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特許7008881赤外線温度センサ、温度検出装置、および画像形成装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-13
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】赤外線温度センサ、温度検出装置、および画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G01J 5/04 20060101AFI20220118BHJP
   G01J 5/02 20220101ALI20220118BHJP
   G01J 5/06 20220101ALI20220118BHJP
   G01J 5/20 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
G01J5/04
G01J5/02 J
G01J5/10 B
G01J5/20 B
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2021531564
(86)(22)【出願日】2020-09-24
(86)【国際出願番号】 JP2020036031
(87)【国際公開番号】W WO2021100312
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2021-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2019210314
(32)【優先日】2019-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000145242
【氏名又は名称】株式会社芝浦電子
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100130030
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 夕香子
(74)【代理人】
【識別番号】100203046
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 聖子
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 宏基
(72)【発明者】
【氏名】荒野 大輔
(72)【発明者】
【氏名】中山 法行
(72)【発明者】
【氏名】中村 和正
【審査官】越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-036283(JP,A)
【文献】再公表特許第2018/235432(JP,A1)
【文献】国際公開第2019/155565(WO,A1)
【文献】特開平05-256704(JP,A)
【文献】特開平05-332824(JP,A)
【文献】特開平06-137942(JP,A)
【文献】特開平06-147970(JP,A)
【文献】特開2014-174127(JP,A)
【文献】特開昭64-047922(JP,A)
【文献】特開2010-43930(JP,A)
【文献】特開2006-118992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 5/00 - G01J 5/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測温対象物に対向して配置され、前記測温対象物の温度を検出するための赤外線温度センサであって、
前記測温対象物から放射された赤外線を熱に変換する基板と、
前記基板上に配設され、前記測温対象物の温度を検出するための感温素子と、
前記基板上に配設され、前記感温素子と電気的に接続されるパターンと、
前記パターンとは電気的に絶縁され、前記基板を支持すケースと、を有し、
前記基板は、
前記基板の縁の一部であって、前記ケースの内周縁から離れている抑制縁と、
前記抑制縁とは異なる位置で、前記内周縁を超えて前記ケースに支持され、前記ケースと前記パターンとが絶縁される被支持領域と、を含み、
前記抑制縁と、前記内周縁との間には、前記基板と前記ケースとの間の熱の移動を抑制する第1の熱移動抑制部が形成されている、赤外線温度センサ。
【請求項2】
前記基板は、
前記抑制縁である第1縁と、
前記第1縁の前記ケースからの離間方向に対して交差する方向において前記第1縁に隣接した第2縁と、を含み、
前記第1縁は、前記離間方向において、前記第2縁の位置に対して退避しており、
前記第2縁は、前記第1縁と共に前記抑制縁に相当するか、あるいは、前記ケースに支持されている、
請求項1に記載の赤外線温度センサ。
【請求項3】
前記第1の熱移動抑制部は、前記抑制縁と、前記ケースとの間の空隙を含む、
請求項1または2に記載の赤外線温度センサ。
【請求項4】
前記抑制縁は、少なくとも、前記感温素子と、前記感温素子に最も近接する前記ケースの部位との間に位置している、
請求項1から3のいずれか一項に記載の赤外線温度センサ。
【請求項5】
前記基板は、矩形状のフィルム基板からなり、
前記抑制縁は、前記フィルム基板の長手方向に延びている、
請求項1から4のいずれか一項に記載の赤外線温度センサ。
【請求項6】
前記感温素子は、前記基板上に所定間隔をおいて配置される第1及び第2感温素子からなり、
前記基板上には、前記第1感温素子と前記第2感温素子との間の熱の移動を抑制する第2の熱移動抑制部が形成されている、
請求項1または5に記載の赤外線温度センサ。
【請求項7】
前記ケースは、
前記基板の一方の面側に形成され、前記第1感温素子が配置された前記基板の第1領域に対し前記測温対象物から放射された前記赤外線を導光するための導光部と、
該導光部に隣接して形成され前記第2感温素子が設けられた前記基板の第2領域への前記赤外線の照射を遮るための遮光部と、を有し、
前記第2の熱移動抑制部の少なくとも一部は、前記第1領域と前記第2領域との間の境界部分に形成されている、
請求項6に記載の赤外線温度センサ。
【請求項8】
前記第2の熱移動抑制部は、前記境界部分に対して前記第1領域側にシフトしている、
請求項7に記載の赤外線温度センサ。
【請求項9】
前記基板には、前記第1感温素子および前記第2感温素子の少なくとも一方と、外部の電気回路に前記第1及び第2感温素子の少なくとも一方を電気的に接続するための電線とに接続される複数の端子パターンが設けられ、
前記パターンは、前記複数の端子パターンを含み、
前記第2の熱移動抑制部は、少なくとも、
前記複数の端子パターンのうち前記第1感温素子と前記第2感温素子との双方に接続される前記端子パターンの設置範囲内に形成されている、
請求項6から8のいずれか一項に記載の赤外線温度センサ。
【請求項10】
前記第2の熱移動抑制部は、前記第1および第2感温素子が並ぶ方向に対して交差する一方向に延伸して形成されている、
請求項6から9のいずれか一項に記載の赤外線温度センサ。
【請求項11】
前記ケースは、
前記第2感温素子が設けられた前記基板の領域への前記赤外線の照射を遮蔽する第1ケースと、
前記第1感温素子および前記第2感温素子が位置する検知用空間を前記第1ケースとの間に区画する第2ケースと、を備え、
前記抑制縁は、前記第1ケースおよび前記第2ケースの少なくとも一方から離間している、
請求項6から10のいずれか一項に記載の赤外線温度センサ。
【請求項12】
前記基板は、矩形状のフィルム基板からなり、
前記第1及び第2感温素子は、前記基板の短手方向に並んで配置されている、
請求項6から11のいずれか一項に記載の赤外線温度センサ。
【請求項13】
前記基板は、矩形状のフィルム基板からなり、
前記第1及び第2感温素子は、前記基板の長手方向に並んで配置されている、
請求項6から11のいずれか一項に記載の赤外線温度センサ。
【請求項14】
測温対象物に対向して配置され、前記測温対象物の温度を検出するための赤外線温度センサであって、
前記測温対象物から放射された赤外線を熱に変換する基板と、
前記基板上に配設され、前記測温対象物の温度を検出するための感温素子と、
前記基板上に配設され、前記感温素子と電気的に接続されるパターンと、
前記パターンとは電気的に絶縁され、前記基板を支持すケースと、を有し、
前記基板は、前記ケースの内側に存在し、前記ケースの内周縁から離れている内縁と、
少なくとも前記内縁とは異なる位置で、前記内周縁を超えて前記ケースに支持され、前記ケースと前記パターンとが絶縁される被支持領域と、を含み、
前記内縁と、前記内周縁との間には、前記基板と前記ケースとの間の熱の移動を抑制する第3の熱移動抑制部が形成されている、赤外線温度センサ。
【請求項15】
前記感温素子は、前記基板上に所定間隔をおいて配置される第1及び第2感温素子からなり、
前記基板上には、前記第1感温素子と前記第2感温素子との間の熱の移動を抑制する第2の熱移動抑制部が形成されている、
請求項14に記載の赤外線温度センサ。
【請求項16】
前記感温素子は、前記基板上に所定間隔をおいて配置される第1及び第2感温素子からなり、
前記基板には、前記第1感温素子および前記第2感温素子の少なくとも一方と、外部の電気回路に前記第1及び第2感温素子の少なくとも一方を電気的に接続するための電線とに接続される複数の前記パターンが設けられ、
前記第1及び第2感温素子は、矩形状の前記基板の長手方向に並んで配置され、
前記複数のパターンを前記電線に接続するための接続領域は、前記長手方向における前記基板の一端部に配置され、
前記複数のパターンのいずれも、前記長手方向における前記第1及び第2感温素子の間の領域に対する外側を通って前記接続領域まで引き回されている、
請求項1から15のいずれか一項に記載の赤外線温度センサ。
【請求項17】
前記パターンには、
前記第1感温素子と、前記電気回路に前記第1感温素子を電気的に接続するための電線とに接続される第1パターンと、
前記第2感温素子と、前記電気回路に前記第2感温素子を電気的に接続するための電線とに接続される第2パターンと、
前記第1感温素子および前記第2感温素子と、前記電気回路に前記第1感温素子および前記第2感温素子の双方を電気的に接続するための電線とに接続される第3パターンと、
前記第1感温素子に一端側が接続され、他端側が導体には接続されていない第1ダミー部と、
前記第2感温素子に一端側が接続され、他端側が導体には接続されていない第2ダミー部と、が含まれ、
前記第1パターン、前記第3パターン、および前記第1ダミー部は、前記長手方向に沿って並び、
前記第2パターン、前記第3パターン、および前記第2ダミー部は、前記長手方向に沿って並ぶ、
請求項16に記載の赤外線温度センサ。
【請求項18】
前記ケースは、
前記基板の表面に対向する基部と、
前記基部に対して、前記基板から離れる向きに突出し、前記赤外線が前記基板に入射可能な入射角を設定する突起と、を含む、
請求項7から17のいずれか一項に記載の赤外線温度センサ。
【請求項19】
前記感温素子は、
感熱体と、
前記感熱体に電気的に接続される一対のリード線と、
前記感熱体を覆う被覆部と、を備えるサーミスタ素子であって、
前記感熱体としてのサーミスタ焼結体は、
相と、Y(Cr,Mn)O相またはYMnO相と、を備え、Crに対してMnがリッチであり直方晶系の結晶構造を含む焼結体からなり、
下記式で求められるB定数(B(0/1000))が2400K以下である、
請求項1から18のいずれか一項に記載の赤外線温度センサ。
B=(lnRm-lnRn)/(1/Tm-1/Tn)
Rm:0℃における抵抗値 Rn:1000℃における抵抗値
Tm:0℃ Tn:1000℃
【請求項20】
