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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】歯科用組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/849 20200101AFI20220203BHJP
   A61K 6/80 20200101ALI20220203BHJP
   A61K 6/831 20200101ALI20220203BHJP
   A61K 6/836 20200101ALI20220203BHJP
   A61K 6/838 20200101ALI20220203BHJP
   A61K 6/86 20200101ALI20220203BHJP
   A61K 6/887 20200101ALI20220203BHJP
   A61K 6/898 20200101ALI20220203BHJP
   C03C 3/097 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
A61K6/849
A61K6/80
A61K6/831
A61K6/836
A61K6/838
A61K6/86
A61K6/887
A61K6/898
C03C3/097
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2019548442
(86)(22)【出願日】2018-03-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-09
(86)【国際出願番号】 KR2018002598
(87)【国際公開番号】W WO2018164436
(87)【国際公開日】2018-09-13
【審査請求日】2019-09-05
(31)【優先権主張番号】10-2017-0028689
(32)【優先日】2017-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】518015790
【氏名又は名称】ヴェリコム カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】VERICOM CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】48, Toegyegongdan 1-gil, Chuncheon-si, Gangwon-do, 24427, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】オ,ミョン-ファン
(72)【発明者】
【氏名】カン,ジョン-ホ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ユン-キ
【審査官】深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2010-0037979(KR,A)
【文献】J. Am. Ceram. Soc.,Vol.86, No.1,2003年,pp.112-114
【文献】Cement and Concrete Research,2009年,Vol.39,pp.637-643
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00-6/90
C03C 3/00-3/32
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと、
非水性液体と、を含み、
前記セメントは、
エーライト(alite)を含む第1ドメイン(domain)と、
ビーライト(belite)を含む第2ドメイン(domain)と、
前記第1ドメインおよび前記第2ドメインよりなる群から選択された1種以上の間に位置し、シリコン(Si)原子がドープされたアルミン酸三カルシウム(3CaO・Al)を含むマトリックス(matrix)とを備えるものであり、前記セメントが焼成後急冷条件で生成され、前記マトリックスが、アルミン酸三カルシウム(3CaO・Al)のアルミニウム原子が前記シリコン原子で置換されたものを含む歯科用組成物。
【請求項2】
前記シリコン(Si)がドープされたアルミン酸三カルシウム(3CaO・Al)は、シリコン(Si)が0.5~15重量%ドープされたものであることを特徴とする、請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項3】
前記歯科用組成物が、放射線不透過性助剤、リン酸カルシウム化合物および硬化調節剤のうちの1種以上をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項4】
前記歯科用組成物が、
前記セメント100重量部、
前記非水性液体10~100重量部、並びに
前記放射線不透過性助剤20~200重量部、前記リン酸カルシウム化合物1~30重量部および前記硬化調節剤0.1~20重量部のうちの1種以上を含むことを特徴とする、請求項3に記載の歯科用組成物。
【請求項5】
前記セメントは、前記第1ドメイン(D1)と第2ドメイン(D2)の重量の和(D、D1+D2)と前記マトリックス(M)との重量比(D:M)が99:1~70:30であることを特徴とする、請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項6】
前記セメントが、酸化カルシウム、二酸化ケイ素および酸化アルミニウムを含む混合物を熱処理で反応させて製造した水硬性物質であることを特徴とする、請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項7】
前記非水性液体が、エタノール、プロパノール、植物性油脂、動物性油脂、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、およびグリセリンの中から選ばれた1種以上を含むことを特徴とする、請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項8】
前記非水性液体が、ポリプロピレングリコールを含むことを特徴とする、請求項7に記載の歯科用組成物。
【請求項9】
前記非水性液体が、ポリプロピレングリコールを含み、エタノール、プロパノール、植物性油脂、動物性油脂、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、およびグリセリンの中から選ばれた1種以上をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項10】
