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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】磁石積層体およびモータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/276 20220101AFI20220118BHJP
   H01F 7/02 20060101ALI20220118BHJP
   H02K 1/22 20060101ALI20220118BHJP
   H02K 21/12 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
H02K1/276
H01F7/02 Z
H02K1/22 A
H02K21/12 M
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2017044289
(22)【出願日】2017-03-08
(65)【公開番号】P2018148754
(43)【公開日】2018-09-20
【審査請求日】2019-10-25
【審判番号】
【審判請求日】2021-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 信雄
(72)【発明者】
【氏名】村田 素久
【合議体】
【審判長】柿崎 拓
【審判官】田合 弘幸
【審判官】塩澤 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-245085(JP,A)
【文献】特開2010-11579(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0054999(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層された複数の磁石を有し、該複数の磁石のうちの積層方向において隣り合う第1の磁石と第2の磁石を含む磁石積層体であって、
前記第1の磁石と前記第2の磁石とが互いに対向する対向面領域の一部が、前記第1の磁石と前記第2の磁石とが導通する導通領域であり、前記対向面領域の残部が、前記第1の磁石と前記第2の磁石とが絶縁された絶縁領域であり、
前記導通領域が、前記第1の磁石と前記第2の磁石との間に介在する導通体により、前記第1の磁石と前記第2の磁石とが導通する領域であり
前記導通体が、前記第1の磁石および前記第2の磁石と同じ材料で構成され、かつ、前記第1の磁石または前記第2の磁石から脱離した欠片である、磁石積層体。
【請求項2】
前記第1の磁石と前記第2の磁石との間の抵抗値が0.5Ω以上である、請求項1に記載の磁石積層体。
【請求項3】
前記対向面領域に一つの前記導通領域のみ存在する、請求項1または2に記載の磁石積層体。
【請求項4】
前記導通領域が前記対向面領域の縁に存在する、請求項3に記載の磁石積層体。
【請求項5】
前記導通領域が前記対向面領域の中央に存在する、請求項3に記載の磁石積層体。
【請求項6】
前記対向面領域に複数の前記導通領域が存在する、請求項1または2に記載の磁石積層体。
【請求項7】
前記対向面領域が矩形状であり、前記対向面領域の対向する辺縁それぞれに前記導通領域が存在する、請求項に記載の磁石積層体。
【請求項8】
前記絶縁領域において前記第1の磁石と前記第2の磁石との間に介在する絶縁体により、前記第1の磁石と前記第2の磁石とが絶縁されている、請求項1~のいずれか一項に記載の磁石積層体。
【請求項9】
スロットが設けられて、かつ、該スロットに磁石積層体が収容された回転子を備え、
前記磁石積層体が、積層された複数の磁石を有し、該複数の磁石のうちの積層方向において隣り合う第1の磁石と第2の磁石を含む磁石積層体であって、前記第1の磁石と前記第2の磁石とが互いに対向する対向面領域の一部が、前記第1の磁石と前記第2の磁石とが導通する導通領域であり、前記対向面領域の残部が、前記第1の磁石と前記第2の磁石とが絶縁された絶縁領域であり、
前記導通領域が、前記第1の磁石と前記第2の磁石との間に介在する導通体により、前記第1の磁石と前記第2の磁石とが導通する領域であり
前記導通体が、前記第1の磁石および前記第2の磁石と同じ材料で構成され、かつ、前記第1の磁石または前記第2の磁石から脱離した欠片である、モータ。
【請求項10】
