(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-02-14
(54)【発明の名称】双方向無限角回転ダンパ
(51)【国際特許分類】
F16F 9/12 20060101AFI20220203BHJP
A47K 13/12 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
F16F9/12
A47K13/12
(21)【出願番号】P 2020553291
(86)(22)【出願日】2019-10-17
(86)【国際出願番号】 JP2019040914
(87)【国際公開番号】W WO2020085195
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-03-19
(31)【優先権主張番号】P 2018202360
(32)【優先日】2018-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000110206
【氏名又は名称】株式会社TOK
(74)【代理人】
【識別番号】100104204
【氏名又は名称】峯岸 武司
(72)【発明者】
【氏名】室井 翔太
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-170640(JP,A)
【文献】特許第6226720(JP,B2)
【文献】特開2008-202744(JP,A)
【文献】特開2010-159776(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/12
A47K 13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に粘性流体が充填される一方の物体に取り付けられるハウジングと、前記ハウジング内に収容されて前記ハウジングに対して回転自在に支持される他方の物体に取り付けられるシャフトとを備え、粘性流体の剪断抵抗により生じるトルクによって前記シャフトの回転に抵抗を付与する双方向無限角回転ダンパにおいて、
前記シャフトは、前記ハウジング内に収容される外周に第1の凹凸が軸心方向に所定長にわたって形成され、
前記第1の凹凸と前記軸心方向に所定長にわたって噛み合う第2の凹凸が前記シャフトの外周に対向する内周に形成され、前記ハウジング内に回転不能に収容される制動子だけを前記シャフトの周囲に前記ハウジングと前記シャフトの間における回転抵抗付与部材として備える
ことを特徴とする双方向無限角回転ダンパ。
【請求項5】
前記第1の凹凸は、前記シャフトの外周における周方向の弧長が前記切り欠きの周方向における弧長よりも小さく形成されることを特徴とする請求項4に記載の双方向無限角回転ダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジング内の粘性流体により生じるトルクによってシャフトの回転に抵抗を付与する双方向無限角回転ダンパに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来この種の回転ダンパとしては、例えば、特許文献1に開示された回転ダンパがある。この回転ダンパは、ハウジングと、ローターと、第1抵抗板を有するシャフトと、第2抵抗板とを主な構成として有する。第1抵抗板は、略円形の形状とされ、シャフトのローター内となる位置において、シャフトの長手方向に垂直な方向に延在し、当該長手方向に並べられる。第2抵抗板は、部分円に略一致する外側部と略四角形の内側部とからなり、内側部が、ローターの側壁部に形成されるスリットに挿入されて、ローターに係止される。ローターに形成されるスリットの幅、および、シャフトの第1抵抗板同士の間隔は、第2抵抗板の厚みより僅かに大きい。第2抵抗板は、回転ダンパに必要とされる回転抵抗の大きさに応じた枚数が、複数の第1抵抗板の間に配置されて、ローターに係止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された上記従来の回転ダンパは、複数の第1抵抗板の間に回転抵抗の大きさに応じた枚数の第2抵抗板を配置させるために、シャフトを覆う筒状のローターが構成部品として必要とされる。また、ローターの側壁に形成されるスリットに第2抵抗板を多数挿入して組み付ける必要がある。このため、上記従来の回転ダンパは、大きな回転抵抗を得るために構成部品が増え、また、組立工数が増えてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたもので、
