(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】コバルトと銅およびアルミニウムの分離方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/54 20060101AFI20220118BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20220118BHJP
C22B 1/00 20060101ALI20220118BHJP
C22B 3/08 20060101ALI20220118BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20220118BHJP
C22B 23/00 20060101ALI20220118BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20220118BHJP
B09B 3/40 20220101ALI20220118BHJP
B09B 3/20 20220101ALI20220118BHJP
B09B 5/00 20060101ALI20220118BHJP
B09B 3/70 20220101ALI20220118BHJP
【FI】
H01M10/54
C22B1/02
C22B1/00 601
C22B3/08
C22B3/44 101A
C22B23/00 102
C22B7/00 C
B09B3/00 303Z
B09B3/00 301Z
B09B5/00 A ZBP
B09B3/00 304Z
(21)【出願番号】P 2018055189
(22)【出願日】2018-03-22
【審査請求日】2020-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】川崎 始
(72)【発明者】
【氏名】阿部 淳二
(72)【発明者】
【氏名】中山 翔太
【審査官】赤穂 嘉紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-207349(JP,A)
【文献】特開平07-310157(JP,A)
【文献】特開2006-237151(JP,A)
【文献】特開2013-194269(JP,A)
【文献】特開2017-036490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/54
C22B 1/00-61/00
B09B 1/00-5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルトを含む正極活物質とアルミニウムを含む正極集電材と銅を含む負極集電材を有するリチウムイオン二次電池から、コバルトと銅およびアルミニウムとを分離する、コバルトと銅およびアルミニウムの分離方法であって、
前記リチウムイオン二次電池を熱処理する熱処理工程と、熱処理を行った前記リチウムイオン二次電池を粉砕および分級し、前記正極活物質、前記正極集電材、および前記負極集電材を含む電極材料を得る粉砕選別工程と、前記電極材料を所定の温度範囲で焼成して前記電極材料に含まれる銅を酸化させ、無機酸に難溶性の酸化銅を含む焼成体を得る銅酸化工程と、を備え
、
前記銅酸化工程は、前記電極材料を酸素存在下で800℃以上、1000℃以下の温度範囲で1時間以上焼成する工程であることを特徴とするコバルトと銅およびアルミニウムの分離方法。
【請求項2】
前記銅酸化工程で得られた前記焼成体を無機酸に浸出し、その後pH4.5以上にしてコバルト溶出液を得るコバルト分離工程を備えること特徴とする請求項
1記載のコバルトと銅およびアルミニウムの分離方法。
【請求項3】
前記コバルト分離工程で前記コバルト溶出液を分離した後の残渣をpH4.3以下にしてリパルプ洗浄を行い、洗浄したリパルプ液を前記コバルト分離工程の酸浸出に繰り返す洗浄工程を備えることを特徴とする請求項
