(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】皮膚化粧料
(51)【国際特許分類】
A61K 8/34 20060101AFI20220118BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20220118BHJP
A61K 8/55 20060101ALI20220118BHJP
A61K 8/63 20060101ALI20220118BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
A61K8/34
A61K8/02
A61K8/55
A61K8/63
A61Q19/00
(21)【出願番号】P 2017216349
(22)【出願日】2017-11-09
【審査請求日】2020-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2017167709
(32)【優先日】2017-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306018365
【氏名又は名称】クラシエホームプロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】特許業務法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】中野 克哉
(72)【発明者】
【氏名】中川 由希子
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-193714(JP,A)
【文献】特開昭60-089414(JP,A)
【文献】国際公開第2016/158704(WO,A1)
【文献】Deep Moisture Cream Mist,Mintel GNPD,2017年07月,ID#:4976741
【文献】Kids Hypoallergenic SunProtection Spray SPF 50 PA+++,Mintel GNPD,2016年04月,ID#:3934201
【文献】Essential Fluid Mist,Mintel GNPD,2017年05月,ID#:4767147
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)~(D)を含有し、
前記成分(A)~(D)の配合量が下記の配合量であり、前記成分(A)及び前記成分(B)の配合量比率(A)/(B)が5.0~10.0であり、前記成分(C)および前記成分(D)の配合量比率(C)/(D)が0.3~1.0であり、ミスト状に噴霧するエアゾール方式もしくはポンプ容器に充填したスプレー方式で使用することを特徴とする皮膚化粧料。
(A)リン脂質
皮膚化粧料全量に対し0.01~2.0%
(B)コレステロール、フィトステロールから選ばれる1種又は2種
皮膚化粧料全量に対し0.001~0.4%
(C)IOB値が2.2~2.8の一価または多価アルコール
皮膚化粧料全量に対し2.0~10.0%
(D)IOB値が4.3~5.5の多価アルコール
皮膚化粧料全量に対し4.0~15.0%
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮膚化粧料に関し、詳細には、リン脂質を含み、皮膚の乾燥による小じわを防ぐ保湿効果を有するとともに、肌のハリ・弾力を向上させながらも、べたつきの少ない塗布後の使用感触に優れ、更にはポンプ式スプレー容器で霧状に噴出可能であるほど低粘度でありながら、経日安定性に優れた皮膚化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の保湿機能は、リン脂質を主たる構成成分とする細胞間脂質が水分と結合することによって機能している。皮膚の保湿機能が低下すると、皮膚の乾燥及びそれに伴う小じわ、角質細胞の剥離を伴う肌荒れ、肌のハリや弾力低下によるシワ、タルミなどの現象が惹起される。そのため、本来の皮膚の機能に近い保湿性能を持つスキンケア素材を用いることで、美容上好ましくないさまざまな皮膚状態を予防することが求められていた。また近年では、安全性に対する懸念から天然由来の成分を用いたスキンケア製品が求められている。
【0003】
