(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】マルチアンテナ送信機の出発角度の識別
(51)【国際特許分類】
G01S 5/08 20060101AFI20220118BHJP
H04W 16/20 20090101ALI20220118BHJP
H04B 7/06 20060101ALI20220118BHJP
H04L 27/26 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
G01S5/08
H04W16/20
H04B7/06 670
H04L27/26 113
(21)【出願番号】P 2019536344
(86)(22)【出願日】2017-09-13
(86)【国際出願番号】 IB2017055514
(87)【国際公開番号】W WO2018055482
(87)【国際公開日】2018-03-29
【審査請求日】2020-08-10
(32)【優先日】2016-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519095016
【氏名又は名称】ディーヨーク ロケイション テクノロジーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100086461
【氏名又は名称】齋藤 和則
(72)【発明者】
【氏名】シュッパック、エラン
【審査官】佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0033614(US,A1)
【文献】特表2015-536071(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0178471(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0047885(US,A1)
【文献】特開2011-149808(JP,A)
【文献】特開2004-128847(JP,A)
【文献】特開2006-270534(JP,A)
【文献】国際公開第2009/054052(WO,A1)
【文献】特開2016-138829(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00- 5/14
G01S 19/00-19/55
H04W 4/00-99/00
H04B 7/24- 7/26
H04L 27/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号処理の方法であって、
1つの無線送信機の少なくとも第1および第2のアンテナからそれぞれ送信された、少なくとも第1および第2の信号を所与の位置で受信するステップであって、前記少なくとも第1および第2の信号は、マルチキャリア符号化方式を使用して前記送信された信号の間の所定の循環遅延で同一のデータを符号化する、ステップと;
前記第1および第2の信号間の位相遅延の大きさを導出するために、前記循環遅延を使用して、前記受信された第1および第2の信号を処理するステップ
であって、
前記受信された第1および第2の信号を処理するステップは、前記受信された信号内の少なくとも2つの時間-周波数ビンを選択するステップと、前記選択されたビンのそれぞれの循環シフトに応じて位相遅延の大きさを計算するステップとを有する、ステップと;そして
前記位相遅延の大きさに基づいて、
前記無線
送信機から前記所与の位置への前記第1および第2の信号の出発角度を推定するステップと;
を有する、
ことを特徴とする、信号処理の方法。
【請求項2】
前記少なくとも第1および第2の信号を受信するステップは、単一の受信アンテナを介して前記少なくとも第1および第2の信号を受信するステップを含む、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記単一の受信アンテナは、携帯電話に設置された全方向性アンテナである、ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記マルチキャリア符号化方式は直交周波数分割多重化(OFDM)方式を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記無線送信機は、802.11規格に従って動作する無線アクセスポイントである、ことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも2つの時間-周波数ビンを選択するステップは、前記マルチキャリア符号化方式内の選択された1つの周波数において、前記送信機により送信された1つのフレーム内の異なるそれぞれの第1および第2のシンボル内で、第1と第2のビンをサンプリングするステップを有する、ことを特徴とする請求項
1に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも2つの時間-周波数ビンを選択するステップは、前記マルチキャリア符号化方式内の異なるそれぞれの第1および第2の周波数において、前記送信機により送信された1つの選択されたシンボル内で、第1と第2のビンをサンプリングするステップを有する、ことを特徴とする請求項
1に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも2つの時間-周波数ビンを選択するステップは、標準循環シフトに基づいて逆極性位相を有する第1および第2のビンを選択するステップを有する、ことを特徴とする請求項
1に記載の方法。
【請求項9】
前記位相遅延の大きさを計算するステップは、前記選択された時間-周波数ビンから抽出された前記信号に線形変換を適用するステップを有する、ことを特徴とする請求項
1に記載の方法。
【請求項10】
信号処理の方法であって、
1つの無線送信機の少なくとも第1および第2のアンテナからそれぞれ送信された、少なくとも第1および第2の信号を所与の位置で受信するステップであって、前記少なくとも第1および第2の信号は、マルチキャリア符号化方式を使用して前記送信された信号の間の所定の循環遅延で同一のデータを符号化する、ステップと;
前記第1および第2の信号間の位相遅延の大きさを導出するために、前記循環遅延を使用して、前記受信された第1および第2の信号を処理するステップであって、
前記第1および第2の信号は、所定のプリアンブルを含むフレーム構造を指定する無線通信規格に従って送信され、
前記受信した第1および第2の信号を処理するステップは、前記第1および第2の信号
の所与のフレームの前記プリアンブルの少なくとも一部にわたって時間相関関数を計算するステップと、前記時間相関関数におけるピーク間の時間差に応じて前記位相遅延の大きさを求めるステップとを有する
、ステップと;そして
前記位相遅延の大きさに基づいて、前記無線送信機から前記所与の位置への前記第1および第2の信号の出発角度を推定するステップと;
を有することを特徴とする
方法。
【請求項11】
前記時間相関関数は、自己相関関数および所定の基準信号との相互相関からなる一群の関数から選択される、ことを特徴とする請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記時間相関関数内の前記ピークに基づいて、前記無線送信機から前記信号を送信しているアンテナの数を見つけるステップを有する、ことを特徴とする請求項
10に記載の方法。
【請求項13】
前記相関は、前記無線通信規格によって定義される、前記プリアンブル内の1つまたは複数の同期シンボルにわたって計算される、ことを特徴とする請求項
10に記載の方法。
【請求項14】
前記第1および第2の信号は、所定のプリアンブルを含むフレーム構造を指定する無線通信規格に従って送信され、前記受信された第1および第2の信号を処理するステップは、所与のフレームの前記プリアンブルの少なくとも一部を処理のために選択するステップを有する、ことを特徴とする請求項1-
13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記
無線送信機は無線アクセスポイントであり、前記少なくとも第1および第2の信号を受信し処理するステップは、移動局と前記アクセスポイントとの間の関連付けを確立することなく、前記移動局内で前記少なくとも第1および第2の信号を受信し処理するステップを有する、ことを特徴とする請求項1-
13のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも第1および第2の信号を受信し処理するステップは、所定の無線通信規格に従って前記少なくとも第1および第2のアンテナから送信されるビーコンを受信するステップを有する、ことを特徴とする請求項
15に記載の方法。
【請求項17】
前記
無線送信機は無線アクセスポイントであり、前記方法は前記無線アクセスポイントに関する位置情報を受信するステップと、前記受信された位置情報と前記推定された出発角度に基づいて前記所与の位置の座標を計算するステップとを有する、ことを特徴とする請求項1-
13のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記座標を計算するステップは、2つ以上の異なる無線アクセスポイントに関する前記受信された位置情報と前記推定された出発角度とに基づいて前記座標を見出すステップをする、ことを特徴とする請求項
17に記載の方法。
【請求項19】
前記
無線送信機は無線アクセスポイントであり、前記方法は前記受信された第1および第2の信号の少なくとも一方から前記無線アクセスポイントの識別子を抽出するステップを有する、ことを特徴とする請求項1-
13のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
