(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】風力発電量予測システム、風力発電量予測プログラム、および風力発電量予測方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/06 20120101AFI20220118BHJP
G01W 1/00 20060101ALI20220118BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20220118BHJP
G16Z 99/00 20190101ALI20220118BHJP
H02P 9/00 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
G06Q50/06
G01W1/00 Z
G05B23/02 R
G16Z99/00
H02P9/00 F
(21)【出願番号】P 2015236170
(22)【出願日】2015-12-02
【審査請求日】2018-10-30
【審判番号】
【審判請求日】2020-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】515335415
【氏名又は名称】メトロウェザー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000316
【氏名又は名称】特許業務法人ピー・エス・ディ
(72)【発明者】
【氏名】古本 淳一
(72)【発明者】
【氏名】東 邦昭
【合議体】
【審判長】高瀬 勤
【審判官】中野 浩昌
【審判官】溝本 安展
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第6975925(US,B1)
【文献】特開2015-190866(JP,A)
【文献】特開2000-145614(JP,A)
【文献】特開2007-56686(JP,A)
【文献】マティアス ランゲ,ウルリッヒ フォッケン,風力発電出力の短期予測 電力の安定供給に向けて,オーム社,2012年11月25日,第1版,p.1-24,101-129
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q10/00-99/00
G01W 1/00
G05B23/02
G16Z99/00
H02P 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地点別に風向および風速を判別可能な風観測情報を取得する地点別風観測情報取得手段と、
地点別に風向および風速を判別可能な風予測情報を取得する地点別風予測情報取得手段と、
風力発電装置のタービン出力特性を取得するタービン出力特性取得手段と、
前記地点別風観測情報取得手段、前記地点別風予測情報取得手段、および前記タービン出力特性取得手段により取得した情報を親ノードとして条件付確率表を用いて処理し予測発電量を子ノードとして出力するベイジアンネットワーク処理手段とを備え、
前記ベイジアンネットワーク処理手段は、季節毎の風速安定度をノードとして用いる構成である
風力発電量予測システム。
【請求項2】
前記ベイジアンネットワーク処理手段は、極端気象の発生確率をノードとして用いる構成である
請求項1記載の風力発電量予測システム。
【請求項3】
各地点の風速値とバリアンス値を求め、風速値が大きくバリアンス値が小さい地点を前記風力発電装置の風車の設置に最適な風車設置好適地点として出力する風車設置好適地点出力手段を備えた
請求項1または2記載の風力発電量予測システム。
【請求項4】
前記ベイジアンネットワーク処理手段は、前記風力発電装置による予測発電量を子ノードとして用い、
予測発電量を出力する予測発電量出力手段を備えた
請求項1、2、または3記載の風力発電量予測システム。
【請求項5】
コンピュータを、
地点別に風向および風速を判別可能な風観測情報を取得する地点別風観測情報取得手段と、
地点別に風向および風速を判別可能な風予測情報を取得する地点別風予測情報取得手段と、
風力発電装置のタービン出力特性を取得するタービン出力特性取得手段と、
前記地点別風観測情報取得手段、前記地点別風予測情報取得手段、および前記タービン出力特性取得手段により取得した情報を親ノードとして条件付確率表を用いて処理し予測発電量を子ノードとして出力するベイジアンネットワーク処理手段として機能させ、
前記ベイジアンネットワーク処理手段を、季節毎の風速安定度をノードとして用いる構成である
風力発電量予測プログラム。
【請求項6】
地点別風観測情報取得手段により地点別に風向および風速を判別可能な風観測情報を取得し、
地点別風予測情報取得手段により地点別に風向および風速を判別可能な風予測情報を取得し、