前記第1の磁石と前記第2の磁石との間の抵抗値が0.5Ω以上である、請求項に記載のモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁石積層体およびモータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ハイブリッドカーやハードディスクドライブ等に用いられる永久磁石モータとして、永久磁石を回転子内部に埋め込んでなる磁石埋め込み型モータ(IPMモータ)が知られている(たとえば、下記特許文献1)。また、下記特許文献2には、回転子に埋め込まれる永久磁石を複数の小型磁石に分割して構成するとともに小型磁石の間に絶縁体を介在させ、小型磁石間における渦電流の経路を断ち切ることで、渦電流に起因する磁石性能の低下を抑制した磁石埋め込み型モータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-142091号公報
【文献】特開2000-324736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来技術においては、小型磁石の間に介在させた絶縁体が、小型磁石の間における渦電流の経路(すなわち、電気的な経路)とともに熱的な経路も断ち切る。つまり、小型磁石の間に介在する絶縁体が小型磁石の間における熱の授受を阻害し、それにより、小型磁石の冷却効率を十分に高めることが困難であった。
【0005】
本発明は、磁石性能の低下を抑制しつつ冷却効率の向上が図られた磁石積層体およびモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態に係る磁石積層体は、積層された複数の磁石を有し、該複数の磁石のうちの積層方向において隣り合う第1の磁石と第2の磁石を含む磁石積層体であって、第1の磁石と第2の磁石とが互いに対向する対向面領域の一部が、第1の磁石と第2の磁石とが導通する導通領域であり、対向面領域の残部が、第1の磁石と第2の磁石とが絶縁された絶縁領域である。
【0007】
上記磁石積層体は、第1の磁石と第2の磁石とが互いに対向する対向面領域の絶縁領域において渦電流の経路が断ち切られている。一方、対向面領域の導通領域では、第1の磁石と第2の磁石との間で電子が移動可能であり、電子の移動により第1の磁石と第2の磁石との間において熱が授受される。したがって、上記磁石積層体においては、第1の磁石と第2の磁石との対向面領域の絶縁領域において渦電流の経路を断ち切ることで磁石性能の低下が抑制され、かつ、導通領域において磁石の冷却効率が高められている。
【0008】
他の形態に係る磁石積層体は、対向面領域に一つの導通領域のみ存在する。
【0009】
他の形態に係る磁石積層体は、導通領域が、対向面領域の周縁において対向面領域を囲む形状である。
【0010】
他の形態に係る磁石積層体は、導通領域が対向面領域の縁に存在する。
【0011】
他の形態に係る磁石積層体は、導通領域が対向面領域の中央に存在する。
【0012】
他の形態に係る磁石積層体は、対向面領域に複数の導通領域が存在する。
【0013】
他の形態に係る磁石積層体は、対向面領域が矩形状であり、対向面領域の対向する辺縁それぞれに導通領域が存在する。
【0014】
他の形態に係る磁石積層体は、導通領域において第1の磁石と第2の磁石との間に介在する導通体により、第1の磁石と第2の磁石とが導通している。
【0015】
他の形態に係る磁石積層体は、導通領域において第1の磁石と第2の磁石とが接して、第1の磁石と第2の磁石とが導通している。
【0016】
他の形態に係る磁石積層体は、絶縁領域において第1の磁石と第2の磁石との間に介在する絶縁体により、第1の磁石と第2の磁石とが絶縁されている。
【0017】
本発明の一形態に係るモータは、スロットが設けられて、かつ、該スロットに磁石積層体が収容された回転子を備え、磁石積層体が、積層された複数の磁石を有し、該複数の磁石のうちの積層方向において隣り合う第1の磁石と第2の磁石を含む磁石積層体であって、第1の磁石と第2の磁石とが互いに対向する対向面領域の一部が、第1の磁石と第2の磁石とが導通する導通領域であり、対向面領域の残部が、第1の磁石と第2の磁石とが絶縁された絶縁領域である。
【0018】
上記モータの磁石積層体においては、第1の磁石と第2の磁石とが互いに対向する対向面領域の絶縁領域において渦電流の経路が断ち切られている。一方、対向面領域の導通領域では、第1の磁石と第2の磁石との間で電子が移動可能であり、電子の移動により第1の磁石と第2の磁石との間において熱が授受される。したがって、上記モータにおいては、第1の磁石と第2の磁石との対向面領域の絶縁領域において渦電流の経路を断ち切ることで磁石性能の低下が抑制され、かつ、導通領域において磁石の冷却効率が高められている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、磁石性能の低下を抑制しつつ冷却効率の向上が図られた磁石積層体およびモータが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、実施形態に係るモータを示した概略平面図である。