測温対象物に対向して配置され、前記測温対象物の温度を検出するための赤外線温度センサと、該赤外線温度センサに電気的に接続され、前記赤外線温度センサから出力される電気信号に基づいて前記測温対象物の温度を算出する電気回路と、を備える温度検出装置であって、
前記赤外線温度センサは、
前記測温対象物から放射された赤外線を熱に変換するための基板と、
前記基板上に配設され、前記測温対象物の温度を検出するための感温素子と、
前記基板上に配設され、前記感温素子と電気的に接続されるパターンと、
前記パターンとは電気的に絶縁され、前記基板を支持すケースと、を有し、
前記基板は、
前記基板の縁の一部であって、前記ケースの内周縁から離れている抑制縁と、
前記抑制縁とは異なる位置で、前記内周縁を超えて前記ケースに支持され、前記ケースと前記パターンとが絶縁される被支持領域と、を含み、
前記抑制縁と、前記内周縁との間には、前記基板と前記ケースとの間の熱の移動を抑制する第1の熱移動抑制部が形成されている、温度検出装置。
【請求項21】
画像形成装置の定着ユニットに用いられ、前記定着ユニットに対向して配置されると共に、前記定着ユニットの温度を検出するための赤外線温度センサを備える画像形成装置であって、
前記定着ユニットは、加圧ローラおよび加熱ローラを含み、
前記赤外線温度センサは、
前記加熱ローラから放射された赤外線を熱に変換するための基板と、
前記基板上に配設され、前記加熱ローラの温度を検出するための感温素子と、
前記基板上に配設され、前記感温素子と電気的に接続されるパターンと、
前記パターンとは電気的に絶縁され、前記基板を支持すケースと、を有し、
前記基板は、
前記基板の縁の一部であって、前記ケースの内周縁から離れている抑制縁と、
前記抑制縁とは異なる位置で、前記内周縁を超えて前記ケースに支持され、前記ケースと前記パターンとが絶縁される被支持領域と、を含み、
前記抑制縁と、前記内周縁との間には、前記基板と前記ケースとの間の熱の移動を抑制する第1の熱移動抑制部が形成されている、画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線温度センサ、温度検出装置、および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
温度検知対象物の温度を非接触で検知するため、赤外線温度センサが用いられている(例えば、特許文献1)。
赤外線温度センサは、検知対象物から放射される赤外線を吸収するフィルム状の基板と、基板に設けられる赤外線検知用の第1感温素子および温度補償用の第2感温素子と、基板上の第1感温素子には赤外線を入射させ、基板上の第2感温素子に対しては赤外線を遮蔽するケースとを備えている。かかる赤外線温度センサは、第1感温素子と第2感温素子との差動出力(差動電圧)に基づいて検知対象物の温度を検知する。
こうした赤外線温度センサは、例えば、プリンタやコピー機、ファクシミリ等の画像形成装置に備わるトナー定着器の加熱ローラの表面温度を検知するために用いられる。
【0003】
特許文献1の記載によれば、第1感温素子に対応する導光域と、第2感温素子に対応する遮光域とを略対称の形態にすることで、赤外線の直接輻射を除けば第1感温素子と第2感温素子とがそれぞれ受ける熱エネルギーを同等にすることにより、第1感温素子と第2感温素子との検知温度の差分に基づいて、検知対象物の温度を正確に検知することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5207329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
変動する検知対象物の温度を追従性よく検知するため、熱時定数の小さい、応答性が良い赤外線温度センサが要望されている。例えば、トナー定着器の例で言えば、ヒータにより昇温する加熱ローラの表面温度を追従性よく検知する必要がある。熱容量が小さければ熱時定数を下げることができるため、応答性を向上させるために赤外線温度センサの小型化が有効である。
【0006】
しかしながら、赤外線温度センサを小型化すると、赤外線温度センサの周囲の影響を受けやすくなる、という新たな課題が生じる。例えば、赤外線温度センサが置かれた周囲の温度が急激に変化すると、周囲の温度の変化に応じたケースの温度の変化が素子に伝わりやすくなってしまい、所望の精度を得ることができなくなってしまう、という課題がある。
【0007】
赤外線温度センサの第1感温素子と第2感温素子との差動出力は、温度検知の精度に影響する。差動出力は、第1感温素子による検知温度と第2感温素子による検知温度との差分に相当するが、素子間等における熱の移動に起因して、所望の精度に足りる十分な温度差を得ることが難しい場合がある。
特に、赤外線温度センサの小型化により第1感温素子と第2感温素子との間の距離が小さければ、熱の移動に起因して差動出力が低下し易い。つまり、小型化による応答性向上を図りつつ、必要な差動出力を得て精度を担保することが難しい。
【0008】
以上より、本発明は、赤外線検知用の第1感温素子と、温度補償用の第2感温素子との差動出力を十分に得て、温度検知の精度を担保することが可能な赤外線温度センサおよびそれを備えた温度検出装置並びに画像形成装置を提供することを目的とする。作動出力を十分に得て精度を担保することにより、小型化の促進に寄与することが可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、測温対象物に対向して配置され、測温対象物の温度を検出するための赤外線温度センサであって、測温対象物から放射された赤外線を熱に変換する基板と、基板上に配設され、測温対象物の温度を検出するための感温素子と、基板を支持するためのケースと、を有し、基板は、基板の縁の一部であって、ケースの内周縁から離れている抑制縁と、抑制縁とは異なる位置で、内周縁を超えてケースに支持される被支持領域と、を含み、抑制縁と、内周縁との間には、基板とケースとの間の熱の移動を抑制する第1の熱移動抑制部(heat transfer suppression part, heat transfer insulator)が形成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の赤外線温度センサにおいて、基板は、抑制縁である第1縁と、第1縁のケースからの離間方向に対して交差する方向において第1縁に隣接した第2縁と、を含み、第1縁は、離間方向において、第2縁の位置に対して退避しており、第2縁は、第1縁と共に抑制縁に相当するか、あるいは、ケースに支持されていることが好ましい。
【0011】
本発明の赤外線温度センサにおいて、第1の熱移動抑制部は、抑制縁と、ケースとの間の空隙を含むことが好ましい。
【0012】
本発明の赤外線温度センサにおいて、抑制縁は、少なくとも、感温素子と、感温素子に最も近接するケースの部位との間に位置していることが好ましい。
【0013】
本発明の赤外線温度センサにおいて、基板は、矩形状のフィルム基板からなり、抑制縁は、フィルム基板の長手方向に延びていることが好ましい。
【0014】
本発明の赤外線温度センサにおいて、感温素子は、基板上に所定間隔をおいて配置される第1及び第2感温素子からなり、基板上には、第1感温素子と第2感温素子との間の熱の移動を抑制する第2の熱移動抑制部が形成されていることが好ましい。
【0015】
本発明の赤外線温度センサにおいて、ケースは、基板の一方の面側に形成され、第1感温素子が配置された基板の第1領域に対し測温対象物から放射された赤外線を導光するための導光部と、該導光部に隣接して形成され第2感温素子が設けられた基板の第2領域への赤外線の照射を遮るための遮光部と、を有し、第2の熱移動抑制部の少なくとも一部は、第1領域と第2領域との間の境界部分に形成されていることが好ましい。
【0016】
本発明の赤外線温度センサにおいて、第2の熱移動抑制部は、境界部分に対して第1領域側にシフトしていることが好ましい。
【0017】
本発明の赤外線温度センサにおいて、基板には、第1感温素子および第2感温素子の少なくとも一方と、外部の電気回路に第1及び第2感温素子の少なくとも一方を電気的に接続するための電線とに接続される複数の端子パターンが設けられ、第2の熱移動抑制部は、少なくとも、複数の端子パターンのうち第1感温素子と第2感温素子との双方に接続される端子パターンの設置範囲内に形成されていることが好ましい。
【0018】
本発明の赤外線温度センサにおいて、第2の熱移動抑制部は、第1および第2感温素子が並ぶ方向に対して交差する一方向に延伸して形成されていることが好ましい。
【0019】
本発明の赤外線温度センサにおいて、ケースは、第2感温素子が設けられた基板の領域への赤外線の照射を遮蔽する第1ケースと、第1感温素子および第2感温素子が位置する検知用空間を第1ケースとの間に区画する第2ケースと、を備え、抑制縁は、第1ケースおよび第2ケースの少なくとも一方から離間していることが好ましい。
【0020】
本発明の赤外線温度センサにおいて、基板は、矩形状のフィルム基板からなり、第1及び第2感温素子は、基板の短手方向に並んで配置されていることが好ましい。
【0021】
本発明の赤外線温度センサにおいて、基板は、矩形状のフィルム基板からなり、第1及び第2感温素子は、基板の長手方向に並んで配置されていることが好ましい。
【0022】
また、本発明は、測温対象物に対向して配置され、測温対象物の温度を検出するための赤外線温度センサであって、測温対象物から放射された赤外線を熱に変換する基板と、基板上に配設され、測温対象物の温度を検出するための感温素子と、基板を支持し、内側に感温素子を収容するケースと、を有し、基板は、ケースの内側に存在し、ケースの内周縁から離れている内縁と、少なくとも内縁とは異なる位置で、内周縁を超えてケースに支持される被支持領域と、を含み、内縁と、内周縁との間には、基板とケースとの間の熱の移動を抑制する第3の熱移動抑制部が形成されていることを特徴とする。
【0023】
本発明の赤外線温度センサにおいて、感温素子は、基板上に所定間隔をおいて配置される第1及び第2感温素子からなり、基板上には、第1感温素子と第2感温素子との間の熱の移動を抑制する第2の熱移動抑制部が形成されていることが好ましい。
【0024】
本発明の赤外線温度センサにおいて、感温素子は、基板上に所定間隔をおいて配置される第1及び第2感温素子からなり、基板には、第1感温素子および第2感温素子の少なくとも一方と、外部の電気回路に第1及び第2感温素子の少なくとも一方を電気的に接続するための電線とに接続される複数のパターンが設けられ、第1及び第2感温素子は、矩形状の基板の長手方向に並んで配置され、複数のパターンを電線に接続するための接続領域は、長手方向における基板の一端部に配置され、複数のパターンのいずれも、長手方向における第1及び第2感温素子の間の領域に対する外側を通って接続領域まで引き回されていることが好ましい。
【0025】
本発明の赤外線温度センサにおいて、パターンには、第1感温素子と、電気回路に第1感温素子を電気的に接続するための電線とに接続される第1パターンと、第2感温素子と、電気回路に第2感温素子を電気的に接続するための電線とに接続される第2パターンと、第1感温素子および第2感温素子と、電気回路に第1感温素子および第2感温素子の双方を電気的に接続するための電線とに接続される第3パターンと、第1感温素子に一端側が接続され、他端側が導体には接続されていない第1ダミー部と、第2感温素子に一端側が接続され、他端側が導体には接続されていない第2ダミー部と、が含まれ、第1パターン、第3パターン、および第1ダミー部は、長手方向に沿って並び、第2パターン、第3パターン、および第2ダミー部は、長手方向に沿って並ぶことが好ましい。
【0026】
本発明の赤外線温度センサにおいて、ケースは、基板の表面に対向する基部と、基部に対して、基板から離れる向きに突出し、赤外線が基板に入射可能な入射角を設定する突起と、を含むことが好ましい。
【0027】
