(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-13
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】耐塩基性が向上したポリイミドフィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20220118BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20220118BHJP
C08K 9/04 20060101ALI20220118BHJP
H05K 3/28 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
C08J5/18 CFG
C08L79/08
C08K9/04
H05K3/28 C
H05K3/28 F
(21)【出願番号】P 2020537700
(86)(22)【出願日】2018-11-22
(86)【国際出願番号】 KR2018014446
(87)【国際公開番号】W WO2019139249
(87)【国際公開日】2019-07-18
【審査請求日】2020-07-13
(31)【優先権主張番号】10-2018-0003287
(32)【優先日】2018-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514225065
【氏名又は名称】ピーアイ アドヴァンスド マテリアルズ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】PI Advanced Materials CO., Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リ,スン ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】アン,ジェ チュル
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-030666(JP,A)
【文献】特開2002-214927(JP,A)
【文献】特開2017-025213(JP,A)
【文献】特開2007-047810(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J5/00-5/02; 5/12-5/22,106
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン系カップリング剤で表面処理されたカーボンブラック粒子と、
ポリアミック酸がイミド化されたポリイミド樹脂と、を含み、
前記カーボンブラック粒子100重量部を基準として、前記チタン系カップリング剤が0.3重量部以上~10重量部以下であり、
前記カーボンブラック粒子の少なくとも一部が、前記チタン系カップリング剤を介してポリイミド樹脂に結合されており、
テスト方法(a)により測定した塩基処理前後の厚さ減少率が10%以下である、
カバーレイ用ポリイミドフィルム。
(ここで、テスト方法(a)は、ポリイミドフィルムの両面をコロナ処理した後、ポリイミドフィルム、ボンディングシート、および銅箔を順に積層してから、ホットプレスを用いて温度160℃で30分間、50kgfの圧力を加えて接合させてフレキシブル回路基板試料を作製し、4*10cmに裁断したフレキシブル回路基板試料を10%のNaOH溶液に50℃で100分間露出させ、NaOH溶液に露出させる前の厚さと比較し、厚さ変化の程度を百分率で示すことである。)
【請求項2】
前記チタン系カップリング剤で表面処理されたカーボンブラック粒子を含む第1組成物と、
前記ポリアミック酸を含む第2組成物と、を含む前駆体組成物のイミド化により製造される、請求項1に記載の
カバーレイ用ポリイミドフィルム。
【請求項3】
前記前駆体組成物がイミド化される時に、前記チタン系カップリング剤が前記ポリイミド樹脂に化学的に結合される、請求項2に記載の
カバーレイ用ポリイミドフィルム。
【請求項4】
前記チタン系カップリング剤が前記カーボンブラック粒子の表面に化学的に結合されている、請求項1に記載の
カバーレイ用ポリイミドフィルム。
【請求項5】
前記チタン系カップリング剤が前記ポリイミド樹脂の極性基のうち1種以上の極性基に水素結合されている、請求項1に記載の
カバーレイ用ポリイミドフィルム。
【請求項6】
前記チタン系カップリング剤が前記ポリイミド樹脂のイミド基に結合されている、請求項1に記載の
カバーレイ用ポリイミドフィルム。
【請求項7】
前記第1組成物に、第1有機溶媒および分散剤がさらに含まれている、請求項2に記載の
カバーレイ用ポリイミドフィルム。
【請求項8】
前記カーボンブラック粒子100重量部を基準として、前記分散剤が0.5重量部~2重量部で含まれている、請求項7に記載の
カバーレイ用ポリイミドフィルム。
【請求項9】
前記チタン系カップリング剤が、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタン酸塩(isopropyl tridodecylbenzene sulfonyl titanate)、イソプロピルジ(ジオクチル亜リン酸塩)チタン酸塩(isopropyl di(dioctylphosphite)titanate)、イソプロピルトリス(ジオクチルピロリン酸塩)チタン酸塩(isopropyl tris(dioctyl pyrophosphate)titanate)、ビス(ジオクチル亜リン酸塩)オキシアセテートチタン酸塩(bis(dioctylpyrophospha
te)oxyacetate titanate)からなる群から選択される1種以上である、請求項1に記載の
カバーレイ用ポリイミドフィルム。
【請求項10】
5マイクロメータ以上~80マイクロメータ以下の厚さを有する、請求項1に記載の
カバーレイ用ポリイミドフィルム。
【請求項11】
前記第2組成物は、ジアンヒドリド単量体およびジアミン単量体が第2有機溶媒に混合された状態で重合されたポリアミック酸ワニスである、請求項2に記載の
カバーレイ用ポリイミドフィルム。
【請求項12】
請求項1に記載の
カバーレイ用ポリイミドフィルムを製造する方法であって、
第1有機溶媒、カーボンブラック粒子、チタン系カップリング剤、および分散剤を混合して混合物を製造するステップと、