2記載のコバルトと銅およびアルミニウムの分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に含まれるコバルトと銅およびアルミニウムとを確実に分離して、コバルトを高い回収率で回収することを可能にするコバルトと銅およびアルミニウムの分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、各種電子機器等の小型の物から電気自動車等の大型の物まで、幅広い分野の電源として利用されている。こうしたリチウムイオン二次電池が廃棄された際には、有用な金属を回収して再利用することが求められている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、負極材と正極材とを、多孔質のポリプロピレン等のセパレータで分画し層状に重ね、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)等の電解質および電解液と共にアルミニウムやステンレス等のケースに封入して形成されている。
【0004】
リチウムイオン二次電池の負極材は銅箔などからなる負極集電材にバインダーが混合された黒鉛などの負極活物質を塗布して形成されている。また、正極材はアルミニウム箔などからなる正極集電材にバインダーが混合されたマンガン酸リチウム、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウムなどの正極活物質を塗布して形成されている。
【0005】
このようにリチウムイオン二次電池の正極活物質にはコバルト、ニッケル等の有価金属が多く含まれているが、リサイクル過程で予め粉砕分離された正極活物質には、正極集電材であるアルミニウムが付着している。また、負極活物質には、負極集電材である銅が付着している。こうした正極活物質と負極活物質とを予め分離せずに電極材料として溶媒抽出によりコバルトを精製すると、コバルトに銅およびアルミニウムが同伴し、回収したコバルトの純度が低下する。コバルトの純度を高めるためには、コバルトを分離する工程において、負極活物質に付着した銅、および正極活物質に付着したアルミニウムがコバルトに同伴して分離しないようにすることが望ましい。
【0006】
正極活物質に含まれるコバルトと、負極活物質に付着した銅および正極活物質に付着したアルミニウムとを分離して回収する方法として、例えば、特許文献1には、コバルトを無機酸を用いて溶出させる際に、負極集電材に含まれる銅やアルミニウムもコバルトと共に無機酸に溶出させて、溶出後の無機酸のpH調整を行った後、硫化水素ナトリウムなどの硫黄成分を添加して銅を硫化銅にして沈殿除去し、また、アルミニウムを水酸化アルミニウムにして沈殿除去する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された回収方法では、銅の除去率が硫黄源の添加量によって左右されるため、硫化銅の沈殿生成の終点を正確に判別するという手間の掛かる操作が必要であり、効率的にコバルトを分離することが困難である。また、電極材料に含まれる銅の濃度が高い場合には硫黄源を含む薬剤が多量に必要となり、コバルトの分離回収に係るコストが高くなるという課題もある。更に、リチウムイオン二次電池に含まれるLiPF6などの電解質に由来するフッ素とアルミニウムとが錯イオンを形成するために、水酸化アルミニウムの生成が抑制され、コバルトとアルミニウムとを高精度に分離することが困難であるという課題もあった。
【0009】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、リチウムイオン二次電池に含まれるコバルトと銅およびアルミニウムとを高精度に分離して回収することが可能なコバルトと銅およびアルミニウムの分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明のコバルトと銅およびアルミニウムの分離方法は、コバルトを含む正極活物質とアルミニウムを含む正極集電材と銅を含む負極集電材を有するリチウムイオン二次電池から、コバルトと銅およびアルミニウムとを分離する、コバルトと銅およびアルミニウムの分離方法であって、前記リチウムイオン二次電池を熱処理する熱処理工程と、熱処理を行った前記リチウムイオン二次電池を粉砕および分級し、前記正極活物質、前記正極集電材、および前記負極集電材を含む電極材料を得る粉砕選別工程と、前記電極材料を所定の温度範囲で焼成して前記電極材料に含まれる銅を酸化させ、無機酸に難溶性の酸化銅を含む焼成体を得る銅酸化工程と、を備え、前記銅酸化工程は、前記電極材料を酸素存在下で800℃以上、1000℃以下の温度範囲で1時間以上焼成する工程であることを特徴とする。
【0011】
