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  • 特許-乾燥食品及び乾燥食品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-13
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】乾燥食品及び乾燥食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 17/40 20160101AFI20220118BHJP
【FI】
A23L17/40 C
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021542543
(86)(22)【出願日】2021-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2021012292
【審査請求日】2021-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2020063852
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003274
【氏名又は名称】マルハニチロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 明子
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第02/065856(WO,A1)
【文献】特開平05-103586(JP,A)
【文献】特開平05-308897(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 17/00-17/60
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貝類を含む乾燥食品であって、
環状オリゴ糖を0.5~5.0重量%含む水溶液を貝類に浸透させ、
前記環状オリゴ糖が浸透した前記貝類を、水分量が6.0重量%以下となるまで乾燥させることで製造された、
乾燥食品。
【請求項2】
前記水溶液が50~90℃である、請求項1に記載の乾燥食品。
【請求項3】
貝類を含む乾燥食品の製造方法であって、
環状オリゴ糖を0.5~5.0重量%含む水溶液を貝類に浸透させる、浸透工程;及び
前記環状オリゴ糖が浸透した前記貝類を、水分量が6.0重量%以下となるまで乾燥させる、乾燥工程
を含む、方法。
【請求項4】
前記水溶液が50~90℃である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記乾燥工程は、前記環状オリゴ糖が浸透した前記貝類を凍結乾燥させる工程を含む、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記水溶液の塩化ナトリウム含有量が5.0重量%以下である、請求項3~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記貝類が、内臓付きのむき身である、請求項3~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
貝類を含む乾燥食品であって、
少なくとも貝類の水分量が6.0重量%以下であり、
前記貝類中に0.5~5.0重量%の環状オリゴ糖を含む、
乾燥食品。
【請求項9】
凍結乾燥食品である、請求項に記載の乾燥食品。
【請求項10】
塩化ナトリウム含有量が、10重量%以下である、請求項8又は9に記載の乾燥食品。
【請求項11】
前記貝類が、内臓付きのむき身として含まれる、請求項8~10のいずれか1項に記載の乾燥食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貝類を含む乾燥食品、及び貝類を含む乾燥食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
保存食品の形態の一つとして、乾燥食品、特に凍結乾燥(「フリーズドライ」ともいう)食品が広く使用されている。凍結乾燥食品は、腐敗等が生じにくく長期間の保存に適するのみでなく、軽量で保存運搬に適すること、熱湯をかけることで比較的短時間に乾燥前に近い状態に復元することができることから、保存食品として広く使用されている。凍結乾燥食品は、通常、多孔質構造を有し、比表面積が高いことが特徴である。この構造は、熱湯での短時間の復元を可能とする一方で、保存時に含有成分の酸化を生じやすい。
