(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】車両システム
(51)【国際特許分類】
B60W 30/045 20120101AFI20220203BHJP
B60L 7/18 20060101ALI20220203BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20220203BHJP
B60W 30/182 20200101ALI20220203BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20220203BHJP
B60T 8/00 20060101ALI20220203BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20220203BHJP
B60T 8/1755 20060101ALI20220203BHJP
B60W 10/04 20060101ALI20220203BHJP
B60W 10/18 20120101ALI20220203BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20220203BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20220203BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
B60W30/045
B60L7/18
B60L15/20 J
B60W30/182
B62D6/00
B60T8/00 Z
B60T8/17 C
B60T8/1755 Z
B60W10/00 120
B60W10/08
B60W10/18
B62D101:00
B62D113:00
(21)【出願番号】P 2018052586
(22)【出願日】2018-03-20
【審査請求日】2021-02-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100168871
【氏名又は名称】岩上 健
(72)【発明者】
【氏名】有川 智章
(72)【発明者】
【氏名】梅津 大輔
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-227097(JP,A)
【文献】特開2006-151020(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
B60L 7/00-13/00
B60L 15/00-58/40
B60T 7/12- 8/1769
B60T 8/32- 8/96
B62D 6/00- 6/10
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の操舵角を検出する操舵角センサと、アクセルペダルの操作を検出するアクセルセンサと、シフトレバーの操作を検出するシフトレバーセンサと、制御器と、を備えた車両システムであって、
前記制御器は、
前記シフトレバーの操作に基づき、第1走行レンジ又は第2走行レンジの何れかの走行レンジを設定し、
前記アクセルペダルの操作及び前記走行レンジに基づき、前記車両に発生させる加速度が設定される第1ペダルモードと、前記アクセルペダルの操作及び前記走行レンジに基づき、前記車両に発生させる加速度及び減速度が設定される第2ペダルモードとの、何れかのペダルモードを選択し、
前記第1ペダルモードが選択されているときに、前記車両の操舵角及び前記走行レンジに基づき、第1の減速度特性により前記車両に付加する減速度を設定し、
前記第2ペダルモードが選択されているときに、前記車両の操舵角及び前記走行レンジに基づき、第2の減速度特性により前記車両に付加する減速度を設定し、
前記第1の減速度特性又は前記第2の減速度特性により設定された減速度に基づき、前記車両に減速度を発生させるように構成され、
前記第2ペダルモードが選択されている場合における、前記アクセルペダルの操作及び前記第1走行レンジに基づき設定された加速度及び減速度と、前記アクセルペダルの操作及び前記第2走行レンジに基づき設定された加速度及び減速度との差は、前記第1ペダルモードが選択されている場合における、前記アクセルペダルの操作及び前記第1走行レンジに基づき設定された加速度と、前記アクセルペダルの操作及び前記第2走行レンジに基づき設定された加速度との差よりも小さく、
前記第2ペダルモードが選択されている場合における、前記車両の操舵角及び前記第1走行レンジに基づき設定された前記車両に付加する減速度と、前記車両の操舵角及び前記第2走行レンジに基づき設定された前記車両に付加する減速度との差は、前記第1ペダルモードが選択されている場合における、前記車両の操舵角及び前記第1走行レンジに基づき設定された前記車両に付加する減速度と、前記車両の操舵角及び前記第2走行レンジに基づき設定された前記車両に付加する減速度との差よりも小さい、
ことを特徴とする車両システム。
【請求項2】
前記制御器は、前記アクセルペダルの操作量が同一の場合、前記第2ペダルモードにおいて当該アクセルペダルの操作量に基づき設定する減速度を、前記第1ペダルモードにおいて当該アクセルペダルの操作量に基づき設定する減速度より大きくするように構成される、請求項1に記載の車両システム。
【請求項3】
前記制御器は、前記第2ペダルモードにおいては、前記アクセルペダルの踏戻操作に基づき、前記車両に発生させる加減速度を設定するように構成される、請求項1又は2の何れか1項に記載の車両システム。
【請求項4】
前記車両システムは、車輪を駆動し、又は、車輪により駆動されて回生発電を行うモータジェネレータを有しており、
前記制御器は、
加速度を前記車両に
発生させるように、前記モータジェネレータにより前記車輪を駆動し
、減速度を前記車両に発生させるように、前記モータジェネレータにより回生発電を行わせるように構成される、請求項1から3の何れか1項に記載の車両システム。
【請求項5】
車両の操舵角を検出する操舵角センサと、アクセルペダルの操作を検出するアクセルセンサと、シフトレバーの操作を検出するシフトレバーセンサと、制御器と、を備えた車両システムであって、
前記制御器は、
前記シフトレバーの操作に基づき、第1走行レンジ又は第2走行レンジの何れかの走行レンジを設定し、
前記アクセルペダルの操作及び前記走行レンジに基づき、前記車両に発生させる加速度が設定される第1ペダルモードと、前記アクセルペダルの操作及び前記走行レンジに基づき、前記車両に発生させる加速度及び減速度が設定される第2ペダルモードとの、何れかのペダルモードを選択し、
前記第1ペダルモードが選択されているときに、前記車両の操舵角及び前記走行レンジに基づき、第1の減速度特性により前記車両に付加する減速度を設定し、
前記第2ペダルモードが選択されているときに、前記車両の操舵角及び前記走行レンジに基づき、第2の減速度特性により前記車両に付加する減速度を設定し、
前記第1の減速度特性又は前記第2の減速度特性により設定された減速度に基づき、前記車両に減速度を発生させるように構成され、
前記第2ペダルモードが選択されている場合、前記アクセルペダルの操作及び前記第1走行レンジに基づき設定された加速度及び減速度は、前記アクセルペダルの操作及び前記第2走行レンジに基づき設定された加速度及び減速度と略同一であり、
前記第2ペダルモードが選択されている場合における、前記車両の操舵角及び前記第1走行レンジに基づき設定された前記車両に付加する減速度は、前記車両の操舵角及び前記第2走行レンジに基づき設定された前記車両に付加する減速度と略同一である、
ことを特徴とする車両システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に減速度を付加することで車両姿勢の制御を行う車両システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スリップ等により車両の挙動が不安定になった場合に、車両の挙動を安全方向に制御する技術(例えば横滑り防止装置)が知られている。具体的には、車両のコーナリング時等に、車両にアンダーステアやオーバーステアの挙動が生じたことを検出し、それらを抑制するように車輪に適切な減速度を付与するようにしたものが知られている。