内部に粘性流体が充填される一方の物体に取り付けられるハウジングと、ハウジング内に収容されてハウジングに対して回転自在に支持される他方の物体に取り付けられるシャフトとを備え、粘性流体の剪断抵抗により生じるトルクによってシャフトの回転に抵抗を付与する双方向無限角回転ダンパにおいて、
シャフトが、ハウジング内に収容される外周に第1の凹凸が軸心方向に所定長にわたって形成され、
第1の凹凸と軸心方向に所定長にわたって噛み合う第2の凹凸がシャフトの外周に対向する内周に形成され、ハウジング内に回転不能に収容される制動子だけをシャフトの周囲にハウジングとシャフトの間における回転抵抗付与部材として備える
ことを特徴とする。
【0006】
本構成においては、シャフトが回転すると第1の凹凸が回転し、第1の凹凸は、ハウジングに回転不能に収容される第2の凹凸に対して相対移動する。したがって、シャフトの外周に形成された第1の凹凸と、制動子の内周に第1の凹凸に噛み合って形成された第2の凹凸との間には、粘性流体の剪断抵抗が生じる。この剪断抵抗は、第1の凹凸と第2の凹凸とが軸心方向において噛み合う長さおよび噛み合う深さに応じた大きさで生じる。したがって、第1の凹凸と第2の凹凸とが噛み合う長さおよび噛み合う深さを適宜設定することで、所望の大きさの回転抵抗を生じさせる回転ダンパを、シャフトの周囲に制動子を備えるだけで構成することができる。このため、従来のロータに相当する構成部品を要することなく、また、第2抵抗板をロータに多数組み付ける従来の組立工数を要することなく、少ない構成部品および少ない組立工数で製作でき、大きな回転抵抗を生じさせる双方向無限角回転ダンパを提供することができる。
【0007】
また、本発明は、シャフトの外周を内周が覆う円筒体が軸心方向に沿って複数個に分断されて、制動子が構成されていることを特徴とする。
【0008】
本構成によれば、シャフトへの制動子の組み付けは、制動子の円筒体の内周に軸心方向に沿ってシャフトを挿入することなく、軸心方向に沿って複数個に分断された制動子をシャフトの軸心に垂直な方向からシャフトの外周に組み付けることで、容易に行える。
【0009】
また、本発明は、制動子が、分断された円筒体の少なくとも一つがハウジング内に回転不能に収容されることを特徴とする
【0010】
本構成によれば、回転ダンパの回転抵抗は、制動子を構成する分断された円筒体のハウジングへの収納数、すなわち、制動子の内周に形成される第2の凹凸がシャフトの外周に形成される第1の凹凸と周方向において噛み合う弧長により、調整される。
【0011】
また、本発明は、制動子が、ハウジング内に粘性流体が充填される側の端部に軸心方向に沿う切り欠きが軸心方向に所定長にわたって形成されていることを特徴とする。
【0012】
本構成によれば、ハウジング内に粘性流体が充填される際、粘性流体は制動子の切り欠きによって形成される空間を伝って、粘性流体のハウジングへの充填側と反対側へ速やかに移動する。このため、第1の凹凸と第2の凹凸との各噛み合い部に速やかに粘性流体が行きわたり、速やかにハウジング内に粘性流体が充填されて、回転ダンパの製作時間を短縮化することができる。
【0013】
また、本発明は、第1の凹凸が、シャフトの外周における周方向の弧長が切り欠きの周方向における弧長よりも小さく形成されることを特徴とする。
【0014】