このような背景から、例えばダイズなどから抽出、加工して得られる水素添加レシチンに代表される、リン脂質を用いたスキンケア製品が提案されている。例えば、pHを調整して製造された、沈殿物を生じづらいリン脂質の水分散組成物を用いた水性化粧料(例えば特許文献1を参照)や、リン脂質と高級脂肪酸ラノステロールエステル、高級脂肪酸ラノステロールエステロールを組み合わせた肌荒れ改善効果のすぐれた皮膚外用剤(例えば特許文献2を参照)、エリスリトールと水素添加レシチンとポリオキシエチレン付加コレステロール誘導体を含む肌荒れの改善・防止及び角質柔軟化用皮膚外用剤(例えば特許文献3を参照)が開示されている。
【0004】
しかしながら、これらの皮膚化粧料はリン脂質を単独で配合することから、製剤中でリン脂質由来の凝集物を形成しやすいといった、経日での安定性に課題があった。
【0005】
また、リン脂質を配合しながらも、経日安定性を改善する方法も知られている。例えば、リポソームを形成させる例(例えば特許文献4を参照)や、カルボキシビニルポリマー及び/又はその塩、並びにアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体を用いてジェル状に増粘させた例(例えば特許文献5を参照)、及びその他の非イオン性界面活性剤を配合し、リン脂質とコレステロールのベシクルを安定に配合する化粧料(特許文献6及び7)の例が知られている。さらには、セラミド、リン脂質、コレステロール、多価アルコールを用いた皮膚外用剤も知られている。(例えば特許文献8)
【0006】
しかしながら、これらの皮膚化粧料はいずれも経日での製剤安定性を担保するために各種油剤や活性剤を配合しており、感触や肌への安全性に関して課題があった。また、これらの皮膚化粧料は安定性を改善するために、一般的にジェル状及びクリーム状といった粘度の高いものが多かった。また、低粘度の実施例を記載している先行技術文献に関しても、安定性を評価している期間が短く、経日での安定性が十分に確認されたものではなかった。
【0007】
一方で、使用の簡便さから、化粧料を霧状に噴霧して使用する、ミストタイプの化粧料に対するニーズが高まっている。霧状に吐出されることによって簡便に広範囲に均一に塗布することが可能となるだけではなく、微細で均一な粒子を霧の形態で角質層へと提供し、皮膚への浸透性を高めさらには新鮮な好ましい感覚を与えることが可能となる。これまでに、ゲル状組成物を外部空間に加圧しながら導く噴霧器からなるゲル状ミスト化粧料の例
や、ラフィノースを含有した化粧直し用化粧料の例、複数の水溶性増粘剤を配合しながらも、ポンプ式スプレー容器から柔らかな霧状で吐出されるミスト化粧料などが報告されている。(特許文献9、10及び11を参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2005-002070号公報
【文献】特許第3219432号公報
【文献】特許第3344822号公報
【文献】特開2008-266324号公報
【文献】特許第5894791号公報
【文献】特許第4039870号公報
【文献】特許第4049216号公報
【文献】特許第4067211号公報
【文献】特開1997-241115号公報
【文献】特許第3856960号公報
【文献】特許第5536937号公報
【0009】
しかしながら、ポンプ容器を用いて霧状に吐出されるためには、固形分量が多すぎると吐出口で析出することによって詰まりを生じたり、粘度が高すぎると柔らかい霧状に吐出されなかったりといった、内容物の化粧料に関して課題があった。以上のことから、リン脂質を含み、皮膚の乾燥による小じわを防ぐ保湿効果を有するとともに、肌のハリ・弾力を向上させながらも、べたつきの少ない塗布後の使用感触に優れ、更にはポンプ式スプレー容器で霧状に噴出可能であるほど低粘度でありながら、経日安定性に優れた皮膚化粧料が強く望まれていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、リン脂質を含み、皮膚の乾燥による小じわを防ぐ保湿効果を有するとともに、肌のハリ・弾力を向上させながらも、べたつきの少ない塗布後の使用感触に優れ、更にはポンプ式スプレー容器で霧状に噴出可能であるほど低粘度で、経日安定性に優れた皮膚化粧料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