前記リン酸カルシウム化合物が、リン酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、第三リン酸カルシウム、第四リン酸カルシウム、 水酸化アパタイト、アパタイト、リン酸オクタカルシウム(octacalcium phosphate)、二相性リン酸カルシウム(biphasic calcium phosphate)、非晶質リン酸カルシウム(amorphous calcium phosphate)、カゼインホスホペプチド-非晶質リン酸カルシウム(caseinphosphopeptide-amorphous calcium phosphate)、および生体活性ガラスの中から選ばれた1種以上を含むことを特徴とする、請求項3に記載の歯科用組成物。
【請求項11】
前記リン酸カルシウム化合物が、生体活性ガラスであることを特徴とする、請求項10に記載の歯科用組成物。
【請求項12】
前記生体活性ガラスが、化学式1で表示されることを特徴とする、請求項11に記載の歯科用組成物。
[化学式1]
(SiO(NaO)(CaO)(P
(式中、x、y、zおよびwはモル数の比であり、30≦x≦70、0≦y≦40、10≦z≦50、1≦w≦10である。)
【請求項13】
前記放射線不透過性助剤が、酸化亜鉛、硫酸バリウム、酸化ジルコニウム、酸化ビスマス、酸化バリウム、ヨードホルム、酸化タンタル、およびタングステン酸カルシウムから選ばれた1種以上を含むことを特徴とする、請求項3に記載の歯科用組成物。
【請求項14】
前記硬化調節剤が、硫酸カルシウム二水和物、硫酸カルシウム半水和物、塩化カルシウム、およびギ酸カルシウムから選ばれた1種以上を含むことを特徴とする、請求項3に記載の歯科用組成物。
【請求項15】
前記歯科用組成物が、粘度調節剤0.1~20重量部をさらに含むことを特徴とする、請求項4に記載の歯科用組成物。
【請求項16】
前記粘度調節剤が、セルロース、セルロース誘導体、キサンタンガム、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸およびポリビニルピロリドンの中から選ばれた1種以上を含むことを特徴とする、請求項15に記載の歯科用組成物。
【請求項17】
前記歯科用組成物が、ペースト状であることを特徴とする、請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項18】
請求項1に記載の歯科用組成物が水硬化された歯科用材料。
【請求項19】
セメントを、焼成後急冷条件で製造するステップと、
前記セメントおよび非水性液体を含む組成物を製造するステップと、を含み、
前記セメントは、
エーライト(alite)を含む第1ドメイン(domain)と、
ビーライト(belite)を含む第2ドメイン(domain)と、
前記第1ドメインおよび前記第2ドメインよりなる群から選択された1種以上の間に位置し、シリコン(Si)原子がドープされたアルミン酸三カルシウム(3CaO・Al)を含むマトリックス(matrix)とを備えるものであり、前記マトリックスが、アルミン酸三カルシウム(3CaO・Al )のアルミニウム原子が前記シリコン原子で置換されたものを含む、歯科用組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用組成物およびその製造方法に係り、より詳細には、水硬性セメントおよび非水性液体を含む歯科用水硬性組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔内に生息する細菌によって糖成分などが分解されて生じる酸により歯のエナメル質が損傷し始めて虫歯が生じることを「歯牙う蝕症」という。歯牙う蝕症がエナメル質に限られた場合には痛みをほとんど感じないが、う蝕症が象牙質または歯髄まで進んだ場合には激しい痛みを感じるようになる。このような場合、根管内歯髄を抜髄する根管治療を併行しなければならない。根管治療を行うと、根管内の空き空間を充填して二次感染などの発生を抑制しなければならない。根管内の空き空間を充填する物質としては、ガッタパーチャとシーラーが最も広く使用される。
【0003】
ガッタパーチャの場合は、生体に非常に安全な物質であって長期間使用されてきたが、固形の材料であって熱と圧力を加えて充填しなければならず、これにより複雑な根管内に完全には充填されないという欠点を持っている。よって、ガッタパーチャの欠点を補完するために、軟膏タイプの様々なシーラーが一緒に用いられている。これまで紹介されたシーラーは、レジン、酸化亜鉛、水酸化カルシウム、シリコーンなどの様々な材料が使用されたが、生体安全性に劣るか、或いは歯質またはガタパーチャとの接着力に劣るという欠点を持っている。
【0004】
MTA(Mineral trioxide aggregate)は、1992年に米国のRoma Linda大学のMahmoud Torabinejad教授の研究グループで紹介されて以来、歯牙と類似の成分で構成された材料であって、これまで歯科用組成物として広く用いられている。MTAは、ポルトランドセメント(Portland cement)と放射性不透過性助剤としての酸化ビスマス(bismuth oxide)で構成されている。ポルトランドセメントは、ケイ酸二カルシウム(dicalcium silicate)、ケイ酸三カルシウム(tricalcium silicate)、アルミン酸三カルシウム(tricalcium aluminate)、鉄アルミン酸三カルシウム(tricalcium aluminoferrite)で構成されており、水分と接触すると硬化する性質を持っている。ケイ酸カルシウム(calcium silicate)は、水分と接触してケイ酸カルシウム水和物ゲル(calcium silicate hydrate gel)を形成し、副産物として水酸化カルシウムを形成して高いpHを示す。高いpHにより、口腔内への適用の際に抗菌性を付与する。
【0005】
MTAは、先立って説明したような抗菌性を呈し、歯と類似の成分で構成されているという利点を持つ。しかし、歯への適用の際に粉末を水と混ぜて使用することにより、水と混合されると同時に反応が始まるので、一般に5分以内の短い作業時間を有し、4時間程度の長い硬化時間を有するという欠点がある。また、フェライト(ferrite)成分により灰色を呈して歯に着色するおそれがあり、狭い根管への適用の際に、別途のキャリアを用いて適用しなければならないという欠点がある。
【0006】
したがって、使用が便利で、長い作業時間および化時間を有し、生体親和性が向上した歯科用水硬性組成物の開発が求められる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、歯科用組成物およびその製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、使用が便利であるうえ、審美性、硬化特性および生体親和性を向上させた歯科用水硬性組成物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、
セメントと、
非水性液体と、を含み、
前記セメントは、
エーライト(alite)を含む第1ドメイン(domain)と、
ビーライト(belite)を含む第2ドメイン(domain)と、