本構成によれば、回転ダンパの回転抵抗は、シャフトの外周に形成される第1の凹凸がシャフトの軸心方向において制動子の第2の凹凸と重なり、第2の凹凸と噛み合う回転位置にあるとき、第1の凹凸と第2凹凸との間にある粘性流体の剪断抵抗によって大きくなる。しかし、シャフトが回転して第1の凹凸が制動子の切り欠きに存在するときは、第1の凹凸が第2の凹凸と噛み合わなくなり、または、第1の凹凸が第2の凹凸と噛み合う軸心方向長さが短くなり、回転ダンパの回転抵抗は小さくなる。したがって、回転ダンパの回転抵抗は回転ダンパの動作中に変化する。このため、第1の凹凸がシャフトの外周の周方向に形成される弧長および形成位置と、切り欠きが制動子の周方向に形成される弧長および形成位置とを調整することで、回転ダンパに生じる回転抵抗の大きさをシャフトの回転角度に応じて回転ダンパの動作中に任意に変化させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、少ない構成部品および少ない組立工数で製作でき、大きな回転抵抗を生じさせる双方向無限角回転ダンパを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施の形態による双方向無限角回転ダンパを一方の側から見た分解斜視図である。
【
図2】一実施の形態による双方向無限角回転ダンパを他方の側から見た分解斜視図である。
【
図3】一実施の形態による双方向無限角回転ダンパの縦断面図である。
【
図4】(a)は、一実施の形態による双方向無限角回転ダンパを構成する制動子がシャフトの外周に配置された状態を一方の側から見た斜視図、(b)は他方の側から見た斜視図である。
【
図5】(a)は、一実施の形態の変形例による双方向無限角回転ダンパを構成するシャフトの斜視図、(b)は一実施の形態の変形例による双方向無限角回転ダンパの横断面図である。
【
図6】本発明の他の実施の形態による双方向無限角回転ダンパを一方の側から見た分解斜視図である。
【
図7】他の実施の形態による双方向無限角回転ダンパを他方の側から見た分解斜視図である。
【
図8】(a)は、他の実施の形態による双方向無限角回転ダンパを構成する制動子がシャフトの外周に配置された状態を一方の側から見た斜視図、(b)は他方の側から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明による双方向無限角回転ダンパを実施するための形態について説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施の形態による双方向無限角回転ダンパ1を一方の側から見た分解斜視図、
図2は、他方の側から見た双方向無限角回転ダンパ1の分解斜視図である。また、
図3は双方向無限角回転ダンパ1の縦断面図である。
【0019】
回転ダンパ1は、キャップ3で蓋をされて封止されるハウジング2内にシャフト4と制動子5が収容されて構成される。ハウジング2、キャップ3、シャフト4および制動子5はそれぞれ樹脂材料から形成されるが、金属材料等で形成してもよい。キャップ3とハウジング2とは、各部材が樹脂材料から形成される場合には、キャップ3の第1外径部3aがハウジング2の第1内径部2aに溶着もしくは接着されることで、各部材が金属材料から形成される場合には、キャップ3の第1外径部3aがハウジング2の第1内径部2aに溶接もしくは接着されることで、相互が固定される。しかし、キャップ3とハウジング2との固定方法はこれらに限定されることはなく、接合部材等の他の手段を用いて相互が固定されてもよい。ハウジング2内には、シリコーンオイル等の図示しない粘性流体がキャップ3のハウジング2への取り付け側から充填される。キャップ3とハウジング2との間にはシール部材6、キャップ3とシャフト4との間にはシール部材7、粘性流体のハウジング2への充填側と反対側のシャフト4とハウジング2との間にはシール部材8が取り付けられる。各シール部材6,7,8はOリング等からなり、各部材間から粘性流体がハウジング2の外部へ漏れるのを防止する。
【0020】
回転ダンパ1は、例えばピアノ本体等の一方の物体に、鍵盤部を覆う蓋体等の他方の物体を開閉自在に軸支するヒンジ部等に用いられる。蓋体等の他方の物体が自重によって急激に閉まることで、一方の物体である本体等や他方の物体である蓋体自身等に損傷が生じないように、回転ダンパ1は、他方の物体である蓋体等の閉動作に回転抵抗を与えて、蓋体がゆっくりと閉まるようにする。ハウジング2は例えばこのような一方の物体に取り付けられ、シャフト4は例えばこのような他方の物体に取り付けられる。回転ダンパ1は、ハウジング2内に充填される粘性流体の剪断抵抗により生じるトルクにより、シャフト4の回転に抵抗を付与する。
【0021】