記問題点を鑑みて鋭意研究を重ねた結果、リン脂質と、コレステロール、フィトステロールから選ばれる1種又は2種と、IOB値の異なる2種類の一価または多価アルコールを所定の比率で組み合わせることにより、肌への有用な効果及び使用感触に優れるだけでなく、その他の成分を必要とせず、ポンプ式スプレー容器にて提供可能でありながら、経日での安定性に優れた皮膚化粧料を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本願第一の発明は、下記成分(A)~(D)を含有し、ミスト状に噴霧するエアゾール方式もしくはポンプ容器に充填したスプレー方式で使用することを特徴とする皮膚化粧料である。
(A)リン脂質
(B)コレステロール、フィトステロールから選ばれる1種又は2種
(C)IOB値が2.2~2.8の一価または多価アルコール
(D)IOB値が4.3~5.5の多価アルコール
【0013】
本願第二の発明は、皮膚化粧料に含まれる成分(A)~(D)の配合量が下記の配合量で
あり、かつ成分(A)及び成分(B)の配合量比率(A)/(B)が5.0~10.0であり、かつ成分(C)および成分(D)の配合量比率(C)/(D)が0.3~1.0であることを特徴とする本願第一の発明に記載の皮膚化粧料である。
(A)リン脂質 皮膚化粧料全量に対し0.01~2.0%
(B)コレステロール、フィトステロールから選ばれる1種又は2種
皮膚化粧料全量に対し0.001~0.4%
(C)IOB値が2.2~2.8の一価または多価アルコール
皮膚化粧料全量に対し2.0~10.0%
(D)IOB値が4.3~5.5の多価アルコール
皮膚化粧料全量に対し4.0~15.0%
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、皮膚の乾燥による小じわを防ぐ保湿効果を有するとともに、肌のハリ・弾力を向上させながらも、べたつきの少ない塗布後の使用感触に優れ、更にはポンプ式スプレー容器で霧状に塗布可能な、経日安定性に優れた皮膚化粧料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明の皮膚化粧料に使用する(A)リン脂質は、一般的であり、通常化粧料原料として用いられるものを使用することができる。上記リン脂質としては具体的には大豆、卵黄、トウモロコシ、ナタネ等の動植物及び大腸菌などの微生物から抽出される天然のレシチン、ならびに合成のレシチンが挙げられる。化粧料の安定性及び化粧品原料として安定的に入手しやすいことから、特に植物由来のレシチンに水素添加処理を行ったもの(化粧品表示名:水添レシチン)が好ましい。
【0017】
本発明の皮膚化粧料に使用する(A)リン脂質は、好ましくは全組成中0.01~2質量%含まれる。0.01質量%未満では、充分な肌の保湿機能改善効果及び良質な感触が得られず、2質量%を超えると製剤の安定性を損なったり、それに伴いポンプ式スプレー容器の吐出口で詰まりを生じる場合がある。
【0018】
本発明の皮膚化粧料に使用する(B)コレステロール、フィトステロールから選ばれる1種又は2種は、(A)リン脂質が化粧料中で安定に存在することを補助するために使用される。本発明の皮膚化粧料に使用する(B)コレステロール、フィトステロールから選ばれる1種又は2種も、一般的な化粧品原料であり、上記原料としては具体的には羊毛や魚類等の動物由来のコレステロール及び大豆やコメ由来のフィトステロールが選択できる。
【0019】
本発明の皮膚化粧料に使用する(B)コレステロール、フィトステロールから選ばれる1種又は2種は、好ましくはその合計が全組成中0.001~0.4質量%であり、更に好ましくは0.002~0.2質量%である。(B)成分が0.001質量%未満では、充分な化粧料の安定性を保てず、0.4質量%を超えた場合は、(B)成分由来の結晶によるオリなどの析出物が生じる場合がある。
【0020】
また、本発明の皮膚化粧料に使用する(A)リン脂質と(B)コレステロール、フィトステロールから選ばれる1種又は2種の配合量比率 (A)/(B)は、5.0~10.0であることが好ましい。 (A)/(B)が5.0未満では、(B)成分由来の結晶によるオリなどの析出物が生じ、(A)/(B)が10.0を超えた場合は、充分な化粧料の安定性が保てなくなる。
【0021】