前記第1ドメインおよび前記第2ドメインよりなる群から選択された1種以上の間に位置し、シリコン(Si)原子がドープされたアルミン酸三カルシウム(3CaO・Al)を含むマトリックス(matrix)とを備えるものである、歯科用組成物が提供される。
また、前記シリコン原子がドープされたアルミン酸三カルシウムは、アルミン酸三カルシウム(3CaO・Al)のアルミニウム原子の一部が前記シリコン原子で置換されたものであってもよい。
【0009】
また、前記シリコン(Si)がドープされたアルミン酸三カルシウム(3CaO・Al)は、シリコン(Si)が0.5~15重量%ドープされたものであってもよい。
また、前記歯科用組成物は、放射線不透過性助剤、リン酸カルシウム化合物および硬化調節剤のうちの1種以上をさらに含んでもよい。
また、前記歯科用組成物は、前記セメント100重量部;前記非水性液体10~100重量部;並びに前記放射線不透過性助剤20~200重量部、前記リン酸カルシウム化合物1~30重量部および前記硬化調節剤0.1~20重量部のうちの1種以上;を含んでもよい。
【0010】
また、前記セメントは、前記第1ドメイン(D1)と第2ドメイン(D2)との重量の和(D、D1+D2)と前記マトリックス(M)との重量比(D:M)が99:1~70:30であってもよい。
また、前記セメントは、酸化カルシウム、二酸化ケイ素および酸化アルミニウムを含む混合物を熱処理で反応させて製造した水硬性物質であってもよい。
【0011】
また、前記非水性液体は、エタノール、プロパノール、植物性油脂、動物性油脂、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、およびグリセリンの中から選ばれた1種以上を含むことができ、好ましくは、ポリプロピレングリコールを含むことができ、前記ポリプロピレングリコールは、ポリエチレングリコールよりも生体親和性がさらに優れる。非水性液体としてポリプロピレングリコールを含む場合、ポリプロピレングリコール以外に他の非水性液体をさらに含んでもよい。
【0012】
また、前記リン酸カルシウム化合物は、リン酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、第三リン酸カルシウム、第四リン酸カルシウム、水酸化アパタイト、アパタイト、リン酸オクタカルシウム(octacalcium phosphate)、二相性リン酸カルシウム(biphasic calcium phosphate)、非晶質リン酸カルシウム(amorphous calcium phosphate)、カゼインホスホペプチド-非晶質リン酸カルシウム(caseinphosphopeptide-amorphous calcium phosphate)、および生体活性ガラスの中から選ばれた1種以上を含んでもよい。
また、前記リン酸カルシウム化合物が生体活性ガラスであってもよい。
【0013】
また、前記生体活性ガラスが化学式1で表示できる。
[化学式1]
(SiO(NaO)(CaO)(P
式中、x、y、zおよびwはモル数の比であり、30≦x≦70、0≦y≦40、10≦z≦50、1≦w≦10である。
【0014】
また、前記放射線不透過性助剤は、酸化亜鉛、硫酸バリウム、酸化ジルコニウム、酸化ビスマス、酸化バリウム、ヨードホルム、酸化タンタル、およびタングステン酸カルシウムから選ばれた1種以上を含んでもよい。
また、前記硬化調節剤は、硫酸カルシウム二水和物、硫酸カルシウム半水和物、塩化カルシウム、およびギ酸カルシウムから選ばれた1種以上を含んでもよい。
【0015】
また、前記歯科用組成物は粘度調節剤をさらに含んでもよい。
また、前記粘度調節剤は0.1~20重量部であってもよい。
また、前記粘度調節剤は、セルロース、セルロース誘導体、キサンタンガム、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸およびポリビニルピロリドンから選ばれた1種以上を含んでもよい。
また、前記歯科用組成物はペースト状であってもよい。
【0016】
本発明の他の態様によれば、前記歯科用組成物が水硬化された歯科用材料を提供する。
本発明の別の態様によれば、セメントを製造するステップと、前記セメントおよび非水性液体を含む組成物を製造するステップと、を含み、
【0017】
前記セメントは、エーライト(alite)を含む第1ドメイン(domain)と、ビーライト(belite)を含む第2ドメイン(domain)と、前記第1ドメインおよび前記第2ドメインよりなる群から選択された1種以上の間に位置し、シリコン(Si)原子がドープされたアルミン酸三カルシウム(3CaO・Al)を含むマトリックス(matrix)とを備えるものである、歯科用組成物の製造方法が提供される。
【0018】
また、前記組成物は、放射線不透過性助剤およびリン酸カルシウム系化合物のうちの1種以上をさらに含んでもよい。
また、前記セメントを準備するステップは、酸化カルシウム、二酸化ケイ素および酸化アルミニウムを含む混合物を熱処理で反応させて製造するステップであってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、歯科用水硬性組成物およびその製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、単一構成の軟膏型組成物であって使用が便利であるうえ、審美性、硬化特性および生体親和性を向上させた歯科用水硬性組成物、およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の製造例2によって製造されたセメントのSEM-EDS分析結果である。
図2図2は、本発明の製造例2と比較製造例3によって製造された混合物の焼成工程後の各セメントの画像である。
図3図3は、本発明の製造例2と比較製造例4によって製造された混合物の焼成工程後の冷却条件による各セメントの内部画像である。
図4a図4a~4hは、製造例1~4と比較製造例1~4によって製造されたセメントのXRD(X-ray diffraction)分析結果である。
図4b図4a~4hは、製造例1~4と比較製造例1~4によって製造されたセメントのXRD(X-ray diffraction)分析結果である。
図4c図4a~4hは、製造例1~4と比較製造例1~4によって製造されたセメントのXRD(X-ray diffraction)分析結果である。
図4d図4a~4hは、製造例1~4と比較製造例1~4によって製造されたセメントのXRD(X-ray diffraction)分析結果である。
図4e図4a~4hは、製造例1~4と比較製造例1~4によって製造されたセメントのXRD(X-ray diffraction)分析結果である。
図4f図4a~4hは、製造例1~4と比較製造例1~4によって製造されたセメントのXRD(X-ray diffraction)分析結果である。
図4g図4a~4hは、製造例1~4と比較製造例1~4によって製造されたセメントのXRD(X-ray diffraction)分析結果である。
