(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】スクライビングホイール、ホルダーユニット及びスクライブ方法
(51)【国際特許分類】
B28D 5/00 20060101AFI20220203BHJP
C03B 33/10 20060101ALI20220203BHJP
B28D 1/24 20060101ALI20220203BHJP
H01L 21/301 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
B28D5/00 Z
C03B33/10
B28D1/24
H01L21/78 G
(21)【出願番号】P 2017217122
(22)【出願日】2017-11-10
【審査請求日】2020-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】390000608
【氏名又は名称】三星ダイヤモンド工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岩坪 佑磨
(72)【発明者】
【氏名】富本 博之
(72)【発明者】
【氏名】木山 直哉
(72)【発明者】
【氏名】平栗 陽輔
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-159359(JP,A)
【文献】特開2014-189415(JP,A)
【文献】特開2014-188729(JP,A)
【文献】特開2013-199429(JP,A)
【文献】特開2009-234874(JP,A)
【文献】特表2010-516481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28D 5/00
C03B 33/10
B28D 1/24
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円板状で外周が断面V字状の傾斜面と、前記傾斜面が交わる稜線とを有し、前記稜線を含む前記傾斜面の一定間隔毎に複数の溝を具備するスクライビングホイールであって、
前記溝は前記傾斜面に延在しており、前記溝の内部に前記稜線から連続する溝内稜線を有し、
前記稜線と隣接する一方側の前記溝内稜線との間で形成される第1エッジ角の角度が、前記稜線と隣接する他方側の前記溝内稜線との間で形成される第2エッジ角の角度よりも大きくされて
おり、前記稜線の前記第1エッジ角側が、前記第2エッジ角側よりも後に前記脆性材料基板と接触するよう回転させられることを特徴とするスクライビングホイール。
【請求項2】
前記第1エッジ角の角度は130°~170°であり、前記第2エッジ角の角度は前記第1エッジ角の角度より20°~50°小さいことを特徴とする請求項1に記載のスクライビングホイール。
【請求項3】
円板状で外周が断面V字状の傾斜面と、前記傾斜面が交わる稜線とを有し、前記稜線を含む前記傾斜面の一定間隔毎に複数の溝を具備するスクライビングホイールと、
前記スクライビングホイールを回転自在に保持するピンと、
前記スクライビングホイールを配置しておく保持溝を形成する一対の支持部
と、傾斜部を有する取付部とを含み、前記一対の支持部に前記ピンを配置しておくピン孔が設けられたホルダーと、からなるホルダーユニットであって、
前記スクライビングホイールの前記溝は前記傾斜面に延在しており、前記溝の内部に前記稜線から連続する溝内稜線を有し、
前記稜線と隣接する一方側の前記溝内稜線との間で形成される第1エッジ角の角度が、前記稜線と隣接する他方側の前記溝内稜線との間で形成される第2エッジ角の角度よりも大きくされて
おり、
前記ホルダーの前記傾斜部が設けられた側がスクライブ進行方向となるように前記スクライビングホイールが回転させられる場合に、前記スクライビングホイールの前記稜線の前記第1エッジ角側が、前記第2エッジ角側よりも後に前記脆性材料基板と接触することを特徴とするホルダーユニット。
【請求項4】
円板状で外周が断面V字状の傾斜面と、前記傾斜面が交わる稜線とを有し、前記稜線を含む前記傾斜面の一定間隔毎に複数の溝を具備するスクライビングホイールを用いた脆性材料基板のスクライブ方法であって、
前記スクライビングホイールの前記溝は前記傾斜面に延在しており、前記溝の内部に前記稜線から連続する溝内稜線を有し、
