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特許7009012N-レチノイルシステイン酸アルキルエステルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】N-レチノイルシステイン酸アルキルエステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 403/22 20060101AFI20220118BHJP
   C07D 303/46 20060101ALI20220118BHJP
   C07D 307/79 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
C07C403/22
C07D303/46
C07D307/79
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018530592
(86)(22)【出願日】2016-12-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-02-14
(86)【国際出願番号】 SE2016051238
(87)【国際公開番号】W WO2017099662
(87)【国際公開日】2017-06-15
【審査請求日】2019-11-06
(31)【優先権主張番号】1551615-6
(32)【優先日】2015-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】519336584
【氏名又は名称】オアスミア ファーマシューティカル アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バブロウ,ジアニス
(72)【発明者】
【氏名】ブドニカヴァ,マリナ
(72)【発明者】
【氏名】ビョルクルンド,ミカエル
(72)【発明者】
【氏名】アレクソブ, ジュリアン
【審査官】安藤 倫世
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許第01534672(EP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0050343(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0048923(US,A1)
【文献】米国特許第07030158(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 403/22
C07D 303/46
C07D 307/79
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N-レチノイルアミノアルカンスルホン酸誘導体の製造方法であって、
i)システイン酸及びそのアルキルエステル、システインスルフィン酸及びそのアルキルエステル、ホモシステイン酸及びそのアルキルエステル、ホモシステインスルフィン酸及びそのアルキルエステル、タウリン及び下記式で表されるタウリンの誘導体からなる群から選択されるアミノアルカンスルホン酸、1~4個の炭素原子を含む脂肪族アルコールから選択されるアルコール、並びにトリアルキルアミンから選択される第1の塩基を含む第1の溶液、
【化1】

(式中、nは0、1又は2であり、R は水素又はメチル基である。)
ii)レチノイン酸、クロロホルメート、非プロトン性溶媒、及び第2の塩基を含む第2の溶液、
を提供する工程と、
前記第1及び第2の溶液を任意の順序で反応容器に加えることによって、1相である液相を含む反応混合物を形成する工程と、
前記反応混合物を混合する工程と、
を含み、
前記レチノイン酸、アミノアルカンスルホン酸、及びクロロホルメートは、全て可溶性で及び前記液相中に存在し、並びに
前記N-レチノイルアミノアルカンスルホン酸誘導体が、酸化化合物を実質的に含まないことを特徴とする条件下で前記液相中に形成される方法。
【請求項2】
前記N-レチノイルアミノアルカンスルホン酸誘導体が、N-(13-シス-レチノイル)-システイン酸アルキルエステル及びN-(全トランス-レチノイル)-システイン酸アルキルエステルから選択され、
前記レチノイン酸が、13-シス-レチノイン酸又は全トランスレチノイン酸から選択され、並びに