図4h図4a~4hは、製造例1~4と比較製造例1~4によって製造されたセメントのXRD(X-ray diffraction)分析結果である。
図5図5は、実施例3の組成物に関する試験例3による時間別のpH測定結果を示すグラフである。
図6図6は、本発明の実施例3による組成物の硬化後の時間経過に伴うSEM写真である。
図7図7は、本発明の実施例1および実施例3による組成物の硬化4週後の試料表面のXRD分析結果である。
図8図8は、本発明の実施例3の組成物で根管を充填した後の組成物と象牙質(Dentin)およびGPとの界面を低倍率および高倍率で拡大した画像である。
図9図9は、本発明の実施例3の組成物で根管を充填した後の充填状態を確認するために放射線撮影した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施し得るように、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
しかしながら、以下の説明は、本発明を特定の実施形態に対して限定するものではなく、本発明を説明するにあたり、関連した公知の技術についての具体的な説明が本発明の要旨を不明確にするおそれがあると判断される場合、その詳細な説明を省略する。
【0022】
本明細書で使用した用語は、単に特定の実施形態を説明するために使用されたもので、本発明を限定するものではない。単数の表現は、文脈上明白に異なる意味ではない限り、複数の表現を含む。本明細書において、「含む」または「有する」などの用語は、明細書上に記載示された特徴、数字、段階、動作、構成要素、またはこれらの組み合わせが存在することを指定しようとするもので、一つまたはそれ以上の他の特徴や数字、段階、動作、構成要素、またはこれらの組み合わせの存在または付加の可能性を予め排除しないものと理解されるべきである。
【0023】
以下、本発明の歯科用水硬性組成物について説明する。
本発明の一態様によれば、セメント;および非水性液体;を含み、前記セメントは、エーライト(alite)を含む第1ドメイン(domain);ビーライト(belite)を含む第2ドメイン(domain);並びに前記第1ドメインおよび前記第2ドメインよりなる群から選択された1種以上の間に位置し、シリコン(Si)原子がドープされたアルミン酸三カルシウム(3CaO・Al)を含むマトリックス(matrix);を備えるものである、歯科用組成物が提供される。
【0024】
前記シリコン(Si)がドープされたアルミン酸三カルシウム(3CaO・Al)は、シリコン(Si)が0.5~15重量%、好ましくは1~10重量%、より好ましくは2~5重量%ドープされたものであってもよい。
【0025】
前記ドメインおよびマトリックス構造を有するセメントの焼成温度は、1200℃~1550℃、好ましくは1300℃~1500℃、より好ましくは1400℃~1500℃であり得る。1200℃未満の温度では、エーライト(alite)よりはビーライト(belite)の形成が主となり、セメント強度が低くなって好ましくなく、1550℃超過の温度では、エーライト(alite)が形成されるものの、焼成中にセメントの成分中のエーライト(alite)が分解されてセメントの強度が低くなり好ましくない。
【0026】
前記ドメインおよびマトリックス構造を有するセメントの焼成温度までの昇温速度は、1℃/min~20℃/min、好ましくは2℃/min~10℃/minであり得る。焼成昇温速度が1℃/min未満では、時間があまり長くかかって生産性が落ちて好ましくなく、20℃/min超過では、混合原料間の反応時間が十分でないため、一部の原料物質のまま残ってセメントの強度が低くなり好ましくない。
【0027】
前記ドメインおよびマトリックス構造を有するセメントの形成温度範囲内での焼成時間は、0.5時間~24時間、好ましくは1時間~12時間であり得る。0.5時間未満では、混合原料間の反応時間が十分でないため、一部の原料物質のまま残ってセメントの強度が低くなり好ましくなく、24時間超過では、過剰なエネルギー消費が必要なので経済的でなくて好ましくない。
【0028】
前記非水性液体は、エタノール、プロパノール、植物性油脂、動物性油脂、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、およびグリセリンの中から選ばれた1種以上を含むことができる。
前記非水性液体は、前記セメント100重量部に対して10~100重量部を含むことが好ましい。
【0029】
前記リン酸カルシウムは、リン酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、第三リン酸カルシウム、第四リン酸カルシウム、水酸化アパタイト、アパタイト、リン酸オクタカルシウム(octacalcium phosphate)、二相性リン酸カルシウム(biphasic calcium phosphate)、非晶質リン酸カルシウム(amorphous calcium phosphate)、カゼインホスホペプチド-非晶質リン酸カルシウム(caseinphosphopeptide-amorphous calcium phosphate)、および生体活性ガラスの中から選ばれた1種以上の物質を含むことができる。
【0030】
また、前記リン酸カルシウム化合物は、生体活性ガラスであり得る。
また、前記生体活性ガラスは、化学式1で表示できる。
[化学式1]
(SiO(NaO)(CaO)(P
式中、x、y、zおよびwはモル数の比であり、30≦x≦70、0≦y≦40、10≦z≦50、1≦w≦10である。
【0031】
前記セメントの数硬化過程で副産物として発生する水酸化カルシウムは、口腔内の唾液に溶けてpHを上昇させ、抗菌効果を出す。また、前記リン酸カルシウムと反応して、歯の構成成分である水酸化アパタイトを生成する。
前記リン酸カルシウムは、セメント100重量部に対して1~30重量部であることが好ましい。
また、前記歯科用組成物は、治療の確認のために、放射線不透過性助剤を含むことができる。
【0032】
前記放射線不透過性助剤は、酸化亜鉛、硫酸バリウム、酸化ジルコニウム、酸化ビスマス、酸化バリウム、ヨードホルム、酸化タンタル、およびタングステン酸カルシウムから選ばれた1種以上を含むことができる。
前記放射線不透過性助剤は、前記セメント100重量部に対して20~200重量部であることが好ましい。
【0033】
また、前記歯科用組成物は、粘度調節剤をさらに含むことができる。
前記粘度調節剤は、セルロース、セルロース誘導体、キサンタンガム、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、およびポリビニルピロリドンの中から選ばれた1種以上を含むことができる。
前記粘度調節剤は、前記セメント100重量部に対して0.1~20重量部であることが望ましい。
【0034】
また、前記歯科用組成物は、硬化調節剤をさらに含むことができる。