本発明の皮膚化粧料に使用する(C)IOB値が2.2~2.8の一価または多価アルコールは、化粧料の感触を調整するため、及び加温した状態で(A)成分及び(B)成分を均一で溶解させるために使用される。本発明で使用する(C)IOB値が2.2~2.8の一価または多価アルコールは、具体的には1,3-ブチレングリコール(IOB値=2.5)、エタノール(IOB値=2.5)、PEG-4(IOB値=2.66)などが挙げられるが、これらに限定するものではない。また、本発明で使用する(C)成分としては、単独及び複数を組み合わせて使用することも可能である。本発明で使用する(C)成分としては、加熱時の粘度や安全性の観点から、特に1,3-ブチレングリコールを単独で使用するのが好ましい。
【0022】
本発明の皮膚化粧料に使用する(C)IOB値が2.2~2.8の一価または多価アルコールは、好ましくは全組成中2.0~10.0質量%である。(C)成分が2.0質量%未満では、(A)成分及び(B)成分を充分に均一溶解させることができず、10.0質量%を超えた場合は、塗布時に刺激を感じたり、または皮膚表面でのべたつきを生じるなど、化粧料の感触に優れない場合がある。
【0023】
本発明の皮膚化粧料に使用する(D)IOB値が4.3~5.5の多価アルコールは、溶解した(A)(B)(C)成分に対して加熱しながら添加することで、水中に分散しやすい均一な中間体溶液を作成するために配合される。本発明で使用する(D)IOB値が4.3~5.5の多価アルコールは、具体的にはグリセリン(IOB値=5.0)、ソルビトール(IOB値=5.0)、マルチトール(IOB値=4.42)などが挙げられるが、これらに限定するものではない。また、本発明で使用する(D)成分としては、単独及び複数を組み合わせて使用することも可能である。本発明で使用する(D)成分としては、加熱時の粘度や安全性の観点から、特にグリセリンを単独で使用するのが好ましい。
【0024】
本発明の皮膚化粧料に使用する(D)IOB値が4.3~5.5の多価アルコールは、好ましくは全組成中4.0~15.0質量%である。(D)成分が4.0質量%未満では、調整された中間体溶液を水中に添加する際の溶解性が低下し、粒子径の大きいリポソーム様構造体を生じてしまうため、オリなどの析出物が生じる場合がある。また、(D)成分が15.0質量%を超えた場合は、皮膚表面でのべたつきを生じ、化粧料の感触に優れない場合がある。
【0025】
また、本発明の皮膚化粧料に使用する(C)IOB値が2.2~2.8の一価または多価アルコールと(D)IOB値が4.3~5.5の多価アルコールの配合量比率 (C)/(D)は、0.3~1.0であることが好ましい。 (C)/(D)が0.3未満もしくは1.0を超えた場合、製剤の安定性が損なわれたり、それに伴いポンプ式スプレー容器の吐出口で詰まりを生じる場合がある。
【0026】
本発明の皮膚化粧料は、上述した成分を必須の構成成分とするが、当該組成物には本発明の目的を損なわない範囲で、他の成分、例えば、陰イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、油剤、高分子化合物、増粘剤、粉体(色素、樹脂、顔料)、防腐剤、香料、保湿剤、生理活性成分、塩類、溶媒、酸化防止剤、キレート剤、パール化剤、中和剤、pH調整剤、昆虫忌避剤、酵素等の成分を適宜配合することができる。
【0027】
また、本発明の皮膚化粧料には、本発明の目的を損なわない範囲で、生理活性成分を適宜配合することができる。生理活性物質とは、皮膚に塗布した場合に皮膚に何らかの生理活性を与える物質であり、例えば、老化防止剤、紫外線防御剤、ひきしめ剤、抗酸化剤、保湿剤、血行促進剤、抗菌剤、殺菌剤、乾燥剤、冷感剤、温感剤、ビタミン類、アミノ酸、創傷治癒促進剤、刺激緩和剤、鎮痛剤、細胞賦活剤、酵素成分等が挙げられる。
【0028】