複数のアクセスポイントのそれぞれの位置を有するマップに組み込むために、前記識別子および前記推定された出発角度をサーバに報告するステップを有する、ことを特徴とする請求項
19に記載の方法。
【請求項21】
それぞれの場所にある無線通信装置の一組から、無線アクセスポイントから前記無線通信装置によって受信された信号のそれぞれの推定される出発角度の報告を
前記サーバにおいて受信するステップと;そして
前記推定される出発角度に基づいて前記無線アクセスポイントのマップを構築するステップと;
を有することを特徴とする、
請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記無線通信装置は単一のアンテナを有する移動局を有し、前記無線アクセスポイントはそれぞれ複数のアンテナを有し、前記出発角度は、前記複数のアンテナによって送信される前記信号間の所定の循環遅延に基づいて推定される、ことを特徴とする請求項
21に記載の方法。
【請求項23】
前記報告を受信するステップは、前記信号が受信された前記無線アクセスポイントのそれぞれの識別子および前記無線通信装置の位置座標を前記無線通信装置から受信するステップを有する、ことを特徴とする請求項
21に記載の方法。
【請求項24】
前記マップから前記無線通信装置のうちの1つまたはそれ以上に位置情報を提供するステップを有する、ことを特徴とする請求項
21-
23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記位置情報を提供するステップは、所与のアクセスポイントから前記無線通信装置によって受信された信号の推定された出発角度と、前記所与のアクセスポイントの前記マップ内の位置に基づいて、前記無線通信装置の位置座標を識別するステップを有する、ことを特徴とする請求項
24に記載の方法。
【請求項26】
無線装置であって、
無線送信機の少なくとも第1および第2のアンテナからそれぞれ送信された少なくとも第1および第2の信号を所与の位置で受信するように構成された受信アンテナであって、前記少なくとも第1および第2の信号は、マルチキャリア符号化方式を使用して、前記送信された信号の間の所定の循環遅延で同一のデータを符号化する、受信アンテナと;そして
前記第1および第2の信号間の位相遅延の大きさを導出するために、前記循環遅延を使用して、前記受信された第1および第2の信号を処理し、そして前記位相遅延の大きさに基づいて、前記無線送信機から前記所与の位置への前記第1および第2の信号の出発角度を推定するように構成される処理回路と;
を有
し、
前記処理回路は、前記受信信号内の少なくとも2つの時間-周波数ビンを選択し、前記選択されたビンのそれぞれの循環シフトに応じて前記位相遅延の大きさを計算するように構成される、
ことを特徴とする無線装置。
【請求項27】
前記受信アンテナは、前記第1および第2の信号の両方を受信する単一のアンテナを有する、ことを特徴とする請求項
26に記載の装置。
【請求項28】
前記単一アンテナは全方向性アンテナであり、前記無線装置は携帯電話である、ことを特徴とする請求項
27に記載の装置。
【請求項29】
前記マルチキャリア符号化方式は、直交周波数分割多重化(OFDM)方式を有する、ことを特徴とする請求項
26に記載の装置。
【請求項30】
前記無線送信機は、802.11規格に従って動作する無線アクセスポイントである、ことを特徴とする請求項
29に記載の装置。
【請求項31】
前記少なくとも2つの時間-周波数ビンは、前記無線送信機によって送信される1つのフレーム内の異なるそれぞれの第1および第2のシンボルで生じる、前記マルチキャリア符号化方式内の1つの選択された周波数の第1および第2のビンを有する、ことを特徴とする請求項
26に記載の装置。
【請求項32】
前記少なくとも2つの時間-周波数ビンは、前記送信機よって送信される1つのフレーム内の1つの選択されたシンボルで生じる、前記マルチキャリア符号化方式内のそれぞれ異なる第1および第2の周波数の第1および第2のビンを有する、ことを特徴とする請求項
26に記載の装置。
【請求項33】
前記少なくとも2つの時間-周波数ビンは、標準循環シフトに基づいて逆極性位相を有するように選択される、ことを特徴とする請求項
26に記載の装置。
【請求項34】
前記処理回路は、前記出発角度を推定するために、前記選択された時間-周波数ビンから抽出された前記信号に線形変換を適用するように構成される、ことを特徴とする請求項
26に記載の装置。
【請求項35】
無線装置であって、
無線送信機の少なくとも第1および第2のアンテナからそれぞれ送信された少なくとも第1および第2の信号を所与の位置で受信するように構成された受信アンテナであって、前記少なくとも第1および第2の信号は、マルチキャリア符号化方式を使用して、前記送信された信号の間の所定の循環遅延で同一のデータを符号化する、受信アンテナと;そして
前記第1および第2の信号間の位相遅延の大きさを導出するために、前記循環遅延を使用して、前記受信された第1および第2の信号を処理し、そして前記位相遅延の大きさに基づいて、前記無線送信機から前記所与の位置への前記第1および第2の信号の出発角度を推定するように構成される処理回路と;
を有し、
前記第1および第2の信号は、所定のプリアンブルを含むフレーム構造を指定する無線通信規格に従って送信され、そして
前記処理回路は、前記第1および第2の信号
における所与のフレームの前記プリアンブルの少なくとも一部にわたって時間相関関数を計算し、前記時間的相関関数内のピーク間の時間差に応じて前記位相遅延の大きさを見出すように構成される、ことを特徴とする
無線装置。
【請求項36】
前記時間相関関数は、自己相関関数および所定の基準信号との相互相関からなる一群の関数から選択される、ことを特徴とする請求項
35に記載の装置。
【請求項37】
前記処理回路は、前記時間相関関数のピークに基づいて前記無線送信機から前記信号を送信しているアンテナの数を見つけるように構成される、ことを特徴とする請求項
35に記載の装置。
【請求項38】
前記相関は、前記無線通信規格によって定義される前記プリアンブル内の1つまたは複数の同期シンボルにわたって計算される、ことを特徴とする請求項
35に記載の装置。
【請求項39】
前記第1および第2の信号は、所定のプリアンブルを含むフレーム構造を指定する無線通信規格に従って送信され、前記処理回路は、所与のフレームの前記プリアンブルの少なくとも一部を処理のために選択するように構成される、ことを特徴とする請求項
26-
38のいずれかに記載の装置。
【請求項40】
前記
無線送信機は無線アクセスポイントであり、前記処理回路は前記アクセスポイントとの関連付けを確立することなく、前記少なくとも第1および第2の信号を受信し処理するように構成されている、ことを特徴とする請求項
26-
38のいずれかに記載の装置。
【請求項41】
前記第1および第2の信号は、所定の無線通信規格に従って前記少なくとも第1および第2のアンテナから送信されるビーコンを含む、ことを特徴とする請求項
40に記載の装置。
【請求項42】
前記
無線送信機は無線アクセスポイントであり、前記処理回路は前記無線アクセスポイントに関する位置情報を受信し、そして前記受信した位置情報と前記推定された出発角度に基づいて前記所与の位置の座標を計算するように構成される、ことを特徴とする請求項
26-
38のいずれかに記載の装置。
【請求項43】
前記処理回路は、2つ以上の異なる無線アクセスポイントに関する、前記受信された位置情報と前記推定された出発角度とに基づいて、前記座標を計算するように構成される、ことを特徴とする請求項
42に記載の装置。
【請求項44】
前記
無線送信機は無線アクセスポイントであり、前記処理回路は前記受信された第1および第2の信号のうちの少なくとも一方から前記無線アクセスポイントの識別子を抽出するように構成される、ことを特徴とする請求項
26-
38のいずれかに記載の装置。
【請求項45】
前記処理回路は、複数のアクセスポイントのそれぞれの位置を含むマップに組み込むために、前記識別子および前記推定された出発角度をサーバに報告するように構成される、ことを特徴とする請求項
44に記載の装置。
【請求項46】
マッピングのための機器であって、
1組の請求項45に記載の通信装置と;
メモリと;そして
それぞれの位置にある
前記1組の無線通信装置
から、前記無線通信装置により無線アクセスポイントから受信された信号のそれぞれの推定された出発角度の報告を受信し、そして前記推定された出発角度に基づいて前記メモリ内に前記無線アクセスポイントのマップを構築するように構成されるプロセッサと;
を有することを特徴とするマッピングのための機器。
【請求項47】
前記無線通信装置は単一のアンテナを有する移動局を含み、一方前記無線アクセスポイントはそれぞれ複数のアンテナを有し、そして前記出発角は前記複数のアンテナにより送信される前記信号間の所定の循環遅延に基づいて推定される、ことを特徴とする請求項
46に記載の機器。
【請求項48】
前記報告は、前記信号が受信された前記無線アクセスポイントのそれぞれの識別子と前記無線通信装置の位置座標とを含む、ことを特徴とする請求項
46に記載の機器。
【請求項49】
前記プロセッサは、前記マップからの位置情報を前記無線通信装置のうちの1つまたは複数に提供するように構成される、ことを特徴とする請求項
46―
48のいずれかに記載の機器。
【請求項50】
前記位置情報は、前記無線通信装置によって受信された所与のアクセスポイントからの信号の推定された出発角度、および前記所与のアクセスポイントの位置に基づいて、前記無線通信装置の位置座標を識別する、ことを特徴とする請求項