本発明の赤外線温度センサにおいて、感温素子は、感熱体と、感熱体に電気的に接続される一対のリード線と、感熱体を覆う被覆部と、を備えるサーミスタ素子であって、感熱体としてのサーミスタ焼結体は、Y相と、Y(Cr,Mn)O相またはYMnO相と、を備え、Crに対してMnがリッチであり直方晶系の結晶構造を含む焼結体からなり、下記式で求められるB定数(B(0/1000))が2400K以下であることが好ましい。
B=(lnRm-lnRn)/(1/Tm-1/Tn)
Rm:0℃における抵抗値 Rn:1000℃における抵抗値
Tm:0℃ Tn:1000℃
【0028】
また、本発明は、測温対象物に対向して配置され、測温対象物の温度を検出するための赤外線温度センサと、該赤外線温度センサに電気的に接続され、赤外線温度センサから出力される電気信号に基づいて測温対象物の温度を算出する電気回路と、を備える温度検出装置であって、赤外線温度センサは、測温対象物から放射された赤外線を熱に変換するための基板と、基板上に配設され、測温対象物の温度を検出するための感温素子と、基板を支持するためのケースと、を有し、基板の縁の一部である抑制縁と、ケースとの間には、基板とケースとの間の熱の移動を抑制する第1の熱移動抑制部が形成されていることを特徴とする。
【0029】
さらに、本発明は、画像形成装置の定着ユニットに用いられ、定着ユニットに対向して配置されると共に、定着ユニットの温度を検出するための赤外線温度センサを備える画像形成装置であって、定着ユニットは、加圧ローラおよび加熱ローラを含み、赤外線温度センサは、加熱ローラから放射された赤外線を熱に変換するための基板と、基板上に配設され、加熱ローラの温度を検出するための感温素子と、基板を支持するためのケースと、を有し、基板の縁の一部である抑制縁と、ケースとの間には、基板とケースとの間の熱の移動を抑制する第1の熱移動抑制部が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、赤外線温度センサの基板の縁の一部である抑制縁とケースとの間に、ケースと基板との間の熱の移動を抑制する第1の熱移動抑制部が形成されることにより、あるいは、基板の一部であって、ケースの内側に存在する内縁と、ケースに支持される被支持部およびケースとの間に、ケースと基板との間の熱移動を抑制する第3の熱移動抑制部が形成されることにより、感温素子からの基板を通じたケースへの放熱を抑えつつ、感温素子へと基板を通じてケースから熱が移動することをも抑えることができる。
したがって、感温素子による差動出力を十分に得て、赤外線温度センサの検知精度を担保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の第1実施形態に係る赤外線温度センサを赤外線が照射される第1ケース側から示す斜視図である。
図2】(a)は、図1に示す赤外線温度センサを第1ケース側から示す平面図である。(b)は、図1に示す赤外線温度センサを第2ケース側から示す平面図である。電線の図示が省略されている。
図3】(a)は、図1および図2に示す赤外線温度センサに備わる基板および第2ケースを示す平面図である。(b)は、基板の平面図である。(c)および(d)は、(a)の配線パターンとは異なる配線パターンが設けられた基板を示す平面図である。
図4】(a)~(d)は、本発明の第1実施形態に採用可能な種々の形状の基板を示す平面図である。
図5】(a)~(c)は、本発明の第1実施形態に採用可能な種々の形状の基板を示す平面図である。
図6図2のVI-VI線における断面模式図である。
図7】本発明の実施形態に係る赤外線温度センサにおける赤外線の入射する範囲について説明するための模式図である。
図8】赤外線の入射範囲について説明するための模式図である。
図9図1に示す赤外線温度センサを搭載したプリンタの内部構造を示す模式図である。
図10図9に示すプリンタに備わる加熱ローラおよび赤外線温度センサを示す模式図である。
図11】(a)は、本発明の第1変形例に係る赤外線温度センサの斜視図である。(b)は、(a)に示す赤外線温度センサと、プリンタの加熱ローラとを示す模式図である。
図12】本発明の第2変形例に係る赤外線温度センサの基板および第1ケースを図示しない第2ケース側から示す斜視図である。
図13】本発明の第3変形例に係る赤外線温度センサを第1ケース側から示す平面図である。
図14図13に示す赤外線温度センサに備わる基板および第1ケースを基板に対して第2ケース側から示す平面図である。
図15】本発明の第2実施形態に係る赤外線温度センサを第1ケース側から示す平面図である。
図16図15に示す第2実施形態の赤外線温度センサに備わる基板および第1ケースを基板に対して第2ケース側から示す平面図である。
図17】(a)は、図16の一部を拡大して示す模式図である。(b)は、変形例を示す図である。
図18図16に示す基板上のパターンを示す模式図である。
図19】(a)および(b)は、図9に示すプリンタに備わる加熱ローラおよび第2実施形態の赤外線温度センサを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の各実施形態に係る赤外線温度検知装置の一例を説明する。
〔第1実施形態〕
図1図2図3(a)および(b)に示す赤外線温度センサ1は、2つの感温素子11,12(図3(a))のそれぞれの検知温度の差に基づいて、温度測定の対象物(測温対象物)の温度を非接触にて検知する。
【0033】
本明細書において、第1感温素子11と第2感温素子12とが並ぶ方向を第1方向D1と定義し、第1方向D1に対して直交する方向を第2方向D2と定義するものとする。
【0034】
赤外線温度センサ1は、基板10(図1図2図3(a)および(b))と、基板10に配置される第1感温素子11および第2感温素子12と、ケース2とを備えている。
第1感温素子11は、測温対象物から放射された赤外線が基板10に吸収されることで生じる熱により上昇した温度を検知するための素子である。
第2感温素子12は、第1感温素子11による検知温度に対して、測温対象物の温度を表す温度差を得るため、温度補償用の感温素子として用いられる。第1感温素子及び第2感温素子には、例えば、感熱体と、感熱体に電気的に接続される一対のリード線と、感熱体を覆う被覆部とを備えるサーミスタ素子が用いられるが、白金温度センサ等の温度係数を持つ抵抗体を広く使用でき、特定の材質、形態等に限定されない。また、第1感温素子11と第2感温素子12とのそれぞれの検知温度の差を適切に得るため、第1感温素子11と第2感温素子12とのそれぞれの温度変化に関する特性が同等であることが好ましい。
【0035】
ケース2は、第1感温素子11および第2感温素子12のうち第2感温素子12に対して測温対象物から放射された赤外線を遮蔽し、かつ、基板10を支持する。この基板10には、第1感温素子11及び第2感温素子12を図示しない電気回路に電気的に接続するための電線15が接続されている。
【0036】
(ケースの構成)
ケース2の構成について、図1図2図3(a)および(b)を参照して説明する。
ケース2は、基板10の一部を除いて、基板10を表面10A側から覆う第1ケース20と、基板10を裏面10B側から覆う第2ケース30とを備えている。ケース2の内部には、ケース2と平面視で同形状の基板10が設けられている。
【0037】
(第1ケース20の構成)
第1ケース20は、アルミニウム合金等の金属材料からなる板材を用いたプレス加工により成形されている。
第1ケース20の外形は、平面視で略矩形状に形成されている。第1ケース20は、平面視で略矩形状の凸部21と、凸部21の周りに額縁状に形成された基部22とからなる。凸部21は、基板10上に設けられた第1感温素子11および第2感温素子12を含む範囲に対応する領域を、プレス曲げ加工によって基板10の表面10Aから離れる向きに突出させて形成している。凸部21は、頂部210と、基部22から頂部210までを繋ぐ壁210Bとを備えている。頂部210は、基板10に対して平行に、平坦に形成されている。壁210Bは、凸部21の四辺に亘り形成されている。
【0038】
頂部210には、第1感温素子11に赤外線を入射させるための略矩形状の開口210Aが形成されている。この開口210Aは、プレス打ち抜き加工により形成されている。
開口210Aは、測温対象物から放射された赤外線を基板10上の第1感温素子11が配置された第1領域R1に導光するための導光部に相当する。頂部210における開口210A以外の部分は、基板10上の第2感温素子12が配置された第2領域R2への赤外線の照射を遮るための遮光部に相当する。
【0039】
(第2ケース30の構成)
第2ケース30も、第1ケース20と同様に、アルミニウム合金等の金属材料からなる板材を用いたプレス加工により成形されている。
第2ケース30および第1ケース20は、第1感温素子11と第2感温素子12とのそれぞれの検知温度の差を適切に得るため、第1方向D1の中心線L1に対して対称に形成されていることが好ましい。
【0040】
第2ケース30の外形は、平面視で略矩形状に形成されている。
第2ケース30は、平面視で略矩形状の凸部31と、基部32と、切欠33とからなる。凸部31は、プレス曲げ加工により形成され、基部32に対して、基板10の裏面10Bから離れる向きに突出して形成されている。凸部31は、頂部310と、基部32から頂部310までを繋ぐ壁310Bとを備えている。頂部310は、基板10に対して平行に、平坦に形成されている。壁310Bは、凸部31の四辺に亘り形成されている。切欠33は、平面視で矩形状に形成されている。切欠33は、第2方向D2において凸部31に隣接して形成され、この切欠33から端子パターン141~143が露出している。
【0041】
本実施形態では、凸部31と凸部21は、平面視の形状および外形寸法が同一に形成されている。第1ケース20と第2ケース30とが組み付けられると、凸部31の壁310Bの位置と、凸部21の壁210Bの位置とが一致する。但し、凸部31の壁310Bの位置と、凸部21の壁210Bの位置とは、必ずしも一致している必要はない(例えば図7(a)参照)。
【0042】
基部32と基部22とは、図3(a)に格子状のパターンにより図示された範囲に亘り基板10を間に挟んだ状態で、接合されている。この接合は、適宜な箇所にて、圧着、接着、融着、拡散接合、締結等の適宜な方法により行われる。基部32と基部22とが接合されることで、第1ケース20、第2ケース30、および基板10が一体に組み付けられる。第1ケース20及び第2ケース30が基板10を挟んで接合されることにより、ケース2内部には、図6に示す検知用空間S1が形成される。
基部32と基部22とを接合すると、第1ケース20に形成した開口210Aに対向する位置には、基板10の第1領域R1が配置され、頂部210の開口210A以外の領域に対向する位置には、基板10の第2領域R2が配置される。
【0043】
第1ケース20と第2ケース30には、それぞれ位置決め用の孔22B,32B(図2(a)および(b))を設けても良い。この位置決め用の孔22B,32Bは、基部22および基部32における複数の箇所に、例えば、図2に二点鎖線で示す位置に形成することができる。位置決め用孔22B,32Bを設けることにより、赤外線温度センサ1を測温対象物に対して規定の位置に配置できるので、検知温度の誤差を低減することができる。
【0044】
(基板の構成)
次に、基板10について、図3(a)を参照して説明する。基板10には、測温対象物から放射される赤外線を吸収して熱に変換する材質の基板、典型的には、ポリイミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレン等の樹脂材料を用いたフィルム状の基板が用いられる。基板10の外形は、第1ケース20および第2ケース30の第2方向D2における一端から他端まで延在する長さに形成され、第1方向D1の長さは、凸部21および凸部31の第1方向D1における幅と同等の幅に形成されている。