前記硬化調節剤は、硫酸カルシウム二水和物、硫酸カルシウム半水和物、塩化カルシウム、およびギ酸カルシウムから選ばれた1種以上の物質を含むことができる。
前記硬化調節剤は、前記セメント100重量部に対して0.1~20重量部であることが好ましい。
【0035】
本発明の他の態様によれば、本発明の歯科用組成物が水硬化された歯科用材料が提供される。
本発明の別の態様によれば、セメントを製造するステップと、前記セメントおよび非水性液体を含む組成物を製造するステップと、を含み、
前記セメントは、エーライト(alite)を含む第1ドメイン(domain);ビーライト(belite)を含む第2ドメイン(domain);並びに前記第1ドメインおよび第2ドメインよりなる群から選択された1種以上の間に位置し、シリコン(Si)原子がドープされたアルミン酸三カルシウム(3CaO・Al)を含むマトリックス(matrix);を備えるものである、歯科用組成物の製造方法が提供される。
【0036】
また、前記組成物は、放射線不透過性助剤およびリン酸カルシウム系化合物のうちの1種以上をさらに含むことができる。
また、前記セメントは、酸化カルシウム、二酸化ケイ素および酸化アルミニウムを含む混合物を熱処理で反応させて焼成して製造できる。
【実施例
【0037】
[実施例]
以下、本発明の好適な実施例を挙げて説明する。しかし、これらの実施例は、例示のためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0038】
製造例1:合成ポルトランドセメント(ordinary Portland cement、OPC)
105℃の条件で24時間以上乾燥した、酸化カルシウム141.5重量部、二酸化ケイ素51.7重量部、酸化アルミニウム2.1重量部、酸化鉄0.7重量部および酸化マグネシウム0.6重量部を計量し、粒度および比重が異なる原料の均一混合並びに一定サイズへの粉砕のために、V型混合設備に10mm、5mm、1mmサイズのセラミックボールを一定の割合で原料の体積と同一に入れた後、50rpmで4時間混合した。
混合の後、セラミックボールを除去し、原料全体的に反応が一定に現れるようにするために、中空の円柱状に製造して白金坩堝に混合原料を入れ、焼成炉で1500℃にて1時間30分焼成工程を行った後、直ちに焼成炉から取り出して空気中で冷却ファンを用いてわずか10分で25℃まで急冷した。
【0039】
急冷されたセメント原料を乾式条件で1mm以下に1次粉砕し、1次粉砕された原料をセラミックボトルにセラミックボトル容量の5分の1だけ充填し、10mm、5mm、1mmサイズのセラミックボールを一定の割合でボトル容量の5分の1だけ入れ、24時間粉砕した。このとき、使用したセラミックボトルおよびセラミックボールは、105℃で24時間以上乾燥させて使用した。粉砕した原料を篩い分けて10μm以下の平均粒子サイズに調整してセメント粉末を製造した。
【0040】
前記製造された粉末の相分析は、日本リガク社のD/max2200V/PCを用いて行った。このとき、分析条件は2theta=20-60°、Scan speed=5°/min、Target=CuKα1であり、加速電圧は40kV、20mAであった。
【0041】
製造例2:ケイ素原子がマトリックスにドープされたセメント
製造例1の酸化カルシウム141.5重量部、二酸化ケイ素51.7重量部、酸化アルミニウム2.1重量部、酸化鉄0.7重量部および酸化マグネシウム0.6重量部を使用した代わりに、酸化カルシウム137重量部、二酸化ケイ素45重量部および酸化アルミニウム18重量部を使用した以外は、製造例1と同様にして、製造例2のセメントを製造した。
前記製造例2のセメントの相分析は、製造例1のセメントの相分析と同様の方法で行われた。
【0042】
製造例3:ケイ素原子がマトリックスにドープされたセメント
製造例1の酸化カルシウム141.5重量部、二酸化ケイ素51.7重量部、酸化アルミニウム2.1重量部、酸化鉄0.7重量部および酸化マグネシウム0.6重量部を使用した代わりに、酸化カルシウム141重量部、二酸化ケイ素45重量部および酸化アルミニウム14重量部を使用した以外は、製造例1と同様にして、製造例3のセメントを製造した。
製造例3の粉末の相分析は、製造例1の粉末の相分析と同様の方法で行われた。
【0043】
製造例4:ケイ素原子がドープされたマトリックスに二酸化ケイ素と酸化アルミニウムを含むセメント
105℃の条件で24時間以上乾燥した、酸化カルシウム137重量部、二酸化ケイ素45重量部および酸化アルミニウム14重量部を計量し、粒度および比重が異なる原料の均一混合並びに一定サイズへの粉砕のために、V型混合設備に10mm、5mm、1mmサイズのセラミックボールを一定の割合で原料の体積と同一に入れ、50rpmで4時間混合した。混合完了の後、セラミックボールを除去し、原料全体的に反応が一定に現れるようにするために、中空の円柱状に製造し、白金坩堝に混合原料を入れて焼成炉で1500℃にて1時間30分焼成工程を行った後、直ちに焼成炉から取り出して空気中で冷却ファンを用いてわずか10分で25℃まで急冷した。急冷されたセメント原料に対しては製造例1の粉砕条件と同様にして行い、製造例4のセメント粉末に加えて、二酸化ケイ素1.3重量部および酸化アルミニウム4.5重量部を混合した。混合された粉末に対する分析も、実施例1と同様の方法で行った。
【0044】
比較製造例1:二酸化ケイ素を含むセメント
製造例1の酸化カルシウム141.5重量部、二酸化ケイ素51.7重量部、酸化アルミニウム2.1重量部、酸化鉄0.7重量部、および酸化マグネシウム0.6重量部を使用した代わりに、酸化カルシウム141重量部および二酸化ケイ素50.4重量部を使用した以外は、製造例1と同様にして、比較製造例1のセメントを製造した。
比較製造例1のセメントの相分析は、製造例1のセメントの相分析と同様の方法で行われた。
【0045】
比較製造例2:二酸化ケイ素を含むセメント
製造例1の酸化カルシウム141.5重量部、二酸化ケイ素51.7重量部、酸化アルミニウム2.1重量部、酸化鉄0.7重量部、酸化マグネシウム0.6重量部を使用し、1500℃で焼成した後に急冷した代わりに、酸化カルシウム151重量部、二酸化ケイ素60重量部を使用し、1,600℃で焼成した後に空気中で冷却させた以外は、製造例1と同様にして、比較製造例2のセメントを製造した。
比較製造例2のセメントの相分析は、製造例1のセメントの相分析と同様の方法で行われた。
【0046】
比較製造例3:二酸化ケイ素を含むセメント
製造例1の酸化カルシウム141.5重量部、二酸化ケイ素51.7重量部、酸化アルミニウム2.1重量部、酸化鉄0.7重量部および酸化マグネシウム0.6重量部を使用し、1500℃で焼成した後に急冷した代わりに、酸化カルシウム118.8重量部、二酸化ケイ素49重量部、ベーマイト(酸化アルミニウム)10.75重量部、および酸化フェライト(酸化鉄)4.61重量部を使用し、1,550℃で焼成した後に空気中で冷却させた以外は、製造例1と同様にして、比較製造例3のセメントを製造した。
比較製造例3のセメントの相分析は、製造例1のセメントの相分析と同様の方法で行われた。
