IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人情報通信研究機構の特許一覧

<>
  • 特許-真空作成装置 図1
  • 特許-真空作成装置 図2
  • 特許-真空作成装置 図3
  • 特許-真空作成装置 図4
  • 特許-真空作成装置 図5
  • 特許-真空作成装置 図6
  • 特許-真空作成装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】真空作成装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 41/20 20060101AFI20220118BHJP
   F04B 37/02 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
H01J41/20
F04B37/02 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017218434
(22)【出願日】2017-11-13
(65)【公開番号】P2019091576
(43)【公開日】2019-06-13
【審査請求日】2020-10-29
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【弁理士】
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀吉
【審査官】後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-222876(JP,A)
【文献】国際公開第2008/099610(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/132758(WO,A1)
【文献】特表2011-517836(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 40/00-49/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のケーシング(1)と,
前記円筒状のケーシング(1)の円筒部分の外側から前記円筒状のケーシングを加熱するためのヒータ(3)を取り付けるためのヒータ取り付け部(5)と,
前記円筒状のケーシング(1)の内壁と接触し,前記ヒータ(3)からの熱が伝わるゲッターエレメント(9)とを含む,
真空作成装置(11)であって,
前記円筒状のケーシング(1)内部に設けられた円筒状の第1の電極(15)をさらに有し,
前記ゲッターエレメント(9)は,第1の電極(15)の穴部(19)を介して,前記円筒状のケーシング(1)の内壁と接触した真空作成装置(11)。
【請求項2】
請求項1に記載の真空作成装置(11)であって,
前記円筒状のケーシング(1)の円筒部分の外側に多段磁石(13)を取りつけるための多段磁石取り付け部(17)をさらに有する,
真空作成装置(11)。
【請求項3】
請求項1に記載の真空作成装置(11)であって,
前記ゲッターエレメント(9)は,熱伝導性物質を介して前記円筒状のケーシング(1)の内壁と接着された
真空作成装置(11)。
【請求項4】
請求項1に記載の真空作成装置(11)であって,
前記円筒状のケーシングの円筒部分の外側に設けられたヒータ(3)と,多段磁石(13)とをさらに有する
真空作成装置(11)。
【請求項5】
円筒状のケーシング(1)を有する真空作成装置(11)を用いて1次真空処理を行う工程と,
前記円筒状のケーシング(1)の円筒部分の外側から多段磁石(13)を取り除く工程と,
前記円筒状のケーシング(1)の円筒部分の外側にヒータ(3)を取り付ける工程と,
前記ヒータ(3)を用いて,前記円筒状のケーシング(1)を加熱し,
前記円筒状のケーシング(1)の内壁に接触したゲッターエレメント(9)を活性化することにより2次真空処理を行う,
真空処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,真空作成装置に関する。より詳しく説明すると,本発明はコンパクトであっても,イオンポンプとゲッターポンプとを併用できる真空作成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