タービン出力特性取得手段により風力発電装置のタービン出力特性を取得し、
前記地点別風観測情報取得手段、前記地点別風予測情報取得手段、および前記タービン出力特性取得手段により取得した情報を親ノードとして条件付確率表を用いて処理し、ベイジアンネットワーク処理手段が予測発電量を子ノードとして出力する
風力発電量予測方法であって、
前記ベイジアンネットワーク処理手段は、季節毎の風速安定度をノードとして用いる構成である
風力発電量予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、風力発電の発電量を予測するような風力発電量予測システム、風力発電量予測プログラム、および風力発電量予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、風力によって発電を行う様々な風力発電装置が提供されている。この風力発電装置は、海洋に設置されるもの、山林に設置されるもの、都市部に設置されるものなど、様々な種類が提供されている。
【0003】
このような風力発電装置は、得られる風力によって発電量が変化する。このため、風力発電装置を設置する場所は、発電量を増大する上で重要である。
【0004】
このような風力発電装置を有効に活用するために、風の向きや風の強さの変化を予測し、姿勢やプロペラ角度を最適化する風力発電システムが提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
この風力発電システムは、複数の風力発電装置を用い、各風力発電装置において風向、風力、温度、湿度、発電量などを測定して相互にやりとりし、自身の配置場所における風の変化タイミングを予測して姿勢、プロペラ角度等を最適化するものである。これにより、発電効率を常時最大に維持できるとされている。
【0006】
しかし、この風力発電システムは、風力発電装置が複数設置されなければ予測できないものであった。このため、例えば、1台だけ風力発電装置を設置する際に、最も発電量が多くなる場所を特定するといったことはできなかった。また、発電した電力を効率良く利生するために発電量を事前に予測するといったことに利用できるものでもなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明は、上述の問題に鑑みて、風予測情報を取得し、予測発電量を出力できる風力発電量予測システム、風力発電量予測プログラム、および風力発電量予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、地点別に風向および風速を判別可能な風観測情報を取得する地点別風観測情報取得手段と、地点別に風向および風速を判別可能な風予測情報を取得する地点別風予測情報取得手段と、風力発電装置のタービン出力特性を取得するタービン出力特性取得手段と、前記地点別風観測情報取得手段、前記地点別風予測情報取得手段、および前記タービン出力特性取得手段により取得した情報を親ノードとして条件付確率表を用いて処理し予測発電量を子ノードとして出力するベイジアンネットワーク処理手段とを備え、前記ベイジアンネットワーク処理手段は、季節毎の風速安定度をノードとして用いる構成である風力発電量予測システムであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明により、風予測情報を取得し、予測発電量を出力できる風力発電量予測システム、風力発電量予測プログラム、および風力発電量予測方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】予測システムのシステム構成を示すブロック図。
【
図2】風力発電量予測システムのベイジアンネットワークのブロック図。
【
図3】消費電力予測システムのベイジアンネットワークのブロック図。
【
図5】条件付確率表(CPT)の構成を示す説明図。
【
図7】風車設置場所選定処理を実行する制御部の動作を示すフローチャート。
【
図8】ウインドファームの設置・運用を行うシステムのシステム構成図。
【
図9】風力発電量予測と消費電力量予測のインバランスを最小に抑えるシステムのシステム構成図。
【
図10】最適な需要供給バランスを維持するシステムのシステム構成図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の一実施形態を図面と共に説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は、予測システム1(風力発電量予測システム)のシステム構成を示すブロック図である。
予測システム1は、風力発電予測システム1A、数値予測モデルによる予測システム3、気象観測システム4、風力発電装置5、スマートメータ6、ユーザ端末8、およびインターネット9により構成されている。