【0047】
比較製造例4:セメント
製造例1の酸化カルシウム141.5重量部、二酸化ケイ素51.7重量部、酸化アルミニウム2.1重量部、酸化鉄0.7重量部、および酸化マグネシウム0.6重量部を使用し、空気中で冷却ファンを用いてわずか10分で25℃に急冷した代わりに、酸化カルシウム137重量部、二酸化ケイ素45重量部および酸化アルミニウム18重量部を使用し、空気中で冷却させた以外は、製造例1と同様にして、比較製造例4のセメントを製造した。
比較製造例4のセメントの相分析は、製造例1のセメントの相分析と同様の方法で行われた。
下記表1は、製造例1~4および比較製造例1~4によって製造されたセメントの組成含有量、焼成温度および冷却方法をまとめたものである。
【0048】
【表1】
a、bは、焼成されたセメントにさらに混合した原料の重量部を意味する。
【0049】
実施例1:歯科用水硬性組成物の製造
製造例2によって製造されたセメント52重量部、ポリプロピレングリコール20重量部、酸化ジルコニウム25重量部および硫酸カルシウム二水和物3重量部を混合ミキサーに入れて100rpmで4時間混合した後、水硬性組成物の内部に対して気泡を除去し且つ充填密度を高めるために、真空(-0.095±0.005MPa)状態で30分間維持した。
その後、容器に前記水硬性組成物を充填して歯科用水硬性組成物を製造した。
【0050】
実施例2:歯科用水硬性組成物の製造
製造例2によって製造されたセメントの代わりに、製造例3によって製造されたセメントを使用した以外は、実施例1と同様にして、歯科用水硬性組成物を製造した。
【0051】
実施例3:歯科用水硬性組成物の製造
製造例2によって製造されたセメント52重量部の代わりに、製造例2によって製造されたセメント50重量部および生体活性ガラス((SiO(NaO)(CaO)(P)2重量部を使用した以外は、実施例1と同様にして、歯科用水硬性組成物を製造した。
【0052】
実施例4:歯科用水硬性組成物の製造
製造例2によって製造されたセメント50重量部およびポリプロピレングリコール20重量部の代わりに、製造例2によって製造されたセメント60重量部およびポリプロピレングリコール10重量部を使用した以外は、実施例3と同様にして、歯科用水硬性組成物を製造した。
【0053】
実施例5:歯科用水硬性組成物の製造
製造例2によって製造されたセメント52重量部およびポリプロピレングリコール20重量部の代わりに、製造例2によって製造されたセメント62重量部およびポリプロピレングリコール10重量部を使用した以外は、実施例1と同様にして、歯科用水硬性組成物を製造した。
【0054】
実施例6:歯科用水硬性組成物の製造
製造例2によって製造されたセメント52重量部の代わりに、製造例4によって製造されたセメント52重量部を使用した以外は、実施例1と同様の方法で歯科用水硬性組成物を製造した。
【0055】
実施例7:歯科用水硬性組成物の製造
製造例2によって製造されたセメント60重量部および生体活性ガラス((SiO(NaO)(CaO)(P)2重量部の代わりに、製造例2によって製造されたセメント60重量部および第三リン酸カルシウム2重量部を使用した以外は、実施例4と同様にして、歯科用水硬性組成物を製造した。
【0056】
比較例1:歯科用組成物の製造
製造例2によって製造されたセメントの代わりに、製造例1によって製造された合成ポルトランドセメントを使用した以外は、実施例1と同様にして、歯科用水硬性組成物を製造した。
【0057】
比較例2:歯科用組成物の製造
製造例2によって製造されたセメントの代わりに、比較製造例2によって製造されたセメントを使用した以外は、実施例1と同様にして、歯科用水硬性組成物を製造した。
【0058】
比較例3:歯科用組成物の製造
製造例2によって製造されたセメントの代わりに、比較製造例3によって製造されたセメントを使用した以外は、実施例1と同様にして、歯科用水硬性組成物を製造した。
【0059】
比較例4:歯科用組成物の製造
製造例2によって製造されたセメントの代わりに、比較製造例4によって製造されたセメント52重量部を使用した以外は、実施例2と同様にして、歯科用水硬性組成物を製造した。
【0060】
比較例5:歯科用組成物の製造
製造例2によって製造されたセメントの代わりに、比較製造例1によって製造されたセメントを使用した以外は、実施例1と同様にして、歯科用水硬性組成物を製造した。
表2は、実施例1~7、比較例1~5によって製造された歯科用水硬性組成物の組成および含有量をまとめて示すものである。
【0061】
【表2】
【0062】
[試験例]
試験例1:歯科用組成物の流動性の評価および圧縮強度
下記表3は実施例1~7、比較例1~5によって製造された歯科用組成物の流動性の評価および圧縮強度をまとめて示すものである。
前記歯科用組成物の流動性の評価は、縦横のサイズが40mm×40mm、厚さが約5mm、重さが約20g程度のガラス板を2枚用意する。1枚のガラス板の中心に歯科組成物を0.05±0.005ml量だけ載せ、もう一枚のガラス板を覆った後、120±2gの重さを10分間加える。10分後、歯科用組成物の広がったサイズを測定して、測定値の最大値と最小値との偏差が1mm以内の値を記録し、これを3回測定して平均した。
前記歯科用組成物の圧縮強度は、直径4mm、高さ6mmの穴付き石膏モールドを37±1℃、湿度95%の恒温恒湿器に保管した後、恒温恒湿器の内部で穴に試料を充填し、1日、7日、14日、28日後にモールドから試料を分離した後、UTM(Universal testing machine)を用いて100Nの力、1mm/minの速度で試験し、これを5回測定して平均した値である。
【0063】
【表3】
【0064】
流動性評価結果から分かるように、流動性は、歯科用組成物に適用されたセメントの含有量によって異なるが、実施例1、2および3は、実施例4、5および7に比べて、歯科用組成物に適用されたセメントの含有量が少ないため、流動性が高かった。流動性の高い歯科用組成物はシーラー(Sealer)に使用でき、流動性の低い歯科用組成物は修復(Repair)用に使用できる。
圧縮強度の測定結果では、実施例4の歯科用組成物で圧縮強度の値が最も高く、実施例5および7の歯科用組成物においても他の条件に比べて圧縮強度が高かった。
【0065】
試験例2:セメントの構成要素確認
試験例2-1:本発明のシリコンドープされたマトリックスを含むセメントの構成要素確認
図1は製造例2によって製造されたセメントの断面のSEM-EDS分析を行い、その結果を示すものである。図1において、第1ドメイン、第2ドメイン、マトリックスに該当する部分の一例をそれぞれA1、A2およびA3で表示し、図4a~図4hは、製造例1~4および比較製造例1~4によって製造されたセメントのXRD(X-ray diffraction)分析を行い、その結果を示すものである。また、表4は製造例2の図1で表示した部分である第1ドメイン(A1)、第2ドメイン(A2)、マトリックス(A3)の組成に関する各元素の重量比を示す。