本発明のコバルトと銅およびアルミニウムの分離方法によれば、銅酸化工程によって、電極材料に含まれる負極活物質に付着した負極集電材である銅を酸化銅に変化させた焼成体を形成する。これにより、後工程でこの焼成体を無機酸で浸出させる際に、酸化銅は無機酸に溶出しないので、銅を含まないコバルト溶出液が得られる。銅とコバルトとを分離するために、焼成などによって銅を酸化させるだけでよく、従来のように硫化物など銅を硫化させる薬剤が不要になるので、銅とコバルトとを低コストで効率的に分離することができる。
【0012】
また、銅酸化工程で電極材料を焼成すれば、電極材料に含まれるLiPF6などの電解質や有機物が分解されるので、後工程で無機酸に溶出するアルミニウムは、これら電解質や有機物と錯イオンが生じない状態で溶出する。これにより、コバルトとの分離が困難なアルミニウム錯イオンの生成が抑制され、後工程でpH調整などを行うだけでコバルト溶出液に溶出したコバルトとアルミニウムとを容易に分離することができ、コバルトの回収率および純度を向上させることができる。
【0014】
また、本発明では、前記銅酸化工程で得られた前記焼成体を無機酸に浸出し、その後pH4.5以上にしてコバルト溶出液を得るコバルト分離工程を備えることが好ましい。
【0015】
また、本発明では、前記コバルト分離工程で前記コバルト溶出液を分離した後の残渣をpH4.3以下にしてリパルプ洗浄を行い、洗浄したリパルプ液を前記コバルト分離工程の酸浸出に繰り返す洗浄工程を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、リチウムイオン二次電池に含まれるコバルトと銅およびアルミニウムとを高精度に分離して回収することを可能にするコバルトと銅およびアルミニウムの分離方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明のコバルトと銅およびアルミニウムの分離方法を含むリチウムイオン二次電池の正極活物質のリサイクル方法を段階的に示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態のコバルトと銅およびアルミニウムの分離方法について説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0019】
図1は、本発明のコバルトと銅およびアルミニウムの分離方法を含むリチウムイオン二次電池の正極活物質のリサイクル方法を段階的に示したフローチャートである。
まず、廃棄されたリチウムイオン二次電池(以下、廃LIBと称する)を構成する電極材料を分離する前処理工程として、廃LIBを加熱炉で例えば約500℃程度まで加熱して熱処理を行う(熱処理工程)。熱処理は、真空加熱でも常圧加熱でも良い。廃LIBは、バインダー及び電解液の存在により正極活物質や負極活物質と、集電材であるアルミニウム箔や銅箔との付着力が大きい。このため、熱処理工程を行うことによって、これら活物質と集電材との分離を容易にする。
【0020】
次に、熱処理後の廃LIBを粉砕した後、篩分け(分級)によって正極活物質、正極集電材、負極活物質、負極集電材を含む電極材料と、これ以外の材料(電池ケースなど)とを選別分離する(粉砕選別工程)。廃LIBの粉砕は、例えば、二軸剪断破砕機やハンマーミルを用いて行う。
分離された電極材料を構成する正極活物質には、正極集電材であるアルミニウム箔の一部が、また、負極活物質には、負極集電材である銅箔の一部が、それぞれ分離されずに付着した状態になっている。
【0021】
次に、粉砕選別工程で分離された電極材料を所定の温度範囲で焼成して、電極材料に含まれる銅を酸化させて、無機酸に難溶性の酸化銅を含む焼成体を得る(銅酸化工程)。
具体的には、銅酸化工程では、例えば、空気中など酸素存在下で、800℃以上、1000℃以下の温度範囲で1時間以上、電極材料の焼成を行う。焼成には、例えば、電気炉やガス炉などを用いることができる。なお、銅酸化工程では、電極材料に含まれる銅を酸化させることができればよく、焼成に限定されるものでは無い。
【0022】