前記アミノアルカンスルホン酸が、システイン酸アルキルエステルから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アルコールが、メタノール若しくはエタノール又はそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記非プロトン性溶媒がテトラヒドロフランである、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記クロロホルメートが、2~6個の炭素原子を含む脂肪族基を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記クロロホルメートがイソブチルクロロホルメートである、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記第2の塩基がアミンである、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記アミンが、トリアルキルアミンである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記アミンが、トリエチルアミンである、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記単相が、相分離を伴わない1相である、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記N-レチノイルアミノアルカンスルホン酸誘導体が分取クロマトグラフィーを用いて精製される、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記N-レチノイルアミノアルカンスルホン酸誘導体のアルキル基及び前記アミノアルカンスルホン酸のアルキルが1~3個の炭素原子を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記アルキル基がメチルである、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、N-レチノイルアミノアルカンスルホン酸誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、N-(全トランス-レチノイル)-L-システイン酸メチルエステル及びN-(13-シス-レチノイル)-L-システイン酸メチルエステルが開示されている。これらの化合物は、全トランス又は13-シス-レチノイン酸及びトリエチルアミンを無水テトラヒドロフランに溶解し、その後アセトニトリル及びブチルクロロホルメートを加えることによって製造される。しばらく後、得られた混合物をL-システイン酸、重炭酸ナトリウム、メタノール、テトラヒドロフラン、及び水の誘導体の溶液に加える。従って、N-(13-シス-レチノイル)-L-システイン酸メチルエステル及び/又はN-(全トランス-レチノイル)-L-システイン酸メチルエステルの形成は、単相では行われない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第7,030,158号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、複雑さを更に軽減し、N-(13-シス-レチノイル)-システイン酸アルキルエステル及びN-(全トランス-レチノイル)-システイン酸アルキルエステルを形成する方法を更に単純化することである。
【0005】
本発明の更なる目的は、収率を更に増加させることである。また、本発明は、収率の関数としての反応時間を有意に減少させ、代わりに同等の反応時間で増加した収率を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、N-レチノイルアミノアルカンスルホン酸誘導体の製造方法に関し、該方法はレチノイン酸、クロロホルメート、アミノアルカンスルホン酸、有機溶媒、及び塩基を酸化化合物の実質的な非存在下で混合することによって少なくとも1つの液相を含む反応混合物を形成する工程を含み、液相は1相であり、この液相でN-レチノイルアミノアルカンスルホン酸誘導体が形成される。
【0007】
本発明は更に、N-(13-シス-レチノイル)-システイン酸アルキルエステル、N-(全トランス-レチノイル)-システイン酸アルキルエステル、又はそれらの混合物の製造方法を包含し、少なくとも1相の液相を含む反応混合物中で13-シス-レチノイン酸、全トランス-レチノイン酸、又はそれらの混合物を反応させる工程を含み、N-(13-シス-レチノイル)-システイン酸アルキルエステル、N-(全トランス-レチノイル)-システイン酸アルキルエステル、又はそれらの混合物である生成物が液相中で形成され、反応は酸化化合物の本質的な非存在下で行われる。
【0008】
