(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】スクライビングホイール
(51)【国際特許分類】
B28D 5/00 20060101AFI20220118BHJP
C03B 33/10 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
B28D5/00 Z
C03B33/10
(21)【出願番号】P 2017167697
(22)【出願日】2017-08-31
【審査請求日】2020-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】390000608
【氏名又は名称】三星ダイヤモンド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111383
【氏名又は名称】芝野 正雅
(74)【代理人】
【識別番号】100170922
【氏名又は名称】大橋 誠
(72)【発明者】
【氏名】岩坪 佑磨
(72)【発明者】
【氏名】富本 博之
(72)【発明者】
【氏名】木山 直哉
(72)【発明者】
【氏名】泉本 聡也
(72)【発明者】
【氏名】小森 正雄
(72)【発明者】
【氏名】飯澤 一馬
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-116670(JP,A)
【文献】特開2009-234874(JP,A)
【文献】特表2015-528764(JP,A)
【文献】特開2014-177085(JP,A)
【文献】特開2014-159359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28D 5/00
C03B 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板にスクライブラインを形成するためのスクライビングホイールであって、
外周縁に沿って形成された複数の刃部と、
周方向に隣り合う前記刃部の間に設けられ中心軸側に凹んだ複数の溝部と、
を備え、
前記溝部は、前記周方向の中央部に、前記中心軸に向かう切れ込み部が形成されており、
少なくとも前記切れ込み部の最深部は前記基板に接触しない深さとされて
おり、
前記溝部は、前記周方向に見て前記中心軸から離れる方向に凸の曲面からなり、
前記溝部の前記周方向の境界から、前記切れ込み部の前記中心軸から遠い部分に向かって前記曲面の曲率半径が徐々に大きくなっている、
ことを特徴とするスクライビングホイール。
【請求項2】
請求項1に記載のスクライビングホイールにおいて、
前記中心軸に平行な方向に見て、前記溝部における前記切れ込み部の前記最深部までの深さは、7~10μmの範囲である、
ことを特徴とするスクライビングホイール。
【請求項3】
請求項1または2に記載のスクライビングホイールにおいて、
前記切れ込み部の前記周方向において前記中心軸から遠い部分は、前記溝部の前記周方向の幅の20~50%の範囲である、
ことを特徴とするスクライビングホイール。
【請求項4】
請求項1ないし3の何れか一項に記載のスクライビングホイールにおいて、
前記溝部は、前記中心軸に平行な方向に見て、前記最深部に対して前記周方向の両側の部分が、前記中心軸から離れる方向に凸の形状となっている、
ことを特徴とするスクライビングホイール。
【請求項5】
請求項1ないし4の何れか一項に記載のスクライビングホイールにおいて、
前記周方向に隣り合う前記溝部の間に、前記周方向に沿って延びる前記刃部の稜線が存在する、
ことを特徴とするスクライビングホイール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板等の脆性材料基板にスクライブラインを形成するためのスクライビングホイールに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス基板等の脆性材料基板の分断は、基板表面にスクライブラインを形成するスクライブ工程と、形成されたスクライブラインに沿って基板を分断するブレイク工程とによって行われる。スクライブ工程では、スクライビングホイールが基板表面に押し付けられつつ所定のラインに沿って移動される。これにより、スクライビングホイールが基板表面を転動し、スクライブラインが形成される。
【0003】
以下の特許文献1には、外周稜線に複数の溝が所定ピッチで形成されたスクライビングホイールが記載されている。この構成のスクライビングホイールを用いることにより、基板にスクライブ開始直後から確実に垂直クラックを形成できるとともに、深い垂直クラックを形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているスクライビングホイールは、上記の構成により、基板表面に、所定ピッチで間欠的に打痕が形成され、打痕直下に形成された垂直クラックが繋がることによって、スクライブラインが形成される。しかし、特許文献1に記載されているスクライビングホイールであっても、使用期間の経過に伴い劣化する。とくに、基板に接触する刃部は、他の部位よりも摩耗が進行し、使用開始時のような深い垂直クラックを基板に形成し難くなる。
