方向に導く開口を設け、プリチャンバ36の上部領域36U及び下部領域36Lに速やかにガスを供給することができる。
【0035】
図6(A),(B),(C)に示すように、プリチャンバ36は、基本的に、車両側方から見てフレーム側壁部10aに重なるように展開するようになっている。プリチャンバ36が、フレーム側壁部10aに重なるように展開するため、フレーム側壁部10aがプリチャンバ36展開時の反力を受け止める状態となり、当該プリチャンバ36が確実にシート中心側に向かって展開可能となる。展開後においても、乗員からの圧力をフレーム側壁部10aで受け止めることができ、乗員をシート中心方向に対して確実に拘束することが可能となる。
一方、メインチャンバ34は車両側方から見てフレーム側壁部に重ならないように展開する。このため、メインチャンバ34がサイドフレーム10やプリチャンバ36によって展開を阻害されることなく、速やか且つスムーズに展開可能となる。
【0036】
図5に戻って、プリチャンバ36は、上部及び下部が前方に突出した形状となっている。本実施例においては、プリチャンバ36は、乗員側から見た時に、中間領域が後方に凹んだコの字又はC字状とすることができる。エアバッグが展開した場合、プリチャンバ36の上部領域が乗員の頭部付近に位置し、傷害の発生し易い頭部を速やかに拘束することができる。また、下部領域が乗員の腰部付近に位置し、人間の身体における重心に近い腰部を押すことにより、事故発生時の初期段階における乗員拘束性能が向上する。
【0037】
プリチャンバ36の前端部は、メインチャンバ34の前端部の位置と概ね一致するように成形されている。この場合、メインチャンバ34及びプリチャンバ36を含むエアバッグが一体的な構造となり、全体の展開形状が安定するというメリットがある。
【0038】
図7は、プリチャンバ36を構成するパネル構造を示す説明図である。プリチャンバ36は、同一形状の2枚のパネル136a,136bを重ね合わせ、周囲を縫製することによって作製することができる。
【0039】
プリチャンバ36において、メインチャンバ34と連結される外側のパネル136bには、1つのフロントベントV1aと、2つのリアベントV2a,V3aが形成されている。フロントベントV1aは、後述するメインチャンバ34の前方チャンバ34Fに連通し、リアベントV2a,V3aは後方チャンバ34Rに連通する。
【0040】
図7において、S1及びS2は、メインチャンバ34との縫製箇所を示している。縫製S1は、フロントベントV1aを囲むように円形をなしている。また、縫製S2は、リアベントV2a,V3aを囲むように縦長となっている。縫製によってメインチャンバ34とプリチャンバ36とを連結する領域は、基本的には、フロント/リアベントV1a,V1b,V1cの周辺であればよく、必要以上に広い範囲としなくても良い。
【0041】
図8(A),(B)は、本発明の第1実施例に係るサイドエアバッグ装置に使用されるエアバッグのメインチャンバ34を構成するパネル構造を示す説明図である。メインチャンバ34は、同一形状の2枚のパネル134a,134bを重ね合わせ、周囲を縫製することによって作製することができる。そして、プリチャンバ36と連結される内側のパネル134aには、1つのフロントベントV1bと、2つのリアベントV2b,V3bが形成されている。これらのベントV1b,V2b,V3bは、それぞれ、プリチャンバ36の、ベントV1a,V2a,V3a(
図7参照)に対応し、重ね合わせられた開口部の周囲を縫製(S1,S2)することで内部ベントV1,V2,V3(
図5(A)参照)が形成される。
【0042】
既に
図5の説明で記載したが、2枚のパネル136a,136bの破線で示された部分には、縦方向に延びるバッフルプレート134cが連結される。これにより、
図5及び
図6に示すように、メインチャンバ34を前方チャンバ34Fと後方チャンバ34Rとに区画するようになっている。バッフルプレート134cには、2つのバッフルベントV34c、V34dが設けられ、これらのベントを介して後方チャンバ34Rから前方チャンバ34Fにガスが流れ込むようになっている。
【0043】
本実施例においては、フロントベントV1bがバッフルプレート134cの前方、すなわち、前方チャンバ34F側に位置するとともに、リアベントV2b,V3bがバッフルプレート134cの後方、すなわち、後方チャンバ34F側に位置する。前述したように、チューブ状の整流部材200(
図6、7参照)によってインフレータ30からのガスが、プリチャンバ36の中の上部領域36U及び下部領域36Lに展開初期の段階で速やかに供給される。この下部領域36Lのちょうどガスが最初に供給される箇所近傍にフロントベントV1が位置している。また、上部領域36Uのちょうどガスが最初に供給される箇所近傍にリアベントV3が位置している。このベント位置によって、プリチャンバ36内に速やかにガスが供給されプリチャンバ36の展開が進むと同時に、メインチャンバ34の拘束が早い方が好ましい領域である乗員の肩部近傍と腰部近傍に展開初期にガスが入ることになるため、当該領域の拘束が展開初期から始まるというメリットがある。
【0044】
なお、
図7及び
図8において、符号202は筒状のインフレータ30を挿入する開口であり、インフレータ30は上下方向に延びるように配置される。また、符号204は、インフレータ30を固定するスタッドボルト32が貫通する穴である。
【0045】
図9(A)は、本発明の第2実施例に係る車両用シートの概略側面図であり、エアバッグ(234,236)が展開した状態を車幅方向の外側(乗員の反対側)から観察した様子を示す。
図9(B)は、エアバッグ(234,236)の展開状態を示す正面図であり、進行方向前方から後方を見た様子である。