49に記載の機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に無線通信システムに関し、特に無線ネットワーク信号に基づく位置特定の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルラ電話などの移動無線送受信機の位置を見つけるための様々な技術が当該技術分野において知られている。例えば、ほとんどすべての携帯電話は現在、静止衛星から受信した信号から位置座標を導出する全地球測位システム(GPS)受信機を有する。しかし、衛星は弱い衛星信号に依存しているため、GPSは屋内や混雑した都会の環境では機能しない。セルラネットワークは、セルラ電話と複数のセルラアンテナとの間で送受信される信号に基づいて電話の位置を三角測量することもできるが、この技術は不正確で信頼性が低い。
【0003】
既存の無線ローカルエリアネットワーク(WLAN)インフラストラクチャに基づく屋内位置特定のための多くの方法が提案されている。そのようなアプローチの1つは、例えば、SIGCOMM‘15(London、UK、2015年8月17-21日)において発行されたKotaru他著「SpotFi:WiFiを使用したデシメートルレベル位置特定」に記載されている。著者らによると、SpotFiはアクセスポイントから受信したマルチパス要素の到来角(AoA)を計算し、そしてフィルタリングと推定技術を使って位置特定ターゲットとアクセスポイント間の直接経路の到来角(AoA)を特定する。
【0004】
別の例として、米国特許出願公開第2009/0243932号(特許文献1)は、モバイル機器の位置を特定するための方法を記載している。この方法は、複数の既知の場所間で信号を送信するステップと、未知の場所にある1台のモバイル機器などの装置でその信号を受信するステップとを含む。その信号は、異なる周波数を有し、残留位相差の組をもたらす複数のトーンを含み得る。そのモバイル機器の位置は、既知の位置と送信されたトーン間の周波数および位相差とを使用して決定され得る。一実施形態では、モバイル機器の位置を決定するために、アクセスポイントとモバイル機器との間で直交周波数分割多重(OFDM)信号が使用され得る。
【0005】
さらなる例として、米国特許出願公開第2016/0033614号(特許文献2)には、無線通信ネットワークにおけるメインローブおよびグレーティングローブの識別を含む方向探知(DF)位置特定の方法が記載されている。受信機は、第1のチャネル周波数にわたって複数のアンテナに関連付けられた無線信号に対して方向探知(DF)アルゴリズムを実行し、第1の方向探知(DF)解のセットを推定する。受信機は、第2のチャネル周波数にわたって複数のアンテナに関連付けられた無線信号に対して方向探知(DF)アルゴリズムを実行し、第2の方向探知(DF)解のセットを推定する。次に、受信機は、第1のDF解のセットと第2のDF解のセットとを比較することによって正しいDF解(例えば、メインローブ方向)を識別する。
【0006】
ほとんどの現在のWLANは、IEEEによって公布された802.11規格のセットに従って動作する。このファミリーの中で、IEEE 802.11n-2009規格(一般に単に「802.11n」と呼ばれる)は、「多入力多出力」(MIMO)送信および受信によってデータレートを増加させるための多アンテナの使用を定義している。MIMOは、帯域幅の1つのスペクトルチャネル内で複数の独立したデータストリームを空間的に多重化する空間分割多重化(SDM)によって、送信機および受信機が単一アンテナを用いて可能であるよりも多くの情報をコヒーレントに分解できるようにする。より新しい802.11ac規格も同様に、802.11nよりも多数の空間ストリームおよびより高い伝送速度で、MIMO伝送をサポートする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許出願公開第2009/0243932号
【文献】米国特許出願公開第2016/0033614号
【発明の概要】
【0008】
以下に記載される本発明のいくつかの実施形態は、無線アクセスポイント信号から指向性情報を抽出するための改善された方法、ならびにそのような情報を導き出しそしてそれを利用する装置およびシステムを提供する。
【0009】
したがって、本発明の一実施形態によれば、1つの無線送信機の少なくとも第1および第2のアンテナからそれぞれ送信された、少なくとも第1および第2の信号を所与の位置で受信する信号の処理方法が提供される。少なくとも第1および第2の信号は、マルチキャリア符号化方式を使用して、送信された信号の間の所定の循環遅延で同一のデータを符号化する。第1および第2の信号間の位相遅延の大きさを導出するために、循環遅延を使用して、受信された第1および第2の信号が処理される。位相遅延の大きさに基づいて、無線アクセスポイントから所与の位置への第1および第2の信号の出発角度が推定される。
【0010】
いくつかの実施形態では、少なくとも第1および第2の信号を受信するステップは、携帯電話に設置された全方向性アンテナのような単一の受信アンテナを介して少なくとも第1および第2の信号を受信するステップを有する。
【0011】
追加的または代替的に、マルチキャリア符号化方式は直交周波数分割多重化(OFDM)方式を有する。いくつかの実施形態では、無線送信機は、802.11規格に従って動作する無線アクセスポイントである。
【0012】
開示された実施形態では、受信された第1および第2の信号を処理するステップは、受信信号内の少なくとも2つの時間-周波数ビンを選択するステップと、選択されたビンのそれぞれの循環シフトに応じて位相遅延の大きさを計算するステップとを有する。いくつかの実施形態では、少なくとも2つの時間-周波数ビンを選択するステップは、マルチキャリア符号化方式内の選択された1つの周波数において、送信機により送信された1つのフレーム内の異なるそれぞれの第1および第2のシンボル内で、第1と第2のビンをサンプリングするステップを有する。他の実施形態では、少なくとも2つの時間-周波数ビンを選択するステップは、マルチキャリア符号化方式内の異なるそれぞれの第1および第2の周波数において、送信機により送信された1つの選択されたシンボル内で、第1と第2のビンをサンプリングするステップを有する。
【0013】
開示された実施形態では、少なくとも2つの時間-周波数ビンを選択するステップは、標準循環シフトに基づいて逆極性位相を有する第1および第2のビンを選択するステップを有する。追加的にまたは選択的に、位相遅延の大きさを計算するステップは、選択された時間-周波数ビンから抽出された信号に線形変換を適用するステップを有する。
【0014】
他の実施形態では、受信した第1および第2の信号を処理するステップは、第1および第2の信号にわたって時間相関関数を計算するステップと、時間相関関数におけるピーク間の時間差に応じて位相遅延の大きさを求めるステップと、を有する。開示された実施形態では、無線通信規格に従って所定の周期で信号内で繰り返される、1つ以上のシンボルにわたって相関が計算され、それによって時間的相関関数のピークは所定の周期に対応する周期性を有し、そしてこの大きさを発見するステップは、周期性に応答して、1つ以上のピークの対を識別するステップを含み、ここで各ペアにおけるピーク間の時間差はその所定の循環遅延に一致する。
【0015】
時間的相関関数は、自己相関関数および所定の基準信号との相互相関からなる一群の関数から選択されてもよい。追加的または代替的に、方法は、ピークの数および時間的相関関数内のそれらの相対位置に基づいて、無線送信機から信号を送信するアンテナの数および/または順序を見つけるステップを有する。相関は、受信信号における処理のための、所与のフレームのプリアンブルの少なくとも一部にわたって、例えば、無線通信規格によって定義されているプリアンブル内の1つまたは複数の同期シンボルにわたって計算され得る。
【0016】
いくつかの実施形態では、第1および第2の信号は、所定のプリアンブルを含むフレーム構造を指定する無線通信規格に従って送信され、受信された第1および第2の信号を処理するステップは、所与のフレームのプリアンブルの少なくとも一部を処理のために選択するステップを有する。
【0017】
追加的または代替的に、少なくとも第1および第2の信号を受信し処理するステップは、移動局とアクセスポイントとの間の関連付けを確立することなく、移動局において少なくとも第1および第2の信号を受信し処理するステップを有する。一実施形態では、少なくとも第1および第2の信号を受信し処理するステップは、所定の無線通信規格に従って少なくとも第1および第2のアンテナから送信されたビーコンを受信するステップを有する。
【0018】
いくつかの実施形態では、方法は、無線アクセスポイントに関する位置情報を受信するステップと、受信した位置情報と推定された出発角度とに基づいて所与の位置の座標を計算するステップを有する。典型的には、座標を計算するステップは、2つ以上の異なる無線アクセスポイントに関する受信位置情報および推定された出発角度に基づいて座標を見つけるステップを有する。
【0019】
追加的または代替的に、方法は、受信された第1および第2の信号のうちの少なくとも1つから無線アクセスポイントの識別子を抽出するステップを有する。一実施形態では、この方法は、複数のアクセスポイントのそれぞれの位置を含むマップに組み込むために、識別子および推定出発角度をサーバに報告するステップを有する。
【0020】
本発明の一実施形態によれば、無線通信装置によって受信された無線アクセスポイントからの信号のそれぞれの推定された出発角度について、それぞれの場所にある一組の無線通信装置から報告を受信するステップを有するマッピング方法も提供される。無線アクセスポイントのマップは、推定された出発角度に基づいて構築される。
【0021】
開示される実施形態では、無線通信装置は単一のアンテナを有する移動局を含み、無線アクセスポイントはそれぞれ複数のアンテナを有し、出発角度は複数のアンテナによって送信される信号間の所定の循環遅延に基づいて推定される。
【0022】