前記稜線と隣接する一方側の前記溝内稜線との間で形成される第1エッジ角の角度が、前記稜線と隣接する他方側の前記溝内稜線との間で形成される第2エッジ角の角度よりも大きくされており、
前記稜線の前記第1エッジ角側が、前記第2エッジ角側よりも後に前記脆性材料基板と接触するように、前記スクライビングホイールを回転させることを特徴とするスクライブ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板等の脆性材料基板にスクライブラインを形成するためのスクライビングホイールと、このスクライビングホイールを含むホルダーユニット及びスクライブ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脆性材料基板を分断するスクライビングホイールとして、このスクライビングホイールの稜線部分の刃先に溝を形成することが知られている。特許文献1には、モータの駆動軸に軸孔が装着されて回転駆動されるカッターホイールのV字形状となる刃先を含む両側の傾斜面に向けて、レーザ加工機からのレーザ光を照射して溶融溝を形成するカッターホイールの製造方法が開示されている。このような製造方法によって、傾斜面には、刃先側において交差するような帯状傾斜面溝が形成され、且つこの傾斜面溝が交差する刃先側にV字形状に対応する突起状を有する刃先溝が形成されることとなる。
【0003】
また、特許文献2にはスクライビングホイールの刃先に溝を形成し、側面視において刃先の稜線が溝と接する角度が溝の両側で異なるようにしたスクライビングホイールが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-234874号公報
【文献】特開2014-189415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に形成されている溝は、稜線に沿って内部に突起を有し、この突起の形状は溝の最も深い部分における稜線に垂直な線に対して対称のものであった。このようなスクライビングホイールでは、ホルダーへの取付時にどちらの向きに取り付けたとしても同じ性能を発揮することができるが、スクライブ進行方向に対する溝の最適な形状について十分に検討されてきたとはいえなかった。
【0006】
また特許文献2によるスクライビングホイールでは、溝の内部には稜線を有しておらず、稜線が溝と接する角度が溝の両端で異なるようにして溝の端部の欠けを防止し、寿命を長くしているが、スクライブを開始するときのスクライブ性能(かかりの良さ)については特に考慮されていなかった。
【0007】
本発明は、基板をスクライブする際に、荷重を小さくしてもかかりの性能の高いスクライビングホイール、ホルダーユニット、及びスクライブ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のスクライビングホイールは、円板状で外周が断面V字状の傾斜面と、前記傾斜面が交わる稜線とを有し、前記稜線を含む前記傾斜面の一定間隔毎に複数の溝を具備するスクライビングホイールであって、
前記溝は前記傾斜面に延在しており、前記溝の内部に前記稜線から連続する溝内稜線を有し、
前記稜線と隣接する一方側の前記溝内稜線との間で形成される第1エッジ角の角度が、前記稜線と隣接する他方側の前記溝内稜線との間で形成される第2エッジ角の角度よりも大きくされており、前記稜線の前記第1エッジ角側が、前記第2エッジ角側よりも後に前記脆性材料基板と接触するよう回転させられることを特徴とする。
【0009】
本発明のホルダーユニットは、円板状で外周が断面V字状の傾斜面と、前記傾斜面が交わる稜線とを有し、前記稜線を含む前記傾斜面の一定間隔毎に複数の溝を具備するスクライビングホイールと、前記スクライビングホイールを回転自在に保持するピンと、前記スクライビングホイールを配置しておく保持溝を形成する一対の支持部と、傾斜部を有する取付部とを含み、前記一対の支持部に前記ピンを配置しておくピン孔が設けられたホルダーと、からなるホルダーユニットであって、前記スクライビングホイールの前記溝は前記傾斜面に延在しており、前記溝の内部に前記稜線から連続する溝内稜線を有し、前記稜線と隣接する一方側の前記溝内稜線との間で形成される第1エッジ角の角度が、前記稜線と隣接する他方側の前記溝内稜線との間で形成される第2エッジ角の角度よりも大きくされており、前記ホルダーの前記傾斜部が設けられた側がスクライブ進行方向となるように前記スクライビングホイールが回転させられる場合に、前記スクライビングホイールの前記稜線の前記第1エッジ角側が、前記第2エッジ角側よりも後に前記脆性材料基板と接触することを特徴とする。