【0003】
一方、上述したような車両の挙動が不安定になるような走行状態における安全性向上のための制御とは異なり、通常の走行状態にある車両のコーナリング時におけるドライバによる一連の操作(ブレーキング、ステアリングの切り込み、加速、及び、ステアリングの戻し等)が自然で安定したものとなるように、コーナリング時に減速度を調整して操舵輪である前輪に加わる荷重を調整するようにした車両運動制御装置が知られている。
【0004】
さらに、ドライバのステアリング操作に対応するヨーレート関連量(例えばヨー加速度)に応じて、エンジンやモータの生成トルクを低減させることにより、ドライバがステアリング操作を開始したときに減速度を迅速に車両に生じさせ、十分な荷重を操舵輪である前輪に迅速に加えるようにした車両用挙動制御装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置によれば、ステアリング操作の開始時に荷重を前輪に迅速に加えることにより、前輪と路面との間の摩擦力が増加し、前輪のコーナリングフォースが増大するので、カーブ進入初期における車両の回頭性が向上し、ステアリングの切り込み操作に対する応答性(つまり操安性)が向上する。これにより、ドライバの意図に沿った車両姿勢の制御を実現することができる。以下では、このような制御を適宜「車両姿勢制御」と呼ぶ。
【0005】
ところで、近年、1つのペダル(以下では適宜「単一ペダル」と呼ぶ。)の操作により、車両の加速及び減速を実現できるようにした技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。この技術では、ドライバが単一ペダルの踏込量などを調整することで、車両の停車、発進、加速、定常走行、及び減速を行えるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6229879号公報
【文献】特開2017-085681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、上記した従来の車両姿勢制御においては、車両の発進及び加速時にはアクセルペダルが操作され、車両の減速及び停車時にはブレーキペダルが操作されることを前提にして、車両に付加する減速度を制御していた。特に、特許文献1に記載の車両姿勢制御では、ブレーキペダルの操作に応じた要求減速度に基づき、車両に付加する減速度を変化させていた。しかしながら、従来の車両姿勢制御においては、単一ペダルの操作に応じて変化する車両の加減速状態に合わせて、車両に付加する減速度を適切に制御することができなかった。
【0008】
さらに、シフトレバーの操作に基づき、アクセルペダルの操作に応じた加減速度特性を変えることが行われている。例えば、モータジェネレータの駆動トルク及び回生トルクにより加減速を行う車両においては、シフトレバーにより「Dレンジ」が選択されている場合に通常の加減速度特性とし、「Bレンジ」が選択されている場合には「Dレンジ」のときよりも回生トルクを強めることが行われている。この場合、走行レンジを切り替えることにより、ペダルの操作に応じた車両の加減速度特性が変更されるので、選択されている走行レンジに応じて、車両姿勢の制御のために車両に付加する減速度を適切に制御する必要がある。
【0009】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、車両に減速度を付加することで車両姿勢の制御を行う車両システムにおいて、選択されている走行レンジに応じて車両に発生させる加減速度が変化する場合に、走行レンジに応じて、車両姿勢の制御のために車両に付加する減速度を適切に設定可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は、車両の操舵角を検出する操舵角センサと、アクセルペダルの操作を検出するアクセルセンサと、シフトレバーの操作を検出するシフトレバーセンサと、制御器と、を備えた車両システムであって、制御器は、シフトレバーの操作に基づき、第1走行レンジ又は第2走行レンジの何れかの走行レンジを設定し、アクセルペダルの操作及び走行レンジに基づき、車両に発生させる加速度が設定される第1ペダルモードと、アクセルペダルの操作及び走行レンジに基づき、車両に発生させる加速度及び減速度が設定される第2ペダルモードとの、何れかのペダルモードを選択し、第1ペダルモードが選択されているときに、車両の操舵角及び走行レンジに基づき、第1の減速度特性により車両に付加する減速度を設定し、第2ペダルモードが選択されているときに、車両の操舵角及び走行レンジに基づき、第2の減速度特性により車両に付加する減速度を設定し、第1の減速度特性又は第2の減速度特性により設定された減速度に基づき、車両に減速度を発生させるように構成され、第2ペダルモードが選択されている場合における、アクセルペダルの操作及び第1走行レンジに基づき設定された加速度及び減速度と、アクセルペダルの操作及び第2走行レンジに基づき設定された加速度及び減速度との差は、第1ペダルモードが選択されている場合における、アクセルペダルの操作及び第1走行レンジに基づき設定された加速度と、アクセルペダルの操作及び第2走行レンジに基づき設定された加速度との差よりも小さく、第2ペダルモードが選択されている場合における、車両の操舵角及び第1走行レンジに基づき設定された車両に付加する減速度と、車両の操舵角及び第2走行レンジに基づき設定された車両に付加する減速度との差は、第1ペダルモードが選択されている場合における、車両の操舵角及び第1走行レンジに基づき設定された車両に付加する減速度と、車両の操舵角及び第2走行レンジに基づき設定された車両に付加する減速度との差よりも小さい、ことを特徴とする。
このように構成された本発明においては、第2ペダルモードが選択されている場合には、第1ペダルモードが選択されている場合と比べて、第1走行レンジのときにアクセルペダルの操作に基づき設定された加速度及び減速度と、第2走行レンジのときにアクセルペダルの操作に基づき設定された加速度及び減速度との差が小さい。これに対応して、第2ペダルモードが選択されている場合には、第1ペダルモードが選択されている場合と比べて、第1走行レンジのときに車両の操舵角に基づき設定された車両に付加する減速度と、第2走行レンジのときに車両の操舵角に基づき設定された車両に付加する減速度との差を小さくしている。これにより、選択されている走行レンジに応じて車両に発生させる加減速度が変化する場合に、走行レンジに応じて、車両姿勢の制御のために車両に付加する減速度を適切に設定することができる。
【0011】
好適な例では、制御器は、アクセルペダルの操作量が同一の場合、第2ペダルモードにおいて当該アクセルペダルの操作量に基づき設定する減速度を、第1ペダルモードにおいて当該アクセルペダルの操作量に基づき設定する減速度より大きくするように構成されるのがよい。
【0012】
好適な例では、制御器は、第2ペダルモードにおいては、アクセルペダルの踏戻操作に基づき、車両に発生させる加減速度を設定するように構成されるのがよい。
【0013】
また、好適な例では、車両システムは、車輪を駆動し、又は、車輪により駆動されて回生発電を行うモータジェネレータを有しており、
制御器は、加速度を車両に発生させるように、モータジェネレータにより車輪を駆動し、減速度を車両に発生させるように、モータジェネレータにより回生発電を行わせるように構成されるのがよい。
【0014】