また、本発明の皮膚化粧料に配合することのできる生理活性成分は、特にその種類を制限されないが、植物の根・茎・葉・花・果実・種子由来の抽出物を用いることが好ましい。植物の根・茎・葉・花・果実・種子由来の抽出物の例として、例えばアシタバエキス、アボガドエキス、アマチャエキス、アルテアエキス、アルニカエキス、アロエエキス、イタドリエキス、ウイキョウ(フェンネル)エキス、エイジツエキス、オオムギエキス、オトギリソウエキス、カキエキス、カッコンエキス、カモミラエキス、カロットエキス、カンゾウエキス、キイチゴエキス、キウイエキス、キューカンバーエキス、キョウニンエキス、クインスシードエキス、黒糖エキス、コメヌカエキス、コメヌカ発酵エキス、サトウカエデエキス、サトウキビエキス、シソエキス、シャクヤクエキス、スイカズラエキス、セイヨウオトギリソウエキス、セイヨウサンザシエキス、セイヨウニワトコエキス、セージエキス、ダイズエキス、タイムエキス、チャエキス、ツバキエキス、ツボクサエキス、ドクダミエキス、トマトエキス、ノバラエキス、ハマメリス水、バラエキス、パリエタリアエキス、ビワエキス、ブドウエキス、ヘチマエキス、ボタンエキス、ホップエキス、ムクロジエキス、モモ葉エキス、ヤグルマギクエキス、ヨクイニンエキス、レモンエキス、ローズマリーエキス、ローマカミツレエキス等が挙げられる。
【0029】
さらに、本発明の皮膚化粧料に配合する各種生理活性成分としては、特にレチノール及びその誘導体、トコフェロール及びその誘導体、ローヤルゼリー抽出物、オウゴン根抽出物から選ばれる1種又は2種以上のアンチエイジング成分を含むことが望ましい。上記成分はいずれも皮膚の乾燥による小じわを防ぐ保湿効果、あれ肌改善効果及び肌のハリ・弾力を向上させる効果を有していることが知られていることから、(A)リン脂質及び(B)コレステロール、フィトステロールから選ばれる1種又は2種を用いた製剤が有している同様の効果を、相乗的に高めることが可能である。
【0030】
同様に、本発明の皮膚化粧料はその安定化のために、粘度調整剤の配合を必要としない。一般的に粘度が高い製剤はポンプ容器からミスト状に噴霧する際、吐出口の詰まりや柔らかな霧状として吐出されないといった課題があることが知られている。本発明の皮膚化粧料では適切に必須成分を組み合わせることにより、粘度調整剤を配合せずに安定性を保つことができるため、一般的に用いられるポンプ容器及び霧吹き状容器を用いてミスト状に吐出することができる。ミスト状に吐出する際に適した粘度としては、低ければ低いほうが広範囲に伸ばしやすいため望ましく、特に、B型粘度計(ブルックフィールド製、2号ローター、12rpm)での測定条件下で100mPa・s以下が望ましい。100mPa・sを超えると、吐出口の詰まりや柔らかな霧状として吐出されないといった課題が生じる。
【0031】
本発明の皮膚化粧料としては、基礎化粧料、メイクアップ化粧料、ボデイ化粧料等が挙げられる。また本発明の皮膚化粧料は、一般の化粧料に限定されるものではなく、医薬部外品、指定医薬部外品、外用医薬品等を包含するものである。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例及び比較例を例示することにより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によりなんら限定されるものではない。実施例に先立ち、各実施例で採用した試験法、評価法を説明する。
【0033】
(1)保湿効果試験
(評価方法)
評価パネル5名について、全顔を石けんで洗浄し、次に、温度25℃、相対湿度50%の環境下にて20分間馴化後、目じり部に、本発明の皮膚化粧料を0.05mL/cm2塗布した。塗布後に温度25℃、相対湿度50%の環境下にて60分間馴化後、角質水分量(コンダクタンス値)をCorneometer(MPA580、Courage+Khazaka社製)を用いて測定した
。保湿効果の評価は、以下の計算式より保湿効果(%)を算出して5名の平均値を求め、下記判断基準に基づいて行った。その結果を表に示す。
保湿効果(%)=(塗布後1時間経過時点での角質水分量/塗布前の角質水分量)×100
<評価基準>
◎:保湿効果(%)が130%以上であり、外観上でも目立つ小じわの数が減少した。
○:保湿効果(%)が130%以上であるが、外観上では変化が見られなかった。
△:保湿効果(%)が100%以上130%未満であった。
×:保湿効果(%)が100%未満であった。
【0034】
(2)肌のハリ・弾力改善試験
(評価方法)
専門パネル5名について、前腕内側部を石けんで洗浄し、次に、温度25℃、相対湿度50%の環境下にて20分間馴化後、頬部に本発明の皮膚化粧料を0.1mL/cm2塗布した。塗布後に温度25℃、相対湿度50%の環境下にて60分間馴化後、皮膚の粘弾性をCutometer(MPA580、Courage+Khazaka社製)を用いて測定した。肌のハリ・弾力改善効果の評価は、以下の計算式よりハリ・弾力改善効果(%)を算出して5名の平均値を求め、下記判断基準に基づいて行った。その結果を表に示す。