【0010】
本発明は、円板状で外周が断面V字状の傾斜面と、前記傾斜面が交わる稜線とを有し、前記稜線を含む前記傾斜面の一定間隔毎に複数の溝を具備するスクライビングホイールを用いた脆性材料基板のスクライブ方法であって、前記スクライビングホイールの前記溝は、前記傾斜面に延在する傾斜面溝と、前記傾斜面溝内部に前記稜線から連続する溝内稜線を有し、前記稜線と隣接する一方側の前記溝との間で形成される第1エッジ角の角度が、前記稜線と隣接する他方側の前記溝との間で形成される第2エッジ角の角度よりも大きくなっており、前記稜線の前記第1エッジ角側が、前記第2エッジ角側よりも後に前記脆性材料基板と接触するように、前記スクライビングホイールを回転させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
このような特徴を有する本発明のスクライビングホイール、ホルダーユニット及びスクライブ方法によれば、基板を分断する際に、スクライビングホイールから基板に加えられる荷重をあまり大きくしなくても滑り量が少なくかかりの良いスクライブ方法とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態におけるスクライブ装置の概略図である。
【
図2】本発明の実施形態におけるスクライブ装置が有するホルダージョイントの正面図である。
【
図3】
図3(a)は、スクライビングホイールの側面図であり、
図3(b)は、スクライビングホイールの正面図であり、
図3(c)は、スクライビングホイールの拡大側面図である。
【
図4】
図4は脆性材料基板を分断する際の模式図である。
【
図5】
図5(a)、(b)は、スクライブ時に非対称形状の溝を刃先に有するスクライビングホイールを用いた場合のスクライビングホイールと脆性材料基板の模式図である。
【
図6】
図6は本発明の実施の形態によるスクライビングホイールを用いてスクライブしたときに、スクライブが開始されるまでの距離を示すグラフである。
【
図7】
図7はスクライビングホイールに溝を形成する加工方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための一例を示すものであり、本発明をこの実施形態に特定することを意図するものではない。本発明は、特許請求の範囲に含まれるその他の実施形態のものにも適応し得るものである。
【0014】
本発明の実施形態に係るスクライブ装置10の概略図を
図1に示す。スクライブ装置10は、移動台11を備えている。移動台11は、ボールネジ13と螺合されており、モータ14の駆動によりこのボールネジ13が回転することで、一対の案内レール12a、12bに沿ってy軸方向に移動するようになっている。
【0015】
移動台11の上面には、モータ15が設置されている。モータ15は、上部に位置するテーブル16をxy平面で回転させて所定角度に位置決めするためのものである。被切断物としての脆性材料基板17は、テーブル16上に載置され、図示しない真空吸引手段などによって保持される。スクライブの対象となる脆性材料基板17としては、ガラス基板、低温焼成セラミックスや高温焼成セラミックスからなるセラミック基板、シリコン基板、化合物半導体基板、サファイア基板、石英基板等が挙げられる。また、脆性材料基板17はその表面または内部に、薄膜或いは半導体材料を付着させたり含ませたりしたものであってもよい。脆性材料基板17は、その表面に脆性材料に該当しない薄膜等が付着されていても構わない。
【0016】
スクライブ装置10は、テーブル16に載置された脆性材料基板17の上方に、この脆性材料基板17の表面に形成されたアライメントマークを撮像する二台のCCDカメラ18を備えている。移動台11とその上部のテーブル16とを跨ぐように、ブリッジ19がx軸方向に沿うようにして支柱20a、20bによって架設されている。
【0017】
ブリッジ19にはガイド22が取り付けられており、スクライブヘッド21はこのガイド22に案内されてx軸方向に移動可能に設置されている。スクライブヘッド21には、ホルダージョイント23を介してホルダーユニット30が取り付けられている。
