(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】シンナムアルデヒドを含有する炭酸飲料における炭酸感増強
(51)【国際特許分類】
A23L 2/00 20060101AFI20220118BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
A23L2/00 T
A23L2/52
(21)【出願番号】P 2017168879
(22)【出願日】2017-09-01
【審査請求日】2020-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391058381
【氏名又は名称】キリンビバレッジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【氏名又は名称】山村 昭裕
(72)【発明者】
【氏名】辻 香麻里
(72)【発明者】
【氏名】桑原 梓
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 深保子
(72)【発明者】
【氏名】山本 研一朗
(72)【発明者】
【氏名】福田 隆文
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-068749(JP,A)
【文献】特開2005-015686(JP,A)
【文献】特許第4679132(JP,B2)
【文献】特開2016-158502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シンナムアルデヒドを含有する容器詰炭酸飲料であって、ピペリン類を含有し、かつ、前記容器詰炭酸飲料中のシンナムアルデヒド濃度に対するピペリン類濃度の比率が0.002以上であることを特徴とする容器詰炭酸飲料。
【請求項2】
容器詰炭酸飲料中のシンナムアルデヒド濃度が0.03~300ppmであることを特徴とする請求項1に記載の容器詰炭酸飲料。
【請求項3】
容器詰炭酸飲料中のピペリン類濃度が0.005~10ppmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の容器詰炭酸飲料。
【請求項4】
容器詰炭酸飲料中のシンナムアルデヒド濃度に対するピペリン類濃度の比率が0.002~350であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の容器詰炭酸飲料。
【請求項5】
さらに以下の一般式(1)のアミド誘導体(ただし、ピペリン類を除く)を含有し、かつ、容器詰炭酸飲料中のピペリン類濃度に対する前記アミド誘導体濃度の比率が0.05~100であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の容器詰炭酸飲料。
【化1】
(上記式(1)中、R
1は、末端がメチレンジオキシフェニル基で置換されていてもよい炭素数2~20のポリエン
基を表し、R
2及びR
3は、それぞれ独立して、水素原子又は水酸基で置換されていてもよい低級アルキル基を表し、R
2とR
3は、それぞれ互いに隣接する窒素原子と共に複素環を形成していてもよい。)
【請求項6】
さらに難消化性デキストリンを含有し、かつ、容器詰炭酸飲料中の難消化性デキストリン濃度が0.2重量%以上であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の容器詰炭酸飲料。
【請求項7】
シンナムアルデヒドを含有する容器詰炭酸飲料の製造において、前記容器詰炭酸飲料にピペリン類を含有させ、かつ、前記容器詰炭酸飲料中のシンナムアルデヒド濃度に対するピペリン類濃度の比率を0.002以上に調整することを特徴とする容器詰炭酸飲料の製造方法。
【請求項8】
シンナムアルデヒドを含有する容器詰炭酸飲料の製造において、前記容器詰炭酸飲料にピペリンを含有させ、かつ、前記容器詰炭酸飲料中のシンナムアルデヒド濃度に対するピペリン類濃度の比率を0.002以上に調整することを特徴とする容器詰炭酸飲料の炭酸感増強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンナムアルデヒドを含有する容器詰炭酸飲料(以下、「シンナムアルデヒド含有容器詰炭酸飲料」とも表示する。)における炭酸感増強に関し、より具体的には、炭酸感が増強された、シンナムアルデヒド含有容器詰炭酸飲料、及びその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の嗜好は益々多様化しており、それに合わせて多種多様な飲料が容器詰飲料として市販されている。甘味飲料として例えばオレンジジュース、りんごジュース等のジュース類、炭酸飲料や乳酸菌飲料、苦味飲料としてブラックコーヒー、お茶等が挙げられる。これらの多種多様な容器詰飲料には、飲料の種類に応じた香味設計が行われており、それに合わせて様々な原材料が用いられている。
【0003】
炭酸飲料は、飲料液に炭酸ガス(二酸化炭素)を圧入し、飲料液中に炭酸ガスを過飽和に吸収させた清涼飲料であり、通常の清涼飲料では得られない特有の炭酸感を有しているため、これを求めて飲用されることが多い。炭酸飲料の炭酸感は、飲用した際、飲料中の炭酸ガスが口腔内及び喉通過の時に発泡することで得られる刺激感等によって生じ、かかる炭酸感によって、飲用した者に爽快感やリフレッシュ感を感じさせる。したがって、炭酸飲料において炭酸感は、消費者の満足度を左右する重要な性質である。
【0004】