基板10は、単一または複数の層から形成されている。基板10が、カーボンブラック等、樹脂材料と比べて赤外線の吸収率が高い粒子を含む層を有していてもよい。
基板10として、柔軟性を有するFPC(Flexible Printed Circuits)等を用いることができる。
【0045】
図3(b)には、赤外線温度センサ1の組立前における基板10xを示している。基板10xの第2方向D2の両端部には、位置決め用孔10C,10Dおよび位置決め用孔10F,10Gが形成されている。赤外線温度センサ1が組み立てられた後に、基板10xの第2方向D2の両端部は、図3(a)および(b)に示す破線の位置、つまり、ケース2の第2方向D2の一端および他端にそれぞれ対応する位置で切除される。
【0046】
基板10には、第1感温素子11および第2感温素子12と、配線パターン131~134と、電線15が接続される端子パターン141~143とが実装されている。配線パターン131~134および端子パターン141~143は、銅等の金属材料からなる導体である。
第1感温素子11、第2感温素子12、配線パターン131~134、および端子パターン141~143は、基板10の裏面10B側に配置されている。端子パターン141~143には、電線15が接続される。
【0047】
第1感温素子11および第2感温素子12は、基板10上に第1方向D1へ並べて配設されている。第1方向D1は、本実施形態の基板10の短手方向に相当する。第1感温素子11及び第2感温素子12が配置された位置を基準として、第1方向D1の両側における基板10の縁10Eには、それぞれ凹部18,18が形成されている。配線パターン131~134は、それぞれ第1感温素子11、第2感温素子12に電気的に接続され、第2方向D2に引き出されている。基板10の第2方向D2の一方の端部領域には、電線15が接続される端子パターン141~143が配設されている。端子パターン141~143は、第1方向D1に並んで配設されている。
本実施形態のように、電線15が第2方向D2に引き出される場合は、配線パターンを感温素子11,12のいずれか一方から他方に向けて第1方向D1に取り回すことなく、端子パターンまで第2方向D2に引き出すことができる。そうすると、第1感温素子11と第2感温素子12との間に配線パターンの一部が存在しないので、第1感温素子11から第2感温素子12への配線パターンを通じた熱の移動による出力損失を回避可能となり、かつ、基板10上の限られた領域内においても配線がし易い。
【0048】
図3(a)においては、基板10および第2ケース30を実線で示し、基板10の表面10Aを覆う第1ケース20を二点鎖線で示している。基板10の裏面10Bに設けられた配線パターン131~134および端子パターン141~143を実線により示している。なお、図3(b)、図3(c)および(d)では、第1、第2感温素子11,12の図示が省略されている。
【0049】
第1方向D1の両側における基板10の縁10Eと、ケース2との間には、基板10とケース2との間の熱の移動を抑制する第1の熱移動抑制部(heat transfer suppression part, heat transfer insulator)17が形成されている。以降、この第1方向D1の両側における基板10の縁10Eについては、特に区別して記載する場合には、図面に正対して左側の縁を縁10E1と、右側の縁を縁10E2と称する。
ここで、縁10Eは、凹部18の形状に基づいて、ケース2から離間することで第1の熱移動抑制部17をなす抑制縁18A(凹部18の縁であり、第1縁)と、ケース2からの抑制縁18Aの離間方向に対して交差する方向(第2方向D2)において抑制縁18Aに隣接した隣接縁18B(第2縁)とを含んでいる。抑制縁18Aは、離間方向(第1方向D1)において、隣接縁18Bの位置に対して退避している。
本実施形態の隣接縁18Bは、抑制縁18Aと比べればケース2に近接しているが、ケース2から離間している。本実施形態では、抑制縁18Aと隣接縁18Bとをケース2からの離間距離の相違に基づいて区別しているが、これら抑制縁18Aおよび隣接縁18Bは、いずれも、ケース2から離間することに基づいて、第1の熱移動抑制部17をなしており、いずれも「抑制縁」に相当する。
以上より、本実施形態の第1の熱移動抑制部17は、抑制縁18Aおよび隣接縁18Bとケース2との間の空隙に相当する。
但し、隣接縁18Bは、本実施形態とは異なり、ケース2に接触し、ケース2により支持されていてもよい。この場合の第1の熱移動抑制部17は、抑制縁18Aとケース2との間の空隙に相当する。
【0050】
基板10の第1方向D1の両側で、概ね、第1方向D1と交差する方向に延びている抑制縁18Aは、少なくとも、第1および第2感温素子11,12と、第1および第2感温素子11,12に最も近接するケース2の部位P1,P2との間に配置されていることが好ましい。
そのため、第1の熱移動抑制部17をなす抑制縁18Aは、第1感温素子11を基準とすれば、第1方向D1において第1感温素子11に最も近いケース2の部位P1と第1感温素子11との間に配置され、また、第2感温素子12を基準とすれば、第1方向D1において第2感温素子12に最も近いケース2の部位P2と第2感温素子12との間に配置されている。
【0051】
第1の熱移動抑制部17、すなわち基板10とケース2との間には、基板10と比べて熱伝導率が低い空気が存在することになる。その結果、基板10とケース2とが接触している場合と比べ、両者の間の熱伝導が抑制される。基板10とケース2との間の距離が大きいほど、両者の間の熱伝導を抑制する効果を高くすることができるが、第1感温素子11と第2感温素子12とのそれぞれの検知温度の差を確保して差動出力を十分に得る目的からは、基板10とケース2とが接触しない程度の距離、例えば、数十μm~数mmの僅かな空隙(第1の熱移動抑制部17)にて離間していれば足りる。こうした空隙を基板10とケース2との間に与えつつ、出力の確保に必要な受光面積を基板10に確保することができる。上記目的から、空隙は僅かな寸法で足りるので、赤外線温度センサ1の小型化は妨げられない。
なお、基板10の縁10E1,10E2のそれぞれとケース2との距離は、同一であっても、相違していてもよい。
また、縁10E1は、第1ケース20および第2ケース30のいずれか一方から離間していれば足りる。縁10E2も同様である。
【0052】
また、抑制縁18Aが、少なくとも、第1および第2感温素子11,12に最も近接するケース2の部位P1,P2と、第1および第2感温素子11,12との間に位置していると、ケース2からの熱伝導をより十分に抑制することが出来る。物質が同一の場合、熱が伝導する伝導路は短いほど熱を伝導し易くなるから、第1感温素子11及び第2感温素子12から最も近距離にあるケース2の部位P1およびP2において、基板10と熱源となるケース2とが接触しないように構成することで、第1感温素子11及び第2感温素子12へのケース2からの熱の伝導をより十分に抑制することができる。
【0053】
抑制縁18Aは、基部22および基部32のそれぞれの内周縁22A,32A(図3(a))の一辺の近傍に位置している。内周縁22A,32Aは、壁210B,310Bの基端に相当する。
抑制縁18Aは、内周縁22A,32Aの第2方向D2に延びる一辺の長さと同等の範囲に亘り形成され、基部22および基部32から第1方向D1の内側に離間している。
そのため、本実施形態の基板10は、第1方向D1の両側では基部22,32に支持されておらず、第2方向D2の両側のみにおいて基部22,32に支持されている。
基板10をケース2に確実に支持するために必要な面積は、凸部21,31の第2方向D2の両側(格子状のパターンで示す範囲)に確保されている。
【0054】
第1感温素子11の検知温度と第2感温素子12の検知温度との差を適切に得るため、基板10が第1方向D1の中心線L1に対して対称に形成されることが好ましい。また、第1感温素子11および第2感温素子12が中心線L1に対して対称に配置されることも好ましい。
【0055】
基板10の第1感温素子11と第2感温素子12との間には、第2の熱移動抑制部16が形成される。
第2の熱移動抑制部16は、第2方向D2に延びるスリット状の貫通孔であることが好ましい。この第2の熱移動抑制部16を設けることにより、第1感温素子11の周囲の第1領域R1と、第2感温素子12の周囲の第2領域R2とが区分されている。換言すれば、第2の熱移動抑制部16は、第1領域R1と第2領域R2との間の境界部分に形成されている。
【0056】
第2の熱移動抑制部16を設けることにより、第1感温素子11と第2感温素子12との間には、基板10と比べて熱伝導率が低い空気が存在することになる。そのため、第2の熱移動抑制部16により、第1感温素子11と第2感温素子12との間の熱伝導が抑制される。
【0057】
第2の熱移動抑制部16の第1方向D1の幅は広いほど、第1感温素子11と第2感温素子12との間の熱伝導を抑制する効果が高くなるが、上述したケース2と基板10との間の距離と同様に、例えば、数十μm~数mmの僅かな幅で形成することができる。
第2の熱移動抑制部16の第1方向D1の幅、および上述した第1の熱移動抑制部17の第1方向D1の幅は、後述するように、赤外線の入射角をも考慮して設定される。
また、第1感温素子11と第2感温素子12との間の熱移動を抑制するためには、第2の熱移動抑制部16が第2方向D2に長いほど好ましい。第1感温素子11と第2感温素子12との間の熱の移動経路を長くすることができるからである。第1感温素子11および第2感温素子12に関して沿面距離を十分に確保する観点でも、第2の熱移動抑制部16が第2方向D2に長いことが好ましい。
【0058】
第1感温素子11が配設された第1領域R1には、開口210Aを通じてケース2の外部から、測温対象物が放射した赤外線が入射する。この入射した赤外線が基板10に照射されると、赤外線は熱に変換され、この熱に応じて第1感温素子11の抵抗値が変化する。これに加えて、第1感温素子11は、赤外線が入射した基板10や配線パターン131,132等からの熱伝導や、第1感温素子11の周囲の雰囲気(検知用空間S1)における熱の対流により第1感温素子11まで伝搬した熱の影響を受ける。
【0059】
一方、ケース2の頂部210により赤外線が遮蔽されるため、第2感温素子12が配設された第2領域R2には、赤外線が照射されない。そのため、第2感温素子12は、周囲の雰囲気(検知用空間S1)における熱の対流や熱伝導により第2感温素子12に伝搬した熱、つまり、測温対象物からの赤外線の放射に起因しない熱のみを検知する。
したがって、第1感温素子11による検知温度と、第2感温素子12による検知温度との差分を算出することで、測温対象物の表面の温度を測定する。
【0060】
配線パターン132,133は共通の端子パターン142に接続されており、配線パターン131および133はそれぞれ個別に端子パターン141,143に接続されている。端子パターン142は、図示しない後段の電気回路のGND電位に接続されている。当該電気回路は、第1感温素子11と第2感温素子12の電気信号の電位差に基づいて、測温対象物の温度を検出するようになっている。当該電気回路と、赤外線温度センサ1とを備えることにより、温度検出装置が構成されている。
【0061】
図3(a)および(b)に示す例では、配線パターン131~134は、櫛形の形状に蛇行するように形成されている。図3(a)および(b)に示す形状に代えて、図3(c)または図3(d)に示す直線的な形状を配線パターン131~134に採用することもできる。