【0018】
図2には、ホルダーユニット30が取り付けられたホルダージョイント23の正面図が示されている。なお、
図2には、ホルダージョイント23の正面図が示されるとともに、回転軸部23aに取り付けられたベアリング25a、25bとスペーサ25cの断面図が併せて示されている。
【0019】
ホルダージョイント23は略円柱状をしており、回転軸部23aと、円柱形のジョイント部23bとで構成されている。ホルダージョイント23がスクライブヘッド21に装着された状態においては、回転軸部23aが二つのベアリング25a、25bに円筒形のスペーサ25cを介して取り付けられ、このホルダージョイント23は回動自在に保持される。
【0020】
ジョイント部23bの下端には円形の開口26が形成され、この開口26の上部にはマグネット27が埋設されている。開口26を介して、ホルダーユニット30のホルダー24が着脱自在に取り付けられる。ホルダーユニット30は、ホルダー24と、ピン33と、スクライビングホイール40とを備える。
【0021】
ホルダー24は略円柱形の金属等からなり、その下端側には平坦部29a、29bが形成されている。なお、
図2において、ホルダーユニット30の下端側を拡大している図は、このホルダーユニット30を矢印Aで示す横方向から観察した場合の拡大図を示している。
【0022】
平坦部29aと平坦部29bとの間には、スクライビングホイール40を保持するための保持溝31が形成されている。平坦部29a、29bにはそれぞれ、スクライビングホイール40を固定するために孔状のピン孔32が形成されている。ピン孔32及びスクライビングホイール40にピン33を貫通させることで、このスクライビングホイール40がホルダー24に対して回転自在に取り付けられる。
【0023】
ホルダー24の上端側には、位置決め用の取付部34が形成されている。取付部34はホルダー24を切り欠いて形成されており、傾斜部34aと平坦部34bとを有している。
【0024】
ホルダージョイント23にホルダーユニット30を装着する際は、このホルダーユニット30を開口26に向けて取付部34側から挿入する。その際、ホルダー24の上端側の金属部分がマグネット27によって引き寄せられ、取付部34の傾斜部34aが開口26の内部を通る平行ピン28と接触し、位置決めが行われ、ホルダー24はホルダージョイント23に固定される。反対に、ホルダージョイント23からホルダーユニット30を取り外す際は、ホルダー24を下方へ引く抜くことで、容易に取り外すことができる。
【0025】
ホルダーユニット30のスクライビングホイール40は、消耗品であるため定期的な交換が必要となる。本実施形態においては、ホルダージョイント23を介してホルダーユニット30がスクライブヘッド21に装着されているので、このホルダーユニット30の着脱が容易に行われる。このため、スクライビングホイール40をホルダー24から取り外すことなく、これらスクライビングホイール40とホルダー24とが一体として扱われる。また、ホルダーユニット30そのものを交換するようにしてもよい。したがって、スクライビングホイール40の交換作業が容易に行われることとなる。
【0026】
次に、スクライビングホイール40の詳細について説明する。
図3(a)、(b)、(c)にはそれぞれ、スクライビングホイール40の側面図、正面図、拡大側面図が示されている。なお、
図3(c)の拡大側面図は
図3(a)の円cで示した部分である。スクライビングホイール40は、本体部41と、傾斜面42と、稜線43と、溝44とを有している。
【0027】
本体部41は、円板状である。本体部41の中心付近には、この本体部41を回転軸方向に対して貫通する貫通孔45が形成されている。貫通孔45にピン33が挿入されることで、スクライビングホイール40はこのピン33を介してホルダー24に回転自在に保持される。本体部41の外周に、円環状の傾斜面42が形成されている。
【0028】
傾斜面42は、回転軸を中心とした同心円状の内周及び外周により形成される円環状体の斜面である。傾斜面42は正面視で略V字状となっており、傾斜面42の最外周部には、傾斜面42が交わる稜線43が形成されている。回転軸方向に対するスクライビングホイール40の厚さは、稜線43に向かうに従って徐々に小さくなっている。