【0006】
かかる課題に鑑み、本発明は、基板表面にスクライブラインを良好に形成することが可能であり且つ長寿命のスクライビングホイールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の主たる態様は、基板にスクライブラインを形成するためのスクライビングホイールに関する。この態様に係るスクライビングホイールは、外周縁に沿って形成された複数の刃部と、周方向に隣り合う前記刃部の間に設けられ中心軸側に凹んだ複数の溝部と、を備える。ここで、前記溝部は、前記周方向の中央部に、前記中心軸に向かう切れ込み部が形成されており、少なくとも前記切れ込み部の最深部は前記基板に接触しない深さとされる。
【0008】
本態様に係るスクライビングホイールによれば、スクライビングホイールが基板表面を転動する際に、刃部付近の部分が基板に食い込んで、基板表面に打痕が形成される。刃部の摩耗が進行すると、中心軸に平行な方向に見て、刃部は基板に接触する部分から徐々に中心軸側に削れていき、平坦になっていく。このように、刃部の形状が変化し、刃部は基板に食い込み難くなる。これに対し、上記構成のスクライビングホイールは、溝部に切れ込み部が形成されている、つまり、溝部の深さがより深くなるよう形成されているため、刃部の摩耗が進行しても、基板に食い込むことが可能な刃部が維持される。よって、スクライビングホイールは、基板に良好なスクライブラインを形成することができ、基板を分断することが可能となる。したがって、本態様に係るスクライビングホイールであれば、長寿命のスクライビングホイールを構成し得る。
さらに、本態様に係るスクライビングホイールにおいて、前記溝部は、前記周方向に見て前記中心軸から離れる方向に凸の曲面からなり、前記溝部の前記周方向の境界から、前記切れ込み部の前記中心軸から遠い部分に向かって前記曲面の曲率半径が徐々に大きくなるよう構成される。この構成によれば、溝部がスクライビングホイールの中心軸から離れる方向に凸の曲面からなっているため、スクライビングホイールが転動して溝部が基板に向き合ったときに、溝部内の鋭い稜線が基板に深く食い込むようなことがない。このため、溝部が基板に当接することによりカレットが発生することを抑制できる。
【0009】
本態様に係るスクライビングホイールにおいて、前記中心軸に平行な方向に見て、前記溝部における前記切れ込み部の前記最深部までの深さは、7~10μmの範囲となるよう構成され得る。この範囲であれば、刃部の摩耗が進行しても、刃部は基板に食い込むことができ、スクライビングホイールは基板に良好なスクライブラインを形成し得る。したがって、長寿命のスクライビングホイールを構成し得る。
【0010】
本態様に係るスクライビングホイールにおいて、前記切れ込み部の前記周方向において前記中心軸から遠い部分は、前記溝部の前記周方向の幅の20~50%の範囲となるよう構成され得る。この範囲であれば、刃部の形状を維持したまま、刃部は摩耗していく。このため、刃部の摩耗が進行しても、刃部は基板に食い込むことができ、スクライビングホイールは基板に良好なスクライブラインを形成し得る。したがって、長寿命のスクライビングホイールを構成し得る。
【0011】
本態様に係るスクライビングホイールにおいて、前記溝部は、前記中心軸に平行な方向に見て、前記最深部に対して前記周方向の両側の部分が、前記中心軸から離れる方向に凸の形状となるよう構成され得る。
【0012】
これにより、基板に食い込む刃部の範囲が周方向に広くなる。このため、基板に形成される打痕の間隔が狭くなり、打痕位置に形成された垂直クラックが繋がり易くなる。また、刃部付近の基板に食い込む部分の体積が大きくなるため、打痕位置において、垂直クラックをより深く伸展させることができる。よって、刃部の摩耗が進行しても、スクライビングホイールは基板に垂直クラックをより深く且つ良好に形成することができる。
【0013】
本態様に係るスクライビングホイールは、前記周方向に隣り合う前記溝部の間に、前記周方向に沿って延びる前記刃部の稜線が存在するよう構成され得る。こうすると、周方向において刃部が所定の幅を持つため、基板に食い込む刃部付近の部分の体積がより大きくなる。よって、刃部の摩耗が進行しても、基板により深く垂直クラックを形成できる。
【発明の効果】
【0015】
以上のとおり、本発明によれば、基板表面にスクライブラインを良好に形成することが可能であり且つ長寿命のスクライビングホイールを提供することができる。
【0016】
本発明の効果ないし意義は、以下に示す実施の形態の説明により更に明らかとなろう。ただし、以下に示す実施の形態は、あくまでも、本発明を実施化する際の1つの例示であって、本発明は、以下の実施の形態に記載されたものに何ら制限されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1(a)、(b)は、それぞれ、参考例に係るスクライビングホイールを模式的に示す側面図および正面図である。
図1(c)は、参考例に係るスクライビングホイールの外周付近の一部を拡大して示す図である。
【
図2】
図2(a)は、参考例に係るスクライビングホイールを刃部の位置において中心軸に平行な平面で径方向に切断した断面図である。