炭酸感を増強する手段の一つとして、飲料に含有させる炭酸ガスの濃度を単に高くすることが考えられる。しかし、高濃度の炭酸ガスを飲料に含有させると、容器内のガス圧も当然高まってしまうため、このような手段を容器詰炭酸飲料において採ることが、耐圧性などの容器上の制約から困難であることは一般に知られている。そこで、炭酸ガス濃度を高くする方法以外の方法で炭酸飲料の炭酸感を増強するために、各種方法が試みられている。例えば、特許文献1には、メジアン径で300μm以下の増粘安定剤の微細なゲルを含有させることによって、炭酸飲料の炭酸感を増強する方法が開示されている。また、特許文献2には、スターアニス(学名:Illicium verum、別名:八角、ダイウイキョウ、トウシキミ、ハッカクウイキョウ)の抽出物を含有させることによって、炭酸飲料の炭酸感を増強する方法が開示されている。また、特許文献3には、カプシカム抽出物、ペッパー抽出物、ジンジャー抽出物、カプサイシン、ジヒドロカプサイシン、ノルジヒドロカプサイシン、ピペリン、6-ジンゲロールおよび6-ショウガオールからなる群からから選ばれる1種以上に由来する辛味成分を含有させることによって、炭酸飲料の炭酸感を増強する方法が開示されている。また、特許文献4には、ウンデカトリエン類やウンデカテトラエン類を飲料に添加することにより、飲料の炭酸刺激を増強する方法が開示されている。特許文献4には、その炭酸刺激増強効果をよりいっそう多く得るために、温感物質をさらに添加することを開示しており、かかる温感物質の一例として、ピペリンやスピラントールが挙げられている。また、特許文献5には、スピラントール又はスピラントールを含む植物抽出物を含有させることによって、炭酸飲料の炭酸感を増強又は維持する方法が開示されている。また、特許文献6には、感覚刺激物質と乳化剤と水と必要に応じて油性物質を含有し、乳化粒子の平均粒子径が500nm以下であることを特徴とする乳化組成物を用いることにより、のど越しの炭酸感を増強する方法が開示されており、かかる感覚刺激物質として、ジンジャー抽出物やスピラントールが挙げられている。
【0005】
ところで、炭酸飲料の中でも、コーラ風味の炭酸飲料は、数十年以上にわたり、多くの国において高い人気を保っている。コーラ風味炭酸飲料の原材料は製品等により多少異なるが、通常、柑橘類のオイル、シナモン、バニラ、酸味料等を含んでいるとされている。シナモンの香りの主成分は、シンナムアルデヒド(cinnamaldehyde、C6H5CH =CH-CHO、分子量132.16)と呼ばれる芳香族アルデヒドの一種であることが知られている。
【0006】
特許文献7には、経口摂取可能な製品において、添加された物質の不快な又は非常に強い芳香をマスクするためのマスキング組成物が開示されている。かかるマスキング組成物は、酢酸等の低アルキルカルボン酸を含んでおり、さらに温感剤を含有させることによって、そのマスキング効果を増強し得ることが開示されている。かかる温感剤の例として、スピラントールやピペリンが挙げられている。また、特許文献8には、三叉神経由来の細胞等の生理学的応答の強度の高まりを指標として、炭酸感を増強する化合物をスクリーニングする方法が開示されている。特許文献8には、スピラントールが、三叉神経由来の細胞の生理学的応答を増強させたこと、スクリーニング方法の被検化合物として刺激物質を用い得ること、かかる刺激物質の例として、ピペリン等が挙げられることが開示されている。
【0007】
しかし、特許文献1~8のいずれにも、シンナムアルデヒド含有容器詰炭酸飲料においては、スピラントール等のアミド誘導体による炭酸感増強効果がほとんど得られないことや、シンナムアルデヒド含有容器詰炭酸飲料の炭酸感をピペリン類により実際に増強することができること等について、何ら開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2013-121323号公報
【文献】特開2015-173631号公報
【文献】特開2010-068749号公報
【文献】国際公開第2015/033964号
【文献】特開2006-166870号公報
【文献】国際公開第2015/156244号
【文献】特表2009-504675号公報
【文献】特開2016-158502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述したような背景技術の状況下、本発明者らは、炭酸飲料であるコーラにおいて、スピラントール等のアミド誘導体を添加することによる炭酸感の増強効果等について評価を行っていたところ、例えば通常の炭酸水の場合とは異なり、コーラの場合では、炭酸感の増強効果がほとんど得られないということを新たに見いだした。発明者はさらに解析を進め、コーラの成分のうち、シンナムアルデヒドがスピラントール等のアミド誘導体による炭酸感増強効果を阻害していることを新たに見いだした。シンナムアルデヒドがスピラントール等のアミド誘導体による炭酸感増強効果を阻害することは、当業者にとっても意外であった。このように、本発明者らは、一定濃度以上のシンナムアルデヒドを含有する炭酸飲料においては、スピラントール等のアミノ誘導体による炭酸感増強効果が妨げられるという新規な課題を発見した。
【0010】
本発明の課題は、炭酸感が増強された、シンナムアルデヒド含有容器詰炭酸飲料、及びその製造方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述したような背景技術の状況下、本発明者らは、シンナムアルデヒド含有容器詰炭酸飲料において、炭酸感を増強する方法について様々な検討を行ったところ、ピペリン等のピペリン類をシンナムアルデヒドに対して一定比率以上となるように含有させることによって、シンナムアルデヒド含有容器詰炭酸飲料においても炭酸感を実際に増強することができることを新たに見いだし、本発明を完成するに至った。
【0012】
また、本発明者らは、シンナムアルデヒド含有容器詰炭酸飲料において、スピラントール等のアミド誘導体と、ピペリン等のピペリン類とを併用すると、単独では炭酸感増強効果を発揮しなかったアミド誘導体がピペリン類と相乗的な炭酸感増強効果を発揮することを新たに見いだし、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、
(1)シンナムアルデヒドを含有する容器詰炭酸飲料であって、ピペリン類を含有し、かつ、前記容器詰炭酸飲料中のシンナムアルデヒド濃度に対するピペリン類濃度の比率が0.002以上であることを特徴とする容器詰炭酸飲料や、
(2)容器詰炭酸飲料中のシンナムアルデヒド濃度が0.03~300ppmであることを特徴とする上記(1)に記載の容器詰炭酸飲料や、
(3)容器詰炭酸飲料中のピペリン類濃度が0.005~10ppmであることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の容器詰炭酸飲料や、
(4)容器詰炭酸飲料中のシンナムアルデヒド濃度に対するピペリン類濃度の比率が0.002~350であることを特徴とする上記(1)~(3)のいずれかに記載の容器詰炭酸飲料や、
(5)さらに以下の一般式(1)のアミド誘導体(ただし、ピペリン類を除く)を含有し、かつ、容器詰炭酸飲料中のピペリン類濃度に対する前記アミド誘導体濃度の比率が0.05~100であることを特徴とする上記(1)~(4)のいずれかに記載の容器詰炭酸飲料や、