他の観点では、上記の目的を達成するために、本発明は、車両の操舵角を検出する操舵角センサと、アクセルペダルの操作を検出するアクセルセンサと、シフトレバーの操作を検出するシフトレバーセンサと、制御器と、を備えた車両システムであって、制御器は、シフトレバーの操作に基づき、第1走行レンジ又は第2走行レンジの何れかの走行レンジを設定し、アクセルペダルの操作及び走行レンジに基づき、車両に発生させる加速度が設定される第1ペダルモードと、アクセルペダルの操作及び走行レンジに基づき、車両に発生させる加速度及び減速度が設定される第2ペダルモードとの、何れかのペダルモードを選択し、第1ペダルモードが選択されているときに、車両の操舵角及び走行レンジに基づき、第1の減速度特性により車両に付加する減速度を設定し、第2ペダルモードが選択されているときに、車両の操舵角及び走行レンジに基づき、第2の減速度特性により車両に付加する減速度を設定し、第1の減速度特性又は第2の減速度特性により設定された減速度に基づき、車両に減速度を発生させるように構成され、第2ペダルモードが選択されている場合、アクセルペダルの操作及び第1走行レンジに基づき設定された加速度及び減速度は、アクセルペダルの操作及び第2走行レンジに基づき設定された加速度及び減速度と略同一であり、第2ペダルモードが選択されている場合における、車両の操舵角及び第1走行レンジに基づき設定された車両に付加する減速度は、車両の操舵角及び第2走行レンジに基づき設定された車両に付加する減速度と略同一である、ことを特徴とする。
このように構成された本発明によっても、選択されている走行レンジに応じて車両に発生させる加減速度が変化する場合に、走行レンジに応じて、車両姿勢の制御のために車両に付加する減速度を適切に設定することができる。。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、車両に減速度を付加することで車両姿勢の制御を行う車両システムにおいて、選択されている走行レンジに応じて車両に発生させる加減速度が変化する場合に、走行レンジに応じて、車両姿勢の制御のために車両に付加する減速度を適切に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態による車両システムの全体構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施形態による車両システムの電気的構成を示すブロック図である。
【
図3】本発明の実施形態による車両姿勢制御処理のフローチャートである。
【
図4】本発明の実施形態による目標加減速度設定処理のフローチャートである。
【
図5】本発明の実施形態による通常走行モードにおけるペダル踏込量と目標加減速度との関係を示したマップである。
【
図6】本発明の実施形態による単一ペダルモードにおけるペダル踏込量と目標加減速度との関係を示したマップである。
【
図7】本発明の実施形態による目標加速度及び目標減速度を補正するためのゲインを規定したマップである。
【
図8】本発明の実施形態による付加減速度設定処理のフローチャートである。
【
図9】本発明の実施形態による付加減速度と操舵速度との関係を示したマップである。
【
図10】本発明の実施形態による付加減速度を補正するためのゲイン(付加減速度ゲイン)を規定したマップである。
【
図11】本発明の実施形態の変形例による車両姿勢制御処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による車両システムを説明する。
【0018】
<システム構成>
まず、
図1により、本発明の実施形態による車両システムの構成を説明する。
図1は、本発明の実施形態による車両システムの全体構成を示すブロック図である。
【0019】
図1において、符号1は、本実施形態による車両システムを適用した車両を示す。車両1には、前輪2を駆動する機能(つまり電動機としての機能)と、前輪2により駆動されて回生発電を行う機能(つまり発電機としての機能)と、を有するモータジェネレータ4が搭載されている。モータジェネレータ4は、減速機5を介して前輪2との間で力が伝達され、また、インバータ3を介してコントローラ14により制御される。さらに、モータジェネレータ4は、バッテリ25に接続されており、駆動力を発生するときにはバッテリ25から電力が供給され、回生したときにはバッテリ25に電力を供給してバッテリ25を充電する。
【0020】
また、車両1は、当該車両1を操舵するための操舵装置(ステアリングホイール6など)と、この操舵装置においてステアリングホイール6に連結されたステアリングコラム(図示せず)の回転角度を検出する操舵角センサ7と、アクセルペダルの開度に相当するアクセルペダル踏込量を検出するアクセル開度センサ(アクセルセンサ)8と、ブレーキペダルの踏込量を検出するブレーキ踏込量センサ9と、車速を検出する車速センサ10と、シフトレバー11の位置に応じたシフトポジション(走行レンジ)を検出するシフトポジションセンサ(シフトレバーセンサ)12とを有する。シフトポジションは、例えば、イグニッションオフ時及びイグニッションをオンにするときに選択されるPレンジ、車両1を後退させるときに選択されるRレンジ、モータジェネレータ4と前輪2との間の駆動力伝達を行わないときに選択されるNレンジ、通常の前進走行を行うときのDレンジ(第1走行レンジ)、及び、降坂路等でモータジェネレータ4に相対的に強い回生トルクを発生させたいときに選択されるBレンジ(第2走行レンジ)を含む。
【0021】
さらに、車両1は、従来のようにアクセルペダルの操作により車両1の加速を行いブレーキペダルの操作により車両1の減速を行う通常走行モード(第1ペダルモード)と、アクセルペダルのみの操作により車両1の加速及び減速の両方を実現する単一ペダルモード(第2ペダルモード)との間で、ペダルモードを切替可能なペダルモードスイッチ13を有する。これらの各センサ及びスイッチは、それぞれの検出値をコントローラ14に出力する。このコントローラ14は、例えばPCM(Power-train Control Module)などを含んで構成される。さらに、車両1の各車輪は、スプリングやサスペンションアームなどを含むサスペンション30を介して、車体に懸架されている。
【0022】
また、車両1は、各車輪に設けられたブレーキ装置(制動装置)16のホイールシリンダやブレーキキャリパにブレーキ液圧を供給するブレーキ制御システム18を備えている。ブレーキ制御システム18は、各車輪に設けられたブレーキ装置16において制動力を発生させるために必要なブレーキ液圧を生成する液圧ポンプ20と、各車輪のブレーキ装置16への液圧供給ラインに設けられた、液圧ポンプ20から各車輪のブレーキ装置16へ供給される液圧を制御するためのバルブユニット22(具体的にはソレノイド弁)と、液圧ポンプ20から各車輪のブレーキ装置16へ供給される液圧を検出する液圧センサ24と、を備えている。液圧センサ24は、例えば各バルブユニット22とその下流側の液圧供給ラインとの接続部に配置され、各バルブユニット22の下流側の液圧を検出し、検出値をコントローラ14に出力する。
【0023】
次に、
図2により、本発明の実施形態による車両システムの電気的構成を説明する。
図2は、本発明の実施形態による車両システムの電気的構成を示すブロック図である。
【0024】
本実施形態によるコントローラ14(制御器)は、上述したセンサ7、8、9、10、12、24の検出信号及びスイッチ13の出力の他、車両1の運転状態を検出する各種センサが出力した検出信号に基づいて、モータジェネレータ4及びブレーキ制御システム18に対する制御を行う。具体的には、コントローラ14は、車両1を駆動するときには、車両1に付与すべき目標トルク(駆動トルク)を求めて、この目標トルクをモータジェネレータ4から発生させるようにインバータ3に対して制御信号を出力する。他方で、コントローラ14は、車両1を制動させるときには、車両1に付与すべき目標回生トルクを求めて、この目標回生トルクをモータジェネレータ4から発生させるようにインバータ3に対して制御信号を出力する。また、コントローラ14は、車両1を制動させるときに、このような回生トルクを用いる代わりに又は回生トルクを用いると共に、車両1に付与すべき目標制動力を求めて、この目標制動力を実現するようにブレーキ制御システム18に対して制御信号を出力してもよい。この場合、コントローラ14は、ブレーキ制御システム18の液圧ポンプ20及びバルブユニット22を制御することで、ブレーキ装置16により所望の制動力を発生させるようにする。