より具体的には、本発明は、N-レチノイルアミノアルカンスルホン酸誘導体の製造方法に関し、方法は、レチノイン酸と、クロロホルメートと、システイン酸及びそのアルキルエステル、システインスルフィン酸及びそのアルキルエステル、ホモシステイン酸及びそのアルキルエステル、ホモシステインスルフィン酸及びそのアルキルエステル、タウリン及びその誘導体で構成される群から選択されるアミノアルカンスルホン酸と、有機溶媒と、塩基とを提供する工程と、これらの組成物を酸化化合物の本質的な非存在下で混合することによって少なくとも1つの液相を含む反応混合物を形成する工程とを含み、液相は1相であり、この液相でN-レチノイルアミノアルカンスルホン酸誘導体が形成される。
【0009】
本発明の別の態様は、N-レチノイルアミノアルカンスルホン酸誘導体の製造方法に関し、方法は、a)システイン酸及びそのアルキルエステル、システインスルフィン酸及びそのアルキルエステル、ホモシステイン酸及びそのアルキルエステル、ホモシステインスルフィン酸及びそのアルキルエステル、タウリン及びその誘導体からなる群から選択されるアミノアルカンスルホン酸、アルコール及び第1の塩基から選択される化合物を含む液体と、b)レチノイン酸と、c)非プロトン性溶媒と、d)第2の塩基と、e)クロロホルメートとを提供する工程と、a)、b)、c)、d)、及びe)の組成物を任意の順序で反応容器に加えることによって少なくとも1つの液相を含む反応混合物を形成する工程と、この反応混合物を混合する工程とを含み、N-レチノイルアミノアルカンスルホン酸誘導体は、酸化化合物を実質的に含まないことを特徴とする条件下で溶液中に形成される。
【0010】
実施形態によれば、本発明は、N-(13-シス-レチノイル)-システイン酸アルキルエステルまたはN-(全トランス-レチノイル)-システイン酸アルキルエステルの製造方法であって、アルキル基が1~4個の炭素原子、好適には1~3個の炭素原子、好ましくは1~2個の炭素原子、例えばメチル及びエチルを含む。更に別の実施形態によれば、本発明は、N-(13-シス-レチノイル)-システイン酸メチルエステル及び/又はN-(全トランス-レチノイル)-システイン酸メチルエステルの製造方法に関する。従って、システイン酸アルキルエステルのアルキル基は、1~4個の炭素原子、好適には1~3個の炭素原子、好ましくは1~2個の炭素原子、例えばメチル及びエチルを含む。更に別の実施形態によれば、本発明は、N-(13-シス-レチノイル)-システイン酸アルキルエステル及び/又はN-(全トランス-レチノイル)-システイン酸アルキルエステルのナトリウム塩又はそれらの混合物の製造方法に関し、アルキル基は1~4個の炭素原子、好適には1~3個の炭素原子、好ましくは1~2個の炭素原子、例えばメチル及びエチルを含む。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、N-レチノイルアミノアルカンスルホン酸誘導体の製造方法に関する。誘導体は、式1の化合物から選択することができる。
【0012】
式1:
【化1】
【0013】
式中、
nは、0~2であり、
Zは、2又は3であり、
Aは、結合又は酸素原子であり、
X及びYは、H若しくは-OH又は合わせてOであり、
炭素原子3と4との間は二重結合であり、但しX及びYはHであり、
炭素原子9と10、11と12、13と14の間の二重結合の構成はE-又はZ-であってもよく、
及びRは、H、1~4個の炭素原子を含む低級アルキル、又は-COOH若しくはその薬学的に許容される塩、又はCOORであり、ここでRは1~4個の炭素原子を含むアルキル基であり、
Mは薬学的に許容されるカチオンである。
【0014】
特に好ましいN-レチノイルアミノアルカンスルホン酸誘導体は、式2で示されるN-(13-シス-レチノイル)-システイン酸アルキルエステルナトリウム塩及びN-(全トランス-レチノイル)-システイン酸アルキルエステルナトリウム塩である。
【0015】
式2:
【化2】
【0016】
式中、Rは1~3個の炭素原子を含む炭化水素である。
【0017】
本発明の方法において使用される反応物の1つはレチノイン酸である。適切なレチノイン酸は、下記の式3~6から選択され、表1~4に示される。
【0018】
式3:
【化3】
【0019】
【表1】
【0020】
式4(5,6-エポキシレチノイン酸):
【化4】
【0021】
【表2】
【0022】
式5(5,8-エポキシレチノイン酸):
【化5】
【0023】
【表3】
【0024】
式6(4-ヒドロキシ-および4-オキソレチノイン酸):
【化6】
【0025】
【表4】
【0026】