追加的または代替的に、報告を受信するステップは、信号が受信された無線アクセスポイントのそれぞれの識別子および無線通信装置の位置座標を無線通信装置から受信するステップを有する。
【0023】
いくつかの実施形態では、方法は、マップから無線通信装置のうちの1つまたはそれ以上に位置情報を提供するステップを有する。一実施形態では、位置情報を提供するステップは、所与のアクセスポイントから無線通信装置によって受信された信号の推定された出発角度と、所与のアクセスポイントのマップ内の位置に基づいて、無線通信装置の位置座標を識別するステップを有する。
【0024】
本発明の一実施形態によれば追加的に、無線送信機の少なくとも第1および第2のアンテナからそれぞれ送信された少なくとも第1および第2の信号を所与の位置で受信するように構成された受信アンテを有する無線装置が提供される。少なくとも第1および第2の信号は、送信された信号の間の所定の循環遅延を有するマルチキャリア符号化方式を使用して同一のデータを符号化する。処理回路は、第1および第2の信号間の位相遅延の大きさを導出するために、循環遅延を使用して、受信された第1および第2の信号を処理し、そして位相遅延の大きさに基づいて、無線送信機から所与の位置への第1および第2の信号の出発角度を推定するように構成される。
【0025】
本発明の一実施形態によれば、マッピングのための機器であって、メモリとプロセッサを有し、プロセッサは、それぞれの位置にある無線通信装置のセットから、無線通信装置により無線アクセスポイントから受信された信号のそれぞれの推定された出発角度の報告を受信し、そして推定された出発角度に基づいてメモリ内に無線アクセスポイントのマップを構築するように構成される、マッピングのための機器がさらに提供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
本発明は以下の図面を参照した実施形態の詳細な説明からさらに十分に理解されよう:
【
図1】本発明の一実施形態による無線通信および位置特定のためのシステムの概略図である。
【
図2】本発明の一実施形態による、アクセスポイントから受信機への無線信号の出発角度を導出する際に使用される座標フレームを概略的に示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態による、無線アクセスポイントに関する座標情報を導出する際に使用されるモバイル受信機の構成要素を概略的に示すブロック図である。
【
図4】本発明の別の実施形態による、無線アクセスポイントに関する座標情報を導出する際に使用されるモバイル受信機の構成要素を概略的に示すブロック図である。そして
【
図5】本発明の一実施形態による、移動通信装置の位置を見つけるための方法を示す、
図1のシステムの構成要素の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(概要)
802.11n規格によって定義されているような多入力多出力(MIMO)空間分割多重化(SDM)方式の実装は、各空間ストリームについて送信機と受信機の両方に個別のアンテナを必要とする。代替として、ストリームの位相は、アクセスポイントと移動局との間の指向性ビーム形成を可能にするように調整することができ、したがって受信機における信号を最大にする。しかし、WiFi対応スマートフォンなどの多くのモバイル機器は、単一の全方向性アンテナしか持っていないため、それ自体でMIMOまたは指向性伝送をサポートすることはできない。
【0028】
802.11n規格は、受信機に向けてビームを能動的に形成することに加えて、様々な空間ストリームで送信されるデータが誤って相関パターンを形成する場合、例えばアンテナの数よりストリーム数が少ない場合に起こり得る、意図しないビーム形成を防ぐためのスキームも定義する。意図的なビーム形成とは異なり、意図しないビーム形成によって作成されたローブとヌルのパターンは、受信機での信号が最大になるような方法で方向付けられていない可能性があり、従って受信に悪影響を及ぼす可能性がある。意図しないビーム形成を避けるために、802.11n規格は循環遅延ダイバーシティ(CDD)を適用して、各アンテナからの逆高速フーリエ変換(IFFT)符号化データストリームを異なる一定の非コヒーレント遅延だけオフセットさせる。直交周波数分割多重化(OFDM)として知られる802.11n規格によって義務付けられているマルチキャリア変調システムでは、循環遅延ダイバーシティ(CDD)は、各アンテナ上の各キャリアに影響を与える時間における所定の循環シフトを加えることによって適用され、等価的に循環シフトダイバーシティ(CSD)と呼ばれる。
【0029】
マルチアンテナ無線信号の望ましくない指向性を回避するための手段として循環遅延ダイバーシティ(CDD)が導入されたが、本明細書に記載される本発明の実施形態は、反対の目的のために受信信号のCDDを利用する:信号を送信するアクセスポイントの角度配向を推定すること。この角度配向は、出発の角度、すなわち送信ビームの方向と送信アクセスポイントの軸(送信アンテナの位置を通る線によって定義されるような)との間の角度に関して定義される。送信機からの出発角度のこの種の測定は、受信機における信号の到来角度を決定するための当該技術分野において既知の技術とは対照的である。送信アンテナからの信号が、携帯電話に一般的に設置されている一種の全方向性アンテナなどの単一の受信アンテナを介して受信されるときでも、本明細書に記載の技法を使用して出発角度を見つけることができる。
【0030】
以下に記載される本発明の実施形態は、無線アクセスポイントの複数のアンテナからそれぞれ送信され、所与の位置で受信される複数の信号の出発角度を見つけるための方法を具体的に提供する。送信された信号は、少なくとも部分的に、同一のデータを、所定のアンテナごとの、送信信号間の循環遅延で符号化する。データは通常、既知の無線通信規格に従って定義され送信されるので、データの少なくとも一部、ならびに循環遅延は予測可能である。例えば、802.11規格は、所定のプリアンブルを含むフレーム構造を指定し、それは本明細書の文脈においては、受信機による処理のために選択することができる。
【0031】
受信機は、信号間の実際の位相シフトの大きさを導出するために、既知の循環遅延を使用して受信信号を処理する。この位相シフトは、次に、信号が受信機に到達する際に通過する経路長の違いを示している。送信アンテナ間の間隔も知られている:通常はλ/ 2(送信される無線信号の波長の半分)である。したがって、アンテナ間の既知の距離および既知の量の循環遅延とともに、位相シフトの大きさに基づいて、無線アクセスポイントから受信機の位置への信号の出発角度を推定することが可能である。
【0032】
いくつかの実施形態では、信号は、802.11n規格で使用される一種のOFDM信号などのマルチキャリア信号であり、したがって循環遅延は、それぞれの異なる循環シフトを異なるアンテナに適用することによって実施される。この場合、受信機は、受信信号内の2つの時間-周波数ビンを適切に選択し、複数のアンテナによって送信されるビンのそれぞれの循環シフトを使用して、位相シフトの大きさを計算することによってアンテナ間の位相シフトを推定することができる。ビンの賢明な選択によって、抽出された周波数ビンに、例えば、単純な線形変換を適用することによって出発角を計算することが可能である。この目的のために、逆極性循環シフトを有するように、適用可能な規格によって定義された循環遅延に基づいてビンが選択されることが有利である。
【0033】
本明細書および特許請求の範囲の文脈において使用される「時間-周波数ビン」という用語は、フレームの開始から所与の所定の時間において取られた、所与の所定の周波数における、送信機によって送信された、受信信号のサンプルを意味する。2つの時間-周波数ビンは、同じ周波数でも異なる周波数でもよく、同じまたは異なる時間に発生してもよい。例えば、802.11 OFDM送信では、ビンは、逆高速フーリエ変換(IFFT)による時間領域への変換の前に、20MHzに対してN=64 802.11 OFDMのように、データ符号化において使用されるN個の所定の複素数のうちの1つとして、周波数に関して定義される。OFDMシステムにおけるIFFTエンコーダ(周波数領域を時間領域信号に変換する)への入力は、各々が周波数ビンに対応する、複素数の固定サイズの集合である。
【0034】
したがって、いくつかの実施形態(「時間領域」実施形態と呼ばれる)では、2つのビンは、異なるそれぞれのOFDMシンボルにおいて、マルチキャリア符号化方式内の1つの選択された周波数をサンプリングすることによって定義され、それは、送信機によって送信されたフレーム内の異なるそれぞれの循環(時間)シフトにより符号化される。他の実施形態(「周波数領域」実施形態と呼ばれる)では、2つのビンは、送信フレーム内の同じ選択されたOFDMシンボルにおいて、マルチキャリア符号化方式内の2つの異なる周波数をサンプリングすることによって定義される。
【0035】
他の実施形態では、受信機は、自己相関または基準信号との相互相関などの時間的相関関数を計算し、そして相関内の適切な時間差(循環遅延により決定される)によって分離されるピークを見つけることによってアンテナ間の位相シフトを推定する。相関関数は、有利には、フレームプリアンブルにわたって、特に、適用可能な規格によって定義される、良好な相関品質を有する、プリアンブル内の同期シンボルにわたって計算することができる。相関におけるピークの数および予想される位置はまた、無線送信機が信号を送信する際に使用するアンテナの数を見出す際に使用することができる。
【0036】