【0029】
図3(c)に示すように、傾斜面42の最外周部には、稜線43と溝44とが交互に一定間隔で形成されている。溝44は傾斜面42に沿って稜線43を挟んで延在するよう設けられており、溝44の内部は稜線43に垂直な方向から見て、元の形状に対して左右で非対称なV字形の窪みとなっている。また溝44は稜線43から連続し、稜線43よりも本体部41の中心側(貫通孔45側)に窪んだ溝内稜線46を有している。溝44は、稜線43に垂直な方向における断面において、元の傾斜面と同様に、溝内稜線46を頂点とした山形の形状とされている。本実施の形態においては、溝44は傾斜面に沿って溝内稜線46から遠ざかるにつれてその深さが浅くなるように形成されている。
【0030】
溝内稜線46の形状は稜線43に垂直な方向から見て非対称であり、稜線43と隣接する一方側の溝内稜線46との間で形成される第1エッジ角47の角度αが、稜線43と隣接する他方側の前記溝内稜線46との間で形成される第2エッジ角48の角度βよりも大きくなっている。
ここで、本実施形態においては、第1エッジ角47は168°、第2エッジ角48は142°である。第1エッジ角47の角度αは130°~170°の範囲であることが好ましく、第2エッジ角48の角度βは90°より大きく、かつ第1エッジ角47の角度αより20°~50°小さくされていることが好ましい。
【0031】
図4には、脆性材料基板17を分断する際の模式図が示されている。なお、
図4においては、ホルダーユニット30と脆性材料基板17のみを示している。
【0032】
スクライブ装置10においては、スクライビングホイール40は、回転方向が定まるようになされており、常に一定の方向に回転して脆性材料基板17にスクライブラインを形成するようになっている。具体的には、脆性材料基板17にスクライブラインを形成する際、ホルダー24の傾斜部34a側が常に進行方向となる。
図4において、脆性材料基板17を右方向にスクライブする場合は、ホルダー24の傾斜部34a側が右方向となる。これに続けて、脆性材料基板17を左方向にスクライブする場合は、ホルダージョイント23の回転軸部23aを介してジョイント部23bが回転し、ホルダー24の傾斜部34a側が左方向となる。
【0033】
次に、スクライブ装置による脆性材料基板のスクライブ方法について説明する。
図5(a)、(b)はそれぞれスクライビングホイールと脆性材料基板の部分拡大図であり、
図5(a)はスクライブ時に第2エッジ角が先に基板に当接する場合、
図5(b)はスクライブ時に第1エッジ角が先に基板に当接する場合がそれぞれ示されている。
【0034】
図5(a)を参照すると、スクライビングホイール40は、脆性材料基板17に当接され矢印Fの方向に常に回転して脆性材料基板17を分断する。なお、この時のホルダーユニット30の進行方向は、矢印Fの反対向きになる。スクライビングホイール40の傾斜面42には非対称形状の溝が形成されており、稜線43と溝44とが交互に連続している。溝44は非対称形状であり、溝内稜線46と稜線43とで形成される第1エッジ角47の角度αが、溝内稜線46と稜線43とで形成される第2エッジ角48の角度βよりも大きくなっている(
図3(c)参照)。本実施の形態においては、
図5(a)に示すようにスクライビングホイール40が矢印Fの方向に回転すると、先に稜線43の第2エッジ角48を有する側が脆性材料基板17に当接され、第1エッジ角47を有する側が後に脆性材料基板17に当接する。つまり、スクライビングホイール40の回転方向に対して、稜線43における第1エッジ角47は、第2エッジ角48よりも下流側に位置している。これに対し、
図5(b)はスクライビングホイール40をホルダー24に逆向きに取付け、先に稜線43の第2エッジ角48を有する側が脆性材料基板17に当接し、第1エッジ角47を有する側が後に脆性材料基板17に当接するようにしてスクライブする場合を示している。
【0035】
図6は前述した実施の形態によるスクライビングホイールを用いてガラス基板に対してスクライブを行った際の滑り量(スクライブ始点からリブマーク(垂直クラック)が発生して正常なスクライブができるまでの距離)を示す図である。
図6は、荷重8Nにおいて20回ずつスクライブを行った場合に、スクライブ始点からリブマーク発生するまでの距離(μm)とその頻度を、先に稜線の43の第2エッジ角48を有する側が脆性材料基板に当接するようにスクライブした場合(第2エッジ角先行、