【0025】
コントローラ14(ブレーキ制御システム18も同様)は、1つ以上のプロセッサ、当該プロセッサ上で解釈実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)、及びプログラムや各種のデータを記憶するためのROMやRAMの如き内部メモリを備えるコンピュータにより構成される。
詳細は後述するが、コントローラ14は、本発明における制御器に相当する。また、コントローラ14、操舵角センサ7、アクセル開度センサ8及びシフトポジションセンサ12を少なくとも含むシステムは、本発明における車両システムに相当する。
【0026】
<車両姿勢制御>
次に、車両システムが実行する具体的な制御内容を説明する。まず、
図3により、本発明の実施形態において車両システムが行う車両姿勢制御処理の全体的な流れを説明する。
図3は、本発明の実施形態による車両姿勢制御処理のフローチャートである。
【0027】
図3の車両姿勢制御処理は、車両1のイグニッションがオンにされ、車両システムに電源が投入された場合に起動され、所定周期(例えば50ms)で繰り返し実行される。
車両姿勢制御処理が開始されると、
図3に示すように、ステップS1において、コントローラ14は車両1の運転状態に関する各種センサ及びスイッチ情報を取得する。具体的には、コントローラ14は、操舵角センサ7が検出した操舵角、アクセル開度センサ8が検出したアクセルペダル踏込量(アクセルペダル開度)、ブレーキ踏込量センサ9が検出したブレーキペダル踏込量、車速センサ10が検出した車速、シフトポジションセンサ12が検出したシフトポジション、ペダルモードスイッチ13により選択されたペダルモード、液圧センサ24が検出した液圧等を含む、上述した各種センサ及びスイッチが出力した検出信号を運転状態に関する情報として取得する。
【0028】
次に、ステップS2において、コントローラ14は、ステップS1において取得された車両1の運転状態に基づき、目標加減速度設定処理を実行し、車両1に付加すべき目標加速度又は目標減速度を設定する。
【0029】
ここで、
図4から
図7を参照して、本発明の実施形態における目標加速度及び目標減速度の具体的な設定方法について説明する。
図4は目標加減速度設定処理のフローチャートであり、
図5は通常走行モードにおけるペダル踏込量と目標加減速度との関係を示したマップであり、
図6は単一ペダルモードにおけるペダル踏込量と目標加減速度との関係を示したマップであり、
図7は
図4のマップより得られる目標加速度及び目標減速度をペダルの操作に基づき補正するためのゲインを規定したマップである。
【0030】
図4に示すように、目標加減速度設定処理が開始されると、ステップS21において、コントローラ14は、
図3の車両姿勢制御処理のステップS1において取得した情報に基づき、ペダルモードスイッチ13により単一ペダルモードが選択されているか否かを判定する。その結果、単一ペダルモードが選択されている場合(ステップS21:Yes)、ステップS22に進み、コントローラ14は、単一ペダルシステムが正常に動作中か否かを判定する。例えば、コントローラ14は、モータジェネレータ4やバッテリ25に異常が発生したことにより、所望の回生トルクをモータジェネレータ4から発生させることができないような状況において、単一ペダルシステムが正常に動作していないと判定する。
【0031】
その結果、単一ペダルシステムが正常に動作中である場合(ステップS22:Yes)、ステップS23に進み、コントローラ14は、車速、アクセルペダルの操作、ブレーキペダルの操作及びシフトポジションなどに基づき、
図6に示すマップを参照し、単一ペダルモード用の加減速度特性(第2の加減速度特性)による目標加速度又は目標減速度を設定する。
【0032】
図6において、横軸はペダル踏込量(アクセルペダル踏込量及びブレーキペダル踏込量の両方)を示しており、縦軸は目標加速度及び目標減速度を示している。
図6の符号M11は、アクセルペダル踏込量と目標加速度及び目標減速度との関係を示すマップであり、シフトポジションがDレンジのときとBレンジのときとで同一である。マップM11は、アクセルペダル踏込量が所定値A1(>0)以上の領域R11では目標加速度が設定され、アクセルペダル踏込量が所定値A1未満の領域R12では目標減速度が設定されるように規定されている。このようなマップM11を適用することで、本実施形態におけるアクセルペダルは、当該ペダルのみの操作により車両1の加速及び減速の両方を実現できるようになっており、上述した単一ペダルとしての機能を有する。より具体的には、アクセルペダル踏込量が所定値A1以上の領域R11では、アクセルペダル踏込量が大きくなるほど目標加速度が大きくなり、アクセルペダル踏込量が所定値A1未満の領域R12では、アクセルペダル踏込量が小さくなるほど目標減速度(絶対値)が大きくなるように、マップM11が規定されている。
他方で、符号M12は、ブレーキペダル踏込量と目標減速度との関係を示すマップであり、シフトポジションがDレンジのときとBレンジのときとで同一である。このマップM12は、ブレーキペダル踏込量が大きくなるほど目標減速度(絶対値)が大きくなるように規定されている。
【0033】
また、ステップS21において単一ペダルモードではなく通常走行モードが選択されている場合(ステップS21:No)や、ステップS22において単一ペダルシステムが正常に動作していない場合(ステップS22:No)、ステップS24に進み、コントローラ14は、車速、アクセルペダルの操作、ブレーキペダルの操作及びシフトポジションなどに基づき、
図5に示すマップを参照し、通常走行モード用の加減速度特性(第1の加減速度特性)による目標加速度又は目標減速度を設定する。
【0034】
図5において、横軸はペダル踏込量(アクセルペダル踏込量及びブレーキペダル踏込量の両方)を示しており、縦軸は目標加速度及び目標減速度を示している。
図5の符号M01D及びM01Bは、アクセルペダル踏込量と目標加速度及び目標減速度との関係を示すマップであり、M01Dは走行レンジがDレンジのときのマップ、M01Bは走行レンジがBレンジのときのマップである。マップM01D及びM01Bは、アクセルペダル踏込量が大きくなるほど目標加速度が大きくなり、アクセルペダル踏込量が0のときに、微小な目標減速度D0が設定されるように規定されている。また、マップM01Bの方が、マップM01Dよりも目標加速度が小さく、目標減速度(絶対値)が大きい。これは、Bレンジは降坂路等でモータジェネレータ4により回生トルクを強く発生させたいときに選択される走行レンジであり、加速要求はDレンジのときよりも低いが、減速要求はDレンジのときよりも高いからである。
他方で、符号M02D及びM02Bは、ブレーキペダル踏込量と目標減速度との関係を示すマップであり、M02Dは走行レンジがDレンジのときのマップ、M02Bは走行レンジがBレンジのときのマップである。マップM02D及びM02Bは、ブレーキペダル踏込量が大きくなるほど目標減速度(絶対値)が大きくなるように規定されている。また、マップM02Bの方が、マップM02Dよりも目標減速度(絶対値)が大きい。これは、Bレンジは降坂路等でモータジェネレータ4により回生トルクを強く発生させたいときに選択される走行レンジであり、減速要求はDレンジのときよりも高いからである。
【0035】
図5に示した通常走行モードにおけるDレンジ用のマップM01D及びM02Dと、
図6に示した単一ペダルモード用のマップM11及びM12では、目標加速度の最大値TA及び目標減速度(絶対値)の最大値TDが一致している。他方で、アクセルペダル及びブレーキペダルの踏込量が0のときの目標減速度(絶対値)は、通常走行モードにおける目標減速度D0(絶対値)よりも、単一ペダルモードにおける目標減速度D1(絶対値)の方が大きくなるように規定されている。したがって、アクセルペダルの踏込量が同一の場合、単一ペダルモードにおいてアクセルペダルの踏込量に基づき設定される加速度は、通常走行モードのDレンジにおいてアクセルペダルの踏込量に基づき設定される加速度より小さいように規定される。また、単一ペダルモードにおいてアクセルペダルの踏込量に基づき設定される減速度(絶対値)は、通常走行モードのDレンジにおいてアクセルペダルの踏込量に基づき設定される減速度(絶対値)より大きいように規定される。