図2(b)、(c)は、それぞれ、参考例に係るスクライビングホイールを溝部の位置において中心軸に平行な平面で径方向に切断した断面図である。
【
図3】
図3(a)は、参考例に係るスクライビングホイールの溝部を中心軸に平行な方向に見たときの形状を説明するための図である。
図3(b)は、参考例に係るスクライビングホイールの溝部を中心軸に平行な方向に見たときの形状を模式的に示す図である。
図3(c)は、
図3(b)とは異なる形状の参考例に係るスクライビングホイールの溝部を中心軸に平行な方向に見たときの形状を模式的に示す図である。
【
図4】
図4(a)は、参考例に係るスクライビングホイールの刃部が基板に対向したときの垂直クラックの形成状態を模式的に示す図である。
図4(b)、(c)は、それぞれ、参考例に係るスクライビングホイールの溝部が基板に対向したときの垂直クラックの形成状態を模式的に示す図である。
【
図5】
図5(a)は、参考例に係るスクライビングホイールを基板に圧接させる前の状態を模式的に示す図である。
図5(b)は、参考例に係るスクライビングホイールが基板に圧接された状態を模式的に示す図である。
図5(c)は、比較例に係るスクライビングホイールを基板に圧接させる前の状態を模式的に示す図である。
図5(d)は、比較例に係るスクライビングホイールが基板に圧接された状態を模式的に示す図である。
【
図6】
図6は、参考例に係るスクライビングホイールの刃部が摩耗した場合、スクライビングホイールを基板に圧接した状態を模式的に示す図である。
【
図7】
図7(a)は、実施の形態に係るスクライビングホイールの溝部を中心軸に平行な方向に見たときの形状を説明するための図である。
図7(b)は、実施の形態に係るスクライビングホイールの溝部を中心軸に平行な方向に見たときの形状を模式的に示す図である。
図7(c)は、実施の形態に係る、実際に製造されたスクライビングホイールの溝部を中心軸に平行な方向に見たときの形状を模式的に示す図である。
【
図8】
図8(a)~(c)は、実施例に係るスクライビングホイールの基板への食い込みの深さを測定した結果を示した模式図である。
図8(d)は、比較例に係るスクライビングホイールの基板への食い込みの深さを測定した結果を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、各図には、便宜上、互いに直交するX軸、Y軸およびZ軸が付記されている。Z軸は、スクライビングホイールの中心軸に平行である。
【0019】
まず、本発明の実施の形態を説明するにあたり、前提となる構成を備えた参考例に係るスクライビングホイール10について
図1~6を参照して説明する。
【0020】
図1(a)、(b)は、それぞれ、スクライビングホイール10の構成を模式的に示す側面図および正面図である。
図1(c)は、スクライビングホイール10の外周付近の一部を拡大して示す図である。
【0021】
スクライビングホイール10は、外周部両側のエッジを斜めに切り落とした円板形状を有する。スクライビングホイール10の外周部には、側面視において、互いに異なる方向に傾斜した2つの傾斜面10aが形成されている。2つの傾斜面10aが交差することにより、複数の刃部11が形成され、さらに、周方向に隣り合う刃部11の間に、中心軸L0側に凹んだ溝部12が形成されている。周方向における各刃部11の長さは互いに等しい。また、周方向における各溝部12の長さも互いに等しい。したがって、周方向における刃部11のピッチは一定であり、また、周方向における溝部12のピッチも一定である。
【0022】
スクライビングホイール10は、超硬合金、焼結ダイヤモンド、単結晶ダイヤモンドまたは多結晶ダイヤモンド等によって形成されている。スクライビングホイール10の中央には、回転軸となるシャフトが挿入される円形の孔10bが形成されている。スクライビングホイール10の直径は、1mm~5mm程度であり、厚みは、0.4~1mm程度である。また、刃部11の角度、すなわち、2つの傾斜面10aのなす角は、100~160°程度であり、孔10bの直径は、0.4~1.5mm程度である。
【0023】
溝部12のピッチp1(1つの溝部12の周方向の長さ(L1)と1つの刃部11の周方向の長さ(L2)の和)は、たとえば、10~100μm程度である。溝の深さd1(刃部11の稜線と溝部12の溝底部とのスクライビングホイール10の径方向の距離の差)は、たとえば1~6μm程度である。スクライビングホイール10の外周の刃部11の稜線よりもくぼんだ領域の長さである溝部12の周方向の長さ(L1)は、たとえば3~40μm程度である。溝部12の周方向の長さ(L1)の刃部11(隣り合う溝部12に挟まれた領域)の稜線の長さ(L2)に対する比(L1/L2)は、たとえば0.5~5.0である。
【0024】
溝部12は、周方向に見て中心軸L0から離れる方向に凸の曲面からなっている。また、溝部12と刃部11との境界から溝部12の周方向中央の溝底部に向かってスクライビングホイール10の径方向の断面における曲率半径が徐々に大きくなっている。
【0025】
図2(a)は、スクライビングホイール10を刃部11の位置において中心軸L0に平行な平面(Y-Z平面)で径方向に切断した断面図である。