シャフト4は、略円柱状をしており、第1外径部4a、環体部4b、第2外径部4cおよび取り付け部4dを有する。第1外径部4aの一部、環体部4bおよび第2外径部4cの一部は、封止されるハウジング2内に収容される。取り付け部4dは第1外径部4aの内周が小判形にくり抜かれて形成され、ハウジング2から露出する。蓋体等の他方の物体はこの取り付け部4dに取り付けられる。円柱状をした第1外径部4aはハウジング2の第3内径部2cに嵌まって軸支され、同じく円柱状をした第2外径部4cはキャップ3の内径部3cに嵌まって軸支される。シャフト4は、第1外径部4aおよび第2外径部4cのこの軸支により、ハウジング2に対して回転自在に支持される。
【0022】
環体部4bは、第1外径部4aおよび第2外径部4cに挟まれたシャフト4の外周に突出して形成された円盤状の部位からなる。この円盤状の部位がシャフト4の軸心方向に所定長にわたってシャフト4に一体に同一直径で複数形成されることで、シャフト4の環体部4bが複数形成された外周に第1の凹凸が構成される。この環体部4bは、ハウジング2内に収容されるシャフト4の外周に周方向に沿って延在する。
【0023】
制動子5は、シャフト4の外周を内周が覆う円筒体がシャフト4の軸心方向に沿って複数個に分断されて、構成されている。本実施形態では、制動子5は2個の略半円筒状の制動子5A1,5A2に分断されており、各制動子5A1,5A2は、それぞれ溝部5a、第1内径部5b、第2内径部5c、外径部5dおよび係止部5eを有する。溝部5aは、シャフト4の外周に対向する各制動子5A1,5A2の内周に周方向に沿って延在し、シャフト4の軸心方向に所定長にわたって複数形成されることで、シャフト4の外周に対向する制動子5の内周に第2の凹凸を形成する。第2の凹凸は、第1の凹凸とシャフト4の軸心方向に所定長にわたって噛み合う。溝部5aの数は環体部4bの数と同数以上に通常設定され、本実施形態では同数に設定されている。しかし、溝部5aの数は必ずしも環体部4bの数と同数以上に設定される必要は無く、環体部4bの数より少なくても構わない。
【0024】
溝部5aの断面形状は、環体部4bの円盤状部位の断面四角形状に嵌合する四角形状をしている。係止部5eは、分断された制動子5A1,5A2の各端部が互いに平行な方向に切り欠かれて一対形成され、ハウジング2の内周に互いに平行な方向に一対形成された図示しない係止部に突き合わされることで、制動子5の回り止めとなる。制動子5は、この回り止めにより、第2の凹凸が第1の凹凸に噛み合った状態でハウジング2内に回転不能に収容される。
図4に示すように制動子5がシャフト4の外周に配置されて、ハウジング2内に収容されると、制動子5の第1内径部5bがシャフト4の第1外径部4aを囲み、環体部4bと溝部5aとの間には粘性流体の流路となる隙間が形成される。
図4(a)は制動子5がシャフト4の外周に配置された状態を一方の側から見た斜視図、
図4(b)は他方の側から見た斜視図である。
【0025】
また、制動子5は、ハウジング2内に粘性流体が充填される側の端部、つまり、キャップ3側の端部に、シャフト4の軸心方向に沿う一対の切り欠き5fが、周方向に所定弧長で、軸心方向に所定長にわたって形成されている。本実施形態では、切り欠き5fは、シャフト4の軸心方向において全ての溝部5aを切り欠くように形成されており、係止部5e手前の第1内径部5bまで至っている。
【0026】
ハウジング2は略筒状をしており、第1内径部2a、第2内径部2b、第3内径部2c、取り付け部2d、および上述した係止部5eに突き合わされる図示しない係止部を有する。第1内径部2aは上述したようにキャップ3の第1外径部3aに嵌合して第1外径部3aと固定される。第2内径部2bは内径が制動子5の外径より僅かに大きく、ハウジング2に収容される制動子5の外周を包接する。第3内径部2cは上述したようにシャフト4の第1外径部4aを軸支する。取り付け部2dは第3内径部2cの外周側に位置し、第3内径部2cを囲む筒の外径が第1内径部2aおよび第2内径部2bを囲む筒の外径より小さく、かつ、筒の両外側端が平行に切り欠かれた形状をしている。この取り付け部2dは上述したようにピアノ本体等の一方の物体に取り付けられる。
【0027】