【0036】
なお、上記では、単一ペダルモードが選択されているときのアクセルペダル踏込量と目標加速度及び目標減速度との関係を示すマップM11及びM12は、シフトポジションがDレンジのときとBレンジのときとで同一としたが(
図6参照)、完全に同一ではなくてもよい。具体的には、単一ペダルモードが選択されている場合において、シフトポジションがDレンジのときのアクセルペダル踏込量に対応する目標加速度及び目標減速度と、シフトポジションがBレンジのときのアクセルペダル踏込量に対応する目標加速度及び目標減速度との差が、通常走行モードが選択されている場合におけるDレンジ用のマップM01D及びM02Dにより設定される目標加速度及び目標減速度と、Bレンジ用のマップM01B及びM02Bにより設定される目標加速度及び目標減速度との差(
図5参照)よりも小さければよい。
【0037】
コントローラ14は、
図4の目標加減速度設定処理のステップS23において、
図6に示すマップM11又はマップM12を用いて、アクセルペダル踏込量又はブレーキペダル踏込量に応じて目標加速度又は目標減速度を決定し、あるいは、ステップS24において、
図5に示すマップM01D、M01B、M02D又はマップM02Bを用いて、アクセルペダル踏込量又はブレーキペダル踏込量に応じて目標加速度又は目標減速度を決定し、さらに、
図7(a)~(c)のいずれかのマップを用いて、こうして決定した目標加速度又は目標減速度をアクセルペダルやブレーキペダルの操作に基づき補正する。例えば、コントローラ14は、
図7(a)~(c)のいずれかのマップから得られる加速度ゲイン又は減速度ゲインに応じた値を、目標加速度又は目標減速度に乗算することで、当該目標加速度又は当該目標減速度を補正する。
【0038】
図7(a)~(c)は、ペダルの操作速度と、目標加速度及び目標減速度のそれぞれを補正するための加速度ゲイン及び減速度ゲインとの関係を示したマップである。
図7(a)は、アクセルペダルの踏込速度(横軸)とアクセルペダル踏込時に適用する加速度ゲイン(縦軸)との関係を示したマップである。
図7(a)に示すマップは、アクセルペダルの踏込速度が高くなるほど加速度ゲインが大きくなるように規定されている。このマップによれば、アクセルペダルを速く踏み込んだときに、加速度ゲインにより目標加速度が大きくなるよう補正が行われることとなる。こうしているのは、ドライバがアクセルペダルを速く踏み込むほど加速要求の度合いが大きいからである。
【0039】
図7(b)は、アクセルペダルの踏戻速度(横軸)とアクセルペダル踏戻時に適用する減速度ゲイン(縦軸)との関係を示したマップである。
図7(b)に示すマップは、アクセルペダルの踏戻速度が高くなるほど減速度ゲインが大きくなるように規定されている。このマップによれば、アクセルペダルを速く踏み戻したときに、減速度ゲインにより目標減速度(絶対値)が大きくなるよう補正が行われることとなる。こうしているのは、ドライバがアクセルペダルを速く踏み戻すほど減速要求の度合いが大きいからである。
【0040】
図7(c)は、ブレーキペダルの踏込速度(横軸)とブレーキペダル踏込時に適用する減速度ゲイン(縦軸)との関係を示したマップである。
図7(c)に示すマップは、ブレーキペダルの踏込速度が高くなるほど減速度ゲインが大きくなるように規定されている。このマップによれば、ブレーキペダルを速く踏み込んだときに、減速度ゲインにより目標減速度(絶対値)が大きくなるよう補正が行われることとなる。こうしているのは、ドライバがブレーキペダルを速く踏み込むほど減速要求の度合いが大きいからである。
【0041】
なお、上記では、アクセルペダル及びブレーキペダルの踏込速度や踏戻速度に応じて目標加速度及び目標減速度を補正する例を示したが、それ以外にも車速に応じて目標加速度及び目標減速度を補正してもよい。例えば、車速が低くなるほどアクセルペダル踏込時の目標加速度が大きくなるように補正したり、車速が低くなるほどアクセルペダル踏戻時の目標減速度(絶対値)が小さくなるよう補正したりしてもよい。
【0042】
図4のステップS23又はS24の後、ステップS25において、コントローラ14は、ステップS23又はS24において設定した目標加速度を実現するためのモータジェネレータ4の基本目標トルクを設定し、あるいは、ステップS23又はS24において設定した目標減速度を実現するためのモータジェネレータ4の基本目標回生トルク及びブレーキ装置16による基本目標制動力を設定する。ステップS25の後、コントローラ14は目標加減速度設定処理を終了し、メインルーチンに戻る。
【0043】
図3に戻り、ステップS2の処理と並行して、ステップS3において、コントローラ14は付加減速度設定処理を実行し、車両1の操舵速度に基づき、車両1に減速度を発生させることで車両姿勢を制御するために必要な付加減速度を決定する。この付加減速度設定処理の詳細は後述する。
【0044】
次に、ステップS4において、コントローラ14は、ステップS3で設定された付加減速度に基づき、トルク低減量を決定する。具体的には、コントローラ14は、モータジェネレータ4からの駆動トルクの低下又はモータジェネレータ4からの回生トルクの増加により付加減速度を実現するために必要となるトルク量を決定する。
【0045】
ステップS2及びS4の後、ステップS5において、コントローラ14は、車両1が駆動されているか否か、換言すると車両1が制動されていないか否かを判定する。1つの例では、コントローラ14は、ステップS2において基本目標トルクを設定した場合(つまりステップS2において目標加速度を設定した場合)には、車両1が駆動されていると判定する一方で、ステップS2において基本目標回生トルクを設定した場合(つまりステップS2において目標減速度を設定した場合)には、車両1が駆動されていないと判定する。他の例では、コントローラ14は、アクセル開度センサ8及びブレーキ踏込量センサ9の検出信号に基づき当該判定を行う。この例では、コントローラ14は、単一ペダルモードにおいてアクセル開度センサ8により検出されたアクセルペダル踏込量が所定値A1以上である場合や、通常走行モードにおいてアクセル開度センサ8によりアクセルペダルの踏み込みが検出された場合には車両1が駆動されていると判定し、そうでない場合には車両1が駆動されていないと判定する。また、コントローラ14は、ブレーキ踏込量センサ9により検出されたブレーキペダル踏込量が0より大きい場合、つまりブレーキ踏込量センサ9によりブレーキペダルの踏み込みが検出された場合には、車両1が駆動されていないと判定する。
【0046】
ステップS5において車両1が駆動されていると判定された場合(ステップS5:Yes)、コントローラ14は、ステップS6において、ステップS2において設定した基本目標トルクと、ステップS4において決定したトルク低減量に基づき、最終目標トルクを決定する。具体的には、コントローラ14は、基本目標トルクからトルク低減量を減算した値を最終目標トルクとする。つまり、コントローラ14は、車両1に付与する駆動トルクを低減させるようにする。なお、ステップS4においてトルク低減量が設定されなかった場合には(つまりトルク低減量が0である場合)、コントローラ14は、基本目標トルクをそのまま最終目標トルクとする。
【0047】
次いで、ステップS7において、コントローラ14は、ステップS6において決定した最終目標トルクを実現するためのインバータ3の指令値(インバータ指令値)を設定する。つまり、コントローラ14は、最終目標トルクをモータジェネレータ4から発生させるためのインバータ指令値(制御信号)を設定する。そして、ステップS10において、コントローラ14は、ステップS7において設定したインバータ指令値をインバータ3に出力する。
【0048】