本発明による方法の更なる反応物は、アミノアルカンスルホン酸である。アミノアルカンスルホン酸は、システイン酸、システイン酸アルキルエステル、システインスルフィン酸及びそのアルキルエステル、ホモシステイン酸及びそのアルキルエステル、タウリン及びその誘導体を含む群から選択される。適切なアミノアルカンスルホン酸は、下記の式7~8及び表5~7から明らかである。
【0027】
式7(スルホン酸):
【化7】
【0028】
【表5】
【0029】
式8(タウリン誘導体):
【化8】
【0030】
【表6】
【0031】
式9(スルフィン酸):
【化9】
【0032】
【表7】
【0033】
反応物に加えて、レチノイン酸、アミノアルカンスルホン酸、及びクロロホルメートも溶液中に存在する。典型的には、クロロホルメートは、2~6個の炭素原子を含む脂肪族基を含み、この基は好ましくはイソブチルである。
【0034】
反応は、少なくとも1種の有機溶媒及び塩基を含む反応混合物中で行われる。反応混合物は、プロトン性溶媒及び非プロトン性溶媒など、1又は複数の異なる有機溶媒を含み得る。アルコールは、有機溶媒の好ましいクラスである。一実施形態によれば、有機溶媒は、少なくとも1種のアルコールを含む。更に別の実施形態によれば、有機溶媒は、非プロトン性溶媒及び少なくとも1種のアルコールを含む。通常、アルコールは好適には一価アルコールであり、1~10個の炭素原子、好適には1~4個の炭素原子を含む。例示的なアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、及びブタノールが挙げられる。適切な非プロトン性溶媒は、エーテル、エステル、アミド、ニトリル、スルホキシド、及びそれらの混合物から選択される。エーテルは特に好ましい非プロトン性溶媒である。適切なエーテルの例には、5~8個の炭素原子を含む環状エーテル、例えばテトラヒドロフランが含まれる。
【0035】
更に、有機溶媒に対して反応溶液は塩基も含む。塩基は、1種又は異なる塩基の混合物であり得る。典型的には、1種類の塩基が使用される。アミンは適切な塩基であり、好ましくは1~4個の炭素原子を独立して含む脂肪族基を含む。トリエチルアミン(TEA)が好ましい塩基である。
【0036】
有機溶媒、非プロトン性溶媒及び塩基は、反応混合物が液相を含み、この液相が1相であるように選択され、組み合わされる。「液相が1相」又は「1液相」という用語は、反応混合物の少なくとも1つの液相がただ1つの液相から構成されるという意味を有する。レチノイン酸、アミノアルカンスルホン酸、及びクロロホルメートの間の主な化学反応は、少なくとも1つの液相、即ち、1つの液相から構成される少なくとも1つの液相で行われる。従って、全ての必須反応物(及び適切には主生成物[N-レチノイルアミンアルカンスルホン酸])は、全て反応混合物の少なくとも1つの液相に本質的に可溶性であり、必須反応物(レチノイン酸、クロロホルム、及びアミノアルカンスルホン酸)は液-液相境界を横切らずに互いに作用する。この反応混合物は、反応物が1つの液相中に全て存在し、主要な化学反応が同じ液相内で行われ、この液相が1相である限り、いくつかの液相及び固相を含むことができる。好ましい実施形態によれば、反応混合物は本質的に1つの液相を含み、この液相は液-液相境界を有さない。反応混合物は、少量の固相を含むことができる。
【0037】
更なる実施形態によれば、アミノアルカンスルホン酸をアルコールに溶解し、塩基を加えて第1の溶液を得る。更に、レチノイン酸及びクロロホルメートを非プロトン性溶媒に溶解し、塩基を加えると、クロロホルメート及びレチノイン酸の反応生成物を含む第2の溶液が得られる。更に別のステップでは、第1及び第2の溶液を混合して、液-液相の境界を持たない液相を含む反応混合物が得られ、ここで、N-レチノイルアミノアルカンスルホン酸誘導体が液相中に形成される。
【0038】
以下は、本発明の範囲内のより具体的な実施形態に従うが、本発明を限定するものではない。
【0039】
システイン酸メチルエステル等のシステイン酸アルキルエステルを、アルコール及びアミンに溶解する。好適なアルコールは、1~8個の炭素原子、典型的には1~6個の炭素原子を含む脂肪族アルコールによって例示される脂肪族アルコール等、システイン酸アルキルエステルを溶解することができる任意のアルコールであってよく、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、及びヘキサノールが挙げられる。エタノール及びメタノールが好ましい。好適なアミンとしては、脂肪族アミンが挙げられる。アミンは、典型的には、1~6個の炭素原子、好適には1~4個の炭素原子を独立して含む脂肪族炭化水素を含む。適切には、アミンは、例えばメチル、エチル、及びプロピルなど、適切には1~3個の同数の炭素原子を有する3つの脂肪族炭化水素を含む。トリエチルアミン(TEA)が好ましいアミンである。アルコール、アミン、及びシステイン酸アルキルエステルは、別々の容器中で適切に混合される。