【0066】
【表4】
【0067】
図1および表4を参照すると、四角形のエーライト(alite)ドメインと、円形のビーライト(belite)ドメインと、シリコンがドープされたアルミン酸三カルシウムマトリックスとから構成されていることを確認することができる。また、EDS分析によって、各ドメインおよびマトリックスの成分は、それぞれカルシウム、ケイ素、アルミニウム、酸素の原子からなっていることを確認することができた。
【0068】
図4bを参照すると、製造例2によって製造されたセメントがエーライト(alite)ドメイン、ビーライト(belite)ドメイン、およびマトリックスから構成されていることを確認することができ、前述したように、EDS分析の結果、マトリックス成分としてSiとAlが分布しており、前記マトリックスは、アルミン酸三カルシウムのアルミニウム位置にシリコンがアルミニウムの代わりに置換され、シリコンでドープされたアルミン酸三カルシウムマトリックスが形成されたことが分かった。
【0069】
一方、図4gおよび図4dを参照すると、比較製造例3および製造例4によって製造されたセメントは、エーライト(alite)ドメイン、ビーライト(belite)ドメイン、マトリックスおよびシリコンオキサイド(silicon oxide)から構成されていることを確認することができる。これは、比較製造例3および製造例4の組成によって製造されたセメントは、前記アルミン酸三カルシウムのアルミニウム位置にシリコンが置換された、シリコンでドープされたアルミン酸三カルシウムマトリックスが形成されず、別の相(phase)である酸化ケイ素が形成されたことを確認することができた。
【0070】
試験例2-2:焼成温度による焼成工程後の混合物の形状確認
図2は製造例2および比較製造例3によって製造された混合物の焼成工程後のセメントの画像を示す。
製造例2の混合物は、1500℃で焼成した後にも初期の形態を維持しているが、比較製造例3の混合物は、1550℃で焼成した後には初期の形態がなくなり、分解された粉末の形態であることを確認することができた。
よって、混合物の焼成温度によって、焼成後の混合物の形状が異なることが分かった。
【0071】
試験例2-3:冷却条件によるセメントの内部画像の確認
図3は本発明の製造例2によって製造されたセメント(急冷)と比較製造例4によって製造されたセメント(空冷、air cooling)の内部画像を示すものである。
製造例2によって製造されたセメントの内部形状は、比較製造例4によって製造されたセメントの内部形状と異なっている。
これは同じ原料を使用しても、冷却条件によって内部構造が異なることを意味する。
【0072】
試験例2-4:XRD(X-ray diffraction)分析
図4a~図4dおよび図4e~図4hは、製造例1~4および比較製造例1~4によって製造されたセメントのXRD(X-ray diffraction)分析を行い、その結果を示すものである。
図4aを参照すると、製造例1によって製造されたセメントは、エーライト(alite)ドメイン、ビーライト(belite)ドメインおよびマトリックス相が生成されたことを確認することができた。
【0073】
図4bおよび図4cを参照すると、製造例2および3によって製造されたセメントは、エーライト(alite)ドメイン、ビーライト(belite)ドメインおよびマトリックス相が生成されたことを確認した。具体的な一例として、図4bを参照すると、製造例2の組成によって生成されたドメインは、エーライト(alite)、ビーライト(belite)、マトリックスのみが確認された。また、構成比率は、エーライト(alite)ドメインは約58vol%、ビーライト(belite)ドメインは約18vol%、マトリックスは約24vol%であることが確認された。この形成された割合を混合組成でまとめてみると、エーライト(alite)ドメインの形成に酸化カルシウム84.2重量部と二酸化ケイ素30.0重量部が参加し、ビーライト(belite)ドメインの形成には酸化カルシウム23.0重量部と二酸化ケイ素12.4重量部が参加した。マトリックス構造の形成には、酸化カルシウム29.7重量部と酸化アルミニウム18重量部が参加した。このような構造の形成に参加した原料以外に、二酸化ケイ素2.1重量部が残る。構造の形成に参加していない二酸化ケイ素が単独で存在する場合、XRD分析で二酸化ケイ素のピーク(Peak)が存在する。図4bに示された結果から、二酸化ケイ素に対するピーク(Peak)の存在がないことからみて、残った二酸化ケイ素のうちのシリコン原子は、原子サイズが似ているアルミン酸三カルシウムマトリックスのアルミニウム位置に置換されてマトリックス内に分布し、製造例2によるセメントは、エーライト(alite)ドメイン、ビーライト(belite)ドメイン、シリコンでドープされたアルミン酸三カルシウムマトリックスが生成されたことを確認することができた。
【0074】
図4dを参照すると、製造例4によって製造されたセメントは、エーライト(alite)ドメイン、ビーライト(belite)ドメインが現れ、一部添加された二酸化ケイ素および酸化アルミニウム相が確認された。
図4eを参照すると、比較製造例1によって製造されたセメントは、エーライト(alite)ドメイン相と少量のビーライト(belite)ドメインが生成されたことを確認することができた。
図4fを参照すると、比較製造例2によって製造されたセメントは、エーライト(alite)ドメイン相と図4eより比較的多くのビーライト(belite)ドメインが生成されたことを確認することができた。
【0075】
図4gを参照すると、比較製造例3によって製造されたセメントは、焼成温度が高く冷却速度が遅いため、エーライト(alite)ドメイン、ビーライト(belite)ドメインおよびマトリックス構造の他に二酸化ケイ素相が確認され、メインピーク(Peak)はビーライト(belite)構造と確認され、エーライト(alite)ドメインの構造は減少した。また、二酸化ケイ素は、エーライト(alite)ドメインの分解および構造に参加していないシリコンが酸素と結合して安定的な二酸化ケイ素として存在してXRD分析からも確認される。このような安定的な二酸化ケイ素の存在によりマトリックス構造へのシリコンドーピングは難しいので、比較製造例3のマトリックスには、シリコンがドープされたアルミン酸三カルシウムが存在しないことを確認することができた。
【0076】
