(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】吊荷押圧金具、並びにそれを用いた吊荷懸吊方法及び嚢体荷積方法
(51)【国際特許分類】
B66C 1/12 20060101AFI20220118BHJP
B66C 1/18 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
B66C1/12 M
B66C1/18 B
(21)【出願番号】P 2019002551
(22)【出願日】2019-01-10
【審査請求日】2021-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2018245719
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502392711
【氏名又は名称】株式会社グリーン有機資材
(74)【代理人】
【識別番号】100121371
【氏名又は名称】石田 和人
(72)【発明者】
【氏名】杉本 晃
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】奥田 俊文
(72)【発明者】
【氏名】上村 亨
(72)【発明者】
【氏名】今屋 康弘
(72)【発明者】
【氏名】下小牧 国博
【審査官】太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】特開平3-18595(JP,A)
【文献】実開平5-61186(JP,U)
【文献】実開平2-15985(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 1/00- 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
懸吊機械で吊り上げられる吊荷の上面を押圧する吊荷押圧金具であって、
4隅を持つ形状の枠体と、
前記枠体の4隅部に其々2つずつ設けられ、前記枠体の中心に対し外向きに開溝する溝状に形成されたベルト掛支部と、
前記ベルト掛支部の溝内面内の少なくとも上端縁を含む面領域であって、凸曲面状に形成されたベルト滑り面と、を備えたことを特徴とする吊荷押圧金具。
【請求項2】
前記枠体の各隅部の前記ベルト掛支部は、その開溝方向が、該隅部に接続する前記枠体の2つの辺の向きに対し、該隅部を通る前記枠体の対角線の方向に傾斜した向きとされていることを特徴とする、請求項1記載の吊荷押圧金具。
【請求項3】
請求項1又は2記載の吊荷押圧金具を用いて吊荷を懸吊する懸吊方法であって、
略方形の底敷材上に吊荷を載荷し、
前記吊荷押圧金具の前記枠体の4隅部の其々において、上端で折り返された荷側吊ベルトの左右の側を、其々2つの前記ベルト掛支部に摺動自在に掛支し、さらにその下側を真下方向に降ろすように引き廻した状態で、該荷側吊ベルトの下端側を前記底敷材に繋げ前記吊荷を支持するように該荷側吊ベルトを該吊荷に掛け廻し、
前記枠体の4隅部の前記各ベルト掛支部に掛支された前記荷側吊ベルトの上端の折り返し部を、前記枠体の中央上方に位置するクレーンフックに、中継用吊ベルトを介して掛支し、
前記クレーンフックを上昇させることにより、前記中継用吊ベルトを介して前記枠体の4隅部の前記荷側吊ベルトの上端の折り返し部を前記枠体の中央上方に向かって引き上げることで、前記枠体を前記底敷材の側に押し付けて前記吊荷の上面を押圧することを特徴とする吊荷懸吊方法。
【請求項4】
前記枠体の4隅部のうち、隣設する1対の隅部に設けられた前記荷側吊ベルトを荷側吊ベルトB1,B2とし、残りの2つの隅部に設けられた前記荷側吊ベルトを荷側吊ベルトB3,B4とするとき、
前記中継用吊ベルトは、
前記荷側吊ベルトB1,B2の上端の折り返し部及び前記クレーンフックに環状に廻し掛けられた第1の中継用吊ベルトと、
前記荷側吊ベルトB3,B4の上端の折り返し部及び前記クレーンフックに環状に廻し掛けられた第2の中継用吊ベルトと、を含むことを特徴とする請求項3記載の吊荷懸吊方法。
【請求項5】
内容物が封入された嚢体を運搬車の荷台に荷積する嚢体荷積方法であって、
各々の前記嚢体に空気抜孔を形成した後、略方形の底敷材上に、前記嚢体を集積して嚢体集積体を形成し、
前記嚢体集積体の上面に請求項1又は2記載の吊荷押圧金具を載せ、
前記吊荷押圧金具の前記枠体の4隅部の其々において、上端で折り返された荷側吊ベルトの左右の側を、其々2つの前記ベルト掛支部に掛け、さらにその下側を真下方向に降ろすように引き廻した状態で、該荷側吊ベルトの下端側を前記底敷材に繋げ前記嚢体集積体を支持するように該荷側吊ベルトを該吊荷に掛け廻し、
前記枠体の4隅部の前記各ベルト掛支部に掛けられた前記荷側吊ベルトの上端の折り返し部を、前記枠体の中央上方に位置するクレーンフックに、中継用吊ベルトを介して掛支し、
前記クレーンフックを上昇させることにより、前記中継用吊ベルトを介して前記枠体の4隅部の前記荷側吊ベルトの上端の折り返し部を前記枠体の中央上方に向かって引き上げることで、前記枠体を前記底敷材の側に押し付けて前記嚢体集積体の上面を押圧することにより、前記嚢体集積体を構成する各々の前記嚢体を圧縮しつつ、前記運搬車の荷台に荷積することを特徴とする嚢体荷積方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊荷をクレーン等の揚重機で吊り上げる荷役作業の際に使用される金具及び其れを使用した吊荷の懸吊方法及び嚢体の荷積方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肥料、緑化資材、セメント等が充填された叺形の嚢体(ふくろのような形の物体)を工場からトラックの荷台に積載して運搬する場合、嚢体の積荷作業は、従来、手積み(作業者が手で抱え上げて荷積みすること)によって行われてきた。然し、近年は、省力化と作業の効率化のため、工場内でロボットにより平パレット(JIS Z 0106:1997参照)やシート畚(もっこ)(特許文献11-15参照)上に、嚢体を積層した嚢体集積体(特許文献11の
図2,特許文献12の
図3、特許文献15の