前記混合物をミリングし、前記チタン系カップリング剤が表面処理されたカーボンブラック粒子が前記第1有機溶媒中に分散された第1組成物を得るステップと、
第2有機溶媒にジアンヒドリド単量体およびジアミン単量体を混合して重合し、ポリアミック酸を含む第2組成物を得るステップと、
前記第1組成物と前記第2組成物を混合し、前記ポリアミック酸に前記表面処理されたカーボンブラック粒子が分散された前駆体組成物を製造するステップと、
前記前駆体組成物を支持体に製膜した後、所定の温度で熱処理してポリイミドフィルムを得るステップと、を含む、製造方法。
【請求項13】
前記混合物をミリングする時に、前記チタン系カップリング剤が前記カーボンブラック粒子の表面に化学的に結合する、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記前駆体組成物を熱処理する時に、前記ポリアミック酸に由来したポリイミド樹脂に、前記チタン系カップリング剤で表面処理されたカーボンブラック粒子が結合される、請求項12に記載の製造方法。
【請求項15】
前記チタン系カップリング剤が、前記ポリイミド樹脂の極性基のうち1種以上の極性基に水素結合される、請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
請求項1に記載のポリイミドフィルムを含む、カバーレイ(coverlay)。
【請求項17】
請求項16に記載のカバーレイを含む電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐塩基性が向上したポリイミドフィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、ポリイミド(PI)樹脂とは、芳香族ジアンヒドリドと芳香族ジアミンまたは芳香族ジイソシアネートを溶液重合してポリアミック酸を製造した後、高温で閉環、脱水させてイミド化することで製造される高耐熱樹脂のことである。
ポリイミド樹脂は、ピロメリティックジアンヒドリド(PMDA)またはビフェニルテトラカルボキシリックジアンヒドリド(BPDA)などの芳香族ジアンヒドリドと、オキシジアニリン(ODA)、p-フェニレンジアミン(p-PDA)、m-フェニレンジアミン(m-PDA)、メチレンジアニリン(MDA)、ビスアミノフェニルヘキサフルオロプロパン(HFDA)などの芳香族ジアミン成分を重合することで製造することが一般的な方法である。
ポリイミド樹脂は、不溶、不融の超高耐熱性樹脂であり、耐熱酸化性、耐熱特性、耐放射線性、低温特性、耐薬品性などに優れるという特性を有しているため、自動車材料、航空素材、宇宙船素材などの耐熱先端素材や、絶縁コーティング剤、絶縁膜、半導体、TFT-LCDの電極保護膜などの電子材料といった広範囲な分野に用いられている。
【0003】
電子材料の場合、携帯用電子機器および通信機器に含まれる回路に付着され、絶縁特性を付与するとともに、水分、光源、衝撃などから回路を保護する保護フィルムが例として挙げられる。このように回路を保護するフィルムを、狭い意味でカバーレイ(coverlay)と称することもある。
一方、回路が小型化、薄膜化する傾向にあり、屈曲も可能な形態が開発されている。これに伴い、カバーレイも、より薄い薄膜でありながらも、軟性を有する必要があり、近年、回路に実装された部品の遮蔽性も求められている。そのため、薄膜の形態であり、且つ軟性を有するポリイミドフィルムにブラック色調および遮蔽性を付与することができる、カーボンブラック粒子が含有された形態のブラックフィルムが注目されている。
しかしながら、回路の製造過程に、ドリル(drill)工程、めっき工程、デスミア(desmear)工程、および洗浄工程などが含まれ得るが、かかる工程中に、ポリイミドフィルムが塩基性溶液に露出することがある。この際、ポリイミドフィルムが塩基性溶液により少しでも分解または変性される場合、それに含有されていたカーボンブラック粒子が多く脱落する恐れがある。
このような理由により、カバーレイからブラック色調が除去されるとともに、遮蔽性が失われる恐れがあり、カーボンブラック粒子の脱落による表面欠陥および厚さの減少が伴われ得るため、カバーレイとしての機能が著しく低下する恐れがある。
したがって、かかる問題を根本的に解決することができる技術の必要性が高い状況である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明の目的は、ポリイミドフィルムおよびその製造方法を提供することにある。
本発明の一側面によると、ポリイミドフィルムは、チタン系カップリング剤によりカーボンブラック粒子と結合している。したがって、塩基性溶液やその他の分解反応によってポリイミドフィルムに不可避な変性または分解が誘発されても、チタン系カップリング剤の結合力に基づいて、カーボンブラック粒子の脱落を著しく抑制することができる。
他の一側面によると、チタン系カップリング剤と分散剤の含量を好ましい範囲に制御することで、チタン系カップリング剤で表面処理されたカーボンブラック粒子の均一な分散を誘導することができる。この場合、カーボンブラック粒子の不均一な分散に由来したピンホールや突起のような表面欠陥の発生を最小化することができる利点がある。
そこで、本発明はその具体的な実施例を提供することに実質的な目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記のような目的を達成するために、本発明は、
チタン系カップリング剤で表面処理されたカーボンブラック粒子と、
ポリアミック酸がイミド化されたポリイミド樹脂と、を含み、
カーボンブラック粒子がチタン系カップリング剤を介してポリイミド樹脂に結合されている、ポリイミドフィルム、およびその製造方法を提供する。
本発明に係るポリイミドフィルムおよび製造方法は、チタン系カップリング剤を用いることで、ポリイミド樹脂とカーボンブラック粒子との強固な結合を実現することができる。したがって、塩基性溶液やその他の分解反応によってポリイミドフィルムに不可避な変性や変形が誘発されても、カーボンブラック粒子の脱落を著しく抑制することができる。
本発明は、また、上述のポリイミドフィルムを含むカバーレイ、および前記カバーレイを含む電子装置を提供する。
【0006】
以下では、本発明に係る「ポリイミドフィルム」および「ポリイミドフィルムの製造方法」の順に、発明の実施形態をより詳細に説明する。