【0003】
凍結乾燥食品には、熱湯により早く確実に乾燥前に近い状態に復元できること(以下、「復元性」とも称する)が望まれる。凍結乾燥食品においては、凍結乾燥前の工程で使用する調味料等の他、加熱条件などの各条件によっては、食品への水の浸透を阻害してしまい、凍結乾燥後の復元に時間がかかる、復元時に部分的に復元しにくい箇所が芯のように感じられる、等の問題が生じるおそれがあった。
【0004】
特許文献1には、貝類の乾燥食品を製造する際に、乾燥前の貝類の内臓部を摘出してから乾燥させる方法が開示されている。この方法では、貝類の内臓に含まれる不飽和脂肪酸に富む脂質が酸化しやすく、保存中の貝類の酸化した脂質による異臭が発生しやすいため、予め内臓部を摘出して食品の異臭発生を抑制している。
【0005】
特許文献2には、内臓付き貝類を含む凍結乾燥食品の製造において、凍結乾燥前の内臓付きの貝類に、セロリ、オニオン、ガーリック、ジンジャー、パクチー等の香辛野菜成分と、コショウ、ターメリック、ローレル、コリアンダー、タイム、セージ等の香辛料成分とを浸透させ、凍結乾燥後の内臓臭の生成を抑制する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-106849号公報
【文献】特開2008-161117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の方法は、乾燥食品の不快な風味の発生を抑制する一定の効果は期待できるが、内臓の除去により貝類の身が本来の形状ではなくなり、製品としての外観がすぐれないものとなってしまう。また、喫食時に、貝類の内臓により得られる貝類本来の好ましい風味が得られない、という問題もあった。特許文献2に記載の方法は、内臓付きの貝類の凍結乾燥食品の内臓臭を抑制する方法は開示されているが、内臓臭を抑えるために使用する香辛野菜成分、香辛料成分等の凍結乾燥食品の復元性に与える影響については特に言及されていない。
【0008】
本発明は、貝類の酸化による風味の劣化が生じにくく、かつ、熱湯による復元性の高い乾燥食品を提供することを目的とする。また、本発明は、貝類の酸化による風味の劣化が生じにくく、かつ、熱湯による復元性の高い乾燥食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、乾燥前の貝類を含む食品に所定量の環状オリゴ糖を含有させることで、乾燥後の風味の劣化を抑制でき、かつ、熱湯による復元性を維持できることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下を提供するものである。
1.貝類を含む乾燥食品であって、環状オリゴ糖を0.1~10重量%含む水溶液を貝類に浸透させ、前記環状オリゴ糖が浸透した前記貝類を、水分量が6.0重量%以下となるまで乾燥させることで製造された、乾燥食品。
2.貝類を含む乾燥食品の製造方法であって、環状オリゴ糖を0.1~10重量%含む水溶液を貝類に浸透させる、浸透工程;及び、前記環状オリゴ糖が浸透した前記貝類を、水分量が6.0重量%以下となるまで乾燥させる、乾燥工程を含む、方法。
3.前記乾燥工程は、前記環状オリゴ糖が浸透した前記貝類を凍結乾燥させる工程を含む、2の方法。
4.前記水溶液の塩化ナトリウム含有量が5.0重量%以下である、2又は3の方法。
5.前記貝類が、内臓付きのむき身である、2~4のいずれかの方法。
6.貝類を含む乾燥食品であって、少なくとも貝類の水分量が6.0重量%以下であり、前記貝類中に0.1~10重量%の環状オリゴ糖を含む、乾燥食品。
7.凍結乾燥食品である、6の乾燥食品。
8.塩化ナトリウム含有量が、10重量%以下である、6又は7の乾燥食品。
9.前記貝類が、内臓付きのむき身として含まれる、6~8のいずれかの乾燥食品。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2020-063852号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、貝類の内臓臭等による風味の劣化が生じにくく、かつ、熱湯による復元性の高い乾燥食品、及び貝類の内臓臭の発生等の風味の劣化が生じにくく、かつ、熱湯による復元性の高い乾燥食品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の製造方法の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、パーセント(%)表示は、他に説明がない限り、「重量%」を示す。本明細書で使用される「復元性」の用語は、熱湯をかけること(湯戻し)で、より早く、より乾燥前に近い状態に復元できることを指し、具体的には、乾燥前の食品の重量に対する乾燥後に湯戻しした食品の重量の割合(以下、「復元率」とも称する)、及び、パネラーによる「食感」の指標に基づいて評価されるものとする。