図3(a)および(b)の配線パターン131~134は、図3(c)または(d)に示す例と比べて配線長が長く、そのため銅箔が施された領域の面積が大きい。図3(a)および(b)の配線パターン131~134を採用すると、面積が大きい分、赤外線が入射した配線パターン131,132を通じて第1感温素子11およびその周囲に集熱することができる。そのため、図3(c)または(d)に示す例と比べて差動出力を増大させることができる。一方、図3(a)および(b)と比べて配線長が短いため配線パターン131~134の面積が小さい図3(c)または(d)に示す例は、応答性に優れる。
【0062】
図3(a)~(d)は配線パターン131~134の一例であり、他の形状を配線パターン131~134に採用することもできる。
【0063】
配線パターン131~134のそれぞれの幅や長さ、形状等を変更することで、赤外線の受光面積が変化し、また、配線パターン131~134を含めた基板10の熱容量も変化する。そして、配線パターン131~134の幅を太くすれば、配線パターン131~134を通じた熱移動が増大する。
配線パターン131~134のそれぞれの幅や長さ、形状等を適宜に定めることにより、赤外線温度センサ1の応答性や差動出力を調整することができる。
【0064】
図3(a)~(d)に示す例では、第1感温素子11および第2感温素子12にそれぞれ備わる図示しない一対のリード線が第2方向D2に延びる向きで第1感温素子11が基板10に配置されているが、一対のリード線が第1方向D1に延びる向きで第1感温素子11が基板10に配置されていてもよい。第2感温素子12も同様である。
【0065】
基板10の裏面10B側には、さらに絶縁性を有する絶縁被覆層Ly1が設けられている。絶縁被覆層Ly1は、端子パターン141~143と電線15との電気的接続に必要な箇所と、第1感温素子11、第2感温素子12、および配線パターン131~134が設けられている範囲とを除いて、基板10の裏面10Bの全域に設けられている。第1感温素子11、第2感温素子12、および配線パターン131~134は、これらの温度を検知用空間S1の温度変化に追従させるため、絶縁被覆層Ly1により覆われることなく、露出していることが好ましい。
なお、図3(a)では、絶縁被覆層Ly1の図示が省略されている。
【0066】
(赤外線温度センサの主な作用効果)
以上で説明した本実施形態の赤外線温度センサ1によれば、ケース2と基板10との間の熱の移動を抑制する第1の熱移動抑制部17が形成されていることにより、配線パターン131~134および端子パターン141~143を含む基板10や、ケース2が介在した熱伝導を主とする熱の移動を抑制することができる。
本実施形態の赤外線温度センサ1によれば、第1感温素子11およびその周囲の赤外線が入射する第1領域R1からの基板10を通じたケース2への放熱を抑えつつ、第2感温素子12およびその周囲の第2領域R2へと基板10を通じてケース2から熱が移動することをも抑えることができる。そうすることで、第1感温素子11による検知温度と、第2感温素子12による検知温度との差に相当する差動出力を十分に得て、赤外線温度センサ1の検知精度を向上させることができる。差動出力の増大によりS/N比(signal-noise ratio)も増大するため、耐ノイズ性が向上する。
【0067】
加えて、第1感温素子11と第2感温素子12との間に、第2の熱移動抑制部16が形成されていることによっても、第1感温素子11と第2感温素子12との差動出力をより十分に確保して、検知精度をより向上させることができる。
【0068】
第1の熱移動抑制部17を設けることのみによる熱移動の抑制によって、十分な差動出力を実現できる場合は、第2の熱移動抑制部16は必ずしも必要ない。
【0069】
本実施形態によれば、ケース2や基板10を移動経路とする熱移動の抑制による精度向上に基づいて、赤外線温度センサ1の小型化を促進し、小型化に伴って製造コストの低減を図ることができる。小型化により、第1感温素子11と第2感温素子12とが近接し、第1感温素子11および第2感温素子12のそれぞれとケース2も近接するため、一般的には、感温素子11,12間や感温素子11,12とケース2との間の熱移動が顕著となって、差動出力に影響が及びがちである。しかし、上述したように、第1の熱移動抑制部17や第2の熱移動抑制部16を設けることによる熱の移動経路の空間的な分離により、差動出力を十分に得ることができるため、赤外線温度センサ1の小型化に伴う熱容量の低下による応答性の向上と、差動出力の確保による検知精度の担保とを両立させることができる。
【0070】
また、本実施形態によれば、配線パターン131~134の幅や形状等によることなく、第1の熱移動抑制部17や第2の熱移動抑制部16を設けることにより、基板10およびケース2を通じた熱移動を十分に抑制して差動出力を担保できるため、配線パターン131~134の設計自由度を向上させることができる。
【0071】
(基板の変形例)
図4および図5を参照し、本発明の実施形態に係る赤外線温度センサ1に採用可能な基板を示す。
上述したように、抑制縁18Aは、少なくとも第1感温素子11、第2感温素子12に最も近いケース2の部位P1,P2と、第1感温素子11、第2感温素子12との間に位置していれば足りる。そこで、図4(a)に示す例では、基板10の縁10E1,10E2において、部位P1,P2に最も近い、最小限の範囲のみに凹部18を形成している。図4(a)においても、縁10E1,10E2とケース2との間の空隙が、第1の熱移動抑制部17に相当する。
この凹部18は、必ずしも基板10-1の第1方向D1の縁10E1,10E2の双方に設ける必要はなく、少なくともいずれか一方に設ければその効果を奏することが出来る。また、図示はしないが、この凹部18は、例えば、縁10E1,10E2のいずれか一方または双方において複数設けても良い。
【0072】
本発明の上述した実施形態(図3)において、凹部18の第2方向D2の長さは、ケース2から伝導する熱を抑制する度合と、基板10の強度との兼ね合いにより決定される。第1方向D1における基板10の剛性が高ければ、凹部18を第2方向D2に拡大して基板10の幅(第1方向D1における寸法)を全体的に細くすることも可能である。
また、上述した実施形態(図3)においては、基板10の両側にそれぞれ凹部18が、第1方向D1及び第2方向D2の長さを同一に形成された場合を例示して説明しているが、本発明はこれに限られない。例えば、それぞれの凹部18の第1方向D1の長さを任意の異なる長さに設定しても良い。
【0073】
さらに、第1の熱移動抑制部17は、必ずしも空隙(空間)である必要はない。空隙の代わりに、または空隙とともに、熱伝導を抑制できる物質が基板10の縁10Eとケース2との間に設けられていても良い。例えば、基板10の抑制縁18Aとケース2との間に、基板10およびケース2のいずれに対しても熱伝導率が低い樹脂製の板を介在させたり、セラミック系の材料からなる固体(例えば、グラスウール等)を介在させたりしても良い。
【0074】
第1の熱移動抑制部17は、ケース2と縁10Eとの間に、必ずしも、基板10の厚さ方向全体に亘り形成されている必要はない。例えば、多層の基板10の一部の層における外周部を剥離することで、当該層の縁をケース2に対して離間させた場合は、当該層の縁とケース2との間の空隙、あるいは、当該層の縁とケース2との間に配置された、基板10およびケース2のいずれに対しても熱伝導率が低い部材が、第1の熱移動抑制部17に相当する。
【0075】
図4(b)に示す基板10-2には、第2の熱移動抑制部16の第2方向D2の延長上に、中心線L1に沿って第2の熱移動抑制部162および第2の熱移動抑制部163が形成されている例を示している。第2の熱移動抑制部162は、端子パターン142および基板10-2を厚さ方向に貫通して、第2方向D2に沿って延びている。
図4(b)に示す例において、凹部18の第1方向D1における深さが相違していてもよい。
【0076】
図4(b)に示す例において、第2の熱移動抑制部162の第1方向D1の両側には、端子パターン142を構成する第1端子パターン142aと第2端子パターン142bとが設けられている。第1端子パターン142aは配線パターン132を通じて第1感温素子11に電気的に接続され、第2端子パターン142bは配線パターン133を通じて第2感温素子12に電気的に接続される。
【0077】
なお、第1端子パターン142aと第2端子パターン142bとを導通させて一つの端子パターン142として機能させるために、第2の熱移動抑制部162には、電線15の芯線と第1及び第2端子パターン142a,142bとのはんだ付けが適切に行える幅(第1方向D1の寸法)が設定されている。
【0078】
第2の熱移動抑制部162および第2の熱移動抑制部163を設けることにより、第1感温素子11と第2感温素子12との間の熱移動を抑制することができる。その結果、第1感温素子11と第2感温素子12との差動出力をより十分に確保して、検知精度をより向上させることができる。
【0079】
図4(c)には、第1方向D1における基板10の縁10E1側にのみに凹部18を形成した例を示している。
【0080】
基板は、必ずしも、第1感温素子11と第2感温素子12との中間位置に対して対称に形成されるばかりではなく、図4(d)に示す基板10-4のように、第2の熱移動抑制部16の位置が中心線L1に対して非対称に形成されていてもよい。この第2の熱移動抑制部16は、第1領域R1と第2領域R2との境界部分に対して第1領域R1側にシフトしている。
【0081】
次に、図5(a)に示す基板10-5は、図4(c)および図4(d)を組み合わせ、かつ、第2の熱移動抑制部162および第2の熱移動抑制部163を付加した例である。
【0082】
図5(b)に示す基板10-6は、第2感温素子12側の縁10E2側にのみに凹部18が形成された例である。
【0083】
図5(c)に示す基板10-7において、絶縁被覆層Ly1は、第1領域R1と第2領域R2とを囲んでいる。絶縁被覆層Ly1により、第1領域R1および第2領域R2の少なくとも基板10-7の第2方向D2の剛性を向上させることができる。そうすると、空気の流動による基板10の面外方向への変位を抑えて、安定した検知温度を得ることができる。
【0084】
ところで、赤外線温度センサ1と測温対象物との間の距離に応じて、開口210Aから検知用空間S1に入射する赤外線の仰角は変化し、基板10において赤外線が入射する範囲は、この迎角によって変化する。それに加え、基板10において赤外線が入射する範囲は、基板10に形成された凹部や孔の内側、つまり第1の熱移動抑制部17や第2の熱移動抑制部16では赤外線が基板10に入射しないことに基づいて、熱移動抑制部17,16の大きさや位置、形状等によっても変化する。
仮に、第1感温素子11から第2感温素子12まで第1方向D1に基板10が連続しており、感温素子11,12の間で赤外線が基板10に入射する例を想定する。この例に対し、本実施形態のように、第1感温素子11と第2感温素子12との間に第2の熱移動抑制部16を設定することによれば、同一の迎角であっても、第2の熱移動抑制部16の位置で基板10への赤外線の入射を回避することができるため、赤外線入射範囲を限定することができる。
【0085】
図7に示す赤外線IR2,IR3から理解されるように、第1の熱移動抑制部17および第2の熱移動抑制部16のそれぞれの第1方向D1の幅の設定により、基板10において赤外線を受光可能な範囲r1を設定することができる。例えば、第1方向D1において第1の熱移動抑制部17の幅および第2の熱移動抑制部16の幅を増加させると、受光可能範囲r1が第1方向D1に減少し、第1方向D1において第1の熱移動抑制部17の幅および第2の熱移動抑制部16の幅を減少させると受光可能範囲r1は第1方向D1に増加する。
【0086】
図8には、第2の熱移動抑制部16を基板10に形成する代わりに、赤外線IR5を遮蔽する壁23を第1ケース20-1に設けた場合を例示している。この図8に示す例においては、壁23は、第1ケース20の鋳造や、深絞り加工等により形成される。