汚染や外的擾乱の少ない超高真空環境の作成維持技術は,デバイス開発やナノサイエンスに関わる細密計測,加工において必須かつ重要な基盤技術である。例えば,高分解能の電子顕微鏡では,高い空間分解能を実現するために顕微鏡内部を10-11パスカル前後の超高真空状態に常に維持する必要がある。高度なデバイス加工に必要となる超薄膜やナノ構造を作製する際にもコンタミネーションを極限的に避ける必要があることから,その内部を超高真空状態に維持する必要がある。このような,10-8パスカル以上の真空度を作製し維持するためには真空イオンポンプを真空チャンバーに取り付けて運用する必要があるが,一般的な真空イオンポンプは重厚長大であることから従来技術に基づく限り,その装置規模は極めて大型なものとならざるを得なかった。
【0003】
従来技術によるイオンポンプはその基本性能に比して不釣り合いなほどに重厚長大であり,超高真空技術の応用における足かせとなっていた。この状況を改善し,超高真空技術の運用性を飛躍的に高める目的で申請者は同軸中空多段磁界型真空イオンポンプを平成19年度に開発し特許出願した。これは従来技術によるイオンポンプを劇的に小型軽量化する技術であり,すでに民間企業に移転され市販品に組み込まれて高い評価を受けている。さらに,この新技術によって実現されるイオンポンプは基本的には同軸中空構造となることから,ポンプの内部電極を中空円筒型とすることでポンプ機構そのものを超高真空容器の内壁に埋め込むことも可能であり,かつ中空円筒内部に機能性を持つユニットが組み込め,排気性能とスペース効率を高度な次元にて両立しかつ市販乾電池にても動作可能という,これまでに類を見ない画期的な技術革新となった。
【0004】
これらのイオンポンプ技術をベースに複数のポンプエレメント(サプリメーションエレメント,加熱活性型ゲッターエレメント)を組み合わせることによって必要とする真空度や装置規模に応じて,その排気性能を最適化するためのシステム化技術(スタッカブルポンプシステム)を開発しその有用性をさらに高めた。特に,イオンポンプの加熱活性型ゲッターエレメントの組み合わせは10-8パスカル~10-9パスカルレベルの極高真空(XHV)領域における動作安定性で優れており,極限技術としての有用性に秀でている。
【0005】
スタッカブルポンプシステムでは複数のポンプエレメントを連結して使用するためスペース的なデメリットが生じる。また,システム内に加熱活性型ゲッターエレメントを組み入れた場合には活性化プロセスのための加熱機構を内蔵する必要があるため,スペース的なデメリットを生じるとともに,配線やヒーターブロックなど内部構造が複雑になることから,その中空円筒内部に機能性ユニットを組み込むことが困難であった。また,加熱に伴う輻射熱がチャンバー内の構造に熱ストレスを与えるという問題もある。
【0006】
一方,特許第4835756号公報には,イオンポンプシステム及び電磁場発生装置が記載されている。また,特許第5495145号公報には,イオンポンプシステムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4835756号公報
【文献】特許第5495145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は,コンパクトであっても,イオンポンプとゲッターポンプとを併用できる真空作成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は,基本的には,ヒータと多段磁石とを円筒状のケーシング外に設置できるようにして,ケーシング内壁とゲッター物質とが接するように配置することで,イオンポンプとゲッターポンプとを併用できる真空作成装置を提供できるという知見に基づく。これにより,ヒータをケーシング内に設ける必要がなくなり,磁石等のイオンポンプの構成要素の劣化を効果的に防止でき,しかもイオンポンプとゲッターポンプとを併用できかつ内部を中空構造にする事ができ,機能性ユニットが組み込めるスペースを確保できることとなる。
【0010】
本発明は, 真空作成装置11に関する。
この真空作成装置11は,
円筒状のケーシング1と,
円筒状のケーシング1の円筒部分の外側から円筒状のケーシングを加熱するためのヒータ3を取り付けるためのヒータ取り付け部5と,
円筒状のケーシング1の内壁と接触し,ヒータ3からの熱が伝わるゲッターエレメント9とを含む。
【0011】