【0014】
<乾燥食品>
本発明の乾燥食品は、貝類を含む乾燥食品であって、水分量が6.0重量%以下であり、0.1~10重量%の環状オリゴ糖を含む、ことを特徴とする。
【0015】
本発明において、「乾燥食品」とは、水分量6.0重量%以下の食品を示すものとする。本発明の乾燥食品の水分量は、3.0重量%以下とすることが好ましい。なお、「水分6.0%以下」は、「乾燥スープの日本農林規格」(昭和五十年五月三十日農林省告第六百二号)の乾燥ポタージュの規格(第4条)に準ずる。
【0016】
本発明において「水分量」とは、常圧加熱乾燥法を用いて測定する値を示す。具体的には、秤量済みの10gの乾燥食品を乾燥機を用いて105℃で4時間の条件で加熱し、加熱後の乾燥食品の重量変化に基づいて、下記式で算出される量をいう。
(加熱前重量-加熱後重量)/加熱前重量(%)
【0017】
本発明の「乾燥食品」は、水分量が6.0重量%以下の熱湯で復元できる食品であれば特に限定されないが、食品の風味を保ち、かつ、復元性を高めるために、凍結乾燥食品とすることがより好ましい。食品の凍結乾燥の条件等については、<乾燥食品の製造方法>の項で詳述する。
【0018】
本発明において「貝類」とは、貝殻を有する軟体動物を指し、喫食可能な貝類であれば特に限定されず、アサリ、シジミ、ホタテ、ハマグリ、サザエ、ツノガイ、カキ、ムール貝等のいずれであってもよい。特に、アサリを使用することができる。本発明で使用される貝類は、貝殻を外したむき身であることが好ましい。貝類のむき身は、内臓を外した状態としてもよいが、むき身の形状を保持し、かつ、貝類独特の風味を残すことが可能なことから、内臓付きとすることが好ましい。
【0019】
本発明において、「環状オリゴ糖」とは、シクロデキストリン(CD)とも称される、6~8個のブドウ糖がα-1,4グリコシド結合により結合し、環状構造をとったオリゴ糖を示す。CDは、通常、トウモロコシ等から得られたデンプンにシクロデキストリン合成酵素を反応させて製造されるが、使用する酵素の違いで、α-CD、β-CD又はγ-CDと異なるCDが製造される。α-CD、β-CD及びγ-CDを構成するグルコースの数は、それぞれ6個、7個及び8個である。また、「環状オリゴ糖」には、これらの誘導体も含まれる。すなわち、本発明の乾燥食品に含まれる「環状オリゴ糖」は、α-CD、β-CD、γ-CD及びこれらの誘導体からなる群より選択される1つ以上が含まれるものとする。本発明の乾燥食品に含まれる環状オリゴ糖は、例えば、市販の環状オリゴ糖製剤として製造工程で添加されてもよい。
【0020】
本発明の乾燥食品には、環状オリゴ糖が乾燥重量で0.1~10重量%含まれる。環状オリゴ糖の含有量は0.2~5.0重量%であることが好ましく、0.5~3.0重量%であることがより好ましい。環状オリゴ糖の含有量を0.1~10重量%とすることで、貝類の内臓臭の発生を抑えることができ、かつ、貝類への水の浸透が阻害されることなく、高い復元性を奏することが可能となる。
【0021】
本発明において「環状オリゴ糖」の含有量は、以下の方法で測定された含有量を指す。乾燥重量2.5~5.0gの乾燥食品にイオン交換水50mLを加え、5分間沸騰させた後、イオン交換水で所定容量(例えば、100mL)となるよう希釈し、ろ紙を用いてろ過する。ろ液をカートリッジカラム等で簡易精製した後、加熱して濃縮・乾固させる。得られた固体を定容(例えば、2mL)のイオン交換水に溶解又は懸濁し、メンブレンフィルターでろ過し、測定用の試料を調製する。得られた試料のうち、所定量(例えば、20μL)を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供し、環状オリゴ糖の含有量を測定する。予め、複数の既知濃度の環状オリゴ糖を含む溶液を、同条件のHPLCに供し、各濃度の検出ピークの面積を計測し、検量線を作成しておき、前記試料から得られるピーク面積と照合することで、試料中の環状オリゴ糖濃度を算出することができる。なお、HPLCに使用するカラム、検出器、移動相、流量等の条件は、測定対象となる環状オリゴ糖の種類によって適宜選択可能である。