図4hを参照すると、比較製造例4によって製造されたセメントは、エーライト(alite)ドメイン、ビーライト(belite)ドメインおよびマトリックスが現れたが、図4bの製造例2に示されたXRDデータと比較すると、冷却速度が遅いため、比較製造例4でベーライト(belite)相のピーク(Peak)が増加したことを確認することができた。これは、同じ焼成条件であるが、冷却方法に構成する相の分布が変わったと予想することができる。図4hに示されたXRD結果から確認される構成相の割合を比較してみると、エーライト(alite)ドメインは約47vol%、ビーライト(belite)ドメインは約29vol%、マトリックスは約24vol%であると確認された。この形成された割合を混合組成でまとめてみると、エーライト(alite)ドメインの形成に酸化カルシウム69.6重量部と二酸化ケイ素24.8重量部が参加し、ビーライト(belite)ドメインの形成には酸化カルシウム37.7重量部と二酸化ケイ素20.2重量部が参加した。マトリックス構造の形成には酸化カルシウム29.7重量部と酸化アルミニウム18.0重量部が参加した。比較製造例4は、エーライト(alite)ドメイン、ビーライト(belite)ドメインおよびマトリックスに組成物の組成がすべて参加し、製造例2のようにマトリックスに分布できるシリコン原子がないので、比較製造例4のマトリックスには、シリコンがドープされたアルミン酸三カルシウムが存在しないことを確認することができた。
【0077】
試験例3:硬化時間の評価
ISO 6876:2012に準拠して次の方法で評価した。直径10mm、高さ1mmの穴付き石膏モールドを37±1℃、湿度95%の恒温恒湿器に保管した後、恒温恒湿器の内部で穴に試料を充填する。硬化時に100±5gの重さで針先直径2±0.1mmのギルモア針を試料の表面に15秒間載せる。肉眼で観察して何らの痕跡も現れないときまで繰り返し行う。何らの痕跡も現れないときの時間を硬化時間とし、3回測定して平均した値を下記表5に示す。
【0078】
【表5】
【0079】
表5を参照すると、実施例1~5および実施例7によって製造された歯科用水硬性組成物の硬化時間は、比較例1~5によって製造された歯科用水硬性組成物の硬化時間よりも速いことが分かった。
比較例2の歯科用水硬性組成物の硬化時間の遅延は、比較例5に比べて硬化反応の遅いビーライト(belite)の含有量が相対的に高いため、硬化時間が遅延に影響を与えたものと判断される。
【0080】
比較例3の歯科用水硬性組成物の硬化時間の遅延は、焼成工程中に発生した分解原料が硬化反応に妨害されて硬化時間に影響を及ぼしたものと考えられる。
比較例4の歯科用水硬性組成物の硬化時間の遅延は、冷却条件が空冷の場合にセメント内部のビーライト(belite)の生成が急冷条件で作られたセメントに比べて多いため、実施例1で使用されたセメント組成物に比べて硬化反応速度が遅くなって硬化時間に影響を及ぼしたものと考えられる。
【0081】
試験例4:pHの評価
図5は実施例3の組成物に関する試験例3による時間別のpH測定結果を示すグラフであり、図6は本発明の実施例3による組成物の硬化後の時間経過に伴うSEM写真を示すものであり、図7の(1)および(2)は本発明の実施例1および実施例3による組成物の硬化4週後の試料表面のXRD分析結果を示すものである。
図5を参照すると、直径10±2mm、高さ2±1mmのモールドに実施例3の試料を充填して試験片を作った後、20mlの蒸留水に浸し、各時間別にpHを測定した。
【0082】
試験例5:水酸化アパタイトの生成能力の評価
ISO 23317:2014に準拠して次の方法で評価した。
1)SBF(Simulated body fluid)の製造
1Lのプラスチックビーカーに蒸留水700mlとマグネチックバーを入れ、透明なガラスまたはラップで覆う。磁力攪拌器上に水槽を置き、その中にビーカーを入れる。攪拌中に水槽の温度が36.5±1.5℃となるように熱を加える。NaCl8.035g、NaHCO0.355g、KCl0.225g、KHPO3HO0.231g、MgCl6HO0.311g、1mol/LHCl39ml、CaCl0.292g、NaSO0.072gを一つずつ攪拌しながら溶かす。このとき、溶液の量が0.9Lよりも小さい場合には、蒸留水を入れて0.9Lとなるようにする。溶液の温度を測定し、溶液の温度が36.5±1.5℃になると、TRISを少しずつ入れてpHの変化を観察する。溶液のpHが7.45±0.01になると、TRISの添加を中断し、HCL溶液を添加する。pHが7.42±0.01になるまでHCl溶液を添加する。pHが7.42±0.01に落ちると、残っているTRISを少しずつ溶かす。pHを7.42~7.45に調節し、TRISをすべて溶かした後、HClを少しずつ投入して溶液のpHが7.42±0.01となるようにする。製造された溶液を1Lのメスフラスコに入れ、1Lの表示線まで蒸留水を添加した後、水槽に入れて溶液を20℃未満に降温させる。20℃未満に降温すると、フラスコの1L表示線まで蒸留水を入れる。
【0083】
2)試験方法
直径10±2mm、高さ2±1mmのモールドに実施例1および実施例3の試料をそれぞれ充填して試験片を作った後、表面積(Sa)を計算する。実験に必要なSBFの容量(Vs)を次の式1で計算する。
[式1]
VS=100mm×Sa
計算されたSBFの容量を蓋付きプラスチック容器に入れる。SBFを36.5℃となるように加熱した後、試験片を入れる。SBF内に試験片がすべて浸漬されなければならない。試験片入りのSBFは36.5℃で保管し、周期的に一つずつ取り出して試験片を水で洗浄する。洗浄された試験片は、常温のデシケーター(desiccators)で乾燥させる。乾燥した試験片の表面をSEMとXRDによって観察する。
【0084】
図6のSEM写真を参照すると、硬化直後、2週後および4週後の試料の表面に小さい粒子の生成を確認することができる。これは水酸化アパタイトが生成されたことを意味し、これをさらに具体的に調べるために、図7のXRDデータ(4週後)を参照すると、生体活性ガラスを含む場合、水酸化アパタイトの生成能力が増加したことを確認することができた。
図5および図6を参照すると、本発明の歯科用セメントは、生体活性ガラスを含有したときに水酸化アパタイトの生成能力が有意に増加することが分かった。
【0085】
試験例6:根管充填臨床試験
本発明の実施例3の歯科用組成物を、根管治療に使用されるシリンジに気泡が存在しないように充填し、分配用チップを装着して根管に充填した。
図8を参照すると、実施例3の組成物で充填された歯の断面画像から、歯の象牙質(Dentin)およびGP(Gutta-percha Point)の表面との付着が良好であることを確認することができる。
もし象牙質と歯科用組成物の間またはGPと歯科用組成物の間の界面に、組成物が密閉されない場合には微小漏洩(Microleakage)が生じて歯の細菌により2次う蝕が発生するおそれがある。
図9を参照すると、実施例3の組成物による根管充填状態を放射線測定によって確認し、微細な部分までうまく充填されたことを確認することができる。また、組成物の放射線不透過性が良好であれば治療後の情報を得るのに役立つことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の歯科用組成物は、セメント、非水性液体、放射線不透過性助剤およびリン酸カルシウムを含む単一構成の軟膏型組成物であって、使い勝手、審美性、硬化特性および生体親和性の向上に優れるという効果がある。
図1
図2
図3
図4a
図4b
図4c
図4d
図4e
図4f
図4g
図4h
図5
図6
図7
図8
図9