【化1】
(上記式(1)中、R
1は、末端がメチレンジオキシフェニル基で置換されていてもよい炭素数2~20のポリエン基またはアルケニル基(好ましくはポリエン基)を表し、R
2及びR
3は、それぞれ独立して、水素原子又は水酸基で置換されていてもよい低級アルキル基を表し、R
2とR
3は、それぞれ互いに隣接する窒素原子と共に複素環を形成していてもよい。)
(6)さらに難消化性デキストリンを含有し、かつ、容器詰炭酸飲料中の難消化性デキストリン濃度が0.2重量%以上であることを特徴とする上記(1)~(5)のいずれかに記載の容器詰炭酸飲料に関する。
【0014】
すなわち、本発明は、
(7)シンナムアルデヒドを含有する容器詰炭酸飲料の製造において、前記容器詰炭酸飲料にピペリン類を含有させ、かつ、前記容器詰炭酸飲料中のシンナムアルデヒド濃度に対するピペリン類濃度の比率を0.002以上に調整することを特徴とする容器詰炭酸飲料の製造方法に関する。
【0015】
すなわち、本発明は、
(8)シンナムアルデヒドを含有する容器詰炭酸飲料の製造において、前記容器詰炭酸飲料にピペリンを含有させ、かつ、前記容器詰炭酸飲料中のシンナムアルデヒド濃度に対するピペリン類濃度の比率を0.002以上に調整することを特徴とする容器詰炭酸飲料の炭酸感増強方法に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、炭酸感が増強された、シンナムアルデヒド含有容器詰炭酸飲料、及びその製造方法等を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、
[1]シンナムアルデヒドを含有する容器詰炭酸飲料であって、ピペリン類を含有し、かつ、前記容器詰炭酸飲料中のシンナムアルデヒド濃度に対するピペリン類濃度の比率が0.002以上であることを特徴とする容器詰炭酸飲料(以下、「本発明の容器詰炭酸飲料」とも表示する。);
[2]シンナムアルデヒドを含有する容器詰炭酸飲料の製造において、前記容器詰炭酸飲料にピペリン類を含有させ、かつ、前記容器詰炭酸飲料中のシンナムアルデヒド濃度に対するピペリン類濃度の比率を0.002以上に調整することを特徴とする容器詰炭酸飲料の製造方法(以下、「本発明の製造方法」とも表示する。);及び、
[3] シンナムアルデヒドを含有する容器詰炭酸飲料の製造において、前記容器詰炭酸飲料にピペリン類を含有させ、かつ、前記容器詰炭酸飲料中のシンナムアルデヒド濃度に対するピペリン類濃度の比率を0.002以上に調整することを特徴とする容器詰炭酸飲料の炭酸感増強方法(以下、「本発明の炭酸感増強方法」とも表示する。);
を含む。なお、例えばペットボトルの素材であるPET樹脂等はごくわずかではあるものの通気性を有している。そのため、炭酸飲料製品中の揮発成分は、製造後、期間が経過するにしたがって、徐々に低下することが知られている。本発明における成分濃度やその比率の数値は、その炭酸飲料製品の製造から6か月以内の少なくとも一時期において、本発明における成分濃度やその比率の数値範囲等を満たしていれば、その炭酸飲料製品は本発明における成分濃度やその比率の数値範囲等を満たしているものとする。
【0018】
(本発明の容器詰炭酸飲料)
本発明の容器詰炭酸としては、シンナムアルデヒドを含有する容器詰炭酸飲料であって、ピペリン類を含有し、かつ、前記容器詰炭酸飲料中のシンナムアルデヒド濃度に対するピペリン類濃度の比率が0.002以上であること以外は、用いる製造原料、製造方法並びに製造条件において、通常の容器詰炭酸飲料と特に相違する点はない。
【0019】
(シンナムアルデヒド)
シンナムアルデヒドは、C6H5CH =CH-CHOで表される芳香族アルデヒドの一種である。
【0020】
本発明の容器詰炭酸飲料におけるシンナムアルデヒドの濃度としては、容器詰炭酸飲料中のシンナムアルデヒド濃度に対するピペリン類濃度の比率が0.002以上である限り特に制限されないが、スピラントール等のアミド誘導体の炭酸感増強効果への阻害作用がより強くなり本発明の意義がより大きくなることと、容器詰炭酸飲料の全体の香味の調和とのバランスの観点から、シンナムアルデヒドの濃度は0.03~300ppmであることが好ましく、0.05~30ppmであることがより好ましく、0.1~30ppmであることとが更に好ましく、0.3~30ppmであることが更により好ましく、1.0~30ppmであることが好ましく、2.0~30ppmが最も好ましい。
【0021】
本発明の容器詰炭酸飲料におけるシンナムアルデヒドの濃度は、例えばHPLC法、GC-MS法、LC-MS法などの公知の方法で測定することができる。
【0022】
本発明に用いるシンナムアルデヒドは、天然物から抽出したものであってもよいし、化学的手段等により合成したものであってもよいし、市販されているものであってもよいし、これらを併用したものであってもよい。市販品としては、例えば、シナモンパウダー、桂皮油、桂皮粉末、シナモン抽出物、シンナムアルデヒド含有香料(好ましくはシナモンフレーバー)、シンナムアルデヒド含有オイル等が挙げられる。また、本発明に用いるシンナムアルデヒドは、シンナムアルデヒド以外の物質を含まないものであってもよいが、シンナムアルデヒド以外の物質を含むものであってもよい。シンナムアルデヒド以外の物質を含んでいるものとしては、市販品として先に挙げたシナモンフレーバー等が挙げられる。
【0023】
(ピペリン類)
本発明におけるピペリン類とは、後述の一般式(1)のアミド誘導体において、R1が、末端がメチレンジオキシフェニル基で置換された炭素数4~6のポリエン基又はアルケニル基であり、R2及びR3が環状化した化合物を意味する。本発明におけるピペリン類としては、ピペリン、イソピペリン、シャビシン、イソシャビシン、ピペリリン、ピペラニン、ピペロレインA、ピペロレインB等が挙げられ、中でも、ピペリンが特に好ましく挙げられる。本発明に用いるピペリン類は、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。なお、ピペリンは、C17H19NO3で表されるアルカロイドの一種であり、1-[5-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-2,4-ペンタジエノイル]ピペリジンとも呼ばれる。また、本明細書においてピペリン類に関連する数値範囲は、ピペリン類がピペリンである場合に特に好適に用いることができる。