図2(b)、(c)は、それぞれ、スクライビングホイール10を溝部12の位置において中心軸L0に平行な平面(Y-Z平面)で径方向に切断した断面図である。
図2(a)~(c)は、それぞれ、
図1(c)のA-A’位置、B-B’位置およびC-C’位置における断面図である。
【0026】
図2(a)に示すように、周方向に見たときの刃部11の断面形状は、所定角度のV字形状である。刃部11の断面形状がV字形状の角が丸められた円弧状の曲面形状と仮定しても、その曲率半径Rは2μm以下である。
【0027】
周方向の位置が刃部11から溝部12へと移行すると、周方向に見たときの溝部12の断面形状は、
図2(b)に示すように、V字形状の角が丸められた円弧状の曲面形状となる。
図2(b)は、周方向の位置が溝部12の肩上稜線位置にあるときのスクライビングホイールの径方向の断面図である。このときの肩上稜線位置の高さは、刃部11の稜線の高さよりもD1だけ低い。
【0028】
さらに、周方向の位置が刃部11の肩上稜線位置から刃部11中央の溝底部の位置へと移行すると、周方向に見たときの溝部12の断面形状は、
図2(c)に示すように、溝部12の全範囲において最も曲率半径が大きい円弧形状となる。溝底部の高さは、刃部11の稜線の高さよりもD2だけ低い。D2は、
図1(c)に示した深さd1に対応する。
【0029】
このように、溝部12の曲面形状は、刃部11との境界から溝底部に向かうに従って徐々に曲率半径が大きくなっていく。また、溝部12の周方向の稜線は、刃部11との境界から溝底部に向かうに従って徐々に、刃部11の稜線に対して低くなっていき、スクライビングホイール10の中心軸L0に近づく方向(Y軸負方向)に後退する。溝部12は、たとえば、全周に亘って刃部11が形成されたスクライビングホイール10に対してレーザ光を用いたカッティング加工を施すことによって形成される。
【0030】
図3(a)は、スクライビングホイール10の溝部12を中心軸L0に平行な方向に見たときの形状を説明するための図である。
図3(b)は、スクライビングホイール10の溝部12を中心軸L0に平行な方向に見たときの形状を模式的に示す図である。
【0031】
図3(a)、(b)に示すように、隣り合う刃部11の間に、周方向の幅がW1の溝部12が形成されている。溝部12は、中心軸L0に平行な方向(Z軸方向)に見て、溝底部12aに対して周方向の両側の部分が、中心軸L0から離れる方向に凸の形状となっている。ここでは、溝底部12aに対して周方向の両側の部分が、中心軸L0から離れる方向に凸の曲線形状となっている。また、この曲線形状の曲率が、溝部12の周方向の端部から溝底部12aに向かって大きくなっている。すなわち、溝底部12a両側の部分の溝部12の稜線と、刃部11の境界位置P3、P4付近の稜線とのなす角θ1、θ2は、溝底部12aに向かうに従って大きくなっている。また、中心軸L0に平行な方向に見て、溝部12の刃部11側の端部は、境界位置P3、P4において、刃部11に所定の角度で屈曲状に繋がっている。
【0032】
溝底部12a両側の部分の境界位置P3、P4付近の稜線にX-Y平面に平行な接線Ln1、Ln2を設定すると、接線Ln1、Ln2の交点の位置P2は、溝底部12aの位置P1よりも中心軸L0から離れる。すなわち、刃部11の稜線と位置P2との間の径方向の距離d12は、刃部11の稜線と位置P1との間の径方向の距離d11よりも小さい。
【0033】
図3(c)は、
図3(b)と比較して、溝底部12aの両側の部分が中心軸L0から離れる方向により凸状に丸みを帯びた形状である場合の溝部12の形状を模式的に示す図である。
【0034】
ここでは、境界位置P3、P4における外周形状も、
図3(b)のような急峻に屈曲した形状ではなく、
図3(c)に示すように、丸みを帯びた形状となっている。この場合、
図3(a)と比較して、接線Ln1、Ln2の交点の位置P2と溝底部12aの位置P1との距離、すなわちd11とd12との差はより大きくなる。
【0035】
次に、スクライブ動作時において、スクライビングホイール10が基板20の表面を転動するときの刃部11および溝部12の作用について説明する。
【0036】
図4(a)は、スクライビングホイール10の刃部11が基板20に対向したときの垂直クラック21の形成状態を模式的に示す図である。
図4(b)、(c)は、それぞれ、スクライビングホイール10の溝部12が基板20に対向したときの垂直クラック21の形成状態を模式的に示す図である。
【0037】
図4(a)に示すように、スクライビングホイール10の刃部11が基板20に対向すると、刃部11が基板20に食い込んで、基板20に塑性変形が生じるとともにその下方に垂直クラック21が形成される。基板20は、たとえば、厚みが1mm以下のガラス基板である。刃部11が基板20に対向している間は、刃部11による塑性変形と基板20における垂直クラック21の伸展が継続する。
【0038】
その後、スクライビングホイール10の転動により、
図4(b)に示すように、スクライビングホイール10の溝部12が基板20に対向するようになると、溝部12の曲率半径の変化に伴い、緩やかに溝部12が垂直クラック21から退避した状態になっていく。そして、溝部12の曲率半径が所定の大きさに到達すると、溝部12は、垂直クラック21から完全に退避した状態で基板20の上面に接するようになって、基板20の上面を押圧するのみとなる。