キャップ3は略ドーナツ状をしており、第1外径部3a、第2外径部3bおよび内径部3cを有する。第1外径部3aは上述したようにハウジング2の第1内径部2aと固定される。第2外径部3bは制動子5の第2内径部5cに嵌合する。内径部3cは上述したようにシャフト4の第2外径部4cに嵌合して第2外径部4cを軸支する。
【0028】
回転ダンパ1の組み立ては、ハウジング2の内部にシール部材8が取り付けられた後、
図4に示すように制動子5が外周に組み付けられたシャフト4がハウジング2に収納されることで、行われる。その後、ハウジング2へのキャップ3の取り付け側からハウジング2内に粘性流体が充填され、必要に応じて粘性流体中の気泡を抜くためのエージングが行われる。その後、ハウジング2の内部にシール部材6が取り付けられ、シール部材7が取り付けられたキャップ3でハウジング2の開口部に蓋がされ、キャップ3がハウジング2に固定される。
【0029】
このような構成をした本実施形態による回転ダンパ1においては、シャフト4が回転するとシャフト4の環体部4bによって構成される第1の凹凸が回転し、第1の凹凸は、ハウジング2に回転不能に収容される制動子5の溝部5aによって構成される第2の凹凸に対して相対移動する。したがって、シャフト4の外周に周方向に沿って形成された環体部4bと、制動子5の内周に周方向に沿って形成された溝部5aとの間には、粘性流体の剪断抵抗が生じる。この剪断抵抗は、第1の凹凸と第2の凹凸とがシャフト4の軸心方向において噛み合う長さおよび噛み合う深さに応じた大きさで生じる。したがって、第1の凹凸と第2の凹凸とが噛み合う長さおよび噛み合う深さを適宜設定することで、所望の大きさの回転抵抗を生じさせる回転ダンパ1を、シャフト4の周囲に制動子5を備えるだけで構成することができる。このため、特許文献1に開示された従来のロータに相当する構成部品を要することなく、また、第2抵抗板をロータに多数組み付ける従来の組立工数を要することなく、少ない構成部品および少ない組立工数で製作でき、大きな回転抵抗を生じさせる双方向無限角回転ダンパ1を提供することができる。
【0030】
また、本実施形態による回転ダンパ1によれば、シャフト4への制動子5の組み付けは、制動子5の円筒体の内周に軸心方向に沿ってシャフト4を挿入することなく、分断された制動子5A1,5A2をシャフト4の軸心に垂直な方向からシャフト4の外周に組み付けることで、容易に行える。
【0031】
また、本実施形態による回転ダンパ1によれば、ハウジング2内に粘性流体が充填される際、粘性流体は制動子5の切り欠き5fによって形成される空間を伝って、粘性流体のハウジング2への充填側と反対側へ速やかに移動する。このため、各環体部4bと各溝部5aとの噛み合い部に速やかに粘性流体が行きわたり、速やかにハウジング2内に粘性流体が充填されて、回転ダンパ1の製作時間を短縮化することができる。
【0032】
上記実施形態では、環体部4bがシャフト4の外周の全周にわたって形成された場合について、説明した。しかし、例えば
図5(a)の斜視図に示す、一実施形態の変形例による回転ダンパ1Aに用いられるシャフト4Aのように、シャフト4Aの外周の一部に環体部4bが形成される構成であってもよい。この場合、環体部4bによってシャフト4Aに構成される第1の凹凸が、
図5(b)の変形例による回転ダンパ1Aの横断面図に示すように、シャフト4Aの外周における周方向の弧長W1が、制動子5の切り欠き5fの周方向における弧長W2よりも小さく形成されることで、次のような作用効果が奏される。
【0033】
すなわち、この変形例による回転ダンパ1Aの回転抵抗は、シャフト4Aの外周に形成される第1の凹凸がシャフト4Aの軸心方向において制動子5の第2の凹凸と重なり、第2の凹凸と噛み合う回転位置にあるとき、第1の凹凸と第2凹凸との間にある粘性流体の剪断抵抗によって大きくなる。しかし、シャフト4Aが回転して第1の凹凸が