【0022】
本発明の乾燥食品は、塩化ナトリウム含有量が10重量%以下であることが好ましく、5.0重量%以下であることがより好ましく、3.0重量%以下であることがさらに好ましい。乾燥食品中の塩化ナトリウム含有量が高いほど、良好な食感が得られない、復元性が低くなりやすい、等の問題があることから、塩化ナトリウム含有量は、可能な限り低くすることが好ましい。
【0023】
本発明において「塩化ナトリウム含有量」は、以下の方法(モール法)で測定された塩化ナトリウム量を指す。乾燥重量6g以上の乾燥食品をストマッカー用フィルターバックに秤量し、一定の希釈倍率となるようイオン交換水を加え、ストマッカーで1分間均質化する。均質化した15分後に再度ストマッカーで1分間均質化し、これを試料液とする。試料液5mLを定容し、そこにクロム酸カリウム溶液(5%)を5滴程度加えてよく振り混ぜる。硝酸銀溶液(0.1mol/L)を褐色自動ビュレットで加えながら振り混ぜ、試料液の色から赤みが消えなくなる所を終点とし滴定を行う。滴下した硝酸銀と等量の塩化ナトリウムが含まれていたこととして、元の乾燥重量中に含まれる塩化ナトリウム量を算出する。
【0024】
本発明の乾燥食品は、貝類、環状オリゴ糖の他に、食塩以外の調味料、酸化防止剤、香料等を含んでいてもよい。ただし、調味料等を添加したとしても、全体の塩化ナトリウム含有量が上記範囲を上回らないようにすることが好ましい。
【0025】
本発明の乾燥食品は、上記の特徴を有する乾燥食品及び後述の乾燥食品の製造方法で製造される乾燥食品をいずれも包含する。
【0026】
<乾燥食品の製造方法>
本発明の乾燥食品の製造方法は、貝類を含む乾燥食品の製造方法であって、環状オリゴ糖を0.1~10重量%含む水溶液を貝類に浸透させる、浸透工程;及び、前記環状オリゴ糖が浸透した前記貝類を、水分量が6.0重量%以下となるまで乾燥させる、乾燥工程を含む、ことを特徴とする。本発明の製造方法の一例のフロー図を図1に示す。
【0027】
1.材料(貝類)の準備
本発明に使用する貝類の種類は限定されないが、例えば、アサリを使用することができる。また、内臓付きのむき身を使用することが好ましい。貝類は、内臓が外れないように注意しながら、水洗で表面の砂やぬめり等を取り除く。水洗には、海水ではなく、真水を使用することが好ましい。水洗後の貝類は、よく水を切っておく。また使用する材料は生鮮に限定されず、加熱済み品や冷凍品を使用してもよい。
【0028】
2.浸透工程
水をきった貝類を、環状オリゴ糖を含む水溶液に浸透させる。本明細書において、該水溶液を「調整液」とも称する。調整液に含まれる環状オリゴ糖の濃度が高いほど、製造される乾燥食品に含まれる環状オリゴ糖の濃度が高くなることから、製造される乾燥食品のオリゴ糖含有量が所望の量となるように、調整液の濃度を調整することを要する。具体的には、調整液に含まれる環状オリゴ糖の濃度は、0.1~10重量%、好ましくは0.5~5.0重量%、より好ましくは1.5~3.0重量%とする。調整液に含まれる塩化ナトリウム濃度は、5.0重量%未満とすることが好ましく、3.0重量%未満とすることがより好ましく、1.0重量%未満とすることがさらに好ましい。最も好ましくは、調整液は塩化ナトリウムを含有しない。
【0029】
調整液には、調味料(食塩以外)、香辛料、酸化防止剤、香料等が配合されていてもよい。微量の塩化ナトリウムが含まれる調味料等も配合され得るが、調整液全体として塩化ナトリウム濃度が、5.0重量%未満、3.0重量%未満又は1.0重量%未満となるように調整することが好ましい。
【0030】
調整液を貝類に浸透させる方法は、貝類に調整液を万遍なく浸透させることができれば特に限定されず、例えば、含浸、塗布、噴霧等の手段を用いることができる。調整液の成分を材料となる貝類全体により確実に浸透させるため、含浸による浸透とすることが好ましい。以下、浸透方法として含浸を用いる態様について、例示的に説明する。
【0031】
含浸は、貝類を入れた容器に調整液を加え、所定時間、所定温度に置くことでなされる。含浸に使用する調整液の量は、容器に入れた貝類が全て浸る程度であればよい。調整液の温度は、特に限定されないが、調味料等を効率よく浸透させ、かつ、貝類の身を硬くしないよう、30~90℃、特に、50~80℃程度とすることが好ましい。調整液が所定温度より低下しないよう加熱しながら含浸させてもよく、また温度ムラをなくすために攪拌してもよい。含浸させる時間は、特に限定されないが、1分間~1時間程度、特に3分間~10分間程度とすることが好ましい。含浸後の貝類は、よく液切りをしておく。