【0039】
溝部12が基板20の上面を押圧する期間において、基板20は、溝部12の押圧によって、
図4(c)に示すように、弾性変形する。この押圧により、刃部11によって直前に形成された垂直クラック21が伸展していく。こうして、溝部12の当接位置にも、垂直クラック21が形成される。
【0040】
このように、溝部12が垂直クラック21から退避した後、溝部12は、基板20の上面を押圧して、弾性変形を生じさせるとともに刃部11により形成された直前の垂直クラック21を伸展させるのみである。このため、少なくともこの期間は、塑性変形に基づくカレットの発生が少なくなる。また、溝部12の径方向の断面がスクライビングホイール10の中心軸L0から離れる方向に凸の曲面からなっており、溝部12内には鋭い稜線が形成されていないため、スクライビングホイール10が転動して溝部12が基板20に向き合ったときに、溝部12内においては鋭い稜線が基板20に食い込んで塑性変形を生じさせるようなことがない。よって、カレットの発生を効果的に抑制できる。
【0041】
また、溝部12の径方向の断面が中心軸L0から離れる方向に凸の曲面からなっているため、基板20との接触位置が刃部11から溝部12へと移行する間に、刃部11が食い込んだ状態から溝部12が垂直クラック21から緩やかに抜けて退避した状態となり、垂直クラック21に大きな衝撃がかかることがない。よって、この期間においても、カレットの発生が抑制され得る。
【0042】
図5(a)および(b)は、上記構成のスクライビングホイール10を説明するための模式図であり、
図5(a)は、スクライビングホイール10を基板20に圧接させる前の状態を示しており、
図5(b)は、スクライブ動作において、スクライビングホイール10が基板20に圧接された状態を示している。
図5(c)および(d)は、比較例に係るスクライビングホイール30を説明するための模式図であり、
図5(c)は、スクライビングホイール30を基板20に圧接させる前の状態を示しており、
図5(d)は、スクライブ動作において、スクライビングホイール30が基板20に圧接された状態を示している。
【0043】
図5(c)に示すように、比較例に係るスクライビングホイール30では、中心軸L0に平行な方向に見たときに、中心軸L0に向かう方向に凹むように溝部32が形成され、隣り合う溝部32の間に刃部31が形成されている。このとき、溝部32の両側の部分の刃部31との境界位置P3、P4付近の稜線にX-Y平面に平行な接線Ln1、Ln2を設定すると、接線Ln1、Ln2の交点の位置P2は、溝底部32aの位置P1よりも中心軸L0に近づくこととなる。すなわち、刃部31の稜線と位置P2との間の径方向の距離d12は、刃部31の稜線と位置P1との間の径方向の距離d11よりも大きくなる。刃部31の形状は、上記参考例のスクライビングホイール10の刃部11と同様である。また、溝部32の径方向に平行な断面は、上記と同様、中心軸L0から離れる方向に凸の曲面となっている。したがって、周方向に見たときの溝部32の曲率半径は、溝部32の溝底部32aに向かうに従って大きくなっている。
【0044】
また、
図5(d)に示すように、比較例に係るスクライビングホイール30では、溝部32の溝底部32aに対して周方向の両側の部分が中心軸L0に向かう方向に凹んだ形状であるため、基板20に食い込む部分V1が、刃部31とその前後に続く溝部32の一部に制限され、また、基板20に食い込む部分V1の間隔G1が広くなっている。
【0045】
これに対し、参考例に係るスクライビングホイール10では、
図5(a)および(b)に示すように、溝部12の溝底部12aに対して周方向の両側の部分が中心軸L0から離れる方向に凸の形状であるため、基板20に食い込む部分V0が、溝底部12a付近を除く範囲に広がっており、また、基板20に食い込む部分V0の間隔G0が狭くなっている。
【0046】
このように、参考例に係るスクライビングホイール10は、比較例に係るスクライビングホイール30に比べて、基板20に食い込む部分V0の体積が顕著に大きくなり、且つ、基板20に食い込む部分V0の間隔G0が顕著に狭くなっている。基板20に食い込む部分の体積が大きいほど、基板20に大きな塑性変形が生じ、その下方により深い垂直クラック21が形成される。また、基板20に食い込む部分の間隔が狭いほど、塑性変形により生じた垂直クラック21が繋がり易くなり、スクライブラインがより良好に形成される。
【0047】
したがって、参考例に係るスクライビングホイール10によれば、比較例に係るスクライビングホイール30よりも、打痕位置すなわち刃部11が食い込む位置の直下により深い垂直クラック21を形成でき、且つ、それぞれの刃部11の下方に形成された垂直クラック21が相互に繋がり易くなる。よって、参考例に係るスクライビングホイール10によれば、より良好なスクライブラインを形成できる。
【0048】
なお、参考例に係るスクライビングホイール10では、基板20に食い込む部分V0の体積が、比較例に係るスクライビングホイール30に比べて大きくなるため、比較例に比べて刃部11が基板20に食い込みにくくなると考えられる。このため、参考例に係るスクライビングホイール10では、上記のように、打痕位置の直下により深く垂直クラック21を伸展させることができるものの、刃部11を基板20に食い込ませるための荷重が大きくなることが考えられ得る。