この真空作成装置11の好ましいものは,円筒状のケーシング1の円筒部分の外側に多段磁石13を取りつけるための多段磁石取り付け部17をさらに有するものである。なお,ヒータ3と多段磁石13とは円筒状のケーシング1から取り外しでき,真空作成装置11がイオンポンプとして機能する際には多段磁石13が取り付けられ,真空作成装置11がゲッターポンプとして機能する際には(多段磁石13を取り除き)ヒータ3が取り付けられるようにしてもよい。この場合,ヒータ取り付け部5と多段磁石取り付け部17とが同じ部分であってもよい。つまりヒータ3と多段磁石とが取り換え可能であってもよい。特に,一連の(一回の)真空処理において,ヒータ3と多段磁石とが取り換え可能であってもよい。この場合,多段磁石3を用いたイオンポンプにより1次脱気後に,ヒータ3を用いてゲッターポンプとして2次脱気できる。その後,ヒータを多段磁石に取り換えて,3次脱気やゲッターの洗浄を行うこともできる。また,ヒータ3と多段磁石13とが円筒状のケーシング1の円筒部分の外側にタンデムに存在するようにされてもよい。
【0012】
この真空作成装置11の好ましいものは,ゲッターエレメント9が,熱伝導性物質を介して円筒状のケーシング1の内壁と接着されたものである。この真空作成装置11は,ケーシング1の外のヒータによりゲッターエレメント9が加熱されるので,ゲッターエレメント9が,熱伝導性物質を介して円筒状のケーシング1の内壁と接着していることで,ゲッターを効果的に加熱できる。この事により内部にヒータを配置する事が不要となり,機能性ユニットを組み込める中空空間が確保できる事となる。
【0013】
この真空作成装置11の好ましいものは,円筒状のケーシング1内部に設けられた円筒状の第1の電極15をさらに有し,ゲッターエレメント9は,第1の電極17の穴部19を介して,円筒状のケーシング1の内壁と接触したものである。この穴部19は,多段磁石13のサドルポイントに一致するように設計されることが好ましい。サドルポイントは,通常,多段磁石13を構成するそれぞれの磁石のN極とS極との間の部分に相当する位置(それぞれの磁石の中心から真空作成装置11の中心線に向けた垂線上の位置)である。
【0014】
この真空作成装置11の好ましいものは,円筒状のケーシングの円筒部分の外側に設けられたヒータ3と,多段磁石13とをさらに有するもの(タンデム型のもの)である。
【0015】
この真空作成装置11を利用した真空処理方法の例は,以下のとおりである。
まず,円筒状のケーシング1を有する真空作成装置11を用いて1次真空処理を行う。この工程は,イオンポンプによる真空処理である。
次に,円筒状のケーシング1の円筒部分の外側から多段磁石13を取り除く。
その後,円筒状のケーシング1の円筒部分の外側にヒータ3を取り付ける。
そして,ヒータ3を用いて,円筒状のケーシング1を加熱し,円筒状のケーシング1の内壁に接触したゲッターエレメント9を活性化する。これによりゲッターポンプによる真空処理(2次真空処理)を行う。
このようにすれば,イオンポンプが捕捉しやすい対象のみならず,ゲッターポンプが捕捉しやすい対象をも効果的に捕捉できるため,より効果的に高い真空度を達成できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は,コンパクトであっても,イオンポンプとゲッターポンプとを併用できる真空作成装置が提供できかつ中空空間を確保できることにより内部に機能性ユニットを配置する事が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は,本発明の真空作成装置の構成を説明するための概念図である。
図2図2は,円筒状ケーシングの外観を説明するための概念図である。
図3図3は,ヒータが取り付けられた真空作成装置の構成を説明するための概念図である。
図4図4は,多段磁石が取り付けられた真空作成装置の構成を説明するための概念図である。
図5図5は,第1の電極の例を説明するための概念図である。
図6図6は,タンデム型の真空作成装置の構成を説明するための概念図である。
図7図7は,ゲッターポンプ(a)及びイオンポンプ(b)として機能する真空作成装置の例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下,図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜修正したものも含む。
【0019】
本発明は, 真空作成装置11に関する。図1は,本発明の真空作成装置11の構成を説明するための概念図である。図2は,円筒状ケーシングの外観を説明するための概念図である。図3は,ヒータが取り付けられた真空作成装置の構成を説明するための概念図である。真空作成装置は,真空装置やポンプともよばれ,例えば,真空作成装置と接続部を介して接続されたチャンバ内の空気を引くことで,チャンバ内の真空度を高めることができる装置である。
【0020】