【0007】
それに先立ち、本明細書および請求範囲で用いられた用語や単語は、通常的且つ辞書的な意味に限定して解釈してはならず、発明者は、自分の発明を最善の方法で説明するために、用語の概念を適切に定義することができるという原則に則って、本発明の技術的思想に合致する意味と概念で解釈すべきである。
したがって、本明細書に記載の実施例の構成は、本発明の最も好ましい1つの実施例に過ぎず、本発明の技術的思想を全て代弁するわけではない。そのため、本出願時点においてそれらに代替可能な多様な均等物と変形例が存在し得ることを理解すべきである。
【0008】
本明細書において、単数の表現は、文脈上明白に異なって意味しない限り、複数の表現を含む。本明細書において、「含む」、「備える」、または「有する」などの用語は、実施された特徴、数字、ステップ、構成要素、またはこれらの組み合わせが存在することを規定しようとするものであり、1つまたはそれ以上の他の特徴や数字、ステップ、構成要素、またはこれらの組み合わせなどの存在または付加可能性をあらかじめ排除するものではないと理解すべきである。
【0009】
本明細書において、「ジアンヒドリド(二無水物;dianhydride)」は、その前駆体または誘導体を含むものと意図されるが、これらは、技術的にはジアンヒドリドではないが、それにもかかわらず、ジアミンと反応してポリアミック酸を形成するものであり、このポリアミック酸はさらにポリイミドに変換され得る。
【0010】
本明細書において、「ジアミン(diamine)」は、その前駆体または誘導体を含むものと意図されるが、これらは、技術的にはジアミンではないが、それにもかかわらず、二無水物と反応してポリアミック酸を形成するものであり、このポリアミック酸はさらにポリイミドに変換され得る。
【0011】
本明細書において、量、濃度、または他の値もしくはパラメータが、範囲、好ましい範囲、または好ましい上限値および好ましい下限値の列挙として与えられる場合、範囲が別に開示されているかにかかわらず、任意の一対の任意の上側範囲の限界値または好ましい値、および任意の下側範囲の限界値または好ましい値からなる全ての範囲を具体的に開示するものと理解すべきである。数値の範囲が本明細書で言及される場合、特に記述されない限り、その範囲はその終点およびその範囲内の全ての整数と分数を含むものと意図される。本発明の範疇は、範囲を定義する際に言及される特定値に限定されないものと意図される。
【0012】
ポリイミドフィルム
本発明に係るポリイミドフィルムは、
チタン系カップリング剤で表面処理されたカーボンブラック粒子と、
ポリアミック酸がイミド化されたポリイミド樹脂と、を含み、
前記カーボンブラック粒子100重量部を基準として、前記チタン系カップリング剤が0.3重量部以上~10重量部以下であり、
前記カーボンブラック粒子の少なくとも一部が、前記チタン系カップリング剤を介してポリイミド樹脂に結合されており、
テスト方法(a)により測定した塩基処理前後の厚さ減少率が10%以下、詳細には7%以下、より詳細には6%以下であってもよい。
【0013】
通常、ポリイミドは、塩基環境に露出した際に分解または変性されるなど、塩基性成分に弱い。「耐塩基性」とは、ポリイミドフィルムが塩基環境に露出した際にも分解または変性されにくい性質を意味し、分解または変性時にポリイミドの厚さが減少されるはずであるため、厚さの減少を基準として「耐塩基性」を判断することができる。
これに関連して、耐塩基性を評価するための指標として、NaOH溶液にポリイミドフィルムを露出させた後、露出前後のフィルムの厚さ変化を測定する方法が挙げられる。本発明では、上記の方法をテスト方法(a)と定義する。テスト方法(a)は、次のとおりである。
ポリイミドフィルムの両面をコロナ処理した後、ポリイミドフィルム、ボンディングシート(接着剤)、および銅箔を順に積層してから、ホットプレス(Hot Press)を利用して温度160℃で30分間、50kgfの圧力を加えて接合させ、フレキシブル回路基板試料を作製する。
4*10cmに裁断したフレキシブル回路基板試料を10%のNaOH溶液に50℃で100分間露出させ、NaOH溶液に露出させる前の厚さと比較し、厚さ変化の程度を百分率で示す。
【0014】
通常のポリイミドフィルムの場合、上述のテスト方法(a)を経ると、厚さが約20%程度減少し得る。これに対し、チタン系カップリング剤で表面処理されたカーボンブラック粒子を含む本発明のポリイミドフィルムは、10%以下、詳細には7%以下、より詳細には6%以下の厚さ減少率を示し、著しく改善された耐塩基性を有する。
これについては、「発明を実施するための形態」にてより具体的に立証するが、チタン系カップリング剤がカーボンブラック粒子との化学的結合により被膜を形成することで、チタン系カップリング剤で処理していないカーボンブラック粒子に比べて、チタン系カップリング剤で表面処理されたカーボンブラック粒子が、ポリイミド樹脂の分子鎖に対するより強い結合力を有することができ、これにより、カーボンブラック粒子の脱落程度が減少し、それによる結果として、厚さ減少率が著しく減少したと推測される。
【0015】
一具体例において、前記ポリイミドフィルムは、チタン系カップリング剤で表面処理されたカーボンブラック粒子を含む第1組成物と、ポリアミック酸を含む第2組成物と、を含む前駆体組成物のイミド化により製造されてもよい。
本発明において、表面処理されたカーボンブラック粒子とは、前記チタン系カップリング剤が前記カーボンブラック粒子の表面に化学的に結合されていることを意味し得る。具体的に、前記チタン系カップリング剤成分中のチタネートがカーボンブラック粒子と化学的に結合することができる。
前記チタン系カップリング剤は、また、前記ポリイミド樹脂の極性基のうち1種以上の極性基に水素結合を形成することができ、詳細には、前記チタン系カップリング剤に含まれている少なくとも1つの水素が、ポリイミド樹脂の極性基のうち1種以上と水素結合を形成することができ、これにより、カーボンブラック粒子とポリイミド樹脂との結合力を向上させることができる。
【0016】
一具体例において、前記第1組成物は、第1有機溶媒および分散剤をさらに含んでもよい。
この際、前記カーボンブラック粒子100重量部を基準として、前記チタン系カップリング剤が0.3重量部以上~10重量部以下で含まれ、前記分散剤が0.5重量部以上~2重量部以下で含まれてもよい。