【0040】
13-シス-レチノイン酸若しくは全トランス-レチノイン酸又はその両方を反応器に入れ、適切に温度を制御し、有機溶媒及びアミンに溶解させる。有用な有機溶媒は、具体的には、環状エーテル及び4~10個の炭素原子を含む非環状エーテルを含むエーテルである。適切な非環式エーテルは、アルキル若しくはアリール基又はその両方、好ましくは2つのアルキル基を含む。アルキル基は、独立して1~5個の炭素原子を含むことができる。適切な非環状エーテルの例は、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、並びにメチルエチルエーテル及びメチルフェニルエーテル等の混合エーテルである。適用可能な環状エーテルは、4~10個の炭素原子を含むものである。適切には、環構造の一部からの全ての炭素原子である。テトラヒドロフラン(THF)は、使用できる環状エーテルである。好適なアミンは、システイン酸アルキルエステルを溶解するために使用されるアミンである。
【0041】
反応は、酸化化合物を実質的に含まない環境で行うことが好ましい。適切には、反応器を排気し、酸化化合物を本質的に含まないガスで充填する。ガスが酸化化合物を本質的に含まない限り、反応器を充填するために任意のガスを使用することができる。適切なガスには、窒素等の反応に容易に関与しない不活性ガスが含まれる。
【0042】
更に、主反応及び全ての後処理段階(後処理、クロマトグラフィー段階、及びその後の蒸発/乾燥段階等の追加の精製段階を含む)は、直接光を避けて行うことも推奨される。
【0043】
更に、アルキルクロロホルメートを、上記で特定したものと同じ液体であり得る有機溶媒と混合し、反応器に入れる。反応器にアルキルクロロホルメートを加える間、温度を室温、適切には20~25℃に保つことが有益である。好適には、温度は、水が大気圧で液体である温度以上、0℃~約15℃、好適には約5℃~約10℃の範囲で維持する。一般に、アルキルクロロホルメートを加える間、温度は15℃を超えないことが望ましい。反応混合物のバルク温度が10℃を超えて上昇しないように、反応混合物(即ち、レチノイン酸を含む混合物)の温度が有意に上昇しない時間の間に、アルキルクロロホルメートをレチノイン酸に加える。典型的には、アルキルクロロホルメートは、約5分~約40分、好ましくは約10分~約25分の時間枠内で加える。続いて、反応器混合物を周囲温度に調整する間に、システイン酸アルキルエステル溶液を入れる。反応混合物を反応が終わるまで、通常1~5時間撹拌し、N-(13-シス-レチノイル)-システイン酸アルキルエステル及び/又はN-(全トランス-レチノイル)-システイン酸アルキルエステルを形成する。
【0044】
反応が完了した後、反応混合物を適切に後処理し、後処理は通常、抽出及び洗浄段階を含む。後処理は以下のように実施することができる。
【0045】
反応混合物を真空下で留去する。その後、上で開示したアルコールのいずれであってもよいアルコール(例えば、メタノール)を蒸留後に少なくとも1回入れる。適切には、アルコールを2回入れ、2回目はメチルtert-ブチルエーテル(MTBE)であってもよいエーテルとの組み合わせである。
【0046】
以後、反応混合物は、都合のよい塩溶液で抽出することによって適切に後処理される。多くの異なる種類の塩が塩化ナトリウム(NaCl)の1種として使用され得る。抽出前に反応混合物を酸で酸性化する。酸性化には、酸が酸化化合物を本質的に含まない限り、任意の酸を使用することができる。適切には、酢酸が使用される。水相を回収し、更にエーテル及び/又はアルコールで洗浄する。通常、水相をエーテル及び/又はアルコールで数回洗浄する(例えば2~5回、典型的には2~3回)。エーテルは、MTBE等の水に本質的に混和しない任意の脂肪族エーテルであり得る。好適なアルコールは、1~6個の炭素原子を有する脂肪族アルコール、例えばメタノール及びエタノールである。水相を再び回収し、有機相を廃棄する。
【0047】
典型的には、更なる工程において、水相をエステル中に抽出し、その後、塩溶液(例えばNaCl溶液)で数回洗浄する。エステルは、酢酸エチル等の水に本質的に混和しない任意の脂肪族エステルであり得る。
【0048】
後処理を完了した後、生成物、即ちN-(13-シス-レチノイル)-システイン酸アルキルエステル及び/又はN-(全トランス-レチノイル)-システイン酸アルキルエステルを、クロマトグラフィープロセスを用いて適切にさらに精製する。
【0049】