【0024】
本発明の容器詰炭酸飲料におけるピペリン類の濃度としては、容器詰炭酸飲料中のシンナムアルデヒド濃度に対するピペリン類濃度の比率が0.002以上である限り特に制限されないが、より高い炭酸感増強効果を得ることと、ピペリン類自体の辛味が過度になることを回避することとのバランスの観点から、ピペリン類の濃度は0.005~10ppmであることが好ましく、0.01~3.0ppmであることがより好ましく、0.05~3ppmが更に好ましい。なお、本発明の容器詰炭酸飲料におけるピペリン類の濃度(ピペリン類濃度)とは、本発明の容器詰炭酸飲料に含まれるピペリン類の合計濃度を意味する。
【0025】
本発明の容器詰炭酸飲料におけるピペリン類の濃度は、例えばHPLC法、GC-MS法、LC-MS法などの公知の方法で測定することができる。
【0026】
本発明に用いるピペリン類は、天然物から抽出したものであってもよいし、化学的手段等により合成したものであってもよいし、市販されているものであってもよいし、これらを併用したものであってもよい。市販品としては、例えば、コショウ科コショウ属であるコショウ(Piper nigrum)の果実の抽出物、ヒハツ(Piper longum)の果穂の抽出物、ヒハツモドキ(Piper retrofractum)の果穂の抽出物等が挙げられる。その抽出法は公知であり、例えば、特開平05-262646号公報には、コショウ属に属するコショウから、ピペリンを抽出する方法が開示されている。本発明に用いるピペリン類は、ピペリン類以外の物質を含まないものであってもよいが、ピペリン類以外の物質を含むものであってもよい。ピペリン類以外の物質を含んでいるものとしては、市販品として先に挙げた抽出物等が挙げられる。
【0027】
(容器詰炭酸飲料中のシンナムアルデヒド濃度に対するピペリン類濃度の比率)
本発明において、容器詰炭酸飲料中のシンナムアルデヒド濃度に対するピペリン類濃度の比率は、0.002以上である限り特に制限されないが、より高い炭酸感増強効果を得ることと、ピペリン類自体の辛味が過度になることを回避することとのバランスの観点から、好ましくは0.002~350、より好ましくは0.002~333、さらに好ましくは0.003~100、さらにより好ましくは0.017~100、より好ましくは0.03~100、さらに好ましくは0.033~100、さらにより好ましくは0.033~50、より好ましくは0.033~35、さらに好ましくは0.033~33が挙げられる。なお、この比率を算出する際のシンナムアルデヒド濃度の単位とピペリン類濃度の単位は同じである限り特に制限されず、いずれの濃度についても、例えば炭酸飲料全量に対する濃度「ppm」を用いることが好ましく挙げられる。
【0028】
(炭酸飲料の任意成分)
本発明の容器詰炭酸飲料は、シンナムアルデヒド、ピペリン類、炭酸ガス及び水(以下、これら4種を合わせて「必須成分」とも表示する。)のみを含んでいてもよいが、一般式(1)のアミド誘導体(以下、「本発明におけるアミド誘導体」とも表示する。)、難消化性デキストリン、酸味料、pH調整剤、甘味料、乳化剤、安定化剤、着色料(例えばカラメル色素)、カフェイン、香料、果汁、野菜汁等の任意成分を含有させてもよい。なお、酸味料はpH調整剤としての機能も併せ持つことができる。
【0029】
(任意成分であるアミド誘導体)
本発明の容器詰炭酸飲料は、本発明におけるアミド誘導体を含んでいなくてもよいが、任意成分として、本発明におけるアミド誘導体を含んでいることが好ましい。シンナムアルデヒド含有容器詰炭酸飲料において、スピラントール等のアミド誘導体と、ピペリン類とを併用すると、単独では炭酸感増強効果を発揮しなかったアミド誘導体がピペリン類と相乗的な炭酸感増強効果を発揮するからである。本発明におけるアミド誘導体とは、以下の一般式(1)で表されるアミド誘導体のうち、上記の本発明におけるピペリン類を除くアミド誘導体を意味する。
【0030】
【0031】
(上記式(1)中、R1は、末端がメチレンジオキシフェニル基で置換されていてもよい 炭素数2~20のポリエン基またはアルケニル基(好ましくはポリエン基)を表し、R2及びR3は、それぞれ独立して、水素原子又は水酸基で置換されていてもよい低級アルキル基を表し、R2とR3は、それぞれ互いに隣接する窒素原子と共に複素環を形成していてもよい。)
なお、本明細書において「ポリエン基」とは、分子内に複数個(2個以上)の二重結合をもつ不飽和炭化水素から、水素1原子が失われて生ずる1価の基の総称を意味する。また、「アルケニル基」とは、分子内にひとつの二重結合をもつ不飽和炭化水素から水素1原子が失われて生ずる1価の基を意味する。
【0032】
上記R1としては、末端がメチレンジオキシフェニル基で置換されていてもよい炭素数2~20のポリエン基またはアルケニル基(好ましくはポリエン基)である限り特に制限されないが、炭素数2~12のポリエン基またはアルケニル基(好ましくはポリエン基)が好ましく、炭素数5~12のポリエン基またはアルケニル基(好ましくはポリエン基)がより好ましい。
【0033】
上記R2及びR3は、それぞれ独立して、水素原子又は水酸基で置換されていてもよい低級アルキル基(例えば炭素数1~4のアルキル基)を表し、また、R2とR3は、それぞれ互いに隣接する窒素原子と共に複素環を形成していてもよいが、上記R2としては水素原子が好ましく、上記R3としてはイソブチル基が好ましい。なお、R2とR3の区別は便宜上のものであり、R2とR3は入れ替えてもよい。
【0034】
本発明におけるアミド誘導体には、スピラントール類、サンショオール類、ヒドロキシサンショオール類等が含まれ、中でも、スピラントール類が好ましく、中でも、スピラントールがより好ましい。スピラントール類は、一般式(1)のアミド誘導体において、R1が炭素数9で、かつ、二重結合を3つ含むポリエン基であり、R2が水素原子であり、R3がイソブチル基である化合物であり、サンショオール類は、一般式(1)のアミド誘導体において、R1が炭素数11で、かつ、二重結合を4つ含むポリエン基であり、R2が水素原子であり、R3がイソブチル基である化合物であり、ヒドロキシサンショオール類は、一般式(1)のアミド誘導体において、R1が炭素数11で、かつ、二重結合を4つ含むポリエン基であり、R2が水素原子であり、R3がハイドロキシメチルプロピル基である化合物である。
【0035】