なお、図7に示すように、第2の熱移動抑制部16が基板10に形成されている場合には、壁23は必ずしも必要ない。そのため、壁23を設けるための製造工程や加工コストが増加することなく差動出力を十分に得ることができるので、製造コストを低減することができる。
壁23を設けることは、第2の熱移動抑制部16を設けることを妨げない。すなわち、第2の熱移動抑制部16を設けると共に、壁23を設けても良い。
【0087】
(第2の熱移動抑制部の変形例)
上記第2の熱移動抑制部16の変形例を列記する。
第2の熱移動抑制部16は、スリット状に限らず、任意の形状に形成することができる。例えば、第2の熱移動抑制部16が、円形の孔であったり、切欠であったりしてもよい。また、第2の熱移動抑制部16が、複数の開口の集合であってもよい。
【0088】
上記実施形態では、基板10の第1感温素子11と第2感温素子12との間を切り欠いて第2の熱移動抑制部16を形成した場合を例示しているが、第2の熱移動抑制部16は、基板10を加工等して形成する場合に限られない。例えば、単一の基板10を用いる代わりに2枚の基板を第1方向D1の中心線L1に沿って所望の間隔をおいて並べて配置することで第2の熱移動抑制部16を形成しても良い。
【0089】
上述したように、第1感温素子11と第2感温素子12との間の熱伝導を抑制することが出来れば、第2の熱移動抑制部16も、必ずしも空隙(空間)である必要はない。上述した第1の熱移動抑制部17と同様に、第2の熱移動抑制部16に基板10およびケース2よりも熱伝導率が低い物質からなる固体や液体、例えば、基板10およびケース2よりも熱伝導率が低いセラミック系の材料からなる固体(グラスウール等)を介在させても良い。
【0090】
(ケースの変形例)
ケース2は、基板10の裏面10Bを覆う第2ケース30を備えていることが好ましい。但し、第2ケース30に代えて、赤外線温度センサ1の設置対象である部材により基板10の裏面10Bが覆われる場合は、必ずしもケース2が第2ケース30を備えていなくてもよい。
【0091】
また、ケース2は、複数の部材から構成されていてもよい。例えば、ケース2は、第1感温素子11を収容する第1ケースと、第2感温素子12を収容する第2ケースとから構成しても良い。
【0092】
凸部21や凸部31には適宜な形状を与えることができ、また、凸部21や凸部31は必ずしも必要ない。例えば、凸部21において、赤外線を入射させる基板領域に対応する範囲は、基部22と同じ高さに、平坦に形成されていてもよい。
また、第1ケース20には、開口210Aが必ずしも形成されていなくてもよい。赤外線を入射させる基板領域は、部材により覆われることなく、第1ケース20の外部に開放されていれば足りる。
ここで、第1ケース20に形成されている凸部21の有無及び形状は、本件発明にかかる赤外線温度センサの使用環境等により適宜決定される。すなわち、凸部21は必ずしも必要ではなく、矩形状に形成する必要もない。凸部21の形状は、例えば、半球状や錘台状、柱状等に形成しても良い。
また、上記実施形態において、プレス打ち抜き等により開口210Aを第1ケース20に形成した場合を例示しているが、測温対象物から放射された赤外線に対して第1感温素子11が設けられた領域R1を露出させることが出来れば、必ずしも開口210Aは必要ない。また、開口210Aの部分をメッシュ状に形成したり、透明状の部材で形成したりしても良い。
【0093】
(画像形成装置への適用例)
図9および図10を参照し、赤外線温度センサ1を画像形成装置の一例としてのレーザプリンタ9に適用した例を簡単に説明する。
レーザプリンタ9は、図9に示すように、感光体ベルト91と、帯電器92と、露光装置93と、現像器901~904と、案内ローラ94と、中間転写ユニット95と、給紙カセット96と、給紙ローラ97と、転写ローラ98と、定着器99と、レジストローラ910と、排紙ローラ911と、排紙トレイ912と、レーザプリンタ9の各部を制御する制御装置900とを備えている。
【0094】
定着器99は、加圧ローラ991および加熱ローラ992を含んでいる。加熱ローラ992は、熱源としての図示しないヒータを内蔵している。
【0095】
赤外線温度センサ1は、図10に示すように、温度検知の対象物である加熱ローラ992の表面から赤外線が照射される位置に設置され、赤外線を検知する。この赤外線温度センサ1は、定着器99の筐体等の支持部材に取り付けることができる。
【0096】
図10に示す設置例では、加熱ローラ992の軸線Aに対して直交する方向(第1方向D1)に第1感温素子11と第2感温素子12とが並んでいる。電線15は、軸線Aの方向(第2方向D2)に沿って引き出される。図10に示す設置例において、基板10に入射可能な赤外線の入射角はθ0であるものとする。軸線Aから基板10に対して引いた垂線L2は第1感温素子11に到達する。
【0097】
レーザプリンタ9による画像形成のプロセスとしての帯電、露光、現像、および転写を経て、定着のプロセスでは、カラートナー像が転写された記録用紙913が、定着器99の加圧ローラ991と加熱ローラ992との間に向けて送り出される。加圧ローラ991と加熱ローラ992との間を通過する間に記録用紙913が加圧および加熱されることで、記録用紙913にカラートナー像が定着される。その後、記録用紙913は、排紙ローラ911を経て排紙トレイ912に排出される。
【0098】
制御装置900は、赤外線温度センサ1および赤外線温度センサ1が接続された制御回路により得られる温度測定値を用いて、加熱ローラ992のヒータへの通電状態を制御している。制御装置900は、例えば、温度測定値が閾値を超えたならば、加熱ローラ992のヒータへの通電を停止する。
上述したように赤外線温度センサ1によれば、差動出力を十分に得て検知精度を担保することができ、小型化の促進により応答性を向上させることができる。この赤外線温度センサ1により、加熱ローラ992の表面温度が追従性良く正確に測定されることで、測定の応答の遅れや測定値の誤差を見込んで加熱ローラ992をヒータにより余分に加熱することなく、ヒータの通電状態を適切に制御することができる。ヒータへの通電を停止するための検知温度の閾値を下げても、加熱に過不足を生じさせずに、省電力を図ることができる。
【0099】
(赤外線温度センサの第1変形例)
図11(a)および(b)は、赤外線の入射角θを制限するために第1ケース20における開口210Aの近傍に突片25(突起)を設けた例を示している。図11(a)に示す赤外線温度センサ3に備わる第1ケース20-2は、基板10を覆う第1ケース20-2の部位から突出した一対の突片25を含んでいる。図11(a)に示す例では、突片25は凸部21の頂部210に対して、基板10から離れる向きに突出している。第1ケース20-2が凸部21を備えていない場合は、基部22から突片25が突出していてもよい。突片25は、開口210Aのプレス打ち抜き加工に伴うプレス曲げ加工により、基部22および凸部21と一体に形成することができる。一対の突片25は、矩形状であり、第1感温素子11の位置を中心として第1方向D1に対称に形成されている。一対の突片25のうち、いずれか一方のみを第1ケース20に形成することも可能である。
【0100】
突片25が存在していると、図11(b)に示すように、加熱ローラ992等の測温対象物から放射される赤外線が基板10に入射可能な角度である入射角θが、突片25が存在していない場合の入射角(例えば図10に示すθ0)と比べて狭くなり、基板10における受光範囲も狭くなる。
なお、突片25は、頂部210から基板10に近接する向きに突出するように形成されていてもよく、その場合も入射角θを制限することができる。
【0101】
差動出力が十分に得られることを限度として入射角θが制限されることにより、赤外線温度センサ3の取付位置の誤差による検知誤差を低減することができる。
【0102】
(赤外線温度センサの第2変形例)
本発明の赤外線温度センサ1の基板、基板上の配線パターン等には、種々の形態を採用しうる。
上述の実施形態(図3)とは異なり、第1感温素子11および第2感温素子12が、基板10の長手方向(第2方向D2)に並んで配置されていてもよい。この場合に、端子パターン141~143は、基板10の長手方向の一端側に配置されていても、基板10の短手方向の一端側に配置されていてもよい。後者の一例を後述する(図13および図14)。
【0103】
第1方向D1に第1感温素子11および第2感温素子12が並び、同じ方向に電線15が引き出されている構成も許容される。
【0104】
例えば、図12に示す基板10-7は、第1感温素子11が設けられた第1基板10-71と、第1基板10-71に対して全体的に分離し、第2感温素子12が設けられた第2基板10-72とからなる。
第1基板10-71および第2基板10-72は、第2の熱移動抑制部16,162,163を挟んで隣接した状態に配置される。基板10-71,10-72はそれぞれ、感温素子(図示省略)や配線パターン131~134が配置される箇所を残しつつ、第1領域R1と第2領域R2との間で切り欠かれている。
【0105】
第1基板10-71および第2基板10-72は、第2ケース30-2の基部32-2と、図示しない第1ケースの基部との間に支持される。第2ケース30-2に形成されているかしめ片34が第1ケースの外周部にかしめられることにより、第2ケース30-2と第1ケースとが接合される。
【0106】
(赤外線温度センサの第3変形例)
図13および図14に示す赤外線温度センサ1-1は、第1感温素子11、第2感温素子12、配線パターン131~134、および端子パターン141~143が実装された基板10と、第1ケース20および第2ケース30からなるケース2とを備えている。第1感温素子11と第2感温素子12は、基板10の長手方向に並んで配置されている。そのため、基板10の長手方向が、第1感温素子11および第2感温素子12が並ぶ第1方向D1に該当し、基板10の短手方向が、第2方向D2に該当する。
【0107】
第2方向D2における基板10の両端部には、第2方向D2の内側に向けて窪んだ複数の凹部18が形成されている。凹部18の形成により、基板10の両端部には、ケース2から離間した抑制縁18Aが形成されている。抑制縁18Aとケース2の内周縁22A,32Aとの間には、空隙としての第1の熱移動抑制部17が形成されている。
【0108】
基板10上における第1感温素子11と第2感温素子12との間には、貫通孔16Aの形成により第2の熱移動抑制部16が形成されている。第2熱移動抑制部16は、ケース2の第2方向D2の両側の内周縁間に亘り第2方向D2に延びている。基板10は、第2の熱移動抑制部16が形成されている箇所で、第2方向D2の両側へ内周縁22A,32Aを超える位置まで突出した一対の突出部101を備えている。一対の突出部101は、第1ケース20と第2ケース30との間に挟まれて支持される。
【0109】
基板10の第1方向D1の一端側に配列された端子パターン141~143から第1感温素子11と第2感温素子12とに配線パターン131~134が引き回されている。配線パターン134は第1感温素子11と第2感温素子12とを接続している。
【0110】
本例のように基板10の長手方向(第1方向D1)に第1感温素子11および第2感温素子12が並べられていると、加熱ローラ992(図9)をはじめ、軸方向に長い長尺の測温対象物の軸方向に電線15を引き出し易い。
また、赤外線温度センサ1-1が測温対象物の軸方向に沿って設置されると、図19を参照して後述するのと同様に、赤外線温度センサ1-1の設置の向きによらず、測温対象物と赤外線温度センサ1-1との間の雰囲気に生じる熱勾配が赤外線温度センサ1-1に与える影響を一定にすることができる。
【0111】
(感温素子の変形例)
第1感温素子11および第2感温素子12には、特許第6530569号に開示された感熱体としてのサーミスタ焼結体を用いることができる。