本技法の別の利点は、出発角度を測定するために、移動局とアクセスポイントとの間の関連付けを確立することなく、移動局においてアクセスポイント信号を受信し処理することができることである。言い換えれば、移動局は、信号をアクセスポイントに送り返すことなく、単に静かに信号を捕捉することができ、既知の標準プリアンブル構造および循環遅延を使用して信号を分析することができる。移動局は、例えば、そのアクセスポイントと通信している移動局がないときでさえ、ある802.11規格に従って、アクセスポイントによって送信されるビーコンにこの分析を適用することができる。あるいは、移動局は他の移動局に向けられた信号を受信し分析することができる。
【0037】
出発角自体は送信アクセスポイントの位置を一意に識別しないが、異なる既知の受信機位置からの複数の出発角度の測定値を使用して三角測量によってアクセスポイント位置を見つけることができる。したがって、本発明のいくつかの実施形態は、異なる受信機位置から行われた出発角の複数の測定値を組み合わせることによってアクセスポイント位置をマッピングするための方法を提供する。アクセスポイントによって送信された信号はまた、(例えば、基本サービスセット識別子(BSSID)をアナウンスすることによって)そのアクセスポイントを識別し、その結果、各アクセスポイントの識別情報はその位置と関連付けることができる。
【0038】
同様に、アクセスポイントの位置が分かっている場合、上述の技法を使用して、これらの既知のアクセスポイントのうちの2つ以上から受信機への出発角度を測定することによって受信機の位置を見出すことができる。したがって、特定のエリア内のアクセスポイントの位置がマッピングされると、携帯電話などの受信機は、アクセスポイントから受信した信号に基づいて(上記のように、アクセスポイントとの関連付けや返信を行わなくても)エリア内の自分の位置を正確に見出すことができる。したがって、この種のアクセスポイントのマップは、例えば屋内および都市の場所において、GPSに依存せずに正確かつ便利な地理的位置の特定に使用することができる。
【0039】
以下で説明される実施形態は、具体性および明瞭さのために、特に802.11無線アクセスポイントに関連するが、本発明の原理は、必要な変更を加えて、マルチキャリア符号化方式を使用して信号を送信する他の種類の多重アンテナ送信機に同様に適用することができる。例えば、本発明の代替実施形態では、受信機は、適用可能な規格に従ってOFDM信号を送信するマルチアンテナセルラ基地局の出発角度を測定するように構成することができる。本発明の原理のこのような全ての代替の実施は、本発明の範囲内にあると考えられる。
【0040】
(システムの説明)
図1は、本発明の一実施形態による、無線通信および位置特定のためのシステム20の概略図である。例として、
図1は、多くの場合異なるWLAN事業者によって、複数のアクセスポイント22、24、26、…が互いに独立して展開されている、典型的な屋内または都市環境を示している。アクセスポイントからの信号は、システム20内で自由に動き回るユーザ32によって操作される移動局28、30、…によって受信される。図示の実施形態では、移動局28、30、…はスマートフォンとして示されている。しかし、ラップトップおよびタブレットコンピュータなどの他の種類のモバイル装置も同様に使用することができ、以下に説明するように、アクセスポイント22、24、26、…の出発角度を同様にマッピングすることができる。
【0041】
システム20内のアクセスポイント22、24、26、…が802.11n規格に準拠していると仮定すると、各アクセスポイントは、
図1に示すように、2つまたは3つのアンテナ34を有する。本発明の原理は同様に802.11acアクセスポイントに適用可能であり、それらはより多くの数のアンテナを有する。移動局28、30、…はそれぞれ単一の全方向性アンテナ36を有すると仮定されているが、出発角度をマッピングするための本明細書に記載の技法はマルチアンテナ移動局にも同様に実施することができる。
【0042】
移動局28、30、…は、それぞれのアクセスポイント22、24、26、…からの信号の出発角度を推定し、各アクセスポイントに関する識別情報(例えば、基本サービスセット識別子(BSSID)のような)を抽出するために、アンテナ34から受信した信号を処理する。移動局は、以下にさらに説明されるように、必ずしもアクセスポイントと関連付けることなく、これらの機能を実行することができる。
【0043】
一方、移動局28、30、…は、インターネット通信の目的で、1つまたは複数のアクセスポイント22、24、26、…と関連付けることができる。代替的または追加的に、移動局はセルラネットワークまたは他の接続を介してインターネットにアクセスすることができる。いずれにせよ、移動局28、30、…は、それらが収集した出発角度データおよびアクセスポイント識別情報を、ネットワーク38を介してマッピングサーバ40に通信する。さらに、移動局は、例えば、GPS信号から、またはサーバによって提供されるアクセスポイントまたは基地局の既知の位置から導出される、それら移動局の現在の位置座標をマッピングサーバに通信することができる。この情報は、移動局においてバックグラウンドで実行される適切なアプリケーションプログラム(「app」)によって、自律的かつ自動的に収集され報告されてもよい。
【0044】
サーバ40は通常、プログラマブルプロセッサ42およびメモリ44を有する汎用コンピュータからなる。本明細書に記載のサーバ40の機能は、通常、プロセッサ42上で実行されるソフトウェアで実施され、それは。光学的、磁気的または電子的記憶媒体などの有形非一過性コンピュータ可読媒体に記憶され得る。
【0045】
移動局28、30、…によってネットワーク38を介して通信された出発角度情報、アクセスポイントID、および位置座標に基づいて、プロセッサ42は、アクセスポイントの位置および方位のマップをメモリ44内に構築する。多数のユーザ32がアプリケーションプログラムをダウンロードし、サーバ40に情報を伝達すると、マップは、シード情報の初期ベースから自動実行プロセスによって、アクセスポイントデータの地理的範囲と正確さの両方で成長する。このマップに基づいて、サーバ40はまた、任意の所与の時間に移動局によって受信されたアクセスポイント信号に基づいて、それらの移動局上で動作するアプリケーションプログラムを介して、ユーザ32に位置およびナビゲーション情報を提供し得る。
【0046】
(出発角を推定するための周波数ベースの方法)
図2は、本発明の一実施形態による、アクセスポイント24から移動局28への無線信号の出発角度を導出する際に使用される座標フレームを概略的に示す図である。アクセスポイントと移動局のこの特定のペアは純粋に便宜上選択されており、同様の原理が任意の所与のペアに適用される。アクセスポイント24は2つのアンテナ34(Tx1およびTx2とラベル付けされている)を有するように示されているが、同じ幾何学的原理が線形配列に配置される3つ以上のアンテナを有するアクセスポイントに適用される。
【0047】
2つのアンテナ34は、それらアンテナの基部を通る線としてアレイ軸を定義する。2つのアンテナは、既知の距離d だけアレイ軸に沿って分離されている。距離 dは、典型的には半波長、例えば2.4GHzの標準WLAN周波数でλ/2=6.25cmになるように設計されている。
図2に示すように、移動局28のアンテナ34から移動局28のアンテナ36への信号の出発角度θは、アレイ軸に対する垂線に対して取られる。アクセスポイント24から移動局28までの距離がd よりもかなり大きいと仮定すると、Tx1からアンテナ36(Rxと呼ばれる)までの経路長は、Tx2からの経路長に比較してd*sinθの差がある。
【0048】
一例として、Tx2からRxへの経路の長さが6.0000m、θ=30°であると仮定すると、Tx1からRxへのわずかに長い経路は6.03125mとなる。この光路差は、90°の位相差となる:Δφ=dsin(π/6)=λ/2*1/2=λ/4。6mの間の伝搬遅延は、L/C=6m/(0.3m/nsec)=20nsecである。Tx1とTx2からの両方の経路は周波数の関数として線形位相シフトを経験し、それはf0=2.412GHzでゼロであると仮定され、そしてf1=2.432GHzでのφ=(360°*20nsec)/50nsec=144°に直線的に成長する。ここで、T=50nsec=1/20MHzは、2つの周波数の間の差B=20MHzで与えられる。両方の経路上の2つの周波数の間のこのφ=144°の線形位相シフトは、経路長差のため、両方の周波数におけるより長い経路に対する90°の一定の位相シフトに追加される。(実際には、波長がほんのわずかに長いため、位相シフトは線型シフトでも一定のシフトでも、2.432GHzではほんのわずか大きくなるが、この効果はBがf0よりずっと小さいため無視できる。)
【0049】
さらに、802.11n規格に従って、Tx1と比べて異なる循環シフトがTx2によって送信されたOFDM信号に適用されることになる。循環シフトTcs <0ナノ秒は、周波数ビンk に、
【数1】
を乗算することと等価であり、ここで、n=-B*Tcsであり、そしてN=64は周波数ビンの数である。以下に説明するように、標準的な循環シフトを前提として、逆極性関係を有するように、それは対象ビン内のTx1とTx2との間に完全な180°シフトがあることを意味するが、ビンを選択することは有利である。同様に、3アンテナコンステレーション(立体配座)では、規格は、Tx1に対してTx2およびTx3に適用されるべき異なる循環シフトを指定する。Rxアンテナ36の観点からは、どのアンテナ34がTx1でどれがTx2(またはTx3)であるかを前もって知る方法はない。2つのアンテナ(2Tx)の2つの可能な物理的配座がある:(1,2)および(2,1)、すなわちアンテナアレイは受信機に対して反転されてもよい。3アンテナ(3Tx)には6つのコンステレーション(立体配座)がある:(2,1,3)、(1,2,3)、(1,3,2)、およびそれらの反転バージョン。一般に、出発角度を計算する際には、可能性のあるすべての立体配座が考慮される。
【0050】