本発明に用いるアミド誘導体は、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。例えば、本発明に用いるアミド誘導体は、スピラントール類、サンショオール類及びヒドロキシサンショオール類からなる群から選択される1種又は2種以上の物質であってもよい。また、本発明に用いるアミド誘導体は、キク科スピランテス属(Spilanthes)、ミカン科サンショウ属(Zanthoxylum)、ミカン科イヌサンショウ属(Fagara)、及び、コショウ科コショウ属(Piper)からなる群から選択される属に属する植物から抽出可能な1種又は2種以上のアミド誘導体であってもよい。
【0036】
本発明に用いるアミド誘導体は、少なくともスピラントール類(より好ましくは、少なくともスピラントール)を含んでいることが好ましく、本発明の容器詰炭酸飲料に含まれるアミド誘導体のうち、スピラントール類(好ましくはスピラントール)の割合が、30重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは65重量%、さらに好ましくは80重量%以上、さらにより好ましくは90重量%以上であることが好ましい。
【0037】
本発明の容器詰炭酸飲料が本発明におけるアミド誘導体をさらに含有する場合において、容器詰炭酸飲料中のピペリン類濃度に対する本発明におけるアミド誘導体の合計濃度の比率は特に制限されないが、より高い炭酸感増強効果を得る観点から0.05以上であることが好ましく、より高い炭酸感増強効果を得ることと、アミド誘導体自体の辛味刺激が過度になることを回避することとのバランスの観点等から、好ましくは0.05~100、より好ましくは0.1~10、さらに好ましくは0.5~5が挙げられる。
【0038】
本発明の容器詰炭酸飲料におけるアミド誘導体の濃度としては、特に制限されないが、より高い炭酸感増強効果を得る観点から、本発明におけるアミド誘導体の合計濃度として0.0005ppm以上であることが好ましく、より高い炭酸感増強効果を得ることと、アミド誘導体自体の辛味刺激が過度になることを回避すること、コストを抑制することとのバランスの観点から、本発明におけるアミド誘導体の合計濃度として好ましくは0.0005~100ppm、より好ましくは0.001~30ppm、さらに好ましくは0.005~10ppm、より好ましくは0.015~5ppmが挙げられる。なお、本明細書においてアミド誘導体に関連する数値範囲は、アミノ誘導体がスピラントールである場合に特に好適に用いることができる。
【0039】
本発明の容器詰炭酸飲料におけるアミド誘導体の濃度は、例えばHPLC法、GC-MS法、LC-MS法などの公知の方法で測定することができる。
【0040】
本発明に用いるアミド誘導体は、天然物から抽出したものであってもよいし、化学的手段等により合成したものであってもよいし、市販されているものであってもよいし、これらを併用したものであってもよい。市販品としては、例えば、かかるアミド誘導体を含む香料などが好ましく挙げられる。また、本発明に用いるアミド誘導体は、該アミド誘導体以外の物質を含まないものであってもよいが、該アミド誘導体以外の物質を含むものであってもよく、例えば、該アミド誘導体を含む抽出物であってもよい。また、アミド誘導体以外の物質として乳化成分を含んでいるもの(例えば、アミド誘導体を含む乳化香料)を用いてもよい。
【0041】
本発明に用いるアミド誘導体を植物から抽出する方法はよく知られている。例えば、スピラントール等のスピラントール類は、キク科スピランテス属(Spilanthes)に属する植物の花頭部や全草から溶媒を用いて抽出することができる。かかる抽出法は公知であり、例えば、特開平7-90294号公報には、キク科スピランテス属に属するオランダセンニチから、スピラントールを抽出する方法が開示されている。また、サンショオール等のサンショオール類は、ミカン科サンショウ属又はミカン科イヌサンショウ属に属する植物の果皮や果実から溶媒を用いて抽出することができる。かかる抽出法は公知であり、例えば、特開2013-103901号公報には、サンショウ属に属するサンショウから、サンショオールを抽出する方法が開示されている。
【0042】
また、本発明に用いるアミド誘導体を合成する方法も知られている。例えば、再表2011/007807号公報には、スピラントールを化学的に合成する方法が開示されている。
【0043】
(任意成分である難消化性デキストリン)
先に述べたように、本発明者らは、一定濃度以上のシンナムアルデヒドを含有する炭酸飲料においては、スピラントール等のアミノ誘導体による炭酸感増強効果が妨げられることを見いだした。本発明者らはさらに、シンナムアルデヒドによるこの炭酸感増強阻害効果が、難消化性デキストリンの添加によって相乗的に高まることを見いだした。また、本発明者らは、シンナムアルデヒド及び難消化性デキストリンを含有する炭酸飲料においても、ピペリン類をシンナムアルデヒドに対して一定比率(例えば0.002)以上となるように含有させることによって炭酸感を実際に増強することができることを見いだしている。
【0044】
本発明の容器詰炭酸飲料は、難消化性デキストリンを含んでいなくてもよいが、本発明のメリットをより多く享受する観点から、任意成分として、本発明における難消化性デキストリンを含んでいることが好ましい。
【0045】
難消化性デキストリンとは、とうもろこし、小麦、米、豆類、イモ類、タピオカなどの植物由来の澱粉を加酸(例えば塩酸を添加)及び/又は加熱して得た焙焼デキストリンを、必要に応じてαアミラーゼ及び/又はグルコアミラーゼで酵素処理した後、必要に応じて脱塩、脱色した水溶性食物繊維であり、難消化性の特徴を持つものをいう。かかる難消化性デキストリンには、平成11年4月26日付衛新第13号(「栄養表示基準における栄養成分等の分析方法等について」)に記載の食物繊維の分析方法である高速液体クロマトグラフ法(酵素-HPLC法)で測定される難消化性成分を含むデキストリン、好ましくは85~95質量%の難消化性成分を含むデキストリンなどが含まれる。本発明で用いる難消化性デキストリンには、便宜上、水素添加により製造される、難消化性デキストリンの還元物も含まれるものとする。なお、難消化性デキストリンやその還元物(還元難消化性デキストリン)は、粉末、細粒、顆粒などの形態で市販されており、いずれの形態のものでも本発明に使用することができる。
【0046】