図2参照)を形成し、この嚢体集積体を平パレットや畚ごとフォークリフトやクレーン等の揚重機によりトラックの荷台に荷積し又は荷台から荷下ろしする手法が採られている。荷積や荷下しする現場が、山間部や路面状況が悪い場所の場合、荷積・荷下し作業ではクレーンが用いられるのが一般的である。この場合、平パレットや畚を吊ベルト(合成繊維で作られたベルトを用いたスリング)によりクレーンフックに玉掛けして吊上げることになり、吊ベルトはクレーンフックの1点で支持される。従って、そのままでは吊ベルトが嚢体集積体に食い込んで荷崩れを生じる(例えば、特許文献11の
図4,
図5参照)。そこで、嚢体集積体を懸吊する吊ベルトが、嚢体集積体の側部で鉛直方向となるようにするための補助金具として、従来から吊金具が使用されている。
【0003】
従来の吊金具としては、特許文献1-10に記載のものが公知である。特許文献1-5に記載の吊金具は、フレキシブルコンテナ(フレコン)用の吊金具である。これらの吊金具は、平面視で方形状の外形を有する鋼枠体により構成され、その4隅にフレコンの吊ベルトを掛止する構成となっている(特許文献1の
図1,特許文献2の
図8,特許文献3の
図6,特許文献4の
図1,特許文献5の
図1参照)。特許文献6記載の吊金具は、船舶用の吊金具であり、同じく、平面視で方形状の外形を有する鋼枠体により構成され、前側2隅と後ろ側2隅とに輪状のベルトスリングを掛けて鋼枠体下側にベルトスリングにより船舶を吊り下げると共に、鋼枠体の上部4隅を其々ワイヤで繋止して、これら4本のワイヤをクレーンフックに掛着することにより船舶を吊り上げる構成となっている(仝文献
図17参照)。特許文献7記載の吊金具は、左右両側にアイ金具からなる吊り点(5)が設けられた吊揚対象物を吊り上げるための吊金具である(仝文献
図1参照)。この吊金具は、直棒状の鋼材(吊り天秤本体1)の両端部にワイヤ支点(パイプ材(3))を設け、左右の吊り点(5,5)の其々をワイヤロープ(2,2)によりクレーンフック(6)に掛支し、両ワイヤロープ(2,2)の中間を、水平に配置した吊金具の両側のワイヤ支点(3)に掛けて両ワイヤロープ(2,2)の中間を押し広げて、ワイヤ支点(3)から吊り点(5)の間のワイヤロープ(2)が鉛直に垂下するようにするとともに、ワイヤ支点(3)に掛けられたワイヤロープ(2)の該ワイヤ支点(3)の両側をワイヤクリップ(7,7)により固定した構成とされている。特許文献8記載の吊金具は、円鋼板状の支持枠(調整治具(13))の周縁に、12個のU字状凹溝(24,25,26)が等間隔に形成され、4本のチェーンスリングを此等のU字状凹溝の4つに掛けて鉛直に垂らし、此等チェーンスリングの上端を揚重機の吊り輪に係止するとともに、此等チェーンスリングの下端にフック(20)を設け、此等の4つのフック(20)に、ベルトスリングにより吊荷を玉掛けして懸吊するものである(仝文献
図1,
図3参照)。特許文献9記載の吊金具は、屋根瓦用の吊金具であり、立方体の上面に四角錐が結合した尖頭立方体の外形形状をした剛性の枠体(鉄筋(11))の底辺(3)にパレット(B)を取り付けると共に、枠体の尖頭部の頂点に吊上用の上部フック(10)を設けた構成を有するものである(仝文献
図1,
図3参照)。この吊金具では、屋根瓦をパレット(B)上に積載して上部フック(10)にクレーンフックを係合させて懸吊作業を行う。特許文献10記載の吊金具は、石材などの重量物をワイヤロープで懸吊する際のずれ止めに用いられる金具(ずれ止め具(a))であって、矩形状の盤体(1)の4隅に、肉厚方向に貫通する凹溝(2)を外周面より凹設し、盤体(1)の裏面に滑り止め材としてのラバー(3)を接合した構成を有している(仝文献
図1参照)。吊荷(4)を懸吊する場合には、このずれ止め具(a)を吊荷(4)の上面に載置し、吊荷(4)を吊り下げる4本のワイヤーロープ(5)を、其々、ずれ止め具(a)の凹溝(2)に係止することで、ワイヤーロープ(5)の吊り角αを一定に保持する(仝文献〔0009〕,
図2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開昭62-029381号公報
【文献】実開昭62-011881号公報
【文献】実開昭61-189077号公報
【文献】実開昭61-189076号公報
【文献】実開昭61-185771号公報
【文献】特開2008-013293号公報
【文献】特開2002-255472号公報
【文献】特開2015-006935号公報
【文献】実開平02-015985号公報
【文献】実開平06-039873号公報
【文献】実開昭64-045683号公報
【文献】特開平08-143265号公報
【文献】実開昭56-141166号公報
【文献】実開昭56-141166号公報
【文献】実開昭50-130065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
然し乍ら、上述のように、平パレットやシート畚上に嚢体を積層した嚢体集積体を形成し、この嚢体集積体を平パレットや畚ごとフォークリフトやクレーン等の揚重機によりトラックの荷台に荷積し又は荷台から荷下ろしする場合(以下、この手法を「機械積み」という。)、従来の手積みによる手法と比べて、荷台への積載効率が大きく減少し、嚢体の輸送効率が低下するという問題があった。トラックの荷台の縦横サイズをdl×wl (wl<dl)とし、荷台に積載可能な高さをhlとして、この荷台に、縦・横・高さのサイズがd0×w0×h0(w0<d0)の叺形の嚢袋(例えば、肥料袋等)を積み込む場合を考える。嚢体集積体は、Ns個の嚢袋を直方体状に積層したものであるとして、その縦・横・高さサイズはdp×wp×hpであるとする。トラックの荷台に積載可能な嚢袋の最大値は、正確には直方体充填問題(cuboid packing probrem)を解くことにより求められるが、ここでは簡単な見積もりをするため、嚢袋又は嚢体集積体を全て同向きに向けて積載するものと仮定する。この場合、手積みでは、荷台に積載可能な嚢袋の数N1は式(1a)のようになり、嚢体集積体による機械積みの場合、荷台に積載可能な嚢袋の数N2は式(1b)のようになる。
【0006】
【0007】