このような銅酸化工程によって、電極材料に含まれる負極活物質に付着した負極集電材である銅箔は、酸化銅に変化する。例えば、銅は、空気中の酸素との反応によって、酸化銅(Cu2O)を主成分とする化合物(酸化銅を含む焼成体)に変化する。本工程で得られた酸化銅を含む銅化合物は、後工程でコバルトを浸出させる際に用いる無機酸に対して難溶性ないし不溶性である。また、銅酸化工程によって、正極活物質に含まれるマンガン、コバルト、ニッケルなども酸化され、酸化マンガン、酸化コバルト、酸化ニッケルなどにそれぞれ変化するが、これら酸化物は酸化銅を含む銅化合物と異なり無機酸に対して可溶性ないし易溶性である。
【0023】
また、銅酸化工程で電極材料を焼成することで、電極材料に含まれるLiPF6などの電解質や有機物が分解される。これによりフッ素の含有量が減少するので、後工程であるコバルト分離工程において、アルミニウムと電解質や有機物との錯イオンの形成を抑制し、アルミニウム除去を容易にする。
【0024】
次に、銅酸化工程で得られた焼成体を無機酸に溶解した溶解液をpH4.5以上になるようにpH調整を行ったコバルト溶出液を形成する(コバルト分離工程)。
コバルト分離工程では、まず、銅酸化工程で得られた焼成体を無機酸(鉱酸)に浸漬して、焼成体に含まれる金属成分であるコバルト、ニッケル、マンガンなどを無機酸に溶解する。一方、銅は銅酸化工程で酸化銅を主成分とする化合物に変化させているので無機酸に溶出しない。
【0025】
また、アルミニウムは、銅酸化工程で電極材料を焼成することで電解質や有機物が分解されてフッ素の含有量が減少しているので、コバルトに対して分離が困難なアルミニウムの錯イオンを形成しない状態で無機酸に溶出する。
【0026】
無機酸としては、例えば硫酸が用いられる。例えば、50~70℃程度に加熱された硫酸に焼成体を1~3時間程度浸漬する。これにより、銅を除いた金属成分が硫酸に溶解する。ここでpH調整に用いる水として、後述する洗浄工程で生じるリパルプ液をリサイクル利用することができる。
【0027】
次に、この銅を除いた金属成分が溶解した硫酸溶液を水酸化ナトリウム溶液でpH調整を行い、pH4.5以上の浸出液を得る。本実施形態では、例えば、pH調整によって銅を除いた金属成分が溶解した硫酸(硫酸浸出液)のpHを5.9にしている。
【0028】
この後、固液分離によって、液相が銅を殆ど含まないコバルト溶出液として回収される。得られたコバルト溶出液は、精製工程などでニッケルやマンガンなどと分離された後、精製コバルトとしてリサイクル利用することができる。コバルト溶出液に含まれるアルミニウムは、電解質や有機物と錯イオンを形成しない状態で無機酸に溶出しているので、後工程でpH調整などを行うことによって、コバルト溶出液のコバルトとアルミニウムとを容易に分離することができる。
【0029】
一方、固液分離によって得られた、銅を含む固相である残渣は、水を加えて再懸濁させ、pH4.3以下にしてリパルプ洗浄を行い、洗浄したリパルプ液を前記コバルト分離工程の酸浸出に繰り返す(洗浄工程)。洗浄工程でのpH調整は、無機酸、例えば硫酸を用いればよい。そして、リパルプ洗浄後に濾過等で固液分離を行い、リパルプ液とリパルプ残渣とを得る。
【0030】
リパルプ残渣は、銅、マンガンなどの金属成分が含まれており、後工程でこれら金属成分を精製分離してリサイクル利用することができる。一方、リパルプ液は、コバルト分離工程における焼成体を無機酸に溶解した溶解液をpH4.5以上になるようにpH調整するための水としてリサイクル利用することができる。リパルプ液はコバルトを含んでいるので、この繰り返しにより、コバルト溶出液中コバルトとしてコバルトを回収できる。
【0031】
以上のように、本発明のコバルトと銅およびアルミニウムの分離方法によれば、銅酸化工程によって、電極材料に含まれる負極活物質に付着した負極集電材である銅を酸化銅を主成分とする化合物に変化させた焼成体を形成する。これにより、後工程でこの焼成体を無機酸で浸出させる際に生じる、酸化銅を主成分とする化合物は無機酸に溶出しないので、銅を含まないコバルト溶出液が得られる。銅とコバルトとを分離するために、焼成などによって銅を酸化させるだけでよく、従来のように銅を硫化させための硫化物など薬剤が不要になるので、銅とコバルトとを低コストで効率的に分離することができる。
【0032】
また、銅酸化工程で電極材料を焼成することで、電極材料に含まれるLiPF6などの電解質や有機物が分解されるので、後工程で無機酸に溶出するアルミニウムは、これら電解質や有機物と錯イオンが生じない状態で溶出する。これにより、コバルトとの分離が困難なアルミニウム錯イオンの生成が抑制され、後工程でpH調整などを行うだけでコバルト溶出液に溶出したコバルトとアルミニウムとを容易に分離することができ、コバルトの回収率および純度を向上させることができる。