本発明における難消化性デキストリンの使用量(含有量又は添加量、好ましくは添加量)としては、飲料全量に対して、例えば0.2重量%以上とすることができ、難消化性デキストリンの健康効果を得ることと、容器詰炭酸飲料の香味を保持することとのバランスの観点から、0.2~5重量%とすることが好ましく、0.3~5重量%とすることがより好ましく挙げられる。
【0047】
飲料中の難消化性デキストリン含量は、例えば、平成11年4月26日衛新第13号(「栄養表示基準における栄養成分等の分析方法等について」)に記載の食物繊維の分析方法である高速液体クロマトグラフ法(酵素-HPLC法)により測定することができる。
【0048】
(その他の任意成分)
その他の任意成分としては、酸味料、甘味料等が挙げられることは前述したとおりである。酸味料としては、リン酸、乳酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、アジピン酸等が挙げられる。甘味料としては、ショ糖、果糖、ぶどう糖、麦芽糖、デンプン糖化物、還元デンプン水飴、デキストリン、サイクロデキストリン、トレハロース、黒糖、はちみつ等の糖類;ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、マンニトール等の糖アルコール類;スクラロース、アスパルテーム・L-フェニルアラニン化合物、ステビア、アセスルファムカリウム、ソーマチン、サッカリン等の高甘味度甘味料類;等が挙げられる。
【0049】
(容器)
本発明の容器詰炭酸飲料における容器としては、ペットボトル、ポリプロピレンボトル、ポリ塩化ビニルボトル等の樹脂ボトル容器;ビン容器;缶容器;等の容器が挙げられる。
【0050】
(pH)
本発明の容器詰炭酸飲料のpHは特に制限されないが、例えば、5以下、好ましくは4.6以下、より好ましくは2.5~4.2の範囲に調整することができる。pHの調節は、酸味料やpH調整剤により行うことができる。飲料のpHは市販のpHメーター(例えば、東亜電波工業株式会社製pHメーター)を使用して容易に測定することができる。
【0051】
(炭酸ガス濃度)
本発明の容器詰炭酸飲料の炭酸ガス濃度としては、例えば、20℃でのガス圧が0.05MPa以上、好ましくは0.07MPa以上、より好ましくは0.1MPa以上の炭酸ガスを含有する飲料が広く含まれる。炭酸ガス濃度の上限としては、0.5MPaや0.4MPaなどが挙げられる。
【0052】
本発明の容器詰炭酸飲料の炭酸ガス濃度は、該炭酸飲料に吹き込む炭酸ガス(二酸化炭素)の量や圧力を調整することや、炭酸飲料の調製に用いる炭酸水の量や炭酸濃度を調整すること等によって調節することができる。本発明の炭酸飲料の炭酸ガス濃度は、市販のガス圧測定装置(例えば、京都電子社製のガスボリューム測定装置等)を使用して測定することができる。測定は、液温20℃で行うことができる。
【0053】
(炭酸飲料の種類)
本発明の容器詰炭酸飲料の種類としては、シンナムアルデヒド及びピペリン類を含有し、前記容器詰炭酸飲料中のシンナムアルデヒド濃度に対するピペリン類濃度の比率が0.002以上である限り特に制限されず、より具体的には、アルコールを含まない炭酸飲料や、炭酸入りアルコール飲料等が挙げられる。かかるアルコールを含まない炭酸飲料としては、例えば、コーラ等のコーラ系炭酸飲料;コーラフレーバー入り炭酸リキュール、キューバ・リブレ、マリブコーラ等のコーラ入り炭酸アルコール飲料;等が挙げられる。
【0054】
(加熱殺菌処理)
本発明の容器詰炭酸飲料は、加熱殺菌処理を経ていても経ていなくてもよいが、保存性向上の観点から、加熱殺菌処理を経た容器詰炭酸飲料であることが好ましい。
【0055】
<炭酸感増強効果>
本発明において、「炭酸感が増強された、シンナムアルデヒド含有容器詰炭酸飲料」とは、ピペリン類を含有させないこと以外は、同種の原料を同じ最終濃度になるように用いて同じ製法で製造した、シンナムアルデヒド含有容器詰炭酸飲料(以下、「対照容器詰炭酸飲料」とも表示する。)と比較して、炭酸感が高いシンナムアルデヒド含有容器詰炭酸飲料を意味する。より具体的には、後述の実施例の試験1に記載の評価基準(表1)において、対照容器詰炭酸飲料と比較して炭酸感の評価が高い容器詰炭酸飲料は、「炭酸感が増強された、シンナムアルデヒド含有容器詰炭酸飲料」に含まれる。
【0056】
本発明において「炭酸感」とは、炭酸飲料の飲用時に、口腔や咽頭において感じられる、炭酸からくるピリピリとした刺激感を意味する。あるシンナムアルデヒド含有容器詰炭酸飲料の「炭酸感」が、比較対照と比較して高いかどうかは、訓練されたパネラーであれば、容易かつ明確に決定することができる。なお、炭酸感を比較する際の上記「比較対照」には、上記の「対照容器詰炭酸飲料」(シンナムアルデヒドを含有するが、ピペリン類を含有しない容器詰炭酸飲料)が好適に含まれる。
【0057】
評価の基準や、パネラー間の評価のまとめ方は、一般的な方法を用いることができ、例えば、後述の実施例の試験1に記載の評価基準等を用いた方法と同様の方法、好ましくは、後述の実施例の試験1に記載の評価基準(表1)等を用いた方法と同じ方法を好適に用いることができる。炭酸感を評価するパネラーの人数は1名であってもよいが、客観性がより高い評価を得る観点から、パネラーの人数の下限を、例えば2名以上、好ましくは4名以上とすることができ、また、評価試験をより簡便に実施する観点から、パネラーの人数の上限を、例えば20名以下、10名以下とすることができる。パネラーが2名以上の場合の各容器詰炭酸飲料の炭酸感の評価は、例えば、その容器詰炭酸飲料の炭酸感についてのパネラー全員の評価の平均を採用することができる。各評価基準に整数の評価点が付与されている場合、パネラー全員の評価点の平均値をその容器詰炭酸飲料の炭酸感の評価としてもよく、その際、その平均値の小数第1位又は第2位(好ましくは小数第1位)を四捨五入した値を採用してもよい。なお、パネラーが2名以上である場合には、各パネラーの評価のばらつきを低減するために、実際の官能評価試験を行う前に、各パネラーの評価基準ができるだけ揃うように評価基準を共通化する作業を行っておくことが好ましい。かかる共通化作業としては、炭酸感の程度が既知の複数種の標準炭酸飲料の炭酸感を各パネラーで評価した後、その評価点を比較し、各パネラーの評価基準に大きな解離が生じないように確認することが挙げられる。また、このような評価基準に関する事前の共通化作業により、各パネラーによる炭酸感の評価の標準偏差が0.5以内となるようにしておくことが好ましい。