例えば、トラックの荷台の縦・横サイズをdl×wl=6.2m×2.4m(7tトラックの標準サイズ)、荷台のあおりの高さをhg=90cm、荷台に積載可能な高さをhl=1.2m、嚢袋1個当たりのサイズをd0×w0×h0=68cm×46cm×12cm(一般的な肥料袋のサイズ)、嚢体集積体の嚢袋数をNs=5個×10段=50個、嚢体集積体のサイズをdp×wp×hp=138cm×115cm×120cmとすると、手積みで荷台に積載可能な嚢袋の数はN1=450個、機械積みで荷台に積載可能な嚢袋の数はN2=400個となる。このように、機械積みの場合には、従来の手積みの場合に比べて、荷台に積載できる嚢袋の個数がかなり減少するという問題がある。
【0008】
また、機械積みの場合において、嚢体集積体を方形のシート畚(シートスリング)上に置いて吊荷とし、これを吊ベルトでクレーンフックに玉掛けして懸吊する場合(特許文献11-15参照)においては、懸吊の際に吊ベルトが嚢体集積体に一定量食い込み、嚢体集積体の列が乱れる列乱れ(特許文献11の
図4参照)や、吊荷を懸吊状態から地面に下ろしたときに嚢体集積体の列間が開く中割れ(特許文献11の
図5参照)といった荷崩れ現象を生じやすいという問題がある。そのため、従来は、特許文献1-6,8,10に示されたような吊金具を吊荷の上側に配設し、この吊金具の縁の下側に吊ベルトを鉛直向きに垂下するようにして吊荷に吊ベルトを回し掛けするとともに、吊金具自体を上部からクレーン等で懸吊する手法が採られてきた。これらの吊金具は、その下部で吊荷を吊り下げる吊ベルトの引っ張り方向をなるべく鉛直向きとすることで、各吊ベルトから吊荷に対して水平方向の力が加わり難くし、吊荷の荷崩れを生じさせないようにしたものである。
【0009】
然し乍ら、吊荷が嚢体集積体のようにバラ物の集積体である場合、これら従来の吊金具では、吊荷の懸吊中にクレーンによる横揺れの慣性力が加わると、積層された嚢体同士が滑り、荷崩れ現象を生じやすいという問題があった。そのため、実際の作業現場では、嚢体集積体を紐やラップ等の梱包材で梱包して荷崩れが生じないように固定した上で懸吊する手法が採られている。然し、嚢体集積体を紐やラップ等で梱包すると、嚢体集積体を現場に荷下ろしした際にこれらを詰めて並べ置くと、梱包に用いた紐やラップ等が隣り合う嚢体集積体の間に挟まれた状態となるため、荷下ろし後にこれらの梱包材を容易に取り除くことができない。そのため、個々の嚢体を取り出す際には、梱包材を除きつつ上側から順に1つずつ嚢体を取り出す必要があり、どうしても作業現場での作業効率が低下してしまうという課題があった。また、現場で梱包材がゴミとして発生し、これらを回収し廃棄する手間が余分に生じるという問題もあった。
【0010】
そこで、本発明の目的は、吊荷である嚢体集積体を紐やラップ等の梱包材で梱包することなく、吊荷をクレーン等の揚重機で懸吊・移動する際に荷崩れ現象が生じることを防止することが可能で、且つ吊荷の懸吊作業も容易な吊荷押圧金具及びそれを用いた懸吊方法を提供することにある。
【0011】
また、本発明の目的は、吊荷である嚢体集積体を平パレットやシート畚ごとクレーンによりトラックの荷台に積載する場合でも、荷台への積載効率を向上させることが可能な嚢体荷積方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る吊荷押圧金具の第1の構成は、懸吊機械で吊り上げられる吊荷の上面を押圧する吊荷押圧金具であって、
4隅を持つ形状の枠体と、
前記枠体の4隅部に其々2つずつ設けられ、前記枠体の中心に対し外向きに開溝する溝状に形成されたベルト掛支部と、
前記ベルト掛支部の溝内面内の少なくとも上端縁を含む面領域であって、凸曲面状に形成されたベルト滑り面と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、吊荷の上面にこの吊荷押圧金具を載せ、8本の吊ベルトの中間部分を、其々のベルト掛支部のベルト滑り面に摺動自在に掛支した状態として、吊ベルトの上端側をクレーンフックに掛支し、吊ベルトの下端側を吊荷に回し掛けして、吊荷をクレーンフックに玉掛けする。尚、枠体の各々の隅部に2つ設けられたベルト掛支部を通る吊ベルトは、上端が繋がったものとして上端で折り返したものとし、クレーンフックに折り返し部を引掛するようにしてもよい。この状態でクレーンフックを上昇させると、各吊ベルトに張力が働き、ベルト滑り面に引っ掛けられた吊ベルトはベルト滑り面に対して上方に滑るとともに、枠体から吊荷へ押圧力が加わる。これにより、吊荷は圧縮され、吊荷内部の隙間が潰れて荷崩れしにくくなる。
【0014】
ここで、枠体の形状は「4隅を持つ形状」であり、必ずしも方形でなくてもよく、例えば、「×」のような十字形、円形枠の円周に等間隔で4本の短棒体が半径方向に突き出したような形状、方形の格子状形状等も含まれる。また、「枠体の中心に対し外向きに開溝する溝状」の具体的な形状としては、凵字状やU字状が含まれる。
【0015】
本発明に係る吊荷押圧金具の第2の構成は、前記第1の構成に於いて、前記枠体の各隅部の前記ベルト掛支部は、その開溝方向が、該隅部に接続する前記枠体の2つの辺の向きに対し、該隅部を通る前記枠体の対角線の方向に傾斜した向きとされていることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、各隅部のベルト掛支部の開溝方向を、該隅部に接続する枠体の2つの辺の向きに対し、該隅部を通る枠体の対角線の方向に傾斜させることで、ベルト掛支部で曲折した吊ベルトの両辺を含む鉛直平面に対してベルト掛支部の溝の底面方向が略垂直となり、吊ベルトが引っ張られた際に、吊ベルトがベルト掛支部の溝の片側に極端に偏倚することがなくなる。これにより、ベルト掛支部の溝内で吊ベルトが捩れて吊ベルトとベルト滑り面との間の摩擦力が増すことを防止することが出来、枠体から吊荷へ働く押圧力をより大きくすることができる。
【0017】
本発明に係る吊荷懸吊方法の第1の構成は、前記第1又は2の構成の吊荷押圧金具を用いて吊荷を懸吊する懸吊方法であって、
略方形の底敷材上に吊荷を載荷し、
前記吊荷押圧金具の前記枠体の4隅部の其々において、上端で折り返された荷側吊ベルトの左右の側を、其々2つの前記ベルト掛支部に摺動自在に掛支し、さらにその下側を真下方向に降ろすように引き廻した状態で、該荷側吊ベルトの下端側を前記底敷材に繋げ前記吊荷を支持するように該荷側吊ベルトを該吊荷に掛け廻し、