図10は、本発明の第2実施例に係るエアバッグ装置の構造を示す断面図であり、(A)が
図9(A)のA1-A1方向、(B)が
図9(A)のA2-A2方向、(C)が
図9(A)のA3-A3方向の断面に各々対応する。
【0046】
なお、以下に説明する本発明の第2実施例については、上述した第1実施例と共通又は相当する部材については、同一の符号を付し、重複した説明を極力省略するものとする。すなわち、第2実施例については第1実施例との相違点を中心に説明する。
【0047】
本実施例と上述した第1実施例との主な相違点は、プリチャンバ236の形状と、バッフルプレート320の形状を含めたメインチャンバ234の構成である。本実施例に採用されるプリチャンバ236は、上方の前後方向の幅が若干狭く、下端部の幅が最も広い、概ね台形のような形状となっている。バッフルプレート320の形状については、フロントベントV1とリアベントV2,V3を区画する点においては、第1の実施例と同様である。バッフルプレート320には、前方チャンバ234Fと後方チャンバ234Rとを流体連通するベントホールV234c,V234dが形成されている。
【0048】
図11は、本発明の第2実施例に係るサイドエアバッグ装置に使用されるエアバッグのプリチャンバ236を構成するパネル構造を示す説明図である。また、
図12(A),(B)は、本発明の第2実施例に係るサイドエアバッグ装置に使用されるエアバッグのメインチャンバ234を構成するパネル構造を示す説明図である。
【0049】
プリチャンバ236において、メインチャンバ234と連結される外側のパネル236bには、1つのフロントベントV1aと、2つのリアベントV2a,V3aが形成されている。フロントベントV1aは、後述するメインチャンバ234の前方チャンバ234Fに連通し、リアベントV2a,V3aは後方チャンバ234Rに連通する。
【0050】
図11において、S1及びS2は、メインチャンバ234との縫製箇所を示している。縫製S1は、フロントベントV1aを囲むように円形をなしている。また、縫製S2は、リアベントV2a,V3aを囲むように縦長となっている。縫製によってメインチャンバ234とプリチャンバ236とを連結する領域は、基本的には、フロント/リアベントV1a,V1b,V1cの周辺であればよく、必要以上に広い範囲としなくても良い。
【0051】
メインチャンバ234は、同一形状の2枚のパネル234a,234bを重ね合わせ、周囲を縫製することによって作製することができる。そして、プリチャンバ236と連結される内側のパネル234aには、1つのフロントベントV1bと、2つのリアベントV2b,V3bが形成されている。これらのベントV1b,V2b,V3bは、それぞれ、プリチャンバ236の、ベント開口V1a,V2a,V3a(
図7参照)に対応し、重ね合わせられた開口部の周囲を縫製(S1,S2)することで内部ベントV1,V2,V3(
図9(A)参照)が形成される。
【0052】
2枚のパネル236a,236bの破線で示された部分には、縦方向に延びるバッフルプレート320が連結される。これにより、
図9及び
図10に示すように、メインチャンバ234を前方チャンバ234Fと後方チャンバ234Rとに区画するようになっている。第1実施例と同様に、バッフルプレート320には、2つのバッフルベントV234c、V234dが設けられ、これらのベントを介して後方チャンバ234Rから前方チャンバ234Fにガスが流れ込むようになっている。
【0053】
本実施例においては、フロントベントV1bがバッフルプレート320の前方、すなわち、前方チャンバ234F側に位置するとともに、リアベントV2b,V3bがバッフルプレート320の後方、すなわち、後方チャンバ234F側に位置する。
【0054】
図13は、本発明(第1実施例、第2実施例)に係るエアバッグ装置の展開状態を示す説明図(断面図)であり、(A)が展開初期、(B)が展開後期の状態を示す。
図13(A)に示すように、上記のような構成の本発明(第1実施例及び第2実施例)においては、エアバッグ装置20の作動初期の段階においてサイドサポート部12の内部でプリチャンバ36(236)が展開し、シート表皮14が縫製部18から開裂しながらサイドサポート部12の先端側が領域26を起点として車内側に折れ曲がりまたは突出するように変形し、乗員を車両幅方向内側に押すように拘束する。
【0055】
プリチャンバ236の展開により、サイドサポート部12の前側部分が乗員側に向かって突出変形するため、乗員を背中方向から斜め前方に押し出すような力の発生を回避し又は最小限に抑制することができ、シートベルトを引き出す方向への乗員の移動を避けることが可能となる。すなわち、乗員への加害性を抑え、拘束性能を最大限に発揮することができる。
【0056】
つづいて、
図13(B)に示すように、エアバッグ(234,236)が更に膨張すると、メインチャンバ234が車両前方に向かってフル展開し、衝突時の乗員の保護をする。
【0057】
本発明を上記の例示的な実施形態と関連させて説明してきたが、当業者には本開示により多くの等価の変更および変形が自明であろう。したがって、本発明の上記の例示的な実施形態は、例示的であるが限定的なものではないと考えられる。本発明の精神と範囲を逸脱することなく、記載した実施形態に様々な変化が加えられ得る。例えば、発明を実施するための形態では、ニアサイドのサイドエアバッグについて重点的に述べたが、ファーサイドエアバッグ(車両用シートの車両ドアから遠い側の面)や、スモールモビリティなど超小型車両等における単座の車両(ドアの有る無しにかかわらず一列にシートが一つしかない部分を含むような車両)等にも用いることが可能である。