【0032】
3.乾燥工程
液切りした貝類は、水分量が6.0重量%以下、好ましくは3.0重量%以下となるまで乾燥させる。乾燥方法としては、天日干し、乾燥機による乾燥を含む公知の方法をいずれも使用可能である。しかし、本発明の乾燥食品の製造においては、風味等を損ねないように乾燥させ、また、熱湯で短時間に確実に復元できるようにすることが望まれることから、凍結乾燥とすることが好ましい。凍結乾燥とは、水分を含む食品等を低温(通常-30℃以下)で急速に凍結させ、凍結したまま真空状態において水分を昇華させ、乾燥させる方法である。低温での乾燥となるため、成分の変質等が生じにくく、食品の色、香り、風味、栄養等が損なわれにくい。また、凍結した状態から水分のみが昇華するため、乾燥前後で形状の変化はほとんどなく、多孔質となる。この多孔質による比表面積の高さから、復元する際に熱湯の浸透効率がよく短時間で復元することができる。本発明の乾燥食品の製造方法における凍結乾燥の具体的な手段としては、凍結乾燥食品の製造のために当業者が通常使用するいずれの真空凍結乾燥機を使用してもよく、また、当業者が通常使用するいずれの凍結乾燥条件を採用してもよい。例えば、真空凍結乾燥機(日本テクノサービス社製MODEL FD-10MB)を用いて、50℃、60Pa、24時間の条件で実施することができる。なお、乾燥工程は、例えば、凍結乾燥の前に、貝類を粗乾燥させる工程等を含んでいてもよい。
【0033】
4.包装工程その他
乾燥工程で乾燥させた貝類は、そのまま、あるいは別途調製された凍結乾燥食品、例えば味噌汁、スープ、シチュー等の汁物の凍結乾燥食品や、他の野菜、肉類、魚類等の凍結乾燥食品と組み合わせて包装されてもよい。凍結乾燥食品は、通常は常温で保存可能であるが、空気に触れると酸化しやすいため、樹脂フィルム等で密封することが好ましい。その際、包装内に、乾燥剤、脱酸素剤等を併せて封入してもよい。
【実施例
【0034】
<実施例1:環状オリゴ糖と保存安定性の関係検証>
(1)各種乾燥アサリの調製
むき身の内臓付きアサリを水洗し、軽く水を切った。水に、環状オリゴ糖製剤(α-CD 30%、その他のCD 20%及びデキストリン 50%を含む)及び各種調味料を添加し、ただし、塩化ナトリウムを添加せずに調整液を調製して70℃まで加熱した。調整液に含まれる環状オリゴ糖製剤の濃度は、0(なし),0.1,0.5,1.5,3.0,5.0,7.0及び10重量%とした。水洗したアサリ1kgを各調整液内に完全に調整液に浸るように投入し、70℃で5分間加熱した後、液切りを行った。液切したアサリを、真空凍結乾燥機(日本テクノサービス社製MODEL FD-10MB)を用いて、50℃、60Pa、24時間の条件で凍結乾燥し、品温が50℃付近で一定となるまで乾燥させた。
【0035】
(2)保存安定性の評価
凍結乾燥後の各種乾燥アサリをそれぞれアルミ袋に入れて密封し、40℃で17日間保管した(加速試験:常温で約100日間の保管に相当)。保管後の乾燥アサリをそれぞれ90℃の熱湯に1分間浸漬し、復元させた。復元後の各種アサリをパネラー3名が食し、下記の基準で風味の評価を行った。3名の評価の平均値を保存安定性の指標とした。
1:まったく異臭なし;2:わずかに異臭を感じる;3:異臭を感じる。
【0036】
(3)復元性の評価
凍結乾燥後の各種アサリをそれぞれ10個ずつ90℃の熱湯に30秒間浸漬し(湯戻し)、ペーパータオルで軽く液を切り、重量を測定した。凍結乾燥前の重量と比較して、下記式で算出した値を「復元率」とした。
復元率(%)=湯戻し後のアサリの重量/乾燥前のアサリの重量×100
【0037】
凍結乾燥後の各種アサリを90℃の熱湯に30秒間及び1分間浸漬し、それぞれを3名のパネラーが食し、下記の基準で食感の評価を行った。3名の評価の平均値を食感の指標とした。
1:芯をまったく感じない;2:わずかに芯がある;3:若干芯がある;4:芯を感じる;5:芯がある。
【0038】
(4)乾燥アサリの塩分量測定
凍結乾燥後の各種アサリのそれぞれ6gをストマッカー用フィルターバックに秤量し、一定の希釈倍率となるようイオン交換水を加え、ストマッカーで1分間均質化した。均質化した15分後に再度ストマッカーで1分間均質化し、これを試料液とした。試料液5mLを定容し、そこにクロム酸カリウム溶液(5%)を5滴程度加えてよく振り混ぜた。硝酸銀溶液(0.1mol/L)を褐色自動ビュレットで加えながら振り混ぜ、試料液の色から赤みが消えなくなる所を終点とし滴定を行った。滴下量からアサリに含まれる塩分量を算出した。
【0039】