前記枠体の4隅部の前記各ベルト掛支部に掛けられた前記荷側吊ベルトの上端の折り返し部を、前記枠体の中央上方に位置するクレーンフックに、中継用吊ベルトを介して掛支し、
前記クレーンフックを上昇させることにより、前記中継用吊ベルトを介して前記枠体の4隅部の前記荷側吊ベルトの上端の折り返し部を前記枠体の中央上方に向かって引き上げることで、前記枠体を前記底敷材の側に押し付けて前記吊荷の上面を押圧することを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、枠体の各隅部の荷側吊ベルトの上端の折り返し部を、中継用吊ベルトを介してクレーンフックに掛けるようにすることで、中継用吊ベルトによって、クレーンフックからベルト掛支部までの吊ベルトの距離(以下「上側吊ベルト長」という。)を容易に調節できる。従って、この上部ベルト長をできるだけ短くすることで、枠体の成す面とクレーンフックからベルト掛支部までの吊ベルト(以下「上側吊ベルト」という。)の成す角θが小さくなり、枠体から吊荷へ働く押圧力を大きくすることができる。
【0019】
本発明に係る吊荷懸吊方法の第2の構成は、前記第1の構成に於いて、前記枠体の4隅部のうち、隣設する1対の隅部に設けられた前記荷側吊ベルトを荷側吊ベルトB1,B2とし、残りの2つの隅部に設けられた前記荷側吊ベルトを荷側吊ベルトB3,B4とするとき、
前記中継用吊ベルトは、
前記荷側吊ベルトB1,B2の上端の折り返し部及び前記クレーンフックに環状に廻し掛けられた第1の中継用吊ベルトと、
前記荷側吊ベルトB3,B4の上端の折り返し部及び前記クレーンフックに環状に廻し掛けられた第2の中継用吊ベルトと、を含むことを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、第1,第2の中継用吊ベルトにより、荷側吊ベルトB1,B2の上端の折り返し部間の距離及び荷側吊ベルトB3,B4の上端の折り返し部間の距離が絞られる。これにより、枠体の成す面と上側吊ベルトの成す角θが小さくなり、枠体から吊荷へ働く押圧力を大きくすることができる。
【0021】
本発明に係る嚢体荷積方法は、内容物が封入された嚢体を運搬車の荷台に荷積する嚢体荷積方法であって、
各々の前記嚢体に空気抜孔を形成した後、略方形の底敷材上に、前記嚢体を集積して嚢体集積体を形成し、
前記嚢体集積体の上面に前記第1又は2の構成の吊荷押圧金具を載せ、
前記吊荷押圧金具の前記枠体の4隅部の其々において、上端で折り返された荷側吊ベルトの左右の側を、其々2つの前記ベルト掛支部に掛け、さらにその下側を真下方向に降ろすように引き廻した状態で、該荷側吊ベルトの下端側を前記底敷材に繋げ前記嚢体集積体を支持するように該荷側吊ベルトを該吊荷に掛け廻し、
前記枠体の4隅部の前記各ベルト掛支部に掛けられた前記荷側吊ベルトの上端の折り返し部を、前記枠体の中央上方に位置するクレーンフックに、中継用吊ベルトを介して掛支し、
前記クレーンフックを上昇させることにより、前記中継用吊ベルトを介して前記枠体の4隅部の前記荷側吊ベルトの上端の折り返し部を前記枠体の中央上方に向かって引き上げることで、前記枠体を前記底敷材の側に押し付けて前記嚢体集積体の上面を押圧することにより、前記嚢体集積体を構成する各々の前記嚢体を圧縮しつつ、前記運搬車の荷台に荷積することを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、嚢体集積体を懸吊中に、吊荷押圧金具で嚢体集積体を押圧することにより嚢体集積体が圧縮されて、クレーンでの懸吊中に荷崩れを生じなくなる。また、嚢体集積体が圧縮されて隙間が押しつぶされた状態で運搬車の荷台に荷積されるため、運搬車の荷台に置かれた際や、運搬車での運搬中に荷台が振動した際にも、荷崩れしにくくなる。従って、従来のように嚢体集積体の荷崩れ防止のために嚢体集積体を紐やラップ等で梱包する必要はなくなる。また、嚢体集積体が圧縮されて隙間が押しつぶされた状態で運搬車の荷台に荷積されるため、嚢体集積体の体積が圧縮によって減少し、運搬車の荷台により多くの個数の嚢体を積載することが可能となり、嚢体の輸送効率を向上させることが出来る。さらに、嚢体集積体の荷下ろしの際も、嚢体集積体が圧縮により荷崩れしないため、クレーンで容易に荷下ろしすることができ、現場での作業効率が向上する。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明に依れば、吊荷押圧金具で嚢体集積体を押圧することにより嚢体集積体が圧縮されて、隙間が押しつぶされた状態となり、クレーンでの懸吊中に荷崩れを生じなくなるともに、荷台に置かれた際や、運搬中に荷台が振動した際にも、荷崩れしにくくなる。そのため、嚢体集積体を荷崩れ防止のために梱包材で梱包する必要がなくなり、作業現場での作業効率が向上する。また、梱包材がゴミとして生じることもなくなる。また、嚢体集積体が圧縮されてその体積が減少することで、運搬車の荷台により多くの個数の嚢体を積載することが可能となり、嚢体の輸送効率を向上させることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施例1に係る吊荷押圧金具の斜視図である。
【
図3】
図1の吊荷押圧金具の隅部周辺の拡大斜視図である。
【
図4】
図1の吊荷押圧金具の隅部周辺の平面図である。
【
図6】嚢体10に空気抜孔11を開ける様子を示した図である。
【
図7】実施例1で使用するシート畚13の平面図である。
【
図8】底敷材14への嚢体集積体16及び吊荷押圧金具1の設置過程を示す図である(1段目の嚢袋10を載置した図)。
【
図9】底敷材14への嚢体集積体16及び吊荷押圧金具1の設置過程を示す図である(2段目までの嚢袋10を載置した図)。
【
図10】底敷材14への嚢体集積体16及び吊荷押圧金具1の設置過程を示す図である(n段目までの嚢袋10(嚢体集積体16)を載置した図)。
【
図11】底敷材14への嚢体集積体16及び吊荷押圧金具1の設置過程を示す図である(嚢体集積体16に吊荷押圧金具1を設定した図)。
【
図12】吊荷押圧金具1を用いた嚢体集積体16の懸吊状態を示す図である。
【
図13】底敷材14への嚢体集積体16及び吊荷押圧金具1の設置過程を示す図である(嚢体集積体16に吊荷押圧金具1を設定した図)。
【