前記チタン系カップリング剤の添加量が前記範囲を下回る場合、カーボンブラック粒子1つ当たりに表面処理される程度が不完全であるか、一部のカーボンブラック粒子は表面処理されないことがある。したがって、前記ポリイミド樹脂と前記カーボンブラック粒子との結合が不十分となり得るため好ましくない。
逆に、前記範囲を上回る場合には、カーボンブラック粒子が十分に分散される前にチタン系カップリング剤と化学的に結合しつつ被膜を形成するため、カーボンブラック粒子の分散性が低下する。これは、ポリイミドフィルムのピンホールや突起などの表面欠陥を誘発し得る。
また、十分に分散されなかったカーボンブラック粒子は、電子トンネリング、電子ホッピング、またはその他の電子流れメカニズムを発現し、ポリイミドフィルムの絶縁性を低下させる恐れがあるため、上述のチタン系カップリング剤の添加量は特に重要である。
これは、前記カーボンブラック粒子の分散性を向上させることができる分散剤を用いてある程度は解消できるが、前記分散剤の添加量が過多である場合には、ポリイミドフィルムの耐コロナ性、耐熱性などの機械的物性を低下させ得るため、分散剤の添加は慎重に選択しなければならない。
そのため、本発明では、上述のとおり分散剤の好ましい含量範囲を特定しており、かかる範囲では、カーボンブラック粒子の凝集やポリイミドフィルムの物性低下などの好ましくない様態を著しく減少させることができる。
【0017】
本発明において、前記チタン系カップリング剤は、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタン酸塩(isopropyl tridodecylbenzene sulfonyl titanate)、イソプロピルジ(ジオクチル亜リン酸塩)チタン酸塩(isopropyl di(dioctylphosphite)titanate)、イソプロピルトリス(ジオクチルピロリン酸塩)チタン酸塩(isopropyl tris(dioctyl pyrophosphate)titanate)、ビス(ジオクチル亜リン酸塩)オキシアセテートチタン酸塩(bis(dioctylpyrophosphate)oxyacetate titanate)からなる群から選択される1種以上であってもよく、詳細には、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタン酸塩であってもよい。
【0018】
前記分散剤としては、カーボンブラック粒子の分散が可能であり、且つ後述の溶媒に溶解可能なものであれば特に限定されないが、界面活性剤、合成高分子、または天然高分子が使用できる。また、商業的に入手可能なBYK社のDISPERBYK(登録商標)-2155を用いてもよい。
【0019】
前記界面活性剤としては、例えば、デシルスルホン酸ナトリウム、ジオキシコール酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0020】
前記合成高分子としては、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリビニルアルコール、部分けん化ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、アセタール基変性ポリビニルアルコール、ブチラール基変性ポリビニルアルコール、シラノール基変性ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-ビニルアルコール-酢酸ビニル共重合樹脂、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、変性エポキシ系樹脂、フェノキシ樹脂、変性フェノキシ系樹脂、フェノキシエーテル樹脂、フェノキシエステル樹脂、フッ素系樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0021】
また、天然高分子としては、例えば、多糖類である澱粉、プルラン、デキストラン、デキストリン、グアーガム、キサンタンガム、アミロース、アミロペクチン、アルギン酸、アラビアガム、カラギーナン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、カードラン、キチン、キトサン、セルロース、およびその塩または誘導体が挙げられる。誘導体とは、エステルやエーテルなどの従来の公知の化合物を意味する。
これらの分散剤は、1種または2種以上を混合して用いてもよいことはいうまでもない。
【0022】
前記第1有機溶媒としては、カーボンブラック粒子の分散が可能であり、且つ第2組成物に混合されるとポリアミック酸を溶解させる溶媒であれば特に限定されない。その一例において、前記第1有機溶媒は有機極性溶媒であってもよく、より詳細には、非プロトン性極性溶媒(aprotic polar solvent)であってもよい。例えば、N,N’-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-ピロリドン(NMP)、ガンマブチロラクトン(GBL)、ジグリム(Diglyme)からなる群から選択される1つ以上であってもよいが、これらに制限されるものではなく、必要に応じて、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
その他にも、n-ヘキサン、BTX、鉱物性油、n-プロパノール、メタノールなどが用いられてもよい。
【0023】
一具体例において、前記第2組成物は、ジアンヒドリド単量体およびジアミン単量体が第2有機溶媒に混合された状態で重合されたポリアミック酸ワニスであってもよい。
【0024】