生成物である(N-(13-シス-レチノイル)-システイン酸アルキルエステル及び/又はN-(全トランス-レチノイル)-システイン酸アルキルエステル)を、本明細書に記載されている後処理手順後の分取クロマトグラフィー分離プロセスによって追加的に精製及び/又は濃縮することが更に好ましい。生成物は、1つ以上のクロマトグラフィープロセス/段階を用いて精製/濃縮することができる。イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、及び膨張床吸着クロマトグラフィー等、いくつかの異なるクロマトグラフィー分離技術を適用することができる。通常、イオン交換クロマトグラフィーが適用される。クロマトグラフィープロセスは、順相又は逆相で行うことができる。生成物が溶解した形態で提供されることを考慮すると、液体クロマトグラフィーが好ましい。フラッシュカラムクロマトグラフィーと呼ばれることもある加圧下での液体クロマトグラフィーも考えられる。生成物を精製及び/又は濃縮するために高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)を選択することができる。考えられ得る更に便利なクロマトグラフィー手順は、逆相HPLCであるが、順相HPLCも成功裏に適用することができる。典型的には、粗生成物、即ち典型的には抽出及びその後の洗浄の後処理後の生成物をクロマトグラフィーで精製し、続いてクロマトグラフィーで濃縮する。クロマトグラフィーによる精製及び濃縮は、クロマトグラフィーの1つの段階で(1つの同じカラムで)同時に行ってもよいが、精製及び濃縮は同じカラム又は異なるカラムで異なる工程で行われることが多い。生成物が十分に精製及び/又は濃縮される限り、逆相クロマトグラフィーに適切な任意の移動相を使用することができる。適切な移動相は、水に混和性であるか又は少なくとも水に可溶な有機液体であり得、種々のアルコールによって例示され、典型的には、1~6個の炭素原子を含む一価アルコール等の一価アルコールである。適切には、有機液体は、水であり得る更なる液相と共に使用される。逆相クロマトグラフィーを用いる場合、固定相は疎水性である。本発明において、固定相はシリカ系相であってもよい。適切には、固定相は炭化水素変性シリカ、より具体的にはアルキル変性シリカである。逆相クロマトグラフィーに適した例示的な固定相としては、アルキル部分が6~22個の炭素原子、適切には8~20個の炭素原子を含むアルキル変性シリカ、及び芳香族部分を含む炭化水素で変性されたシリカ、例えばフェニル、シアノ変性シリカ等が挙げられる。上記に開示したように、任意の状態及び任意の純度の生成物を、できるだけ光に暴露しないようにするべきである。そのため、いかなる形態の直射光も避けるべきである。従って、生成物は理想的にはクロマトグラフィー手順において光にさらされるべきではない。
【0050】
更なる実施形態によれば、精製物、即ちクロマトグラフィー精製及び/又は濃縮を受けた生成物は、追加のプロセス工程を更に受ける。これらの更なる工程は、典型的には、複数の濃縮/蒸発/乾燥段階を含む。濃縮/蒸発させる前に、適切には一価のアルコールであるアルコール、又は数種のアルコールの混合物であり得る適切な溶媒に生成物を溶解する。蒸発のために使われるエネルギーが少ないため、より低い沸点を有するアルコールが好ましい。通常、適切には一価アルコールであるアルコールの沸点は、約150℃未満、例えば約100℃未満である。アルコールの例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、及びそれらの異性体が挙げられる。クロマトグラフィー手順から得られた生成物を含む液体をまず蒸発させ、残渣(即ち生成物)を乾燥させることが望ましい。この最初の蒸発及び乾燥の後、このパラグラフに提示されている溶媒のいずれかに残留物を溶解し、その後、蒸発及び乾燥させる。溶解及び蒸発/乾燥は数回繰り返すことができる。最後に、生成物である(N-(13-シス-レチノイル)-システイン酸アルキルエステル及び/又はN-(全トランス-レチノイル)-システイン酸アルキルエステル)を含む乾燥残渣を高度に精製された溶媒に溶解し、この溶媒も、まさにこのパラグラフに開示されているアルコールのいずれか1つ、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、及びそれらの異性体であり得る。
【実施例
【0051】
実施例1
【0052】