(5)乾燥アサリの水分量測定
凍結乾燥後の各種アサリを10gずつ秤量し、乾燥機(ヤマト科学社製乾熱滅菌器SH600)を用いて105℃で4時間の条件で加熱した。加熱後のアサリの重量を測定し、下記式に基づいて乾燥アサリに含まれる水分量を算出した。
(加熱前重量-加熱後重量)/加熱前重量(%)
【0040】
各種乾燥アサリの保存安定性、復元性の評価結果、及び、塩分量、水分量を表1に示す。調整液中に含まれるCD濃度が高いほど、保存安定性(臭み発生の抑制)が高いことが判明した。一方で、CD濃度による復元率の大きな変化は認められなかったが、CD濃度が高くなると食感に影響があることが判明した。
【0041】
【表1】
【0042】
<実施例2:塩分量と復元性の関係検証>
容器に、環状オリゴ糖製剤 3.0重量%、各種調味料、及び各濃度の塩化ナトリウムを添加した調整液を調製して70℃まで加熱した。塩化ナトリウム濃度は、0(なし),3.0,4.0,5.0,6.0及び10重量%とした。水洗したアサリ1kgを各調整液内に完全に調整液に浸るように投入し、70℃で5分間加熱した後、液切りを行った。液切したアサリを実施例1と同様に凍結乾燥により乾燥させた。
【0043】
各塩分濃度で処理した乾燥アサリについて、実施例1と同様に、食感、復元率、塩分量及び水分量の評価を行った。結果を表2に示す。調整液中の塩化ナトリウム濃度が高いほど、乾燥アサリに含まれる塩分量が高くなることが判明した。また、塩分量が高いほど、わずかながら復元率が低下することと、食感が低下することが判明した。
【0044】
【表2】
【0045】
<実施例3:各種糖類と保存安定性の関係検証>
環状オリゴ糖製剤に代えて、α-CD、β-CD、γ-CD、ブドウ糖(単糖)、乳糖(二糖)、及び水溶性大豆多糖類を、それぞれ1.0重量%添加した調整液を使用した以外は、実施例1と同様に乾燥アサリを調製した。
【0046】
実施例1と同様に、保存安定性、復元率及び食感の評価を行った。結果を表3に示す。環状オリゴ糖を添加した場合に、高い保存安定性を示した。α-CD、β-CD及びγ-CDで保存安定性はほぼ同等であった。一方で、復元性は、添加する糖類の種類によって大きな差異は見られなかった。
【0047】
【表3】
【0048】
<実施例4:乾燥アサリの環状オリゴ糖含有量の測定>
環状オリゴ糖製剤に代えて、β-CDを0(なし)、1.5及び5.0重量%、それぞれ添加した調整液を使用した以外は、実施例1と同様に乾燥アサリを調製した。各乾燥アサリ5.0gにイオン交換水50mLを加え、5分間沸騰させた後、イオン交換水で100mLまでメスアップし、ろ紙(No.5B、東洋濾紙株式会社製)を用いてろ過した。ろ液をカートリッジカラムで簡易精製した後、加熱して濃縮・乾固させた。得られた固体を2mLのイオン交換水に溶解・懸濁した後、メンブレンフィルター(親水性PTFE、0.45μm孔)でろ過し、測定用の試料を得た。得られた試料のうち、20μLを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供した。HPLC測定の詳細な条件は以下の通りとした。機種:LC-20AD(株式会社島津製作所製)、検出器:示差屈折計RID-20A(株式会社島津製作所製)、カラム:Wakosil 5NH φ4.6mm×250mm(富士フィルム和光純薬株式会社製)、カラム温度:25℃、移動相:アセトニトリル:水=65:25、流量:2mL/分。
【0049】
HPLCにおけるβ-CDの検出ピーク面積より、各乾燥アサリ100gあたりのβ-CD含有量を算出した。結果を表4に示す。β-CDを含む調整液を用いて調製した乾燥アサリにおいて、確実に調整液中のβ-CDが残存することを確認できた。また、調整液中のβ-CD濃度が高くなるほど、乾燥アサリのβ-CDの含有量が高くなることが確認できた。
【0050】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の乾燥食品及び乾燥食品の製造方法は、食品産業分野で利用可能である。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
【要約】
貝類の酸化による風味の劣化が生じにくく、かつ、熱湯による復元性の高い乾燥食品、及びその製造方法を提供する。
環状オリゴ糖を0.1~10重量%含む水溶液を貝類に浸透させ、環状オリゴ糖が浸透した前記貝類を、水分量が6.0重量%以下となるまで乾燥させる。乾燥食品は、水分量が6.0重量%以下であり、0.1~10重量%の環状オリゴ糖を含む。
図1