OFDM PHYを使用する802.11規格によれば、アクセスポイントによって送信されるデータフレームは、規格によって規定されるシンボルの所定のシーケンスを含む、「ショートトレーニングフィールド」(STF)および「ロングトレーニングフィールド」(LTF)を含むプリアンブルを有する。802.11a規格は、現在「レガシー」フォーマットと呼ばれるフレームフォーマットを定義し、これはL-STFおよびL-LTFフィールドを有するレガシー(L)プリアンブルを含む。802.11n規格は、HT-STFおよびHT-LTFフィールドを有する「ハイスループット」(HT)として知られる新しいフォーマットを定義する。802.11n規格に従って動作するアクセスポイントは、レガシーモード、HTモード(「グリーンフィールド」)、または混合モードのいずれかでフレームを送信することができ、フレームはレガシーおよびHTトレーニングフィールドの両方を含む。
【0051】
802.11n規格は、レガシープリアンブルおよびHTプリアンブルにおいて送信アンテナごとに以下の循環シフト(Tcs)を定義する(規格の表20-9および20-10を参照)。次に、これらのTcs値は、異なる時間-周波数ビン(n、k)に対して、上式
【数1】
に従って、20MHzチャネルに対してN=64で、異なる副搬送波位相シフトを生じさせる:
【表1】
【0052】
選択されたビン間の逆極性、すなわち循環遅延ダイバーシティ(CDD)に続く180°の位相シフトは、信号間の最大ユークリッド距離を提供し、したがってノイズ耐性を向上させる。
【0053】
本発明の実施形態は、逆極性を達成するために2つの異なる方法を使用する。
(1)時間領域法では、ある固定周波数で、レガシーOFDMシンボルのビンk0とHTシンボルのビンk0を選択する。
(2)周波数領域方法では、単一のOFDMシンボル、例えばレガシーOFDMシンボル、内の異なる周波数で2つのビンが選択される。
逆極性は、ノイズ耐性のための最大のユークリッド距離を提供する。
【0054】
アンテナ間の経路差を送信機アンテナフィードに投影し直すと、2アンテナの場合、2つの信号の位相は(0、θ)、または等価的に複素形式で(e
j0,e
jθ)であり、そして3アンテナの場合、(-θ,0,θ)等価的に(e
-jθ,e
j0,e
jθ)となる。ここで、θは、
図2に示されるように出発角度である。慎重に選択されたシフトおよびビンについて、ポスト逆高速フーリエ変換(IFFT)エンコーダの循環シフトを送信機の「周波数領域」に投影すると、0°または180°のいずれかの位相が得られる。送信機から放射された2つ以上の電波は、受信機の単一のアンテナで重ね合わされる。
【0055】
経路伝搬、循環シフトおよび重ね合わせの複合効果は、2つのアンテナについて1±ejθの形の信号である。3つのアンテナについては、2つの物理的に異なるケースがある:反対称のケース(「ケースI」)および対称のケース(「ケースII」)であり、それぞれe-jθ+1±ejθまたはe-jθ±1+ejθの合成信号を生じる。
【0056】
ここで
図2に示される特定の2アンテナの例および上記で計算された経路位相差に戻って、時間領域におけるjπの自然指数を選択は(表1の「π」エントリによって示されるように)、混合モードフレームのL-LTFフィールドおよびHT-LTFフィールドにおいてf
0=2.412MHzでアンテナ34 Tx1およびTx2からアンテナ36によって受信された信号の間の位相シフトは、以下のようになる:
【表2】
上記の例では、アンテナ経路の-90°の差はTx2にのみ適用されるが、一方180°は循環シフトに起因し、それはTx2のHT-LTFにのみ適用される。
【0057】
f
1=2.432MHzにおける対応する受信信号の位相は、次のようになる:
【表3】
ここで、追加の144°は、送信機から受信機への共通経路にわたる位相シフトに起因し、それはすべてのタイムスロットに適用される。
【0058】
アクセスポイント24から、周波数領域の場合には送信されたL-LTFビンから、または時間領域の場合にはHT-TFおよびL-LTFビンの両方から、信号を受信すると、移動局28はTx1経路とTx2経路の間の位相差を計算する。この差は、次に、
図2に示すように、アクセスポイント24からの信号の出発角度を示す。このようにして出発角度を導出するために使用することができる計算方法を以下に説明する。
【0059】
図3は、本発明の一実施形態による、無線アクセスポイントに関する座標情報を導出する際に使用される移動局28の構成要素を概略的に示すブロック図である。以下の説明は、移動局28が単一のアンテナ36を有し、それがアクセスポイントの2つまたは3つのアンテナ34によって送信された信号ストリームを受信すると仮定するが、この実施形態の原理は、必要な変更を加えて、複数アンテナの受信機により経路ダイバーシティを獲得し一方で同じ出発角度を測定するために適用できる。上述したように、移動局28によって実行される分析は、異なるアンテナから送信された信号が、802.11n規格によって定義される送信信号間の所定の循環遅延で、フレームプリアンブル内の同一データを符号化する、という事実に依存する。
【0060】
移動局28のフロントエンド(FE)回路50は、当技術分野で知られているように、アンテナ36によって受信された信号を増幅し、フィルタリングし、そしてデジタル化し、得られたデジタルサンプルをデジタル処理回路52に渡す。デジタル処理回路52内の高速フーリエ変換(FFT)回路54は入力信号を時間-周波数ビン(n,k)に分割し、ここで各周波数は異なるOFDM副搬送波に対応し、そして各ビン内の信号成分の位相はそれが符号化するデータ値によって決定される。メディアアクセス制御(MAC)処理回路56は、フレームを送信したアクセスポイントを識別するBSSIDを含むデータをフレームヘッダから抽出する。回路50、54、および56、ならびにデジタル処理回路52の他の構成要素は、WiFi対応スマートフォンに設置されているもののような、802.11受信機の従来の要素であり、それらは、データ受信および送信を目的として当技術分野で既知である。本発明の理解に必須ではない受信機の他の要素は、簡潔さのために省略されている。
【0061】
高速フーリエ変換(FFT)回路54によって生成された信号複素周波数ビンは、ビンセレクタ58と変換モジュール60と角度差分器61とを含む角度推定ブロックに入力される。これらの要素は複素値を推定出発角度に変換する。これらのソフトウェアは、通常、移動局28内のプログラム可能なプロセッサ上で動作するソフトウェアで実施される。このソフトウェアは、上述のように、移動局内に既に存在するプロセッサによって実行される他の機能と共に移動局上で動作するアプリケーションプログラムの一部であり得る。このプログラムは、光学、磁気、または電子メモリ媒体などの有形非一過性コンピュータ可読媒体に記憶することができる。代替的に又は追加的に、本明細書に記載の角度推定機能の少なくとも一部は、専用の又はプログラム可能なハードウェアロジックによって実行されてもよい。
【0062】
ビンセレクタ58は、受信信号のプリアンブルから抽出されるべき一対の時間-周波数ビン(n1、k1)および(n2、k2)を選択し、対応する位相値を抽出する。各ビンについて、ビンセレクタは、2つのアンテナ34から受信されたそれぞれの信号間の複素数ベクトルy
iを計算する。選択された2つの複素数ビンは、複素数ベクトル
【数2】
を定義し、それは複素変換モジュール60に入力される。
この目的のために任意の一対のビンを選択することができるが、既知の循環シフトに基づいて、アクセスポイントから広い角度範囲で送信される信号の出発角度に、相対的位相遅延が線形に関係し得る一対を選択することが有利である。
【0063】
ビンの周波数間の差異Δk=k1-k2の選択は、Δk が小さい場合に重要となり得る熱雑音と、Δkが大きくなるにつれて大きくなる、経過時間に対するチャネル偏差と感度との間のトレードオフに関係する。ここに提供される数値例は、逆極性を達成するために循環シフトが選択されると仮定する。アクセスポイントと受信機との間の無線チャネルの周波数応答は、例えば反射の影響により、位相が線形ではない。一般に、Δk の値が大きいほど、チャネル応答の変動による推定位相遅延への追加誤差が大きくなる。例えば、20MHzの帯域幅を持つ802.11n信号の場合、Δk=8で妥当なトレードオフが得られる。これは、8/64*20MHz=2.5MHzの周波数差を反映している。次の周波数の組み合わせ(k1、k2)はこの基準を満たす:(0,8)、(16,8)、(16,24)、(32,40)、(48,40)、(48,56)および(0,56)。ただし、HT-LTFは周波数0と32を使用しないため、(0,8)と(32,40)の組み合わせは適用されない。両方のプリアンブルビンがエネルギーを運ぶ限り、(k0、k0+8)の形の他のビンペアのパターンも同様に使用することができる。
【0064】
変換モジュール60は、複素入力ベクトルを出力ベクトル:
【数3】
に変換するために線形変換Tを適用する。この変換の目的は、値のペア
【数4】
を生成し、それにより
x1とx2の位相が差分器61によって容易に抽出され減算されて推定出発角度:
【数5】
を与えることができる。
【0065】
例えば、2つのアンテナ素子の場合、以下の変換は出力ベクトルの線形推定を提供する:
【数6】
【0066】
移動局28は、MAC処理回路56によって抽出された基本サービスセット識別子(BSSID)と共に、推定出発角度を、ネットワーク38を介してサーバ40に送信する。さらに、移動局28は、位置分析モジュール62に提供された、移動局の現在位置に関する情報をサーバ40に送信する。位置分析モジュール62は、例えば、衛星信号に基づいて位置座標を出力するGPS受信機を含むことができる。追加的または代替的に、位置分析モジュール62は、処理ユニット52内のプロセッサ上で実行されるソフトウェアで実施されてもよく、そしてサーバ40によってすでにマッピングされた他の既知のアクセスポイントまたは他のソースから受信した信号に基づいて移動局28の現在位置座標を計算してもよい。いずれにせよ、サーバ40は、移動局の現在の推定位置と共に推定出発角度データを受信する。したがって、サーバは、移動局28によって(または複数の移動局によって)異なる位置から報告された複数の角度測定値に基づいて、アクセスポイント24の実際の位置を見出すことができる。