【0014】
また、風力発電予測システム1Aは、ドップラーライダー2(地点別風観測情報取得手段,地点別風予測情報取得手段)および風力発電予測サーバ10(風力発電予測装置)により構成されている。
【0015】
ドップラーライダー2は、大気中にレーザー光を発射し、エアロゾルからの散乱光(反射光)のドップラーシフトを検出することで、エアロゾルの動きを基準に風況(風向き、風速)を観測する。このドップラーライダー2は、降雨の有無に関係なく風況を観測することができる。また、ドップラーライダー2は、レーザー光を用いてエアロゾルの観測を行うため、空間分解能及び時間分解能に優れた観測を行うことができる。
【0016】
このドップラーライダー2は、複数台(例えば2台以上が好ましく、3台以上がより好ましい)が互いに所定の距離離間した略同一高さにそれぞれ設置されている。各ドップラーライダー2は、観測された視線風速に基づいて風況(風向及び風速)の水平分布情報を算出する。
【0017】
各ドップラーライダー2は、その視線方向(レーザー光の発信方向)が水平方向に360°回転するように構成されており、約1分間に1周(360°)の周期で定速回転しつつ、例えば、半径約20kmの範囲の視線風速を連続的(1分毎)に観測する。
【0018】
各ドップラーライダー2で得られた視線風速のデータは、ドップラーライダー2が備える送信器を介して予測サーバ10に送信される。
【0019】
予測サーバ10の制御部11(ベイジアンネットワーク処理手段、風車設置好適地点出力手段)は、各ドップラーライダー2の観測結果を合成し、観測領域における風況情報として、例えば、東西方向の風速画像(東西風速画像)及び南北方向の風速画像(南北風速画像)を取得する。
【0020】
ここで、風況分布情報を生成する方法としては、種々の手法を採用することができ、例えば、3台以上のドップラーライダー2で観測されたデータに基づいて分布情報を生成する場合には最尤推定法により算出すればよく、また、2台のドップラーライダーで観測されたデータに基づいて分布情報を生成する場合には、線形重み付き最小二乗法により算出すればよい。このようにして風況分布情報を算出し、風況パターン情報を作製した場合には、1分間毎に風況パターン情報を記憶部12に記憶すると良い。
【0021】
上記風況分布情報は、適宜の水平分解能(例えば約100m程度など)とすることができる。また、このドップラーライダー2は、部品の汎用性の高さからよく使われている波長1.5μm帯の赤外線レーザーを用いたドップラーライダーなど、適宜のドップラーライダーを使用することができる。
【0022】
また、各ドップラーライダー2は、設置高度の差が0~10m程度になるように設置されることが好ましい。この程度の高度差であれば測定高度が異なっていても、風況に大きな差がないからである。
【0023】
2台のドップラーライダー2で観測領域内を観測した場合、観測領域内の風向きによっては測定結果に誤差が生じる場合があるのに対し、3台以上のドップラーライダーを用いて観測領域内を観測することにより、より少ない誤差で観測領域の風況を計測することができるからである。
【0024】
数値予測モデルによる予測システム3は、確率論的予測により大きなスケールでの気象予報を行うシステムである。
【0025】
気象観測システム4は、天気、降雨量、風速、風向等の気象情報を観測する。
【0026】
風力発電装置5は、風力によって風車が回転し、この回転により発生した電力を供給する発電装置として機能する。
【0027】
スマートメータ6は、電力使用量を所定タイミング(例えば毎日、毎月、毎年等)等で送信する。
【0028】
ユーザ端末8は、パーソナルコンピュータ、タブレット端末、あるいはスマートフォン等の適宜のコンピュータにより構成されており、通信を行う通信部と、入力を受け付ける入力部と、表示を行う表示部と、情報を記憶する記憶する記憶部と、各種制御動作を実行する制御部とを有している。
【0029】
インターネット9は、公衆電気通信回線であり、各種装置を相互に通信可能に接続している。
【0030】
風力発電予測サーバ10は、制御部11、記憶部12、通信部13(タービン出力特性取得手段、予測発電量出力手段)、入力部14、及び表示部15を備えている。
【0031】
制御部11は、CPU、ROM、RAMにより構成され、記憶部12に記憶されている各種プログラムを起動して動作し、記憶部12に記憶されている各種データおよび通信部13から取得した各種データを用いて各種の演算と各部の制御動作を実行する。
【0032】
記憶部12は、風力発電量予測プログラム21、消費電力量予測プログラム22、風車設置場所選定プログラム23、ベイズノード24、および条件付確率分布表25を記憶している。