前記ポリアミック酸の製造に使用可能なジアンヒドリド単量体は、ピロメリティックジアンヒドリド、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボキシリックジアンヒドリド、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボキシリックジアンヒドリド、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボキシリックジアンヒドリド、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボキシリックジアンヒドリド、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンヒドリド、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパンジアンヒドリド、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボキシリックジアンヒドリド、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパンジアンヒドリド、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタンジアンヒドリド、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタンジアンヒドリド、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタンジアンヒドリド、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタンジアンヒドリド、オキシジフタリックアンヒドリド、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホンジアンヒドリド、p-フェニレンビス(トリメリティックモノエステルアシッドアンヒドリド)、エチレンビス(トリメリティックモノエステルアシッドアンヒドリド)、ビスフェノールAビス(トリメリティックモノエステルアシッドアンヒドリド)、およびこれらの類似物を含み、これらを単独で、または任意の割合で混合した混合物として用いてもよい。
【0025】
前記ポリアミック酸ワニスの製造に使用可能なジアミンは、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’-ジクロロベンジジン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(4,4’-オキシジアニリン)、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル(3,3’-オキシジアニリン)、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル(3,4’-オキシジアニリン)、1,5-ジアミノナフタレン、4,4’-ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’-ジアミノジフェニルN-メチルアミン、4,4’-ジアミノジフェニルN-フェニルアミン、1,4-ジアミノベンゼン(p-フェニレンジアミン)、1,3-ジアミノベンゼン、1,2-ジアミノベンゼン、およびこれらの類似物を含み、これらを単独で、または任意のの割合で混合した混合物として用いてもよい。
【0026】
前記第2有機溶媒としては、特に限定されず、ポリアミック酸を溶解させる溶媒であれば如何なる溶媒も使用可能であり、アミド系溶媒であることが好ましい。具体的には、前記溶媒は、有機極性溶媒であってもよく、詳細には、非プロトン性極性溶媒(aprotic polar solvent)であってもよい。例えば、N,N’-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’-ジメチルアセトアミド、N-メチル-ピロリドン(NMP)、ガンマブチロラクトン(GBL)、ジグリム(Diglyme)からなる群から選択される1つ以上であってもよいが、これらに制限されるものではなく、必要に応じて、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
一例において、前記溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミドおよびN,N-ジメチルアセトアミドが特に好ましく使用できる。
【0027】
前記第2組成物は、場合によって消光剤をさらに含んでもよい。
消光剤には、i.セラミック、例えば、ホウ素化物、窒化物、炭化物、および他の酸化物(例えば、アルミナ、チタニアなど);およびii.有機粒子(但し、有機粒子は、化学的に変換されたポリイミドの加工温度に耐えられるという条件を満たすべきである)が含まれてもよい。
【0028】
ポリイミドフィルムの製造方法
本発明に係るポリイミドフィルムの製造方法は、
第1有機溶媒、カーボンブラック粒子、チタン系カップリング剤、および分散剤を混合して混合物を製造するステップと、
前記混合物をミリングし、前記チタン系カップリング剤が表面処理されたカーボンブラック粒子が前記第1有機溶媒中に分散された第1組成物を得るステップと、
第2有機溶媒にジアンヒドリド単量体およびジアミン単量体を混合して重合し、ポリアミック酸を含む第2組成物を得るステップと、
前記第1組成物と第2組成物を混合し、前記ポリアミック酸に前記表面処理されたカーボンブラック粒子が分散された前駆体組成物を製造するステップと、
前記前駆体組成物を支持体に製膜した後、所定の温度で熱処理してポリイミドフィルムを得るステップと、を含んでもよい。
【0029】
前記混合物を製造するステップにおいて、前記カーボンブラック粒子100重量部を基準として、前記チタン系カップリング剤が0.3重量部以上~10重量部以下で含まれ、前記カーボンブラック粒子100重量部を基準として、前記分散剤が0.5重量部以上~2重量部以下で含まれてもよい。
前記チタン系カップリング剤の添加量が前記範囲を下回る場合、カーボンブラック粒子1つ当たりに表面処理される程度が不完全であるか、一部のカーボンブラック粒子は表面処理されないことがある。したがって、前記ポリイミド樹脂と前記カーボンブラック粒子との結合が不十分となり得るため好ましくない。
逆に、前記範囲を上回る場合には、カーボンブラック粒子1つ当たりに相対的に多量のチタン系カップリング剤分子で表面処理されながら、カーボンブラック粒子が前記前駆体組成物中に十分に分散される前に結合がなされる可能性が高くなる。これにより、カーボンブラック粒子が偏ってポリイミド樹脂に結合され得て、これは、ポリイミドフィルムのピンホールや突起などの表面欠陥を誘発する恐れがある。
前記分散剤の添加量が前記範囲を下回る場合、カーボンブラック粒子が第1有機溶媒中で凝集され得るため好ましくなく、前記範囲を上回る場合、ポリイミドフィルムの物性が低下し得るため好ましくない。
【0030】