図14】吊荷押圧金具1を用いて2本の吊ベルトにより吊荷を懸吊する力学モデルを表す図である。
【
図15】吊荷押圧金具1を用いて2本の吊ベルトにより吊荷を懸吊する力学モデルを表す図である。
【
図16】ベルト掛支部周辺の吊ベルトに加わる張力と摩擦力の関係を示す図である。
【
図17】(a)ベルト吊角θに対する規格化押圧力F
p/Mgの関係を表す図、及び(b)μ
f=0.5とした場合のベルト吊角θに対する各力f
f=F
f/Mg(F
f<F
f,max), f
m,0=F
f,max/Mg(F
f<F
f,max), f
m= F
f,max/Mg(F
f≧F
f,max), f
p=F
p/Mgの変化の様子を示す図である。
【
図18】吊荷押圧金具1を用いて8本の吊ベルトにより吊荷を懸吊する力学モデルを表す図である。
【
図19】実施例2に係る吊荷押圧金具の斜視図である。
【
図20】
図19の吊荷押圧金具の(a)平面図、(b)正面図、(c)右側面図である。
【
図21】
図19の吊荷押圧金具の隅部周辺の(a)拡大斜視図(b)平面図である。
【
図22】実施例3に係る吊荷押圧金具のベルト掛支部3を示す図である。
【
図23】実施例4に係る吊荷押圧金具のベルト掛支部3を示す図である。
【
図24】実施例5に係る吊荷押圧金具の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0026】
〔1〕吊荷押圧金具の構成
図1は本発明の実施例1に係る吊荷押圧金具の斜視図、
図2は
図1の吊荷押圧金具の平面図、
図3は
図1の吊荷押圧金具の隅部周辺の拡大斜視図、
図4は
図1の吊荷押圧金具の隅部周辺の平面図である。本実施例1の吊荷押圧金具1は、枠体2及び8つのベルト掛支部3を備えている。枠体2は鋼桿を井桁状に接続して形成されており、4つの隅部2a,2a,2a,2aを持つ。これらの4つの隅部2a,2a,2a,2aは、枠体2の中心点からの距離が等しくなるように形成されている。各々の隅部2aには、枠体2の外側に向かって突出した2つの桿端部の其々に、ベルト掛支部3,3が溶着されている。各ベルト掛支部3は、
図3,
図4に示した様に、枠体の中心に対し外向きに開溝する凵字型溝状に形成されている。また、各ベルト掛支部3は、その開溝方向が、該隅部2aに接続する枠体2の2つの辺E
1,E
2の向きに対し、該隅部2aを通る枠体2の対角線L
i(i=1 or 2)の方向に角度φだけ傾斜した向きとされている。ここで、角度φは枠体2の縦横比に応じて適宜決められるが、通常はφ=10~30度の範囲とされる。各ベルト掛支部3の溝内面内には、凸曲面状に形成されたベルト滑り面4が設けられている。
【0027】
尚、
図1~
図4では、枠体2には、鋼桿として、断面が円形状(又は円環状)の鋼桿を使用した例を示しているが、鋼桿としては、これ以外にも、断面が方形(又は方形環状)の鋼桿や、断面がL字型の鋼桿(山形鋼(アングル))、断面がコの字型の鋼桿(チャンネル鋼(溝形鋼))、断面がI字型の鋼桿(ジョイスト鋼(アイビーム・ジョストン))、断面がH字型の鋼桿(エッチ鋼)、断面がC字型の鋼桿(リップ溝形鋼)、断面がT字型の鋼桿(T形鋼)等を使用することも出来る。
【0028】
〔2〕吊荷懸吊方法及び嚢体荷積方法
次に、上記本実施例1の吊荷押圧金具1を用いた吊荷懸吊方法及び嚢体荷積方法について説明する。
【0029】
まず、トラックの荷台に積み込む叺形の嚢体10は、肥料又は緑化基盤材が封入された合成樹脂製の袋とする。
図5に、嚢体10の斜視図を示す。また、
図6に、嚢体10に空気抜孔11を開ける様子を示す。嚢体10を積み込む前の準備として、
図6に示すように、嚢袋10の上面に穴開け針12を差し通し、空気抜孔11を開けておく。これは、本実施例で示す嚢体10は、通気性のない合成樹脂製の袋であるため、そのままでは、吊荷押圧金具1により押圧により破裂するので、事前に空気抜孔11を開けておくものである。空気抜孔11は、嚢体10の内容物が漏れ出ない程度の大きさで、且つ、嚢体10内の空気が十分に抜ける程度の大きさとする。通常は、直径が1~5mmφとするのが適当である。尚、嚢袋10が麻袋のような通気性のある袋の場合には、空気抜孔11を開ける作業は必要ない。
【0030】
次に、嚢袋10を、シート畚13の略方形の底敷材14上に集積し、嚢体集積体16を形成する。
図7(a),(b)に、実施例1で使用されるシート畚13の一例を示す。本実施例で使用するシート畚13は、方形の底敷材14に、環状の荷側吊ベルト15が縫着された構成を有する。
図7(a)の例では、荷側吊ベルト15は、1本のベルトが図に示した様な四葉線状に廻曲するように底敷材14に縫着されており、荷側吊ベルト15の底敷材14への縫着部分は井桁状とされ、それ以外の部分は、底敷材14の4つの隅部14a,14b,14c,14dから環状に張出している。
図7(b)の例では、荷側吊ベルト15は、2本の独立したベルトで構成されており、其々、底敷材14の対向する一対の隅部(14a,14c),(14b,14d)の各々から、外側方向に向かって環状に張出するストラップ(提げ紐)構造に形成されており、底敷材14の内側の部分は、底敷材14に縫着されている。
【0031】
図8~
図12に、底敷材14への嚢体集積体16及び吊荷押圧金具1の設置過程を示す。
【0032】
(1)まず、
図8に示すように、底敷材14の上面に1段目の嚢体10を5つ載置する。ここでは、3つの嚢体10は短手辺が底敷材14の一辺Eg
1に揃うように配列し、残りの2つの嚢体10は、長手辺が底敷材14の反対側の辺Eg
2に揃うように配列している。
【0033】
(2)次いで、
図9に示すように、1段目の5つの嚢体10の上に2段目の嚢体10を5つ載置する。この場合、2段目の嚢体10の配列は、1段目の嚢体10の配列を180度回轉したものとする。即ち、3つの嚢体10は短手辺が底敷材14の一辺Eg
2に揃うように配列し、残りの2つの嚢体10は、長手辺が底敷材14の反対側の辺Eg
1に揃うように配列する。
【0034】
(3)以下、同様にして、3段目からn段目までの嚢体10を載置していく。即ち、i段目の嚢体10の配列は、(i-1)段目の嚢体10の配列を180度回轉したものとなるように配列しながらn段目まで嚢体10を積み上げて、最終的に、
図10に示すように、嚢体集積体16を構成する。