約0.8~1.2kgのシステイン酸メチルエステルをメタノール及びトリエチルアミン(TEA)に溶解する。約0.8~1.5kgの13-シス-レチノイン酸をテトラヒドロフラン(THF)及びTEAと共に別の反応器に加え、反応器ジャケットを5℃に設定する。また、イソブチルクロロホルメート及びテトラヒドロフラン(THF)を容器中で混合し、5~10℃の温度で反応器に加える。次いで、システイン酸メチルエステル溶液を反応器に入れ、ジャケット温度を室温に調整する。混合物を3時間撹拌した後、真空を適用することによって溶媒を留去する。残渣にメタノールを加え、次いでこれを留去する。得られた残渣に、メタノール及びメチルtert-ブチルエーテル(MTBE)を入れる。溶液に酢酸を加え、この混合物を塩化ナトリウム溶液で2回抽出する。水相を回収し、MTBE(各洗浄で7リットル)で3回洗浄する。水相を容器に回収する。次いで、合わせた水相を、水相に重炭酸ナトリウムを入れ、ブライン及び酢酸エチルを入れ、この混合物を撹拌することによって、酢酸エチル中に抽出する。最終段階で、有機相を、追加の塩化ナトリウム溶液及びメタノールを含む塩化ナトリウム溶液で数回洗浄する。水相を廃棄する。
【0053】
更なる工程では、粗生成物と呼ばれる抽出及び洗浄後の生成物を、分取クロマトグラフィー手順、ここでは高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて更に精製及び濃縮する。
【0054】
蒸発及び乾燥後、精製生成物をメタノールに溶解して、N-(13-シス-レチノイル)-システイン酸メチルエステルの溶液を生成する。
【0055】
実施例2.N-(全トランス-5,6-エポキシレチノイル)-L-システイン酸メチルエステルナトリウム塩
【0056】
5,6-エポキシ全トランス‐レチノイン酸(150mg、0.47mmol)を3mLの無水THFに溶解し、続いて0.07mLのトリエチルアミンを加える。得られた混合物を約-10℃に冷却し、0.07mLのイソブチルクロロホルメートを撹拌しながら加える。別のフラスコで、0.12gのL-システイン酸メチルエステルを0.14mLのトリメチルアミンの存在下で2mLのメタノールに溶解する。得られた溶液を、5,6-エポキシレチノイン酸の混合無水物を含有する撹拌混合物に加える。得られた溶液を室温で3時間攪拌した後、通常の方法で後処理する。得られた粗生成物を、溶離剤としてMeOH-水混合物を使用してRP-18シリカで精製して、175mgの生成物を得る。精製後、油状物として得られた5,6-エポキシ-エポキシレチノイル)-L-システイン酸メチルエステルナトリウム塩をメタノールに溶解し、アルゴン下で冷凍庫内に保管する。
【0057】
NMR及び高分解能マススペクトルにより、精製物は予想された構造に一致した。
【0058】
実施例3.N-(9-シス-レチノイル)-L-システイン酸メチルエステルナトリウム塩。
【0059】
9-シス-レチノイン酸(50mg、0.17mmol)を0.5mLの無水THFに溶解し、続いて0.035mLのトリエチルアミンを加える。得られた混合物を約-10℃に冷却し、0.07mLのイソブチルクロロホルメートを撹拌しながら加える。別のフラスコで、0.09gのL-システイン酸メチルエステルを0.14mLのトリメチルアミンの存在下で2mLのメタノールに溶解する。得られた溶液を、9-シス-レチノイン酸の混合無水物を含む撹拌混合物に加える。得られた溶液を室温で3時間攪拌した後、通常の方法で後処理する。得られた粗生成物を、溶離剤としてMeOH-水混合物を使用してRP-18シリカで精製し、60mgの生成物を黄色の油状物として得る。精製後、N-(9-シス-レチノイル)-L-システイン酸メチルエステルナトリウム塩をメタノールに溶解し、アルゴン下で冷凍庫内に保管する。
【0060】
NMR及び高分解能マススペクトルにより、精製物は予想された構造に一致した。
【0061】
実施例4.N-(13-シス-5,8-エポキシレチノイル)-L-システイン酸メチルエステルナトリウム塩。
【0062】
13-シス-5,8-エポキシ-レチノイン酸(150mg、0.47mmol)を2.5mLの無水THFに溶解し、続いて0.07mLのトリエチルアミンを加える。得られた混合物を約-10℃に冷却し、0.07mLのイソブチルクロロホルメートを撹拌しながら加える。別のフラスコで、0.12gのL-システイン酸メチルエステルを0.14mLのトリメチルアミンの存在下で2mLのメタノールに溶解する。得られた溶液を、13-シス-5,8-エポキシレチノイン酸の混合無水物を含有する撹拌混合物に加える。得られた溶液を室温で3時間攪拌した後、通常の方法で後処理する。得られた粗生成物を、溶離剤としてMeOH-水混合物を使用してRP-18シリカで精製して、170mgの生成物を無色油状物として得る。精製後、N-(5,8-エポキシ-エポキシレチノイル)-L-システイン酸メチルエステルナトリウム塩をメタノールに溶解し、アルゴン下で冷凍庫内に保管する。
【0063】
NMR及び高分解能マススペクトルにより、精製物は予想された構造に一致した。