他方で、ステップS5において車両1が駆動されていないと判定された場合(ステップS5:No)、つまり車両1が制動されている場合、コントローラ14は、ステップS8において、ステップS3において決定した基本目標回生トルクと、ステップS4において決定したトルク低減量とに基づき、最終目標回生トルクを決定する。具体的には、コントローラ14は、基本目標回生トルクにトルク低減量を加算した値を最終目標回生トルクとする(原則、基本目標回生トルク及びトルク低減量は正値で表される)。つまり、コントローラ14は、車両1に付与する回生トルク(制動トルク)を増加させるようにする。なお、ステップS3において付加減速度が設定されなかった場合には(つまりトルク低減量が0である場合)、コントローラ14は、基本目標回生トルクをそのまま最終目標回生トルクとする。
【0049】
次いで、ステップS9において、コントローラ14は、ステップS8において決定した最終目標回生トルクを実現するためのインバータ3の指令値(インバータ指令値)を設定する。つまり、コントローラ14は、最終目標回生トルクをモータジェネレータ4から発生させるためのインバータ指令値(制御信号)を設定する。そして、ステップS10において、コントローラ14は、ステップS9において設定したインバータ指令値をインバータ3に出力する。
【0050】
次に、ステップS11において、コントローラ14は、ステップS2において設定した基本目標制動力を実現すべく、ブレーキ制御システム18の液圧ポンプ20及びバルブユニット22の指令値を設定する。つまり、コントローラ14は、基本目標制動力をブレーキ装置16から発生させるための液圧ポンプ20及びバルブユニット22の指令値(制御信号)を設定する。なお、ステップS2において基本目標制動力が設定されなかった場合には(つまり基本目標制動力が0である場合)、コントローラ14は、液圧ポンプ20及びバルブユニット22の指令値を0とする。そして、ステップS12において、コントローラ14は、ステップS11において設定した指令値を液圧ポンプ20及びバルブユニット22に出力する。このステップS12の後、コントローラ14は、車両姿勢制御処理を終了する。
【0051】
次に、
図8から
図10を参照して、本発明の実施形態における付加減速度設定処理について説明する。
【0052】
図8は、本発明の実施形態による付加減速度設定処理のフローチャートである。
図9は、本発明の実施形態による付加減速度と操舵速度との関係を示したマップである。
図10は、本発明の実施形態において、
図9のマップより得られる付加減速度をペダル踏込量に応じて補正するためのゲイン(付加減速度ゲイン)を規定したマップであり、
図10(a)は通常走行モード用のマップ、
図10(b)は単一ペダルモード用のマップである。
【0053】
図8の付加減速度設定処理が開始されると、ステップS30において、コントローラ14は、車両1が前進走行中か否かを判定する。例えば、コントローラ14は、車速センサ10により検出された前進方向の車速が所定値(例えば5km/h)以上の場合に、車両1が前進走行中であると判定する。
【0054】
その結果、車両1が前進走行中である場合(ステップS30:Yes)、ステップS31に進み、コントローラ14は、ステアリングホイール6の切り込み操作中(即ち操舵角(絶対値)が増大中)か否かを判定する。その結果、切り込み操作中である場合(ステップS31:Yes)、ステップS32に進み、コントローラ14は、
図3の車両姿勢制御処理のステップS1において操舵角センサ7から取得した操舵角に基づき操舵速度を算出する。
【0055】
次に、ステップS33において、コントローラ14は、操舵速度が所定の閾値S1以上であるか否かを判定する。その結果、操舵速度が閾値S1以上である場合(ステップS33:Yes)、ステップS34に進み、コントローラ14は、操舵速度に基づき付加減速度を設定する。この付加減速度は、ドライバの意図に沿って車両姿勢を制御するために、ステアリング操作に応じて車両に付加すべき減速度である。
【0056】
具体的には、コントローラ14は、
図9のマップに示す付加減速度と操舵速度との関係に基づき、ステップS32において算出した操舵速度に対応する付加減速度を設定する。
図7における横軸は操舵速度を示し、縦軸は付加減速度を示す。
図9に示すように、操舵速度が閾値S
1未満である場合、対応する付加減速度は0である。即ち、操舵速度が閾値S
1未満である場合、コントローラ14は、ステアリング操作に基づき車両1に減速度を付加するための制御を行わない。
【0057】
一方、操舵速度が閾値S1以上である場合には、操舵速度が増大するに従って、この操舵速度に対応する付加減速度は、所定の上限値Dmaxに漸近する。即ち、操舵速度が増大するほど付加減速度は増大し、且つ、その増大量の増加割合は小さくなる。この上限値Dmaxは、ステアリング操作に応じて車両1に減速度を付加しても、制御介入があったとドライバが感じない程度の減速度に設定される(例えば0.5m/s2≒0.05G)。さらに、操舵速度が閾値S1よりも大きい閾値S2以上の場合には、付加減速度は上限値Dmaxに維持される。
【0058】
次に、ステップS35において、コントローラ14は、
図3の車両姿勢制御処理のステップS1において取得した情報に基づき、ペダルモードスイッチ13により単一ペダルモードが選択されているか否かを判定する。その結果、単一ペダルモードが選択されている場合(ステップS35:Yes)、ステップS36に進み、コントローラ14は、ステップS34で設定した付加減速度を、単一ペダルモード用の付加減速度ゲインにより補正する。具体的には、コントローラ14は、
図10(b)に示す単一ペダルモード用のマップに基づき、アクセル開度センサ8又はブレーキ踏込量センサ9によって検出された現在のアクセルペダル踏込量又はブレーキペダル踏込量に対応する付加減速度ゲインを決定して、この付加減速度ゲインによって付加減速度を補正する。例えば、コントローラ14は、付加減速度ゲインに応じた値を付加減速度に乗算することで、当該付加減速度を補正する。これにより、単一ペダルモード用の減速度特性(第2の減速度特性)による付加減速度が設定される。
【0059】
図10は、ペダルの操作速度と、目標加速度及び目標減速度のそれぞれを補正するための加速度ゲイン及び減速度ゲインとの関係を示したマップである。
図10において、横軸はペダル踏込量(アクセルペダル踏込量及びブレーキペダル踏込量の両方)を示しており、縦軸は付加減速度ゲインを示している。
図10(b)における符号M31は、単一ペダルモードにおけるアクセルペダル踏込量と付加減速度ゲインとの関係を示すマップであり、シフトポジションがDレンジのときとBレンジのときとで同一である。このマップM31は、アクセルペダル踏込量が小さくなるほど付加減速度ゲインが大きくなるように規定されている。これにより、アクセルペダル踏込量が小さくなるほど、付加減速度(絶対値)が大きくなるように補正が行われる。なお、
図10(b)には、
図6と同様に、アクセルペダル踏込量の所定値A1と、この所定値A1以上の領域R11と、この所定値A1未満の領域R12とを示している。上述したように、アクセルペダル踏込量が所定値A1以上の領域R11では目標加速度が設定され、且つ、アクセルペダル踏込量が所定値A1未満の領域R12では目標減速度が設定されるようになっている。付加減速度ゲインを規定するマップM31においては、所定値A1以上の領域R11と所定値A1未満の領域R12とで、アクセルペダル踏込量と付加減速度ゲインとの関係は特に変化しない。
【0060】
他方で、
図10(b)における符号M32は、単一ペダルモードにおけるブレーキペダル踏込量と付加減速度ゲインとの関係を示すマップであり、シフトポジションがDレンジのときとBレンジのときとで同一である。このマップM32は、ブレーキペダル踏込量が大きくなるほど付加減速度ゲインが大きくなるように規定されている。これにより、ブレーキペダル踏込量が大きくなるほど、付加減速度(絶対値)が大きくなるように補正が行われる。
【0061】