ハリ・弾力改善効果(%)=(塗布後60分経過時点での肌弾力/塗布前の肌弾力)×100
<評価基準>
◎:ハリ・弾力改善効果(%)が110%以上であった。
○:ハリ・弾力改善効果(%)が105%以上110%未満であった。
△:ハリ・弾力改善効果(%)が100%以上105%未満であった。
×:ハリ・弾力改善効果(%)が100%未満であった。
【0035】
(3)肌なじみの良さ評価試験
(評価方法)
専門パネル5名について、前腕内側部に本発明の皮膚化粧料を塗布し、指で軽くなじませた1分後の「肌なじみのよさ」を評価した。試験結果は、「塗布時のべたつきがなく、肌なじみがよい」と回答した人数を用いて、下記評価基準により判断した。
<評価基準>
◎:塗布時のべたつきがなく、肌なじみが良いと認めたパネラーが4名あるいは5名
○:塗布時のべたつきがなく、肌なじみが良いと認めたパネラーが2名~4名
△:塗布時のべたつきがなく、肌なじみが良いと認めたパネラーが1名
×:塗布時のべたつきがなく、肌なじみが良いと認めたパネラーが0名
【0036】
(4)経時での製剤安定性評価試験
(評価方法)
本発明の皮膚化粧料をガラス容器に入れ、密封して45℃の恒温槽に3ヶ月保管した後、各皮膚化粧料の外観変化を目視によって観察した。
<評価基準>
◎:外観に変化は見られない。
○:外観の白濁度が僅かに濃くなる。
△:皮膚化粧料の成分が、僅かに分離・沈殿している。
×:皮膚化粧料の成分が、明確に分離し、多量の沈殿がみられる。
【0037】
(5)製剤の性状(粘度)評価試験
(評価方法)
本発明の皮膚化粧料をガラス容器に入れ、B型粘度計(ブルックフィールド製、2号ロー
ター、12rpm)を用いて粘度を測定した。
<評価基準>
○:粘度が100mPa・s以下であり、
かつ汎用のスプレー状容器で噴霧可能であった。
×:粘度が100mPa・sより高い、
あるいは汎用のスプレー状容器で噴霧不可能であった。
【0038】
(6)製剤の性状(噴霧状態)評価試験
(評価方法)
本発明の皮膚化粧料を汎用のスプレー状容器に充填し、一日一回噴霧する動作を一週間行い、噴霧状態を確認した。
<評価基準>
○:一週間 継続して噴霧可能であった
△:始めは噴霧可能であったが、一週間経過前に吐出口あるいは内部に
析出物が生じて噴霧不可能となった
×:試験開始時点において噴霧不可能であった
【0039】
次に本発明の皮膚化粧料について、実施例をもって詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。まず、各実施例で採用した試験法、評価法を説明する。
【0040】
実施例1~12及び比較例1~11
表1及び表2に示す組成の皮膚化粧料を常法により調製した。保湿効果、肌のハリ・弾力改善、肌なじみの良さ(べたつきのなさ)、経時での製剤安定性(分離・析出の有無)、製剤の性状(粘度、噴霧状態)の結果は表1及び表2に併せて示した。なお、以下の全ての実施例及び比較例における配合量は質量%である。
【0041】
【0042】
【0043】
表1及び表2から明らかなように、本発明の成分を用いた実施例の皮膚化粧料はいずれも優れた性能を有していた。一方、必須要件のいずれかを満たさない比較例では、保湿効果、肌のハリ・弾力改善、肌なじみの良さ(べたつきのなさ)、経時での製剤安定性(分離
・析出の有無)、製剤の性状(粘度、噴霧状態)のいずれかの面で劣っており、本発明の目的を達成できなかった。
【0044】
以下、本発明皮膚化粧料のその他の処方例を実施例13~16として挙げる。なお、これらの実施例の皮膚外用剤についても、上記の保湿効果、肌のハリ・弾力改善、肌なじみの良さ(べたつきのなさ)、経時での製剤安定性(分離・析出の有無)、製剤の性状(粘度、噴霧状態)について各項目を検討したところ、いずれの実施例においても、優れた特性を有しており良好な結果を得た。
【0045】
実施例13(美容液)
(1)エタノール 1.0%
(2)1,3-ブチレングリコール 6.0%
(3)グリセリン 10.0%
(4)クエン酸 0.01%
(5)クエン酸ナトリウム 0.09%
(6)ジプロピレングリコール 4.0%