前記混合物のミリングとしては、ビーズミリング(bead milling)法を用いてもよい。ビーズミリングは、混合物の流速が低い場合にも効果的に撹拌可能であるため、カーボンブラック粒子の分散において有利である。
前記カーボンブラック粒子と前記チタン系カップリング剤の効果的な化学的結合のためには、ビーズミリング時の温度を0~40℃の範囲に設定することが好ましい。
このようなミリング過程を経ると、カーボンブラック粒子は、平均粒径d50が0.1μm~5μmであり、表面にチタン系カップリング剤が化学的に結合された状態で第1有機溶媒に均一に分散されることができる。本発明では、このような状態のものを第1組成物と定義する。
【0031】
前記第1組成物に含まれる、分散剤、カップリング剤、および第1有機溶媒の種類は上述のとおりである。
前記第2組成物を得るステップでは、次の方法が用いられることができる。
(1)ジアミン単量体の全量を溶媒中に入れ、その後、ジアンヒドリド単量体をジアミン単量体と実質的に同モルになるように添加して重合する方法;
(2)ジアンヒドリド単量体の全量を溶媒中に入れ、その後、ジアミン単量体をジアンヒドリド単量体と実質的に同モルになるように添加して重合する方法;
(3)ジアミン単量体の一部成分を溶媒中に入れ、ジアンヒドリド単量体の一部成分を反応成分に対して約95~105モル%の割合で混合した後、残りのジアミン単量体成分を添加し、引き続き、残りのジアンヒドリド単量体成分を、ジアミン単量体およびジアンヒドリド単量体の全モルが実質的に同モルになるように添加して重合する方法;
(4)ジアンヒドリド単量体を溶媒中に入れ、ジアミン化合物の一部成分を反応成分に対して95~105モル%の割合で混合した後、他のジアンヒドリド単量体成分を添加し、引き続き、残りのジアミン単量体成分を、ジアミン単量体およびジアンヒドリド単量体の全モルが実質的に同モルになるように添加して重合する方法;
(5)溶媒中で、一部のジアミン単量体成分と一部のジアンヒドリド単量体成分を何れか1つが過量になるように反応させて第1前駆体組成物を形成し、他の溶媒中で、一部のジアミン単量体成分と一部のジアンヒドリド単量体成分を何れか1つが過量になるように反応させて第1前駆体組成物(B)を形成した後、第1、第2前駆体組成物を混合し、重合を完結する方法であって、この際、第1前駆体組成物の形成時にジアミン単量体成分が過量である場合には、第2前駆体組成物ではジアンヒドリド単量体成分が過量になるようにし、第1前駆体組成物でジアンヒドリド単量体成分が過量である場合には、第2前駆体組成物ではジアミン単量体成分が過量になるようにすることで、第1、第2前駆体組成物を混合してこれらの反応に用いられる全ジアミン単量体成分とジアンヒドリド単量体成分が実質的に同モルになるように重合する方法であってもよい。
【0032】
ここで、前記ジアンヒドリド、ジアミン、および第2有機溶媒の種類は、上述のポリイミドフィルムのものと同様であるため省略する。
【0033】
上述のように製造された前記第2組成物は、前記第1組成物と混合されてポリイミドフィルムの前駆体組成物を形成することができる。
【0034】
本発明に係る製造方法の特徴の1つは、前記前駆体組成物を熱処理する際に、前記ポリアミック酸に由来したポリイミド樹脂に、前記チタン系カップリング剤で表面処理されたカーボンブラック粒子が結合されるということである。
詳細には、前記チタン系カップリング剤に含まれている少なくとも1つの水素が、ポリイミド樹脂の極性基のうち1種以上と水素結合を形成することができる。
【0035】
一方、前駆体組成物を熱処理、すなわち、イミド化してポリイミドフィルムを製造する方法としては、従来に公知の方法、例えば、熱イミド化法および化学イミド化法が挙げられる。
前記前駆体組成物の熱処理方法のうち、熱イミド化法は、脱水閉環剤などを作用させることなく、加熱のみによりイミド化反応を進行させる方法である。
化学イミド化法は、前駆体組成物に化学転換剤および/またはイミド化触媒を作用させてポリアミック酸のイミド化を促進する方法である。
ここで、「化学転換剤」とは、ポリアミック酸に対する脱水閉環剤を意味し、例えば、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物、N,N’-ジアルキルカルボジイミド、ハロゲン化低級脂肪族、ハロゲン化低級脂肪酸無水物、アリールホスホン酸ジハロゲン化物、およびチオニルハロゲン化物、またはこれらの2種以上の混合物が挙げられる。中でも、入手の容易性およびコストの点から、酢酸無水物、プロピオン酸無水物、および乳酸無水物などの脂肪族酸無水物、またはこれらの2種以上の混合物が好ましく使用できる。
また、「イミド化触媒」とは、ポリアミック酸に対する脱水閉環作用を促進する効果を有する成分を意味し、例えば、脂肪族3級アミン、芳香族3級アミン、および複素環式3級アミンなどが用いられる。中でも、触媒としての反応性の点から、複素環式3級アミンから選択されるものが特に好ましく用いられる。具体的には、キノリン、イソキノリン、β-ピコリン、ピリジンなどが好ましく用いられる。
熱イミド化法および化学イミド化法の何れの方法を用いてフィルムを製造してもよいが、化学イミド化法が、本発明で好ましく用いられる様々な特性を有するポリイミドフィルムを得やすい傾向がある。
前記イミド化工程で化学イミド化法を用いる場合、前記イミド化工程は、前記ポリアミック酸を含む製膜用組成物を支持体上に塗布し、支持体上で加熱してゲルフィルムを形成し、支持体からゲルフィルムを剥離する工程、および前記ゲルフィルムをさらに加熱し、残りのアミド酸(amic acid)をイミド化して乾燥させる工程(以下、「焼成過程」ともいう)を含むことが好ましい。
【0036】
以下で、上記の各工程について詳細に説明する。
ゲルフィルムを製造するためには、先ず、化学転換剤および/またはイミド化触媒を低温で前駆体組成物中に混合して製膜用組成物を得る。
前記化学転換剤およびイミド化触媒としては、特に限定されるものではないが、上記で例示した化合物を選択して使用できる。また、前記ゲルフィルムの製造工程では、化学転換剤およびイミド化触媒を含む硬化剤を用いて、前駆体組成物中に混合して製膜用組成物を得てもよい。
【0037】