また、ステップS35において単一ペダルモードではなく通常走行モードが選択されている場合(ステップS35:No)、ステップS37に進み、コントローラ14は、シフトポジションセンサ12により検出されたシフトポジションがDレンジか否かを判定する。その結果、シフトポジションがDレンジである場合(ステップS37:Yes)、ステップS38に進み、コントローラ14は、ステップS34で設定した付加減速度を、通常走行モード且つDレンジ用の付加減速度ゲインにより補正する。具体的には、コントローラ14は、
図10(a)に示す通常走行モード且つDレンジ用のマップに基づき、アクセル開度センサ8又はブレーキ踏込量センサ9によって検出された現在のアクセルペダル踏込量又はブレーキペダル踏込量に対応する付加減速度ゲインを決定して、この付加減速度ゲインによって付加減速度を補正する。例えば、コントローラ14は、付加減速度ゲインに応じた値を付加減速度に乗算することで、当該付加減速度を補正する。これにより、通常走行モード用の減速度特性(第1の減速度特性)による付加減速度が設定される。
【0062】
図10(a)において、符号M21Dは、通常走行モード且つ走行レンジがDレンジのときのアクセルペダル踏込量と付加減速度ゲインとの関係を示すマップである。このマップM21Dは、アクセルペダル踏込量が小さくなるほど付加減速度ゲインが大きくなるように規定されている。これにより、アクセルペダル踏込量が小さくなるほど、付加減速度(絶対値)が大きくなるように補正が行われる。符号M22Dは、通常走行モード且つ走行レンジがDレンジのときのブレーキペダル踏込量と付加減速度ゲインとの関係を示すマップである。このマップM22Dは、ブレーキペダル踏込量が大きくなるほど付加減速度ゲインが大きくなるように規定されている。これにより、ブレーキペダル踏込量が大きくなるほど、付加減速度(絶対値)が大きくなるように補正が行われる。
【0063】
また、ステップS37において、シフトポジションがDレンジではなかった場合(ステップS37:No)、つまりシフトポジションがBレンジであった場合、ステップS39に進み、コントローラ14は、ステップS34で設定した付加減速度を、通常走行モード且つBレンジ用の付加減速度ゲインにより補正する。具体的には、コントローラ14は、
図10(a)に示す通常走行モード且つBレンジ用のマップに基づき、アクセル開度センサ8又はブレーキ踏込量センサ9によって検出された現在のアクセルペダル踏込量又はブレーキペダル踏込量に対応する付加減速度ゲインを決定して、この付加減速度ゲインによって付加減速度を補正する。
【0064】
図10(a)において、符号M21Bは、通常走行モード且つ走行レンジがBレンジのときのアクセルペダル踏込量と付加減速度ゲインとの関係を示すマップである。このマップM21Bは、アクセルペダル踏込量が小さくなるほど付加減速度ゲインが大きくなるように規定されている。これにより、アクセルペダル踏込量が小さくなるほど、付加減速度(絶対値)が大きくなるように補正が行われる。また、マップM21Bの方が、マップM21Dよりも付加減速度(絶対値)が大きくなるように補正が行われる。
他方で、符号M22Bは、通常走行モード且つ走行レンジがBレンジのときのブレーキペダル踏込量と付加減速度ゲインとの関係を示すマップである。このマップM22Bは、ブレーキペダル踏込量が大きくなるほど付加減速度ゲインが大きくなるように規定されている。これにより、ブレーキペダル踏込量が大きくなるほど、付加減速度(絶対値)が大きくなるように補正が行われる。また、マップM22Bの方が、マップM22Dよりも付加減速度(絶対値)が大きくなるように補正が行われる。
【0065】
アクセルペダルの踏込量が同一の場合、
図10(b)に示した単一ペダルモード用のマップM31によりアクセルペダル踏込量に応じて規定される付加減速度ゲインは、
図10(a)に示した通常走行モード且つDレンジ用のマップM21Dによりアクセルペダル踏込量に応じて規定される付加減速度ゲインより大きい。また、ブレーキペダルの踏込量が同一の場合、
図10(b)に示した単一ペダルモード用のマップM32によりブレーキペダル踏込量に応じて規定される付加減速度ゲインは、
図10(a)に示した通常走行モード且つDレンジ用のマップM22Dによりアクセルペダル踏込量に応じて規定される付加減速度ゲインより大きい。したがって、同じステアリング操作が行われた場合、そのステアリング操作に基づき、単一ペダルモード用の減速度特性により設定される付加減速度(絶対値)は、通常走行モード且つDレンジ用の減速度特性により設定される付加減速度(絶対値)より大きくなる。
【0066】
なお、上記では、単一ペダルモードが選択されているときのペダル踏込量と付加減速度ゲインとの関係を示すマップM31及びM32は、シフトポジションがDレンジのときとBレンジのときとで同一としたが(
図10(b)参照)、完全に同一ではなくてもよい。具体的には、単一ペダルモードが選択されている場合において、シフトポジションがDレンジのときのペダル踏込量に対応する付加減速度ゲインと、シフトポジションがBレンジのときのペダル踏込量に対応する付加減速度ゲインとの差が、通常走行モードが選択されている場合におけるDレンジ用のマップM21D及びM22Dにより設定される付加減速度ゲインと、Bレンジ用のマップM21B及びM22Bにより設定される付加減速度ゲインとの差(
図10(a)参照)よりも小さければよい。
【0067】
ステップS36、S38又はS39の後、コントローラ14は付加減速度設定処理を終了し、メインルーチンに戻る。
【0068】
また、ステップS30において、車両1が前進走行中ではない場合(ステップS30:No)、ステップS31において、ステアリングホイール6の切り込み操作中ではない場合(ステップS31:No)、又は、ステップS33において、操舵速度が閾値S1未満である場合(ステップS33:No)、コントローラ14は、付加減速度の設定を行うことなく付加減速度設定処理を終了し、メインルーチンに戻る。
【0069】
<作用効果>
次に、本発明の実施形態による車両システムの作用効果について説明する。
ステアリングホイール6の切り込み操作に基づき車両に減速度を付加する従来の車両姿勢制御においては、同一の減速度を付加した場合に、車両のピッチ剛性が高いほど、車両のピッチング方向における姿勢変化が起き難くなり、ステアリングの切り込み操作に対する応答性が低く感じられるようになる。一つの例では、車両の減速度(絶対値)が大きいほど、車体の前部が後部に対して沈み込み、前輪2のサスペンション30のスプリングが圧縮されることでサスペンション30の剛性が高くなる(即ちピッチ剛性が高くなる)ので、車両の減速度(絶対値)が小さい場合や車両が加速中の場合と比較して、ステアリングの切り込み操作に対する応答性が低く感じられるようになる。
【0070】
本実施形態の車両システムを適用した車両1では、上述したとおり、アクセルペダルの踏込量が同一の場合、単一ペダルモードにおいてアクセルペダルの踏込量に基づき設定される加速度は、通常走行モードにおいてアクセルペダルの踏込量に基づき設定される加速度より小さいように規定される。また、単一ペダルモードにおいてアクセルペダルの踏込量に基づき設定される減速度(絶対値)は、通常走行モードにおいてアクセルペダルの踏込量に基づき設定される減速度(絶対値)より大きいように規定される。さらに、単一ペダルモードにおいてブレーキペダルの踏込量に基づき設定される減速度(絶対値)は、通常走行モードにおいてブレーキペダルの踏込量に基づき設定される減速度(絶対値)より大きいように規定される。即ち、アクセルペダル又はブレーキペダルの踏込量が同一の場合、単一ペダルモードであるときの方が、通常走行モードであるときよりも相対的に車体の前部が後部に対して沈み込んでいるので、ピッチ剛性が高い。
【0071】