この真空作成装置11は,円筒状のケーシング1を有しており,基本的には,イオンポンプの基本構成を備える。そして,この真空作成装置11は,ヒータ取り付け部5とゲッターエレメント9とを含む。
ヒータ取り付け部5は,円筒状のケーシング1の円筒部分の外側から円筒状のケーシングを加熱するための部位である。円筒状のケーシング1は,例えばその一端には(ほかの要素と接続するための)フランジ21が設けられ,残りの端部にはフランジが設けられていない。この一方の端にのみ存在するフランジ21と,円筒状のケーシング1とが,ヒータ取り付け部5を構成する。すなわち,ヒータ3が,例えば,円筒状のケーシング1の円筒の外周面と接する構造(中空円筒状の外形を有する構造)をしており,円筒状のケーシング1の解放端(フランジがない端部)からフランジ21に接するまでヒータ3を挿入することで,真空作成装置11にヒータ3を取り付けることができる。
【0021】
ヒータの昇温温度は,特に限定されないが,例えば300度~600度である。ヒータの昇温温度は,ゲッター物質の材料や両者の位置関係等に応じて適宜調節すればよい。ヒータの例は電熱線である。
【0022】
ケーシング1は,真空作成装置の枠体である。ケーシング1の形状として,円筒状のものがあげられる。この枠体内に,各種電極などが形成されていてもよい。また,電極を駆動するための配線などが設けられており,駆動信号源から駆動信号を受け,内部の電極に伝播できるものが好ましい。ケーシング1の材質として,アルミニウム,チタン,又はステンレスなど公知のものがあげられる。これらの中では,ケーシング1内壁そのものを第2の電極群又は第1の電極群を構成する電極として用いることができるので,表面にチタンが蒸着されたアルミニウムが好ましい。このようにすることで,真空作成装置を軽くすることができるとともに,構造をシンプルにして,小さくすることもできる。もっとも,電極とケーシング1とが,同心円状に設けられ,それらの隙間に複数の磁石が設けられるとともに,それら複数の磁石間に電極とケーシング1とを接続する電極固定部が設けられてもよい。そのようにすることで,電極を効果的にケーシング1と固定することができる。
【0023】
この真空作成装置11は,円筒状のケーシング1の内壁と接触し,ヒータ3からの熱が伝わるゲッターエレメント9とを含む。ゲッターエレメント9は,ゲッター物質そのものであってもよいし,ゲッター物質を収容した要素であってもよい。ゲッターエレメント9は,ゲッター物質そのものである場合,例えば,ケーシング1の内壁にゲッター物質を堆積させればよい。このゲッター物質の堆積物からなるゲッターエレメントは,例えば,ケーシングの内壁にマスキングを行い,ゲッター物質の堆積物を作成する位置のみ穴をあけて置き,ゲッター物質を蒸発付着(例えばCVDスパッタ蒸着処理)することで,所定の位置にゲッター物質の堆積物からなるゲッターエレメントを得ることができる。この場合,多段磁石のサドルポイントがマスキングの穴の中心位置となるように設計し,ゲッター物質の堆積物を得ることが好ましい。すると,多段磁石のサドルポイントにゲッターエレメントを設けることができる。ゲッターエレメント9が,ゲッター物質を収容した要素である場合は,例えばメッシュ状の籠(かご:ケーシング)と,籠の内部に収容されたゲッター物質を含むものが好ましい。この場合,ゲッター物質は,非蒸発性を有するゲッター合金の粉末であることが好ましい。この粉末は,粒子径がメッシュの網目より大きなサイズであることが好ましい。メッシュの網目のサイズは,任意である。メッシュの網目の面積の例は,0.001mm以上1cm以下であり,0.01mm以上10mm以下でもよいし,0.1mm以上1mm以下でもよい。粒子状のゲッター物質は,ゲッター物質の塊を粉砕(又は解砕)し,ふるいを用いて,所定の領域の大きさのゲッター物質のみを集めればよい。その際に,メッシュの網目の大きさを考慮し,ゲッター物質が,籠から抜け出さない大きさとすればよい。ゲッター物質は,籠内にできるだけ密集するように詰められることが好ましい。一方,ゲッターエレメント9の空隙率が高い方が,ゲッターエレメントの内部までガスが浸透するので,ゲッターエレメントの空隙率は3体積%~50体積%であることが好ましく,5体積%~20体積%でもよく,5体積%~10体積%でもよい。
【0024】