図2図2は、図1におけるスロット周辺を拡大して示した斜視図である。
図3図3は、図1、2に示した磁石積層体の積層状態を示した斜視図である。
図4図4は、図3に示した磁石積層体の渦電流損および磁石間の抵抗値に関する実験結果を示したグラフである。
図5図5(a)、(b)は、実験に供した各試料を示した図である。
図6図6(a)~(d)は、実験に供した各試料を示した図である。
図7図7(a)~(f)は、実験に供した各試料を示した図である。
図8図8は、磁石積層体の磁石間に介在する導通体および絶縁層を示した断面図である。
図9図9は、異なる態様の磁石積層体を示した斜視図である。
図10図10は、磁石積層体の渦電流損と磁石分割数との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、同一又は同等の要素については同一の符号を付し、説明が重複する場合にはその説明を省略する。
【0022】
まず、実施形態に係るモータ1の構成について、図1を参照しつつ説明する。
【0023】
図1に示すように、モータ1は、固定子(ステータ)2と、固定子2の内部に回転自在に配置された回転子(ロータ)3とを備えて構成されている。モータ1は、回転子3の内部に磁石積層体4を埋め込んでなる、いわゆる、磁石埋め込み型のIPMモータである。
【0024】
固定子2は、鉄心5と、鉄心5に巻装された複数の巻線6とから構成される。また、巻線6は固定子2の内周面で等間隔に所定数配置され、巻線6が通電されると回転子3を回転させるための回転磁界を発生させる。
【0025】
回転子3は、コア7と、コア7と連結したシャフト8と、コア7に設けられたスロット9に収容されて固定された磁石積層体4とから構成される。
【0026】
コア7は、薄板状の電磁鋼板等の積層体からなり、その中心部分に軸穴が形成され、この軸穴にシャフト8が嵌合される。コア7の外周付近には、コア7の軸周りに周期的に並んだ複数対(図1では4対)のスロット9が設けられている。スロット9の各対は、コア7の軸から延びる仮想線に対して対称的に配置されており、かつ、該仮想線に対して所定角度だけ傾いて配置されている。そして、図2に示すように、各スロット9に、磁石積層体4に収容されている。
【0027】
磁石積層体4は、図2に示すように、スロット9の深さ方向に沿って積まれた一対の長方形平板状の磁石4A、4Bで構成されている。一対の磁石4A、4Bは、同じ材料で構成された永久磁石である。本実施形態に係る磁石4A、4Bは、希土類焼結磁石で構成されており、たとえばR-T-B系焼結磁石であることが好ましい。R-T-B系焼結磁石は、R2T14B結晶から成る粒子(結晶粒子)および粒界を有する。
【0028】
R-T-B系焼結磁石におけるRは、希土類元素の少なくとも1種を表す。希土類元素とは、長周期型周期表の第3族に属するScとYとランタノイド元素とのことをいう。ランタノイド元素には、例えば、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等が含まれる。R-T-B系焼結磁石におけるTは、Fe、あるいはFeおよびCoを表す。さらに、その他の遷移金属元素から選択される1種以上を含んでいてもよい。R-T-B系焼結磁石におけるBは、ホウ素(B)、あるいは、ホウ素(B)および炭素(C)を表す。
【0029】
本実施形態に係るR-T-B系焼結磁石は、CuまたはAl等を含んでいてもよい。これらの元素の添加により、高保磁力化、高耐食性化、または温度特性の改善が可能となる。
【0030】
さらに、本実施形態に係るR-T-B系焼結磁石は、重希土類元素としてDy、Tb、またはその両方を含んでいてもよい。重希土類元素は、結晶粒子及び粒界に含まれていてもよい。重希土類元素が、結晶粒子に実質的に含まれない場合は、粒界に含まれることが好ましい。粒界における重希土類元素の濃度は、結晶粒子における濃度より高いことが好ましい。本実施形態に係るR-T-B系焼結磁石は、重希土類元素が粒界拡散されたR-T-B系焼結磁石であってもよい。重希土類元素を粒界拡散したR-T-B系焼結磁石は、粒界拡散しないR-T-B系焼結磁石と比較して、より少量の重希土類元素で残留磁束密度および保磁力を向上させることができる。