図10では、n=10段の場合を示している。このように、格段毎に嚢体10の配列の向きを変えることにより、より荷崩れが生じにくくなる。
【0035】
(4)最後に、
図11に示すように、嚢体集積体16の上面に吊荷押圧金具1を載置する。このとき、吊荷押圧金具1の4つの隅部が底敷材14の4つの隅部の上方となるように向きを合わせておく。そして、底敷材14の各々の隅部から環状に張出している荷側吊ベルト15を嚢体集積体16の上方まで引き上げ、底敷材14の該隅部の上方の吊荷押圧金具1の隅部にある2つのベルト掛支部3,3に荷側吊ベルト15を摺動自在に掛支し、ベルト掛支部3,3の上側にくる荷側吊ベルト15の上端の折り返し部15aに、
図11に示すように、環状の中継用吊ベルト17を通す。ここで、吊荷押圧金具1の枠体2の4隅部のうち、隣設する1対の隅部に設けられた荷側吊ベルト15を荷側吊ベルトB1,B2とし、残りの2つの隅部に設けられた荷側吊ベルト15を荷側吊ベルトB3,B4とする。
図11では、中継用吊ベルト17は2本(其々、中継用吊ベルトB11,B12とする。)あって、一方の中継用吊ベルトB11は荷側吊ベルトB1,B2の上端の折り返し部15a,15aに挿通され、他方の中継用吊ベルトB12は荷側吊ベルトB3,B4の上端の折り返し部15a,15aに挿通される。そして、荷側吊ベルトB1,B2の上端の折り返し部15a,15aに挿通された中継用吊ベルトB11の両端部をクレーンフックに掛け、荷側吊ベルトB3,B4の上端の折り返し部15a,15aに挿通された中継用吊ベルトB12の両端部をクレーンフックに掛ける(
図11(b)参照)。中継用吊ベルトB11,B12は、各ベルト掛支部3からクレーンフックまでの吊ベルト(上側吊ベルト)の長さ(上側吊ベルト長)を調整するとともに、吊荷押圧金具1の枠体2が作る水平面と上側吊ベルトとが成す角θを調整するのに用いられる。上側吊ベルト長が短いほど、吊荷押圧金具1の枠体2が作る水平面と上側吊ベルトとが成す角θが小さくなり、吊荷押圧金具1から嚢体集積体16の上面に加わる押圧力は大きくなる(後述)。
【0036】
図12に、クレーンフックで嚢体集積体16を吊り上げた状態を示す。クレーンフックを上昇させると、中継用吊ベルト17,17を介して、各隅部の荷側吊ベルトB1,B2,B3,B4に張力が働く。この張力によって吊荷押圧金具1が嚢体集積体16の上面に押圧され、嚢体集積体16が縦方向に圧縮される。尚、この荷側吊ベルトB1,B2,B3,B4の張力による押圧の原理に関しては、後で詳細に述べる。そして、嚢体集積体16の各嚢体10には空気抜孔11が穿孔されているため、各嚢体10内の空気が圧縮により抜けるとともに、嚢体集積体16の各嚢体10間の隙間も押しつぶされて、嚢体集積体16が荷崩れしにくくなるとともに、その体積も減少する。
【0037】
実際に行った試験に依れば、サイズが69cm×46cm×12cmの緑化基盤材が充填された嚢体10を、
図11に示すように1段当たり5個とし10段に積み重ねた嚢体集積体16を形成し、その高さを120cmとし、吊荷押圧金具1を用いて
図12に示すようにクレーンフックで吊り上げたところ、嚢体集積体16が圧縮されて、その高さは100cmとなった。このように、吊荷押圧金具1によって懸吊時に嚢体集積体16を圧縮することにより、懸吊時には嚢体集積体16は荷崩れを起こすことはなく、また、嚢体集積体16を荷台に積んだ際にも嚢体集積体16の圧縮状態はほぼ保たれ、荷崩れを生じにくくなる。また、嚢体集積体16の体積が減少するため、荷台により多くの嚢体10を積み込むことが可能となり、輸送効率も向上する。さらに、荷台から荷下ろしする際にも、吊荷押圧金具1を用いて懸吊することで、荷下ろし時も嚢体集積体16が荷崩れすることを防止できる。
【0038】
尚、
図11,
図12では、2本の中継用吊ベルト17を用いて懸吊する場合を示したが、これ以外にも
図13のように、4本の中継用吊ベルト17を用いて懸吊するようにしてもよい。
図13では、中継用吊ベルト17は4本(其々、中継用吊ベルトB11,B12,B13,B14とする。)あって、中継用吊ベルトB11は荷側吊ベルトB1,B2の上端の折り返し部15a,15aに挿通され、中継用吊ベルトB12は荷側吊ベルトB2,B3の上端の折り返し部15a,15aに挿通され、中継用吊ベルトB13は荷側吊ベルトB3,B4の上端の折り返し部15a,15aに挿通され、中継用吊ベルトB14は荷側吊ベルトB4,B1の上端の折り返し部15a,15aに挿通される。各中継用吊ベルトB11,B12,B13,B14の両端部をクレーンフックに掛ける(
図13(b)参照)。このように4つの荷側吊ベルトB1,B2,B3,B4の上端の折り返し部15aを各中継用吊ベルトB11,B12,B13,B14を用いて中心方向へ絞ることで、吊荷押圧金具1の枠体2が作る水平面と上側吊ベルトとが成す角θが小さくなり、吊荷押圧金具1から嚢体集積体16の上面に加わる押圧力はより大きくなる(後述)。
【0039】
〔3〕吊荷押圧金具による吊荷押圧の原理
最後に、吊荷押圧金具1による吊荷の押圧の原理について説明する。
〔3.1〕吊ベルトが2本の場合(基本モデル)
まず、基本形として、
図14に示した様な、吊荷を、吊荷押圧金具1を用いて2本の吊ベルトにより懸吊する力学モデルについて考察する。吊ベルト,底敷材,吊荷押圧金具を用いて吊荷をクレーンロープで吊り上げている平衡懸吊状態において、各部に働いている力を
図14に示した記号によって表す。尚、
図14の平衡懸吊状態では、左右は対称としている。吊荷の質量はMとし、底敷材、吊ベルト、及び吊荷押圧金具の質量は無視できるとする。左右の吊ベルトの上端は点Oでクレーンロープの下端に接続され、左右の吊ベルトの下端(点C,D)は底敷材に接続されている。また、左右の吊ベルトの中間は、吊荷押圧金具の左右両端の掛支点A,Bにあるベルト掛支部により摺動自在に掛支されている。左右の吊ベルトとクレーンベルトの下端の結合点Oを原点とし、水平右向きにx軸、鉛直下向きにy軸をとる。吊荷押圧金具は水平に保たれているとして、吊ベルトの掛支点A,Bより上側の部分が吊荷押圧金具に対して成す角(以下「ベルト吊角」という。)をθとする。クレーンロープに働く張力をT
0、各吊ベルトの上部区間OA,OBに働いている張力をT