当該サーミスタ焼結体は、Y相と、Y(Cr,Mn)O相またはYMnO相と、を備え、Crに対してMnがリッチであり直方晶系の結晶構造を含む焼結体からなり、下記式(1)で求められるB定数(B(0/1000))が2400K以下である。
B=(lnRm-lnRn)/(1/Tm-1/Tn) …(1)
Rm:0℃における抵抗値 Rn:1000℃における抵抗値
Tm:0℃ Tn:1000℃
【0112】
「B定数」は、平均抵抗温度係数であり、下記の式により定義される。
B=(lnRm-lnRn)/(1/Tm-1/Tn)
Rm:温度Tmにおける抵抗値 Rn:温度Tnにおける抵抗値
【0113】
特許第6530569号に開示されたサーミスタ焼結体を感熱体として用いる赤外線温度センサ1によれば、1000℃を含む広い温度域に亘り、B定数を低く抑えて正確に温度を検知することができる。
そうすると、広い雰囲気温度域に亘り、赤外線温度センサ1の出力を安定化させることができ、温度検知の対象物の温度変化に対して、電圧感度を安定化させることができる。
【0114】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態(図15図19)に係る赤外線温度センサ1-2について説明する。
以下、第1実施形態とは相違する事項を中心に説明する。第1実施形態と同様の構成要素には同様の符合を付している。上述した種々の変形例は、第2実施形態にも採用可能である。
赤外線温度センサ1-2は、上述した第1の熱移動抑制部17に代えて、第3の熱移動抑制部19を備えている。
【0115】
(全体の構成)
図15および図16に示すように、赤外線温度センサ1-2は、第1感温素子11および第2感温素子12が配設される矩形状の基板110と、基板110を支持し、内側に第1感温素子11および第2感温素子12を収容するケース2-2とを備えている。
基板110およびケース2-2のそれぞれの構成は、第1実施形態の基板10およびケース2と同様である。
【0116】
基板110は、例えば、上述した基板10と同様の樹脂材料を用いてフィルム状に形成されている。ケース2-2は、例えば、上述したケース2と同様の金属材料から形成されている。
ケース2-2は、基板110の一部を除いて、基板110を表面10A側から覆う第1ケース120と、基板110を裏面10B側から覆う第2ケース130とを備えている。
第2実施形態では、第1実施形態とは異なり、基板110の長手方向に第1感温素子11と第2感温素子12とが並んでいる。そのため、基板110の長手方向は、第1感温素子11および第2感温素子12が並ぶ第1方向D1に該当し、基板10-2の短手方向は、第2方向D2に該当する。
【0117】
(ケースの構成)
第1ケース120は、平面視で略矩形状の凸部21と、凸部21の周りに位置する基部22とからなり、全体の外形が平面視で略矩形状に形成されている。
凸部21の頂部210には、第1感温素子11に赤外線を入射させるための略矩形状の開口210Aが形成されている。開口210Aは導光部に相当し、頂部210における開口210A以外の部分は、遮光部に相当する。基板110には、導光部に対応する第1領域R1と、遮光部に対応する第2領域R2とが設定される。
【0118】
第2ケース130は、平面視で略矩形状の凸部31と、基部32と、矩形状の電線接続用孔33-2とからなり、全体の外形が平面視で略矩形状に形成されている。
第1ケース120と第2ケース130とが組み付けられると、凸部21の壁(210B)の位置と凸部31の壁の位置とが一致する。凸部21,31のそれぞれの基端は、基部22および基部32のそれぞれの内周縁22A,32Aに相当する。
基部32と基部22とは、基板110を間に挟んだ状態で、例えば、第1ケース120に設けられた複数の接合用突起140をかしめることで接合されている。第1ケース120および第2ケース130が基板110を挟んで接合されると、ケース2-2の内部には検知用空間が形成される。
電線接続用孔33-2は、第1方向D1における第2ケース130の一端部に位置しており、この電線接続用孔33-2から電線151~153が引き出される。
【0119】
(基板の構成)
図16には、第1ケース120および基板110を基板110の裏面10B側から示す。第2ケース130を二点鎖線により示す。
基板110は、外形が矩形状に形成されている。第2方向D2における基板110の両端は、縁110Eに相当する。
基板110の第1方向D1の寸法は、ケース2-2の第1方向D1の一端から他端までの寸法に相当する。基板110の第2方向D2の寸法は、ケース2-2の第2方向D2における寸法よりもやや小さい。基板110は、第2方向D2の両端部がケース2-2に支持されるように、ケース2-2に対して位置決めされる。
【0120】
基板110におけるケース2-2の内周縁22A,32Aの近傍には、厚さ方向に貫通した一対の第1貫通孔18-1および一対の第2貫通孔18-2が形成されている。第1貫通孔18-1は、第2方向D2における第1感温素子11の両側に配置されている。第2貫通孔18-2は、第2方向D2における第2感温素子12の両側に配置されている。第1貫通孔18-1および第2貫通孔18-2を含む基板110の全体形状は、第1方向D1に延びて第1感温素子11および第2感温素子12を通る中心線L3に対して対称に形成されている。
第1貫通孔18-1および第2貫通孔18-2はそれぞれ、第1方向D1に延びるケース2-2の内周縁22A,32Aに沿って略矩形状に形成されている。
なお、第1貫通孔18-1および第2貫通孔18-2は、必ずしも、内周縁22A,32Aに対して平行である必要はなく、内周縁22A,32Aに対して傾斜していてもよい。
【0121】
図16および図17に示すように、第1貫通孔18-1の内側の領域において、第2方向D2の中心側の端縁のことを基板110の内縁18Cと称する。内縁18Cは、ケース2-2の内側である検知用空間に存在する。内周縁22A,32Aは、第1貫通孔18-1の領域の範囲内に位置している。このとき、第1貫通孔18-1の第2方向D2における孔外端18Dは、内周縁22A,32Aよりも第2方向D2の外側に位置している。
第2貫通孔18-2にも、同様の内縁18Cおよび孔外端18Dが存在する。
【0122】
基板110は、ケース2-2に支持される被支持部180を含んでいる。被支持部180は、ケース2-2の第2方向D2の両側の長辺と、第1方向D1の両側の短辺とを含む範囲に亘り、基部22と基部32との間に挟まれている。被支持部180は、基板110において第1貫通孔18-1および第2貫通孔18-2のそれぞれよりも第2方向D2の外側の部分を含む。
【0123】
内縁18Cと、被支持部180およびケース2-2の内周縁22A,32Aとの間には、第3の熱移動抑制部19が形成されている。孔外端18Dは、内周縁22A,32Aに対して第2方向D2の外側に位置している。第3の熱移動抑制部19は、内縁18Cと内周縁22A,32Aとの間の空隙に相当する。第3の熱移動抑制部19には基板110と比べて熱伝導率が低い空気が存在することに基づいて、第3の熱移動抑制部19は、基板110とケース2-2との間の熱の移動を抑制する。空隙を基板110とケース2-2との間に生じせしめるように、孔外端18Dの第1方向D1における少なくとも一部が、図17(a)に示すように、内周縁22A,32Aよりも第2方向D2の外側に位置しているか、あるいは、図17(b)に示すように、内周縁22A,32A上に位置しているとよい。孔外端18Dの一部でも、内周縁22A,32Aよりも第2方向D2の外側に位置しているならば、基板110とケース2-2との間に空隙が存在する。
【0124】
図17(a)および(b)のいずれに該当する場合でも、第3の熱移動抑制部19は、内縁18Cと、被支持部180およびケース2-2の内周縁22A,32Aとの間に形成されている。
【0125】
第1貫通孔18-1の長さおよび幅、第1貫通孔18-1と第1感温素子11との相対位置は、基板110を通じたケース2-2と第1感温素子11との間の熱移動抑制を考慮して適宜に設定することができる。第2貫通孔18-2の長さおよび幅、第2貫通孔18-2と第2感温素子12との相対位置についても、基板110を通じたケース2-2と第2感温素子12との間の熱移動抑制を考慮して適宜に設定することができる。
本実施形態において、第1貫通孔18-1の第1方向D1における中心は、第1感温素子11の第1方向D1における位置と一致している。そうすると、第1感温素子11およびその周囲の領域とケース2-2との間の熱移動抑制作用を第1方向D1において均一化させ易い。同様に、第2貫通孔18-2の第1方向D1における中心は、第2感温素子12の第1方向D1における位置と一致している。そうすると、第2感温素子12およびその周囲の領域とケース2-2との間の熱移動抑制作用を第1方向D1において均一化させ易い。
【0126】
基板110の第1感温素子11と第2感温素子12との間には、第2の熱移動抑制部16が形成されている。第2の熱移動抑制部16の構成は、第1実施形態の第2の熱移動抑制部16と同様であるため、説明を省略する。
【0127】
(基板のパターンの構成)
次に、基板110に施された複数のパターン40について説明する。
図16に示す如く、基板110には、第1感温素子11および第2感温素子12と、第1、第2感温素子11,12に接続された複数のパターン40とが実装されている。
基板110の裏面10B側には、絶縁性を有する絶縁被覆層Lyが設けられている。絶縁被覆層Lyは、第1感温素子11およびその周囲と、第2感温素子12およびその周囲と、電線151~153とパターン40との接続に必要な箇所とを除いて、裏面10Bの全域に設けられている。第1、第2感温素子11,12の付近における絶縁被覆層Lyの縁をLyEで示す。
【0128】
各パターン40は、銅等の金属材料からなる導体である。複数のパターン40には、第1~第3パターン41~43が含まれる。
第1パターン41は、第1感温素子11と、電気回路150に第1感温素子11を接続するための電線151とに接続される。第2パターン42は、第2感温素子12と、電気回路150に第2感温素子12を接続するための電線152とに接続される。第3パターン43は、第1感温素子11および第2感温素子12と、電気回路150に第1感温素子11および第2感温素子12の双方を電気的に接続するための電線153とに接続される。
電気回路150は、第1感温素子11と第2感温素子12の電気信号の電位差に基づいて、測温対象物の温度を検出する。電気回路150と、赤外線温度センサ1-2とを備えることにより、温度検出装置が構成される。
【0129】
第1パターン41は、電線151の図示しない芯線が接合される端子部411と、端子部411から第1感温素子11へと延びる配線部412とを備えている。同様に、第2パターン42は、電線152の芯線が接合される端子部421と、端子部421から第2感温素子12へと延びる配線部422とを備えている。また、第3パターン43は、電線153の芯線が接合される端子部431と、端子部431から第1感温素子11へと延びる第1配線部432と、端子部431から第2感温素子12へと延びる第2配線部433とを備えている。
【0130】
端子部411,421,431が第2方向D2に並んだ接続領域40Cは、第1方向D1における基板110の一端部に配置されている。第1方向D1において、接続領域40Cは第2感温素子12に対して相対的に近く、第1感温素子11に対して相対的に遠い。
【0131】
配線部412,422,432,433の引き回しの形態としては、それら配線部412,422,432,433のいずれも、図16に示すように、第1方向D1における第1、第2感温素子11,12の間の中間領域Mに対する外側を通って接続領域40Cまで引き回されていることが好ましい。そうすると、第1感温素子11と第2感温素子12との間には、極力、パターン40が存在しないようにすることができるので、第1感温素子11から第2感温素子12へのパターン40の一部を通じた熱の移動による出力損失を回避可能となる。