【0033】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これら実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0034】
本発明のコバルトと銅およびアルミニウムの分離方法の効果を検証した。
以下の本発明の実施例1、2と従来の比較例1にそれぞれ示す手順に従って、廃LIBから、正極活物質、正極集電材、負極活物質、負極集電材を含む電極材料を取り出して、コバルトと銅およびアルミニウムの分離を行った。
【0035】
(実施例1)
廃LIBを500℃で熱処理後、粉砕し篩分けを行い、正極活物質、正極集電材、負極活物質、負極集電材を含む電極材料を得た。電極材料15gを5つ用意し、5段階の焼成温度、即ち400℃、600℃、700℃、750℃、800℃で、それぞれ空気雰囲気中で1時間焼成して焼成体を得た。それぞれの温度で焼成した焼成体を245g/Lの硫酸75mlに浸漬し、温度60℃で2時間反応させて金属成分を浸出させ、濾過して硫酸浸出液を得た。
【0036】
実施例1において、硫酸浸出後の硫酸浸出液の金属元素の濃度を測定した。この結果を表1に示す。
【0037】
【0038】
表1に示す結果によれば、800℃で熱処理することで、硫酸浸出液に銅の溶出がほぼ無くなることが確認された。これは、電極材料を800℃以上で熱処理すれば、負極集電材の銅をほぼ全てを無機酸に溶出しない酸化銅を主成分とする化合物に変化させることができるためと考えられる。
【0039】
(実施例2)
廃LIBを500℃で熱処理後、粉砕し篩分けを行い、正極活物質、正極集電材、負極活物質、負極集電材を含む電極材料を得た。電極材料15gを800℃の空気雰囲気中で1時間焼成して焼成体を得た。この焼成体を水100mlに637g/Lの硫酸50mlを加えた希硫酸に浸漬し、温度60℃で2時間反応させて金属成分を浸出させ、更に水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH5.9までpH調整を行った後、固液分離を行って液相であるコバルト溶出液と、固相である残渣とを得た。そして、この残渣に水を加えて再懸濁させ、濃硫酸を添加してpH4.0以下にしてリパルプ洗浄を行った。そして、リパルプ洗浄後に固液分離を行って得られたリパルプ液100mlを、次回の電極材料から金属成分を浸出させる工程におけるpH調整するための水に用いた。
【0040】
電極材料、pH調整後のコバルト溶出液、およびリパルプ液について、それぞれ金属元素の濃度を測定した。この結果を表2に示す。
【0041】
【0042】
表2に示す結果によれば、電極材料を800℃で焼成して、負極集電材の銅を酸化銅を主成分とする化合物に変化させてから硫酸浸出することによって、銅を含まないコバルト溶出液が得られることが確認された。また、電解液に含まれる有機物が焼成処理により分解されるので、硫酸浸出によって溶出したアルミニウムも、後工程のpH調整処理で容易に除去が可能である。
【0043】
(比較例1)
廃LIBを500℃で熱処理後、粉砕し篩分けを行い、正極活物質、正極集電材、負極活物質、負極集電材を含む電極材料を得た。この正極材料15gを245g/Lの硫酸75mlに浸漬し、温度60℃で2時間反応させて金属成分を浸出させた。得られた硫酸浸出液を水酸化ナトリウム水溶液を用いて、温度60℃でpH5.2までpH調整を行った後、酸化還元電位(ORP:Ag/AgCl電極基準)が100mVになるように硫化水素ナトリウムを添加して銅を沈澱させて濾過によって固液分離を行い、濾液100mlのコバルト溶出液を得た。
【0044】
電極材料、およびpH調整後のコバルト溶出液について、それぞれ金属元素とフッ素の濃度を測定した。この結果を表3に示す。
【0045】
【0046】
比較例1の結果によれば、アルミニウムはフッ素濃度が高く錯イオンを形成して安定化するため、コバルト溶出液に高い濃度でアルミニウムが残留している。また、銅も硫酸浸出により溶出するため、コストの高い硫化剤を用いた脱銅操作が必要である。よって、比較例1では、コバルトと銅およびアルミニウムとを低コストで効率的に分離することが難しいことが分かった。