1、各吊ベルトの下部区間AC,BDに働いている張力をT
2、掛支点A,Bにおいて各吊ベルトに作用する静止摩擦力をF
fとする。張力T
1,T
2の合力をF
eとし、合力F
eの水平成分をF
ex、鉛直成分をF
eyとする。また、掛支点A,Bにおいて、吊荷押圧金具から吊ベルトに作用する抗力の水平成分をN
exとする。また、吊荷上面から吊荷押圧金具に働く押圧力をF
pとする。
【0040】
(1)摩擦が無視できる場合
最初に、静止摩擦力F
fが無視できる場合(F
f=0)について考える。クレーンロープは点Oにおいて、吊荷の全荷重Mgを支持して釣り合っているので、クレーンロープの張力T
0はT
0=Mgである。
図14の力学モデルは左右対称であるため、クレーンロープの張力T
0は、左右の吊ベルトの上部区間OA,OBに均等に分配されて釣り合う。従って、T
0=2T
1sinθである。また、掛支点Aについて考えると、掛支点Aにおいて吊ベルトの張力は釣り合っているので、T
1=T
2である。また、
図14より、合力F
eの水平成分F
exはF
ex=T
1cosθ、合力F
eの鉛直成分F
eyはF
ey=T
2-T
1sinθ=T
1(1-sinθ)である。この合力F
eの水平成分F
exは、吊荷押圧金具ABから作用する抗力N
exと釣り合っており、N
ex=F
exである。また、吊荷について考えると、吊荷には重力Mgが鉛直下方に作用しているとともに、底敷材CDから張力2T
2=2T
1が鉛直上方に作用している。Mg<2T
2なので、吊荷は底敷材CDからの押し上げる力により上方にF
p=2T
2-Mgの力で押し上げられている。一方、吊荷の上面には吊荷押圧金具ABが接しており、この吊荷押圧金具ABには、左右の吊ベルトから鉛直下方に2F
eyの力が作用している。釣り合いの状態では、この2つの力が等しくなって打ち消し合うので、F
p=2F
eyである。以上の考察から、摩擦が無視できる場合の釣り合いの式は次のようになる。
【0041】
【0042】
吊荷押圧金具ABから吊荷上面に作用する押圧力は、吊荷上面から吊荷押圧金具ABに作用する押し上げの力Fpの反作用なので、その大きさはFpとなり式(2d)によって表されることが分かる。
【0043】
(2)摩擦を考慮した場合
次に、吊ベルトと吊荷押圧金具ABとの接触点である掛支点A,Bにおいて摩擦力が働いている場合(F
f>0の場合)について考察する。摩擦力(静止摩擦力)F
fは、吊荷押圧金具ABに対して吊ベルトを滑らせようとする力の大きさに応じて変化する抵抗力である。また、吊荷押圧金具ABと吊荷上面との間に作用する押圧力F
pも、吊荷押圧金具ABに対して吊荷上面が押し付けられる力に応じて変化する抗力である。故に、この両者を同時に考えると混乱するため、両者を切り分けて考える必要がある。そこで、まず、
図15に示した様に、吊荷押圧金具ABが吊荷上面に接触していない状態で釣り合っている場合について考える。この場合、F
p=0である。
【0044】
クレーンロープは点Oにおいて吊荷の吊荷の全荷重Mgを支持して釣り合っているので、クレーンロープの張力T
0はT
0=Mgである。
図15の力学モデルは左右対称であるため、クレーンロープの張力T
0は、左右の吊ベルトの上部区間OA,OBに均等に分配されて釣り合う。従って、T
0=2T
1sinθである。吊荷について考えると、吊荷について考えると、吊荷には重力Mgが鉛直下方に作用しているとともに、底敷材CDから張力2T
2が鉛直上方に作用している。この両者が釣り合っているので、T
2=Mg/2である。掛支点Aについて考えると、
図15より、掛支点Aにおいて吊ベルトの張力T
1と静止摩擦力F
fとの合力と張力T
2とが釣り合っているので、T
1-F
f=T
2である。また、
図15より、合力F
eの水平成分F
exはF
ex=T
1cosθである。この合力F
eの水平成分F
exは、吊荷押圧金具ABから作用する抗力N
exと釣り合っており、N
ex=F
exである。吊荷押圧金具ABは静止しているので、合力F
eの鉛直成分F
eyはF
ey=T
2-T
1sinθ=0である。
【0045】
この場合、T
1>T
2であるため、掛支点Aにおいて、吊ベルトには、吊ベルトを掛支点Aよりも上方に引き上げようとする張力が働くが、それに抗して静止摩擦力F
fが作用して、吊ベルトが静的な状態に維持される。即ち、静止摩擦力F
fは、掛支点Aにおいて吊ベルトの滑りを抑止する抵抗力であり、その方向は、掛支点Aの周りの円周方向となる。これは、掛支点Aを
図16に示した様な滑車と考えれば理解しやすい。滑車の半径をrとすると、滑車には張力T
1によって右回りのモーメントM
1=rT
1が作用し、張力T
2によって左回りのモーメントM
2=rT
2が作用する。従って、張力T
1,T
2によって滑車に働く合成モーメントは、右回りのモーメントM
1-M
2=r(T
1-T
2)となる。これに対して、静止摩擦力F
fは滑車の回転を止める方向に働き、左回りのモーメントrF
fとして作用する。従って、この両者が釣り合うので、F
f=T
1-T
2となる。以上の考察から、摩擦を考慮した場合の釣り合いの式は次のようになる。
【0046】
【0047】
ここで、Ff,maxは最大静止摩擦力である。静止摩擦力Ffはアモントンの法則に従うと仮定した場合、最大静止摩擦力Ff,maxは抗力Nexに比例する。従って、吊ベルトと吊荷押圧金具ABとの間の静止摩擦係数をμfとすると、最大静止摩擦力Ff,maxは次のように表される。
【0048】
【0049】
掛支点Aにおける合成張力T1-T2が最大静止摩擦力Ff,maxを超えると、吊ベルトは滑りはじめ、吊荷押圧金具ABは吊荷上面に向かって移動して、最終的に吊荷押圧金具ABが吊荷上面に接触して停止する。
【0050】
次に、
図14に示すように、T
1-T
2>F
f,maxの場合に於いて、吊荷押圧金具ABが吊荷上面に接触して静止した状態で釣り合っている場合について考える。この場合、静止摩擦力F
fは最大静止摩擦力F
f,maxよりも大きくはならないので、F
f=F
f,maxである。従って、吊荷押圧金具ABが静止した状態であるためには、以下の張力の釣り合いの式が成り立たなければならない。
【0051】
【0052】
また、
図14に示すように、吊荷押圧金具ABは吊荷上面からF