【0049】
そこで、発明者らは、参考例に係るスクライビングホイール10と、比較例に係るスクライビングホイール30とについて、基板20にリブマークを形成するのに必要な荷重を実験により計測した。実験では、基板20として、厚さ0.5mmのガラス基板を用いた。スクライブ速度は、100mm/秒とした。中心軸L0の方向に見たときの溝部12の形状以外の構成は、スクライビングホイール10とスクライビングホイール30とで同じとした。ここでは、参考例に係るスクライビングホイール10と、比較例に係るスクライビングホイール30とについて、スクライブラインを形成するごとに荷重を変化させて、基板20にリブマークを形成することができ、かつスクライブ品質が良好な荷重の範囲を確認した。
【0050】
検証結果として、比較例に係るスクライビングホイール30を用いた場合にリブマークが形成され、スクライブ品質が良好な荷重は7.0~16.0Nであったのに対し、参考例に係るスクライビングホイール10を用いた場合にリブマークが形成され、スクライブ品質が良好な荷重は5.0~15.0Nであった。このように、参考例に係るスクライビングホイール10を用いることによって、比較例よりも低荷重で基板20に垂直クラック21を形成できることが確認できた。よって、参考例に係るスクライビングホイール10を用いることにより、より低荷重でも良好なスクライブラインを形成できることが確認できた。
【0051】
しかし、このような優れた構成のスクライビングホイール10であっても、使用するうちに、スクライビングホイール10全体が劣化する。とくに、スクライビングホイール10の基板20に接触する刃部11の摩耗により、基板20に良好なスクライブラインを形成し難くなる。
【0052】
図6は、参考例に係るスクライビングホイール10が摩耗した場合、基板20に圧接された状態を模式的に示す図である。
【0053】
スクライビングホイール10の刃部11は、当初、
図5(a)および(b)にて示されるような形状であったが、スクライビングホイール10の使用期間の経過に伴い、刃部11の中心軸L0から離れる部分、つまり、基板20に接触する部分から摩耗が進行し、刃部11の基板20に接触する部分が徐々に削れていき、平坦な形状に変化する。
図6に示すように、摩耗が進行した刃部11を基板20に圧接させると、
図5(b)の場合と比較して、溝部20の領域が基板20に食い込み、中心軸L0に平行な方向に見て、基板20と溝部12の溝底部12aとが近づく。刃部11の摩耗がさらに進行すると、刃部11が削れた分、スクライビングホイール10は、溝部12の領域まで基板20に食い込む。このため、大きく摩耗が進行したスクライビングホイール10は、基板20に良好なスクライブラインを形成し難くなる。
【0054】
このように、参考例に係るスクライビングホイール10は、比較例に係るスクライビングホイール30よりも良好なスクライブラインを形成するものの、刃部11が大きく摩耗することにより、所望のスクライブラインを形成できなくなる。
【0055】
そこで、本発明者らは、参考例に係るスクライビングホイール10に対し、刃部11が摩耗した場合でも、より長期間、使用可能なスクライビングホイールを検討した。以下、そのようなスクライビングホイールの形状について説明する。なお、本発明の実施の形態に係るスクライビングホイールは、上記の参考例に係るスクライビングホイール10をベースとした構成である。そのため、スクライビングホイール10と同一の構成は説明を省略するが、スクライビングホイール10と区別するため、符号を変えて説明する。また、スクライビングホイール10に奏する効果は、実施の形態に係るスクライビングホイール100にも同様に奏する。
【0056】
図7(a)は、実施の形態に係るスクライビングホイール100の溝部102を中心軸に平行な方向に見たときの形状を説明するための図である。
図7(b)は、実施の形態に係るスクライビングホイール100の溝部102を中心軸に平行な方向に見たときの形状を模式的に示す図である。
【0057】
図7(a)において、スクライビングホイール100、刃部101、および溝部102は、
図3(a)で示した、スクライビングホイール10、刃部11、および溝部12にそれぞれ相当する。P5、d13、およびd14以外の記号は、
図3(a)で説明したものと同様である。
【0058】
図7(a)に示すように、スクライビングホイール100の溝部102には、参考例に係るスクライビングホイール10において溝底部12aに相当する位置であるP1から、中心軸L0に向かって深い溝が設けられる。このように、スクライビングホイール100の溝部102には、中心軸L0に向かって切れ込み部102aが形成される。
図7(a)において、切れ込み部102aの最深部、つまり、溝部102の最深部102bに相当する位置は、位置P5である。刃部101の稜線と位置P5との間の径方向の距離は、距離d13に相当する。このとき、スクライビングホイール100の切れ込み部102aの周方向における中心軸L0から遠い部分の幅は、