【0033】
通信部13は、制御部11の制御に従ってインターネット9に接続された各種装置とデータを送受信する。
【0034】
入力部14は、キーボードとマウス、あるいはタッチパネル等の入力装置によって構成され、ユーザによる操作入力を受け付けて入力信号を制御部11へ送信する。
【0035】
表示部15は、CRTモニタあるいは液晶モニタ等の各種モニタ装置によって構成されており、制御部11から出力される文字、図形、写真等の画像を表す画像信号に基づいて画像を表示する。
【0036】
風力発電量予測プログラム21は、風の予測と、風力発電装置5による発電量の予測を実行する。
【0037】
消費電力量予測プログラム22は、風力発電装置5により発電された電力を消費する側の消費電力量の予測を実行する。
【0038】
風車設置場所選定プログラム23は、風力発電装置5の風車をどの場所へ設置すれば多くの発電量を得られるかを選定する演算を実行する。
【0039】
ベイズノード24は、多数のベイズノード群を記憶している。
条件付確率分布表25は、ベイジアンネットワークに必要な条件付確率分布表を複数記憶している。
【0040】
図2は、風力発電量を予測する風力発電量予測システムとして機能する際に必要なベイジアンネットワーク30Aの構成を示すブロック図であり、
図3は、消費電力を予測する消費電力予測システムとして機能する際に必要なベイジアンネットワーク30Bの構成を示すブロック図である。
【0041】
風力発電量予測システムとして機能するベイジアンネットワーク30Aは、子がない親ノードとなる入力ノード群(31~42)と、子ノードとなる出力ノード群(46~51)と、自ノードとなるベイズノード群(43~45)とを備えている。
【0042】
親ノードとなる入力ノード群(31~42)は、ドップラーライダー観測データ31(風観測情報)に含まれている風向分布32および風速分布33等、数値予報モデルの予測データ34(風予測情報)に含まれている風向・風速35および気温・湿度36等、タービン出力特性データ37に含まれている最大出力値38および平均出力値39等、実際のタービン出力値データ40に含まれている最大出力値41および平均出力値42等を有している。
【0043】
自ノードとなるベイズノード群(43~45)は、それぞれのタービンの発電量実況と予測43と、極端気象の発生確率44と、季節ごとの風速安定度45を備えている。
【0044】
ここで、極端気象の発生確率44は、ゲリラ豪雨や突風や竜巻や台風など、極端な気象の発生確率で構成されている。これにより、風力発電が適切に行えない状態(例えば突風によって風力発電ができない状態など)を予測することができる。
【0045】
また、季節ごとの風速安定度45は、予め定めた単位時間あたりの風速変化の最大値が小さいほど風速が安定しているとする等、適宜の方法によって算出することができる。
【0046】
子ノードとなる出力ノード群(46~51)は、ウインドファーム全体の発電量のナウキャスト(リアルタイム値)46と、2日前に予測される風車1基毎とウインドファーム全体の発電量47と、1日前に予測される風車1基毎とウインドファーム全体の発電量48と、12時間前に予測される風車1基毎とウインドファーム全体の発電量49と、30分前に予測される風車1基毎とウインドファーム全体の発電量50と、ウインドファームが複数ある場合は各ファーム毎で得られると予測される風力発電量51とを有している。
【0047】
消費電力予測システムとして機能するベイジアンネットワーク30Bは、子がない親ノードとなる入力ノード群(60~67)と、子ノードとなる出力ノード群(73~77)と、自ノードとなるベイズノード群(68~72)とを備えている。
【0048】
親ノードとなる入力ノード群(60~67)は、都市の気象状態データ60に含まれている気温・湿度61と雨・雪62等、都市の気象モデル予測データ63に含まれている気温・湿度64と雨・雪65等、スマートメータ値データに含まれているリアルタイム値67等を有している。
【0049】
自ノードとなるベイズノード群(68~72)は、家庭での消費電気量の推定(モデル1):大邸宅68と、家庭での消費電気量の推定(モデル2):中間層69と、家庭での消費電気量の推定(モデル3):貧困層70と、工場71と、ビル72等を有している。
【0050】
子ノードとなる出力ノード群(73~77)は、住宅地・工場・ビル等で消費されている電力のナウキャスト(リアルタイム値)73と、2日前に予測される住宅地・工場・ビル等で消費されている電力量74と、1日前に予測される住宅地・工場・ビル等で消費されている電力量75と、12時間前に予測される住宅地・工場・ビル等で消費されている電力量76と、30分前に予測される住宅地・工場・ビル等で消費されている電力量77とを有している。