ゲッター物質は公知である。ゲッター物質は,真空中で加熱されることで活性化し,連鎖反応によって水素等のガス分子を連続的に吸蔵する部材である。ゲッター物質は,ゲッター作用のある公知の,水素等のガス分子吸蔵作用のある素材を用いることができる。例えば,ゲッター物質の例は,Ti,V,Feなどからなる合金である。例えば,特許5997293号公報には,遷移金属酸化物及び金属パラジウムの粉末の混合物を含むゲッター物質が記載されている。このゲッター物質の金属パラジウムの量は,0.2から2重量%の範囲であり,遷移金属酸化物は酸化セリウム及び酸化銅を含み,及び酸化銅は5から50%,好ましくは10から20%の範囲の量で存在している。また,特許第5852298号公報には,a.チタン:60~85原子パーセント,b.シリコン:1~20原子パーセント,c.バナジウム,鉄,及びアルミニウム:合計で10~30原子パーセントを含むゲッター物質が記載されている。
【0025】
この真空作成装置11の好ましいものは,円筒状のケーシング1の円筒部分の外側に多段磁石13を取りつけるための多段磁石取り付け部17をさらに有するものである。一方の端にのみ存在するフランジ21と,円筒状のケーシング1とが,多段磁石取り付け部17を構成してもよい。なお,ヒータ3と多段磁石13とは円筒状のケーシング1から取り外しでき,真空作成装置11がイオンポンプとして機能する際には多段磁石13が取り付けられ,真空作成装置11のゲッターエレメントを活性化する際には(多段磁石13を取り除き)ヒータ3が取り付けられるようにしてもよい。この場合,ヒータ取り付け部5と多段磁石取り付け部17とが同じ部分であってもよい。また,ヒータ3と多段磁石13とが円筒状のケーシング1の円筒部分の外側にタンデムに存在するようにされてもよい。
【0026】
多段磁石13は,多段磁石13の内周面に,円筒状のケーシング1の円筒部分を収容できる形状であることが好ましい。つまり,円筒状のケーシング1の解放端(フランジがない端部)からフランジ21に接するまで多段磁石13を挿入することで,真空作成装置11に多段磁石13を取り付けることができる。磁石の種類として,イオンポンプに用いられる公知のものを適宜用いることができる。具体的には,電磁コイルを用いてもよいし,永久磁石を用いてもよい。多段磁石13の例は,ケーシング1の中心軸に平行な方向(ケーシング1の長手方向)に空間を空けて並んだ複数の中空円筒状永久磁石である。それぞれの円筒状永久磁石の内面は,ケーシング1の外周を収容できる形状(それぞれの円筒状永久磁石の内壁の直径が,ケーシング1の外周の直径と同じかそれより大きい形状)となっている。すなわち,この態様の多段磁石13は,リング状の永久磁石を複数並べることで形成される。一方,複数の円筒状永久磁石は,隣接する円筒状永久磁石の磁極が同じである(N極とN極,又はS極とS極)となるようにタンデムに並べられることが好ましい。また,複数の円筒状永久磁石は,それぞれ所定の間隔をもって設置され,一体として稼働できるように多段磁石ユニットを形成していてもよい。このようにすることで,真空作成装置11から多段磁石13を容易に取り外しや取り付けすることができる。なお,多段磁石は,中抜け円筒状の形状をしており,円弧の真ん中から2つの半円部分に割れる形状であってもよい。このような形状であれば,ケーシング1の左右(又は上下)から2つの部分を組み合わせることで,ケーシングの円筒部分の外側に,多段磁石を設置できる。多段磁石を構成するそれぞれの磁石の間には,磁束ガイドが存在することが好ましい。
【0027】
この真空作成装置11の好ましいものは,ゲッターエレメント9が,熱伝導性物質を介して円筒状のケーシング1の内壁と接着されたものである。この真空作成装置11は,ケーシング1の外のヒータによりゲッターエレメント9が加熱されるので,ゲッターエレメント9が,熱伝導性物質を介して円筒状のケーシング1の内壁と接着していることで,ゲッターを効果的に加熱できる。ゲッターエレメント9は,単に物理的にケーシング1に接触するようにされていてもよい。一方,ゲッターエレメント9が,熱伝導性物質を介して円筒状のケーシング1の内壁と接着される場合,より効果的に,ヒータ3の熱をゲッター物質へ伝達できる。熱伝導性物質の例は,銅である。
【0028】
図5は,第1の電極の例を説明するための概念図である。この真空作成装置11の好ましいものは,円筒状のケーシング1内部に設けられた円筒状の第1の電極15をさらに有し,ゲッターエレメント9は,第1の電極17の穴部19(ゲッターエレメント取り付け部)を介して,円筒状のケーシング1の内壁と接触したものである。この穴部19は,多段磁石13のサドルポイントに一致するように設計されることが好ましい。サドルポイントは,通常,多段磁石13を構成するそれぞれの磁石のN極とS極との間の部分に相当する位置(それぞれの磁石の中心から真空作成装置11の中心線に向けた垂線上の位置)である。
【0029】