図5(b)に示すように制動子5の切り欠き5fに存在するときは、第1の凹凸が第2の凹凸と噛み合わなくなり、変形例による回転ダンパ1Aの回転抵抗は小さくなる。また、この際、制動子5における切り欠き5fの軸心方向長さが短く、切り欠き5fと係止部5eとの間に溝部5aが残る場合にも、第1の凹凸が第2の凹凸と噛み合うシャフト4Aの軸心方向長さが短くなり、回転ダンパ1Aの回転抵抗は小さくなる。したがって、変形例による回転ダンパ1Aの回転抵抗は回転ダンパ1Aの動作中に変化する。このため、第1の凹凸がシャフト4Aの外周の周方向に形成される弧長W1および形成位置と、切り欠き5fが制動子5の周方向に形成される弧長W2および形成位置とを調整することで、回転ダンパ1Aに生じる回転抵抗の大きさをシャフト4Aの回転角度に応じて回転ダンパ1Aの動作中に任意に変化させることができる。
【0034】
一方、従来の特許文献1に開示された回転ダンパでは、シャフトに取り付けられる第1抵抗板と、ローターの側壁部に形成されるスリットに挿入される第2抵抗板とは回転ダンパの動作中常に対向しており、その対向面積がシャフトの回転によって変わることがなく、回転ダンパに生じる回転抵抗は回転ダンパの動作中常に一定であった。
【0035】
また、上記の実施形態による回転ダンパ1およびその変形例による回転ダンパ1Aは、制動子5を形成する円筒体が2個の略半円筒状の制動子5A1,5A2に分断され、分断された2個の制動子5A1,5A2がハウジング2内に回転不能に収容された場合について、説明した。しかし、制動子5は、分断された円筒体の少なくとも一つがハウジング2内に回転不能に収容されてもよい。例えば、制動子5が2個の制動子5A1,5A2に分断される場合には、2個の制動子5A1,5A2のいずれか一方のみが、ハウジング2内に回転不能に収容されてもよい。また、制動子5を形成する円筒体が4個の略扇形状の制動子に分断される場合は、それらのうちの少なくとも一つがハウジング2内に回転不能に収容されてもよい。本構成によれば、回転ダンパ1,1Aの回転抵抗は、制動子5を構成する分断された円筒体のハウジング2への収納数、すなわち、制動子5の内周に形成される第2の凹凸がシャフト4,4Aの外周に形成される第1の凹凸と周方向において噛み合う弧長により、調整される。
【0036】
図6は、本発明の他の実施の形態による双方向無限角回転ダンパ1Bを一方の側から見た分解斜視図、
図7は、他方の側から見た双方向無限角回転ダンパ1Bの分解斜視図である。また、
図8(a)は回転ダンパ1Bにおける制動子5がシャフト4の外周に配置された状態を一方の側から見た斜視図、
図8(b)は他方の側から見た斜視図である。なお、
図6,
図7および
図8において
図1,
図2および
図4と同一または相当する部分には同一符号を付してその説明は省略する。
【0037】
この他の実施の形態による回転ダンパ1Bは、制動子5の構成が上記の実施形態による回転ダンパ1と異なり、その他の構成は上記の実施形態による回転ダンパ1と同様である。回転ダンパ1Bにおける制動子5は円筒体が2個の制動子5B1,5B2に分断される点は同じであるが、各制動子5B1,5B2には切り欠き5fが形成されない。このため、上記の実施形態による回転ダンパ1と比べて、各環体部4bと各溝部5aとの噛み合い部に粘性流体が行きわたるのに時間がかかり、速やかにハウジング2内に粘性流体が充填されないが、その他の作用効果は上記の実施形態による回転ダンパ1と同様に奏される。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明による回転ダンパ1,1A,1Bは、ピアノの蓋体を開閉自在に支持するヒンジ装置に限らず、映画館等における劇場椅子の座面が自動的に立ち上がって閉まる際に座面の回動に回転抵抗を与えるヒンジ装置や、トイレの便座・蓋体を開閉自在に支持するヒンジ装置等、また、ヒンジ装置以外の回転抵抗を必要とする緩衝装置、昇降装置等の様々な装置にも同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1,1A,1B…回転ダンパ、2…ハウジング、2a…第1内径部、2b…第2内径部、2c…第3内径部、2d…取り付け部、3…キャップ、3a…第1外径部、3b…第2外径部、3c…内径部、4,4A…シャフト、4a…第1外径部、4b…環体部、4c…第2外径部、4d…取り付け部、5…制動子、5A1,5A2,5B1,5B2…分断された制動子、5a…溝部、5b…第1内径部、5c…第2内径部、5d…外径部、5e…係止部、5f…切り欠き、6,7,8…シール部材