【0031】
また、一対の磁石4A、4Bの寸法は、いずれも同じ寸法になるように設計されており、たとえば、長辺長さは3~70mmの範囲であり、短辺長さは3~70mmの範囲であり、高さは3~70mmの範囲である。本実施形態では、一対の磁石4A、4Bはいずれも、長辺長さが60.0mm、短辺長さが8.0mm、高さが5.0mmである。また、一対の磁石4A、4Bの間には、後述する絶縁層13および導通体11が介在しており、磁石4A、4Bの間隔は5~500μmの範囲であり、一例として15μmである。
【0032】
また、風力発電などに使用される大型磁石においては、たとえば、長辺長さは30~100mmの範囲であり、短辺長さは30~100mmの範囲であり、高さは30~100mmの範囲である。一対の磁石4A、4Bの間には、後述する絶縁層13および導通体11が介在しており、磁石4A、4Bの間隔は0.1~1mmの範囲である。
【0033】
磁石積層体4の積層に関しては、上記寸法にすでに個片化されている磁石4A、4Bを重ね合わせてもよく、大判の磁石板の状態で重ね合わせた後に上記寸法に個片化して磁石積層体4を得てもよい。磁石板の状態で重ね合わせた後に個片化する積層方法では、個片化の際にダイサー等の切削工具を用いることができる。必要に応じて、磁石4A、4Bに所定の研磨処理(たとえばバレル研磨等)を施して面取りしてもよい。
【0034】
図3に示すように、一対の磁石4A、4Bは、同じ姿勢で、上側に位置する磁石(第1の磁石)4Aの下面4aと下側に位置する磁石(第2の磁石)4Bの上面4bとが対向するように積層されている。一対の磁石4A、4Bは同一方向に磁化されており、本実施形態では短辺方向に平行な方向Mに磁化されている。
【0035】
スロット9のキャビティ寸法は、磁石積層体4の寸法と略同じ寸法、または、磁石積層体4の寸法より大きい寸法である。ただし、磁石積層体4の上面がスロット9から出ないように、スロット9の深さは、磁石積層体4の高さよりわずかだけ深く(たとえば、0.2mmだけ深く)設計されている。また、スロット9の内側面と磁石積層体4の側面との間に所定のクリアランス(たとえば、0.1mm)が設けられるように設計されている。
【0036】
なお、適宜、スロット9に充填剤を充填して、磁石積層体4をスロット9に固定してもよい。充填剤としては、熱硬化性樹脂を用いることができ、たとえばエポキシ樹脂やシリコーン樹脂を用いることができる。ただし、スロット9に収納された磁石積層体4がスロット9に対して固定された状態となるのであれば、必ずしも充填剤を用いる必要はない。
【0037】
続いて、磁石積層体4の磁石4Aの下面4aと磁石4Bの上面4bとが対向する矩形状の領域(以下、「対向面領域」とも称す。)における導通領域と絶縁領域について、図4~7を参照しつつ説明する。
【0038】
発明者らは、一対の磁石4A、4Bの対向面領域の導通領域および絶縁領域のパターンが異なる試料P1~P11を用意し、それぞれの試料について磁石4A、4B間の抵抗値を測定した。その測定結果は、図4のグラフに示すとおりであった。図4のグラフにおいて、横軸(対数目盛)は磁石4A、4B間の抵抗値(Ω)を示し、縦軸は、試料P0の渦電流損を基準(100%)とした渦電流損を示している。なお、磁石4A、4B間の抵抗値の測定には、日置電機株式会社製の抵抗計(RM3548)を用いた。0.2mA、1000Hzの電流を用い、渦電流損の測定には、メトロン技研株式会社製の高周波コアロス測定装置(MTR-2617)ANSYS社製の解析ソフト(Maxwell)を用いて、磁石に交流磁場を連続的に印加し、磁石の発熱量から渦電流損を算出した。
【0039】
ここで、各試料における導通/絶縁パターンおよび抵抗値について説明する。
【0040】
図5(a)は、試料P0の対向面領域における導通/絶縁パターンを示した図である。本図に示すように、試料P0の対向面領域はその全域が導通領域10となっている。具体的には、試料P0では、対向面領域の全域において、磁石4Aの下面4aと磁石4Bの上面4bとが直接接している。試料P0における磁石4A、4B間の抵抗値は、2.25×10-7Ωであった。
【0041】
図5(b)は、試料P1の対向面領域における導通/絶縁パターンを示した図である。本図に示すように、試料P1の対向面領域はその全域が絶縁領域12となっている。具体的には、試料P1の対向面領域の絶縁領域12には絶縁層13が設けられており、絶縁層13により、磁石4Aの下面4aと磁石4Bの上面4bとは対向面領域の全域において電気的に絶縁されている。絶縁層13は、絶縁性を有する樹脂で構成されており、たとえばエポキシ樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂などで構成されている。試料P1における磁石4A、4B間の抵抗値は、1.00×10Ωであった。