【0051】
ベイジアンネットワーク30(30A,30B)を構成するこれらの各ノード(31~77)は、各ノードがとり得る状3態に応じた事前確率表又は条件付確率表(CPT:Conditional probability table)を保持しており、この確率表は、ノードがとる状態が増えるごとに(例えば、観測結果が蓄積される毎に)に更新される。従って、データ蓄積によってベイジアンネットワーク30が成長する。
【0052】
図4は、ベイジアンネットワーク54の構成をデータのインプット及びアウトプットと演算式の観点から表記したブロック図である。
データ入力部53は、ライダー観測による風向風速データA
F、数値予測モデルによる予報A
L、タービン出力特性A
R、実際のタービン出力A
P、及び都市の気象状態A
G等を取得し、ベイジアンネットワーク54に入力する。このデータ入力部53により取得するデータは、観測値の全集合をA(親の無いノード)としている。
【0053】
ここで、ライダー観測による風向風速データAFとして入力されるデータには、風向および風速のデータに加えて、上昇気流発生の原因となる風の収束に関する情報が含まれていることが好ましい。この風の収束に関する情報を加えておくことで、ゲリラ豪雨や突風等の突発気象を予測できる。
【0054】
また、各データは、地点別のデータであり、XYZの関数としてあらわされる、このため、例えばライダー観測による風向風速データAFであれば、その1つの要素aF1は、a(XF1,YF1,ZF1)とX,Y,Zの関数で表される。なお、地点についてXYZの3次元座標としているが、高さを固定する場合であれば、Z座標を固定あるいは省略してZYの2次元座標として扱ってもよい。
【0055】
発生確率出力部55は、ベイジアンネットワーク54から算出される各ウインドファームの出力ナウキャストBH、発電量予測BB、および各地区毎の使用電力量BW等の事象の発生確率を出力する。この発生確率出力部55により出力するデータは、推定すべき量の全集合をB(子の無いノード)としている。
【0056】
なお、風力発電装置5(
図1参照)を海洋上に配置し、都市部の発電量を予測する場合、データ入力部53の各要素については海洋上の地点を示す座標とし、発生確率出力部55の各要素については都市部での地点を示す座標とすることが好ましい。これにより、発電場所と電力使用場所が異なっていても、適切に発電量および使用電力量を予測することができる。
【0057】
ベイジアンネットワーク54は、データ入力部53から入力された各種データ(親のないノード)から、発生確率出力部55で発生確率を出力する対象である事象(子のないノード)に状態移行する確率を示すベイズノード群で構成されており、事後確率P(Y|X)を推定する。
このベイジアンネットワーク54は、次に説明する条件付確率表(CPT)を用いる。
【0058】
図5は、条件付確率表(CPT)の構成を示す説明図である。
各ノードがとり得る状態はノード毎に適宜選択される要素であり、親ノード群RがRm個の状態を取り得るとき、親ノードの先にある自ノードはNc個の離散的状態をとる。従って、自ノードの条件
付確率表は、
図5に図示するように、Nc行、N
R1*N
R2・・・*N
Rm列の行列で表現される(*は乗算を示す)。
この条件付確率表では、親ノード状態が列に配置されるため、例えばライダー観測による風向風速データが観測地点毎に左から右へ並んでいき、次に数値予測モデルによる予報が予報地点毎に左から右へ並んでいくというように、入力データ53が列方向に並んでいく。そして、行としては、自ノードが並んでいく。この自ノードは、自ノードから別の自ノードへ状態遷移することもあれば、自ノードから出力ノードへ状態遷移することもある。
この条件
付確率表のそれぞれの行列要素には、条件
付確率P(S=s
i|R=r
j)が入る。
このように構成された条件付確率表は、ベイズノードが増加する毎に行方向に要素が増加していく。
【0059】
図6は、条件付確
率表(CPT)を用いたベイズフィルタ推定を説明する説明図である。
図6(A)は、ベイズフィルタ推定の流れを示すフローチャートであり、
図6(B)は、各ノードの状態推定法におけるベクトルを説明する説明図である。
【0060】
図6(A)に示すように、風力発電予測システム1Aは、観測値を取得し、制御部11(
図1参照)により風向、風速、および風の安定性を算出するなど推定すべき量の結果データベースを作成しておく(ステップS401)。
【0061】
風力発電予測システム1Aは、制御部11(
図1参照)により、ステップS401で新しく得られた観測値集合(X)をノードにセットする(ステップS402)。ここで、親ノードも観測値も持たないノードがでたときには、事前確率を代入しておく。また、下端のノードにも主観確率(主観によって予め定めた確率)を入れておく。