この真空作成装置11の好ましいものは,円筒状のケーシング1内部に設けられた第2の電極25をさらに有する。第2の電極25の例は,真空作成装置11のケーシング1の中心線上(円筒の中線上)に設けられるか,第1の電極15より直径が小さく,第1の電極15と同心円状に設けられた中空円筒状の電極である。そして,第1の電極と第2の電極とは,極性が異なるように調整される。第1の電極と第2の電極は,例えば,一方が陽極であり,残りが陰極であるように駆動される。陰極及び陽極の極性を変化させられるものが好ましい。このような極性の変化は,駆動手段の駆動電圧を変化させることで容易に達成できる。
【0030】
この真空作成装置11の好ましいものは,円筒状のケーシングの円筒部分の外側に設けられたヒータ3と,多段磁石13とをさらに有するもの(タンデム型のもの)である。
【0031】
接続部,ケーシング1又は本発明の真空作成装置1を他の装置と接続するための部位である。「他の装置」として,真空チャンバや試料室などの真空状態にする対象があげられる。具体的な接続部として,フランジがあげられる。なお,接続部は,電極固定部の一部をなしていてもよいし,これに代えて,電極固定部が,接続部の機能を兼ねるものであってもよい。
【0032】
図7は,ゲッターポンプ(a)及びイオンポンプ(b)として機能する真空作成装置の例を示す概念図である。本発明の真空作成装置1は,多段磁石を有する場合,イオンポンプとして機能する。イオンポンプの動作原理は公知である。イオンポンプの動作原理を,簡単に説明する。イオンポンプの陰極-陽極間に数kV程度の電圧を印加すると,陰極から一次電子が放出される。陰極から放射された一次電子は,陽極に引きつけられつつ,永久磁石から与えられる磁場の影響を受けるため,旋回して長い螺旋運動を描き,陽極に至る。この途中で,一次電子は中性のガス分子と衝突し,多数の正イオンと二次電子を生成する。生成した二次電子は更に螺旋運動を行って,他のガス分子と衝突して正イオンと電子を生成する。そして,各イオンなどは電極に吸着される。イオンポンプシステムは,上記の構成のほか,イオンポンプに用いられる公知の構成を適宜採用することができる。たとえば,適宜,加熱装置や冷却装置などが取り付けられていてもよい。冷却装置により冷却を行うことで,ガスの捕集効率を向上させることができる。一方,加熱装置で各電極を加熱することで,真空状態を維持することにより電極に捕捉されたガスを放出することができる。
【0033】
本発明の真空作成装置1は,ヒータを有する場合,ゲッターポンプとして機能する。加熱非蒸発型ゲッターポンプは,ケーシング内において,真空中にて加熱ヒータによる輻射熱にてゲッター材表面を加熱することでゲッター材を活性化することで排気を行う真空ポンプである。加熱非蒸発型ゲッターポンプの動作原理は,Ti-V-Fe等のゲッター材の表面及びガス吸蔵した内部を真空中で加熱することで吸蔵及び吸着ガスを排出させ,その後常温に戻すことによりガス吸蔵に関わる連鎖反応を引き起こし,ポンプとして機能させるというものである。イオンポンプは,窒素,ヘリウム,アルゴン等の不活性ガスを捕集し迅速に超高真空を作製することができるという利点があるものの,軽元素分子である水素に対してはその排気効率が悪いという欠点がある。他方,加熱非蒸発型ゲッターポンプは,絶対的な排気速度や低真空領域での動作において非力であるという欠点があるものの,水素に対しては高い排気能力を有する。そこで,本発明の真空作成装置1のように,イオンポンプと加熱非蒸発型ゲッターポンプを組み合わせることにより,これらのポンプの欠点を互いに補い合うことが可能である。従って,イオンポンプと加熱非蒸発型ゲッターポンプを組み合わせることで,使い勝手の良い真空作成装置1を提供できる。
【0034】
この真空作成装置11を利用した真空処理方法の例は,以下のとおりである。
まず,円筒状のケーシング1を有する真空作成装置11を用いて1次真空処理を行う。この工程は,イオンポンプによる真空処理である。
次に,円筒状のケーシング1の円筒部分の外側から多段磁石13を取り除く。
その後,円筒状のケーシング1の円筒部分の外側にヒータ3を取り付ける。
そして,ヒータ3を用いて,円筒状のケーシング1を加熱し,円筒状のケーシング1の内壁に接触したゲッターエレメント9を活性化する。これによりゲッターポンプによる真空処理(2次真空処理)を行う。
このようにすれば,イオンポンプが捕捉しやすい対象のみならず,ゲッターポンプが捕捉しやすい対象をも効果的に捕捉できるため,より効果的に高い真空度を達成できる。
【0035】
より具体的に,真空作成装置11を利用した真空処理方法を説明する。