【0067】
(出発角度推定の例)
(2つのアンテナ、混合フォーマット(MF、レガシー準拠のHT)モード)
2つの送信アンテナの場合のビンの時間-周波数ペアのもっともらしい「時間領域」選択は、(n,k)=(4,k
0)および(8,k
0)であり、ここで、k
0はセット{8,24,40,56}内の任意の要素である。この選択は逆極性を提供し、すなわち循環シフトの位相寄与は0または180°のいずれかである。ビンn=4はレガシープリアンブル(L-LTF)内にあり、一方、ビンn=8(400nsec×20MHz)はHTプリアンブル(HT-LTF)内にある。(ビンn=4は200ns×20MHzに対応し、ここで200nsは規格によって要求される循環遅延ダイバーシティ(CDD)であり、そして20MHzは典型的な802.11OFDMチャネル帯域幅である。40MHz、80MHzおよび160MHzのチャネル帯域幅も可能である。)このビンの選択は、2つの読み取り値の間に逆極性位相を生成する、すなわち、測定されたビン内の2つのアンテナからの信号を合計する(または等価的に減算する)ことにより、複素ベクトルが得られる:
【数7】
【0068】
変換モジュール60は、このベクトルを次に線型変換する:
【数8】
したがって、推定出発角は、
【数9】
である。
【0069】
(3アンテナ、MFモード)
(ケースI)
アンテナ34が送信アクセスポイントの軸に沿って(1,3,2)または(2,1,3)の順序で、またはこれらの順番の反転バージョンで配列されていると仮定して、前の例と同じ時間-周波数ビンが選択される。これらのすべてのケースにおいて、ビン(n,k)=(4,k
0)と(8,k
0)のペアから位相を抽出すると、次の複素ベクトルが得られる:
【数10】
この結果の理由は、アンテナTx1とTx3が同じ循環シフト(n=4)を持つのに対し、Tx2はn=8の循環シフトを持つため、k
0の上記の値のセットでは完全な180°回転になるからである。
【0070】
上記の例と同じ変換をモジュール60に適用すると、次の角度ベクトルが得られる:
【数11】
したがって、
【数12】
である。
【0071】
(ケースII)
(1,2,3)の立体配座とその反転のケースは、次の位相ベクトルとなる:
【数13】
このケースでは、変換モジュール60は変換
【数14】
を適用し、これは3π/2にわたる、位相の関数としての角度の非線形S字曲線を生成する。曲線はボアサイト方向(すなわち、
図2に示すアレイ軸に垂直な方向)に関して対称的である。言い換えれば、所与の位相遅延に対して、出発角は、正または負のいずれかの符号の固有の対応する絶対値を有する。
【0072】
周波数領域分析によっても同様の結果が得られる:HT-LTFの異なる周波数ビンを使用するとき、各アンテナからの信号は、上記の表1に示されるように、異なる遅延によって周期的にシフトされる。Δk=8の場合は、0およびπの位相シフトを伴う、上記で分析された3アンテナ時間領域のケースと位相シフトが同一である:
【表4】
【0073】
ビン(n,k)=(8,0)および(n,k)=(8,8)は、上記と同じ角度推定量を用いて上記の時間領域のケースIと同じ位相の組合せをもたらす:
【数10】
結果としての推定量は3πの出力スパンとπの傾斜で設定された全スパンで完全に線形である。
【0074】
(3アンテナ、レガシーモード)
レガシーモードでは、アクセスポイント24は定期的に、典型的にはおよそ100ミリ秒ごとにビーコンを送信する。したがって、ビーコンは移動局による関連付けとは無関係に送信されるので、移動局28はこれらのビーコンを受信し処理してアクセスポイント24の出発角度を見つけることができる。さらに、ビーコンは常に20MHzの帯域幅で送信されるので、受信機はデータに使用される実際の帯域幅(例えば、20、40、80または160MHzなど)を無視することができる。
【0075】
L-LTFのケースでは、Tx1に対する循環シフトは、Tx2では100ns、Tx3では200nsである:
【表5】
したがって、Δk=16(HTに関して上記で使用された周波数オフセットΔk =8の2倍)の場合、位相パターンは上記のケースIと同一である。
【0076】
(アンテナコンステレーション(立体座位)
上述の変換は、変換モジュール60によって適用されると、出発角の推定値を与えるが、送信アンテナコンステレーション(立体配座)の実際の構成を必ずしも解決するわけではない。したがって、デジタル処理ユニット52は、1つ、2つ、および3つの送信アンテナを区別するために、そして3つのアンテナの場合には、上記で定義されたケースIとケースIIとを区別するために追加の並列推定量を適用し得る。
【0077】
本発明の一実施形態では、変換モジュール60は、時間領域で異なる線形変換を適用することによってアンテナコンステレーションを抽出する。3アンテナのケースIIでは変換がないと、いずれの出発方向においても0またはπの出力差異が生じる。2つのアンテナの場合には、次の変換はいずれの出発方向においても0またはπのいずれかの出力差異を生じる:
【数15】
【0078】
アンテナ素子の数およびそれらの線形構造を確認するための第2の方法は、すべてが偏りのない出発時間推定を提供する複数の時間-周波数ペア(n、k)を使用することに基づいている。例えば、ビン(n,k0)および(n,k0+8)を用いた上述の周波数領域法では、エネルギーn=4およびN=64を有するビンに対してk0=0、1、2、…、55の値を使用することができる。
【0079】
2アンテナの場合、アンテナの順序が(1,2)であるか(2,1)であるかを決定することは一般に不可能である。しかし、同じ受信機または異なる場所にある複数の異なる受信機を使用して、出発角度の複数の測定を行うことによって、順序のあいまいさを容易に解決することができる。
【0080】
3アンテナ送信機は上記の技術を使用して2アンテナ送信機から容易に識別できる。2アンテナ装置と3アンテナ装置とでは異なる循環遅延が使用されるので、上記の時間領域推定と周波数領域推定の間のクロスチェックを適用するのには、単一の混合フォーマット(MF)パケットの受信および処理で十分である。正しいアンテナ推定量(2アンテナまたは3アンテナ)のみが、時間領域推定と周波数領域推定の両方に対して同じ結果を与える。
【0081】
(出発角度の推定のための相関に基づく方法)
図4は、本発明の一代替実施形態による、無線アクセスポイントに関する座標情報を導出する際に使用される移動局28の構成要素を概略的に示すブロック図である。前述の実施形態と同様に、以下の説明は、移動局28が単一のアンテナ36を有し、それがアクセスポイントの2つ、3つまたはそれ以上のアンテナ34によって送信された信号ストリームを受信すると仮定する。移動局28によって実行される分析は、異なるアンテナから送信された信号が、802.11n、802.11acなどの適用可能な規格、または将来公布されている、または公布されているかもしれない他の規格によって定義されるような送信信号間の所定の循環遅延で、フレームプリアンブル内の同一データを符号化するという事実に依存する。
図3の実施形態における対応する要素と同じ構造および機能を有する、
図4に示される移動局の要素は、同じ参照番号が付されており、簡潔化のため以下の説明から省略されている。
【0082】
本発明の実施形態は、802.11n規格に従って、アクセスポイント24(
図2)などの送信機によって送信された各フレームのプリアンブルに存在する同期シンボルを利用する。これらの同期シンボルは良好な相関品質を有し、これはフレームにわたって計算された相関関数が鋭く明確なピークを有することを意味する。同期シンボルのうち、レガシーショートトレーニングフィールド(STF)が最初に送信される。このフィールドの正確なタイミングは、ショート相関量を使用して検出することができ、粗い周波数オフセットを推定するのに効果的である。その後のレガシーロングトレーニングフィールド(LTF)は、5倍長い相関量を必要とし、またシンボルアラインメントおよびチャネル推定にも使用される。
【0083】
異なる送信アンテナ34から発生する信号は時間的にほぼ完全に重なり合っている。典型的なパケット持続時間は約200μs であるが、循環シフトは約200nsに過ぎず、その長さは1000分の1である。しかしながら、ロングトレーニングフィールド(LTF)の無相関時間はさらに短く、チャネル帯域幅によって物理的に制限され、それは少なくとも20MHzであり、時間で50nsに相当する。レガシーLTFは、64要素の複素ベクトルの2.5回の繰り返しを含み、20MHzで合計160個の時間サンプルを含む。したがって、アンテナ36によって受信された信号とLTF基準信号との間の相互相関は、64サンプル離れた2つの強いピークと、さらに離れたより弱いピークとを示すことになる。レガシーSTFは、20MHzで16要素の複素ベクトルの10回の繰り返し、合計160個の時間サンプルを含み、そして多数の相互相関ピークを生じさせる。
【0084】
802.11nの場合、上述したように、アンテナごとに固有の循環シフトを用いて、同じデータがすべてのアンテナ34によって送信される。2アンテナの従来の循環シフトは200nsで、これは20MHzで4サンプルの間隔に相当する。相関量は、信号間の循環シフトが無相関時間、この例では50ns、よりも大きい限り、同一のデータ(例えば同期シンボル)を搬送する異なるアンテナによって送信された信号を区別することができる。したがって、受信機(移動局28)で計算された相関関数は、アンテナ間の正確な相対的循環シフトによって分離された各送信アンテナ34についてピークを有する(例えば、屋内で予想されるように、チャネルマルチパス効果が小さいと仮定して)。