図7(a)の距離d14に相当する。つまり、距離d14は、溝部102において切れ込み部102aを形成する箇所の距離であり、P2を通る部分である。
【0059】
図7(c)は、
図7(b)と比較して、最深部102bの両側の部分が中心軸L0から離れる方向により凸状に丸みを帯びた形状である場合の溝部102の形状を模式的に示す図である。
【0060】
ここでは、
図3(c)に示された参考例に係るスクライビングホイール10と同様に、境界位置P3、P4における外周形状も、
図7(b)のような急峻に屈曲した形状ではなく、
図7(c)に示すように、丸みを帯びた形状となっている。この場合、
図7(a)と比較して、接線Ln1、Ln2の交点の位置P2と位置P5との距離、すなわちd11とd13との差はより大きくなる。
【0061】
<実施例>
次に、本実施の形態に係るスクライビングホイールの効果を検証するため、基板に対するスクライビングホイールの食い込みの深さを計測した。これは、スクライブ動作後において、スクライビングホイールの中心軸に平行な方向に見たとき、スクライビングホイールが基板に圧接した痕跡を撮像し、この撮像画像に基づいて、スクライブホイールの基板への食い込みの深さを測定した。この測定結果を
図8(a)~(d)に模式的に示す。
【0062】
本実施例および比較例の条件は、以下の通りである。
(1)基板 … ガラス基板、厚み0.5mm
(2)スクライブ速度 … 100mm/sec
(3)スクライビングホイール径 …2.0mm
(4)ピン軸の径 …0.8mm
(5)スクライビングホイールの溝部の深さ…6.0μm
上記条件の基板およびスクライビングホイールについて、スクライブ動作を行った。
【0063】
[比較例1]
まず、比較例1の測定結果を
図8(d)に示す。比較例1に係るスクライビングホイールを用いて、良好なスクライブラインが形成される最大の荷重でスクライブを行ったところ、刃部が基板に対して食い込んだ深さは、7.2μmであった。この場合、基板は溝部の最深部を越えた位置で接触した。また、このときのスクライブ荷重は0.17MPaであった。
【0064】
[実施例1]
実施例1に係るスクライビングホイールに対する検証の条件は、上記の検証条件(1)~(4)と同一とした。検証条件(5)スクライビングホイールの溝の深さは、6.0μmから、さらに、スクライビングホイールの中心軸に向かって切れ込み部を設け、溝部の深さを8.4μmとした。
【0065】
上記条件における実施例1の測定結果を
図8(a)に示す。実施例1に係るスクライビングホイールを用いて、良好なスクライブラインが形成される最大の荷重でスクライブを行ったところ、刃部が基板に対して食い込んだときの深さは、7.2μmであった。この場合、基板は溝部の最深部に非接触であった。また、このときのスクライブ荷重は0.17MPaであった。
【0066】
[実施例2]
実施例2に係るスクライビングホイールに対する検証の条件は、実施例1の検証条件(1)~(4)と同一とした。検証条件(5)スクライビングホイールの溝の深さは、6.0μmから、さらに、スクライビングホイールの中心軸に向かって切れ込み部を設け、9.4μmとした。
【0067】
上記条件における実施例2の測定結果を
図8(b)に示す。実施例2に係るスクライビングホイールの刃部が基板に対して食い込んだときの深さは、6.8μmであった。この場合、基板は溝部の最深部に非接触であった。このときのスクライブ荷重は0.16MPaであった。
【0068】
[実施例3]
実施例3に係るスクライビングホイールに対する検証の条件は、実施例1の検証条件(1)~(4)と同一とした。検証条件(5)スクライビングホイールの溝の深さは、6.0μmから、さらに、スクライビングホイールの中心軸に向かって切れ込み部を設け、10.1μmとした。
【0069】
上記条件における実施例3の測定結果を
図8(c)に示す。実施例3に係るスクライビングホイールの刃部が基板に対して食い込んだときの深さは、7.2μmであった。この場合、基板は溝部の最深部に非接触であった。このときのスクライブ荷重は0.16MPaであった。
【0070】
上記の測定結果から、スクライビングホイールの溝部に切れ込み部を形成した実施例1~3は何れも、良好なスクライブラインを形成することができる最大の荷重においてもスクライビングホイールの溝部の最深部が基板と接触することはなかった。これに対し、溝部に切れ込み部を設けなかった比較例1に係るスクライビングホイールは、溝の深さより、基板に食い込んだ深さの方が深かった。
【0071】
上記の結果より、スクライビングホイールの溝部に切れ込み部を設けた場合、基板にスクライビングホイールの刃部が深く食い込んだ場合でも、基板が溝部の最深部に接触することがないことが示された。
【0072】
また、スクライビングホイールの切れ込み部の周方向における中心軸から遠い部分、つまり、
図7(a)に示されている距離d14に相当する部分と、溝部の周方向における幅との比率が異なるスクライビングホイールにおいても同様の検証を行った。その結果、距離d14に相当する部分と、溝部の周方向における幅との比率が29%および49%であるスクライビングホイールによって基板に形成された打痕は良好であった。一方で、距離d14に相当する部分と、溝部の周方向における幅との比率が50%を超えるスクライビングホイールにおいては、形成される打痕の形状が若干不良となる結果となった。