真空としたい対象を,接続部を介して真空作成装置11と接続する。この際,ケーシング1の外に多段磁石13を設置する。この場合,真空作成装置11はイオンポンプとして機能するので,イオンポンプにより内部の空気を排気する。
次に,円筒状のケーシング1の円筒部分の外側から多段磁石13を取り除く。
その後,円筒状のケーシング1の円筒部分の外側にヒータ3を取り付ける。
そして,ヒータ3ごと,円筒状のケーシング1をベークアウトする(150℃~200℃)。例えば,24時間(例えば12時間以上2日以下でもよい)経過した後に,ヒータ3に通電して,円筒状のケーシング1の内壁に接触したゲッターエレメント9を例えば,200℃~300℃(例えば150℃~400℃でもよい)に加熱し,例えば,3時間(又は1時間~6時間)維持する。
【0036】
真空作成装置11内の圧力を監視し,圧力が安定した後に,ヒータ3に印可する電力を上げて,ゲッターエレメント9を例えば,300℃~400℃(例えば200℃~400℃でもよい)まで加熱し,ヒータの温度を維持する。ヒータの温度が上昇すると,10分程度で真空作成装置11内の圧力が下降する。この内圧の下降は,ゲッター物質が活性化したことによるものである。内圧が下降したことを確認した後に,例えば,10分程度(5分~20分でもよい)ヒータ加熱を維持した後,ヒータの電源を切る。この追加加熱により,イオンポンプの電極部分のガス放出も進行する。
ヒータの温度が下がった後に,ヒータを真空作成装置11から取り外す。
【0037】
その後,多段磁石13を真空作成装置11に取り付ける。この際に,多段磁石13が,あらかじめ定められた位置にあることを確認する。ケーシング1内の電極が完全に冷え切るまえに(真空作成装置11内の圧力が10-5パスカル~10-6パスカル程度のうちに),イオンポンプを構成する電極(例えば,第1電極及び第2電極)に例えば,7kV(3kV~15kV)の電圧を印可する。イオンポンプの放電に伴うガス放出により,真空作成装置11内の圧力が上昇する場合には,イオンポンプの電源を切り,内部の圧力が低下するのを待ってから,再度イオンポンプを構成する電極に電圧を印可する。真空作成装置11内の圧力が比較的高いうちにイオンポンプを構成する電極に電圧を印可することで,イオンポンプを構成する電極付近におけるペニング放電を促進できる。これにより,電極近傍にあるゲッターエレメントやゲッター物質の活性化がより進行する。
【0038】
その後,真空作成装置11が冷却されることや,イオンポンプが起動されることで,真空度が向上し,例えば,10-8パスカル~10-9パスカル程度にて安定化する。この真空度の領域では,イオンポンプの排気速度が下降するものの,ゲッターエレメントがこの排気速度の下降を補う。また,この領域ではゲッターエレメントの表面に不活性膜が加速度的に形成されることもないので,イオンポンプは休止状態にあっても真空維持に際してほとんど影響を与えない。結果として,イオンポンプの動作電力を極小レベルに低減することができる。
【0039】
上記の工程によっても,超高真空(例えば,10-8パスカル~10-9パスカル)に至らない場合は,各部からの漏れ(リーク)がないことを確認し,多段磁石をケーシング1に取り付けたまま,真空作成装置11以外の部分を加熱する。すると,真空作成装置11内部の圧力が上昇し,イオンポンプ電極付近でペニング放電が起こる。ゲッターエレメントは圧力が高い状態に長時間さらすと,表面に不活性膜が形成されポンプエレメントとしての機能が低下するものの,上記のとおり,イオンポンプとハイブリッド化された本発明の真空作成装置11であれば,イオンポンプの動作によって引き起こされたペニング放電によって,この不活性膜の生成を抑制でき,また不活性膜を除去できる。
このような効果のために,本発明の真空作成装置11では,ゲッター物質の活性化や活性状態の維持が効率的に行われるため,超高真空を作成維持するポンプとしての基本性能が飛躍的に高まることとなる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は,真空機器産業において利用されうる。本発明の真空作成装置は,例えば,イオンビーム加工装置や,各種プロセス装置,電離ガス発生装置,イオン源生成装置などに好適に適用できる。また,本発明の真空作成装置は,例えば,放射光施設や,イオントラップ,原子時計などにも好適に適用できる。
【符号の説明】
【0041】
1 円筒状のケーシング
3 ヒータ
5 ヒータ取り付け部
9 ゲッターエレメント
11 真空作成装置
13 多段磁石
15 第1の電極
17 多段磁石取り付け部
19 穴部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7