【0058】
(本発明の容器詰炭酸飲料の製造方法)
本発明の容器詰炭酸飲料は、シンナムアルデヒドとピペリン類を含有させ、かつ、前記容器詰炭酸飲料中のシンナムアルデヒド濃度に対するピペリン類濃度の比率を0.002以上に調整すること以外は、従来公知の容器詰炭酸飲料の製造方法にしたがって製造することができる。本発明の製造方法としては、シンナムアルデヒドを含有する容器詰炭酸飲料の製造において、前記容器詰炭酸飲料にピペリン類を含有させ、かつ、前記容器詰炭酸飲料中のシンナムアルデヒド濃度に対するピペリン類濃度の比率を0.002以上に調整する方法が挙げられ、より具体的には、シンナムアルデヒドを含有する容器詰炭酸飲料の製造に際して、前記容器詰炭酸飲料の製造原料(例えば、「水」、「シンナムアルデヒドを含有する水」、「炭酸ガスを含む水」、「シンナムアルデヒド及び炭酸ガスを含有する水」、あるいは「これら4種のいずれかの水に任意成分の一部又は全部をさらに含有させた水」)に、ピペリン類を含有させる(好ましくは添加する)方法が挙げられる。あるいは、ピペリン類を、シンナムアルデヒドと同時に水等に含有させる方法や、ピペリン類とシンナムアルデヒドをあらかじめ混合した後、水等に含有させる方法も挙げられる。
【0059】
本発明の製造方法においては、さらに、本発明におけるアミド誘導体を含有させ、かつ、容器詰炭酸飲料中のピペリン類濃度に対するそのアミド誘導体の合計濃度の比率を0.05以上などに調整することができる。
【0060】
かかる製造方法においては、用いる製造原料を含有する容器詰炭酸飲料を製造し得る限り、製造原料を含有させる(例えば添加する)順序等は特に制限されないが、用いる製造原料のうち、炭酸ガス以外の製造原料が混合されている液に炭酸ガスを含有させる方法が好ましく挙げられ、また、その後、その液体を容器に充填し密封する方法が好ましく挙げられる。また、炭酸飲料を加熱殺菌処理する場合は、いずれの段階で行ってもよい。また、加熱殺菌処理を経た容器詰炭酸飲料を製造する場合も、加熱殺菌処理をいずれの段階で行ってもよいが、用いる製造原料のうち、炭酸ガス以外の製造原料が混合されている液に炭酸ガスを含有させた後、容器に充填して密封し、次いで、加熱殺菌処理を行う方法が好ましく挙げられる。
【0061】
加熱殺菌処理する方法としては、特に制限されず、例えば、高温短時間殺菌法(HTST法)、パストライザー殺菌法、超高温加熱処理法(UHT法)等を挙げることができる。
【0062】
<本発明の容器詰炭酸飲料の炭酸感増強方法>
本発明の炭酸感増強方法としては、シンナムアルデヒドを容器詰炭酸飲料の製造において、前記容器詰炭酸飲料にピペリン類を含有させ、かつ、前記容器詰炭酸飲料中のシンナムアルデヒド濃度に対するピペリン類濃度の比率を0.002以上に調整することを含んでいる限り特に制限されない。
【0063】
以下に、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0064】
試験1[ピペリン類やアミド誘導体が炭酸飲料の炭酸感に与える影響]
ピペリン等のピペリン類や、スピラントール等のアミド誘導体が炭酸飲料の炭酸感に与える影響や、さらにシンナムアルデヒドがその炭酸感に与える影響を以下の実験により調べた。
【0065】
(1)炭酸水をベースとする炭酸飲料の調製
0.2MPaのガス圧となるよう二酸化炭素を水に含有させることによって、ベースとする炭酸水を調製した。炭酸水をベースとした、スピラントール、ピペリン、シンナムアルデヒドの処方を後述の表2に示す。表2の処方にしたがい、炭酸水をベースとする試験区1~6の各炭酸飲料を調製した。なお、試験区1の炭酸飲料は、スピラントール、ピペリン、シンナムアルデヒドのいずれも含んでおらず、ベースとする炭酸水そのものである。また、炭酸水をベースとする表2の炭酸飲料の試験群では、水及び二酸化炭素からなる炭酸水をベースとしており、各試験区の相違点は、スピラントール、ピペリン、シンナムアルデヒドという成分の有無のみである。したがって、表2の試験系は、各試験区における炭酸感の評価の差が、どの成分の有無の影響により生じたか、明確に理解することができるという点で優れた試験系である。
【0066】
(2)コーラ飲料をベースとする炭酸飲料の調製
シナモンを含まないコーラフレーバーを水に添加して混合したのち、0.2MPaのガス圧となるよう二酸化炭素を含有させることによって、ベースとするコーラ飲料を調製した。このコーラ飲料をベースとした、スピラントール、ピペリン、シンナムアルデヒドの処方を後述の表3に示す。なお、炭酸水をベースとする炭酸飲料でシンナムアルデヒドを含む試験区では、シンナムアルデヒド自体を用いたが、コーラ飲料をベースとする炭酸飲料でシンナムアルデヒドを含む試験区では、シンナムアルデヒド自体ではなく、シンナムアルデヒドを含むシナモンフレーバーを用いた。シナモンフレーバーを用いた場合のシンナムアルデヒドの濃度としては、シナモンフレーバー中のシンナムアルデヒド含量から換算した値を用いた。表3の処方にしたがい、コーラ飲料をベースとする試験区7~12の各炭酸飲料を調製した。なお、コーラ飲料をベースとする表3の炭酸飲料の試験群では、水及び二酸化炭素以外にコーラフレーバーを含有するコーラ飲料をベースとしており、シンナムアルデヒドとしても、シンナムアルデヒドを含むシナモンフレーバーを用いている。各成分の影響の明確さという点では、表2の試験群の方が優れていると考えられるが、表3の試験群は表2の試験群よりも実際のコーラ飲料に近いため、コーラ飲料等の他の任意成分を含有する炭酸飲料においても、ピペリン等のピペリン類やスピラントール等のアミド誘導体による炭酸感増強効果が得られるかどうかや、その炭酸感増強効果に対するシンナムアルデヒドの影響などを明確に理解することができるという点で、表3の試験系は優れている。
【0067】
(3)炭酸感の官能評価
調製した各試験区の炭酸飲料の炭酸感を、訓練されたパネラー6名が以下の表1の評価基準で評価した。ここで、炭酸感とは、炭酸飲料の飲用時に、口腔や咽頭において感じられる、炭酸からくるピリピリとした刺激感を意味する。各炭酸飲料の炭酸感の評価は、パネラー6名の評価点の平均値を算出し、その平均値の小数第1位を四捨五入した値を用いた。なお、各パネラーの評価のばらつきを低減するために、炭酸感の程度が既知の複数種の標準炭酸飲料の炭酸感を各パネラーで評価した後、その評価点を比較し、各パネラーの評価基準に大きな解離が生じないように確認し、また、各パネラーの評価点の標準偏差が0.5以内であることも確認した。