【0042】
図6(a)は、試料P2の対向面領域における導通/絶縁パターンを示した図である。本図に示すように、試料P2の対向面領域では、導通領域10が対向面領域の周縁において対向面領域を囲む矩形環状(幅10μm)であり、導通領域10の内側領域が絶縁領域12となっている。具体的には、図8に示すように、試料P2の対向面領域の導通領域10に導通体11が設けられており、絶縁領域12に絶縁層13が設けられている。それにより、試料P2では、導通領域10に設けられた導通体11を介して、磁石4Aと磁石4Bとが導通領域10において導通している。導通体11は、導電性を有する材料で構成されており、たとえば、磁石4A、4Bと同一の材料(本実施形態では希土類焼結磁石)や金属材料、合金材料などで構成されている。試料P2における磁石4A、4B間の抵抗値は、7.88×10-5Ωであった。
【0043】
図6(b)は、試料P3の対向面領域における導通/絶縁パターンを示した図である。本図に示すように、試料P3の対向面領域では、2つの帯状(55.5mm×10μm)の導通領域10が対向面領域の長辺の全縁に存在し、各導通領域10に導通体11が設けられている。また、試料P3の対向面領域では、両導通領域10の内側領域が絶縁領域12となっており、絶縁領域12に絶縁層13が設けられている。試料P3における磁石4A、4B間の抵抗値は、9.01×10-5Ωであった。
【0044】
図6(c)は、試料P4の対向面領域における導通/絶縁パターンを示した図である。本図に示すように、試料P4の対向面領域では、2つの帯状(10μm×8mm)の導通領域10が対向面領域の短辺の全縁に存在し、各導通領域10に導通体11が設けられている。また、試料P4の対向面領域では、両導通領域10の内側領域が絶縁領域12となっており、絶縁領域12に絶縁層13が設けられている。試料P4における磁石4A、4B間の抵抗値は、6.25×10-4Ωであった。
【0045】
図6(d)は、試料P5の対向面領域における導通/絶縁パターンを示した図である。本図に示すように、試料P5の対向面領域では、対向面領域の短辺に多数の導通領域10が周期的に並び、各導通領域10に導通体11が設けられている。導通領域10の長辺方向長さは30μm、短辺方向長さは10μmであり、短辺方向において隣り合う導通領域10同士の離間距離は30μmである。また、試料P5の対向面領域では、導通領域10の残部領域が絶縁領域12となっており、絶縁領域12に絶縁層13が設けられている。試料P5における磁石4A、4B間の抵抗値は、1.25×10-3Ωであった。
【0046】
図7(a)は、試料P6の対向面領域における導通/絶縁パターンを示した図である。本図に示すように、試料P6の対向面領域では、2つの四角形状(10μm×10μm)の導通領域10が対向面領域の短辺の中央に1つずつ存在し、各導通領域10に導通体11が設けられている。一方の短辺にある導通領域10と他方の短辺にある導通領域10とは、互いに対応する位置にあり、長辺方向において並んでいる。また、試料P6の対向面領域では、導通領域10の残部領域が絶縁領域12となっており、絶縁領域12に絶縁層13が設けられている。試料P6における磁石4A、4B間の抵抗値は0.5Ωであった。
【0047】
図7(b)は、試料P7の対向面領域における導通/絶縁パターンを示した図である。本図に示すように、試料P7の対向面領域では、2つの四角形状(10μm×10μm)の導通領域10が対向面領域の長辺の中央に1つずつ存在し、各導通領域10に導通体11が設けられている。一方の長辺にある導通領域10と他方の長辺にある導通領域10とは、互いに対応する位置にあり、短辺方向において並んでいる。また、試料P7の対向面領域では、導通領域10の残部領域が絶縁領域12となっており、絶縁領域12に絶縁層13が設けられている。試料P7における磁石4A、4B間の抵抗値は0.5Ωであった。
【0048】
図7(c)は、試料P8の対向面領域における導通/絶縁パターンを示した図である。本図に示すように、試料P8の対向面領域では、1つの四角形状(10μm×10μm)の導通領域10が対向面領域の隅に存在し、導通領域10に導通体11が設けられている。また、試料P8の対向面領域では、導通領域10の残部領域が絶縁領域12となっており、絶縁領域12に絶縁層13が設けられている。試料P8における磁石4A、4B間の抵抗値は1Ωであった。