【0062】
風力発電予測システム1Aは、制御部11(
図1参照)により、各ノードの状態変数を順に得ていく(ステップS403)。
風力発電予測システム1Aは、制御部11(
図1参照)により、知りたい対象Yの各要素の事後確率P(y_i|X)を導出する(ステップS404)。
風力発電予測システム1Aは、制御部11(
図1参照)により、条件付確
率表(CPT)をアップデートして学習させる。ここでノード構造を変更する場合、全データベースを用いて条件付確
率表(CPT)を全て作り直す(ステップS405)。
【0063】
また、風力発電予測システム1Aは、制御部11(
図1参照)により、Yについての事前分布から、よく一致する確率分布(ディレクトリ分布など)を得ておく(ステップS406)。
【0064】
風力発電予測システム1Aは、制御部11(
図1参照)により、前記ステップS404で得られたP(yi|X)を取得した後、すべてのyiの値について確率を導出し、確率分布関数に最小二乗法にてフィッティングさせる(S407)。
【0065】
風力発電予測システム1Aは、制御部11(
図1参照)により、再尤値を求めるべき確率として出力する(ステップS408)。
【0066】
以上のフローチャートにより、条件付確率表(CPT)を常時更新することができるとともに、再尤値を求める確率として出力できる。
【0067】
なお、データ量が多くなるに従って各ノードの状態数を増やすことが可能である。また、観測が欠測であっても統計的に得られている事前確率分布を使って推定することができる。
【0068】
図6(B)は、各ノードの状態推定法におけるベクトルを説明する説明図である。
【0069】
上流側の観測によって得たK個のデータ(風向分布32、風速分布33、風向・風速35、気温・湿度36、最大出力値38、平均出力値39、最大出力値41、および平均出力値42等)により、上流観測ベクトルは、X
u=[x
q1,x
q2,…,x
qk]として与えられる。
上流状態ベクトルは、R=[r
1,r
2,…,r
M]として与えられる。この上流状態ベクトルは、データ入力部53(
図4参照)の各要素に対応している。
Sの状態数は、Nとする。このSは、ベイズノード群78(
図4参照)に対応している。
下流状態ベクトルは、T=[t
1,t
2,…,t
L]として与えられる。この下流状態ベクトルは、発生確率出力部55(
図4参照)の各要素に対応している。
下流側の観測によって得られるL個のデータ(住宅地・工場・ビル等で消費されている電力のナウキャスト(リアルタイム値)73、2日前に予測される住宅地・工場・ビル等で消費されている電力量74、1日前に予測される住宅地・工場・ビル等で消費されている電力量75、12時間前に予測される住宅地・工場・ビル等で消費されている電力量76、30分前に予測される住宅地・工場・ビル等で消費されている電力量77)として、下流観測ベクトルは、X
d=[x
1,x
2,…,x
uL]として与えられる。
【0070】
ここで、上流のXuと下流のXdは条件的独立であるから、次の式(数A)が成立する。
[数A]
P(S=Sn)
=A・P(Xu|S=Sn)P(S=Sn|Xd)
=A・ωu(S=Sn)ωd(S=Sn)
※Aは尤度を確率値に正規化する定数を示す。
ωu(Sn)、ωd(Sn)は上流と下流の観測のSへの寄与分を示す。
【0071】
そして、ωu(S=Sn)、ωd(S=Sn)は、次の式(数1),式(数2)によって計算することができる。
【0072】
【0073】
【数2】
この解き方として、観測値が与えられるノードはその値を導入する。最上流で観測値が与えられないノードには、事前確率を導入する。最下流で観測値が与えられないノードには、無情報として一様分布を導入する。さらに、上流や下流のノードがある場合は、再帰的に上式を適用してゆくことでネットワークのすべてのノードの状態確率が得られる。
【0074】
なお、矢印の向きを考えない場合にループがないネットワークは、上記の方法のみベイジングネットワークを解くことができるが、今回の実装では矢印の方向を考慮しない場合にループが発生する。従って、例えばLoopyBP法等の手法を導入し、複結合ネットワークに対応する。
【0075】
図7は、風力発電装置5の風車を設置するのに適切な設置場所を選定する風車設置場所選定処理を実行する制御部11(
図1参照)の動作を示すフローチャートである。
【0076】
制御部11は、ドップラーライダー2(
図1参照)で観測できる範囲において数10~100m程の分解能で風速の値を得る(ステップS501)。このとき得る値は、例えば格子点毎の格子点値等とすることができる。
【0077】
制御部11は、ドップラーライダー2で観測できる範囲において数10~100m程の分解能で風速バリアンス値を得る(ステップS502)。このとき得る値は、例えば格子点毎の格子点値等とすることができる。