【0068】
【0069】
(4)炭酸感の官能評価の結果
炭酸水をベースとする試験区1~6の各炭酸飲料の炭酸感の評価結果を表2に示し、コーラ飲料をベースとする試験区7~12の各炭酸飲料の炭酸感の評価結果を表3に示す。
【0070】
【0071】
【0072】
表2、表3の結果から分かるように、炭酸水をベースとする炭酸飲料(表2)であっても、コーラ飲料をベースとする炭酸飲料(表3)であっても、スピラントール又はピペリンを添加することにより、炭酸飲料における炭酸感が増強されることが示された(表2の試験区1と比較した試験区3、試験区5;表3の試験区7と比較した試験区9、試験区11)。
【0073】
ただし、スピラントールによる炭酸感増強効果は、シンナムアルデヒドによって阻害された(表2の試験区3と比較した試験区4;表3の試験区9と比較した試験区10)。しかし、ピペリンによる炭酸感増強効果は、シンナムアルデヒドによって阻害されず、むしろ炭酸感増強効果がより多く得られた(表2の試験区5と比較した試験区6;表3の試験区11と比較した試験区12)。このことは予想外の結果であった。
【0074】
試験2[ピペリン類の濃度等が炭酸感増強効果に与える影響]
「ピペリン類の濃度」や、「シンナムアルデヒドの濃度に対するピペリン類の濃度の比率」が、炭酸飲料における炭酸感増強効果に与える影響を以下の実験により調べた。
【0075】
(1)炭酸水をベースとする炭酸飲料の調製
上記試験1の表2においてベースとして用いた炭酸水をベースとし、ピペリン、シンナムアルデヒドを後述の表4の処方にしたがって、試験区13~20の各炭酸飲料を調製した。
【0076】
(2)炭酸感の官能評価
調製した各試験区の炭酸飲料の炭酸感を、上記試験1の(3)に記載の方法で評価した。その結果を表4に示す。
【0077】
【0078】
表4の結果から分かるように、シンナムアルデヒドの濃度(ppm)に対するピペリンの濃度(ppm)の比率(以下、「ピペリン/シンナムアルデヒド濃度比率」あるいは単に「ピペリン/シンナム」とも表示する。)が0.0003の場合(試験区13)には炭酸感増強効果が認められなかったが、0.002以上の場合、より具体的には0.002~3.3の場合(試験区14~20)には炭酸感増強効果が認められ、0.033~3.3の場合(試験区17~20)にはより高い炭酸感増強効果が認められた。
【0079】
また、ピペリンの濃度に関して述べると、ピペリン濃度が0.001ppmの場合(試験区13)には炭酸感増強効果が認められなかったが、0.005~10ppmの場合(試験区14~20)には炭酸感増強効果が認められた。また、表4の結果から、より高い炭酸感増強効果を得る観点から、ピペリン類濃度はおおむね0.005ppm以上が好ましく、0.01ppm以上がより好ましく、0.05ppm以上がさらに好ましく、0.1ppm以上がよりさらに好ましいことが分かった。ただし、ピペリンの濃度が高いと、ピペリンの辛味が強くなり過ぎて、炭酸飲料としての香味バランスが低下し、炭酸飲料の香味全体の嗜好性が低下する場合があったことから、ピペリン類濃度は10ppm以下が好ましく、3.0ppm以下がより好まいことが分かった。
【0080】
なお、表4の結果等から、より高い炭酸感増強効果を得ることと、ピペリン類自体の辛味が過度になることを回避することとのバランスの観点から、シンナムアルデヒドの濃度(ppm)に対するピペリン類の濃度(ppm)の好ましい比率として、おおむね以下の数値範囲が挙げられる。
好ましくは0.002~350、より好ましくは0.002~333、さらに好ましくは0.003~100、さらにより好ましくは0.017~100、より好ましくは0.03~100、さらに好ましくは0.033~100、さらにより好ましくは0.033~50、より好ましくは0.033~35、さらに好ましくは0.033~33。
【0081】
試験3[ピペリン類とアミド誘導体の併用が炭酸感増強効果に与える影響]
ピペリン等のピペリン類とスピラントール等のアミド誘導体の併用が、炭酸飲料における炭酸感増強効果に与える影響を以下の実験により調べた。
【0082】
(1)炭酸水をベースとする炭酸飲料の調製
上記試験1の表2においてベースとして用いた炭酸水をベースとし、ピペリン、シンナムアルデヒドを後述の表5の処方にしたがって、試験区21の炭酸飲料を調製した。
【0083】
(2)炭酸感の官能評価
調製した試験区21の炭酸飲料の炭酸感を、上記試験1の(3)に記載の方法で評価した。その結果を表5に示す。
【0084】
【0085】
表5の試験区21の結果を、表4の試験区16の結果と比較すると、ピペリン0.05ppm及びシンナムアルデヒド3ppmを含有する炭酸飲料(試験区16)の炭酸感は3であったのに対し、それと同濃度のピペリン及びシンナムアルデヒドにさらにスピラントール0.05ppmを含有する炭酸飲料(試験区21)の炭酸感は5であった。このことを、炭酸感増強効果を有する成分に関して述べると、ピペリン0.05ppm単独の場合(試験区16)と比較して、ピペリン0.05ppmとスピラントール0.05ppmを併用した場合(試験区21)は、格段に高い炭酸感増強効果が得られた。
【0086】
また、表5の試験区21の結果を、表4の試験区17の結果と比較すると、ピペリン0.1ppm及びシンナムアルデヒド3ppmを含有する炭酸飲料(試験区17)の炭酸感が4であったのに対し、ピペリン0.05ppm、スピラントール0.05ppm及びシンナムアルデヒド3ppmを含有する炭酸飲料(試験区21)の炭酸感は5であった。このことを、炭酸感増強効果を有する成分に関して述べると、ピペリン0.1ppm単独の場合(試験区17)と比較して、ピペリン0.05ppmとスピラントール0.05ppmを併用した場合(試験区21)は、より高い炭酸感増強効果が得られた。試験区21における炭酸感増強成分の合計濃度は0.1ppm(0.05ppm+0.05ppm)であり、試験区17における炭酸感増強成分の合計濃度0.1ppmと同じであるにもかかわらず、より高い炭酸感増強効果が得られた。このことから、ピペリン類(好ましくはピペリン)とスピラントールを併用すると、相乗的な炭酸感増強効果が得られることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明によれば、炭酸感が増強された、シンナムアルデヒド含有容器詰炭酸飲料、及びその製造方法等を提供することができる。