【0073】
また、実施例1の結果から、スクライビングホイールの溝部に切れ込み部を設けて、溝の深さを7.0μmとして、上記と同様の検証を行った。その結果、基板は、スクライビングホイールの溝部の最深部と非接触であった。また、基板に形成された打痕の形状は良好であった。
【0074】
これらの結果から、スクライビングホイールの溝部における深さは、7~10μmの範囲であり、且つ、切れ込み部の周方向における中心軸から遠い部分は、溝部の周方向における幅の20~50%の範囲であるとき、スクライビングホイールの溝部の最深部は基板に接触することなく、打痕の形状が良好となることが分かった。
【0075】
<実施形態の効果>
本実施の形態によれば、以下の効果が奏される。
図5(a)および
図7(a)~(c)に示したように、スクライビングホイール100が基板20の表面を転動する際に、刃部101付近の部分が基板20に食い込んで、基板20の表面に打痕が形成される。このとき、溝部102が
図7(a)~(c)の形状を有するため、刃部101付近の基板20に食い込む部分V0の範囲が周方向に広くなる。このため、基板20に形成される打痕の間隔G0が狭くなり、打痕位置に形成された垂直クラック21が繋がり易くなる。また、刃部101付近の基板20に食い込む部分V0の体積が大きくなるため、打痕位置において、垂直クラック21をより深く伸展させることができる。よって、実施の形態に係るスクライビングホイール100によれば、基板20に垂直クラック21をより深く且つ良好に形成することができる。
【0076】
図7(a)~(c)に示したとおり、溝部102は、中心軸L0に平行な方向に見て、最深部102bに対して周方向の両側の部分が、中心軸L0から離れる方向に凸の形状となるように形成されている。これにより、スクライビングホイール100の転動に伴い、溝部102が基板20に食い込み易くなる。
【0077】
また、最深部102bに対して周方向の両側の部分の形状は、中心軸L0に平行な方向に見て、全体的に緩やかな曲線形状となっている。とくに、
図7(a)に示すように、周方向において位置P1の部分に対して周方向の両側の部分の形状は、曲線形状となるように形成されている。これにより、スクライビングホイール100の転動に伴い、溝部102が滑らかに基板20に食い込んでいく。よって、基板20に円滑に垂直クラック21を形成できる。なお、最深部102bに相当する位置P5から周方向において位置P1の部分は、略直線状となるように形成されても構わない。そのような場合であっても、最深部102bに対して周方向の両側の部分の形状は、中心軸L0に平行な方向に見て、全体的に緩やかな曲線形状となっているため、スクライビングホイール100は、滑らかに基板20に食い込むことができる。
【0078】
図7(a)~(c)に示したとおり、スクライビングホイール100は、周方向に隣り合う溝部102の間に、周方向に沿って延びる刃部101の稜線が存在するよう構成されている。これにより、周方向において刃部101が所定の幅を持つため、基板20に食い込む刃部101付近の部分V0の体積がより大きくなる。よって、基板20により深く垂直クラック21を形成できる。
【0079】
図2(b)、(c)に示したとおり、溝部12は、周方向に見て中心軸L0から離れる方向に凸の曲面からなり、溝部12と刃部11との境界から溝部12の最深部12aに向かって曲面の曲率半径が徐々に大きくなるよう構成されている。このように、溝部12がスクライビングホイール10の中心軸L0から離れる方向に凸の曲面からなっていることにより、スクライビングホイールが転動して溝部12が基板200に向き合ったときに、溝部12内の鋭い稜線が基板に深くくい込むようなことがない。このため、基板20に溝部102が当接することによりカレットが発生することを抑制できる。これは、スクライビングホイール10の溝部12に切れ込み部を設けて、スクライビングホイール100とした実施の形態においても同様である。
【0080】
図8(a)~(c)に示したとおり、溝部102には切れ込み部102aが設けられている。このとき、溝部の深さが7~10μmの範囲であれば、通常のスクライブ条件でスクライブ動作がなされた場合に、基板20と溝部102の最深部102bは接触しない。このため、刃部101の摩耗が進行した場合でも、所定期間、基板20に食い込み、基板20にスクライブラインを形成することができる。よって、長寿命のスクライビングホイール100となる。
【0081】
また、溝部の深さが7~10μmの範囲であれば、刃部101は、スクライビングホイールの当初の刃部の形状を維持しながら摩耗する。このため、基板20に形成される打痕の形状は良好となる。
【0082】
この他、本発明の実施の形態は、特許請求の範囲に示された技術的思想の範囲内において、適宜、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0083】
100 … スクライビングホイール
101 … 刃部
102 … 溝部
102a …切れ込み部
102b … 最深部
20 … 基板
L0 … 中心軸