一方、次に、前記製膜用組成物を、ガラス板、アルミニウム箔、エンドレス(endless)ステンレスベルト、またはステンレスドラムなどの支持体上にフィルム状にキャストする。その後、支持体上で、製膜用組成物を60℃~200℃、好ましくは80℃~180℃の温度領域で加熱する。このようにすることで、化学転換剤およびイミド化触媒が活性化され、部分的に硬化および/または乾燥が起こることにより、ゲルフィルムが形成される。その後、支持体から剥離してゲルフィルムを得る。
前記ゲルフィルムは、ポリアミック酸からポリイミドへの硬化の中間段階にあり、自己支持性を有する。前記ゲルフィルムの揮発分の含量は5重量%~500重量%の範囲内であることが好ましく、5重量%~200重量%の範囲内であることがより好ましく、5重量%~150重量%の範囲内であることが特に好ましい。揮発分の含量がこの範囲内であるゲルフィルムを用いることで、焼成工程で発生するフィルム破断、乾燥ムラによるフィルムの色調ムラ、特性変動などの欠点を避けることができる。
【0038】
ゲル化されたフィルムは、支持体から分離した後、熱処理して、乾燥およびイミド化を完了させることでポリイミドフィルムを得ることができる。
この際、熱処理温度は100℃~500℃であり、熱処理時間は1分~30分であってもよい。ゲル化されたフィルムは、熱処理時に、固定可能な支持台、例えば、ピンタイプのフレームまたはクリップタイプなどの支持台に固定して熱処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】実施例5に係るポリイミドフィルムを撮影した写真である。
【
図2】実施例5に係るポリイミドフィルムをフレキシブル回路基板の形態に製作し、NaOH溶液に露出させた後にポリイミドフィルムの表面を撮影した写真である。
【
図3】比較例3に係るポリイミドフィルムを撮影した写真である。
【
図4】比較例3に係るポリイミドフィルムをフレキシブル回路基板の形態に製作し、NaOH溶液に露出させた後にポリイミドフィルムの表面を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、発明の具体的な実施例を挙げて、発明の作用および効果をさらに詳述する。但し、このような実施例は、発明の例示として提示されたものに過ぎず、これらにより発明の権利範囲が決定されるわけではない。
【0041】
<実施例1>
製造例1-1:第2組成物の製造
1Lの反応器に、窒素雰囲気下で、第2有機溶媒としてジメチルホルムアミドを652.00g投入した。
温度を25℃に設定した後、ジアミン単量体としてODA70.84gを投入し、30分程度撹拌して、単量体が溶解されたことを確認した後、PMDA77.16gを分割投入し、最終的に粘度が200,000cPから300,000cPになるように最終投入量を調整して投入した。
投入が終わると、温度を維持しながら1時間撹拌し、最終粘度250,000cPに重合されたポリアミック酸を含む第1組成物を製造した。
【0042】
製造例1-2:第1組成物の製造
チタン系カップリング剤として味の素社のPLENACT 9SA 0.21gと、カーボンブラック71.45gを、213.42gのDMFと0.71gの分散剤DISPERBYK-2155と混合した後、ビーズミリングマシンに投入し、カップリング剤で表面処理されたカーボンブラック粒子が溶媒中に分散されている第2組成物を製造した。この際、前記カップリング剤で表面処理されたカーボンブラック粒子の平均粒径は2.5μmであった。
便宜のために、チタン系カップリング剤と分散剤の添加量を、カーボンブラック100重量部に対する重量部でまとめて下記表1に示した。
【0043】
製造例1-3:ポリイミドフィルムの製造
前記製造例1-1で製造された第1組成物1.22gに、前記製造例1-2で製造された第2組成物25.73gを混合し、触媒としてイソキノリン(IQ)1.31g、無水酢酸(AA)6.20g、およびDMF4.44gを投入した後、均一に混合し、SUSプレート(1000SA、Sandvik)にドクターブレードを用いて70μmでキャストし、100℃~200℃の温度範囲で乾燥させた。
次に、フィルムをSUSプレートから剥離し、ピンフレームに固定して高温テンターに移送した。
フィルムを高温テンターで200℃から600℃まで加熱した後、25℃で冷却させてから、ピンフレームから分離することで、約13μmの厚さのポリイミドフィルムを製造した。
【0044】
<実施例2>
チタン系カップリング剤の添加量を下記表1のように変更し、製造例1-2に従って第2組成物を製造したことを除き、実施例1と同様の方法により約13μmの厚さのポリイミドフィルムを製造した。
<実施例3>
チタン系カップリング剤の添加量を下記表1のように変更し、製造例1-2に従って第2組成物を製造したことを除き、実施例1と同様の方法により約13μmの厚さのポリイミドフィルムを製造した。
<実施例4>
チタン系カップリング剤の添加量を下記表1のように変更し、製造例1-2に従って第2組成物を製造したことを除き、実施例1と同様の方法により約13μmの厚さのポリイミドフィルムを製造した。
<実施例5>
チタン系カップリング剤の添加量を下記表1のように変更し、製造例1-2に従って第2組成物を製造したことを除き、実施例1と同様の方法により約13μmの厚さのポリイミドフィルムを製造した。
【0045】
<比較例1>
チタン系カップリング剤の添加量を下記表1のように変更し、製造例1-2に従って第2組成物を製造したことを除き、実施例1と同様の方法により約13μmの厚さのポリイミドフィルムを製造した。
<比較例2>
チタン系カップリング剤の添加量を下記表1のように変更し、製造例1-2に従って第2組成物を製造したことを除き、実施例1と同様の方法により約13μmの厚さのポリイミドフィルムを製造した。
<比較例3>
チタン系カップリング剤の添加量を下記表1のように変更し、製造例1-2に従って第2組成物を製造したことを除き、実施例1と同様の方法により約13μmの厚さのポリイミドフィルムを製造した。
【0046】
【0047】
<実験例1:耐塩基性テスト>
実施例1から実施例5、比較例1から比較例3でそれぞれ製造したポリイミドフィルムの両面をコロナ処理した後、ポリイミドフィルム、ボンディングシート(接着剤)、および銅箔を順に積層してから、ホットプレス(Hot Press)を用いて温度160℃で30分間、50kgfの圧力を加えて接合させることで、フレキシブル回路基板テストシートを製作した。
製作したテストシートをそれぞれ4*10cmに裁断し、第1の厚さを測定した。その後、裁断したテストシートをそれぞれ50℃下の10%のNaOH溶液に100分間浸漬した後、第2の厚さを測定し、ポリイミドフィルムの状態を目視で確認した。