そこで、本実施形態では、コントローラ14は、ステアリングホイール6の切り込み操作に基づき付加減速度を設定する場合において、ペダルモードが単一ペダルモードであるときには、通常走行モードであるときよりも付加減速度(絶対値)を大きくしている。これにより、単一ペダルモードが選択されているときに、通常走行モードが選択されているときと比べて車両1のピッチ剛性が高くなっていても、ステアリング操作に基づく付加減速度を大きくすることで、通常走行モードが選択されているときと同じように車両姿勢を変化させることができる。したがって、単一ペダルモードと通常走行モードの何れのペダルモードが選択されているのかによらずに、ステアリングの切り込み操作に対する車両1の応答性を確保することができる。
【0072】
また、本実施形態の車両システムを適用した車両1では、
図5を参照して説明したとおり、通常走行モードにおいて、走行レンジがBレンジであるときの方が、Dレンジであるときよりも目標加速度が小さく、目標減速度(絶対値)が大きく設定される。即ち、通常走行モードにおいてアクセルペダルの踏込量が同一の場合、Bレンジであるときの方がDレンジであるときよりも車両1に発生させる加速度が小さくなり、あるいは減速度(絶対値)が大きくなり、相対的に車体の前部が後部に対して沈み込むので、ピッチ剛性が高い。
【0073】
そこで、本実施形態では、コントローラ14は、ステアリングホイール6の切り込み操作に基づき付加減速度を設定する場合において、ペダルモードが通常走行モードであるときには、走行レンジがBレンジであるときの方が、Dレンジであるときよりも付加減速度(絶対値)が大きくなるよう補正している。これにより、通常走行モード且つBレンジのときに、通常走行モード且つDレンジのときよりも車両1のピッチ剛性が相対的に高くなっていても、ステアリング操作に基づく付加減速度(絶対値)を大きくすることで、アクセルペダルの踏込速度が相対的に低いときと同じように車両姿勢を変化させることができる。
【0074】
他方で、
図6を参照して説明したとおり、単一ペダルモードにおいては、走行レンジがDレンジのときとBレンジのときで、目標加速度及び目標減速度に違いはないので、ピッチ剛性にも差異は生じない。そこで、本実施形態では、コントローラ14は、ステアリングホイール6の切り込み操作に基づき付加減速度を設定する場合において、ペダルモードが単一ペダルモードであるときには、走行レンジがDレンジのときとBレンジのときとで付加減速度に違いが生じないようにしている。
したがって、ペダルモード及び走行レンジに応じて、車両姿勢制御のための付加減速度を適切に設定することができる。
【0075】
<変形例>
次に、本実施形態の変形例について説明する。
【0076】
(変形例1)
上記した実施形態では、車両姿勢制御を車両1の制動中に行うときに、設定した付加減速度が車両1に発生するようにモータジェネレータ4に回生発電を行わせていたが(
図3参照)、他の例では、車両姿勢制御を車両1の制動中に行うときに、ブレーキ装置16により制動力を付加させることで、設定した付加減速度を車両1に発生させるようにしてもよい。
【0077】
図11は、本発明の実施形態の変形例による車両姿勢制御処理のフローチャートである。なお、以下では、
図3の車両姿勢制御処理と同一の処理については、その説明を適宜省略する。つまり、ここで特に説明しない処理や制御は、上記した実施形態と同様である。
【0078】
ステップS43において、付加減速度設定処理を実行した後(
図8参照)、ステップS44において、コントローラ14は、ステップS43で設定された付加減速度に基づき、付加制動力を決定する。具体的には、コントローラ14は、ブレーキ装置16の制動力により付加減速度を実現するために必要となる付加制動力を決定する。
【0079】
ステップS42及びS44の後、ステップS45において、コントローラ14は、車両1が駆動されているか否かを判定する。その結果、車両1が駆動されている場合(ステップS45:Yes)、コントローラ14は、ステップS46において、ステップS42において設定した基本目標トルクを実現するためのインバータ3の指令値(インバータ指令値)を設定する。つまり、コントローラ14は、基本目標トルクをモータジェネレータ4から発生させるためのインバータ指令値(制御信号)を設定する。そして、ステップS48において、コントローラ14は、ステップS46において設定したインバータ指令値をインバータ3に出力する。
【0080】
他方で、ステップS45において車両1が駆動されていないと判定された場合(ステップS45:No)、つまり車両1が制動されている場合、ステップS47において、コントローラ14は、ステップS42において決定した基本目標回生トルクを実現するためのインバータ3の指令値(インバータ指令値)を設定する。つまり、コントローラ14は、基本目標回生トルクをモータジェネレータ4から発生させるためのインバータ指令値(制御信号)を設定する。そして、ステップS48において、コントローラ14は、ステップS47において設定したインバータ指令値をインバータ3に出力する。
【0081】
次に、ステップS49において、コントローラ14は、ステップS42において設定した基本目標制動力と、ステップS44において決定した付加制動力とに基づき、最終目標制動力を決定する。具体的には、コントローラ14は、基本目標制動力に付加制動力を加算した値を最終目標制動力とする(原則、基本目標制動力及び付加制動力は正値で表される)。つまり、コントローラ14は、車両1に付与する制動力を増加させるようにする。なお、ステップS43において付加減速度が設定されなかった場合には(つまり付加制動力が0である場合)、コントローラ14は、基本目標制動力をそのまま最終目標制動力とする。
【0082】
次に、ステップS50において、コントローラ14は、ステップS49において設定した最終目標制動力を実現すべく、ブレーキ制御システム18の液圧ポンプ20及びバルブユニット22の指令値を設定する。つまり、コントローラ14は、最終目標制動力をブレーキ装置16から発生させるための液圧ポンプ20及びバルブユニット22の指令値(制御信号)を設定する。そして、ステップS51において、コントローラ14は、ステップS50において設定した指令値を液圧ポンプ20及びバルブユニット22に出力する。このステップS51の後、コントローラ14は、車両姿勢制御処理を終了する。
【0083】
以上述べたような変形例によっても、ペダルモードに応じて異なる車両1の加減速度特性に合わせて、車両姿勢制御のための付加減速度を適切に設定することができる。これにより、単一ペダルモードと通常走行モードの何れのペダルモードが選択されているのかによらずに、ステアリングの切り込み操作に対する車両1の応答性を確保することができる。
【0084】
(変形例2)
上記した実施形態では、本発明をモータジェネレータ4により駆動される車両1(いわゆる電気自動車(EV))に適用した例を示したが、他の例では、エンジンにより駆動される一般的な車両にも本発明を適用することができる。この例では、エンジンの生成トルクを低下させることで、車両1に減速度を付加して車両姿勢を制御すればよい。エンジンがガソリンエンジンである場合には、点火プラグの点火時期を遅角させる(リタードする)ことにより、エンジンの生成トルクを低下させればよい。エンジンがディーゼルエンジンである場合には、燃料噴射量を減少させることにより、エンジンの生成トルクを低下させればよい。更に他の例では、エンジン及びモータジェネレータにより駆動される車両(いわゆるハイブリッド自動車(HV))にも本発明を適用することができる。
【0085】
(変形例3)
上記した実施形態では、ステアリングホイール6に連結されたステアリングコラムの回転角度を操舵角として使用すると説明したが、ステアリングコラムの回転角度に代えて、あるいはステアリングコラムの回転角度と共に、操舵系における各種状態量(アシストトルクを付与するモータの回転角や、ラックアンドピニオンにおけるラックの変位等)を操舵角として用いてもよい。
【符号の説明】
【0086】
1 車両
2 前輪
3 インバータ
4 モータジェネレータ
6 ステアリングホイール
7 操舵角センサ
8 アクセル開度センサ(アクセルセンサ)
9 ブレーキ踏込量センサ
10 車速センサ
11 シフトレバー
12 シフトポジションセンサ
13 ペダルモードスイッチ
14 コントローラ
16 ブレーキ装置
18 ブレーキ制御システム
25 バッテリ