図5(a)参照)と、先に稜線43の第1エッジ角47を有する側が脆性材料基板に当接するようにスクライブした場合(第1エッジ角先行、
図5(b)参照)とに分けて示している。この結果、先に稜線43の第2エッジ角48を有する側が脆性材料基板に当接するようにスクライブした場合、20回のスクライブ中19回で、スクライブ開始から500μm以内にリブマークが成立、すなわち垂直クラックが生じている。これに対し、先に稜線43の第1エッジ角47を有する側が脆性材料基板に当接するようにスクライブした場合には、20回のスクライブ中17回で滑り量が1000μm以上となった。したがって、スクライブ時には稜線43の第2エッジ角48側が先に基板に当接するようにスクライブすれば、スクライブ荷重をあまり大きくしなくてもリブマーク成立までの滑り量が少なく、かかりが良いという効果が得られる。
【0036】
これは第2エッジ角48側の溝内稜線46が基板をスクライブ進行方向に対して後方下方向に押すような力を加えることによって、垂直クラックの起点となるクラックが形成されやすくなるためと考えられる。一方第1エッジ角47が先に基板に当接するようにスクライブした場合には、溝内稜線46により、基板の後方斜め下方向に稜線で基板を押すような力が加わり、垂直クラックの起点となるクラックは形成されにくいため、滑り量が多く、かかり不良になっていると考えられる。
【0037】
次に、スクライビングホイール40の溝44の製造過程について説明する。溝44は例えばレーザ加工により円板の外周部に形成される。まず
図7に示すようにスクライビングホイール40の貫通孔45をモータ51の軸52に連結して固定する。そしてスクライビングホイール40の稜線に対して平行な方向から刃先に向けて、レーザ加工機53よりレーザ光を照射する。このとき、稜線方向において、加工される領域の幅の中央から所定距離離れた位置で最も溝の深さが深くなるようにレーザ光の照射条件や加工回数を選定する。そして回転軸に沿って稜線43を中心としてX軸方向の前後に一定間隔を移動させることによって、溝内稜線46を中央に含み、傾斜面に延在する傾斜面溝49を形成する。
【0038】
1つの溝の加工を終了すると、モータ51によりスクライビングホイール40を所定角度回転させ、レーザ加工機53からレーザ光を照射して同様の溝加工を行う。このような作業を繰り返すことによってスクライビングホイール40の外周部の全周に対して一定ピッチの溝44を形成し、その内部を円周方向において非対称な形状とすることができる。
【0039】
なお、この実施の形態では稜線上に一定間隔で多数の溝を形成しているが、溝の数については限定されるものではない。側面視における溝の形状も、V字状の溝に限らずU字状の溝など公知の形状としてもよい。また、溝の深さが溝の長軸方向において変化するようにされているが、溝内で一定の深さとしてもよく、稜線の左右の傾斜面において深さが異なっていてもよい。さらに、溝の稜線方向の幅及び間隔、外周稜線に対する角度についても任意に決定することができる。
【0040】
また、本実施の形態においてはレーザ加工により円板の外周部に溝を形成しているが、砥石加工等その他の加工方法に代えることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のスクライビングホイールは単板及び貼り合わせ基板をスクライブするスクライブ装置やスクライブ工具に適用することができる。
【符号の説明】
【0042】
10 スクライブ装置
11 移動台
12a,12b 案内レール
13 ボールネジ
14 モータ
15 モータ
16 テーブル
17 脆性材料基板
18 カメラ
19 ブリッジ
20a 支柱
20b 支柱
21 スクライブヘッド
22 ガイド
23 ホルダージョイント
23a 回転軸部
23b ジョイント部
24 ホルダー
25a,25b ベアリング
25c スペーサ
26 開口
27 マグネット
28 平行ピン
29a 平坦部
29b 平坦部
30 ホルダーユニット
31 保持溝
32 ピン孔
33 ピン
34 取付部
34a 傾斜部
34b 平坦部
40 スクライビングホイール
41 本体部
42 傾斜面
43 稜線
44 溝
45 貫通孔
46 溝内稜線
47 第1エッジ角
48 第2エッジ角
51 モータ
52 軸
53 レーザ加工機