pの力で鉛直上方向に押し上げられているので、吊荷押圧金具ABから吊ベルトに対しては、鉛直上方向にN
ey=F
p/2の大きさの抗力が作用する。故に、この場合の最大静止摩擦力F
f,maxは次のようになる。
【0053】
【0054】
一方、吊荷についての力の釣り合いを考えた場合、吊荷には重力Mgが作用しているとともに、底敷材CDから張力2T2(>Mg)が鉛直上方に作用している。Mg<2T2なので、吊荷は底敷材CDからの押し上げる力により上方にFp=2T2-Mgの力で押し上げられている。従って、この場合の釣り合いの式は次のように表される。
【0055】
【0056】
上記連立方程式を解くことにより、最大静止摩擦力Ff,max及び力Fpは、ベルト吊角θ及び静止摩擦係数μfの関数として次のように表されることが分かる。
【0057】
【0058】
この力Fpが吊荷上面から吊荷押圧金具ABへ作用して、その反作用として吊荷押圧金具ABから吊荷上面へ押圧力が働く。尚、式(8b)においてμf→0とすると、摩擦がない場合の式(2d)に帰着することが分かる。また、Fp=0のとき、式(4)よりFf,max=μfMg・cotθ/2でなければならないので、式(8a)(8b)より、Fp=0となるときのベルト吊角(以下、「臨界ベルト吊角」という。)θ0は、静止摩擦係数μfの関数として次のように表されることが分かる。
【0059】
【0060】
図17(a)に、ベルト吊角θに対する規格化押圧力F
p/Mgの関係を示す。また、
図17(b)に、μ
f=0.5とした場合のベルト吊角θに対する各力f
f=F
f/Mg(F
f<F
f,max), f
m,0=F
f,max/Mg(F
f<F
f,max), f
m= F
f,max/Mg(F
f≧F
f,max), f
p=F
p/Mgの変化の様子を示す。
図17より、ベルト吊角θが減少するに従って、規格化押圧力F
p/Mgは増加することが分かる。これは、式(3a)より、吊荷の重力Mgと釣り合うためには、ベルト吊角θが小さいほど大きな張力T
1が必要とされることによるものである。特に、θ<40度となると規格化押圧力F
p/Mgは急激に増加する。
【0061】
以上の結果、吊荷に大きな押圧力を作用させるためには、ベルト吊角θができるだけ小さくなるように吊ベルトの上部区間PA,PBの長さを調整すればよいことが分かる。特に、θ≦40度とすることが好ましい。また、ベルト吊角θが式(9)の臨界ベルト吊角θ
0より大きいと、静止摩擦力F
fと掛支点A,Bに加わる合成張力T
1-T
2の大きさが釣り合うため、F
p=0となって、吊荷押圧金具から吊荷への押圧力は作用しないことが分かる。この場合、吊荷押圧金具の両端点A,Bは摩擦力によって吊ベルトに固定されてしまうため、
図15のように、吊荷押圧金具が吊荷の上面から浮いてしまうという現象が生じる。
【0062】
〔3.2〕吊ベルトが8本の場合
次に、
図18に示した様な、吊荷を、吊荷押圧金具1を用いて8本の吊ベルトにより懸吊する力学モデルについて考察する。これは、
図12の場合と基本的に等価である。単純化のため、
図18でw
x=w
yとする。この場合、点P,A
i,C
i,D
i,B
i(i=1,2,3,4)を通る鉛直平面で切断すると、
図14の場合と同様となるため、結局、吊バンドが2本の場合のモデルに帰着させることができる。但し、各々の吊バンドに加わる吊荷の荷重は、2本の場合よりもより分散されるので、その分、最大静止摩擦力も小さくなり、各掛支点A
i,B
iにおいて吊バンドはより滑りやすくなる(最大摩擦力は、実際には、抗力N
exに対して非線形であるため)。この場合、T
1-T
2>F
f,maxの場合に於ける釣り合いの式は次のようになる。
【0063】
【0064】
上記連立方程式を解くことにより、最大静止摩擦力Ff,max及び押圧力Fpは、ベルト吊角θ及び静止摩擦係数μfの関数として次のように表されることが分かる。
【0065】
【実施例2】
【0066】
図19は、実施例2に係る吊荷押圧金具の斜視図である。
図20は、
図19の吊荷押圧金具の(a)平面図、(b)正面図、(c)右側面図である。
図21は、
図19の吊荷押圧金具の隅部周辺の(a)拡大斜視図(b)平面図である。
図20~
図21において、
図1~
図4の実施例1の吊荷押圧金具1に対応する構成部分には同符号を付している。尚、吊荷押圧金具1は、吊荷押圧金具1の中心点を通る水平面に対し上下対称である。
【0067】
本実施例の吊荷押圧金具1は、ベルト掛支部3をU字状に構成した点が実施例1とは相違する。このようにベルト掛支部3をU字状とすることで、ベルト掛支部3に引っかかりがなくなるため、ベルト掛支部3に掛けられる荷側吊ベルト15がよりスムーズに滑ることができる。即ち、ベルト滑り面4と荷側吊ベルト15との間の摩擦係数μfが小さくなるため、吊荷押圧金具1から吊荷上面に加わる押圧力Fpをより大きくすることができる。
【実施例3】
【0068】
図22は、実施例3に係る吊荷押圧金具のベルト掛支部3を示す図である。尚、ベルト掛支部3以外の部分は、実施例1と同様である。本実施例では、ベルト滑り面4が、ベルト掛支部3の溝内の上半分の領域とされている。
【実施例4】
【0069】
図23は、実施例4に係る吊荷押圧金具のベルト掛支部3を示す図である。尚、ベルト掛支部3以外の部分は、実施例1と同様である。本実施例では、ベルト滑り面4が、ベルト掛支部3の溝内の上半分からベルト掛支部3の上面に掛けての領域とされている。
【実施例5】
【0070】
図24は、実施例4に係る吊荷押圧金具1の斜視図である。本実施例の吊荷押圧金具1は、
図19~
図21に示した実施例2の吊荷押圧金具1に、さらに枠体2の各隅部2aに接合するX字状の格子材5を追加したものである。このように枠体2の枠内に格子材5を設けることで、吊荷押圧金具1から吊荷上面に押圧力が伝わりやすくなり、より効果的に吊荷を圧縮することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 吊荷押圧金具
2枠体
2a 隅部
3 ベルト掛支部
4 ベルト滑り面
5 格子材
10 嚢体
11 空気抜孔
12 穴開け針
13 シート畚
14 底敷材
15 荷側吊ベルト
15a 折り返し部
16 嚢体集積体
17 中継用吊ベルト