【0132】
また、第1感温素子11に接続される配線部412,433に対して第1ダミー部441が付加されている。また、第2感温素子12に接続される配線部422,432に対して第2ダミー部442が付加されている。第1ダミー部441および第2ダミー部442は、銅等の金属材料からなる導体である。第1ダミー部441および第2ダミー部442は、電気的接続には供されない。第1ダミー部441の付加により基板110の第1領域R1における温度分布が均一化され、第2ダミー部442の付加により第2領域R2における温度分布が均一化される。
【0133】
配線部412,422,432,433は、全体として、第1方向D1に沿った中心線L3に対して概ね対称に形成されている。また、配線部412,422,432,433は、全体として、第1感温素子11および第2感温素子12のそれぞれから等しい距離にある第2方向D2に沿った中心線L4に対しても概ね対称に形成されている。
【0134】
図18を参照し、配線部412,422,432,433の引き回し経路を具体的に説明する。図18において、第1パターン41の配線部412は実線で示され、第2パターン42の配線部422は破線で示され、第3パターン43の配線部432,433は一点鎖線で示されている。第1ダミー部441および第2ダミー部442は二点鎖線で示されている。
【0135】
端子部411,431のそれぞれから第1感温素子11へと延びる配線部412,433の経路には、基板110の被支持部180における第2方向D2の両側の部位である第1被支持部181と第2被支持部182とが用いられる。
【0136】
配線部412は、第1被支持部181を通り、第1感温素子11に向けて第1方向D1に延び、第1感温素子11に対して中間領域M側から接続されている。
一方、配線部433は、第2被支持部182を通り、第1感温素子11に向けて第1方向D1に延び、第1方向D1における外側から第1感温素子11に対して接続されている。
第1ダミー部441の一端側は第1感温素子11に接続されているが、第1ダミー部441の他端側は他の導体には接続されていない。第1ダミー部441は、同じく第1感温素子11に接続される配線部412および配線部433と熱的に結合している。第1ダミー部441は、配線部412および配線部433と共に、第1感温素子11の周囲で、第1方向D1に沿って並んでいる。これら配線部412,433,および第1ダミー部441は、第2方向D2において等しい間隔で並び、全体として櫛形に形成されている。これら配線部412,433,および第1ダミー部441は、第1感温素子11の周囲に、第1感温素子11に対して第2方向D2へ対称に配置されている。
【0137】
端子部421,431のそれぞれから第2感温素子12へと延びる配線部422、432の経路には、端子部421,431と第2感温素子12との間の領域が用いられる。
配線部422は、端子部421から中心線L3上を延びて第2感温素子12へ第1方向D1における外側から接続されている。
一方、配線部432は、端子部431から中心線L3に対して平行に延び、第2感温素子12に対して中間領域M側から接続されている。
第2ダミー部442の一端側は第2感温素子12に接続されているが、第2ダミー部442の他端側は他の導体には接続されていない。第2ダミー部442は、同じく第2感温素子12に接続される配線部422および配線部432と熱的に結合している。第2ダミー部442は、配線部422および配線部432と共に、第2感温素子12の周囲で第1方向D1に沿って並んでいる。これら配線部422,432,および第2ダミー部442は、第2方向D2において等しい間隔で並び、全体として櫛形に形成されている。これら配線部422,432,および第2ダミー部442は、第2感温素子12の周囲に、第2感温素子12に対して第2方向D2へ対称に配置されている。
【0138】
配線部412,422,432,433およびダミー部441,442の上述した配置は、あくまで一例であり、適宜に改変することができる。例えば、配線部412の第1感温素子11側の経路を、第1方向D1の外側から第1感温素子11に向けて直進するように変更するとともに、配線部433の経路を、第1方向D1の中心側から第1感温素子11に向かうように変更する。加えて第1ダミー部441を、図18における配線部412の位置に設ける。そうすることによっても、図18と同様に櫛形の配置を第1感温素子11の周囲に与えることができる。
なお、櫛形に限らず、配線部の適宜なレイアウトにより、第1感温素子11や第2感温素子12の周囲に、当該感温素子に対して配線部を対称に配置することが可能である。
【0139】
(第2実施形態による作用効果)
以上で説明した第2実施形態の赤外線温度センサ1-2によれば、第3の熱移動抑制部19によりケース2-2と基板110との間の熱の移動が抑制されることで、第1感温素子11と第2感温素子12との差動出力を十分に得て検知精度を向上させることができる。検知精度の向上によれば、第1実施形態で上述したように赤外線温度センサ1-2の小型化を促進させて、応答性を向上させることができる。
加えて、例えば第1貫通孔18-1および第2貫通孔18-2からなる第3の熱移動抑制部19によれば、第1実施形態の第1の熱移動抑制部17とは異なり、第3の熱移動抑制部19よりも外側にもケース2-2に支持可能な部位を残し、被支持部180の長さを基板110の縁110Eの延出方向に拡大することができる。そうすると、ケース2-2に基板110を安定して支持することができるので、基板110の支持強度を十分に確保することができる。
【0140】
また、第1感温素子11と第2感温素子12との間に例えば貫通孔16Aの形成により第2の熱移動抑制部16が形成されていることによっても、第1感温素子11と第2感温素子12との差動出力をより十分に確保して、検知精度をより向上させることができる。
なお、第3の熱移動抑制部19を設けることのみによる熱移動の抑制によって、十分な差動出力を実現できる場合は、第2の熱移動抑制部16は必ずしも必要ない。
【0141】
第3の熱移動抑制部19は、必ずしも空隙(空間)である必要はない。空隙の代わりに、または空隙とともに、熱伝導を抑制できる物質が第1貫通孔18-1や第2貫通孔18-2の内側に設けられていても良い。
また、第3の熱移動抑制部19は、必ずしも基板110の厚さ方向全体に亘り形成されている必要はない。例えば、多層の基板110の一部の層を欠損させると、欠損箇所に第3の熱移動抑制部19が形成される。
【0142】
(ローラ等の測温対象物への適用例)
図19(a)および(b)を参照し、本実施形態の赤外線温度センサ1-2の加熱ローラ992への適用例を説明する。加熱ローラ992は、レーザプリンタ9(図9)の定着器99に備えられている。
【0143】
図19(a)に示すように、赤外線温度センサ1-2は、基板110の長手方向(第1方向D1)が加熱ローラ992等の測温対象物の軸方向と一致するように、測温対象物の表面に対向させて設置することができる。
図19(b)に示すように、赤外線温度センサ1-2は、加熱ローラ992の表面からの赤外線の入射角θ0を考慮して設置される。加熱ローラ992の軸線Aから基板110に対して引いた垂線L2が第1感温素子11に到達する。なお、垂線L2に対する第1感温素子11の位置ずれは許容される。
【0144】
赤外線温度センサ1-2を設置する向きを、図19(a)にLで示す状態からRで示す状態へと入れ替えるものとする。このとき、加熱ローラ992の軸方向において第1感温素子11および第2感温素子12の位置が入れ替わっても、第1、第2感温素子11,12の上下方向における位置関係は変化しない。
【0145】
赤外線温度センサ1-2のように基板110の長手方向(第1方向D1)に第1感温素子11および第2感温素子12が並べられていると、加熱ローラ992をはじめ、軸方向に長い長尺の測温対象物の軸方向に電線151~153を引き出し易い。その上、赤外線温度センサ1-2が測温対象物の軸方向に沿って設置されると、加熱ローラ992と赤外線温度センサ1-2との間の雰囲気に生じる熱勾配による赤外線温度センサ1-2への影響が、赤外線温度センサ1-2の設置の向きをLの状態からRの状態に変更した場合でも同等となる。当該熱勾配は、対流に伴い加熱ローラ992と赤外線温度センサ1-2との間に生じ、軸線Aよりも鉛直方向の上側の温度は、軸線Aよりも鉛直方向下側の温度に対して高い。当該熱勾配による赤外線温度センサ1-2への影響が赤外線温度センサ1-2の設置の向きによらないので、赤外線温度センサ1-2の設置の向きを入れ替えることにより出力特性に影響がない。
【0146】
第2実施形態の熱移動抑制部19は、第1実施形態のように基板10の短手方向に第1感温素子11および第2感温素子12が並んでいる場合にも適用可能である。
第2実施形態における配線部412,422,432,433のそれぞれの経路(図17および図18)、およびダミー部441,442の付加もまた、第1実施形態のように基板10の短手方向に第1感温素子11および第2感温素子12が並んでいる場合にも適用可能である。
【0147】
上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0148】
1,1-1,1-2 赤外線温度センサ
2,2-1,2-2 ケース
9 レーザプリンタ
10,10x,110 基板
10A 表面
10B 裏面
10C,10D,10F,10G 位置決め用孔
10-1~10-7 基板
10-71,10-72 基板
10E,10E1,10E2,110E 縁
11 第1感温素子
12 第2感温素子
15 電線
16 第2の熱移動抑制部
16A 貫通孔
17 第1の熱移動抑制部
18 凹部
18-1 第1貫通孔
18-2 第2貫通孔
18A 抑制縁(第1縁)
18B 隣接縁(第2縁)
18C 内縁
18D 孔外端
19 第3の熱移動抑制部
20,20-1,20-2,120 第1ケース
21 凸部
22 基部
22B 位置決め用孔
22A 内周縁
23 壁
25 突片(突起)
30,30-2,130 第2ケース
31 凸部
32,32-2 基部
32A 内周縁
32B 位置決め用孔
33 切欠
33-2 電線接続用孔
34 かしめ片
40 パターン
40C 接続領域
41 第1パターン
42 第2パターン
43 第3パターン
91 感光体ベルト
92 帯電器
93 露光装置
94 案内ローラ
95 中間転写ユニット
96 給紙カセット
97 給紙ローラ
98 転写ローラ
99 定着器(定着ユニット)
101 突出部
131~134 配線パターン
140 接合用突起
141~143 端子パターン
150 電気回路
151~153 電線
162 第2の熱移動抑制部
163 第2の熱移動抑制部
180 被支持部
181 第1被支持部
182 第2被支持部
210 頂部
210A 開口
210B 壁
310 頂部
310B 壁
411,421,431 端子部
412,422,432,433 配線部
441 第1ダミー部
442 第2ダミー部
900 制御装置
901~904 現像器
910 レジストローラ
911 排紙ローラ
912 排紙トレイ
913 記録用紙(記録媒体)
991 加圧ローラ
992 加熱ローラ(測温対象物)
A 軸線
D1 第1方向
D2 第2方向
IR2,IR3,IR5 赤外線
L1,L3,L4 中心線
L2 垂線
Ly,Ly1 絶縁被覆層
LyE 縁
M 中間領域
P1,P2 部位
R1 第1領域
r1 受光可能範囲
R2 第2領域
S1 検知用空間
θ,θ0 入射角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19