【0078】
制御部11は、取得した風速値とバリアンス値のデータセットを全点探索する(ステップS503)。
【0079】
制御部11は、探索結果を風速値とバリアンス値のグラフにする(ステップS504)。このとき、例えば縦軸を風速値、横軸をバリアンス値とする二次元グラフを作成し、この座標上に各格子点をプロットすることでグラフ化することができる。
【0080】
制御部11は、風速値が大きくバリアンス値の小さい点があるか否か判定するUステップS505)。この判定は、例えば風速値が予め定めた所定値(風速基準値)より大きく、かつ、バリアンス値が予め定めた所定値(バリアンス基準値)より小さいものが存在するか否かとするなど、適宜の判定方法とすることができる。
【0081】
制御部11は、風速値が大きくバリアンス値の小さい点があれば(ステップS505:Yes)、この点を風車設置場所として選定する(ステップS506)。この選定の結果は、風車設置場所を示す座標(緯度、経度、高度)で出力するなど、場所を特定する情報として出力する。なお、風速値が大きくバリアンス値の小さい点が複数ある場合は、判定の基準値に対する風速値の差とバリアンス値の差を加算した値が最も大きい点を採用するなど、適宜の条件によって最も効率の良い点に定めると良い。
【0082】
制御部11は、風速値が大きくバリアンス値の小さい点がなければ(ステップS505:No)、設置場所候補なしとして(ステップS507)、処理を終了する。
【0083】
以上の構成および動作により、気象条件の変化によって発電量が変化する風力発電において、風力発電装置の発電量を精度良く予測することができる。
【0084】
また、極端気象を予測して風力発電の予測に役立てるため、風力発電量をより精度よく予測することができる。すなわち、強い突風が断続的に吹いた場合、従来の方法で風速の合計から発電量を算出すると、実際に発電される発電量よりも多く算出される。これは、突風等では風力発電装置が適切に作動せず、発電量が低くなること等が原因である。このような不適切な予測を極力排除し、精度を向上させることができる。
【0085】
また、地点別に風力や風向を検出し、さらに地点別に風力や風向を予測できるため、風力発電装置の風車をどこに設置すれば最も効率よく発電できるか算出することができる。
【0086】
詳述すると、地表上における風は、様々な要素が複雑にからみあって発生している。このため、一見すれば広い海洋上であっても、位置が少し異なれば、年間を通じて発生する風速や風向が全く異なってくる。そうすると、全く同じ風力発電装置であっても、設置する位置が少し異なるだけで得られる発電力が全く異なるということにもなる。
【0087】
また、ベイジアンネットワーク54は、ベイズノード群78を適宜増加させて強化学習していくことができる。これにより、ベイズノードを増加させて、さらに精度を高めることができる。
【0088】
このようにして、
図8のシステム構成図に示すように、都市の気象状態データ60、都市の気象モデル予測データ63、スマートメータ値66、実際のタービンの出力値40等のデータをベイジアンネットワーク54に入力し、全体の電力量や、風車毎の電力量、時間別の発電量の予想等を得ることができる。
【0089】
また、
図9のシステム構成図に示すように、発電会社の発電量、電子卸市場の売買情報、顧客の希望情報等を新電力会社にて算出し、このバランスをとって電力卸売市場から不足する電力を購入し、あるいは余剰の電力を販売するといったことができる。また、再生可能エネルギーの発電量を精度よく予測でき、需要と供給のバランスが常に求められている新電力会社に発電量・需要量予測情報を提供することができて、30分市場(即時市場)に対応することができる。また、前もって再生可能エネルギーの情報を提供することで、インバランスを最小に抑えることができる。
【0090】
また、
図10のシステム構成図に示すように、電力を卸売りする卸売市場や、発電量の実況や予測を行う電力会社は、いつ電力を買うのが良く、いつ電力を売るのが良いか悩むことがある。これに対して、発電量の通知、購入した電力量等を知らせ、電力を買うタイミングの検討等に時間をとられることを防止でき、エラーバーを3%以内に収めるといったことができる。
【0091】
なお、この発明は、上述した実施形態に限られず、他の様々な実施形態とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
この発明は、風の状況を予測して利用するような産業に利用することができる。
【符号の説明】
【0093】
1…予測システム
2…ドップラーライダー
11…制御部
13…通信部
31…ドップラーライダー観測データ
34…予測データ