(7)ニコチン酸トコフェロール 0.05%
(8)リン脂質 0.1%
(9)フィトステロール 0.02%
(10)フェノキシエタノール 0.2%
(11)シクロヘキサン1,4-ジカルボン酸エトキシジグリコール 0.05%
(12)ビタミンA油 0.0001%
(13)ローヤルゼリーエキス 0.1%
(14)精製水 残余
【0046】
(製法)
(7)~(9)及び(12)を加熱した(2)に加えて溶解する(A液)。加熱した(3)をA液に徐々に添加して均一に分散させる(B液)。加熱した(14)に(4)~(6)、(10)を加えて溶解させ、そこにB液にゆっくりと加えて混合した後、適宜冷却を加えた後、(1)、(11)及び(13)を添加して均一に分散させ、美容液を得た。
【0047】
(実施例14 化粧水)
(1)エタノール 10.0%(2)ビタミンA油 0.005%(3)水素添加大豆レシチン(注1) 0.01%(4)コレステロール 0.002%(5)グリセリン 8.0%(6)ジプロピレングリコール 3.0%(7)ポリエチレングリコール1500 1.0%(8)リン酸一カリウム 0.005%(9)リン酸二ナトリウム 0.005%(10)フェノキシエタノール 0.1%(11)エデト酸四ナトリウム 0.01%(12)スターフルーツ果実エキス 0.01%(13)パッションフルーツ果実エキス 0.01%(14)オレンジ果汁 0.01%(15)レモン果実エキス 0.01%(16)ブドウ葉エキス 0.01%(17)精製水 残余(注1)商品名:COATSOME NC-21、日油株式会社
【0048】
(製法)
(2)~(4)を加熱した(1)に加えて溶解する(A液)。加熱した(5)をA液に徐々に添加して均一に分散させる(B液)。加熱した(17)に(6)~(16)を加えて溶解させ、そこにB液にゆっくりと加えて混合し、化粧水を得た。
【0049】
(実施例15 サンスクリーン)
(1)エタノール 4.0%(2)ソルビトール 4.0%(3)パラメトキシケイ皮エチル 6.0%(4)POE・POP変性ジメチルポリシロキサン 1.0%(5)コメ油 1.0%(6)ホホバ油 1.0%(7)メチルシクロポリシロキサン 1.0%(8)ジメチルポリシロキサン 1.0%(9)卵黄レシチン(注2) 0.5%(10)フィトステロール 0.08%(11)ザクロ花エキス 0.1%(12)シャクヤク根エキス 0.1%(13)ボタンエキス 0.1%(14)精製水 残余(注2)商品名:COATSOME NC-50 (EPC)、日油株式会社
【0050】
(調製方法)
(9)~(10)を加熱した(1)に加えて溶解する(A液)。加熱した(2)をA液に徐々に添加して均一に分散させる(B液)。成分(3)~(8)を80℃にて混合、溶解する(C液)。80℃に加温した成分(14)にB液を添加して撹拌した後に、C液及び(11)~(13)を添加し、攪拌後、冷却してサンスクリーンを得た。
【0051】
(実施例16 美白美容液)
(1)水素添加大豆レシチン(注1) 1.0%(2)メチルフェニルポリシロキサン 0.5%(3)メチルシクロポリシロキサン 0.5%(4)ミリスチン酸オクチルドデシル 1.0%(5)フィトステロール 0.2%(6)1,3-ブチレングリコール 4.0%(7)アスコルビン酸グルコシド 2.0%(8)グリセリン 5.0%(9)ポリエチレングリコール1000 0.1%(10)ソルビトール 3.0%(11)マルチトール 3.0%(12)クエン酸 0.03%(13)クエン酸ナトリウム 0.07%(14)キサンタンガム 0.001%(15)エデト酸二ナトリウム 0.04%(16)グリチルリチン酸ジカリウム 0.1%(17)アロエ搾汁液 0.01%(18)モモ葉エキス 0.01%(19)チャ葉エキス 0.01%(20)ピロ亜硫酸ナトリウム 0.001%
(21)精製水 残余(注1)商品名:COATSOME NC-21、日油株式会社
【0052】
成分(1)、(5)を(6)に加え、80℃にて、混合、溶解する(A液)。成分(8)、及び(10)~(11)を80℃にて混合、溶解する(B液)。A液にB液を加え、混合、溶解する(C液)。成分(2)~(4)を80℃にて、混合、溶解する(D液)。成分(7)、(9)及び(12)~(21)を80℃にて混合、撹拌する(E液)。E液にC液を添加して撹拌した後、D液を添加してさらに攪拌、冷却し、美白美容液を得た。