NaOH溶液に浸漬する前の第1の厚さに対する、浸漬した後の第2の厚さの変化を測定し、それを百分率として厚さ減少の結果を下記表2に示した。
【0048】
【0049】
前記表2をまとめると、下記のような結果が導出される。
第一に、チタン系カップリング剤で表面処理されたカーボンブラック粒子を含む実施例1~実施例5のポリイミドフィルムは、塩基性溶液に露出した際にも厚さの減少が相対的に少ないことが分かる。
これは、チタン系カップリング剤が、カーボンブラック粒子をポリイミド樹脂に強固に結合させることにより、塩基性溶液によるポリイミドフィルムの一部分解や変性にもカーボンブラック粒子が殆ど脱落されなかったことに起因したことである。
これに対し、チタン系カップリング剤を全く含んでいない比較例1のポリイミドフィルムは、実施例1を基準として、約4.6倍程度の厚さ減少がさらに進み、ポリイミドフィルムの過度な変性と分解が起こったことが分かる。このことからみると、比較例1は、チタン系カップリング剤の添加が、塩基性溶液に対するポリイミドフィルムの耐塩基性の向上に非常に効果的であることが分かる。
【0050】
第二に、実施例1と比較例2を注視する必要がある。
実施例1は、チタン系カップリング剤が表1を基準として0.3重量部含まれており、比較例2は、0.1重量部含まれていて、実際のチタン系カップリング剤の添加量に大きい差がない。それにもかかわらず、その結果は、表2で明らかになっているように、実施例1と比較例2のポリイミドフィルムが、約3.7倍といった格段な厚さ減少率の差を示す。このことから、チタン系カップリング剤の添加量が、ポリイミドフィルムの耐塩基性の改善において非常に主要因子として作用することが分かる。
【0051】
第三に、実施例3~実施例5のポリイミドフィルムは、厚さが却って増加する様相を示した。
これは、ポリイミドフィルムの膨潤現象によると判断される。一般に、塩基溶液によるポリイミドフィルムの分解は、先に塩基と直接接触するフィルム表面のイミド環(またはイミド基)が切れ、それにより、塩基溶液の浸透がフィルムの厚さを増加させる膨潤現象が発生し得る。
また、フィルムの内部に浸透した塩基溶液は、時間が経過するにつれて持続的にフィルムに損傷を与え、結局、ポリイミドフィルムの深刻な厚さ減少を誘発し得る。これが、塩基溶液に露出したポリイミドフィルムの厚さが減少する主要原因であり得る。
それにもかかわらず、実施例3~実施例5のポリイミドフィルムは、厚さの減少が速く誘発されなかったため、耐塩基性溶液の浸透にもかかわらず、フィルムの損傷が遅く進んだと考えられる。これは、比較例1と比較例2のものが、膨潤現象を経て厚さ減少が速く進んだため、表2に示したような良好ではない結果が導出されたことと大きく対比される。
このことからみると、実施例の中でも、実施例3~実施例5のポリイミドフィルムが、最も優れた耐塩基性を有していると予想される。
【0052】
第四に、比較例3のポリイミドフィルムは、チタン系カップリング剤を含むため、塩基溶液の処理によるフィルム損傷の点から、実施例1~実施例5の結果と類似の結果が導出されたが、実施例とは異なって、表面に多数の表面欠陥が形成されていた。
これに関連して、
図3および
図4は、比較例3のポリイミドフィルムの表面欠陥を写真で示したものである。
先ず、
図3を参照すると、比較例3のポリイミドフィルムは、過量のチタン系カップリング剤の添加によりカーボンブラック粒子の分散性が低下し、ポリイミドフィルムの製作過程で多数のピンホール、カーボンブラック粒子の凝集欠陥が発生したことを確認することができる。
さらに、
図4を参照すると、比較例3のポリイミドフィルムをフレキシブル回路基板の形態に製作し、NaOH溶液に浸漬した時に、カーボンブラック粒子が凝集した部分でカーボンブラック粒子が塊ごとに脱落することにより、フィルムの表面に多数のピンホール(赤色円)が発生する外観の問題が確認された。
一方、
図1および
図2は、実施例のうち、耐塩基性が最も優れると予想される実施例5に係るポリイミドフィルムを撮影した写真を示している。これに関連して、
図1は、NaOH溶液に浸漬する前のポリイミドフィルムの写真であり、
図2は、ポリイミドフィルムをフレキシブル回路基板の形態に製作し、NaOH溶液に浸漬した後にポリイミドフィルムの表面を撮影した写真である。
図1を参照すると、実施例5のポリイミドフィルムは、欠陥がなく、滑らかな表面を有することが分かり、上述の比較例3のものと非常に対比されることが分かる。
また、
図2を参照すると、NaOH溶液に長時間露出したにもかかわらず、比較例3で発生したピンホールなどのポリイミドフィルムの表面の不均一な損傷が発見されなかった。結果として、同一のチタン系カップリング剤を用いても、チタン系カップリング剤の添加量によって、ポリイミドフィルムの外観品質に相反する結果が現れる。
特に注目すべきことは、実施例5と比較例3は、チタン系カップリング剤の添加量に大きい差がないのにもかかわらず、表面欠陥についての結果が、
図1から
図4で明らかになっているように顕著な差を示すという点である。このことから、チタン系カップリング剤の添加量が、ポリイミドフィルムの外観品質において非常に主要な因子として作用することが分かる。
【0053】
以上、本発明の実施例を参照して説明したが、本発明が属する分野において通常の知識を有する者であれば、上記の内容に基づいて、本発明の範疇内で多様な応用および変形を行うことが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明に係るポリイミドフィルムは、チタン系カップリング剤によってカーボンブラック粒子と結合している。したがって、塩基性溶液やその他の分解反応によってポリイミドフィルムに不可避な変性または分解が誘発されても、チタン系カップリング剤の結合力に基づいて、カーボンブラック粒子の脱落が著しく抑制されることができる利点がある。
本発明に係るポリイミドフィルムは、また、チタン系カップリング剤と分散剤を特定の含量で含んでいるため、カーボンブラック粒子が均一に分散された状態でポリイミド樹脂に結合され、カーボンブラック粒子の不均一な分散に由来したピンホールや突起のような表面欠陥が少ない利点がある。
本発明に係る製造方法は、上記のポリイミドフィルムを実現可能とすることに実質的な利点がある。