【0049】
図7(d)は、試料P9の対向面領域における導通/絶縁パターンを示した図である。本図に示すように、試料P9の対向面領域では、1つの四角形状(10μm×10μm)の導通領域10が対向面領域の一方の短辺の中央に存在し、導通領域10に導通体11が設けられている。また、試料P9の対向面領域では、導通領域10の残部領域が絶縁領域12となっており、絶縁領域12に絶縁層13が設けられている。試料P9における磁石4A、4B間の抵抗値は1Ωであった。
【0050】
図7(e)は、試料P10の対向面領域における導通/絶縁パターンを示した図である。本図に示すように、試料P10の対向面領域では、1つの四角形状(10μm×10μm)の導通領域10が対向面領域の一方の長辺の中央に存在し、導通領域10に導通体11が設けられている。また、試料P10の対向面領域では、導通領域10の残部領域が絶縁領域12となっており、絶縁領域12に絶縁層13が設けられている。試料P10における磁石4A、4B間の抵抗値は1Ωであった。
【0051】
図7(f)は、試料P11の対向面領域における導通/絶縁パターンを示した図である。本図に示すように、試料P11の対向面領域では、1つの四角形状(10μm×10μm)の導通領域10が対向面領域の中央に存在し、導通領域10に導通体11が設けられている。また、試料P11の対向面領域では、導通領域10の残部領域が絶縁領域12となっており、絶縁領域12に絶縁層13が設けられている。試料P11における磁石4A、4B間の抵抗値は1Ωであった。
【0052】
そして、図4のグラフに示すとおり、試料P0の渦電流損に比べて試料P1~P11のいずれの渦電流損も小さかった。すなわち、対向面領域に絶縁領域12がない試料P0に比べて、対向面領域に絶縁領域12がある試料P1~P11では、渦電流損が抑制されることがわかった。つまり、試料P1~P11のように、磁石4A、4Bの対向面領域の少なくとも一部に絶縁領域12を設けることで、渦電流損の抑制が図られる。
【0053】
ただし、絶縁領域12が設けられた試料P1~P11のうち、試料P1に関しては、絶縁領域12として対向面領域の全域に絶縁層13が設けられており、磁石4A、4B間を電子が移動することができず、電子の移動による磁石4A、4B間の伝熱が阻害されている。そのため、試料P1では、磁石積層体4の冷却効率を十分に高めることが困難である。
【0054】
発明者らは、上記の実験結果から、試料P0のように対向面領域の全域を導通領域10にしたり、試料P1のように対向面領域の全域を絶縁領域12にしたりするのではなく、試料P2~11のように対向面領域の一部を導通領域10とし残部を絶縁領域12とすることで、渦電流損を抑制しつつ磁石積層体4の冷却効率が高まるとの知見を得た。
【0055】
すなわち、上述した試料P2~P11のような導通/絶縁パターンを有する磁石積層体4では、磁石4A、4Bの対向面領域の絶縁領域12では渦電流の経路が絶縁層13により断ち切られており、その一方で、磁石4A、4Bの対向面領域の導通領域10では、導通体11を介して磁石4Aと磁石4Bとの間で電子が移動可能となっており、電子の移動により磁石4A、4B間において熱が授受され得る。したがって、磁石積層体4においては、磁石4A、4Bの対向面領域の絶縁領域12において渦電流の経路を断ち切ることで磁石性能の低下が抑制され、かつ、導通領域10において磁石の冷却効率が高められている。
【0056】
また、図4に示した実験結果から、試料P6~P11においては、試料P1と同じ程度にまで渦電流損が抑えられることがわかった。具体的には、試料P6~P11の渦電流損は、試料P0の渦電流損に対して26%程度まで抑制されている。このことから、発明者らは、対向面領域に設けた導通領域10の面積をある程度小さくすることで、対向面領域に導通領域10を設けない場合と同様に、顕著な渦電流損の抑制効果があるとの知見を得た。より詳しくは、試料P6~P11のように、磁石4A、4B間の抵抗値が0.5Ω以上となるように導通/絶縁パターン(特に、導通領域の面積)を設計することで、渦電流損を顕著に抑制し得るとの知見を得た。つまり、試料P6~P11のように、磁石4A、4B間の対向面領域の一部を導通領域10としつつも、その導通領域10を磁石4A、4B間の抵抗値が0.5Ω以上となるように設計することで、対向面領域の全域を絶縁領域とした場合と同じ程度に渦電流損を抑制することができる。
【0057】
なお、図6(a)に示した矩形環状の導通領域10や、図6(b)、(c)に示した帯状領域は、必ずしも全周/全長に亘って導通している必要はなく、一箇所や複数箇所が欠損して絶縁領域となっていてもよい。