【0085】
図4の実施形態におけるデジタル処理回路70は、アンテナ34によって送信された信号間の位相差、したがって(
図2に示されるような)出発角θを抽出するためにこれらの相関特性を利用する。相関器72は、フロントエンド回路50によって出力されるデジタル化信号に相関関数を適用する。例えば、相関器72は、デジタル化信号の時間シフト自己相関を計算してもよく、またはデジタル化信号と基準信号の間の相互相関を計算してもよい。ピーク分析器74は、相関におけるピークを識別し、したがって異なるアンテナによって送信された信号間の循環シフトを確認することができる。例えば、上で説明したように、802.11nプリアンブル内のレガシーLTFにわたって計算された相関関数は、64要素のLTFシンボルベクトルの繰り返しに起因して、64サンプル離れた一対のピークと、アンテナ間の-200nsの循環シフトの結果として4サンプルずつ離れた追加のピークとを有する。
【0086】
相関器72は、フロントエンド50から受信した複素入力を既知信号の共役で乗算し、数十のサンプルにわたって積分する。ピーク分析器74は、相関器出力における所与の時間ウィンドウ内のN個の最強ピークのエポックを測定し、(約200nsの既知の循環シフトのために)4サンプル離れたエポックと(64サンプルの2.5回繰り返し、合計2シンボルおよび160サンプルを持つ、送信されたレガシーLTFシンボルの固有の繰り返しによる)64サンプル離れたエポックの予想パターンを突き止めることを試みる。したがって、2つのアンテナに対する組み合わせパターンは、位置{0,4,64,68}にピークを与える。ピーク分析器74はまた、いくつかのピークが欠けている状況(例えば、送信機が1つのアンテナのみを有する場合)およびいくつかのピークがファントム(幻影)である状況(対象送信機を発信源としない、またはその送信機からの実際の信号のサイドローブ)を処理し得る。
【0087】
本発明の一実施形態では、ピーク分析器74は2段階手順を適用する。
【0088】
ピーク分析器74は、最初にシンボルアライメント(SA)を適用して、どの入力サンプルがパケットの最初のシンボルの最初のサンプルであるかを決定する。SAは、上で説明したように、64シンボルのレガシーLTF繰り返しを探す。ピーク分析器74は、選択肢として、受信信号が正確な送信機クロック速度で時間サンプリングされるが、しかしそれにより整列されていない(したがって、最大で半クロックサイクルずれている可能性がある)ので、時間的に最大1サンプルの誤差を許容する、例えば公称64ではなく63または65サンプルの時間差が許容されうる、ように構成される。
【0089】
シンボルアライメント(SA)ステージを実行するために、ピーク分析器74は以下のアルゴリズムを適用することができる。所定の時間ウィンドウ内の4つの最も強いピーク、n0、n1、n2およびn3を時間の昇順で選ぶ(信号強度ではない)。「良いペア」を63、64、または65サンプル離れているエポックのペアとして定義する。
A:(n3、n1)が良いベアであれば、n3を選ぶ。
B:それ以外で、(n2、n0)が良いベアであればn2を選ぶ。
C:それ以外で、(n2、n1)が良いベアであればn2を選ぶ。
D:それ以外で、(n3、n0)が良いベアであればn3を選ぶ。
E:それ以外で、(n1、n0)が良いベアであればn1を選ぶ。
Aは任意の決定である;Cは、3番目のピークが弱すぎると推測している;Dは、間にファントム信号があると推測している;Eは、送信機にはアンテナが1つしかないと推測している。
【0090】
第1のシンボルの第1のサンプルが識別されるようにシンボルアラインメントが確立されると、デジタル処理回路70は、両方存在する場合、サンプル位置{0,4}における2つの早期ピーク間の搬送波位相差、および/または両方が存在する場合、サンプル位置{64,68}の2つの後期ピーク間の搬送波位相差を見つけることができる。以下に説明するように、この位相差は出発方向を推定するために使用される。2つの推定値は、例えば平均化することによって精度を向上させるために組み合わせることもできる。
【0091】
(出発方向(DD)検出):
上で説明したように、成功したシンボルアライメント(SA)に基づいて、ピークの対{0,4}または{64,68}のいずれかが存続する場合(すなわち、位置0および4のピークの両方または位置64および68の両方のピーク、あるいはさらに良いことには4つのピークすべてが考慮される程十分強い場合)、出発角度を抽出することができる。この場合、出発方向(DD)アルゴリズムは、利用可能なピークのペアからの出発角度を抽出する。両方のペアが利用可能であるとき、対応する推定値は、例えば平均化またはフィルタリングによって、単一のより良い推定値に減らすことができる。
【0092】
位相抽出回路76は、
図2のアンテナTx1およびTx2によってそれぞれ送信されたコピーのような、送信信号の各コピーの搬送波位相を推定する際に相対ピーク位置を使用する。2つの信号間の位相は、経路差dsinθによるシフトによってオフセットされる。(相関サイドローブとの混同を避けるために)Tx1およびTx2からアンテナ36で受信された信号の強度がほぼ等しいと仮定すると、位相抽出回路76は、信号とLTFの適切にシフトされたバージョンとの間の相関を使用して、両方のアンテナからの信号に対する別々の搬送波位相推定を実行することが出来る。搬送波位相差は、小さい経路差dsinθを示し、したがって、出発角θを抽出する際に位相抽出回路76によって使用され得る。代替として、送信信号内にあることが知られている他の任意の適切なシンボルをこのように(元のバージョンおよび循環シフトされたバージョンで)使用して、信号間の位相差を推定することができる。
【0093】
デジタル処理回路70は、通常、送信アンテナ34の配置に関する事前情報を有さない。例えば、アクセスポイント24は、
図2に示すように2つのアンテナ、または3つ以上のアンテナのいずれかを含み得る。ピーク分析器74は、相関器72によって計算された相関関数内のピークの数および相対位置を見つけることによって、アクセスポイントのアレイ内のアンテナの数を解明することができる。
【0094】
さらに、アンテナの線形アレイでは、循環シフトは線に沿って任意の順序でアンテナに適用することができる。2アンテナの場合、アンテナの順番を入れ替えると、区別できないミラー角度推定となる。3つ以上のアンテナでは、移動局28が遠距離場に位置しているとき、デジタル処理回路70は循環シフトおよび位相差に関してアンテナの実際の順序を推定することができる。したがって、デジタル処理回路70は、相対循環シフトに基づいて、アンテナの順序が1-2-3である配列と順序が1-3-2である配列とを区別することができるが、それでも1-2-3と3-2-1を区別できない。欠けている情報は、同じアクセスポイント24からの信号を、異なる受信機位置で測定をすることによって充足することができる。
【0095】
(システムアプリケーション)
図5は、本発明の一実施形態による、移動通信装置80の位置を見つけるための方法を示す、
図1のシステムの構成要素の概略図である。この方法は、他の移動局によって以前に行われた出発角度の測定および/または他の入力データに基づいて、アクセスポイント22、24および26のそれぞれの位置座標および基本サービスセット識別子(BSSID)がすでにサーバ40によってマッピングされていると仮定する。
【0096】
移動通信装置80は、アクセスポイント22、24、および26のそれぞれからマルチアンテナ信号を受信し、上述の技法を使用して、それぞれのBSSIDと共に、図中にθ1、θ2、およびθ3とラベル付けされた各アクセスポイントのそれぞれの出発角度を抽出する。移動通信装置80はこれらの発見をネットワーク38を介してサーバ40に報告し、サーバ40は対応する位置座標を返す。サーバはアクセスポイントの位置座標を返すことができ、その場合、移動通信装置80はこれらの座標および測定された出発角度に基づいてそれ自体の位置を三角測量することができる。代替的又は付加的に、移動通信装置80はそれが推定した出発角の値をサーバ40に伝え、サーバ40はその後移動通信装置80の位置座標を返す。
【0097】
これらの種類の位置データを移動通信装置80に提供するために、サーバ40はメモリ44(
図1)内にアクセスポイントの位置と方向のマップを構築し維持する。典型的には、マップは、様々なエリアの移動局によって報告された出発角、BSSID、および装置位置の測定値に基づいて構築される。サーバ40は、
図4に示すように、移動通信装置80によって報告された情報を使用して、移動通信装置80に位置情報を提供するだけでなく、サーバによって維持されているマップを拡張および改良することもできる。このようにして、例えば、サーバは新しいアクセスポイントを継続的に地図に追加することができ、アクセスポイントの位置および地図内の向きの精度を向上させることができる。
【0098】
サーバ40は、アクセスポイントのオペレータによるいかなる協力も必要とせずにこのアクセスポイントマップを構築することができる。同様に、移動通信装置のユーザがマッピングアプリケーションをインストールすると、アクティブなユーザ関与なしに、移動通信装置はアクセスポイントのデータを自律的に測定してサーバに報告できる。マッピングアプリケーションを購読するユーザが多いほど、作成されるマップとアクセスポイントの場所は、より広範で正確になる。
【0099】
上記の実施形態は例として引用されており、本発明は上記に特に示され記載されたものに限定されないことが理解されよう。本発明の範囲は、むしろ、上記の説明を読めば当業者に想起される、先行技術に開示されていない、上記の種々の特徴の組合せおよび部分組合せの両方を含む。