【0058】
対向面領域の導通領域10は、必ずしも導通体11を介した導通ではなく、磁石4Aの下面4aと磁石4Bの上面4bとが直接接することによる導通であってもよい。具体的には、磁石4Aの下面4aと磁石4Bの上面4bとが完全な平行ではなくわずかに傾いた場合に、対向面領域の縁において磁石4Aの下面4aと磁石4Bの上面4bとが直接接し、その接触部分に導通領域10が生じる。たとえば、磁石積層体4を、モータ1のスロット9に収容する際に上記傾きが生じ得る。また、絶縁層13に厚さムラが生じている場合には、絶縁層13の形成領域(すなわち、絶縁領域12)の一部に絶縁層13が存在しない領域が生じ、その領域が導通領域10となることもあり得る。さらに、磁石4Aの下面4aおよび磁石4Bの上面4bの少なくとも一方の表面粗さが大きい場合(たとえば、表面粗さ(Rmax)が1~10μm程度)にも、絶縁層13に厚さムラが生じ、絶縁層13の形成領域の一部に絶縁層13が存在しない領域が生じて、その領域が導通領域10となることもあり得る。
【0059】
導通体11としては、一例として、磁石4A、4Bと同じ構成材料の欠片が挙げられる。磁石4A、4Bは、研磨の際や、振動や衝撃を受けた際に、縁から欠片が脱離することがあり、その欠片が導通体11となり得る。また、上述したように、磁石積層体4を個片化する際には、所定の切削工具が用いられるが、その一部が異物として磁石4Aの下面4aと磁石4Bの上面4bとの間に入り込み、導通体11となることもある。
【0060】
また、対向面領域の絶縁領域12には、必ずしも絶縁層13を設ける必要はなく、磁石4Aの下面4aと磁石4Bの上面4bとの間に何も存在しない空乏(空乏層)であってもよい。この場合でも、絶縁領域12における磁石4A、4B間の絶縁が図られる。
【0061】
磁石積層体は、上述した磁石積層体4に代えて、図9に示す磁石積層体14とすることができる。
【0062】
図9に示した磁石積層体14は、磁石積層体14とは分割態様が異なる。すなわち、磁石積層体14では、磁化方向Mに対して平行な面で磁石14A、14B、14Cが分割されている。この場合、磁石14Aの磁石14Bに対向する面14aと磁石14Bの磁石14Aに対向する面14bとの対向面領域、および、磁石14Bの磁石14Cに対向する面14cと磁石14Cの磁石14Bに対向する面14dとの対向面領域において、その一部を上述した導通領域10とし残部を絶縁領域12とすることで、上述した磁石積層体4と同一または同様の効果を奏する。
【0063】
図10のグラフは、発明者らがおこなった実験により得られた、磁石積層体の渦電流損と磁石分割数との関係を示している。図10のグラフにおいて、L1は磁石積層体4の分割態様(縦分割)を示し、L2は磁石積層体14の分割態様(横分割)を示している。図10のグラフから、L1、L2ともに、分割数が増加するに従って渦電流損が減少することがわかる。また、縦分割L1で2分割したときの渦電流損の減少が、横分割L2で10分割したときの渦電流損の減少と同程度であることから、分割数増加による渦電流損減少の効果はL1のほうが大きいことがわかる。
【0064】
そのため、渦電流損を効率良く減少させるためには、図9に示した磁石積層体14の分割態様よりも、図3に示した磁石積層体4の分割態様のほうが好ましい。
【0065】
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0066】
たとえば、モータに設けられたスロットの数は適宜増減することができ、スロットの位置関係についても適宜変更することができる。また、磁石積層体を構成する磁石の数(すなわち、分割数)は、適宜増減することができる。磁石積層体が3つ以上の磁石で構成されている場合には、複数の磁石のうちの積層方向において隣り合う2つの磁石の対向面領域において、その一部を上述した導通領域とし残部を絶縁領域とすることで、上述した磁石積層体4と同一または同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0067】
1…モータ、3…回転子、4、14…磁石積層体、7…コア、9…スロット、4A、4B、14A、14B、14C…磁石、4a、4b、14a~14d…面、10…導通領域、11…導通体、12…絶縁領域、13…絶縁層。
図1
図2
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図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10